JP4608846B2 - 表示装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基体(基板)間における複数の粒子体の空間分布変化に基づく反射率の相違によって表示が行われる、例えば電子ペーパーとして使用可能な表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子ペーパーは、従来の紙による表示(いわゆる、ハードコピー)と、CRTや液晶等に代表される電子表示(いわゆる、ソフトコピー)との中間に位置づけられるものであり、電子新聞紙等の用途が期待されている。電子ペーパーには、電子表示装置と異なり、一旦表示された画面(画像、文字等)をその後も無電力で維持ができること(自己保持性)が要求される。特に、視認者がその表示画面を長時間見ても疲労感が少なく、印刷物と同等の高い視認性(コントラスト)が切望される。
【0003】
従来、このような電子ペーパーに画像や文字を表示させる手法として、着色粒子の回転、電気泳動、サーマルリライタブル、液晶、エレクトロクロミー等の技術が知られている。例えば、特許文献1には、電気泳動現象を利用した表示装置であって、基板間に泳動粒子を含む分散系が封入されており、その分散系内の電気泳動粒子の分布状態を制御することによって光学的反射特性に変化を与え、これにより所要の表示動作を行わせるものが開示されている。また、特許文献2には、導電性微粒子を空間上で移動させる、いわゆるトナーディスプレイとして電荷輸送層を表層に有する画面表示装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−174853号公報
【特許文献2】
特開昭63−303325号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来の電気泳動表示装置においては、コントラストを確保するための方法として、いわゆる1顔料1色素方式や2顔料方式が提案されている。ここで、1顔料1色素方式とは、例えば白色又は淡色粒子が黒色又は濃色色素で着色された溶剤に懸濁した分散溶液に電界を印加し、その白色又は淡色粒子を電気泳動等によって移動させることによりコントラストを得る方式である。一方、2顔料方式とは、白色又は淡色粒子と黒色又は濃色粒子が分散した懸濁液において、両粒子に電界を印加することにより各々の粒子が反対方向に移動する動作又は各々の移動速度の相違を利用することによりコントラストを得るものである。
【0006】
ここで、白色又は淡色粒子としては、酸化チタン等の無機・有機顔料、PTFE等のプラスチック粒子及び両者の複合物が用いられている。また、黒色又は濃色色素としては、アントラキノン系、アゾ系(モノ、ジ)、フタロシアニン、メチン、インディゴや金属錯体が用いられており、黒色又は濃色粒子としては、カーボンブラックや有機・無機顔料が用いられている。さらに、2顔料方式の一方の顔料を遮蔽層の着色剤として用い、その遮蔽層を他方の顔料を構成する粒子が通過する際に生じる反射率の差を利用するいわゆる1顔料方式も提案されている。なお、ここで使用される遮蔽層とは、着色された多孔体や球を平面に最密充填したものなどが挙げられる。
【0007】
しかし、1顔料1色素方式で用いられる黒色又は濃色色素は、耐侯性、耐光性や電圧印加に対する安定性に問題がある。また、2顔料方式(1顔料方式も含む)に用いられるカーボンブラックは凝集性が高く且つ導電性を有するため、粒子が電極間で凝集した場合、対向電極間で短絡が生じてしまうおそれがある。こうなると電気泳動現象が生起されずディスプレイとして機能しない。
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、十分な視認性(コントラスト)を確保でき、耐侯性、耐光性、及び電圧印加時の安定性の向上、並びに、電極間での短絡の発生防止による長期信頼性の向上の少なくともいずれかを実現できる表示装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明による表示装置は、基板等の基体間に配置された媒体中における複数の粒子体の空間分布変化に基づく反射率の相違によって表示が行われる表示装置であって、上記複数の粒子体は媒体中に分散しており、白色又は媒体よりも淡色を呈するものであり、上記媒体をなす溶剤はフラーレン類が溶解しており、複数の粒子体よりも濃色を呈するものである。換言すれば、複数の粒子体が媒体としての溶剤中に懸濁されており、その懸濁液が更にフラーレン類を含むものであることを特徴とする。
【0010】
ここで、「懸濁」とは、粒子体が溶剤中に散在した状態をいい、分散と略同義である。また、本発明の懸濁液は有色かつ不透明、すなわち白黒等の無彩色を含む何らかの色を呈し、かつ透明性が欠如した状態である。
【0011】
さらに、本発明において「フラーレン(Fullerene)類」とは、以下のいずれかに該当するものをいう。
【0012】
(1)球殻状又は閉塞された管状の炭素クラスターを骨格とする分子であり、20個以上の炭素原子を有しており各炭素原子が全て三配位である‘かご(ケージ)’型分子を示し(なお、これはIUPACの2002年勧告に準じた定義である。)、20個以上の偶数個の炭素原子から成り且つ12個の五角面と(n/2−10;ただし、nは炭素原子数)個の六角面を有する閉多面体‘かご’型分子(これはIUPAC(A Preliminary Survey,1997)に準じた定義である。)を含む。
【0013】
(2)20個以上の炭素原子がそれぞれ隣接する3原子と結合して成る閉じた擬球構造を有する分子であり、各環の員数は特に制限されない(なお、これはCASにおける定義に準じた定義であり、いわゆる準(quasi-)フラーレンを含む。)。
(3)より具体的には、単一分子として32〜1000個又はそれ以上の炭素原子を含む中空球状構造分子である。
【0014】
なお、本発明における「フラーレン」には、完全に水素化された飽和フラーレン(例えば C6060)すなわちフラーラン(Fullerane)、及び、ヘテロフラーレン、ノルフラーレン、ホモフラーレン、セコフラーレンといったフラーロイド(Fulleroid)が含まれるものとする。
【0015】
さらに、本発明における「フラーレン」には、「フラーレン誘導体」が含まれる。この「フラーレン誘導体」とは、フラーレンの炭素ケージ内に金属原子が閉じ込められて成る金属内包フラーレン、金属原子がフラーレン格子間隙に導入(ドープ)されて成る金属ドープフラーレン、官能基等が結合されて(化学修飾が施されて)成る化学修飾フラーレン、フラーレンの炭素原子の一部が他の元素で置換されて成るヘテロフラーレン等のフラーロイド(Fulleroid)、及び完全に水素化された飽和フラーレン(例えば C6060;すなわちフラーラン(Fullerane))を示す。
【0016】
この表示装置は、顔料として複数の粒子体(例えば、酸化チタン等の白色粒子)が用いられ、色素としてフラーレン類を用いる1顔料1色素方式の表示装置を構成する。すなわち、フラーレン類が第1の色を呈する色素として含まれており、複数の粒子体が第1の色と異なる第2の色を呈する顔料として含まれているものである。
【0017】
このように、色素としてフラーレン類を用いると、従来に比して耐侯性、耐光性、電圧印加に対する安定性が向上すると共に、泳動粒子である複数の粒子体に対する非付着性に起因する高コントラスト比、及び分散安定性が得られる。なお、フラーレン類を「色素として用いる」とは、溶剤にフラーレン類が溶解して成る均一混合物が形成された状態で、且つ、色を呈していることを意味する。
【0018】
この場合、懸濁液におけるフラーレン類の含有割合が0.05〜20重量%であるとより好ましい(なお、本発明において、重量%は質量基準と等価である。)。こうすれば、例えば複数の粒子体(移動粒子)として酸化チタン等の白色粒子を用いた場合、白色粒子を確実に隠蔽し易くなると共に、十分なコントラスト及び表示速度が得られる。
【0019】
或いは、本発明による表示装置は、基体間に配置された媒体中における複数の粒子体の空間分布変化に基づく反射率の相違によって表示が行われるものであって、複数の粒子体が、フラーレン類を含有して成る第1の粒子体と、その第1の粒子体と異なる第2の粒子体とから成ることを特徴とする。なお、第1の粒子体がフラーレン類のみで構成されていてももちろんよい。
【0020】
この場合、例えば、黒色又は濃色顔料としてフラーレン類を含有して成る第1の粒子体が用いられ、白色又は淡色顔料としてフラーレン類以外の顔料が用いられた2顔料方式の表示装置が構成される。ただし、互いに相対する色を呈すれば色は特に制限されない。すなわち、第1の粒子体が第1の色を呈する第1の顔料として含まれており(或いは第1の顔料から成り)且つ媒体中を移動するものであり、第2の粒子体が第1の色と異なる第2の色を呈する第2の顔料として含まれており(或いは第2の顔料から成り)且つ媒体中を移動するものである。
【0021】
ここで、フラーレン類を色素として用いる態様と顔料として用いる態様との違いは、フラーレン類の溶媒たる媒体に対する溶解性の相違に基づくものであり、具体的には溶媒中で分子単独で存在し又はクラスター、ドメイン等の構造を形成している状態が「色素」としての態様であり、溶媒中に固体物質として散在している状態が「顔料」としての態様である。
【0022】
なお、本発明者らの知見によれば、液中に含まれるフラーレン類は、その一部又は大部分が微細なクラスター状態で存在する場合があることが確認された。ただし、これは単独分子での存在を否定するものではない。このようなクラスターの形成は、フラーレンが外部電場等の作用によって移動する粒子(移動粒子)である場合に特に好適と考えられ、単独のフラーレン分子として液中に存在(分散又は溶解)するよりも好ましい。より具体的には、数十個から数百個のフラーレン分子が集合したクラスターとして液中に分散された状態がより好ましく、そのクラスターサイズが10〜70nm程度であると更に好ましい。このクラスターサイズが10nm未満となると、溶液分子のブラウン運動によってクラスター粒子の移動が妨げられ易い一方で、70nmを超えるとクラスター粒子の移動速度が不都合に低下することがある。
【0023】
なお、フラーレン類が移動粒子ではない場合(すなわち、フラーレン類が外部電場等によって移動しない粒子である場合)であっても、その周囲に存在する他の荷電粒子の移動に起因して能動的に移動し得るので、その場合にはフラーレン類がクラスターを形成せずに単独の分子として液中に存在していても構わない。また、このようなフラーレン分子が集合して成るクラスターが、何らかの結合によって強固に構造形成されている場合には、フラーレン分子の集合体というよりも、むしろ後述する‘すす’(フラーレンスート)に該当するか又はそれに近い形態と考えられる。
【0024】
このように、一方の顔料としてフラーレン類を含有して成る第1の粒子体を用いると、導電性に起因する短絡の問題を回避することができる。また、複数の粒子体の粒度分布がシャープとなり、粒子自体が微細であり、しかも分散性に優れ、さらには無機顔料と比較して比重が小さいため、第1の粒子体の沈降が防止される。よって、このような第1の粒子体を表示装置の移動粒子体として採用することにより、粒子体の移動速度が速く、表示の保持性能(メモリ性)が高められ、且つ、視認性に優れると共に優れた長期安定性及び長期信頼性を有する表示装置が得られる。
【0025】
また、第1の粒子体が前記フラーレン類とそれ以外の物質、特に好ましくは高分子化合物との複合体であると好適である。フラーレン類は、他の各種の複合材(特に高分子化合物)と複合させ易く、こうすれば、それらの複合材が奏する機能を移動体粒子に付与できる。また、フラーレン類は分子状で各種の複合材と複合させることが可能であり、偏在することなく複合材中に分散される。
【0026】
さらに、第1の粒子体又は第2の粒子体のいずれか一方を移動粒子として用い、他方を上述した遮蔽層の着色剤として用いる1顔料方式の表示装置とされてもよい。すなわち、第1の粒子体及び第2の粒子体のうち一方が顔料から成り且つ媒体中を移動するものであり、第1の粒子体及び第2の粒子体のうち他方が一方の顔料を構成する粒子体の移動を隠蔽するように設けられた遮蔽層の着色剤として機能するようにしてもよい。
【0027】
またさらに、粒子体を移動させる手段は、特に制限されなず、例えば電界駆動、電磁駆動のいずれでもよいが、消費電力を低減する観点から、電界駆動方式が好ましい。つまり、本発明の表示装置は、複数の粒子体を含む場に電界が形成されるものであり、媒体中を移動するものがその電界の作用により移動するものであると好適である。また、粒子体が移動する媒体としては、絶縁性液体でもよく、或いは気体や真空中を移動させるようにしてもよい。
【0028】
さらにまた、本発明による表示装置は、例えば、熱、光、音等、或いは磁界等の作用を利用した別の書き込み装置によって所望の文字、図形等を表示させることが可能であるが、より具体的には、複数の粒子体を挟むようにそれら複数の粒子体の周囲に配置された電極対を備えており、その電極対のうち少なくとも一方の電極がマトリックス状に設けられたものであると一層好ましい。こうすれば、外部信号等により表示内容の制御を容易に行うことができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、図面の位置関係に基づくものとする。
【0030】
図1は、本発明による表示装置の好適な実施形態を示す模式断面図である。表示装置10は、電子ペーパーとして使用可能なものであり、対向して配置された2枚の基板11a,11b(基体)の各対向面側に設けられた2つの導電電極12a,12b(電極対)の間に、複数の粒子体13が包含されたマイクロカプセル14が設けられたものである。複数の粒子体13はマイクロカプセル14に分散されており、分散系が形成されている。また、各マイクロカプセル14は、その周囲に充填されたバインダー15により導電電極12a,12b間に固定されている。
【0031】
粒子体13は、外部からの作用を受けて移動するものであるが、その作用とは、例えば、熱、光、音、或いは磁界等が挙げられる。磁界作用による場合の例としては、磁性粒子を移動させるように設けた磁気駆動方式の表示装置等がある。一方、図1に示す表示装置10の構成は、電界駆動方式の代表的なものであり、磁気駆動方式等に比して消費電力が小さいため特に好ましい形態である。
【0032】
また、表示装置10が、非導電性溶液(絶縁性液体)中を粒子体13が電界により移動する電気泳動ディスプレイである場合、各マイクロカプセル14内には、分散系の移動媒体としての分散溶媒が収容される。なお、非導電性溶液(分散溶媒)には、無色透明液体に加えて着色液体、或いは樹脂等の溶質を溶解した液体、ゲル状物質も含まれ得る。
【0033】
このような分散溶媒としては、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等の抵抗率の高い溶媒、又はその他の種々の油類等を単独若しくは適宜混合したもの等を使用できる。これらのなかでも、低有害性の観点から好ましくはシリコーンオイル、フッ素オイル(スリーエムカンパニー製「FLUORINERT」(登録商標)等)が使用される。シリコーンオイルを用いる場合には、アルコール変性、ポリエーテル変性、又はアミノ変性等の変性シリコーンオイルを界面活性剤として用いると、分散性が向上されて初期分散性が改善され、これにより沈殿形成が防止される。
【0034】
また、表示装置10がマトリックス表示を行うものである場合、一組の導電電極12a,12bのいずれか一方が全面電極であり、他方が個別に正電圧又は負電圧を印加できるように構成された分割マトリックス電極であると好ましい。この分割マトリックス電極としては、行又は列を1単位として行うシンプルマトリックス制御、及び、それぞれの画素にTFT、MIM等の半導体スイッチング素子を設けてオープン状態のON/OFF制御を独立に行うことが可能なアクティブマトリックス制御のいずれであってもよく、好ましくは、アクティブマトリックス制御である。さらに、半導体スイッチング素子としては有機TFTを用いることが特に好ましい。
【0035】
更に具体的には、表示装置10は、顔料と色素の使用形態により、以下の3種のうちいずれかの方式が採用される。
【0036】
(A)1顔料1色素方式:粒子体13として酸化チタンやその高分子複合体等の白色を呈する顔料又は淡色(第2の色)を呈する顔料を用い、マイクロカプセル14に含まれる媒体としての絶縁性溶剤中に濃色(第1の色)を呈する色素としてフラーレン類が含有されるもの。
(B)2顔料方式:粒子体13として、濃色(第1の色)を呈する顔料としてのフラーレン類又はそれを含有して成るもの(第1の粒子体)、及び、白色又は淡色(第2の色)を呈する顔料としての酸化チタンやその高分子複合体等(第2の粒子体)を用いたもの。
(C)1顔料方式:粒子体13として、濃色(第1の色)を呈する顔料としてのフラーレン類又はそれを含有して成るもの(第1の粒子体)、及び、白色又は淡色(第2の色)を呈する顔料としての酸化チタンその高分子複合体等(第2の粒子体)を用い、いずれか一方を他方の遮蔽層として機能させるもの。
【0037】
フラーレン類の定義は前述した通りである。フラーレンのなかでも最もよく知られたフラーレンであるC60はバクミンスターフラーレン(C60:Buckminsterfullerene, H. W. Kroto et al. Nature (1985))、又はバッキーボールと呼ばれ、サッカーボールに似た形状の20面体構造を有する。一般に入手可能な(つまり製造が容易で且つ価格が比較的安い)フラーレンは、C60のみではなく、C70分子やC84分子等のより高分子量のフラーレンを通常含んでいる。バクミンスターフラーレンは直径0.7nmで、分子量は720、比重は1.73g/cm3である。
【0038】
このようなフラーレン分子はそのボール形状の殻(炭素ケージ)中に金属や希ガス等の原子を閉じ込めることができ、種々の誘導体も知られている。例えば、フラーレンの炭素ケージ内に1つ又は複数の金属原子が閉じ込められた金属内包フラーレン、金属原子がフラーレン格子間隙に導入された金属ドープフラーレン、フラーレンが化学修飾された水素化フラーレン、水酸化フラーレン、スルホン化フラーレン、カルボキシ化フラーレン、アミノ化フラーレン、アルキル化フラーレン、フェニル化フラーレン、アミン化フラーレン、ハロゲン化フラーレン、アルコキシ化フラーレン、高分子鎖結合フラーレン、金属錯体結合フラーレン等やフラーレンのケージ上の炭素原子の一部が他の元素で置換されたヘテロフラーレン等が挙げられる。
【0039】
さらに、フラーレンがいわゆる入れ子構造になったC1500などの同心球状又はタマネギ状と表現されるカーボンオニオンもフラーレンの一種であり、本発明において、他のフラーレンと同様、好適に用いることができる。
【0040】
これらのフラーレンは、不活性希ガス雰囲気中でアーク放電、レーザー照射(レーザーアブレーション)、又は高周波誘導加熱等によりグラファイトを蒸発させるといった種々の公知の方法によって得られる。また、炭化水素を原料に用いた燃焼法によって得ることも可能である。
【0041】
グラファイトを原料に用いる方法では、ヘリウム等の不活性希ガス雰囲気中でグラファイトを気化して炭素原子またはクラスター状になった状態から冷却される過程において生成されるススと共にフラーレンが生成される。一般的なフラーレンの製法であるアーク放電法では、ススが85〜90%の割合で、フラーレンが10〜15%の割合で得られる。そのフラーレンの内訳は、約80%がC60フラーレン、約15%がC70フラーレン、残りの約5%が高次フラーレンと言われている。
【0042】
一方、燃焼法においては、トルエン等の炭化水素を原料に、反応系内の酸素や窒素の存在下で複雑な反応によりフラーレンと‘すす’(フラーレンスート)が生成される。この燃焼法によって得られるフラーレンの含有率は5%以下と言われる。この方法を用いた場合、高次フラーレンの割合が高くなり、約60%がC60フラーレン、約25%がC70フラーレン、残りの約15%が高次フラーレンと言われている。
【0043】
フラーレン類の特徴は、π電子共役系の球状粒子で高い安定性を有し、従来の炭素同素体にはない有機溶剤への可溶性を有し、化学修飾が可能で様々な官能基を導入することが可能な点にある。フラーレン類は、芳香族炭化水素や一部のハロアルカンに溶解することが知られている。これはフラーレン類自身の構造に起因し、分子を構成する炭素骨格がπ電子共役系であることが影響していると言われている。フラーレン類を構成する炭素原子は、SP2混成軌道に近い電子配置を有すると考えられ、その表面はπ電子雲で覆われており、化学的には疎水性である。
【0044】
60フラーレンは、外見上カーボンブラックと類似しているが、溶剤に溶解するとその濃度に応じて赤紫色から黒色を呈する。C60以上の高次フラーレンも同様に溶解し、それぞれ固有の色を呈する。フラーレン類を色素として用いる場合の溶剤としては、その溶解能が高い観点から、芳香族炭化水素やハロアルカンを用いることが好ましい。
【0045】
より具体的には、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ドデシルベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、テトラリン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、1−フェニルナフタレン、1−クロロナフタレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン、テトラブロモエタン等が挙げられる。また、その他の溶剤としてデカリン、二硫化炭素、2−メチルチオフェン等が挙げられる。ただし、溶剤はこれらに限定されない。
【0046】
更に他の特徴として、C60フラーレンの電子親和力が非常に大きく容易に還元され、また、一価、二価、三価の陰イオンを形成するための還元電位値の差が極めて小さいことが挙げられる。これはC60フラーレンの最低空軌道が三重縮退していることに起因しており、このような陰イオンの安定性を利用してアルキル置換を行い得る。また、C60フラーレンはイオン化エネルギーの値が小さいことから、陽イオンを経由した修飾反応にも利用できることが示唆される。この性質はフリーデルクラフツ反応等に応用可能である。このようにフラーレン類に対して一般的な有機反応を適宜応用することが可能であり、多くの修飾体が生成されている。
【0047】
〈A.1顔料1色素方式〉
以上説明したようなフラーレン類の多様な修飾性を利用して、上述したフラーレン類を色素として用いた1顔料1色素方式の表示装置10を構成することができる。
【0048】
ところで、一般的に用いられる色素は、アゾ類、アントラキノン類、インディゴ類、カルボニウム類、キノリン類、キノンイミン類、スチルベン類、ナフタルイミド類、ニトロ類、ニトロソ類、フタロシアニン類、ペリノン類、メチン類や金属錯体類等多数あり、それらの色素は1876年にWittが提唱した発色団説において発色団と呼ばれるπ電子結合を有するアゾ基、ニトロ基、カルボニル基、ビニレン基等や助色団と呼ばれるアミノ基、イミノ基、水酸基、スルホン基等を含む分子で構成されている。
【0049】
これらの一般的な色素においては、程度の差はあれ、光、熱、化学物質等による退色が避けられない。退色の主なメカニズムは、発色団、助色団の酸化や転移、分子構造の変化によるものであり、自動酸化や一重項酸素の影響が大きいことが知られている。自動酸化の場合、励起された色素から基質へのエネルギー移動によりラジカル種が発生し、そのラジカル種と基底状態の三重項酸素によりペルオキシラジカルが生成し、これが色素を酸化されていく。一方、一重項酸素酸化の場合、励起色素から三重項酸素へのエネルギー移動により一重項酸素が生成し、これが色素を酸化させていく。
【0050】
例えば、アゾベンゼン系色素の光劣化を例に取ると、アゾ基からアゾキシ基への光酸化から始まり、光Wallach転移を受けてo−ヒドロキシアゾベンゼン誘導体を経て分解が進行する。また、アミノアントラキノン系色素の場合も光酸化反応により、N−脱アルキル化、アミノ基の加水分解、アミンからイミンへの酸化等が生起され、最終的にフタル酸が生成する。このとき、酸化防止剤や光吸収剤等の使用により劣化速度を遅くすることが可能ではあるが、劣化を完全に防止することは不可能である。
【0051】
このように色素の発色は分子中の窒素原子に関係していることが多いが、窒素原子を含む結合は比較的低エネルギーで分解する。例えば、アゾ色素を構成するN=N結合の結合エネルギーは418kJ/mol、アントラキノン色素を構成するN−H結合は389kJ/mol、C−N結合は293kJ/molに対し、C=C結合は611kJ/mol、C=O結合は740kJ/mol、ベンゼンの炭素間結合では576kJ/molである。
【0052】
このように窒素原子を含む結合では安定性が低いのに対し、炭素−炭素結合では窒素と比較して安定性が優れていることが熱力学的にも明らかである。よって、色素としてフラーレン類を溶剤に溶解させて発色させる表示装置10によれば、窒素原子を含まない色素を用いることとなるので、劣化を抑え耐久性を向上させることができる。また、フラーレン類は、融点が700℃以上である点等、従来の色素では考えられない程の熱耐久性を有している。さらに、フラーレン類を色素として用いることにより、コントラスト比を高めることができ、また泳動粒子である粒子体13の分散安定性をも向上できる。
【0053】
また、前述したように、一般的な色素は発色団又は助色団と呼ばれる官能基を有するが、泳動溶剤中においてこの官能基が粒子体13として用いられる例えば酸化チタン表面の水酸基と水素結合を形成し、酸化チタン表面を着色してしまう。こうなると、酸化チタンが有する本来の白色度が失われ、コントラスト比の低下が避けられない。さらに、その水素結合が他の粒子表面に存在する色素と水素結合網を形成することにより、泳動粒子の凝集や、セル、電極等の接液面へ泳動粒子が付着してしまうことがある。そして、泳動粒子の微細化に伴い、この傾向が顕著となる。
【0054】
これに対し、フラーレン類においては水素結合が形成されないため、泳動粒子たる粒子体13は着色されず、表示装置10におけるコントラスト比の低下が抑制される。また、水素結合網も形成されないため、粒子体13の凝集等は発生しない。さらに、フラーレン類のうちフラーレン誘導体を用いる場合には、分散剤等の添加剤を粒子体13に予め吸着させることにより、水素結合の形成を抑制し、分散安定性を付与することができる。
【0055】
このようにフラーレン類を色素として用いる方式では、通常の色素と同様に溶剤に溶解するだけでよく、調製が簡易である。ただし、フラーレン類の溶解濃度が希薄な場合、透過性を有するので粒子体13の隠蔽性が不十分となる傾向にある。よって、十分な隠蔽性を得るにはフラーレン類の溶解濃度を適度に高める必要があり、これにはフラーレン類の溶解能が高い溶剤を選択する必要がある。このような溶剤としては、前述した芳香族炭化水素やハロアルカンが挙げられる。
【0056】
また、溶解能や分散安定性を更に高めるべくフラーレンの化学修飾を行ってもよい。この化学修飾に関しても特に制限はなく、例えば水素化、水酸化、アルキル化、アミノ化、ニトロ化、スルホン化、カップリング剤の使用等、多種多様な化学修飾を施すことができる。これらの化学修飾を行うことにより溶剤の選択の幅を更に広げることができる。加えて、光学的安定性を更に高めるべく酸化防止剤や紫外線吸収剤といった添加剤を用いても好ましい。
【0057】
ここで、溶剤中のフラーレン類の濃度としては、0.05〜20重量%であると好ましく、0.1〜10重量%であるとより好ましい。フラーレン類の濃度が過度に希薄である場合、赤紫色を呈し、溶剤中に懸濁する粒子体13が白色粒子である場合にそれを隠蔽し難くなる。一方、その濃度が過度に高い場合には、コントラストや表示速度の低下を引き起こすおそれがある。よって、フラーレン類の濃度を上記の好適な濃度範囲に調整することにより、白色粒子の隠蔽性を十分に高めることができ、さらにコントラストと表示速度をも十分に高めることができる。
【0058】
〈B.2顔料方式〉
上述したように2顔料方式の場合、濃色顔料(特に黒色顔料)としてフラーレン類を用いることが可能である。また、フラーレン類に多種の化学修飾を施すことにより、黒色以外の色を発色させることも可能である。そのような発色は、前述した発色団と呼ばれるπ電子結合を有するアゾ基、ニトロ基、カルボニル基、ビニレン基等や助色団と呼ばれるアミノ基、イミノ基、水酸基、スルホン基等を含む分子やその他多くの置換基を導入することで達成される。
【0059】
このようにフラーレン類を顔料として使用するには、フラーレン類を溶解しない溶剤中に添加し、分散させればよい。その溶剤としては、例えば炭化水素、アルコール類、脂肪酸類、ケトン類、ニトリル類、シリコーンオイル、フッ素系オイル等が挙げられる。より具体的には、n−デカン、流動パラフィン、イソパラフィン、プロパノール、ブタノール、プロピオン酸、酪酸、メチルイソブチルケトン、4−ヘプタノン、アセトニトリル、ラウロニトリル、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロトリ−n−プロピルアミン等、多くの溶剤を使用可能である。また、フラーレン類の分散を促進させるためにホモジナイザー、超音波分散器、ブレンダーや撹拌器等の機器を用いて分散液を調製することができる。
【0060】
フラーレン類は前述したように単独で用いてもよいが、高分子化合物等の複合材との複合体として使用しても好適である。こうすることにより、複合化された高分子化合物が有する特性を有する高機能顔料を得ることができる。具体的な複合化の方法としては、フラーレン類と高分子化合物との溶解物を混合する方法、高分子化合物と混練する方法、高分子化合物で内包する方法、高分子化合物の多孔体に含浸させる方法、高分子化合物の表面に塗布する方法、及び高分子化合物の表面に埋め込む方法等が挙げられる。
【0061】
フラーレン類と複合させる高分子化合物は、無機化合物、有機化合物を問わない。このような高分子化合物としては、例えばポリシロキサン、ポリチタノシロキサン、ポリアルミノシロキサン、ポリボロシロキサン、ポリカルボシラン、ポリカルボシラザン、ポリシラザン、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロースエーテル、でんぷん等を挙げることができる。なお、高分子化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0062】
また、一般に黒色顔料として利用されるカーボンブラックは、安価である半面、凝集性が高く、他の物質との複合化においては偏在しやすい。これに対し、フラーレン類は分子状で各種複合材と複合することが可能であるため、偏在することなく、複合材に分散させることが可能である。
【0063】
このような複合材とフラーレン類との複合体を得る方法としては、多様な手法を利用できる。例えば、複合材とフラーレン類の両者が溶解する溶剤に両者を溶解させた後、その溶剤を除去することでフラーレン類が均一に分散して成る複合体を形成できる。このとき、複合材との親和性を考慮して、多種のフラーレン誘導体を用いることも可能である。また、分散性を更に高めるため、界面活性剤等の添加剤を用いてもよい。また、他の方法として、溶融した複合材にフラーレン類を添加して混練する方法も挙げられる。このとき、例えばC60フラーレンの昇華温度の下限は約300℃であり、またC70フラーレンの昇華温度の下限は350℃であるため、その温度以下で処理を行う必要がある。なお、複合化の方法はこれらに制限されず、他の多様な方法を用いることが可能である。
【0064】
こうして得られた複合体は、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、積層成形、スプレードライ等の種々の方法により成形が可能である。この際、複合体の粒子形状は、真球状又は表面に凹凸を有する球状であることが好ましい。
【0065】
ここで、従来多用されているカーボンブラック粒子等の公知の移動粒子は、粒子サイズが大きい程、移動速度が遅くなる傾向にあり、また、粒子が沈降しようとする力が粒子間及び溶媒間に作用する応力よりも大きくなる傾向にある。よって、粒子サイズが過度に大きいと、粒子の沈降が生じてメモリ性が失われてしまう。一方、粒子サイズが微細な程、移動速度が高まり有利であるが、分散安定性は損なわれ易くなる。よって、フラーレン類を含む複合体の場合にも、適度にブラウン運動があり、沈降を抑止できる好適な粒子径は50nm〜50μmであり、より好ましくは100nm〜10μmとされる。
【0066】
このような複合体は、そのまま泳動溶媒に分散させることもでき、或いは、分散剤を添加したり、複合体に表面処理を施したりすることにより、分散安定性を更に増長させることが可能である。この分散剤としては一般に用いられる各種の添加剤を使用でき、具体的には、例えば脂肪酸塩、アルキルサルフェート、アルコキシサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリカルボン酸、アミン酢酸塩、ベンジルアンモニウム塩、ポリアルキレングリコール誘導体、ソルビタンエステル、ソルビタンエステルエーテル、モノグリセライドポリグリセリンアルキルエステル、アルカノールアミド、アルキルポリエーテルアミン、アミンオキサイド等が挙げられる。また、表面処理に関しては、目的に応じて直鎖状、環状、分岐鎖状の分子鎖や官能性、イオン性等の機能を付与することができる。
【0067】
フラーレン類やそれを含む複合体の多くは濃色系の色を呈する傾向にあるため、他方の顔料に用いる粒子体としては、上述の如く淡色系の公知の移動粒子を用いることが好ましい。そのような公知の移動粒子とは、先述の酸化チタンの他に、例えば酸化亜鉛、炭酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、酸化アンチモン、PTFE粒子、中空ポリマー粒子等の白色系粒子を挙げることができる。また、これらの移動粒子を高分子化合物等で複合化したものを用いてもよい。さらに、用途に応じて白色以外の明色系、淡色系粒子を使用しても構わない
【0068】
ところで、フラーレン類又はその複合体から成る濃色系顔料とそれ以外の色を呈する顔料とで粒子体13を構成する本形態を含めて2顔料方式においては、いずれか一方のみを移動させることにより表示を行うようにしてもよい。すなわち、そうした場合、一方の粒子体に電界が作用することにより積極的に電気泳動するのに対し、他方の粒子体はそれ自体では積極的には移動しない。例えば、移動しない粒子体として、フラーレン類又はその複合体から成る濃色系顔料を用いることも可能である。
【0069】
或いは、双方の粒子体の移動速度差を利用することもできる。このようにそれ自体が積極的に移動しない粒子体は、そのサイズが上述した好適な粒径より大きくても差し支えない。例えば、白色粒子として粒径が1〜10μmの酸化チタンを用いた場合、フラーレン類との移動速度差は5倍以上あるため、白色粒子が移動しない方の粒子体となる。
【0070】
なお、フラーレン類を顔料として使用する場合には、固体潤滑剤として媒体中に添加しても好ましい。この場合、フラーレン類は添加剤として機能し、表示装置10の表示そのものには深く関与しないものの、粒子体13が移動する際の移動特性、及び凝集防止性が改善される。この場合のフラーレン類の使用量としては、粒子体13の全量の好ましくは0.01〜0.1重量%である。この使用量が0.01重量%未満では十分な潤滑効果が得られ難い。また、0.1重量%を超えると部材コストの増大を招くと同時に、フラーレン類の色調が表示に不都合な影響を与える傾向にあり、こうなるとコントラストが低下してしまうことがある。
【0071】
〈C.1顔料方式〉
上述したように1顔料方式の場合にも、粒子の取扱方法は2顔料方式の場合と同様であるが、1顔料方式は2顔料のうちのいずれか一方を構成する粒子を遮蔽層の着色剤として用いる点において2顔料方式と異なる。ここで、「遮蔽層」とは、泳動粒子たる一方の顔料を構成する粒子体を隠蔽し、これにより表示面から不可視にするために用いるものであり、遮蔽層自身の色を表示させることで優れたコントラストを得ることができる。
【0072】
ここで、泳動粒子として酸化チタンを用い、遮蔽層としてフラーレン類を用いた場合の具体的な隠蔽機構について以下に説明する。すなわち、表示面に存在する泳動粒子を対向する電極(背面電極)方向に泳動させる時、泳動粒子は遮蔽層を通過する。この際、泳動粒子は背面電極方向へ移動する程、外界からの入射光量が減少するため、泳動粒子からの反射光も減少する。一方、表示面は泳動粒子からの反射光が減少するため、遮蔽層を略直視することができる。この場合、泳動粒子と遮蔽層とが相対する色を呈すると、その差異がコントラストになる。
【0073】
これとは逆に、泳動粒子としてフラーレン類を用い、遮蔽層として酸化チタンを用いた場合、泳動粒子が表示面側に存在しているときには反射光量が最小となり、背面電極方向へ移動する程、遮蔽層からの反射光量が増大することにより、コントラストが得られる。
【0074】
遮蔽層としては、前述した多孔体の他に球体の平面最密充填や、織布、格子状フィルター等のように面の表裏が仕切られ、且つ、簡易に泳動粒子が移動できるような構造を有するであれば特に制限されない。また、遮蔽層の着色方法としては、一般に用いられる着色方法を適用できる。例えば塗布、練り込み、含浸等が挙げられる。なお、着色方法はこれらに限定されるものではない。
【0075】
また、遮蔽層がなくとも泳動粒子としての粒子体13の電極間移動のみでコントラストが得られる場合には、遮蔽層を設ける必要は無い。この場合、例えば図2〜4に示すような態様を例示できる。図2は、本発明による表示装置の他の実施形態を示す模式断面図である。また、図3は、図2におけるIII−III線に沿う断面の要部を示し、図4は、図2におけるIV−IV線に沿う断面の要部を示す。
【0076】
表示装置20は、対向して配置された2枚の基板21a,21b(基体)の各対向面側に設けられた2つの導電電極22a,22b(電極対)の間に、複数の粒子体23a,23bを備えるものである。また、両導電電極22a,22b間には四角錐構造を有する仕切り24が設けられており、粒子体23a,23bは、その仕切り24で画成された各空間に収容されている。
【0077】
このような表示装置20では、泳動粒子である粒子体23a,23bと仕切り24の壁面の面積比率を変化させるような制御を行うことで連続的にコントラスト比を変化させることが可能である(図3及び4参照)。
【0078】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において様々は変形が可能である。例えば、マイクロカプセル14は必ずしも必要ではなく、さらに電界印加のための導電電極12a,12b,22a,22bも本発明による表示装置の必須構成要素ではない。導電電極12a,12b,22a,22bを用いずに電界を印加させるには、表示装置10の外部に設けられた例えば電圧印加ヘッド、電圧印加ペン等の電界印加装置を用いる方式を例示できる。また、粒子体13に用いるフラーレン類は上述した実施形態で例示したものに限られず、他の公知のフラーレン若しくはその誘導体、又はこれらの混合物を用いてももちろんよい。
【0079】
【実施例】
以下、実施例により本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお、調製例1〜5ではフラーレン類を「色素」として用い、比較調製例1及び2は、それらの比較のために従来使用されている色素を用いた例である。また、参考調製例6〜10はフラーレン類を「顔料」として用い、比較調製例3及び4は、それらの比較のために従来使用されている顔料を用いた例である。
【0080】
[調製例1]
1.5重量%のC60フラーレン、5.0重量%の二酸化チタン(平均粒径1.2μm)を0.5重量%の高分子分散剤と共に、93重量%のトリメチルベンゼン中に、超音波分散装置を用いて分散させ均質溶液を得た後に、2μmのフィルターで濾過して電気泳動分散溶液を調製した。
【0081】
[調製例2]
60フラーレンに代えて1.5重量%のC70フラーレンを用いたこと以外は調製例1と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0082】
[調製例3]
60フラーレンに代えて1.5重量%のC60及びC70フラーレン混合物(組成比不明)を用いたこと以外は調製例1と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0083】
[調製例4]
60フラーレンに代えてフラレノール(C60及びC70フラーレンの混合物に水酸基を10〜12個修飾したもの)にトリメチルシラン基を置換させたフラーレン誘導体1.2重量%を用いたこと以外は調製例1と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0084】
[調製例5]
60フラーレンに代えてフラレノール(C60及びC70フラーレンの混合物に水酸基を10〜12個修飾したもの)にステアリル基を置換させたフラーレン誘導体1.2重量%を用いたこと以外は調製例1と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0085】
[比較調製例1]
60フラーレンに代えて0.5重量%のジアゾ系色素(有本化学工業社製)を用いたこと以外は調製例1と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0086】
[比較調製例2]
60フラーレンに代えて0.5重量%のアントラキノン系色素(有本化学工業社製)を用いたこと以外は調製例1と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0087】
参考調製例6]
1.0重量%のC60フラーレン、3.0重量%の二酸化チタンを1.0重量%のノニオン系分散剤と共に、95重量%のISOPAR G(エクソン化学社製)中に超音波分散装置を用いて分散させて均質溶液を得た後に、5μmのフィルターで濾過して電気泳動分散溶液を調製した。
【0088】
参考調製例7]
60フラーレンに代えて1.0重量%のC70フラーレンを用いたこと以外は参考調製例6と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0089】
参考調製例8]
60フラーレンに代えて1.0重量%のC60及びC70フラーレン混合物(組成比不明)を用いたこと以外は参考調製例6と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0090】
参考調製例9]
60フラーレンに代えてフラレノール(C60及びC70フラーレンの混合物に水酸基を10〜12個修飾したもの)にステアリル基を置換させたフラーレン誘導体1.0重量%を用いたこと以外は参考調製例6と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0091】
参考調製例10]
フラレノール(C60及びC70フラーレンの混合物に水酸基を10〜12個修飾したもの)に2−(パーフルオロオクチル)エトキシシラン基を置換させたフラーレン誘導体2.0重量%、及び二酸化チタン3.0重量%を95重量%のFC−40(3M社製)中に超音波分散装置を用いて分散させて均質溶液を得た後に、5μmのフィルターで濾過して電気泳動分散溶液を調製した。
【0092】
[比較調製例3]
60フラーレンに代えて1.0重量%のカーボンブラック(三菱化学社製)を用いたこと以外は参考調製例6と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0093】
[比較調製例4]
60フラーレンに代えて1.0重量%の四三酸化鉄(関東化学社製)を用いたこと以外は参考調製例6と同様にして電気泳動分散溶液を調製した。
【0094】
[実施例1〜5、参考例6〜10及び比較例1〜4]
まず、2枚のスパッタITOガラスを、スペーサーを介して100μmの間隔となるように対向配置して表示用セルを作製した。次に、その各セル中に、調製例1〜5、参考調製例6〜10、及び比較調製例1〜4で得た電気泳動分散溶液をそれぞれ充填し、本発明による表示装置としての実施例1〜5、参考例6〜10の評価用素子、及び従来の表示装置としての比較例1〜4の評価用素子を作製した。
【0095】
[特性評価]
実施例1〜5、参考例6〜10及び比較例1〜4の各評価用素子に一定の電圧を印加し、コントラスト比、及びメモリ効果率を評価した。また、実施例1〜5並びに比較例1及び2の評価用素子については、退色率も評価した。なお、印加電圧は、実施例1〜5並びに比較例1及び2の評価用素子が30V(DC)、参考例6〜10並びに比較例3及び4の評価用素子が70V(DC)とした。
【0096】
コントラスト比の評価は、セル面から30cm離れた位置からメタルハライドランプを光源に使用した光線を照射し、そのとき得られた反射光の輝度の最大値を最小値で除することにより求めた。また、メモリ効果率は、上記の光照射条件と同一条件にて電界の印加停止後60秒後の反射光輝度を電界印加停止前の最大輝度値で除して百分率に変換することにより求めた。さらに、退色率は、各実施例で使用した色素濃度を1000倍に希釈した溶液を内径10ミリ角のセルに入れ、晴天時に直射日光下で5時間曝露後、それぞれのサンプルの可視光域における最大吸光波長での吸光度と曝露前の同一波長における吸光度の変化率として求めた。得られた結果をまとめて表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
これらの結果より、フラーレン類を色素として用いた実施例1〜5の評価用素子は、比較例1及び2に比して退色率が格段に軽減されており、劣化耐性ひいては長期安定性及び信頼性が非常に優れたものであることが確認された。また、アゾ色素系を用いた比較例1の評価用素子では、酸化チタンに染料が吸着したことによりコントラストが低いことが判明した。
【0099】
さらに、参考例6〜10の評価用素子は、比較例3及び4に比して、コントラスト比及びメモリ効果率が共に優れていることが確認された。比較例3の評価用素子は、表示側電極にカーボンブラックが付着したため透明電極の透過率が低下し、結果としてコントラスト比が悪化したことが判明した。また、比較例4の評価用素子は、顔料に用いた酸化鉄の比重が5.2であり、溶液との比重差が影響してメモリ効果が低下したことが判明した。
【0100】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の表示装置によれば、十分な視認性(コントラスト)を確保でき、耐侯性、耐光性、及び電圧印加時の安定性を向上できると共に、電極間での短絡の発生を防止でき、これによりに長期安定性及び長期信頼性をも向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による表示装置の好適な実施形態を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明による表示装置の他の実施形態を示す模式断面図である。
【図3】図2におけるIII−III線に沿う断面の要部を示す図である。
【図4】図2におけるIV−IV線に沿う断面の要部を示す図である。
【符号の説明】
10,20…表示装置、11a,11b,21a,21b…基板(基体)、12a,12b,22a,22b…導電電極(電極対)、13,23a,23b…粒子体、14…マイクロカプセル、15…バインダー、24…仕切り。

Claims (6)

  1. 基体間に配置された媒体中における複数の粒子体の空間分布変化に基づく反射率の相違によって表示が行われる表示装置であって、
    前記複数の粒子体は前記媒体中に分散しており、白色又は前記媒体よりも淡色を呈するものであり、
    前記媒体をなす溶剤はフラーレン類が溶解しており、前記複数の粒子体よりも濃色を呈するものである
    ことを特徴とする表示装置。
  2. 前記フラーレン類が第1の色を呈する色素として含まれており、
    前記複数の粒子体が前記第1の色と異なる第2の色を呈する顔料として含まれている、
    ことを特徴とする請求項1記載の表示装置。
  3. 前記溶剤における前記フラーレン類の含有割合が0.05〜20重量%である、
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示装置。
  4. 前記媒体をなす溶剤中において、前記フラーレン類は分子単独で存在し又はクラスター若しくはドメインの構造を形成している、
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示装置。
  5. 当該表示装置は前記複数の粒子を含む場に電界が形成されるものであり、
    前記複数の粒子体が前記電界の作用により移動するものである、
    ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の表示装置。
  6. 前記複数の粒子体を挟むように該複数の粒子体の周囲に配置された電極対を備えており、
    前記電極対のうち少なくとも一方の電極がマトリックス状に設けられたものである、
    ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の表示装置。
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