JP4581088B2 - 計算機支援診断装置および方法 - Google Patents

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Description

本発明は、医療システム分野における計算機支援診断装置および方法に関する。
近年、人口の高齢化に伴い痴呆患者が増加し、がん・心臓病・脳卒中と並ぶ深刻な問題となってきている。痴呆を引き起こすアルツハイマー病・脳血管障害・DLB(レビー小体の異常)などの早期発見は、進行阻止や治療を行う上で極めて重要である。痴呆性疾患の画像診断には、MRI/CTによる形態画像を用いる方法とSPECT/PETによる機能画像を用いる方法がある。特に、SPECT/PETによる機能画像を用いると、MRIの形態画像において脳の萎縮が伴わない初期の段階で脳血流や代謝の低下が検出可能であることが知られている。
特許文献1には、シンチレーション事象に応答する第1の検出器および第2の検出器と、前記第1の検出器および前記第2の検出器に結合され、PET事象を検出し記録する第1の撮影モードに切り替えることができ、SPECT事象を検出し記録する第2の撮影モードに切り替えることができ、前記事象を検出し記録する回路と、透過放射を用いて前記第1の検出器および前記第2の検出器を走査し、前記回路が透過情報を検出し記録する間に走査を行う透過走査エミッタと、前記透過情報によって補正された前記PET事象に基づいてPET再構成画像を生成するコンピュータ・システムとを備え、前記コンピュータ・システムが、前記透過情報によって補正された前記SPECT事象に基づいてSPECT再構成画像を生成する切替可能なSPECT/PET核カメラ・システムが記載されている。
特許文献2には、核医学画像の位置合せ方法が記載され、特許文献3には、画像関連データ処理方法が記載されている。また、特許文献4には画像診断支援システム及び画像診断支援プログラムが記載されている。
特開平9−5440号公報 特開平9−133771号公報 特開2003−199715号公報 特開2003−265463号公報
初期の段階での血流や代謝の低下は微妙であり、医師が視覚的に判断しただけでは見逃す場合があり読影の負担も大きいのが現状である。したがって、SPECT/PET画像の計算機処理に基づく定量的な診断が望まれている。
この目的を達成するために開発されたソフトウェアとしてMinoshimaらによる3D−SSP(3-D Stereotactic Surface Projection)とFristonらによるSPM(Statistical Parameter Mapping)が有名であり、SPECT脳血流画像の解析に実用され血流低下部位の検出に有効であることが実証されている。3D−SSPやSPMは、複数の正常人のSPECT画像と患者のSPECT画像を標準脳座標系へ非線形変換して個人差の影響を軽減した上で比較することにより、血流低下量の分布を表すZスコアなどと呼ばれる画像を出力するもので、総称して統計学的画像解析法と呼ばれる。しかし、統計学的画像解析法には、以下の2つの問題点がある。
(1)統計学的画像解析法を使用するには、正常人のボランティアを集め、性別・年齢・使用放射性薬剤・撮像装置・画像再構成法ごとに正常人SPECT画像のデータベースを作成しておく必要があり、このデータベースの作成は煩雑である。
(2)標準脳座標系への非線形変換のみで脳形状の個人差の影響を十分になくすことは困難であり、得られた血流低下量画像は精度の点でも問題がある。
本発明は、上述の2つの問題点を解決することのできる計算機支援診断装置および方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するために、同一患者のSPECT脳血流画像とMRI画像を融合して用いる新しい考え方の計算機支援診断(CAD)手法を提案する。提案するCADの考え方の概略を述べると、以下のようになる。まず、患者のMRI画像を領域分割して各組織に一定の血流値又は代謝値を代入することにより、正常人のSPECT画像を模擬したテンプレート画像を作成する。次に、テンプレート画像と患者のSPECT画像の位置合わせを行う。最後に、テンプレート画像とSPECT画像の差分をとり血流低下量又は代謝低下量の分布を表すDSI(Deterioration Score Image)画像を作成し、3D−SSPなどと同様な医師に分かりやすい形で表示する。DSI画像はMRI画像上で脳の萎縮を伴わずに血流又は代謝が低下している部位を表しており、この部位を正確に抽出できれば早期の痴呆性疾患の診断が容易となる。また、提案手法では同一患者のSPECT画像とMRI画像のみを利用するため、正常人データベース作成や脳形状個人差の問題点は解消でき、そのメリットは極めて大きいと考えられる。
本発明によれば、正常人のボランティアを集め、性別・年齢・仕様放射性薬剤・撮像装置・画像構成法ごとに正常人SPECT画像のデータベースを作成することなく、精度の高い血流低下量画像又は代謝低下量画像を得ることができ、有効な計算機支援診断装置および方法を提供することができる。
本発明の実施例である計算機支援診断装置および方法は、SPECT画像とMRI画像とを融合した痴呆性疾患の計算機支援診断装置において、患者のMRI画像を領域分割する手段、領域分割された各組織に一定の血流値又は代謝値を代入することにより、正常人のSPECT画像を模擬したテンプレート画像を作成する手段、該テンプレート画像と患者のSPECT画像の位置合せを行う手段、前記テンプレート画像と患者のSPECT画像の差分をとり、血流低下量又は代謝低下量の分布を表すDSI画像を作成する手段、前記DSI画像上で血流低下量又は代謝低下量が一定値以上の血流低下部位又は代謝低下部位を、前記MRI画像上に重ね合わせる方式によって、疑似カラー表示する手段、あるいは/および脳表面から深さ方向に一定距離内の血流低下量又は代謝低下量の最大値を抽出する手段、および抽出された血流低下量又は代謝低下量の最大値を上下前後左右の6方向に投影した表面画像を表示する手段を有する。以下、本実施例においては、血流値のみについて説明するが、代謝値についても適用できる事は言うまでもない。
本実施例は、さらにMRI画像を4つの領域(白質・灰質・CSF・その他)に分割することを特徴とする。
本実施例は、さらにテンプレート画像を脳領域の濃度ヒストグラムとSPECT画像の脳領域の濃度ヒストグラムの類似度が最大になるように自動推定する手段、および両者のヒストグラムマッチングによって大脳白質の血流値・大脳灰質の血流値・小脳の平均血流値およびガラシアンフィルタの半値幅を推定する手段を有することを特徴とする。
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
SPECT画像撮像装置は、被写体内に分布したRIから放出されるγ線を検出するため、仮想焦点を構成するファンビームコリメータと、このファンビームコリメータにより選択通過したγ線を光に変換して検出するシンチレータ検出器とからなるガンマカメラを設け、このガンマカメラを用いて収集した投影データを基に被写体におけるRIそのものの分布をγ線の吸収を無視して画像構成するものである。
核磁気共鳴装置(以下、MRI装置という)においては、特定の領域(スライス)に対して高周波磁場(高周波パルス、以下RFパルスという)を照射して領域内の組織を構成する原子の原子核スピン(以下、単にスピンという)を励起し、スピンからのNMR信号をエコー信号として計測するのであるが、静止組織のスピンと血流のように移動するスピンとの違いを利用することにより血流を描出することが可能である。
本発明の全体にわたって、「処理」、「演算あるいは計算」、「作成」、「除去」、「重ね合わせ」、「表示」などの語は、コンピュータ・システム、またはコンピュータ・システムのレジスタおよびメモリ内に電子的数量として表されているデータを処理し、コンピュータ・システムのメモリまたはレジスタ、あるいはそのような他の情報記憶装置,情報伝送装置,情報表示装置内に同様に物理的な数量として表される他のデータに変換する同様な計算機の動作およびプロセスを指す。
以下の実施例では、病気、特に痴呆性疾患について例を取って説明するが、本実施例は痴呆性疾患に限定されず、他の病気に対しても有効に適用できるものである。
図1は、本発明の実施例の概念を示す。図2は図1に示す図の輪郭線図である。
図1(および図2)は実施例である痴呆性疾患の計算機支援診断装置(計算機支援装置)100の概要を示したものである。まず、検査装置1によって、同一患者のSPECTあるいはSPECTおよびPET(SPECT/PET)(機能イメージング)画像2とMRI(形態イメージング)画像3を撮影しておく。そして、MRI画像に領域分割やヒストグラム解析などの画像処理を施すことにより、正常人のSPECT/PET画像2を模擬したテンプレート画像4を作成(合成)する。次に、テンプレート画像4と患者のSPECT/PET画像の位置合わせ(レジストレーション)5を行う。最後に、テンプレート画像4から実測のSPECT/PET画像2を差し引く工程6により、機能や血流低下量の画素ごとの分布を表すDSI画像7を作成し異常部位が医師に分かりやすい形、例えば疑似カラー画像8で表示する。この手法の特徴は同一患者のSPECT/PET画像2とMRI画像3があれば足りる。すなわち、DSI画像7上で血流低下量が一定値(実質的に)以上の血流低下部位を疑似カラー表示を行う。このようにすることによって、3D−SSPなどの正常人データベースを用いることを前提とする従来手法の主要な問題点を解決することができる。
同一患者のSPECT脳血流画像と(3D−)MRI画像が利用できることが前提となるが、多くの病院では痴呆性疾患の診断にMRIとSPECTの両者を撮影することは日常的に行われている。提案するCADにおける画像処理は、図1,図2に示すように大きく以下の3つのステップから構成される。
(1)テンプレート画像の作成
MRI画像を解析して、正常人のSPECT画像を模擬したテンプレート画像を作成する。
(2)位置合わせ
テンプレート画像と患者のSPECT画像の位置合わせを行う。
(3)DSI画像の作成と表示
テンプレート画像とSPECT画像の差分をとり血流低下量の分布を表すDSI画像を作成し、医師に分かりやすい形で表示する。
以下では、各ステップのおける画像処理の詳細について述べる。
○テンプレート画像の作成
MRI画像とSPECT画像では画像の性質が異なるため、MRI画像からテンプレート画像を作成するには表1に挙げた点を考慮する必要がある。これらの点を考慮して、以下の手順によりMRI画像を解析してテンプレート画像を作成する。

Figure 0004581088
(1)脳の外側の構造物(骨と皮膚領域)の除去
MRI画像とSPECT画像から、2値画像処理の手法を用いて骨と皮膚の領域を除去する。
(2)領域分割
MRI画像を4つの領域(白質・灰質・CSF・その他)に分割する。領域分割の手法としては、本研究の一部として開発を行い、クラスタリングの代表的手法であるEMアルゴリズムを高速化した高速EMアルゴリズムを採用する。
高速EMアルゴリズムの概要について説明する。
脳MRI画像の領域分割に良く用いられる方法として、EMアルゴリズム(期待値最大化法)がある。これは、領域分割をクラスタリングの問題として定式化し、『分類』と呼ばれる各画素をその特徴ベクトルが最も近いクラスタに確率的に割り当てる操作と、分類した結果から『クラスタ中心を再計算』する操作を、交互に繰り返すことにより領域分割を実現するものである。しかし、通常のEMアルゴリズムは収束が遅く計算時間が多い問題点がある。そこで、EMアルゴリズムに画素のブロック化と呼ばれる新しい概念を導入して、大幅に(10倍以上)高速化することに成功した。高速EMアルゴリズムでは、図11のように画素の集合を(隣り合う画素が同じ部分集合に入らないように)L個の部分集合(S_1,S_2,…,S_L)に分けておく。まず、S_1だけでEMアルゴリズムの一反復を行い、次にS_2だけでEMアルゴリズムの一反復を行い、以下同様に処理を続け最後にS_LだけでEMアルゴリズムの一反復を行う。これが高速EMアルゴリズムの一反復となる。このように画像をブロックに分けてブロック毎に計算を行うと、EMアルゴリズムの一反復と同じ計算量でL回の反復を行うことができ、約L倍収束は高速化される。ブロック毎に計算を行ったことに起因する精度の低下は、ブロック数Lを極端に大きくとらない限り非常に小さい。ブロックに分割して計算を行って計算量を下げる考え方はPET(ポジトロン)の画像構成などにおいても使用されているが、領域分割への適用は本ケースが始めてである。
(3)小脳領域の同定
解剖学的位置関係から小脳の領域を同定する。
(4)テンプレート画像の作成
次式により、大脳白質・大脳灰質・小脳に一定の血流値を代入したテンプレート画像を作成する。

Figure 0004581088
ただし、は畳み込み演算を表し、式(1)における記号の定義を表2に示す。ガウシアンフィルタで平滑化を行う理由は、テンプレート画像の解像度をSPECT画像の解像度に一致させるためである。

Figure 0004581088
ここで、テンプレート画像を作成するには4つの未知パラメータ(m,m,m,σ)が必要である。これらの値は性別・年齢・使用放射性薬剤・撮像装置・画像再構成法に依存するため、事前に固定した値を用いて十分な精度のテンプレート画像を作成することは困難である。そこで、以下のヒストグラムマッチングと呼ばれる新しく開発した手法により、テンプレート画像の脳領域の濃度ヒストグラムとSPECT画像の脳領域の濃度ヒストグラムの類似度が最大となるように自動推定する。まず、テンプレート画像とSPECT画像の(背景を除いた脳領域の)濃度ヒストグラムhtemp(i),hsp(i)の類似度を評価する相互相関係数を、次式により定義する。

Figure 0004581088
ただし、
Figure 0004581088
は各ヒストグラムの平均をσtemp,σspは標準偏差を示す。式(2)を最大にするパラメータ(m,m,m,σ)を非線形最適化により求める。具体的な非線形最適化法としては、未知パラメータを一つずつ評価量が最大になるように更新することを反復する座標降下法(Coordinate Descent)を用いた。推定する4つのパラメータが正しい値であれば、テンプレート画像とSPECT画像の画素サイズが異なり位置合わせされていなくとも両者の脳領域のヒストグラムは(定数倍を除いて)同じ形になるので、ヒストグラムマッチングにより正しいパラメータが推定できると考えられる。
(5)大脳血流量の正規化
痴呆性疾患では大脳全体の血流値が小脳の血流値より低下している場合があり、このような症例では上述の手順で作成されたテンプレート画像は大脳の血流量が正常人より下がり気味となる。そこで、大脳の血流値を小脳の血流値で正規化してその影響を補正する。小脳の血流値で正規化する理由は、小脳は痴呆性疾患が進行しても血流量が保たれる場合が多いという事実に基づいている。補正したテンプレート画像は次式のように表される。
Figure 0004581088
ただし、m,mは各々大脳と小脳の平均血流値を表す。
○位置合わせ(レジストレーション)
MRI画像とSPECT画像は撮像モダリティが異なるため、並進と回転で表される位置ずれが生じている。テンプレート画像はMRI画像から作成するので、SPECT画像とテンプレート画像の位置合わせを行う。ただし、テンプレート画像とSPECT画像はいずれも血流量分布を表す同じ物理的意味の画像なので、異種モダリティ画像の位置合わせのような複雑な手法(例えば画素値の相違の影響を吸収する相互情報量によるマッチングなどは必要としない。また、同一患者の画像であるため、位置合わせを行う際の座標変換も単純な剛体変換である。本論文は、(1)画像間の相互相関係数を最大にする位置合わせ、(2)単純なモーメントを用いた位置合わせ、の2つの手法を検討した。(1)の方法について述べる。(大脳血流量正規化前の)テンプレート画像とSPECT画像ftemp(x,y,z),fsp(x,y,z)の位置合わせは、SPECT画像を3次元剛体変換することにより行う。その際に、3つの並進パラメータ(Δx,Δy,Δz)と(各座標軸回りの)3つの回転パラメータ(α,β,γ)を推定する必要がある。SPECT画像fsp(x,y,z)をパラメータ(Δx,Δy,Δz,α,β,γ)で剛体変換した画像をf(x,y,z)とすると、ftemp(x,y,z)とf(x,y,z)の相互相関係数は次式で定義される。
Figure 0004581088
ただし、
Figure 0004581088
は各画像の平均をσtemp,σは標準偏差を表す。式(4)を最大にするパラメータ(Δx,Δy,Δz,α,β,γ)を、上述のヒストグラムマッチングと同じ非線形最適化手法により求める。
○DSI画像の作成と表示
各ボクセルにおける血流低下量を表すDSI(Deterioration Score Image)画像DSI(x,y,z)は、(大脳血流量正規化後の)テンプレート画像と位置合わせ後のSPECT画像の差分をとり次式で計算される。
Figure 0004581088
DSI画像はMRI画像上で脳の萎縮を伴わずに血流が低下している部位を表しており、この部位を正確に抽出できれば早期の痴呆性疾患の診断が容易となる。そこで、医師が視覚的に分かりやすくかつ血流低下部位のMRI画像上での解剖学的位置が把握できるように、DSI画像を疑似カラー表示する。表示の方法としては、以下の2つの手法を用いることができる。
(1)MRI画像とDSI画像の合成表示
各スライスにおいて、DSI画像上で血流低下量が一定値以上の血流低下部位を、MRI画像上に重ね合わせて疑似カラー表示する。
(2)表面投影(Surface Projection)による表示
脳表面付近における血流低下量が診断に重要であることから、3D−SSPなどのソフトウェアでは、脳表面から深さ方向に一定距離内の血流低下量の最大値を抽出しそれを上下前後左右の6方向に投影した表面投影画像により処理結果を表示することが行われている。これと同じ表示も行った。
○臨床データによる実験
実験データと評価方法
筑波大学病院において痴呆性疾患と診断された6人の患者(Patient A,B,C,D,E,F)の画像データを処理した。SPECT画像・MRI画像ともに筑波大学病院で撮影されたものであり、画像の取得条件は表3のようになっている。使用したMRI画像はマルチチャンネル(PD,T1,T2)のものである。

Figure 0004581088
処理結果は2人の痴呆性疾患の診断に熟練した医師により評価すると同時に、既存のソフトウェアである3D−SSPによる処理結果との比較を行った。
○処理結果
実行時間は、Pentium(登録商標) 4(3−GHz)プロセッサ・1G−BytesメモリのPCを用いて、1人の患者について約30分であった。図3に、Patient Bの症例におけるMRI画像・SPECT画像・テンプレート画像・DSI画像を示す。図4に図3の輪郭線図を示す。ただし、この症例はDLB(レビー小体型痴呆)である。図5にPatient BのDSI画像を、MRI画像との合成表示と表面投影により表したものを示す。図6に図5の輪郭線図を示す。また、図7にPatient DのDSI画像を、MRI画像との合成表示と表面投影により表したものを示す。図8に図7の輪郭線図を示す。
各図の説明を行う。図3(および図4)は実施例によるPatient Bの処理結果を表している。一段目は、患者のMRI画像の6つの横断面を表している。二段目は、患者のSPECT画像の6つの横断面を表している。三段面は、一段目のMRI画像を解析して作成したテンプレート画像をSPECT画像に位置合わせしたものを表している。四段目は、三段目のテンプレート画像から二段目のSPECT画像を引き算して求めた血流低下量の分布を表すDSI画像である。ただし、DSI画像は灰色が零レベルに相当するグレイスケールで表示している。実施例により、医師がMRI画像とSPECT画像を並べて見て視覚的に判断する血流低下部位と同等の場所を正確に抽出できている。複数の医師による評価においても、この結果がほぼ正しいことの確認がとれている。
図5(および図6)は、Patient BのDSI画像を2つの異なる方法で表示したものを表している。上段は、DSI画像上で血流低下量が一定値以上の画素をMRI画像上に重ね合わせて表示するDSI画像とMRI画像との合成表示の結果である。このような表示法により、血流が低下している部位がMRI形態画像上でどの部位に相当するかを把握することができる。下段は、脳表面近傍の血流低下量の最大値を前後上下左右に投影して表示する投影表示の結果である(一列目から右に向かって右左上下前後から見たもの)。このような表示法により、断面画像を一枚一枚並べて見るのと比較してより簡単に3次元的な血流低下部位の位置を把握することができる。
図7(および図8)は、今回の実験に使用した症例の中で最も解析が上手くいかなかったPatient Dの解析結果を表している。一段目は、患者のMRI画像の6つの横断面を表している。二段目は、患者のSPECT画像の6つの横断面を表している。三段目は、実施例により抽出したDSI画像をMRI画像との合成表示により表示した結果である。四段目は、同じDSI画像を投影表示により表示した結果である。このワーストケースにおいても、提案手法により医師が視覚的に判断するのに近い結果を抽出できている。
2人の医師による評価結果を以下にまとめる。
(1)全体的には、医師がSPECT画像を視覚的に見て判断する血流低下部位を良くとらえている。
(2)各症例の処理結果の細部を見ると、海馬の領域における血流低下量や後頭部のPosterior Cingulateと呼ばれる部分の血流低下量が小さくなりすぎていたり、臨床的知見と一致しない部分が存在する。その原因は、脳に(テンプレート画像に考慮されていない)局所的に血流値が高い場所が元々存在することと、領域分割における灰質と白質の境界の誤差の2つであると考えている。
(3)3D−SSPなどの既存のソフトウェアとの比較を行い、どの程度両者の処理結果が一致するかを検証する必要がある。
○3D−SSP処理結果との比較
図9(および図10)は、脳血流SPECT画像を用いた痴呆性疾患の診断に使われてきた3D−SSPと実施例の処理結果を比較したものである。上段は、実施例で抽出したDSI画像を投影表示により表した結果である。下段は、3D−SSPで抽出したZスコアを投影表示により表した結果である。上段と下段で表示のグレースケールは異なるが、血流が低下していると判断された部位の位置は、実施例と3D−SSPとでほぼ一致している。実験に用いた全ての症例において3D−SSPによる解析結果と実施例の解析結果の間には大きな相関があり、実施例の有効性が確認されている。
Patient Bの症例について、既存のソフトウェアで脳血流SPECT画像に広く適用されている3D−SSPの処理結果との比較を行った。3D−SSPでは、MRI画像からテンプレート画像を作成するのではなく、複数の正常人のSPECT画像と患者のSPECT画像の比較を行い、各ボクセルの血流低下量が正常人の血流値の標準偏差の何倍かを表すZスコアで表示する。
図9に、3D−SSPのZスコアと本実施例のDSI画像を表面投影により表示した結果の比較を示す。図10に図9の輪郭線図を示す。両者を比較すると、血流低下部位の位置はほぼ一致していると言える。ただし、抽出している結果の物理的意味は3D−SSPと実施例で異なる。すなわち、実施例は『脳の萎縮を伴わずに血流が低下している部位の抽出』、3D−SSPは『正常人の血流値と大きく異なる部位の抽出』である。したがって、両者が表す情報には相関はあるが完全に同じにはなり得ず互いに相補的なものである。
統計学的画像解析法の問題点を解決することを目的として、同一患者のSPECT脳血流画像とMRI画像を融合して用いる新しい考え方に基づく脳血流SPECT画像のCAD手法を提案した。特に、統計学的画像解析法では不可欠な正常人データベースを用いなくとも、同一患者のMRI画像を解析して作成したテンプレート画像を代用することで、脳の萎縮を伴わずに血流が低下している部位を抽出できることを示した。
本実施例によれば、正常人データベースが不要な点で統計学的画像解析法と比較してより使いやすいと考えられる。
SPECT画像生成の過程で生じる様々な劣化要因(吸収・統計雑音・部分容積効果・散乱線)を十分に考慮に入れた画像解析を行い、画像処理手法を構成することで精度が向上すると期待される。
ここで、ソフトウェア3D−SSPの概要に説明しておくと次のようである。
3D−SSPはMinoshimaらにより開発された、脳の機能や血流が低下している部位を統計学的な画像解析により抽出し表示するソフトウェアである。特に、SPECT画像を用いた痴果性疾患の診断への有効性が数多く報告されている。3D−SSPでは以下の画像処理を行っている。まず、事前に同じ装置で撮影した複数の正常人の脳血流画像のデータベースを作成しておく。信頼できる解析結果を得るには、同じ装置で同じ条件で撮影した10人以上の正常人によるデータベースが必要であると言われている。そして、患者と(複数の)正常人の脳血流画像を標準の脳形状を表すタライラッハの標準脳座標に非線形変換して脳形状個人差の影響を吸収し、両者の比較を行い患者の脳血流値が正常人の値の標準偏差の何倍違っているかを表すZスコアを画素ごとに算出する。Zスコアの表示法としては、脳表面近傍の血流低下量の最大値を前後上下左右に投影して表示する表面投影表示(Stereotactic Surface Projection)が採用されている。3D−SSPの大きな問題点は、(1)多数の正常人のデータベース作成が必要であり大きな手間がかかること、(2)非線形変換だけで脳形状個人差の影響が完全に吸収されるとは考えにくくその影響による精度低下が避けられないこと、があげられる。3D−SSPと類似の画像解析に基づくソフトウェアとしてFrinstonらにより開発されたSPMがあるが、SPMも3D−SSPと同じ問題点がある。
上述の説明では痴呆性疾患について例を取って説明したが、この画像解析の手法は、SPECT/PETの機能画像を用いた他の病気の診断にも使用できると考えられる。すなわち、MRI/CTで撮影した形態画像から本画像解析の手法でSPECT/PETの機能画像を合成し、これと実測のSPECT/PETの差分をとり機能の異常部分を同定するという手順は、広いクラスの他の病気の診断に共通である。他の病気と痴呆性疾患で違うのは入力として入ってくる画像の種類だけであり、最終的に診断に必要な情報の抽出過程やその中で使用される画像解析や表示の方法はほぼ同じである。例えば、同じような手法が適用できると考えられる具体的な検査事例として、広く病院で行われている一般的なものをあげると脳のSPECT/PET画像を用いたてんかんの診断、FDGにより撮影したPET画像を用いたがん診断、SPECT/PET血流画像を用いた心臓病の診断,などがある。
本発明の実施例の概念を示す図。 図1の輪郭線図。 本実施例によるPatient Bの処理結果を示す図。 図3の輪郭線図。 Patient BのDSI画像を示す図。 図5の輪郭線図。 Patient Dの解析結果を示す図。 図7の輪郭線図。 3D−SSPと本実施例の処理結果を比較して示す図。 図9の輪郭線図。 高速EMアルゴリズムの説明に用いる図。
符号の説明
1…検査装置、2…SPECT/PET(機能イメージング)画像、3…MRI(形態イメージング)画像、4…テンプレート画像、5…位置合わせ(レジストレーション)、6…差し引く工程、7…DSI画像、8…疑似カラー画像、100…計算機支援診断装置。

Claims (11)

  1. SPECT/PET画像とMRI画像とを融合した計算機支援診断装置において、
    患者のMRI画像を領域分割する手段、領域分割された各組織に一定の血流又は代謝値を代入することにより、正常人のSPECT/PET画像を模擬したテンプレート画像を作成する手段、該テンプレート画像と患者のSPECT/PET画像の位置合せを行う手段、前記テンプレート画像と患者のSPECT/PET画像の差分をとり、血流異常又は代謝異常量の分布を表すDSI(Deterioration Score Image)画像を作成する手段を有すること
    を特徴とする計算機支援診断装置。
  2. 請求項1において、前記MRI画像を幾つかの領域に分割することを特徴とする計算機支援診断装置。
  3. 請求項1において、テンプレート画像を対象領域の濃度ヒストグラムとSPECT/PET画像の対象領域の濃度ヒストグラムの類似度が最大になるように自動推定する手段、および両者のヒストグラムマッチングによって各組織の血流値又は代謝値およびガウシアンフィルタの半値幅を推定する手段を有することを特徴とする計算機支援診断装置。
  4. 請求項1において、前記DSI画像上で血流異常量又は代謝異常量が一定値以上の血流又は代謝異常部位を、疑似カラー表示する手段を有することを特徴とする計算機支援診断装置。
  5. 請求項1において、血流異常量又は代謝異常量の最大値を抽出する手段、および抽出された血流異常量又は代謝異常量の最大値を上下前後左右の6方向に投影した表面画像を表示する手段を有することを特徴とする計算機支援診断装置。
  6. SPECT/PET画像とMRI画像とを融合した計算機支援診断装置において、
    患者のMRI画像を取得する手段、領域分割された患者のMRI画像の分割された各組織に一定の血流又は代謝値を代入することにより、正常人のSPECT/PET画像を模擬したテンプレート画像を作成する手段、前記テンプレート画像と患者のSPECT/PET画像とからDSI画像を作成する手段を有すること
    を特徴とする計算機支援診断装置。
  7. 請求項6において、前記DSI画像上で血流異常量又は代謝異常量が一定値以上の血流又は代謝異常部位を、MRI画像上に重ね合わせて疑似カラー表示する手段を有することを特徴とする計算機支援診断装置。
  8. 請求項6において、血流異常量又は代謝異常量の最大値を抽出する手段、および抽出された血流異常量又は代謝異常量の最大値を上下前後左右の6方向に投影した表面画像を表示する手段を有することを特徴とする計算機支援診断装置。
  9. SPECT/PET画像とMRI画像とを融合した計算機作動方法において、
    患者のMRI画像を取得し、領域分割された患者のMRI画像の分割された各組織に一定の血流又は代謝値を代入することにより、正常人のSPECT/PET画像を模擬したテンプレート画像を作成し、前記テンプレート画像と患者のSPECT/PET画像とからDSI画像を作成すること
    を特徴とする計算機作動方法。
  10. 請求項9において、前記DSI画像上で血流異常量又は代謝異常量が一定値以上の血流異常部位又は代謝異常部位を、疑似カラー表示することを特徴とする計算機作動方法。
  11. 請求項9において、血流異常量又は代謝異常量の最大値を抽出し、抽出された血流低下量又は代謝低下量の最大値を上下前後左右の6方向に投影した表面画像を表示することを特徴とする計算機作動方法。
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