図1は本発明を筒内噴射式火花点火機関に適用した場合を示している。しかしながら本発明は圧縮着火式内燃機関に適用することもできる。図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火栓10が配置され、シリンダヘッド4内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。またピストン3の頂面上には燃料噴射弁11の下方から点火栓10の下方まで延びるキャビティ12が形成されている。
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気ダクト15およびエアフロメータ16を介してエアクリーナ(図示せず)に連結される。吸気ダクト15内にはステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結され、この排気マニホルド19は三元触媒20を内蔵した触媒コンバータ21および排気管22を介してNOX吸蔵還元触媒23を内蔵したケーシング24に連結される。排気マニホルド19とサージタンク14とは再循環排気ガス(以下、EGRガスという)導管26を介して互いに連結され、このEGRガス導管26内にはEGRガス制御弁27が配置される。
電子制御ユニット31はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を具備する。エアフロメータ16は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。排気マニホルド19には空燃比を検出するための空燃比センサ28が取付けられ、この空燃比センサ28の出力信号が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。またNOX吸蔵還元触媒23を内蔵したケーシング24の出口に接続された排気管25内には排気ガス中のNOX濃度を検出可能なNOX濃度センサ29が配置され、NOX濃度センサ29の出力信号が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
またアクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ42は例えばクランクシャフトが30度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ42の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路39を介して点火栓10、燃料噴射弁11、ステップモータ17およびEGR制御弁27に接続される。
次に図2を参照しつつ図1に示したNOX濃度センサ29のセンサ部の構造について簡単に説明する。図2を参照するとNOX濃度センサ29のセンサ部は互いに積層された6つの酸化ジルコニア等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなり、これら6つの固体電解質層を以下、上から順に第一層L1、第二層L2、第三層L3、第四層L4、第五層L5、第六層L6と称する。
図2を参照すると第一層L1と第3層L3との間に、例えば多孔質のまたは細孔が形成されている第一の拡散律速部材50と第二の拡散律速部材51とが配置されており、これら拡散律速部材50、51間には第一計測室52が形成され、第二の拡散律速部材51と第二層L2との間には第二計測室53が形成されている。また第三層L3と第五層L5との間には外気に連通している大気室54が形成されている。一方、第一の拡散律速部材50の外端面は排気ガスと接触している。したがって排気ガスは第一の拡散律速部材50を介して第一計測室52内に流入し、斯くして第一計測室52内は排気ガスで満たされている。
一方、第一計測室52に面する第一層L1の面上には陰極側第一ポンプ電極55が形成され、第一層L1の外周面上には陽極側第一ポンプ電極56が形成されており、これら第一ポンプ電極55、56間には第一ポンプ電圧源57により電圧が印加される。第一ポンプ電極55、56間に電圧が印加されると第一計測室52内の排気ガス中に含まれる酸素が陰極側第一ポンプ電極55と接触して酸素イオンとなり、この酸素イオンは第一層L1内を陽極側第一ポンプ電極56に向けて流れる。したがって第一計測室52内の排気ガス中に含まれる酸素は第一層L1内を移動して外部に汲み出されることになり、このとき外部に汲み出される酸素量は第一ポンプ電圧源57の電圧が高くなるほど多くなる。このようにして、陰極側第一ポンプ電極55、陽極側第一ポンプ電極56および第一ポンプ電圧源57は、印加電圧に応じて第一計測室52内の酸素を第一計測室52外へと選択的に排出する第一酸素ポンプセルを構成する。
一方、大気室54に面する第三層L3の面上には基準電極58が形成されている。ところで酸素イオン伝導性の固体電解質では固体電解質層の両側において酸素濃度に差があると酸素濃度の高い側から酸素濃度の低い側に向けて固体電解質層内を酸素イオンが移動する。図2に示した例では大気室54内の酸素濃度の方が第一計測室52内の酸素濃度よりも高いので大気室54内の酸素は基準電極58と接触することにより電荷を受け取って酸素イオンとなり、この酸素イオンは第三層L3、第二層L2および第一層L1内を移動し、陰極側第一ポンプ電極55において電荷を放出する。その結果、基準電極58と陰極側第一ポンプ電極55との間に電圧V0が発生し、この電圧V0が第一モニタ電圧計59によって検出される。この電圧V0は大気室54内と第一計測室52内との酸素濃度差に比例する。このようにして、基準電極58および陰極側第一ポンプ電極55は、第一計測室52内の酸素濃度を検出するための第一モニタセルを構成する。
第一酸素ポンプセルの第一ポンプ電圧源57における印加電圧VP1は、第一モニタセルの第一モニタ電圧計59によって検出された酸素濃度に基づいてフィードバック制御される。図2に示した例では上記電圧V0が第一計測室52内の酸素濃度が1p.p.m.のときに生ずる電圧に一致するように第一ポンプ電圧源57の印加電圧VP1がフィードバック制御される。すなわち、第一計測室52内の酸素は第一計測室52内の酸素濃度が1p.p.m.となるように第一層L1を通って汲み出され、それによって第一計測室52内の酸素濃度が1p.p.m.に維持される。
なお陰極側第一ポンプ電極55はNOXに対しては還元性の低い材料、例えば金Auと白金Ptとの合金から形成されており、したがって排気ガス中に含まれるNOXは第一計測室52内では還元されにくく、NO2をNOに還元する程度である。したがってこのNOXは第二の拡散律速部材51を通って第二計測室53内に流入する。
一方、第二計測室53に面する第一層L1の面上には陰極側第二ポンプ電極60が形成されており、この陰極側第二ポンプ電極60と陽極側第一ポンプ電極56との間には第二ポンプ電圧源61により電圧が印加される。これらポンプ電極60、56間に電圧が印加されると第二計測室53内の排気ガス中に含まれる酸素が陰極側第二ポンプ電極60と接触して酸素イオンとなり、この酸素イオンは第一層L1内を陽極側第一ポンプ電極56に向けて流れる。したがって第二計測室53内の排気ガス中に含まれる酸素は第一層L1内を移動して外部に汲み出されることになり、このとき外部に汲み出される酸素量は第二ポンプ電圧源61の電圧が高くなるほど多くなる。このようにして、陽極側第一ポンプ電極56、陰極側第二ポンプ電極60および第二ポンプ電圧源61は、印加電圧に応じて第二計測室53内の酸素を第二計測室53外へと選択的に排出する第二酸素ポンプセルを構成する。
一方、上述したように酸素イオン伝導性の固体電解質では固体電解質層の両側において酸素濃度に差があると酸素濃度の高い側から酸素濃度の低い側に向けて固体電解質層内を酸素イオンが移動する。図2に示した例では大気室54内の酸素濃度の方が第二計測室53内の酸素濃度よりも高いので大気室54内の酸素は基準電極58と接触することにより電荷を受け取って酸素イオンとなり、この酸素イオンは第三層L3、第二層L2および第一層L1内を移動し、陰極側第二ポンプ電極60において電荷を放出する。その結果、基準電極58と陰極側第二ポンプ電極60との間に電圧V1が発生し、この電圧V1は第二モニタ電圧計62によって検出される。この電圧V1は大気室54内と第二計測室53内との酸素濃度差に比例する。このようにして、基準電極58および陰極側第二ポンプ電極60は、第二計測室53内の酸素濃度を検出する第二モニタセルを構成する。
第二酸素ポンプセルの第二ポンプ電圧源61における印加電圧は、第二モニタセルの第二モニタ電圧計62によって検出された酸素濃度に基づいてフィードバック制御される。図2に示した例ではこの電圧V1が第二計測室53内の酸素濃度が0.01p.p.m.のときに生ずる電圧に一致するように第二ポンプ電圧源61の電圧がフィードバック制御される。すなわち第二計測室53内の酸素は第二計測室53内の酸素濃度が0.01p.p.m.となるように第一層L1を通って汲み出され、それによって第二計測室53内の酸素濃度が0.01p.p.m.に維持される。
なお陰極側第二ポンプ電極60もNOXに対しては還元性の低い材料、例えば金Auと白金Ptとの合金から形成されており、したがって排気ガス中に含まれるNOXは陰極側第二ポンプ電極60と接触しても還元されにくい。
一方、第二計測室53に面する第三層L3の面上にはNOX検出用の陰極側検出電極63が形成されている。この陰極側検出電極63はNOXに対して強い還元性を有する材料、例えばロジウムRhや白金Ptから形成されている。したがって第二計測室53内のNOX、実際には大部分を占めるNOが陰極側検出電極63上においてN2とO2とに分解される。図2に示したようにこの陰極側検出電極63と基準電極58との間には一定電圧源64により一定電圧が印加されており、したがって陰極側検出電極63上において分解生成されたO2は酸素イオンとなって第三層L3内を基準電極58に向けて移動する。このとき陰極側検出電極63と基準電極58との間にはこの酸素イオン量に比例した電流量ISが流れ、この電流量ISは検出電流計65によって検出される。
上述したように第一計測室52内ではNOXはほとんど還元されず、また第二計測室53内には酸素はほとんど存在しない。したがって電流量ISは排気ガス中に含まれるNOX濃度に比例することになり、斯くして電流量ISから排気ガス中のNOX濃度を検出できることになる。このようにして、陰極側検出電極63、基準電極58および一定電圧源64は、排気ガス中のNOX濃度を検出するための検出セルを構成する。
図3は電流量ISと排気ガス中のNOX濃度との関係を示している。図3から電流量ISは排気ガス中のNOX濃度に比例していることがわかる。一方、排気ガス中の酸素濃度が高いほど、すなわち空燃比がリーンであるほど第一計測室52から外部に汲み出される酸素量が多くなり、ポンプ電流計66によって検出される電流量IPが増大する。したがってこの電流量IPから排気ガスの空燃比を検出することができる。
なお第五層L5と第六層L6との間にはNOX濃度センサ29のセンサ部を加熱するための電気ヒータ67が配置されており、この電気ヒータ67によってNOX濃度センサ29のセンサ部は700℃から800℃に加熱される。
上述した説明では、第一酸素ポンプセルの第一ポンプ電圧源57における印加電圧VP1および第二酸素ポンプセルの第二ポンプ電圧源61における印加電圧VP2は、それぞれ第一モニタセルの第一モニタ電圧計59および第二モニタセルの第二モニタ電圧計62によって検出された電圧にから算出された酸素濃度に基づいてフィードバック制御されるとしたが、このフィードバック制御には一定の制限が課される。この理由を第一ポンプセルを例にとって説明する。
図4に第一ポンプ電圧源57の電圧VP1とポンプ電流計66によって検出される電流量IPとの関係を示した。図4においてA/F=16で示した曲線は排気ガスの空燃比が16であるときの電圧VP1と電流量IPとの間の関係を示し、A/F=18で示した曲線は排気ガスの空燃比が18であるときの電圧VP1と電流量IPとの間の関係を示し、Airで示した曲線は排気ガス中の酸素濃度が大気中の酸素濃度に等しいときの電圧VP1と電流量IPとの間の関係を示している。
図4から判るように電圧VP1が零から増大すると電流量IPも徐々に増大し、電圧Vが一定の範囲内に到達すると電流量IPはほぼ一定の値となり、さらに電圧VP1がこの一定の範囲を超えて増大すると電流量IPは再び徐々に増大する。この傾向はいずれの曲線においても同じであるが電圧VP1に無関係にほぼ一定の値をとるときの電流量IPの値が各曲線で異なる。したがって電圧VP1を変化させても電流量IPの変化がほとんどない電圧VP1を第一ポンプ電極55、56間に印加するようにすればそのときに検出される電流量IPの値から排気ガス中の酸素濃度を知ることができ、逆に、電圧VP1を変化させても電流量ISの変化がほとんどない電圧VP1を第一ポンプ電極55、56間に印加しなければ排気ガス中の酸素濃度を知ることができない。
さらに、電圧VP1が曲線A/F=16に関しては電圧Va、曲線A/F=18に関しては電圧Vb、曲線Airに関しては電圧Vcを超えると電流量IPが若干増大する。これは電圧VP1が一定値以上とされたことにより排気ガス中のNOXが窒素N2と酸素O2とに分解されて排気ガス中の酸素濃度が増大したためである。すなわち第一ポンプ電極55はNOXに対して還元性の低い材料から形成されているが第一ポンプ電極55、56間に一定値以上の電圧を印加するとNOXは第一ポンプ電極55により窒素N2と酸素O2とに分解される。したがって検出セルにおいてNOX濃度を検出するためには、第一ポンプ電極55においてNOXが窒素N2と酸素O2とに分解されないように第一ポンプ電極55、56間の印加電圧、すなわち第一酸素ポンプセルの第一ポンプ電圧源57における印加電圧VP1は上記一定値以下にしなければならない。
したがって、第一酸素ポンプセルの第一ポンプ電圧源57における印加電圧VP1のフィードバック制御においては、第一酸素ポンプセルにより排気ガス中の酸素濃度を検知するため、および第一酸素ポンプセルの第一ポンプ電極55においてNOXを分解しないようにするために、第一酸素ポンプセルの第一ポンプ電圧源57における印加電圧VP1が、電圧を変化させたときの電流量IPの変化がほとんどない電圧であって上記一定値以下の電圧となるような範囲内に維持される。
ところで、上述したNOX濃度センサ29、特に検出セルにより検出されるのは直接的には排気ガス中のNOX濃度ではなく電流量ISである。すなわち排気ガス中のNOX濃度を知るためにはNOX濃度センサ29により検出される電流量ISをNOX濃度に換算する必要がある。ここで本実施形態では排気ガス中のNOX濃度が零であるときにNOX濃度センサ29により検出される電流量ISを基準電流量IS0とし、NOX濃度が変化したときにその変化量に応じて変化する電流量IS、すなわち単位NOX濃度に相当する電流量ISを単位電流量ISuとして図3に示したようなNOX濃度センサ29により検出される検出電流量ISとNOX濃度との関係を導き出し、この関係に基づいてNOX濃度を推定するようにしている。
ところが上記基準電流量IS0はNOX濃度センサ29ごとに異なる。また上記基準電流量IS0はNOX濃度センサ29の経時的な劣化により徐々に変化する。ここで基準電流量IS0を常に正確に把握していなければNOX濃度センサ29により正確なNOX濃度を検出することはできない。云い換えればNOX濃度センサ29によりNOX濃度を正確に検出するためには常に電流量ISに基づいてNOX濃度を算出するときに正確な基準電流量IS0を用いる必要がある。
このため基準電流量IS0を適宜更新する必要があるが、このような更新方法として例えば以下の方法が考えられる。すなわち、基準電流量IS0は排気ガス中のNOX濃度が零であるときにNOX濃度センサ29により検出される電流量であるため、排気ガス中のNOX濃度が零となっている条件下でNOX濃度センサ29によって検出された電流量ISを基準電流量IS0として更新する方法である。排気ガス中のNOX濃度が零となっている条件下とは、例えば、内燃機関の燃焼室5内への燃料供給を停止する制御(以下、「フューエルカット制御」と称す)が行われている間、機関始動前および機関停止後等が挙げられる。
ここで、フューエルカット制御中に基準電流量IS0を更新する場合について考える。図5は、フューエルカット制御を開始してから各種パラメータの変化の様子を示した図である。図5(a)を参照すると、時刻t0においてフューエルカット制御が開始されて内燃機関の燃焼室5内への燃料供給量Qが零にされる。その後、時刻t1において、燃焼室5内で燃焼が行われていないときの排気ガス、すなわち酸素を多量に含んだ排気ガスがNOX濃度センサ29に到達し、第一計測室52に流入する。このため第一計測室52内の排気ガス中の酸素濃度が急激に上昇し、これに伴って第一酸素ポンプセルのポンプ電流計66によって検出される電流量IPが上昇する。一方、モニタセルの第一モニタ電圧計59に基づいて算出される第一計測室52内の酸素濃度も高くなるため、それに伴って第一ポンプ電圧源57の印加電圧VP1も上昇せしめられ、第一酸素ポンプセルの酸素排出能力が高められる。
しかしながら第一酸素ポンプセルの酸素排出能力はフューエルカット制御による排気ガス中の酸素濃度の急上昇に追従することができず、よって第一計測室52内の排気ガスから完全には酸素を除去することができない。これは、第一ポンプ電圧源57の印加電圧VPがフィードバック制御により調整されているので応答遅れがあること、および図4を参照して説明したようにフィードバック制御では一定以上に電圧を上げることができないことによる。
このため、内燃機関においてフィードバック制御が開始されて酸素濃度の高い排気ガスがNOX濃度センサ29に達しても、第一計測室52および第二計測室53内の酸素濃度は低下しにくい。また、一旦計測室内の排気ガスの酸素濃度が上昇してしまうと、各電極の表面上に酸素が吸着してしまい、酸素濃度が低くなった後にその吸着された酸素が離脱せしめられるため、計測室内の排気ガス中の酸素濃度が安定しない。このため、図5(a)に示したように、検出電流計65によって検出される電流量ISは徐々に低下することとなり、安定するまでに時間がかかる。
基準電流量IS0を更新するためには、計測室内の排気ガスの酸素濃度がフューエルカット制御を行っていない場合と同程度にまで安定している必要があり、よって検出電流計65によって検出される電流量ISが安定しなければ基準電流量IS0を更新することができない。このため、基準電流量IS0を更新するためには電流量ISの安定を待つ必要がある。しかしながら、フューエルカット制御は長期間継続的に行われるような制御ではないため、多くの場合、電流量ISが安定する前にフューエルカット制御が終了してしまう。このため、上述した方法では実際には機関運転中に基準電流量I0を更新するのは困難である。
そこで、本実施形態では、図5(b)に示したようにフューエルカット制御の開始と同時に第一ポンプ電圧源57の印加電圧VP1を上昇させる高電圧制御が実行される。このときの印加電圧VP1は、拡散律速部材50を介して第一計測室52に空気が導入される場合にフィードバック制御により第一ポンプ電圧源57が印加すると予想される電圧と同程度以上であり、この電圧よりも高いのが好ましい。
高電圧制御が開始されると、フューエルカット制御により酸素濃度の高い排気ガスがNOX濃度センサ29に到達する前から第一酸素ポンプ電圧源57の印加電圧VP1が上昇せしめられるため、上述したように第一酸素ポンプセルの陰極側第一ポンプ電極55において排気ガス中のNOXが窒素N2と酸素O2に分解されると共に第一計測室52内の排気ガス中の酸素が排出される。このため、第二計測室53内の排気ガス中のNOXおよび酸素は減少し、ほぼ零となる。よって、図5(b)に示したように、時刻t0の後直ぐにNOX濃度センサ29の出力電流量ISはほぼ零となる。
その後、時刻t1において、フューエルカット制御により酸素濃度の高い排気ガスがNOX濃度センサ29に到達しても、酸素ポンプセルの第一ポンプ電圧源57の印加電圧VP1は高く維持されており、よって酸素ポンプセルによる酸素排出能力は高く維持されるため、第一計測室52内に流入した酸素は第一計測室52内で滞留することなく排出される。したがって、本実施形態では、フューエルカット制御を開始してからも、第二計測室53内の排気ガス中の酸素濃度が高いものとなることはなく、よってNOX濃度センサ29の出力電流量ISもフューエルカット制御開始後、直ぐに安定する。
上記高電圧制御は、フューエルカット制御によりNOX濃度センサ29周りの排気ガスの酸素濃度が空気の酸素濃度に相当する濃度にまで上昇してから、終了せしめられる(時刻t3)。すなわち、フューエルカット制御が行われた場合、NOX濃度センサ29周りの排気ガスの酸素濃度が急激に上昇する過渡状態にあるときには一時的に高電圧制御が行われ、酸素濃度が安定すると再びフィードバック制御が行われる。酸素ポンプセルは酸素濃度の高い排気ガス中の酸素を第一計測室52内から排出するのに十分な排出能力を有するため、高電圧制御を終了して再びフィードバック制御を開始しても酸素濃度は低いまま維持される。
したがって、本実施形態によれば、フィードバック制御開始から比較的短時間で、第二計測室53内にほとんどNOXが存在せず且つほとんど酸素が存在しない状態(より詳細には、酸素ポンプセルの印加電圧がフィードバック制御されている場合における第二計測室53内の酸素濃度と同程度の酸素濃度となっている状態)となる。この時、検出電流計65によって検出される電流量ISは排気ガス中のNOX濃度がほぼ零であり、且つ酸素濃度がほぼ零であるときの電流の量、すなわち基準電流量IS0に相当する。そして本実施形態によれば斯くして得られた基準電流量IS0が現在の基準電流量IS0と置き換えられる。したがって、本実施形態によれば、フューエルカット制御開始から比較的短時間で基準電流量IS0を更新することができ、この基準電流量IS0を用いて正確なNOX濃度が算出される。
なお、基準電流量IS0を更新するために検出電流計65によって検出される電流量ISを用いるのは、高電圧制御が終了してから僅かに時間が経過してからであるのが好ましい。これは、高電圧制御が終了してフィードバック制御に切り換えたばかりの時期には、第二計測室54内の酸素濃度が僅かな時間だけ安定しないことも考えられるためである。
図6は基準電流量IS0を更新するための基準電流量更新制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図6を参照すると、まずステップ101においてフューエルカット制御(F/C)の実行中であるか否かが判定される。フューエルカット制御の実行中であるか否かは、ECU31から燃料噴射弁11への指令等に基づいて判断される。ステップ101においてフューエルカット制御実行中であると判定された場合にはステップ102へと進む。ステップ102では、時間カウンタTCに1が加算される(TC=TC+1)。時間カウンタTCは、フューエルカット制御が開始されてからの時間を表すカウンタである。次いで、ステップ103では、時間カウンタTCが第一所定時間TC1未満であるか否かが判定される。ここで、第一所定時間TC1は、フューエルカット制御開始から酸素濃度の高い排気ガスがNOX濃度センサに到達するのに必要と予想される時間よりも長い予め定められた時間である。
ステップ103において、時間カウンタTCが第一所定時間TC1未満であると判定された場合(TC<TC1)には、ステップ104へと進み高電圧制御が実行される。一方、ステップ103において、時間カウンタTCが第一所定時間TC1以上であると判定された場合(TC≧TC1)にはステップ105へと進む。ステップ105では、時間カウンタTCが第二所定時間TC2未満であるか否かが判定される。ここで、第二所定時間TC2は、第一所定時間TC1に僅かな時間を加えたものである。ステップ105において、時間カウンタTCが第二所定時間TC2未満であると判定された場合(TC<TC2)にはステップ106へと進む。ステップ106では、第一ポンプセルの第一ポンプ電圧源57における印加電圧VP1はフィードバック制御により決定される。ただし、時間カウンタTCが第二所定時間TC2未満であると判定された場合には、基準電流量IS0の更新が行われない。これは、高電圧制御からフィードバック制御に切換えた場合に、切換えが行われてから僅かな時間においては応答遅れ等によりNOX濃度センサ29の出力電流量ISが安定しないためである。
一方、ステップ105において、時間カウンタTCが第二所定時間TC2以上であると判定された場合(TC≧TC2)にはステップ107へと進む。ステップ107では、引き続きフィードバック制御が行われる。次いで、ステップ108では、このときNOX濃度センサ29によって検出された電流量ISが基準電流量IS0とされる。
その後、フューエルカット制御が終了せしめられると、次のルーチンにおいてステップ101からステップ109へと進む。ステップ109では、時間カウンタTCが零にリセットされ(TC=0)、次いでステップ110では、第一モニタ電圧計59の出力電圧V0に基づいて第一ポンプ電圧源57における印加電圧VP1のフィードバック制御が行われる。
図7はNOX濃度センサによってNOX濃度を算出するためのNOX濃度算出制御のルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。まず、ステップ121では、NOX濃度センサ29により電流量ISが検出される。次いでステップ122では、ステップ121で検出された電流量ISおよび基準電流量IS0に基づいて、下記式(1)によりNOX濃度が推定される。
DNOX=(IS−IS0)/ISu
ここで、ISuは単位電流量であり、本実施形態では予め定められている。
なお、上記実施形態では、フューエルカット制御と高電圧制御とは同時に実行されることとしているが、これら制御は同時に実行されなくてもよい。すなわち、高電圧制御の開始時期は、フューエルカット制御が開始されてからこのフューエルカット制御により酸素濃度の高い排気ガスがNOX濃度センサ29に到達するまでの間であれば、如何なる時期に高電圧制御を開始してもよい。
また、上記説明では、高電圧制御において第一ポンプ電圧源57の印加電圧VP1のみを上げるものとしているが、同様に第二ポンプ電圧源61の印加電圧VP2を上げるようにしてもよい。
ところで基準電流量IS0だけでなく単位電流量ISuもNOX濃度センサ29ごとに異なり、またNOX濃度センサ29の経時的な劣化により徐々に変化する。ここで単位電流量ISuを正確に把握していなければNOX濃度センサ29によりNOX濃度を正確に検出することはできない。したがって基準電流量IS0の場合と同様に正確な単位電流量ISuを常に把握する必要がある。
そこで本発明の第二実施形態では以下の方法に従って単位電流量ISuを適宜、更新して常に正確な単位電流量ISuを用いてNOX濃度を検出するようにする。すなわち、本実施形態ではフューエルカット制御が実行されたときに第一ポンプ電圧源57の印加電圧VP1および第二ポンプ電圧源61の印加電圧VP2を零とする。内燃機関の燃焼室5への燃料供給が停止されたときには第一の拡散律速部材50を通って第一計測室52内に流入する排気ガス中の酸素濃度は大気中の酸素濃度にほぼ等しい。しかも排気ガス中のNOX濃度は零である。そして第一ポンプ電圧源57の電圧が零とされるので第一計測室52内の排気ガスからは酸素は汲み出されず、したがって第二の拡散律速部材51を通って第二計測室53に流入する排気ガス中の酸素濃度も大気中の酸素濃度にほぼ等しい。さらに第二ポンプ電圧源61の電圧が零とされるので第二計測室53内の排気ガスからも酸素は汲み出されない。したがって検出電流計65により検出される電流値ISは大気中の酸素濃度に相当する値である。大気中の酸素濃度は既知の値であるのでこのときの電流値ISと基準電流量IS0とに基づいて単位電流量ISuを算出することができ、斯くしてNOX濃度センサ29により検出される電流量ISと排気ガス中のNOX濃度との関係を正確に知ることができる。これにより本実施形態によれば排気ガス中のNOX濃度をNOX濃度センサ29により正確に検出することができる。
図8は、単位電流量の算出制御の制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割り込みによって実行される。まず、ステップ201において、フューエルカット制御(F/C)の実行中であるか否かが判定される。ステップ201においてフューエルカット制御実行中であると判定された場合にはステップ202へと進む。ステップ202では、時間カウンタTCに1が加算される(TC=TC+1)。次いで、ステップ203では、第一ポンプ電圧源57の電圧VP1および第二ポンプ電圧源61の電圧VP2が零とされる。次いで、ステップ204では、時間カウンタTCが第三所定時間TC3以上であるか否か、すなわちフューエルカット制御を開始して両ポンプ電圧源57、61の電圧が零とされてから第三所定時間TC3が経過しているか否かが判定される。第三所定時間TC3は、フューエルカット制御の開始および両ポンプ電圧源57、61による電圧印加中止が行われてから検出電流計65によって検出される電流量ISが安定するまでに必要と考えられる予め定められた時間である。
ステップ204において、フューエルカット制御の開始等を実行してから第三所定時間TC3が経過していないと判定されると(TC<TC3)、制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップ204において、フューエルカット制御の開始等を実行してから第三所定時間TC3が経過するとステップ205へと進む。ステップ205では、検出電流計65によって検出される電流量ISが検出される。次いで、ステップ206では、検出電流計65によって検出された電流量ISを所定値aで除算することにより、単位電流量ISuが算出される。(ISu=IS/a)。ここで、所定値aは、空気と同程度の酸素濃度に相当する電流量ISから単位NOX濃度に相当する単位電流量ISuを算出するのに用いられる係数である。算出された単位電流量ISuは、図7のステップ122において利用される。
なお、第一実施形態の濃度検出装置と第二実施形態の濃度検出装置とを組合せ用いることも可能である。この場合、フューエルカット制御が実行されたときに図6に示した基準電流量IS0を更新するための基準電流量更新制御と、図8に示した単位電流量の算出制御とを同時に実行することができないため、例えばフューエルカット制御が行われる毎に交互に実行する等して、これら両制御を別々のタイミングで実行することが必要である。
また、本発明の適用は、上記実施形態に示した構成のNOX濃度センサに限定されるものではなく、少なくとも一つの酸素ポンプセルと、少なくとも一つの検出セルを有すれば如何なるNOX濃度センサであってもよい。このようなNOX濃度センサの構成の別の例としては、図9に示したNOX濃度センサ70が挙げられる。
図9を参照すると第一層L1と第三層L3との間には測定室71が形成され、第三層L3と第五層L5との間には外気に連通している大気室72が形成されている。第一層L1には測定室71に通じる開口73が形成されていると共に第一層L1の外面上には開口73を覆うように拡散律速部材74が設けられる。拡散律速部材74の外面は排気ガスと接触しており、したがって排気ガスは拡散律速部材74を介して測定室71内に流入し、斯くして測定室71内は排気ガスで満たされている。
第一層L1の両面上にはそれぞれ一つずつ電極75、76が配置され、これら電極間にはポンプ電圧源77によって電圧が印加される。これら電極75、76およびポンプ電圧源77は、計測室71内の排気ガスから酸素を排出する酸素ポンプセルを構成する。このポンプ電圧源77により印加される電圧は、上記電極75、76間に流れる電流、すなわち当該酸素ポンプセルが排出した酸素量に基づいてフィードバック制御される。一方、第三層L3の両面上にもそれぞれ一つずつ電極78、79が配置され、これら電極間には検出電圧源80によって電圧が印加される。検出電圧源80の電圧は一定であり、この一定電圧を印加した場合に電極78、79間に流れる電流に基づいて排気ガス中のNOX濃度が検出される。このように構成されたNOX濃度センサにおいても、上記実施形態と同様にフューエルカット制御中に基準電流量および単位電流量を検出することにより、NOX濃度を正確に算出することができる。
なお、上記説明では、NOX濃度センサのみについて言及しているが、排気ガス中の他の成分を検出するセンサについても本発明を適用することができる。ただし、この場合、センサによって検出対象となっている成分(以下、「検出対象成分」と称す)を検出する際に、酸素が存在すると検出対象成分の濃度と共に酸素濃度も一緒に検出してしまうので、このような事態を防止するために予め酸素を排出しておく酸素ポンプセルを設けなければならないようなセンサであることが必要である。