JP4553168B2 - 3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸検出用修飾電極及びその検出方法 - Google Patents
3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸検出用修飾電極及びその検出方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、神経伝達物質代謝産物の電気化学的検出方法に関し、例えば生物の血液、尿、汗、唾液、涙液、分泌液等、特に哺乳動物の細胞外体液等のアスコルビン酸を含む被検試料中に含まれるアスコルビン酸と同じく負に荷電した3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及びホモバニリン酸を迅速かつ容易に検出するための修飾電極、センサおよび検出方法、並びに微小電極に関する。
【0002】
【従来の技術】
ドーパミンは生体内の神経伝達物質として知られており、生体中の循環器系、神経系、泌尿器系などあらゆる器官で生体反応を制御する物質として注目されている。例えば、哺乳動物の脳の細胞外体液中のドーパミン濃度の低下が近年問題となっているアルツハイマー病と関連していることが知られている。従ってドーパミンの、in vivoでの生体局所におけるin situ検出、in vitroでの検出は極めて重要である。
【0003】
このような目的のために、少なくとも作用電極と対極からなる電極系を用いてドーパミンを電気化学的に検出する試みが提案されている。例えば、特開平9−127056号公報には、炭素電極を作用電極とし、対極と参照電極から構成される電極系を用いたドーパミンの検出方法が開示されており、擬似体液であるリンゲル液中における、ドーパミンの電解による定量的な検出が例示されている。しかしながら、ドーパミンとアスコルビン酸の酸化還元電位が接近しているため、ドーパミンとアスコルビン酸を分離して検出することは極めて困難であるという問題がある(J. Neurochem.第41巻(1983年)第1769頁またはElectroanalysis、第2巻(1990年)第175貢参照)。
【0004】
Adamsらは、アニオン性ポリマー膜で被覆した金電極を用いることを提案している(Brain Res.、第34巻(1985年)第151貢参照)。この場合、電解質中でプラスに荷電したドーパミンがアニオン性ポリマー膜を被覆した電極に静電的に引き付けられ、ドーパミンの酸化還元電位をアスコルビン酸に比べて十分マイナスにすることができるため、ドーパミンを選択的に酸化することができ、アスコルビン酸の存在下でのドーパミンの選択的な検出が可能である。
【0005】
また、本発明者等は、中性水溶液中でカチオンであるドーパミンと、アニオンであるアスコルビン酸とを、正に荷電した修飾電極を用いて同時に定量分析する方法を報告している(C. R. Raj及びT. Ohsaka, Electrochemistry, 67, No.12, 1175-1177 (1999);特願平11−324014号)。
【0006】
上記文献に開示された修飾電極は、導電性の基板を有し、前記基板表面をカチオン性化合物で化学修飾しており、これを使用すると、試料中で、ドーパミンの酸化還元電位が、アスコルビン酸よりもプラス側にシフトする。したがって、修飾電極の電位を0V付近からプラス方向に掃引すると、まずアスコルビン酸が酸化され、次にドーパミンが酸化される。したがって、ドーパミンとアスコルピン酸の酸化を分離して行うことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
神経伝達物質であるドーパミンは、生体内で代謝されて3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸、ホモバニリン酸等が生成することが知られており、その生体内での挙動を探る上で、ドーパミンだけでなく、これら代謝産物の定量も重要である。
電気化学的に前処理したパイロリティックカーボンファイバー電極によるアスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の検出はGononらにより報告されている(F. Gononら, Nature, 286, 902-904 (1980))。
【0008】
しかしながら、これらの代謝産物、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及びホモバニリン酸は、ドーパミンとは異なり、生理的pHの水溶液中においてはアスコルビン酸と同じく負に荷電した1価の陰イオンとして存在するため、電極表面をカチオン性の単分子膜で修飾した電極を用いてこれらの陰イオンを同時に定量することは不可能であった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
アスコルビン酸の酸化は、Ag/AgCl参照電極に対して0.1〜0.4V、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化は0.1〜0.3V、ホモバニリン酸の酸化は0.3〜0.5Vで起こり、ほとんど同じ電位で酸化されるため、通常の未修飾電極では、アスコルビン酸の共存下における3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及びホモバニリン酸の定量は不可能である。しかも、これらの物質を検出するために未修飾電極で酸化すると、酸化生成物が電極に吸着して定量測定が困難になる。
【0010】
そこで、本発明者等は、正に荷電したカチオン性単分子層膜で化学修飾した電極を用いて、一価の陰イオン化合物である3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸、ホモバニリン酸、及びアスコルビン酸と電極表面の正の荷電サイトとの静電的相互作用によるそれぞれの酸化電位のシフトの違いを利用して、これらの化合物の同時定量を行い、同時に、電極を単分子層膜で修飾することによって、酸化生成物の電極表面への吸着によって電極活性が低下するのを防ぐことを目的として、鋭意研究した結果、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を提供するものである。
(1)導電性の基板を有し、前記基板表面をカチオン性化合物で化学修飾したことを特徴とする、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸検出用修飾電極。
(2)上記基板が金または銅からなることを特徴とする上記(1)に記載の修飾電極。
(3)カチオン性化合物が、一般式(I)
【0012】
【化3】
または一般式(II)
【0013】
【化4】
【0014】
[式中、F及びnは上記で定義したものを示す。]
で示されるものであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の修飾電極。
【0015】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の修飾電極を作用電極として用いることを特徴とするセンサ。
(5)上記(4)に記載のセンサを有することを特徴とする微小電極。
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の修飾電極、または上記(5)に記載の微小電極を用い、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸を電気化学的に酸化する工程を含むことを特徴とする、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸の検出方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、導電性の基板を有し、前記基板表面をカチオン性化合物で化学修飾した修飾電極を、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及びホモバニリン酸、並びにアスコルピン酸検出用の修飾電極として用いる。
【0017】
基板の材料としては、例えば、金、銅、銀、ニッケル、亜鉛、錫などの金属材料、黒鉛などのカーボン材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子、インジウム錫複合酸化物、アンチモン錫複合酸化物などの導電性セラミックス等を用いることができる。この中で、カチオン性化合物との密着性の点から金属材料を用いることが好ましく、さらに金または銅を用いることが好ましい。
基板の形状は、特に限定されないが、例えば、板、箔、薄膜、線、粉末、粉末・成形体、粉末焼結体等を用いることができる。
【0018】
カチオン性化合物としては被検試料中でプラスに荷電することによりカチオン性を示すものであれば良く、ポリビニルピリジンあるいはポリ−4−ビニル−アルキルピリジニウムなどのピリジン基あるいはピリジニウム基を有する化合物、アニリン、ポリアニリン、ポリエチレンイミン、アミノアルキルピリジン、アルキルアミン、チオアルキルアミンなどのイミノ基、アミノ基、あるいはアンモニウム基を有する化合物を用いることができる。特に、チオアルキルアミンは、被検試料中でプラスに荷電することによりカチオン性を示すと共に、金属との親和性及び反応性に優れるチオール基を有するので、金属材料からなる基板を用いる場合は、基板との密着性が向上するため、特に好ましい。
チオアルキルアミンの例としては、例えば一般式(I)
【0019】
【化5】
または一般式(II)
【0020】
【化6】
【0021】
[式中、F及びnは上記で定義したものを示す。]
で表される化合物が挙げられ、具体的には、チオエタンアミン、チオプロパンアミン、チオブタンアミン、チオへキサンアミン、チオラウリルアミン、ジチオビスエタンアミン、ジチオビスプロパンアミン、ジチオビスブタンアミン、ジチオビスヘキサンアミン、ジチオビスラウリルアミン等が挙げられる。
【0022】
また、前記チオアルキルアミンがジチオビスアルキルアミンであることが好ましい。ジチオビスアルキルアミンを用いると、チオール基が基板の表面側に、アミノ基が外側に向いた状態の自己集積性単分子膜を基板上に形成することができる。このようにすると、アミノ基が外側に向いているので被検試料中でさらに良好なカチオン性を示すとともに、チオール基が基板の表面側に向いているので、金属材料からなる基板を用いた場合に、カチオン性化合物と基板との密着性がさらに向上する。
【0023】
また、上記一般式(I)及び(II)において、R1〜R3はそれぞれ独立して水素または炭素数が1〜6のアルキル基を示すが、特にいずれも炭素数2〜3のアルキル基であるものが好ましい。炭素数が6を超えると、上記電子移動度が遅くなる他、立体障害の問題も生じるため、好適な結果が得られなくなる。
【0024】
さらに、上記一般式(I)及び(II)において、nは1から18の整数を示すが、nが2以上であると、均一な自己集積性単分子膜を容易に得ることができる。また、nが10以下にすると、アルキル鎖が短いので電極反応にともなう電子移動度が速くなり、検出の応答速度を速くすることができる。
【0025】
また、本発明の修飾電極において、導電性の基板表面上におけるカチオン性化合物の密度は、表面露出量としておおよそ10-11〜10-10mol/cm2の範囲であることが好ましい。この範囲を超えると正の荷電サイト同士の静電的反発が大きく、単分子膜の緻密性が減少し、またこの範囲未満では電極の未修飾部分でも酸化が起こり、酸化生成物が電極に吸着して定量測定が困難である。
更に、本発明においては、修飾電極の未修飾部分をなくし、かつ電極表面上の正の荷電サイトの表面露出量を任意に制御するために、上記カチオン性化合物の他に、一般式(III)
【0026】
【化7】
[式中、Pは-CH3、-OH、または-NH2を示し、mは1〜18の整数を示す。]
または一般式(IV)
【0027】
【化8】
【0028】
[式中、P及びmは上記で定義したものを示す。]
で示されるチオ化合物を上記カチオン性化合物と共に導電性の基板表面に結合させておいても良い。基板表面上におけるカチオン性化合物とチオ化合物との比率は、10:1〜1:5の範囲とするのが好ましい。上記チオ化合物がこの範囲を超えて基板表面上に存在すると、電極上の正の荷電サイトの表面露出量が少なく、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸、ホモバニリン酸及びアスコルビン酸との静電的相互作用が弱くなる。
【0029】
カチオン性化合物を導電性の基板表面へ化学修飾する方法としては、カチオン性化合物を溶解した溶液を導電性の基板に直接塗布する方法、この溶液を他の基板表面に塗布して膜を形成し、次にこの膜を導電性の基板に転写する方法、この溶液を他の溶液表面に展開してカチオン性化合物の単分子膜もしくは累積膜を形成し、この単分子膜もしくは累積膜を導電性の基板表面に転写する方法、または真空蒸着法により導電性の基板上にカチオン性化合物の薄膜を直接形成する方法等が挙げられ、カチオン性化合物の溶解性、熱安定性に応じて選択することができる。
【0030】
また、本発明は、上記の修飾電極を作用電極として用いることを特徴とするセンサを提供する。本発明に係るセンサは、当分野において通常使用される三電極系とすることが好ましく、上記の作用電極の他、好ましくはAg/AgClからなる参照電極、好ましくは白金からなる対極から構成されるが、これらの構成は限定的なものではなく、当業者は本発明の修飾電極を使用して、本発明の目的である3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸の検出に利用できる種々のセンサを設計することができる。
【0031】
センサの具体的な構成は、後記実施例に記載するが、一般的には2つの電解室を有するセルを使用し、片方の電解室に作用電極及び参照電極、他方の電解室に対極を配置したものとし、作用電極の電位を参照電極に対して相対的に変化させ、その際作用電極及び対極間に流れる電解電流を測定する。その結果得られる電流−電位曲線から、アスコルビン酸、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及びホモバニリン酸のピークをそれぞれ同定し、そのピークの高さから検体中のそれぞれの濃度を定量することができる。
【0032】
また、本発明は、上記のセンサを有することを特徴とする微小電極を提供する。本発明において、微小電極は、作用電極、参照電極及び対極がそれぞれの本来の電気化学的機能を維持したままで、in vivoでの生体局所におけるin situ検出に適用可能なように、全体として一体化した構成になっている。微小電極の構成は、当業者には周知であり、例えばJeno Havas, "Ion- and Molecule-Selective Electrodes in Biological Systems", Springer-Verlag, Berlin・Heidelberg・New York・Tokyo (1985)に記載されている。
【0033】
更に本発明は、上記の修飾電極、または上記の微小電極を用い、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸を電気化学的に酸化する工程を含むことを特徴とする、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸の検出方法を提供する。
【0034】
具体的には、上記修飾電極を作用電極として有するセンサにおいて、電解セルに3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸を含有する検体を入れ、作用電極の電位を掃引して、流れる電解電流を測定するものである。電位の掃引方法は、例えば矩形波ポーラログラフ法(Heith B.OldhamおよびJan C.Myland著Fundamentals of Electrochemical Science、 Academic Press Inc.(1994年)第416頁参照)によって行うことができる。その結果得られる電流−電位曲線から、アスコルビン酸、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及びホモバニリン酸のピークをそれぞれ同定し、そのピークの高さから検体中のそれぞれの濃度を定量することができる。
【0035】
【実施例】
次に、本発明の具体例を説明する。
(実施例1)
[修飾電極の作製]
図1は、本発明の修飾電極の一実施例の断面図である。
【0036】
導電性の基板となる直径1.6mmの銅棒、及び直径1.6mm、長さ4mmの金電極を、絶縁体である直径6mmのポリイミド樹脂棒の中心に、金電極の表面とポリイミド樹脂棒の一端の面がほぼ同一面となり、また銅棒がポリイミド樹脂捧の他方の面より1cm程度露出するように埋め込んだ。露出した金電極の断面を、直径が1.0μmのアルミナ粉、直径が0.06μmのアルミナ微紛で研磨した後、0.05Mの硫酸水溶液中で、水素発生電位および酸素発生電位間で電解処理を行い、比較用の電極(A)を作製した。次に、同様に電極(A)を作製した後、2,2’−ジチオビスエタンアミン(一般式(II)
【0037】
【化9】
【0038】
において、Fが−N+H3、nが2の構造のもの、以下、DTEと略称する。)5mMを溶解した水溶液に約1時間浸漬した後、室温で乾燥して、カチオン性化合物であるDTEで化学修飾した修飾電極(B)を作製した。
【0039】
[被検試料の調製]
リン酸2水素ナトリウム(NaH2P04)0.1M、リン酸水素2ナトリウム(Na2HP04)0.1Mを脱イオン水に溶解したpH7.2の緩衝溶液に、アスコルピン酸を0.1mM、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸を0.1mM、ホモバニリン酸を0.1mM溶解し、被検試料(1)を調製した。
【0040】
[センサの作製]
容積が20ccの電解室を両側に2個有する、ガラス製のH形セルを用いて、片方の電解室に、作用電極となる電極(A)または修飾電極(B)と、Ag/AgCl参照電極とを配置し、もう一方の電解室に対極となる白金巻線を配置して、センサとなる電解セルを構成した。電解室間は、多孔質のガラス焼結板で仕切った。
電解セルに被検試料(1)を入れた後、窒素ガスを通じて溶存酸素を除去したのち、セルを密閉状態に保ち電解を行った。
【0041】
[電解検出方法]
作用電極の電位を参照電極に対し、マイナス0.15Vからプラス0.6Vまで掃引して電解を行い、この際流れる電解電流を測定した。作用電極の電位の掃引方法は、矩形波ボーラログラフ法により行った。電位の掃引条件は、矩形波高=25mV、ステップ電圧=4mV、周波数=15Hzとした。
【0042】
矩形波ボーラログラフ法を用いたのは、電気二重層容量の充放電電流の影響を除去して検出感度を上げるためである。アスコルビン酸、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸およびホモバニリン酸の濃度が高くなり、電気二重層容量の充放電電流値に較べ十分に大きな酸化電流値が得られる場合は、作用電極の電位を直線的に増加させる単掃引法を用いてもよい。
【0043】
[検出結果]
電極(A)、DTEで化学修飾した修飾電極(B)をそれぞれ用いて、矩形波ボーラログラフ法で得られた電流−電位曲線を図2に示す。
修飾電極(B)では、アスコルビン酸に由来する酸化電流ピークが+0.05V付近に得られ、+0.15V付近に3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピーク、+0.43V付近にホモバニリン酸の酸化に由来する電流ピークがそれぞれ得られた。しかし、カチオン性化合物の化学修飾がない電極(A)では、ホモバニリン酸の酸化に由来する電流ピークは認められるものの、アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークは単一のものとなり、アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸とを分離して検出することができなかった。
【0044】
よって、導電性の基板として金を用い、カチオン性化合物としてDTEを基板表面に化学修飾することにより、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸、ホモバニリン酸とアスコルビン酸の共存する被検試料中で、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸、ホモバニリン酸およびアスコルビン酸を分離して検出することができた。
【0045】
(実施例2)
[修飾電極の作製]
導電性の基板として金線を用い、水溶液中の、カチオン性化合物であるDTEの濃度を10mMとした以外は、実施例1と同様にして、DTEで化学修飾した修飾電極を作製した。
【0046】
[被検試料の調製]
リン酸2水素ナトリウム(NaH2P04)0.1M、リン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)0.1Mを脱イオン水に溶解したpH7.2の緩衝溶液に、アスコルビン酸を50μM、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸をそれぞれ50、70、90、110、130μM溶解して、被検試料(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)を調製した。
【0047】
[センサの作製]
作製したDTE化学修飾電極を作用電極として、実施例1と同様のセルを用いてセンサを作製した。
[電解検出方法]
実施例1と同様に、矩形波ポーラログラフ法を用いて、電解電流を測定した。
【0048】
[検出結果]
被検試料(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)について得られた電流−電位曲線を図3に示す。
図3に示すように、被検試料(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)の場合、+0.05V付近にアスコルビン酸の酸化に由来する電流ピークが得られ、+0.15V付近に3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークが得られた。アスコルビン酸の酸化電流は3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化生成物の触媒作用の影響を受けることなく、アスコルビン酸の濃度が被検試料(2a)〜(2e)のいずれについても同じであることに対応して、アスコルビン酸の酸化に由来する電流ピークの高さは同じであった。一方、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の濃度が被検試料(2a)〜(2e)の順に高くなるように調製されていることに対応して、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークは被検試料(2a)〜(2e)の順に増加した。よって、既知の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度の試料について測定を行い、あらかじめ検量線を作成しておくことにより、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークの高さから、アスコルビン酸の存在の有無に関わらず、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度を容易に定量することができる。また、アスコルビン酸についても、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸と同様に、その酸化に由来する電流ピークの高さから濃度を定量することができる。
【0049】
(実施例3)
[修飾電極の作製]
実施例1と同様に、電極(A)を作製した後、6,6’−ジチオビスヘキサンアミン(一般式(II)において、F=−N+H3、n=6のもの、以下、DTHと略称する。)5mMを溶解したエタノール溶液に約12時間浸漬した後、40℃の温風で乾燥して、カチオン性化合物であるDTHで化学修飾した修飾電極(C)を作製した。
【0050】
[被検試料の調製]
実施例2と同様に、被検試料を調製した。
[センサの作製]
作製したDTH化学修飾電極を作用電極として、実施例2と同様のセルを用いてセンサを作製した。
[電解検出方法]
実施例1と同様に、矩形波ポーラログラフ法を用いて電解電流を測定した。
【0051】
[検出結果]
被検試料(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)について得られた電流一電位曲線を図4に示す。
図4に示すように、被検試料(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)の場合、+0.03V付近にアスコルビン酸の酸化に由来する電流ピークが得られ、+0.15V付近に3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークが得られた。アスコルビン酸の酸化電流は3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化生成物の触媒作用の影響を受けることなく、アスコルビン酸の濃度が被検試料(2a)〜(2e)のいずれについても同じであることに対応して、アスコルビン酸の酸化に由来する電流ピークの高さはほぼ同じであった。一方、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の濃度が被検試料(2a)〜(2e)の順に高くなるように調製されていることに対応して、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークは被検試料(2a)〜(2e)の順に増加した。よって、既知の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度の試料について測定を行い、あらかじめ検量線を作成しておくことにより、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークの高さから、アスコルピン酸の存在の有無に関わらず、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度を修飾電極(C)を用いて容易に定量することができる。また、アスコルビン酸についても、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸と同様に、その酸化に由来する電流ピークの高さから濃度を定量することができる。
【0052】
(実施例4)
[修飾電極の作製]
実施例3と同様に、修飾電極(C)を作製した。
[被検試料の調製]
リン酸2水素ナトリウム(NaH2PO4)0.1M、リン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)0.1Mを脱イオン水に溶解して、pH7.2の緩衝溶液を用意した。この緩衝溶液にアスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸を溶解し、アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の濃度が等しい、各10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、および140μMの被検試料(3a)〜(3n)を調製した。
【0053】
[センサの作製]
作製したDTH化学修飾電極を作用電極として、実施例1と同様のセルを用いてセンサを作製した。
[電解検出方法]
実施例1と同様に、矩形波ポーラログラフ法を用いて電解電流を測定した。
【0054】
[検出結果]
被検試料(3a)〜(3n)について得られた電流−電位曲線を図5に示す。
アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の濃度が被検試料(3a)〜(3n)の順に高くなるように調製されていることに対応して、アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の両方の酸化ピーク電流は被検試料(3a)〜(3n)の順に増加した。
【0055】
よって、既知のアスコルビン酸および3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度の試料について測定を行い、あらかじめ検量線を作成しておくことにより、それぞれの酸化に由来する電流ピークの高さから、アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度を同時に容易に定量することができる。
【0056】
同じ濃度のアスコルビン酸および3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化ピーク電流を比較すると、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の方が大きく、従ってアスコルビン酸よりも3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸を高感度に検出することができる。
【0057】
(実施例5)
[修飾電極の作製]
実施例1と同様に、電極(A)を作製した後、一般式(II)において、n=2、Fが
【0058】
【化10】
【0059】
で示されるジニッケル(II)(2,2’−ビス(1,3,5,8,12−ペンタアザシクロテトラデク−3−イル)ジエチルジスルフィド)過塩素酸塩(以下、ニッケル大環状錯体と略称する。)0.5mMを溶解したエタノール溶液に36時間浸漬した後、室温で乾燥して、カチオン性化合物であるニッケル大環状錯体で化学修飾した修飾電極(D)を作製した。
【0060】
[被検試料の調製]
リン酸2水素ナトリウム(NaH2PO4)0.1M、リン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)0.1Mを脱イオン水に溶解したpH7.2の緩衝溶液にアスコルビン酸を0.5mM、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸を0.5mM溶解し、被検試料(4)を調製した。
【0061】
[センサの作製]
作製したニッケル大環状錯体化学修飾電極または電極(A)を作用電極として、実施例1と同様のセルを用いてセンサを作製した。
[電解検出方法]
実施例1と同様に、矩形波ポーラログラフ法を用いて電解電流を測定した。
【0062】
[検出結果]
電極(A)、ニッケル大環状錯体で化学修飾した修飾電極(D)をそれぞれ用いて、矩形波ポーラログラフ法で得られた電流−電位曲線を図6に示す。
修飾電極(D)では、アスコルビン酸に由来する酸化電流ピークが+0.05V付近に得られ、+0.18V付近に3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の酸化に由来する電流ピークが得られた。しかし、電極(A)では、アスコルビン酸の酸化に由来する明瞭な電流ピークは得られず、+0.18V付近に単一の電流ピークが得られただけであり、アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸とを分離して検出することができなかった。
よって、修飾電極(D)を用いることにより、アスコルビン酸と3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸の共存する被検試料中でこれらを分離して検出することができた。
【0063】
【発明の効果】
本発明を用いることにより、哺乳動物の脳の細胞外体液のようにアスコルビン酸を含む被検試料であっても、被検試料中の神経伝達物質ドーパミンの代謝産物である3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸およびホモバニリン酸を迅速かつ容易に同時定量することができる。また、被検試料中のアスコルビン酸についても定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の修飾電極の一実施例の断面図である。
【図2】本発明の実施例1における、比較用の電極(A)及びDTEで化学修飾した修飾電極(B)の電流−電位応答を示す図である。
【図3】本発明の実施例2における、アスコルビン酸濃度が一定で、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度を変化させた複数の被検試料中での、修飾電極(B)の電流−電位応答を示す図である。
【図4】本発明の実施例3における、アスコルビン酸濃度が一定で、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度を変化させた複数の被検試料中での、修飾電極(C)の電流−電位応答を示す図である。
【図5】本発明の実施例4における、アスコルビン酸及び3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸濃度を変化させた複数の被検試料中での、修飾電極(C)の電流−電位応答を示す図である。
【図6】本発明の実施例5における、比較用の電極(A)及び修飾電極(D)の電流−電位応答を示す図である。
Claims (5)
- 導電性の基板を有し、前記基板表面をカチオン性化合物で化学修飾したことを特徴とする、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸検出用修飾電極。
- 上記基板が金または銅からなることを特徴とする請求項1に記載の修飾電極。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の修飾電極を作用電極として用いることを特徴とするセンサ。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の修飾電極、または請求項4に記載のセンサを用い、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸を電気化学的に酸化する工程を含むことを特徴とする、被検試料中の3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸及び/またはホモバニリン酸の検出方法。
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