JP4576609B2 - レーザーイオン化質量分析方法及びレーザーイオン化質量分析装置 - Google Patents
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Description
しかし、原理的に均質性が高いと考えられる液体マトリックス法を用いても実際にはレーザーを照射する場所によってスペクトルに大きい変動が起きる。したがって、レーザー照射を行う場所を試料設置後の試行錯誤ではなく、予め知ることは重要である。
また、液体マトリックスは真空中での蒸発により質量分析装置の真空槽を汚染する程度が高いと考えられているため、測定時間の短縮が望まれているが、前もってレーザー照射場所が分かれば測定時間を短縮することができる。
そこで、このような問題を改善すべく、サンプル形状の改良方等の手法、例えばサンプル溶液を基板上で乾燥させる際に局所的に気流を吹き付けて結晶成長の速度を制御することにより乾燥試料中に濃度勾配を生じさせ、その情報によりイオン化のためのレーザー照射位置の特定を容易にする手法(特許文献1参照)、サンプル溶液を滴下する基板に局所的に親和性の表面処理を施して乾燥試料を局在化させかつ表面の凹凸の生成を避けて分解能の向上等を図る手法(特許文献2参照)、サンプルの表面の高さを均一にして質量分析のデータの質を向上させるために、金属基板の表面をプラズマ処理することにより親水性をもたせてサンプル溶液が平らに広がるようにする手法(特許文献3参照)などが提案されている。
これらの従来手法のうち、前者はレーザー照射位置の特定を容易にすべく試料の結晶性と濃度勾配を制御するものであるし、また、後二者はイオン化のために設定する電場が試料表面の凹凸により乱されることを避けることを目的とするものである。
(1)サンプル台上の流動性のある試料の厚さや厚さ分布を求め、その結果からパルスレーザーの照射場所を設定することを特徴とするレーザーイオン化質量分析方法。
(2)試料の厚さ又は厚さ分布を求めるのを、顕微鏡での測定により行う前記(1)記載の方法。
(3)パルスレーザーの照射場所を設定するのを、顕微鏡によって求められる厚さ分布データに対して閾値を設定し、当該閾値以上の厚さを有するサンプル台上の試料領域をイオン化領域として設定することにより行う前記(1)又は(2)記載の方法。
(4)パルスレーザーの照射場所を設定するのを、試料の厚さとレーザー照射で生じるイオンの質量スペクトルとの関係を示す検量線と照合することにより行う前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5)サンプル台上の流動性のある試料の厚さや厚さ分布を測定する顕微鏡、及び該顕微鏡での測定により求められた厚さや厚さ分布の測定結果から設定された照射場所へパルスレーザーが照射されるように制御されたレーザー照射装置を備えることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置。
(6)サンプル台上の流動性のある試料の厚さ分布を測定する顕微鏡、及び該顕微鏡での測定により求められた厚さ分布データに対して設定した閾値以上の厚さを有するサンプル台上の試料領域をイオン化領域として設定し、該領域へパルスレーザーが照射されるように制御されたレーザー照射装置を備えることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置。
本発明において、試料には、所定の質量分析に付される対象物としての試料はもちろん、該対象物としての試料とマトリックスとの併用物も包含される。
この位置決め方法或いは領域決め方法は、例えば、試料を溶媒にとった試料液を作製し、この試料液から溶媒を大気中で揮発或いは蒸発させた後に、図1に示すような質量分析装置に設置する場合と同じように、試料の支持された基板やサンプル台を、基板の場合は観察台に設置し、またサンプル台の場合はそのままにし、図2のようにして、顕微鏡を用い横方向から観察して試料の厚さや厚さの分布を計測し、その結果と予め求めた厚さとレーザー照射で生じるイオンの質量スペクトルとの関係を示す検量線と照合することによってレーザー照射位置を設定し、また、顕微鏡によって求められる厚さ分布データに対して閾値を設定し、当該閾値以上の厚さを有するサンプル台上の試料領域をイオン化領域として設定することによってパルスレーザーの照射領域を設定するものである。
本発明は、このような流動性のある試料に有効であるし、また、濃度が均一な試料であれば流動性に乏しいものにももちろん適用できる。
また、本発明は、試料作製時に組成を制御する方法よりも求めやすい厚さをパラメータに用いるのでレーザーの照射位置の設定をより容易に行え、データの再現性を向上させ、測定時間を短縮することができるという利点がある。
(1)測定試料に一般式(CnH2n+1)4NBr(n=2〜8)で表わされるテトラアルキルアンモニウムブロミドを使用し、マトリックスにはN−(4−メトキシベンジリデン)−4−ブチルアニリン(以下MBBAと称す)を使用した。
すべての測定試料を同じモル数ずつ取り、マトリックスと一緒にエタノールに溶解して試料液とした。その中で各(CnH2n+1)4NBrの濃度は6.5×10−5mol/l、MBBAの濃度は2.4×10−1mol/lとなるようにした。
(2)この試料液の3.7μlをピペットを用いて銀製の基板上に図5の斜線で示す範囲で満遍なく塗布し、揮発成分が蒸発して試料の形状が安定するのを待った。
(3)形状が安定化された試料を、図2のように真横から見るように観察台に設置し、実体顕微鏡を基板の中心に焦点が合うようにセットして観察した。その際、撮影画面に同時に写るように、焦点付近に寸法の分かった物体を設置して長さの基準とした。実体顕微鏡で観察した像をカメラで撮影した。写真には基板の鉛直中心線付近の試料表面の輪郭の像がとらえられた。
(4)そのままの状態で清浄な紙で吸い取ることにより試料のみを取り除いて再び撮影した。今度は写真には基板表面の輪郭の像がとらえられた。
(5)2枚の写真の像を紙にトレースし、重ね合わせてその形状より試料の厚さ分布を求めた。それを図6に示す。試料および対象のデータの画像を比べて基板上の位置に対する試料の厚さの分布を求めた。それを図7に示す(ここで示された「レーザー照射位置」とは、質量スペクトルを計測するときの試料のレーザー照射位置に対応するものである。)
(6)MBBAはMALDI質量分析法に用いられるマトリックスであり、窒素レーザーの波長(337nm)付近で強い光吸収を示し、溶解された試料のテトラアルキルアンモニウムブロミドから解離するテトラアルキルアンモニウムイオンをMALDI質量分析で検出しそのイオン強度を次のようにして測定した。
前項の厚さ分布の測定に用いたものと全く同じ方法で作製した試料を、パルス窒素レーザーを備えたレーザー脱離イオン化質量分析装置(図1)の中に、形状観察時と同様の方向に設置して、基板の中心線に沿って下から上へ0.2mmの間隔をあけて照射位置を移動しながら各位置で5回ずつパルスレーザー光を照射し、すべての質量スペクトルをレーザーパルスのショット毎に記録した。スペクトル中のnは(CnH2n+1)4N+イオンを表す。
(7)試料の厚さが薄いところではテトラアルキルアンモニウムイオンの強度がレーザーパルス毎に大きく変動した。その例として、試料の厚さが約29μmの第14照射位置でのレーザーパルス毎のイオン強度の変動を図8に示す。これに対し、試料厚さが厚いところではレーザーパルス毎のイオン強度が安定していた。その例として試料の厚さが約68μmの第5照射位置でのレーザーパルス毎のイオン強度の変動を図9に示す。
これより、あらかじめ試料の厚さ分布を知ることにより、試料の厚さの厚い箇所へパルスレーザーを照射することでパルス毎のイオン強度の変動を抑制しうることが分かる。
Claims (6)
- サンプル台上の流動性のある試料の厚さや厚さ分布を求め、その結果からパルスレーザーの照射場所を設定することを特徴とするレーザーイオン化質量分析方法。
- 試料の厚さや厚さ分布を求めるのを、顕微鏡での測定により行う請求項1記載の方法。
- パルスレーザーの照射場所を設定するのを、顕微鏡によって求められる厚さ分布データに対して閾値を設定し、当該閾値以上の厚さを有するサンプル台上の試料領域をイオン化領域として設定することにより行う請求項1又は2記載の方法。
- パルスレーザーの照射場所を設定するのを、試料の厚さとレーザー照射で生じるイオンの質量スペクトルとの関係を示す検量線と照合することにより行う請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
- サンプル台上の流動性のある試料の厚さや厚さ分布を測定する顕微鏡、及び該顕微鏡での測定により求められた厚さや厚さ分布の測定結果から設定された照射場所へパルスレーザーが照射されるように制御されたレーザー照射装置を備えることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置。
- サンプル台上の流動性のある試料の厚さ分布を測定する顕微鏡、及び該顕微鏡での測定により求められた厚さ分布データに対して設定した閾値以上の厚さを有するサンプル台上の試料領域をイオン化領域として設定し、該領域へパルスレーザーが照射されるように制御されたレーザー照射装置を備えることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置。
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