JP4638040B2 - 人の認知能力を予測する方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、個人の認知能力をその個人のそれまでの睡眠/覚醒履歴および活動時間に基づいて予測する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
任意の労働環境における生産性を維持することは、命令/監督あるいは管理から個々の兵士又は労働者までの全てのレベルにおいて、効果的な認知能力に依存している。効果的な認知能力は一方において、複雑な精神作用に依存する。多くの要因が、認知能力に影響を与えることが示されてきた(例えば薬物や年齢など)。しかし、認知能力の日毎の変化を生じる無数の要因の中で、2つの要因が最大の影響を与えることが示された。それは個人のそれまでの睡眠/覚醒履歴と1日の中での時刻である。
【0003】
十分な睡眠は、認知能力を維持する。睡眠が不足すると、認知能力は時間とともに低下する。Thorneらによる「72時間に及ぶ重労働を課せられた人の能力限界を探る」(軍事システムにおける限界要素としての人に関する第24回DRGセミナー記録、Defense and Civil Institute of Environmental Medicine, pp.17-40(1983))、ニューハウスらによる「長時間完全に睡眠を妨げられた後の覚醒、認知および気分に対するdアンフェタミンの影響」(Neuropsychopharmacology, vol.2, pp.153-164(1989))、およびニューハウスらによる別の報告「長時間睡眠を妨げられた後の能力および挙動に対する覚醒剤の影響:アンフェタミン、ニコチンおよびデプレニルの比較」(Military Psycology, vol.4, pp.207-233(1992))はすべて、正常な自発的被験者の調査結果を述べたものであり、コンピュータを使用した試験および複雑な動作シミュレーションによる測定に基づいて、完全に睡眠を妨げられた状態が継続した場合、認知能力の激しく累積的な低下が見られることを明らかにした。デンゲスらは「1週間の間1日4、5時間に睡眠が制限された場合の累積的な睡眠不足、気分の変化および精神運動的注意力の低下」(Sleep,vol.20,pp.267-277,(1997))という報告の中で、毎日の睡眠時間を制約された時間に固定した場合、累積的な睡眠不足もまた認知能力の低下をもたらすことを明らかにした。従って、作業をする場面では民間であると軍隊であるとを問わず、睡眠不足は認知に関わる仕事の生産性(単位時間当たりの有用な仕事量)を低下させる。
【0004】
そこでコンピュータを使用した認知能力試験により、24時間眠らずにいる状態にあると、完全な睡眠剥奪は人の認知能力を毎回約25%低下させることが示された。しかし、わずかな時間でも眠ると、睡眠不足による認知能力の低下割合が緩和されることも示された。ベレンキーらは「連続作戦中の能力維持:米国陸軍の睡眠管理システム」(第20回軍事科学学会議事録、vol.2,pp.657-661、(1996))において、24時間ごとに30分の仮眠を1回取るだけで、85時間に及ぶ睡眠剥奪の期間中、認知能力の低下率を17%まで緩和させることを示した。このことは、睡眠中の認知能力の回復は、睡眠の初期に最も急速に起きることを示している。認知能力の正常な日々の変化に対してこれほど大幅に、また一貫して影響を与える要因は、睡眠の量以外にはない。
【0005】
睡眠/覚醒履歴の他に、任意の時点での個人の認知能力は、活動時間によって決定される。1950年代の初頭に、フランズ・ハルバーグとその同僚が、人の一連の生理的(体温と身体活動を含む)、血液学的およびホルモン機能の24時間周期を観察し、この周期のリズムを示す「概日(circadian)」(「ほぼ1日」を意味するラテン語)という言葉を作った。ハルパーグは、実験データに含まれるノイズのほとんどは、1日の異なる時刻でサンプリングされたデータの比較から生じたものであることを示した。
人が夜間の睡眠/日中の覚醒サイクル(例えば、ほぼ深夜に就寝する場合の8時間睡眠/16時間覚醒サイクル)に従うと、体温は通常午前2時から午前6時の間に最低(谷)になる。その後、体温は上昇し、通常、午後8時から午後10時の間に最高(ピーク)になる。同様に、人の認知能力の1日のリズムの系統的な調査により、反応速度は1日の間にゆっくりと向上し、夜(通常午後8時から午後10時の間)に最高になり、その後急速に低下して未明(通常午前2時から午前6時の間)に最低になることが示されている。様々な認知能力作業に関する試験により、これと類似しているがそれほど一定していないリズムが示された。従って、完全な睡眠剥奪が認知能力に与える上記の影響の上に、各24時間周期での認知能力の約±10%の変化が重ね合わされた。
【0006】
種々の指標が、認知能力とある程度の相関を持つことが示されている。それらの中には眠気(あるいは反対の覚醒度)の客観的および主観的な指標が含まれる。この分野に詳しい者の中には、「眠気」という言葉を「覚醒度」の反対の意味に使用する者がいる(本書でもその意味で使用する)。「眠たい状態」が「眠気」と同じ意味に使われることが多いが、この分野に詳しい者の中には「眠気」とは睡眠を必要とする生理的な状態を意味し、「眠たい状態」は眠りに入る傾向または可能性(生理的な睡眠の必要性とは関係なく)、あるいは覚醒度の不足の自覚症状を意味すると主張する者がある。専門外の人々は「疲労」を「眠気」と同意語として使うが、この分野に詳しい者は、「疲労」を「眠気」と同じ意味とは考えず、「疲労」は睡眠不足が本質的に能力に与える単なる影響以上のことを網羅した広い概念であると考えている。同様に、「認知能力」は広範囲の多様なタスクをこなす能力として定義されてきたが、最も一般的には警戒状態におけるタスク(注意の持続を要する仕事)の意味に使われる。警戒およびその他のタスクから、ある研究者達は認知能力を測る指標として正確さを取り、別の人達は反応時間(あるいはその逆数の速度)を取る。また別の人達は速度に正確さを掛け合わせた指標を使用するが、これは単位時間に行われた有用な仕事の量(スループットとも呼ばれる)である。この分野に詳しい者には、警戒を要するタスクは睡眠を剥奪された条件の下での認知能力の指標として適切であり、反応時間(又は速度)又は反応時間を考慮した指標(例えばスループット)は、認知能力を測定する上で有用かつ信頼できる指標であるという点で、一般的な合意がある。
【0007】
多重睡眠予備期試験(MSLT)は、眠気/覚醒度の客観的な指標として広く受け入れられている。MSLTでは、被験者は暗くした静かな寝室に横になって眠ろうとする。睡眠又は覚醒状態にあることを示す様々な生理的指標(眼球の動き、脳の活動、筋肉の緊張)を記録し、ステージ1(軽い)睡眠の最初の30秒に入るのに要する時間を測定する。ステージ1までの予備期間が短いということは、強い眠気(覚醒度の低さ)を示すと考えられる。予備期間が5分未満の場合は病的(睡眠障害又は睡眠剥奪を示す)と考えられる。完全睡眠剥奪と部分的睡眠剥奪のどちらの場合でも、MSLTにおける睡眠までの予備期間(覚醒度)および能力が低下する(すなわちMSLTで測定される眠気が増大する)。しかし、MSLTで求められた眠気/覚醒度と認知能力との間に相関がある(MSLTで示される眠気の程度の大きさが低い認知能力に対応する)にもかかわらず、この相関が完全であると示されたことはなく、またそのほとんどにおいて強いものではない。そのため、MSLTは認知能力の予測指標としては優れたものではない(信頼性が低い)。
【0008】
眠気/覚醒度の主観的な指標も、認知能力との相関(弱いとしても)を持つことが示された。ホッデスらは「眠気の数量化:新たなアプローチ」(Psychophysiology,vol.10,pp.431-436,(1973))において、眠気/覚醒度の測定に広く利用されている主観的質問票であるスタンフォードの眠気スケール(SSS)について説明している。SSSでは、被験者は現在の自分の眠気/覚醒度のレベルを1から7までで判定する。1は「活動的で生き生きしていると感じる、注意力があり、完全に目が覚めている」を意味し、7は「ほとんど夢うつつ、すぐに眠れる;もうそろそろ起きていられない」を意味する。SSSの点数が高いことは眠気が強いことを示す。MSLTと同様に、完全睡眠剥奪と部分的睡眠剥奪のどちらの場合でもSSSの点数は増加する。しかし、MSLTと同様に、SSSで求められた眠気/覚醒度と認知能力の低下の間の相関は弱くて一定していない。従って、SSSもまた認知能力の予測指標としては優れたものではない。眠気/覚醒度の主観的指標の他の例としては、ジョーンズが「日中の眠気、いびきおよび睡眠時呼吸障害」(Chest,vol.103,pp.20-36,(1993))で述べたエプウォース眠気スケールと、アカーステッドとギリパーグが「活動的な個人における主観的および客観的な眠気」(International Journal of Neuroscience,vol.52,pp.29-37,(1990))において述べたカロリンスカ眠気スケールがある。これらの主観的な指標と認知能力との間の相関もまた弱くて一定していない。
【0009】
さらに、認知能力を変化させる要因は、それに対応した影響を眠気/覚醒度の客観的および主観的指標に対して与えない可能性があり、その逆も言える。例えばペネターらは「完全な睡眠剥奪後の回復睡眠へのアンフェタミンの影響」(Human Psychopharmacology,vol.6,pp.319-323,(1991))において、睡眠剥奪中、覚醒剤dアンフェタミンは認知能力を向上させるが、眠気/覚醒度(MSLTで測定されたもの)は向上させないと報告している。同様の研究で、睡眠剥奪対策として与えられたカフェインは、12時間以上にわたって認知能力を高いレベルに維持し、主観的な眠気、活力および疲労は一時的に改善したがその後低下した。ソーンらは「72時間に及ぶ重労働を化せられた人の能力限界を探る」(軍事システムにおける限界要素としての人に関する第24回DRGセミナー記録、Defense and Civil Institute of Environmental Medicine, pp.17-40(1983))において、72時間の睡眠剥奪の間に認知能力がどのように低下し続けたか、また一方で主観的な眠気/覚醒度は最初の24時間を越えると低下したが、その後はほぼ一定レベルを保ったことを報告している。認知能力と眠気/覚醒度の指標が同じように影響されるのではないというこの知見は、これらが同じものを意味するのではないことを示している。すなわち、眠気/覚醒度という指標は認知能力の予測に利用できず、またその逆も言えるということである。
【0010】
覚醒度の検出に関する方法および装置は、基本的に、現在の覚醒度レベルを非強制的にモニターする方法/装置、現在の覚醒度レベルを非強制的にモニターしながら、覚醒度が低下した場合はユーザーに警告を発しかつ/又はユーザーの覚醒度レベルを高める方法/装置、二次的なタスクへのユーザーの反応に基づいて、可能であれば覚醒度が低下した場合はユーザーに警告を発しかつ/又はユーザーの覚醒度レベルを高める装置を備えて現在の覚醒度レベルをモニターする方法/装置、覚醒度を高める方法、および過去、現在又は未来の覚醒度を予測する方法/装置の5種類に分けられる。
【0011】
非強制的に現在の覚醒度レベルをモニターするこれらの方法および装置は、「埋め込み指標」的なアプローチに基づいている。すなわち、これらの方法は、覚醒度/眠たい状態と相関があると仮定されるいくつかの要因(例えば眼球の位置または瞼を閉じる)の現在のレベルから覚醒度/眠たい状態のレベルを推定する。最近交付されたこのタイプの特許には、瞼の閉鎖と鼻および口の周囲の温度とを検出する装置を開示したJ.クラークSr.らの米国特許第5,689,241号、瞼の閉鎖を検出する装置を開示したK.マニックの米国特許第5,682,144号、および眼球の定位および運動を観察して眠気を検出する装置を開示したC.リアングらの米国特許第5,570,698号がある。これらのタイプの方法および装置の明らかな欠点は、覚醒度のわずかな低下ではなく、睡眠の始まりそのものを検出することである。
【0012】
いくつかの特許では、覚醒度/眠たい状態の埋め込みモニターの方法と、覚醒度が低下した場合はユーザーにそれを知らせ、かつ/又は覚醒度を高める方法とが組み合わされている。最近交付されたこのタイプの特許には、車両の運転者の頭の位置と動きを感知して、現在のデータを「正常」な頭の動きおよび「能力が低下した」頭の動きの分析と比較する装置を説明したP.キシルの米国特許第5,691,693号がある。警告装置は、頭の動きが所定の方法で「正常」から外れたときに起動される。R.グウィンらの米国特許第5,585,785号は、車のハンドルを握る全圧力を測定して、握る圧力が眠気を示すある所定の「下限」よりも低下したときに警報を発する装置および方法について述べている。H.バングの米国特許第5,568,127号は、警報装置にユーザーの顎が接触したことで眠気を検出して、触覚および聴覚による警報を発する装置について述べている。J.ホブソンらの米国特許第5,566,067号は、瞼の動きを検出する方法および装置について述べている。検出された瞼の動きが所定の閾値から外れると、出力信号/警報(好適には音声)が発せられる。第一の区分の方法および装置と同様に、これらの欠点も、覚醒度のわずかな低下ではなく睡眠の始まりそのものを検出することである。
【0013】
その他の覚醒度/眠たい状態のモニター装置が、「一次的/二次的作業」アプローチを基礎として開発された。例えば、E.ゴズランらの米国特許第5,595,488号は、関心のある一時的な作業(例えば運転)をしているユーザーが、その間に反応しなければならない(二次的な作業)聴覚的、視覚的又は感覚的な刺激を与える装置および方法について述べている。二次的な作業への反応が、基準の反応「注意」レベルと比較される。A.マクレーンの米国特許第5,259,390号は、比較的穏やかな振動刺激に対してユーザーに反応させる装置について述べている。刺激に対する反応速度が、覚醒度レベルの指標として利用される。この装置の不利な点は、この装置が覚醒度を推測するために二次的な作業への反応を要求し、それにより一時的な作業に対して変化および多分な干渉をもたらすという点である。
【0014】
他の方法はもっぱらユーザーが覚醒度レベルを自己評価して、自分が眠くなっていると感じた時に装置を起動するという、ユーザーに依存して覚醒度レベルを上げるものである。後者の一例であるM.フクオカの米国特許第5,647,633号および関連特許では、ユーザーが眠気を検知した場合にユーザーの座席を振動させる方法/装置が述べられている。かかる装置の明らかな欠点は、ユーザー自身が現在の覚醒度レベルを正確に自己評価しなければならないことと、ユーザーがこの評価に基づいて正しく行動できなければならないことである。
【0015】
覚醒度を修正することが経験的に知られているユーザーによる入力に基づいて覚醒度レベルを予測する方法も存在する。M.ムーアー−エドらの米国特許第5,433,223号は、覚醒度の変化に何らかの関連がある様々な要因(「現実」要因と呼ぶ)の数学的な計算に基づいて(過去、現在又は未来の)特定の時刻に個人が持つと考えられる覚醒度レベルを予測する方法について述べている。まず、5点の入力に基づいてその個人の基準覚醒度曲線(BAC)が求められ、これが安定した環境で示される最適な覚醒度曲線を表す。次に、覚醒度修正刺激によりBACが修正され、修正基準覚醒度曲線が求められる。従って、この方法は認知能力ではなく、個人の覚醒度レベルを予測する手段である。
【0016】
仕事に従事した時間の長さの関数として「仕事に関わる疲労」を予測するために、別の方法が開発された。フレッチャーとドーソンは、「就労時間に基づく仕事に関わる疲労予測モデル」Journal of Occupational Health and Safety, vol.13, 471-485,(1997)で彼らの方法を述べている。このモデルでは、単純化した仮定がなされている。つまり、仕事に従事した時間の長さは、起きていた時間と正の相関があると仮定したのである。この方法を実施するには、ユーザーは実際の、又は仮説の就業/非就業(仕事/休憩)スケジュールを入力する。このモデルからの出力は、「仕事に関わる疲労」を示す点数である。この「仕事に関わる疲労」を示す点数は、いくつかの能力指標と相関していることが示されたが、認知能力そのものの直接的な指標ではない。就業時間と覚醒時間の間に存在すると仮定された関係が壊れる場合、例えばある人が短時間のシフトに従事した後、家で眠るのでなく作業に時間を使ったり、あるいはある人が長時間のシフトに従事した後に家で使える時間全てを睡眠に当てる等の状況では、疲労の点数は正確でなくなることが理解される。この方法はまた、就業/非就業情報を非強制的な記録装置から自動的に抽出するのではなく、ユーザーがその情報を入力しなければならないという点で、強制的である。さらに、このモデルは就業時間に基づいて「疲労」を予測することに限定されている。総じて、このモデルは、シフトの長さが常に睡眠時間と(逆に)相関しているような仕事に関連した状況に限定されている。
【0017】
認知能力を求める(そして生産性又は効率を推定する)上での睡眠時間と活動時間の重要性と、またほとんどの職業において認知能力に対する要求が高まっていることを考えれば、認知能力の予測の信頼性が高く正確な方法を構築することが望まれる。適切な入力の数を増やせば、認知能力の予測精度が向上することが理解できるであろう。しかし、かかる入力から得られる相対的な利益は、それを収集および入力する負担/コストの増加と比較考量されなければならない。例えば、ある種の香りが覚醒を強める特性を持っていることが示されたが、これらの効果は一定したものではなく、個人の睡眠/覚醒履歴および活動時間が持つ強い影響と比べれば無視できるものである。より重要なことは、香りが認知能力に与える影響が理解されていないことである。個人に香りをかいだ記録を取るように要求することは、その個人に無駄な時間を使わせることになり、認知能力を予測する精度に関してはわずかな利益しか得られないであろう。それに加えて、睡眠/覚醒履歴および活動時間が認知能力に与える影響はよく知られているが、覚醒度に影響すると一般に考えられているその他の要因(例えば仕事上のストレスや仕事の負荷)の影響、それらをどの様に測定するのか(それらの作業上の定義)、およびそれらが作用する方向(認知能力を強化するか、あるいは低下させるか)は、事実上全くわかっていない。
【0018】
本発明と従来技術の間の重要かつ決定的な相違は、本発明が認知的な要素を含むタスクに関する能力を予測するモデルであるという点である。それに対して、睡眠および/又は概日リズム(約24時間)が関わる従来のモデルは、「覚醒度」又は「眠気」の予測を中心とするものであった。後者は認知的タスクを遂行する能力ではなく、睡眠に落ちようとする傾向に特に関連する概念である。
眠気(又はその反対の覚醒度)は、認知能力につながる中間的な変数であると見なすことが出来るが、科学的な文献は認知能力と覚醒度が概念的に異なることを明確に示している。例えば、ジョーンズが「眠気の評価再考」Sleep Medicine Reviews, vol. 2, pp.3-15, (1998)において検討し、またミルターらが「眠気の試験方法」Behavioral Medicine, vol. 21, pp.171-183, (1996)でそれを検討している。トーマスらは「長時間の睡眠剥奪の局所的脳代謝への影響」Neurolmage, vol.7, p.S130, (1998)において、1〜3日眠らないと、局所的脳グルコース摂取量で見た脳全体の活動が約6%減少することを報告している。しかし、最も高次の認知機能(注意、警戒、状況の理解、計画、判断および意志決定を含むが、これらに限定されない)を司る領域(異種モード連合皮質)は、3日間眠らずにいた後は、はるかに高い程度(最大で50%)に選択的に非活性化される。従って、睡眠の制限/剥奪の間の神経生物学的機能の低下は、認知能力の低下に直接的に反映される。これらの知見は、最も高次の認知能力、特に注意や計画立案等を必要とするタスク(異種モード連合分野が介在する能力)が特に睡眠不足に影響されやすいことを示した研究結果と一致するものである。他方、一次感覚領域のような脳の領域が非活性化される程度はより低い。それに付随して、これらの領域に依存する能力(例えば視力、聴力、体力および耐久力)は、睡眠不足によってほとんど影響されない。
【0019】
従って、「覚醒度」そのものを予測する装置又は発明(例えばムーア−エドらのもの)は、任意の時点で眠りに入る脳の基本的な傾向を推定に基づいて数量化するものである。つまり、「覚醒度」(あるいはその反対の「眠気」)を予測する装置又は発明は、眠りに入ろうとする傾向の強さを予測するものである。本発明は、その様なアプローチとは異なり、タスクの性質を考慮する、すなわち、予測するのは眠りに入ろうとする傾向ではない。そうではなく、本発明では、睡眠剥奪によって最も影響される脳の領域(脳の異種モード連合分野)への依存度に関して、特定のタスクの遂行能力がどの程度損なわれるかを予測するのである。最も望ましい方法では、個人の睡眠/覚醒履歴および活動時間に基づいて信頼性が高く正確な認知能力の推定を行う。
【0020】
【発明の開示】
本発明の1つの特徴は、直接的な人間工学的および経済的な利点を持つ認知能力、すなわち個人の生産性又は効果の高さの指標の予測を数値的に表すと言うことである。本発明の別の特徴は、認知能力に関して、間接的、中間的、推論的あるいは仮説に基づいた付随的な測定/計算を必要とせず、また利用しないということである。後者の例として、覚醒度、眠気、睡眠開始までの時間、体温および/又は時間と共に変化するその他の生理的パラメータがある。本発明のさらに別の特徴は、任意の原因による認知能力の一時的又は偶発的な変化について、その原因が睡眠/覚醒履歴(例えば年齢)および/又は1日の中での活動時間(例えば仕事のシフト)にどの様に影響するかの結果として生じる場合に、それを考慮に入れるという点である。実際上、その様な原因は睡眠/覚醒履歴および/又は活動時間とは独立した認知能力に影響するものとは扱われず、従って、別個測定、要約、およびこの方法のデータとして入力する必要がない。
【0021】
本発明の1つの目的は、個人の認知能力を予測する正確な方法を提供することである。
別の目的は、将来予想される睡眠/覚醒履歴が認知能力に与える影響の予測を可能にする方法(前方予測)を提供することである。
別の目的は、個人の睡眠/覚醒履歴と活動時間に基づいて、考えられる過去の認知能力の過去に遡った分析を可能にする方法を提供することである。
【0022】
さらに別の目的は、個人および/又は個人のグループについて予測された認知能力の正味の最適値を得るために、利用可能な睡眠/覚醒時間を調整および最適化する方法を提供することである。
この方法の暗黙の利点および新規性は、利用する変数を限定していることである点が理解されるであろう。この方法は、(経験的に示された)最大の予測的価値を持つ要因を、絶えず更新される入力として利用する。そのため、このモデルは単純に実施することができる。「覚醒度」を予測する他のモデルは、多数の入力変数(例えばカフェイン、アルコール摂取、周囲の明るさ/暗さ、日周タイプ)を追跡することをユーザーに要求するものであり、最大の認知能力の変化を説明する要因に基づく標準的で単純化されたモデルへのオプション的な「付属データ」としてこれらの入力を示すのではない。例えば、本発明の方法の一部によれば、認知能力に対する年齢の影響は、経験的に導かれた年齢の睡眠への影響を通じて暗黙の形で考慮されている。すなわち、睡眠の質は年齢と共に低下すると言うことである。加齢による睡眠の質の本来的な低下によって、個人の年齢がわからなくても、潜在的な形で認知能力の低下が予測できる(この方法では、睡眠の質の低下は、認知能力の低下の予測をもたらすから)。したがって、年齢は認知能力予測モデルへの別の入力変数を構成する必要がない。
【0023】
本発明は、また、別の大きな利点を持つ。例えば、本発明の利点は、経験的な評価を不要にする点である。
本発明の別の利点は、個人の認知能力の正確な予測が得られることである。この利点は、認知能力に大きな影響を与えることが経験的に示された2つの要因、すなわち(1)個人の睡眠/覚醒履歴および(2)活動時間(ここで「日」は夜間と日中の両方を含む24時間を意味する)を組み込んだ方法によって達成される。
【0024】
本発明によって実現する別の利点は、現在の認知能力の正確な予測である。
本発明によって実現する別の利点は、認知能力のリアルタイムの予測が可能だという点である。
本発明によって実現するさらに別の利点は、仮説的な将来の睡眠/覚醒期間に基づいて、将来に予想される1日を通じての認知能力を予測することである。
本発明によって実現する付加的な利点は、与えられた時点での認知能力の過去に遡った分析を行うことである。
【0025】
本発明の別の利点は、標準データを認知能力の予測の基礎にしない(つまり出力のために「ルックアップテーブル」を必要としない)ということで、代わりに個人の睡眠/覚醒情報と活動時間とに基づいて直接計算されるということである。
本発明の別の利点は、固定した任務/仕事スケジュールに基づいて、個人の未来の睡眠/覚醒スケジュールを最適化するのに利用できるという点である。従来の方法と装置は、仕事のスケジュールおよび/又は任務を、個人に適合するように修正することに向けられていた。しかし、ほとんどの場合、仕事のスケジュールおよび/又は任務は固定されている。従って、仕事のスケジュール又は任務を個人に適するように修正することは、現実的でないか又は不可能である。本発明に組み込まれたもっと理にかなったアプローチは、仕事/任務の要求を満たすように、個人が自分の睡眠/覚醒期間を調整することが出来るようにすることである。従って、この方法は、仕事から離れている時間、又は覚醒度のような認知能力の間接的な指標を使って就業時間を規制する代わりに、就業時間を直接的に適用可能な測定量(認知能力)に規制する手段を提供することにより、もっと実際的なものを与える。
【0026】
本発明の特徴は、個人の睡眠/覚醒履歴と活動時間とを、そのまま利用でき、自明のインデックスに変換するグラフィック表現を提供することである。「覚醒度」や「眠気」の予測とは異なり、認知能力の予測はそれ以上の解釈を必要としない。
本発明に基づいて人の認知能力を予測する方法は、上記の目的を達成し、上記の利点を実現するものである。この方法およびそれによる装置は、広範囲の状況と様々なタイプの入力に対して容易に適合する。
【0027】
本発明のある態様によれば、個々の睡眠/覚醒履歴は、処理装置に入力される。処理装置は、睡眠/覚醒履歴の個々のデータを睡眠か覚醒かによって分類する。データの分類に基づいて、処理装置は、個人の現在の状態に対応する認知能力の容量を選択して計算し、認知能力の容量は活動時間によって修正して、認知能力の容量を予測された認知能力に調整する。予測された認知能力は、認知的なタスクを遂行する個人の能力を表すものである。予測された認知能力は、リアルタイム表示又は曲線の一部として表示され、表示されたであろう情報と共に印刷され、及び/又は後の検索利用のために保存される。認知能力の容量の計算は、眠っていることと起きていることの相互関係が認知能力に及ぼす影響をモデル化する機能を基礎として行われる。活動時間の関数は、個人の概日リズムが認知能力に及ぼす影響をモデル化する。
【0028】
本発明の基礎となる方法によれば、この方法は、様々な種類の装置を使って実現できる。可能な装置の実施形態の例としては、専用装置又はコンピュータ内蔵の装置としての電子的ハードウェア、コンピュータで利用できるようにコンピュータでの読み取り可能な形に実現されたソフトウェア、メモリ又はコンピュータ利用のためのプログラムチップ、あるいは専用装置に内蔵されたソフトウエア、あるいはハードウェアとソフトウェアの両方を組み合わせたものが含まれる。専用装置は、専用装置の目的を補完するより大きな装置の一部であっても良い。
【0029】
添付図面を参照すれば、当該技術に関して通常の知識を持つ者には本発明の内容が明白となるであろう。
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明は、その時点までの睡眠および覚醒の長さの結果として、またさらに活動時間の関数として、過去、現在又は未来の任意の時点での認知能力を予測する方法に関する。この方法は、個人の認知能力について、時間の連続関数としての数値的な予測を計算する。この計算(以下で説明する)は、(1)完全に目覚めている間の認知能力の連続的な低下、(2)睡眠中の認知能力の回復、および(3)活動時間中の認知能力の周期的な変化の間の、経験的に導かれた数学的な関係に基づいている。
【0031】
本発明によれば、任意の時点で予測された認知能力を示す数値が、図1(a)−4(b)に示すように与えられる。図1(a)−1(b)に示すように、予測された認知能力は、科学的に制御された条件下での認知能力の直接的な測定から経験的に導かれた関数を使って、3つの概略の工程で得られた一連の計算の結果と等しい。図2に示す最初の工程では、1組の関数を使って図3(a)−(c)に図示したような認知能力容量のレベルとして示される初期値を計算する。認知能力容量のレベルが計算されると、第2の工程で図1(b)でG8、また図4(b)でS8として表された、事前に計算された活動時間モジュレータMを計算又は使用する。第3の工程には、第1および第2の工程の結果の数学的な組み合わせが含まれ、図1(a)のブロック図および図1(b)のグラフで示される認知能力の予測が得られる。
【0032】
図2−4(b)に示す認知能力容量のレベルの計算に使われる睡眠/覚醒履歴には、4つの関数が関係する。覚醒関数w(t)は、起きている時間と認知能力の低下の間の経験的に導かれた関係を数量化する。睡眠関数s(t)は、睡眠時間と認知能力の維持および/又は回復の間の経験的に導かれた関係を数量化する。まとまった時間の覚醒または睡眠の間に作用するこれら2つの一次関数に加えて、一方の状態から他方の状態への移り変わりの間に短時間に作用する他の2つの関数がある。それは回復遅延関数d(t)と睡眠惰性関数i(t)である。回復遅延関数d(t)は、覚醒から睡眠への遷移と認知能力の回復との間の関係を表す。この関数は、図3(b)に示されるステージ1の睡眠と呼ばれる、覚醒に続く睡眠初期の段階で作用する。睡眠惰性関数i(t)は、睡眠から覚醒への遷移と認知能力との間の関係を表す。この関数は、図3(c)に示されるように睡眠後の覚醒状態の初期に作用する。これらの関数s(t),w(t),d(t),i(t)は、特許請求の範囲に、それぞれ「睡眠関数」、「覚醒関数」、「遅延関数」、「睡眠惰眠関数」として記載されている。
【0033】
認知能力に対する活動時間Mの影響を表す関数は、変調因子を計算するのに使われる。活動時間関数は、活動時間(24時間の期間の中での時点)と、図1(b)においてG8で示される1日の間の認知能力の変化との間の経験的に導かれた関係を示す。
第1および第2の工程の結果を組み合わせて、第3の工程における単一の予測された認知能力曲線Eを得るには、図1(b)で乗算として示された数学的演算が使われる。
【0034】
この方法に入力されるデータS2には、個人の睡眠/覚醒履歴の表現が含まれる。睡眠/覚醒履歴は、地方時間に基づく時系列又は時間的な記録である。連続する各期間、介在期間又はエポックは、互いに相反する状態すなわち覚醒と睡眠という2つの状態の一方を示す。この入力の例として、(1)自己評価に基づく睡眠/覚醒時間、例えば、個人が睡眠日誌又は睡眠ログに記録したもの、(2)観察者の評価に基づく睡眠/覚醒時間、例えば、個人を観察する者が記録したもの、または(3)客観的にモニターされた睡眠/覚醒時間、例えば、ポリソムノグラム、活動モニターで記録されたもの、あるいは空圧、音響、生化学、電気生理学的その他のセンサーから推定されたものがあるが、これらに限られない。かかる睡眠/覚醒履歴は、必ずしも過去に発生したという意味で「歴史的」である必要はなく、例えば、仮説的、予測的、理想化された、又は想定されたものであって良い。特に後者は、この方法の予測的な利用にとって適切である。
【0035】
睡眠と覚醒度を測定する最高の基準は、ポリソムノグラフィー(PSG)である。PSG睡眠評価は、脳波図形(EEG)、眼球電位図(EOG)および筋電図のデータを同時に記録するか、あるいは少なくともそれらのデータを後で同期させる(典型的には時間マークを入力するか時間にリンクさせることにより)ことが出来るような方法で記録することに基づいている。これらの信号は、後でエポックを基準にして(各エポックは従来PSGについては30秒の長さとされている)目視検査を行って、個人の睡眠および覚醒のステージを決定する。ポリソムノグラフィーによる睡眠評価は、覚醒状態、ノンレム睡眠(非急速眼球運動睡眠:NREM)およびレム睡眠(急速眼球運動睡眠:REM)を識別するが、ノンレム睡眠は、さらに、特性EEGマークに基づいて4段階に分けられる(ステージ1、2、3および4)。PSGは、記録装置に接続されたセンサー又は電極を個人に取り付けることを必要とするので、応用的な状況(例えば、運転中、仕事中又は戦場)において睡眠および覚醒状態を決定するには実際的な方法ではない。現在PSG評価を行う上で受け入れられている唯一の方法は、EEG、EOGおよびEMGの測定結果を目視検査することである。
【0036】
現在では、PSG評価にコンピュータを使用する場合は、コンピュータによる評価は米国睡眠障害協会に認可されていないので、通常は人間が結果をチェックして評価の正確さを保証している。また、最近では、高速フーリエ変換を使ってスペクトル分解されたPSG又は類似のデータにより、PSG評価よりも良い睡眠の測定が得られるかどうかを、研究者達が検討している。
睡眠および覚醒状態を識別する好適な方法は、携帯可能で非強制的で信頼性があり、その記録を自動的に評価出来る装置である。そのような方法の1つは、移動活動をモニターするもの、つまりアクティグラフィーである。移動活動装置は、典型的には利き腕でない方の手首に装着されるが、個人の他の部位にも取り付けられる(例えば足首)。利き腕でない方の手首に装着した場合、これらの装置は、PSGによって得られる標準的なものと比べても正確に睡眠および覚醒状態を数量化できることが示された(90%もの高い信頼性)。
【0037】
アクティグラフィーのデータを評価する上で最も広く採用されている方法は、コールらによって開発され、「手首アクティグラフィーによる睡眠/覚醒の自動的識別」Sleep, vol. 15, pp.461-469, (1992)に述べられたアルゴリズムである。コールらのアルゴリズム(コール−クリプケ・アルゴリズムとも呼ばれる)のような、良い結果を上げているアクティグラフィーによる睡眠評価アルゴリズムは、通常の(零交差数)アクティグラフと共に使用するものであり、いくつかのアルゴリズムは、ある閾値よりも高いカウント数の説明を与える。これらのアルゴリズムは、単純な睡眠と覚醒の識別を行うことに限定されており、睡眠状態の中での睡眠段階の変化(例えば、ステージ1からステージ2へ、またはステージ2からレム睡眠へ)は識別できない。従って、そのようなアルゴリズムは、回復睡眠(ステージ2、3、4およびレム)を非回復睡眠(ステージ1)と区別することは出来ない。
【0038】
もっと最近になって、ディジタル信号処理(DSP)アクティグラフの開発が始まった。DSPアクティグラフでは、従来の零交差数あるいは閾値を超えたカウントだけでなく(ただし従来のアクティグラフで得られるこれおよびその他の情報も保持されるが)、はるかに多くの情報が得られるので、異なる睡眠段階を識別する可能性がある。従って、DSPの睡眠評価システムは、コール−クリプケ・アルゴリズムの代わりになるだけでなく、それを時代遅れにしてしまうであろう。DSPアクティグラフを利用して得た経験的データのDSPデータベースが増加すれば、DSP用の睡眠評価システムが開発されるであろう。
【0039】
自動化されたアクティグラフィー評価のための他のアルゴリズムと方法が、例えば、ジャン−ルイら(1996)、Sadehら(1989)、およびジサペルら(1995)などによって開発された。これらの評価システムは、それぞれ、大きな可能性、特にアクティグラフで記録された睡眠障害又は他の医学的な問題を持つ個人の睡眠/覚醒状態を評価する可能性を持っている。現在利用できる評価システムは、技術的な面、例えば、以前および以後のエポックでの活動のカウントが、どの程度まで現在のエポックの評価に影響するか、また各評価システムの基礎となる数学的原理などに違いがある。
【0040】
睡眠/覚醒履歴は好適にはデータ列の形を取る。睡眠/覚醒履歴には、個人の過去、現在および/又は未来の(予測された)睡眠/覚醒パターンを含むことができる。睡眠/覚醒履歴は、個人が眠っているか目覚めているかという状態を表すもので、複数のエポックに分けられる。各エポックは、同じ長さであるが、データの収集に使用される方法と装置の制約および/又は睡眠/覚醒パターンに求められる精度に応じて、任意の長さにすることができる。PSG又は類似の評価は、個人の睡眠/覚醒履歴に変換できる。
【0041】
認知能力の予測精度は、睡眠/覚醒履歴の入力の精度および個人の睡眠/覚醒状態の解釈に使用される睡眠評価システムに直接関連するものであることが理解されるであろう。精度が悪くなる1つの原因は、入力エポック又は介在時間の時間的分解能の問題である。すなわち、入力エポックが短いほど、時間分解能は高く、またその結果、睡眠/覚醒入力の瞬間から瞬間への精度が高くなる。例えば、アクティグラフでは、エポックの最も効果的な長さは1分であることが過去の経験によって示されている。精度が悪くなる別の原因は、睡眠/覚醒の識別そのもののあいまいさである。履歴の入力があいまいな場合(つまり眠っているのか目覚めているのかがはっきりしない場合)、認知能力の予測値の計算を可能な各状態(睡眠又は覚醒)について1回づつ、計2回行って、予想される認知能力の可能な範囲を示す2重の出力を得ることが出来る。睡眠/覚醒履歴に含まれるあいまいさが1つ以上ある場合は、2重出力をさらに分割すればよいと言うことは、この分野で通常の技術を有するものであれば理解できるであろう。この方法およびそれを実施する装置には全て、下に示す関数を実行する処理が1つの要素として含まれる。
本発明の方法は、時間および技術に関して制約されない。つまり、オンライン/リアルタイムでも、オフライン/事後処理でもよく、又はこれらの方程式の連続的な形式に対して増分解、反復解でも、離散解でもよい。
本方法の好適な実施形態は、時刻tにおける認知能力容量Cの予測値Eを、現在の認知能力容量Cの活動時間関数Mによる変調として表す数学的モデルを含む。それは、最も単純な形では以下の一般形で書かれる。
E=C∇M 式1
ここで∇は数学的演算子を表す。認知能力容量Cと活動時間関数Mの結合には、任意の数学的演算子を使用できる。活動時間関数Mの形式と性質によって、最も望ましい正確な演算子が定まる。最も好適には、下記の式1aを使用して認知能力容量Cと活動時間関数Mとを結合する。
E=C*M 式1a
あるいは、下記の式1bを使用して認知能力容量Cと活動時間関数Mとを結合してもよい。
E=C+M 式1b
認知能力容量Cは、次式で表される睡眠/覚醒履歴の関数を表す。
C=w(t)+s(t)+d(t)+i(t) 式2
ここでw(t)、s(t)、d(t)およびi(t)は、それぞれ、時刻tにおける覚醒、睡眠、遅延および睡眠惰性関数の瞬間的な値である。活動時間関数Mは、下記のように、活動時間の関数を表す。
M=m(t) 式3
ここでm(t)は、時刻tにおける活動時間関数の瞬間的な値である。
【0042】
本発明の実施において、開始時刻t、初期認知能力容量Cおよび最後の状態変化の時刻tLSの初期設定を行った後に3段階のプロセスを実行できるが、これらの初期設定データは、図4のS1で任意の順序で入力できる。第1の工程では、時刻tにおける認知能力容量Cのレベルは、図4(a)−(b)のS3−S7eで表される関数w(t)、s(t)、d(t)およびi(t)を使って、個人の睡眠/覚醒履歴に基づいて計算できる。第2の工程では、図4bのS8で表される活動時間関数を使って活動時間モジュレータMを計算できる。本発明のある態様では、第2の工程を一度行って、第1の工程の複数回の実行に対して時系列の順序の一連のデータ点を得ることができる。第3の工程では、認知能力容量Cと活動時間関数Mとの結合から認知能力Eを導いて、図4のS9で示される活動時間モジュレータMで変調された認知能力容量Cが得られる。
第1の工程:認知能力容量Cの計算
図2は、以下で述べる関数の使い方を模式的に示すフローチャートである。ここで説明する計算の例を図3(a)−(c)に図式的に示す。図4(a)−(b)は、この方法における各工程の詳しいフローチャートである。このモデルの好適な実施形態として、ここでは、認知能力容量Cには、全範囲で零から100までを有する値が割り当てられているので、パーセントを表す。この応用における範囲は、示された数値的な範囲の終点を含むものと考えられている。ただし、認知能力容量Cは、それぞれの応用に応じて、その他の値又は単位で表すこともできる。
【0043】
好適な実施形態では、S7aからS7dで示されるように、4つの関数w(t)、s(t)、d(t)およびi(t)のうち1つだけが与えられた任意の時間間隔で作用し、他の関数は式2においてゼロに等しい。関数w(t)とs(t)は非遷移的状態を表し、関数d(t)およびi(t)は遷移状態を表す。例えば、非遷移的状態では、個人が覚醒しているときは関数s(t)がゼロに設定され、個人が眠っているときは関数w(t)がゼロに設定される。同様に、覚醒状態から睡眠状態へ、あるいはその逆に変化している期間は、遷移関数d(t)またはi(t)のどちらか一方だけが作用し、その他はゼロに設定される。睡眠と覚醒の間の変化が起きると、時間カウンタtLSがリセットされて現在の状態の時間を追跡し、図4(b)に示すように遷移関数d(t)およびi(t)に対する決定ルールを決める。
(1)覚醒関数(w(t))
覚醒関数S7aは、覚醒している時間の経過による認知能力容量の減退を表す。これは(1)個人が毎晩8時間の睡眠を取れば、100%に近い認知能力が毎日維持されることと、(2)覚醒状態を継続する24時間ごとに、認知能力が約25%低下すると思われる、という知見に基づくものである。
【0044】
S7aでは、覚醒関数w(t)により、好適な実施形態では1エポックの長さに等しいt−1からtまでの間に起きる認知能力容量の減退の結果である、認知能力容量Cの現在値を計算する。上述のようにこの計算は、S9における活動時間関数Mによる認知能力容量Cの変調とは独立して、またそれよりも前に行われる。覚醒関数の一般化された形式は次式で表される。
Cw=w(t) 式4
ここで覚醒関数w(t)は、tと共に減少する任意の正の値の関数でよい。より好適には、覚醒関数w(t)は、一定の割合で低下する能力の一時関数であり、また最も好適には、覚醒関数w(t)は時刻tにおいて次式のように表される。
w(t)=Ct-1−kw 式4a
ここで覚醒している期間は時刻t−1からt(エポックの数で)であり、1分間の能力低下がkwである。従って、t−1からtまでの期間が1分でなければ、kwは適切に調整されている。kwの全範囲は任意の正の値の実数であり、好適にはkwは毎分0.003から0.03%の範囲であり、また最も好適には、kwは、1時間当たり約1%、つまり毎分0.017%である。kwの値は、覚醒状態を継続する24時間ごとに認知能力が約25%低下することを示す経験的データに基づいている。式4aは、図2および4(b)において、S7aで示す。認知能力容量の初期値が100%で、16時間(960分)にわたって毎分0.017%の割合で低下する場合の覚醒関数の例を図3(a)に示す。
(2)睡眠関数(s(t))
睡眠関数S7cは、睡眠時間と共に認知能力容量を回復するものである。睡眠関数s(t)は、睡眠による認知能力の回復効果は非線形に蓄積するものであるという、経験的な根拠に基づくものである。すなわち、認知能力容量の回復は、睡眠の初期には速く、睡眠時間の蓄積と共に遅くなる。別のデータによれば、ある点を過ぎるとそれ以上眠っても認知能力にはわずかな寄与しかしないか、あるいは全く貢献せず、回復率はゼロに近づく。つまり、例えば、2時間の睡眠が1時間の睡眠の2倍の回復効果を持つわけではないということである。睡眠関数は、認知能力容量の現在のレベルに依存する割合で認知能力容量を増加させる、つまり、認知能力容量の初期値が低いほど回復が速く進行する。例えば、日中完全に(16時間)覚醒状態にあった後、夜間に眠ると、回復は夜の早い時期に急速に進行する。睡眠期間中に認知能力容量が回復するに従って、回復速度は低下する。睡眠剥奪の後では、初期の認知能力容量は、通常の16時間起きていた後よりもさらに低いが、回復速度は、回復睡眠の初期よりも速い。日常的に部分的な睡眠剥奪が続くと、このように初期の回復速度は速くなっても、夜毎の睡眠だけでは認知能力容量が完全には回復しないことがある。
【0045】
睡眠関数は、個人が時間T(時刻t−1からtまで)の区間眠っている間に生じる能力の回復の結果である認知能力容量Cの現在値を計算する。上述のように、この計算は、活動時間関数Mによる認知能力容量Cの変調とは独立して、またそれよりも前に行われる。睡眠関数の一般化された形式は次式で表される。
Cs=s(t) 式5
ここで睡眠関数s(t)は、tと共に増加する任意の正の値の関数でよいが、より好適には、睡眠関数s(t)は指数関数である。これは、睡眠中の認知能力の回復は非線形であり、睡眠の初期に最も速く回復し、睡眠の継続と共に緩やかに遅くなることを示す経験的なデータに基づくものである。従って、最も好適な睡眠関数は、指数関数であり、それは離散的な形式では、次式のように表される。
Ct=Ct-1+(100−Ct-1)/ks 式5a
ここで睡眠期間は、t−1からt(分)までであり、認知能力容量の最大値は100%である。Ct-1は、時刻tに先行する期間中の認知能力容量であり、ksは、回復の「時定数」である。別の言葉で言えばksは、認知能力容量Cが、カーブの最初の勾配と等しい一定の割合で回復すると仮定した場合に、完全に回復するのに要する時間である。回復の時定数ksは、部分睡眠剥奪データから経験的に導かれるもので、エポックの長さに基づいて選択される。好適な実施形態によれば、ksは、任意の正の値の実数である。例えばksは、100から1000までの範囲でよく、より好適には長さ1分のエポックに対して約300である。ただし、ksの最適な値は、少なくとも部分的にはエポックの長さに依存する。方程式5aは、図2および図4(b)ではS7cで表してある。認知能力容量の初期レベルを100として、1分間、ks=300で、16時間覚醒後の8時間の睡眠の効果を、図3(a)で睡眠関数の一例として図示する。
(3)覚醒から睡眠への変化に対する遅延関数d(t)
回復遅延関数d(t)は、睡眠関数からの認知性能能力の回復に遅延が生じた時間の長さを、睡眠開始時からの期間として示すものである。この期間中に、認知能力容量の覚醒関数低下が図4(b)においてS7dで表されるように継続する。睡眠期間の始まり、または睡眠からの目覚めの時点での認知能力容量の即時の蓄積を防ぐことにより、この遅延は認知能力容量の計算S6bを調整する。
【0046】
回復遅延関数は、睡眠の最初の数分は一般にステージ1の睡眠からなり、これは、認知能力容量を維持する上で回復的でないことを示す経験的な調査に基づくものである。目覚めるための頻繁な覚醒、又はステージ1の睡眠(睡眠の断片化)は、認知能力容量の睡眠による回復効果を大幅に低下させる。これまでに得られているデータによれば、眠りから覚めた状態又はステージ1の睡眠の後で回復睡眠(ステージ2のより深い睡眠)に戻るために要する時間は約5分である。もし、長時間の睡眠が中断なしに得られるならば、遅延は、認知能力容量の回復全体に対してわずかな相違しかもたらさない。もし、頻繁に目覚めることによって睡眠が中断されると、遅延は、毎回目覚めた後の回復を蓄積し、全睡眠期間中に回復された全認知性能能力を大幅に低下させる。
【0047】
遅延関数は、睡眠関数の適用が延期されて遷移的な公式が適用される睡眠期間の長さを規定する。覚醒から睡眠への変化に対する遅延関数の一般的形式は、下記の決定ルールとして表される。
d(t): IF(t−tLS)≦ kd
THEN Ct= d(t)
ELSE Ct= s(t) 式6
ここでLSは、最後の状態変化を意味し、従って、覚醒−睡眠遷移時間tLSは連続する一連の睡眠期間に先行する最後の覚醒期間を表す。この決定ルールは、図2と図4(b)とで、S6b、S7cおよびS7dを合わせたものとして示されている。時間kdの間の認知能力容量を計算するには、認知能力容量Ctを遷移公式Ct=d(t)によって求める。時間kdが経過した後、Ct=s(t)となる。時間kdが終わるまで覚醒状態が続くと、Ctは決してs(t)に戻らないことに注意されたい。つまり、睡眠関数は、短い睡眠期間中には適用されないということである。
【0048】
kdの範囲は、好適には0から30分であり、より好適には、kdは、睡眠によって回復が得られる前の睡眠の開始時刻から測った、約5分に等しいと考えられる。d(t)は好適には、w(t)と等しい。この分野で通常の技術を持つものであれば、kdの長さに影響する要因には様々なものがあることを理解するであろう。従って、より好適な遅延関数は次のように表される。
d(t): IF(t−tLS)≦ 5
THEN Ct= w(t)
ELSE Ct= s(t) 式6a
式6aで示される認知能力容量に対する遅延回復の影響を、図3(b)で詳しく図示する。
【0049】
この分野で通常の技術を持つものであれば理解できるように、PSG又は類似の評価で、いつステージ1の睡眠が起きるかを分類できる。すると、PSG又は類似の評価データの変換により、ステージ1の睡眠の発生が睡眠/覚醒履歴のための覚醒データに変換される。従って、睡眠/覚醒履歴が変換されたPSG又は類似の評価データに基づいている場合は、個人の認知能力容量を求めるために遅延関数d(t)は必要でない。
(4)睡眠から覚醒への変化に対する睡眠惰性関数i(t)
睡眠惰性関数i(t)は、睡眠から目覚めた後の期間で、顕在的な認知能力容量が実際の現在レベルよりも低く抑えられた期間を定義する。睡眠惰性関数i(t)は、認知能力は覚醒すると直ちに損なわれるが、主に覚醒時間の機能で、おおむね改善することを示す経験的データに基づいている。また同時に、睡眠から目覚めた直後に不活性化された異モード連合皮質(この認知能力を媒介する領域)と、その後数分間の覚醒の間にこれらの領域が再活性化されることを示した、陽電子射出断層X線写真撮影法による研究結果にも基づいている。すなわち、睡眠中に生じる実際の認知能力の回復は、目覚めた直後には現れないのである。認知能力容量が、睡眠中に生じる実際の回復を反映したレベルに戻るのに必要な時間は約20分であることが、このデータによって示されている。
【0050】
睡眠惰性遅延値kiは、目覚めた後で、顕在的な認知能力容量が睡眠によって回復した認知能力容量のレベルよりも一時的に低く抑えられる期間を定義する。この期間中は、遷移的な関数が、初期レベルから覚醒関数のみによって決定されるレベルまでの橋渡しを行う。睡眠から覚醒への変化に対する睡眠惰性関数の一般的な形式は下記の決定ルールとして表される。
i(t): IF(t−tLS)< ki
THEN Ct= i(t)
ELSE Ct= w(t) 式7
ここで睡眠−覚醒遷移時間tLSは、連続する一連の覚醒期間に先行する最後の睡眠期間の時間を表す。期間kiの間の認知能力容量を計算するには、Ctを遷移公式Ct=i(t)によって求める。時間kiが経過すると、Ct=w(t)となる。式7は、図2と図4(b)とで、S6a、S7aおよびS7bを合わせたものとして示されている。
【0051】
kiの好適な範囲は、0から約60分まで、より好適には10から25分、最も好適には、18から22分の間である。
睡眠惰性関数i(t)は、0からkiまでの期間での任意の関数であってよく、好適には負の加速を受けた任意の関数である。好適な睡眠惰性関数i(t)は、単純な二次方程式である。この関数は、好適には、目覚めた直後の認知能力容量を10%から25%、また最も好適には25%抑制する。この関数は、目覚めてから最初の10分で、抑制された認知能力容量の75%を回復し、通常は目覚めてから20分までに抑制された認知能力容量の100%を回復し、それ以後は覚醒関数が働く。これらの値は、睡眠から覚醒への変化に関する経験的なデータに基づくものである。これらの研究によれば、認知能力は、睡眠から目覚めた直後は損なわれているが、この損なわれた分の大部分は目覚めて最初の数分間に消失し、能力が完全に回復するには約20分を要することが示されている。好適な認知能力容量の25%の抑制と20分の回復時間を使用すると、睡眠惰性関数の好適な形式は下記の決定ルールとして表される。
i(t): IF(t−tLS)< 20
THEN Ct= Csw*0.75+0.025(t−tLS)−(0.025(t−tLS))2]
ELSE Ct= w(t) 式7a
ここでCswは、睡眠期間の終わりにおける認知能力容量であり、睡眠−覚醒遷移時間tLSでの睡眠関数によって計算される。この決定ルールは、図2と図4とで、S6a、S7aおよびS7bを合わせたものとして示されている。式7aは、初期の抑制が25%であり、kiは20分に等しく、そして覚醒関数w(t)が効果を発揮するまでの期間を負の加速を受けた勾配が橋渡しをすることを示している。式7aで表現される認知能力容量に対する睡眠惰性関数i(t)の影響を、図3(c)に図示する。
【0052】
睡眠惰性関数i(t)の別の変形は、kiが10分に等しく、認知能力容量の初期の低下が10%とした一次方程式に基づいている。すると決定ルール下記のようになる。
i(t): IF(t−tLS)< 10
THEN Ct= Csw*[0.9+(t−tLS)/100]
ELSE Ct= w(t) 式7b
この分野で通常の技術を持つものであれば理解できるように、式7aと7bはkiの値および認知能力容量の初期の低下における変化に対して調整できる。
第2の工程:活動時間モジュレータMの計算
(1)活動時間関数m(t)
図4(b)でS8として示された活動時間関数m(t)は、認知能力の24時間周期の変化を表すものである。活動時間関数m(t)は、一定の日常的な状態および/又は完全な睡眠剥奪状態(すなわち睡眠/覚醒履歴が管理された状態)では、認知能力容量は、24時間の期間にわたってピーク−ピークで約5%から約20%の間で変動することを示す経験的なデータに基づいている。この結果は、一般に、個人の概日リズムが原因であるとされる。この関数の出力が、活動時間に応じて現在の認知能力容量C(第1の工程で計算された値)を変調する。この変調の結果が、予測された認知能力容量Eである。活動時間関数の一般化された形式は以下のように表される。
M=m(t) 式8
ここでm(t)は、基本周期24時間の任意の周期関数であり、好適には、m(t)は2つの正弦関数の和であり、その1つは24時間周期のもの、もう1つは二段階の概日周期を構成する12時間周期のものである。この関数は、認知性能の測定において見られる大きな変動は、このような2つの正弦曲線波形によって説明できることを示す経験的なデータに基づいている。前に述べたように、経験的に観察される認知能力容量におけるピークは、通常午後8時から午後10時の間に起きるもので、午前2時から午前6時の間に谷が生じて、毎日約5%から約20%の変動が生じる。二番目の谷は、通常午後3時頃に起きる。関数m(t)の好適な形式としてこれらの値を使用すると、その結果得られる関数により、昼間に低下する認知能力の日周期リズムで経験的に示される非対称性が選択される。
【0053】
関数m(t)の記述的な形式は、そのオフセットと振幅を含み、第3の工程で選択される演算子によって変化する。この関数の計算値は、認知能力の付加的なパーセント値(認知能力容量Ctの現在値に従属又は独立)か、あるいは乗法無次元スカラー量として表現できる。この関数の好適な形式は、乗法演算子を使用して以下のように表せる。
m(t)= F+(A1*cos(2π(t−V1)/P1)+A2*cos(2π(t−V2)/P2)) 式8a
ここでFはオフセットであり、tは活動時間、P1およびP2は2つの正弦関数の周期であり、V1およびV2は時刻単位の1日のピーク時刻又は深夜過ぎのエポック単位であり、A1およびA2はそれらの余弦曲線の振幅である。この関数を使って、先に計算された認知能力容量Cを変調することができ、その結果が認知能力容量の予測値Eとなる。式8aを図1(a)と図4(b)でS8として示し、図1(b)でG8として図示する。図4(b)に示すように、tはデータの各エポックに対する活動関数m(t)の入力である。
【0054】
例えば、ある好適な実施形態において、変数を以下のように設定する。tは深夜過ぎの時間を分で表したもの、P1は1440分、P2は720分、V1は1225、そしてV2は560である。さらに、A1およびA2がスカラー量として表される場合、それらの大きさは0から1の範囲であり、より好適には0.01から0.2の範囲であり、最も好適には、A1は0.082およびA2は0.036である。さらに、この例において、Fは0又は1であり、より好適にはFは1である。その結果、この例における活動時間関数m(t)の値は0から2の範囲となり、好適には0.8から1.2の範囲であり、最も好適には0.92から1.12の範囲となる。
第3の工程:認知能力の予測値の計算
認知能力容量の予測値Eを計算する全プロセスを、図1(a)−(b)および図4(a)−(b)に模式的に示す。活動時間関数Mは、個人の睡眠/覚醒履歴から導かれた認知能力容量Cを変調して、図1(a)−(b)に示す認知能力の最終的な予測値Eを与える。第3の工程では、認知能力の予測値Eは、認知能力容量Cと活動時間関数Mの組み合わせから導かれる。その最も一般的な形式は、下記のようになる。
【0055】
E=C∇M 式1
ここで∇は、認知能力容量Cと活動時間関数Mを結合する任意の数学的演算子である。この結合を行う演算子としては、通常は、加算又は乗算が選ばれる。上で選ばれた活動時間関数m(t)の形式によって、どちらの演算子を使っても認知能力の予測値Eの同じ数値が得られる。最も好適には、乗算S9を使って以下のように結合を行う。
【0056】
E=C*M 式1a
式1aでは、認知能力の予測値Eは、現在の認知能力容量Cと、活動時間モジュレータMの現在値を表す1番の周囲の値を中心にして変調したものである。
上述のように、認知能力容量Cの好適な数値的表現は、得られる認知能力容量のパーセントを表すゼロから100までの範囲の値である。ただし、ある状況の下では、認知能力容量Cの現在値について活動時間モジュレータのために、認知能力の予測値Eは、重要な意味を持って100を越えることである。その様な状況の一例としては、その間に100%の認知能力容量Cが得られる睡眠期間で、夜間のピーク(および睡眠惰性が解消した後)中断されるというものである。100%のスケールを維持するためには、認知能力の予測値Eを100%で頭切りするか、あるいは0から120%の範囲を0から100%までの範囲に縮小しても良い。どちらの方法を選択しても最大値100%を維持できる。最も考えられる実施方法は、120%を100%に縮小してから任意の認知能力の予測値Eを100%に頭切りすることである。
【0057】
図1に示すように、データに新しいエポックが現れる度にこの方法が繰り返される。この方法繰り返されるごとに、1エポックの長さに等しい1単位の時間を時刻tに加算するが、好適には、図1に示すカウンタS11の形で行う。
上述の好適な実施形態においては、認知能力容量Cの活動時間モジュレータMによる変調の前に、睡眠惰性関数i(t)が認知能力容量Cに適用される。別の実施形態では、認知能力容量Cにではなく認知能力の予測値Eに睡眠惰性関数i(t)が適用される。すなわち、認知能力容量Cの活動時間モジュレータMによる変調の後で適用する。好適な実施形態がこの別の実施形態よりも良いかどうかを判断するのに十分な知識は得られていない。
【0058】
さらに上で述べた好適な実施形態においては、睡眠惰性関数i(t)が適用されたときに覚醒関数w(t)はゼロに設定される。さらに別の実施形態では、睡眠惰性関数i(t)と覚醒関数w(t)が同時に適用される。睡眠惰性関数i(t)と覚醒関数w(t)が互いに等しくなるか、又は睡眠惰性関数i(t)が覚醒関数w(t)よりも大きくなると、認知能力容量Cは覚醒関数w(t)を使って計算される。
【0059】
好適な実施形態をさらに修正して、図5に示すように、認知容量に影響を与える麻薬又はその他の要因の効果を説明できるようできる。好適な実施形態をさらに修正したものでは、例えば、活動時間M(t)の24時間周期を数日の期間にわたって圧縮又は拡大して調整されたスケジュールに活動時間関数M(t)を再調整することにより、時差ぼけおよび同様の時間のずれが生じる場合を含めることができる。
【0060】
【方法の実施】
好適な実施形態では、ソフトウェアとして実現され、個人の認知能力のリアルタイムの現在の状態および必要に応じて認知能力の未来のレベルを推測する能力を与える。好適な実施形態のソフトウェアが行う工程を示すフローチャートを図4(a)−(b)に、また後で述べる別の実施形態の場合を図7(a)−(b)に示す。
【0061】
このソフトウェアは、コンピュータプログラムあるいはその他の電子装置制御プログラム又はオペレーティングシステムとして実現できる。ソフトウェアは好適には、例えば、アクティグラフのような個人に装着した装置、あるいはパソコン、PAL装置、パーソナルディジタルアシスタント(PDA)、eブック、その他のハンドヘルド又はウェアラブルコンピュータなどのスタンドアローン装置(パームOS、ウィンドウズCE、EPOC又は3ComのRazorやIBMとIntelを含む共同企業体のブルートゥース(Bluetooth)などのコードネームを持つ次世代装置を搭載するもの)、個人に装着したアクティグラフなどの信号を受け取る装置又は人間による分析又は観察によるデータを人間が入力する特殊目的の装置に常駐する。ソフトウェアは、例えば、RAM、ROM、ハードドライブ、ディスク、コンパクトディスク、パンチカード、テープ又はその他のコンピュータによる読み取り可能な材料の記録装置、ネットワーク、コンピュータ、イントラネット、インターネット、アビレーネプロジェクト(Abilene Project)又はその他のバーチャルメモリ、光学的記憶装置、磁気記憶装置;および/又はEPROMに記憶できる。ソフトウェアは、上述の各方程式の変数の調整および/又は変更を可能にする。この能力により、ユーザーは、経験的知識に基づいて変数を調整し、また変数間の相互関係を知ることもできる。
【0062】
ソフトウェアをアクティグラフのような測定装置上で実現することにより、本分野の技術を有するものには周知のように、計算で使用される任意の少数を適切な倍率をかけられた整数に変換される。整数はさらに誤差が最小になるように近似されて、例えば、コール−クリプケ(Cole-Kripke)アルゴリズムの重みづけ係数がそれぞれ256、128、128、128、512、128、128となる。線形近似の利用により、ソフトウェアの実施のための二値演算とアセンブリコードとが単純化される。
【0063】
ソフトウェアにおいては、活動時間モジュレータは、8ビットの符号なし整数を使用して1時間の工程が24行となるテーブルとして実現される。中間の工程は、15分工程を得るために1時間工程から内挿される。この単純化により、利用できるディスプレーに対して十分な解像度が得られる。利用できるディスプレーの解像度が向上すれば、もっと細かい時間的工程がテーブルおよび/又は活動時間モジュレータを再現する内挿法に使用されてもよい。ポインターシステムを使用して、活動時間モジュレータを計算するための適切なデータを取り込むことができる。無数の要因により、本分野の通常の技術を有するものは、適切なスケールを実現するために乗法的変調を選択するか、あるいはスピードが問題になる場合は、それほど複雑でないがもっと迅速な評価を行う可能性が高い加法的変調をする。加法的変調の主な欠点は、本発明の乗法的変調を使用した場合の誤差が1%であるのに対して、誤差が約3%になることである。このシステムは、アクティグラフが初期化されたときに活動時間関数をアップロードすることにより、余弦テーブルを使用して活動時間関数を各エポックごとに余弦テーブルから計算する場合の、繰り返しの計算の負担を軽減することができる。
【0064】
好適な実施形態はまた、図6に示すように、スタンドアローン装置又は記録装置の付属部品により実現することもできる。スタンドアローン装置は、個人の睡眠/覚醒履歴を記録する装置又はその他の手段から独立している。それに対して、記録装置の付属部品の場合は、個人の睡眠履歴の記録および解析の両方を行う1台の装置を実現するための付属部品を組み込むために、記録装置を改造することが必要となる。
【0065】
適切なスタンドアローン装置には、物理的な入力接続、例えばキーボード、データ入力装置あるいはアクティグラフのようなデータ収集装置等の入力装置に物理的に接続された入力ポート(入力手段20)が含まれる。あるいは、物理的な接続は、情報ネットワーク上で実現しても良い。あるいは、また、物理的な入力接続は、テレメトリー、電波、赤外線、PCS、ディジタル、携帯電話、光を利用したシステム又はその他類似のシステムを含む無線通信システムにより実現することができる。無線通信システムは、ケーブル/ワイヤ、プラグイン等の物理的な接続の必要性を無くすという利点があり、これは、動く被験者をモニターする場合に特に便利である。データ収集又はデータ入力装置は、個人の過去、現在および/又は予測される睡眠パターンを含む睡眠履歴を与える。入力手段20は情報の初期入力のためのS1と、選択した実施方法によって連続的又は1回だけデータをロードするS2を組み込む。
【0066】
スタンドアローン装置は、さらに、データ解析機器(解釈手段30)を含む。データ解析機器は、S3−S6bを実行する。解釈手段30は、様々な解析機能を実行することにより、入力データを解析する。解釈手段30は、現在の入力データをそれ以前の最後の入力データと比較して、睡眠から覚醒又は覚醒から睡眠への変化があったかどうかを判定し、もしも変化があれば、時間カウンタを最後の状態、図4(a)のS3とS4aに設定する。解釈手段30は、また、図4(a)のS5で表される入力されたデータを分類して、入力データの成分に応じて図4のS6a−S7dで示される計算のための関数、すなわち、1)覚醒関数、2)睡眠関数、3)遅延関数および4)睡眠惰性関数のうちの少なくとも1つを選択又は生成できるようにする。解釈手段30は、適切にプログラムされた集積回路(IC)によって実現できる。本分野の通常の技術を有するものであれば、離散的アナログ回路、ハイブリッドアナログIC又はその他同様の処理素子のようなICと共に、あるいはその代わりに、様々な装置が動作できることを理解するであろう。
【0067】
スタンドアローン装置は、さらに、計算器(判定手段40)を含む。判定手段40は、解釈手段のICを適切にプログラムすることによって、あるいは別個のプログラムされたICによって実現できる。判定手段40は、図4(b)のS7a−S7dにおいて、解釈手段30により選択された関数を使用する睡眠/覚醒履歴および現在の状態を考慮に入れた認知能力容量を計算する。
解釈手段30と判定手段40を組み合わせて、1つの結合した手段又は装置にしてもよい。
【0068】
スタンドアローン装置はさらに、変調データ列又は好適には活動時間カーブを表す曲線を含む変調データを保存する第一のメモリ60を含む。スタンドアローン装置はさらに、データ列又は時間tに対する認知能力容量Cを表す曲線を生成するためのデータを保存する第2のメモリ50を含む。第1のメモリ60および第2のメモリ50は、本分野の通常の技術を有するものに周知の任意のものでよい。第2のメモリ50は、好適には、判定手段40から得られた値をデータ列又は曲線の最後に追加する手段を提供する先入れ先出しメモリである。第1のメモリおよび第2のメモリは組み合わせて、1つのメモリユニットにしてもよい。本分野の通常の技術を有するものが理解できるように、本発明をハードウェア又はソフトウェアとして実現するために必要とされる認知能力容量Cおよび認知能力の予測値Eを計算するために必要な様々な中間値を記憶するメモリが存在するであろう。
【0069】
スタンドアローン装置は、また、別個のICとして、又は先に述べたICの1つと組み合わせて、図4(b)に示すS8−S9を実現するモジュレータ(変調手段70)を含む。変調手段70は、判定手段40で計算された現在の認知能力容量を受け取り、第1のメモリ60に記憶されたデータから活動時間値を計算する。変調手段70は、第1のデータ列又は曲線(認知能力容量)を活動時間値で変調する。好適には、変調は、深夜の後半(終わり)および好適には、最初の睡眠/覚醒状態に関するエポックの数と初期開始時刻とによって決定される初期入力データからの時間の長さに基づくデータ列又はカーブに関する時系列情報のマッチングによって実行される。変調手段70は、認知能力容量の値を記憶する第2のメモリ50が存在する場合、一連の認知能力容量の値を活動時間関数で変調する。
【0070】
本分野の通常の技術を有するものには周知のように、図4(b)に示したS11を実現するには、カウンタ又はその他同様の機能を持つ装置および/又はソフトウェアをスタンドアローン装置内で使用すればよい。
スタンドアローン装置にはまた、メモリに、例えば、先入れ先出しメモリに記憶された変調の結果を表すプロットされた変調曲線、あるいは認知能力の予測値Eを表す変調手段70から選択された時刻での変調曲線上のある点の数値的な表現を表示するディスプレーを含んでもよい。数値的な表現は、自動車の燃料計器と同様の計器の形を取ってもよい。ディスプレーの代わりとして、又はそれに加えて、スタンドアローン装置には、プリンタ又は印刷のために外部装置と通信を行うための通信ポートおよび/又は認知能力の予測値Eの記憶装置を含むことができる。
【0071】
スタンドアローン装置は、専用のハードウェアを持つ代わりに、ソフトウェアプログラムおよび付随するデータファイルを実行するための記憶スペースと処理能力を備えても良い。この場合、スタンドアローン装置は、デスクトップコンピュータ、ノートブックコンピュータ、又は類似の計算機器であってよい。ソフトウェアプログラムは、通信ポート又はイントラネットやインターネットのようなコンピュータネットワークを通じて外部ソースから得た睡眠履歴を表すデータの受信を処理して、次に必要な解析とここで述べた方法の処理を実行する。記憶スペースは、少なくとも活動時間カーブおよび可能であれば入力データを保存するコンピュータで読み取り可能な形式の保存でよく、これは、コンピュータのランダムアクセスメモリ(RAM)に保存しても良い。入力データおよびそれにより生成された個人の様々な認知能力レベルを示すデータもまた、RAMで実現されるよりも恒久的なメモリ又は記憶装置に保存しても良い。
【0072】
別の実施形態では、入力ポート20を改造して、個人の睡眠行為を表す何らかの形の生データを、睡眠の評価を行う前に受け取るようにする。本実施形態では、解釈手段30は、それが行うデータ解析の一部として、生データから睡眠評価を行う。睡眠評価に必要な重みづけ係数のためにテーブルが使用される場合は、その係数を記憶する第3のメモリを使用するが、そうでなければ、睡眠評価機能が暗黙の内に重みづけ係数を含み、第3のメモリは不要である。
【0073】
さらに別の実施形態は、ある覚醒エポックの後の睡眠エポックの最初のkd数が覚醒エポックに変更されるように、睡眠/覚醒データのフィルタリングを解釈手段30が行うようにすることができる。本発明において、フィルタリングは様々な方法で実現できる。好適な方法は、図4のS3の前に決定工程を追加して、Dswが睡眠エポックであり、しかもt−tLS≦ kdであるならば、S3−S6aを飛ばしてS7aを実行するようにすることである。その結果、上記の式6でd(t)で表された決定ルールは省略されて、図4(a)−(b)および7(a)−(b)においてS6bとS7dとが不要となる。
【0074】
本分野の通常の技術を有するものには、スタンドアローン装置はインターネット又はその他のコンピュータネットワークに接続されたコンピュータ/ワークステーションを含む広いものであることが理解されるであろう。ユーザーは、睡眠/覚醒履歴をかかるネットワークを通してスタンドアローン装置に送信し、送信されたデータに基づく認知能力の予測値を得る。スタンドアローン装置のインターフェースにより、ユーザーは方法との関連で上述の変数を調整して、変数と認知能力の予測値との関係を知ることができる。好適には、変数の調整可能な範囲は、各変数について上述のそれぞれの範囲である。
【0075】
測定装置への付属部品は、上述の図6に示したスタンドアローン装置と同様の部品を有していてよい。好適には、付属部品は、1つのICチップに収納されてそれを収容するスペースを最小にして、かつ/又は測定装置の一部としてソフトウェアの形で実現される。ただし、付属部品には、1以上の電気素子、例えば、メモリチップおよびICを含んでもよい。付属部品は、認知能力の予測値をさらに解析するために遠隔装置に送信してもよい。
【0076】
ソフトウェアおよびハードウェアの両者は、リアルタイムで動作および機能することが想定される。本発明の目的のためには、リアルタイムとは、入力される睡眠/覚醒データの各エポックに対する、認知能力の連続的な流れおよび解析を表すものと理解される。従って、ソフトウェアおよびハードウェアの両者は、個人またはその他のものに対して、ソフトウェア又はハードウェアのどちらかに入力された睡眠/覚醒データの最後に入力されたエポックからのデータに基づいて、現在の認知能力レベルを与える。ほとんどの睡眠評価システムは、解析されているエポックのいずれかの側のエポックからのデータに基づいて睡眠/覚醒の判定を行う。従って、ユーザーに情報を提供する上で遅延が生じる。
【0077】
本分野の通常の技術を有するものであれば以下の説明から理解できるように、ここで述べる方法は、個々のエポック又はエポックのグループのいずれかからのデータの連続的な流れを受け取ることもできる。時間のいくつかのブロックが入力されると、初期の遷移の後に、最初の数個のエポックが適切な遷移関数によって支配され、非遷移関数において適切な時間の熟睡又は完全な覚醒状態が使用される。
【0078】
本発明の1つの特徴として、睡眠/覚醒データは、睡眠から覚醒へ、又は覚醒から睡眠への状態変化が起きる時刻を含むことができる。睡眠/覚醒データはまた、個人の覚醒状態の継続時間および個人の睡眠状態の継続時間を含むこともできる。予測認知能力カーブを作成するためには、睡眠/覚醒データを個々のエポックの列に外挿および/又は展開すればいい。上述のように、あるエポックは、所定の長さの時間を表す。従って、睡眠/覚醒データは、時間の通常の単位又はエポック単位で表現できる。例えば、睡眠/覚醒データが10エポックの睡眠と3エポックの覚醒であるならば、認知能力容量の決定においてエポック1から10までが睡眠状態を表し、エポック11から13までが覚醒状態を表すようにすればよい。
【0079】
本発明のある態様によれば、特定の時刻qにおける認知能力の予測値Eは、時刻qの前又は後の時刻をrとして、基準点としての時刻rでの認知能力の予測値E又は認知能力容量Cを使って求めることができる。この基準点から、時刻qとrとの間で状態に変化があった時点に対する認知能力容量が求められる。
図7(a)−(b)に示したように、各工程は、覚醒関数と睡眠関数とに変更が行われた好適な実施形態とほぼ同じであるが、その結果変数の定義が注記したことを除いて好適な実施形態と同じである。以下で説明する式および図7(a)−(b)に示した各工程は、認知能力の初期値が認知能力の所望の値よりも時間的に先行するものである場合のものである。睡眠/覚醒データの各要素は、睡眠又は覚醒として分類される。
【0080】
もしも睡眠/覚醒データが覚醒状態を示すならば、下記の決定ルールに従って、2つの関数の内どちらか適切な方が選択される。
IFΔt ≦ ki
THEN Ct=i(t)
ELSE Ct=Wm(t) 式10
ここでΔtは、現在の状態の時間、すなわちt−tLSを表す。睡眠惰性関数i(t)は、kiよりも短いか又は等しい期間に対して、最後の入力データが覚醒状態である場合にのみ使用される。従って、好適な実施形態において使用されたものと同じ睡眠惰性関数i(t)が、この別の実施形態においても使用される。修正された覚醒関数Wm(t)は、個人が認知能力容量の初期的な抑制から回復した後に、その個人が覚醒前に眠っていた最後のエポックの認知能力容量レベルに戻るように、曲線が定式化されたときのkiの遅延を睡眠惰性関数i(t)が与えると言うことを考慮に入れている。この遅延を考慮することにより、以下の式が得られる。
【0081】
Wm(t)=Ct-1− kw(Δt−ki) 式11
もしも睡眠/覚醒データが、睡眠状態を表すならば、下記の決定ルールに従って、2つの関数の内どちらか適切な方が選択される。
IFΔt ≦ kd
THEN Ct=d(t)
ELSE Ct=Sm(t) 式12
遅延関数d(t)は、kdよりも短いか又は等しい期間に対して、最後の入力データが睡眠状態である場合にのみ使用される。従って、好適な実施形態において使用されたものと同じ遅延関数d(t)が、この別の実施形態においても使用される。修正された遅延関数Sm(t)はkdに等しい期間に対する遅延関数を考慮に入れる。遅延関数d(t)を考慮することにより、以下の式が得られる。
【0082】
Sm(t)=((Ct-1−((kw*kd))+(100−(100−Ct-1)(1−1/ks)Δt-kd) 式13
ここで、式の最初の部分は、遅延関数d(t)を表し、2番目の部分は認知能力容量Cの回復を表す。
睡眠/覚醒データの時間成分の加算は、認知能力容量の計算に関して睡眠/覚醒データの各単位データが取り扱われるときに、あるいは最終的な認知能力容量が活動時間関数m(t)で変調される前に行われる。後者の場合を図7(a)−(b)に示す。新しい認知能力容量Ctが計算された後で、現在の単位データが最後の単位データでなければ、この方法は、睡眠/覚醒データの次の単位データの処理を繰り返す。最後の単位データの後で、上記の式1に基づいて、また好適な実施形態で詳しく説明したように、認知能力の予測値Eが計算される。
【0083】
ここでも、この方法には、その一般化された形で示した式1から8に基づく処理および計算が含まれることに注意すべきである。実施形態は、経験的な知識に応じて該当する変数に関する関数を適用し、その結果、上の説明および図1−4(b)(ただしこれらに限定されない)で示したように、これらの式の特定の表現が得られるが、これらは経験的な知識の状態に従って変更又は洗練することができる。
方法の適用
図8−17に関する以下の説明において、認知能力の予測値E(すなわち認知能力容量Cと活動時間関数Mとの組み合わせ)は、複数の日にわたって連続線としてプロットされる。線の濃い部分は、睡眠期間を示し、薄い部分は覚醒状態の期間を示す。認知能力の予測値Eは0から120%までのスケールで図示される。好適な実施形態を使用すれば認知能力の予測値Eは、理論的には120%に達することができるが、それは認知能力容量Cが100%(すなわち、その間に認知能力容量Cが完全に回復した睡眠期間から目覚めてから20分後)であり、また、同時に、活動時間関数Mは、頂点位相(acrophase)にある時だけである。この様な状況は可能ではあるが、実際には起こりにくい。図および説明の目的により、「許容可能な」認知能力の予測値Eは85%に設定する。この値は、夜間に8時間の睡眠を取った場合に16時間連続して覚醒状態にあった(即ち典型的な睡眠/覚醒スケジュール)あとの認知能力の予測値Eの低下を概略のパーセント値で表したものである。図の横軸に沿っての時間分解能は、縦の1目盛り当たり1時間である。縦の長い線は現地時間で午前0時(深夜)を示す。
(1)認知能力の予測値Eに対する理想化された睡眠の影響
この最も単純化した応用では、認知能力の予測値Eに対して様々な理想化された(断片化されない)夜間の睡眠量が及ぼす影響の予測に、本発明の方法を利用できる。それを行うためには、個人は、最初の晩に8時間の断片化されない夜間睡眠を取る。次ぎに、個人は、1晩当たり8時間(図8)又は4時間(図9)の断片化されない睡眠を取る。そして、個人は、再度それぞれ8時間又は4時間の断片化されない睡眠を取る。
【0084】
図8に示すように、1晩当たり8時間の睡眠を取る場合、許容可能な認知能力の予測値Eが就業時間を通じて維持され、毎日睡眠の開始前の40分間に85%をわずかに下回って低下するだけであることが、本方法によって予測される。図9に示すように、1晩当たりの睡眠が4時間である場合、最初の夜の制約された睡眠の後、認知能力の予測値Eは、就業時間全体を通じて許容可能なレベルを下回ることが本方法によって予測される。さらに、睡眠時間の制約のために、睡眠中の認知能力Eの蓄積速度は速いものの、認知能力の予測値Eは、毎晩完全には回復しない。
【0085】
2日目に図10に示す完全な睡眠剥奪が開始するという条件では、88時間起きていた後の4日目には、認知能力の予測値Eは、ほとんどゼロにまで低下することを、この方法は予測する。回復睡眠中の認知能力の予測値Eの蓄積速度を図11に示す。回復睡眠の最初の晩(2日目)における蓄積速度は、認知能力の予測値Eがほぼ完全に失われた結果である。しかし、速度にも関わらず、認知能力の予測値Eの蓄積は、回復睡眠の2日目の晩(3日目)の後までは完全(任意に設定した85%の「許容可能な」レベルを超える状態)にはならない。同様に、回復睡眠の2日目の晩の蓄積速度は、最初の晩の回復睡眠の速度よりもわずかに低いが、これは睡眠の開始時における先行する睡眠不足のレベルが低い(従って、認知能力の予測値Eが高い)ためである。
【0086】
認知能力の予測値Eのほぼ完全な欠乏が認知能力の予測値Eの睡眠中の蓄積速度に与える影響を、図12に示す。この図は、2日目から4日目まで毎日30分の睡眠を取るという3.5日の睡眠剥奪期間を通じての、認知能力の予測値Eを示す。30分の睡眠中の蓄積カーブは、ほとんど鉛直に近い。それぞれの1日の内で、また日が経つにつれて認知能力の予測値Eは低下するが、それは30分の睡眠によってほぼ補われる。
(2)認知能力の予測値Eに対する睡眠の断片化の影響
別の実際的な応用では、睡眠時無呼吸症のような睡眠障害によるものか、あるいは飛行機や列車の騒音のような環境的な妨害によって睡眠が断片化された個人の認知能力の予測にこの方法を使用する。図13は、3夜にわたる断片化された睡眠の間の認知能力の予測値Eを示すが、それは1時間ごとに10回起こされる(短い覚醒)というものである。2日目から4日目までの夜(その間は睡眠が邪魔される)に続く日中の認知能力の予測値Eは、甚だしく損なわれ、しかも毎日低下が続く。1晩邪魔されずに8時間眠っても、認知能力の予測値Eは、完全には回復しない。
(3)2晩にまたがったシフトにおける認知能力の予測値E
別の実際的な応用では、2晩にまたがった業務シフトでの個人の認知能力Eの予測にこの方法を利用する。図14は、個人が午後11時から午前7時まで仕事に従事して、午前8時から午後4時まで睡眠を取る2晩にまたがった認知能力の予測値Eを示す。最初のシフトの前に、この個人は、通常の昼間シフト、すなわち深夜から午前8時まで睡眠を取る。その後、日中全て起きていて、その晩の午後11時半に最初のシフトを開始する。シェードをかけた部分は、24時間の間で認知能力の予測値Eが最も低下したときに仕事をしていることを示す。これは、睡眠剥奪と活動時間との両方が合わさった影響である。この人は次に、この測定のために午前8時から午後4時まで睡眠を取るが、この人は、この睡眠期間の8時間全てを実際に睡眠に当てたと仮定している。この睡眠期間中に認知能力の予測値Eが大幅に回復する。2番目のシフトは、認知能力の予測値Eがほぼ最適なレベルにある状態で開始される。しかし、活動時間の影響のために、2番目のシフトの大部分はこの方法が最も低下した認知能力Eを予測する時に行われる。
(4)認知能力の予測値Eの遡及的解析
別の応用では、この方法は、衝突/交通事故にまきこまれた商用自動車の運転手における認知能力Eの遡及的な推定に利用される。事故発生前の数日間の、この運転手の概略の睡眠および覚醒時間(個人履歴から取る)が、入力データとなる。この概略の睡眠/覚醒データに基づく認知能力の予測値Eを図15に示す。この運転手の旅は1日目の朝に始まった。出発時刻が早かったため、運転手は、睡眠不足状態で旅が始まった。その結果、出発時点での運転手の認知能力の予測値Eは、任意に設定された85%という許容レベルよりもわずかに高いだけだった。1日目の運転中に運転手は、16時間働いたが、この期間の後半での認知能力の予測値Eは、許容レベル未満に低下した。運転手は、2日目の午前4時に停車して最初の睡眠を取った。2日目から4日目までの睡眠時間は、認知能力の予測値Eの低下を回復するには不十分だった。5日目に運転手は、わずかな睡眠(30分)を取った。衝突はその日の夜に、運転手の認知能力の予測値Eが晩に急激に低下し始めたときに発生した。衝突の時点で、運転手の認知能力の予測値Eは最適レベルの約50%であった。最後に、極端な睡眠剥奪状態のために、6日目(衝突後)の睡眠中の認知能力の回復の勾配は急激であり、認知能力の予測値Eは、任意に設定された85%という「許容可能な」レベル近くまで回復した。(5)現在の睡眠/覚醒スケジュールに基づく認知能力の予測値Eおよび未来の睡眠/覚醒の修正による認知能力の予測値Eの最適化
この応用では、まず、個人の現在の就業および睡眠/覚醒スケジュールに基づいて、ある期間にわたっての個人の認知能力Eレベルの予測に本方法を利用する。次に、本方法を使用して、睡眠および覚醒状態をスケジュールしなおし、同じ期間中の認知能力の予測値Eを最適化する。
【0087】
この例では、先ず、我々は、運転手の現在の睡眠/覚醒スケジュールに基づいて、その認知能力の予測値Eをモデル化する。運転手の現在の睡眠/覚醒スケジュールは、連邦道路局(FHWA)の就業時間規制で許された最高就業時間をもとに生成された。これらの規制によれば、運転手は最高15時間仕事に従事し(運転時間が最高10時間、運転以外の仕事に5時間)、その後少なくとも8時間休むというスケジュールが許される。運転手は、この業務/休養サイクルを、合計就業時間が60時間に達するまで続けることができ、60時間に達したらこのサイクルの開始から7日が経過するまで休養を取らなければならない。図16に、これらの制約の下での運転手の睡眠/覚醒スケジュールおよび認知能力の予測値Eを示す。運転手は、8時間の休養のうち6時間を睡眠にあてる。このスケジュールによれば、「1日」が23時間となるが、これは毎晩運転手が前の晩よりも1時間早く就寝することを意味する。部分的な睡眠剥奪が生じ、しかも睡眠のタイミングが毎日早くなるので、就業の2日目までには、この運転手は就業時間のかなりの部分を、認知能力の予測値Eが任意に設定された85%というレベルよりも低下した状態で過ごすであろうと、本発明によって予測される。運転手の合計就業時間が60時間に達すると、1晩だけ10時間の睡眠を取れば認知能力Eが回復することが本発明によって予測されても、運転手は、数日間の休みを取らなければならない。
【0088】
図17も現行のFHWA規制の下で許される別の就業スケジュールを示す。この就業スケジュールは、12時間仕事に従事、12時間休みというサイクルに基づいている。運転手は、12時間の休養のうち8時間を睡眠に当てることが前提とされている。睡眠剥奪も睡眠のタイミングのずれも起きないので、本発明は、運転手の認知能力Eが勤務日を通じて85%以上に維持されると予測する。
【0089】
【産業上の利用可能性】
本発明を様々な特定の活動との関連で説明してきたが、本発明は他の多くの用途を持っている。認知能力を予測する本方法は、個人およびグループ両者の生産性を管理するための重要な情報を提供する。例えば、軍事作戦を立てる場合、司令官は、この方法を使えば、それまでの睡眠履歴にもとづいて各兵士の認知能力の現在のレベルおよび予測されるレベルを正確に判定することができる。司令官は、また、想定される睡眠/覚醒スケジュールを入力して、これから従事する任務中の兵士の認知能力を予測することができる。任務の遂行そのもの全体を通じて、後者の認知能力の予測値(最初は想定される睡眠/覚醒スケジュールに基づいている)を、実際に得た睡眠に基づいて更新することができる。未来の認知能力を予測する能力により、例えば、認知能力が最適になるように任務前後の睡眠/覚醒スケジュールを計画し、また、決定的な時点で最高の認知能力の予測値を示すであろうと予想される部隊又は複数の部隊の組み合わせを選定することにより、司令官は、継続的な作戦行動の間の部隊の能力を最適にすることができる。この方法は、個人および部隊の両方のレベルで生産性を最大にする助けとなる。
【0090】
本発明は、多くの職業分野を網羅する様々な商業的な用途において、出力(生産性)を最適化する目的に使用することができる。本発明によれば、客観的な認知能力の予測に基づく基準に合わせて作業を計画し、また就業時間を規制する能力を、管理者に与えるものである。それに対して、従来利用されてきた方法は、非就労時間(睡眠/覚醒パターンを予測する上では比較的弱い指標であり、したがって、認知能力を予測する上でも弱い)によるか、あるいは覚醒状態/眠気の予測(これは前述したように、常に認知能力に対応するわけではない)を行うことで、就業時間を規制してきた。本発明は、仮説的な睡眠/覚醒シナリオにおいて「実行」することができ、その様なシナリオの下での認知能力の推定を行う。認知能力を最適化することに一般の人々が関心を持つ限り、様々な用途に使用する可能性がある。
【0091】
本方法は、また、生物医学的、心理学的またはその他(例えば睡眠衛生、光療法など)の治療、あるいは睡眠を改善するために示された介入法の認知能力の影響を計測および評価するためにも利用できる。これらの例としては、明白な睡眠障害、概日リズム障害、その他の睡眠の質および/又は長さに影響を与える医学的状態、悪い睡眠衛生状態、時差ぼけ又はその他のあらゆる睡眠/覚醒問題を抱える患者を含むが、これらに限定されない。現在では、睡眠を改善する治療の効果は、夜間の睡眠のポリソムノグラムによるベースライン測定値と日中の覚醒度を表す何らかの数値(例えばMSLT、覚醒度維持試験(MWT)、スタンフォード眠気スケール又はカロリンスカ眠気スケール)とを比較して判定され、同じ数値が治療後にも得られる。治療の有効性および覚醒期間に能力に与える可能性のある影響の両方が、日中覚醒度試験の結果から推定される。例えば、連邦航空局は、現在、睡眠時無呼吸症と診断された民間パイロットに対して治療を受けることを要求している。その様な治療の後に、MWTの修正バージョンで日中覚醒度試験が行われる。MWT試験の間、パイロットは、暗くした部屋の中で座り心地の良い椅子に座らされて、長時間覚醒状態を維持するように指示される。もし、この眠りを誘うような条件でパイロットが明らかに眠らないでいられれば、職務に適していると見なされる。ここで推測されるのは、時間的に不連続な時点で覚醒状態を維持できる最小限の能力が、航空機を安全に操縦できる能力と解釈される(すなわち、覚醒度は、認知能力と等価と考えられている)ということである。しかし、睡眠剥奪は、明白な睡眠をもたらさなくても、認知能力に影響し、特に、様々な理由によって、個人が覚醒状態を維持するように強く動機づけられている可能性のある覚醒度試験においてはそうである。
【0092】
それに対してこの方法によれば、活動時間との関連で考慮される睡眠パラメータの測定値から、認知能力を直接推定することができる。治療の有効性を評価する上で、この方法が現行の各方法よりも有利な点は、(1)試験されている患者の動機および動機付けレベルは、結果(認知能力の判定)に影響を与えることはできない、(2)この方法は、時間的に不連続な、特定の時点での覚醒度を示すのではなく、予想される覚醒時間の全体を通じての認知能力の数値的な特定および予測を可能にする、という点である。従って、この方法は、特定の時刻にEEGで定義された覚醒度を維持できる患者の能力に基づいて、最小限の「職務適合性」のみを判定するのではなく、ある時間にわたっての認知能力を測定する連続的なスケールを提供する。
【0093】
この方法は、居眠り病や突発性のCNS過剰傾眠のような睡眠障害を診断するための補助として、臨床的に使用されてもよい。同様に、重要なことは、各種の睡眠障害の識別にも利用できるということである。後者は、治療の過程において重要であり、最終的な治療の有効性は、妥当で信頼性のある診断に依存するのである。例えば、睡眠時無呼吸症と睡眠中の周期的な四肢の動きとは、日中の認知能力欠如を伴う夜間の睡眠中断(すなわち、部分的な睡眠剥奪)によって特徴づけられる。それに対して、居眠り病や突発性の過剰傾眠は、夜間は見た目には正常な睡眠を取るが、日中の認知能力欠如を伴うことによって特徴づけられる。後者の2つのグループにおける夜間の見た目には正常な睡眠に基づいて、本発明は、比較的正常な認知能力を予測する。従って、予測された認知能力(本発明による)と観察又は測定された認知能力との間の食い違いを利用して、ある種の睡眠障害を他の種類から区別することが可能である。例えば、居眠り病、突発性の過剰傾眠又はその他のCNS関連の日中の認知能力欠如の原因(明らかな睡眠障害が見られない場合)を、睡眠時無呼吸症、周期的な四肢の動き又はその他の日中の認知障害の原因(睡眠の障害が明らかな場合)から、区別することができる。
【0094】
当業者であれば、上述の好適な実施形態に、様々な変更および修正が、本発明の範囲と趣旨から逸脱することなく行えることを理解するであろう。従って、本発明は、ここに具体的に述べた他に、添付の特許請求の範囲内で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(a)は、好適な実施形態における変調を表すブロック図である。図1(b)は、図3(a)に示す機能による予測認知能力を導く出力と活動時間による変調の組み合わせを表すグラフである。
【図2】 認知能力容量の予測値を計算するための覚醒、睡眠、遅延および睡眠惰性関数を表すブロック図である。
【図3】 図3(a)は、覚醒状態と睡眠状態が認知能力容量に及ぼす影響を24時間にわたって示すグラフである。図3(b)は、図3(a)の丸で囲んだ3(b)部分の拡大図であり、認知能力容量に関する遅延関数を示すグラフである。図3(c)は、図3(a)の丸で囲んだ3(c)部分の拡大図であり、認知能力容量に関する睡眠惰性関数を示すグラフである。
【図4】 図4(a)は、本発明の方法の各工程を示す詳しいフローチャートである。
【図5】 図4(b)は、本発明の方法の各工程を示す詳しいフローチャートである。
【図6】 図5は、別の実施形態の機能を示す図である。
【図7】 図6は、好適な実施形態の構成要素のブロック図である。
【図8】 図7(a)は、別の実施形態の各工程を示す詳しいフローチャートである。
【図9】 図7(b)は、別の実施形態の各工程を示す詳しいフローチャートである。
【図10】 図8は、毎晩8時間の睡眠での認知能力の予測値を示す。
【図11】 図9は、毎晩4時間の睡眠での認知能力の予測値を示す。
【図12】 図10は、72時間の間全く眠らないときの認知能力の予測値を示す。
【図13】 図11は、全く眠らなかった後の晩に8時間の回復睡眠を取ったときの認知能力の予測値を示す。
【図14】 図12は、85時間眠らないでいる間に、毎日30分仮眠を取ったときの認知能力の予測値を示す。
【図15】 図13は、毎時間10回ごとに起こすことで睡眠を分割したときの認知能力の予測値を示す。
【図16】 図14は、2晩のシフトに従事して日中眠ったときの認知能力の予測値を示す。
【図17】 図15は、商用車の運転者の衝突前の認知能力の予測値を示す。
【図18】 図16は、15時間労働/8時間休養というスケジュールで、就労日には毎晩6時間眠った時の認知能力の予測値を示す。
【図19】 図17は、12時間労働/12時間休養という交替スケジュールで、就労日には毎晩8時間眠った時の認知能力の予測値を示す。
Claims (54)
- 個人の認知能力を予測する方法であって、
(a)自己評価に基づく睡眠/覚醒時間、観察者の評価に基づく睡眠/覚醒時間、ポリソムノグラム、歴史的、仮説的、予測的若しくは理想化された睡眠/覚醒パターン、又は空アクティグラフ以外のセンサーから測定されたソースによって個人の覚醒状態と睡眠状態とを表すデータ列を受け取り、
(b)前記データ列の中のデータが前記覚醒状態か前記睡眠状態かに応じて、認知能力容量へ与える影響を表わす関数を睡眠関数および覚醒関数を含む関数グループの中から選択し、
(c)前記選択された関数を用いて、最近の認知能力容量を入力値として、当該個人の認知能力容量を計算し、
(d)前記認知能力容量を活動時間の値によって変調し、
(e)前記変調された値を認知能力の予測値として出力することを含む、方法。 - 前記認知能力の予測値を記憶し、請求項1の選択、計算、変調および出力の各工程(b)〜(e)を繰り返し、前記記憶されている変調値から曲線をプロットし、時間に対する認知能力レベルを表す曲線を出力することをさらに含む、請求項1記載の方法。
- 前記データ列が、過去の情報を含み、当該個人の過去の時点での認知レベルを判定するのに前記曲線を利用するようにした、請求項2記載の方法。
- 予想される覚醒状態と予想される睡眠状態とに基づいて、前記曲線を外挿して予測曲線を生成することをさらに含む、請求項2記載の方法。
- 前記出力する工程(e)が、前記認知能力の予測値をディスプレーに出力することを含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
- 前記出力する工程(e)が、前記認知能力の予測値をデータファイルに出力することをさらに含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記出力する工程(e)が、前記認知能力の予測値を印刷装置に出力することを含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
- 24時間周期を持つ曲線を表す活動時間の値を定式化することをさらに含み、前記曲線が、24時間周期の第1の正弦曲線と12時間周期の第2の正弦曲線とを含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記活動時間の値が24時間周期を持つ曲線を表すものであり、前記曲線が24時間周期の第1の正弦曲線と12時間周期の第2の正弦曲線とを含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記データ列が、個人に装着された装置から得られる、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
- 前記データ列が、睡眠評価システムから出力される、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
- 前記関数グループが遅延関数および/又は睡眠惰性関数をさらに含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
- 前記選択する工程(b)が、前記データ列に対する前記現在の状態を前記覚醒状態又は前記睡眠状態として判定し、前記現在の状態の継続時間を計算し、前記現在の状態の前記継続時間と前記現在の状態とに基づいて、前記関数を選択することを含む、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
- 前記計算する工程(c)では、認知能力レベルをパーセント値として計算し、100%が最大認知能力容量である、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
- リアルタイムに実行される、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
- 個人の覚醒状態と睡眠状態とを表すデータ列を蓄積するメモリを用いて、
請求項1に記載した工程(a)から工程(e)を含む、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体。 - 個人の認知能力を予測の予測値を求める方法であって、
(a)自己評価に基づく睡眠/覚醒時間、観察者の評価に基づく睡眠/覚醒時間、ポリソムノグラム、歴史的、仮説的、予測的若しくは理想化された睡眠/覚醒パターン、又は空アクティグラフ以外のセンサーから測定されたソースから個人の覚醒状態と睡眠状態とを表すデータ列を受け取り、
(b)前記データ列の中のデータが前記覚醒状態か前記睡眠状態かに応じて認知能力容量へ与える影響を表わす関数を、睡眠関数および覚醒関数を含む関数グループの中から選択し、
(c)前記選択された関数を用いて、最近の認知能力容量を入力値として、当該個人の認知能力容量を計算し、
(d)計算された認知能力容量の第1の曲線を近似し、
(e)前記第1の曲線を活動時間のリズムを表す第2の曲線で変調し、
(f)前記認知能力の予測値を表す前記変調された第1の曲線を出力することを含む、方法。 - 前記出力する工程(f)が、前記変調された第1の曲線上のある点の値をディスプレーに出力することを含む、請求項17記載の方法。
- 前記出力する工程(f)が、前記変調された第1の曲線上のある点の値をデータファイルに出力することを含む、請求項17又は請求項18記載の方法。
- 前記出力する工程(f)が、前記変調された第1の曲線上のある点の値を印刷装置に出力することを含む、請求項17から請求項19のいずれか1項に記載の方法。
- 予想される覚醒状態と予想される睡眠状態に基づいて、前記変調された第1の曲線を外挿して予測曲線を生成することをさらに含む、請求項17から請求項20のいずれか1項に記載の方法。
- 24時間周期を持つ前記第2の曲線を定式化し、前記第2の曲線が、24時間周期の第1の正弦曲線と12時間周期の第2の正弦曲線とを含むようにすることをさらに含む、請求項17から請求項21のいずれか1項に記載の方法。
- 前記第2の曲線が、24時間の周期を持ち、前記第2の曲線が、24時間周期を持つ第1の正弦曲線と12時間周期を持つ第2の正弦曲線とを含む、請求項17から請求項21のいずれか1項に記載の方法。
- 前記データ列が、個人に装着された装置から得られる、請求項17から請求項23のいずれか1項に記載の方法。
- 前記データ列が、睡眠評価システムから出力される、請求項17から請求項24のいずれか1項に記載の方法。
- 前記関数グループが遅延関数および/又は睡眠惰性関数をさらに含む、請求項17から請求項25のいずれか1項に記載の方法。
- 前記選択する工程(b)が、前記データ列に対する前記現在の状態を前記覚醒状態又は睡眠状態として判定し、前記現在の状態の継続時間を計算し、前記現在の状態の前記継続時間と前記現在の状態とに基づいて、関数を選択することを含む、請求項17から請求項26のいずれか1項に記載の方法。
- 前記計算する工程(c)が、認知能力レベルをパーセント値として計算し、100%を最大認知能力容量とすることを含む、請求項17から請求項27のいずれか1項に記載の方法。
- リアルタイムに実行される、請求項17から請求項28のいずれか1項に記載の方法。
- 前記データ列が、過去の覚醒状態と過去の睡眠状態を含み、前記変調された第1の曲線を使用して過去の時点での個人の認知レベルを判定することを含む、請求項17から請求項29のいずれか1項に記載の方法。
- 個人の覚醒状態と睡眠状態とを表すデータ列を蓄積するメモリを用いて、
請求項17に記載した工程(a)から工程(f)を含む、請求項17から請求項30のいずれか1項に記載の方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体。 - 個人の認知能力を予測する装置であって、
(a)アクティグラフ以外のソースから個人が覚醒状態か睡眠状態かを表すデータを受け取る手段と、
(b)前記受信データを解析し、前記受信データの構成に基づいて、前記データが前記覚醒状態か前記睡眠状態かに応じて認知能力容量へ与える影響を表わす関数を、睡眠関数および覚醒関数を含む関数グループの中から選択する解釈手段と、
(c)前記選択された関数を用いて、最近の認知能力容量を入力値として、当該個人の認知能力容量を計算する判定手段と、
(d)前記認知能力容量を活動時間の値によって変調したデータを記憶する第1の記憶手段と、
(e)前記認知能力容量を変調データで変調して、認知能力の予測値を求める変調手段とを含む、装置。 - 前記認知能力の予測値を表示する表示手段をさらに含む、請求項32記載の装置。
- 前記解釈手段が、前記受信データについて睡眠評価を行う手段を含む、請求項32又は請求項33記載の装置。
- 前記解釈手段が、前記データの現在の状態の継続時間を表す時間を求める、請求項32又は請求項33記載の装置。
- 前記解釈手段が、ある状態から別の状態への変化を表す時間を求める、請求項32又は請求項33記載の装置。
- 前記変調データが、24時間にわたる変化を表す、請求項32から請求項36のいずれか1項に記載の装置。
- 前記変調手段が、前記認知能力容量を前記変調データと共に時系列とする、請求項32から請求項37のいずれか1項に記載の装置。
- 前記変調手段からの前記認知能力の予測値を保存する第2の記憶手段をさらに含む、請求項32から請求項38のいずれか1項に記載の装置。
- 前記記憶手段が、前記認知能力の予測値をデータ列として記憶する、請求項39記載の装置。
- 前記判定手段からの前記認知能力容量と前記変調手段からの前記認知能力の予測値の少なくとも一方を中央の装置に伝える通信手段をさらに含む、請求項32から請求項40のいずれか1項に記載の装置。
- 前記通信手段がテレメトリーを利用して通信を行うことを特徴とする請求項41の装置。
- 前記関数グループが遅延関数および/又は睡眠惰性関数をさらに含む、請求項32から請求項42のいずれか1項に記載の装置。
- 個人の認知能力を予測する装置であって、
(a)アクティグラフ以外のソースからデータを受け取る入力部と、
(b)前記入力部に接続されて、認知能力を予測するための前記受け取ったデータ中の現在時点が覚醒状態か睡眠状態かに応じて認知能力容量の覚醒および睡眠の関係に与える影響をモデリングする関数を、睡眠関数および覚醒関数を含む関数グループの中から選択するデータ解析器と、
(c)前記データ解析器に接続され、前記関数と最近の認知能力容量とを使って認知能力容量を計算する計算器と、
(d)活動時間の値を表わす変調データを記憶する第1のメモリと、
(e)前記第1のメモリと前記計算器とに接続されて、前記認知能力容量を前記変調データで変調して認知能力の予測値を生成するモジュレータとを含む、装置。 - 前記モジュレータに接続されたディスプレーをさらに含む、請求項45記載の装置。
- 前記モジュレータに接続された通信ポートをさらに含み、前記通信ポートは、前記認知能力の予測値を外部装置に中継する、請求項44又は請求項45記載の装置。
- 前記計算器と前記モジュレータとに接続された第2のメモリをさらに含み、前記第2のメモリは、前記計算器が生成した前記認知能力容量を記憶する、請求項44から請求項46のいずれか1項に記載の装置。
- 前記第1のメモリと前記第2のメモリとが1つのメモリとして統合されている、請求項47記載の装置。
- 前記第2のメモリが先入れ先だしメモリである、請求項47記載の装置。
- 前記変調データが、24時間にわたる活動時間の変化を表す、請求項44から請求項49のいずれか1項に記載の装置。
- 前記データ解析器が、睡眠評価システムを含む、請求項44から請求項50のいずれか1項に記載の装置。
- 前記入力部が、テレメトリーの受信器である、請求項44から請求項51のいずれか1項に記載の装置。
- 前記入力部が、キーボードである、請求項44から請求項51のいずれか1項に記載の装置。
- 前記モジュレータに接続された先入れ先だしメモリをさらに含み、前記先入れ先だしメモリは、認知能力の予測値を保存する、請求項44−46,50−53のいずれか1項に記載の装置。
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