JP4622968B2 - 配電自動化システムの電力融通方法 - Google Patents

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本発明は、配電自動化システムの電力融通方法に係り、特に停電時における電力の融通計算法に関するものである。
配電系統を管理するコンピュータシステムである配電自動化システムでは、当該配電系統に停電が発生した場合や、工事等で計画的に限定した範囲で停電を発生させる場合、通常の電力供給経路とは別の電力供給経路の探索を実行し、得られた経路から電力を供給する機能が備えられている。
電力融通を行うための計算方法としては非特許文献1が公知となっている。
この方法は、配電系統をグラフ理論で扱うもので、入力されるグラフを「木」に限定したとき、最適解を効率よく求める。そのためのアルゴリズムは木の持つ特殊な構造を利用することで最適解を求めている。この手法では、配電系統の融通計算問題をグラフ理論で扱うために必要となる構成要素を、供給点、需要点および開閉器の3つとしている。
供給点は、電力を供給するための元となる点で、配電線の大元としては配電用変電所の送出点となる。需要点は、ビルや工場、一般家庭といった電力を使用する点である。また、開閉器は、電力系統上に複数設置されている開閉器である。
これら3つの要素をグラフ理論で扱うために、供給点および需要点を“点”として扱い、開閉器を“辺”として扱う。さらに供給点における供給量、及び需要点における需要量をそれぞれ数値で表すことによって、図10のように配電系統をグラフで扱うことが可能となる。図10は配電系統の全ての開閉器を考慮した構成を表現したものとなっており、閉路を含んだグラフとなっている。しかし、実際の運用においては、ループ運用(閉路が存在するような運用)は行わないため、図11で示すように定常状態における電力網は「木」(図11では4つの木)として扱うことができる。ここで、木とは閉路を含まないグラフである。なお、図11における点線は開閉器が“開”状態となっていることを示したもので、これによって閉路を構成しないよう運用を行うものである。
非特許文献1のアルゴリズムは、いわゆる動的計画法と呼ばれるアプローチをとっている。動的計画法では、与えられた木を小さな部分木に分け、その部分木に対して最適解の候補(候補解)を計算する。そして、得られた候補解を組み合わせることで木全体に対する最適解を計算する。例えば、図12の木が与えられたとき、アルゴリズムは図13で示すように部分木Aと部分木Bに対して候補解を全列挙する。そして、それら部分木Aと部分木Bの候補解を組み合わせることにより、図14に示す木全体に対する最適解を得ることができる。
すなわち、30の供給量を有する供給点u1は、9、9、10の需要量を有する需要点に電力を供給し、また、他の30の供給量を有する供給点u2は、5、7、8,7の需要量を有する需要点に電力を供給することが木全体に対する最適解となる。つまり、(9+9+10)+(5+7+8+)=55の需要量が電力供給を受けており、これ以上の電力供給をすることはできない。非特許文献1のアルゴリズムは、木の特殊な構造を利用することにより、部分木における候補解が効率よく覚えられ、それによって効率のよいアルゴリズムが得られることを示している。
次に、木の特殊な構造を利用した候補解の列挙について説明する。アルゴリズムが利用している木の特殊な構造とは、各部分木が外部と1点でのみ接続していることである。したがって、その1点を通る電力の流れのみに着目して候補解を全列挙することが可能となる。この構造から部分木外部から電力が供給されているときには、部分木外部にある需要点はその1点を通さない限り供給されないことがわかる。また、部分木内部から外部へ電力を供給するときも、その1点を通さない限り外部へ供給できない。
例えば、図13において、部分木Aはただ1点vでのみ外部と接続している。したがって、部分木A内部にある需要点が、外部にある供給点U2から電力供給を受けるためには、点vを通して部分木A内部に電力を入れるしかない。その一方で、部分木A内部にある供給点U1から、外部にある需要点に供給するためには、点vを通して部分木A外部に電力を出すしかない。したがって、非特許文献1では、次の2点を考慮している。
(1)図15で示すように、部分木の外部から内部へx量だけ電力供給されたとき、その部分木が達成できる最大の充足量yを求め、組(x,y)として候補解にする。ここで、充足量とは電力供給を受けることができる需要量の合計である。
(2)図16で示すように、部分木の内部から外部へx’量だけ電力供給できるとき、その部分木が達成できる最大の充足量y’を求め、組(x’,y’)として候補解にする。
上記(1)(2)で得られる組を候補解として全列挙すれば、木全体に対する最適解を求めることができる。
蒲倉、周、西関:「木の分割問題を解くアルゴリズム」 Technical Report COMP2001-87.IEICE of Japan(2002) p.33〜40 (社)電子情報通信学会
非特許文献1では、入力されるグラフを木に限定し、その特殊な構造を利用して最適解を求めているが、実際の電力網における融通計算では、同一フィーダ(1つの供給点)から複数箇所の負荷区間へ電力供給できるケースが存在し、そのケースにおいては、電力網は木ではなくなり、アルコリズムには入力することさえできない。したがって、理論的裏付けのあるアルゴリズムを配電融通問題に応用することができなかった。その一方、例え入力されるグラフが木であったとしても、配電融通問題の応用において許容される時間以内に、最適解を求めることができない問題を有していた。
本発明が目的とするところは、上記問題を解決した配電自動化システムの電力融通方法を提供することにある。
本発明の請求項1は、電力の融通計算処理部と監視制御部を有する演算処理装置により、配電系統の停電発生時に記憶装置に格納された停電発生時のデータをもとに電力の融通処理演算を実行するものであって、演算処理装置は、グラフ理論を用いた分割処理手段により配電系統に対しグラフを構成し、部分木に分割して電力の融通演算するものにおいて、
前記融通計算処理部に供給点振分け手段を設け、前記停電発生時に当該停電区間に対する外部区間からの供給点を、仮想の複数供給点に分割して停電復旧したい電力網を木構造とした後に、前記分割処理手段によって電力の融通演算を実行することを特徴としたものである。
本発明の請求項2は、供給点振分け手段による供給点の振分けは、供給点uがk個の需要点に繋がっているとき供給点をk個の仮想供給点に分けてそれぞれを辺で結び、仮想供給点の供給量の合計を、前記供給点uの供給量と一致するようにしたことを特徴としたものである。
本発明の請求項3は、融通計算処理部に整数刻み分け手段を設け、この整数刻み分け手段により前記供給点振分け手段によって振分けられた供給量の振分け分を任意の整数毎に限定して処理することを特徴としたものである。
以上のとおり、本発明によれば、配電系統の停電時に当該電力網が木構造でなくなった場合でも、仮想的に木をつくることにより、その木構造を利用して電力融通演算を精度よく、且つ高速に行うことが可能となるものである。
図1は、本発明の第1の実施例を示すシステム構成図で、1は配電系統、2はコンピュータよりなる演算処理装置で、RAM、ROMの記憶部と監視制御部3及び融通計算処理部4を有している。5は記憶装置で、この記憶装置5には配電系統1の設備データや、系統構成、負荷実績値、開閉器状態等の系統運用のための制約条件データなどが格納されている。監視制御部3は、配電系統1の系統状態、すなわち、系統の繋がり、負荷電力量、開閉器の開閉状態を監視し、それらの状態を記憶装置5に記憶しておく。融通計算処理部4には、非特許文献1のグラフ理論を用いた分割処理手段の他に、供給点振分け手段(実施例1)、整数刻み分け手段(実施例2)及び変化点処理手段(実施例3)を各処理方法に応じて備える。
配電系統に停電が発生すると、監視制御部3は停電事故の発生を検出し、融通計算処理部4に対して融通計算を実施するよう指令する。融通計算処理部4は、この指令に基づいて記憶装置5に格納されている事故発生時の系統データや制約条件データ等を用いて融通計算を実行する。
電力会社の配電系統では、系統のループ運用は行わないため定常状態における電力網は図2で示すような木構造をしている。同図において、○印はブランチに接続された負荷ノードである需要点、□印は配電用変電所等の電力供給点である。この木構造をしている供給点□に事故が発生すると、事故直後の停電区間は、図3で示すように木構造をしている。しかし、停電が発生すると、停電復旧のために周りにある停電区間外の配電系統供給点から電力が供給されるため、図4で示すように考慮されるべき停電区間の電力網は木ではなくなる。木ではなくなることによって、非特許文献1のアルゴリズムへの適用が不可能になる。
本発明は、電力網が木ではなくなっても非特許文献1のアルゴリズムへの適用を可能としたもので、以下実施例に基づいて詳述する。
前述の供給点振分け手段は、図5で示すように停電区間に隣接する周りの供給点uをいくつかの仮想の供給点u1〜ukに分割することにより、停電復旧したい電力網を「木」にする。そのために、融通計算処理部4の供給点振分け手段は、記憶装置5に記憶された系統データを用いて図6のようなフローに基づいて演算処理を実行する。
図6のステップS1で、記憶装置5に格納されている系統構成データを用いて供給点u(n)が複数個(k個)の需要点に繋がっているかを確認し、繋っている場合には、S2において供給点u(n)をk個の仮想供給点u1〜ukに分割し、それぞれを辺で結び、仮想供給点の供給量の合計が供給点uの供給量と一致するように設定する。S1の判断で供給点が複数個の需要点に繋がっていなかった場合には、S3でn=n+1としてS1に戻る。
ステップS4では、n=Nか否かを判断する。すなわち、N個ある全ての供給点についての振分け処理が終了したかを判断する。処理が終了してない場合にはS3で次の供給点に移行し、再度S1からの処理を繰り返し実行し、図5で示すような木構造とする。n=Nとなり、停電区間の電力網が木構造となったとき、S5で非特許文献1による融通計算を実行する。
振分けの具体方法としては、例えば、供給点uの供給量を100、uに繋がっている需要点の個数kを2とすると、仮想供給点はu1,u2の2つが作られ、(u1=0,u2=100),(u1=1,u2=99),(u1=2,u2=98),…(u1=100,u2=0)といった形で供給量の全通りの組み合わせを試すもので、この例では100通りの組み合わせとなる。
前述の整数刻み振り分け手段は、全通りの振分けを実施するものではなく、ある整数t刻みで振分け演算を実施する手段で、そのため、融通計算処理部4には、供給点振分け手段の他に、さらに整数刻み分け手段が設けられる。整数刻み分け手段は、実施例1のように供給点uの供給量を0、1、2…と順次進むことではなく、例えば、t=10とした場合、(u1=0,u2=100),(u1=10,u2=90),(u1=20,u2=80),…(u1=100,u2=0)といった形で試行し、この場合には10通りとなって組み合わせの数は実施例1の1/10となる。
整数tの刻み数によって解の精度は変わってくるが、この実施例が採用できる裏付けとしては配電系統の管理に関する性質を利用したものである。すなわち、融通計算における需要量とは、配電系統の負荷を示している。配電系統の負荷は、工場やビル、家庭等で使用されている電気使用量であり、事故復旧時の融通計算にはこの電気使用量が必要となるが、実際の配電系統では時々刻々変化する各負荷の電気使用量を全て把握することは不可能である。このため、電力会社では、各負荷の契約電力量や昨年度実績等を用いて負荷を推定し、その推定負荷量を融通計算時に使用している。したがって、この推定負荷量には或る程度の誤差が含まれている。
以上のように配電系統の管理に関する性質から、使用している負荷量自体が推定値であり、既に誤差が含まれている。したがって、この実施例の整数振分け方法を使用した場合、実施例1に比較して誤差は含まれるが、或る程度の粗さで振分けを実施しても解の精度に対して大きな影響は出ず、実用上満足できる解をより高速に求めることが出来る利点を有する。
木の特殊構造を利用することによって部分木外部から電力が供給されているときには、部分木内部にある需要点は部分木外部を唯一接続している1点を通さない限り供給されず、また、部分木内部から外部へ電力を供給するときも、その1点を通さない限り供給できない。非特許文献1では、その1点を通る電力の流れに着目して候補解を全列挙可能とするために、前述した(1)、(2)の場合に対して候補解を求めている。
すなわち、候補解の全列挙として図8(b)と図9(b)で示すグラフを求めている。
ここで、図8(b)のx軸は、同図(a)の模式図で示すように外部から部分木内部に供給される電力量であり、y軸は部分木の最大の充足量である。同様に、図9(b)で示すx軸は、部分木内部から外部へ供給する電力量x’であり、y軸は部分木の最大の充足量y’である。非特許文献1では、候補解を全列挙するため、全ての白点と黒点の両方を求めているため、多くの時間を要している。
なお、黒点は電力供給経路が変化した場合であり、白点は変化せず当該白点と同じ高さにある黒点と同じ電力供給経路をしている。
実施例3で示す変化点処理手段は、黒点のみを求めることによって候補解の情報量を減らすことなく効率よく列挙することで高速化を図ったものである。図7はその処理フローを示したものである。
ステップS10で融通計算処理部4は、監視制御部3、及び記憶装置5からの各データに基づき、図8(a)で示すように部分木の外部から内部へ供給される電力量をxとし、この場合の電力量、すなわち、負荷量は開閉器単位で区切られた区間毎の負荷量とされ、そのため、融通計算処理部4の変化点処理手段は開閉器データを監視制御部3から導入し、また負荷量については記憶装置5から入力する。さらに融通計算処理部4は、供給量をxとしたときの最大充足量yを求め、
充足量yとしたときの組(x,y)を候補解とする。
次に、ステップS11で融通計算処理部4は、監視制御部3、及び記憶装置5からの各データに基づき、図9(a)で示すように部分木の内部から外部へ供給される電力量をx’とし、この場合の電力量、すなわち、負荷量は開閉器単位で区切られた区間毎の負荷量とされ、そのため、融通計算処理部4の変化点処理手段は開閉器データを監視制御部3から導入し、また負荷量については記憶装置5から入力する。さらに融通計算処理部4は、供給量をx’としたときの最大充足量y’を求め、充足量y’としたときの組(x’,y’)を候補解とする。
S12では全ての変化点x,x’についての処理が終了したか否かが判断され、まだ終了してない場合にはS13で次の変化点に1つ進める。x=次の変化点、x’=次の変化点にするためには記憶装置5内の設備情報に基づいて決定され、以下S10〜S12を繰り返して全ての変化点x,x’についての処理を実行する。
この実施例では、融通演算で扱う配電系統の負荷(電力量)は、開閉器単位で区切られた区間毎に纏めた負荷量として扱っているので、一つの区間の負荷量はある程度の大きさを持っている。例えば、必要とする電力量の大きさが100であれば、その100に対して10だけの電力量供給の仕方はありえない。必ず100の供給が可能か、又は0かの何れかとなる。
本発明の実施形態を示す電力融通のシステム構成図。 定常状態における電力網の説明図。 停電発生時の電力網の説明図。 停電発生後の電力網の説明図。 本発明の電力融通の説明図。 本発明の供給点振分け手段による処理フロー。 本発明の変化点処理手段による処理フロー。 電力受給説明図で、(a)は外部からの受給時、(b)は候補解の説明図。 電力授給説明図で、(a)は内部からの授給時、(b)は候補解の説明図。 配電系統をグラフ理論に基づき表現したグラフ。 定常状態における電力網の説明図。 入力された木の構造図。 部分木の候補解説明図。 木全体の最適解説明図。 部分木における受給電力量と充足量の説明図。 部分木における授給電力量と充足量の説明図。
符号の説明
1… 配電系統
2… 演算処理装置
3… 監視制御部
4… 融通計算処理部
5… 記憶装置

Claims (3)

  1. 電力の融通計算処理部と監視制御部を有する演算処理装置により、配電系統の停電発生時に記憶装置に格納された停電発生時のデータをもとに電力の融通処理演算を実行するものであって、演算処理装置は、グラフ理論を用いた分割処理手段により配電系統に対しグラフを構成し、部分木に分割して電力の融通演算するものにおいて、
    前記融通計算処理部に供給点振分け手段を設け、前記停電発生時に当該停電区間に対する外部区間からの供給点を、仮想の複数供給点に分割して停電復旧したい電力網を木構造とした後に、前記分割処理手段によって電力の融通演算を実行することを特徴とした配電系統の電力融通処理方法。
  2. 前記供給点振分け手段による供給点の振分けは、供給点uがk個の需要点に繋がっているとき供給点をk個の仮想供給点に分けてそれぞれ辺を結び、仮想供給点の供給量の合計を、前記供給点uの供給量と一致するようにしたことを特徴とした請求項1記載の配電系統の電力融通処理方法。
  3. 前記融通計算処理部に整数刻み分け手段を設け、この整数刻み分け手段により前記供給点振分け手段によって振分けられた供給量の振分け分を整数毎に分けて処理することを特徴とした請求項1又は2記載の配電系統の電力融通処理方法。
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