JP4553290B2 - ケモカインslc−il2融合タンパク質とその遺伝子 - Google Patents
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Description
本発明は、ケモカインSLCとIL−2からなる融合タンパク質およびその製造方法、該融合タンパク質をコードする遺伝子、該融合タンパク質をコードする遺伝子を含む遺伝子治療用発現ベクター及び該融合タンパク質を含む癌治療用医薬組成物に関する。
背景技術
インターロイキン−2(IL−2)は、主に活性化されたT細胞より産生されるサイトカインの一つである。その生理作用はT細胞の増殖・活性化、B細胞の増殖と抗体産生能の増強、NK細胞増殖と活性化、単球・マクロファージの活性化などである(Smith,K.,Annu Rev Immunol.2:319−333,1984)。ヒトインターロイキン−2(hIL−2)は、153個のアミノ酸ならなる前駆体がまず作られ、N末端の20個のシグナルペプチドがプロセッシングを受けて、133個のアミノ酸からなる成熟型のIL−2となる。hIL−2の直接的全身投与による抗腫瘍効果がいくつかの腫瘍で報告されている。また腫瘍細胞にhIL−2遺伝子を導入することによる腫瘍原性の低下は報告されているが、腫瘍免疫の誘導は弱いと考えられている(Dranoff,G.et al.,Proc.Natl Acad Sci USA.90,3569−3543,1993)。
ケモカインは内因性の白血球遊走・活性化作用を有するヘパリン結合性ポリペプチドの総称である。ケモカインは保存されている4つのシステイン残基のうちN末端の2つのシステイン残基が1つのアミノ酸で隔てられているか(CXC)、隣り合っているか(CC)、例外的に1つのみであったり、三つのアミノ酸で隔てられているか(CX3C)によって、4つのサブファミリーに分類される。CC型ケモカインSLC(secondary lymphoid−tissue chemokine、別称 6−C−kine、TCA−4、Exodus−2)はCC型ケモカインの1つである。ヒトケモカインSLCは、134個のアミノ酸からなる前駆体がまず作られ、N末端の23個のシグナルペプチドがプロセッシングを受けて、111個のアミノ酸からなる成熟型のSLCとなる。ケモカインSLCに対する特異的受容体はCCR7であることが知られている(Yoshida,R.,et al.,J Biol Chem.273:7118−7122,1998)。ケモカインSLCは、CCR7を発現するナイーブT細胞、メモリーT細胞、B細胞に対する遊走活性を有している(Gunn,M.D.,et al.,Proc Natl Acad Sci USA.95:258−263,1998)。
発明の開示
IL−2はそのN末端に別のタンパク質を融合してもその生理活性を損なわない例が知られている。一方、ケモカインはそのC末端に別のタンパク質を融合させても其の活性が失われない事例が知られている。そこで、本発明者らは、停止コドンを含まないCC型ケモカインSLCのアミノ酸配列をコードする塩基配列とサイトカインIL−2の成熟型蛋白をコードする塩基配列とを接続することにより、単一の遺伝子とし、CC型ケモカインSLCとしての遊走活性およびサイトカインIL−2としての生理活性を同一分子内に有する人工融合タンパク質をコードする人工融合遺伝子を構築し、この遺伝子に係る真核細胞発現ベクター、さらに該発現ベクター導入動物細胞株を樹立し、その培養上清中に人工融合タンパク質を生産することに成功した。
生産された融合タンパク質は、単一分子内にケモカインSLC、IL−2の両方の生理活性を示すすぐれた性質を有する融合タンパク質であることを確認し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)N末端側にケモカインSLCを構成するアミノ酸配列を有し、かつIL−2を構成するアミノ酸配列を含む融合タンパク質;
(2)ケモカインSLCおよびIL−2がマウスまたはヒト由来である上記(1)に記載の融合タンパク質;
(3)ケモカインSLCを構成するアミノ酸配列が配列番号:2の24位のSerから134位のProに記載のアミノ酸配列であり、かつIL−2を構成するアミノ酸配列が配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列である上記(1)または(2)に記載の融合タンパク質;
(4)配列番号:2の24位のSerから134位のProに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列を含む上記(1)から(3)のいずれかに記載の融合タンパク質;
(5)配列番号:2の24位のSerから134位のProに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列からなる上記(4)に記載の融合タンパク質;
(6)配列番号:2の1位のMetから134位のProに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列からなる上記(4)に記載の融合タンパク質;
(7)上記(5)に記載の融合タンパク質が、配列番号:6の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質;
(8)上記(6)に記載の融合タンパク質が、配列番号:6の1位のMetから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質;
(9)上記(5)記載の融合タンパク質が、配列番号:26の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質;
(10)上記(6)記載の融合タンパク質が、配列番号:26の1位のMetから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質;
(11)上記(3)から(10)のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、かつケモカインSLC活性およびIL−2活性を有する融合タンパク質;
(12)ケモカインSLCを構成するアミノ酸配列が配列番号:8の24位のSerから133位のGlyに記載のアミノ酸配列であり、かつIL−2を構成するアミノ酸配列が配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列である上記(1)または(2)に記載の融合タンパク質;
(13)配列番号:8の24位のSerから133位のGlyに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列を含む上記(12)に記載の融合タンパク質;
(14)配列番号:8の24位のSerから133位のGlyに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる上記(13)記載の融合タンパク質;
(15)配列番号:8の1位のMetから133位のGlyに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる上記(13)記載の融合タンパク質;
(16)上記(14)記載の融合タンパク質が、配列番号:12の24位のSerから284位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質;
(17)上記(15)記載の融合タンパク質が、配列番号:12の1位のMetから284位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質;
(18)上記(12)から(17)のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、かつケモカインSLC活性およびIL−2活性を有する融合タンパク質;
(19)上記(1)から(18)のいずれかに記載の融合タンパク質をコードするDNA;
(20)配列番号:5に記載の70位のaから808位のtまでの塩基配列を含む上記(19)記載のDNA;
(21)配列番号:5に記載の1位のaから808位のtまでの塩基配列を含む上記(20)記載のDNA;
(22)配列番号:25に記載の70位のaから808位のtまでの塩基配列を含む上記(19)記載のDNA;
(23)配列番号:25に記載の1位のaから808位のtまでの塩基配列を含む上記(22)記載のDNA;
(24)配列番号:11に記載の1位のaから852位のaまでの塩基配列を含む上記(19)記載のDNA;
(25)配列番号:11に記載の1位のaから852位のaまでの塩基配列を含む上記(24)記載のDNA;
(26)上記(19)から(25)のいずれかに記載のDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつケモカインSLC活性およびIL−2活性を有する融合タンパク質をコードするDNA;
(27)上記(19)から(26)のいずれかに記載のDNAを含むプラスミド;
(28)上記(19)から(26)のいずれかに記載のDNAを含む発現ベクター;
(29)遺伝子治療用である上記(28)に記載の発現ベクター;
(30)上記(28)または(29)に記載の発現ベクターを宿主に導入して得られる形質転換体;
(31)上記(30)に記載の形質転換体を培養する工程、および産生された上記(1)から(18)のいずれかに記載の融合タンパク質を培養培地から回収する工程を包含する、該融合タンパク質の製造方法;
(32)上記(1)から(18)のいずれかに記載の融合タンパク質を含む医薬組成物;
(33)上記(29)記載のベクターを用いた癌の治療方法;
(34)上記(32)記載の医薬組成物を用いた癌の治療方法;および
(35)癌治療薬を製造するための上記(32)記載の医薬組成物の使用、
に関する。
本発明の融合タンパク質は、そのN末端側にケモカインSLCを有し、かつIL−2を含む融合タンパク質である。
「ケモカインSLC」の由来は特に限定されないが、好ましくはヒトまたはマウス由来のタンパク質である。成熟ヒトケモカインSLCは、配列番号:2の24位のSerから134位のProに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。シグナル配列を含むヒトケモカインSLCは、配列番号:2の1位のMetから134位のProに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。成熟マウスケモカインSLCは、配列番号:8の24位のSerから133位のGlyに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。シグナル配列を含むマウスケモカインSLCは、配列番号:8の1位のMetから133位のGlyに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。「IL−2」も、その由来は特に限定されないが、好ましくはヒトまたはマウス由来のタンパク質である。成熟ヒトIL−2は、配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。シグナル配列を含むヒトIL−2は、配列番号:4の1位のMetから153位のThrに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。成熟マウスIL−2は、配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。シグナル配列を含むマウスIL−2は、配列番号:10の1位のMetから169位のGlnに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。
本発明の融合タンパク質は、好ましくはN末端側にケモカインSLCを有し、リンカー及びIL−2を含む融合タンパク質であり、N末端側にシグナル配列を含んでいてもよい。本発明の融合タンパク質がヒト由来のケモカインSLCとIL−2を含む場合には、好ましくは、配列番号:6の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質または配列番号:26の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。さらに好ましくは、配列番号:6の1位のMetから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質または配列番号:26の1位のMetから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。本発明の融合タンパク質がマウス由来のケモカインSLCとIL−2を含む場合には、配列番号:12の24位のSerから284位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。更に好ましくは、配列番号:12の1位のMetから284位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。
「リンカー」とは、前後のタンパク質に対して立体障害を起さない1以上のアミノ酸残基であれば特に制限されないが、好ましくはアミノ酸数が20以下のアミノ酸残基である。更に好ましくは、グリシン、セリンからなるアミノ酸残基である。
また、本発明の融合タンパク質には、「配列番号:6の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、かつケモカインSLC活性およびIL−2活性を有する融合タンパク質」、「配列番号:26の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、かつケモカインSLC活性およびIL−2活性を有する融合タンパク質」、「配列番号:12の24位のSerから284位のGlnに記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、かつケモカインSLC活性およびIL−2活性を有する融合タンパク質」も含まれる。「アミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加」の程度及びそれらの位置等は、改変されたタンパク質が、配列番号:6、26または12で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同様にケモカインSLC活性およびIL−2活性を有するタンパク質であれば特に制限されない。なお、これらアミノ酸配列の変異等は、天然において、例えば突然変異や翻訳後の修飾等により生じる場合もあるが、本発明DNAに基づいて人為的に改変することもできる。本発明のタンパク質は、このような改変・変異の原因・手段を等を問わず、上記特性を有する全ての改変DNAによりコードされるタンパク質を含む。
本発明において「ケモカインSLC活性」とは、「ケモカインSLC特異的受容体であるCCR7(Mark Birkenbach et al.,J.Virol.,67:2209−2220,1993)を発現する細胞の遊走能」を意味する。「遊走能」とは、好中球、顆粒球、リンパ球あるいはマクロファージなどの炎症性細胞や免疫担当細胞の血管内皮細胞への吸着、血管外への移動、障害を受けた組織や抗原の存在する組織への集積を意味する。「IL−2活性」とは、「IL−2依存性細胞株の増殖能」を意味する。
本発明のDNAとは、「本発明のタンパク質をコードするDNA」を指す。本発明のDNAとして、好ましくは、配列番号:6、26または12に記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質をコードするDNAであり、更に好ましくは、配列番号:5に記載の70位のaから808位のtまでの塩基配列を含むDNA、配列番号:25に記載の70位のaから808位のtまでの塩基配列を含むDNAが例示される。配列番号:5に記載の1位のaから808位のtまでの塩基配列を含むDNA、配列番号:25に記載の1位のaから808位のtまでの塩基配列を含むDNAも本発明のDNAに含まれる。更に、配列番号:11に記載の1位のaから852位のaまでの塩基配列を含む上記のDNAおよび配列番号:11に記載の1位のaから852位のaまでの塩基配列を含む上記のDNAも本発明のDNAに含まれる。本発明のDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつかつケモカインSLC活性およびIL−2活性を有するタンパク質をコードするDNAも、本発明のDNAに含まれる。「DNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」は、コード領域のDNAをプローブとして用いることにより得ることが出来る。ここで、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、例えば、6xSSC、0.5%SDSおよび50%ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1xSSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件でも依然として陽性のハイブリダイズのシグナルが観察されることを表す。
本発明のDNAを用いて、組換えタンパク質を生産するには、例えば、前述のMolecular Cloning等の多くの教科書や文献に基づいて実施することができる。具体的には、発現させたいDNAの上流に翻訳開始コドンを付加し、下流には翻訳終止コドンを付加する。さらに、転写を制御するプロモーター配列(例えば、trp、lac、T7、SV40初期プロモーター)等の制御遺伝子を付加し、適当なベクター(例えば、pBR322、pUC19、pSV・SPORT1など)に組み込むことにより、宿主細胞内で複製し、機能する発現プラスミドを作製する。本発明のDNAを組み込んだプラスミドも本発明に含まれる。
本発明のDNAのベクターとしては、本発明のDNAを組み込んだレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクターなども含まれる。本発明のベクターをヒトに投与することにより、本発明のDNAがヒト体細胞に導入され、該体細胞は本発明の融合タンパク質を産生する。融合タンパク質は、IL−2の免疫活性化作用と共にケモカインSLCのT細胞遊走活性を有するため、抗癌剤として有用である。従って、本発明のベクターは、これら疾患の治療を目的とした遺伝子治療に用いることができる。
本発明の形質転換体は、本発明のベクターを適当な宿主に導入することにより得ることができる。融合タンパク質の製造を目的として形質転換体を作製する場合には、宿主としては、大腸菌などの原核細胞、酵母のような単細胞真核細胞、昆虫、哺乳類などの多細胞生物の細胞などが挙げられる。遺伝子治療を目的として形質転換体を作製する場合には、宿主としては、ヒト体細胞を用いる。ヒト体細胞としては、患者由来の骨髄細胞、肝細胞、線維芽細胞、表皮細胞、筋肉細胞などが挙げられる。
本発明により調製された融合タンパク質は、治療目的のためにヒトに投与しえる。融合タンパク質を緩衝剤、安定剤、静菌剤ならびに医薬の非経口投与形態に使用される慣用的な賦形剤および添加剤に混合することにより、医薬組成物として調製することができる。従って、本発明は、本発明の融合タンパク質を含む医薬組成物をも提供するものである。
発明を実施するための最良の形態
本発明は、おもに新規融合タンパク質に関する。
以下に本発明DNAの調製、本発明融合タンパク質の調製、活性の測定方法、遺伝子治療用ベクター、医薬組成物について説明する。本明細書において、特に指示のない限り、当該分野で公知である遺伝子組換え技術、動物細胞、昆虫細胞、酵母および大腸菌での組換えタンパク質の生産技術、発現したタンパク質の分離精製法、分析法および免疫学的手法が採用される。
本発明融合タンパク質をコードするDNA配列
本発明において用いられるヒトCC型ケモカインSLC及びヒトサイトカインIL−2をコードする塩基配列を有する遺伝子は、本発明により教示された配列情報(配列番号:1及び配列番号:2)に基づいて一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる(Molecular Cloning 2d Ed,Cold Spring Harbor Lab.Press(1989)等参照)。具体的にはケモカインSLCやIL−2が発現される適当な起源より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから本発明DNAに特有の適当なプローブや抗体を用いて所望のクローンを選択することにより実施できる(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,78,6613(1981);Science,22,778(1983)等参照)。cDNAの起源としては、本発明のDNAを発現する各種の細胞、組織やこれらに由来する培養細胞等が例示される。これらからの全RNAの分離、mRNAの分離・精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従い実施できる。また、cDNAライブラリーは市販されており、本発明においてはそれらcDNAライブラリー、例えばClontech社より市販の各種cDNAライブラリー等を用いることもできる。cDNAライブラリーとしては、ヒトひ臓節由来のcDNAライブラリーが例示できる。
また、IL−2およびケモカインSLCをコードする塩基配列を有する遺伝子は、慣用の化学的方法、例えばリン酸三エステル法(Narang et al.,Meth.Enzymol.,68,90−108(1979))またはリン酸二エステル法(Brown et al.,Meth.Enzymol.,68,109−151(1979))により合成され得る。
上記のケモカインSLCをコードする塩基配列とIL2の成熟型タンパク質をコードする塩基配列を通常の方法により接続し、単一の遺伝子とする。これにより、CC型ケモカインSLCの有するCCR7発現細胞株に対する遊走活性およびサイトカインIL2の有するT細胞の増殖・活性化能等を同一分子内に有する人工融合タンパク質遺伝子を構築される。該遺伝子は、SLCをコードする遺伝子とIL−2をコードする遺伝子との間にリンカーをコードする遺伝子を有していてもよい。
本発明融合タンパク質の調製
(1)融合タンパク質の発現
本発明のタンパク質は、本発明のDNA配列情報に従って、遺伝子工学的手法(Science,224,1431(1984);Biochem.Biophys.Res.Comm.,130,692(1985);Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80,5990(1983)等)により得ることができる。より詳細には、所望のタンパク質をコードする遺伝子を適当なベクターに組み込む。このベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を作成する。該形質転換体を培養することにより組換えタンパク質を得ることができる。
ここで宿主細胞としては、真核生物及び原核生物のいずれも用いることができる。該真核生物の細胞には、脊椎動物、酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞(Cell,23,175(1981))やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞等がよく利用される。
発現ベクターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを使用でき、これは更に必要により複製起点を有していても良い。該発現ベクターの例としては、例えば、SV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr(Mol.Cell.Biol.,1,854(1981))等を例示できる。また、真核微生物としては、酵母が一般によく用いられ、中でもサッカロミセス属酵母を利用できる。該酵母の発現ベクターとしては、例えば酸性ホスファターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80,1(1983))等を利用できる。
原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌が一般によく利用される。これらを宿主とする場合、例えば該宿主菌中で複製が可能なプラスミドベクターを用い、このベクター中に所望の遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドンを付与した発現プラスミドを利用するのが好ましい。更に、大腸菌等で発現される場合、シグナル配列は認識されないので、N末端の配列に保持された成熟型配列を得る為の工夫が必要である。その例としては、開始コドンと該遺伝子の成熟型配列のコード領域との間にエンテロカイネースの認識配列Asp Asp Asp Asp Lys(配列番号:21)を、成熟型配列の直前にLysが続くように挿入し、得られた組換えタンパク質をエンテロカイネース(Invitrogen社製)にて消化することによってN末端の配列の配列の保持された該融合タンパク質を得ることができる。上記宿主としては、E.coli K12株等が利用される。ベクターとしては一般にpBR322及びその改良ベクターがよく利用されるが、これらに限定されず公知の各種の菌株及びベクターも利用できる。プロモーターとしては、例えばtrpプロモーター、Ippプロモーター、lacプロモーター、PL/PRプロモーター等を使用できる。
所望の組換えDNAの宿主細胞への導入方法及びこれによる形質転換方法としては、一般的な各種方法を採用できる。また得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のタンパク質が産生される。該培養に用いられる培地としては、宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、その培養も宿主細胞に適した条件下で実施できる。例えば、pSVL SV40後期プロモーターの下流に本発明融合タンパク質の遺伝子を含むベクターを、サル由来細胞COS−7に導入することによって形質転換体を作成し、この形質転換体を5%CO2存在下、37℃で3日間培養することにより、本発明の融合タンパク質が産生され得る。
タンパク質は、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作(Biochemistry,25(25),8274(1986);Eur.J.Biochem.,163,313(1987)等)により分離・精製できる。該方法としては、塩析法、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組み合わせ等を例示できる。
(2)変異体の作製
アミノ酸配列は、任意のアミノ酸配列を欠失させ、所望のアミノ酸、ないしはアミノ酸配列を導入することによって置換される。アミノ酸配列の置換処理には、プロテインエンジニアリングとして知られる方法が広く利用できるが、例えば、Site−diredted deletion(部位指定削除)法(Nucl.Acids Res.,11,1645,1983)Site−specific mutagenesis(部位特異的変異)法(Zoller,M.J.et al.,Methods in Enzymol.,100,468,1983、Kunkel.T.A.et al.,Methods in Enzymol.,154,367−382,1987)、PCR突然変異生成法、制限酵素処理と合成遺伝子の利用による方法等がある。
部位特異的変異法であれば、例えばMolecuar Cloning:A Laboratory Manual第2版第1−3巻Sambrook,J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York 1989年に記載の部位特異的変異誘発法やPCR法などの方法を用い、本発明のDNA配列に変異を導入する。
これら方法により変異が導入されたDNA配列は、適当なベクターおよび宿主系を用いて、例えばMolecuar Cloning:A Laboratory Manual第2版第1−3巻Sambrook,J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York 1989年に記載の方法により、遺伝子工学的に発現させればよい。例えば、MutanTM−SuperExpressKm、MutanTM−K(宝酒造社製)、Quik Change Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)といったキットが使用できる。
一般に、部位特異的変異法は、まず、タンパク質をコードするDNA配列をその配列中に含む一本鎖ベクターを得ることによって実施することができる。所望の突然変異した配列を持つオリゴヌクレオチドプライマーを、一般的には合成によって、例えばクレア等(Crea,R.et al.,Proc.Natl.Acsd.Sci.U.S.A.,75,5765,1978)の方法によって製造する。次に、このプライマーを一本鎖の本DNA配列含有ベクターとアニーリングし、大腸菌ポリメラーゼIクレノウフラグメントのようなDNA重合酵素を作用させて、突然変異含有鎖の合成を完成する。このようにして、第一の鎖は元の非突然変異配列をコードしており、第二の鎖は所望の突然変異を有しているヘテロ二本鎖が形成される。次いで、この二本鎖ベクターを用いて、適当な細菌、または細胞を形質転換し、32P−標識突然変異生成プライマーから成る放射性プローブへのハイブリダイゼーションを介してクローンを選択する(Wallace,R.B.,Nucleic Acids Res.,9,3647,1981)。選択されたクローンには、突然変異した配列を有する組換えベクターを含んでいる。このようなクローンを選択した後、突然変異した本タンパク質の領域を形質転換に使用される型の発現ベクターに入れることができる。
以降、(1)で示した組換えタンパク質の調整方法に従い、変異体を宿主細胞に産生させることができる。
ケモカインSLC活性の測定
ケモカインSLCは、T細胞およびB細胞に対して遊走活性を有する。従って、これら細胞を遊走アッセイ用緩衝液に懸濁し、遺伝子産物の添加により生じる遊走細胞の数を測定することにより、ケモカインSLC活性を測定することができる。
具体的には、遺伝子産物を遊走アッセイ用緩衝液に添加する。細胞数測定後のT細胞またはB細胞、このましくは、ケモカインSLC受容体(CCR7)を発現するT細胞またはB細胞を緩衝液に懸濁する。
トランスウェルチャンバーの上部のウェルに細胞を含んだ緩衝液を接種し、下部のウェルには、細胞を含まない遊走アッセイ用緩衝液を加え、37℃ 5%CO2下で4時間培養する。
下部のウェルに遊走した細胞を回収し、細胞数を測定することにより遺伝子産物の遊走活性を測定することが可能である。
IL−2活性の測定
IL−2活性は通常、IL−2依存的に増殖するT細胞を用いるバイオアッセイでおこなわれる。ヒトIL−2の生物活性を測定するシステムは確立している(基礎と臨床 佐々木緊らVol.22,No.17,29−42 1988)。従って、該システムによって遺伝子産物のIL−2生物活性の測定することができる。
本発明の遺伝子治療用ベクターの作成
本発明融合タンパク質を遺伝子治療に使用するためのベクターとしては、レトロウイルスベクター(MuMLV骨格の物、HIV骨格の物)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等が考えられる。遺伝子銃やインビボ・エレクトロポレーション法を用いれば本発明DNAを組み込んだプラスミドを用いて遺伝子治療を行うことも可能である。
動物細胞内で発現させるためのプロモーターとしては、通常の動物培養細胞発現系において用いられるプロモーターであれば特に制限されるものではないが、たとえばサイトメガロウイルス初期プロモーター(以下CMVプロモーターと記す。)、MuMLV LTR等を上げることが出来る。なお、CMVプロモーターは、例えばpRC/CMV(Invitrogen社製)から、通常の遺伝子操作により調製することができる。
上記の動物細胞内で発現させるためのプロモーターおよび前記の人工融合タンパク質遺伝子を含むプラスミドは通常の遺伝子組み換え方法を用いて構築することが出来る。例えば、本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子をCMVプロモーターとウシ成長ホルモンのポリAシグナル、ネオマイシン耐性遺伝子を保有するpRC/CMV(Invitrogen社製)のHindIII部位に挿入することにより構築する方法等をあげることができる。
本発明遺伝子治療用ベクターを用いた遺伝子治療は、ヒト体細胞に本発明DNAを獲得させ、この組換え細胞を患者に戻すことにより、あるいは本発明遺伝子治療用ベクターを直接患者の患部に投与することができる。
遺伝子治療用ベクターをヒト体細胞に導入する方法としては、ベクターがプラスミドの場合には、遺伝子銃、マイクロインジェクション、トランスフェクションまたはトランスダクションによりベクターを体細胞へ導入することができる。ベクターがウイルスの場合には、体細胞に本発明遺伝子を組み込んだウイルスを感染させることで本発明DNAを導入することができる。
体細胞としては、患者由来の骨髄細胞、肝細胞、線維芽細胞、表皮細胞、筋肉細胞などが挙げられる。
本発明の医薬組成物
本発明の融合タンパク質は、IL−2の免疫活性化作用と共にケモカインSLCのT細胞遊走活性を有するため、抗癌剤として有用である。
該タンパク質には、医薬的に許容される塩もまた包含される。かかる塩には、周知の方法により調整される、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウム等の無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩等が包含される。
該タンパク質の薬学的有効量を活性成分として、医薬製剤が調整される。該医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等の個体投与形態や、液剤、懸濁液剤、乳剤、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらは更に、投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形もしくは調製することができる。
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じて決定される。例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤等の個体投与形態や、液剤、懸濁液剤、乳剤は経口投与される。注射剤は単独又はブドウ糖やアミノ酸等の通常の補液と混合して静脈投与される。更に注射剤は、必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。
上記医薬製剤中に含有されるべき本発明化合物の有効成分量およびその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件に応じて適宜選択される。一般的には、該投与量は、1日当たり体重1kg当たり、約1〜10mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1〜数回に分けて投与することができる。
実施例
本発明を以下の実施例によりさらに説明する。
実施例1
マウスSLC−マウスIL−2融合タンパク質遺伝子の構築
マウスSLC(mSLC)遺伝子(配列番号:7)の終止コドンを含まず3’末端にXbaI部位を有するようなマウスSLC遺伝子断片を得るために、プラスミドpT7−T3−D−Pac−mSLC(EST:クローン番号W67046、Genome Systems社より購入)を鋳型として、図1(1)に示したプライマー(mSLC−Sal1−F(配列番号:13)及びmSLC−Xba1−R(配列番号:14))を用いて、約0.4kbの断片をPCR法により増幅した。得られた断片を、SalI及びXbaIで同時切断して、Blue Script(+)(Stratagene社)のSalI、XbaI部位に挿入し、プラスミドpBS−mSLC(S/X)を構築した。サブクローン化したものの塩基配列を決定し、PCR法による変異のないことを確認した。
マウスIL−2(mIL−2)の成熟型配列(配列番号:10)をコードする遺伝子断片を得るために、mIL−2のcDNA(配列番号:9)を有しているプラスミドOkayama−Berg−MuIL2を鋳型として、図1(2)に示したプライマー(mIL2−Xba1−F(配列番号:15)及びmIL2−Not1−R(配列番号16))を用いて、約0.45kbの断片をPCR法により増幅した。得られた断片はXbaI及びNotIで同時消化し、市販のベクターBlue Script(+)のXbaI、NotI部位にサブクローン化し、プラスミドpBS−mIL2(X/N)を構築した。クローン化したものの塩基配列を決定し、PCR法による変異のないことを確認した。
pBS−mSLC(S/X)をSalI及びXbaIで同時切断して、得られる0.4kbの断片を、pBS−mIL2(X/N)のSalI、XbaI部位に挿入し、結果としてマウスSLC−マウスIL−2融合タンパク質遺伝子をSalIとNotIサイトの間に持つ、プラスミドpBS−mSLC−IL2が得られた(図2)。人工融合タンパク質遺伝子(mSLC−IL−2)は、855塩基対からなり、その構造は5’末端からマウスSLCをコードする399塩基、リンカーをコードする配列6塩基、マウスIL−2のN末端21番目からC末端までの149アミノ酸残基をコードする447塩基と終止コドンからなる(配列番号:11)。
実施例2
レトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFP−mSLC−IL2(pLXIE−mSLC−IL2)の構築
プラスミドpBS−mSLC−IL2を制限酵素SalI、NotIで同時消化して、マウスSLC−マウスIL−2融合タンパク質遺伝子のSalI−NotI断片を得た。この断片を、レトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFPのSalI−NotI部位に組み込むことにより目的とするマウスSLC−マウスIL−2融合遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドpLX−IRES−EGFP−mSLC−IL2を得た(図2)。
レトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFPは、レトロウイルスベクターpLHDCX(Genbank accession No.M64754)のEcoR1−HindIII部位にpSPORT1(GIBCO/BRL社)マルチクローニングサイトEcoR1−HindIII断片を連結し、その中のNot1−BamH1部位に脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus)の内部リボソーム認識部位IRES断片(Novagen社)−増強型緑色蛍光タンパク質遺伝子EGFP断片(クロンテック社)を組み込んだものである(図3)。
比較対照実験に使用するためにマウスSLC遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドpLX−IRES−EGFP−mSLC、及び、マウスIL−2遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドpLX−IRES−EGFP−mIL2をレトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFPのマルチクローニングサイトにマウスSLC遺伝子断片(pT7−T3−D−Pac−mSLCを鋳型にして、図1の(3)のプライマー(mSLC−EcoR1−F(配列番号:17)及びmSLC−Not1−R(配列番号:18))で増幅して得られた断片)、マウスIL−2遺伝子断片(pOkayama−Berg−MuIL2を鋳型にして、図1の(4)のプライマー(mIL2−EcoR1−F(配列番号:19)及びmIL2−Not1−R(配列番号:20))で増幅して得られた断片)をそれぞれ挿入することにより作製した。
実施例3
非増殖型レトロウイルスの産生及び遺伝子導入線維芽細胞の樹立
組換えレトロウイルスの産生系として、レトロウイルスベクタープラスミドDNAを一過性にトランスフェクションする事によりエコトロピックなウイルスが産生可能なパッケージングBosc23細胞(ATCC CRL11554)を用いた。トランスフェクションの24時間前に、Bosc23細胞を培養用シャーレ(直径35mm)に1×106個を通常の培地(DMEM/10%FCS)2mlに懸濁して撒き、37℃、5%CO2下で培養した。トランスフェクションはLipofectAMIN TM試薬(Life Technology,Inc)を用いて行い、試薬の指示書に従ってレトロウイルスベクタープラスミドpLX−IRES−EGFP−mSLC−IL2のDNA2μgをLipofectAMIN 6μlと共にBosc23細胞に導入した。
対照実験に使用するためにpLX−IRES−EGFP、pLX−IRES−EGFP−mSLC、pLX−IRES−EGFP−mIL−2についても同様にトランスフェクションを行った。
48時間後、培養上清を回収し、細胞片等を除去するために孔径0.45μmのフィルターにて、ろ過した液体を感染ウイルス含有液として以下の感染実験に使用した。ウイルス感染の24時間前に感染させるBalb/Cマウス由来の繊維芽組胞CL.7細胞(ATCC TIB80)を培養用シャーレ(直径35mm)に1×105個を通常の培地(DMEM/10%FCS)2mlに懸濁して撒き、37℃、5%CO2下で培養した。感染時、培養シャーレより培養液を除去し、代わりに上記の感染ウイルス含有液742.5μlにウイルス感染促進を目的としてポリブレン溶液(10mg/ml)を7.5μlを混合したものを加えて37℃、5%CO2下で約8時間感染を行った。その後、感染ウイルス含有液を取り除き新鮮な培地(DMEM/10%FCS)を2ml加えて、さらに37℃、5%CO2下で48時間培養した。
こうして得られた細胞集団ではレトロウイルスベクターLX−IRES−EGFPの感染により感染細胞のみEGFPの発現による緑色蛍光(励起波長488nm,蛍光波長507nm)が見られるためFACSにより感染細胞の識別、選択が可能である。この事を利用して実際に上記の感染させた細胞集団よりの感染細胞のみ濃縮を行うために、FACStar Plus(Becton社)を用いてGFP陽性の細胞の濃縮を行った。各ウイルスに関して90%以上のGFP陽性の細胞群(CL.7−mSLC−IL2、CL.7−Vector、CL.7−mSLC、CL.7−mIL2)が得られた。
実施例4
融合タンパク質mSLC−IL2のIL−2生物活性の測定
IL−2活性は通常、IL−2依存的に増殖するT細胞を用いるバイオアッセイでおこなわれる。ヒトIL−2の生物活性を測定するシステムは確立しており(文献;基礎と臨床 佐々木緊らVol.22 No.17Dec.1988)、それに従って上記の遺伝子導入培養細胞CL.7−mSLC−IL−2が培地中に産生する人工融合タンパク質mSLC−IL−2(配列番号:12)のIL2生物活性の測定した。
比較のため、CL.7−mIL−2の培養上清についても測定を行った。各培養上清については、mIL−2ELISA(R&D社)によりIL−2濃度を測定し、それを基に測定に適当な濃度(約2〜3ng/ml)になるように力価測定培地10%FCS加RPMI16401にてあらかじめ希釈した。
96穴平底マイクロプレート(住友ベークライト製)の2列め以降の穴に、力価測定培地10%FCS加RPMI16401を50μlを分注した。第1列目の穴には、最大OD値対照(ODmax)としてヒトIL−2 200JRU/mlを加えた力価測定培地、50μlを分注した。第2列目にはIL−2を加えず、最小OD値対照(ODmin)とした。標準品、測定試料とも各希釈率デュプリケイトとなるように3列目と4列目の一番上の穴には標準としてrHuIL−2(シオノギ製薬製。商品名:イムネース)を力価測定培地に50JRU(Japanese Reference Units)/mlに溶解したものを50μl、5列目以降は2列ずつの一番上の穴にあらかじめ希釈済みの各培養上清を50μlをそれぞれ加えた。次にマルチチャネルピペットを用いて3列目以降の一番上のウェルからピペッティングを繰り返しよく混和した後、50μlずつすぐしたのウェルに移し、2倍段階希釈を一番下のウェルまで8段階行った。
増殖培地中で培養したNK−7細胞液を遠心し、上澄みを除去した。力価測定培地に20,000cells/50μlに再懸濁し、この細胞浮遊液50μlずつをマイクロプレートの全穴に接種した。37℃、5%CO2下で16時間培養後、MTT試薬(PBS(−)(日水製薬)に、MTT(3−(4,5−Dimethyl−2−thiazolyl)−2,5−diphenil−2Htetrazoliumbromide,SIGMA社)、0.3%を溶解しミリポアフィルター(0.45μm)でろ過滅菌したもの)25μlを全穴に分注し、37℃、5%CO2下で4時間培養した。マイクロプレート内の培養液を、マルチチャネルピペットを用いて空のマイクロプレートに移しかえた。
培養液の抜き取られた全穴に、溶出液(0.04N塩酸−イソプロパノール液)100μlを加えマイクロミキサー(三光純薬)で5分間振とうし、産生されたMTTフォルマザンを充分に溶出させた。次に移しかえた各穴の培養液を、マルチチャネルピペットで元の各穴に戻した後、マイクロプレート用分光光度計マルチスキャンMC(Flow社)を使用し、吸光度(OD560nm)を測定した。光度計に接続したパーソナルコンピューターに測定値を入力し、力価計算を行った。各試料の希釈シリーズは2列からなっているので各々の平均値を求め、横軸にサンプルの希釈倍率、縦軸にOD値をとったグラフ上にプロットし、濃度依存曲線を描く。各々の試料について、プレート内の最大OD値対照(ODmax)、最小OD値対照(ODmin)の吸光度の中間値と一致する希釈倍率をグラフより読み取った。次に標準品の測定係数(表示力値/実測力値)を算出し、この係数を各試料の実行力価に乗じ、各試料の換算力値を決定した。今回測定したCL.7−mSLC−IL2の培養上清のIL−2力価は242JRU/mlであった。CL.7−mSLC−IL2の培養上清のELISAによるIL−2濃度は10ng/mlであったので、1ngあたりのIL−2力価は24.2JRUである。同様にして測定したCL.7−mIL2の培養上清については1ngあたりのIL−2力価は18.4JRUであったので、マウスSLC−マウスIL−2融合タンパク質(mSLC−IL−2)はマウスIL−2タンパク質と同等以上のIL−2力価を有することが判明した。
実施例5
融合タンパク質のケモカインSLCとしての遊走活性の確認
実施例3によって得られた各種遺伝子導入細胞を3×105個を3mlの培養液(DMEM/10%FCS)に懸濁して、直径35mm培養シャーレに接種し、37℃、5%CO2下にて48時間培養した。得られた各種遺伝子産物を含む培養上清を回収し、ミリポアフィルター(0.45μm)でろ過した。これを遊走アッセイ用緩衝液(RPMI1640、10mM HEPES,pH7.4,1%BSA含有)にて、体積比で2倍(培養上清50%含有)、10倍(培養上清10%含有)に希釈し、以下の遊走アッセイに使用した。ケモカインSLCとしての活性を測定するためにマウスSLCの特異的受容体であるマウスCCR7を安定発現する前駆B細胞株 B300−19細胞(B300−19−mCCR7)を用いた。これは発現プラスミドpCAGGSneoにマウスCCR7遺伝子を挿入したマウスCCR7発現プラスミドpCAGGSneo−mCCR7を前駆B細胞株B300−19細胞にエレクトロポレーション法により導入し、薬剤G418にて薬剤選択することにより得られたマウスCCR7発現細胞である。
B300−19−mCCR7を血球計算盤にて細胞数測定後、遠心により細胞を回収し、1×107Cells/mlとなるように遊走アッセイ用緩衝液(RPMI1640、10mM HEPES、pH7.4、1%BSA含有)で再懸濁し、100μlずつ、トランスウェルチャンバー(3μm pore size、Coaster社製)の上部のウェルに接種した。下部のウェルには、600μlの希釈後の培養上清あるいは対照としての遊走アッセイ用緩衝液を加え、37℃ 5%CO2下で4時間培養した。上部のウェルを取り外し、下部のウェルに遊走した細胞を回収し、FACStar Plus(Becton社)を用いて細胞数を測定した。その結果を図4に示す。
CL.7−mSLC−IL2の培養上清では2倍希釈液で、接種細胞の16%、10倍希釈液で3.5%の遊走細胞が見られた。CL.7−mSLCの培養上清では、2倍希釈液で接種細胞の8%の遊走細胞が見られた。CL.7−mIL2、CL.7−Vectorの培養上清ではどちらの希釈倍率でも、遊走細胞数は測定限界(0.166%)以下であった。マウスSLC−マウスIL−2融合タンパク質(mSLC−IL−2)はマウスCCR7発現細胞B300−19−mCCR7に対する遊走活性を有していることが判明した。
実施例6
融合タンパク質のイムノブロットによる分子量の同定
実施例3によって得られたmSLC−IL2遺伝子導入細胞CL.7−mSLC−IL2、対照としてCL.7−Vectorをそれぞれについて5×105個を2mlの培養液(DMEM/10%FCS)に懸濁して、直径35mm培養シャーレに接種し、37℃、5%CO2下にて24時間培養後培地を除き、OPTI−MEM(Gibco/BRL)3mlに置き換えてさらに37℃、5%CO2下にて24時間培養した。
得られた各種遺伝子産物を含む培養上清を回収し、ミリポアフィルター(0.45μm)でろ過した。培地内蛋白を濃縮するために以下のようにTCA沈殿を行った。1mlの培養上清を100μlの100%TCAを加えて混合し、氷上に1時間静置し、12Krpmで5分間遠心した。沈殿したペレットを氷冷アセトンにて、洗浄し、25μlの3×SDSサンプルバッファーに溶解し、2.5μlの2−mercaptoethanolと2.5μlの1M Tris−HCl,pH8.0を加えて100℃の熱を5分間加えて変性させた。各々10μlのライセートを15%−25%グラジエントSDS−ポリアクリルアミドゲルによる電気泳動を行った。その際、隣接するレーンにPrestain Protein Maker、Broad Range(NEW ENGLAND BioLabs inc.)を泳動した。
泳動後のゲル上のタンパク質はニトロセルロース膜(imobilonP,Milipore社)に移した。トランスファー後のニトロセルロース膜は5%(重量/容積)スキムミルク容液(Difco社製スキムミルクをT−PBS(0.05%Tween20入りPBS溶液)にて溶解したもの)に30分間、室温にて浸す事により非特異的な蛋白吸着を阻害した。ニトロセルロース膜は、やぎ抗マウスIL−2抗体(T−PBSにて1000倍に希釈して使用。)に約2時間反応させた。その後、T−PBSにて3回洗浄し、ペルオキシダーゼ標識抗やぎIgG抗体(Cappel社製、2000倍に希釈して使用)で約30分間反応し、その後T−PBSにて3回洗浄したのちに、ECL試薬(アマシャム社)にて、ペルオキシダーゼ標識を発光させ、それをX線フィルムで感光させた。その結果、対照であるCL.7−Vectorのレーンにはバンドは見られないがCL.7−mSLC−IL2のレーンには、約32kDの位置にのみ特異的なバンドが見られた。これは一次構造から予測される分子量とほぼ一致することが判明した。
実施例7
T細胞の組織免疫染色による同定
融合タンパク質SLC−IL2が実際に生体内でT細胞を遊走させる能力を有するのかを調べるために、実施例3で得られたmSLC−IL2遺伝子導入細胞CL.7−mSLC−IL2をその親株である線維芽細胞CL.7の由来であるマウスBalb/Cストレインに皮内投与し、そこにT細胞が浸潤してくるかを調べた。実施例3で得られたmSLC−IL2遺伝子導入細胞(CL.7−mSLC−IL2)、対照としてVector、mSLC、mIL2遺伝子導入細胞それぞれについて1mlあたり1×108細胞数となるようにHANKS緩衝液(Gibco社製)に懸濁した。
Balb/Cマウスの雌、7週齢(日本チャールス・リバー社より購入)の背中に上記の細胞懸濁液50μl(細胞数5×106)を皮内接種した(各細胞群で2匹ずつ)。5日後には移植部位は5mmぐらいの膨らみとなっているので、それをマウスを安楽死させたあとに摘出し、OTC compound(Miles Laboratory社製)に浸してドライアイス上にて凍結させた。
これを、クライオスタットを用いて8μmの厚さの切片を作製し、スライドガラス上に乗せ風乾させた。その後、マイナス20℃に冷やしておいた固定液(40%アセトン、60%メタノール、容積比)に15分間浸して固定し、PBS(−)溶液にて2回洗浄後、ブロッキング液(20%正常ウサギ血清、80%PBS(−)溶液、容積比)に30分間反応させ非特異的吸着を阻止した。それから、PBS(−)溶液にて2回洗浄後、ラット抗マウスCD4単クローン抗体(CEDARLANE社製)及びラット抗マウスCD8単クローン抗体(CEDARLANE社製)にて約60分間、室温にて反応させた。反応後、PBS(−)溶液にて3回洗浄後、ウサギ抗ラットIgG抗体(Vector社製)に30分間、室温で反応させた。PBS(−)溶液にて2回洗浄後、1%過酸化水素液(30%過酸化水素水を容積比1に対してメタノールを容積比29の割合で混合したもの)に30分間反応させた。PBS(−)溶液にて3回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識をEliteABCキット(Vector社製)、DAB基質キットを使用して発色させた。メチレンブルーにて対比染色もおこなった。染色した切片は日本光学社光学顕微鏡OPTIPHOTで得られた拡大画像をフジフィルム社デジタルカメラHC−2000でパーソナルコンピューターに取り込んで、各サンプルについて任意の3視野について染色陽性の細胞数の同定し、各群2匹ずつなので計6視野の平均値(±標準偏差)を図5及び図6に表した。
Vector遺伝子導入細胞移植群はCD4、CD8に関しても浸潤細胞は僅かに見られた。mSLC、mIL2遺伝子導入細胞移植群共にCD4、CD8陽性細胞の明らかな増加が見られた。さらにmSLC−IL2遺伝子導入細胞移植群ではmSLC、mIL2遺伝子導入細胞移植群と比較してもよりさらに多くの浸潤細胞が見られた。
実施例8
生体内投与のモデル実験
融合タンパク質SLC−IL2が実際に生体内で腫瘍形成を抑制する能力を有するのかを調べるために、実施例3で得られたmSLC−IL−2遺伝子導入細胞CL.7−mSLC−IL2をその親株である線維芽細胞CL.7の由来動物であるマウスBalb/Cストレインに、マウスBalb/C由来の大腸癌細胞株Colon26と混合した後に皮内投与し、腫瘍形成の程度をしてくるかをVector、mIL2遺伝子導入細胞を対照群として調べた。
2度の実験を行い実験1ではVector、mSLC遺伝子導入細胞間で比較を、実験2ではVector、mIL2、mSLC−IL2遺伝子導入細胞間で比較を行った。どちらの実験も同じプロトコールで行った。実施例3で得られたそれぞれの遺伝子導入線維芽細胞が1×107細胞数と、Colon26が5×106細胞数が1mlに混合した細胞液となるようにHANKS緩衝液(Gibco社製)に懸濁した。
Balb/Cマウスの雌、7週齢(日本チャールス・リバー社より購入)の背中に上記の細胞懸濁液100μl(細胞数は遺伝子導入線維芽細胞5×105個、Colon26は1×106個)を皮内接種した(実験1では各細胞群で5匹ずつ、実験2では各群マウス8匹)。その後、通常の環境下で飼育を続けた。腫瘍の測定は、腫瘍の長径と、その直角方向の長さ(短径)をノギスにて測定し、その値より近似値(長径×短径×短径÷2)を腫瘍体積とした。図7及び図8は各実験での各群の平均腫瘍体積(±標準偏差)をグラフに表したものである。
実験1では腫瘍接種後28日目の結果であるが、mSLC群ではVector群と比べて平均腫瘍体積は105%であり、腫瘍形成を抑制する効果が見られなかった。実験2では腫瘍接種後23日目の結果であるが、mIL2群ではベクター群と比べて平均腫瘍体積は77%であり、ある程度腫瘍の体積増加を遅らせることが分かる。mSLC−IL2群ではさらに腫瘍体積は小さくなっていて、ベクター群と比べて平均腫瘍体積は45%であり、mIL2群と比べても平均腫瘍体積は59%であった。
これらの結果から、この腫瘍形成モデルでは対照群であるVector遺伝子導入細胞と同様にmSLC遺伝子導入細胞は腫瘍抑制効果が見られないこと、mIL2、mSLC−IL2遺伝子導入細胞ともに腫瘍抑制効果は見られるがその程度はmSLC−IL2遺伝子導入細胞の方が有意に強いことが分かった。
実施例9
ヒトSLC−ヒトIL−2融合蛋白質遺伝子の構築
ヒトSLC(hSLC)遺伝子(配列番号:1)の終止コドンを含まず3’末端にXbaI部位を有するようなヒトSLC遺伝子断片はアルカリフォスファターゼ融合タンパク発現用ベクターpDREF−SLC−AP(Nagira,M.et al.,J.Biol.Chem.,272,31,19518−19524,1997)をSalI及びXbaIで同時切断して切り出される約0.4kbの断片を利用した。
ヒトIL−2(hIL−2)の成熟型配列(配列番号:4)をコードする遺伝子断片を得るために、ヒトIL2のcDNA(配列番号:3)を有しているプラスミドpIL2−50Aを鋳型として、プライマー(5’−hIL2−SpeI(配列番号:22)及び3’−hIL2−NotI(配列番号:23))を用いて、約0.4kbの断片をPCR法により増幅した。得られた断片はSpeI及びNotIで同時消化し、市販のベクターBlue Script(+)のSpeI、NotI部位にサブクローン化し、プラスミドpBS−hIL−2(SpeI/N)を構築した。クローン化したものの塩基配列を決定し、PCR法により変異のないことを確認した。
制限酵素SpeIとXbaIは切断後の付着端の配列が同じであり、結合可能である。pDREF−SLC−APをSalI及びXbaIで同時切断して得られる0.4kbの断片をpBS−hIL−2(SpeI/N)のSpeI、NotI部位に挿入し、結果としてヒトSLC−ヒトIL−2融合蛋白質遺伝子をSalIとNotIサイトの間に持つ、プラスミドpBS−hSLC−IL2が得られた(図9)。人工融合蛋白質遺伝子(hSLC−IL−2)は、810塩基対からなり、その構造は5’末端からヒトSLC遺伝子をコードする402塩基、リンカーをコードする配列6塩基、ヒトIL−2のN末端21番目からC末端までの133アミノ酸残基をコードする399塩基と終止コドンからなる(配列番号:25)。
実施例10
レトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFP−hSLC−IL2(pLXIE−hSLC−IL2)の構築
プラスミドpBS−hSLC−IL2を制限酵素SalI、NotIで同時消化して、ヒトSLC−ヒトIL−2融合蛋白質遺伝子のSalI−NotI断片を得た。この断片を、レトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFPのSalI−NotI部位に組み込むことにより目的とするヒトSLC−ヒトIL−2融合遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドpLX−IRES−EGFP−hSLC−IL2を得た(図9)。
比較対照実験に使用するためにヒトIL2遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドpLX−IRES−EGFP−hIL−2をレトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFPのマルチクローニングサイトにヒトIL−2遺伝子断片(pIL2−50Aを鋳型にして、図1の(3)のプライマー(5’−hIL2−SalI(配列番号:24)及び3’−hIL2−NotI(配列番号:23))でPCR法で増幅して得られた断片)を挿入することにより作製した。
実施例11
非増殖型レトロウイルスの産生及び遺伝子導入線維芽細胞の樹立
プラスミドpLX−IRES−EGFP−hIL−2及びpLX−IRES−EGFP−hSLC−IL2を用いて、実施例3と同様の方法によってレトロウイルスを産生し、CL.7への遺伝子導入を行いhIL−2遺伝子導入細胞(CL.7−hIL2)及びhSLC−IL2遺伝子導入細胞(CL.7−hSLC−IL2)を得た。得られたhSLC−IL2遺伝子導入培養細胞(CL.7−hSLC−IL2)及びhIL2遺伝子導入培養細胞(CL.7−hIL2)をそれぞれ3×105個を3mlの培養液(DMEM/10%FCS)に懸濁して、直径35mm培養シャーレに接種し、37℃、5%CO2下にて48時間培養した。得られた各種遺伝子産物を含む培養上清を回収し、ミリポアフィルター(0.45μm)でろ過した。この培養上清中のIL2含量をヒトIL2 ELISA(Human IL2 AN`ALYZA Immunoassay kit.Genzyme TECHNE社)を用いて測定したところCL.7−hSLC−IL2の培養上清のIL2濃度は25ng/mlで、CL.7−hIL2の培養上清のIL2濃度は50ng/mlであり、それぞれ導入遺伝子産物の発現が確認された。これらのサンプルを実施例12、13の生物活性測定実験使用した。
実施例12
融合蛋白質hSLC−IL−2のIL−2生物活性の測定
実施例11によって得られた各種遺伝子導入細胞(CL.7−hSLC−IL2、CL.7−hIL2)の培養上清を、実施例4と同様の方法を用いてIL−2の生物活性を測定した。
CL.7−hSLC−IL2の培養上清のIL2力価は378JRU/mlで、CL.7−hIL2の培養上清のIL2力価は901JRU/mlであった。1ngのIL2あたりのIL2力価はhSLC−IL2で15.1JRUであり、hIL2で18JRUであったので、ヒトSLC−ヒトIL−2融合蛋白質はヒトIL−2蛋白質と遜色ないIL2力価を有することが判明した。
実施例13
融合蛋白質のケモカインSLCとしての遊走活性の確認
実施例11によって得られた各種遺伝子導入細胞(CL.7−hSLC−IL2、CL.7−hIL2)および対照として実施例3に記載のベクター導入細胞(CL.7−Vector)の培養上清をそのまま、あるいは遊走アッセイ用緩衝液(RPMI1640、10mM HEPES,pH7.4,1%BSA含有)にて、体積比で2倍(培養上清50%含有)、10倍(培養上清10%含有)に希釈し、以下の遊走アッセイに使用した。ケモカインSLCとしての活性を測定するためにヒトSLCの特異的受容体であるヒトCCR7を安定発現する前駆B細胞株L1.2細胞(L1.2−CCR7)を用いた。これは発現プラスミドpCAGGSneoにヒトCCR7遺伝子を挿入したヒトCCR7発現プラスミドpCAGGSneo−CCR7を前駆B細胞株L1.2細胞にエレクトロポレーション法により導入し、薬剤G418にて薬剤選択することにより得られたヒトCCR7発現細胞である。(Yoshida,R.,et al.,J Biol Chem.273:7118−7122,1998)
L1.2−CCR7を血球計算盤にて細胞数測定後、遠心により細胞を回収し、1×107Cells/mlとなるように遊走アッセイ用緩衝液(RPMI1640、10mM HEPES、pH7.4、1%BSA含有)で再懸濁し、100μlずつ、トランスウェルチャンバー(3μm pore size、Coaster社製)の上部のウェルに接種した。下部のウェルには、600μlの希釈後の培養上清あるいは対照としての遊走アッセイ用緩衝液を加え、37℃ 5%CO2下で4時間培養した。上部のウェルを取り外し、下部のウェルに遊走した細胞を回収し、Flow cytometer EPICS XL(Coulter社)を用いて細胞数を測定した。
CL.7−hSLC−IL2の培養上清では原液で接種細胞の16.6%、2倍希釈液で9%、10倍希釈液で1.1%の遊走細胞が見られた。一方CL.7−hIL2、CL.7−Vectorの培養上清ではどの希釈倍率でも、遊走細胞数は0.3%以下であった。この結果よりヒトSLC−ヒトIL−2融合蛋白質はヒトCCR7発現細胞L1.2−CCR7に対する遊走活性すなわちケモカインSLCとしての生物活性を保持していることが判明した。
実施例14
生体内投与のモデル実験(併用との比較)
mSLC、mIL2遺伝子導入細胞を同時に投与する場合と、mSLC−IL2遺伝子導入細胞を単独で投与する場合とでの抗腫瘍効果を比較するために以下の実験を行った。
実施例8と同様に各遺伝子を導入した繊維芽細胞CL.7細胞(マウスBalb/Cストレイン由来)と大腸癌細胞株Colon26(マウスBalb/C由来)とを混合した後に皮内投与し、腫瘍形成の程度を比較することにより抗腫瘍効果を調べた。
実験群としては、下記5種類の細胞群を用いた。
▲1▼Vector導入細胞(CL.7−Vector)5×105個
▲2▼mSLC導入細胞(CL.7−mSLC)5×105個
▲3▼mIL2導入細胞(CL.7−mIL2)5×105個
▲4▼mSLC−IL2遺伝子導入細胞(CL.7−mSLC−IL2)5×105個
▲5▼mSLC導入細胞(CL.7−mSLC)5×105個とmIL2導入細胞(CL.7−mIL2)5×105個
▲1▼から▲5▼の遺伝子導入CL.7とColon26細胞1×105個とそれぞれを混合してマウスの背中皮内に移植して比較を行った。
具体的には、それぞれの遺伝子導入線維芽細胞が5×106個(▲5▼の場合は計1×107個)と、Colon26が1×106個が1mlに混合した細胞液となるようにHANKS緩衝液(Gibco社製)に懸濁した。
Balb/Cマウスの雌、7週齢(日本チャールス・リバー社より購入)の背中に上記の細胞懸濁液100μl(細胞数は遺伝子導入線維芽細胞5×105個(▲5▼の場合は計1×106個)、Colon26は1×105個)を皮内接種した(各群マウス8匹)。その後、通常の環境下で飼育を続けた。腫瘍の測定は、腫瘍の長径と、その直角方向の長さ(短径)をノギスにて測定し、その値より近似値(長径×短径×短径÷2)を腫瘍体積とした。図10は移植後24日目の各群の平均腫瘍体積(±標準偏差)をグラフに表したものである。
mSLC群ではVector群と比べて平均腫瘍体積は102%であり、腫瘍形成を抑制する効果が見られなかった。mIL2群ではVector群と比べて平均腫瘍体積は60%であり、ある程度腫瘍の体積増加を遅らせることが分かる。mSLC−IL2群ではさらに腫瘍体積は小さくなっていて、mIL2群と比べても平均腫瘍体積は26%であり、mIL2群よりも有意に強い抗腫瘍効果が見られた。一方mSLC、mIL2遺伝子導入細胞を同時に投与した場合、mIL2群よりも高い抗腫瘍効果が得られたが、mSLC−IL2群と比較すると抗腫瘍効果は低く、ばらつきも大きく、mSLC、mIL2遺伝子導入細胞を同時に投与するより、mSLC−IL2遺伝子導入細胞を単独で投与する方がより高い抗腫瘍効果が得られることが分かった。
産業上の利用可能性
本発明の融合タンパク質は、IL−2としての免疫活性化作用に加えて、ケモカインSLCとしてのT細胞走化作用を具備することにより、IL−2を免疫賦活を必要とする治療で投与された際に投与部位により多くのT細胞を呼び寄せることにより、より多くのT細胞に作用が可能であり、その結果、より高い治療効果が得られる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、マウスSLC(mSLC)またはマウスIL−2(mIL−2)断片増幅用プライマーセットを示す図である。
図2は、mSLC−mIL−2融合遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドの作製方法を示した図である。
図3は、レトロウイルスベクターpLHDCXからレトロウイルスベクターpLX−IRES−EGFPの作製方法を示した図である。
図4は、遊走細胞数を示した図である。
図5は、CD4陽性T細胞の増加数を示した図である。
図6は、CD8陽性T細胞の増加数を示した図である。
図7は、mSLCによる腫瘍形成抑制効果を示した図である。
図8は、mIL2及びmSLC−IL2による腫瘍形成抑制効果を示した図である。
図9は、ヒトSLC(hSLC)−ヒトIL−2(hIL−2)融合遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドの作製方法を示した図である。
図10は、mSLC、mIL−2及びmSLC−mIL−2の単独、またはmSLCとmIL−2の併用による腫瘍形成抑制効果を示した図である。
Claims (33)
- N末端側はケモカインSLCを構成するアミノ酸配列からなり、かつIL−2を構成するアミノ酸配列を含む融合タンパク質。
- ケモカインSLCおよびIL−2がヒトまたはマウス由来である請求項1に記載の融合タンパク質。
- ケモカインSLCを構成するアミノ酸配列が配列番号:2の24位のSerから134位のProに記載のアミノ酸配列であり、かつIL−2を構成するアミノ酸配列が配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列である請求項1または2に記載の融合タンパク質。
- 配列番号:2の24位のSerから134位のProに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列を含む請求項1から3のいずれかに記載の融合タンパク質。
- 配列番号:2の24位のSerから134位のProに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列からなる請求項4記載の融合タンパク質。
- 配列番号:2の1位のMetから134位のProに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:4の21位のAlaから153位のThrに記載のアミノ酸配列からなる請求項4記載の融合タンパク質。
- 請求項5記載の融合タンパク質が、配列番号:6の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質。
- 請求項6記載の融合タンパク質が、配列番号:6の1位のMetから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質。
- 請求項5記載の融合タンパク質が、配列番号:26の24位のSerから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質。
- 請求項6記載の融合タンパク質が、配列番号:26の1位のMetから269位のThrに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質。
- 請求項3から10のいずれかに記載された融合タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、かつヒトCCR7発現細胞L1.2−CCR7に対する遊走活性およびIL−2依存性細胞株の増殖活性を有する融合タンパク質。
- ケモカインSLCを構成するアミノ酸配列が配列番号:8の24位のSerから133位のGlyに記載のアミノ酸配列であり、かつIL−2を構成するアミノ酸配列が配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列である請求項1または2に記載の融合タンパク質。
- 配列番号:8の24位のSerから133位のGlyに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列を含む請求項12に記載の融合タンパク質。
- 配列番号:8の24位のSerから133位のGlyに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる請求項13記載の融合タンパク質。
- 配列番号:8の1位のMetから133位のGlyに記載のアミノ酸配列、リンカー及び配列番号:10の21位のAlaから169位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる請求項13記載の融合タンパク質。
- 請求項14記載の融合タンパク質が、配列番号:12の24位のSerから284位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質。
- 請求項15記載の融合タンパク質が、配列番号:12の1位のMetから284位のGlnに記載のアミノ酸配列からなる融合タンパク質。
- 請求項12から17のいずれかに記載された融合タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、かつヒトCCR7発現細胞L1.2−CCR7に対する遊走活性およびIL−2依存性細胞株の増殖活性を有する融合タンパク質。
- 請求項1から18のいずれかに記載の融合タンパク質をコードするDNA。
- 配列番号:5に記載の70位のaから808位のtまでの塩基配列を含む請求項19記載のDNA。
- 配列番号:5に記載の1位のaから808位のtまでの塩基配列を含む請求項20記載のDNA。
- 配列番号:25に記載の70位のaから808位のtまでの塩基配列を含む請求項19記載のDNA。
- 配列番号:25に記載の1位のaから808位のtまでの塩基配列を含む請求項22記載のDNA。
- 配列番号:11に記載の1位のaから852位のaまでの塩基配列を含む請求項19記載のDNA。
- 配列番号:11に記載の1位のaから852位のaまでの塩基配列を含む請求項24記載のDNA。
- 請求項20から25のいずれかに記載のDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつヒトCCR7発現細胞L1.2−CCR7に対する遊走活性およびIL−2依存性細胞株の増殖活性を有する融合タンパク質をコードするDNA。
- 請求項19から26のいずれかに記載のDNAを含むプラスミド。
- 請求項19から26のいずれかに記載のDNAを含む発現ベクター。
- 遺伝子治療用である請求項28に記載の発現ベクター。
- 請求項28または29に記載の発現ベクターを宿主に導入して得られる形質転換体。
- 請求項30に記載の形質転換体を培養する工程、および産生された請求項1から18のいずれかに記載の融合タンパク質を培養培地から回収する工程を包含する、該融合タンパク質の製造方法。
- 請求項1から18のいずれかに記載の融合タンパク質を含む医薬組成物。
- 癌治療薬を製造するための請求項32記載の医薬組成物の使用。
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