本発明に係るセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法は、不飽和カルボン酸を含む不飽和モノマーと連鎖移動剤を反応器内に供給し、連鎖移動剤の存在下で当該不飽和モノマーを重合する工程において、当該不飽和モノマーの供給量に対する連鎖移動剤の供給量の比を変化させることを特徴とする。
本発明方法で用いる不飽和モノマーは、少なくともフリーの不飽和カルボン酸を含む。セメント粒子の凝集を効果的に抑制するためである。斯かる不飽和カルボン酸としては、下記化学式(1)中、M1が水素原子である化合物を挙げることができる。しかし、目的とするポリマーの種類や特性などに応じて、フリーの不飽和カルボン酸以外の不飽和モノマーを用い、共重合させてもよい。
本発明方法の不飽和モノマーとしては、例えば下記化学式(1)の化合物を例示することができる。
[式中、R1、R2およびR3は、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基または−(CH2)ZCOOM2(−(CH2)ZCOOM2は、−COOM1または他の−(CH2)ZCOOM2と無水物を形成していてもよい。)を表し、Zは0〜2の数を表す。M1およびM2は同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。]。
上記不飽和モノマー(1)の例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系モノマー;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系モノマー;これらの無水物;およびこれらの1〜3価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等の塩を挙げることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸およびこれらの塩が、重合性の観点から好ましい。さらに好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、およびその塩である。
また、本発明方法の不飽和モノマーとしては、下記化学式(2)を用いてもよい。
[式中、R4およびR5は同一若しくは異なって、水素原子またはメチル基を表す。AOは炭素数2以上のオキシアルキレン基を表し、xは0〜2の数を表し、yは0または1を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。R6は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。但し、nが2以上である場合、AOの構造は互いに同一であっても異なっていてもよく、2種以上の構造が存在している場合には、それらはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。]。
上記不飽和モノマー(2)の定義中、AOで表されるオキシアルキレン基は、セメント分散性能を向上させるという観点からは、その親水性を高める必要があるので、炭素数の少ないオキシアルキレン基が主体を占めることが好ましく、特に炭素数2のオキシアルキレン基であるオキシエチレン基が主体を占めることが好ましい。この際、不飽和モノマー(2)におけるオキシアルキレン基単位全体に対するオキシエチレン基の比率は、例えば50%以上とすることができ、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上であり、特に100%とすることが好適である。
一方、本発明方法により製造されたポリカルボン酸系ポリマーを用いて製造されたコンクリートの粘性やこわばり感を低減するなど、コンクリートの状態を改善するという観点からは、上記不飽和モノマー(2)のオキシアルキレン基に、炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入することが好ましい。ある程度の疎水性を付与することで、セメント粒子に若干の構造(ネットワーク)をもたらすことによって、上記状態を改善できるからである。しかし、炭素数3以上のオキシアルキレン基の導入数が過剰であると、得られるポリマーの疎水性が高くなり過ぎ、セメントの分散性が低下するおそれがある。従って、不飽和モノマー(2)におけるオキシアルキレン基単位全体に対する炭素数3以上のオキシアルキレン基の比率は、1〜50%が好ましく、さらに3〜40%が好ましく、さらに5〜30%が好ましい。
斯かる炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、導入のし易さやセメントとの親和性の観点から、炭素数3〜8のオキシアルキレン基が好ましく、さらに炭素数3〜4のオキシアルキレン基が好ましく、特にオキシプロピレン基およびオキシブチレン基が好ましい。また、炭素数3以上のオキシアルキレン基は、不飽和モノマー(2)のオキシアルキレン基に、ランダム状やブロック状等どのように導入されてもよいが、−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−(オキシエチレン基)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−のように、A−B−Aのブロック状に導入されることが好ましい。
オキシアルキレン基の平均付加モル数は、1〜300モルが好ましい。さらに好ましくは2〜250モルであり、さらに好ましくは4〜200モルであり、さらに好ましくは6〜150モルであり、特に好ましくは8〜100モルである。
オキシアルキレン基の末端基であるR6としては、水素原子;または炭素数1〜20のアルキル基(鎖状アルキル基および環状アルキル基を含む);炭素数2〜20のアルケニル基;炭素数2〜20のアルキニル基;フェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基など置換基を有してもよいアリール基;ベンジル基などのアリールアルキル基などの炭化水素基を挙げることができる。
上記不飽和モノマー(2)としては、アルコキシポリアルキレングリコール類またはポリアルキレングリコール類と、(メタ)アクリル酸やクロトン酸などとのエステル化合物を挙げることができ、これらから1種を選択するか、2種以上を選択し混合して用いることができる。ここで、アルコキシポリアルキレングリコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなど炭素数1〜20の飽和脂肪族アルコール;アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコール、オレイルアルコールなど炭素数3〜20の不飽和脂肪族アルコール;フェノール、メニルメタノール(ベンジルアルコール)、メチルフェノール(クレゾール)、p−エチルフェノール、ジメチルフェノール(キシレノール)、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールなど炭素数6〜20の芳香族アルコールの何れかのアルコールに、炭素数2〜18のアルキレンオキシドの重合体を付加することによって得られる。また、ポリアルキレングリコール類としては、炭素数2〜18のアルキレンオキシドを重合したものを例示することができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸とアルコキシポリアルキレングリコール類とのエステルが好ましい。さらに、ビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オールなどの不飽和アルコールに、アルキレンオキシドまたはアルキレンオキシドの2〜300モル重合体を付加した化合物を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらモノマーの中でも、特にビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オールを用いて合成されたものが好ましい。また、上記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシドなど、炭素数2〜18のアルキレンオキシドの中から選択される任意の1種または2種以上がある。これらアルキレンオキシドの2種以上を付加させる場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加など、何れの態様でもよい。
不飽和モノマー(1)と(2)は、互いに異なる化合物であり、これら化合物の範囲に含まれるモノマーを2種以上選択して用いてもよいが、さらに共重合可能なモノマー(3)を不飽和成分として共重合させてもよい。斯かるモノマー(3)としては、炭素数1〜20のアルキルアルコール;炭素数2〜18のグリコール;炭素数2〜18のグリコールに、付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールを付加したもの;炭素数1〜20のアルキルアルコールに、炭素数2〜18のアルキレンオキシドを付加したもの;または付加モル数2〜300のアルコキシポリアルキレングリコールと、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸とのモノエステル類、またはジエステル類がある。また、上記不飽和ジカルボン酸と、炭素数1〜20のアルキルアミンおよび炭素数2〜18のグリコールの片末端アミノ化物;上記不飽和ジカルボン酸と、炭素数1〜20のアルキルアミン、および炭素数2〜18のグリコールに付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールを付加させたものの片末端アミノ化物;上記不飽和ジカルボン酸とのモノアミド類やジアミド類;上記不飽和ジカルボン酸と、炭素数1〜20のアルキルアルコール、炭素数2〜18のグリコール、付加モル数2〜300で炭素数2〜18のグリコールを重合したもの、炭素数1〜20のアルキルアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドを付加したもの、付加モル数2〜300でアルキレンオキシドを重合させたアルコキシポリアルキレングリコールとのエステル類;上記不飽和ジカルボン酸と、炭素数1〜20のアルキルアミンおよび炭素数2〜18のグリコールとの片末端アミノ化物;上記不飽和ジカルボン酸と、炭素数1〜20のアルキルアミン、および付加モル数2〜300で炭素数2〜18のグリコールを重合させたポリアルキレングリコールとの片末端アミノ化物;スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類;これらの1〜3価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等の塩;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等の不飽和アミド;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の不飽和アミノ化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等の炭素数3〜20のアルキルビニルエーテル等のビエニルエーテル;スチレン等の芳香族ビニル等でもよい。以上の共重合可能な化合物から1種または2種以上選択し、用いることができる。
本発明で用いる不飽和モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸を98〜2質量%含み、且つ不飽和モノマー(2)を2〜98質量%含む混合物を挙げることができる。また、不飽和モノマー(1)と(2)およびモノマー(3)を重合してポリマーを得るには、これらモノマーの使用割合は、合計量を100質量%として、(1)/(2)/(3)=2〜98質量%/98〜2質量%/0〜50質量%とすることができる。好ましくは、2〜90質量%/98〜10質量%/0〜50質量%であり、さらに好ましくは2〜50質量%/98〜50質量%/0〜50質量%、さらに好ましくは5〜30質量%/95〜70質量%/0〜50質量%である。これら例示に関わらず、不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸以外の不飽和モノマー(1)、および不飽和モノマー(2)等との混合割合は、目的とするポリマーの種類や特性などに応じて適宜選択すればよい。また、不飽和モノマー(1)または不飽和モノマー(2)の範囲に含まれる化合物を複数選択し、それらを併用してもよい。
不飽和モノマーを重合する工程は、一般的には、反応器に溶媒を導入しておき、少なくとも不飽和モノマー、連鎖移動剤および重合開始剤の溶液を、反応器へ滴下する。
不飽和モノマーとして複数モノマーの混合物を使用する場合は、当該混合物の溶液を滴下してもよく、或いはモノマーごとに溶液を調製し用いてもよい。複数のモノマーを用いて別々の溶液とする場合には、その何れか1つに連鎖移動剤を混合してもよいが、反応の制御を容易にするために、不飽和モノマー溶液と連鎖移動剤溶液は、別にすることが好ましい。なお、不飽和モノマー溶液と重合開始剤溶液を別にすることは当然である。以上より、複数の不飽和モノマーから1つの溶液を調製することはあっても、少なくとも不飽和モノマー、連鎖移動剤および重合開始剤の溶液は別にし、それぞれ異なる経路から反応器へ供給する。
溶媒の種類は特に限定されないが、例えば使用する不飽和モノマーの種類に応じて、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;およびこれら2以上の混合溶媒を用いることができる。
最初に反応器へ導入する溶媒、および各成分の溶液に用いる溶媒は、各成分に対する溶解性を考慮し、互いに異なるものであってもよいが、好適には同一のものを用いる。また、各成分溶液の濃度も特に限定されないが、一般的に不飽和カルボン酸およびその誘導体の溶解性は高いので、10〜90質量%とすることができる。一方、連鎖移動剤と重合開始剤の溶液濃度は、反応の制御を容易にするために、1〜10質量%程度にすることが好ましい。
連鎖移動剤としては、例えばメルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸などのチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコールなどの2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸およびその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸およびその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなど)などの低級チオ酸化物およびその塩;などの公知の親水性連鎖移動剤を用いることができる。
また、最終的に得られるセメント組成物の粘性改善のために、疎水性連鎖移動剤を用いてもよい。斯かる疎水性連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチルなどの炭素原子数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を挙げることができる。
連鎖移動剤としては、上記したものから1種を選択して用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。例えば、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。また分子量調整のためには、(メタ)アリルスルホン酸(塩)類などの連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
本発明方法で用いる重合開始剤の種類は特に制限されないが、水溶性の重合開始剤、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩などのアゾアミジン化合物;2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩などの環状アゾアミジン化合物;2−カルバモイルアゾイソブチロニトリルなどのアゾニトリル化合物等の水溶性アゾ系開始剤;などを用いることができる。また、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L−アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)などの促進剤(還元剤)を併用することもできる。中でも、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせが好ましく、有機系還元剤としては、L−アスコルビン酸(塩)、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸(塩)、エリソルビン酸エステルなどを好適に用いることができる。これらの重合開始剤や促進剤(還元剤)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記成分以外に、不飽和モノマーの重合反応で一般的に用いられる添加成分を、適宜選択して使用してもよい。
重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤の種類等により適宜定めればよいが、好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃である。
上記重合反応により得られたポリマーは、水溶液状態で弱酸性以上(好適にはpH4以上、より好ましくはpH5以上、さらに好ましくはpH6以上)のpHに調整することによって、取扱い易くなる。一方、共重合反応をpH7以上で行なうと、重合率の低下が起こると同時に共重合性が悪くなり、結果として分散性が低下する。そのため、共重合反応は、酸性から中性(より好ましくはpH6未満、さらに好ましくはpH5.5未満、さらに好ましくはpH5未満)のpH領域で行なうことが好ましい。
本発明方法により製造されたポリマーの重量平均分子量(Mw)は、8000以上(より好ましくは12000以上、さらに好ましくは15000以上、さらに好ましくは20000以上、さらに好ましくは25000以上、さらに好ましくは30000以上、さらに好ましくは35000以上、さらに好ましくは40000以上)であれば、セメント組成物に十分な分散性を付与できるセメント混和剤用ポリマーとして用いることができる。しかし、重量平均分子量が高過ぎれば、保持性能が悪化することがあるため、300000以下(より好ましくは200000以下、さらに好ましくは100000以下、さらに好ましくは70000以下)とすることが好ましい。
本発明方法では、重合工程において、不飽和モノマーの供給量に対する連鎖移動剤の供給量の比を変化させることを特徴とする。これにより得られるポリカルボン酸系ポリマーの分子量分布を狭くすることができ、その結果、当該ポリカルボン酸系ポリマーを添加したセメント組成物の初期分散性を向上させることができる。
本発明方法の重合工程では、不飽和ポリマー溶液と連鎖移動剤溶液を反応器へ供給(滴下)するに当たり、(i)不飽和ポリマー溶液供給量を一定にし、連鎖移動剤溶液供
給量を変化させるか、(ii)連鎖移動剤溶液供給量を一定にし、不飽和ポリマー溶液供給量を変化させるか、(iii)両者の供給量を変化させる、ことが考えられる。これら態様のうち、反応の制御を容易にするために、何れか一方の供給量を一定とし他方の供給量を変化させることが好ましく、また、不飽和ポリマー溶液供給量を一定にし、連鎖移動剤溶液供給量を変化させることがさらに好ましい。或いは、予め不飽和モノマーに対する連鎖移動剤の割合を変化させた複数の溶液を調製し、反応開始剤を供給しながら、これら溶液を順次供給してもよい。
不飽和モノマーの供給量に対する連鎖移動剤の供給量の比の変化は、重合工程中に、連続的に行なっても段階的に行なってもよく、好ましくは段階的に変化させる。段階的に変化させるとは、上記比を所定時間維持し、次いで変化させることを意味し、変化する回数は、特には限定されないが、好ましくは2回〜10回、さらに好ましくは3回〜8回程度である。また、上記比を維持する時間は必ずしも同じである必要はなく、これも変化させてもよい。
上記比の変化に関する具体的な条件は、所望するポリカルボン酸系ポリマーの重合過程における重量平均分子量(Mw)の経時的な変動を把握し、それによって決定すればよい。例えば、重合反応が進行するに連れてMwの値が過剰に増加する場合には、上記比の値が高くなるように、即ち、不飽和モノマーの供給量に対する連鎖移動剤の供給量の割合を高くする。一般的には、重合工程の後半において、重合工程初期から存在しているポリマーラジカルの反応が、最終的に得られるポリカルボン酸系ポリマーの分子量分布を広げる原因であるので、当該反応を抑制すべく、上記比は重合工程中に増加させることが好ましい。なお、Mwや数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)などの公知の方法にて測定すればよい。
不飽和モノマーおよび連鎖移動剤の供給開始時における上記供給量の比に対する供給終了時における上記供給量の比の変化比、即ち、[(供給終了時における連鎖移動剤の供給モル数)/(供給終了時における不飽和単量体成分の供給モル数)]/[(供給開始時における連鎖移動剤の供給モル数)/(供給開始時における不飽和単量体成分の供給モル数)]の値は、1.1以上(好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上)とすることが好ましい。上記比の変化が大きいほど分子量分布の狭いポリマーを得やすくなるからである。一方、上記比の変化を大きくし過ぎると、得られるポリマーの分子量分布は逆に広くなるため、上記変化比は5.0以下(好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4.0以下)とすることが好ましい。なお、不飽和モノマー溶液と連鎖移動剤溶液の滴下開始が同時でなかったり、滴下開始が同時であっても滴下時間長さが異なる場合がある。斯かる場合における「不飽和モノマーおよび連鎖移動剤の供給開始時」は、反応器に両者が初めて存在した時点、即ち供給開始時が遅い方の供給開始時をいい、「供給終了時」は、何れか一方の供給が終了した時点をいうものとする。
本発明方法では、不飽和モノマーの供給量に対する連鎖移動剤の供給量の比を変化させることで、得られるポリマーの分子量分布を抑制している。しかし、従来方法では当該比は一定であったため、得られたポリマーの分子量分布は広く、当該ポリマーをセメント組成物に添加した場合の初期分散性は満足できるものではなかった。この点は、得られるポリマーの分子量が大きいほど問題となる。つまり、本発明方法の効果は、製造するポリマーの分子量が大きくなるほど高くなることになる。そこで、本発明方法は、具体的には重量平均分子量が35000以上のポリカルボン酸系ポリマーを製造するために用いることが好ましい。
本発明のセメント混和剤は、本発明方法で製造したポリカルボン酸系ポリマーを含有することを特徴としており、当該セメント混和剤を添加したセメント組成物は、初期分散性に極めて優れる。
本発明に係るポリカルボン酸系ポリマーのセメント混和剤に対する含有量は、所望する初期流動性の値に応じて適宜選択すればよく、具体的には、50質量%以上(好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80%以上)であればよい。
本発明のセメント混和剤は、水溶液の形態で使用してもよい。また、ポリカルボン酸系ポリマーを、カルシウムやマグネシウム等の二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥したり、シリカ系微粉末等の無機粉体に担持して乾燥したり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置またはベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したりすることにより粉体化した上で、セメント混和剤として使用してもよい。それ以外に、粉体化した本発明のセメント混和剤を、予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウト等に用いるプレミックス製品として使用してもよいし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
本発明のセメント混和剤には、本発明方法により製造されたポリカルボン酸系ポリマー以外にも、本発明に係るポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマー、ポリアルキレンイミンアルキレンオキサイド付加物を添加してもよい。これら成分を添加する場合、それらの含有比率(質量比)として、本発明のポリマー/本発明のポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマー/ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の値は、10〜80/10〜89/1〜80とすることができ、好ましくは15〜70/20〜84/1〜65、より好ましくは20〜60/30〜77/3〜50、さらに好ましくは20〜50/40〜75/5〜40である。
また本発明のセメント混和剤は、以下のオキシアルキレン系の消泡剤と併用することも好ましい。
消泡剤としては、具体的には、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、炭素原子数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンステアリルリン酸エステル等のポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加物、エチレンオキシド1〜20モル付加物など)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂アミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)等のポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド;等が挙げられる。これらの消泡剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。消泡剤の添加時期は、重合開始前、重合中、重合後の何れであってもよい。また添加割合は、セメント混和剤用ポリマーの全質量に対して、0.0001〜10質量%とすることが好ましい。
また本発明のセメント混和剤は公知のセメント混和剤と併用することが可能であり、複数の公知のセメント混和剤の併用も可能である。併用することができる公知のセメント混和剤としては、セメントの銘柄やロットNo.の違いによらず安定した分散性能を発揮することから、公知のポリカルボン酸系混和剤および分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤(S)が好ましい。
スルホン酸系混和剤(S)は、主にスルホン酸基によってもたらされる静電的反発によりセメントに対する分散性を発現する混和剤であって、公知の各種スルホン酸系混和剤を用いることができるが、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系;等の各種スルホン酸系混和剤が挙げられる。水/セメント比が高いコンクリートではリグニンスルホン酸塩系の混和剤が好適に用いられ、一方、より高い分散性能が要求される水/セメント比が中程度のコンクリートでは、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系、芳香族アミノスルホン酸塩系、ポリスチレンスルホン酸塩系等の混和剤が好適に用いられる。なお、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤(S)を2種類以上併用してもよい。
上記のスルホン酸系混和剤(S)以外に、高温の環境下においてもより高い分散保持性能を発揮することからオキシカルボン酸系化合物(D)を添加することも好ましい。
上記オキシカルボン酸系化合物(D)としては、炭素原子数4〜10のオキシカルボン酸もしくはその塩が好ましく、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸や、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩または有機塩等が挙げられる。中でも、グルコン酸もしくはその塩を用いることが好ましい。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、貧配合コンクリートでは、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤(S)としてリグニンスルホン酸塩系の混和剤を用い、オキシカルボン酸系化合物(D)としてグルコン酸もしくはその塩を用いることが好ましい。
上記以外に、以下の(1)〜(11)に例示する公知のセメント混和剤と併用することも好ましい。
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の多糖類のアルキル化またはヒドロキシアルキル化誘導体の一部または全部の水酸基の水素原子が、炭素原子数8〜40の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホン酸基またはそれらの塩を部分構造として有するイオン性親水性置換基で置換されてなる多糖誘導体;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1.3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状の何れでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸のコポリマーおよびその四級化合物;等。
(2)高分子エマルジョン:(メタ)アクリル酸アルキル等の各種ビニル単量体の共重合物等。
(3)オキシカルボン酸系化合物(D)以外の硬化遅延剤:グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アピオース、リボース、異性化糖等の単糖類や、二糖、三糖等のオリゴ糖、またはデキストリン等のオリゴ糖、またはデキストラン等の多糖類、これらを含む糖蜜類等の糖類;ソルビトール等の糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩またはホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸およびその誘導体;等。
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸およびギ酸カルシウム等のギ酸塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート;等。
(5)オキシアルキレン系以外の消泡剤:燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等のアルコール系消泡剤;アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤;等。
(6)AE剤:樹脂石鹸、飽和あるいは不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステルまたはその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステルまたはその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
(7)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基またはアルコキシ基を置換基として有してもよい、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤;等。
(8)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
(9)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
(10)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル等。
(11)膨張材;エトリンガイト系、石炭系等。
上記(1)〜(11)以外にセメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤などの公知のセメント混和剤を単独でまたは2種以上を併用して添加してもよい。
本発明のセメント混和剤において、特に好適な実施形態としては、次の(1)〜(4)が挙げられる。
(1)本発明のセメント混和剤、および、オキシアルキレン系消泡剤の2成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比としては、本発明のセメント混和剤に対して0.01〜20質量%の範囲が好ましい。
(2)本発明のセメント混和剤、および、材料分離低減剤の2成分を必須とする組み合わせ。材料分離低減剤としては、非イオン性セルロースエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素原子数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物等が使用可能である。なお、本発明のセメント混和剤と材料分離低減剤との配合質量比としては、10/90〜99.99/0.01が好ましく、50/50〜99.9/0.1がより好ましい。この組み合わせのセメント組成物は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適である。
(3)本発明のセメント混和剤、および、促進剤の2成分を必須とする組み合わせ。促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸およびギ酸カルシウム等のギ酸塩類等が使用可能である。なお、本発明のセメント混和剤と促進剤との配合質量比としては、10/90〜99.9/0.1が好ましく、20/80〜99/1がより好ましい。
(4)本発明のセメント混和剤、オキシアルキレン系消泡剤、およびAE剤の3成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、本発明のセメント混和剤と消泡剤の配合質量比としては、本発明のセメント混和剤に対して0.01〜20質量%が好ましい。一方、AE剤の配合質量比としては、セメントに対して0.001〜2質量%が好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤は、水溶液の形態で使用してもよいし、重合後にカルシウム、マグネシウム等の二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末等の無機粉体に担持して乾燥させたり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置またはベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したりすることにより粉体化して使用してもよい。それ以外に、粉体化した本発明のセメント混和剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウト等に用いるプレミックス製品として使用しても良いし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
本発明のセメント組成物は、上記セメント混和剤とセメント、水を含有することを特徴とする。さらに必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を添加したセメントペーストやモルタル、コンクリート、プラスターなど水硬性組成物の形態も含む。
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、当該セメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント、および水を必須成分として含んでなる。このようなセメント組成物は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)などや、それらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したものが挙げられる。また骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材などが挙げられる。
上記セメント組成物の1m3あたりの単位水量、セメント使用量、および水/セメント比(質量比)は、単位水量100〜185kg/m3、使用セメント量200〜800kg/m3、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7(好ましくは単位水量120〜175kg/m3、使用セメント量250〜800kg/m3、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65)とすることが好ましく、本発明のセメント組成物は貧配合から富配合に至るまでの幅広い範囲で使用可能である。本発明のセメント混和剤は、高減水率領域、即ち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域でも使用可能であり、さらに、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m3以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
セメント混和剤のセメント組成物中での配合割合は、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリートなどでは、単位水量の低減・強度の増大・耐久性の向上などの観点から、固形分換算でセメント質量の0.01〜10.0質量%(好ましくは0.02〜5.0質量%、さらに好ましくは0.05〜3.0質量%、特に好ましくは0.1〜2.0質量%)とすることが好ましい。上記配合割合未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に上記配合割合以上ではその効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。
本発明のセメント組成物は、上述のように高減水率領域においても高い分散性と分散保持性能を有し、かつ、低温時においても十分な初期分散性と粘性低減性を発揮し、優れたワーカビリティを有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、さらに、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1 本発明方法によるポリカルボン酸系重合体の製造
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水(600g)を導入し、反応容器内を窒素置換した後、撹拌しつつ80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数:25)(500.4g)、メタクリル酸(99.6g)および水(150g)を混合し、単量体混合物水溶液を調製した。別途、メルカプトプロピオン酸(3.3g)を水(62.6g)に溶解して連鎖移動剤水溶液を調製した。さらに、過硫酸アンモニウム(6.9g)を水(143.1g)に溶解し、開始剤水溶液を調製した。
単量体混合物水溶液を、その総滴下時間が4時間となるように、また、開始剤水溶液を総滴下時間が5時間となるように、一定速度で反応容器内に滴下した。さらに、単量体混合物水溶液と開始剤水溶液を滴下すると同時に、連鎖移動剤水溶液を、滴下開始から1時間までの間に一定速度で12.5g滴下し、1時間後から2時間後までの間に一定速度で15.3g滴下し、2時間後から3時間後までの間に一定速度で18.0g滴下し、3時間後から4時間後までの間に一定速度で20.1g滴下した。その後、引き続いて80℃で1時間維持し、重合反応を完結させた。次いで30℃まで冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液によりpHが7.0となるように中和し、本発明に係るポリカルボン酸系重合体(実施例1)の水溶液を得た。
比較製造例1 従来方法によるポリカルボン酸系重合体の製造
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水(596g)導入し、反応容器内を窒素置換した後、撹拌しつつ80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数:25)(500.4g)、メタクリル酸(99.6g)および連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸(3.7g、モノマーに対して2.2mol%)を水(150g)に溶解し、連鎖移動剤を含む単量体混合物水溶液を調製した。別途、過硫酸アンモニウム(6.9g)を水(143.1g)に溶解し、開始剤水溶液を調製した。
当該単量体混合物水溶液を、その総滴下時間が4時間となるように、また、開始剤水溶液を総滴下時間が5時間となるように、一定速度で反応容器内に滴下した。その後、引き続いて80℃で1時間維持し、重合反応を完結させた。次いで30℃まで冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液によりpHが7.0となるように中和し、従来のポリカルボン酸系重合体(比較例1)の水溶液を得た。
試験例1 GPC測定
上記製造例1と比較製造例1において、所定時間ごとに反応溶液を採取し、下記溶離液により重合体濃度が0.5質量%となるように溶解し、下記の測定条件にてGPC測定を行ない、下記解析ソフトにより重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。
使用カラム: 東ソー社製 TSK guard column SWXL、TSKgel G4000SWXL、同G3000SWX、および同G2000SWXを、この順で連結させたもの
溶離液: 水(10999g)とアセトニトリル(6001g)との混合溶媒に、酢酸ナトリウム三水和物(115.6g)を溶解し、さらに酢酸でpHを6.0に調整したもの
サンプル打ち込み量: 100μL
流速: 0.8mL/分
カラム温度: 40℃
検出器: 日本Waters社製 2414 示差屈折検出器
解析ソフト: 日本Waters社製 Empower Software
較正曲線作成用標準物質: ポリエチレングリコール[ピークトップ分子量(Mp) 272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470]
較正曲線: 上記のポリエチレングリコールのMp値を用いて3次式で作成。
得られた結果を表1に示す。また、各時間帯における単量体に対する連鎖移動剤の添加量のモル比を表2に示す。
当該結果の通り、比較例1のMw/Mnの値は2.411であるのに対し、本発明に係る実施例1のMw/Mnの値は2.335と低減されている。従って、本発明の製造方法を用いることによって、分子量分布の狭いポリカルボン酸系重合体が得られることが実証された。
製造例2 本発明方法によるポリカルボン酸系重合体の製造
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水(300.0g)を導入し、反応容器内を窒素置換した後、撹拌しつつ58℃まで加熱した。その後、4重量%過酸化水素水(46.8g)を添加し、再び窒素雰囲気下で58℃まで加熱した。次に3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加体(エチレンオキシドの平均付加モル数:50)(594.6g)を水(245.0g)に溶解し、エチレンオキシド付加体水溶液を調製した。別途、アクリル酸(80.4g)を水(46.2g)に溶解して、アクリル酸水溶液を調製した。さらに、L−アスコルビン酸(2.4g)と3−メルカプトプロピオン酸(2.2g)を水(182.4g)に溶解し、連鎖移動剤水溶液を調製した。
これらエチレンオキシド付加体水溶液とアクリル酸水溶液を、その総滴下時間が3時間となるように、一定速度で反応容器内に滴下した。さらにエチレンオキシド付加体水溶液の滴下開始と同時に、連鎖移動剤水溶液を、滴下開始から0.5時間までの間に一定速度で18.7g滴下し、0.5時間後から1時間後までの間に一定速度で21.4g滴下し、1時間後から1.5時間後までの間に一定速度で24.1g滴下し、1.5時間後から2時間後までの間に一定速度で26.7g滴下し、2時間後から2.5時間後までの間に一定速度で29.4g滴下し、2.5時間後から3時間後までの間に一定速度で32.1g滴下し、3時間後から3.5時間後までの間に一定速度で34.7g滴下した。その後、引き続いて80℃で1時間維持し、重合反応を完結させた。次いで30℃まで冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液によりpHが7.0となるように中和し、本発明に係るポリカルボン酸系重合体(実施例2)の水溶液を得た。
比較製造例2 従来方法によるポリカルボン酸系重合体の製造
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水(416.5g)を導入し、反応容器内を窒素置換した後、撹拌しつつ58℃まで加熱した。その後、4重量%過酸化水素水(63.2g)を添加し、再び窒素雰囲気下で58℃まで加熱した。次に3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加体(エチレンオキシドの平均付加モル数:50)(803.7g)を水(331.2g)に溶解して、エチレンオキシド付加体水溶液を調製した。別途、アクリル酸(108.7g)を水(27.2g)に溶解し、アクリル酸水溶液を調製した。さらに、L−アスコルビン酸(3.3g)と3−メルカプトプロピオン酸(2.8g)を水(243.9g)に溶解し、連鎖移動剤水溶液を調製した。
これらエチレンオキシド付加体水溶液とアクリル酸水溶液を、その総滴下時間が3.0時間となるように、また、連鎖移動剤水溶液を、その総滴下時間が3.5時間となるように、一定速度で反応容器内へ同時に滴下した。その後、引き続いて58℃で1時間維持し、重合反応を完結させた。次いで30℃まで冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液によりpHが7.0となるように中和し、従来のポリカルボン酸系重合体(比較例2)の水溶液を得た。
試験例2 GPC測定
上記試験例1と同様の方法によって、製造例2と比較製造例2で得られたポリカルボン酸系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。得られた結果と各時間帯における単量体に対する連鎖移動剤の添加量のモル比を、それぞれ表3と表4に示す。
当該結果の通り、比較例2のMw/Mnの値は2.090であるのに対し、本発明に係る実施例2のMw/Mnの値は2.030となっており、本発明の製造方法を用いることで分子量分布の狭いポリマーが得られることが判明した。
試験例3 初期分散性の評価(モルタル試験)
ホバート型モルタルミキサー(ホバート社製、型番:N−50)に太平洋普通ポルトランドセメント(900g)、セメント強さ試験用標準砂(JIS R 5201−1997付属書2の5.1.3に規定)(1350g)を入れ、1速で15秒間空練りした。別途、上記製造例1、2または比較製造例1、2のポリカルボン酸系重合体の何れかと、消泡剤(NMB社製、MA404)を秤量し、表3に示す割合となるように水へ溶解したもの(270g)を調製した。得られた調製物を上記ミキサーに15秒かけて投入し、さらに1速で15秒間混練した。次にミキサーの回転速度を2速に変更し、さらに135秒間混練した。混練終了から3分後に得られたモルタルをフローコーン(JIS R5201−1997に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、さらに残るモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰め、つき棒で15回突いた。次いで、フローコーンを逆さまにした後に垂直に引き上げ、直後にモルタルが広がってできた図形の直径を2ヶ所測定し、その平均値をモルタルフロー値とし、得られた値を基にして初期分散性を評価した。結果を表5に示す。
当該結果の通り、本発明に係る製造例1と2の重合体(実施例1と2)を含むセメント組成物は、従来の製造方法で得られた重合体(比較例1と2)を含むセメント組成物よりもモルタルフロー値が高く、初期分散性に優れていることが証明された。さらに、本発明に係る重合体の添加量を、それぞれ88%と86%まで低減した場合であっても、比較例とほぼ同等のモルタルフロー値が得られている。従って、本発明に係る重合体は、従来よりも少ない量でも十分な効果が得られることが明らかにされた。