JP4651868B2 - 唾液の前処理用キット及びこれを用いた唾液の前処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ヒトの唾液中の齲蝕原性細菌の一種であるミュータンス連鎖球菌を抗原抗体反応を利用した免疫クロマトグラフィー法によって同定・定量を行うために用いる唾液の前処理用キット及びこれを用いた唾液の前処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
人の口腔内におけるミュータンス連鎖球菌の存在と齲蝕の発生との間には密接な関係があることが知られており、ヒトの口腔内のミュータンス連鎖球菌の有無や量を簡便に検査できれば罹患リスクや現状の罹患状況の把握ができ、極めて多くの人々に恩恵をもたらすことが可能である。
【0003】
従来から、細菌の検査には抗原抗体反応を利用した検査が行われてきた。例えば酵素抗体法は、酵素を用いた発色濃度で同定・定量を行う方法であるが、抗体やサンプルを扱うために特殊な洗浄機や煩雑で厳密な操作を必要とし、酵素反応のためのインキュベーターが必要であった。また蛍光抗体法は、抗体を蛍光色素で標識し抗体と反応した抗原を特異的に染色する方法であるが、測定器として蛍光顕微鏡を必要とするため一般的ではない。
【0004】
そのため、抗原抗体反応を簡便に利用する方法が数多く提案されてきた。例えば、米国特許第5,591,645号、米国特許第4,855,240号、米国特許第4,435,504号、米国特許第4,980,298号、特開昭61-145459号、特開平6-160388号等に開示されているクロマトグラフィーを利用した測定方法は、採取した体液を同定・定量を目的とする抗体を含んだ試験溶液に混入して検査器具に染み込ませるだけで、抗原の有無や量を知ることができる簡便性に優れた方法である。このような方法は一般に免疫クロマトグラフィー法と呼ばれている。この方法では、ニトロセルロースなどの多孔質膜(孔径:数十μm)の片端に目的とする特定の抗原のみに付く特定の抗体(以後、特異抗体と記す)が染み込まされており、多孔質膜の中程には同様に特定の抗原のみに付く別の特異抗体が帯状に染み込まされて多孔質膜に固定されている。片端に染み込まされている特異抗体は、予め金コロイド等の粒子で着色されており、その特異抗体が存在している多孔質膜の片端上にサンプル液を染み込ませるとサンプル液中に特異抗体と反応する抗原があれば、その抗原は特異抗体と結び付いて着色粒子を付けた状態で多孔質膜を毛細管現象によってサンプル液を染み込ませた側と反対の片端へ向かって移動して行く。移動の途中で帯状に固定されている別の特異抗体の個所を通過する際に、抗原は多孔質膜上の特異抗体に捕捉され、多孔質膜上に帯状の染みが現れる。このことによって目的の抗原がサンプル中に存在していること及びその量を知ることができるのである。
【0005】
このような技術を応用すれば前述の口腔内のミュータンス連鎖球菌の同定・定量を行うことができそうであるが、現実には以下のような問題が存在するため実用化されていない。即ち、免疫クロマトグラフィー法で利用できるサンプルは、原理上、多孔質膜中を毛細管現象によって通過できなければならない。しかし、ミュータンス連鎖球菌のような口腔内細菌の検査に用いられる主要なサンプルは唾液であるため、唾液中に存在するムチンと呼ばれる高粘性物質が多孔質膜の孔を塞いでしまい、またムチンは唾液中に存在する口腔粘膜面から剥がれ落ちた上皮付着細胞を凝集させる働きもするため、これらの物質により多孔質膜の孔が塞がれてミュータンス連鎖球菌を通過させることができない。
【0006】
また、ムチン以外にもミュータンス連鎖球菌の測定を困難なものとする問題が存在する。即ち、対象であるミュータンス連鎖球菌は、単体では直径1μm程度の菌であるが、連鎖球菌であるためしばしば10〜20個若しくはそれ以上に連鎖しており多孔質膜中の移動を妨げる要因となる。しかも、ミュータンス連鎖球菌は、食品中のスクロースから粘着性のグルカンを生成し、しばしば高度に凝集することもある。また、ミュータンス連鎖球菌の連鎖と凝集とは、多孔質膜中での目詰まりの原因となる他にも連鎖球菌の表面積を減少させ、ミュータンス連鎖球菌表面に存在する抗原の数に影響を与えてしまい、測定の正確性を低下させる原因ともなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ヒトの唾液中の齲蝕原性細菌の一種であるミュータンス連鎖球菌を免疫クロマトグラフィー法によって同定・定量する際に、簡便な方法で唾液中のムチン及びミュータンス連鎖球菌の連鎖や凝集を取り除くことが可能な唾液の前処理用キット及びこれを用いた唾液の前処理方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の酸及びアルカリ溶液を用いて処理を行うと、唾液中のムチンやグルカンを溶解しミュータンス連鎖球菌の外膜に作用して凝集を抑えることができ、更にこれに特定の界面活性剤を用いるとミュータンス連鎖球菌に存在するタンパク質を可溶化させてミュータンス連鎖球菌が多孔質膜内をスムースに通り抜けることを可能とすることができ、更に特定のpH範囲に変色域を持つpH指示薬を使用すると抗原抗体反応が行われる状態にあることを容易に確認できることを究明して本発明を完成したのである。
【0009】
即ち、本発明に係る唾液の前処理用キットは、水酸化ナトリウムを含有する水溶液と、酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液と、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤とから構成され、界面活性剤が、少なくとも前記水溶液前記緩衝液との一方に予め混合されているか、又は前記水溶液及び前記緩衝液とは別になっていることを特徴とするものであり、
またpH5〜9に変色域を持つpH指示薬が、少なくとも前記水溶液若しくは前記界面活性剤が予め混合されている水溶液前記緩衝液若しくは前記界面活性剤が予め混合されている緩衝液との一方に混合されているか、又は前記水溶液若しくは前記界面活性剤が予め混合されている水溶液及び緩衝液若しくは界面活性剤が予め混合されている緩衝液とは別になっていれば、更に好ましいのである。
【0010】
そして、界面活性剤における非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル,n−オクチル−β−D−グルコシド,n−ヘプチル−β−D−チオグルコシド,n−オクチル−β−D−チオグルコシド,ノニルフェノキシポリエトキシエタノール,オクチルフェノキシポリエトキシエタノール,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートから成る群より選ばれる一種又は二種以上の混合物が、界面活性剤における両性界面活性剤としては、3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート,3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−ヒドロキシプロパンスルホナートから成る群より選ばれる一種又は二種の混合物が、またpH5〜9に変色域を持つpH指示薬としては、メチルレッド,アゾリトミン,p−ニトロフェノール,m−ニトロフェノール,ブロモクレゾールパープル,ブロモフェノールレッド,クロロフェノールレッド,フェノールレッド,ニュートラルレッド,ブロモチモールブルー,フェノールフタレイン,チモールフタレインから成る群より選ばれる一種が好ましく用いられるのである。
【0011】
また、本発明に係る唾液の前処理方法は、免疫クロマトグラフィー法によりミュータンス連鎖球菌を同定・定量するに際し、唾液に対して、水酸化ナトリウムを含有する水溶液と、酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液と、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤とを任意の順に滴下・混合するか、又は少なくとも一方に界面活性剤が混入されている水溶液と緩衝液とを任意の順に滴下・混合してpHを5〜9にすることを特徴とし、滴下・混合される、前記水溶液及び/又は前記緩衝液、又は前記少なくとも一方に界面活性剤が予め混合されている水溶液及び/又は緩衝液に、予めpH5〜9に変色域を持つpH指示薬を混合したものを使用したり、前記水溶液と前記緩衝液と前記界面活性剤との滴下・混合における水溶液及び緩衝液、又は前記少なくとも一方に界面活性剤が予め混合されている水溶液と緩衝液との滴下・混合における水溶液及び緩衝液の滴下を行うに際し、後で滴下する水溶液又は緩衝液の滴下前に予めpH5〜9に変色域を持つpH指示薬を滴下しておくと更に好ましいのである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に係る唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法に使用される水酸化ナトリウムを含有する水溶液Aは、唾液中のムチンやミュータンス連鎖球菌の外膜に存在するグルカンに作用してミュータンス連鎖球菌の凝集を抑え、抗原であるミュータンス連鎖球菌の多孔質膜中の移動を容易とする作用を成すものであり、アルカリ溶液として水酸化ナトリウムを使用することが重要であり、炭酸ナトリウム,リン酸水素2ナトリウム等は適しておらず、水酸化ナトリウム以外のアルカリ水溶液ではミュータンス連鎖球菌の検査を行うことはできない。これは水酸化ナトリウム以外のアルカリ水溶液では、ミュータンス連鎖球菌の抗原の構造に障害を与えている可能性があると推測されるからである。
【0013】
本発明に係る唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法に使用される酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液Bは、ミュータンス連鎖球菌の連鎖を抑えることにより抗原であるミュータンス連鎖球菌の多孔質膜中の移動を容易にする作用を成すものであり、酸として酒石酸及び/又はクエン酸を使用することが重要であり、その他の酸、例えば塩酸,硫酸,硝酸,酢酸,乳酸,マレイン酸等は適しておらず、水酸化ナトリウムと組み合わせて用いても目的とする検査の感度を得ることができない。これは酒石酸及びクエン酸以外ではミュータンス連鎖球菌の抗原の構造に障害を与えている可能性があると推測されるからである。本発明に係る唾液の前処理用キット及び前処理方法に於いては、水酸化ナトリウムと酒石酸及び/又はクエン酸との間に中和反応が起こるため緩衝剤を利用する必要があり、酒石酸及び/又はクエン酸を含有する水溶液にはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを緩衝剤として含有することが重要である。緩衝作用を効果的に得るためには、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを酒石酸及び/又はクエン酸を含有する溶液側に使用する必要があるが、同時に水酸化ナトリウム水溶液側に使用しても良いのは勿論である。しかしこの時、その他の緩衝剤、例えば炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムや、クエン酸とクエン酸ナトリウムのような組み合わせでは緩衝作用は得られないことを確認している。
【0014】
水酸化ナトリウム及び、酒石酸及び/又はクエン酸の濃度は0.01N以上であることが好ましく、水酸化ナトリウム及び、酒石酸及び/又はクエン酸の濃度が0.01N未満であるとそれぞれの効果を得難い傾向や多孔質膜中で目詰まりを起こし易い傾向がある。実際には、水酸化ナトリウム及び、酒石酸及び/又はクエン酸の濃度は高いほうが検出感度の点で有利である。また、本発明に係る唾液の前処理用キットに於いては、水酸化ナトリウムを含有する水溶液Aと、酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液Bとは、中和作用があるため必ず別になっていることが必要である。
【0015】
本発明に係る唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法に使用される非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤Cは、ミュータンス連鎖球菌表面のタンパク質を可溶化してミュータンス連鎖球菌が多孔質膜内をスムースに通り抜けることを可能とする作用を成すものである。従来から、免疫クロマトグラフィー法ではサンプル液や抗原液が検査器具内をスムーズに移動できるようにイオン性界面活性剤を使用することがよくある。しかし、本発明に係るミュータンス連鎖球菌抗原の同定・定量を行うための唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法に使用される界面活性剤Cは、実験の結果から非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤である必要があり、ラウリル硫酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤や陽イオン界面活性剤では特異抗体による抗原の検出を行うことができない。
【0016】
本発明で使用する界面活性剤Cは、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤であれば特に限定されず、一般に膜タンパクの可溶化剤として使用されるものがいずれも使用できる。しかし、用いる非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤の種類によってミュータンス連鎖球菌抗原の検出感度に差があり、中でも非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル,n−オクチル−β−D−グルコシド,n−ヘプチル−β−D−チオグルコシド,n−オクチル−β−D−チオグルコシドから成る群より選ばれる一種又は二種以上の混合物が、また両性界面活性剤としては、CHAPS(3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート),CHAPSO(3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−ヒドロキシプロパンスルホナート)のいずれか一種又は二種の混合物が、検出感度の点で好ましく使用できる。
【0017】
このような非イオン性界面活性剤及び/又は両性イオン界面活性剤Cは、唾液の処理後に唾液試料中の非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤Cの濃度が0.05〜90重量%となるように使用することが好ましい。0.05重量%未満では、抗原抗体反応による検出感度がなくなってしまい、90重量%を超えると抗原抗体反応による検出感度が低下してしまうため適していない。
【0018】
本発明に係る唾液の前処理用キットに於いては、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤Cは、水酸化ナトリウムを含有する水溶液A及び酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液Bと別に提供されても良く、その場合は水溶液の形態でも良い。また、水酸化ナトリウムを含有する水溶液Aと酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液Bとの一方又は両方に混合されて提供されていても良いが、その場合は酸やアルカリによる分解性に注意を払わねばならない。
【0019】
本発明に係る唾液の前処理キット及び唾液の前処理方法に使用されるpH5〜9に変色域を持つpH指示薬Dとしては、メチルレッド(4.4〜6.2),アゾリトミン(5.0〜8.0),p−ニトロフェノール(5.0〜7.0),m−ニトロフェノール(6.4〜8.8),ブロモクレゾールパープル(5.2〜6.8),ブロモフェノールレッド(5.2〜6.8),クロロフェノールレッド(5.2〜6.8),フェノールレッド(6.4〜8.0),ニュートラルレッド(6.8〜8.0),ブロモチモールブルー(6.0〜7.6),フェノールフタレイン(8.0〜10.0),チモールフタレイン(8.3〜10.6)から成る群より選ばれる一種が好ましく使用でき、少なくとも水溶液A若しくは界面活性剤Cが予め混合されている水溶液A緩衝液B若しくは界面活性剤Cが予め混合されている緩衝液Bとの一方に混合されている態様であっても、又は水溶液A若しくは界面活性剤Cが予め混合されている水溶液A及び緩衝液B若しくは界面活性剤Cが予め混合されている緩衝液Bとは別になっている態様であってもよい。なお、このpH指示薬Dの使用量は非常に僅かで良いので、前述した水溶液Aの水酸化ナトリウム,緩衝液Bの酒石酸及び/又はクエン酸,界面活性剤Cの濃度への影響は考慮しなくてもよい。
【0020】
本発明に係る唾液の前処理方法は、水酸化ナトリウムを含有する水溶液A、酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液B、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤Cを任意の順に唾液に滴下して混合する方法である。また、この前処理を簡便にするため非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤Cを水酸化ナトリウムを含有する水溶液Aと酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液Bとの少なくとも一方に予め添加させておいても良い。この場合も、水酸化ナトリウムを含有する水溶液Aと酒石酸及び/又はクエン酸を含有する緩衝液Bを作用させる順番はどちらが先であっても構わないのは勿論である。
【0021】
本発明に使用する水酸化ナトリウムを含有する水溶液A、酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液B、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤Cの各成分はそれぞれ独立した機能を持つため任意の順で処理を行うことが可能であるが、処理後の唾液のpHが5〜9の範囲内となるように処理を行う。これは抗原抗体反応がこのpHの範囲内で行われるため、用いる特異抗体によって異なるが、pHが範囲外であると特異抗体が抗原と離れてしまったり、非特異的な親和性を持ってしまうため測定結果の信頼性が低下する。
【0022】
本発明に係る唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法によって処理を行った唾液試料は、従来の免疫クロマトグラフィー法を用いた抗原抗体反応によりミュータンス連鎖球菌の同定・定量が可能である。特異抗体は通常用いられる方法によって得ることができ、例えば、KohlerとMilstein(Kohler G, C. Milstein, Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity, Nature, 256:495-497. 1975)による細胞融合によるハイブリドーマの樹立法によっても良いし、単に抗原を動物に免疫してその血清を精製したものでも構わない。
【0023】
以下、本発明に係る唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法に関する実施例を示す。なお、本発明は下記に記された唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法に限定されるものではない。
【0024】
(1)試薬、試験器具の調製
1.特異抗体の作製
ミュータンス連鎖球菌としてストレプトコッカス・ミュータンス(ATCC25175菌株),ストレプトコッカス・ソブリヌス(ATCC33478菌株)をそれぞれ培養し、ホルムアルデヒド水溶液で生育を停止させた。この菌の分散液をそのままマウスに免疫し、KohlerとMilsteinによる細胞融合によるハイブリドーマの樹立法によって以下に示す精製抗体を各二種類ずつ得た。
「SM1抗体」…ストレプトコッカス・ミュータンスに対する特異抗体
「SM2抗体」…ストレプトコッカス・ミュータンスに対する特異抗体
「SS1抗体」…ストレプトコッカス・ソブリヌスに対する特異抗体
「SS2抗体」…ストレプトコッカス・ソブリヌスに対する特異抗体
【0025】
2.特異抗体への標識
粒径40nmの金コロイドをSM2,SS2抗体に標識した。金コロイドは市販品(British Biocell International社製)のものを使用し、ウシ血清アルブミン(商品名:BSA、シグマケミカルカンパニー社製)1%,非イオン性界面活性剤(商品名:Tween20、シグマケミカルカンパニー社製)1%を添加したリン酸緩衝液で抗体濃度0.1μg/mlとなるように希釈した。金コロイドで標識した抗体液を、それぞれ金コロイド標識SM2抗体液,金コロイド標識SS2抗体液と称する。
【0026】
3.免疫クロマトグラフィー用多孔質膜の調製
多孔質膜としてニトロセルロースメンブレン(商品名:SXHF、日本ミリポア社製)を用いた。この膜を5mm×40mmの長方形に切り出し、SM1抗体又はSS1抗体を1%ウシ血清アルブミン含有50mMリン酸緩衝液に1mg/mlの濃度で希釈した。この抗体希釈液をニトロセルロースメンブレンの中央部、長手方向と直角にマイクロピペットで凡そ1mg/cmとなるように塗布した。この膜の一方の端に15mm四方のろ紙をクリップで固定し吸収体とした。この器具を37℃にて2時間乾燥し、使用直前までデシケータ中に保管した。
【0027】
(2)免疫クロマトグラフィーによる試験方法
1.被験者から唾液を採取し、唾液の前処理用キットで処理する。
2.金コロイド標識SM2抗体液又は金コロイド標識SS2抗体液25μlに処理後の唾液100μlを加える。
3.この試験液に金コロイド標識抗体に対応した抗体の塗布してあるクロマトグラフィー用多孔質膜の一端を浸して試験液を染み込ませ、抗体反応の有無を観察する。
【0028】
【実施例1】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A液)とし、1.0Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)5重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有のクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(BC液)とした。
【0029】
唾液100μlにA液を20μl加えた後にBC液25μl加えて混合したものと、唾液100μlにBC液を25μl加えた後にA液凡そ20μl加えて混合したものとを、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の何れの唾液試料に於いても多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応は確認された。
【0030】
【実施例2】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A液)とし、1.0Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)1重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有のクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(BC液)とした。
【0031】
唾液100μlにA液を20μl加えた後にBC液15μl加えて混合したものと、唾液100μlにBC液を15μl加えた後にA液20μl加えて混合したものとを、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の何れの唾液試料に於いても多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応は確認された。
【0032】
【実施例3】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を5重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(AC液)とし、1.0Nクエン酸含有1.5Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を5重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有のクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(BC液)とした。
【0033】
唾液100μlにBC液を15μl加えた後にAC液を20μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0034】
【実施例4】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を1重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(AC液)とし、1.0Nクエン酸含有0.75Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とした。
【0035】
唾液100μlにAC液を20μl加えた後にB液を15μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0036】
【実施例5】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤として、n−オクチル−β−D−グルコシド(和光純薬社製)を1重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(AC液)とし、2.0Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とした。
【0037】
唾液100μlにB液を20μl加えた後にAC液を6μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。処理後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0038】
【実施例6】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有0.75Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を1重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(AC液)とし、1.05Nクエン酸含有0.15Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とした。
【0039】
唾液100μlにB液を25μl加えた後にAC液を20μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0040】
【実施例7】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A液)とし、1.05Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とし、両性界面活性剤である3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(シグマケミカルカンパニー社製)10重量%含有のリン酸ナトリウム緩衝液を両性界面活性剤(C液)とした。
【0041】
唾液100μlにA液を20μl加えた後にB液を15μl加え、更にC液を10μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0042】
【実施例8】
実施例7で用いた唾液試料及び唾液処理用キットを用い、唾液100μlにC液を10μl加えた後にB液を15μl加え、更にA液を20μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。処理後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0043】
【実施例9】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A液)とし、1.0N酒石酸含有の1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を酒石酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とし、非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)10重量%含有のリン酸ナトリウム緩衝液を非イオン性界面活性剤(C液)とした。
【0044】
唾液100μlにB液を20μl加えた後にC液を10μl加え、更にA液を20μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0045】
【実施例10】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有0.75Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を1重量%添加しpH5〜9に変色域を持つpH指示薬としてブロモチモールブルーを混合して青色に着色させたものをpH指示薬及び非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(ACD液)とし、1.05Nクエン酸含有0.15Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とした。
【0046】
唾液100μlにACD液を20μl加えた後にB液を緑色になるまで加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0047】
【実施例11】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を1重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(AC液)とし、1.0Nクエン酸含有0.75Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とし、pH5〜9に変色域を持つpH指示薬としてメチルレッドから成るpH指示薬(D液)を準備した。
【0048】
唾液100μlにB液を20μl加え、D液を滴下して赤色に着色させた後、AC液を黄色になるまで加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0049】
【実施例12】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A液)とし、1.0Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)5重量%添加しpH5〜9に変色域を持つpH指示薬としてブロモチモールブルーを混合して黄色に着色させたものをpH指示薬及び非イオン性界面活性剤含有のクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(BCD液)とした。
【0050】
唾液100μlにBCD液を25μl加えた後にA液を緑色になるまで加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0051】
【実施例13】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を5重量%添加しpH5〜9に変色域を持つpH指示薬としてフェノールフタレインを混合して赤色に着色させたものをpH指示薬及び非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(ACD液)とし、1.0Nクエン酸含有1.5Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を5重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有のクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(BC液)とした。
【0052】
唾液100μlにACD液を20μl加えた後にBC液を無色になるまで加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0053】
【実施例14】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ソブリヌス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A液)とし、1.05Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B液)とし、両性界面活性剤である3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(シグマケミカルカンパニー社製)10重量%含有のリン酸ナトリウム緩衝液を両性界面活性剤(C液)とし、pH5〜9に変色域を持つpH指示薬としてフェノールレッドから成るpH指示薬(D液)を準備した。
【0054】
唾液100μlにB液を20μl加え、D液を滴下して黄色に着色させた後、C液を10μl加えて混合し、A液を赤色になるまで加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0055】
【実施例15】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSS1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液にpH5〜9に変色域を持つpH指示薬としてフェノールフタレインを混合して赤色に着色させたものをpH指示薬及びを水酸化ナトリウムを含有する水溶液(AD液)とし、1.0Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)5重量%添加混合したものを非イオン性界面活性剤含有のクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(BC液)とした。
【0056】
唾液100μlにBC液を25μl加えた後にAD液を無色になるまで加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。混合後の唾液試料は多孔質膜の目詰まりはなく、抗体反応が確認された。
【0057】
【比較例1】
実施例1で用いた唾液試料を用い、唾液の前処理用キットを用いずに免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。多孔質膜の目詰まりが生じ、抗体反応は確認されなかった。
【0058】
【比較例2】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N水酸化ナトリウム含有0.75Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)を0.4重量%添加したものを非イオン性界面活性剤含有の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(AC液)とし、マレイン酸,塩酸,硫酸,酢酸,乳酸のいづれか一種の酸を1.0N含有の1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を酸溶液とし、唾液100μlにAC液を20μl加えた後、マレイン酸,塩酸,硫酸,酢酸,乳酸の何れか一種を含む酸溶液を25μl加えそれぞれ攪拌し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。何れの酸を用いた処理に対しても抗体反応は確認されなかった。
【0059】
【比較例3】
唾液100μlを以下に示す方法で処理し、抗体反応の有無を観察した。なお、唾液は唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス菌を蛍光光度計により計測し、その数が2×106(CFU/ml)のものを使用した。また、多孔質膜にはSM1抗体を塗布したものを使用した。
1.0N炭酸ナトリウムを含有する1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液に非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル(和光純薬社製)1重量%添加したものを用い(A’C液)、1.0Nクエン酸含有1.0Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液をクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液を(B液)とした。
【0060】
唾液100μlにA’C液を20μl加えた後にB液を15μl加えて混合し、免疫クロマトグラフィー法を用いて試験を行った。抗体反応は確認されなかった。
【0061】
【発明の効果】
以上に詳述した実施例及び比較例から明らかなように、本発明に係る唾液の前処理用キット及び唾液の前処理方法は、ヒトの唾液試料中のミュータンス連鎖球菌を免疫クロマトグラフィー法によって同定・定量する際に、簡便な方法で唾液中のムチンやグルカンを溶解しミュータンス連鎖球菌の外膜に作用してミュータンス連鎖球菌の連鎖と凝集を抑えミュータンス連鎖球菌の表面に存在する蛋白質を可溶化して多孔質膜をスムースに通過することを可能にするものであり、その歯科分野に貢献する価値の非常に大きなものである。

Claims (8)

  1. 水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A)と、酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B)と、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤(C)とから構成され、界面活性剤(C)が、少なくとも水溶液(A)緩衝液(B)との一方に予め混合されているか、又は水溶液(A)及び緩衝液(B)とは別になっていることを特徴とする唾液の前処理用キット。
  2. 界面活性剤(C)における非イオン性界面活性剤が、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテル,n−オクチル−β−D−グルコシド,n−ヘプチル−β−D−チオグルコシド,n−オクチル−β−D−チオグルコシド,ノニルフェノキシポリエトキシエタノール,オクチルフェノキシポリエトキシエタノール,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートから成る群より選ばれる一種又は二種以上の混合物である請求項1に記載の唾液の前処理用キット。
  3. 界面活性剤(C)における両性界面活性剤が、3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート,3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−ヒドロキシプロパンスルホナートから成る群より選ばれる一種又は二種の混合物である請求項1又は2に記載の唾液の前処理用キット。
  4. pH5〜9に変色域を持つpH指示薬(D)が、少なくとも水溶液(A)若しくは界面活性剤(C)が予め混合されている水溶液(A)緩衝液(B)若しくは界面活性剤(C)が予め混合されている緩衝液(B)との一方に混合されているか、又は水溶液(A)若しくは界面活性剤(C)が予め混合されている水溶液(A)及び緩衝液(B)若しくは界面活性剤(C)が予め混合されている緩衝液(B)とは別になっている請求項1〜3のいずれか1項に記載の唾液の前処理用キット。
  5. pH5〜9に変色域を持つpH指示薬(D)が、メチルレッド,アゾリトミン,p−ニトロフェノール,m−ニトロフェノール,ブロモクレゾールパープル,ブロモフェノールレッド,クロロフェノールレッド,フェノールレッド,ニュートラルレッド,ブロモチモールブルー,フェノールフタレイン,チモールフタレインから成る群より選ばれる一種である請求項4に記載の唾液の前処理用キット。
  6. 免疫クロマトグラフィー法によりミュータンス連鎖球菌を同定・定量するに際し、唾液に対して、水酸化ナトリウムを含有する水溶液(A)と、酒石酸及び/又はクエン酸を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(B)と、非イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤(C)とを任意の順に滴下・混合するか、又は少なくとも一方に界面活性剤(C)が混入されている水溶液(A)と緩衝液(B)とを任意の順に滴下・混合してpHを5〜9にすることを特徴とする唾液の前処理方法。
  7. 滴下・混合される、水溶液(A)及び/又は緩衝液(B)、又は少なくとも一方に界面活性剤(C)が予め混合されている水溶液(A)及び/又は緩衝液(B)に、予めpH5〜9に変色域を持つpH指示薬(D)を混合したものを使用する請求項6に記載の唾液の前処理方法。
  8. 水溶液(A)と緩衝液(B)と界面活性剤(C)との滴下・混合における水溶液(A)及び緩衝液(B)、又は少なくとも一方に界面活性剤(C)が予め混合されている水溶液(A)と緩衝液(B)との滴下・混合における水溶液(A)及び緩衝液(B)の滴下を行うに際し、後で滴下する水溶液(A)又は緩衝液(B)の滴下前に予めpH5〜9に変色域を持つpH指示薬(D)を滴下しておく請求項6に記載の唾液の前処理方法。
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