JP4581094B2 - 動脈硬化の検査方法 - Google Patents

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本発明は、動脈硬化の新規検査方法に関する。具体的には、60kDa熱ショックタンパク質を構成するアミノ酸配列の一部分からなるペプチドに対する抗体を検出することによる動脈硬化の新規検査方法に関する。
アテローム性動脈硬化症は、狭心症、心筋梗塞および脳梗塞に帰着する多元的な疾病である。生活の欧米化や高齢化社会の到来と、結核などの感染症対策の充実により、動脈硬化を基盤とする病気は、悪性新生物(癌と肉腫)とともに日本では二大国民病のひとつとなり、その対策はきわめて重要である。 厚生省の「人口動態統計」によると、死亡総数に対する死因別の割合は、1位が悪性新生物、2位心疾患、3位脳血管疾患であり、動脈硬化などの血管の障害を共通の基盤とする心疾患と脳血管疾患の割合の合計から考えると、悪性新生物よりもはるかに高い死亡率が認められる。
動脈硬化を基盤とする病気は、心疾患のうちの多くをしめる虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)や、脳血管疾患の半数をしめる脳梗塞ばかりでなく、動脈硬化性萎縮腎、下腿の壊疽を引き起こす閉塞性動脈硬化症、またまれには虚血性腸炎の原因となり、いずれも死の原因となる重大な病気である。
動脈硬化の部位には、多量の酸化・変性した低比重リポ蛋白(酸化LDL)由来のコレステロールが蓄積していると同時に脂質を多量に取り込んで泡沫化した炎症細胞の一種であるマクロファージも集合しており、動脈硬化の病因として炎症、免疫反応の重要性が指摘されている。
動脈硬化は炎症性疾患であるとの指摘から、近年、動脈硬化の進展に血管の炎症が中心的な役割を担っていることが広く認知されつつある。それに伴い、炎症反応の存在を示す新たな指標として高感度C反応性タンパク質(hsCRP)が注目され、動脈硬化巣の形成と進展にかかわる炎症反応の分子機構の研究は活発な展開を見せている(非特許文献1)。
動脈硬化の疾患モデルとして確立され高脂血症ウサギと心筋梗塞を発症した患者の冠動脈を用いた、CRPと動脈硬化の関係についての報告がある(非特許文献2)。ここでは、動脈硬化の発生頻度と肝臓から分泌されるタンパク質の一種、CRPの分泌量が、強く関連していることが示唆された。
現在は、動脈硬化の進行度や、心筋梗塞、脳梗塞等の合併症に進行しうる危険度を測定する検査方法として、hsCRPが多用される傾向にある。hsCRPは、炎症の急性期に産生されるタンパク質で、動脈硬化により引き起こされる微妙な炎症を検知することにより動脈硬化を検査しようとするものである。しかしながら、炎症を検知するこの方法は、非特異的な炎症反応を検出するため、特に特異度が劣っていた。
アテローム性動脈硬化症の原因については、種々の研究が進められている。この10〜20年の間に、アテローム性動脈硬化症と炎症性・免疫のメカニズムが立証されてきた。疫学的研究において、クラミジア・ニューモニエ(C.pneumoniae)、Porphyromonas gingivalis(P.gingivaris)およびサイトメガロウイルス(CMV)のような伝染性の病原体に対するホスト免疫反応が、アテローム性動脈硬化症の原因になるといわれている。例えば、60/65kDa熱ショックタンパク質(HSP60/65)が関係することが報告されている(特許文献1)。また、クラミジア・ニューモニエ感染による動脈硬化について、クラミジア・ニューモニエ由来60kDa熱ショックタンパク質(HSP60)が関連することも報告されている(特許文献2)。しかしながら、これらのタンパク質と動脈硬化の検査結果との関係については明確にはされていなかった。
Medical Tribune, Vol.37, No.13, p.54(2004) American Journal of pathology, Vol.167, p.1139-1148(2005) 特開2005−502583号公開公報 特開2005−102691号公開公報
本発明は、動脈硬化の検査方法に関し、従来の検査方法に比べて特異性および感度の高い検査方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、60kDa熱ショックタンパク質(以下、「HSP60」という。)を構成するアミノ酸配列の一部分を構成するペプチドに対する抗体(以下、「抗HSP60ペプチド抗体」という。)、特に動脈硬化症のマーカーとなりうる抗HSP60ペプチド抗体の抗原エピトープ部分を初めて見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は以下よりなる。
1.以下に示すアミノ酸配列からなる抗HSP60ペプチド抗体に対する抗原性を有するポリペプチド:
1)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のポリペプチド;
2)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列のうち、1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列。
2.以下に示すアミノ酸配列を含むことを特徴とする抗HSP60ペプチド抗体に対する抗原性を有するポリペプチド:
1)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第141位〜第160位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号7);
2)配列番号7に示されるアミノ酸配列のうち1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列。
3.前項1または2に記載のポリペプチドを少なくとも1種用いることを特徴とする抗HSP60ペプチド抗体の測定方法。
4.前記測定方法が、前項1または2に記載のポリペプチドの少なくとも1種を抗原ペプチドとして固相に固定し、該固定した抗原ペプチドと検体中に存在する抗HSP60ペプチド抗体との反応産物を検出することにより抗HSP60ペプチド抗体の測定を行う、前項3に記載の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法。
5.前項4または5に記載の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法を用いた動脈硬化の検査方法。
6.前項1または2に記載のいずれか1種または複数種のポリペプチドに対する抗体を動脈硬化の疾患マーカーとして検出する動脈硬化の検査方法。
7.以下に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原ペプチドとして固相に固定し、該固定した抗原ペプチドと検体中に存在する抗HSP60ペプチド抗体との反応産物を検出することによる動脈硬化の検査方法:
1)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のポリペプチド;
2)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列のうち、1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列。
3)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第141位〜第160位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号7);
4)配列番号7に示されるアミノ酸配列のうち1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列。
8.以下に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを少なくとも一種含む動脈硬化の検査用試薬またはキット:
1)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のポリペプチド;
2)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列のうち、1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列。
3)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第141位〜第160位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号7);
4)配列番号7に示されるアミノ酸配列のうち1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列。
本発明のポリペプチドを用いて抗HSP60ペプチド抗体測定による検査を行うと、感度および特異性の高い動脈硬化の検査を行うことができる。また、本発明のポリペプチドはELISA法に適用することができるため、多くの検体を処理することができ、より早期に動脈硬化の検査を行うことができる。
本発明においてHSP60とは、上述の如く60kDa熱ショックタンパク質をいい、抗HSP60ペプチド抗体とは、HSP60を構成するアミノ酸配列の一部分からなるペプチドに対する抗体をいう。
HSP60は、真核生物・原核生物の両方で発見され、高度に保存されたタンパク質である。微生物やヒトのHSP60の高い相同性は、微生物と自己HSPの間の分子の模倣がある自己免疫性病因に関係するかもしれない。さらにアテローム発生では、伝染性の病原体に由来したHSP60に対する細胞性・液性の免疫反応は、血管内皮細胞の表面に発現自己HSP60を認識して、一層アテローム性動脈硬化症を促進する。
本発明において、伝染性の病原体に由来したHSP60に対する細胞性・液性の免疫反応について確認し、抗HSP60ペプチド抗体について検討した結果、特に動脈硬化症のマーカーとなりうる抗HSP60ペプチド抗体の抗原エピトープ部分を初めて確認することができた。
本発明において、配列表の配列番号1および2に示されるアミノ酸配列は、各々GenBank accession No. CAA52062およびNo. NP_955472により特定されるHSP60を構成するアミノ酸配列である。配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ヘリコバクターピロリ(以降「H.ピロリ」または、単に「Hp」という場合がある。)由来のHSP60を構成するアミノ酸配列(Hp−HSP60)であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、ヒト(以下、単に「Hu」という場合がある。)由来のHSP60を構成するアミノ酸配列(Hu−HSP60)である。本発明の抗原性を有するポリペプチドは、必ずしもH.ピロリ由来のペプチド配列に限定されるものではない。上記に該当する配列を有するものであれば、例えばクラミジア・ニューモニエ由来のポリペプチドであっても良いし、他の菌由来のポリペプチドであっても良い。
本発明のポリペプチドは、動脈硬化の疾患マーカーとなりうる抗HSP60ペプチド抗体に対して抗原性を有するポリペプチドをいう。具体的には、以下に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドである:
1)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のポリペプチド;
2)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号3)から選択される10〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列のうち、1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列。
更に具体的には、以下に示すアミノ酸配列を含むことを特徴とする抗HSP60ペプチド抗体に対する抗原性を有するポリペプチドである:
1)配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第141位〜第160位の領域に示されるアミノ酸配列(配列番号7);
2)配列番号7に示されるアミノ酸配列のうち1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列。
本発明のペプチドとして、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが特に好適である。
本発明の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法において使用されるポリペプチドは、上記から選択される少なくとも1種のポリペプチドである。特異性および測定感度を向上させるために、さらに、複数種のポリペプチドを組み合わせて用いても良い。
具体的には、以下に示す配列番号3から選択される10〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号5〜14の何れかに示すアミノ酸配列またはこれらに示されるアミノ酸配列のうち1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加または挿入されてなるアミノ酸配列からなるポリペプチド、を1または複数選択して、組み合わせて用いることができる。
以下において、配列番号3は、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第101位〜第200位の領域に示されるアミノ酸配列からなる。配列番号5〜14についても、各々同様にN末端から第100位〜第119位(配列番号5)、第120位〜第139位(配列番号6)、第141位〜第160位(配列番号7)、第141位〜第155位(配列番号8)、第145位〜第152位(配列番号9)、第141位〜第170位(配列番号10)、第184位〜第200位(配列番号11)、第171位〜第200位(配列番号12)、第161位〜第176位(配列番号13)、第394位〜第413位(配列番号14)の領域に示されるアミノ酸配列からなる。
Hp−HSP60; Glu101-Ser200 (配列番号3)
Hp−HSP604−5; Ile300-Gly435 (配列番号4)
A1(Lys100-Met119)(配列番号5)
A2(Asp120-Gly139)(配列番号6)
B1(Glu141-Leu160)(配列番号7)
B2(Glu141-His155)(配列番号8)
B3(Gln145-Asn152)(配列番号9)
B4(Glu141-Lys170)(配列番号10)
D1(Asp184-Ser200)(配列番号11)
D2(Asp171-Ser200)(配列番号12)
F1(Ile161-Val176)(配列番号13)
E (Arg394-Gly413)(配列番号14)
動脈硬化の患者またはその予備軍が産生しうる動脈硬化のマーカーとなりうる抗HSP60ペプチド抗体はポリクローナル抗体であるため、上記本発明の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法に用いられる抗原ペプチドは、複数個所にエピトープとしての機能を有するものであってもよい。また、抗原ペプチドは複数種用いても良い。
本発明の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法または動脈硬化の検査方法において、検体として、血清、血漿などの体液を使用することができる。
本発明の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法は、該HSP60抗体と本発明のポリペプチドの抗原抗体反応を検出しうる免疫学的手法による。そのような免疫学的手法としては、ラテックス凝集法、オクタロニー法、免疫クロマトグラフィー法やELISA法などの自体公知の手法を適用することができる。多くの検体を処理しうるELISA法が、特に好適である。具体的には、本発明のポリペプチドを抗原ペプチドとして固相に固定し、該固相に固定した抗原ペプチドに検体を接触させ、抗原ペプチドと検体中に含有可能性のある抗HSP抗体との免疫複合体、または反応産物を検出することで、抗HSP抗体を測定することができる。ELISA法の実施に伴う非特異反応の抑制方法や、検出の際に使用しうる標識物質、測定機器などは、自体公知のもの、あるいは今後開発されるものを適用することができる。
さらに本発明は、本発明のポリペプチドを少なくとも1種用いる、抗HSP抗体の測定方法および該抗HSP抗体の測定方法を用いた動脈硬化の検査方法にも及ぶ。さらには、本発明のポリペプチドを少なくとも1種含む動脈硬化検査用試薬にも及ぶ。また、前記検査用試薬を含み、その他ELISA法などに使用するマイクロプレート、標識物質など適宜必要な器具および/または試薬を含む動脈硬化検査用キットも本発明に含まれる。
以下に実施例を示して説明するが、本実施例は発明の内容をより理解するためのものであって、本発明は本実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
(実施例1)ポリペプチド
H.ピロリHSP60(Hp−HSP60;配列番号1)およびヒトHSP60(Hu−HSP60;配列番号2)のアミノ酸配列および相同分析は、Genetix ソフトウェアを用いて確認した。相同性の詳細は、図1に示した。これらより、以下のアミノ酸配列を有するポリペプチドについて、検討した。
1)Hp−HSP60の全体配列 (Hp−HSP60; Met1-met545 )(配列番号1)
2)Hp−HSP60; Glu101-Ser200 (配列番号3)
3)Hp−HSP604−5; Ile300-Gly435 (配列番号4)
上記において、2)および3)は、配列番号1に示す配列のうち、Hu−HSP60 (配列番号2)と90%相同性を示す部分2箇所の部分配列である(図1)。
上記1)〜3)のポリペプチドは、遺伝子組み換えにより調製した。組換タンパク質をPCR法を用いた方法によりGST融合タンパク質として発現させた。配列表の配列番号15〜20に示す塩基配列からなるPCR用各プライマーは、GenBankにおいて公表された配列に基づいて設計した。クローニングを促進するために、制限酵素認識部位をプライマー配列に含めた。
1)Hp−HSP60用プライマー
5'-GGAGGATCCCCATGGCAAAAGAAATCAAATTT(配列番号15)
5'-GGGGTCGACCATCATGCCGCCCATGCCTCC(配列番号16)
2)Hp−HSP60用プライマー
5'-TTTGGATCCCCGGCTTGGGAATATCACG(配列番号17)
5'-TTTGTCGACGGAGAGGTAGCCTCTATCAAA (配列番号18)
3)Hp−HSP604−5用プライマー
5'-GTCGGATCCCCAGCGAAGAATTGGGCTTG(配列番号19)
5'-TTCGTCGACCACTTTTTCATCATCGTGTAA(配列番号20)
上記PCR用プライマーは、精製されたH.ピロリATCC 43504TのゲノムDNAのORF部分を増幅する。
PCRによる核酸増幅処理を、ExTaqポリメラーゼ(タカラ製)、5mMのセンスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド・プライマーおよび500ngのH.ピロリのDNAを含む溶液(20μl)中で行った。PCRは、94℃で30秒、55℃で30秒および72℃で30秒を25サイクル行った。
増幅産物をBamHIとSalIの制限酵素で切断し、通常の方法によりベクターpGEX-5X-3(アマシャム・ファルマシア)にクローニングした。合成プラスミドを大腸菌DH-5Aに形質転換した。2%グルコースおよびアンピシリン(100μg/ml)を含むLBブロス(OD540:0.6−0.8)中で、37℃で3時間培養後、組換タンパク質を25℃で発現させた。培養は、0.1mMのIPTG(Isopropyl β-D-Thiogalactoside)誘導剤のもとで行った。
その後、7000gで10分間遠心分離を行って菌を収集し、氷冷したPBS(リン酸緩衝液)に再懸濁した。菌懸濁液を−70℃で凍結したのち融解し、プローブソニケーター(Astrason製)セットを全出力で2分間使用し、菌を破砕した。GST−HSP(Hp−HSP60、Hp−HSP60およびHp−HSP604−5)により発現した可溶性融合タンパク質は、トロンビンで開裂させ、グルタチオン-Sepharose 4B(アマシャム・ファルマシア製)アフィニティー・クロマトグラフィーによって精製した。さらに同様の方法により、ヒトHSP60−GST融合タンパク質を産生した。
(実施例2)ペプチドの合成
実施例1で選別されたポリペプチドを構成するアミノ酸配列(Hp−HSP60; Glu101-Ser200(配列番号3)およびHp−HSP604−5; Ile300-Gly435(配列番号4))のうち、以下の部分ペプチドを合成した。各ペプチドは、アプライドバイオシステムズ社製モデル430Aシンセサイザーを用いて合成した。
A1(Lys100-Met119)(配列番号5)
A2(Asp120-Gly139)(配列番号6)
B1(Glu141-Leu160)(配列番号7)
B2(Glu141-His155)(配列番号8)
B3(Gln145-Asn152)(配列番号9)
B4(Glu141-Lys170)(配列番号10)
D1(Asp184-Ser200)(配列番号11)
D2(Asp171-Ser200)(配列番号12)
F1(Ile161-Val176)(配列番号13)
E(Arg394-Gly413)(配列番号14)
(実施例3)ELISA法−1
各HSP60融合タンパク質およびH.ピロリATCC 43504Tに対する抗IgG抗体を測定するためのELISA法
96ウェルマイクロプレートの各ウェルに、各HSP60融合タンパク質10μg/mlまたはH.ピロリ破砕物(ATCC 43504Tの超音波破砕物)50μg/mlを含む炭酸緩衝液(pH9.6)を100μl、4℃で一夜処理し、抗原を固定した。
各ウェルを0.05%のTWEEN 20Tを含むPBS溶液(洗浄緩衝液)で洗浄した。その後、10%スキムミルク(希釈緩衝液)を含むPBS200μlでブロックした。各ウェルを洗浄緩衝液を用いて洗浄した後、1:100希釈した検体(血清)を100μl加え、2時間室温にて反応させた。
各抗HSP60ペプチド抗体を各ウェルに100μl加え、2時間室温にて加温した。抗体は、血清を用いて次のように希釈した。Hp−HSP60、Hp−HSP604−5およびHu−HSP60は1:100、H.ピロリ破砕物および抗Hp−HSP60抗体は1:1000とした。
洗浄緩衝液を用いて各ウェルを洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗体(1:3000希釈、ウサギ抗ヒトIgG抗体(DAKO JAPAN))を各ウェルに100μl加え、室温で2時間加温した。さらに各ウェルを洗浄した後、クエン酸塩緩衝液(pH5.5)中で1ml当たり1mgのo-フェニレンジアミン(和光純薬)を含む溶液150μlをウェルに加えて反応させた。その後、反応停止液として2M HSOを50μl加えた。ELISAプレートリーダ(モデル680;Bio-Rad製)を用いてODを490nmで測定した。
(実施例4)ELISA法−2
個々の合成ペプチドに対する抗IgG抗体を測定するためのELISA法
96ウェルマイクロプレートの各ウェルに、実施例3と同様に、個々の合成ペプチドを4μg/mlを含む滅菌PBS50μlで固定した。その後、プレートを室温で1日間乾燥し、シリカゲルを用いて空気を遮断した状態で−4℃で保存した。
1%アルブミン(シグマ社)を含む滅菌PBSで、各ウェルを200μlでブロックした。各ウェルを洗浄緩衝液を用いて洗浄した後、1:100希釈した検体(血清)を100μl加え、2時間室温にて反応させた。
ウェルを洗浄緩衝液で洗浄後、ペルオキシダーゼ標識した1:3000希釈ウサギ抗ヒトIgG抗体(DAKO JAPAN)を100μl加え、プレートを室温で2時間培養した。プレートを洗浄した後、クエン酸塩緩衝液(pH5.5)中で1ml当たり1mgのo-フェニレンジアミン(和光純薬)を含む溶液150μlでウェルを反応させた。その後、反応停止液として2M HSOを50μl加えた。ELISAプレート・リーダ(モデル680;Bio-Rad製)を用いてODを490nmで測定した。
(実験例1−12)
インフォームド・コンセントを得た冠動脈疾患患者(CHD患者)(n=250)および非CHD患者(n=293)から血清を取得し、−80℃で保存した。CHDの診断は冠動脈硬化の知見に基づいた。CHD患者はある狭窄を持っており、冠動脈血管形成術およびステント挿入のような治療を受けている。CHD歴のない患者は非CHD患者として選択した。全ての患者について、H.ピロリの感染を血清学的に調べた。コレステロールおよびhs−CRPの測定値もすべての患者について測定した。
測定結果を、KaleidaGraphソフトウェアを用いて統計分析により解析した。各疾患患者における抗体のOD差をスチューデントtテスト(統計的有意性:p<0.05)にて評価した。また、抗Hu−HSP60抗体、各抗Hp−HSP60抗体並びに各抗各Hp−HSP60ペプチド抗体の抗体価について相関係数等で評価した。また、カットオフ値が、0.25以下で判断可能な場合を有意な検査が可能であると判断した。
Figure 0004581094
[実験例1]
Hp陽性冠動脈疾患患者(CHD患者)および非CHD患者についての、Hp−HSP60に対する抗体価を統計的に調べた(図2)。その結果、CHD患者の抗Hp−HSP60IgG抗体価は、非CHD患者に比べて有意に高かった。
[実験例2]
Hp陽性CHD患者および非CHD患者についての、Hu−HSP60に対する抗体価を統計的に調べた(図3)。その結果、CHD患者の抗Hu−HSP60IgG抗体価は、非CHD患者に比べて有意に高かった。
[実験例3]
Hp陽性CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた(図4)。抗Hu−HSP60IgG抗体および抗Hp−HSP60IgG抗体についての相関係数はR=0.057729であり、相関性に乏しかった。
[実験例4]
Hp陽性CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた(図5)。抗Hu−HSP60IgG抗体および抗Hp−HSP60IgG抗体についての相関係数はR=0.55926であった。
[実験例5]
Hp陽性CHD患者におけるHp−HSP604−5およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた(図6)。抗Hu−HSP60IgG抗体および抗Hp−HSP604−5IgG抗体についての相関係数はR=0.14946であった。
[実験例6]
Hp陽性非CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた(図7)。抗Hu−HSP60IgG抗体および抗Hp−HSP60IgG抗体についての相関係数はR=0.36587であった。実験例4の結果と比較したところ、Hp陽性におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性は、CHD患者において有意に高い結果が得られた。
[実験例7]
Hp陰性CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた(図8)。抗Hu−HSP60IgG抗体および抗Hp−HSP60IgG抗体についての相関係数はR=0.52301であった。実験例4の結果と比較したところ、Hp陰性のCHD患者においてもHp陽性と同等にHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の高い相関性を認めた。
[実験例8]
CHD患者血清および非CHD患者血清からの抗Hp−HSP60IgG抗体の検定値はp=0.862であり、有意な差は認められなかった(図9)。
[実験例9]
Hp陽性のCHD患者の各ペプチドに対する抗体価を統計的に調べた。Hp−HSP60由来の各ペプチドに対する抗体価は、Hp−HSP604−5由来のペプチドに対する抗体価に比べについて有意に高値であった(図10)。
[実験例10]
Hp陽性患者におけるCHDおよび非CHD患者のペプチドB1に対する抗体価を調べた(図11)。両者の検定値は、p<0.0001であり、有意な差が認められた。ここには示さないが、Hp−HSP60由来の各ペプチド(D1など)に対する抗体価も同様の結果を認め、これにより、これらペプチドに対する抗体価を調べるのが有意と考えられた。さらにカットオフ値を0.35と定めた。
[実験例11]
全CHDおよび非CHD患者のペプチドB1に対する抗体価を測定した(図12)。検定値は、p<0.0001であり、有意な差が認められた。
[実験例12]
全CHDおよび非CHD患者のhs−CRPの値(カットオフ値:0.2)を調べた(図13)。検定値は、p<0.0001であり有意な差が認められたが、カットオフ値よりCRPに対する抗体価では、特異性が低いと考えられた。
ペプチドB1およびhsCRPを用いてのCHD疾患について検査した結果を表2に示した。
Figure 0004581094
以上説明したように、本発明の抗原エピトープ部分を用いて抗HSP60ペプチド抗体測定による検査を行うと、感度および特異性の高い動脈硬化の検査を行うことができる。また、本発明のポリペプチドはELISA法に適用することができるため、多くの検体を処理することができ、より早期に動脈硬化の検査を行うことができる。これにより、動脈硬化の危険性をより早期に検査することができ、適切な予防および治療を早期に開始することができる。
Hp−HSP60およびHu−HSP60の各アミノ酸配列および相同性を示す図である。図1において、上部はHu−HSP60を示し、下部はHp−HSP60を示す。また、図中、各記号で示した部位は、本発明における各ペプチドの部位を示す。 Hp陽性冠動脈疾患患者(CHD患者)および非CHD患者についての、Hp−HSP60に対する抗体価を統計的に調べた図である。 Hp陽性CHD患者および非CHD患者についての、Hu−HSP60に対する抗体価を統計的に調べた図である。 Hp陽性CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた図である。 Hp陽性CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた図である。 Hp陽性CHD患者におけるHp−HSP604−5およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた図である。 Hp陽性非CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた図である。 Hp陰性CHD患者におけるHp−HSP60およびHu−HSP60に対する各抗体価の相関性を調べた図である。 Hp陽性患者におけるCHDおよび非CHD患者のHp−HSP60でのカットオフ値を調べた図である。 Hp陽性患者におけるCHDおよび非CHD患者の各ペプチドでのカットオフ値を調べた図である。 Hp陽性患者におけるCHDおよび非CHD患者のペプチドB1でのカットオフ値を調べた図である。 全CHDおよび非CHD患者のペプチドB1でのカットオフ値を調べた図である。 全CHDおよび非CHD患者のCRPでのカットオフ値を調べた図である。

Claims (7)

  1. 配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、N末端から第141位〜第160位の領域に示されるアミノ酸配列(Glu Glu Ile Thr Gln Val Ala Thr Ile Ser Ala Asn Ser Asp His Asn Ile Gly Lys Leu)からなることを特徴とする抗HSP60ペプチド抗体に対する抗原性を有するポリペプチド。
  2. 請求項1に記載のポリペプチドを用いることを特徴とする抗HSP60ペプチド抗体の測定方法。
  3. 前記測定方法が、請求項1に記載のポリペプチドを抗原ペプチドとして固相に固定し、該固定した抗原ペプチドと検体中に存在する抗HSP60ペプチド抗体との反応産物を検出することにより抗HSP60ペプチド抗体の測定を行う、請求項2に記載の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法。
  4. 請求項2または3に記載の抗HSP60ペプチド抗体の測定方法を用いた動脈硬化の検査方法。
  5. 請求項1に記載のポリペプチドに対する抗体を動脈硬化の疾患マーカーとして検出する動脈硬化の検査方法。
  6. 請求項1に記載のポリペプチドを抗原ペプチドとして固相に固定し、該固定した抗原ペプチドと検体中に存在する抗HSP60ペプチド抗体との反応産物を検出することによる動脈硬化の検査方法。
  7. 請求項1に記載のポリペプチドを含む動脈硬化の検査用試薬またはキット。
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