JP4575354B2 - 肝線維症測定用血清マーカー - Google Patents

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Description

本発明は、哺乳動物における肝線維症、または肝線維症の段階的変化を検出するための方法とキットを提供する。診断マーカーは、血清などの体液中に存在する診断用炭水化物のプロフィール生成および同定に基づいている。
肝線維症は、コラーゲンや他の細胞外基質タンパク質の沈着およびそれらの複雑な高分子への組織化により特徴付けられる。この高分子は、不溶性で肝組織の減失を引き起こす。線維症を構成するコラーゲンや基質タンパク質は、大部分が活性化された肝星状細胞により産生される。星状細胞は、静止状態の脂肪細胞表現型から線維芽細胞表現型へと活性化される。活性化は2段階で起こる:最初に、炎症過程により誘導されるサイトカイン(特にTGF−β)、ケモカイン、その他のシグナル分子により星状細胞が活性化され、引続いて星状細胞の筋線維芽細胞表現型への転換が起き、そこで細胞が増殖し、白血球を誘引し、細胞外コラーゲンおよび基質タンパク質を産生することが可能となる。全ての型の慢性肝炎において、活発な繊維形成が、肝門部周辺(門脈周囲領域または領域1線維症、Metavir線維症段階1)において始まり、次第に小葉の中へ広がりそして中心静脈(領域3)へと拡大し、隔壁形成を伴う(Metavir線維症段階2)。次に、架橋が起こる(Metavir線維症段階3)。線維症の最終段階(Metavir線維症段階4)は、初期肝硬変即ち、肝実質組織の結節状再生を伴う、門部と中心部を結ぶ広範囲な繊維形成である。Metavir方式以外に、HAIスコアのような他の組織学的スコアもまたしばしば用いられる。HAIスコアは、線維症無し(段階0)を、軽度の、架橋無しの線維症(段階1)、架橋線維症(段階3)、および初期肝硬変(段階4)と区別する。肝線維症は、大部分の慢性肝障害を伴い、機能的肝組織領域間の瘢痕組織の成長により特徴付けられる。結合組織の成長自体は、組織傷害への正常な反応であるが、肝線維症へと「オーバーシュート」し得る。線維症の進行速度は、慢性肝疾患の病状を定義する顕著な特徴である。その理由は、この線維症の進行が最終的に肝臓の構造歪曲そして肝硬変へと導くからである。線維症の段階および線維症の進行速度を評価することが重要である。その理由は、ある慢性肝疾病患者は進行が早く、最終的に肝硬変およびそれに伴う生命を脅かす合併症に至り、一方で他の患者は、たとえ進行するにせよ非常に遅く進行し、決して肝関連合併症を併発しない可能性があるからである。したがって、新しく慢性肝疾患と診断された患者には、一般に肝生検が実施される。しかし、これは侵襲性の、しばしば苦痛な診断方法であり、時には重大な合併症を伴う。さらに、肝生検は、線維症段階付けの「黄金の標準」と考えられるが、小領域のみを検査するために、肝疾患の真の状態を低く評価する可能性がある。したがって、肝生検は常用の追跡調査手段として好適なものではない。
肝線維症追跡のための理想的手段は、非侵襲的臨床バイオマーカーであろう。そして、そのバイオマーカー測定値は、線維症段階(肝線維症の段階的変化)と相関していなければならない。数種のマーカーおよびマーカーセットが、この目的に叶うかどうか評価されたが、いずれもこれらの要求を完全に満たすものではない。例えば、血清中に存在する細胞外基質成分が従来使用され、血清ヒアルロン酸が最も信頼できると思われている。しかし、このマーカーについての集積された研究から明らかになったと思われる一致点は、多くの患者に於いて、肝硬変を除外するには極めて信頼性が高いものであり得るが(高い陰性予測値)、肝硬変の検出精度は低い(感度約30%)ということである。臨床化学検体の分布範囲に基づいた「フィブロテスト(Fiblobtest)」のような2値ロジスティック回帰モデルが、最近この目的のために多く研究されている(参考文献 14, 15 and WO0216949)。しかし、これらのマーカーは、慢性肝疾病患者の生検の不要化に必要な、すなわち経過観察設定において初期肝硬変の開始を高信頼度で検出するために必要な、>95%特異度水準での感度が低い。高い特異度と良好な感度を持つ追加の血清マーカーが、肝線維症とその進行を非侵襲的にモニタ−するために必要なことは明らかである。本発明において、われわれは、標準のPCRサーモサイクラーと自動DNAシーケンサー/断片アナライザーを用い、患者の血清タンパク質上に存在するN−グリカンによる翻訳後修飾の高解像度プロフィールを高速で生成する、「臨床グライコミックス」法を開発した。われわれは、血清N−グライコームが、初期肝硬変を、線維症性肝疾病患者から79%の感度および86%の特異度で区別するバイオマーカーとなることを示す。われわれの新しいバイオマーカーを、臨床化学に基づいた「フィブロテスト」バイオマーカー(これは本発明において、初期肝硬変を92%の感度および76%の特異度で検出する)と共に用いる場合は、線維症と初期肝硬変の区別に対する特異度が100%に改善し、一方で感度が75%に保たれることは、重要である。
発明の目的および詳細な説明
現在、慢性肝障害を有する初診患者の診断用精密検査は、線維症段階および活動度を評価し、また初期肝硬変の開始を検出するために肝生検を必要とする10。しかしながら、慢性肝疾病患者の大きなサブグループ(主に慢性ウイルス肝炎、遺伝性またはアルコール乱用関連の肝障害)においては、線維症は種々の速度で進行して肝硬変に至る。これは最終的に重症の合併症11と大きな死亡率につながり、また肝細胞癌12(HCC)発症の主要な危険因子ともなる進展である。肝生検は、患者に重大な不快感を与え、いくらかの合併症13の危険性を伴う方法であり、慢性肝疾病患者の定期的な(一般に毎年の)経過観察に組み入れることは適当でない。したがって、肝線維症の進行を定期的に評価することができ、また最も重大な罹患につながる肝硬変の段階を、確実に検出できるマーカーが臨床的に求められている。本発明において、われわれはこの必要性を満たし、また肝線維症の検出、および既に肝線維症と診断されている患者の肝線維症段階の変化の検出に、臨床的にグライコミックスを応用するための技術的基盤を発展させた。われわれは、血清中に存在する糖タンパク質由来の炭水化物構造の定量的なプロフィールを生成し、これらのパラメーターから導かれる定量的パラメーターと、研究中の患者の組織学的肝線維症段階との間の、統計学的に重要な相関関係を確認した。言い換えれば、驚くべきことに、診断用炭水化物の量、または前記炭水化物間の相対量が、肝線維症の重症度と関連していることが、本発明において確認された。
第1の実施態様において、本発明は、哺乳動物の肝線維症または肝線維症段階の変化を検出する方法であって、(a)炭水化物もしくはそれに由来する断片のまたは前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体のプロフィール、または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の構造により決定される前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の特徴を生成する工程(ここで、前記炭水化物もしくは前記断片は、前記哺乳動物の体液試料中に存在するかまたは単離された、複合糖質の混合物上に存在するかまたは前記複合糖質の混合物から得られたものである);および、(b)工程(a)のプロフィールにおいて、少なくとも1つの、炭水化物もしくはそれに由来する断片または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体の量を、または前記炭水化物プロフィール中に存在する少なくとも1つの炭水化物もしくはそれに由来する断片の特徴を測定する工程;および、(c)肝線維症を検出するために、工程(b)で得られた測定データを、肝線維症を持たない哺乳動物由来のプロフィールから得られた測定データと比較すること、または、肝線維症段階の変化を検出するために、工程(b)で得られたデータを、過去に前記哺乳動物において測定されたデータと比較する工程;および(d)工程(c)で得られた比較の結果を、哺乳動物の肝線維症の検出または肝線維症段階の変化の検出に帰着させる工程;を含む方法を提供する。
「肝線維症を検出する方法」という用語は、広く肝線維症のスクリーニング方法、診断方法、または予知(または監視)方法であると理解できる。「肝線維症段階の変化」という用語は、肝線維症の時間的進展を指し、肝硬変段階の改善(例えば、Metavir段階3からMetavir段階2への)または肝線維症段階の安定化または肝線維症段階の悪化を意味することが出来る。肝線維症段階の変化を検出する方法とは、言い換えれば、過去に肝線維症と診断された患者(または患者の集団)の予後を知るために使用できる監視手段のことである。「比較の結果を帰着させる」という用語は、得ることが出来る他の形の結果を指す。「結果」は、値の増加、値の減少、値の安定性、を含むことができる。あるいは、「結果」は、例えば特定の線維症段階にあると組織学的に確定された患者群の分析から得られるある値の範囲(例えば、95%信頼区間、標準偏差)に入る場合もあり得る。本発明において、Metavir段階4(IV)は、初期肝硬変または線維症後期段階を指し、初期肝硬変および線維症後期段階という用語は等価であることを意味している。また、「肝硬変前」という用語は、ここでは線維症段階1または2または3を指す。
もう1つの実施態様においては、炭水化物プロフィールが肝線維症検出のための診断検査法の作製に用いられ、前記診断検査法は以下の工程を含む:(a)炭水化物もしくはそれに由来する断片のまたは前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体のプロフィール、または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の構造により決定される前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の特徴を生成する工程(ここで、前記炭水化物もしくは前記断片は、前記哺乳動物の体液試料中に存在するかまたは単離された、複合糖質の混合物上に存在するかまたはその複合糖質の混合物から得られたものである);および、(b)工程(a)のプロフィールにおいて、少なくとも1つの、炭水化物もしくはそれに由来する断片または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体の量を、または前記炭水化物プロフィール中に存在する少なくとも1つの炭水化物もしくはそれに由来する断片の特徴を測定する工程;および、(c)肝線維症を検出するために、工程(b)で得られた測定データを、肝線維症を持たない哺乳動物由来のプロフィールから得られた測定データと比較する、または、肝線維症段階の変化を検出するために、工程(b)で得られたデータを、過去に前記哺乳動物において測定されたデータと比較する工程;および、(d)工程(c)で得られた比較の結果を、哺乳動物の肝線維症の検出、または肝線維症段階の変化の検出に帰着させる工程。
「に存在する複合糖質」という用語は、いかなる前記炭水化物の単離段階も経ることなく、複合糖質上で検出される炭水化物を指す。したがって、試料はそのまま用いられ、炭水化物の何の単離段階も含まない:一方、「体液試料から単離された」という用語は、炭水化物が試料中に存在する複合糖質から単離されているという事実を指す。
特定の実施態様において、本発明の方法は、肝線維症に罹患している哺乳動物に施した治療の効果を監視するために用いることが出来る。別の1つの実施態様において、本発明の方法は、特異的に肝線維症を検出する。「特異的に」という用語は、肝線維症を、初期肝硬変および後期段階肝硬変を含む他の肝障害とは異なるものとして診断することが出来ることを指す。
「炭水化物」という用語は、複合糖質の構造中に存在するか、または複合糖質由来のグリカンであって、この分野で周知のグリカンの種類、すなわち、タンパク質のアスパラギンに結合したグリカン(またはN−グリカンとも呼ばれる)またはセリンもしくはスレオニンに結合したグリカン(またはO−グリカンとも呼ばれる)、あるいはグリコサミノグリカンまたはプロテオグリカン由来のグリカン、糖脂質中に存在するかもしくはそれに由来するグリカン、およびGPI−アンカー由来の炭水化物などを含むと理解できる。好ましい実施態様においては、炭水化物はN−グリカンである。「グリカン」という用語と「炭水化物」という用語は、交換可能である。「複合糖質」は、炭水化物部分を含む任意の化合物(例えば、タンパク質または脂質)を意味する。
「複合糖質の混合物」という用語は、少なくとも2の(少なくとも3の、少なくとも4の、少なくとも5の、またはより多くの)前記複合糖質を含む組成物を意味し、場合によっては、タンパク質、脂質、塩、水などの非複合糖質物質も含む。「炭水化物またはそれ由来の断片」という用語は、炭水化物が、断片化過程の生成物中に少なくとも1のオリゴ糖またはその誘導体を生成するように、断片化され得ることを意味する。この断片化過程の他の生成物には、単糖およびオリゴ糖またはその誘導体が含まれる場合がある。オリゴ糖は、単糖としてよく知られた単位が、少なくとも2個、化学的に結合した化学構造から成る炭水化物である。前記断片化過程は、酵素的、化学的、および物理的処理を含むことができる。例えば、炭水化物をグリコシダーゼ酵素(例えば、シアル酸残基を炭水化物から取り去るシアリダーゼ、または炭水化物からフコース残基を取り去るフコシダーゼ)によって処理する(または消化する)ことができ、その結果、得られるプロフィールは炭水化物の断片から成る。グリコシダーゼ消化は例えば、炭水化物のより単純なプロフィールを得るために行うことができる。
シアル酸は、炭水化物の穏和な酸分解という化学的手段によっても除去することが出来る。質量分析法においては、「断片」という用語は、炭水化物が分析の過程で(例えば衝突により誘導された解離により)非常に頻繁に断片化される事実を指す。その場合、断片化生成物は、断片化が生ずる前には炭水化物の構造の一部であった1以上の単糖残存物と化学的に結合したオリゴ糖から構成される、オリゴ糖誘導体を生成する場合もある。そのようなオリゴ糖誘導体が質量分析断片化過程の生成物である例は、クロスリング開裂生成物イオンとして周知である。「前記炭水化物の特徴」とは、性質および/または量がその炭水化物の構造によって決定される任意の測定可能なパラメーターを指す。そのような測定可能なパラメーターの例には、例えば、化学シフト、同核および異核結合定数、核オーヴァーハウザー効果および残存双極子結合、のような核磁気共鳴パラメーターがある。あるいは、そのような測定可能なパラメーターは、前記炭水化物が、炭水化物中の特異的な構造決定因子またはその組み合わせを認識するレクチンや抗体のような他の分子に結合する程度でもよい。さらに、そのような測定可能なパラメーターは、炭水化物が、特定の炭水化物を特異的に修飾するグリコシルトランスフェラーゼおよびグリコシダーゼのような酵素の基質として機能する能力の大きさでもよい。
「複合糖質混合物上に存在するか、または複合糖質混合物から得られた前記炭水化物もしくは前記断片」という表現は、「炭水化物もしくはそれから誘導される断片の、または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体の、または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の構造から決定される、前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の特徴の、プロフィール」が、混合物中の複合糖質に依然として化学的に結合している炭水化物から得られるか、または、酵素的、化学的、または物理的方法で複合糖質から切り離された(単離された)炭水化物から得られるかのどちらかであるという事実を指している。好ましい実施態様においては、N−グリカンを、ペプチドN−グリコシダーゼFまたは他の周知のエンドグリコシダーゼによる酵素消化により、混合物中の糖タンパク質から切り離す。別の実施例では、N−およびO−グリカンを、当業者に知られたヒドラジンを含む方法を用いて切り離すことができる。さらに別の実施例においては、O−グリカンを、周知の方法に従って、アルカリ性条件下でベータ脱離を利用して選択的に切り離すことができる。混合物中の複合糖質に依然として化学的に結合している炭水化物についてプロフィールを取得する場合において、1つの実施態様では、プロフィールを得る前に、複合糖質の非グリカン部分を修飾するために、プロテアーゼや糖脂質の脂質部分を修飾する酵素のような、酵素または化学的手法を使用することが必要である。「炭水化物のプロフィール」という用語は、前記炭水化物についての定性的および/または定量的な情報を含む任意の実体を意味する。例えば、前記炭水化物の電池泳動またはクロマトグラフィーによるプロフィールを意味してもよい。あるケースでは、このプロフィールは前記炭水化物の質量スペクトルである。あるいは、プロフィールは核磁気共鳴解析によって得られた情報でもよい。さらに別の例として、プロフィールは炭水化物に結合するレクチンの定性的または定量的な様相を記述する情報でもよい。または、プロフィールは、その炭水化物がグリコシルトランスフェラーゼまたはグリコシダーゼのような特異的な酵素の基質となり得る範囲を記述する情報であり得る。そのような情報は、グリコシルトランスフェラーゼ反応における等モル量の遊離したヌクレオチドのような、酵素反応の副産物の測定の読み出しを含み得る。特定の実施態様においては、「炭水化物のプロフィールを生成すること」または「炭水化物のプロフ−ルを取得する」とは、グリカン構造を分離し、続いて検出することを意味し得る。通常、多数の炭水化物が、炭水化物のプロフィールの中で同定される。通常、炭水化物は複雑な混合物中に存在し、効率的に検出するためには分離が必要である。分離は、電気泳動とクロマトグラフィーを含む方法によって実施することができる。検出は、抗体検出、レクチン検出、NMR、質量分析、および蛍光を含む方法によって実施される。特定の実施態様においては、グリカンのプロフィールを生成する前に、グリカンを糖タンパク質から化学的および/または酵素的に切り離すことが必要である。糖タンパク質からグリカンを調製する方法は周知である。別の特定の実施態様においては、グリカンを、分離と検出の前に誘導体に変えることが必要である。ある研究方法においては、本発明のグリカンプロファイルを取得する(分離と検出を含む)ための方法を、DNAシーケンサーと組み合わせて実施できる。しかし、この方法をレーザー誘導蛍光検出器に対応したキャピラリー電気泳動装置と結び付けて実施することができることは、当業者にとっては明らかである。そのような装置には、例えば、P/ACEシリーズキャピラリー電気泳動装置(Beckman Instrument, Inc. Fullerton. Calif.)が挙げられる。本発明は、レーザー誘導蛍光検出器に対応した任意の電気泳動装置を用いて、実施できる。別の実施態様において、MALDI−TOF−MSのような質量分析検出方法もまた、少なくとも1つの炭水化物、またはそれから誘導される断片の量を測定するために用いることができる。質量分析法においては、炭水化物は断片化されることが非常に多く、従ってこの方法においては炭水化物の断片が検出される。
さらに別の実施態様においては、流体素子法によりプロフィールを生成することができる。流体素子法は、急成長している分野であり、マイクロチップ産業(フォトリソグラフィおよび化学的ウエットエッチング)から借用した技術により固体媒体(大部分、シリカウェ−ハまたは高純度ガラスプレート)中に作られた狭い口径のチャネルを通る流体移動に基礎を置いている。流体は、毛管現象または能動ポンプ作用によりこれらのチャネルを通って移動することができ、検体は、流体で満たされたチャネル中を電気泳動によって移動できる(Schmalzing et al.(2001)Methods Mol. Biol. 163, 163-173)。さらに別の実施態様において、炭水化物の分離は、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー、またはガスクロマトグラフィーを含む方法を用いるクロマトグラフィーによる分離により実施できる。
「少なくとも1つの炭水化物」という用語は、肝線維症の検出のために診断上重要な、炭水化物のプロフィール中に存在する少なくとも1つの炭水化物の量の測定を指す(前記の少なくとも1つの炭水化物は、したがって、少なくとも1つの診断用炭水化物と呼ぶことができる)。特定の実施態様においては、1つの炭水化物を測定すれば、肝線維症の診断に十分である。このことは、ある場合には、1つの炭水化物が、線維症に罹患している哺乳動物には存在し、線維症でない哺乳動物には存在せず、別のある場合には、1つの炭水化物が線維症でない哺乳動物には存在し、線維症に罹患している哺乳動物には存在しないことを意味している。別のある例においては、1つの炭水化物の異なる量が、線維症に罹患している哺乳動物と線維症でない哺乳動物を区別するのに十分である。好ましい実施態様においては、1つ、2つ、またはそれより多くの(診断用)炭水化物の量が測定される。プロフィール生成方法において、(診断用)炭水化物の量は、例えば、ピークの高さまたはピークの高低を計算することにより測定できる。患者の試料中に存在する、少なくとも1つの(診断用)炭水化物の量を、肝線維症を持たない個体中に存在する、対応する診断用炭水化物のレベルと比較することにより、肝線維症の有無を診断できる。本発明は、ヒトのような哺乳動物から得られる試料に用いることができる。診断用炭水化物は、オリゴ糖でも、多糖類でもよい。診断用炭水化物は、分枝状でも直鎖状でもよい。肝線維症に罹患している個体から得た試料中の診断用炭水化物は、罹患していない(肝線維症でない)個体から得た試料中のそれに比べて、一貫してより多いか、または一貫してより少ない。
「前記炭水化物または前記断片のラベルされた誘導体」という用語は、炭水化物の効率的な検出に役立つ試薬によってラベルされた炭水化物を指す。前記ラベルされた炭水化物はまた、誘導体化された炭水化物とも呼ばれる。例として、蛍光化合物を炭水化物のラベルに使用することができる。前記蛍光化合物はまた、誘導体化された化合物が電気泳動条件下で移動できるように、電荷を持つことが好ましい。蛍光団ラベルが電荷を持たない場合は、電荷を与える化学種と結合させることができる。前記蛍光団ラベルは、また誘導体化された炭水化物を蛍光によって定量的に測定することを可能にする。9−アミノピレン−1,4,6−トリスルフォン酸(APTS)および8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルフォン酸(ANTS)のような蛍光物質が、誘導体化された炭水化物の電気泳動による分離用に特に適している。他の炭水化物の蛍光ラベル用化合物には、2−アミノピリジン(AP)、5−アミノナフタレン−2−スルフォナート(ANA)、1−アミノ−4−ナフタレンスルフォン酸(ANSA)、1−アミノ−6,8−ジスルフォン酸(ANDA)、3−(4−カルボキシベンゾイル)−2−キノリンカルボキシアルデヒド(CBQCA)、ルシファーイエロー、2−アミノアクリドン、および4−アミノベンゾニトリル(ABN)が挙げられる。
特定の実施態様においては、蛍光ラベルされた炭水化物の検出に関しては、既知のどの検出法であっても適用できる。しかし、好ましくは、ダイオードレーザー、He/Cdレーザー、アルゴン−イオンレーザーのようなレーザーを用いて検出が実施される。特定の実施態様においては、電気泳動分離により生成された、ラベルされた炭水化物のバンドのプロフィールが、電荷結合素子(CCD)カメラを基礎にした画像処理システムによって可視化される。CCDカメラからの情報は、次にデジタル形式で記憶され、診断用炭水化物のパターンを、個体間および標準試料間で比較するために、様々なコンピュータプログラムによって解析される。別の特定の実施態様においては、ゲル分離された診断用炭水化物を、固定化メンブレンに転写し、即ち、ブロットし、次に前記診断用炭水化物に特異的なレクチン、またはモノクローナルまたはポリクローナル抗体のような、種々の診断用炭水化物に特異的な試薬により探知することもできる。特定の実施態様においては、本発明は、線維症の個体と線維症でない個体由来の試料中の量が異なる少なくとも1つのグリカン構造および/または複合糖質を、前記少なくとも1のグリカン構造および/または複合糖質に特異的に結合するリガンドを用いて測定し、検出することを含んだ哺乳動物の肝線維症検出方法を提供する。リガンドはレクチンおよび抗体を含む。例えば、体液試料中の「バイセクティングGlcNAc」残基(GnT−III生成物)を有するN−グリカン構造(またはその複合体)の存在量の増加は、Phaseolus vulgarisから、または、例えばより良い特異性を有するその変異株から得た、赤血球凝集レクチン(E−PHA)などのバイセクティングGlcNAcにより修飾されたグリカン(またはその複合体)を特異的に認識するレクチン、またはこのように修飾されたグリカンに特異的な抗体、を用いて検出できる。あるいは、「バイセクティング GlcNAc」残基を有するN−グリカン構造(またはその複合体)の存在量の増加を、N−グリカン(またはその複合体)がバイセクティングGlcNAc残基で置換されなかった場合にのみそのN−グリカンに特異的に結合するレクチンに対するN−グリカン(またはその複合体)の結合の減少によって検出することができる。そのようなレクチンの例は、Canavalia ensiformis から得られるレクチン(Con A)である。血清糖タンパク質N−グリカンの低ガラクトシル化が見られる場合は、これをGriffonia simplicifolia II(GS-II)レクチンのような、末端GlcNAc結合レクチンにより検出できる。あるいは、低ガラクトシル化は、Erythrina crystagelliから得られるレクチンのような末端−ガラクトース結合レクチンの結合の減少により測定できる。
特定の実施態様においては、「炭水化物の構造により決定される特徴のプロフィール」は、特異的なグリコシルトランスフェラーゼの基質であることから構成される炭水化物の特質を測定することにより得られる。好ましい実施態様においては、このグリコシルトランスフェラーゼはβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼであり、炭水化物は血清または血漿タンパク質の全混合物に存在する炭水化物である。この反応の追加の基質は、UDP−ガラクトースであり、反応は計算量のUDPを生成する。そしてプロフィールを、例えば、糖タンパク質を末端β−ガラクトースに特異的なレクチン(例えばRicinus communis およびErythrina crystagalli由来の周知のレクチン、またはCoprinus cinereusなどから得られるガレクチン)に結合させることを含む方法によって、反応の前後での、脱シアル酸化されたタンパク質のガラクトシル化の程度の差を測定することにより、得ることができる。あるいは、プロフィールを、血清または血漿タンパク質の混合物における、β−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ反応で生成されるUDPの量を、例えばHPLCにより測定して得ることができる。UDPの量は、また、例えば、UDPに対してもかなりの加水分解活性を示す酵母のゴルジ GDPaseなどのヌクレオチドジフォスファターゼのような、ヌクレオチド代謝から知られている1以上の酵素との共役酵素反応を用いて測定できる。この後者の場合、プロフィールは、周知の技術を用いてUMPまたはリン酸を測定することにより得られる。UDP測定のさらに別の例は、既知のように、UDP−GalとUDPに対して異なる親和性を持つ超分子膜細孔を用いることを含む。このようにして得られるプロフィールは、例えば、血清または血漿試料中に存在するタンパク質または炭水化物の全量に対して正規化できる。さらに別の実施態様においては、プロフィールが、血清または血漿タンパク質の混合物に存在する炭水化物を、β−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼとシアリルトランスフェラーゼの両方の基質として用い、UDP−ガラクトースと CMP−N−アセチルノイラミン酸を糖ドナー基質とすることにより得られる。この実施態様では、プロフィールは、シアル酸結合レクチン(例えば、Maackia amurensisまたは Sambucus nigra 由来の周知のレクチン)の糖タンパク質への結合の反応前後における差異により、または既知の方法を用いて、反応中に放出されるUDPおよび/またはCMPの量の測定により構成される。
別の実施態様においては、炭水化物のプロフィール生成方法において、炭水化物検体に結合しているラベルとは異なる発色団または蛍光団でラベルされた1以上の内部標準物質を、電気泳動の前に補填してもよい。内部標準物質は、誘導体化された炭水化物の正確で再現可能な電気泳動易動度の決定を、内部標準物質混合液中の成分の易動度との照合により、可能にする。例えば、ローダミンでラベルされたオリゴヌクレオチド標準物質、Genescan (登録商標)500 (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)、または、ローダミンでラベルされた、6,18,30,42マーオリゴヌクレオチド混合物を、プロフィール生成前に、誘導体化されたグリカンに加えることができる。診断用標準物質を、分析用試料をラベルする前にラベルしてもよい。しかし、診断用標準物質は、分析用標準物質のラベルと同時にラベルするのが好ましい。さらに、標準物質中の診断用炭水化物は、分析試料中の診断用炭水化物の量との定量的および定性的な比較ができるように、計量しておくのが好ましい。
「体液」という用語は、血液、血清、血漿、唾液、尿、骨髄液、脳脊髄液、関節液、リンパ液、羊水、乳頭吸引液、などを含む。分析に好ましい体液は、患者から容易に得られるものであり、特に好ましい体液には、血清および血漿が挙げられる。
本発明は、(誘導体化された)グリカンのプロフィールを生成する前に試料を前処理しないで実行できるが、ある実施例においては、分析用試料を、診断用炭水化物の分離と定量化の前に処理することが必要である可能性がある。適用する試料処理の詳細な方法は、試料液の選択と診断用炭水化物の性質に依存する多くの因子によって変化し得る。因子には:診断用炭水化物の存在割合、バックグラウンド炭水化物の濃度、例えば診断用炭水化物バンドの易動度または診断用炭水化物を蛍光ラベルすることに干渉する分子の存在、および蛍光ラベルを誘導体化された診断用炭水化物から分離する必要があるかどうか、が含まれる。この手続きに適した方法、すなわち試料の前処理には:干渉分子(例えば、効率的な質量分析検出のための塩)を除去するための透析;診断用炭水化物を濃縮し干渉分子を除去するための限外ろ過;干渉する粒子を除去し、または細胞を濃縮するための遠心;干渉分子を除去するための沈殿、糖タンパク質の濃縮とそれによる低含量グリカンの濃縮を目的とする血清からのアルブミンの除去、より単純なグリカンプロフィールを生成するためのグリコシダーゼによる脱グリコシル化(例えば、グリカンのシアリダーゼ消化);例えば、血清からアルブミンを除去するためのアフィニティークロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー、が挙げられる。
さらに別の実施態様において、本発明は、哺乳動物の肝線維症または肝線維症段階の変化を検出する方法を提供する。前記方法は、以下の工程を含む:(a)炭水化物もしくはそれに由来する断片または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体のプロフィール、または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の構造により決定される、前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の特徴を生成する工程(ここで、前記炭水化物もしくは前記断片は、前記哺乳動物の体液試料中に存在する複合糖質の混合物上もしくは体液試料に由来する複合糖質の混合物上に存在するか、またはその複合糖質の混合物から得られたものである);および、(b)前記炭水化物のプロフィール中に存在する少なくとも1つの炭水化物もしくはそれに由来する断片の、または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体の、相対量を、測定する工程;および(c)肝線維症を検出するために、工程(b)で得られた測定データを、肝線維症を持たない哺乳動物由来のプロフィールから得られた測定データと比較すること、または、肝線維症段階の変化を検出するために、工程(b)で得られたデータを、過去に前記哺乳動物において測定されたデータと比較する工程;および、(d)工程(c)での測定結果を、哺乳動物の肝硬変、または肝線維症段階の変化、の検出に帰着させる工程。「相対量を測定する」という用語は、少なくとも1つの炭水化物または断片(例えば、1つの特定の炭水化物または断片)の量が2つのプロフィール中で測定できて、1つのプロフィールは肝線維症でない哺乳動物に由来し、別のプロフィールは、多分肝線維症に罹患していて肝線維症と診断されることとなる哺乳動物に由来するものであるという状況を指す。あるいは、ある特定の炭水化物の量を、肝線維症でない哺乳動物から採られた平均の基準範囲と、肝線維症と診断される哺乳動物中の前記特定の炭水化物の測定量との間で比較することもできる。さらに別の実施態様において、「相対量を測定すること」は、動物の体液試料由来の1つの炭水化物プロフィール中に存在する、少なくとも2つの、炭水化物もしくはそれに由来する断片、または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体、または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の特徴、の相対量を測定することを指す。
本発明の別の実施態様においては、炭水化物の相対量を測定できるように、診断用標準物質が、対象試料中の診断用炭水化物の分析に用いるゲルに含まれている。しかし、診断用標準物質が示す情報、例えばバンド移動距離および強度は、分析用試料が置かれた条件に類似した条件下で、以前蛍光団を使用して電気泳動を行った診断用標準物質についての保存記録と比較することによっても、また得ることができる。診断用標準物質は、ポジティブ、即ち、罹患している個体の完全な炭水化物パターンに対応するものであってもよいし、ネガティブ、即ち、罹患していない個体に対応するものであってもよい。前記診断用標準物質は、実際の試料で見出される組成と類似した組成の診断用炭水化物とバックグラウンド炭水化物の両方を含んでいるという意味で、分析用試料の組成と類似した組成を持つものでよい。診断用標準物質は、罹患している個体および罹患していない個体から得られる試料に由来するものでもよい。あるいは、診断用標準物質は、1以上の診断用炭水化物を含んでいてバックグラウンド炭水化物を含まないものでもよい。
特定の実施態様においては、肝線維症、または肝線維症段階の変化を測定する診断技術は、炭水化物の構造のアプリオリな詳細な知識を必要とするものではない。
このようにして、別の実施態様において、本発明は、哺乳動物の肝線維症、または肝線維症段階の変化、を検出するための方法を提供する。前記方法は、次の工程を含む:(a)炭水化物もしくはそれに由来する断片または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体のプロフィール、または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の構造から決定される前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の特徴を生成する工程(ここで、前記炭水化物もしくは前記断片は、前記哺乳動物の体液試料の中に存在するかまたは単離された、複合糖質の混合物上に存在するか、またはその複合糖質の混合物から得られたものである)および、(b)工程(a)のプロフィールにおいて、少なくとも1つの、炭水化物もしくはそれに由来する断片または前記炭水化物もしくは前記断片のラベルされた誘導体の量、あるいは前記炭水化物プロフィール中に存在する少なくとも1つの炭水化物もしくはそれに由来する断片の特徴を測定する工程;ここで、前記の少なくとも1つの炭水化物を次の群から選択する:
i) GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc(グリカン 1)、
ii) GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,4)][GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc(グリカン 2)、
iii)Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,4)][Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc(グリカン 7)、
iv)Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)[Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)]Man(α−1,3)[Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)GlcNAc(グリカン 8)、
v)グリカン1,2,7または8から誘導される断片、
vi)グリカン1,2,7または8のシアル酸化された誘導体、
vii)グリカン1,2,7または8の、あるいはその誘導体またはその断片の特徴;
および、(c)工程(b)で得られた測定データを、肝線維症を検出するために、肝線維症でない哺乳動物由来のプロフィールから得られた測定データと比較する、または、工程(b)で得られたデータを、肝線維症段階の変化を検出するために、前記哺乳動物で以前に測定されたデータと比較する工程;および、(d)工程(c)で得られた比較の結果を、哺乳動物の肝線維症、または肝線維症段階の変化、を検出することに帰着させる工程。
明瞭さのために、ピーク1,2,7および8の構造は、図1に記載した炭水化物プロフィール、および、図5中のこれらの構造の図式表示に対応している。前記炭水化物プロフィールは、脱シアル酸化された(グリカン上にシアル酸が無い)プロフィールであって、ピーク1,2,7および8の構造は、厳密に言えば(シアル酸構造を失った)炭水化物断片であることを意味する。炭水化物が、ここでは、命名のためのIUPAC規則(http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/2carb/38.html)によって表され、図1のピークが本発明中で同定され、それらの短縮命名法および拡張命名法によって表示されている。特許請求の範囲においては、短縮命名法が用いられている。4つの構造の名前を以下にまとめる。
図1のピーク1の脱シアル酸化グリカン構造:
短縮命名法:
GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc
拡張命名法:
β−D−GlcpNAc−(1→2)−α−D−Manp−(1→3)−[β−D−GlcpNAc−(1→2)−α−D−Manp(1→6)]−β−D−Manp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→4)−[α−L−Fucp−(1→6)]−D−GlcpNAc
図1のピーク2の脱シアル酸化グリカン構造:
短縮命名法:
GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,4)][GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc
拡張命名法:
β−D−GlcpNAc−(1→2)−α−D−Manp−(1→3)−[β−D−GlcpNAc−(1→4)][β−D−GlcpNAc
−(1→2)−α−D−Manp−(1→6)]−β−D−Manp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→4)−[α−L−Fucp
−(1→6)]−D−GlcpNAc
図1のピーク7の脱シアル酸化グリカン構造:
短縮命名法:
Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,4)][Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc
拡張命名法:
β−D−Galp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→2)−α−D−Manp−(1→3)−[β−D−GlcpNAc−(1→4)][β−D−Galp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→2)−α−D−Manp−(1→6)]−β−D−Manp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→4)−[α−L−Fucp−(1→6)]−D−GlcpNAc
図1のピーク8の脱シアル酸化グリカン構造
短縮命名法:
Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)[Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)]Man(α−1,3)[Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)GlcNAc
拡張命名法:
β−D−Galp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→2)−[β−D−Galp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→4)]−α−D−Manp−(1→3)−[β−D−Galp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→2)−α−D−Manp−(1→6)]−β−D−Manp−(1→4)−β−D−GlcpNAc−(1→4)−D−GlcpNAc
別の実施態様において、本発明は、哺乳動物の肝線維症または肝線維症段階の変化を測定するための方法を提供する。前記方法は、次の工程を含む:(a)炭水化物もしくはそれに由来する断片または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片のラベルされた誘導体のプロフィール、または前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の構造から決定される前記炭水化物もしくは前記炭水化物断片の特徴を生成する工程(前記炭水化物もしくは前記断片は、前記哺乳動物の体液試料中に存在する複合糖質の混合物上もしくはその体液試料に由来する複合糖質の混合物上に存在するか、またはその複合糖質の混合物から得られたものである);および、(b)グリカン構造1またはその断片とグリカン構造8またはその断片との間の、および/またはグリカン構造2またはその断片とグリカン構造8またはその断片との間の、および/またはグリカン構造7またはその断片とグリカン構造8またはその断片との間の、あるいは、これらの断片、シアル酸化された誘導体または特徴の、相対量を測定する工程;および、(c)工程(b)で得られた測定データを、肝線維症を検出するために、肝線維症でない哺乳動物由来のプロフィールから得られた測定データと比較する、または工程(b)で得られた測定データを、肝線維症段階の変化を検出するために、前記哺乳動物において以前に測定されたデータと比較する工程;および、(d)工程(c)で得られた比較の結果を、哺乳動物の肝線維症、または肝線維症段階の変化、の検出に帰着させる工程。
別の実施態様において、本発明はまた、肝線維症を診断するための、または肝線維症段階の変化を検出するための診断用キットも含む。例えば、診断用キットを、肝線維症の、蛍光団を用いた炭水化物電気泳動診断を実施するために作成することができる。別の例として、診断用キットを、肝線維症の、質量分析診断を実行するために作成することができる。蛍光団を使用した炭水化物電気泳動診断キットは、肝線維症診断を実施するために必要な試薬のコレクションを提供する。適切なキットが、実験室で蛍光団使用炭水化物電気泳動診断を便利に実行できるようにする。キットは、肝線維症を同定するテストを実施するための試薬を含んでもよい。キットは、診断用標準物質、蛍光ラベル、ブロッティング用および結合用材料、例えば、メンブレン、炭水化物特異的結合試薬、レクチン、指示書、試料容器、ポリアクリルアミドゲル試薬、成形ゲル、酵素緩衝液、還元剤(炭水化物を蛍光団ラベルするために用いる)、および、診断用炭水化物を構造的に変化させる反応を触媒できるグリコシダーゼ酵素(例えば、シアリダーゼ、ガラクトシダーゼ、フコシダ−ゼ)、を含んでもよい。さらに完全なキットは、ポリアクリルアミドゲル装置、CCD、レーザー、DNAシーケンサー、コンピューター、ソフトウエア、等のような、蛍光団使用炭水化物電気泳動を実施する装置を含んでも良い。蛍光団使用炭水化物電気泳動診断キットに含まれる試薬は、予め測定した量を供給するのが好ましい。キットは、本発明の蛍光団使用炭水化物電気泳動法を実行するための指示書を含んでいることが好ましい。
診断テストは、通常に訓練を受けた研究室スタッフによる大規模な実施が十分に容易であるため、実際に有用である。さらに、電気泳動を基礎にした高分解能・高感度のDNA配列決定用および突然変異検出用の分析器を既に有する研究室の数が急速に増加しており、また、大部分の臨床研究室が入手可能であり、肝線維症のための新しい診断用グライコミックステストが、それらを用いて稼働できる。さらに、利用できるDNA分析器の範囲内で、各研究室の需要に応じて試料処理能力を1日1台当たりほんの数個から数百の試料とするように容易に調節できる。このDNA分析装置を用いると、全体の分析処理の複雑さを減少させるので、さらに自動化する利点が生ずる。糖タンパク質の全混合物のプロフィールを生成することにより、混合物中の各糖タンパク質の量とグリコシル化パターンの、各糖タンパク質間の小さな変動に対するテストの耐性が増大し、したがって、グリコシル化を、精製された糖タンパク質について研究している現在の古典的な研究方法に比較して、よりロバストなテストが可能になる。
別の実施態様において、肝線維症検出のための方法はさらに臨床化学パラメーターおよび/または組織学的データを含む。したがって、本発明はまた、臨床化学パラメーターおよび/または組織学および/または画像診断パラメーターと組み合わせて便利に実施することができる。臨床化学パラメーターの測定は、ビリルビンおよび/またはアルブミンのレベル、および/またはプロトロンビン時間、および/またはC−反応性タンパク質および/またはIgA量、および/または血清ヒアルロン酸濃度、および/またはアミノトランフェラーゼ、および/または数個の周知の肝代謝テスト、の測定を含む。特定の実施態様においては、国際公開第0216949号記載のフィブロテストの2値ロジスティック回帰モデルを計算し、本発明の診断テストと組み合わせて用いる。
組織学は肝生検を含む。画像診断は、超音波および/またはCT−スキャン、および/またはMRI−スキャンおよび/または、肝臓に特異的な放射性トレ−サーによる画像診断を含む。
以下の実施例を特定の実施態様の説明として提供する。したがって、それらは単に例示であり、限定する性質のものではない。
実施例
データの収集と処理
脱シアル酸化されたN−グリカンのプロフィール(図1)を、研究対象被験者の248の血清試料から得て(表1の血清試料および臨床診断を参照のこと)、われわれは全ての試料中で検出可能であった14のピークを定量化した。それらの存在量をこれらの14ピークの全ピーク高の大きさに対して正規化した。軽度の肝硬変をここでは、古くから知られたChild−Pugh肝硬変分類の3つの生化学的成分(血清アルブミン、全ビリルビン、および、国際標準比(International Normalized Ratio)、後者は凝固速度の尺度である)が基準範囲内の値を持つ患者として定義している。われわれは、これらの3つのマーカーの1つ以上が基準範囲を外れた値を持つ肝硬変患者を「代償不全」と定義する。したがって、「軽度肝硬変」患者群は、現在の生化学的肝硬変評価によっては「非肝硬変」と誤って分類される可能性のある患者であり、このサブグループにとっては、新しいバイオマーカーが真の進歩を意味することが明らかである。われわれは、血清N−グライコーム中の14のピーク中の5が、健康な供血者、非肝硬変慢性肝障害、軽度肝硬変、代償不全肝硬変の順序で次第に高いまたは低い存在量を有するという望ましい傾向を示し、一方、対照群に対しては、相対的に「正常な」存在量を有することを見出した(図6)。ピーク1,2,および7の存在量のこの増加は、ピーク3および8の存在量の減少と逆に相関している(Pearsonのr値が全てに対して−0.5から−0.8の間で変化する:P<0.0001)。それ故、われわれは、ピーク1,2,および7の増加した存在量を、ピーク8の減少した存在量で基準化して新しい変数を作成し、その後この新しい変数を対数変換して、分布を正規化した(図2)。このようにして、データ中の興味ある傾向を3つの変数にまとめ、血清N−グライコームのプロフィール中の4つのピークのみの定量化が必要となった(これらは図1で、ボックスに入れられている;ピーク3を考慮に入れることは、下記の評価によれば、更なる診断情報を加えることにはならなかった)。
肝硬変の検出
3つの新しい変数の中の1つ[Log(Peak7/Peak8);ここで糖肝硬変テスト(GlycoCirrhoTest)と再命名する]に対して、軽度肝硬変群(軽度肝硬変に肝細胞癌を併発した患者を含む)の平均値は、他の全ての試料群の平均値から0.005の有意水準(ANOVA、Tukey's HSD)で、有意に相違していた。他の2つの血清グライコーム由来の変数の平均値もまた他の全ての試料群の平均値から有意に相違していた。しかしより低い有意水準であった(αFW=0.05)。3つの糖パラメーターと「フィブロテスト」の、軽度肝硬変患者(上に定義)と前肝硬変慢性肝疾病患者とを区別する能力を、ノンパラメトリック受信者操作特性(ROC)曲線解析16, 17により評価した。ROC 解析の結果は、曲線下面積(AUC)により測定される分類効率が、糖肝硬変テストと「フィブロテスト」の双方で85−95%であった(図3a,上段)。他の2つの血清グライコームから導かれたパラメーターは、少し低い分類効率を示した(Log(Peak1/Peak 8)ではAUC=0.81±0.07、Log(Peak2/Peak8)ではAUC=0.81±0.06;図3a,下段)。われわれは、次にROC曲線からカットオフ値を計算し、このカットオフ値を用いて、2次元散布図により患者を分類した(図3b、上段パネル)。本研究における肝硬変検出用の、2つの最も性能の良いバイオマーカー(グライコミックスを基盤にした糖肝硬変テスト、および「フィブロテスト」の2値ロジスティック回帰モデル)を組み合わせると、軽度肝硬変の検出に対して、100%の特異度と、75%(18/24)の感度が得られる。全体の分類効率は、93%(76/82)であった。肝硬変に対する古くからある生化学的マーカー(アルブミン、ビリルビン、INR)の少なくとも1つが代償不全である慢性肝疾病患者群も、上記のように計算したカットオフ値を用いて分類したところ(図3b,中段パネル)、この進行した肝硬変に対して100%の感度を示すことが明らかになった。
このように、慢性肝障害と診断されたために肝生検の候補となっていた患者群の中で、われわれの新しい肝硬変検出用のマーカーの組み合わせについては、擬陽性が無く、生化学的に代償作用がある肝硬変患者が75%の感度で検出され、一方で生化学的に代償不全の患者では感度が100%であった。
前肝硬変線維症段階における診断変数の挙動
糖肝硬変テストが、他の2つの血清グライコーム由来のバイオマーカーより優れた分類効率を有することは、組織学的に決定された肝線維症段階18に従ってプロットされたデータの傾向によって説明される(図4)。Log(Peak1/Peak8)と、特にLog(Peak2/Peak8)は、線維症段階がF0/F1から増加して行くにつれて、次第に上昇するが、一方糖肝硬変テストは、F0/F1からF3迄は一定を保つか、少し低下さえし、肝硬変でのみ上昇する。線維症段階とLog(Peak2/Peak8)の値の相関が直線に近い(Spearman順位相関でρ=0.76)ことは、注目に値する。このため、このマーカーは線維症の進行(または進行の無いこと)の経過観察のための、非常に将来性の高いマーカーとなる。「フィブロテスト」モデルについては、この値が、予想通りに線維症段階の増加と共にS字状に増加するのが観測される(2値ロジスティック回帰モデルは0〜1の間で回帰し、その結果必ず両端で漸近的挙動となる)。以前の研究において14、S字状曲線の転移がほぼF2で起こると報告された。本研究で、われわれは転移がF3で起こることを見出した。この差異の理由は不明である。
他の疾患および一般集団の試料における糖肝硬変テストの評価
新しい糖肝硬変テストの特徴をより広く理解するために、われわれは、肝硬変検出用に最適化したカットオフ値を用いて、赤十字供血者の対照群(HBV,HCV,およびHIV陰性の一般集団試料)を分類した。2人(60人中;3%)だけが軽度陽性であった(図3b下パネル,下段パネル)。アルコール常用は供血を排除する基準ではない(そしてアルコール乱用がこの設定では、気付かれない)。そしてこれが、研究が行われたベルギーのフランダースのような低HCV発生地域では、肝硬変の主要原因である。この群の平均年齢(61歳)が比較的高いことを考え合わせると、2〜3%の代償作用のある肝硬変は、予想される範囲である19。われわれは、自己免疫疾患を持つ24名の患者から成る対照群を含めた。これは、血清IgGの低ガラクトシル化が、この疾患の大部分、特にリウマチ性関節炎において20よく立証されてきたからである。IgGグリカンの修飾が全血清糖タンパク質のグリカンパターンに反映されることは、IgGが血清中に約11 g/L存在し、この液体中の肝臓以外で生成される主要な糖タンパク質であることから、明らかである。したがって、われわれは、これら24名の患者、およびわれわれの健康な6人の供血者群の血清から得た免疫グロブリンを、タンパク質Lアフィニティークロマトグラフィーを用いて微量精製し、これらの精製した免疫グロブリン標品のN−グリカンプロフィールを得た。予想通り、自己免疫群からは相対的に強い低ガラクトシル化が検出され、これは主に、非ガラクトシル化コア−α−1,6−フコシル化グリカン(図1の構造1)の存在量の増加に反映されていた(対照より平均55%高い。P=0.01)。さらに、われわれは、免疫グロブリンN−グリカンがバイセクティングGlcNAc残基により置換される度合が強く増加することを発見した。これは図1の構造7を持つグリカンの存在量が平均して2倍になることに反映されている(P<0.0001)。しかしながら、この増加はほとんどの場合、全血清糖タンパク質のN−グリカンパターンを、糖肝硬変テストが陽性となるほどに乱すには不十分であった(4/24が陽性)。われわれは、利用できる血清が不十分であったため、これらの患者のフィブロテストを評価することはできなかった。血清の炭水化物欠乏トランスフェリン21(CDT)レベルの増加が、血清のN−グライコーム肝硬変診断パラメーターに影響したかどうかを評価するため、そのようなCDTが上昇した慢性アルコール依存症患者と上昇していない慢性アルコール依存症患者の血清試料を入手した。CDT陽性群の上記3つの肝硬変診断パラメーターの平均はCDT正常レベル群の平均と、有意に相違してはいなかった(Studentのt-testで、P>0.1)。これは、CDTレベルの差は、われわれの肝硬変マーカーには影響しないことを示している。
存在量が異なるN−グリカンの部分構造解析
われわれは、「健康な」ヒト血清中の糖タンパク質上に存在するN−グリカンの3次元HPLCマッピングを記載した文献報告22中の情報に助けられて、肝硬変において異なる調節を受けている血清N−グリカンについての重要な構造上の情報を得ることができた。さらに、われわれの診断研究から、興味あるピークの広範な量的範囲について試料を入手できた。これは、興味あるピークをエキソグリコシダーゼアレイ処理後のプロフィール中で「追跡する」ために、非常に有益であった。これらの試料の3つについてのエキソグリコシダーゼによる配列決定を図5に示す。構造解析の完全な記述を実施例9中に見出すことができる。この構造解析から要約した結論は、肝硬変においては、低ガラクトシル化されたN−グリカン(ピーク1および2)の存在量の増加、バイセクティングN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基によって修飾されたN−グリカンの増加(ピーク2および7)、および完全にガラクトシル化された、ビおよびトリアンテナのN−グリカンの減少(ピーク3および8)、が存在することである。
通常の分子診断研究室において実施するための技術開発
6.1 PCRサーモサイクラーのみを用いた試料調製
血清N−グライコームのプロフィール生成は診断に有用である、という上記の証拠を得たので、われわれの試料調製用プロトコルにさらなる単純化を計った。標準の加熱蓋付PCRサーモサイクラーを用い、液体の添加/除去と希釈のみを必要とし、手動時間が殆ど無くて、8時間以内に血清から、直ちに分析できるラベルされたN−グリカンを生成することができる方法を開発した(「方法」の項を参照のこと)。その結果得られたプロトコルは、血清糖タンパク質濃度は非常に高く、われわれのグリカン分析法は非常に敏感である(15fモルを容易に検出できる)ことを基盤にしている。その結果、少量の血清試料中の利用できるN−グリカンの量と、分析に必要な量との間には大きな余裕がある。この大きな余裕は、試料調製用プロトコル中のいくつかの段階を、より非効率であるが、より実施しやすくするために犠牲にすることができる。このプロトコルを、以前われわれの標準試料調製法により分析された20の血清試料についてテストした。両方の技術によって決定された前述の3つの診断変数の値は、非常に強く線形相関していた(Pearsonのr≧0.98;図7)。これは、新しいサーモサイクラーを基礎にした方法が、われわれが以前用いたより労力の掛かるイモビロン−P−プレート(Immobilon-P-plate)を基礎にした試料調製法に置き換わることができることを示している。われわれの現在の研究室の実践においては、このプロトコルのためのすべての試薬を、キットの形にまとめており、このため48または96の試料を平行して調製することができる。
6.2 ABI 310 DNA−分析器を用いたキャピラリーゲル電気泳動による血清N−グライコームのプロフィール生成
キャピラリーゲル電気泳動を基礎にしたDNA分析器が、分子病理学研究室で広範に使用されており、DNA配列決定または高解像度DNA断片解析を含む診断検査法に用いられている(固形腫瘍分析、感染症診断−−−など)。これらの分析器は、自動化のレベルが高く、使用が容易であって、臨床診断研究室における運転により適しているため、急速により古い、ゲルを基礎としたDNA分析器に置き換わりつつある。したがって、分子病理学研究室の標準設備におけるわれわれのグライコミックス測定法の具体化を完成するために、われわれは、ABI 310単一キャピラリーDNA解析器を用いた脱シアル酸化された全血清N−グライコームの解析を最適化した。18分間で、ゲルを基礎としたABI 377で得られるよりも、さらに高い分解能を有するロバストなプロフィールを取得するために、標準のDNA解析手法を改善する必要は、わずかしかなかった(図8)。これにより、48のAPTSラベル血清グリカン試料の終夜運転での無人解析が可能となる。サーモサイクラーを基礎にした資料調製と組合せて、われわれはこのようにして、48の試料に対して、分子病理学研究室における代表的なDNA断片解析に必要な程度以上の手動介入することなく、24時間の一巡時間を達成した。複数キャピラリーシーケンサーを利用できるため、必要であれば処理能力を容易に増大することができる。
血清試料と臨床診断
慢性肝障害患者の研究対象群は、ゲント大学病院の胃腸病学および肝臓学教室の肝生検候補患者から成り、根底にある病因(ウイルス性、アルコール性、自己免疫、病因不明;下記参照)には関わらない。患者の年齢と性別、血清アルブミン、全ビリルビン、INR、AST、ALT、GGT、全血清タンパク質、α2−マクログロブリン、ハプトグロビン、および、アポリポタンパク質A1、のデータを得た。血清アルブミン、全ビリルビン、AST、ALT、GGT、および全血清タンパク質を、Modular analyzer (Roch Diagnostics, Basel, Switzerland)を用いて測定した。ハプトグロビン、α2−マクログロブリン、およびアポリポタンパク質A1を、BN II分析器(Dade Behring, Marburg, Germany)を用いた固定時間免疫比濁法により測定した。α2−マクログロブリンとハプトグロビンの測定は、国際CRM 470基準物質(Dati, F. et al.(1996)Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem. 34, 517-520)に対し較正した。アポリポタンパク質A1は、IFCC標準(Albers, J. J. & Marcovina, S. M. (1989) Clin. Chem. 35, 1357-1361)に従い標準化した。上記データ点の1以上が失われた患者は、研究から除外した。α2−マクログロブリン、ハプトグロビン、GGT、年齢、ビリルビン、アポリポタンパク質A1、および、性別を基礎にして、「フィブロテスト」2値ロジスティック回帰モデルのスコアを計算した。このフィブロテストとして知られる2値ロジスティック回帰モデルは、T.Poynard博士(参考文献14,15および国際公開第0216949号)により開発された。われわれは、本発明において(国際公開第0216949号から導かれた)次の式を用いた:f=4.467×Log[α2−マクログロブリン(g/L)]−1.357×Log[ハプトグロビン(g/L)]+1.017×Log[GGT(IU/L)]+0.0281×[年齢(歳)]+1.737×Log[ビリルビン(μmol/L)]−1.184×[アポA1(g/L)]+0.301×性別(女性=0,男性=1)−5.540。われわれはここで、国際公開第0216949号で出願された2値ロジスティック回帰モデルを引用する。生化学的根拠によるChild−Pugh分類に従い代償不全肝硬変患者(少なくとも次の1つに該当:血清アルブミン<3.5g/dl;血清全ビリルビン>2mg/dl,国際標準比>1.7)は、「代償不全肝硬変」群(N=24)に分類し、これらの参加者への不必要な研究に伴う危険を避けるために生検は実施しなかった。82名の他の患者(肝生検を行わないという指標が存在しない)について、肝線維症段階を、経皮的な肝生検を行って評価し、糖肝硬変テストと「フィブロテスト」の結果を隠して、病理学者によるMETAVIR 基準に従った評価をした。生検を受けることを拒否した患者、または解釈可能な生検結果が得られなかった患者は研究から除いた。上記の106名の患者の全ての収集したデータと、慢性肝疾患の病因とを、表1に見ることができる。
Figure 0004575354
慢性B型およびC型肝炎の診断は、6ヵ月以上の期間を隔てて採取した、少なくとも2つの血液サンプルのALTのレベルが(正常の上限より上へ)増加しており、かつ、検出可能なhepBsAgおよびHBV DNA、または、検出可能な抗HCV抗体およびHCV RNAが存在すること、により行った。
自己免疫肝炎の診断は、国際自己免疫肝炎グル−プ(Johnson, J. L. & McFarlane, I.G.(1993)Hepatology 18, 998-1005)が発表した基準に従い行った。慢性アルコール乱用の病歴は臨床面接によって確かめた。
肝硬変患者の中の、肝細胞癌(HCC)の診断は、α−胎児タンパク質の上昇および血管過多病変を実証する一つの映像技術(CTまたはMRI)により行った。α−胎児タンパク質の上昇が存在しない場合は、両映像技術が血管過多領域を実証した時に、HCCと診断した。診断に疑いがあった患者には、局所病巣へのTrucut針生検を実施した。診断を行った臨床センターは、フランダースのHCC標準センターであり、そこは主にコーカサス人である600万の居住者を有するHCCの低発生地域である。
われわれは、慢性アルコール乱用が疑われ、この理由でアントワ−プ(フランダース地方の主要都市)Stuivenbergのアカデミックホスピタル精神科に入院した58人の患者の試料を分析した。炭水化物欠乏トランスフェリンを、% CDT−TIAテスト(Axis Biochemicals, Oslo, Norway)によって測定し、試料群は2つのサブ集団、1つはCDTテスト陽性(CDT 6%以上)、他方は陰性に分けた。精神医学的臨床設定の明細規定により、この患者群からより詳細な情報を得ることは許されないため、われわれは肝疾患段階を評価することはできなかった。そこでここでは、この患者群を、上昇したCDTレベルの肝硬変診断マーカーに対する影響を研究することにのみ使用する。ゲント大学病院リウマチ学教室の専門臨床医によりリウマチ性関節炎、強直性脊椎炎、またはクローン病のうちのいずれかの疾患であると診断された患者の24の試料を含めた。
測定したグリカンに対する標準値を確立するため、赤十字健康基準(HBV、HCV、およびHIV陰性)に対応している60名の供血者からなる対照群を研究した。これらの試料は、ベルギー、ゲントの赤十字輸血センターから得た。
血清免疫グロブリンの ProtLアフィニティークロマトグラフィーを用いた精製と、得られた試料のN−グリカンプロフィールの生成
5μlの血清を130μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と混合し、回転ホイール上で1時間40μlのProtein L−アフィニティー樹脂(Pierce Biotechnology, Rockford, Illinois)とインキュベートした。続いて、樹脂をDuraporeメンブレンで覆った96ウエルのプレート(Millipore, Bedford, Massachusetts)上に捕獲し、300μl PBSで8回洗浄した。次に、結合した免疫グロブリンを、250μlの0.1MグリシンpH=2.0で2回溶出した。これらの標本の免疫グロブリンは、96−ウエルプレートのImmobilon Pメンブレンに結合した。残りのN−グリカン分析手順は、記載の通りであった(Callewaert, N. et al.(2001)Glycobiology 11, 275-281)。プロフィール中の、全信号強度の>95%を説明する7つの最も顕著なピーク(図示せず)を定量化し、全信号強度で規格化した。この研究で重要な、ピーク1およびピーク7に対するデータを以下に示す(表2)。
Figure 0004575354
異なる調節を受けているN−グリカンの部分構造解析(図5参照)
平行して行った研究において(Callewaert, N. et al(2003)Glycobiology 13, 367-375)、われわれは、既に健康な血清のプロフィール中の主要ピークのうち4つの構造を特定した(図5に、構造とそれらのエキソグリコシダーゼ生成物を黒いピークとして示す)。これらの構造を利用できることにより、残りの異なる調節を受けているピークを、プロフィールを通して追跡する作業が、相当程度単純化された。図5の参照パネル(2列目と3列目の最下段のパネル)は、高度に精製された商業的に入手できる(Glyko, Novato, California)脱シアル酸化された構造6、7,および8(図5の番号付け)を有する対照グリカンに、エキソグリコシダーゼの種々の混合物による消化を行うことにより作った。全ての場合において、期待した消化生成物が得られた。図5の大きさを圧縮するため、構造6と8のこの消化の電気泳動図を、図5の2列目の最下段に示した1つのパネルに併合した。構造7(バイセクティングGlcNAc残基を有する)の消化反応物の電気泳動図を、図5の3列目の最下段のパネルに併合した。種々のピークを、番号順ではなく、議論が容易になる順序で検討する。
ピーク3
ピーク3の構造は、ビアンテナ性でビ−β−1,4−ガラクトシル化されていると決定された(Callewaert, N. et al.(2003) Glycobiology 13, 367-375)。このグリカンのHCCおよび/または肝硬変におけるダウンレギュレーションは、低ガラクトシル化された対応物質の存在量の増加と、この基本的なビアンテナ基質が前駆体となる他のビアンテナ性グリカンの増加と整合している。
ピーク8
ピーク8は、2,4−分岐、トリアンテナ性、トリβ−1,4−ガラクトシル化グリカン構造であると決定された(Callewaert, N. et al(2003)Glycobiology 13, 367-375)。
ピーク7
このピ−クは、慢性肝炎患者の血清プロフィールにおいても(図5の左の配列決定列の2段目のパネルにおける第3の矢印)、また正常血清中でも(図示せず)、相対的に小さい存在量で存在する。これの配列決定は、われわれの収集試料の中で最も重篤な血清の1つを示す第3の配列決定列において、最も容易に追跡できる。ピーク7は、このプロフィールの中で、3番目に存在量の大きいグリカンであって、このピークも、またはこれの消化産物も、どの上記対照グリカンまたはそれらの消化産物とも、共に移動することはない。4重エキソグリコシダーゼ消化に至るまでは、この共移動が見られない。これは、これらの対照グリカンには存在しない置換基が存在することを意味する。4重消化の後、ピーク7の消化産物は、トリマンノースコアオリゴ糖よりも、1グルコース単位だけ遅く移動する。これは、このトリマンノースコア上に1個の単糖サイズの置換基が存在することを示している。全健康血清糖タンパク質N−グリカンの3次元HPLCマッピング研究の結果(Nakagawa H. et al(1995)Anal. Biochem. 226, 130-138)を考慮すると、これはバイセクティングGlcNAcでしかあり得ない。この置換基は、ここで用いた条件下で、タチナタマメのβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化に耐性である。この所説は、バイセクティングされた、ビアンテナ性コア−フコシル化対照グリカンのバイセクティングGlcNAc残基が、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼに耐性であることにより確認される(図5の第3配列決定列下の参照パネルを参照のこと)。フコシダーゼ消化が、ピーク7の易動度を1.2グルコース単位シフトさせる。これは、コア−α−1,6−結合フコース残基の存在を示している。補足のβ−1,4−ガラクトシダーゼ消化によって、ピークがさらに2グルコース単位だけシフトし、これは2個のβ−1,4−ガラクトース残基の存在を示している。したがって、われわれは、ピーク7は、バイセクトされたビアンテナ性のビ−β−1,4−ガラクトシル化コア−α−1,6−フコシル化グリカン構造であると結論する。この結果は、全てのピーク7の消化産物が、この構造を持つ対照グリカンの対応する消化産物と共に溶出することによって補強される(図5の第3配列決定列の最下段パネル)。このバイセクティングGlcNAc置換基は、ピーク6が示す構造、即ちピーク3のコア−α−1,6−フコシル化変種、に対するN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT−III)活性の生産物である(ピーク6の構造は付随した研究によって決定された(Callewaert, N. et al(2003)Glycobiology 13, 367-375))。
ピーク1
ピーク1は、フコシダーゼ消化により1.2グルコース単位だけ、無ガラクトシル、ビアンテナ性対照グリカンの位置(中央配列決定列の最下段の参照パネル中の最初のピーク)の方向にシフトする。さらに、ガラクトシダーゼ消化により、ピーク6がこの位置にシフトするために、この位置のピークは、非常に強度が大になる(ピーク6の構造:ビガラクト コア−フコシル化ビアンテナ性グリカン)。総合すると、これらのデータは、ピーク1が、ビアンテナ性、無ガラクトシル、コア−α−1,6−フコシル化グリカンであることを示す。HCCおよび/または肝硬変試料群におけるそのアップレギュレーションは、したがって、血清糖タンパク質の低ガラクトシル化、およびコアフコシル化の増加の組合せが起こっていることを示している。
ピーク2
このピークの同定は、相対的に存在度が低いために、より困難である。しかしながら、それの構造を明確に同定するために十分な情報を導出することができる:シアリダーゼとβ−1,4−ガラクトシダーゼによる二重消化の結果から得られるプロフィールにおいて、ピーク7の生成物は、シアリダーゼパネル中のピーク2と正確に一緒に移動する。続いて、ピーク2は、左の配列決定列(肝炎試料)ではこのスケールでは観測されないが、ピーク2が検出される他の2つの試料をシアリダーゼ+フコシダーゼで二重消化したパターン中に、エキソグリコシダーゼ生成物を同定することができる。フコシダーゼ消化するとピーク2の位置にピークはもはや存在せず、唯1つの消化産物でありうる新しいピークが存在する(中央配列決定列のシアリダーゼ+フコシダーゼ プロフィール中、グレイで強調された最初の矢印)。三重消化プロフィール(β−1,4−ガラクトシダーゼ追加)において、このピークは、ピーク7の消化産物がこのピークと一緒に移動するため、強度がより大になる。ヘキソサミニダーゼ追加の消化により、この位置に何のピークの痕跡もなくなる。これによりわれわれは、ピーク2は、バイセクトされた、非ガラクト コア−α−1,6−フコシル化構造であると結論した。したがって、このピークは、ピーク3とピーク7の構造変化の組合わせを有している、即ち、それはガラクトシル化されておらず、バイセクティングGlcNAc残基を有する。
ピーク9
ピーク9は、以前に特定されており(Callewaert, N. et al(2003)Glycobiology 13, 367-375)、トリアンテナトリガラクト構造の分岐フコシル化誘導体である。
要約すると、肝硬変においては、低ガラクトシル化N−グリカン(ピーク1および2)の存在量が上昇し、バイセクティングN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基により修飾されたN−グリカン(ピーク2および7)が増加し、そして完全にガラクトシル化されたビおよびトリアンテナ性N−グリカン(ピーク3および8)が減少している。
シアル酸化されたN−グリカン プロフィールによる線維症の監視
131の血清試料中に存在する全タンパク質混合物のシアル酸化されたN−グリカンのプロフィールを得た。60の試料が、HBVとHCV陰性の健康な供血者から提供された。この群は有意な肝線維症を有しない(HAI線維症段階0)と想定されたが、これは少し過小評価である可能性がある。12名の患者が、架橋の無い肝門部線維症のみを有する(HAI線維症段階1)と組織学的に決定された。4名の患者が架橋の有る線維症(HAI線維症段階3)を有し、45名の患者が線維症(HAI線維症段階4)であった。この実験の詳細な説明は図9の説明中に見出される。N−グリカンの処理は、シアリダーゼ消化を除外した以外は、「材料と方法」に記載の通りである。
材料と方法
1.血清試料および臨床診断
臨床研究は、ゲント大学病院の地方倫理委員会により承認された。全ての血清供給者からインフォームドコンセントを得た。患者の詳細な特徴付け、および、適用した臨床診断方法は、実施例7に見出される。
2.血清タンパク質N−グライコーム試料の処理
5μlの血清(全体で248)中のタンパク質上に存在するN−グリカンを、Immobilon Pで覆った96ウエルプレートにタンパク質を結合させた後に切り離し、8−アミノピレン−1,3,6−トリスルフォン酸により誘導体化し、脱シアル酸化して、ABI 377A DNAシーケンサー5(Applied Biosystems, Foster City, California)で分析した。PCRサーモサイクラーを用いたグリカン分離およびラベリングに最適化したプロトコルは、次の通りである:1μlの10%SDSを含む20mM NH4Ac緩衝液pH=7を、PCRチューブに入れた5μlの血清に加えた。チューブを95℃5分間、加熱蓋付標準PCRサーモサイクラー中で加熱した。冷却後、1μlの10% NP−40溶液を加え、SDSが有するN−グリコシダーゼF(PNGase F, Glyko, Novato, California)のペプチドを変性させる作用を中和した。1 IUBMB mUのPNGase F添加後、チューブを閉じ、サーモサイクラー中で37℃3時間インキュベートした。続いて、8μlの50mM NaAc,pH5.0を加え、続いて2μUのA.ureafaciensシアリダーゼ(Glyko, Novato, California)を加え、チューブをサーモサイクラー中で37℃3時間インキュベートした。得られた溶液の1μlを新しいPCRチューブに移し、サーモサイクラーを65℃で開き、チューブを開け、蒸発乾燥させた。この蒸発は5分以内に完了し、その後1.5μlのラベル用溶液5をチューブの底に加えた。堅く閉めたチューブを次に90℃1時間加熱した(高温により反応速度が確実に速くなる)。各チューブに150μlの水を加えて反応を止め、ラベルを約100pモル/μlに希釈した。得られた溶液を、上記のようなABI 377による分析、または、標準の47cm ABI DNA分析キャピラリーを備えたABI 310 による次の仕様に従った分析、に使用した:分離マトリックスとして、1:3希釈のGenetic Analyzer緩衝液中でPOP6ポリマー(登録商標)を用いた(全ての材料をApplied Biosystemsから得た)。注入混合液を、APTS由来の血清グリカン溶液(上の段落を参照のこと)を脱イオン化したホルムアミドで1:25に希釈することにより調製した。注入は15kVで5秒間行い、次いで、15kV、30℃で18分間分離した。内部標準として、ローダミンでラベルされたGenescan 2500(ABI)参照(標準)ラダーをメーカーの指定に従って希釈して使用した。この分析の実施のためには、以前記載したように外部冷却槽をABI 377に連結する以外は、シーケンサーのハードウェアまたはソフトウエア(下を参照)の何の変更も、必要ではなかった。
3.データ処理
データ解析を、Genescan 3.1 ソフトウエア(Applied Biosystems)を用いて行った。われわれは、プロフィールの数値的記述を得るために全ての試料で検出可能であった14のピークの高さを定量化し、これらのデータをSPSS 11.0(SPSS Inc., Chicago, Illinois)を用いて解析した。研究した母集団の変数の正規性の仮定を、Kolmogorov-Smirnovテストを用い、0.05有意水準で評価した。1元配置分散分析の次に、αFW=0.0001としたTukeyのHonestly Significant Difference テストを行った。われわれは、可能性のある診断変数の分類効率を評価するために、SPSS 11.0の受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic(ROC))曲線解析を用いた。図4の曲線をノンパラメトリックLowess−回帰を用いて得た。
4.エキソグリコシダーゼ アレイ配列決定による、N−グリカンプールの部分構造解析
上記の方法に従って得たAPTSラベルされたN−グリカンの1回分1μlを、20 mM NaAc pH 5.0中の様々なエキソグリコシダーゼ混合物により消化した。使用した酵素は:Arthrobacter ureafaciens シアリダーゼ(2 U/ml, Glyko); Diplococcus pneumoniaeβ−1,4−ガラクトシダーゼ(1 U/ml, Boehringer, Mannheim, Germany);タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(30 U/ml, Glyko)、およびウシ副精巣α−フコシダーゼ(0.5 U/ml, Glyko)である。単位の定義は、酵素の供給者が定めた通りである。消化が完了した後、試料を蒸発させて乾燥し、1μlの水に溶解し、上記のようにABI 377を用いて分析した。
Figure 0004575354

Figure 0004575354
全血清タンパク質 N−グリカンプロフィールの例。 上のパネルは、マルトオリゴ糖の対照標準を示す。第2のパネルは、対照血清試料中のタンパク質由来の脱シアル酸化N−グリカンの代表的電気泳動図を示す。9個のピークが全検出範囲において明確に観察され、さらに5個が電気泳動図の後半部分の10倍拡大図中に観測される。これら14のピークの高さを、本研究の全試料のプロフィールの数値的記述を得るために使用した。第3のパネルは、肝硬変患者から得られた代表的な電気泳動図を示す。本研究に関係のあるN−グリカンの構造を、パネルの下に示す。また肝硬変マーカーとして特に重要であると分かったピークがボックスで囲まれている。単糖ユニットの記号(図5でも同じ):○ β−結合GlcNAc; ● β−結合Gal; □ α−結合Man; ■ β−結合Man; △ α−1,6−結合Fuc。 導出された診断変数の傾向 血清試料を9つの臨床的に関連するグループに分類した。3個の診断変数を図1に示したプロフィールから導出した:Log(ピーク1/ピーク8)、Log(ピーク2/ピーク8)、およびLog(ピーク7/ピーク8)である。最後の変数を、肝硬変に対する高い診断効率から糖肝硬変テスト(Glyco Cirrho Test)と再命名した。縦軸は対数であることに注意。3変数全てが肝疾患の重症度が増加するにつれてより高い平均値を持つという明確な傾向を示し、特に肝硬変ではそうである(エラーバーは、平均値の95%信頼区間である)。 ROC解析を用いて導出した、3変数の分類効率 図2に示した3変数の、軽度肝硬変試料群と肝硬変前慢性肝疾患群を区別する効率を評価するために、ROC曲線解析を行った。糖肝硬変テストおよび「フィブロテスト」のROC曲線から決定したカットオフ値を、本図のb部で2次元散布図を4象限に分割するために用いた。 ROC解析を用いて導出した、3変数の分類効率 肝硬変試料群と肝硬変前慢性肝疾患群を分類する2次元散布図。最上パネル:生化学的に代償作用のあるHCC有/無の肝硬変患者が、75%感度、100% 特異度で検出される。中段パネル:生化学的代償不全に陥ったHCC有/無の肝硬変患者が、100% 感度で検出される。 ROC解析を用いて導出した、3変数の分類効率 一般集団試料(赤十字供血者)および非肝自己免疫疾病患者にたいする「糖肝硬変テスト」カットオフのテスト。説明は本文参照のこと。これらの個体は通常、生検の候補者ではないが、ある種の自己免疫疾患に典型的なIgGのグリコシル化の変化が干渉する可能性について明らかにするために調査した。 いくつかのグライコームマーカー値は線維症段階に従って段階的に増大する。 3つのグライコーム由来マーカーのデータを、線維症段階に対してプロットした。F0およびF1(無症状または肝門部線維症)は併合した。F0は4例しかなく、またこのグループ分けは、抗−HCV治療を通常これらの患者には開始しないので、臨床的に意味があるからである。段階 F4+ は、生化学的に代償不全となった肝硬変を示す。傾向線を、ノンパラメトリックLowess回帰により生成した。下段の2つのパネルの水平線は、ROC法で決定した肝硬変検出のカットオフ値を表す。糖肝硬変テストが、F0/F1からF3までは比較的安定していて、F4でのみ増加することに注目してほしい。また、「フィブロテスト」モデルの期待されたS字型形状にも注目してほしい。興味深いことに、Log(ピーク1/ピーク2)およびLog(ピーク2/ピーク8)の両者、特に後者が、線維症段階と共に、次第に増大する。Log(ピーク2/ピーク8)に対しては、線形Spearman順位相関が、0.76という高い相関係数を示している。 異なる調節を受けるN−グリカンの部分構造解析 本図の3列は、3つの血清試料中の糖タンパク質に由来するN−グリカンのエキソグリコシダーゼアレイによる配列決定の結果を示す。これらの試料は、本研究で観察された変化の量的範囲を反映するよう選択した。左端の配列決定列は、慢性肝炎試料の分析から得られ、対照のプロフィールである。真中の列は、本文に記載した3つの肝硬変診断変数のカットオフ値を既に越えた、比較的軽度の変化を表す。右の列は最も重篤の試料の1つを分析した結果である。実施例9に記載したピークをこの3つの列に亘って比較することは非常に有益であり、またこの比較ができることが、エキソグリコシダーゼ配列決定パネル全体に亘るピーク追跡を大幅に単純化する。黒く描いたピークは、バイセクティングGlcNAc残基を有しない。この点で、それらは全て、トリマンノシル−GlcNAc2コアオリゴ糖の誘導体と見なすことが出来る。灰色で描いたピークは全て、バイセクティングGlcNAc残基により修飾されており、よって全てバイセクティングGlcNAc置換トリマンノシル−GlcNAc2コアオリゴ糖の誘導体と見なすことが出来る。真中と右の配列決定列の下に示す参照パネルは、異なる電気泳動図から集めたもので、それぞれの電気泳動図が、既知の構造の対照グリカンを特異的エキソグリコシダーゼ消化した結果得られたものである。用いた対照グリカンは:1)トリシアロ、トリガラクト トリアンテナ性;2)コア−α−1,6−結合フコースを有する、ビシアロ,ビガラクト ビアンテナ性(真中列下の参照パネル);および、3)コア−α−1,6−結合フコースおよび、バイセクティングGlcNAc残基を有する、非シアロ,ビガラクト ビアンテナ性(右列下の参照パネル)である。 望ましい傾向を示す、即ち、肝疾患重症度の増加に伴い累進的に増加、または減少する値を示す血清N−グライコームプロフィール中の5ピークのデータ変形。 グループ分けは、図1と同じである。これらのピークを、さらに本文に記載した診断変数を発展させるために使用した。 Immobilon-Pプレートに基づく試料調製方法、および新しいサーモサイクラーに基づく方法により測定された肝硬変検出パラメーター間の厳密な直線的相関。 慢性肝疾患群と健康な対照群からランダムに選ばれた20の血清試料を、双方の試料調製方法を用いて分析した。3個の診断パラメーター、Log(ピーク1/ピーク8)、Log(ピーク2/ピーク8)、およびLog(ピーク7/ピーク8)は、2つの方法間でほとんど完全な直線相関を示している(Pearsonのr≧0.98)。これは、試料の調製方法に関わらず診断結果の信頼性が保たれていることを示す。 ABI310を用いた全血清タンパク質N−グリカンプロフィール解析。 図5の2つの肝硬変試料を、キャピラリー電気泳動に基づくABI310 DNA−分析器を用いて再分析した。本図と図5のデキストラン加水分解物電気泳動図を比較すると気付くように、ABI310を用いた分析は、ABI377ゲルを用いた分析に比較して有意に良好な分解能を持っている。N−グリカンの相対的な移動挙動は、両方法間で少し相違している。これはおそらくキャピラリー法が分離マトリックスとして、架橋したポリアクリルアミドゲルの代わりに直鎖ポリアクリルアミドを用いているためである。 全血清糖タンパク質シアル酸化N−グリカンプロフィール由来の、線維症マーカー 研究中の全N−グリカンプロフィール中に存在する、7つの主要な分離の良いピークのピーク高を定量化し、各プロフィール中の定量化したピークの全存在量に対して正規化した。ピーク1とピーク5は、HAI線維症段階と最も良く相関した(Spearman順位相関テストで評価。それぞれ、ρ=−0.696および0.762)。95%信頼区間をそれぞれ、パネルA、Bに示した。さらに、ピーク1とピーク5のピーク高は相互に良く相関している(Pearson r=−0.827)。それゆえ、われわれは両ピークの比を計算し、分布を正規化するために対数に変換した。これは、全プロフィールの代わりに2つのピークのみを定量化すればよいため、テストがさらに単純化される。導出されたパラメーターlog(sia5/sia1)の95%信頼区間をパネルCに示す。このパラメーターは、HAI線維症段階と良く相関している(Spearman ρ=0.765)。sia5およびsia1は、シアル酸化グリカンのピーク1とピーク5を指す。シアル酸化されたプロフィール中のピーク5は、脱シアル酸化されたプロフィールのピーク1と同じ構造を持つ(実施例9参照)。シアル酸化されたプロフィール中のピーク1は、脱シアル酸化されたプロフィールのピーク3と同じ構造を持つ(実施例9参照)。シアル酸化された構造は、脱シアル酸化された構造と比較して、2つの追加のα−2,6−N−アセチルノイラミン酸を有することに注意してほしい。

Claims (8)

  1. 哺乳動物の肝硬変前肝線維症または肝硬変前肝線維症段階の変化を検出する方法であって、
    a)N−グリカンもしくはN−グリカンに由来する断片または前記N−グリカンもしくは前記断片のラベルされた誘導体のプロフィール、または前記N−グリカンもしくは前記断片の構造により決定される、前記N−グリカンもしくは前記N−グリカン断片の特徴のプロフィールを生成する工程(ここで、前記N−グリカンもしくは前記断片は、前記哺乳動物の体液試料中に存在するかまたは前記哺乳動物の体液試料から単離された、糖タンパク質の全混合物から得られたものである);および、
    b)工程a)のプロフィールにおいて、少なくとも1つのN−グリカンもしくはそれに由来する断片または前記N−グリカンもしくは前記断片のラベルされた誘導体の量、あるいは前記N−グリカンプロフィール中に存在する少なくとも1つのN−グリカンまたはそれに由来する断片の特徴を測定する工程;および、
    c)肝硬変前肝線維症を検出するために、工程b)で得られた測定データを、肝線維症を有しない哺乳動物由来のプロフィールから得られた測定データと比較すること、または肝硬変前肝線維症段階の変化を検出するために、工程(b)で得られたデータを過去に前記哺乳動物において測定されたデータと比較する工程;および、
    d)工程c)で得られた比較の結果を、哺乳動物における肝硬変前肝線維症の検出または肝硬変前肝線維症段階の変化の検出に帰着させる工程;
    を含む方法。
  2. 前記少なくとも1つのN−グリカンが、次の:
    i)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc(グリカン1)、
    ii)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,4)][GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc(グリカン2)、
    iii)Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,3)[GlcNAc(β−1,4)][Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)[Fuc(α−1,6)]GlcNAc(グリカン7)、
    iv)Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)[Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)]Man(α−1,3)[Gal(β−1,4)GlcNAc(β−1,2)Man(α−1,6)]Man(β−1,4)GlcNAc(β−1,4)GlcNAc(グリカン8)、
    v)グリカン1,2,7もしくは8から誘導される断片、
    vi)グリカン1,2,7もしくは8のシアル酸化された誘導体、
    vii)グリカン1,2,7もしくは8、またはその誘導体もしくは断片の特徴、からなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。
  3. 前記量が、グリカン1とグリカン8の間の、および/またはグリカン2とグリカン8の間の、および/またはグリカン7とグリカン8の間の、あるいはそれらの断片、シアル酸化された誘導体、または特徴の間の、相対量として測定される、請求項2記載の方法。
  4. グリカン2とグリカン8またはそれらの断片、シアル酸化された誘導体または特徴の間の相対量が肝硬変前肝線維症段階の直線的変化を測定するために用いられる、請求項3記載の方法。
  5. 前記哺乳動物がヒトである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 前記体液が血清または血漿である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
  7. さらに、患者の年齢と性別、血清アルブミン、全ビリルビン、INR、AST、ALT、GGT、全血清タンパク質、α2−マクログロブリン、ハプトグロビンおよびアポリポタンパク質A1から選ばれる少なくとも1つのパラメーターの測定を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の、哺乳動物の肝硬変前肝線維症または肝硬変前肝線維症段階の変化を検出する方法。
  8. ロジスティック回帰分析がα2−マクログロブリン、ハプトグロビン、GGT、年齢、ビリルビン、アポリポタンパク質A1および性別に基づいて行われる、請求項7記載の方法。
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