JP4627468B2 - ガスタービン燃料の製造方法、ガスタービン発電方法及び発電装置 - Google Patents

ガスタービン燃料の製造方法、ガスタービン発電方法及び発電装置 Download PDF

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Description

本発明は、重質油を精製してガスタービン燃料を製造する方法、ガスタービン発電方法及びガスタービン発電装置に関する。
重質油は、従来、主にボイラによる発電または熱供給を目的とした設備に使用されてきた。しかし、近年、この重質油をガスタービン燃料に用いることが検討されている。重質油をガスタービン燃料に用いる場合には、重質油中に含まれている重金属、特にバナジウムの濃度を低減することが必要になる。その理由は、バナジウムがガスタービンの高温腐食をもたらす原因となっているからである。バナジウム濃度を低減する方法の1つとして、重質油を水と混合し、水が超臨界または超臨界近傍となる反応条件下で重質油を分解して、軽質分と残分とに分離し、軽質分をガスタービン燃料として用いる方法がある(たとえば、特許文献1参照)。また、他の方法として、ペンタン、イソブタン等のようにアスファルテン不溶の溶媒を用いて重質油中のアスファルテン分を分離除去し、これによりアスファルテン分に含まれているバナジウムを除去してガスタービン燃料とする方法がある(たとえば、特許文献2参照)。
特開平11-80750号公報(要約) 再公表特許 WO2002/044307号公報(第9頁、第10〜20行)
超臨界水または超臨界近傍の水を用いて重質油を軽質化して軽質分をガスタービン燃料に用いる方法は、ガスタービン燃料として用いることのできる重質油の割合が少なく、重質油の利用率が低い。本発明の目的は、アスファルテン不溶の溶媒を用いて、重質油からアスファルテン分を除去することによってバナジウム濃度を低減する方法において、アスファルテン分を選択的に除去できるようにして、ガスタービン燃料としての重質油の利用率を高めることにある。
本発明は、重質油をアスファルテン不溶の溶媒と接触させて、重質油中に含まれているアスファルテン分を除去し、これによりバナジウム濃度を低減するようにしたガスタービン燃料の製造方法において、前記溶媒として比誘電率が1.4〜2.0の範囲にある溶媒を用いることにある。
また、本発明は、重質油をアスファルテン不溶の溶媒と接触させて重質油中に含まれているアスファルテン分を除去し、これによりバナジウム濃度を低減し、アスファルテン分が除去された重質油をガスタービン燃料に用いてガスタービンを駆動して発電を行う発電方法において、前記溶媒として比誘電率が1.4〜2.0の範囲にある溶媒を用いることにある。
また、本発明は、重質油を比誘電率が1.4〜2.0の範囲にある、アスファルテン不溶の溶媒と接触させて前記重質油に含まれているアスファルテン分を除去し、これによりバナジウム濃度を低減するようにした脱アスファルテン装置を備えたガスタービン発電装置にある。
本発明により、重質油中に含まれている成分のうち、アスファルテン分を選択的に除去することが可能になり、ガスタービン燃料に用いる重質油の利用率を高めることができた。
本発明は、アスファルテン不溶の溶媒を用いる重質油の処理方法において、アスファルテン分の不溶性が溶媒の比誘電率に依存し、溶媒の比誘電率が1.4〜2.0の範囲にあるときに、アスファルテン分を選択的に分離除去できることを見出したことに基づいている。アスファルテン不溶の溶媒の比誘電率が1.4よりも小さくなると、アスファルテン分も溶媒に溶解するようになり、重質油から選択的にアスファルテン分を除去することができない。また、アスファルテン不溶の溶媒の比誘電率が2.0よりも大きくなると、重質油中の軽質な成分も不溶となり、ガスタービンに供与できる燃料量が低減する。好適な溶媒は、水とプロパンである。水の場合は、温度と圧力を制御することにより比誘電率を1.4〜2.0の範囲に調整することが可能である。また、プロパンの場合は、常温で加圧することにより比誘電率を1.4〜2.0の範囲にすることが可能である。また、水を溶媒として用いた場合には、水油重量比は0.5〜1.5程度が望ましい。
アスファルテン不溶の溶媒が燃焼する際の生成物が、ガスタービン燃焼器及びガスタービンの構成部品にダーメージを与えないのであれば、アスファルテン分を除去した重質油と溶媒を同時にガスタービン燃焼器で燃焼させることができ、それにより、原理的にはアスファルテン分以外の全ての重質油成分をガスタービン燃料として使用できる。この点でも、アスファルテン不溶の溶媒として水を用いることは極めて望ましい。
本発明の具体的実施態様について述べる。第1の実施態様はガスタービン燃料の製造方法であり、重質油とアスファルテン不溶の溶媒とを接触させて、重質油中に含まれているアスファルテン分を除去し、ガスタービン燃料とするものである。この実施態様では、重質油からアスファルテン分が抽出分離されるまで、重質油と溶媒を混合状態に保つことが望まれる。また、その混合状態は、溶媒の比誘電率1.4〜2.0の範囲に維持される温度、圧力の条件下で行われることが望まれる。比誘電率を予め1.4〜2.0の範囲に調整した溶媒を重質油と混合しても良いし、また、溶媒と重質油を混合した後に溶媒の比誘電率が1.4〜2.0の範囲となるように混合物の温度と圧力を調整しても良い。
C重質油の成分比率を図3(a)に示し、C重質油中のバナジウム含有率を図3(b)に示す。C重質油中に含まれるアスファルテン分は、図3(a)の例では2%程度である。また、C重質油中のバナジウムは、図3(b)に示すように、ほぼ99%がアスファルテン分の中に含まれている。このことは、C重質油中に含まれる2%のアスファルテン分を選択的に除去できれば、C重質油中のバナジウムのほぼ99%を除去できることを意味する。一般に、重質油をガスタービンに使用する場合には、バナジウムによる高温腐食防止の点から、燃料中のバナジウム濃度を0.5重量ppm以下に制限することが望まれる。前述のようC重質油の場合には、アスファルテン分を除去することにより、燃料中のバナジウム濃度を0.5重量ppm以下に制御することが可能である。また、C重質油中に占めるアスファルテン分の量は2%程度であるから、アスファルテン分を選択的に除去することにより、C重質油の98%程度をガスタービン燃料として利用することができる。また、アスファルテン分の抽出率は、重質油と溶媒を混合状態に保持しておく時間、温度及び圧力の影響を受けるから、これらの条件を制御することによりアスファルテン分の抽出率を制御し、ガスタービン燃料としての重質油の利用率を95%以上に高めることが可能である。
第2の実施態様は、本発明の方法によって製造されたガスタービン燃料を用いてガスタービンを駆動し発電を行うことであり、ここでは、除去されたアスファルテンの燃焼熱、或いはガスタービンの排熱を利用して様々な形態が採り得る。たとえば、重質油から分離されたアスファルテン分を単独に燃焼または他の燃料の助燃により燃焼することにより高温燃焼ガスを発生させ、この燃焼ガスを脱アスファルテン処理の溶媒に使用される水を比誘電率1.4〜2.0の範囲に調整するための加熱源として用い、アスファルテン分の燃焼による熱を溶媒としての水を介して間接的にガスタービンにて回収することである。
また、他の形態は、ガスタービンから排出される排ガスを、脱アスファルテン処理の溶媒に使用される水を比誘電率1.4〜2.0の範囲に調整するための加熱源、或いは重質油と水との混合物を水の比誘電率が1.4〜2.0の範囲になる温度、圧力の条件下で脱アスファルテン処理するための加熱源として用い、ガスタービン排ガスの熱を溶媒としての水或いは重質油を通じてガスタービンにて回収することである。更に他の形態は、ガスタービンから排出される排ガスの熱を回収して蒸気を発生させ、この蒸気を、重質油の脱アスファルテン処理に使用される水を比誘電率1.4〜2.0の範囲に調整するための加熱源、或いは重質油と水との混合物を水の比誘電率が1.4〜2.0の範囲になる温度、圧力の条件下で脱アスファルテン処理するための加熱源として用い、ガスタービン排ガスの熱を溶媒としての水或いは重質油を通じてガスタービンにて回収することである。ガスタービンの排ガスを回収して発生させた蒸気を用いる方法は、ガスタービン排ガスを直接用いる方法に比べて、配管等の腐食を軽減できるという利点がある。
第3の実施態様は、本発明の方法により製造したガスタービン燃料を用いるガスタービン発電装置であり、ここでの形態としては、以下が考えられる。1つは、重質油をアスファルテン不溶の溶媒と接触させることにより重質油から分離されたアスファルテン分を、単独に燃焼または他の燃料の助燃により燃焼させるアスファルテン分燃焼装置を備え、この高温燃焼ガスを脱アスファルテン処理で溶媒として使用される水を比誘電率1.4〜2.0の範囲に調整するための加熱源として用い、アスファルテン分の燃焼による熱を溶媒としての水を介して間接的にガスタービンにて回収するようにしたものである。
アスファルテン分は3000〜5000kcal/kg程度の発熱量を持ち、自身の発熱量で安定燃焼が可能である。アスファルテン分は、常温では流動性が悪く固体状となり、通常は道路に敷設されるアスファルトなどへの需要があるのみである。そのため、アスファルテン分は重質油から除いた直後に処理するのが望ましい。本形態では、アスファルテン分の燃焼熱を、溶媒としての水を加熱するために利用し、ガスタービンにて回収することができる。また、アスファルテン分は重質油全体の2%程度であり、それをボイラで燃焼させ、蒸気を発生させ、蒸気タービンで発電するには熱的に十分ではない。しかし、アスファルテン分除去用の溶媒である水の比誘電率を制御するために必要な温度を確保するには、十分な熱量を有する。
他の1つは、ガスタービンから排出される排ガスを脱アスファルテン処理に使用される水を比誘電率1.4〜2.0の範囲に調整するための加熱源、または重質油と水との混合物を前記水の比誘電率が1.4〜2.0の範囲になる温度、圧力の条件下で脱アスファルテン処理するための加熱源として用い、ガスタービン排ガスの熱を溶媒としての水或いは重質油を通じて前記ガスタービンにて回収するようにしたものである。ガスタービンの排熱は500℃以上の高温であるため、アスファルテン分除去用溶媒である水を加熱するのに十分使用できる。
また、他の1つは、ガスタービンから排出される排ガスの熱を回収して蒸気を生成する排熱回収ボイラを備え、この排熱回収ボイラで生成された蒸気を脱アスファルテン処理に使用される水を比誘電率1.4〜2.0の範囲に調整するための加熱源、または重質油と水との混合物を前記水の比誘電率が1.4〜2.0の範囲になる温度、圧力の条件下で脱アスファルテン処理するための加熱源として用い、ガスタービン排ガスの熱を溶媒としての水或いは重質油を通じてガスタービンにて回収するようにしたものである。アスファルテンの燃焼による排熱とガスタービンの排熱とを組み合わせて、アスファルテン分除去用溶媒である水を加熱するのに使用してもよい。
アスファルテン分は平均で分子量が1000〜100000程度の高分子化合物であり、重質油の中で最も重い成分であるため、アスファルテン分以外の重質油と溶媒の混合物よりも密度が大きく、重力によりアスファルテン分は混合物中を容易に落下し、下部に停留する。その性質を利用し、第3の実施態様では、アスファルテン分のみを密度差と重力を利用して選択的に抜き出すことが望ましい。本発明に係る第3の実施態様によれば、重質油を原料としてガスタービン燃料を製造する段階から、発電までの過程をオンサイトで実施することができる。
アスファルテン分不溶の溶媒として水を用いる、本発明のガスタービン発電装置の実施態様では、一例として、重質油と水の供給及び加圧手段、重質油と水を混合させることにより重質油からアスファルテン分を除去する脱アスファルテン手段、除去したアスファルテン分を単独或いは助燃により燃焼する手段、アスファルテン分燃焼ガスと水及び重質油との熱交換手段、アスファルテン分を除去した重質油と水の混合物を減圧する手段が備えられる。さらに重質油と水の混合物のうちガス成分と液体成分を分離する手段、分離した液体成分を保存する貯蔵手段、貯蔵された液体をガスタービンへ供給する手段、重質油と水の混合物のうちガス成分をガスタービンへ供給する手段、ガスタービン、ガスタービン用発電機が備えられる。これによって、水の比誘電率を1.4〜2.0に制御するために必要な温度を確保するために、重質油から除去したアスファルテン分の燃焼排ガスを用いることができ、アスファルテン分を除去した後の水を、アスファルテン分を除去した重質油と混合した状態でガスタービン燃焼器に供給することにより、アスファルテン分からの熱をガスタービンで回収することができる。水とアスファルテン分を除去した重質油との混合物は、ガスタービン燃焼器に供給する前に、ガスタービン燃焼器に通常供給される燃料圧力条件になるように減圧手段により調整される。このとき、減圧に伴う断熱膨張により混合物の温度が低下し、混合物はガス状成分と液状成分とに分離する。ガス状成分と液状成分は気液分離手段により分離され、ガス状成分はガスタービン燃焼器へ直接供給され、液状成分は一旦タンクなどの貯蔵手段を経た後に、ガスタービン燃焼器へ供給される。これにより、アスファルテン分を除去した重質油を全量、ガスタービンに供給することが可能になる。
本発明の第4の実施態様は、ガスタービン下流に排熱回収ボイラを設け、ガスタービン排ガスを利用して、蒸気を生成し、蒸気タービンを駆動するガスタービン・コンバインド発電装置とするものである。ガスタービンの排ガスは500℃以上の高温であり、アスファルテン分不溶の溶媒として水を使用し、その比誘電率を低下させるために排熱回収ボイラを通じて昇温させるために使用しても、まだ十分な熱エネルギーを有する。そこで、さらに排熱回収ボイラにて蒸気を製造し、蒸気にて蒸気タービンを駆動することにより、発電システムの全体の効率を向上できる。これにより、重質油を有効に電力に変換することができる。
本発明では、アスファルテン分を縮合多環芳香族が層状構造をなしたもので、分子量が1000〜100000程度の高分子化合物と定義する。これは、通常、工業的に定義されているアスファルテン分の定義そのものであり、特に本発明に特有のものではない。
比誘電率は、アスファルテン不溶の溶媒の極性と関係する物性値であり、比誘電率の大きな状態では、例えば食塩のような無機物に代表される極性の大きな物質をよく溶かし、反対に有機物などのように極性の小さな物質は殆ど溶解しない。常温の水は比誘電率が80程度と非常に大きいために、油のような有機物を溶解できない。しかし、一般に溶媒は、温度、圧力の上昇とともに、比誘電率は徐々に減少し、2以下程度と非常に小さい値となる。このような状態では、例えば水の場合、常温の水とは反対に、水と油はよく混じり合い、逆に無機塩は水に殆ど溶解しない状態となる。
温度と圧力が水の比誘電率に与える影響を図4に示す。最も低い温度と圧力の組み合わせでは、350℃、16MPa程度でも水の比誘電率を1.4〜2.0の範囲にすることができる。図4中で、特に水の温度が430〜460℃の範囲では、アスファルテン分を除去した後の重質油が熱分解により一部ガス化し、全体的には軽質化させる効果も期待できる。これによれば、重質油の粘度を低減でき、より効果的にガスタービン燃焼器に供給することが可能となる。
本発明において、重質油としては、原油、A重質油、B重質油、C重質油、常圧残滓油、減圧残滓油、ビチューメン、椰子油、椰子殻油などのバイオ油が使用可能であるが、これらに限定されるものではない。
一般に油は飽和分、芳香族分、レジン及びアスファルテン分の比率により、粘度などの性状や、バナジウムなどの不純物含有率が異なる。飽和分は、パラフィン、ナフテンと呼ばれる分子量300〜2000の成分であり、芳香族分は芳香族と呼ばれる500〜2000の成分である。これらの成分は総称して油分と呼ばれる。レジンは、総合多環芳香族で分子量500〜50000の化合物である。更に、アスファルテン分は、縮合多環芳香族が層状構造をなしたもので、分子量が1000〜100000程度の高分子化合物である。代表的なアスファルテン分の分子構造模型を図5に示す。図5の例は、分子量が約7000のものである。レジン以下の油成分の密度は通常0.9g/cm3程度であるのに対し、アスファルテン分の密度は1.0g/cm3以上であり、水より重く、また流動性を持つ軟化点は45〜55℃程度である。通常、重質油と呼ばれる油は、上記成分の中でレジン、アスファルテン分の比率が高いのが特徴となっている。C重質油の場合は、レジン分、アスファルテン分、共に2%程度含有される。アスファルテン分の中には硫黄、窒素、バナジウムを始めとする重金属が含まれる。特に重質油中の含有バナジウムは、その99%が重質油中のアスファルテン分中に含まれるものである。
重質油中に含まれる不純分の中で、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの成分は脱塩装置として公知なように、水洗浄、アルカリ洗浄などにより、比較的容易に除去することができる。本発明では、アスファルテン分が不溶な溶媒を重質油と混合させることにより、アスファルテン分以外の重質油成分と溶媒の均質な溶解混合物を形成させ、前記混合物とアスファルテン分の密度差と重力により、アスファルテン分を前記混合物から分離させ、アスファルテン分を混合物から分離することにより、同時にアスファルテン分に含有する不純物を除去するものである。アスファルテン分が溶媒に不溶か否かは比誘電率により決定される。溶媒として水を使用する場合、15MPa、350℃以上であれば、水の比誘電率は1.4〜2.0程度となり、アスファルテン分を選択的に不溶とする条件になる。
また、溶媒と混合する重質油の温度、圧力条件は、温度、圧力条件により溶媒の比誘電率が影響を受けるので、溶媒と同一条件にすることが望ましい。
溶媒と重質油の混合物から、密度差と重力を利用しアスファルテン分を除去するには、溶媒がアスファルテン分の密度よりも小さいことが望ましい。水は、その条件に合う溶媒である。
重質油として、飽和分と芳香族を含む比率が96.5重量%、レジン分含有比率が2重量%、アスファルテン分含有比率が1.5重量%、バナジウム含有比率が4.6重量ppmのC重質油を用い、アスファルテン不溶の溶媒として水を用い、圧力20MPa、温度450℃の条件で比誘電率を1.5に制御した後に、重質油と混合させた実験を行った。その結果、アスファルテン分除去後のC重質油は、飽和分と芳香族の含有比率が98.3重量%、レジン分含有比率が1.7重量%、アスファルテン分の含有比率が0%、バナジウム含有比率が0.1重量ppm以下になった。
上記の結果より、アスファルテン分を完全に除去できていると同時に、アスファルテン分に含有されるバナジウムも同時に除去されていることが分かった。他の成分には殆ど差異がなく、比誘電率が1.5に制御された水をアスファルテン分不溶の溶媒として用いることにより、アスファルテン分のみを選択的に除去できることが確認された。なお、この場合、アスファルテン分を除去した後の重質油全量をガスタービン用燃料として用いることができる。
重質油からアスファルテン分を除去する脱アスファルテン装置は、重質油と溶媒が混合される容器の相対的に上部から重質油と溶媒を個別に、或いは混合後に供給するものが望ましい。個別或いは既に混合した状態でも、溶媒に不溶なアスファルテン分は密度差により自然に分離され、容器の相対的下部に停留する。容器は、供給部よりもアスファルテン分の停留部が相対的に下部に設置されていれば、形状は規定されない。アスファルテン分を除去した重質油と水の混合物からアスファルテン分が密度差と重力により分離、下部に落下するのには一定の時間が必要であり、好ましくは1.5〜2分を最適とするが、溶媒の温度が450℃以上の場合では、混合した重質油からカーボン分が析出するため、5分以内が望ましい。重質油と溶媒の混合からアスファルテン分離までの操作は、連続流通式、バッチ式のいずれでもよい。混合からアスファルテン分離までには一定の時間が必要であるが、連続し流通式の場合には溶媒と重質油の供給量に合わせて容器の大きさを決定すれば良く、バッチ式の場合には混合からアスファルテン分離まで時間により運用する。
水のように15MPa、350℃以上の高温・高圧条件下で比誘電率が1.4〜2.0となる溶媒においては、加熱及び加圧手段を設ける必要がある。加熱手段としては輻射加熱を用いる場合には電気ヒーターが望ましく、対流加熱を用いる場合には蒸気や高温ガスをあげることができる。本発明では、アスファルテン分を燃焼処理した際に生じる高温排ガスを水の加熱源として用いることが望ましい。また、溶媒と重質油とは、溶媒の比誘電率を1.4〜2.0とする条件で混合することが望ましい。重質油の加熱手段も、輻射加熱を用いる場合には電気ヒーターが望ましく、対流加熱を用いる場合には蒸気や高温ガスをあげることができる。但し、重質油を加熱する伝熱部が破損した場合、重質油が高温雰囲気に漏洩する恐れがあるので、火災防止の観点から、高温加熱領域に酸素が無いこと、或いは可燃限界酸素量以下であることが望ましい。アスファルテン分を燃焼処理した排ガスは、その条件に合うものであり好ましい。
ガスタービン発電において、現状使用できる市販で最も安価な油燃料はA重質油であり、C重質油との価格差は10〜17%程度である。そのため、C重質油を例にすると、アスファルテン分を除去した後のC重質油のガスタービンへの供給量は95%以上が好ましい。本発明で対象としている重質油中のアスファルテン分含有率は5%以下であり、この目的に叶うものである。
アスファルテン分を除去した後の重質油は、ガスタービンで直ちに燃焼するのが熱エネルギーを回収する上で望ましいが、熱エネルギーの回収を別にすれば、重質油の一部を外部の発電設備に輸送し、使用することも可能である。以下、本発明の重質油を用いたガスタービン発電方法及びその構成を、図面を用いて説明する。
図1は、アスファルテン不溶の溶媒として、比誘電率が1.4〜2.0に調整された水を用いた場合の実施例である。図1において、重質油タンク1から供給された重質油16は重質油ポンプ5により、水の比誘電率が1.4〜2.0の範囲になる圧力に昇圧される。また、溶媒タンク3から供給された溶媒15である水は溶媒ポンプ6により比誘電率が1.4〜2.0の圧力に昇圧される。重質油と溶媒は合流させた後、混合器7に供給される。混合器7は、本発明での脱アスファルテン装置に該当する。混合器7では重質油中のアスファルテン分17以外の成分は、溶媒に溶解し、均一な混合物を形成する。アスファルテン分17は、比誘電率が1.4〜2.0の水に不溶であり、かつ水及び水に溶解した重質油成分よりも密度が大きいために、重力により混合器下部に停留する。下部に停留したアスファルテン分17は、混合器下部に設けられたアスファルテン分抜き出し部8から、混合器外7へ排出される。溶媒とアスファルテン分を除去した重質油との混合物18は、一旦、混合物貯蔵タンク14に貯蔵され、移送ポンプ27にて、ガスタービン燃焼器24へ供給される。この方法により、重質油タンク1から供給された重質油の95%以上をガスタービン燃焼器24に供給することが可能である。これにより、安価な重質油の95%以上をガスタービン燃料に用いてガスタービン23を駆動し、重質油による高効率発電を実現できる。本実施例では、ガスタービン排ガス25の熱を排熱回収ボイラ31で回収し、そこで発生させた蒸気を加熱器38に供給して混合器7を加熱している。
図6は、混合器7の構造を示した図である。混合器7の入口35から供給された重質油と溶媒の混合物36中には、溶媒に不溶なアスファルテン分が液滴33の形で浮遊している。アスファルテン分の液滴33は、混合物36よりも密度が重いために重力により、混合器7の下部に落下し停留する。停留したアスファルテン分17はアスファルテン分抜き出し部8から混合器7の外部へ排出される。
図2は、溶媒に水を用いた場合の他の実施例である。図1との違いは、排熱回収ボイラ31で発生させた蒸気を加熱38に送り、混合器7の加熱に用いた後、復水器29およびポンプ30を介して再び排熱回収ボイラ31に戻し、再循環型にしていることである。
図7は、溶媒として、プロパンのように常温で加圧することにより比誘電率を1.4〜2.0の範囲に調整できる溶媒を用いた場合の実施例である。図7において、重質油タンク1から供給された重質油は重質油ポンプ5により、溶媒であるプロパンの比誘電率が1.4〜2.0となる圧力に昇圧される。また、溶媒タンク3から供給されたプロパンは溶媒ポンプ6により、同じく比誘電率が1.4〜2.0になるように昇圧される。そして、混合器7に供給される。混合器7では重質油中のアスファルテン分17以外の成分は、プロパンに溶解し、均一な混合物を形成する。アスファルテン分17は、比誘電率が1.4〜2.0のプロパンには不溶であり、かつプロパン及び水に溶解した重質油成分よりも密度が大きいために、重力により混合器下部に停留する。したがって、混合器から容易に抜き出すことができる。プロパンとアスファルテン分を除去した重質油との混合物18は、比誘電率が1.4〜2.0となるように圧力が制御されているために、ガスタービン燃焼器24に供給する燃料圧力よりも高い可能性がある。そのため、減圧器11により減圧される。その際、混合物18は減圧する際の断熱膨張により、重質油と溶媒の蒸気成分19と、重質油の液成分20の混合状態となる。そこで、気液分離器12により、蒸気成分19、液成分20に分離する。蒸気成分19は直接ガスタービン燃焼器24へ供給し、液成分20は一旦、タンク14へ貯蔵した後に、ガスタービン燃焼器24へ供給される。蒸気成分19と液成分20を合計すると、重質油タンク1から供給された重質油の95%以上をガスタービン燃焼器24に供給することが可能である。これにより、安価な重質油の95%以上をガスタービン燃焼器24に供給してガスタービン23を駆動することが可能になり、重質油による高効率発電を実現できる。
図8は、溶媒として水を用いた場合の実施例である。図8において、重質油タンク1から供給された重質油16は重質油ポンプ5により、好ましくは15MPa以上の圧力に昇圧され、更に溶媒タンク3から供給された溶媒15である水は溶媒ポンプ6により、同じく15MPa以上の圧力に昇圧される。重質油16を昇圧するのは、重質油と水が混合した際に、水の比誘電率に変化を与えないためである。更に、水及び重質油は、それぞれ水加熱器4及び重質油加熱器2により、圧力に応じて比誘電率が1.4〜2.0の範囲となるように加熱される。圧力と同様に、水と重質油が混合しても水の比誘電率に変化が生じないように水と重質油の温度が同一になることが望ましい。水の比誘電率が1.4〜2.0となる温度と圧力の条件下で、水と重質油は混合器7にて混合される。混合器7で分離されたアスファルテン分は混合器7の外部へ抜き出され、アスファルテン分貯蔵タンク9に貯蔵される。アスファルテン分貯蔵タンク9に貯蔵されたアスファルテン分17はアスファルテン分燃焼炉10に供給され、ブロア21により供給された空気によって燃焼処理される。アスファルテン分燃焼炉10には重質油タンク1内の重質油の一部を移送ポンプ26により助燃用に供給することもできる。アスファルテン分燃焼炉10で生成した高温のガスは、重質油と水を加熱するのに使用される。水とアスファルテン分を除去した重質油との混合物18は、比誘電率が1.4から2.0となるように圧力と温度が制御されているために、一般にガスタービン燃焼器24に供給する燃料圧力よりも高い。そのため、混合物18は減圧器11により減圧される。減圧する際の断熱膨張により、混合物18は蒸気成分と液成分の混合状態となるので、気液分離器12により、蒸気成分と液成分とに分離する。蒸気成分19は直接、ガスタービン燃焼器24へ送り、液成分20は冷却器13により、好ましくは60℃程度に冷却した後に、一旦、タンク14に貯蔵し、その後、ガスタービン燃焼器24へ供給する。本実施例では、蒸気成分19と液成分20を合計すると、重質油タンク1から供給された重質油2の95%以上をガスタービン燃焼器24に供給することが可能である。これにより、安価な重質油の95%以上をガスタービン燃焼器に供給し、燃焼ガスでタービンを駆動して、重質油による高効率発電を実現できる。
図9は、溶媒として水を用い、コンバインド化した実施例である。図8と相違する部分についてのみ説明する。ガスタービンの排ガス25はまだ500℃以上の高温であるために、排熱回収ボイラ31にて蒸気32を発生させ、蒸気タービン28を駆動することができる。蒸気タービン28を駆動した後の蒸気32は復水器29にて水に戻り、ポンプ30にて再び排熱回収ボイラ31へと循環される。このようにコンバインドサイクル化することにより、更なる重質油による高効率発電が実現できる。
本発明により、アスファルテン不溶の溶媒を用いて重質油からアスファルテン分を除去しガスタービン燃料を製造する方法において、アスファルテン分を選択的に除去し、ガスタービン燃料に利用できる重質油の利用率を高めることができた。これにより重質油による高効率発電を実現できた。
本発明によるガスタービン発電装置の一実施例を示す概略図。 本発明の他の実施例を示すガスタービン発電装置の概略図。 C重質油の成分比率とバナジウム含有比率を示す図。 水を例にした、温度と圧力による比誘電率の変化を示す図。 アスファルテン分の構造分子模型の一例を示す図。 重質油の脱アスファルテン処理を行う混合器の構造の一例を示す図。 本発明によるガスタービン発電装置の他の例を示す概略図。 アスファルテン分燃焼ガスを溶媒と重質油の加熱に用いたガスタービン発電装置の概略図。 図8に示すガスタービン発電装置をコンバインド化した実施例を示す概略図。
符号の説明
1…重質油タンク、3…溶媒タンク、4…溶媒加熱器、5…重質油ポンプ、6…溶媒ポンプ、7…混合器(脱アスファルテン装置)、8…アスファルテン分抜き出し部、9…アスファルテン分貯蔵タンク、10…アスファルテン分燃焼炉、11…減圧器、12…気液分離器、13…冷却器、14…タンク、15…溶媒、16…重質油、17…アスファルテン分、18…混合物、19…蒸気成分、20…液成分、21…ブロワ、22…ガスタービン圧縮機、23…ガスタービン、24…ガスタービン燃焼器、25…ガスタービン排ガス、28…蒸気タービン、29…復水器、31…排熱回収ボイラ。

Claims (2)

  1. 重質油をアスファルテン不溶の溶媒と接触させてアスファルテン分を除去する工程を含むガスタービン燃料の製造方法において、前記溶媒として常温で加圧することにより比誘電率を1.4〜2.0の範囲に調整したプロパンを用いることを特徴とするガスタービン燃料の製造方法。
  2. 重質油をアスファルテン不溶の溶媒と接触させてアスファルテン分を除去する脱アスファルテン処理を施し、これによりアスファルテン分が除去された重質油をガスタービン燃料に用いてガスタービンを駆動し発電を行う方法において、前記溶媒として常温で加圧することにより比誘電率を1.4〜2.0の範囲に調整したプロパンを用いることを特徴とするガスタービン発電方法。
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