従来、試料上の特定箇所の光学観察、形状計測等を行うレーザ光学顕微鏡を含む光学顕微鏡と、元素分析や定量分析を行うX線分析装置とはそれぞれ単独の装置として知られている。
光学顕微鏡のうちで、特に走査型共焦点レーザ光学顕微鏡(CLSM:Confocal Laser Scanning Microscope)では、短波長レーザの利用により0.1ミクロンに迫る解像度を持ち、微細対象の観察が可能であり、異物検査や形態観察に利用される。また、水平方向の長さや距離、縦方向の距離や粗さパラメータ等の形状計測にも利用される。
また、対象が微小部の元素分析では、試料を真空中に入れた上で、電子線を利用した分析電子顕微鏡が利用されている。この分析電子顕微鏡としては、例えば、SEM−EDX(EDS)(走査電子顕微鏡−エネルギー分散X線分光)、TEM−EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線分光)、EPMA(電子線マイクロアナライザ)等が利用されている。この元素分析では、電子線集束と加速電圧の選択によって微小領域のX線分析を可能としている。例えば、EPMAでは、サブミクロンのレンジの微小領域のX線分析が可能である。
また、X線分析装置では、電子線を利用した装置の他に、X線(一次X線)を用いて特性X線を励起させるものも知られている。この装置では、CCDカメラによって分析位置を特定し、この分析位置にキャピラリレンズを利用してX線を集光し、約数十ミクロンの領域のX線分析が可能である。このX線分析装置では、大気中、真空中にいずれでも分析が可能である。
また、X線分析装置において、一次X線を試料表面にすれすれの角度で入射させたときのX線の侵入深さが小さくなることを利用して、極表面の分析を行うものも知られている。このようなX線分析装置、例えば、半導体材料表面の不純物分析などに利用されている。
また、微粒子形状の異物や試料のX線分析を、試料から発生する特性X線を捉えて行う分析として、斜出射条件でX線を捉えることによって、粒子や異物のみをX線分析する方法が知られている。この分析方法は、一次X線の照射領域が粒子よりも大きい場合であっっても、粒子のみから発生した特性X線を検出することができるという利点がある(非特許文献1)。
なお、斜出射条件は、試料内部から発生する特性X線がX線の全反射により試料表面外に出ない条件である。
辻幸一、斜出射条件X線分析−EPMAと蛍光X線への応用− ぶんせき、2,83−88(2003)
従来知られているレーザ顕微鏡を含む光学顕微鏡(以下、光学顕微鏡という)では、観察と形状計測が可能であるが、元素分析を行うことができない。特に、走査型共焦点レーザ光学顕微鏡のみでは、高分解能によって微小な異物や異常欠陥部の位置を検出したとしても、元素分析の機能を有していないため、検出した部分の元素分析することができない。
また、電子線を利用した分析では、微小領域のX線分析が可能であるが、その一方、試料を真空室に入れるために長時間を要するという問題がある他に、試料に直接電子線を照射することにより試料が損傷するという問題がある。
また、電子線以外のX線(一次X線)を利用して特性X線を励起することによってX線分析を行うX線分析装置では、装置内部に試料を観察することCCDカメラを備え、これによって分析位置を特定しているが、CCD画像の解像度が低いため、微小な異物の欠陥部の場所を特定することは困難である。
上記したように、光学顕微鏡による観察や形状計測と、X線分析装置によるX線分析はそれぞれの装置が知られているが、光学顕微鏡による観察によって分析対象位置を特定し、その特定位置についてX線分析を行う場合には、各装置はそれぞれ個別の装置であるため、光学顕微鏡で特定した分析対象位置を何らかの手段で記憶した後、光学顕微鏡から試料を取り出し、その取り出した試料をX線分析装置に導入し、記憶しておいた分析対象位置に基づいてX線分析装置内に導入した試料上に分析対象位置を再現し、その分析対象位置に電子線あるいは一次X線を照射させる必要がある。
このように、光学顕微鏡で分析対象位置を特定し、X線分析装置においてその分析対象位置の分析を行うには、光学顕微鏡とX線分析装置との間に試料の移動と、この移動に伴う分析対象位置の位置合わせが必要であるという問題がある。
そこで、本発明は上記課題を解決して、光学顕微鏡によって検出した分析位置におけるX線分析において、試料の移動、および試料の移動に伴う分析対象位置の位置合わせを要することなくX線分析を行うことを目的とする。
本発明の光学顕微鏡とX線分析装置の複合装置は、光学顕微鏡の対物レンズと、X線分析装置のX線発生器とを、同一光軸上で切り換え自在とすることによって、光学顕微鏡によって検出した分析位置に対して、試料の移動、および試料の移動に伴う分析対象位置の位置合わせを行うことなく、同じ試料位置のままでX線発生器からの一次X線を照射し、試料から放出される特性X線を検出しX線分析することができる。
本発明の光学顕微鏡とX線分析装置の複合装置は、光学顕微鏡装置とX線分析装置とを備えると共に、光学顕微鏡装置とX線分析装置が共有する回転自在のレボルバを備える。
ここで、光学顕微鏡装置は、試料ステージ側に向かってレーザ光を照射する光源と、対物レンズと、光学像を観察する光学像観察部とを有し、X線分析装置は、試料ステージ側に向かって一次X線を照射するX線発生器と、試料から発生する特性X線を検出するX線検出器とを有する。
レボルバは、光学顕微鏡装置の対物レンズと、X線分析装置のX線発生器とを備え、このレボルバを回転させることによって、試料を移動させたり、試料の移動に伴う分析対象位置の位置合わせを行うことなく、試料ステージ上に載置した試料の同じ位置に、レーザ光と一次X線とを切り換えて照射する。
より詳細には、対物レンズおよびX線発生器を、レボルバの回転中心の同心円上において、同一回転位置において対物レンズの光軸とX線発生器の光軸とが一致する方向に設ける。これによって、対物レンズによるレーザ光の照射位置と、X線発生器による一次X線の照射位置とを一致させる。この際、試料ステージ上に載置された試料は同じ位置で良いため移動させる必要はなく、また、レボルバにより切り換えの前後において、試料上においてレーザ光の照射位置と一次X線の照射位置は同じ位置であるため、位置合わせも不要である。
本発明のX線発生器は、焦電式X線発生装置と、焦電式X線発生装置が発生する一次X線を集光させるキャピラリレンズを備える構成とすることができる。焦電式X線発生装置は小型の装置とすることができるため、レボルバ上に対物レンズと共に設置することができる。またキャピラリレンズを用いることによって、焦電式X線発生装置が発生した一次X線を集光させることができる。また、本発明のX線発生器は、X線の射出部に微小径のスリットを備える構成としてもよい。
上記のように、キャピラリレンズによって一次X線を集光し、微小径スリットによって一次X線を小径に絞ることによって、分析対象の大きさが小さい場合に試料ステージ上に載置された試料上に照射する一次X線の照射領域を狭め、分析対象の範囲を狭めることができる。
本発明のX線検出器は、前記X線発生器から所定距離にある点を中心として回転自在であり、X線取り込み窓の前方位置に、微小径のスリット又はキャピラリレンズを備える構成とすることができる。
X線検出器を回転自在とすることによって、試料から放出される特性X線の取り込む角度を変更することができる。この構成とすることによって、分析対象が粒子等の場合の、試料面のすれすれの角度から出射する特性X線を捉えることができる。また、X線検出器は、エネルギー分散型検出器を用いることができる。
本発明の複合装置によれば、光学顕微鏡によって検出した分析位置におけるX線分析において、試料の移動、および試料の移動に伴う分析対象位置の位置合わせを要することなくX線分析を行うことができる。
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の光学顕微鏡とX線分析装置の複合装置を説明するための概略図である。図1において、光学顕微鏡とX線分析装置の複合装置(以下、複合装置1という)は、試料の光学像を観察するための光学顕微鏡系2と、試料に一次X線を照射して特性X線を検出してX線分析を行うX線分析系3と、試料を支持する試料ステージ系4を備える。
光学顕微鏡系2は光学顕微鏡を構成する部分であり、試料10を照明するための照明部2a、照明部2aと対物レンズ2dとの間の光路、および光学像を観察する光学像観察部2cとの間の光路を形成する光学系2b、試料10の光学像を観察するための光学像観察部2c、および対物レンズ2dを備える。対物レンズ2dは、光学顕微鏡の倍率に応じて複数の対物レンズ2d1〜2d4を備えることができ、レボルバ5の回転中心の円周上に取り付けられる。
レボルバ5は光学系2bに対して回転自在であり、レボルバ5を回転させることによって、光学系2bの光軸上に対応する対物レンズ2dを切り換えることができる。なお、対物レンズ2dの個数は、単数を含めた任意の個数とすることができるが、レボルバのサイズ、対物レンズ2dのサイズ、および後述するX線分析器のサイズによって、設置される対物レンズ2dの個数は制限される。
また、光学像観察部2cは、例えば、試料の光学像を電気信号に返還するCCDカメラ等の撮像部2c1、および撮像部2c1の電気信号を用いて光学画像を形成する光学画像処理部2c2を備え、光学像から得た光学画像を表示する他、記録することができる。また、光学像観察部2cは、上記構成に限らず他の構成としてもよく、接眼レンズを設けて目視する構成としてもよい。
X線分析系3はX線分析装置を構成する部分であり、一次X線を発生して試料に照射するX線発生器3a、一次X線の照射によって試料から出射された特性X線を検出するX線検出器3b、X線検出器3bで検出した検出信号に基づいてX線分析を行うX線分析器3cを備える。X線発生器3aは、レボルバ5に前記した対物レンズ2dと共に、レボルバ5の回転中心の円周上に取り付けられる。レボルバ5を回転させることによって、X線発生器3aは光学系2bの光軸と同軸上に合わせることができる。
このように、レボルバ5に設けた対物レンズ2dとX線発生器3aは、レボルバ5を回転させて同じ回転角度位置に合わせることによって、光学系2bの光軸と同じ軸上に切り換えて合わせることができる。
したがって、対物レンズ2dが捉える試料10上の光学像の位置と、レボルバ5を回転させて同じ回転角度位置に合わせたX線発生器3aが照射する一次X線の照射位置とは同じ位置となるため、光学顕微系2による観察で定めた試料上の特定位置に対して、レボルバ5を回転させてX線発生器3aの回転位置を合わせるだけで、同じ特定位置のX線分析を行うことができる。
なお、光学像の取得と一次X線の照射の両方を同じ特定位置に合わせるには、xy方向の位置合わせによる軸方向の一致と、z方向の位置合わせによる高さ方向の一致とが必要である。
本発明の複合装置は、上記したxy方向について位置合わせについては、レボルバ5による回転によって対物レンズ2dとX線発生器3aの回転位置を位置合わせして軸方向を一致させることで行う。また、z方向の位置合わせについては、対物レンズ2dとX線発生器3aをレボルバ5に設置する際に、対物レンズ2dの焦点位置とX線発生器3aの一次X線の焦点位置とがz方向(高さ方向)で一致するように予め定めておく。
これによって、単にレボルバ5を回転させることで、光学顕微鏡系2の光学像を観察することで定めた特定位置に対して一次X線を照射して、光学像と同一の位置についてX線分析を行うことができる。
なお、X線発生器3aとしては、例えば焦電型X線発生器を用いることができる。この焦電型X線発生器はサイズを小型化することができるため、対物レンズ2dと共にレボルバ5に設置する際に好適である。
試料ステージ系4は、試料10を支持すると共に、x,y,z方向に移動可能な試料ステージ4a、およびこの試料ステージ4aの移動を制御する試料ステージ制御部4bを備える。試料ステージ制御部4bは、試料ステージ4aのz方向に移動可能とすることによって、光学顕微鏡系2の対物レンズ2dの焦点位置およびX線発生器3aの焦点位置に、試料上の特定位置におけるz方向の高さを合わせることができる。なお、試料ステージ4aはθ方向についても移動可能とすることができる。
図2は、本発明の複合装置1の光学顕微鏡系による動作モードを説明するための図であり、図3は、本発明の複合装置1のX線分析系による動作モードを説明するための図である。
図2は光学顕微鏡系2によって光学像を取得して試料を観察する動作モードであり、図2(a)は、複数の対物レンズ2dのうちの対物レンズ2d3によって光学像を取得する場合を示している。この場合には、レボルバ5を回転させて、対物レンズ2d3を光学系2bの光軸に合わせる。照明部2aからの照明光は、光学系2bの光軸を通ってレボルバ5に設置された対物レンズ2d3に入射する。
照明光は、対物レンズ2d3から試料10上を照明する。試料10の光学像は、再び対物レンズ2d3から光学系2bの光軸を通って光学像観察部2cに導かれ、光学像により試料の観察が行われる。このとき、光学像の焦点位置の調整は、試料ステージの調整やレンズ系の調整によって行うことができる。
図2(b)は、複数の対物レンズ2dのうちの他の対物レンズ2d4によって光学像を取得する場合を示している。この場合には、レボルバ5をさらに回転させて、対物レンズ2d3から対物レンズ2d4を光学系2bの光軸に合わせる。その後は、前記図2(a)と同様にして光学像の観察が行われる。他の対物レンズ2d1,2d2についても同様である。
図3はX線分析系3によって特性X線を取得して試料をX線分析する動作モードである。この動作モードでは、レボルバ5上の対物レンズ2dに代えて、X線発生器3aによって試料に一次X線を照射し、この一次X線を照射によって試料から出射される特性X線をX線検出器3bで検出する。この場合には、レボルバ5を回転させて、X線発生器3aを光学系2bの光軸に合わせる。X線発生器3aからの一次X線は、試料10上において対物レンズ2dが照明した箇所と同じ位置に照射される。この照射によって、照射位置から特性X線が出射される。したがって、光学像が取得された位置と特性X線が取得される位置は同位置となる。
図4は、レボルバによる動作を説明するための図である。図4(a)と図4(b)は異なる方向から見た状態を示している。
レボルバ5には、対物レンズ2d1〜2d4とX線発生器3aとが、レボルバ5の回転中心を円の中心とする同一の円周上に配列される。対物レンズ2d1〜2d4とX線発生器3aは、レボルバ5を回転させることで、同一位置に切り換えて配置することができる。
また、X線検出器3bは、レボルバ5とは独立して別に、例えば、複合装置1のベース側に固定して取り付けられる。これによって、X線検出器3bはレボルバ5の回転位置に係わらず所定位置に位置決めされ、レボルバ5の回転によってX線発生部3aが試料に対峙して、一次X線が照射されたときに出射される特性X線を常に同位置で検出することができる。
次に、本発明の複合装置1に適用することができるX線発生器の一構成例について、図5を用いて説明する。このX線発生器3aは、焦電式のX線発生部3a1と、このX線発生部3a1が発生する一次X線を集光させるキャピラリレンズ3a3を備える。焦電式のX線発生部3a1のX線発生面3a2はキャピラリレンズ3a3の広径側に接続される。
X線発生部3a1のX線発生面3a2から発せられた一次X線は、キャピラリレンズ3a3によって絞られ、キャピラリレンズ3a3の狭径側から試料ステージ4a側に向かって出射される。
また、キャピラリレンズ3a3の狭径側の先端部分には、微小径のスリット3a4を備える構成としてもよく、これによって出射される一次X線の径を絞ることができる。
次に、本発明の複合装置1に適用することができるX線検出器の一構成例について、図6を用いて説明する。このX線検出器3bは、X線発生器3aから所定距離にある点Pを中心として回転自在とする構成である。なお、ここでは、回転中心Pを試料10上の分析点とする例を示している。X線検出器3bを回転中心Pを中心にして回転させることによって、試料面とX線検出器との軸角度を小さくし、斜射X線分析条件とすることができ、一次X線を試料表面にすれすれの角度で入射させたときのX線の侵入深さが小さくなることを利用して行う極表面の分析に適用することができる。
また、X線検出器3bを回転させながら点Pから各方向に出射される特性X線を順次検出することによって、特性X線の出射方向の分布を求めることができる。
また、このX線検出器3bにおいて、X線取り込み窓3b1の前方位置に、キャピラリレンズ3b2又は微小径の視野を制限するスリット3b3を備える構成としてもよい。この構成とすることによって、斜射X線分析条件で重要なX線の取り込み立体角を小さくすることができ、これによって、粒子のみのX線分析など、表面敏感なX線分析条件を達成することができる。また、X線検出器は、エネルギー分散型検出器を用いることができる。
1…複合装置、2…光学顕微鏡系、2a…照明部、2b…光学系、2c…光学像観察部、2c1…撮像部、2c2…光学画像処理部、2d,2d1〜2d4…対物レンズ、3…X線分析系、3a…X線発生器、3a1…X線発生部、3a2…X線発生面、3a3…キャピラリレンズ、3a4…スリット、3b…X線検出器、3b1…X線取り込み窓、3b2…キャピラリレンズ、3b3…スリット、3c…X線分析部、4…ステージ系、4a…試料ステージ、4b…試料ステージ制御部、5…レボルバ、10…試料、P…回転中心。