ところで、例えば、車両などにおいては、さらなるNV特性の向上が求められている。従って、能動型防振装置自身が発生する高調波成分をより低減することが求められている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、能動型防振装置自身が発生する高調波成分をより低減することができる能動型防振装置を提供することを目的とする。
本発明の能動型防振装置は、防振対象部材に取り付けられ振動することにより前記防振対象部材の振動を抑制可能な加振部材と、加振部材を振動させるための加振力を発生する電磁アクチュエータと、前記防振対象部材の防振対象振動の角周波数ωに基づき周期性の指令信号を生成する指令信号生成部と、指令信号に基づき電磁アクチュエータを駆動する駆動部と、を備える能動型防振装置において、入力基本波成分生成部と、低次マップ記憶部と、低次高調波成分生成部と、高次マップ記憶部と、高次高調波成分生成部とをさらに備える。
入力基本波成分生成部は、防振対象振動の角周波数ωに基づき防振対象振動に対応する周期性の入力基本波成分を生成する。
低次マップ記憶部は、入力基本波成分と指令信号の低次高調波成分である入力低次高調波成分との関係、若しくは、入力基本波成分と入力低次高調波成分を求めるための低次中間成分との関係からなる低次マップを記憶する。この低次マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωについて入力基本波成分を指令信号とした場合に発生する電磁アクチュエータの加振力の低次高調波成分である出力低次高調波成分を予め検出し、入力基本波成分及び出力低次高調波成分に基づき求める。
低次高調波成分生成部は、低次マップを用いて防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分に対応する入力低次高調波成分を生成する。
高次マップ記憶部は、入力基本波成分と指令信号の高次高調波成分である入力高次高調波成分との関係、若しくは、入力基本波成分と入力高次高調波成分を求めるための高次中間成分との関係からなる高次マップを記憶する。この高次マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωについて入力基本波成分に低次高調波成分生成部により生成される入力低次高調波成分を加えた信号を指令信号とした場合に発生する電磁アクチュエータの加振力の高次高調波成分である出力高次高調波成分を予め検出し、入力基本波成分及び出力高次高調波成分に基づき求める。なお、上述した高次高調波成分の次数は、低次高調波成分の次数よりも高いものである。
高次高調波成分生成部は、高次マップを用いて防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分に対応する入力高次高調波成分を生成する。
そして、本発明の能動型防振装置の指令信号生成部は、入力基本波成分に、低次高調波成分生成部により生成される入力低次高調波成分及び高次高調波成分生成部により生成される入力高次高調波成分を加えることにより指令信号を生成する。
つまり、本発明の能動型防振装置によれば、低次マップを用いて得られた低次高調波成分及び高次マップを用いて得られた高次高調波成分が指令信号に含まれている。そして、低次マップを求める際に電磁アクチュエータを駆動する指令信号は、入力基本波成分としている。また、高次マップを求める際に電磁アクチュエータを駆動する指令信号は、入力基本波成分に、低次マップを用いて得られた入力低次高調波成分が加えられた信号としている。つまり、まず低次マップを求め、その後に低次マップを用いて高次マップを求めている。
このようにして求めた低次マップ及び高次マップを用いて指令信号を生成することにより、能動型防振装置自身が発生する高調波成分をより確実に低減することができる。特に、高次高調波成分をより低減することができる。高次高調波成分をより低減できる理由について、以下に説明する。
まず、比較のため、以下の生成方法により生成されたマップ(以下、「比較用マップ」という。)を用いた場合について説明する。ここで、説明を容易にするために、高調波成分は、2次高調波成分及び3次高調波成分とし、本発明の低次マップを2次マップとし、本発明の高次マップを3次マップとする。
2次高調波成分の比較用マップは、入力基本波成分を指令信号とした場合に発生する電磁アクチュエータの加振力の2次高調波成分を予め検出し、当該検出した加振力の2次高調波成分に基づき求める。また、3次高調波成分の比較用マップは、入力基本波成分を指令信号とした場合に発生する電磁アクチュエータの加振力の3次高調波成分を予め検出し、当該検出した加振力の3次高調波成分に基づき求める。
つまり、2次高調波成分の比較用マップ(以下、「2次比較用マップ」という)は、本発明の2次マップと同一であるが、3次高調波成分の比較用マップ(以下、「3次比較用マップ」という)は、本発明の3次マップと異なる。具体的には、3次比較用マップは、入力基本波成分を指令信号としているのに対し、本発明の3次マップは、入力基本波成分に入力2次高調波成分を加えたものを指令信号としている点が相違する。
そして、2次比較用マップのみを用いて2次高調波成分のみを低減する場合、3次比較用マップのみを用いて3次高調波成分のみを低減する場合、2次比較用マップ及び3次比較用マップを用いて2次高調波成分及び3次高調波成分を低減する場合について検討した。
2次高調波成分のみを低減する場合には、入力基本波成分に2次比較用マップにより得られた入力2次高調波成分のみを加えたものを指令信号として電磁アクチュエータを駆動した。この場合、加振力の2次高調波成分が大きく低減されていた。また、3次高調波成分のみを低減する場合には、入力基本波成分に3次比較用マップにより得られた入力3次高調波成分のみを加えたものを指令信号として電磁アクチュエータを駆動した。この場合、加振力の3次高調波成分が大きく低減されていた。
2次高調波成分及び3次高調波成分を低減する場合には、入力基本波成分に、2次比較用マップ及び3次比較用マップにより得られた入力2次高調波成分及び入力3次高調波成分を加えたものを、指令信号として電磁アクチュエータを駆動した。この場合には、加振力の2次高調波成分及び3次高調波成分が低減されていた。しかし、特に3次高調波成分のみを低減する場合に比べて、加振力の3次高調波成分の低減効果が小さくなっていた。
そこで、本発明者らは、指令信号と電磁アクチュエータの加振力との関係についてさらなる検討を行い、電磁アクチュエータの加振力には、入力基本波成分に高調波成分が重畳されるが、分数調波成分が重畳されないことを発見した。すなわち、指令信号が余弦波信号の場合には、電磁アクチュエータの加振力は、当該余弦波信号に相当する成分と当該余弦波信号の高調波成分に相当する成分とが含まれるが、当該余弦波信号に相当する分数調波成分は含まれない。
つまり、入力基本波成分に、2次比較用マップ及び3次比較用マップにより得られた入力2次高調波成分及び入力3次高調波成分を加えたものを指令信号として電磁アクチュエータを駆動した場合には、指令信号に含まれる2次高調波成分の影響により、電磁アクチュエータの加振力に、2次高調波成分より高次の高調波成分が新たに発生したものと思われる。そのため、加振力の3次高調波成分の低減効果が小さくなったものと思われる。
そこで、電磁アクチュエータの加振力に高調波成分が含まれる関係を利用して、本発明は、まず低次高調波成分に関する低次マップを求め、その後に低次マップを用いて高次高調波成分に関する高次マップを求めるようにした。つまり、高次マップは、低次マップにより得られる入力低次高調波成分を含む指令信号に基づき発生する電磁アクチュエータの加振力を用いている。すなわち、高次マップは、指令信号の入力低次高調波成分の影響により高次の高調波成分が新たに発生した分を考慮したものとなっている。従って、本発明によれば、加振力の高次高調波成分を確実に低減することができる。
さらに、電磁アクチュエータの加振力に分数調波成分が含まれない関係により、まず低次マップを求め、その後に低次マップを用いて高次マップを求めたとしても、低次高調波成分への影響は小さい。つまり、加振力の低次高調波成分を確実に低減することができる。
なお、指令信号生成部は、上述したように、防振対象部材の防振対象振動の角周波数ωに基づき周期性の指令信号を生成している。この防振対象部材の防振対象振動は、所定の振動発生源の振動に起因して発生する防振対象部材自体の振動としてもよいし、振動発生源の振動としてもよい。振動発生源の振動とすることができる理由は、振動発生源の振動に起因して発生する防振対象部材の防振対象振動の角周波数ωが、振動発生源の振動の角周波数ωにほぼ一致しているからである。
また、本発明の能動型防振装置において、指令信号生成部により生成される指令信号は、電流信号からなるようにしてもよい。つまり、低次マップは、電流信号からなる入力基本波成分と電流信号の入力低次高調波成分との関係からなり、高次マップは、電流信号からなる入力基本波成分と電流信号の入力高次高調波成分との関係からなる。このように、指令信号を電流信号とすることにより、すなわち電流制御を行うことにより、駆動部及び電磁アクチュエータの温度変化などに影響されることなく、制御することができる。
また、本発明の能動型防振装置において、指令信号生成部により生成される指令信号は、電圧信号からなるようにしてもよい。つまり、低次マップは、電圧信号からなる入力基本波成分と電圧信号の入力低次高調波成分との関係からなり、高次マップは、電圧信号からなる入力基本波成分と電圧信号の入力高次高調波成分との関係からなる。このように、指令信号を電圧信号とすることにより、すなわち電圧制御を行うことにより、駆動部の低コスト化を図ることができる。
また、本発明の能動型防振装置における指令信号生成部は、防振対象振動の角周波数ωに応じて位相補償して指令信号を生成するようにするとよい。これにより、加振部材が、防振対象の振動の逆位相となるように振動させることができる。その結果、確実に防振対象部材の振動を抑制するように、加振部材を振動させることができる。なお、位相補償は、基本波成分及び高調波成分のそれぞれに対して行うとよい。そして、位相補償するためには、例えば、複数の防振対象振動の角周波数ωに応じた位相マップを用いるとよい。この位相マップは、例えば、基本波成分及び高調波成分のそれぞれについてのマップとするとよい。
また、本発明の能動型防振装置は、複数の防振対象振動の低次高調波成分の角周波数nω(nは次数)における加振力の基本波成分である出力基本波成分の振幅と入力基本波成分の振幅との関係からなる低次第2マップを記憶する低次第2マップ記憶部をさらに備えるようにする。そして、低次マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける入力基本波成分の振幅と低次中間成分である出力低次高調波成分の振幅との関係からなる低次第1マップとする。
そして、このとき、低次高調波成分生成部は、低次第1マップを用いて防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分の振幅に対応する出力低次高調波成分の振幅を求め、低次第2マップを用いて出力低次高調波成分の振幅、防振対象振動の低次高調波成分の角周波数nω及び入力基本波成分の振幅に基づき入力低次高調波成分の振幅を生成するようにしてもよい。
この特徴的な点は、低次高調波成分生成部が、低次第2マップを用いて入力低次高調波成分の振幅を求める際に、出力低次高調波成分の振幅及び防振対象振動の角周波数ωのみならず、防振対象振動の角周波数ωにおける入力基本波成分の振幅を用いていることである。つまり、入力基本波成分の振幅を考慮した上で、入力低次高調波成分の振幅を求めている。
ここで、低次第2マップとは、例えば以下のようなものである。例えば、防振対象振動の角周波数ωが30Hzの場合、防振対象振動の2次高調波成分に関する低次第2マップは、防振対象振動の角周波数ωが60Hzにおける、出力基本波成分の振幅と入力基本波成分の振幅との関係となる。
ところで、本発明の低次高調波成分生成部は、入力基本波成分の振幅を考慮して入力低次高調波成分の振幅を求めているが、低次高調波成分生成部は、入力基本波成分の振幅を考慮することなく、低次第2マップを用いて、出力低次高調波成分及び防振対象振動の角周波数ωに対応する入力低次高調波成分の振幅を求めることもできる。しかし、入力基本波成分の振幅を考慮せずに求めた入力低次高調波成分の振幅により生成した指令信号と、入力基本波成分の振幅を考慮して求めた入力低次高調波成分の振幅により生成した指令信号とを比較すると、後者の指令信号により発生した加振力の低次高調波成分がより小さい結果が得られた。
この点、より詳細に検討する。低次第2マップは、防振対象振動の低次高調波成分の角周波数nω以外の角周波数の振動が存在しない場合における、出力基本波成分の振幅と入力基本波成分の振幅との関係からなるマップである。従って、低次第2マップを用いて、入力基本波成分を考慮することなく入力低次高調波成分を求めるということは、低次高調波成分以外の角周波数の振動が存在しないものと仮定した算出を行っていることに相当する。
しかし、実際の指令信号及び加振力には、防振対象振動の低次高調波成分の他に、当然に基本波成分が含まれている。従って、防振対象振動の角周波数ωにおける入力基本波成分の振幅を考慮することで、実際の状態に近い状態における入力低次高調波成分の振幅を求めることができると考えられる。つまり、入力基本波成分の振幅を考慮して入力低次高調波成分の振幅を求めることにより、実際の状態に近い状態における入力低次高調波成分の振幅とすることができ、その結果、加振力の低次高調波成分をより低減することができたものと考えられる。
特に、低次高調波成分生成部が低次第2マップを用いて入力低次高調波成分の振幅を求める際には、入力基本波成分の振幅に対応する出力基本波成分の振幅を基準にして、入力低次高調波成分の振幅を求めるようにするとよい。すなわち、この場合の低次高調波成分生成部は、低次第2マップを用いて入力基本波成分の振幅に対応する出力基本波成分の振幅である第1振幅を求め、加振力の第1振幅に出力低次高調波成分の振幅を加えた加振力の第2振幅を求め、低次第2マップを用いて加振力の第2振幅に対応する指令信号の第3振幅を求め、指令信号の第3振幅から入力基本波成分の振幅を差し引くことにより入力低次高調波成分の振幅を生成する。これにより、確実に加振力の低次高調波成分を低減することができる。
さらには、防振対象振動の低次高調波成分の角周波数nωにおける入力基本波成分の振幅と出力基本波成分の振幅との関係は、不感帯を有する非線形の関係からなる場合に適用することができる。ここで、当該不感帯とは、入力基本波成分の振幅を零から徐々に大きくした場合に、この入力基本波成分の振幅に対応する出力基本波成分の振幅が零又は零に近い値となる範囲である。従って、上記関係が不感帯を有する場合に、防振対象振動の角周波数ωの入力基本波成分の振幅を考慮せずに低次第2マップを用いて求めた入力低次高調波成分の振幅は、入力基本波成分の振幅を考慮して低次第2マップを用いて求めた入力低次高調波成分の振幅に比べて、大きな値となる。つまり、上記関係が不感帯を有する場合には、両者の値に大きな差が生じる。従って、特に、上記関係が不感帯を有する場合には、入力基本波成分の振幅を考慮して入力低次高調波成分の振幅を求めることによる効果が非常に大きくなる。
なお、上述した低次第2マップは、低次第1マップを求める際に同時に求めることができる。すなわち、低次第2マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωについて入力基本波成分を指令信号とした場合に発生する出力基本波成分を予め検出し、入力基本波成分及び出力基本波成分に基づき求めることができる。
また、上記においては、低次に関するマップについて説明したが、高次に関するマップについても同様である。すなわち、本発明の能動型防振装置は、複数の防振対象振動の高次高調波成分の角周波数nω(nは次数)における加振力の基本波成分である出力基本波成分の振幅と入力基本波成分の振幅との関係からなる高次第2マップを記憶する高次第2マップ記憶部をさらに備えるとする。そして、高次マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける入力基本波成分の振幅と高次中間成分である出力高次高調波成分の振幅との関係からなる高次第1マップとする。
そして、このとき、高次高調波成分生成部は、高次第1マップを用いて防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分の振幅に対応する出力高次高調波成分の振幅を求め、高次第2マップを用いて出力高次高調波成分の振幅、防振対象振動の高次高調波成分の角周波数nω及び入力基本波成分の振幅に基づき入力高次高調波成分の振幅を生成するようにしてもよい。
ここで、高次第2マップとは、例えば以下のようなものである。例えば、防振対象振動の角周波数ωが30Hzの場合、防振対象振動の3次高調波成分に関する高次第2マップは、防振対象振動の角周波数ωが90Hzにおける、出力基本波成分の振幅と入力基本波成分の振幅との関係となる。
このようにして、入力高次高調波成分の振幅を求めることで、上述した入力低次高調波成分の振幅を求めることと同様の効果を有する。
特に、高次高調波成分生成部が高次第2マップを用いて入力高次高調波成分の振幅を求める際には、入力基本波成分の振幅に対応する出力基本波成分の振幅を基準にして、入力高次高調波成分の振幅を求めるようにするとよい。すなわち、この場合の高次高調波成分生成部は、高次第2マップを用いて入力基本波成分の振幅に対応する出力基本波成分の振幅である第4振幅を求め、加振力の第4振幅に出力高次高調波成分の振幅を加えた加振力の第5振幅を求め、高次第2マップを用いて加振力の第5振幅に対応する指令信号の第6振幅を求め、指令信号の第6振幅から入力基本波成分の振幅を差し引くことにより入力高次高調波成分の振幅を生成する。これにより、確実に加振力の高次高調波成分を低減することができる。
さらには、防振対象振動の低次高調波成分の角周波数nωにおける入力基本波成分の振幅と出力基本波成分の振幅との関係は、不感帯を有する非線形の関係からなる場合に適用することができる。この場合、上述した入力低次高調波成分の振幅を求める場合と同様に、入力基本波成分の振幅を考慮して入力高次高調波成分の振幅を求めることによる効果が非常に大きくなる。
なお、上述した高次第2マップは、低次第1マップ及び低次第2マップを求める際に同時に求めることができる。すなわち、高次第2マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωについて入力基本波成分を指令信号とした場合に発生する出力基本波成分を予め検出し、入力基本波成分及び出力基本波成分に基づき求めることができる。また、高次第2マップは、高次第1マップを求める際に同時に求めることができる。複数の防振対象振動の角周波数ωについて入力基本波成分に低次高調波成分生成部により生成される入力低次高調波成分を加えた信号を指令信号とした場合に発生する電磁アクチュエータの加振力の高次高調波成分である出力高次高調波成分を予め検出し、入力基本波成分及び出力基本波成分に基づき求めることができる。
また、本発明の能動型防振装置の加振部材は、振動発生源を防振対象部材に対して防振支持する防振支持装置の構成部材としてもよい。例えば、エンジンを支持するエンジンフレームを防振対象部材とした場合には、当該加振部材は、エンジンを防振支持するエンジンマウントの構成部材となる。つまり、本発明の能動型防振装置は、エンジンマウント等の防振支持装置に適用することができる。
また、本発明の能動型防振装置の加振部材は、防振対象部材に対して離隔して配置されたダイナミックダンパのマス部材を構成するようにしてもよい。つまり、本発明の能動型防振装置は、ダイナミックダンパに適用することができる。
本発明の能動型防振装置によれば、能動型防振装置自身が発生する高調波成分をより低減することができる。特に、高次高調波成分をより低減することができる。
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
(1)能動型防振装置1の構成
本実施形態の能動型防振装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、能動型防振装置1の構成を示すブロック図である。能動型防振装置1は、車両に搭載されたエンジンE/G(振動発生源)により発生する振動が車両の各部位(以下、「防振対象部材」という)に伝達されることを、能動的に抑制するための装置である。すなわち、能動型防振装置1は、エンジンE/Gの振動に起因して発生する防振対象部材の振動を、能動的に抑制する装置である。例えば、防振対象部材は、エンジンE/Gをエンジンマウントにより防振支持するエンジンフレームや、ダイナミックダンパが取り付けられた車両の各部位等である。
この能動型防振装置1は、図1に示すように、周波数算出部11と、入力基本波成分生成部12と、高調波成分生成部13と、第1マップ記憶部14と、第2マップ記憶部15と、位相マップ記憶部16と、指令信号生成部17と、駆動部18と、加振器19とを備えている。
周波数算出部11は、エンジンE/Gの回転数を検出する回転検出器(図示せず)から周期性のパルス信号を入力する。そして、周波数算出部11は、入力されたパルス信号に基づき、該パルス信号の角周波数ωを算出する。このパルス信号の角周波数ωは、エンジンE/Gの振動主成分の角周波数ωに相当する。ここで、エンジンE/Gの振動に起因して発生する防振対象部材の振動の角周波数ωは、エンジンE/Gの振動の角周波数ωに一致している。そこで、周波数算出部11により算出したエンジンE/Gの振動の角周波数ωを、防振対象部材の防振対象振動の角周波数ωとする。
入力基本波成分生成部12は、周波数算出部11により算出されたパルス信号の角周波数ωを入力する。そして、入力されたパルス信号の角周波数ωに基づき、マップ制御モードと適応制御モードの何れか一方を適宜選択する。入力基本波成分生成部12は、マップ制御モード及び適応制御モードのうち選択されたモードにより、入力基本波成分y1を生成する。マップ制御モードが選択された場合には、算出されたパルス信号の角周波数ωと予め記憶されたマップデータとに基づき、入力基本波成分y1を生成する。また、適応制御モードが選択された場合には、算出されたパルス信号の角周波数ωと観測点における誤差信号とに基づき、適応制御法により入力基本波成分y1を生成する。これらの入力基本波成分y1は、エンジンE/Gにより、観測点に生じる振動を能動的に抑制させることを可能とする信号である。
ここで、入力基本波成分y1は、周期性の余弦波(又は正弦波)の電圧信号からなり、式(1)により表される。すなわち、入力基本波成分y1は、角振動数ω、振幅x1及び位相θ1により表される。なお、定数x0は、いわゆる直流項を示す定数であり、後述する指令信号yを正とするようにオフセットさせるための項である。指令信号yを正にする理由は、後述する加振器19のコイルに供給する電流を正としているためである。なお、コイルに供給する電流が正負何れでもよい場合、例えば、後述するボイスコイル型のアクチュエータ等の場合には、定数x0は、零としてもよい。
高調波成分生成部13は、低次高調波成分生成部131と、高次高調波成分生成部132とから構成される。低次高調波成分生成部131は、周波数算出部11により算出されたパルス信号の角周波数ω、入力基本波成分生成部12により生成された入力基本波成分y1の振幅x1及び位相θ1を入力する。そして、低次高調波成分生成部131は、角周波数ω、入力基本波成分y1の振幅x1及び位相θ1、並びに、後述する低次第1マップ、第2マップ、及び位相マップにより、入力2次高調波成分y2を生成する。
ここで、入力2次高調波成分y2は、周期性の余弦波(又は正弦波)の電圧信号からなり、式(2)により表される。すなわち、入力2次高調波成分y2は、角振動数ω、振幅x2及び位相θ2により表される。
高次高調波成分生成部132は、周波数算出部11により算出されたパルス信号の角周波数ω、入力基本波成分生成部12により生成された入力基本波成分y1の振幅x1及び位相θ1を入力する。そして、高次高調波成分生成部132は、角周波数ω、入力基本波成分y1の振幅x1及び位相θ1、並びに、後述する高次第1マップ、第2マップ、及び位相マップにより、入力3次高調波成分y3を生成する。
入力3次高調波成分y3は、周期性の余弦波(又は正弦波)の電圧信号からなり、式(3)により表される。すなわち、入力3次高調波成分y3は、角振動数ω、振幅x3及び位相θ3により表される。
第1マップ記憶部14は、低次第1マップを記憶する低次第1マップ記憶部141と、高次第1マップを記憶する高次第1マップ記憶部142とから構成される。低次第1マップは、2次高調波成分に関するマップである。具体的には、低次第1マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、入力基本波成分の振幅x1と出力2次高調波成分の振幅a12との関係からなるマップである。高次第1マップは、3次高調波成分に関するマップである。具体的には、高次第1マップは、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、入力基本波成分の振幅x1と出力3次高調波成分の振幅a13との関係からなるマップである。なお、低次第1マップ及び高次第1マップの詳細については、後述する。
第2マップ記憶部15(本発明における低次第2マップ記憶部、及び、高次第2マップ記憶部に相当する)は、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、出力基本波成分の振幅a11と入力基本波成分の振幅x1との関係からなる第2マップ(角周波数ωによって、本発明における低次第2マップ又は高次第2マップに相当する)を記憶している。ここで、出力基本波成分とは、後述する加振器19が発生する加振力の基本波成分である。なお、第2マップの詳細については、後述する。
位相マップ記憶部16は、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、入力基本波成分y1の位相θ1と入力2次高調波成分y2の位相θ2との関係、及び、入力基本波成分y1の位相と入力3次高調波成分y3の位相θ3との関係からなる位相マップを記憶している。この位相マップは、第1マップ及び第2マップを求める際に同時に求めている。なお、入力高調波成分y2、y3の位相θ2、θ3は、防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分y1の位相θ1が把握できれば、決定することができる。
指令信号生成部17は、入力基本波成分生成部12により生成された入力基本波成分y1、低次高調波成分生成部131により生成された入力2次高調波成分y2、及び、高次高調波成分生成部132により生成された入力3次高調波成分y3に基づき、式(4)に従って、指令信号yを生成する。つまり、指令信号yは、入力基本波成分y1に、入力2次高調波成分y2及び入力3次高調波成分y3を加えたものである。
駆動部18は、指令信号生成部17から出力される指令信号yに基づき、後述する加振器19を駆動する。この駆動部18は、具体的には、図示しない、PWM変換部とスイッチング回路部とから構成されている。PWM変換部は、入力した指令信号yに応じたデューティのPWM信号に変換する。スイッチング回路部は、複数のスイッチング素子を備えるブリッジ回路を構成し、両極をバッテリ(図示せず)の両極に接続し、出力側を加振器19に接続している。そして、PWM変換部から出力されるPWM信号に基づきスイッチング素子が駆動して、加振器19に電流を供給する。
加振器19(本発明における電磁アクチュエータに相当する)は、固定部材と、固定部材に対して軸方向に相対移動可能な移動部材と、少なくともコイルとを備えている。そして、コイルへの電流通電量に応じて、固定部材に対して移動部材が相対的に移動(振動)する。この加振器19は、例えば、防振対象部材であるエンジンフレームに取り付けられたエンジンマウント(図示せず)に搭載されたボイスコイル型又はソレノイド型のアクチュエータ等、又は、防振対象部材に取り付けられたダイナミックダンパを構成するマス部材を振動させるボイスコイル型又はソレノイド型のアクチュエータ等である。
ここで、ボイスコイル型アクチュエータを備えたエンジンマウントは、例えば、特開2005−337497号公報等に記載されている。このボイスコイル型アクチュエータは、コイルへの電流通電量と永久磁石の磁力に応じて、移動部材を軸方向に振動させるための加振力を発生する。このボイスコイル型アクチュエータの移動部材は加振部材(例えば、加振板)に連結されているので、加振部材がボイスコイル型アクチュエータによる加振力により振動することになる。
また、ソレノイド型アクチュエータを備えたエンジンマウントは、例えば、特開2006−66840号公報等に記載されている。このソレノイド型アクチュエータは、コイルへの電流通電量に応じた磁気吸引力により、移動部材(プランジャ)を軸方向に振動させるための加振力を発生する。そして、このソレノイド型アクチュエータの移動部材は加振部材に連結されているので、加振部材がソレノイド型アクチュエータによる加振力により振動することになる。
また、上述したボイスコイル型及びソレノイド型のアクチュエータとは異なる、例えば、特開2006−77923号公報に記載されたアクチュエータを用いることもできる。このアクチュエータは、コイル及び永久磁石が組み付けられた筒状のヨーク部材の内側に、加振部材に連結されている移動部材が配置されている。そして、当該アクチュエータは、コイルへの電流通電量に応じた移動部材とヨーク部材との間に惹起される電磁力の作用により、移動部材をヨーク部材に対して軸方向に振動させるための加振力を発生する。つまり、加振部材が当該アクチュエータによる加振力により振動する。
また、マス部材(加振部材)を振動させるアクチュエータを備えたダイナミックダンパは、例えば、特開平11−351321号公報や特開2004−44680号公報に記載されたものがある。特開平11−351321号公報に記載されたダイナミックダンパに適用されたアクチュエータは、ソレノイド型のアクチュエータである。また、特開2004−44680号公報に記載されたダイナミックダンパに適用されたアクチュエータは、ボイスコイル型のアクチュエータである。
これらのダイナミックダンパにおいて、マス部材が防振対象部材に対して離隔して配置されると共にゴム等の弾性体を介して防振対象部材に取り付けられている。さらに、上記アクチュエータは、防振対象部材側に取り付けられている。そして、このアクチュエータは、コイルへの電流通電量に応じた磁気吸引力により、マス部材を防振対象部材に対して振動させるための加振力を発生する。
つまり、エンジンマウント及びダイナミックダンパにおいて、ボイスコイル型及びソレノイド型等のアクチュエータの何れも、コイルへの電流通電量を制御することにより、加振器19により発生する加振力を変化させることができる。そして、例えば、エンジンマウントに適用した場合には、エンジンE/Gにより発生する振動と加振器19により発生させる振動とが完全に相殺される時には、エンジンE/Gの振動はエンジンマウントからエンジンフレーム(防振対象部材)側へ全く伝達されないことになる。また、ダイナミックダンパに適用した場合には、エンジンE/Gの振動に起因して発生する防振対象部材の振動と加振器19により発生させる振動とが完全に相殺される時には、当該ダイナミックダンパを取り付けた防振対象部材が全く振動しないことになる。このようにして、本実施形態の能動型防振装置1は、エンジンE/Gから発生する振動を能動的に抑制することができる。
(2)指令信号yと加振器19が発生する加振力との関係及び加振力の高調波成分を低減する原理に関する説明
次に、指令信号yと加振器19が発生する加振力との関係、及び、加振力の高調波成分を低減する原理に関して説明する。指令信号yが式1に示すような入力基本波成分y1である場合、加振器19の加振力Ft1は、基本波成分と高調波成分とを含んでいるが、分数調波成分は含んでいないことが、実験により明らかになった。すなわち、このときの加振力Ft1は、式(5)のように表すことができる。
そして、本発明は、加振力Ft1の高調波成分(a12cos(2ωt+α12)+a13cos(3ωt+α13)+・・・)を消去(又は低減)することが目的である。加振力Ft1の2次高調波成分(以下、「出力2次高調波成分」という)(a12cos(2ωt+α12))を消去するためには、指令信号yに角周波数2ωの入力成分を加えればよい。そこで、指令信号yを式(6)に示すように、入力基本波成分y1に入力2次高調波成分y2を加えたものとする。このとき、加振器19による加振力Ftは、式(7)により表される。
ここで、出力2次高調波成分を消去するためには、式(8)(9)を満たす入力2次高調波成分y2の振幅x2及び位相θ2を決定する必要がある。
上記式(8)(9)を満たす場合、加振器19による加振力Ftは、式(10)により表される。このように、加振器19による加振力Ftから2次高調波成分が、理論上消去されている。
さらに、加振力Ft1の3次高調波成分(以下、「出力3次高調波成分」という)(a13cos(3ωt+α13))を消去するためには、指令信号yに角周波数3ωの入力成分を加えればよい。そこで、指令信号yを式(11)に示すように、入力基本波成分y1に入力2次高調波成分y2及び入力3次高調波成分y3を加えたものとする。このとき、加振器19による加振力Ftは、式(12)により表される。
ここで、出力3次高調波成分を消去するためには、式(13)(14)を満たす入力3次高調波成分y3の振幅x3及び位相θ3を決定する必要がある。
上記式(13)(14)を満たす場合、加振器19による加振力Ftは、式(15)により表される。このように、加振器19による加振力Ftから2次高調波成分及び3次高調波成分が、理論上消去されている。
上述したように、入力2次高調波成分y2及び入力3次高調波成分y3の振幅x2、x3及び位相θ2、θ3を適切に決定することで、理論上、出力2次高調波成分及び出力3次高調波成分を消去できる。そして、入力2次高調波成分y2及び入力3次高調波成分y3の振幅x2、x3及び位相θ2、θ3は、実験により予め求めた低次第1マップ、高次第1マップ、第2マップ、及び位相マップを用いて決定することにする。
(3)第1マップ及び第2マップの詳細及びその設定手順
次に、低次第1マップ、高次第1マップ、及び、第2マップについて、図2及び図3を参照して説明する。図2(a)は、低次第1マップを示し、図2(b)は、高次第1マップを示す。図3(a)〜(c)は、何れも、第2マップを示す。以下、説明の都合上、第2マップについて説明した後、低次第1マップ及び高次第1マップについて説明する。
第2マップは、図3(a)〜(c)に示すように、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、出力基本波成分の振幅a11と入力基本波成分の振幅x1との関係からなるマップである。例えば、角周波数ωが30Hzの場合における第2マップは、図3(a)に示すようなマップとなる。
また、角周波数ωが60Hzの場合における第2マップは、図3(b)に示すようなマップとなる。この図3(b)の第2マップは、防振対象振動の角周波数ωが30Hzの場合における、2次高調波成分の角周波数2ωに関するマップでもある。つまり、この場合の図3(b)の第2マップは、本発明における低次第2マップに相当する。
また、角周波数ωが90Hzの場合における第2マップは、図3(c)に示すようなマップとなる。この図3(c)の第2マップは、防振対象振動の角周波数ωが30Hzの場合における、3次高調波成分の角周波数3ωに関するマップでもある。つまり、この場合の図3(c)の第2マップは、本発明における高次第2マップに相当する。なお、本発明における高次マップとは、高次第1マップ、及び、第2マップのうち高次(3次)高調波成分に関するマップの部分を含む意味である。
この第2マップは、以下のようにして生成する。まず、所定の防振対象振動の角周波数ωについて入力基本波成分y1を指令信号yとした場合に、加振器19を駆動する。つまり、指令信号生成部17が、入力基本波生成部12により生成された入力基本波成分y1のみにより、指令信号yを生成する。そして、この指令信号yに基づき駆動部18が加振器19を駆動する。
そして、加振器19が発生した加振力を検出する。さらに、検出された加振力の基本波成分の振幅、すなわち出力基本波成分の振幅a11を求める。このとき、出力基本波成分の振幅a11と入力基本波成分y1の振幅x1との関係からなる第2マップを求める。そして、この第2マップを第2マップ記憶部15に記憶する。続いて、他の防振対象振動の角周波数ωについても同様にして、出力基本波成分の振幅a11と入力基本波成分y1の振幅x1との関係からなる第2マップを求めて、記憶する。
低次第1マップは、図2(a)に示すように、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける入力基本波成分y1の振幅x1と出力2次高調波成分の振幅a12との関係からなるマップである。この低次第1マップは、以下のようにして生成する。まず、所定の防振対象振動の角周波数ωについて入力基本波成分y1を指令信号yとした場合に、加振器19を駆動する。つまり、指令信号生成部17が、入力基本波生成部12により生成された入力基本波成分y1のみにより、指令信号yを生成する。そして、この指令信号yに基づき駆動部18が加振器19を駆動する。
そして、加振器19が発生した加振力を検出する。さらに、検出された加振力の2次高調波成分の振幅、すなわち出力2次高調波成分の振幅a12を求める。このようにして、入力基本波成分y1の振幅x1と出力2次高調波成分の振幅a12との関係からなる低次第1マップを求める。そして、この低次第1マップを低次第1マップ記憶部141に記憶する。続いて、他の防振対象振動の角周波数ωについても同様にして、入力基本波成分y1の振幅x1と出力2次高調波成分の振幅a12との関係からなる低次第1マップを求めて、記憶する。
高次第1マップは、図2(b)に示すように、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける入力基本波成分y1の振幅x1と出力3次高調波成分の振幅a13との関係からなるマップである。この高次第1マップは、以下のようにして生成する。
まず、低次高調波成分生成部131が、所定の防振対象振動の角周波数ω、例えば、30Hzにおける、入力基本波成分y1に対応する入力2次高調波成分y2を生成する。この入力2次高調波成分y2の生成は、以下のように行う。
低次高調波成分生成部131は、低次第1マップを用いて、角周波数「ω」及び入力基本波成分の振幅x1に対応する出力2次高調波成分の振幅a12を求める。角周波数ωが30Hzであって、入力基本波成分y1の振幅x1が「X1」の場合、図2(a)の低次第1マップより、出力2次高調波成分の振幅a12は「A2」となる。続いて、低次高調波成分生成部131は、第2マップを用いて、2次高調波成分の角周波数「2ω」における入力基本波成分y1の振幅x1に対応する出力基本波成分の振幅a11を求める。角周波数ωが30Hzの場合、2次高調波成分の角周波数2ωは60Hzとなる。このとき、入力基本波成分y1の振幅x1が「X1」の場合には、図3(b)の第2マップより、出力基本波成分の振幅a11は「A12」(本発明における第1振幅に相当する)となる。さらに続いて、出力基本波成分の振幅「A12」に出力2次高調波成分の振幅「A2」を加えた加振力の振幅「A12+A2」(本発明における加振力の第2振幅に相当する)を求める。続いて、図3(b)の第2マップを用いて、加振力の振幅「A12+A2」に対応する入力基本波成分の振幅「Xa2」(本発明における第3振幅に相当する)を求める。そして、振幅「Xa2」から入力基本波成分の振幅「X1」を差し引くことにより、入力2次高調波成分の振幅「X2」を求める。
そして、入力基本波成分y1に、求めた入力2次高調波成分y2を加えた信号を指令信号yとした場合に、加振器19を駆動する。つまり、指令信号生成部17が、入力基本波生成部12により生成された入力基本波成分y1及び低次高調波成分生成部131により生成された入力2次高調波成分y2により、指令信号yを生成する。そして、この指令信号yに基づき駆動部18が加振器19を駆動する。
そして、加振器19が発生した加振力を検出する。さらに、検出された加振力の3次高調波成分の振幅、すなわち出力3次高調波成分の振幅a13を求める。このようにして、入力基本波成分y1の振幅x1と出力3次高調波成分の振幅a13との関係からなる高次第1マップを求める。そして、この高次第1マップを高次第1マップ記憶部142に記憶する。続いて、他の防振対象振動の角周波数ωについても同様にして、入力基本波成分y1の振幅x1と出力3次高調波成分の振幅a13との関係からなる高次第1マップを求めて、記憶する。
(4)実際の制御時に高調波成分生成部13による入力高調波成分の生成について
次に、実際の制御時に高調波成分生成部13による入力高調波成分の生成について、詳細に説明する。
高調波成分生成部13は、まず、防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分y1の振幅x1、位相θ1を入力する。そして、これらの入力情報を用いて、低次高調波成分生成部131が、入力2次高調波成分y2の振幅x2、位相θ2を生成する。この入力2次高調波成分の振幅x2は、高次第1マップを生成する際における入力2次高調波成分y2の振幅x2を生成方法と同一方法により生成する。入力2次高調波成分y2の位相θ2は、位相マップにより、防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分y1の位相θ1に対応するものを決定する。
次に、高次高調波成分生成部132が、前記入力情報に加えて、入力2次高調波成分y2の振幅x2を用いて、入力3次高調波成分y3の振幅x3を生成する。この入力3次高調波成分の振幅x3の生成方法は、入力2次高調波成分の振幅x2の生成方法と基本的に同一である。
すなわち、高次高調波成分生成部132は、高次第1マップを用いて、角周波数「ω」及び入力基本波成分の振幅x1に対応する出力3次高調波成分の振幅a13を求める。角周波数ωが30Hzであって、入力基本波成分y1の振幅x1が「X1」の場合、図2(b)の高次第1マップより、出力3次高調波成分の振幅a13は「A3」となる。続いて、高次高調波成分生成部132は、第2マップを用いて、3次高調波成分の角周波数「3ω」における入力基本波成分y1の振幅x1に対応する出力基本波成分の振幅a11を求める。角周波数ωが30Hzの場合、3次高調波成分の角周波数3ωは90Hzとなる。このとき、入力基本波成分y1の振幅x1が「X1」の場合には、図3(c)の第2マップより、出力基本波成分の振幅a11は「A13」(本発明における第4振幅に相当する)となる。
さらに続いて、出力基本波成分の振幅「A13」に出力3次高調波成分の振幅「A3」を加えた加振力の振幅「A13+A3」(本発明における加振力の第5振幅に相当する)を求める。続いて、図3(c)の第2マップを用いて、加振力の振幅「A13+A3」に対応する入力基本波成分の振幅「Xa3」(本発明における第6振幅に相当する)を求める。そして、振幅「Xa3」から入力基本波成分の振幅「X1」を差し引くことにより、入力3次高調波成分の振幅「X3」を求める。このようにして、入力3次高調波成分y3の振幅x3を生成する。
次に、高次高調波成分生成部132は、前記入力情報を用いて、入力3次高調波成分y3の位相θ3を生成する。入力3次高調波成分y3の位相θ3は、位相マップにより、防振対象振動の角周波数ω及び入力基本波成分y1の位相θ1に対応するものを決定する。
このように、高調波成分生成部13は、入力2次高調波成分y2及び入力3次高調波成分y3を生成する。
ところで、上記の入力2次高調波成分の振幅「X2」及び入力3次高調波成分の振幅「X3」の生成方法は、入力基本波成分の振幅「X1」を考慮した生成方法である。仮に、入力基本波成分の振幅「X1」を考慮することなく生成される入力2次高調波成分の振幅a12は、図3(b)の「(X2)」で示すものとなる。また、入力基本波成分の振幅「X1」を考慮することなく生成される入力3次高調波成分の振幅a13は、図3(c)の「(X3)」で示すものとなる。
ここで、入力基本波成分の振幅「X1」を考慮することなく生成される入力2次高調波成分の振幅「(X2)」は、振幅「X1」を考慮して生成される振幅「X2」より大きな値となる。入力基本波成分の振幅「X1」を考慮することなく生成される入力3次高調波成分の振幅「(X3)」は、振幅「X1」を考慮して生成される振幅「X3」より大きな値となる。
これは、入力基本波成分の振幅と出力基本波成分の振幅との関係が、非線形の関係からなるためである。特に、零付近において、当該関係は不感帯を有している。不感帯とは、入力基本波成分の振幅を零から徐々に大きくした場合に、この入力基本波成分の振幅に対応する出力基本波成分の振幅が零又は零に近い値となる範囲である。このように当該関係が不感帯を有するため、入力基本波成分の振幅「X1」を考慮しない場合には、不感帯の影響を大きく受ける。一方、入力基本波成分の振幅「X1」を考慮する場合には、不感帯の影響をほとんど受けない。従って、振幅「(X2)」「(X3)」は、振幅「X2」「X3」より大きな値となり、両者が大きく異なる。
ここで、実際の指令信号及び加振力には、防振対象振動の高調波成分の他に、当然に基本波成分が含まれている。従って、防振対象振動の角周波数ωにおける入力基本波成分の振幅「X1」を考慮することで、実際の状態に近い状態における入力2次高調波成分の振幅「X2」及び入力3次高調波成分の振幅「X3」を求めることができる。そして、基本波成分の振幅「X1」を考慮して求めた入力高調波成分の振幅「X2」「X3」を用いて、指令信号を生成した方が、出力2次高調波成分及び出力3次高調波成分を低減することができた。
(5)加振力の高調波成分の低減効果
次に、上述した本実施形態の能動型防振装置において、加振器19が発生する加振力の高調波成分の低減効果について説明する。
本実施形態を適用した場合における加振器19が発生する加振力を図4に示す。図4において、比較のため、入力基本波成分y1を指令信号yとした場合における、加振器19が発生する加振力を示す。なお、図4において、本実施形態を適用した場合の出力基本波成分を「1次B」と示し、本実施形態を適用しない場合の出力基本波成分を「1次A」と示す。また、本実施形態を適用した場合の出力2次高調波成分を「2次B」と示し、本実施形態を適用しない場合の出力2次高調波成分を「2次A」と示す。また、本実施形態を適用した場合の出力3次高調波成分を「3次B」と示し、本実施形態を適用しない場合の出力3次高調波成分を「3次A」と示す。
図4に示すように、加振力の基本波成分(出力基本波成分)は、本実施形態を適用する場合と適用しない場合と、ほとんど変化がない。つまり、本実施形態を適用した場合であっても、加振力の基本波成分は、従来と同等に適切に出力されていることになる。加振力の2次高調波成分(出力2次高調波成分)及び3次高調波成分(出力3次高調波成分)は、本実施形態を適用することにより、確実に低減されている。
本実施形態の効果のさらなる検証を行うため、以下の比較例について図5〜図7を参照して説明する。図5は、第1の比較例の場合における加振器19が発生する加振力を示す。図6は、第2の比較例の場合における加振器19が発生する加振力を示す。図7は、第3の比較例の場合における加振器19が発生する加振力を示す。そして、図5〜図7において、図4と同様に、入力基本波成分y1を指令信号yとした場合における、加振器19が発生する加振力を示している。
なお、図5〜図7において、それぞれの比較例についての出力基本波成分を「1次B」と示し、比較例を適用しない場合の出力基本波成分を「1次A」と示す。また、それぞれの比較例についての出力2次高調波成分を「2次B」と示し、比較例を適用しない場合の出力2次高調波成分を「2次A」と示す。また、それぞれの比較例についての出力3次高調波成分を「3次B」と示し、比較例を適用しない場合の出力3次高調波成分を「3次A」と示す。
まず、第1の比較例は、指令信号yとして、入力基本波成分y1に、本実施形態における入力2次高調波成分の生成方法と同様の方法により生成した入力2次高調波成分y2を加えた信号を用いた場合の例である。つまり、第1の比較例は、2次高調波成分のみを低減することを目的としたものである。この場合、図5から明らかなように、加振力の2次高調波成分が、非常に大きく低減されている。
第2の比較例は、指令信号yとして、入力基本波成分y1に、比較用3次第1マップを用いて生成した入力3次高調波成分y3を加えた信号を用いた場合の例である。比較用3次第1マップは、入力基本波成分y1を指令信号yとして発生した加振力に基づき、入力基本波成分y1の振幅x1と出力3次高調波成分の振幅a13に関する比較用マップを予め生成したマップである。つまり、第2の比較例における入力3次高調波成分y3の生成は、比較用3次第1マップと第2マップを用いて行う。ここで、本実施形態の入力3次高調波成分y3を生成する際に用いる高次第1マップは、入力2次高調波成分y2を考慮して生成されたものである。この点が、比較用3次第1マップと高次第1マップとは異なる点である。
つまり、この第2の比較例は、3次高調波成分のみを低減することを目的としたものであると共に、入力2次高調波成分が考慮されることなく生成された比較用3次第1マップを用いている例である。この場合、図6から明らかなように、加振力の3次高調波成分が、非常に大きく低減されている。
次に、第3の比較例は、指令信号yとして、入力基本波成分y1に、本実施形態の低次第1マップ及び第2マップを用いて生成した入力2次高調波成分y2と、比較用3次第1マップ及び第2マップを用いて生成した入力3次高調波成分y3とを加えた信号を用いた場合の例である。
つまり、この第3の比較例は、2次高調波成分及び3次高調波成分を低減することを目的としたものであると共に、入力3次高調波成分y3を生成する際に入力2次高調波成分y2が考慮されることなく生成された比較用3次第1マップを用いている例である。この場合、図7から明らかなように、加振力の2次高調波成分及び3次高調波成分が低減されている。しかし、第2の比較例と比べると、加振力の3次高調波成分の低減効果が小さくなっていることが分かる。これは、指令信号yに含まれる入力2次高調波成分y2により、新たに発生されたものと考えられる。
そして、本実施形態に関する図4と、第3の比較例に関する図7とを比べると、本実施形態における加振力の3次高調波成分の低減効果が大きいことが分かる。つまり、高次第1マップを生成する際に、入力2次高調波成分y2を考慮することにより、十分に加振力の3次高調波成分を低減することができる。なお、本実施形態の場合と第3の比較例とにおいて、加振力の2次高調波成分は、何れもほぼ同等の低減効果が得られている。従って、本実施形態において、高次第1マップを生成する際に、入力2次高調波成分y2を考慮することが、加振力の2次高調波成分への影響はない。
以上より、本実施形態によれば、加振力の高調波成分を確実に低減することができる。
なお、本実施形態においては、低減する加振力の高調波成分は2次及び3次としたが、4次以上の高調波成分に適用することもできる。また、本実施形態においては、指令信号yを電圧信号としたが、電流信号としてもよい。指令信号yを電圧信号とした場合には、駆動部18の低コスト化を図ることができる。一方、指令信号yを電流信号とした場合には、駆動部18及び加振器19の温度変化などに影響されることなく、制御することができる。
(6)その他
上記実施形態においては、入力2次高調波成分y2の振幅x2を生成するために、低次第1マップ及び第2マップを用いた。また、入力3次高調波成分y3の振幅x3を生成するために、高次第1マップ及び第2マップを用いた。すなわち、入力2次高調波成分y2の振幅x2を生成するまでの中間成分として、出力2次高調波成分の振幅a12を求めている。また、入力3次高調波成分y3の振幅x3を生成するまでの中間成分として、出力3次高調波成分の振幅a13を求めている。
この理由は、高調波成分を生成する際に、防振対象振動の角周波数ωの入力基本波成分の振幅を考慮するためである。つまり、高調波成分の生成は、図3(b)(c)に示すように、防振対象振動の角周波数ωの入力基本波成分の振幅を考慮する際に、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、出力基本波成分の振幅a11と入力基本波成分y1の振幅x1との関係からなる第2マップを用いる必要があったためである。このようにすることで、不感帯を考慮することができ、適切な高調波成分の振幅を得ることができた。
ところで、不感帯を考慮することなく、高調波成分を生成することもできる。この場合の低次マップは、上述した低次第1マップと第2マップのうち低次高調波成分に相当する部分とを一体にしたマップとしてもよい。この低次マップは、図8(a)に示すような、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、入力基本波成分y1の振幅x1と入力2次高調波成分y2の振幅x2との関係からなるマップである。
また、不感帯を考慮しない場合の高次マップは、上述した高次第1マップ及び第2マップのうち高次高調波成分に相当する部分を一体にしたマップとしてもよい。この高次マップは、図8(b)に示すような、複数の防振対象振動の角周波数ωにおける、入力基本波成分y1の振幅x1と入力3次高調波成分y3の振幅x3との関係からなるマップである。
このように不感帯を考慮しない低次マップ及び高次マップを用いる場合には、マップの種類が減少するため、演算時間を短縮することができ、結果として応答性が良くなる。ただし、上述した不感帯を考慮しないことによる高調波成分の低減度は小さくなる。
なお、不感帯を考慮しない場合の低次マップ及び高次マップは、上述した本実施形態における低次第1マップ及び高次第1マップの生成方法と同様である。すなわち、まず、低次マップを生成し、低次マップを用いて高次マップを生成する。