JP4613273B2 - イネのトランスポゾン遺伝子 - Google Patents
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Description
それゆえ、本発明は、遺伝子タギングに用いることのできる新たなイネの転移活性のある内在性トランスポゾンを提供する。
また本発明は、配列番号2で表される塩基配列から成るDNAから成るイネの自律性トランスポゾン遺伝子である。
また、タギング個体の解析には後述のnArdt系因子特異的なトランスポゾンディスプレイ法を用いることにより、原因遺伝子を容易に同定できる。
本発明のトランスポゾン(nArdt/Ardt)は、自然栽培条件下で転移するイネの内在性DNAトランスポゾンである。そのため選抜できた有用な性質を持つ突然変異体や遺伝子タギングを行なう集団は、組換え生物とならずに圃場で大規模に植物を育成させることができる。
また、従来技術で問題となっていた転移誘導時のカルス培養をする必要がないために、遺伝子破壊の原因を高めることができる。また、トランスポゾンは配列によって挿入しやすい配列があることから、本発明のトランスポゾンは、従来用いられてきたトランスポゾンではタギングできなかった新たな遺伝子を同定できる可能性が高い。
(1)非自律性トランスポゾン遺伝子(nArdt)
nArdtは両末端に12bpの反復配列(TIR: Terminal Inverted Repeat)を有する。この12bpのTIR配列は11bpが相補的になっているため、両末端を閉じて立体構造をとることができる。そのために転移することができると考えられる。
さらにその内側に、5’側末端配列(TIR)に接して92bp、3’側末端配列(TIR)に接して31bpの副末端反復領域(サブターミナル領域)をもつ。
後述の解析(実施例4、表2)の結果、5’側のTIRでは、5’側末端の3bpが一致し、かつTIR全体として少なくとも9bpが一致し、3’側のTIRでは3’側末端の3bpが一致し、かつTIR全体として少なくとも9bpが一致している。
一方、サブターミナル領域(5’側92bp、3’側31bp)は、5’側は83%以上、3’側は81%以上相同である。
nArdtが属するAc/Dsファミリーのトランスポゾンは、末端反復配列と副末端反復領域が保存されていれば、共通の転移酵素であるトランスポゼースによって転移を誘導されることが報告されているので(Genetics 153: 1919-1928 (1999))、このような末端反復配列と副末端反復領域を有していれば、その内部構造に関係なく転移できるといえる。
Ardtは、その両端(1〜111塩基、3446〜3488塩基)に、非自律性トランスポゾン遺伝子(nArdt)を2分割してもつ。即ち、Ardtは、5’側末端に、nArdtの5’側末端のTIR(1〜111塩基)をもち、3’側末端に、nArdtの3’側末端のTIR(3446〜3488塩基)をもつ。
更に、Ardtは、その中央部分(660〜3353塩基)にトランスポゼース酵素をコードする遺伝子(iArdt)をもつ。
Ardt内部にコードされているトランスポゼース酵素は、520塩基目から転写が始まり3444塩基目で転写が終了する。その転写産物は520塩基目から634塩基目までがイントロンとして取り除かれ、660〜662塩基のATGが開始メチオニンとして翻訳が始まり3351〜3353のTAGで翻訳が終了する。この間の配列(2694bp)は、1206〜1418塩基間がBEDドメイン(TIBS 25, 421-423 (2000))であり、3063〜3245塩基がhATドメイン(The Plant Cell, vol.12, 211-223 (2000))を有するトランスポゼース遺伝子である。
後述の解析(実施例4、表3)の結果、Ardtの5’側末端111塩基は、nArdtの5’側TIR(配列番号1の1〜104塩基)に相当し、85%以上相同である。3’側末端43塩基は、nArdtの3’側TIRに相当し、97%以上相同(1bp異なる)である。
また、トランスポゼース部分(660〜3353塩基)は99.9%以上相同であり、Ardt1-2(配列番号2)に対しBEDドメイン(660〜1418塩基、213bp)は全く同一、hATドメイン(3063〜3353塩基、183bp)は98.9%相同(2bp異なる)である。
このような処理によりトランスポゾンの転移頻度を上昇させ、突然変異体の出現率を上げることによって効率的に望む変異体を得ることが可能である。
この宿主である植物としては、イネ、シロイヌナズナ、タバコ、トマト、ペチュニ ア、アブラナ、ワタ又はトウモロコシが好ましい。いずれも形質転換の方法が確立しており、研究、産業及び園芸上で重要な植物である。
試験例1
本試験例では、日本晴から黄色葉突然変異体(lgl-m変異体)を分離した(図1)。このlgl-m変異体の葉は、細胞分裂の系譜によって、緑色の復帰細胞を持つ領域と黄色葉変異を持つ細胞が異なる。そのためDNAトランスポゾンの原因遺伝子からの脱離が易変性の原因と考えられた。
本実施例では、試験例1で得たlgl-m変異体の斑入を引き起こすDNA型トランスポゾン遺伝子とlgl変異の原因遺伝子を同定することを目的として、以下のように日本型イネとインド型イネ間の塩基配列の違いを利用して遺伝子同定(マップベースクローニング法)を行った。
lgl-m変異体とインド型イネの"カサラス"を交雑して養成したF2集団を用いて、lgl変異体の表現型を示す個体を選抜して遺伝子同定に用いた。lgl表現型を示すF2の827個体をもちいて、lgl表現型とリンクする2つのマーカー(CH4775-1及びCH12203-1)を決めた。lgl遺伝子が座乗する領域は第8染色体の長腕の下部、約238 kbの範囲内であった(図2)。
この領域には機能未知であるが発現しているmRNAが報告されており(Genetics 153, 1919-1928 (1999))、その情報をもとに30個ほどの遺伝子が予想することができた。これら遺伝子について実験的に機能を解析された遺伝子はなかったが、lgl変異体はDNAトランスポゾンの挿入が原因となっていることが予想されたので、挿入配列の有無を調べた。その結果、Pentatricopeptide repeat ドメイン(配列番号3の709〜993塩基)を持つ遺伝子AK120052(配列番号3)をプライマー(PPR-F1: GAGGCTCGCCTTCCCGTCCT(配列番号4), PPR-R1: GTGACGGCGAGCGGGTAGAG(配列番号5))を用いてPCRで増幅したところ、lgl変異体では、野生型にはない挿入配列(配列番号1)があることを見つけた。この挿入配列は、末端にDNAトランスポゾンに特徴的な反復配列(末端反復配列)があった。配列番号1の5’側上流と3’側下流には、全く同じ8 bp(gcacagct)が存在していた。これまで報告されているAc/Dsファミリーに分類されるDNAトランスポゾンは、挿入時に8bpの標的配列とその重複を生じることが判明しており、上記の事象はそれと一致している。このことから、この挿入配列(配列番号1)は新規のDNAトランスポゾンである可能性が高いことが示された。この配列は561bpと短く、内部に転移酵素のORFをコードできない非自律性因子であり、後述のように通常は転移を確認できない日本晴で転移するように活性化されたと思われるのでnArdt1-0(nonautonomous Activated rice DNA transposon1-0)と命名した。
本実施例では、nArdtがlgl-m変異体において実際に脱離をしている活性のあるトランスポゾンであるかどうかを検討した。
個体別にlgl-m変異体から抽出したDNAを用いて、挿入領域からnArdt脱離後に残されるフットプリントを解析した。Lgl遺伝子の第1エキソンを含んだ領域を増幅するプライマーPPR-F1(5'-GAGGCTCGCCTTCCCGTCCT-3'(配列番号6))とPPR-R1(5'-GTGACGGCGAGCGGGTAGAG-3'(配列番号7))を用いてPCRを行った。反応産物は、0.8% LOIIIアガロースゲル(Takara社)にて分画し、配列番号1のトランスポゾン遺伝子のサイズが欠損した時と同じサイズのPCR生産物が増幅されていることを確認し増幅産物の塩基配列を決定した。PCR産物をQIA quick PCR purification Kit(キアゲン社)を用いて精製し、シークエンサー(ABI PRISM3130、Applied Biosystem社)にて塩基配列を決定し各種のソフトウェアを用いて塩基配列の解析を行った。結果を表1に示す。
本実施例ではnArdtのlgl遺伝子への挿入が突然変異の原因となっているかどうかを確認した。
nArdtの挿入とは別の変異原によって、lgl遺伝子が壊された系統あれば、lgl変異体と交配実験によってメンデルの法則に従って分離をするかどうかを調べることができる。発明者は、別のDNA型トランスポゾンであるnDartが転移しやすい系統を多数育種している。そこで同じような表現型を示している変異体を探索し、nDartがlgl遺伝子の別の場所に挿入した突然変異体lgl-m1-1を選抜した(nArdtが挿入した系統をlgl-m1-2と呼称する)。lgl-m1-1とlgl-m1-2の交雑実験をおこなった。この交配実験では、同じ遺伝子の欠損が原因である場合は、F1の個体の半分がlgl表現型を示し、違う遺伝子に原因であった場合は、lgl表現型を示す個体は分離しないことが予想される。その結果、後代の分離比を調べたところ、約半分の個体がlgl変異体であった。このことはlgl-m1-1変異体とlgl-m1-2変異体の原因遺伝子は対立遺伝子(アレリック)の関係にあることを示しており、同じ遺伝子の欠損が変異の原因となっていることを示している。この結果はnArdtの挿入がlgl変異の原因であることを示している。
本実施例では、nArdtと同じ自律性因子によって転移させられる非自律性因子と自律性因子をデータベース(BLAST)によって検索した。検索はnArdtの配列(配列番号1)をQueryとした。BLAST解析からヒットした配列から28個のイネ塩基配列を同定した。
このうち23個(下表)はnArdtの一部に塩基置換もしくは欠失・挿入が生じているが、内部にORFを組むことができない非自律性因子であった。
5’側のTIRでは、5’側末端の3bpが一致し、かつTIR全体として少なくとも9bpが一致している。表2で、92%,83%,75%と表示されているものはそれぞれ11bp,10bp,9bpが一致していることを示す。
3’側のTIRでは、同様に、3’側末端の3bpが一致し、かつTIR全体として少なくとも9bpが一致している。
一方、TIRの内側のサブターミナル領域(5’側92bp、3’側31bp)は、5’側は83%以上、3’側は81%以上相同である。
全体では、78.5%以上相同である。
また、Ardt1-2(配列番号2)に対し、トランスポゼース部分(660〜3353塩基)は99.9%以上相同、BEDドメイン(660〜1418塩基、213bp)は全く同一、hATドメイン(3063〜3353塩基、183bp)は98.9%相同(2bp異なる)であった。
本実施例は、自律性因子Ardt1-2(配列番号2)が非自律性因子nArdt1-0(配列番号1)を転移させていることを示す。
nArdt1-0は、非自律性因子であるので、その転移は自律性因子によってコントロールされている。自律性因子をヘテロに持つlgl変異体の自殖させて後代から出現する易変性示す個体の分離比を調べてみたところ、易変性示す個体と示さない個体の比が3:1であったので、一因子が原因遺伝子である場合のメンデルの法則に従っていた。このことからlgl-m1-2系統でnArdtを転移させているのは、一因子のArdtであることが示された。データベースで検索されて5つのトランスポゼース全てが、lgl-m1-2系統でnArdtを転移させているわけではないので、活性な自律性因子aArdt (active Ardt)を明らかにするために、インド型カサラスと交配した後代を用いてマップベースクローニングを行った。その結果、1番染色体のマーカー(Theor. Appl Genet. (2000) 100, 697-712)RM6738とRM7419に囲まれた30 Mbの約191 kbの範囲内に存在していることを明らかにした。しかしながら、日本晴ゲノムの解析からこの領域内にnArdt関連因子が存在していないので、新規に挿入した因子がaArdtとなっている可能性が示唆された。
トランスポゾンディスプレイ法は、(1)ゲノムを制限酵素で消化し、(2)消化したゲノムと任意のアダプターDNAをライゲーション反応によって連結し、PCRの鋳型としてPCR反応を行なう。そののち(3)トランスポゾンとアダプターDNA特異的なプライマーを用いてPCR反応を行ない、(4)電気泳動によって特異的なバンドパターンを検出する。
ここで、制限酵素TaqI、MseI、MspI、BfaI用のアダプター (adapter-top, 5'-GAGGATGAGTCCTGAG-3'(配列番号8); adapter-bottom (TaqI, MspI), 5'-CGCTCAGGACTCAT-3'(配列番号9); adapter-bottom (MseI, BfaI), 5'-TACTCAGGACTCAT-3'(配列番号10))を用いた。
1回目のPCR反応には、それぞれ制限酵素毎にアダプタープライマーとして、TaqIプライマー(5'-GAGGATGAGTCCTGAGCGA-3'(配列番号11)) 、MseI プライマー(5'- GAGGATGAGTCCTGAGTAA-3'(配列番号12))、MspIプライマー(5'- GAGGATGAGTCCTGAGCGG-3'(配列番号13))、BfaIプライマー(5'-GAGGATGAGTCCTGAGTAG-3'(配列番号14))とトランスポゾン毎にnArdt用プライマー(5'-GGGAATACCCRGGAATCATGG-3'(配列番号15))とArdt用プライマー(5'-CCTGGGAATACATAGGCATCACT-3'(配列番号16))を用いた。
2回目のPCR反応には、同じ制限酵素毎のアダプタープライマーとローダミンをラベルしたnArdt用プライマー(5'-CCCRGGAATCATGGTRGCTC-3'(配列番号17))とArdt用プライマー(5'-CATAGGCATCACTGTAGCTC-3'(配列番号18))を使用した。
本実施例は、アザシチジン処理によりArdtの脱離を人為的に誘導できることを示す。
10 mMのアザシチジン水溶液に12時間イネ(台中65号及び日本晴)の種子をつけたのち播種した。発芽したイネの幼苗が第4葉になるまで生育させた後DNAを抽出してArdt1-2を挟むようにPCRをおこな脱離したあとのフットプリントを検出した。PCRに用いたプライマーは(5'-gtgcactatgcaatctcgagt-3'(配列番号21))と(5'-ggtgaagtcgacgacactct-3'(配列番号22))を用い、反応条件は実施例1に従った。PCRによってArdt1-2 が脱離したときに残されるフットプリンの塩基配列を決定したところ、複数種類が確認できた。結果を表4に示す。A10SVは上記処理された台中65号、A10NTは、上記処理された日本晴を示す。
通常は転移を確認できない日本晴系統をアザシチジン処理することによって、自律性因子(Ardt)の脱離が確認された。
Claims (5)
- 配列番号1で表される塩基配列から成るDNAから成るイネの非自律性トランスポゾン遺伝子。
- 配列番号2で表される塩基配列から成るDNAから成るイネの自律性トランスポゾン遺伝子。
- 請求項1又は2に記載の遺伝子が導入された形質転換体であって、宿主がシロイヌナズナ、タバコ、トマト、ペチュニア、アブラナ、ワタ又はトウモロコシである形質転換体。
- 請求項3に記載の形質転換体を薬剤で処理することにより請求項1又は2に記載のトランスポゾン遺伝子を転移させる方法。
- 前記薬剤が5−アザシチジンである請求項4に記載の方法。
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