JP4651213B2 - インフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インフルエンザウイルスに特異的結合性を有するペプチドに関する。より詳細には、本発明はインフルエンザウイルス膜に存在するヘマグルチニンに特異的に結合するペプチドに関する。
【0002】
インフルエンザウイルスの宿主への感染は、ウイルスがその表面膜に埋め込まれたヘマグルチニンを介して宿主受容体に結合することによって成立する。本発明のペプチドは、ヘマグルチニンと結合することによりインフルエンザウイルスの宿主受容体への結合を妨げ、その結果としてインフルエンザウイルス感染の防止に有意に寄与するものである。
【0003】
ゆえに、本発明は、また上記ペプチドについて、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンを介した宿主受容体への結合の阻害剤としての用途、並びに抗インフルエンザ剤としての用途に関するものでもある。
【0004】
【従来技術】
インフルエンザウイルス膜にはヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA、シアリダーゼ)といった2種類のスパイク糖蛋白質が存在し、それぞれウイルスの感染成立及びウイルスの宿主細胞からの出芽に重要な役割を果たしている。前者のヘマグルチニンは、ヒトやその他の動物(ほ乳類、鳥類、は虫類、魚類、両生類等)といった宿主の細胞膜上に普遍的に存在するシアル酸含有糖鎖を受容体として認識してそれに特異的に結合し、インフルエンザウイルスの細胞内へのエンドサイトーシスを導く。一方、後者のノイラミニダーゼは、受容体破壊酵素であり、宿主細胞からウイルス粒子が出芽または遊離する際に、自らのまたは宿主細胞膜上のシアル酸残基を切断する役割を担っている。
【0005】
インフルエンザウイルスは、ウイルス核蛋白質やウイルス膜の内側に存在するマトリックス蛋白質などの抗原性により、A型、B型及びC型に分類される。特にA型インフルエンザウイルスは、遺伝子交雑や点変異等による抗原性の変化に伴う亜型間の変化により、世界的規模での流行を繰り返している。
【0006】
前述するインフルエンザウイルス感染の第1ステップに関与するヘマグルチニンには、極めて変異しやすい抗原決定領域(A〜E)のアミノ酸配列の多様性に基づいて、種々の亜型が存在する。ヘマグルチニンの亜型間のアミノ酸配列の相違は25〜75%にわたるが、宿主細胞の受容体と結合するいわゆる受容体結合ポケット領域は、比較的変異がなく、その三次元構造はよく保存されている(Y.Suzuki, Prog.Lipid.Res., 33, 429 (1994))
従来から、インフルエンザウイルスの感染を防止するために、感染成立に寄与するヘマグルチニンに特異的に結合することによってその働きを阻害する作用を有するワクチンの開発が検討されている。
【0007】
その一例として、ヘマグルチニンが宿主受容体のシアル酸含有糖鎖を認識して結合することに基づいて、種々の糖アナログを用いてヘマグルチニンのその結合部位に特異的に結合する糖をスクリーニングするという手法により、現在までに種々のヘマグルチニン結合性糖アナログが取得されている(R.Roy, et al., J.Chem.Soc., Chem.Commun., 1869 (1993); M.Mammen, et al., J.Med.Chem., 38, 4179 (1995); T.Sato, et al., Chem.Lett., 145 (1999); M.ltzstein, et al., Nature, 363, 418 (1993))。
【0008】
そのほか、ヘマグルチニンの受容体糖鎖に対するモノクローナル抗体の抗原結合部位のもつ抗原性(イディオタイプ)に対する抗体(抗イディオタイプ抗体)を作成する手法もある。すなわち、これはヘマグルチニンの受容体となるシアル酸およびシアロ糖鎖の三次元構造に代えて、それと立体構造が類似する抗イディオタイプ抗体の超可変部のアミノ酸配列を作成し、宿主細胞のヘマグルチニン受容体に模擬させるというものである(鈴木康夫「ウイルス感染と糖鎖」、別冊日経サイエンス「糖鎖と細胞」,89-101頁, 1994年10月)。
【0009】
しかし、これらのいずれもヘマグルチニンの種々の亜型に特異的であり、また結合定数も高くない。
【0010】
このため、亜型の別に関わらずインフルエンザウイルス全般に働く広域ワクチンの開発が待たれているのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
インフルエンザウイルスのヘマグルチニンを特異的に認識し結合する物質、すなわち宿主細胞の受容体に代えてヘマグルチニンの受容体となり得る物質が提供できれば、インフルエンザがヘマグルチニンを介して宿主受容体に結合することを競合的に抑制ないし阻害することができ、インフルエンザウイルスの感染を予防することが可能となるものと期待される。また上記物質が、亜型間でよく保存されたヘマグルチニンの「受容体結合ポケット」を特異的に認識して結合するものであれば、亜型の別なくインフルエンザウイルス全般にわたってその感染を予防できるものと期待される。本発明は、かかる効果を奏し得る、インフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドを提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、ファージディスプレイ法を用いることによって選択されたペプチドが、インフルエンザのヘマグルチニンを特異的に認識しこれに結合することを見出し、かかるペプチドがインフルエンザ感染の予防に有用であることを確信した。本発明は、かかる知見に基づいて開発されたものである。
【0013】
すなわち、本発明は下記(1)〜(5)に掲げるインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドである:
(1).下記(a)または(b)のいずれかである、インフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド:
(a)配列番号1〜3で示されるアミノ酸配列のいずれかから選ばれるアミノ酸配列を有するペプチド、
(b)上記(a)に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり、且つインフルエンザウイルス・ヘマグルチニンに結合性を有するペプチド。
(2).配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド。
(3).インフルエンザウイルスがA型ウイルスである、(1)または(2)記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド。
(4).インフルエンザウイルスがH1亜型である、(1)または(2)記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド。
(5).インフルエンザウイルスがH3亜型である、(1)または(2)に記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド。
【0014】
これらのペプチドはアルキル化又は脂質(リン脂質)化することによってリポペプチドとして調製することもできる。従って本発明のペプチドにはリポペプチドが包含される。また本発明は、当該リポペプチドを含有するリポソームである。
【0015】
さらに本発明は、上記(1)〜(5)に記載されるインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドまたはこれらのリポペプチドの少なくとも1種を有効成分として含有するインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合阻害剤である。尚、当該ペプチドはリポソームの形態であることもできる。
【0016】
また本発明は、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドの少なくとも1種を有効成分とし、さらに薬学的に許容される担体を含有する抗インフルエンザ剤である。具体的には当該抗ンフルエンザ剤は下記(A)〜(G)に掲げる、インフルエンザ予防若しくは治療剤として有用な薬学的組成物である。
(A)有効成分として上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドの少なくとも1種、及び薬学的に許容される担体を含有する薬学的組成物。
(B)有効成分であるインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドをリポペプチドの形態で含有する上記(A)記載の薬学的組成物。
(C)有効成分であるインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドをリポソーム修飾体の形態で含有する上記(A)記載の薬学的組成物。
(D)対象とするインフルエンザウイルスがA型ウイルスである上記(A)記載の薬学的組成物。
(E)対象とするインフルエンザウイルスがA型ウイルスのH1亜型である上記(A)記載の薬学的組成物。
(F)対象とするインフルエンザウイルスがA型ウイルスのH3亜型である上記(A)記載の薬学的組成物。
(G)インフルエンザの予防又は治療剤として用いられる上記(A)記載の薬学的組成物。
【0017】
なお、以下、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のインフルエンザウイルスのヘマグルチニン結合性ペプチドの具体例としては、後述する実施例の方法により得られる配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列を有するものを例示することができる。
【0019】
以下、本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド(以下、HA結合性ペプチドともいう)の選別方法及び得られたペプチドの同定、並びに該ペプチドのヘマグルチニンへの結合性について説明する。
【0020】
本発明のHA結合性ペプチドの選別及び同定には、分子ライブラリーのスクリーニング手法を採用することができ、上記ライブラリーとしては、例えばファージディスプレイライブラリーを好ましく用いることができる。
【0021】
かかるライブラリーとしては、市販のものを用いることができる。該ライブラリー中のランダムペプチドディスプレイファージによれば、特定の標的分子又は目的の細胞に結合するペプチドを、該分子または細胞を用いてインビトロでスクリーニングでき、しかも該スクリーニングにより選別されたペプチドが発現できるので、標的とする分子又は細胞と特異的に結合するペプチドの選別及び同定に有用である。該ファージディスプレイライブラリーを用いるスクリーニングは、ファージディスプレイ法と呼ばれ、従来から種々の細胞表面レセプターと特異的に結合するリガンドや種々の抗体の選別及び同定に使用されている。なお、これらファージディスプレイライブラリーの作成方法及びインビトロスクリーニング法については、スコット及びスミスらの方法が参照される(Scott, J. M. and Smith, G. P., Science, 249, 386-390 (1990); Smith, G. P. and Scott, J. K., Methodsin Enzymology, 217, 228-257 (1993))。
【0022】
本発明のHA結合性ペプチドは、上記ファージディスプレイ法を用いてヘマグルチニンに結合するペプチドをインビトロでスクリーニングすることによって取得することができる。具体的には以下の方法によって行うことができる。
【0023】
すなわち、まず、公知のファージライブラリーにランダムなDNA配列を挿入して、ファージの外殻表面にランダムなアミノ酸配列を有するペプチドを発現し得るように構築したランダムペプチドディスプレイファージを用いて、これを予めマイクロプレート等の固相表面上に固定化したインフルエンザウイルスのヘマグルチニンと反応させて、該ヘマグルチニンと特異的に結合するファージを回収する(バイオパニング)。
【0024】
なお、マイクロプレートに固定化させるインフルエンザウイルスのヘマグルチニンとしては、少なくとも宿主細胞の受容体と結合する「受容体結合ポケット」を保存的に有するものであれば特に制限されず、例えばヘマグルチニンまたはインフルエンザウイルスそのものであってもよいし、またインフルエンザウイルスをエーテル等の各種有機溶媒で抽出処理したインフルエンザウイルス抽出物等であってもよい。また、インフルエンザウイルスの種類も特に制限されず、目的に応じてA型、B型またはC型、乃至はヒト分離型、ブタやウマ等の他の哺乳動物分離型または鳥類分離型等のいずれであることができる。好ましくはA型ウイルス、またはヒト分離型のウイルスである。
【0025】
前述するようにヘマグルチニンの「受容体結合ポケット」の三次構造はインフルエンザウイルスの亜型にかかわらずよく保存されているので、上記マイクロプレートに固定化させるインフルエンザウイルスのヘマグルチニンとしては、亜型の別を何ら問うものではないが、好適には最近約10年の間ヒトから分離されているA型の亜型であるH1亜型やH3亜型を例示することができる。
【0026】
ヘマグルチニンと特異的に結合するファージの回収は、宿主細胞の受容体と競合してヘマグルチニンと結合する能力を有するHA受容体物質、またはヘマグルチニンの宿主細胞の受容体への結合を阻害する能力を有するHA阻害剤を、固定化したヘマグルチニンに対して作用させることによって行うことができる。すなわち、マイクロプレート上に固定化されたヘマグルチニンに特異的に結合しているファージは、上記HA受容体物質またはHA阻害剤を競合反応させることにより脱離溶出し、それにより回収することができる。
【0027】
ここで、HA受容体物質としては、ヘマグルチニンに特異的に結合する能力を有するものであれば特に制限されない。ヘマグルチニンの受容体結合ポケットに特異的に結合しているファージを回収するには、HA受容体物質としてヘマグルチニンの受容体結合ポケットに特異的に結合する能力を有するものを用いることが好ましい。かかるHA受容体物質としては、制限はないが、ガングリオシドGM3(Neu5Ac(2→3)-Gal-Glc-Cer)、α(2→6)GM3、シアリルLewisX(Neu5Ac-Gal-GlcNAc-Fuc)等を例示することができる。
【0028】
また、HA阻害剤としては、ヘマグルチニンの宿主細胞受容体への結合を阻害する能力を有するものであれば特に制限されず、例えばシアル酸誘導体7-F-Neu5Ac2en、2,7-Dideoxy-7-fluoro-2,3-didehydro sialic acid、シアル酸デンドリマー、シアル酸含有ポリマー等を挙げることができる。
【0029】
かくして得られるファージを大腸菌に感染させて大量培養し、分離、精製して、ヘマグルチニンと特異的に結合するペプチド発現ファージ、好ましくはヘマグルチニンの受容体結合ポケットに特異的に結合するペプチド発現ファージを得る。かくして得られるファージは、再び上記と同様に、固定化ヘマグルチニンと反応させてインフルエンザウイルスのヘマグルチニンと特異的に結合するファージをスクリーニングするパニング(panning)操作に供される。
【0030】
かかるパニング操作を数回、好ましくは4〜6回程度繰り返すことによりヘマグルチニンと特異的に結合するペプチド、好ましくはヘマグルチニンの受容体結合ポケットに特異的に結合するペプチドを発現し得るファージが選別できる。
【0031】
次いで、選択されたファージからDNAを抽出しその配列を決定することにより、ファージが発現するペプチド、すなわちインフルエンザのヘマグルチニンと特異的に結合するペプチド(HA結合性ペプチド)、好ましくはヘマグルチニンの受容体結合ポケットに特異的に結合するペプチドを同定することができる。
【0032】
上記DNAの配列決定は、当業界で公知の方法により容易に行うことができ、例えばジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 74, 5463-5467 (1977)〕やマキサム−ギルバート法〔Method in Enzymology, 65, 499 (1980)〕等を挙げることができる。かかる塩基配列の決定は、市販のシークエンスキット等を用いても容易に行うことができる。
【0033】
上記ファージディスプレイ法において用いられるファージライブラリーは、通常この方法で用いられる公知のファージライブラリーのいずれであってもよく、例えばファージのコートタンパク質pIII遺伝子にランダムなDNAが挿入されて、ファージ外殻表面にランダムな15個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチドが発現し得るように構築されたランダムペプチドディスプレイファージ(繊維状ファージ)を好適に例示することができる(特願平11−000769号;2C103「ファオジディスプレイ法による糖脂質に結合するペプチドのセレクション」第3回 日本化学会バイオテクノロジー部会シンポジウム (1998))。
【0034】
このようにして同定されたHA結合性ペプチドのヘマグルチニンに対する親和性(結合性)は、前述するHA結合性ペプチドを発現し得るファージの選別方法(パニング)において、ランダムペプチドディスプレイファージに代えて測定対象のHA結合性ペプチドを用いて同様に行うことによって確認、評価することができる。
【0035】
本発明の一例として、固定化インフルエンザウイルス(ヘマグルチニン)として、A型のH1亜型であるA/PR/8/34(H1N1)及びH3亜型であるA/武漢/359/95(H3N2)のエーテル抽出物を、また溶出用物質としてHA受容体物質(GM3)を用いて、これらのヘマグルチニンの両方を認識し結合するペプチドを発現するファージを選択し、該発現ペプチドを同定する方法を後記実施例1に記載する。
【0036】
かかる本発明の態様によって同定されたペプチドは、配列番号1〜3に示されるいずれかのアミノ酸配列を有するものである。これらのHA結合性ペプチドは、ヘマグルチニンの亜型であるH1及びH3のすくなくともいずれか一方に対して結合性を有することにより特徴づけられる。特に配列番号2に示すアミノ酸配列を有するHA結合性ペプチドは、ヘマグルチニンのH1亜型とH3亜型の両方に高い結合性を有する。ヘマグルチニンのH1亜型及びH3亜型は、互いにアミノ酸配列が75%相違することが知られていることから、当該HA結合性ペプチドはヘマグルチニンのH1亜型とH3亜型の相同性の高い部位を認識して、該部分に結合するものと考えられる。
【0037】
本発明のペプチドには、上記配列番号1から3に示されるいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドの他に、これらのアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり、且つインフルエンザウイルスのヘマグルチニン、特にA型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに結合性を有するペプチド並びに蛋白質が包含される。
【0038】
また、ここで配列番号1から3に示されるペプチドに関して、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付加」の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチド若しくは蛋白質が、配列番号1から3で示されるアミノ酸配列のいずれかからなるペプチドと同様にインフルエンザウイルスのヘマグルチニン、特にヘマグルチニンの受容体結合ポケットに対して結合性を有するといった特徴を備えた同効物であれば特に制限されないが、好ましくはヘマグルチニンのH1亜型またはH3亜型のいずれか一方に対して結合性を有する特徴を備えた同効物を、より好ましくはH1亜型とH3亜型の双方に対して結合性を有する特徴を備えた同効物を挙げることができる。
【0039】
このようなアミノ酸配列の改変(変異)は、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、人為的に行うこともできる。本発明は、このような改変・変異の原因及び手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変ペプチドを包含するものである。
【0040】
本発明のHA結合性ペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、本発明で提供するアミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明のペプチドの合成は、そのいずれによることもできる。
【0041】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種のペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えば ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0042】
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明のペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。
【0043】
かくして得られる本発明のHA結合性ポリペプチドは、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
【0044】
また、上記本発明のHA結合性ペプチドは、適宜に化学修飾することができ、例えばアルキル化や脂質化(リン脂質化)等による化学修飾により、HA結合性ペプチドの細胞親和性や組織親和性を増大させ、或いは血中半減期の延長等による薬理効果の増強を意図することができる。
【0045】
HA結合性ペプチドのアルキル化は常法に従って実施することができる。例えば、脂肪酸とHA結合性ペプチドのN末端アミノ基とのアミド結合形成反応(前記のペプチド合成と同様にして実施)により容易に実施される。
【0046】
脂肪酸としては、直鎖や分枝鎖の別及び飽和や不飽和の別に特に制限されることなく、任意の脂肪酸を広く例示できる。一般的には、生体内に存在する脂肪酸が好適に採用でき、具体的にはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸など、炭素数が12〜20程度の脂肪酸が例示される。
【0047】
またアルキル化は、アルキルアミンとHA結合性ペプチドのC末端カルボキシル基とのアミド結合形成反応(前記ペプチド合成と同様にして実施)によっても収得できる。アルキルとしては、上記脂肪酸と同様に各種のアルキルアミンが例示でき、一般的には生体内に存在する脂肪鎖(炭素数が12〜20程度)を好適に採用することができる。
【0048】
HA結合性ペプチドの脂質化も常法に従って実施できる(New Current, 11(3), 15-20 (2000); Biochemica et Biophysica Acta., 1128, 44-49 (1992); FEBS Letters, 413, 177-180 (1997); J.Biol.Chem., 257, 286-288 (1982)等)。例えば、各種リン脂質の2位水酸基或いは3位のリン酸基を利用して、任意のスペーサーを介してHA結合性ペプチドの脂質修飾体を調製することができる。反応には各種の縮合法が採用でき、必要によりHA結合性ペプチドのN端或いはC端に任意の長さ(通常数個)のシステインを含むアミノ酸配列を付加して、縮合に利用される反応性SH基を導入することもできる。
【0049】
ここでリン脂質としても、特に制限はなく、上記した各種の脂肪酸からなる、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール等が良好に使用できる。
【0050】
なお、これらのアルキル化や脂質化された本発明のHA結合性ペプチド(リポペプチド)は、リポソーム調製の際の脂質成分としても作用し、また当該ペプチドがリポソーム上に提示されることにより、後述するリポソーム製剤に極めて好適に用いられる。
【0051】
本発明のHA結合性ペプチドは、インフルエンザ感染の第1ステップに関与するインフルエンザウイルスのヘマグルチニンを特異的に認識してそれに結合するアミノ酸配列を有するものであり、それ自身、in vivoにおいて、ヘマグルチニンを介して生じるインフルエンザウイルスと宿主細胞受容体との結合を競合的に妨げることのできるものとして、すなわちヘマグルチニン結合阻害剤として用いることができる。当該ヘマグルチニン結合阻害剤は、ヘマグルチニンを介して生じるインフルエンザウイルスの感染、並びにそれに伴う種々の細胞機能や生命現象を解明するのためのツールとして用いることができ、また宿主細胞受容体へのヘマグルチニンの結合を介して生じるインフルエンザウイルスの感染を予防したり、インフルエンザを治療するのに用いられる抗インフルエンザ剤、具体的にはインフルエンザの感染予防薬又は治療薬等の有効成分として有用であると期待される。
【0052】
なお、本発明が対象とするインフルエンザウイルスは、前述するようにその型や由来を特に制限するものでなく、A型、B型またはC型乃至はヒト分離型、ブタやウマ等の他の哺乳動物分離型または鳥類分離型等のいずれであることができる。好ましくはA型インフルエンザウイルスである。また好適にはヒト分離型若しくはヒト感染型のウイルスである。
【0053】
インフルエンザウイルス感染の予防又は治療薬として用いられる場合、本発明のHA結合性ペプチド(HA結合性を有するその改変若しくは修飾ペプチドを包含する。以下同じ。)は、そのままか、若しくは薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物として調製され、被験者に投与される。
【0054】
ここで用いられる薬学的に許容される担体は、調製される薬学的組成物の形態に応じて、当該分野において慣用されている担体の中から適宜選択して用いることができる。
【0055】
例えば、薬学的組成物が水溶液形態として調製される場合、上記の担体としては、精製水(滅菌水)または生理学的緩衝液を利用することができる。また、該組成物が適当な溶液形態に調製される場合、上記担体としては例えば、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような注射投与可能な有機エステルなどを使用することができる。また、これらの組成物には、当該分野、特にペプチド製剤ないしは蛋白製剤の分野で慣用的に用いられる安定剤、賦形剤などを含むことができる。
【0056】
また本発明のHA結合性ペプチドはリポソーム製剤として調製することができる。リポソーム製剤は、酸性リン脂質を膜構成成分とするか或いは中性リン脂質と酸性リン脂質とを膜構成成分とするリポソームに、本発明のHA結合性ペプチドを保持させることによって調製できる。
【0057】
ここで、膜構成成分としての酸性リン脂質としては、通常の酸性リン脂質より狭義に定義され、より具体的にはジラウロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、卵黄ホスファチジルグリセロール(卵黄PG)、水添卵黄ホスファチジルグリセロール等の天然または合成ホスファチジルグリセロール類(PG)およびジラウロイルホスファチジルイノシトール(DLPI);ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジオレオイルホスファチジルイノシトール(DOPI)、大豆ホスファチジルイノシトール(大豆PI)、水添大豆ホスファチジルイノシトール等の天然または合成ホスファチジルイノシトール類(PI)を示す。これらは一種単独でまたは二種以上混合して使用できる。
【0058】
また、中性リン脂質としては、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、水添大豆ホスファチジルコリン、水添卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン(MPPC)、パルミトイルステアリイルホスファチジルコリン(PSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)等の天然または合成ホスファチジルコリン類(PC)、大豆ホスファチジルエタノールアミン、卵黄ホスファチジルエタノールアミン、水添大豆ホスファチジルエタノールアミン、水添卵黄ホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(MPPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PSPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等の天然または合成ホスファチジルエタノールアミン類(PE)等を例示できる。これらは一種単独でまたは二種以上混合して使用することができる。
【0059】
上記リポソーム膜は、上記酸性リン脂質を単独で構成成分として用いるかまたは上記中性リン脂質と酸性リン脂質とを併用して常法に従い形成される。ここで酸性リン脂質の併用割合は、リポソーム膜構成成分中に約0.1〜100モル%程度、好ましくは約1〜90モル%、より好ましくは約10〜50モル%程度とするのがよい。
【0060】
上記リポソームの調製に当たっては、更に例えばコレステロールなどを添加することができる。このコレステロールの添加によればリン脂質の流動性を調整して、リポソームの調製をより簡便なものとすることができる。該コレステロールは通常リン脂質に対して等量まで、好ましくは0.5〜1倍等量の量で添加配合されるのが好ましい。
【0061】
リポソーム分散液中の有効成分と酸性リン脂質との配合割合は、有効成分に対して酸性リン脂質が約0.5〜100当量程度、好ましくは約1〜60当量程度、より好ましくは約1.5〜20当量程度とされるのがよい。
【0062】
また、リポソームに含まれる本発明のHA結合性ペプチドの割合は、全脂質中、数モル%から数十モル%程度、好ましくは5〜10モル%程度であることができるが、通常は5モル%程度でもあってもよい。
【0063】
本発明のHA結合性ペプチドを薬物とするリポソームの製造には種々の公知の方法を用いることができ、また、リポペプチドである本発明ペプチドは、当該方法における脂質成分として利用することによっても所望のリポソームとすることができる。
【0064】
例えば多重層リポソーム(MLV)は次のようにして調製される。まず、脂質を有機溶媒(クロロホルム、エーテル等)に溶解した後、丸底フラスコに入れ、窒素気流下または減圧下で有機溶媒を除去し、フラスコ底部に脂質の薄膜をつくる。この場合、さらに減圧下でデシケーター中に放置することによって有機溶媒を完全に除去することもできる。次いで、薬物溶液を脂質薄膜上に加えて脂質を水和させることによって乳濁色のリポソーム懸濁液が得られる。
【0065】
また大きな一枚膜リポソーム(LUV)は、ホスファチジルセリンの小さな一枚膜リポソームにCa2+を添加し、融合させてシリンダー状のシートとした後、キレート剤であるEDTAを添加しCa2+を除去する方法(Biochim. Biophys. Acta 394, 483-491, 1975)やエーテルに溶解した脂質を約60℃の水溶液中に注入し、エーテルを蒸発させる方法(Biochim. Biophys. Acta 443, 629-634, 1976)により作ることができる。
【0066】
また、Szokaらの考案した逆相法によるリポソームの調製法(Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A. 75, 4194-4198, 1978)を用いることもできる。この方法によると、リン脂質のエーテル溶液に薬物溶液を加え、超音波処理するとW/O型エマルションが作成される。このW/O型エマルションを減圧下、エバポレーターによりエーテルを除去し、次いで緩衝液を加えボルテックスミキサーで撹拌すると、W/O型エマルションからO/W型エマルションに転相し、更に残留する有機溶媒を除くことによってリポソームが作成できる。
【0067】
これらの調製法のほかに、フレンチプレス法により粒子径の小さなリポソームを調製することもできる(FEBS lett. 99, 210-214, 1979)。また大沢らによって報告されているリポソームへの保持効率の高い凍結乾燥法(Chem. Pharm. Bull. 32, 2442-2445, 1984)と凍結融解法(Chem. Pharm. Bull. 33, 2916-2923, 1985)を使用することもできる。
【0068】
このように調製されたリポソームは、透析法(J. Pharm. Sci. 71, 806-812, 1982)やポリカーボネート膜を用いたろ過法(Biochim. Biophys. Acta 557, 9-23, 1979;Biochim. Biophys. Acta 601, 559-571, 1980)により、粒子径を一定にすることができる。また調製されたリポソーム溶液から、リポソーム内に保持されなかった薬物を除くためには、透析法、ゲルろ過法、遠心分離法を利用することができる(リポソーム."脂質の化学"[日本生化学会編、生化学実験講座3]、東京化学同人、1974)。更にまた透析膜を用いてリポソームを濃縮することも可能である。
【0069】
このようにして調製されるリポソーム分散液には、製剤設計上必要な添加剤として、防腐剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、吸収促進剤等の各種の公知物質を適宜配合することができ、また必要に応じてこれらの添加物を含む液または水で希釈することもできる。上記添加剤の具体例としては、防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン等)、チメロサール等の真菌および細菌に有効な防腐剤を、等張化剤としてはD−マンニトール、D−ソルビトール、D‐キシリトール、グリセリン、ブドウ糖、マルトース、庶糖、プロピレングリコール等の多価アルコール類や塩化ナトリウム等の電解質類を、また安定化剤としてはトコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、システイン等をそれぞれ例示できる。
【0070】
また、本発明のHA結合性ペプチドからなる上記リポソームの内部には、例えば抗ウイルス剤等の他の薬剤を更に封入させることができ、同様にリポソーム製剤とすることができる。
【0071】
リポソーム製剤の製造は、具体的には例えばウッドレら(Long Circulating Liposomes: old drugs, New therapeutics., M.C. Woodle, G.Storm,Eds: Springer-Verlag Berlin (1998))またはナンバら(Liposomal applications to cancer therapy, Y.Namba, N.Oku, J.Bioact.Compat.Polymers, 8, 158-177 (1993))の文献に記載される方法に従って調製することができる。また本発明に関するリポソーム製剤の具体例は、下記実施例4及び5に示されている。
【0072】
上記リポソーム製剤を含む本発明の薬学的組成物中のHA結合性ペプチドの量としては、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常組成物中0.0002〜0.2(w/v%)程度、好ましくは0.001〜0.1(w/v%)程度とするのがよい。
【0073】
本発明のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合阻害剤並びに抗インフルエンザウイルス剤(薬学的組成物)は、有効成分としてのHA結合性ペプチドとまた必要に応じて薬学的に許容される担体とを含有する製剤組成物として、インフルエンザウイルスに感染若しくは感染前の被験者に投与して用いられる。
【0074】
上記阻害剤並びに抗インフルエンザウイルス剤(薬学的組成物)の投与方法は特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、疾病の重篤度等に応じて適宜決定される。製剤形態としては注射剤、点滴剤、点鼻剤及び吸入剤等の非経口投与形態を好適に挙げることができ、特に注射剤や点滴剤として調製される場合は、必要に応じてブドウ糖やアミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与されるか、また筋肉内投与、皮内投与、皮下投与もしくは腹腔内投与される。
【0075】
本発明のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合阻害剤乃至は抗インフルエンザウイルス剤(薬学的組成物)の1日当りの投与量は、被験者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概に決定できないが、HA結合性ペプチドの量に換算して通常成人1日当り約0.001〜100mg程度の範囲から選ぶことができる。当該製剤は1日1回投与に限らず、数回に分けて投与することができる。
【0076】
【実施例】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、参考例及び実施例を挙げるが本発明はこれに限定されるものではない。
参考例1 ファージディスプレイライブラリーの調製
西、佐谷らの報告(Nishi T., Saya H., et al., FEBS Lett, 399, 237-240 (1996))に従ってファージディスプレイライブラリーを作成した(2.5×108クローン)。該ファージディスプレイライブラリーは、具体的にはNNK(Nはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)のいずれかの核酸塩基を示し、Kはグアニン(G)又はチミン(T)を示す。)が15回繰り返された配列を含むDNAが遺伝子工学的に挿入された繊維状ファージfdであって、更に外殻タンパク質pIII遺伝子のN末端部分に15残基のランダムなアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAが挿入されてファージ外殻表面にランダムな15残基のアミノ酸配列を有するペプチドが発現できるように構築されている。上記のファージディスプレイライブラリーは、スコットら(Scott,J.K. and Smith, G.P., Science, 249, 386-390 (1990))により報告されている特徴を有している。
【0077】
参考例2 インフルエンザウイルス・ヘマグルチニンの固定化
インフルエンザウイルス・ヘマグルチニンをバイオパニングのターゲットとして用いるために、次のようにして固定化した。
【0078】
なお、固定化するヘマグルチニン(HA)として、A型のH1亜型であるA/PR/8/34(H1N1)(以下、単にHA1若しくはH1N1とも称する。)のエーテル抽出物、及びA型のH3亜型であるA/武漢/359/95(H3N2)(以下、単にHA3若しくはH3N2とも称する。)のエーテル抽出物を用いた。
【0079】
まず、96穴カルボプレート(SUMILON社製)の各ウエルに、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)およびN−ヒドロキシスクシイミドの等量混合液60μlを添加して、プレートに結合したカルボキシル基を活性化させた。10分後に該プレートのウエルを50mM TBS緩衝液(pH7.6)で6回洗浄し、H1N1の溶液(70μl/ml)またはH3N2溶液(70μl/ml)を100μl 添加した。2時間放置した後、50mM TBS緩衝液(pH7.6)で6回洗浄し、1mMエタノールアミン水溶液を100μl添加した。10分放置した後、再度50mM TBS緩衝液(pH7.6)で6回洗浄し、プレートにインフルエンザHAを固定化した(図1参照)。
【0080】
実施例1 H1亜型とH3亜型を認識するインフルエンザHA結合ペプチドの選別及びその同定
(1)HA結合性ペプチドディスプレイファージの選別
インフルエンザウイルス・ヘマグルチニンHA1(H1N1、A/PR/8/34)及びHA3(H3N2、A/武漢/359/95)の2種類をターゲットとして、バイオパニングを行った。具体的には、HA固定化プレートとして参考例2に従って調製したHA1固定化プレート及びHA3固定化プレートを用いて、また溶出用物質としてHA受容体物質であるGM3を用いて、バイオパニングを行い、HA結合性ペプチドを発現するファージを選択した(図2参照)。
【0081】
(i) バイオパニング−第1回目−
HA1固定化プレート及びHA3固定化プレートに参考例1で調製したファージディスプレイライブラリー溶液(6.2×1010TU、TBS緩衝液中)を100μl インジェクトし、室温で4時間放置した。その後、200μlの溶出用緩衝液(50mM Tris-HCl、150mM NaCl)を用いて、よくピペッティングしながら5回洗浄し、結合していない非特異ファージを除去した。次いで、各ウエルに10mMのGM3溶液を100μl添加し、室温で1時間放置した。
【0082】
なおGM3はヘマグルチニン受容体結合ポケットに対して特異的結合性を有するHA受容体物質であることが確認されている。このため、ファージを結合させたプレートのウエルにかかるHA受容体物質を添加することにより、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン受容体結合ポケットに特異的に結合しているファージを溶出することができる。
【0083】
かくして、HA結合性ファージを溶出し、該ファージを含む溶液を回収した。
得られたファージ溶液に調製済み大腸菌K91-Kan溶液100μlを加え、15分間室温で感染させた。15分後、あらかじめ37℃で保温しておいた、0.2μg/ml テトラサイクリン(シグマ社製)(以下、TCという)を含むNZY培地20mlにこの感染溶液を加えて、37℃で40分間振盪培養した。
【0084】
40分後、TCのストック溶液(20mg/ml)20μlを加え(終濃度20μg/ml)、37℃で一晩振盪培養した。得られた培養液を3,000rpmで10分間遠心して大腸菌を除去した。上清を再度12,000rpmで10分間遠心して更に大腸菌を除去した。上清にPEG/NaCl溶液3ml(0.15 v/v)を加え、100回穏やかに攪拌した後、4℃で4時間以上静置した。12,000rpmで10分間遠心して上清を除去し、沈殿したファージペレットに1ml TBSを加えて完全に溶解した。得られたファージ溶液を1.5ml容 エッペンドルフチューブ(Epチューブ)に移し、15,000rpmで10分間遠心して不溶物を除去した。この中に再びPEG/NaCl溶液を150μl加え、数回穏やかに攪拌した後、4℃で1時間以上静置した。15,000rpmで10分間遠心してペレットを回収し、0.02% NaN3/TBS(200μl)に溶解した。15,000rpmで10分間遠心して不溶物を除去し、上清のファージ溶液(200μl)を0.6ml容Epチューブに移した。こうして得られたファージ溶液の半分を2回以降のパニングに、また2μlをtiteringに使用し、残りを保存した。
【0085】
(ii) バイオパニング−第2回目−
上記で増幅したファージディスプレイライブラリー溶液100μlを再度HA1固定化プレート及びHA3固定化プレートにインジェクトし、室温で4時間放置した。その後200μlの溶出用緩衝液(50mM Tris-HCl、150mM NaCl)を用いて、よくピペッティングしながら10回洗浄し、結合していない非特異ファージを除去した。次いで、各ウエルに10mM GM3溶液を100μl添加し、室温で1時間放置し、インフルエンザHAの結合ポケットに特異的に結合しているファージを溶出し、その溶液を回収した。
【0086】
(iii) バイオパニング−第3回目−
上記で増幅したファージディスプレイライブラリー溶液100μlを再度H1固定化プレート及びH3固定化プレートにインジェクトし、室温で1時間放置した。
その後200μlの溶出用緩衝液(50mM Tris-HCl、300mM NaCl)を用いて、よくピペッティングしながら10回洗浄し、結合していない非特異ファージを除去した。次いで、各ウエルに10mM GM3溶液を100μl添加し、室温で1時間放置し、インフルエンザHAの結合ポケットに特異的に結合しているファージを溶出し、その溶液を回収した。
【0087】
(iv)バイオパニング−第4〜5回−
(iii)に記載の操作を繰り返して、第4回目及び第5回目のバイオパニングを行った。上記のパニング操作(第1〜5回)によるファージの回収率(回収ファージ量(TU)/使用ファージ量(TU)×100)を図3に示す。なお、図3中−○−はターゲットHA(プレート結合HA)としてH1N1を用いたときの結果を、−□−はH3N2を用いたときの結果である。この結果からわかるように、いずれも場合も同一条件でパニングを繰り返した4回目から5回目にかけてファージの著しい増加がみられた。これにより、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(H1N1、H3N2)に特異的に結合するペプチドを発現しているファージが回収されていることが確認された。
【0088】
(2)HA結合性ペプチドのアミノ酸配列の決定
上記各パニングにおいて第5回目のパニング操作で得られたファージを用いて、発現しているペプチドのアミノ酸配列を決定した。具体的には、固定化ヘマグルチニンH1N1に結合しGM3で溶出されたファージ(以下、ファージH1Gという:19クローン)、及び固定化ヘマグルチニンH3N2に結合しGM3で溶出されたファージ(以下、ファージH3Gという:14クローン)について、発現ペプチドのアミノ酸配列をシークエンスによって決定した。
【0089】
まず、5回目のパニングの後のタイター測定で得られたプレート上のコロニーを無作為に拾い上げ、新しいNZYプレートに、植菌し直し、一晩37℃にて培養し、これをマスタープレートとして4℃で保存した。マスタープレートのコロニーを各々20mlのNZY培地(20μg/ml TC含有)の入った50ml遠心チューブに懸濁し、37℃で一晩200rpmで振盪培養した。ついで3,000rpm、10分間遠心分離を行った後、上清をオーク・リッジ遠心チューブに移し、12,000rpmで10分間遠心分離し、大腸菌を除菌した。更に上清をオーク・リッジ遠心チューブに移し、3mlのポリエチレングリコール(PEG6000:ナカライテスク社製)/NaClを加え、よく撹拌した後、4℃に4時間静置した。12,000rpmで10分間遠心分離し、ファージを沈殿させた。ついで上清を除去し、沈殿したファージを1mlのTBS(トリス緩衝塩溶液)に懸濁させた。1.5mlのEqチューブに移し、15,000rpmで10分間遠心分離し、不溶性物質を除去後、上清を別のEqチューブに移し、150μlのポリエチレングリコール/NaClを加え、よく撹拌した後、4℃で1時間静置した。次いで15,000rpmで10分間遠心分離し、ファージを再沈殿させた。ついで上清を除去し、沈殿したファージを200μlのTBSで再度懸濁した。15,000rpmで10分間遠心分離し、不溶性物質を沈殿させた後、該沈澱物を0.5mlのEqチューブに移し、ファージクローンを4℃で保存した。
【0090】
上記で得られたファージクローンからのDNAの抽出は、1.5mlのEqチューブにファージクローン100μlに対してTBS 100μl及びTE飽和フェノール(ニッポジーン社製)200μlを加えて、10分間激しく撹拌後、15,000rpmで10分間遠心分離した。次いで、上清(水相)200μlに対してTE飽和フェノール200μl及びクロロホルム200μlを加えて、前記と同様10分間激しく撹拌後、15,000rpmで10分間遠心分離した。更に、上清(水相)150μlに対してTE250μl、3M酢酸ナトリウム40μl、20mg/ml グリコーゲン(ベーリンガー・マインハイム社製)1μl及びエタノール1mlを加えて、1.5mlのEqチューブにて−20℃で、一時間放置した後、15,000rpmで10分間遠心分離した。上清を取り除き、1mlの80%エタノール(−20℃)を緩やかに加えて、15,000rpmで10分間遠心分離し残存する塩を除いた。上清を除去後、チューブ内の水分を蒸発させ、沈殿しているDNAを10μlの滅菌蒸留水に溶解し、4℃にて保存した。かくして得られた個々のファージDNAをペプチドの配列決定のために使用した。
【0091】
ファージDNAによりコードされるペプチドの配列決定は、ジデオキシ法(Proc.Natl.Acad.Sci., USA., 74, 5463-5467(1977))により、アマシャム社のTHERMO配列キット(Amersham Life Sciene, Code; US79765, Lot番号; 201503)を用いて機器の使用説明書に従い実施した。DNAの伸長反応は、96℃、30秒、45℃、15秒、60℃、4分を1サイクルとしてこれを30サイクル行い、DNAの配列決定は、ABI社製のDNAシーケンサー(ABI PRISMTM377)を用いて行った。
【0092】
このようにして2種類のファージ(ファージH1G、及びファージH3G)の各クローンから決定された、ヘマグルチニンの受容体結合ポケットに結合性を有するペプチドのアミノ酸配列を1文字表記として表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表からわかるように、ファージH3Gから決定されたHA結合性ペプチド(H3G, No.1)は、ファージH1Gから決定されたHA結合性ペプチドの1つ(H1G, No.4)と同一であった。
【0095】
実施例2 HA結合性ペプチドのインフルエンザ・ヘマグルチニンへの結合性
実施例1で得られたファージクローン(「ファージH1G−1」、「ファージH1G−2」、「ファージH1G−3」、「ファージH1G−4(「ファージH3G−1」))について、ヘマグルチニン(H1亜型、H3亜型)に対する結合性をELISAを用いて評価した。なお、コントロール試験としてランダム配列のペプチドを発現するファージ(コントロールファージ)を用いて同様にヘマグルチニン(H1亜型、H3亜型)に対する結合性を調べた。
【0096】
具体的には、ヘマグルチニンHA1(H1N1)及びHA3(H3N2)をそれぞれ96穴カルボプレート(SUMILON社製)に固定し、これらに各ファージクローン溶液5×1010virions/m1を添加することによって、ELISAを行った。
【0097】
結果を表2及び図4〔図中、A)はHA1(H1N1)に対する結果、B)はHA3(H3N2)に対する結果〕に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2及び図4からわかるように、実施例1で得られたクローン「ファージH1G−1」及び「ファージH1G−3」はヘマグルチニンH1亜型及びH3亜型の両方に共通して結合するという結果が得られた。また、ファージH1G−4(「ファージH3G−1」)はヘマグルチニンH3亜型に対して特異的な結合性を示した。
【0100】
ヘマグルチニンH1亜型とH3亜型はアミノ酸配列において75%相違することが知られている。このことから、特に「ファージH1G−1」と「ファージH1G−3」の発現ペプチドは、ヘマグルチニンH1亜型とH3亜型の両者間で相同性の高い部位を認識して、そこに特異的に結合するペプチドであると考えられる。
【0101】
実施例3 ファージ上に発現しているペプチドの合成
実施例1でそれぞれ得られた発現ペプチドを下記のようにして合成した。なお、ペプチドの合成は、全自動ペプチド合成機(ACT357、アドバンストケムテック社製)を使用し、同社のプログラムに従い、Fmoc/NMP,HOBt法〔Fmoc:9‐フルオレニルメトキシカルボニル、NMP:N−メチルピロリドン、HOBt:1−ヒドロキシペンゾトリアゾール〕による固相合成により実施した。
【0102】
具体的には、合成を所望するペプチドのアミノ酸配列に従って、C末端アミノ酸に相当するFmoc‐アミノ酸−Alko樹脂0.25mmolに、C末端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc‐アミノ酸を順次、合成プログラムに従い伸長反応させた。尚、C末端アミドのペプチドは、Fmoc‐NH-FAL樹脂0.25mmolにC末端アミノ酸に相当するFmoc‐アミノ酸を含成プログラムに従い縮合反応させ、その後、C末端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc‐アミノ酸を順次縮合反応させて鎖伸長を行つた。
【0103】
各反応終了後、プログラムに従って、N末端Fmoc基の脱保護反応を行った。かくして得られた各ペプチド樹脂をポリプロピレン製のミニカラム(アシスト社製)に回収し、メタノール洗浄後、真空で乾燥し、以下の操作に付してペプチドを樹脂から切り出し、側鎖の脱保護反応を行った。即ち、各樹脂にリージェントK(Reagent K,82.5% TFA,5%フェノール,5% H20,5%チオアニソール(Thioanisole),2.5%エタンジチオール)2m1を加え、ミニカラム中で60分間反応させた。次いで、反応液を冷ジエチルエーテル8ml中に滴下して反応を停止させ、同時にペプチドを沈殿させた。更に、ミニカラムをTFA2mlにて洗浄し、冷ジエチルエーテル5m1を追加し、遠心し、沈殿をジエチルエーテル10mlで4回洗浄後、約5mlの50%アセトニトリルでペプチドを可溶化し、凍結乾燥した。更に可溶化と凍結乾燥操作を2回繰り返して、所望の粗凍結乾燥品を得た。
【0104】
これをオクタデシルカラム(直径20×250mm,WC社製)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分画し、所望のペプチドを単離した。尚、上記において用いた樹脂およびアミノ酸誘導体は、いずれも渡辺化学工業社製のものである。かくして単離された各ペプチドはアミノ酸配列分析およびマススペクトロメトリーによって分子量を測定し、同定した。
【0105】
実施例4 リポペプチド及びこれを用いたペプチド修飾リポソーム
ペプチドのN末端にステアリン酸を結合することによって、本発明のHA結合性ペプチドをリポソーム上に導入することができる。一例として、実施例1で得られたクローン「ファージH1G−2」の発現ペプチド(H1G, No.2)について説明する。
【0106】
まず、上記実施例3に従って、クローン「ファージH1G−2」の発現ペプチド配列(配列番号1)を順次伸長反応させた。次いでこのペプチドのN末端に、同合成プログラムに従って、ステアリン酸を伸長させた後、樹脂から切り出し、脱保護反応を行い、所望のステアリン酸化ペプチド(「C18 リポペプチド」)を得た。
【0107】
このリポペプチド、卵黄レシチン(Mw:773、日本油脂NC-10S)及びコレステロール(Mw:386.66、Nakarai Chemicals, lot M8A9926)を、0.75:2:1(20%リポペプチド)、0.3:2:1(10%リポペプチド)又は0.16:2:1(5%リポペプチド)のモル比にて、30ml ナス型フラスコ中に、クロロホルム/メタノール(3/1)溶液2mlに溶解した。溶媒をロータリーエバポレーターで減圧条件下に除去して一晩真空乾燥した。これにダルベッコ(Dulbecco)のリン酸緩衝塩溶液(Ca,Mg不含)(pH7.4)を5ml加え、バス型ソニケーターで30分処理してリポソーム(small unilamellar liposome)を得た。ベシクルを形成していない脂質は、遠心型限外濾過(1,500×g、15分:分画分子量30,000、Amicon
centriprep-50)にて除去した。
【0108】
かくして得られたリポソームについて、内部に存在するペプチド含量を市販キット(Bio-Rad Protein Assay Kit)により測定し、上記で調製したリポペプチドがリポソームに組み込まれていることを確認した。
【0109】
実施例5 ペプチド修飾リポソーム
DDPE(dipalmitoyl L-α-phosphatidylethanol amine:シグマ社)6.7mg、NHS−PEG−Mal(poly(ethylene glycol-α-N-β-maleimide hydroxysuccinimidyl propionate:日油リポソーム社)45mg、トリエチルアミン980μlをクロロホルム10mlに溶解し、室温で撹拌した、反応をTLCで追跡し、ニンヒドリン反応が陰性であることを確認した後、溶媒を留去した。得られた白色粘稠体に蒸留水2mlを加え、バス型超音波で処理し、ミセルを形成した。この溶液を2倍体積のセロファンチューブ(分画分子量12,000、サイズ:20/30、三光純薬製)に入れ、透析膜の外の蒸留水1Lを適宜交換して、3日間透析を行い、ミセルを形成していない副反応物を除去した。さらにゲルろ過(Sephadex G50 Fine, Amersham Pharmacia Biotech AB)により、ボイド近傍のフラクションを回収し、凍結乾燥して、TLC上で単一バンドを示す白色粉末として目的のDPPE−PEG−Malを得た。
【0110】
実施例4と同様にして調製したリポソーム(卵黄レシチン/コレステロール=2/1)とこのDPPE−PEG−Malを混合し、5,10,20及び100%DPPE−PEG−Mal含有リポソームを調製した。このリポソーム溶液に1N NaOH水溶液を加えてpHを約8とし、クローン「ファージH1G−2」の発現ペプチド(H1G, No.2:配列番号1)のC端にH-Gly-Cys-OHを付加したペプチドを所定濃度となるように混合して、室温で6時間穏やかに撹拌し、実施例3と同様に遠心型限外濾過してリポソーム溶液とした。得られたリポソーム上に導入されたペプチド含量は実施例4と同様にして測定した。
【0111】
以上のようにして、DPPE−PEG−Malのマレイミドを介してHA結合性ペプチドがシステインのSH基で結合してなるペプチド修飾体をリポソーム上に導入し、ペプチド修飾リポソームとした。
【0112】
実施例6 インフルエンザウイルス感染阻害活性の評価
本発明のHA結合性ペプチドについて、インフルエンザウイルス感染阻害活性を評価した。
【0113】
インフルエンザウイルス感染細胞として、MDCK細胞(Mardin-Darby canine kidney)を用いた。当該細胞へのインフルエンザウイルス感染の評価は、市販キット(LDH-Cytotoxic Test, Wako)を用いてLDH(1actate dehydrogenase)活性を検出することにより行った(J.Virol.Meth., 51, 185-192 (1995))。またインフルエンザウイルスとして、A型の亜型HA1(A/PR/8/34(H1N1))及びHA3(A/Victoria/1/75(H3N2))を用いた。
【0114】
具体的には、インフルエンザウイルスの感染力価は次のようにして測定した。
【0115】
即ち、MEM/10%FBSの培地で培養した3×105cell/mlのMDCK細胞を96穴マイクロタイタープレートに100mlずつ蒔き、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩インキュベートした。全てのウエルの細胞が単層飽和になっていることを確認した後、血清を含まないMEM(MEM(−))で2回洗浄し、これに系列希釈したウイルス溶液(MEM(−))を100μlずつインジェクトした。これを5%CO2雰囲気下37℃で2時間インキュベートした後、ウイルス溶液を除き、培地で2回洗浄後、同培地で20時間インキュベートした。ウエル内の上清15μlをとり、これをPBSで4倍希釈して50μlとし、これを新しいプレートに移し、各ウエルに発色液(nitrobluetetrazolium, diaphorase and NDA+ in litiumlactate PBS)を50ml添加した。室温で20分放置した後、反応停止液(0.5M HCl in PBS)を100ml添加し、発色反応を停止させ、マイクロプレートリーダーを用いて550nmの吸光度を測定した。得られた結果からID50値を求めた。
【0116】
HA結合性ペプチドによるインフルエンザウイルス感染阻害実験は、上記で得られたID50値の50倍濃度(50 LDH ID50)のウイルス量を用いて試験した。HA結合性ペプチドとして実施例4に記載の方法で調製した「C18リポペプチド」(「H1G,No.1」、「H1G,No.3」及び「H1G,No.4 (H3G,No.1)」のC18リポペプチド)をそれぞれ10%含むリポソームを用いて行ったインフルエンザウイルスの感染阻害試験の結果を図5に示す。図5の図AはA型インフルエンザウイルスHA1(A/PR/8/34(H1N1))に対する感染阻害を、図BはA型インフルエンザウイルスHA3(A/Victoria/1/75(H3N2))に対する感染阻害をみた結果である。
【0117】
図5からわかるように、本発明のペプチド「C18リポペプチド」は、効果的にインフルエンザウイルスの細胞への感染を阻害し、とくに「H1G,No.1」及び「H1G,No.3」は、インフルエンザヘマグルチニンの亜型(HA1、HA3)の双方に結合してその該ウイルスによる感染を阻害することがわかった。これらのことから本発明のHA結合性ペプチドがインフルエンザ感染の予防若しくは治療剤として有用であることが示唆された。
【0118】
【発明の効果】
本発明によれば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに特異的結合性を有するペプチドが提供される。
【0119】
本発明のペプチドは、インフルエンザウイルス感染の第1ステップに関与するヘマグルチニンに特異的に結合することにより、宿主受容体へのウイルスの結合を妨げることができ、これによりインフルエンザウイルス感染予防剤として、またインフルエンザ治療剤としての応用が可能である。特に、本発明の好適なペプチドは、亜型間で三次構造がよく保存されているヘマグルチニンの受容体結合ポケットに特異的に結合する性質を有している。また比較的短いペプチドゆえに安定であり、その側鎖の多様性から、ヘマグルチニンの結合部位と相互作用する。
このことから、本発明のペプチドは亜型の種類に関わらず、多種の亜型間にまたがってインフルエンザウイルス全般、特にA型全般に有効な広域感染予防剤及び治療剤としての応用が期待される。
【0120】
さらに従来抗インフルエンザ剤として開発検討されている糖鎖アナログに比べ、本発明はペプチドであるがゆえに、大量合成並びに修飾が容易であり、薬剤の生産ならびにさらなる薬剤の開発という面においても有用である。
【0121】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】マイクロプレートへのインフルエンザウイルス・ヘマグルチニンの固定化工程を示す概略図を示す図である。
【図2】バイオパニング操作を用いて所望のペプチドを発現するファージを選択する方を示す概略図を示す図である。
【図3】ヘマグルチニンHA(H1N1、H3N2)に対してバイオパニングを1〜5回行って回収されたファージの収率%を示す図である(実施例1)。−○−はターゲットHAとしてH1N1を使用したときの結果を、−□−はターゲットHAとしてH3N2を使用したときの結果を示す。
【図4】実施例1で得られたファージクローン(「ファージH1G-1」(-○-)、「ファージH1G-2」(-△-)、「ファージH1G-3」(-□-)、「ファージH3G-1」(「ファージH1G-4」)(-×-))及びコントロールファージ(control)(-●-)について、インフルエンザウイルス・ヘマグルチニンHA1(H1N1)(図A)及びHA3(H3N2)(図B)に対する結合性を調べた結果を示す図である(実施例2)。
【図5】実施例5において、実施例4で調製したリポペプチド(C18 -リポペプチド)修飾リポソームを用いて、細胞に対するインフルエンザウイルス感染阻害活性を調べた結果を示す図である。A)はインフルエンザウイルスとしてH1亜型(A/PR/8/34(H1N1))を使用したときの結果を、B)はH3亜型(A/Victoria/1/75(H3N2))を使用した結果である。
Claims (5)
- 下記(a)または(b)のいずれかである、インフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド:
(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド、
(b)上記(a)に示されるアミノ酸配列において1のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり、且つインフルエンザウイルス・ヘマグルチニンに結合性を有するペプチド。 - アルキル化又は脂質化されてなる請求項1に記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチド。
- 請求項2記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドを含有するリポソーム。
- 請求項1または2に記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドを有効成分として含有するインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合阻害剤。
- 請求項1または2に記載のインフルエンザウイルス・ヘマグルチニン結合性ペプチドを有効成分として、薬学的に許容される担体とともに含有する抗インフルエンザ剤。
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