JP4651410B2 - イネのアントラニル酸合成酵素遺伝子oasa2の新規改変遺伝子およびその利用 - Google Patents
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Description
本発明に係るポリペプチドは、アントラニル酸合成酵素のトリプトファン結合領域に変異を有するポリペプチドであって、配列番号26に示されるアミノ酸配列の第5位に変異を有し、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドであればよい。上記配列番号26に示されるアミノ酸配列の第5位の変異は、チロシンをアラニンまたはイソロイシンに置換する変異であることが好ましい。
i)第367位のチロシンをアラニンに置換し、第530位のロイシンをアスパラギン酸に置換したポリペプチド(配列番号4)。
ii)第351位のアスパラギンをアスパラギン酸に置換し、第367位のチロシンをアラニンに置換し、第530位のロイシンをアスパラギン酸に置換したポリペプチド(配列番号5)。
iii)第367位のチロシンをアラニンに置換し、第522位のグリシンをチロシンに置換し、第530位のロイシンをアスパラギン酸に置換したポリペプチド(配列番号6)。
iv)第367位のチロシンをイソロイシンに置換し、第522位のグリシンをチロシンに置換し、第530位のロイシンをアスパラギン酸に置換したポリペプチド(配列番号7)。
v)第369位のアラニンをロイシンに置換したポリペプチド(配列番号30)。
vi)第126位のセリンをフェニルアラニンに置換し、第530位のロイシンをアスパラギン酸に置換したポリペプチド(配列番号31)。
vii)第369位のアラニンをロイシンに置換し、第530位のロイシンをアスパラギン酸に置換したポリペプチド(配列番号32)。
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記本発明に係るポリペプチドをコードするものであればよい。本発明に係るポリペプチドについては上記(1)で詳細に説明したので、ここでの説明は省略するが、例えば、具体的には、以下の〔1〕および〔2〕に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればよい。
〔1〕配列番号1に示されるアミノ酸配列の第126位、第367位または第369位の少なくとも1つに変異を有するポリペプチドであって、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチド。
〔2〕上記〔1〕の変異に加えて、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第351位、第522位または第530位の少なくとも1つに変異を有するポリペプチドであって、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有すると共に、野生型イネアントラニル酸合成酵素と比較して少なくとも0.7倍以上の酵素活性を有するポリペプチド。
〔3〕配列番号2、3、29または30に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号2、3、29または30に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、トリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチド。
〔4〕配列番号4ないし7および配列番号30ないし32のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号4ないし7および配列番号30ないし32のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、トリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有すると共に野生型OASA2タンパク質の0.7倍以上の酵素活性を有するポリペプチド。
本発明に係るポリヌクレオチドは、形質転換用マーカー遺伝子として利用することができる。すなわち、本発明に係る形質転換体選抜用マーカー遺伝子は、上記(2)に記載した本発明に係るポリヌクレオチドからなるものであればよい。本発明に係るポリヌクレオチドを導入された細胞はトリプトファン耐性となるため、トリプトファン類縁化合物を培地に添加することにより、当該ポリヌクレオチドが導入された細胞のみを選抜することが可能となる。選抜用薬剤として用いることができる細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物としては、例えば、5−メチルトリプトファン(5MT)、4−メチルトリプトファン(4MT)、6−メチルトリプトファン(6MT)、7−メチルトリプトファン(7MT)、6−メチルアントラニル酸(6MA)、5−メチルアントラニル酸(5MA)、3−メチルアントラニル酸(3MA)、5−フルオロアントラニル酸(5FA)、6−フルオロアントラニル酸(6FA)等を挙げることができる。
本発明に係る組換え発現ベクターは、上記(2)に記載した本発明に係るポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されるものではない。例えば、cDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。
本発明に係る形質転換体は、上記(2)に記載した本発明に係るポリヌクレオチドまたは上記(4)に記載の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドが発現している形質転換体であれば、特に限定されるものではない。ここで「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。
本発明に係るスクリーニング方法は、(1)に記載した本発明に係るポリペプチド(変異型OASA2タンパク質)および野生型イネアントラニル酸合成酵素(OASA2タンパク質)のいずれか一方のみと結合する物質をスクリーニングする方法であって、変異型OASA2タンパク質と結合する物質をスクリーニングする工程と、野生型OASA2タンパク質結合する物質をスクリーニングする工程と、上記両工程の結果を比較する工程とを含むものであればよい。
<標的遺伝子のクローニングベクターへの挿入>
イネアントラニル酸合成酵素遺伝子OASA2(ACCESSION NO. AB022603)をクローニングベクターpBluescript SK+(Stratagene社製)のマルチクローニングサイトのEcoRIサイトに挿入し、pBS-OASA2を構築した。なお、挿入した遺伝子は、マルチクローニングサイトの制限酵素サイトKpnIからSacIの向きに挿入されている。
Kunkel法によって目的タンパク質をコードする遺伝子に変異を導入する場合、変異を導入したい位置にセンス(あるいはアンチセンス)の変異導入用オリゴヌクレオチドを設定して用いる。目的タンパク質をコードする遺伝子にPCRを用いて変異を導入する場合、変異を導入したい位置に2つのプライマー、すなわちセンスおよびアンチセンスのオリゴヌクレオチドを設定して用いる。従って、当該変異導入用プライマーの一方は、上記Kunkel法に用いた変異導入用オリゴヌクレオチと同一のものを使用することができる。この際、遺伝子がコードするアミノ酸が変化しない適当な位置に制限酵素サイトを導入することで変異導入の有無の確認作業ができる。下記i)〜vi)の変異はKunkel法を用いて導入し、下記vii)およびviii)の変異はPCRを用いて導入した。
i)351番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に置換(N351D)
351番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基にアミノ酸置換し、かつ、コードするアミノ酸が変化しない位置に制限酵素サイト(BsiWI)を導入するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、下線は制限酵素サイトを示し、小文字は変異導入コドンを示す。
N351D-F:5'-GTTTGAGAGGCGAACGTACGCCgatCCATTTGAAGTCT-3'(配列番号15)
プライマーN351D-Fの23番目から25番目のgat(アスパラギン酸、D)および15番目から20番目のCGTACG(BsiWIサイト)は、それぞれ野生型OASA2のAAT(アスパラギン、N)およびCATACGの塩基配列よりデザインした。AATをGATにすることにより351番目のアスパラギン残基がアスパラギン酸残基へ置換される。また、CATACGをCGTACGとすることによりアミノ酸置換を伴わずに(ACA、ACGは共にスレオニン)制限酵素サイト(BsiWI: CGTACG)が導入され、変異導入後の選抜が容易となる。
上記i)と同様に、367番目のチロシン残基をアラニン残基にアミノ酸置換し、かつ、コードするアミノ酸が変化しない位置に制限酵素サイト(SnaBI:TACGTA)を導入するように変異導入プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、下線は制限酵素サイトを示し、小文字は変異導入コドンを示す。
Y367A-F:5'-GTGAACCCAAGTCCAgccATGGCATACGTACAGGCAAGAGGC-3'(配列番号16)
iii)367番目のチロシン残基をイソロイシン残基に置換(Y367I)
上記i)と同様に、367番目のチロシン残基をイソロイシン残基にアミノ酸置換し、かつ、コードするアミノ酸が変化しない位置に制限酵素サイト(SnaBI:TACGTA)を導入するように変異導入プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、下線は制限酵素サイトを示し、小文字は変異導入コドンを示す。
Y367I-F:5'-GTGAACCCAAGTCCAatcATGGCATACGTACAGGCAAGAGGC-3'(配列番号17)
iv)530番目のロイシン残基をアラニン残基に置換(L530A)
上記i)と同様に、530番目のロイシン残基をアラニン残基にアミノ酸置換し、かつ、コードするアミノ酸が変化しない位置に制限酵素サイト(NheI:GCTAGC)を導入するように変異導入プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、下線は制限酵素サイトを示し、小文字は変異導入コドンを示す。
L530A-F:5'-ACGGAGACATGgctATCGCGCTAGCACTCCGCACCATT-3'(配列番号18)
v)530番目のロイシン残基をアスパラギン酸残基に置換(L530D)
上記i)と同様に、530番目のロイシン残基をアスパラギン酸残基にアミノ酸置換し、かつ、コードするアミノ酸が変化しない位置に制限酵素サイト(NheI:GCTAGC)を導入するように変異導入プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、下線は制限酵素サイトを示し、小文字は変異導入コドンを示す。
L530D-F:5'-ACGGAGACATGgacATCGCGCTAGCACTCCGCACCATT-3'(配列番号19)
vi)522番目のグリシン残基をチロシン残基に、530番目のロイシン残基をアスパラギン酸残基に置換(G522Y+L530D)
上記i)と同様に、522番目のグリシン残基をチロシン残基に、530番目のロイシン残基をアスパラギン酸残基にアミノ酸置換し、かつ、コードするアミノ酸が変化しない位置に制限酵素サイト(BciVI:GTATCC/GGATAC)を導入するように変異導入プライマーをデザインした。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、下線は制限酵素サイトを示し、小文字は変異導入コドンを示す。
G522Y+L530D-F:5'-AGTGGCGGCCTTGGAtacATATCATTTGACGGAGACATGgatATCGCTCTTGCACT-3'(配列番号20)
vii)126番目のセリン残基をフェニルアラニン残基に置換(S126F)
126番目のセリン残基をフェニルアラニン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入法にPCRを用いた手法で変異を導入したのでセンスおよびアンチセンスのオリゴヌクレオチドを作成した。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、小文字は変異導入コドンを示す。
S126F-F :5'-GCTTCCTCTTCGAGttcGTCGAGCAGGGGCC-3'(配列番号37)
S126F-R:5'-GGCCCCTGCTCGACgaaCTCGAAGAGGAAGC-3'(配列番号38)
プライマーS126F-Fの15番目から17番目のttc(フェニルアラニン、F)は、野生型OASA2のTCC(セリン、S)よりデザインした。TCCをTTCにすることにより126番目のセリン残基がフェニルアラニン残基へ置換される。プライマーS126F-RはプライマーS126F-Fの相補鎖である。
上記i)と同様に、369番目のアラニン残基をロイシン残基にアミノ酸置換するように変異導入用プライマーをデザインした。変異導入法にPCRを用いた手法で変異を導入したのでセンスおよびアンチセンスのオリゴヌクレオチドを作成した。変異導入用プライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、小文字は変異導入コドンを示す。
A369L-F:5'-CAAGTCCATACATGctaTATGTACAGGCAA-3'(配列番号39)
A369L-R:5'-TTGCCTGTACATAtagCATGTATGGACTTG-3'(配列番号40)
プライマーA369L-RはプライマーA369L-Fの相補鎖である。
Kunkel法は、下記の参考文献1−3に記載の方法にしたがって行った。
参考文献2:Kunkel, T. A., Bebenek, K. and McClary, J. (1991) Efficient site-directed mutagenesis using uracil-containing DNA. Methods in Enzymology, 204: 125-139.
参考文献3:「Molecular Cloning (Third Edition)」 (J. Sambrook & D. W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (2001) Chapter 13.
例えば、351番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に置換する場合、前述のpBS-OASA2ベクターを鋳型とし、上記i)に記載した変異導入用プライマーを用いてKunkel法を行うことで変異を導入した。上記ii)、iv)、v)、vi)に記載の変異導入用プライマーを用いる場合も上記と同一の鋳型を用いてKunkel法を行った。以上の操作によりN351D、Y367A、L530A、L530D、G522Y+L530D変異DNAを調製した。
PCR法による変異導入法は下記の参考文献に記載の方法に従って行った。
OASA2遺伝子が変異導入用のプライマー領域でオーバーラップするように5’側領域と3’側領域に分けてPCRを行った。例えば、上記vii)に記載した126番目のセリンをフェニルアラニンに置換するため変異導入用プライマーを用いる場合には、5’側領域はpBS-OASA2ベクターを鋳型とし、クローニング用センスプライマー(5'-AAAACTAGTATGGAGTCCATCGCCGCCGCCACG-3':配列番号41、下線は制限酵素SpeIサイトを示す)およびプライマーS126F-Rの組み合わせでPCRを行い、 3’領域はpBS-OASA2ベクターを鋳型とし、プライマーS126F-Fおよびクローニング用アンチセンスプライマー(5'-AAAGTCGACTGAGAGAGACTCTATTCCTTGTC-3':配列番号42、下線は制限酵素SalIサイトを示す)との組み合わせでPCRを行った。上記viii)に記載の変異導入用プライマーを用いる場合でも上記と同一の鋳型を用い、同様のプライマーの組み合わせによりPCRを行った。
(1)Split-PCR法による転写鋳型DNAの合成
<Split-PCR用鋳型の調製>
OASA2遺伝子はイネの核ゲノム上にコードされている遺伝子であるが、合成されたタンパク質は葉緑体に移行して葉緑体内で機能していることが判っている。合成されたタンパク質のN末端領域には葉緑体へ移行するためのシグナル配列が存在し、その配列が除去されることで成熟型酵素となり、酵素活性を発揮する。したがって、OASA2タンパク質を成熟型酵素としてコムギ胚芽無細胞合成系で合成するため、N末端領域に存在する49残基からなるシグナル配列を除去した形で合成されるようにプライマーをデザインした。すなわち、コムギ胚芽無細胞合成システムでSplit-PCRを可能とするリンカー配列の下流にATG開始コドンを配し、OASA2遺伝子の148から164番目の塩基配列からなる全長36merのプライマーをデザインした。また、OASA2遺伝子が挿入されているベクター(pBluescript SK+)上に上記センスSplit-PCR用プライマーの相補鎖側の位置にSplit-PCR用アンチセンスプライマーを2種類設定した。挿入DNAの位置から遠い順にアンチセンスSplit-PCR用プライマー1およびアンチセンスSplit-PCR用プライマー2とした。Split-PCR用のプライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、Split-PCRについては後述する。
センスSplit-PCR用プライマー:5'-CCTCTTCCAGGGCCCAATGTGCTCCGCGGGGAAGCC-3'(配列番号21、下線部分がリンカー配列)
アンチセンスSplit-PCR用プライマー1:5'-GGAGAAAGGCGGACAGGTAT-3'(配列番号22)
アンチセンスSplit-PCR用プライマー2:5'-GGGGAAACGCCTGGTATCTT-3'(配列番号23)
上記Kunkel法により変異が導入されたOASA2遺伝子を含むpBluescript SK+ベクターを鋳型として、上記センスSplit-PCR用プライマーおよびアンチセンスSplit-PCR用プライマー1を用いてPCR等の増幅反応を行い、増幅されたDNA断片を次に行うSplit-PCRの鋳型とすることができる。
上記Split-PCR用鋳型DNAを転写鋳型DNAとするためには、断片の5'末端上流にSP6 RNAポリメラーゼのプロモーターとタバコモザイクウイルス(TMV)由来の翻訳増強配列(オメガ配列)を付加する必要がある。そのため、Sawasakiらの方法(Sawasaki et al. (2002) Proc Natl Acad Sci U S A 99, 14652-14657)に従い、Split-PCRを行った。すなわち、上記Split-PCR用鋳型DNAを50倍希釈し、PCR反応液[1× EX Taq buffer (TaKaRa社)、0.2mM dNTP、0.025 units/μl TaKaRa EX Taq (TaKaRa社)、0.2μM SP6 promoterプライマー、1nM TMV-Omegaプライマー、0.2μM アンチセンスSplit-PCR用プライマー2]に1μl添加し、上記PCR反応装置を用いて、95℃で2分間保持した後、98℃で20秒間、60℃で35秒間、72℃で3分間の反応を35サイクル繰り返し、72℃で10分保持した後4℃に冷却した。SP6 promoterプライマーおよびTMV-Omegaプライマーの塩基配列は下記の通りである。なお、下線はSP6プロモーター配列を示し、小文字は両プライマーの重複部分を示す。
SP6 promoterプライマー:5'-GCGTAGCATTTAggtgacact-3'(配列番号24)
TMV-Omegaプライマー:5'-ggtgacactATAGAAGTATTTTTACAACAATTACCAACAACAACAACAAACAACAACAACATTACATTTTACATTCTACAACTACCTCTTCCAGGGCCCAATG-3'(配列番号25)
ここで、上記SP6 promoterプライマーとTMV-Omegaプライマーのように、プライマーを上流側プライマーと下流側プライマーとに分割し、上流側プライマーの3’末端と下流側プライマーの5’末端との配列が一部重複するように設計されたプライマーをSplit primerと称する。また、このようなプライマーを用いて行うPCR反応をSplit-PCRと称する。
上記(1)で得られたPCR産物を直接鋳型として用いてmRNAを合成(転写)した。すなわち、上記(1)で得られたPCR産物を、転写反応液[80mM HEPES-KOH (pH7.8)、16mM Mg(OAc)2、10mM spermidine、10mM DTT、3mM NTP、1 unit/μl RNasin RNase inhibitor (Promega社)、1 unit/μl SP6 RNA polymerase (Promega社)]に1/10量添加した。37℃で2時間反応後、エタノール沈殿、70% エタノール洗浄を行い、適当量の滅菌水に溶解した。260 nmの吸光度を測定してRNA量を算出した。
Sawasakiらの方法(Sawasaki et al. (2002) Proc Natl Acad Sci U S A 99, 14652-14657)に従って上記(3)で合成したmRNAを鋳型としてタンパク質を合成した。すなわち、50μlのコムギ胚芽無細胞タンパク質合成液を入れた透析カップに上記mRNA(約30-35μg)を添加し、1ウェルあたり1mlの基質液を入れた24穴プレートに上記透析カップを浸漬し、26℃で24時間インキュベートした。
(1)ウエスタンブロット法によるOASA2タンパク質の定量
OASA2タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)の第161位〜第175位の配列(MDHEKGKVTEQVVDD)のペプチド断片に基づいて作製したウサギ抗OASA2抗体とOASA2タンパク質精製標品を用いてコムギ胚芽無細胞システムにより合成されたOASA2タンパク質を定量した。ウエスタンブロット解析はTowbinらの方法(Towbin, H., Staehelin, T. and Gordon, J. 1979. Electrophoretic transfer of proteins from polyacrylamide gels to nitrocellulose sheets: procedure and some applications. Proc Natl Acad Sci USA 76: 4350-4354.)に従い行った。上記方法で見積もったOASA2タンパク質量で後述の酵素活性を補正した。
イネアントラニル酸合成酵素のαサブユニットであるOASA2タンパク質は、βサブユニットが供給するグルタミンのアミド基由来のアンモニアを利用してコリスミン酸からアントラニル酸を生成する。生体内でOASA2タンパク質は、βサブユニットが供給するアンモニアを利用してアントラニル酸合成活性(以下、適宜「AS活性」と略記する。)を発揮するが、外部よりアンモニア、例えばNH4Clを添加することでも酵素活性を示す。
90μlの反応液(20mM Tris-HCl, pH8.3; 100mM NH4Cl; 0.5mM コリスミン酸; 10mM MgCl2)にbuffer 置換した粗抽出液を2.5μl添加して、32℃で1時間反応させた。反応は10μlの1N HClを添加することで停止させ、300μlの酢酸エチルを添加して合成したアントラニル酸を抽出した。アントラニル酸の合成量は、Wallac 1420 ARVOsx-FL(パーキンエルマーライフサイエンスジャパン社製)を用いて励起波長355 nm/蛍光(emmision)460 nmで測定した。トリプトファンに対するフィードバック阻害活性を解析する場合、反応系に終濃度10μMまたは100μMになるようにトリプトファンを添加した。
上記トリプトファンフィードバック阻害に対する抵抗性を獲得していた5種類の変異型OASA2タンパク質について、より詳細に酵素学的性質を検討するため、イネアントラニル酸合成酵素βサブユニットを用いた反応系において酵素活性およびトリプトファンフィードバック阻害を解析した。
OASA2遺伝子に相当するTRP2遺伝子が欠損した酵母は生育のためにトリプトファンを要求する。従って、この欠損株にOASA2遺伝子を導入しトリプトファン非存在下で生育できれば導入したOASA2遺伝子はTRP2の機能を相補できることになる。また、トリプトファンフィードバック阻害に抵抗性を有する変異型OASA2遺伝子をこの酵母で発現させ、生体内に蓄積する遊離トリプトファン含量を測定することで当該遺伝子の効果検定を行うことができる。
センスプライマー:5’-AAAGGTACCATGTGCTCCGCGGGGAAGCC-3’(配列番号27)
アンチセンスプライマー:5’-AAAGAATTCTGAGAGAGACTCTATTCCTTGTC-3’(配列番号28)
PCR反応液の組成は、1× Pyrobest buffer II (TaKaRa社)、0.2mM dNTP、0.5μM センス及びアンチセンスプライマー、0.025 units/μl Pyrobest DNA polymerase (TaKaRa社)、10ng 鋳型DNA (pBS-OASA2ベクター)とし、PCR反応装置(宝酒造社製、TaKaRa PCR Thermal Cycler MP TP3000型)を用いて、95℃で2分間保持した後、98℃で20秒間、60℃で35秒間、72℃で3分間の反応を25サイクル繰り返し、72℃で10分保持した後4℃に冷却した。
<外来遺伝子導入用組換えベクターの構築>
外来遺伝子導入用組換えベクターの構築は、下記の参考文献に記載の方法に従って行った。
参考文献1:Urushibara S, Tozawa Y, Kawagishi-Kobayashi M and Wakasa K (2001) Efficient transformation of suspension-cultured rice cells mediated by Agrobacterium tumefaciens. Breeding Science 51: 33-38
参考文献2:Tozawa Y, Hasegawa H, Terakawa T and Wakasa K (2001) Characterization of rice anthranilate synthase alfa subunit genes OSASA1 and OSASA2: tryptophan accumulation in transgenic rice expressing a feedback-insensitive mutant of OASA1. Plant Physiology 126: 1493-1506
参考文献3:Hiei Y, Ohta S, Komari T and Kumashiro T (1994) Efficient transformation of rice (Oryza sativa) mediated by Agrobacterium and sequence analysis of boundaries of the T-DNA. Plant Journal 6: 271-282
外来遺伝子導入用組換えベクターpUB-Hm(Urushibara et al., Breeding Science 51: 33-38 (2001))は、トウモロコシのユビキチンプロモーターと、第一イントロンと、制限酵素Sse8387Iサイトと、NOSターミネーターと、ハイグロマイシン耐性遺伝子を有し、Sse8387Iサイトに目的外来遺伝子を挿入することでイネ形質転換用の組換えベクターを構築することができる。
センスプライマー:5'-AAAACTAGTATGGAGTCCATCGCCGCCGCCACG-3'(配列番号43)
アンチセンスプライマー:5'-AAAGTCGACTGAGAGAGACTCTATTCCTTGTC-3'(配列番号44)
また、全長からなる変異型OASA2遺伝子(Y367A、Y367A/L530D)は、pBS-OASA2を鋳型とし、上記センスプライマー(配列番号43)およびアンチセンスプライマー(配列番号44)を用いて〔実施例1〕<RCR法による変異導入用DNAの調製>に記載の方法でDNA断片を調製した。以上のPCRにより増幅したDNA断片を制限酵素SpeIおよびSalIで消化して得られたDNA断片(1)は、Sawasakiらが構築した(Sawasaki et al. (2002) Proc Natl Acad Sci U S A 99, 14652-14657)コムギ胚芽無細胞合成システム用発現ベクターpEU3bを改良し、マルチクローニングサイトSpeI/SalIサイトの両端にSse8387Iサイトを導入したコムギ胚芽無細胞合成システム用発現ベクターpEU3sのSpeI/SalIサイトに挿入した。
YEB培地(バクトペプトン5g/l、バクトビーフエクストラクト5g/l、バクトイーストエクストラクト1g/l、シュクロース5g/l、2mM MgCl2、pH7)の液体培地50mlに、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens EHA101)を移植し、30℃で16時間振とう培養した後、培溶液を4℃で遠心分離により細菌の沈殿を得た。細菌の沈殿物を氷冷した10mM Tris-Hcl pH7.5で懸濁し、遠心分離で沈殿を得た。沈殿物を0.5mlのYEB培地に懸濁した。この菌懸濁液0.2mlに上記3種類の外来遺伝子導入用組換えベクターの溶解液(5μg)をそれぞれ添加し、よく混合した。これらを即座に凍結し、37℃で融解、再度凍結融解を計3回行った。16mlのYEB培地にこの懸濁液を加え、30℃で2時間振とう培養した。この培養液をL 培地(バクトトリプトン10g/l、バクトイーストエクストラクト5g/l、NaCl 5g/l、バクトアガー15g/l、pH7.5)にカナマイシン100mg/lおよびハイグロマイシン50mg/lを添加してなる寒天培地に塗布し、30℃で36時間培養して、生育してきたコロニーを組換えベクターが導入された形質転換アグロバクテリウムとして得た。
イネ(品種:日本晴)の完熟種子から籾穀を脱穀した。得られた外皮付きの種子を70%エタノール溶液に60秒間、ついで有効塩素約4%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に6分間浸漬して種子を殺菌処理した。さらに種子を滅菌水で洗浄した。
上記のようにして得られた、遺伝子導入用の形質転換アグロバクテリウムをAA培地の組成(Hiei et al., Plant Journal 6: 271-282 (1994))にショ糖20g/l、2,4-D 2mg/l、カイネチン0.2mg/lおよびアセトシリンゴン10mg/lを添加してなる液体培地30mlに懸濁し菌液を得た。この懸濁液を9cmのシャーレに入れ、上記により得られたイネのカルスを100個入れた後、5分間浸せきした。浸せき後、ペーパータオルで余分な菌液を除去した後、N6培地の無機塩組成にショ糖30g/l、グルコース10g/l、2,4-D 2mg/l、カザミノ酸1g/l、ゲルライト2g/lおよびアセトシリンゴン10mg/lを添加してなる2N6CO固体培地に、上記の浸せきしたカルスを各シャーレ当たり20個ずつ置床した。24℃で3日間、暗黒下で培養し、イネのカルスへのアグロバクテリウムの感染を行った。
組換えベクターが導入された形質転換カルスを、500mg/lカルベニシリンを添加してなる滅菌水で洗浄してアグロバクテリウム細菌を除去した。カルスから余分な水分を除いた後、カルスをN6培地の無機塩組成にショ糖30g/l、2,4-D 2mg/l、カルベニシリン500mg/l、ハイグロマイシン30mg/l、カザミノ酸1g/l、ゲルライト2mg/lを添加してなる2N6SE固体培地上に各シャーレ当たり20個ずつ移植した。28℃で3週間、暗黒下で培養して、ハイグロマイシン耐性の形質転換カルスを得た。さらに同じ組成の個体培地上へ増殖カルスを移植し、ハイグロマイシン耐性の形質転換カルスの培養を28℃で3週間行った。
センスプライマー:5'-GGATGGCACCCGCAGCAGATCG-3' (配列番号45)
アンチセンスプライマー:5'-GTACTCATCACTTGTCATGGTTG-3'(配列番号46)
402塩基対に相当する形質転換用ベクター遺伝子に由来する断片の増幅により、形質転換体におけるOASA2変異遺伝子を確認した。元々含まれるゲノム上のOASA2遺伝子にはイントロン配列が含まれる、形質転換遺伝子にはイントロンが含まれないため、402塩基対のDNA増幅産物は、形質転換用遺伝子にのみ由来する。
変異型OASA2遺伝子(Y367A、Y367A/L530D)または野生型(Wt)OASA2遺伝子を発現するイネカルスそれぞれ2系統について、各イネカルスの100mgを液体窒素中で粉砕した。粉砕物を1.5ml容のチューブに移し替え、次いで500μlのクロロホルム:メタノール:水混合液(5:12:3の容積比)を加え、よく混合した後、5,000×rpmの遠心加速度で10分間遠心分離した。得られた上清を新しいチューブに移し、375μlの蒸留水と250μlのクロロホルムを加え、激しく混合した後、5,000×rpmの遠心加速度で10分間遠心分離した。このようにして抽出された水層を新しいチューブに移し、減圧下で乾固させた後、2mlの10mM NaOHに溶解して、トリプトファン抽出液とした。これを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置(Waters社製、Waters Alliance HPLC FLD System 2695)に供して遊離トリプトファン含量を測定した。このHPLCに用いたカラムは、Xterra RP18 column (4.6 ×150 mm)(Waters社製)であり、展開溶媒はアセトリトリル−0.1M H3PO4 水溶液(pH4.0) をアセトニトリルの5%〜45%濃度勾配で用い、流量は1ml/分として、励起波長278nmにおける蛍光波長348nmの測定を行いトリプトファン含量を評価した。
Claims (18)
- アントラニル酸合成酵素のトリプトファン結合領域に変異を有するポリペプチドであって、配列番号26に示されるアミノ酸配列の第5位に変異を有し、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有することを特徴とするポリペプチド。
- 上記配列番号26に示されるアミノ酸配列の第5位の変異は、チロシンをアラニンまたはイソロイシンに置換する変異であることを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
- 以下の(a)または(b)より選択されるポリペプチドにおいて、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第126位、第367位または第369位の少なくとも1つに変異を有し、
トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有することを特徴とするポリペプチド。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第50位〜第606位のアミノ酸配列からなるポリペプチド。 - さらに、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第351位、第522位または第530位の少なくとも1つに変異を有し、
野生型イネアントラニル酸合成酵素と比較して少なくとも0.7倍以上の酵素活性を有することを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。 - 上記配列番号1に示されるアミノ酸配列の第126位の変異は、セリンをフェニルアラニンに置換する変異であり、
上記配列番号1に示されるアミノ酸配列の第367位の変異は、チロシンをアラニンまたはイソロイシンに置換する変異であり、
上記配列番号1に示されるアミノ酸配列の第369位の変異は、アラニンをロイシンに置換する変異であることを特徴とする請求項3または4に記載のポリペプチド。 - 上記配列番号1に示されるアミノ酸配列の第351位の変異は、アスパラギンをアスパラギン酸に置換する変異であり、
上記配列番号1に示されるアミノ酸配列の第522位の変異は、グリシンをチロシンに置換する変異であり、
上記配列番号1に示されるアミノ酸配列の第530位の変異は、ロイシンをアラニンまたはアスパラギン酸に置換する変異であることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項に記載のポリペプチド。 - 請求項3ないし6のいずれか1項に記載のポリペプチドであって、以下の(c)または(d)より選択されるポリペプチド。
(c)配列番号2ないし7および配列番号29ないし32のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号2ないし7および配列番号29ないし32のいずれかに示されるアミノ酸配列の第50位〜第606位のアミノ酸配列からなるポリペプチド。 - 請求項1ないし7のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
- 請求項8に記載のポリヌクレオチドであって、以下の(e)〜(h)からなる群より選択されるポリヌクレオチド。
(e)配列番号9ないし14および配列番号33ないし36のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(f)配列番号9ないし14および配列番号33ないし36のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
(g)配列番号9ないし14および配列番号33ないし36のいずれかに示される塩基配列の第148位〜第1821位の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(h)配列番号9ないし14および配列番号33ないし36のいずれかに示される塩基配列の第148位〜第1821位の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。 - 請求項8または9に記載のポリヌクレオチドからなる形質転換体選抜用マーカー遺伝子。
- 請求項8または9に記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
- 請求項8または9に記載のポリヌクレオチドまたは請求項11に記載の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドが発現している形質転換体。
- 上記形質転換体は、植物細胞または植物体であることを特徴とする請求項12に記載の形質転換体。
- 請求項13に記載の植物体から得られる種子。
- 請求項10に記載のマーカー遺伝子または請求項11に記載の組換え発現ベクターを細胞に導入することにより、細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物に対する耐性を細胞に付与し、さらに当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している細胞を選抜することからなる、形質転換細胞の選抜方法。
- 少なくとも請求項8または9に記載のポリヌクレオチド、あるいは請求項11に記載の組換え発現ベクターのいずれかを含むことを特徴とする形質転換キット。
- 請求項3ないし7のいずれか1項に記載のポリペプチドおよび野生型イネアントラニル酸合成酵素の、いずれか一方のみと結合する物質をスクリーニングする方法であって、
請求項3ないし7のいずれか1項に記載のポリペプチドと結合する物質をスクリーニングする工程と、
野生型イネアントラニル酸合成酵素と結合する物質をスクリーニングする工程と、
上記両工程の結果を比較する工程とを含むことを特徴とするスクリーニング方法。 - 請求項17に記載のスクリーニング方法を実施するためのキットであって、
少なくとも請求項3ないし7のいずれか1項に記載のポリペプチドの1つと野生型イネアントラニル酸合成酵素とを含むことを特徴とするスクリーニングキット。
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