以下、本発明に係る実施形態を添付図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態を図1〜図6に基づき説明する。
この実施形態にかかるMRI(磁気共鳴イメージング)装置の概略構成を図1に示す。
このMRI装置は、被検体Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、高周波信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部と、被検体Pの心時相を表す信号としてのECG信号を計測する心電計測部と、被検体(患者)に呼吸を診断のために一時的に止めてもらうように指令する息止め指定部とを備えている。
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の軸方向(Z軸方向)に静磁場H0を発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するホスト計算機の制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。寝台部は、被検体Pを載せた天板を磁石1の開口部に退避可能に挿入できる。
傾斜磁場発生部は、磁石1に組み込まれた傾斜磁場コイルユニット3を備える。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交する、ガントリの物理軸としてのX、Y、Z軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組(種類)のx,y,zコイル3x〜3zを備える。傾斜磁場部はさらに、x,y,zコイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を備える。この傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサ5の制御のもと、x,y,zコイル3x〜3zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。
傾斜磁場電源4からx,y,zコイル3x〜3zに供給されるパルス電流の制御することにより、物理軸であるX,Y,Z方向の傾斜磁場を合成して、スライス方向傾斜磁場GS、位相エンコード方向傾斜磁場GE、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場GRを任意に設定・変更することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向は互いに直交する論理軸方向であり、この各方向の傾斜磁場は、静磁場H0に重畳される。
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて被検体Pの近傍に配設されるRFコイル7と、このコイル7に接続された送信器8T及び受信器8Rとを備える。この送信器8T及び受信器8Rは、後述するシーケンサ5の制御のもとで動作する。送信器8Tは、磁気共鳴(MR)を起こさせるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイル7に供給する。受信器8Rは、RFコイル7が受信したMR信号(高周波信号)を取り込み、これに各種の信号処理を施してデジタルデータ(原データ)を生成するようになっている。
さらに、制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、入力器13および音声発生器16を備える。
この内、ホスト計算機6は、記憶したソフトウエア手順により、シーケンサ5にパルスシーケンス情報を指令するとともに、装置全体の動作を統括する機能を有する。
シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8T、受信機8Rの動作を制御するとともに、受信器8Rが出力したMR信号のデシベルデータを一旦受けて、これを演算ユニット10に転送するように構成されている。
ここで、パルスシーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばx,y,zコイル3x〜3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。
このパルスシーケンスとしては、2次元スキャンまたは3次元スキャンのものであってもよいし、またそのパルス列の形態としては、SE(スピンエコー)法、FE(フィールド・グラジェントエコー)法、FSE(fast SE)法、FASE(高速Asymmetric SE)法など、どのようなパルス列であってもよい。
このMRI装置では後述するように、ホスト計算機6の管理下において、シーケンサ5の駆動によって、MTパルスとしてのRFパルスと論理軸方向(スライス方向、位相エンコード方向、読出し方向の内の任意方向)に印加する傾斜磁場スポイラとを含む事前シーケンスが、データ収集シーケンス(本シーケンスとも呼ばれる)に先立って印加される。
このMTパルスはスライス選択により印加されるように設定されている。つまり、MTパルスは、図2に示す如く、例えばsinc関数で形成される励起用の複数のRFパルスとして設定され、各MTパルスの印加と並行してスライス用傾斜磁場GSが印加される。このMTパルスの印加数は複数n個(例えば10個)であり、そのフリップ角度は従来のMTパルスによる大きな値(500°〜1000°)よりも小さい分割値(例えば90°〜100°程度)に設定される。このMTパルスは、例えば、所望の周波数オフセット値を有するRF信号をsinc関数で変調して形成される。このMTパルスの印加によって、撮像部位の実質部および水分はMT効果を受け、実質部の信号値が水分よりも大きく低下して、その両者のコントラストが大きくなる。
このMTパルスおよびスライス用傾斜磁場GSのn組を順次印加した後で、スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向においてスピン位相ディフェーズ用の傾斜磁場スポイラーパルスが同時に印加される。
また、演算ユニット10は、受信器8RからのMR信号のデジタルデータを入力して内蔵メモリで形成される画像のフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)への原データ(生データとも呼ばれる)の配置、および、原データを実空間画像に再構成するための2次元または3次元のフーリエ変換処理を行うようになっている。
記憶ユニット11は、原データおよび再構成画像データが施された画像データを保管することができる。表示器12は画像を表示する。また入力器13を介して、スキャン条件、パルスシーケンスなどの情報をホスト計算機6に入力できるようになっている。
音声発生器14は、息止め指定部の一部として機能する要素であり、ホスト計算機6から指令があったときに、息止め開始および息止め終了のメッセージを音声として発することができる。
さらに、心電計測部は、被検体の体表に付着させてECG信号を電気信号として検出するECGセンサ17と、このセンサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施してホスト計算機6およびシーケンサ5に出力するECGユニット18とを備える。この心電計測部による計測信号は、スキャンシーケンスを実行するときのタイミング信号としてホスト計算機6により用いられる。これにより、心電同期のための同期タイミングを適切に設定でき、この設定した同期タイミングに拠る心電同期スキャンを行ってMR原(生)データを収集できるようになっている。
続いて、本実施形態のMRI装置の動作を図2〜図6に基づき説明する。
本実施形態のMRI装置では、図2に示すMRアンギオグラフィ用のパルスシーケンスがシーケンサ5からの指令に基づき実行される。
このパルスシーケンスは、同図に示す如く、各回のRF励起において最初に実行する事前シーケンスSQpreと、これに続いて実行されるデータ収集シーケンスSQacqとから成る。
事前シーケンスSQpreは、MT効果を生じさせるMTパルス列PMTと、このMTパルス列PMTの印加後に印加する傾斜磁場スポイラーパルスSPS,SPR,SPEとを含む。MTパルス列PMTは、MTパルスとして順次印加する複数個の励起用のRFパルスP1 ,P2 ,P3 ,…,Pn と、これらのMTパルスと並行して印加するスライス用傾斜磁場パルスGSとから成る。
スライス用傾斜磁場パルスGS の印加強度=GS1は、この磁場に拠るスライス選択面が、図3(a)または(b)に例示する如く、撮像面Simaとは異なるギャップレスまたはギャップ有りの位置になるように設定されている。
各MTパルスP1 (P2 ,P3 ,…,Pn)は、一例としてSINC関数で形成され、このパルス印加に伴うスピンのフリップ角FA=例えば90°になるように強度設定されている。MTパルスP1 ,P2 ,P3 ,…,Pn の総個数は一例として10個に設定されている。
つまり、本実施形態では、大きなフリップ角度FA(例えば500°〜1000°)のMTパルスを1個、スライス選択で印加する従来の構成に代えて、このMTパルスを複数個に分割して順次、印加するMTパルス列の構成を採る。
各MTパルスP1 (P2 ,P3 ,…,Pn)に与えられるフリップ角度FAは、MTパルス列全体で所望のMT効果を引き起こせるように分割した値(好適な例としては90°〜100°)であるとともに、その個数もMTパルス列全体のMT効果および撮像時間との兼ね合いによって適宜な数(5個〜10個)に決められる。この分割された個々のMTパルスの印加時間は、1300μsec程度と、従来のスライス選択MTパルスよりも、分割した分だけ、短くなっている。
さらに、MTパルス列における分割化MTパルス間の時間間隔Δtは、MTパルス印加面(図3参照)の実質部の水/脂肪のMT効果を最適化できる値に設定されている。この時間間隔Δtは測定部位に拠っても異なり、また、場合によってはΔt=0に設定することもできる。
一方、スライス方向、読出し方向、および位相エンコード方向の3方向に入れた傾斜磁場スポイラーパルスSPS, SPR, SPEは、事前シーケンスSQpreにおけるエンドスポイラとして使用される。このため、傾斜磁場スポイラーパルスSPS, SPR, SPEのそれぞれは、複数個の分割化MTパルス印加後においてスピン位相を各方向毎に分散させ、事前シーケンスとデータ収集シーケンスとの間でスピン位相の干渉を排除し、疑似エコーの発生を防止するようにしている。なお、このスポイラーパルスは任意の1方向または2方向のみに印加するようにしてもよい。
データ収集シーケンスSQacqは、各論理軸方向のスライス用傾斜磁場GS、読出し用傾斜磁場GR、および位相エンコード用傾斜磁場GEを含む、例えばFSE法を採用している。
ホスト計算機6は所定メインプログラムを実行し、その中で図2に示すパルスシーケンスの各パルスを印加する。このパルス印加は、シーケンサ5の制御の元、x,y,zコイル3x〜3z及びRFコイル7を介して実施される。
まず、事前シーケンスSQpreにおいては、フリップ角FA=α°(例えば90°)のn個(n≧2:例えばn=10)のMTパルスP1〜Pn をスライス用傾斜磁場GS(=強度GS1)と共に順次印加される。このMTパルスP1〜Pnのそれぞれは例えばシンク関数で形成される。
診断部位を例えば図3(a)に示す如く下肢とすると、スライス用傾斜磁場GS=GS1の例えば強度を適宜に設定することで、所望の撮影面Sima の動脈流入側のほぼ隣接した所定厚さの平行な事前励起面Smtが設定される。この結果、事前励起面Smtにn個に分割されたMTパルスが一定時間Δt毎に順次印加されることになる。
なお、スライス用傾斜磁場GSの例えば強度を調節することで、事前励起面Smtを撮影面Simaの動脈流出側、すなわち静脈流入側に設定することができる。また、撮影面Simaと事前励起面Smtとの間に必要に応じてギャップを設けてもよいし、ギャップレスの状態に設定してもよい。
さらに事前シーケンスSQpreにおいて、上記分割化MTパルスを印加した直後に、スライス方向、読出し方向、および位相エンコード方向のそれぞれに、傾斜磁場スポイラーパルスSPS ,SPR ,およびSPEをそれぞれ印加する。
このようにして、最初に、事前励起面Smtが複数個の分割化MTパルス、すなわち従来法に拠るMTパルスよりも小さいフリップ角度および短い印加時間のMTパルスにより、複数回、順次、選択励起される。これにより事前励起面Smt内のスピンが励起されるとともに、この励起は撮像面Simaに対してはoff-resonanceであるため、後述する如くの本発明独特のMT効果を撮像面Simaに もたらす。この複数個の分割化MTパルスの励起によって横磁化に残っているスピンは、その後のスポイラーパルスSPS ,SPR,およびSPEによって十分に分散される。
その後、データ収集シーケンスSQacqに入り、一例としてのFSE法に基づくスキャンが撮像面Simaに対してシーケンサ5から指令される。このシーケンスにより、スライス用傾斜磁場GS=GS2(≠GS1)が設定されているので、撮像面Sima は所望スライス位置に設定される。撮像面SimaからRFコイル7を介して複数個のリフォーカスRFパルスに応答した複数のエコー信号が収集され、受信器8Rに送られる。この一連の撮像処理は、各回の励起毎に実行される。
被検体Pからの収集されたエコーデータは、受信器8Rでデジタルデータに処理され、演算ユニット10に順次格納される。演算ユニット10はホスト計算機6からの再構成指令に応答して、2次元フーリエ空間上に配置したエコーデータの組を2次元フーリエ変換して撮像面SimaのMRA像が再構成される。
このMRA像は、アーチファクトが少なく、また、その流入血流/実質部間の画像コントラストが従来のMTパルスを使用した場合よりも格段に改善されている。これは、本発明に基づく、分割された複数個のMTパルスを使用することで、撮像面Simaの実質部(静止部)からのエコー信号はMT効果で低減し、かつ、この撮像面Simaに流入する血流(動脈および/または静脈)に生じるMT効果が緩和(低減)することに拠る。つまり、複数個に分割された短いMTパルスに拠って、流れている又はタンブリング(tumbling)している血流の見掛けの縦緩和T1 時間が短くなって、MT効果の効き方が低減する一方で、実質部(静止部)には複数の分割MTパルスの和として働いた分の信号値低減効果があるので、撮像面Sima への流入血流(血液)と実質部との間の画像コントラストが従来の1個のMTパルスを使ったMT効果よりも格段に向上する。
この特徴を、その原理面から以下に詳述する。
まず、MTパルスとして、印加時間の長いRFパルスを1回印加する場合と、印加時間が短いRFパルスを連続的に複数回印加する場合とで、流れている又はタンブリング(tumbling)している血流に与えるMT効果を考える。
まず、T1 時間に寄与する一般的なファクタから説明する。縦緩和時間T1 は温度、常磁性(paramagnetic)成分、分子の大きさ、その環境、粘質性などによって変化する一方で、成分を構成する分子間においては以下のようなファクタの和で表されることが知られている。
同式中、第1項目のT1(DD) は「internuclear dipole-dipole 相互作用」を表す。この相互作用は、図4に模式的に示す如く、RF励起に拠ってそのエネルギを格子(lattice )に移動させることで、カップリングしている分子のスピンA,B間をデカップリング(decoupling)し、信号値を増加させる。
また、第2項目のT1(SR) は「スピンrotational」を表す。結合している分子は回転運動をする。分子が回転運動をすると、その運動の大きさにも拠るが、部分的な「local magnetic field」を発生し、T1 短縮に寄与する。
第3項目のT1(SC) は「scaler coupling 」を表す。このカップリングは、カップリングしている原子の片方がQuadrupole(四極子、スピン量子番号I≧1の原子、例えばO17=5/2,mn 55=5/2、参考として挙げるとH1 =1/2)と結合していると、四極子はQuadrupole relation という特有の短い緩和時間を有し、四極子とカップリングしているスピンの緩和時間をも短縮させる。
第4項目のT1(CSA)は「chemical shift anizotoropy」の項であり、電子遮蔽効果の変化に拠るローカルfield の変化を表す。この変化もT1 に影響する。
このようにT1 時間は様々な要素で変化する。上述したファクタ以外にもT1に影響する要素はあるが、その影響が大きいものは上述したファクタである。
静止している血液においても、oxyhemogrobin とdeoxyhemogrobin (酸化と無酸化ヘモグロビン)も、paramagnetic ion(主に、鉄Iと鉄II)を持つため、local magnetic fieldを作り、T1 時間を下げる。また、O2の有無によっても、spin-spin relaxation(T2 )や静脈(w 酸素、T2 =120msec)、動脈(less酸素、T2 =220msec)が異なる。
図5に、effective correlation :Tc に対するT1 ,T2 ,およびT1Pの依存性を示す。同図中、Aは堅い固体、Bは柔らかい固体、Cは粘土の高い液体、Dは通常の液体を示している(T.C.Farrar and E.D.Becker, Pulse andFourier Transform NMR, P.98, Academic Press(1971)参照)。
effective correlation :Tc は分子の動きを表すファクタで、動きの速い分子のタンブリング(回転、振動)度を示している。同図の横軸上を右側に進むほど、固体の度合いが高く、また分子の動きがスローになる。このような関係から、流れの速い血液と殆ど静止している血液とでは、T1 時間値は異なることが分かる。
さらに、MTパルスを分割、複数化して印加することで、流れている血液の見掛けの縦緩和時間T1 が短縮される。
MT(magnetization transfer)効果とは、前述したように、dipole-dipoleinteraction 関係にある高分子Hr近傍の自由水Hfの平衡状態を、自由水からoff-resonance の周波数をRFパルスでRF励起することにより、高分子のプロトンを励起し、これにより、そのプロトンと相互作用している自由水の信号強度に影響が与えられる現象である。すなわち、自由水の磁化をHf、高分子の磁化をHr、反応時間の定数をk
1およびk
−1とすると、
と表される。[ ]はコンセントラーション、Kは反応定数である。
そこで、自由水のT1 時間をT1f、高分子のT1 時間をT1rとすると、
と置くことができ、M
f(t):時刻=t時の自由水の磁化、M
f(0):時刻=0時の自由水の磁化、M
r(t):時刻=t時の高分子の磁化、およびM
r(0):時刻=0時の高分子の磁化とすると、
となる。
となる。ここで、T1SATは見掛けのT1 である(「Balaban, Magn. Reson.Quarterly Vol.8, No.2, 1992 」参照)。
そこで、移動している血液中の自由水のプロトンの磁化HfA、血液中の高分子のプロトンの磁化をHrA、静止している実質部の自由水のプロトンの磁化をHfB、および、静止している実質部の高分子のプロトンの磁化をHrBとして、このMT印加に伴う本発明の磁化の挙動を模式的に示すと図6のようになる。
移動中の血液において平衡状態にある自由水プロトンの磁化HfAと高分子プロトン(同図(a)参照)に対して最初の分割化MTパルスP1 (フリップ角は例えば100°)を印加すると、高分子の磁化HrA(原子核プール)から自由水の磁化HfA(原子核プール)に磁化スピンが移動し(magnetization transfer)、その反対に、自由水の磁化HfAから高分子の磁化HrAにエネルギが移動する(同図(b)参照)。分割されたMTパルスであるので、それらの移動量は共に小さい。すなわち、MT効果が小さい。
縦緩和によって高分子の磁化HrAが初期の平衡状態に戻ってくるが、このとき、前述したように、dipole-dipole interaction 、常磁性効果などのファクタによって見掛け上、T1 時間が短縮され、磁化スピンHrAの戻り速度が速くなる。
このようにして分割化されたMTパルスP2,P3,…,Pnが順次印加されるが、そのMT効果のトータルは、見掛け上、短縮されたT1 時間に拠って小さくなる(図6(c)(d)参照)。したがって、流れている(移動している)血液に対するMT効果は、静止または殆ど動いていない血液や実質部に比べて、MT効果は小さく、撮像面Simaから収集されるエコー信号の強度が高い。
これに対して、静止していたり、動きの少ない実質部の自由水のプロトン磁化HfB及び高分子のプロトン磁化HrBの間に生じるMT効果は、前述した図7の場合と同様になる。つまり、この場合、個々の分割化MTパルスの和として効いてくる。このため、このような撮像面Sima の実質部には従来と同等のMT効果の効きが発揮され、収集されるエコー信号も従来と同様に下がる。
したがって、本実施形態のMRI装置により、スライス選択的なMT効果を利用して、静止している又は殆ど動いていない対象と動いている対象とを差別化して画像化できる。そして、得られるMRA像は、長い印加時間で且つ大きなフリップ角のMTパルスを1回印加する従来法に比べて、撮像面の血液(血流)/実質部のコントラストを著しく向上させることができる。それにより、撮像面の血流の描出能の高い、より高品質なMRA像を提供できる。
さらに、この実施形態によるMRA像はMR造影剤を使用するものでないから、通常のMRイメージングの非侵襲性の特性を生かしたものとなる。このため、造影剤を使用したMRA像の撮影に比べて、患者の精神的、体力的負担が著しく少なくて済む。
なお、前記図2に示したパルスシーケンスの例において、複数個の分割化MTパルスの印加時にスライス用傾斜磁場GSのパルスも複数個印加する構成を示したが、この構成に代えて、図7に示すように、複数個の分割化MTパルスを印加している間中、連続してスライス用傾斜磁場GS のパルスを1個印加するように設定することもできる。これにより、MTパルス列PMTの印加に必要な時間が短かくて済み、全体の撮像時間も短縮させることができる。
また、複数個の分割化MTパルスを印加する別の例として、図8に示す手法がある。この手法は、スライス方向、読出し方向、および位相エンコード方向のいずれにも傾斜磁場パルスを印加することなく、分割化MTパルスを単独で印加し、その後で、スライス方向、読出し方向、および位相エンコード方向の内の任意の1以上の方向に傾斜磁場スポイラーパルスを印加するものである。つまり、分割化MTパルスはスライス非選択的に印加される。これにより、分割化MTパルスは広い範囲の領域に有効に掛けられ、スライスやスラブに限定されない。なお、上述した図7および図8では、読出し方向および位相エンコード方向の傾斜磁場(スポイラーパルスを含む)の図示を省略している。
またなお、本実施形態のMRI装置で使用できるデータ収集シーケンスは、上述したように通常FSE法に限定されることなく、FE法、SE法、EPI法、FLAIR法、FASE法などのイメージング法を採用することもできる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態を図9〜図16に基づき説明する。
この実施形態は、上述で基本的な原理を説明した、分割化した複数のMTパルスを用いて肺野の実質部を画像化できるMRI装置に関する。
MRIの分野において、肺野については、その主な撮像法として3つの方法が提案されている。それらは、hyper-polarized (キセノンやヘリウム)ガスを使用する方法、造影剤Gd−DTPAを使用したパフュージョン法(例えば文献「Hatabu H, et al., MRM 36:503-508, 1996)、さらには酸素分子を使用した酸素吸入による方法(例えば文献「Edelman RR, et al., Nature Medicine, 2,11,1236-1239, 1996 )である。
この内、1番目のhyper-polarized (キセノンやヘリウム)ガスを使用する方法は、肺野にガスを吸入させて、例えばキセノン(Xe)ガスのMR周波数で画像化する方法である。また2番目の造影剤Gd−DTPAを使ったパフュージョンは、血中のGd−DTPAのパフューズしている状態を観察する手法である。第3番目の酸素分子を吸入させる方法は、酸素分子は弱いパラマグネティックであるが、肺胞の表面で、MRIで観察できる水信号に十分な信号変化を及ぼすとの報告に基づくものである。
しかしながら、上述した撮像法には以下のような問題がある。第1番目のhyper-polarized (キセノンやヘリウム)ガスを使用する方法の場合、通常のキセノンガスをhyper-polarizeする必要があるので、コストが高いという問題がある。また、第2番目の造影剤Gd−DTPAを使ったパフュージョンは、造影剤を投与する必要があるので、侵襲的な処置が必要で、何よりもまず、患者の精神的、体力的な負担が大きい。また、検査コストも高い。さらに、患者の体質などによっては造影剤を投与できない場合もある。さらに、第3番目の酸素分子を吸入させる方法によっても、信号変化は画像上で十分ではなく、臨床や研究に使用できるほどの満足な画像な画像はおろか、その形態すら撮像できていない。
肺野の構造は、スポンジ状の肺胞、気管支、肺動脈、および肺静脈がその殆どの表面積を占め、その周りに空気が存在している。スポンジ状の肺胞の表面積は膨大な値になるが、ほかの臓器(肝臓、腎臓など)のように細胞内外に自由水を多く持っている訳ではない。したがって、肺野の場合、MRIでの検出対象である水信号は、血管系から検出されるのみであり、肺野実質部としての水信号値は不足する。肺胞周辺は、その表面積に比較して水分子が少ないため、MR信号として反映されないものと推定される。しがって、肺野のT2値=80ms(文献「JMRI,2(S):13-17,1992」参照)自体は他の臓器と比較しても遜色ないにも関わらず、従来のMRイメージングでは、造影剤などを使用しない限り、肺野実質部を描出できないものと推定される。
そこで、本実施形態では、本発明に係る、分割化した複数のMTパルスの優位性を余すところ無く発揮させ、従来困難とされていた肺野実質部を、造影剤などを使用しないで撮像できるようにする。
この実施形態に係るMRI装置は、第1の実施形態のものと同等のハード構成を有するが、スキャンの手順に以下のように相違している。
ホスト計算機6は、位置決め用スキャン(図示しない)や撮像条件の入力などの準備作業に引き続いて、図9に示す如く、第1回目および第2回目の最低2回の撮像を実施する。この2回の撮像はそれぞれ、画像再構成に必要なエコーデータの組を収集する2次元または3次元のMRスキャンである。この各撮像は、患者が意識的に一時、息を止めた状態で撮像する息止め法、および、ECG信号に依るECGゲート法を併用して行うことが望ましい。
この撮像に使用可能なパルスシーケンスとしては、フーリエ変換法を適用したものであれば、2次元(2D)スキャンまたは3次元(3D)スキャンのものであってよいし、またそのパルス列の形態としては、SE法、FSE(高速SE)法、FASE(高速 Asymmetric SE)法(すなわち、高速SE法にハーフフーリエ法を組み合わせたイメージング法)、FE法、高速FE法、セグメンテド高速FE法、EPI(エコープラナーイメージング)法、などを使用できる。
また、演算ユニット10は、受信器8Rが出力したデジタルデータ(原データ)を、シーケンサ5を通して入力し、その内部メモリ上の画像のフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)に原データ(生データとも呼ばれる)を配置し、この原データを各組毎に2次元または3次元のフーリエ変換に付して実空間の画像データに再構成する。また演算ユニット10は、画像に関するデータの合成処理や差分演算処理を行うことが可能にもなっている。
この合成処理には、複数フレームの画像データを対応画素毎に加算する処理、複数フレームの画像データ間で対応ピクセル毎に最大値を選択する最大値投影(MIP)処理などが含まれる。また、上記合成処理の別の例として、フーリエ空間上で複数フレームの軸の整合をとって原データのまま1フレームの原データに合成するようにしてもよい。なお、加算処理には、単純加算処理、加算平均処理、重み付け加算処理などが含まれる。
記憶ユニット11は、再構成された画像データのみならず、上述の合成処理や差分処理が施された画像データを保管することができる。表示器12は画像を表示する。また入力器13を介して、術者が希望する撮像条件、パルスシーケンス、画像合成や差分演算に関する情報をホスト計算機6に入力できる。
また、息止め指令部の一要素として音声発生器16を備える。この音声発生器16は、ホスト計算機6から指令があったときに、息止め開始および息止め終了のメッセージを音声として発することができる。
さらに、心電計測部は、被検体の体表に付着させてECG信号を電気信号として検出するECGセンサ17と、このセンサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施してホスト計算機6およびシーケンサ5に出力するECGユニット18とを備える。この心電計測部による計測信号は、撮像を実行するときにシーケンサ5により用いられる。これにより、ECGゲート法(心電同期法)による同期タイミングを適切に設定でき、この同期タイミングに基づくECGゲート法の撮像を行ってデータ収集できるようになっている。
次に、この実施形態のMRI装置による撮像の動作を図9〜図16を参照して説明する。
ホスト計算機6は、図示しない所定のメインプログラムを実行することにより、図9に示す如く、2回の撮像を、一例としての3次元のFASE(高速Asymmetric SE)法で実行する。第1回目の撮像は息止め法およびECGゲート法を併用し、かつ、後述するようにMTパルスは印加しない(off)の状態で実行される。この第1回目の撮像が終了した後の適宜なタイミングで、第2回目の撮像が第1回目と同様に息止め法およびECGゲート法を併用して実行される。ただし、この第2回目の撮像は、MTパルスを印加して(on)実行される。
この第1回目および第2回目の撮像のパルスシーケンス例を共に図12に示す。このパルスシーケンスは、3次元スキャンの高速 Asymmetric SE法(高速SE法にハーフフーリエ法を組み合わせたスキャン法)のパルスシーケンスに基づいている。なお、図12では、位相エンコード方向の傾斜磁場(スポイラーパルスを含む)の図示は省略されている。
第1回目の撮像の場合、図12におけるデータ収集シーケンスSQacqのみであり、事前シーケンスSQpreは使用されない。つまり、事前シーケンスSQpreを成すMTパルス列PMTおよび傾斜磁場スポイラーパルスSPS,SPR,およびSPEは第1回目のときには印加されない。このため、第1回目はMTパルス=offの状態でスキャンされる。このMTパルス列は前述した第1の実施形態と同様に、分割化されたMTパルスで構成されている。
これに対し、第2回目の撮像の場合、図12におけるデータ収集シーケンスSQacqに先立ち、事前シーケンスSQpreが印加される。つまり、MTパルス=onの状態でスキャンされる。
なお、図12には示していないが、この第2回目の撮像に用いるパルスシーケンスにおいて、データ収集シーケンスSQacq(本スキャン)のRFパルスのスライス選択は不変とした状態で、分割化MTパルスを印加する選択領域をスライス方向のみならず、位相エンコード方向または読出し方向に設定するように傾斜磁場を印加する構成にしてもよい。
一例として、この図12に示す3次元FASE法のパルスシーケンスでは、実効エコー時間TEeff=100msおよびエコー間隔ETS=5msに設定される。また、MTパルスは、周波数オフセット=1300Hz,分割MTパルス数=5個(5個全部のMTパルスによるトータルのフリップ角=800°)に設定される。さらに、繰り返し時間TR=3247ms、フリップパルス/フロップパルスのフリップ角度=90°/140°、マトリクスサイズ=256×256、FOV=37×37cmに設定される。さらに、肺野内の血流の縦横無尽の走行方向を考慮したとき、各回の撮像の画像データとして、位相エンコード方向を変えて複数回スキャンしたデータの平均値(例えば位相エンコード方向を90°変えてスキャンして2回の画像データの平均加算値)を採用する手法を用いることが好適である。この手法は、例えば、“J. of Magn. Reson. Imaging (JMRI)8: 503-507, 1998"で提案されている。
まず、第1回目の撮像が以下のように実行される。ホスト計算機6は、図示しない所定のメインプログラムを実行する中で、入力器13からの操作情報に応答して図10に示す処理を実行する。
これを詳述すると、ホスト計算機6は、最初に、適宜に決めたECGゲート法用の遅延時間TDLを例えば入力器13を介して入力する(ステップS20)。次いで、ホスト計算機6は操作者が入力器13から指定したスキャン条件(位相エンコードの方向、画像サイズ、スキャン回数、パルスシーケンス、ECGゲート法の遅延時間など)および画像処理法の情報(加算処理か最大値投影(MIP)処理かなど)を入力し、それらの情報を制御データに処理し、その制御データをシーケンサ5および演算ユニット10に出力する(ステップS21)。
次いで、スキャン前の準備完了の通知があったと判断できると(ステップS22)、ステップS23で息止め開始の指令を音声発生器14に出力する(ステップS23)。これにより、音声発生器14は「息を十分に吸ってから息を止めて下さい」といった内容の音声メッセージを発するから、これを聞いた患者は息を十分に吸った状態で息を止めることになる。
この後、ホスト計算機6はシーケンサ5に撮像開始を指令する(ステップS24および図11参照)。
シーケンサ5は、図11に示す如く、撮像開始の指令を受けると(ステップS24−1)、ECG信号の読み込みを開始し(ステップS24−2)、ECG信号におけるR波(参照波形)のピーク値の所定n回目の出現を、そのピーク値に同期させたECGトリガ信号から判断する(ステップS24−3)。ここで、R波の出現をn回(例えば2回)待つのは、確実に息止め状態に移行した時期を見計らうためである。これにより、n個目のR波の出現を待つ調整時間Tspが設定される(図12参照)。
所定n回目のR波が出現すると、予め適宜に設定した遅延時間TDLだけ待機する処理を行う(ステップS24−4)。この遅延時間TDLは、前述したように、対象とする肺野組織を撮像する上で最もエコー信号の強度が高くなり、そのエンティティの描出能に優れた値に最適化される。
この最適な遅延時間TDLが経過した時点が最適な心電同期タイミングであるとして、シーケンサ5は撮像を実行する(ステップS24−5)。具体的には、既に記憶していたパルスシーケンス情報に応じて送信器8Tおよび傾斜磁場電源4を駆動し、3次元FASE法のパルスシーケンスに基づく1回目のスキャンが図12に示す如くECGゲート法(心電同期法)で実行される。ただし、事前シーケンスSQpreに係るMTパルス列PMTは印加されない(MTパルス=off)。これにより、最初のスライスエンコード量SE1の元で、約600ms程度のスキャン時間で、図13(a)に示す如く、肺野を含んで設定した3次元撮像領域Rimaからエコー信号が収集される。
この1スライスエンコード量SE1に拠る1回目のスキャンが終了すると、シーケンサ5は、最終のスライスエンコード量SEnに拠るスキャンが完了したかどうかを判断し(ステップS4−6)、この判断がNO(最終スキャンが済んでいない)の場合、ECG信号を監視しながら、例えば撮像に使用したR波から例えば2心拍(2R−R)と、短めに設定した期間が経過するまで待機し、静止している実質部のスピンの縦磁化の回復を積極的に抑制する(ステップS24−7)。つまり、この待機期間が繰返し時間TRとなる。
このように例えば2R−R分に相当する期間待って、例えば3個目のR波が出現すると(ステップS24−7,YES)、シーケンサ5は前述したステップS24−4にその処理を戻す。これにより、その3個目のR波ピーク値に同期したECGトリガ信号から指定遅延時間TDLが経過した時点で2回目のスライスエンコード量SE2に拠るスキャンが前述と同様に実行され、3次元撮像領域Rimaからエコー信号が収集される(ステップS24−4,5)。以下同様に、最終のスライスエンコード量SEn(例えばn=8)までスキャンが繰り返されてエコー信号が収集される。
スライスエンコード量SEnに拠る最終回のスキャンが終わると、ステップS24−6における判断がYESとなり、シーケンサ5からホスト計算機6に撮像の完了通知が出力される(ステップS24−8)。これにより、処理がホスト計算機6に戻される。
ホスト計算機6は、シーケンサ5からのスキャン完了通知を受けると(図10、ステップS25)、息止め解除の指令を音声発生器16に出力する(ステップS26)。このため、音声発生器16は、例えば「息をして結構です」といった音声メッセージを患者に向けて発し、息止め期間が終わる。
したがって、図12のシーケンスで説明する如く、2R−R毎にECGゲート法に基づき、スライスエンコード量毎のスキャンがn回(例えば8回)実行される。このn回のスキャンに要する時間、すなわち患者に息止めを継続してもらう時間は撮像条件に拠って異なるが、一例として、20〜25秒程度である。
患者Pから発生されたエコー信号は、各回のスキャン毎に、RFコイル7で受信され、受信器8Rに送られる。受信器8Rはエコー信号に各種の前処理を施し、デジタル量に変換する。このデジタル量のエコーデータはシーケンサ5を通して演算ユニット10に送られ、メモリで形成される画像の3次元k空間に配置される。ハーフフーリエ法を採用していることから、収集しなかったk空間のデータは演算により求められ、埋められる。これによりk空間全部にエコーデータが配置される。
この後、所定の待機時間が経過すると、第2回目の撮像が図10および図11で説明したと同様に実行される。ただし、図10のステップS21において、事前シーケンスSQpreに係るMTパルス列PMTを印加する(MTパルス=on)ための情報がホスト計算機6に与えられ、これを含むスキャン条件、画像処理法などの制御データがシーケンサ5に与えられる。これ以外のスキャン状態は、第1回目のそれと同じである。このため、図11のステップS24−5で実行される3次元FASE法に拠るパルスシーケンスには、図12に示す如く、事前シーケンスSQpreとデータ収集シーケンスSQacqが含まれる。つまり、分割化した複数個のMTパルスが第1回目の撮像における各回のスキャン先頭に印加された状態で第2回目の撮像が実行される。
この結果、第2回目の撮像により収集されたエコーデータ(原データ)も第1回目と同様に画像のk空間に配置される。
このように2回の撮像によるエコーデータの収集が終わると、ホスト計算機6は演算ユニット10に画像データの処理および表示を指令する。この一連の処理を図14に示す。
まず、演算ユニット10は、第1回目の撮像により収集・配置されたk空間上のエコーデータに3次元フーリエ変換を施して、実空間の絶対値画像データIM1に再構成する(図14、ステップ31)。同様に、第2回目のイメージングスキャンによるそれについても、同様の再構成を実行して実空間の絶対値画像データIM2に再構成する(ステップS32)。
このように生成された肺野アキシャル像の画像データの信号値レベルを図15(a),(b)に模式的に示す(両者とも便宜的に2次元画像で示す)。同図(a)はMTパルスoff時の画像IM1を示し、同図(b)はMTパルスon時の画像IM2を示す。同図(b)では、分割化したMTパルスの印加に伴うMT効果によって信号値が低下しているが、その低下を実質部と血流とで比較した場合、実質部の低下の割合が血流のそれよりも大きい。そこで、同図(b)では、低下割合が大きい実質部の部分にのみハッチングを付して模式的に表している。
この信号値レベルの低下割合の比較を図16(a),(b)によりさらに説明する。第1の画像データIM1はMTパルス=offであるので、肺野LGの実質部および血流の信号値レベルは、同図(a)に模式的に示す如く、撮像状態で決まるレベルになる。これに対し、第2の画像データIM2は、分割化した複数のMTパルスを印加したデータである。このため、肺野LGの実質部は、血流よりもMT効果を大きく受け、図16(b)に模式的に示す如く、その信号値の低下割合ΔTは大きく、血流の低下割合ΔBよりも大きくなる。この低下割合の差=「ΔT−ΔB」が肺野LGの実質部の画像データになる。
そこで、演算ユニット10は、適宜な係数α(0<α≦1)を用い、両方の画像データIM1,IM2(絶対値データ)について画素毎に、
[数8]
IM1−α・IM2
の差分処理を実施する(図14、ステップS33)。この結果、図15(c)の画像データIM3に模式的に示す如く(便宜的に2次元画像で示す)、肺野LGの血流の信号値が差分によりほぼ相殺され、実質部が残る。
このように生成された3次元の実空間の画像データIM3に対して最大値投影(MIP)処理を実行し、2次元の画像データを作成する(図14、ステップS34)。この画像データは表示器12に画像として表示される一方で、記憶ユニット11に格納される。また3次元の画像データIM3も同様に格納される(ステップS35)。
以上のように、本実施形態のMRI装置によれば、一方の撮像時に、分割化した複数のMTパルスを用いたので、静止または殆ど静止している肺野実質部に分割MTパルスの和として効く、大きなMT効果を与えることができる。このMT効果による信号値の低下割合は、肺野血流のそれよりも確実に大きくなる。したがって、MTパルスのオフ時の撮像画像との差分処理(単なる差分処理でも、重み付け差分処理でも可能)を行うことによって、肺野実質部を画像化できる。つまり、従来、ガス、造影剤、酸素などを使用しないで撮像することは不可能とされていた肺野の実質部を良好に画像化することができる。
このため、造影剤などを投与しなくても済むので、非侵襲に撮像でき、患者の精神的、体力的な負担が著しく軽くなる。同時に、造影効果のタイミングを計る必要があるなど、造影法固有の煩わしさからも解放されるとともに、造影剤法と違って、必要に応じて容易に繰返し撮像が可能になる。また、造影剤やガスを使用しないため、イメージングに要する検査コストの点でも有利である。
また、本実施形態では、傾斜磁場スポイラーパルスを、分割した複数のMTパルスの最終段に1回だけ印加し、その前に複数個のMTパルスのみを順次印加するようにしている。このため、MTパルス間の待機時間を少なく(または殆ど零)できるので、MTパルス相互間における磁化スピンの縦緩和の回復量も小さくなる。これにより、より大きな信号値を得ることができる。
さらに、繰返し時間TRおよびエコー間隔を短く設定し、また、スライス方向を例えば患者の前後(前から背中に抜ける)方向にとることができる。これにより、全体のスキャン時間が短くなること、および、スライス方向の撮像長さが短くなってスライスエンコード回数が少なくて済むので、全体の撮像時間が従来のTOF法や位相エンコード法に比べて大幅に短縮される。これにより、患者の負担も少なく、患者スループットも上がる。
これに付随して、2回の撮像それぞれのスキャン(目的としたエコーデータ群を収集するための撮像)が1回の息止め可能期間内に終わることができるから、患者の負担も著しく少なくなる。
さらに、上述した実施形態の場合、各回の息止め期間に、目的としたエコーデータ群を収集するための撮像全体を終える。このため、肺などの周期的運動による体動アーチファクトの発生を抑制できるとともに、複数回にわたって息止め撮像をするときの患者の体自体の位置ずれに因る体動アーチファクトの発生も合わせて低減できる。これにより、アーチファクトのより少ない高品質の画像を提供できる。
さらに、ECGゲート法を併用しているので、心臓の動きに因る体動アーチファクトを殆ど排除した画像データを得ることもできる。
この実施形態に係る心電同期法はR派から遅延時間TDLだけ遅らせた時相でスキャン開始する構成としたが、このスキャン開始の時相は個々の臨床上の要求に応じて、これ以外のタイミングに設定してもよい。
なお、上述した実施形態に記載の内容は、請求項記載の発明を実施するときの例示的な態様に過ぎず、当業者であれば本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様に変更、変形して実施できることは勿論である。