本発明は、無線通信の技術分野に関連し、特に送信機からの複数の送信信号を受信機で個々の送信信号に分離する信号分離装置及び信号分離方法に関連する。
この種の技術分野では、現在及び次世代以降の大容量高速情報通信を実現するための研究開発が進められている。例えば、単入力単出力(SISO:Single Input Single Output)方式に加えて、通信容量を増やす観点から、単入力多出力(SIMO:Single Input Multi Output)方式、多入力単出力(MISO:Multi Input Single Output)方式、更には多入力多出力(MIMO:Multi Input Multi Output)方式等に関する研究がなされている。
図1は、送信機102及び受信機104を含むMIMO方式の通信システムの概要を示す。図示されるように、MIMO方式では、複数の送信アンテナ106−1〜Nから別々の信号が、同時に同一の周波数で送信される。これら複数の送信信号は複数の受信アンテナ108−1〜Nにて受信される。簡単のため、送信アンテナ数及び受信アンテナ数は共にN個とされているが、異なるアンテナ数であってもよい。
受信機104内では、各受信アンテナで受信された受信信号に基づいて、送信機からの複数の送信信号を個々の信号に分離する処理がなされる。分離後の信号は、更なる復調処理を行なうために後段の処理要素に与えられる。
受信機104で行なわれる信号分離法にはいくつかの手法が存在する。1つは、最尤判定(MLD:Maximum Likelihood Detection)法と呼ばれる方法である。これは、複数の送信アンテナから送信された複数の送信信号と受信信号との全ての可能な組合せについてユークリッド距離(の二乗)を算出し、最小の距離を与える送信信号の組合せを選択するものである。この手法によれば、複数の送信信号を個々の信号に確実に分離することができるが、二乗ユークリッド距離の数多くの計算に起因して、信号分離に要する演算負担が大きくってしまう問題点がある。例えば、4つの送信信号(x1,x2,x3,x4)が、16QAMの変調方式で4本の送信アンテナからそれぞれ送信されたとする。この場合に、1つの送信信号は、信号点配置図又はコンステレーション(constellation)上の16個の信号点の何れかにマッピングされるので、受信信号に含まれる送信信号内容の組合せの総数は、(1つの送信信号に対する信号点数)(送信アンテナ数)=164=65536通りにもなってしまう。これら全ての組合せについてユークリッド距離を計算し、最も確からしい組合せを選択することは、非常に大きな演算能力を要し、特に移動端末の小型化を妨げてしまう。更に、演算負担が大きいと、電力消費量も大きくなり、この点でも小型の移動端末には特に不利になる。
MLD法を改善した信号分離法に、QRM−MLD法がある。これは、QR分解とMアルゴリズムを組み合わせることで、MLD法における二乗ユークリッド距離の計算回数を減らそうとするものである(QRM−MLD法については、例えば非特許文献1参照。)。この方法によれば、二乗ユークリッド距離の計算回数を、上記の想定例の場合に、(初段の信号点候補数)+(新たに追加される信号点候補数)×(前段階で生き残った信号点候補数)×(送信アンテナ数)=16+16×16×3=784回になる。この手法によれば、上記のMLD法に比べて演算負担を顕著に軽減させることができる。しかしながら、このような演算負担の軽減化を図ったとしても、小型移動端末にとっては依然として大きな演算負担であることに変わりはない。
K.J.Kim,et al.,"Joint channel estimation and data detection algorithms for MIMO−OFDM systems", Proc.36th Asilomar Conference on Signals,Systems and Computers,Nov.2002
本発明は、上記問題点の少なくとも1つに対処するためになされたものであり、その課題は、送信機からの複数の送信信号を受信機で個々の送信信号に分離する際の演算負担を従来のMLD方式よりも軽減することの可能な信号分離装置及び信号分離方法を提供することである。
一実施例による信号分離装置は、
送信機からの複数の送信信号を受信し、受信した信号を個々の送信信号に分離する信号分離装置であって、
受信信号にユニタリ行列の行列要素を乗算し、信号点配置図上の1以上の受信信号点を導出する手段と、
第1の所定数の信号点を含む区画を複数個設定する区画設定手段と、
受信信号点の属する区画を検出する区画検出手段と、
前記区画に属する信号点を、前記受信信号点に対応する信号点の候補として選択し、選択された信号点に基づいて複数の送信信号を判別する判別手段と
を備え、前記判別手段は、
前記受信信号点に対応する信号点の候補が1つになるまで、前記受信信号が属する区画を検出する第1の区画検出処理と、少なくとも該区画に属する信号点を、前記受信信号点に対応する信号点の候補として選択する第1の選択処理と、原点が変更された信号点配置図において前記受信信号点が属する区画を検出する第2の区画検出処理と、前記第1の選択処理で選択された信号点の候補の中で、前記第2の区画検出処理で検出された区画に属する信号点を、前記受信信号点に対応する信号点の候補として選択する第2の選択処理とを含む一連の手順を反復し、
1つの信号点に、信号点配置図の原点を移す第1の座標変換処理と、
原点が変更された信号点配置図において前記受信信号点が属する象限を検出する第3の区画検出処理と、
検出された象限の中で、前記受信信号点のみを含む小区画の内部に、信号点配置図の原点を移す第2の座標変換処理と、
前記小区画の内部で、前記受信信号点が属する象限を検出する第4の区画検出処理とを行う、信号分離装置である。
本発明によれば、送信機からの複数の送信信号を受信し、受信した信号を個々の送信信号に分離する際の演算負担を従来のMLD方式よりも軽減することができる。
本発明の一形態によれば、受信信号にユニタリ行列の行列要素が乗算され、信号点配置図上の1以上の受信信号点が導出される。第1の所定数の信号点を含む区画(グループ)が複数個設定され、受信信号点の属する区画が検出され、前記区画に属する信号点が、前記受信信号点に対応する信号点の候補として選択される。選択された信号点に基づいて、複数の送信信号が判別される。受信信号点の属するグループを判別することで、二乗ユークリッド距離を計算せずに、受信信号点の候補となる複数の信号点を適切にランキングすることができる。これにより、QRM−MLD法における生き残りシンボル候補を効率的に導出できる。
本発明の一形態によれば、受信信号点の属する象限が検出され、信号点配置図の原点をずらす座標変換が行われる。座標変換後の受信信号点の象限検出を行なうことで、受信信号点と、信号点配置図上の信号点との位置関係を調べることができる。必要に応じて、第2の所定数の信号点を含む区画(サブグループ)が複数個設定されてもよい。サブグループに対する受信信号点の属否を判定することで、受信信号点の位置を更に精密に把握することができる。本発明の一形態によれば、受信信号点に対応する信号点の候補が1つになるまで、象限検出及び座標変換の処理が反復されてもよい。象限検出は受信信号点成分の単なる極性判別に基づくので、信号点間の距離計算よりも簡易に行なうことができる。
本発明の一形態によれば、受信信号点に対応する信号点の候補が1つになった後も、象限検出及び座標変換の処理が行なわれる。これにより、受信信号点を含む信号点配置図上の微小区画(升目)を必要な精度に応じて小さくすることができる。その微小区画と、信号点の候補との既知の相対的な位置関係に基づいて、信号点の候補のランキングを正確に行なうことができる。
本発明の一形態によれば、受信信号点に対応する信号点の候補中の信号点と、前記受信信号点との間のユークリッド距離を示す量を算出する手段が備えられる。信号点候補のランキングに基づいて選択された信号点に対してのみ二乗ユークリッド距離を計算することで、演算負担を軽減しつつ信号分離精度を維持することができる。
本発明の一形態によれば、前記ユークリッド距離を示す量は、前記受信信号点とは別の受信信号点に対する信号点の候補に関連して以前に算出されたユークリッド距離を示す量を一部に含む累計値である。累計値に基づいて信号分離を行なうことで、複数のチャネルに関するダイバーシチ効果による恩恵を受けることができ、信号分離精度を向上させることができる。
本発明の一態様によれば、複数の信号点に対する優先順位が複数決定され、優先順位の各々には1つの累計メトリックがそれぞれ関連付けられる。2以上の累計メトリックが比較され、より望ましい累計メトリックに関連する優先順位に従って、信号点候補の中から信号点が選択され、その信号点を指定する選択信号が出力される。選択信号で指定された信号点及び受信信号点間のユークリッド距離を示す量が算出され、より望ましい累計メトリックとなった累計メトリックは、それにユークリッド距離を示す量を加算することで更新される。累計メトリックは逐次更新されるので、多数の信号点候補の中から、より望ましい順に信号点、即ち生き残りシンボル候補(surviving symbol candidate)を選択することができる。二乗ユークリッド距離は、選択信号で指示された信号点についてのみ計算され、生き残らない信号点については計算されない。従って、二乗ユークリッド距離の計算回数を従来よりも顕著に減らすことができる。
以下、本発明の一実施例による信号分離装置及び信号分離方法が説明される。先ず、本発明の基礎となるQRM−MLD法による信号分離法が概説される。簡単のため、4つの送信信号x=(x1...x4)Tが、16QAMの変調方式で4本の送信アンテナからそれぞれ送信されるものとする(上付文字の記号Tは、転置を表す。)。しかしながら、本発明は送信アンテナ数、受信アンテナ数及び変調方式によらず、様々な通信システムに使用できる。受信機は、図2に示されるように、送信信号を4本の受信アンテナで受信信号y1〜y4として受信し、それらは信号検出部202及びチャネル推定部204に与えられる。信号検出部202では、送信機からの複数の信号を個々の信号に分離する処理がなされる。信号分離後の信号は、更なる復調処理を行なうために後段の処理要素に与えられる。また、受信信号y=(y1...y4)Tは、チャネル推定部204にも入力される。チャネル推定部204では、送信及び受信の双方の側で既知のパイロット信号を含む受信信号に基づいて、チャネルインパルス応答値(CIR:channel impluse response)又はチャネル推定値を求めることで、チャネル推定が行なわれる。チャネル推定値hnmを行列要素とする行列Hは、チャネル行列と呼ばれる。但し、hnmはm番目の送信アンテナとn番目の受信アンテナ間のチャネル推定値を表し、目下の例では、n=1,...,4,m=1,...,4である。
QRM−MLD法では、先ず、チャネル行列Hが、ユニタリ行列Qと上三角行列Rとの積で表現されるように、行列Q,Rが決定される(H=QR)。従って、送信信号x及び受信信号yの間には、y=Hx=QRx が成立する。この式に左からQHを乗算すると、
QHy=QHQRx=Q−1QRx=Rx
即ち、
となる。但し、z=(z
1...z
4)
T=Q
Hy である。従って、
z
1=r
11x
1+r
12x
2+r
13x
3+r
14x
4
z
2=r
22x
2+r
23x
3+r
24x
4
z
3=r
33x
3+r
34x
4
z
4=r
44x
4
と書ける。このようなユニタリ行列Qを求める処理は、チャネル推定部204で行なってもよいし、信号検出部202で行なってもよい。
以下、図3を参照しながら、QRM−MLD法による信号分離法を説明する。
第1段階では、ステップ310に示されるように、初期設定に相当する処理が行なわれる。この段階では、上記のz4に関する式に着目する。行列要素r44は既知であるので、z4が1つの送信信号x4にのみ依存していることが分かる。従って、送信信号x4については、高々16通りの信号点の候補を考察することで信号内容を推定することができる。
第2段階では、z3に関する式に着目する。行列要素r33,r34は既知であり、x4には16通りの候補があり、x3についても16通りの信号点の候補が存在する。このため、ステップ320に示されるように、x3に関する新たな信号点として16個の信号点が導入される。従って、16×16=256通りの信号点の組合せがあり得る。ステップ322では、信号点に関する尤度が計算され、256通りの信号点の組合せの中から確からしい信号点の組合せが選択される。従来のQRM−MLD法では、256通りの全ての組合せについて、二乗ユークリッド距離を計算し、その値の小さい順に16個の組合せを選択することで、第3の送信信号x3が推定される。本発明では、後述される実施例1乃至5による手法を用いて、16回の二乗ユークリッド距離の計算を行なうことで、確からしい16個の信号点候補を選択することができる。こうして得られた16個の信号点候補は、生き残りシンボル候補とも呼ばれ、後段の計算の基礎になる。
第3段階及び第4段階でも同様な処理が行なわれるので、第3段階は図3では省略されている。この段階では、z2に関する式に着目する。行列要素r22,r23,r24は既知であり、送信信号x3,x4の組合せは前段で16通りの候補に絞られており、x2については16通りの信号点の候補が存在する。このため、新たな信号点として16個の信号点が導入される。従って、この場合も、256通りの信号点の組合せの中から、16通りの候補を選択することで、第2の送信信号x2が推定される。
第4段階では、同様に、z1に関する式に着目する。行列要素r11,r12,r13,r14は既知であり、送信信号x2,x3,x4の組合せは前段で16通りの候補に絞られており、x1については16通りの信号点の候補が存在する。このため、ステップ340に示されるように、新たな信号点として16個の信号点が導入される。従って、この場合も、ステップ342に示されるように尤度を計算し、適切な信号点が選択される。即ち、256通りの信号点の組合せの中から、適切な16通りの候補を選択することで、第1の送信信号x1が推定される。
ステップ354では、各信号に関する尤度に基づいて、受信信号を個々の送信信号に分離し、フローは終了する。
このように、送信アンテナ数又は送信信号数に応じた複数の段階(この例では、4つの段階)を実行することで、受信信号を個々の送信信号に分離することができる。なお、各段階で選択する候補数は異なっていてもよい。
ステップ322,ステップ342等における信号点の選択については、以下に説明される手法を利用することができる。
図4は、本発明の一実施例による信号検出装置の内、本願に関連する主要な機能ブロック図を示す。図4には、象限検出部502と、信号点選択部504と、座標変換部506と、ランキング部508とが描かれている。象限検出部502は、受信信号点が、信号点配置図上でどの象限に存在するかを判別する。象限の判別は、例えば、受信信号点の横軸成分及び縦軸成分の極性を判別することによって行なうことができる。信号点選択部504は、判別された象限に含まれる信号点を選択し、選択された信号点を特定する情報を出力する。座標変換部506は、信号点配置図の原点を別の場所に変更する座標変換を行なう。ランキング部508は、象限検出及び座標変換の結果得られた情報に基づいて、各信号点の信頼性(尤度)を判定し、考慮される複数の信号点に、信頼性の順に番号を与えることで、ランキングを行なう。
図5は、本発明の一実施例による信号点を選択するためのフローチャートを示す。一例として、図3のステップ322における信号処理が説明されるが、他のステップ342等でも同様の処理が行われる。図6(A)は、信号点配置図(コンステレーション)を示す。図6(A)中の16個の白点は、図3のステップ320で導入される第3の送信信号x3に関する16通りの信号点の候補を示す。図6(A)中の黒点は、z3’=r33 −1(z3−r34x4)に関する受信信号点を表し、これは、受信信号yにユニタリ行列QHを乗算した信号から、前段階で判明した送信信号のレプリカを減算したものであり、x3に相当する量である。上述したように、x4は16通りの可能性があるので、受信信号点z3’についても16通りの可能性がある。ある1つのx4の値に基づいて導出される受信信号点z3’が図6(A)の黒点に対応するので、他のx4の値についても同様な処理が行なわれる。図5のフローはステップ402から始まり、ステップ404に進む。
ステップ404では、受信信号点z3’が、信号点配置図上のどの象限に属するかが判別される。図示の例では、それは第1象限に属している。
ステップ406では、受信信号点z3’が属している象限に含まれている信号点を含み、且つ全信号点数(16)より少ない数の信号点を含む1つのグループが選択される。1つの象限に含まれる信号点数は、4つである。図示の例では、グループ1乃至4の4つのグループが設定されており、グループ1が選択される。選択された信号点には影が付されている。グループ名に付される数字は、象限を指定する数字に関連付けられている(例えば、グループ1は、第1象限に関連付けられる)。各グループは、受信信号点z3’以外の9個の信号点をそれぞれ有する。後述されるように、1つのグループが包含するグループ数は9個に限定されず、例えば、1つのグループが1つの象限に含まれる4つの信号点のみを含むようにしてもよい。但し、信号分離精度を向上させる観点からは、図示の例のように、複数の象限にわたるグループを設定することが望ましい。
ステップ408では、グループ1の中心(9個の信号点の中心)が原点となるように、信号点配置図の座標が変更される。図6(B)は、そのような座標変換後の信号点配置図を示す。図示の例では、信号点602が原点に一致している。
ステップ410では、座標変換後の信号点配置図において、受信信号点z3’がどの象限に属するかが判別される。図示の例では、それは第3象限に属している。
ステップ412では、グループ1に属する9個の信号点の中で、受信信号点z3’が属している象限(座標変換後の象限)に含まれている信号点を含む1つのサブグループが選択される。選択された信号点には影が付されている。図示の例では、サブグループ1乃至4の4つのサブグループが設定されており、サブグループ3が選択される。サブグループ名に付される数字は、象限を指定する数字に関連付けられている(例えば、サブグループ1は、第1象限に関連付けられる)各サブグループは、4個の信号点をそれぞれ有する。
ステップ414では、ステップ404,410による象限判別の結果に基づいて、16通りの信号点の候補(白点)に尤度(確からしさに関する情報)を与える、即ち、信頼度の高い順に番号を付ける。目下の例では、受信信号点は、図6(A)に示される状態では第1象限に存在し、図6(B)に示される状態では第3象限に存在しているので、信号点602が最も近いことがわかる。そこで、信号点602には尤度「1」が与えられる。尤度「2」,「3」は、サブグループ3に属する信号点の内、信号点602に近い信号点に与えられる。等距離の場合にどのような尤度を定めるかについて、事前に定めておくことが望ましい。尤度「4」は、サブグループ3に属する信号点の内、信号点602から最も遠い信号点に与えられる。以後同様に、信号点602、サブグループ3及びグループ1の相対的な位置関係に基づいて、各信号点の尤度が与えられる。図7は、16個の信号点全てについて尤度が付与された後の様子を示す。このようにして、16通りの内の1つの受信信号点z3’に関する信号点の尤度が算出され、フローは終了する。これにより、複数の信号点の優先順位が決定され(尤度に基づいてランキングされ)、この優先順位は以後の信号分離で使用される。
別の受信信号点z3’に関する信号点の尤度も、同様の手順を行なうことによって求められる。16通りの受信信号点z3’の各々について、図7に示されるようなx3の候補の尤度が求められる。この尤度に基づいて、x3及びx4の組み合わせの内、確からしい16個の候補が選択される。例えば、簡易に候補を求める観点からは、尤度が1である16個の信号点を選択してもよい。この場合は、2以上の値の尤度を付与するステップ414の処理を行なわなくてもよい。推定の高精度化を図る観点からは、後述されるように、x4の1つの候補について、x3の1以上の候補を選択することが許容されてもよい。
次に、本発明の一実施例による信号点を選択するための別の動作を説明する。概して、図5に関して説明したように処理がなされるが、ステップ412の後に行なわれる処理が異なる。図6(B)に示されるように、受信信号点z3’がサブグループ3に属することが判明しているものとする。
ステップ420では、1つのサブグループ3の中心(4つの信号点の重心に相当する)に、信号点配置図の原点を移す座標変換が行なわれる。座標変換後の信号点配置図は図8に示されている。座標変換後の1つのサブグループには1つの信号点が含まれ、原点は特定の信号点に一致していないことに留意を要する。
図5のステップ422では、座標変換後の信号点配置図において、受信信号点z3’がどの象限に属するかが判別される。図示の例では、それは第1象限に属している。
ステップ424では、図8のサブグループ1〜4に属する4個の信号点の中で、受信信号点z3’が属している象限(座標変換後の象限)に含まれている信号点を含む1つのサブグループが選択される。このステップにより、受信信号点z3’と、ある1つの信号点とを含むサブグループ1が特定される。従って、受信信号点z3’に最も近い信号点は、サブグループ1に含まれている1つの信号点であることが判明する。以後、ステップ414で説明したのと同様な手法で、16通りの信号点の候補(白点)に尤度が与えられる。その結果は図7に示されるものに等しい。
また、受信信号点z3’が、図8のサブグループ1に属すること、図6(B)のサブグループ3に属すること、図6(A)のグループ1に属すること等の判定結果から、受信信号点z3’は、図9に示される1つの枠902の中に存在することが分かる。この枠は、図10に示されるような、信号点配置図全体を6×6の小区画に分割したときに生じる小区画(又は升目)の1つに相当する。以後、受信信号点z3’が、1つの小区画902に存在することに基づいて、信号点の各々の尤度を設定することができ、その結果は図9に示される。本実施例によれば、信号点602のような受信信号点z3’とは別の信号点を基準に尤度を設定せずに、受信信号点z3’をより正確に表現する小区画(の中心)を基準に尤度を設定するので、より正確に尤度を設定し、ランキングを行なうことができる。
次に、本発明の一実施例による信号点を選択するための別の動作を説明する。本実施例では、先ず、図5のステップ404にて、受信信号点z3’が、信号点配置図上のどの象限に属するかが判別される。図示の例では、それは第1象限に属している。
ステップ442では、図11に示されるように、受信信号点z3’が属している象限に含まれている信号点を含み、且つ全信号点数(16)より少ない数の信号点を含む1つのグループが選択される。図示の例では、グループ1乃至4の4つのグループが設定されており、グループ1が選択される。各グループは、実施例1とは異なり、4個の信号点をそれぞれ有する。選択された信号点には影が付されている。
なお、グループやサブグループに含まれる信号点数は、9個や4個に限定されず、様々な値をとり得る。上記の例では16個の信号点を9点×4グループに分け、象限検出を1回行うことで、受信信号点の属する範囲を1/4に絞り込んでいる。しかし、4点×9グループに分け、1回の象限検出で受信信号点の属する範囲を1/9に絞り込んでもよい。より一般的には、1つの区画に信号点がm2(mは2以上の整数)個含まれ、その区画を複数のグループに分ける場合に、1グループがn2(m>n>1の整数)個の信号点を含むならば、グループ総数の最大値は(m−n+1)2になる。従って、1回の象限検出で、受信信号点の属する範囲を、1/(m−n+1)2 に絞り込むことができる。
ステップ444では、グループ1の中心が原点となるように、信号点配置図の座標が変更される。図12は、そのような座標変換後の信号点配置図を示す。
ステップ446では、座標変換後の信号点配置図において、受信信号点z3’がどの象限に属するかが判別される。図示の例では、それは第3象限に属している。
ステップ448では、グループ1に属する4個の信号点の中で、受信信号点z3’が属している象限(座標変換後の象限)に含まれている信号点を含む1つのサブグループが選択される。図示の例では、サブグループ1乃至4の4つのサブグループが設定されており、サブグループ3が選択される。各サブグループは、受信信号点以外の1個の信号点をそれぞれ有する。
ステップ450では、サブグループ3の中心が原点となるように、信号点配置図の座標が変更される。図13は、そのような2回目の座標変換後の信号点配置図を示す。
ステップ452では、座標変換後の信号点配置図において、受信信号点z3’がどの象限に属するかが判別される。図示の例では、それは第3象限に属している。
ステップ454では、サブグループ3に含まれる1つの信号点を中心とした場合の第3象限に相当する小区画を選択する。この小区画には受信信号点z3’が含まれている。このようにして得られた小区画は、図14に示されるように、信号点配置図全体を8×8の小区画に分割したときに生じる小区画の1つに相当する。従って、実施例3の場合と同様に、以後、受信信号点z3’が、1つの小区画1302に存在することに基づいて、信号点の各々の尤度を設定し、ランキングをすることができ(ステップ456)、その結果は図9に示されるものと同様になる。本実施例も、受信信号点z3’をより正確に表現する小区画を基準に尤度を設定するので、実施例1よりも正確に尤度を設定することができる。
更に、ステップ454の後に、小区画1302の中心に、信号点配置図の原点を移す座標変換を行なってもよい。図15は、そのような座標変換が行なわれた後の様子を示す。そして、座標変換後の信号点配置図において、受信信号点z3’が、どの象限に属するかが判別される。図示の例では、それは第1象限に属している。受信信号点z3’が、図15の第1象限に属することや、図13の小区画1302に属すること等の判定結果から、受信信号点z3’は、図16に示されるような更に微細な小区画1602に存在することが分かる。以後、受信信号点z3’が、1つの小区画1602に存在することに基づいて、信号点の各々の尤度を設定することができ、その結果は図17に示される。本実施例によれば、受信信号点z3’を、更に正確に表現する小区画を基準に尤度を設定するので、より正確に尤度を設定することができる。
このように、象限検出及び座標変換に関する処理を追加することで、小区画のサイズを微細化することが可能になる。従って、上記に例示したような、(6×6)、(8×8)、(16×16)の小区画だけでなく、図18に示されるような(32×32)の小区画や、更に多くの小区画を設定し、尤度を正確にすることができる。より一般的には、象限検出及び座標変換をN回行なうことで、(2N×2N)の小区画を構成することができる。以後、受信信号点に対応する小区画の中心点と、各信号点との距離の近い順に尤度を設定し、ランキングすることができる。
上記の実施例では、受信信号点の信号点配置図上での位置を見出し、信号点候補を尤度の順にランキングするために、象限検出及び座標変換を1回以上反復していた。しかしながら、そのようなランキング(優先順位の決定)を、以下に説明されるような別の方法で行うこともできる。
図24は、本実施例におけるランキング方法を説明するための図である。図示の例では、16QAM方式が採用され、送信機からの4つの送信信号が受信機で分離されるものとする。本実施例では、図24(A)等に示されるように、信号点配置図上に、16個の信号点候補(白丸印)とは別に、4つの代表点R++,R−+,R+−,R−− も設定されている。代表点は、図中×印で示されている。16個の信号点候補の座標は、(±a又は±3a,±a又は±3a)である。各代表点の座標は、一般的には、R++(X1,Y1),R−+(X2,Y2),R+−(X3,Y3),R−−(X4,Y4)であるが、図示の例では、|X1|=|X2|=|X3|=|X4|=|Y1|=|Y2|=|Y3|=|Y4|であり、X2=−|X1|,Y2=−|Y1| である。図では1つの受信信号点が黒丸で示されており、その座標は(u,v)で表現されるものとする。1つの代表点は、周囲4つの信号点候補を含む領域の重心に設定されている。しかし、代表点を複数の信号点の重心とすることは必須ではない。
図25は、本実施例によるランキング方法の手順を示すフローチャートである。フローはステップ2502から始まり、ステップ2504に進む。
ステップ2504では、4つの代表点の内、受信信号点に最も近い代表点(最近接代表点)が検出される。この場合、最も直接的な手法は、受信信号点と4つの代表点との(二乗)ユークリッド距離を計算し、それらのうち最も小さいものを最近接代表点に決定することである。しかしながら、そのためには二乗ユークリッド距離を4回計算する必要があり、信号点候補数の増加に伴って演算負担が極めて重くなってしまう。
本実施例では、受信信号点のI軸での座標uが、2つの代表点のI座標の中点よりも大きいか否か、及び受信信号点のQ軸での座標vが、2つの代表点のQ座標の中点よりも大きいか否かに基づいて、最近接代表点が選択される。具体的には、次のように判定される。
u≧X1−(X1−X2)/2 であって、v≧Y1−(Y1−Y2)/2ならば、最近接代表点は、R++(X1,Y1)である。
u<X1−(X1−X2)/2 であって、v≧Y1−(Y1−Y2)/2ならば、最近接代表点は、R−+(X2,Y2)である。
u≧X3−(X3−X4)/2 であって、v<Y3−(Y3−Y4)/2ならば、最近接代表点は、R+−(X3,Y3)である。
u<X3−(X3−X4)/2 であって、v<Y3−(Y3−Y4)/2ならば、最近接代表点は、R−−(X4,Y4)である。
このような判定を行うことで、受信信号点の属する1つのグループが特定される。特定されるグループは、最近接代表点と、その周囲の信号点を含み、目下の例では、図24(A)の第1象限に属する破線で示されるグループが特定される。
ステップ2506では、最近接代表点以外の代表点の位置が、最近接代表点に近づくように更新される。図示の例では、図24(A)の3つの代表点から伸びる矢印に示されるように、どの代表点も、それと最近接代表点とを結ぶ線上の中点に更新される。
ステップ2508では、更新後の代表点の座標が、信号点候補(白丸印)の座標に一致したか否かが判別される。目下の例での更新後の代表点は、図24(B)にて×印で示されるように、どの代表点も信号点候補に一致していない。従って、フローはステップ2508からステップ2504に戻る。以後、ステップ2504及びステップ2506の手順が再び行われる。24(B)に示されるように、今回の最近接代表点はR−−であると判定され、それに近づくように他の代表点が更新される。図24(B)及び(C)に示されるように、代表点R++の更新後の座標は、1つの信号点の座標(a,a)に一致する。従って、この場合は、フローはステップ2508からステップ2510に進む。
ステップ2510では受信信号点の位置が決定される。そして、ステップ2512にて、代表点と一致した信号点が最も尤度の高い信号点に設定され、他の信号点にそれより低い尤度が付与され、複数の信号点に対するランキングが行われる。尤度の付与に際しては、代表点と信号点との位置関係、受信信号点の属するグループの場所等の情報が利用される。以後フローはステップ2514に進み、終了する。
本実施例によれば、信号点配置図の原点を変更せず、二乗ユークリッド距離を計算しなくても、複数の信号点候補を適切にランキングすることができる。上記の例では、簡明化のため、変調多値数の平方根に等しい数の代表点が設定されたが、変調多値数、設定される代表点の数、1グループに属する信号点数等は、上記の数値に限定されず、適切ないかなる数値が採用されてもよい。但し、ステップ2506で、代表点が、最近接代表点とを結ぶ線上の中点に更新される場合には、初期の代表点同士の最小間隔は、信号点の最小間隔(上記の例では、2a)の偶数倍離れていることを要する。一例として、上記の代表点の代わりに、(4a,4a),(−4a,4a),(4a,−4a),(−4a,−4a)が代表点に選ばれてもよい。
図19は、本発明の一実施例による信号分離装置の主な機能に関するブロック図を示す。信号分離装置は図3に示されるような一連の手順を行なうことで、受信した信号を個々の送信信号に分離する。図19に示される要素は、図3の1つの段階を実行するためのものであり、動作の詳細は図20に関連して説明される。図19には、信号点供給部1902と、複数の二乗ユークリッド距離計算部1904−1〜Nと、複数の加算部1906−1〜Nと、選択制御部1908とを有する。信号点供給部1902は、第1〜第N供給部1901−1〜Nを含む。
信号点供給部1902は、前段階で得られた信号点の候補に関する情報を受信し、今回の段階で使用する信号点の候補を用意する。図3に関する例ではN=16であり、以下の例でもN=16とする。第1〜第N供給部1901−1〜Nの各々は同様な構成及び機能を有するので、第1供給部1901−1を例にとって説明する。第1供給部1901は、前段階(例えば、第1段階)で得られた信号点候補の1つを受信し、今回の段階(例えば、第2段階)で判定の対象になる16個の信号点(図6(A)の白点)を用意する。受信した信号点候補の1つは、例えば、16個の受信信号点z3’=z3−r34x4の1つであり、図6(A)の黒点に相当する。第1供給部1901−1は、この段階で用意される16個の信号点を、実施例1乃至5の何れか又はそれらの組合せによる手法等を用いてランキングする。即ち、第1供給部1901−1は、尤度を計算し、図7,9,17に示されるような番号付けを行なう。第2乃至第N供給部1901−2〜Nは、x4の別の候補に関する受信信号点z3’を用意し、その受信信号点z3’に関する16個の信号点候補を、上記の実施例等を用いてランキングする。
二乗ユークリッド距離計算部1904−1〜Nは、選択制御部1908からの選択信号に応答して、第1〜第N供給部1901−1〜Nから出力される信号点及び受信信号点間の二乗ユークリッド距離ex,ixをそれぞれ計算する(x=1,...,N)。
加算部1906−1〜Nは、信号点候補の各々について、前段階で算出された二乗ユークリッド距離Em−1,1〜Em−1,Nを、今回の段階で算出される二乗ユークリッド距離e1,i1〜eN,iNにそれぞれ加算し、二乗ユークリッド距離の累計値(累計メトリック)としてそれぞれ出力する。
選択制御部1908は、主に、二乗ユークリッド距離計算部1904−1〜N各々の動作を制御する。選択制御部1908は、上記の実施例又はそれらの組合せによりランキングに従って、総ての信号点候補(信号点供給部1902内全部で256個)の中から、ある判断基準に基づいて信号点を1つ選択し、それが供給されている二乗ユークリッド距離計算部1904−xに選択信号を出力する。選択信号を受けた二乗ユークリッド距離計算部1904−xは、その信号点と受信信号点との間の二乗ユークリッド距離を計算する。選択信号を受ける二乗ユークリッド距離計算部1904−x以外の二乗ユークリッド距離計算部が、何らの二乗ユークリッド距離も計算しないことに加えて、二乗ユークリッド距離計算部1904−xでも、選択信号で指定された1つの信号点以外の信号点と受信信号点との間の二乗ユークリッド距離は計算されないことに留意を要する。計算された二乗ユークリッド距離は、上記の判断基準となる量を更新するのに使用される。選択制御部1908は、更新後の判断基準も考慮して、未選択の信号点候補の中から更に1つの信号点を選択し、選択信号を出力する。以下同様な手順を反復することで16個の信号点候補が得られる。
図20は、本実施例による動作を表すフローチャートである。このフローは、図3に示される第1段階,第2段階,...のような段階で行われる。段階の各々はパラメータmで区別される。フローはステップ2002から始まり、ステップ2004に進む。ステップ2004では、計算に使用されるパラメータの初期化が行なわれる。パラメータjは、今回の段階で出力する全16個の信号点候補を区別するカウンタ値であり、j=1に初期設定される(1≦j≦N=16)。Em−1,1〜Em−1,Nは、m−1番目の段階(前段階)で算出された二乗ユークリッド距離の累積値又は累積メトリックであり、Em−1,1のような個々の累積メトリックは累積ブランチメトリックとも呼ばれる。最大累積ブランチメトリックMm,1〜Mm,Nは、後述の大小比較の基準になる量であり、前段階で得られた累積ブランチメトリックEm−1,1〜Em−1,Nにそれぞれ初期設定される(Mm,1=Em−1,1,...,Mm,N=Em−1,N)。最大累積ブランチメトリックは、後段に与える信号点候補(生き残りシンボル候補)が決定されると更新される(増やされる)。例えば、Mm,1は、Em−1,1(初期値)から順に、Em−1,1+e1,1,Em−1,1+e1,2,Em−1,1+e1,3,...のように順に増えてゆく。ランキング番号i1〜iNは、第1供給部1901−1における16個の信号点候補に対する順序又は尤度を示し、それぞれ1に初期設定される。
ステップ2006では、16個の最大ブランチメトリックMm,1〜Mm,Nの大きさが比較され、最も小さいもの(Mm,x)が選択される。xは、m−1段階(前段階)で選択された信号点候補(生き残りシンボル候補)のうち何番目の候補に関連するかを示す。最大ブランチメトリックMm,xに関連する信号点候補は、第x供給部1901−xから得られる。
ステップ2008では、今回の段階(m段階)のj番目の信号点候補として、最大ブランチメトリックMm,xに関連する信号点候補のうち、ランキング番号ixで指定される信号点候補が選択される。ix=1,2,...,16 及び x=1,2,...,16である。
ステップ2010では、選択された信号点候補に対する二乗ユークリッド距離(ex,ix)が計算される。累積ブランチメトリックEm,jも、Em,j=ex,ix+Em−1,x に従って計算される。
ステップ2012では、各種のパラメータが更新される。最大累積ブランチメトリックMm,xはEm,jに更新される。ランキング番号ixは1つインクリメントされる。カウンタ値jも1つインクリメントされる。
ステップ2014では、カウンタ値jが最大値N以下であるか否かが判定され、N以下ならばステップ2006に戻って同様な手順が繰り返され、そうでなければステップ2016に進んでフローは終了する。
1つの段階における処理が終了すると、図3に示されるように次の段階における処理が行なわれ、最後の段階が終了すると、ステップ354に示されるような個々の送信信号に分離する信号分離処理が行なわれる。信号分離処理では、最終的に生き残った16個の信号点候補それぞれに関する累積メトリックを比較し、最小の累積メトリック(二乗ユークリッド距離の累計値)に関する信号点が、受信信号点に対応するものとして判定される。これにより、複数の送信信号(x1,x2,x3,x4)の各々に、どのようなシンボルがマッピングされていたかが判明し、更なる復号処理が行われる。
なお、累計値を用いないで、各段階で算出される二乗ユークリッド距離ex,ixのみに基づいて、後段に出力する信号点候補を選択することも理論的には可能である。しかし、信号分離の信頼性を向上させる観点からは、本実施例のように二乗ユークリッド距離の累計値を算出することが望ましい。MIMO、SIMO、MISOのような複数のアンテナが使用される状況では、複数のチャネルは別々のフェージングを受ける。ある段階における信号点候補を選択する際に、前段階の二乗ユークリッド距離を考慮することで、そのような別々のフェージングによるダイバーシチ効果による恩恵を受けることができる。
図21は、図20のフローチャートにおけるj=1〜5に関する動作例を示す。即ち、図21は、図19の信号点供給部1902で用意される256個の信号点候補から、5つの信号点候補を取り出すまでの様子を示す。
先ず、j=1の場合に、x=1であったとする。この場合には、第1供給部1901−1で用意される信号点候補のうち、ランキング番号i1=1(初期値)で指定される信号点候補が選択される。本実施例では、ランキングは確からしい順に信号点を並べるので、最初にランキングされているものが選択される。選択された信号点候補の二乗ユークリッド距離e1,1が計算され、その距離は前段階で算出されている累積値E1(正確には、Em−1,1であるが、簡単のためm−1の添え字は省略されて描かれている。)と加算される。最大累積ブランチメトリックMm,1は、Em−1,1から、e1,1+Em−1,1 に更新される。ランキング番号i1は1つインクリメントされる(i1=2)。こうして、後段に出力する信号点候補(生き残りシンボル候補)が1つ選択される。
j=2の場合に、ステップ2006では、更新されたMm,1及びそれ以外のMm,2〜Mm,16の大小比較が行なわれ、再びMm,1が最小であったとする。即ち、x=1である。この場合は、第1供給部1901−1で用意される信号点候補のうち、ランキング番号i1=2で指定される信号点候補が選択される。選択された信号点候補の二乗ユークリッド距離e1,2が計算され、その距離は前段階で算出されている累積値E1と加算される。最大累積ブランチメトリックMm,1は、e1,1+Em−1,1 から、e1,2+Em−1,1 に更新される。ランキング番号i1は1つインクリメントされる(i1=3)。
j=3の場合に、ステップ2006では、更新されたMm,1及びそれ以外のMm,2〜Mm,16の大小比較が行なわれ、今回はMm,2が最小であったとする。即ち、x=2である。この場合は、第2供給部1901−2で用意される信号点候補のうち、ランキング番号i2=1(初期値)で指定される信号点候補が選択される。選択された信号点候補の二乗ユークリッド距離e2,1が計算され、その距離は前段階で算出されている累積値E2と加算される。最大累積ブランチメトリックMm,2は、Em−1,2 から、e2,1+Em−1,2 に更新される。ランキング番号i2は1つインクリメントされる(i2=2)。
j=4の場合に、ステップ2006では、更新されたMm,1、Mm,2及びそれ以外のMm,3〜Mm,16の大小比較が行なわれ、Mm,1が最小であったとする。即ち、x=1である。この場合は、第1供給部1901−1で用意される信号点候補のうち、ランキング番号i1=3で指定される信号点候補が選択される。選択された信号点候補の二乗ユークリッド距離e1,3が計算され、その距離は前段階で算出されている累積値E1と加算される。最大累積ブランチメトリックMm,1は、e1,2+Em−1,1 から、e1,3+Em−1,1 に更新される。ランキング番号i1は1つインクリメントされる(i1=4)。
j=5の場合に、ステップ2006では、更新されたMm,1,Mm,2,それ以外のMm,3〜Mm,16の大小比較が行なわれ、Mm,2が最小であったとする。即ち、x=2である。この場合は、第2供給部1901−2で用意される信号点候補のうち、ランキング番号i2=2で指定される信号点候補が選択される。選択された信号点候補の二乗ユークリッド距離e2,2が計算され、その距離は前段階で算出されている累積値E2と加算される。最大累積ブランチメトリックMm,2は、e2,1+Em−1,2 から、e2,2+Em−1,2 に更新される。ランキング番号i2は1つインクリメントされる(i2=3)。
このようにして、5つの信号点及び累積ブランチメトリックが算出される。実際には、16個の信号点候補が選択されるまで、上記のような処理が行なわれる。
図22は、様々なMLD法による二乗ユークリッド距離の計算回数を示す。この計算例では、4種類の送信信号が4本の送信アンテナから16QAM方式で送信され、受信機にてMLD方式で信号分離を行なうことが想定されている。従来の完全MLD(Full MLD)法、従来のQRM−MLD法及び本実施例によるQRM−MLD法の3つの方法が比較されている。図中、Smは、ある段階から次の段階へ出力される信号点候補数を示し、上記の実施例では16であった。シミュレーションでは、様々な信号点候補数Smに関する二乗ユークリッド距離の計算回数が調べられている。
完全MLDでは、4種類の送信信号の各々につき16通りの信号点の可能性があり、それら全ての組合せについて、二乗ユークリッド距離の計算が行なわれる。従って、計算回数の合計は、164=65536 回になる。従来のQRM−MLD法に関しては、各段階では、256(16×Sm)通りの組合せの内Sm個の信号点候補が選択される。第1段階では16通りの組合せしかない。従って、Sm=16の場合における二乗ユークリッド距離の計算回数は、16(第1段階)+16(前段階からの信号点候補数)×16(新たに加わる信号点候補数)×3(3つの段階)=784回になる。Sm=12の場合の計算回数は、16+12×16×3=592回になる。Sm=8の場合の計算回数は、16+8×16×3=400回になる。本実施例では、各段階から出力される信号点候補数と同数の二乗ユークリッド距離が、各段階で計算される。従って、Sm=128の場合の二乗ユークリッド距離の計算回数は、16(第1段階)+128(当該段階にて選択される信号点候補数)×1(16通りの内1つが選択される)×3(3つの段階)=400回になる。Smの値は16の8倍であるにもかかわらず、二乗ユークリッド距離の計算回数はSm=16の従来法の784回の半分程度で済む。Sm=61の場合の計算回数は、16+61×1×3=199回になる。Sm=28の場合の計算回数は、16+28×1×3=100回になる。Sm=16の場合の計算回数は、16+16×1×3=64回になり、Sm=16の従来法の場合よりも1/16に低減されている。このように、本発明の実施例によれば、二乗ユークリッド距離の計算を含む信号分離処理の演算負担を顕著に軽減することができる。
図23は、本実施例に関するシミュレーション結果を示す。シミュレーションで使用された主な条件は次のとおりである。
送信及び受信アンテナ数N: 4本
変調方式: 16QAM
ターボ符号化率R: 8/9
想定されるマルチパス数L: 6
遅延スプレッドσ: 0,26μsec
送信及び受診アンテナ間の相関性ρ: 0
図中、横軸は、受信アンテナ当たりの、情報1ビット当たりの信号電力対雑音電力比(Eb/N0)の平均を表す。縦軸は、平均ブロックエラーレート(BLER)を表す。×印は完全MLD法による計算結果を示し、これは限界値をに相当する。△印、▽印及び◇印は、Sm=16,12,8の場合の従来のQRM−MLD法による計算結果をそれぞれ示す。●印、■印、◆印及び▲印は、Sm=128,61,28,16の場合の本実施例によるQRM−MLD法による計算結果をそれぞれ示す。図示されるように、Sm=128,61の場合の本実施例による計算結果は、完全MLDに非常に近い結果になっていることが分かる。Sm=16の場合の本実施例による計算結果は、完全MLDよりもブロックエラーレートが増加している。しかし、二乗ユークリッド距離の計算が64回で済む本実施例による計算結果は、距離計算を592回行なう▽印の従来法(Sm=12の場合)や◇印の400回行なう従来法(Sm=8)の計算結果よりも優れている。
このように本発明の実施例によれば、信号分離精度を高精度に維持しながら二乗ユークリッド距離の計算回数を顕著に減らすことができ、演算負担の軽減及び演算効率の向上を図ることができる。
以上本発明による複数の実施例が説明され、それらはMIMO方式及び16QAMを採用する通信システムにおけるものであった。しかしながら、本発明はそのような態様に限定されず、QRM−MLD法を利用する信号分離装置及び方法に広く適用できる。即ち、本発明は、MIMOだけでなく、SIMO、MISO、SISOの何れの方式に使用してもよい。変調方式も16QAMに限定されず、QPSK、64QAMその他の多値変調方式に本発明を使用してもよい。上記の各実施例では、信号点配置図はデカルト座標で表現されていたが、別の座標系で表現された信号点配置図が採用されてもよい。例えば、極座標系で信号点配置図や各象限が表現されてもよい。
MIMO方式の通信システムの概要を示す図である。
MIMO方式の受信機の概要を示す図である。
QRM−MLD法を説明するためのフローチャートを示す。
本発明の一実施例による信号分離装置の概略的な機能ブロック図を示す。
本発明の一実施例による信号分離方法の一部を示すフローチャートである。
信号点配置図を示す図である。
ランキング済みの信号点を示す図である。
信号点配置図を示す図である。
ランキング済みの信号点を示す図である。
小区画に区分けされた信号点配置図を示す図である。
信号点配置図を示す図である。
信号点配置図を示す図である。
信号点配置図を示す図である。
小区画に区分けされた信号点配置図を示す図である。
信号点配置図を示す図である。
小区画に区分けされた信号点配置図を示す図である。
ランキング済みの信号点を示す図である。
小区画に区分けされた信号点配置図を示す図である。
本発明の一実施例による信号分離装置の機能ブロック図を示す。
本実施例による動作を表すフローチャートである。
本発明の一実施例おける動作例を説明するための図である。
様々なMLD法による二乗ユークリッド距離の計算回数を示す図である。
シミュレーション結果を示す図である。
別のランキング方法を説明するための図である。
別のランキング方法の手順を示すフローチャートである。
符号の説明
102 送信機; 104 受信機; 106−1〜N 送信アンテナ; 108−1〜N 受信アンテナ;
202 信号検出部; 204 チャネル推定部;
502 象限検出部; 504 信号点選択部; 506 座標変換部; 508 ランキング部;
1901−1〜N 第1〜第N供給部; 1902 信号点供給部; 1904−1〜N 二乗ユークリッド距離計算部; 1906−1〜N 加算部; 1908 選択制御部