JP4631050B2 - MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金およびその製造方法 - Google Patents
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Description
また、人工関節用としては、耐摩耗性や耐疲労強度特性などの力学特性が要求されるが、この面ではチタンよりもCo−Cr−Mo合金の方が優れている。
以下、その経緯について説明する。
純Coは強磁性であるが、Crを25mass%以上添加することで絶対0度でも非強磁性になることが知られている。これは、合金化によってCr原子の電子が放出されて、Coの3d軌道の空席を埋めるため、Co原子の磁気モーメントが著しく減少するためである。さらに、生体材料として耐食性を確保するためにCo−Cr合金に6〜10mass%程度のMoを添加している。このMoの添加による磁気的な効果は、Crほどではないが、Mo原子の電子がCoの3d軌道の空席を埋める効果を有するため、Co原子の磁気モーメントを低下させることが期待される。
これに対し、xの値を26、29に増加させることにより、全測定温度範囲で非強磁性となり、しかも磁化率がほとんど温度依存性を示さないパウリ常磁性となることが判明した。また、その磁化率は、x=26および29でそれぞれ、12×10-6emu/gおよび8×10-6emu/gに減少することが明らかとなった。
このように、生体用Co−Cr−Mo合金においてCr量を増加させることにより、磁化率の低減が期待できる。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.Cr:28〜35mass%および
Mo:2〜6mass%(但し、6mass%は除く)
を含有し、残部はCoおよび不可避的不純物の組成からなり、常磁性磁化率が3×10 -6 emu/g以下であることを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金。
Mn:20mass%以下および
Ti:10mass%以下
のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金。
C:0.3 mass%以下
を含有する組成になることを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金。
1.実験方法
試料合金の組成として、表1に示すように、Mo量はすべて6mass%で、Cr量を16,20,26および29mass%と変化させたCo−Cr−Mo合金を作成した。これらをそれぞれ、16Cr合金、20Cr合金、26Cr合金および29Cr合金と称する。
これらの合金のインゴットから、各種の観察および測定用試料を切り出した。その後、1200℃、36 ks(10h)、水焼入れの条件で溶体化処理を施した。また、比較材として、Ti−6Al−4V合金およびSUS304も用意した。
これらの合金試料の構成相を調べるために、X線回折測定および光学顕微鏡による組織観察を行った。また、SQUID磁束計を用い、印加磁場強度および温度を変化させて合金の磁化を測定し、これにより磁化率を求めた。
2.1 X線回折
試料合金のX線回折図形を図1に示す。
図1から明らかなように、16Cr合金の回折ピークは、hcp(ε)相単相のものである。一方、20Cr合金、26Cr合金および29Cr合金では、fcc(γ)相が存在することが分かる。
この結果は、Cr量の増加に伴い、fcc→hcpマルテンサイト変態が抑制されることを示している。
図2に、試料合金の光学顕微鏡組織写真を示す。
光学顕微鏡での組織観察の結果、εマルテンサイト相組織に対応する微細なストライエーションが試料表面の全面にわたって認められた。これはX線回折結果と一致する。また、Cr量を増加した合金では、γ相に対応する平滑な組織が確認された。
図3および図4にそれぞれ、16Cr合金および29Cr合金の磁化曲線を示す。
図3に示した磁化曲線の形状から、16Cr合金は低温では強磁性を示し、温度の上昇に伴い常磁性を示すことが分かる。なお、20Cr合金も16Cr合金と同様な挙動を示すことが判明した。
一方、図4に示したように、29Cr合金はこれら2種の合金とは異なり、10Kから常磁性的な挙動を示し、さらに磁化が大幅に低下する。なお、26Cr合金も29Cr合金と同様な挙動を示すことが判明した。
図5に、各種試料合金の磁化率と絶対温度の関係を調べた結果を示す。また、比較のため、Ti−6Al−4V合金およびSUS304合金についての調査結果も併せて示す。
同図から明らかなように、Co−Cr−Mo合金の磁化率はCr濃度が高くなるにつれて減少することが分かる。中でも、29Cr合金は室温では8.2×10-6emu/gの値を示し、Ti−6Al−4V合金の磁化率である2.2×10-6emu/gに近い値を示していた。
これに対し、16Cr合金および20Cr合金は、およそ150K以下の温度では強磁性を示すが、およそ150K以上では、反強磁性的な挙動を示す。すなわち、ネール温度が250K付近に存在し、250K付近以上の温度では磁化率が温度の逆数に比例するランジュヴァン常磁性的挙動を示している。
この点、26Cr合金および29Cr合金は、10Kから強磁性的な挙動を示すことはなく、常に常磁性を示す。26Cr合金の磁化率はパウリ常磁性的挙動を示すが、100K以下の温度では温度の低下と共にわずかに磁化率が上昇する。これは、Co原子のスピン磁気モーメントが完全に消失していないことを示している。また、29Cr合金は、Ti−6Al−4V合金と同様にほとんど温度依存性を示さず、パウリ常磁性的な挙動を示すことが分かる。
同図に示したとおり、Cr濃度が16,20mass%の時は、ランジュヴァン常磁性を示すために、高い磁化率を示す。しかしながら、これよりCr濃度が上昇すると磁化率は急激に減少する。
この理由は、合金化によってCr原子の電子が放出されて、Coの3d軌道の空席を埋めるため、Co原子の磁気モーメントが著しく減少するためと考えられる。
しかしながら、Cr濃度が26mass%程度まで上昇すると、磁化率の減少率は低下する。これは、Cr原子から放出された電子により、Coの3d軌道の空席がほぼ完全に埋め尽くされ、Co原子の磁気モーメントがほとんど消失したことを意味している。
χP+χL=(neμB 2)/(kBTF) ・・・ (1)
ここで、ne:単位体積中の電子数
μB:ボーア磁子
kB:ボルツマン定数
TF:フェルミ温度
で常磁性磁化率が決まる。
図5に示したように、29Cr合金の常磁性磁化率の温度依存性はほとんど無いので、その磁化率はパウリ常磁性の特徴を有していると考えられる。
さらに、一層の磁化率の低減を達成するためには、(1)式よりneを低下させる合金設計を行えばよいことが分かる。
その結果、以下に述べる知見を得たのである。
なお、本発明では、単位体積中の電子数neの目安として、Coの原子番号27に近い元素で、かつ電気伝導度の低い(比抵抗ρの高い)元素は、Co原子と置換した場合に合金全体としてのneを低下させる効果を有していると考えた。このような合金元素としては、Ti(ρ=42.0×10-6Ωcm)、Cr(ρ=12.9×10-6Ωcm)およびMn(ρ=185×10-6Ωcm)等が考えられる。ちなみに、CoおよびMoの比抵抗はそれぞれ、ρ=6.24×10-6Ωcmおよびρ=5.2×10-6Ωcmである。その他に、析出物とくにσ相の析出を増やさないことを念頭においた。
Cr濃度が29mass%から35mass%に増加するにつれて、磁化率はほぼ直線的に減少し、Cr濃度が35mass%の試料IVにおいて最も低い磁化率χ(1.8×10-6emu/g)を示すことが分かる。これは、前掲(1)式より、磁化率が単位体積中の電子数neに比例することから考えて、Crの増量により単位体積中の電子数neが減少したことを示唆している。また、試料IIIと試料Vの磁化率を比較することにより、Mn添加は、磁化率の低下に効果があることが分かる。さらに、試料IIと試料VIの合金の磁化率を比較することにより、Tiの添加は磁化率の低下に効果があることが分かる。
そこで、発明者らは、本発明で目標とする3×10-6emu/g以下という低磁化率が安定して得られるCr量とMo量について、さらに検討を重ねた。
その結果、Cr量が28〜35mass%で、かつMo量が2〜6mass%の範囲であれば、所期した効果、すなわち3×10-6emu/g以下の低い常磁性磁化率が得られることが究明されたのである。
また、Mo量については、2〜6mass%の範囲に限定した。というのは、Mo量が2mass%に満たないと隙間腐食を起こすおそれがあり、一方6mass%を超えた状態でCrを28mass%以上に増加させると、力学特性に有害なσ相の析出を増加させるおそれが大きいからである。より好ましいMo量は3〜4mass%の範囲である。
とくに、成分系を上記の好適範囲にすれば、常磁性磁化率を2×10-6emu/g以下まで低減することが可能となる。
そこで、この点についても同様に調査検討したところ、Mnは20mass%以下およびTiは10mass%以下の範囲で含有させることが好適であることが判明した。
すなわち、Mnは、常磁性磁化率低減の観点からは2mass%以上含有させることが好ましいが、20mass%を超えると塑性加工性が損なわれるという問題が生じる。
同様に、Tiは、常磁性磁化率低減の観点からは1mass%以上含有させることが好ましいが、10mass%を超えるとやはり塑性加工性が損なわれるという問題が生じる。
本発明では、溶体化処理を行って合金成分を固溶させるが、そのためには、1000〜1260℃の温度域で1〜14時間程度加熱したのち、急冷処理を行う。この急冷処理は冷却速度:1.7℃/s以上とすることが好ましい。また、冷却手段については特に制限はないが、水冷やミスト冷却が有利に適合する。
この急冷処理により、σ相の生成が抑制されるだけでなく、γ→ε変態が生じて合金組織がε相となる。このε相は、γ相よりも磁化率が小さいと考えられるので、常磁性磁化率の低減に有利に寄与するのである。
また、上記の急冷処理後、サブゼロ処理を施すことによって、ε相の比率をさらに向上させることができる。
Claims (5)
- Cr:28〜35mass%および
Mo:2〜6mass%(但し、6mass%は除く)
を含有し、残部はCoおよび不可避的不純物の組成からなり、常磁性磁化率が3×10 -6 emu/g以下であることを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金。 - 請求項1において、Co−Cr−Mo合金が、さらに
Mn:20mass%以下および
Ti:10mass%以下
のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金。 - 請求項1または2において、Co−Cr−Mo合金が、さらに
C:0.3 mass%以下
を含有する組成になることを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の成分組成になるCo−Cr−Mo合金を、1000〜1260に加熱後、急冷し、γ→ε変態を生じさせてε相とし、常磁性磁化率を3×10 -6 emu/g以下とすることを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金の製造方法。
- 請求項4において、前記急冷後、サブゼロ処理を施すことを特徴とする MRI対応生体用Co−Cr−Mo合金の製造方法。
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