従って、本発明の目的は、DNA−加水分解活性を保有するが天然ヒトDNアーゼIよりも低い親和性でもってアクチンに結合するヒトDNアーゼI変異体を提供することにある。
本発明のもう1つの目的は、ヒトDNアーゼIのかかるアクチン−耐性変異体をコードする核酸、かかる核酸よりなる組換えベクター、それらの核酸またはベクターで形質転換された組換え宿主細胞、および組換えDNA技術によってヒトDNA変異体を産生する方法を提供することにある。
また、本発明は、所望により医薬上許容される賦形剤と共に、ヒトDNアーゼIアクチン−耐性変異体よりなる医薬組成物に指向される。
また、本発明は、治療上有効量のDNアーゼIのアクチン−耐性変異体を患者に投与することよりなる、患者においてDNA含有物質の粘弾性または粘性コンシステンシーを低下させる方法に指向される。
本発明は、特に、治療上有効量のDNアーゼIのアクチン−耐性変異体を患者に投与することよりなる、嚢胞性線維症、慢性気管支炎、肺炎、気管支拡張症、気腫、喘息、または全身性エリテマトーデスのごとき病気を有する患者を治療する方法に指向される。
また、本発明は、存在するアクチンの量を測定し、患者がアクチン−耐性DNアーゼI変異体での治療に適する候補であるか否かを決定するための、患者からの粘性物質(痰)のイン・ビトロ診断アッセイにおけるヒトDNアーゼIのアクチン−耐性変異体の使用に指向される。
本発明のこれらおよび他の目的は、明細書を全体として考慮すると、当業者に明らかであろう。
I.定義
本明細書で用いるごとく、「ヒトDNアーゼI」、「天然ヒトDNアーゼI」、および「野生型DNアーゼI」なる用語は図1に記載したヒト成熟DNアーゼIのアミノ酸配列を有するポリペプチドをいう。
ヒトDNアーゼIの「変異体」または「アミノ酸配列変異体」は天然ヒトDNアーゼIのそれとは異なるアミノ酸配列よりなるポリペプチドである。一般に、変異体は天然ヒトDNアーゼIと少なくとも80%の配列同一性(相同性)、好ましくは少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも98%の配列同一性を保有する。パーセンテージ配列同一性は、例えば、最大相同性が供されるように配列を並べた後に、 Fitchら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 80:1382-1386(1983)によってNeedlemanら,J.Mol.Biol.48:443-453(1970)によって記載されたアルゴリズムのバージョン)決定されている。
「ヒトDNアーゼI−耐性変異体」、「アクチン−耐性変異体」、および「ヒトDNアーゼIのアクチン−耐性変異体」なる語は、(1)DNA−加水分解活性および(2)アクチンに対する低下した結合親和性を有する天然ヒトDNアーゼIの変異体をいう。
「DNA−加水分解活性」とは、基質DNAを加水分解(切断)して5’−リン酸化オリゴヌクレオチド末端生成物の生成における天然ヒトDNアーゼIまたはヒトDNアーゼIの変異体の酵素活性をいう。DNA−加水分解活性は分析用ポリアクリルアミドおよびアガロースゲル電気泳動、光吸収増加アッセイ(Kunitz,J.Gen.Physiol.,33:349-362(1950); Kunitz,J.Gen.Physiol.33:363-377(1950))、またはメチルグリーンアッセイ(Kurnick,Arch.Biochem.29:41-53(1950); Sinicropiら,Anal.Biochem.222;351-35 (1994))を含めた当該分野で公知のいくつかの異なる方法にうちいずれかによって容易に測定される。
アクチンに対する天然ヒトDNアーゼIまたはヒトDNアーゼIのアクチン−耐性変異体の「結合親和性」とは、アクチンに非共有結合により結合するDNアーゼIの能力をいう。結合親和性は、例えば、Mannherzら,Eur.J.Biochem.104:367-379(1980)に記載されているごとき、当該分野で公知の種々の方法うちいずれかによって測定できる。別法として、異なるDNアーゼ(例えば、天然ヒトDNアーゼIおよびその変異体)の相対的結合親和性は、(実施例3に記載された)ELISAアッセイにおいて固定化アクチンへのDNアーゼの結合を測定することによって、あるいは(やはり実施例3に記載した)アクチンの存在下または不存在下におけるDNアーゼのDNA−加水分解活性を比較することによって決定される。実施例に記載した方法は、特に、アクチンに対する低下した結合親和性を有する変異体を迅速に同定するためにヒトDNアーゼIの変異体をスクリーニングするのに便宜である。
「アクチンに対する低下した結合親和性」を有するヒトDNアーゼIアクチン−耐性変異体は、匹敵する条件下で測定して、天然ヒトDNアーゼIがアクチンに結合する親和性よりも比較的低いアクチンに対する結合親和性を有するものである。もし実施例3に記載されたアクチン結合ELISAアッセイを用いてアクチンに対するヒトDNアーゼI(天然または変異体)の結合親和性を測定するならば、「アクチンに対する低下した結合親和性」を有するアクチン−耐性変異体は天然ヒトDNアーゼIのそれよりも大きいEC50値を有するものである。そのアッセイにおいて、アクチン−耐性変異体は、典型的には、天然ヒトDNアーゼのそれよりも5−倍ないし100−倍大きいEC50値を有する;しかし、特に、天然ヒトDNアーゼIアミノ酸配列の複数アミノ酸残基を改変することによって(図5A、5D参照)、天然ヒトDNアーゼIのそれよりも500−倍を越えて大きいEC50値を有するアクチン−耐性変異体も容易に産生される。
「粘液溶解活性」とは、例えば、天然ヒトDNアーゼIまたはヒトDNアーゼIの変異体で物質を処理した際に観察される、痰または他の生物学的物質の粘弾性(粘度)の低下をいう。粘液溶解活性は、痰圧縮アッセイ(1994年5月11日に公開されたPCT特許出願WO94/10567)、トーション振子を用いるアッセイ(Janmey. J.Biochem.Biophys.Methods 22:41-53(1991)、または他のレオロジー的方法を含めた当該分野で知られたいくつかの異なる方法のいずれかによって容易に測定される。
「ポリメラーゼ連鎖反応」または「PCR」は、一般に、例えば、米国特許第4,683,195号に記載されているごとき所望の配列のイン・ビトロでの増幅方法をいう。一般に、PCR方法は、鋳型核酸に優先的にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを用いるプライマー伸長合成の反復サイクルを含む。
「細胞」、「宿主細胞」、「細胞系」および「細胞培養」は本明細書では相互交換的に使用され、かかる用語は細胞の増殖または培養から得られた子孫を含むと理解されるべきである。「形質転換」および「トランスフェクション」はDNAを細胞に導入するプロセスをいい、相互交換的に使用される。
「作動可能に連結した」とは、配列の通常の機能を行うことができるような相互の配置にて、酵素連結または他の方法によって2以上のDNA配列を共有結合連結することをいう。例えば、プレ配列または分泌リーダー用のDNAは、もしそれがポリペプチドの分泌に関与するプレ蛋白質として発現されればポリペブチドのDNAに作動可能に連結し;プロモーターまたはエンハンサーはもしそれが配列の転写に影響するならば暗号配列に作動可能に連結し;あるいはリボソーム結合部位はもしそれが転写を容易とするように位置しているならば暗号配列に作動可能に連結している。一般に、「作動可能に連結した」とは、連結されるDNA配列が隣接しており、分泌リーダーの場合には、隣接しかつリーディング相にあることをいう。連結は、通常の制限部位における連結によって達成される。かかる部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを、標準的に組換えDNA法と組み合わせて用いる。
ここにアミノ酸は以下のごとく3文字または一文字表示によって確認される。
Asp D アスパラギン酸 Ile I イソロイシン
Thr T トレオニン Leu L ロイシン
Ser S セリン Tyr Y チロシン
Glu E グルタミン酸 Phe F フェニルアラニン
Pro P プロリン His H ヒスチジン
Gly G グリシン Lys K リシン
Ala A アラニン Arg R アルギニン
Cys C システイン Trp W トリプトファン
Val V バリン Gln Q グルタミン
Met M メチオニン Asn N アスパラギン
II.アクチン−耐性変異体の選択
本発明はヒトDNアーゼIのアミン酸配列変異体の構造、アクチン結合特性、DNA−加水分解活性、および粘液溶解活性の研究に基づいている。本発明のアクチン−耐性変異体はDNA−加水分解活性を有するが、天然ヒトDNアーゼIよりも低い親和性でもってアクチンに結合する。アクチン結合の低下は、好ましくは、例えば、天然ヒトDNアーゼIのGlu13、His44、Leu45、Val48、Gly49、Leu52、Asp53、Asn56、Asp58、His64、Tyr65、Val66、Val67、Ser68、Glu69、Pro70、Ser94、Tyr96およびAla114残基(3文字アミノ酸表示に続く数字は、図1の配列内のアミノ酸残基の特異的位置を示す)を含めた、アクチンの結合に影響するらしい天然ヒトDNアーゼI内のアミノ酸残基においておよび/またはその周辺に突然変異を作成することによって達成される。
ヒトDNアーゼIのアクチン−耐性変異体を作成できる種々の方法がある。本発明の1の具体例において、アクチン−耐性変異体は、アクチン結合に影響する天然ヒトDNアーゼIのアミノ酸残基においてまたはそれに隣接して(すなわち、その約5アミノ酸残基内に)単一または複数のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を導入することによって調製される。かかる突然変異のいくつかの例示的例は以下のものである:D53R,D53K、D53Y、D53Y、D53A、Y65A、Y65E、Y65R、V67E、V67K、E69R、D53R:Y65A、D53R:E69R、H44A:D53R:Y65A、H44A:Y65A:E69R(図2−6参照)。
本発明のもう1つの具体例において、アクチン−耐性変異体は、アクチン結合に影響する天然ヒトDNアーゼIのアミノ酸残基においてまたはそれに隣接して(すなわち、その約5アミノ酸残基内に)新しい糖鎖付加部位を生じさせる突然変異を導入することによって調製される。例えば、部位特異的突然変異を用いて、炭水化物部位のアスパラギン側鎖への酵素付着のための認識配列である、1つのトリペプチド配列、アスパラギン−X−セリンまたはアスパラギン−X−トレオニン(ここに、Xはプロリンを除くいずれかのアミノ酸)を導入する。Creghton,Proteins,76-78頁(W.H.Freeman,1984)。得られたN−グリコシル化変異体DNアーゼIおよびアクチンの炭水化物部位の間に起こる立体障害は、天然ヒトDNアーゼIと比較して、アクチン結合およびDNアーゼIDNA−加水分解活性の結果としての阻害を低下させまたは妨げる。新しいグリコシル化部位を導入するためのかかる突然変異のいくつかの例示的例は以下の通りである:H44N、D58S、D58S、V66N、H44N:T46S、H64N:V66S、H64N:V66T、Y65N:V67S、Y65N:V67T、V66N:S68T、V67N:E69S、V67N:E69T、S68N:P70S、S68N:P70T、S94N:Y96S、S94N:Y96T。
所望により、新しいグリコシル化部位を生じさせるためのかかる突然変異と組み合わせて、アクチン−耐性変異体で望まれるグリコシル化の程度に応じて、天然ヒトDNアーゼIアミノ酸配列内の18および/または106位において天然に起こるグリコシル化部位を欠失させることもできる。
本発明のさらなる具体例において、部位特異的突然変異誘発を用いて、生物学的にまたは化学的に(後記参照)翻訳後修飾に適したアクチン結合に関与する天然ヒトDNアーゼIのアミノ酸残基においてまたは隣接して(すなわち、その約5アミノ酸残基内に)導入する。Meansら,「蛋白質の化学修飾(Holden-Day,1971);Glazerら,「蛋白質の化学修飾:選択された方法および分析手法(Elsevier,1975);Creighton,Proteins,70-87(W.H.Freeman,1984); Lundblad,「蛋白質修飾のための化学試薬」(CRC Press,1991)。かかる翻訳後修飾はDNアーゼIに立体障害または改変された静電気的特性を導入することができ、これは天然ヒトDNアーゼIと比較して、アクチン結合およびDNA−加水分解活性の結果としての阻害を低下させまたは妨げる。例えば、システイン残基をアクチン結合に関与する天然ヒトDNアーゼIの残基においてまたはそれに隣接して導入することができる。システイン残基の遊離チオールはもう1つのかかるDNアーゼI変異体とで分子間ジスルフィド結合を形成してDNアーゼIダイマーを形成でき、あるいは、例えばチオール−特異的アルキル化剤で修飾することができる。かかる突然変異のいくつかの例示的例は以下の通りである:H44C、L45C、V48C、G49C、L52C、D53C、N56C、Y65C、V67C、E69C、A114C。
便宜のために、天然ヒトDNアーゼIのアミノ酸配列における置換、挿入および/または欠失は、通常、例えば、部位特異的突然変異誘発によって、天然ヒトDNアーゼIをコードするDNAに対応するヌクレオチド配列に突然変異を導入することによって作成される。次いで、突然変異DNAの発現の結果、所望の(非天然)アミノ酸配列を有する変異体ヒトDNアーゼIが得られる。
Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,第2版(Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1989))に開示されているごとき当該分野で公知のいずれの技術を用いて部位特異的突然変異誘発を行うこともできるが、オリゴヌクレオチド−特異的突然変異誘発が本発明のヒトDNアーゼI変異体を調製するための好ましい方法である。当該分野でよく知られているこの方法(Zollerら,Meth.Enz.100:4668-500(1983); Zollerら,Meth.Enz.154:329-350(1987); Carter,Meth,Enz.154:382-403(1987); Kunkelら,Meth.Enzymol.154 :367-382(1987); Horwitzら,Meth,Enz.185:599-611(1990))は置換変異体を作成するのに特に適しているが、便宜に欠失および挿入変異体を調製するのに使用することもできる。
部位特異的突然変異誘発は、典型的には、一本鎖および二本鎖形態双方で存在するファージベクターを使用する。部位特異的突然変異誘発で有用な典型的ベクターは一本鎖ファージの複製起点を含有するM13ファージおよびプラスミドベクターを含む(Messingら,Meth.Enzymol.101:20-78(1983); Veriaら,Meth. Enzymol.153:3-11(1987); Shortら,Nuc.Acids.Res.16:7583-7600(1988))。適当な宿主細胞におけるこれらのベクターの複製の結果、部位特異的突然変異誘発で使用できる一本鎖DNAが合成される。
略言すれば、天然ヒトDNアーゼI(またはその変異体)をコードするDNAの部位特異的突然変異誘発を行うにおいて、DNAの一本鎖に所望の突然変異をコードするオリゴヌクレオチドをまずハイブリダイズさせることによってDNAを改変する。ハイブリダイゼーションの後、DNAポリメラーゼを用いて、ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、およびDNAの一本鎖を鋳型として用い、全第2鎖を合成する。かくして、所望の突然変異をコードするオリゴヌクレオチドが得られた二本鎖DNA中に取り込まれる。
ハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドは、天然に生じるDNAの精製により、あるいはイン・ビトロ合成によるなどしていずれかの適当な方法によって調製できる。例えば、オリゴヌクレオチドは、Narangら,Meth,Enzymol.68:90-98(1979); Brownら,Meth.enzymol.68:109-151(1979); Caruthersら,Meth.Enzymol.154:287-313(1985)によって記載されているごとき、有機化学における種々の技術を用いて容易に合成される。適当なハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーに対する一般的なアプローチはよく知られている。Kellerら,DNA Probes,11-18頁(stockton Press,1989)。典型的には、ハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーは10−25またはそれ以上のヌクレオチドを含有し、所望の突然変異をコードする配列のいずれか側に少なくとも5のヌクレオチドを含んで、オリゴヌクレオチドが一本鎖DNA鋳型分子に対して所望の位置に優先的にハイブリダイズすることを確実とする。
勿論、部位特異的突然変異誘発を用いて多数の置換、挿入または欠失突然変異を出発DNAに導入することができる。突然変異させるべき部位が相互に近くに位置すれば、突然変異は所望の突然変異の全てをコードする単一のオリゴヌクレオチドを用いて同時に導入することができる。しかしながら、もし突然変異されるべき部位が相互にいくらか距離があれば(約10ヌクレオチドを越えて離れていれば)、所望の変化の全てをコードする単一のオリゴヌクレオチドを生じさせるのはより困難である。代わりに、2つの別の方法のうち1つを使用することができる。
第1の方法において、各所望の突然変異に対して別のオリゴヌクレオチドを生成させる。次いで、オリゴヌクレオチドを同時に一本鎖鋳型DNAにアニールさせ、鋳型から合成されたDNAの第2鎖は所望のアミノ酸置換の全てをコードするであろう。
別の方法は、所望の変異体を生成させるために2以上のラウンドの突然変異誘発を含む。第1のラウンドは単一の突然変異を導入するものとして記載される。第2のラウンドの突然変異誘発は第1のラウンドで生成した突然変異DNAを鋳型として利用する。かくして、この鋳型は1以上の突然変異を全てに含有する。次いで、さらなる所望のアミノ酸置換をコードするオリゴヌクレオチドをこの鋳型にアニールさせ、DNAの得られた鎖は今や第1および第2ラウンドの突然変異誘発双方からの突然変異をコードする。この得られたDNAは第3ラウンドの突然変異誘発で使用される。
また、PCR突然変異誘発(Higuchi,PCR Protocols,177-183頁(Academic Press,1990);Valletteら,Nuc.Acids Res.17: 723-733(1989)はヒトDNアーゼIの変異体を作成するのに適する。略言すれば、少量の鋳型DNAをPCRにおける出発物質として使用する場合、鋳型DNAにおける対応する領域から配列がわずかに異なるプライマーを用いて、プライマーが鋳型と異なる位置のみにおける鋳型配列とは異なる比較的大量の特異的DNA断片を得る。突然変異のプラスミドDNAへの導入には、例えば、プライマーの1つの配列は所望の突然変異を含み、突然変異の位置のプラスミドDNAの1の鎖にハイブリダイズするように設計され;他のプライマーの配列はプラスミドDNAの反対側鎖内のヌクレオチド配列と同一でなければならないが、この配列はプラスミトDNAに沿ってどこに位置させることもできる。しかしながら、第2のプライマーの配列は、結局はプライマーと境界を接するDNAの全増幅領域が容易に配列決定できるように、第1のもののそれから200ヌクレオチド内に位置させるのが好ましい。丁度記載したもののようなプライマー対を用いるPCR増幅の結果、プライマーによって特定される突然変異の位置において異なるDNA断片の集団が得られ、恐らくは他の位置において、鋳型のコピは幾分エラーを生じやすい。Wagnerら,PCR Topics,69-71頁(Springer-Verlag,1991)。
もし生成物増幅DNAに対する鋳型の比が極端に低ければ、生成物DNA断片の大部分は所望の突然変異を取り込む。この生成物DNAを用いて、標準的な組換えDNA法を用い、PCR鋳型として働くプラスミド中の対応する領域を置き換える。別々の位置における突然変異は、突然変異体第2プライマーを用いるか、あるいは異なる突然変異体プライマーで第2PCRを行い、2つの得られたPCR断片を同時に3(またはそれ以上)部分連結でプラスミド断片に連結することによって同時に導入できる。
変異体、カセット突然変異誘発を調製するためのもう1つの方法は、Wellsら,Gene 34:315-323(1985)によって記載されている技術に基づく。出発物質は突然変異させるべきDNA配列よりなるプラスミド(または他のベクター)である。突然変異させるべき出発DNAにおけるコドンを同定する。同定された突然変異部位の各側に唯一の制限エンドヌクレアーゼ部位がなければならない。もしかかる制限部位が存在しなければ、前記したオリゴヌクレオチド−媒介突然変異誘発法を用いてそれらをDNAの適当な位置に導入してそれらを生成させることができる。プラスミドDNAをこれらの部位で切断してそれを線状化する。制限部位の間のDNAの配列をコードするが所望の突然変異を含有する二本鎖オリゴヌクレオチドを標準的な手法を用いて合成し、ここに、オリゴヌクレオチドの2つの鎖は別々に合成し、次いで、標準的な技術を用いて一緒にハイブリダイズさせる。この二本鎖オリゴヌクレオチドをカセットという。このカセットは、それをプラスミドに直接連結できるように線状化プラスミドの末端に適合する5’および3’末端を有するように設計する。得られたプラスミドは突然変異したDNA配列を含有する。
DNAにおける突然変異の存在は、制限マッピングおよび/またはDNA配列決定を含めた当該分野でよく知られた方法によって測定される。DNA配列決定についての好ましい方法はSangerら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 72:3918-3921 (1979)のジデオキシ鎖停止法である。
ヒトDNアーゼI変異体をコードするDNAを、さらなるクローニングまたは発現のための複製可能なベクターに挿入する。「ベクター」は宿主細胞内で複製でき、それ自体適合する宿主細胞と組み合わせて2つの機能を行うのに有用であるベクターおよびその他のDNAである(ベクター−宿主系)。1の機能はヒトDNアーゼI変異体をコードする核酸のクローニングを容易とする、すなわち、利用できる量の核酸を生成させるものである。他の機能はヒトDNアーゼI変異体の発現を指示するものである。これらの機能の1つまたは双方は、クローニングまたは発現に用いる特定の宿主細胞においてベクターによってなされる。ベクターはそれらが行う機能に応じて異なる要素を含有する ヒトDNアーゼI変異体を生成させるには、発現ベクターは、プロモーターに作動可能に連結した前記した変異体をコードするDNAおよびリボソーム結合部位よりなる。次いで、変異体を組換え細胞培養中で直接に、あるいは異種ペプチド、好ましくは異種ポリペプチドおよびヒトDNアーゼI変異体との間の連結において特異的切断部位を有する単一配列または他のポリペプチドとの融合として発現させる。
原核生物(例えば、イー・コリ(E.coli)および他の細菌)は本発明の最初のクローニング工程で好ましい宿主細胞である。それらは、大量のDNAの迅速な産生、部位特異的突然変異誘発で用いる一本鎖DNA鋳型の産生、および生じた変異体のDNA配列決定で特に有用である。また、原核生物宿主細胞をヒトDNアーゼI変異体をコードするDNAの発現で使用することもできる。原核生物細胞で産生されるポリペプチドは典型的にはグリコシル化されていない。
加えて、本発明のヒトDNアーゼI変異体は、真核生物微生物(他えば、酵母)または動物または他の多細胞生物に由来する細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞、および他の哺乳動物細胞)を含めた真核生物宿主細胞で、あるいは生きた動物(例えば、ニワトリ、ヤギ、ヒツジ)で発現させることができる。
クローニングおよび発現方法は当該分野でよく知られている。本発明のヒトDNアーゼI変異体を産生するのに用いるので有用な原核生物および真核生物宿主細胞、ならびに発現ベクターは、例えば、Shak,PCT特許出願WO90/07572(1990年 7月12日公開)に開示されているものである。
原核生物細胞または実質的な細胞壁構築を含有する細胞を宿主として用い、DNAでの細胞のトランスフェクションの好ましい方法はCohenら,Proc.Natl.Acad.Sci.69:2110-2114(1972)によって記載されているカルシウム処理法または Chungら,Nuc.Acids.Res.16:3580(1988)のポリエチレングリコール法である。酵母を宿主として用いるのならば、トランスフェクションは一般にHinnen,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75:1929-1933(1978)によって教示されているごとくポリエチレングリコールを用いて達成される。哺乳動物細胞を宿主細胞として用いるならば、トランスフェクションは一般にリン酸カルシウム沈殿法によって行う。Grahamら,Virology,52:546(1978),Gormanら,DNA and Protein Eng.tech.2:3-10(1990)。核注入、エレクトロポレーション、またはプロトプラスト融合のごとき、DNAを原核生物細胞および真核生物細胞にDNAを導入する他の公知の方法も本発明で用いるのに適する。
本発明で特に有用なのは、ヒトDNアーゼI変異体をコードするDNAの哺乳動物細胞において一過性発現を供する発現ベクターである。一般に、一過性発現は、宿主細胞が多コピーの発現ベクターを蓄積し、発現ベクターによってコードされる高レベルの所望のポリペプチドのを合成するように、宿主細胞で効果的に複製できる発現ベクターの使用を含む。適当な発現ベクターおよび宿所細胞よりなる一過性発現系は、クローン化DNAによってコードされるポリペプチドの便宜な陽性同定、ならびに所望の生物学的または生理学的特性につきかかるポリペプチドの迅速なスクリーニングを可能とする。Wongら,Science 228:810-815(1985); Leeら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 82:4360-4364(1985); Yangら,Cell 47:3-10(1986)。かくして、一過性発現系は、天然ヒトDNアーゼIよりも低い親和性をもってアクチンに結合する変異体を同定するためのアッセイならびにDNA−加水分解活性を持つ変異体を測定するためのアッセイと組み合わせて、天然ヒトDNアーゼIのアミノ酸配列変異体をコードするDNAを発現させるのに便利に使用される。
ヒトDNアーゼI変異体は、好ましくは、それが発現される宿主細胞から分泌させ、その場合、変異体は宿主細胞が増殖する培養培地から回収される。その場合、無血清培地で細胞を増殖させるのが望ましいであろう。というのは、血清蛋白質および他の血清成分の培地中での不存在は、変異体の精製を容易とするからである。もしそれが分泌されないならば、ヒトDNアーゼI変異体は宿主細胞の溶解物から回収する。変異体がヒト起源のもの以外の宿主細胞で発現される場合、該変異体はヒト起源の蛋白質は完全に含まない。とにかく、ヒトDNアーゼI変異体の実質的に均質な調製物を得るためには、組換え細胞蛋白質から変異体を精製する必要がある。治療的使用では、精製された変異体は、好ましくは、99%より大きい純度であろう(すなわち、いずれの他の蛋白質も精製された組成物中、1%未満の全蛋白質よりなるであろう)。
一般に、ヒトDNアーゼI変異体の精製は、それが会合するかも知れない汚染物と比較して、変異体の異なる物理化学的特性を利用することによって達成される。例えば、第1工程として、培養培地または宿主細胞溶解物を遠心して、粒状細胞夾雑物を除去する。しかる後、例えば、硫酸アンモニウムもしくはエタノール沈殿、ゲル濾過(分子排除クロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、免疫親和性クロマトグラフィー(例えば、Sepharoseにカップリングさせた抗−ヒトDNアーゼI抗体を使用)、テンタクル(tentacle)カチオン交換クロマトグラフィー(Frenzら,PCT特許出願WO93/25670、1993年12月23日)、逆相HPLCおよび/またはゲル電気泳動によって、ヒトDNアーゼI変異体を汚染可溶性蛋白質およびポリペプチドから精製する。
勿論、当業者ならば、天然ヒトDNアーゼIで用いる精製法はヒトDNアーゼI変異体を精製するのに有用であって、天然および変異体蛋白質の間の構造的および他の差異を説明するためにはいくからの修飾が必要である。例えば、いくつかの宿主細胞(特に細菌宿主細胞)では、ヒトDNアーゼI変異体は最初に不溶性で会合した形態(当該分野では「屈折体」または「封入体」という)で発現させることができ、この場合、この精製の間にヒトDNアーゼI変異体を可溶化させ、復元させる必要があろう。組換え蛋白質屈折体を可溶化させ復元する方法は当該分野で公知である(例えば、Builderら,米国特許第4,511,502号参照)。
本発明のもう1つの具体例において、ヒトDNアーゼI変異体は直接天然または変異体ヒトDNアーゼI蛋白質において共有結合修飾をなすことによって調製される。かかる修飾を施してアクチン結合または蛋白質のもう1つの特性(例えば、安定性、生物学的半減期、免疫原性)に影響を与え、これは前記したアミノ酸配列置換、挿入および欠失の代わりにまたはそれに加えてなすことができる。
共有結合修飾は天然または変異体ヒトDNアーゼIの標的化アミノ酸残基を、選択されたアミノ酸側鎖またはN−もしくはC−末端残基と反応できる有機誘導体化剤と反応させることによって導入できる。適当な誘導体化剤および方法は当該分野でよく知られている。
例えば、システイニル残基は最も普通にはクロロ酢酸またはクロロアセトアミドのごときα−ハロアセテート(および対応するアミン)と反応させてカルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を得る。また、システイニル残基は、ブロモトリフルオロアセトン、α−ブロモ−β−(5−イミドゾイル)プロピオン酸、リン酸クロロアセチル、N−アルキルマレイミド、3−ニトロ−2−ピリジルジスルフィド、メチル2−ピリジルスルフィド、p−クロロメルクリベンゾエート、2−クロロメルクリ−4−ニトロフェノールまたはクロロ−7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾールとの反応によって誘導体化する。
ヒスチジル残基はpH5.5−7.0でのジエチルピロカルボネートとの反応によって誘導体化する。何故ならば、この剤はヒスチジル側鎖に比較的特異的だからである。パラーブロモフェナシルブロミドも有用である;反応は好ましくはpH6.0にて0.1Mカコジル酸ナトリウム中で行う。
リシニルおよびアミノ末端残基はコハク酸または他のカルボン酸無水物と反応させる。これらの剤での誘導体化はリシニル残基の電荷を逆にする効果を有する。α−アミノ含有残基を誘導体化するための他の適当な試薬はメチルピコリンイミデート、ピリドキサールホスフェート、ピリドキサール、クロロボロヒドライド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O−メチルイソ尿素、2,4−ペンタンジオン、およびトランスアミナーゼ−触媒のグリオキシレートとの反応のごときイミドエステルを含む。アルギニル残基は1または数種の通常の試薬、とりわけ、フェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンとの反応によって修飾される。アルギニン残基の誘導体化は、グアニジン官能基の高いpKaのため該反応をアルカリ性条件下で行う必要がある。さらに、これらの試薬はリシンの基ならびにアルギニンのイプシロンアミノ基と反応させることもできる。
カルボキシル側鎖基(アスパルチルまたはグルタミル)は、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3−(4−アゾニア−4,4−ジメチルフェニル)カルボジイミドのごときカルボジイミド(R’−N=C=N−R’)(式中、RおよびR’は異なるアルキル基)との反応によって選択的に修飾される。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基はアンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。
グリコシドの蛋白質のアミノ残基への共有結合カップリングを用いて、特にアクチン結合に関与する残基においてまたはそれに隣接して、炭水化物置換基の数またはプロフィールを修飾しまたは増加させることができる。使用するカップリング様式に応じて、糖を(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)システインのそれらのごとき遊離スルノヒドリル基、(d)セリン、トレオニン、またはヒドロキシプロリンのそれらのごとき遊離ヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン、またはトリプトファンのそれらのごとき芳香族残基、または(f)グルタミンのアミド基に結合させることができる。適当な方法は、例えば、PCT特許出願WO87/05330(1987年9月11日公開)、およびAplinら,CRC Crit.Rev.Biochem.,259-306頁(1981)に記載されている。
ポリエチレングリコール(PEG)またはヒト血清アルブミンのごとき剤のヒトDNアーゼI変異体への共有結合は、他の蛋白質で観察されているごとく、変異体の免疫原性および/または毒性を減じ、および/またはその半減期を延長する。Abuchowskiら,J.Biol.Chem.252:3582-3586(1977);Poznanskyら,FEBS Letters 239:18-22(1988); Goodsonら,Biotechnology 8:343-346(1990); Katre,J.Immunol.144:209-213(1990);Harris,Polyethylene Glycol Chemistry(Plenum Press,1992)。加えて、アクチン結合に影響するアミノ酸残基におけるまたはそれに隣接して(すなわち、その約5個のアミノ酸残基内においての)これらの剤による天然ヒトDNアーゼIまたはその変異体の修飾の結果、アクチン−耐性変異体を得ることができる。
さらなる具体例において、ヒトDNアーゼIアクチン−耐性変異体は、DNアーゼI変異体の脱アミドを低下させまたは妨げるために、天然ヒトDNアーゼIアミノ酸配列の74位で起こるAsn残基における突然変異(例えば、N74D、N74KまたはN74S突然変異)を含むことができる。Frenzら,PCT特許出願WO93/25670(1993年12月23日公開)。もう1つの例として、ヒトDNアーゼIアクチン−耐性変異体は、痰および他の生物学的物質に存在し得るプロテアーゼ(例えば、好中球エステラーゼ)による分解に対する変異体の感受性を低下させるアミノ酸配列突然変異または他の共有結合修飾を含むことができる。
前記したごときヒトDNアーゼI変異体のDNA−加水分解活性およびアクチン−結合親和性は、当該分野で公知であるおよび本明細書に記載したアッセイおよび方法を用いて容易に決定される。(前記定義の)DNA−加水分解活性および低下したアクチンに対する結合親和性を有するいずれのかかる変異体も本発明の範囲内にあるアクチン−耐性変異体である。
本発明のヒトDNアーゼIアクチン−耐性変異体は痰、粘液、または他の分泌のごときDNA−含有物質の粘弾性を低下させるために用いられる。かかる変異体は、異常粘性または濃厚分泌を有する肺病ならびに感染性肺炎、気管支炎または気管気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症、喘息、結核および真菌類感染を含めた急性もしくは慢性の肺病を持つ患者の治療で特に有用である。かかる治療では、アクチン−耐性変異体の溶液または微粉砕乾燥調製物を、例えば、エアロゾル処理によって患者の気道(例えば、気管支)または肺に常法により注入する。
また、アクチン−耐性変異体は蓄膿症、髄膜炎、膿瘍、腹膜炎、静脈洞炎、耳炎、歯周炎、心膜炎、膵臓炎、胆石症、心内膜炎および敗血症性関節炎のごとき疾患における膿瘍または重症の狭域感染の付加的治療ならびに皮膚および/または粘膜、外科的負傷、潰瘍性病巣および火傷の感染病巣のごとき種々の炎症および感染病巣の局所治療でも有用である。アクチン−耐性変異体はかかる感染の治療の治療で用いられる抗体の効率を改良できる(例えば、ゲンタマイシン活性は無傷DNAに対する可逆的結合によって顕著に低下する)。
また、天然ヒトDNアーゼIおよびそのアクチン−耐性変異体は全身性エリテマトーデス(SLE)、種々の自己抗体の産生によって特徴付けられる生命を脅かす自己免疫疾患の治療でも有用であり得る。DNAは免疫合併症の主要な抗原成分である。この場合には、ヒトDNアーゼI(天然または変異体)は、例えば、罹病患者への静脈内、皮下、鞘内、または筋肉内投与によって全身投与できる。
また、天然ヒトDNアーゼIおよびそのアクタン−耐性変異体は、嚢胞性線維症、慢性気管支炎、喘息、肺炎または他の肺病を有する患者、またはその呼吸が通気器または他の機械的デバイスによって助力される患者、または呼吸器系感染の発生の危険がある他の患者、例えば手術後患者で起こり得るごとき、呼吸器系感染の新しい発生および/または悪化を防止するのにも有用であり得る。
アクチン−耐性変異体は公知の方法に従って処方して治療上有用な組成物を調製することができる。好ましい治療組成物は緩衝化または非緩衝化水溶液中のアクチン−耐性変異体の溶液、好ましくはpH7の1.0mM塩化カルシウムを含有する150mM塩化ナトリウムのごとき等張塩溶液である。これらの溶液は罹患患者の気道または肺に直接投与するのに有用なジェット噴霧器および超音波噴霧器を含めた商業的に入手可能な噴霧器で用いるのに特に適合する。
もう1つの具体例において、治療組成物は、実質的には同時係属米国特許出願第08/206,020号(1994年3月4日出願)に記載されているアクチン−耐性変異体の溶液のスプレイ−乾燥によって好ましくは調製されたアクチン−耐性変異体の乾燥粉末よりなる。
さらなる具体例において、治療組成物はヒトDNアーゼIのアクチン−耐性変異体を活性に産生する細胞よりなる。かかる細胞は患者の組織に直接導入することができるか、あるいは多孔性膜内にカプセル化でき、次いで、これを患者に移植することができ、いずれの場合においても、増大した濃度のDNA−加水分解活性が必要な患者の体内の領域へのアクチン−耐性変異体の送達を提供する。例えば、ヒトDNアーゼIのアクチン−耐性変異体をコードするDNAで患者自身の細胞がイン・ビボまたはエクス・ビボにて形質転換され得、従って、患者内で直接DNアーゼIを産生させるのに使用される。
治療上有効量のアクチン−耐性ヒトDNアーゼI変異体は、例えば、処理すべき物質中のDNAおよびアクチンの量、治療対象、投与経路、および患者の状態に依存するであろう。従って、治療者が用量を力価測定し、最適治療効果を得るのに必要な投与経路を修飾することが必要であろう。天然ヒトDNアーゼIに対するアクチンの存在下におけるアクチンに対するその低下した結合親和性およびその結果増大したDNA−加水分解活性に鑑みると、治療効果を達成するのに要するアクチン−耐性変異体の量は、同一条件下で同一効果を達成するのに必要な天然ヒトDNアーゼIの量よりも低いであろう。一般に、アクチン耐性変異体の治療上有効量は、本明細書に記載した医薬組成物内にて投与される、患者の体重1kg当たり約0.1μgないし約5mgの変異体の投与量であろう。
アクチン−耐性DNアーゼI変異体は、所望により、抗生物質、気管支拡張剤、抗炎症剤、粘液溶解剤(例えば、n−アセチル−システイン)、アクチン結合またはアクチン切断蛋白質(例えば、ゲルソリン;Matsudariaら,Cell 54:139-140(1988); Stosselら,PCT特許出願WO94/22465(1994年10月13日公開)、プロテアーゼ阻害剤、または遺伝子治療製品(例えば、嚢胞性線維症経膜コンダクタンス調節剤(CFTR)遺伝子、Riordanら、Science 245:1066-1073(1989))のごとき、前記リストの疾患を治療するのに用いる1以上の他の薬理剤と組み合わせるかまたはそれと共に投与することもできる。
以下の実施例は例示のためのみに供し、断じて本発明を限定する意図のものではない。本明細書で引用した全ての特許および文献は明示的に本明細書の一部とみなす。
実施例1 ヒトDNアーゼIの突然変異誘発
Chungら(Nuc.Acids Res.16:3580(1988)の方法を用いて、イー・コリ(E.coli)株CJ236(BioRad Laboratories,リッチモンド,カリフォルニア州米国)をプラスミドpRK.DNアーゼ3.で形質転換した。本発明を作成するのに用いたプラスミドpRK.DNアーゼ3.は、ヒトDNアーゼIをコードする核酸配列が図1に示したものである以外はPCT特許出願WO90/07572(1990年7月12日公開)に記載された通りである。形質転換細胞を50μg/mlカルベニシリンを含有するLB寒天プレート上に置き、37℃で一晩増殖させた。50μg/mlカルベニシリンおよび10μl VCSM13ヘルパーファージ(Stratagene,La Jolla,カリフォルニア州米国)を含有する2YTブロス(5ml)を寒天プレートからの個々のコロニーで接種し、撹拌しつつ37℃で一晩増殖させた。一本鎖DNAをこの培養から単離し、引き続いての突然変異誘発用の鋳型として用いた。
部位特異的突然変異誘発はKunkelら(Meth.Enzymol.154:367-382(1987)の方法に従って合成オリゴヌクレオチドを用いて達成された。突然変異原オリゴヌクレオチドは誤対合コドンの5’側の9または12の正確な塩基対合および誤対合コドンの3’側の9つの正確な塩基対合を有する21−量体または24−量体であった。突然変異誘発に続き、個々のクローンからの一本鎖DNAをジデオキシ配列決定(Sangerら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 74:5463-5467(1977))に付した。次いで、変異体ヌクレオチド配列を有するDNAを前記したごとくにイー・コリ株XL1BlueMRF’(Stratagene)に形質転換した。平板培養および前記単一コロニー単離の後、個々のコロニーを用いて50μg/mlカルベニシリンを含有する0.5リットルLBブロスを接種した。撹拌しつつの37℃における一晩の増殖に続き、細胞を遠心によって収穫し、Qiagenチップ−500カラム(Qiagen Inc.,Chatsworth,カリフォルニア州米国)を用いて変異体DNA(発現ベクター中)を精製した。
図2−6は作成された異なるヒトDNアーゼI変異体を示す。図においておよび明細書を通じて、DNアーゼIに存在するアミノ酸置換突然変異の表示は最初のアルファベット文字、数および第2のアルファベット文字により省略する。最初のアルファベット文字は天然(野生型)ヒト成熟DNアーゼIにおけるアミノ酸残基の1文字省略であり、数字は天然ヒト成熟DNアーゼIにおけるその残基の位置を示し(図1に示すナンバリング)、および第2のアルファベット文字は変異体DNアーゼIにおけるその位置におけるアミノ酸残基の1文字省略である。例えば、D53R突然変異を有するDNアーゼI変異体において、天然ヒト成熟DNアーゼIにおける53位のアスパラギン酸(D)残基はアスパラギン(R)残基によって置き換えられている。単一変異体における複数突然変異は同様に表示され、変異体に存在する異なる突然変異の各々をコロン(:)で離す。例えば、表示D53R:Y65Aは変異体がD53R突然変異およびY65A突然変異を有することを示す。
実施例2 ヒトDNアーゼ変異体の発現
ヒト胚性腎臓293細胞(ATCCCRL 1573,American Type Culture Collection,Rockville,メリーランド州米国)を、150mmプラスチック製ペトリ皿を含有する血清中で増殖させた。リン酸カルシウム法(Gormanら,DNA and Protein Eng.Tech.2:3-10(1990))を用い、対数相細胞を22.5μgの精製変異体DNA(前記のごとく調製)および17μgアデノウイルスDNAで一過的に共トランスフェクトした。トランスフェクション16時間後に、細胞を15mlのリン酸緩衝化生理食塩水で洗浄し、培地を無血清培地に変えた。1回目は無血清培地変更から24時間または72時間後に、最後は96時間後に細胞培養培地の2回の収穫を各プレートから採った。DNアーゼI変異体を含有する合計ほぼ50mlの細胞培養上清をこのようにして得た。各プレートから収集した培養上清のプールを、Centriprep10濃縮器で5ないし50倍濃縮し、濃縮物をアッセイして、DNアーゼI変異体の種々の生化学的および生物学的活性を測定した。
293細胞をプラスミドpRK.DNアーゼ.3.で一過的にトランスフェクトした以外は前記したのと同一の手法によって、天然ヒトDNアーゼを含有する濃縮物を調製した。
実施例3 ヒトDNアーゼI変異体の生化学的および生物学的活性
I.相対的特異的活性
DNアーゼI変異体の相対的特異的活性は2つの異なるアッセイにおいて変異体の活性を天然ヒトDNアーゼIのそれと比較することによって評価した。特に、変異体の相対的特異的活性はメチルグリーン活性で測定した変異体の濃度(μg/mlで表す)(Sinicropiら,Anal.Biochem.222:351--358(1994); Kurmick,Arch. Biochem.29:41-53(1950))をDNアーゼI ELISAアッセイ(後記)で測定した変異体(μg/ml)の濃度で割ったものと定義される。メチルグリーン活性アッセイおよびDNアーゼI ELISAアッセイ双方において、PulmozymeRヒトDNアーゼIを用いて標準曲線を決定した。天然ヒトDNアーゼIおよび変異体の相対的特異的活性を図2A−Dに示す。
メチルグリーン活性アッセイ(Sinicropiら,Anal.Biochem.222:351-358(1994); Kurnick,Arch.B1ochem.29:41-53(1950))はメチルグリーン色素を利用し、これはDNAにおいてほぼ10塩基毎にインターカレートし、その結果緑色の基質が得られる。DNAがDNアーゼIによって切断されるので、メチルグリーン色素は放出され、無色形態まで酸化される。かくして、緑色の喪失はアッセイ試料に添加されたDNアーゼIの量に比例する。次いで、アッセイで存在するDNアーゼIの量は既知量のDNアーゼIをアッセイすることによって調製された標準曲線との比較によって定量される。
DNアーゼI ELISAアッセイはマイクロタイタープレートをヤギ抗−DNアーゼIポリクローナル抗体で被覆し、アッセイすべき試料を添加し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートされたウサギ抗−DNアーゼIポリクローナル抗体とのいずれの得られた結合DNアーゼIも検出することを含む。HRP基質および色発色剤を添加すると、色発生は試料に存在するDNアーゼIの量に比例する。次いで、既知量のDNアーゼIをアッセイすることによって調製された標準曲線との比較によって、アッセイに存在するDNアーゼIの量を定量する。
両アッセイにおいて、試料の複数希釈をアッセイし、標準曲線の中央範囲に入る値を平均し、標準偏差を計算した。
また、DNアーゼI ELISAによって測定したDNアーゼI濃度を用いて、DNアーゼI変異体を特徴付けた他のアッセイ(例えば、後記するアクチンによる阻害のアッセイ)においてDNアーゼI濃度を標準化した。
II.DNアーゼI加水分解活性のアクチン阻害
G−アクチン(Kabshら,Ann.Rev.Biophys.Biomol.Struct.21: 49-76(1992)))は、アクチン(商業的に入手した(Sigma,セントルイス,ミズリー州米国)あるいはPardeeら,Meth.enzymol.85:164-181(1982)の方法によって調製)の1mg/ml溶液を4℃にて5mM HEPES,pH7.2、0.2mM CaCl2、0.5mM ATP、0.5mM β−メルカプトエタノールに対して一晩透析することによって調製した。13,000×gにおける5分間の遠心の後、290nmにおける吸光度を測定することによってG−アクチンの量を定量し;1mg/ml溶液は0.66ODの吸光度を有する。完全ではないが実質的に(>50%阻害)に天然ヒトDNアーゼIのDNA−加水分解活性を阻害するのに要するG−アクチン調製の量を各アッセイで用いた同一条件下での予備実験で測定した。
アクチン阻害に対する感度は、2つの異なるアッセイ、前記したメチルグリーンアッセイおよびDNAの変性および脱重合に際しての260nmにおける吸光度の増加に基づく光吸収増加アッセイ(Kunitz,J.Gen.Physiol.33:349-362(1950); Kunitz,J.Gen.Physiol.33:363-377(1950))いずれかににおいて、アクチンの存在下および不存在下で変異体のDNA−加水分解活性を測定することによって評価した。これらのアッセイにおいて選択されたパーセント阻害を図3および4に示す。
光吸収増加アッセイにおいて、合計アッセイ容量1.0ml中の40μgDNAを含有するキュベットに添加する前に、濃縮された培養上清(前記したように調製、DNアーゼI変異体を含有)を、緩衝液A(25mM HEPES、pH7.5 CaCl2、4mM MgCl2、4mM MgCl2、0.1%BSA)中の2−ないし3−倍モル過剰のアクチンと共にまたはそれを添加せずに室温にて1時間インキュベートした。アッセイにおけるDNアーゼI変異体の最終濃度はDNアーゼI ELISAによって測定して、ほぼ26nMであった。アクチンの存在下および不存在下におけるDNアーゼI変異体によるDNA加水分解の速度を測定した。図3および4に示すパーセント活性は、アクチンの不存在下におけるDNA−加水分解活性に対するアクチンの存在下におけるヒトDNアーゼI(天然または変異体)のDNA加水分解活性の比を決定し、100を乗じることによって計算した。
メチルグリーンアッセイにおいて、(前記したごとく調製し、DNアーゼI変異体を含有する)濃縮された培養上清を緩衝液B(25mM HEPES,pH7.5、4mM CaCl2、4mM MgCl2、0.1%BSA、0.01%チメロソール、および0.05%Tween 20)中の1000−倍モル過剰のアクチンと共にまたはそれを添加せずに37℃で16時間インキュベートした。各場合における活性酵素の濃度は、PulmozymeRの標準曲線との比較によって評価した。変異体の「パーセント活性」残存とは、アクチンの不存在下における活性に対するアクチンの存在下における活性の比を100倍したものをいう。
図3および4に示されるように、天然ヒトDNアーゼのDNA−加水分解活性はアクチンの存在下で実質的に低下する。比較することにより、天然ヒトDNアーゼの種々の単一および複数残基変異体は、天然ヒトDNアーゼよりもアクチンの存在下におけるより高いDNA−加水分解活性を有することによって示されるごとく、アクチンの阻害に対して比較的耐性である。
III.アクチン結合ELISA
マイクロタイターをベースとするアッセイを開発して、アクチンを固定化する天然ヒトDNアーゼIおよびDNアーゼI変異体の結合を測定した。まず、Maxi Sorpプレート(Nunc.,Inc.,Naperville,イリノイ州,米国)のウェルを、25mM HEPES、4mM MgCl2、4mM CaCl2、pH7.2中10 μg/mlの濃度にて、ヒトGCグロブリン(Calbiochem.,La Jolla,カリフォルニア州,米国)、アクチン結合蛋白質(Goldschmidt-Clermontら,Biochem.J. 228:471-477(1985),McLeodら,J.Biol.Chem.264:1260-1267(1989)、Houmeidaら,Eur.J.Biochem.203:499-503(1992))ウェル当たり100μlで4℃にて16−24時間被覆した。GCグロブリンを捨てた後、ウェル当たり200μlの緩衝液C(緩衝液Cは0.5mMアデノシン三リン酸を添加した前記緩衝液Bに同じ;緩衝液Cは特に断りのない限りすべての引き続いての工程でアッセイ希釈剤として使用した)を添加し、室温で1−2時間振盪器上でプレートをインキュベートすることによって過剰の反応性部位をブロックした。続いて行った各インキュベーション工程はMini Orbital Shaker(Bello Biotechnology,Vineland,ニュージャージー州,米国)上にて室温で1時間行い;各工程の間に、プレートを空にし、Microwasher IIプレート洗浄器(Skatron A/S,Norway)にて、0.05%Tween 20を含有するリン酸緩衝液生理食塩水で6回洗浄した。次に、前記したごとくに調製したG−アクチンを緩衝液C中、50μg/mlまで希釈し、100μlを各ウェルに添加した;プレートをインキュベートし、洗浄し、PulmozymeRの種々の希釈および天然ヒトDNアーゼIまたはその変異体を含有する細胞培養培地をウェルに添加し、プレートをインキュベートし、洗浄した。最後に、抗−ヒトDNアーゼIウサギポリクローナル抗体−ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート(オリジナルのストック濃度は465μg/mlであった)の1/25,000希釈の100μlを各ウェルに添加した。インキュベーションおよび洗浄の後、ウェル当たり100μlの色発色試薬(Sigma Fast 製造業者の推奨に従って可溶化させた。フェニレンジアミンおよび尿素/H2O2錠剤)の添加によって色発色を開始させ、ウェル当たり100μlの4.5N H2SO4 の添加によって停止させた。492nmにおける吸光度を記録し、元来ウェルに添加したDNアーゼIの濃度に対してプロットした。天然ヒトDNアーゼIおよびアクチンに結合した変異体につきS字状曲線が得られた;これらの曲線は、非線形回帰分析(Marquardt,J.Soc.Indust.Appl.Math.11:431-441(1963))によって4つのパラメーターの方程式に適合し;アッセイにおいて半最大シグナルを与えるのに必要な各DNアーゼI(天然または変異体)の濃度は曲線から計算し、これをEC50値という。天然ヒトDNアーゼIおよび変異体の分子量は37,000ダルトンであると見積もられた。
各ヒトDNアーゼI変異体の相対的結合親和性は、変異体のEC50値をELISAアッセイで測定した天然ヒトDNアーゼIのEC50値で割ることによって計算し、結果を図5A−Dに示す。例として、もしヒトDNアーゼI変異体の相対的結合アッセイは5であると計算されれば、この値は変異体についてのEC50値が天然ヒトDNアーゼのEC50値よりも5倍大きい、あるいは換言すれば、変異体はこのELISAアッセイにおいてアクチンに対して天然ヒトDNアーゼIの親和性よりも5−倍小さいことを示す。
IV.痰圧縮アッセイ
痰圧縮アッセイ(PCT出願WO94/10567、1994年5月11日公開)を用いて、天然ヒトDNアーゼIおよび異なるDNアーゼI変異体と共に行ったインキュベーションの前後に、嚢胞性線維症患者からの痰(「CF痰」)の相対的粘弾性を測定した。CF痰をDNアーゼI試料と混合し、室温で20分間インキュベーションした後、半固体溶液を毛細管に負荷し、次いで、これを12,000rpmで20分間遠心した。速心に続き、ペレットの高さを測定し、溶液+ペレットの高さと比較した。次いで、これらの測定を用いて痰のパーセント圧縮を計算し、これは痰の粘弾性と相関する。
天然ヒトDNアーゼIおよびヒトDNアーゼIアクチン−耐性変異体でのCF痰の処理に際して測定されたパーセント圧縮を図6に示す。これらの結果はヒトDNアーゼIアクチン−耐性変異体が、圧縮アッセイによって測定して、CF痰の粘弾性の低下において天然ヒトDNアーゼIよりも効果的であることを示す。
図2−図6は以下の変異体についてのデータを示す:
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