まず、本発明に関連する参考例としての第1実施形態を図1〜図8を参照して説明する。図1は本実施形態における脚式移動ロボットとしての2足移動ロボットの構成を模式化して示した図である。同図示のように、ロボット1はその基体である上体2から下方に延設された2本の脚体3,3を備えている。なお、これらの脚体3,3は後述のアシスト装置を含めて同一構造であるため、一方の脚体3(図ではロボット1の前方に向かって左側の脚体3)については、その一部のみを図示している。
各脚体3は、人間の脚と同様、大腿部4、下腿部5および足平部6を上体2から股関節7、膝関節8、足首関節9を介して順次連接して構成されている。より詳しく言えば、各脚体3の大腿部4は、上体2から股関節7を介して延設され、下腿部5は膝関節8を介して大腿部4に連接され、足平部6は足首関節9を介して下腿部5に連接されている。なお、大腿部4、下腿部5および足平部6はそれぞれ本発明におけるリンク部材に相当するものである。
この場合、股関節7は、ロボット1の前後、左右、上下方向の3軸回りの回転動作が可能とされ、膝関節8は、左右方向の1軸回りの回転動作が可能とされ、足首関節9は、前後、左右方向の2軸回りの回転動作が可能とされている。これらの各関節7,8,9の回転動作により、各脚体3は人間の脚とほぼ同様の運動が可能となっている。そして、例えば膝関節8には、その左右方向の1軸回りの回転動作を行なうために、関節アクチュエータとしての電動モータ10(以下、膝関節電動モータ10という)が設けられている。また、図示は省略するが、股関節7には、その3軸回りの回転動作を行なうための3個の電動モータが設けられ、足首関節9には、その2軸回りの回転動作を行なうための2個の電動モータが設けられている。
なお、本実施形態では、各足平部6に作用する床反力(ロボット1の前後、左右、上下の3軸方向の並進力および3軸回りのモーメント9を検出するために、各足平部6は6軸力センサ11を介して足首関節9に連接されている。また、各関節7,8,9には、その回転位置(詳しくは、各関節7〜9の電動モータの回転角)を検出するためのエンコーダ(図示しない)が備えられている。
本実施形態では、各脚体3の膝関節8を本発明における特定関節とし、前記膝関節電動モータ10による回転力と併せて膝関節8に補助的に作用させる回転力(補助駆動力)を必要に応じて発生するアシスト装置12が各脚体3毎に設けられている。このアシスト装置12は、気体の圧縮または膨張によって補助駆動力を弾性的に発生する気体ばねをばね手段13として備えている。
このばね手段13は、シリンダ構造のものであり、シリンダ(外筒)14と、このシリンダ14にその軸心方向に摺動自在に内挿されたピストン15と、シリンダ14内でピストン15の両側(図では上下)に形成された気室16,17とを備え、各気室16,17に空気などの気体が充填されている。シリンダ14は、各脚体3の大腿部4の背面側で概略上下方向(大腿部4の長手方向に概略沿う方向)に延在して設けられ、その下端部(底部)に固設された連結部材18が下腿部5にフリージョイント19を介して連結されている。また、ピストン15から上側の気室16を貫通してシリンダ14の上方に延設されたピストンロッド20の先端部(上端部)がフリージョイント21を介して大腿部4に連結されている。
このような構成のばね手段13にあっては、膝関節8における大腿部4と下腿部5との間の相対的変位運動としての屈伸運動(以下、膝屈伸運動という)に連動して、シリンダ14が傾動しつつ、ピストン15がシリンダ14内をその軸心方向に摺動し、これに伴い各気室16,17の体積が変化するようになっている。この場合、気室16,17の一方の体積の増加に伴い、他方の体積は減少する。
アシスト装置12は、さらに、両気室16,17の間での気体の流通を適宜行なうためにこれらの気室16,17に連通してシリンダ14に接続された気体流通路としての連通管22と、該連通管22を開閉すべく該連通管22に介装された電磁開閉弁23とを備えている。電磁開閉弁23は、気室16,17内の気体に対する前記膝屈伸運動の伝達を継断する手段としての機能を持つものであり、該電磁開閉弁23の開閉によって、気室16,17内の気体に前記膝屈伸運動が伝達される状態(気室16,17内の気体が膝屈伸運動に伴い弾性エネルギーを蓄積する状態)と、気室16,17の気体への膝屈伸運動の伝達が遮断させる状態(気室16,17内の気体が弾性エネルギーを放出する状態)とが切り替るようになっている。
すなわち、電磁開閉弁23を開弁したときには、両気室16,17は連通管22を介して連通し、両気室16,17内の気体が相互に流通自在となる。このため、膝屈伸運動によって両気室16,17の体積が変化しても、両気室16,17内の気体は、ほぼ一定の圧力に維持されて、該気体の圧縮または膨張がほとんど生じない。つまり、電磁開閉弁23の開弁状態では、両気室16,17内の気体には膝屈伸運動が実質的に伝達されず、該気体が弾性エネルギーを放出した状態(固体ばねの自然状態に相当する状態)になる。従って、電磁開閉弁23の開弁状態では、各気室16,17内の気体は、弾性力(膝関節8に対する補助的な回転力)を発生しない状態(弾性力がほぼ0の状態)となる。換言すれば、電磁開閉弁23の開弁状態では、ばね手段13は、ばねとしての機能を持たないものとなる。補足すると、気室16に対しては、気室17は外部であり、気室17に対しては、気室16は外部である。
また、電磁開閉弁23を閉弁することにより、両気室16,17が密封状態となり、各気室16,17内の気体が外部に流出できない状態となる。この密封状態では、前記膝屈伸運動による両気室16,17の体積変化に伴い、両気室16,17内の気体の圧縮または膨張が発生し、該気体が弾性エネルギーを蓄積する。つまり、電磁開閉弁23の閉弁状態では、膝屈伸運動が両気室16,17内の気体に実質的に伝達されて(膝屈伸運動が両気室16,17内の気体の圧縮または膨張を発生させるように該気体に伝達される)、該気体が弾性エネルギーを蓄積し、それにより弾性力を発生する。換言すれば、電磁開閉弁23の閉弁状態では、ばね手段13がばねとしての本来の機能を膝屈伸運動に応じて発揮しつつ弾性力を発生することとなる。そして、その発生した弾性力は、前記膝関節電動モータ10による膝関節8の回転力と並列に、該膝関節8の補助的な回転力(補助駆動力。以降、膝回転補助力という)として膝関節8に作用する。
この場合、電磁開閉弁23の閉弁状態でばね手段13が発生する膝回転補助力は、電磁開閉弁23の閉弁状態の開始時点(開弁状態から閉弁状態への切替時)からの、膝関節8における脚体3の曲げ角θ(以下、膝曲げ角θという。図1参照)の変化量に応じたものとなる。この膝回転補助力と、膝曲げ角θとの関係を例示するグラフを図2に示す。なお、本明細書の実施形態では、膝曲げ角θは、より詳しくは、図1に示す如く、脚体3の大腿部4の軸心に対する下腿部5の軸心の傾斜角度として定義されたものであり、そのθの値は、膝関節8における脚体3の曲げ度合いが増加するに伴い、大きくなる。また、本明細書の実施形態では、膝関節8における脚体3の曲げ方向の回転力を正の値とし、脚体3の伸ばし方向の回転力を負の値とする。
図2を参照して、電磁開閉弁23の閉弁状態の開始時点における膝曲げ角θ(以下、閉弁開始膝曲げ角という)が「θ1」であるとすると、ばね手段13が発生する膝回転補助力は、例えばグラフaで示すような特性で膝曲げ角θに対して変化する。また、閉弁開始膝曲げ角θが「θ2」(θ1>θ2)であるとすると、ばね手段13が発生する膝回転補助力は、例えばグラフbで示すような特性で膝曲げ角θに対して変化する。
いずれの場合でも、膝曲げ角θが閉弁開始膝曲げ角から増加するに伴い、ばね手段13のピストン15が下方に摺動して、上側の気室16の気体が膨張しつつ下側の気室17の気体が圧縮され、下側の気室17の気体の圧力が上側の気室16の気体よりも高くなっていく。従って、膝曲げ角θが閉弁開始膝曲げ角から増加するに伴い、膝回転補助力が脚体3の伸ばし方向に増加していく。また、これと逆に、膝曲げ角θがロック開始膝曲げ角から減少するに伴い、膝回転補助力が脚体3の曲げ方向に増加していく。なお、閉弁開始膝曲げ角では、膝回転補助力はほぼ0である。
補足すると、閉弁開始膝曲げ角によらずに、膝曲げ角θの変化に対する膝回転補助力の変化の特性(図2の各グラフa,bの形状)はほぼ一定である。また、電磁開閉弁23の開弁状態では、膝屈伸運動によらずに両気室16,17の気体の圧力が互いにほぼ等しい一定の圧力に維持されるので、膝回転補助力は、膝曲げ角θによらずに定常的にほぼ0になる。
ここで、前記電磁開閉弁23のより詳細な構成を図3を参照して説明する。図3は本実施形態での電磁開閉弁23の断面図を示している。この電磁開閉弁23は、前記連通管22のうち、気室16側の連通管22aに通じる流通路30と、気室17側の連通管22bに通じる流通路31とが形成された弁体ケース32内に弁体33を備えている。弁体33は、図示の如く両流通路30,31を連通させる位置(図示の位置。以下、開弁位置という)と、該弁体33が弁座34に当接して両流通路30,31を遮断する位置(以下、閉弁位置という)との間で矢印Y1の方向(図の左右方向)に移動自在に設けられている。この弁体33には、その可動方向に延在するプランジャ35が連結されており、このプランジャ35が弁ケース32に固設された駆動部ケース36内の挿入孔37に挿入されて、該挿入孔37内を弁体33の可動方向と同方向に摺動自在に設けられている。駆動部ケース36内のプランジャ35の周囲には、永久磁石38と、ソレノイド39とがプランジャ35の軸方向(弁体33の可動方向)に間隔を存して設けられている。永久磁石38は、弁体33が開弁位置にあるときに、弁体33を開弁位置に保持する磁力をプランジャ35に作用させるものである。
このような構造の本実施形態の電磁開閉弁23では、弁体33の開弁位置から閉弁位置への移動動作(電磁開閉弁23の閉弁動作)と、弁体33の閉弁位置から開弁位置への移動動作(電磁開閉弁23の開弁動作)とは、ソレノイド39に互いに逆方向の電流を一時的に通電することで行なわれるようになっている。すなわち、電磁開閉弁23の閉弁動作を行なうときには、ソレノイド39に所定方向の電流(以下、閉電流という)を一時的に通電することで、ソレノイド39が発生する電磁力によりプランジャ35が弁体ケース32側から後退して、弁体33が開弁位置から閉弁位置に移動する(電磁開閉弁23が開弁状態から閉弁する)。また、電磁開閉弁23の開弁動作を行なうときには、ソレノイド39に前記閉電流と逆方向の電流(以下、開電流という)を一時的に通電することで、ソレノイド39が発生する電磁力によりプランジャ35が弁体ケース32側に前進して、弁体33が閉弁位置から開弁位置に移動する(電磁開閉弁23が閉弁状態から開弁する)。
そして、本実施形態の電磁開閉弁23では、その開弁動作後にソレノイド39への開電流の通電を停止しても永久磁石38の磁力によってプランジャ35が弁体33の開弁位置に対応する位置(図に示す位置)に保持され、電磁開閉弁23の開弁状態が保持されるようになっている。さらに、本実施形態では、電磁開閉弁23の閉弁は、後述するように、その閉弁動作後に、前記ばね手段13の気室16,17の圧力差が前記流通路30,31を介して弁体33の閉弁方向(弁体33を閉弁位置に付勢する方向)に作用する期間(気室17の圧力が気室16の圧力よりも高くなる期間)で行なわれるようになっている。換言すれば、電磁開閉弁23は、それを閉弁状態とすべき期間において、弁体33の閉弁方向に気室16,17間の圧力差が作用するように連通管22に介装されている。従って、電磁開閉弁23の閉弁状態では、その圧力差(以下、差圧という)によって、ソレノイド39への閉電流の通電を停止しても弁体33が閉弁位置に保持されるようになっている。このように電磁開閉弁23は、ソレノイド39への閉電流、開電流の通電を停止した後も、弁体33の閉弁状態、開弁状態を保持する自己保持機能を有している。この場合、閉弁状態への保持機能は、上記差圧により実現される。
図1の説明に戻って、ロボット1の上体2には、各脚体3の各関節7,8,9の動作制御などを行なう制御ユニット40と、各関節7,8,9の電動モータや電磁開閉弁23などの電源としての蓄電装置41と、上体2の姿勢(鉛直方向に対する傾斜角や鉛直方向の軸回りの回転角)を検出する姿勢センサ42と、各電動モータの通電を制御するためのモータドライバ回路43とが搭載されている。姿勢センサ42は、ジャイロセンサ、加速度センサ等から構成されたものである。また、蓄電装置41は、バッテリ(二次電池)やコンデンサなどから構成されたものである。
制御ユニット40は、マイクロコンピュータなどを含む電子回路により構成されたものであり、図4のブロック図に示すように、その主な機能的構成として、歩容生成器51、モータ制御器52、および電磁開閉弁制御器53を備えている。
歩容生成器51は、ロボット1の目標歩容を規定する歩容パラメータ(歩幅、歩容周期、運動モードなど)を外部からの指令、あるいはあらかじめ設定されたティーチングデータ(移動計画データ)などに応じてロボット1の移動時の1歩毎(支持脚が切り替る毎)に決定し、さらにこれを基に所定の制御サイクル毎の目標歩容(瞬時目標歩容)を逐次生成するものである。ここで、本実施形態で歩容生成器51が決定する歩容パラメータは、ロボット1に通常的な歩行動作を行わせる目標歩容や、ロボット1に人間と同様な走行動作を行わせる目標歩容などを規定するパラメータである。そして、該目標歩容は、例えばロボット1の上体2の位置および姿勢の目標値(以下、目標上体位置姿勢という)と、ロボット1の各足平部6の位置および姿勢の目標値(以下、目標足平位置姿勢という)と、両足平部6,6に作用する床反力(並進力およびモーメント)の合力(全床反力)の目標値(以下、目標全床反力という)と、該全床反力の作用点としてのZMP(Zero Moment Point)の目標位置(以下、目標ZMPという)とから構成されるものである。なお、目標歩容の構成要素のより具体的な内容については、例えば本願出願人が特開平11−300660号公報にて詳細に説明している通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。また、目標歩容の内容は、必ずしも上記公報に開示されているものに限られるものではなく、基本的には、ロボット1の目標とする運動形態を表現できるものであればよい。
電磁開閉弁制御器53は、アシスト装置12の電磁開閉弁23の動作制御を行なう機能を担うものである。この電磁開閉弁制御器53は、歩容生成器51により生成された目標歩容あるいはこれを規定する歩容パラメータに応じて、後述するように電磁開閉弁23を閉弁状態とすべき期間(以下、ロック期間という)と、電磁開閉弁23を開弁状態とすべき期間(以下、フリー期間という)とを決定する。そして、電磁開閉弁制御器53は、ロック期間では、電磁開閉弁23を閉弁状態にするように電磁開閉弁23を通電制御し、フリー期間では、電磁開閉弁23を開弁状態にするように電磁開閉弁23を通電制御する。なお、ロック期間以外の期間はフリー期間、フリー期間以外の期間はロック期間であるので、いずれか一方の期間を決定すれば、他方の期間は従属的に決定される。従って、実際上は、ロック期間およびフリー期間のいずれか一方のみを決定すればよく、本実施形態では、ロック期間を決定するようにしている。
モータ制御器52は、前記膝関節電動モータ10を含めて、各関節7,8,9の電動モータを逐次制御する(詳しくは該電動モータの回転角を逐次制御する)ものである。このモータ制御器52は、歩容生成器51により生成された目標歩容や、前記姿勢センサ42により検出される上体2の実傾斜角(鉛直方向に対する実際の傾斜角)、図示しないエンコーダを用いて検出される脚体3の各関節7,8,9の実回転角、前記6軸力センサ11により検出される各足平部6の実床反力、前記電磁開閉弁制御器53により決定される前記ロック期間(もしくはフリー期間)のデータ等に基づいて、後述するように、各電動モータに発生させるべきトルクを規定するトルク指令(具体的には電動モータの通電電流の指令値)を逐次生成する。そして、該モータ制御器52は、生成したトルク指令をモータドライバ回路43に出力し、該モータドライバ回路43を介してトルク指令に応じたトルクを各電動モータに発生させる。
次に、本実施形態のシステムの作動を図5のフローチャートを参照して説明する。前記制御ユニット40は、時刻計時を行なうタイマの初期化等の所定の初期化処理を行った後、あらかじめ定められた所定の制御サイクル(例えば50ms)毎に、図5のフローチャートの処理を実行する。すなわち、制御ユニット40は、まず、ロボット1の歩容の切替わりタイミングであるか否かを判断する(STEP1)。ここで、歩容の切替わりタイミングは、詳しくは、ロボット1の移動時の支持脚が一方の脚体3から他方の脚体3に切替わるタイミングである。そして、STEP1で歩容の切替わりタイミングでない場合には、制御ユニット40の処理は後述のSTEP3の処理に進む。
また、STEP1で歩容の切替わりタイミングである場合には、制御ユニット40は、外部から与えられるロボット1の動作指令や、あらかじめ設定された移動計画データに基づいて、ロボット1の目標歩容を規定する歩容パラメータを前記歩容生成器51により生成(更新)する(STEP2)。ここで、該歩容生成器51が生成する歩容パラメータにより規定される目標歩容は、例えば次回の歩容の切替わりタイミング、もしくは、それよりも若干先のタイミングまでの目標歩容である。また、この場合、例えばロボット1の走行動作を行うべき旨の動作指令が外部から与えられている場合や、ロボット1の移動計画データによってロボット1の走行動作を行うべき状況である場合には、歩容生成器51が生成する歩容パラメータにより規定される目標歩容は、ロボット1の走行動作の目標歩容(人間の走行時の足運びと同じような足運びで脚体3,3の運動を行うような目標歩容)である。
次いで、制御ユニット40は、STEP3〜5の処理をモータ制御器52により実行する。このSTEP3〜5の処理は、ばね手段13から膝関節8に膝回転補助力が作用しない場合(アシスト装置12の電磁開閉弁23が開弁状態であるとした場合)に、前記目標歩容にロボット1の運動を追従させるために要する各関節7,8,9の電動モータのトルク指令(以下、基本トルク指令という)を求めるための処理である。尚、このSTEP3〜5の処理は、本願出願人による特開平11−300660号公報にて詳細に説明されているので、以下にSTEP3〜5の処理の概要を説明する。
STEP3では、制御ユニット40は、歩容生成器51により現在生成されている歩容パラメータに基づいて瞬時目標歩容を求める。この瞬時目標歩容は、制御ユニット40の処理の制御サイクル毎の目標歩容である。該瞬時目標歩容は、先にも述べたように、より具体的には、制御サイクル毎の、目標上体位置姿勢、目標足平位置姿勢、目標全床反力、目標ZMPとから成る。尚、STEP3の処理では、さらに、上記目標足平位置姿勢、目標全床反力、目標ZMP等に基づいて、制御サイクル毎の各脚体3の目標床反力及びその目標床反力の作用点も求められる。
STEP4では、制御ユニット40は、複合コンプライアンス動作処理により、上記瞬時目標歩容のうちの目標足平位置姿勢を修正する。この複合コンプライアンス動作処理では、より詳しくは、ロボット1の上体2の実傾斜角(これは前記姿勢センサ42により検出される)を、前記目標上体位置姿勢により定まる目標傾斜角に復元させる(上体2の実傾斜角と目標傾斜角との偏差を0に収束させる)ためにロボット1に作用させるべき床反力(モーメント)が求められる。そして、この床反力(モーメント)と上記目標全床反力との合力を、ロボット1に実際に作用させるべきトータルの床反力の目標値とし、この目標値に、各足平部6の6軸力センサ11により検出される各足平部6の実床反力の合力を追従させるように、制御サイクル毎の目標足平位置姿勢が修正される。このような複合コンプライアンス動作処理は、ロボット1の姿勢の自律的な安定性を確保するためのものである。
そして、STEP5では、制御ユニット40は、ロボット1の各脚体3の関節7,8,9の各電動モータに対する基本トルク指令を求める。この処理では、より具体的には、瞬時目標歩容における目標上体位置姿勢、上述のようにSTEP4で修正された目標足平位置姿勢等から、ロボット1のモデル(剛体リンクモデル)に基づく逆キネマティスク演算処理によって、ロボット1の各脚体3の各関節7,8,9の目標回転角が求められる。そして、この目標回転角に、各関節7,8,9の実回転角(これは、各関節7,8,9に備えた図示しないエンコーダにより検出される)を追従させるように、各関節7,8,9の電動モータのトルク指令が求められる。
この場合、例えば各脚体3の膝関節電動モータ10のトルク指令は、膝関節8の目標回転角(膝曲げ角θの目標値)と該膝関節8の実回転角(膝曲げ角θの検出値)との偏差Δθと、該脚体3に対する前記目標床反力を発生させるために必要な電動モータ10のトルクTff(以下、基準トルクTffという)とから、次式(1)により求められる。
基本トルク指令=Kp・Δθ+Kv・(dΔθ/dt)+Tff ……(1)
尚、式(1)の演算に用いる基準トルクTffは、目標上体位置姿勢、目標足平位置姿勢、脚体3に対する目標床反力や、各関節7,8,9の目標回転角加速度等から、ロボット1のモデルに基づく逆動力学演算処理によって求められる。また、式(1)中のKp、Kvは、あらかじめ定められたゲイン係数であり、dΔθ/dtは、偏差Δθの時間微分値である。
ここで、式(1)の右辺第1項及び第2項は、上記偏差Δθに応じたフィードバック制御項であり、右辺第3項は、脚体3に作用する床反力や慣性力の影響を補償するためのフィードフォワード制御項である。そして、特に、右辺第2項は、膝曲げ角θの目標値に対する振動を速やかに減衰させる緩衝機能(ダンピング機能)を有する項である。
膝関節8以外の他の関節7,9の各電動モータについても上記と同様に基本トルク指令が求められる。このようにして求められる基本トルク指令は、先にも説明したように、アシスト装置12のばね手段13による膝回転補助力が膝関節8に作用しない状態で、前記目標歩容にロボット1の運動を追従させるために要する各関節7,8,9の電動モータのトルク指令である。
制御ユニット40は、次に、STEP6において、アシスト装置12の電磁開閉弁23の通電制御処理を前記電磁開閉弁制御器53により実行する。この処理は、図6のフローチャートに示すサブルーチン処理により実行される。すなわち、電磁開閉弁制御器53は、まず、歩容生成器51により現在設定されている歩容パラメータに基づいて、電磁開閉弁23を閉弁状態とすべきロック期間を設定する(STEP6−1)。この場合、本実施形態では、歩容パラメータが例えばロボット1の通常的な歩行動作を行わしめる歩容パラメータである場合には、電磁開閉弁制御器53は、その歩行動作の全期間にわたって、電磁開閉弁23を開弁状態とする(ばね手段13による膝回転補助力を膝関節8に作用させない)。従って、この場合には、ロック期間は設定されない。
一方、歩容パラメータが例えばロボット1の走行動作(人間の走行動作と同様の走行動作)を行わしめる歩容パラメータである場合には、以下に説明するように、ロボット1の歩容の所定の期間において、電磁開閉弁23を閉弁状態とするようにロック期間が設定される。
ここで、このロック期間の設定について具体的に説明する前に、本実施形態におけるロボット1の走行動作における目標歩容によって定まる目標膝曲げ角と、この目標膝曲げ角に対応して膝関節8に作用させるべき回転力(以下、必要膝回転力という)とについて図7を参照して説明する。図7(a)は、ロボット1の走行動作時(人間の通常的な走行動作と同じような足運び形態での走行動作)において、脚体3,3のいずれか一方側の脚体3の膝関節8の目標膝曲げ角の経時的変化を例示しており、図7(b)は、図7(a)の目標膝曲げ角に対応する必要膝回転力の経時的変化を例示している。なお、図7(c)は、電磁開閉弁23の要求動作モードのタイミングチャート、図7(d)は、開閉電磁弁23の通電状態のタイミングチャート、図7(e)は、ばね手段13の両気室16,17間の差圧の経時的変化を例示している。
人間の通常的な走行動作と同様の形態でロボット1の走行動作を行う場合、目標膝曲げ角は、図7(a)に示すように、脚体3が着床状態となる支持脚期の前半では増加する(膝関節8における脚体3の曲げ度合いが大きくなる)。そして、支持脚期の後半では、該支持脚期の終了直前まで目標膝曲げ角は減少する(膝関節8における脚体3の曲げ度合いが小さくなる)。さらに、該支持脚期の終了直前から、遊脚期(脚体3の足平部6が離床状態となる期間)の前半にかけて、目標膝曲げ角は増加していき、その後、遊脚期の後半では、該遊脚期の終了直前まで、目標膝曲げ角は減少していく。尚、遊脚期の終了直前では、目標膝曲げ角は若干増加する。従って、走行動作時の目標膝曲げ角は、支持脚期の中間時点と、遊脚期の中間時点で極大値を採り、また、支持脚期の終了直前で極小値を採る。
また、図7(b)に示すように、必要膝回転力(脚体3の曲げ方向の回転力を正の値、伸ばし方向の回転力を負の値とする)は、支持脚期の前半(概ね目標膝曲げ角が増加する期間)では、正の回転力から負の回転力に大きく減少し(脚体3の伸ばし方向に回転力が大きく増加する)、支持脚期の後半では、該支持脚期の終了直前まで(概ね目標膝曲げ角が減少する期間)、ほぼ「0」の回転力まで増加する。そして、支持脚期の終了直前から遊脚期の前半かけては、必要膝回転力は、若干負の値に緩やかに減少し、その後、遊脚期の後半では、必要膝回転力は、負の値から正の値に緩やかに増加していく。従って、走行動作時の必要膝回転力は、特に、支持脚期において、脚体3の伸ばし方向に大きくなり、また、その伸ばし方向の必要膝回転力は、該支持脚期のほぼ中間時点(この時点は、概ね、膝曲げ角が極大値となる時点と一致する)で最大となる。
本実施形態では、ロボット1の走行動作時のこのような目標膝曲げ角と、必要膝回転力との特性を考慮し、基本的には、脚体3の支持脚期のうち、必要膝回転力が脚体3の伸ばし側に大きくなる期間(例えば図7の時刻T1から時刻T2の期間)をロック期間として設定する。そのロック期間は、より詳しく言えば、支持脚期のうち、必要膝回転力が脚体3の伸ばし方向に凸となる期間、あるいは、膝曲げ角がその増加方向に凸となる期間である。そして、このロック期間において、図7(c)のタイミングチャートに示す如く開閉電磁弁23を閉弁状態にするように制御することで、前記アシスト装置12のばね手段13による膝回転補助力を膝関節8に作用させる。
一方、上記のようにロック期間を設定して、このロック期間で開閉電磁弁23を閉弁状態にするようにしたとき、ばね手段13の両気室16,17間の差圧(気室17の圧力−気室16の圧力)は、図7(e)に示すように、ロック期間の開始時(時刻T1)から膝曲げ角の増加に伴い増加し、これに続く膝曲げ角の減少に伴いロック期間の終了時(時刻T2)まで減少する。そして、本実施形態では、前述したように気室16,17はそれぞれ電磁開閉弁23の流通路22a,22bに連通しているため、この差圧は、電磁開閉弁23の弁体33に対してその閉弁方向に作用する。従って、ロック期間の終了時に電磁開閉弁23の開弁動作(閉弁状態から開弁状態への切替)を確実に行なうためには、上記差圧がある差圧値P2以下に低下していることが必要である。その差圧値P2は、電磁開閉弁23のソレノイド39に開電流を通電したときにプランジャ35に作用する弁体33の開弁方向への駆動力が、差圧値P2の差圧による弁体33の閉弁方向への駆動力に打ち勝つような差圧値のうちの最大値(以下、開弁可能許容差圧値P2という)である。
これらのことを考慮し、前記STEP6−1では、例えば次のようにロック期間が設定される。
すなわち、歩容生成器51により現在設定されている歩容パラメータがロボット1の走行動作に対応する歩容パラメータである場合には、電磁開閉弁制御器53は、まず、その歩容パラメータに基づいて、脚体3の支持脚期における目標膝曲げ角(詳しくは目標膝曲げ角の支持脚期における経時変化の時系列)を求める。そして、電磁開閉弁制御器53は、ロック期間の開始時における目標膝曲げ角θoffmin、すなわち閉弁開始膝曲げ角の目標値θoffmin(以下、閉弁開始目標膝曲げ角θoffminという)を決定し、支持脚期において、目標膝曲げ角がθoffmin以上となる期間(図7の時刻T1から時刻T2までの期間)をロック期間として設定する。なお、ロック期間の終了時刻T2は、目標膝曲げ角が閉弁開始目標膝曲げ角θoffminから増加した後、θffminに復帰する時刻となる。
ここで、θoffminは、支持脚期における目標膝曲げ角の最小値に近い値であって、支持脚期の開始後、必要膝回転力が曲げ方向の値(正の値)から伸ばし方向の値(負の値)に変化する直後における膝曲げ角の値の近傍の値になり、且つ、ロック期間の終了時に目標膝曲げ角がθoffminまで減少した時における差圧が前記開弁可能許容差圧値P2以下になるように決定される。気室16,17間の差圧は、膝曲げ角に応じたものとなるので、例えば膝曲げ角と差圧との相関関係をあらかじめ求めておけば、その相関関係に基づいてθoffminを決定できる。なお、本実施形態では、ロック期間の開始時と終了時との目標膝曲げ角が同じ値(=開弁開始目標膝曲げ角θoffmin)になるようにしたが、必ずしもそれらが同じ値になるようにロック期間を設定する必要はない。ロック期間の終了時における目標膝曲げ角θは、差圧が開弁可能上限差圧値P2以下であれば、ロック期間の開始時の目標膝曲げ角θと多少異なっていてもよい。
次いで、STEP6−2において、電磁開閉弁制御器53は、ロック期間の開始時に電磁開閉弁23の閉弁動作(開弁状態から閉弁状態への切替)を行なうために電磁開閉弁23のソレノイド39に閉電流を通電すべき時間である閉電流通電時間ΔTclose(図7(d)を参照)と、ロック期間の終了時に電磁開閉弁23の開弁動作(閉弁状態から開弁状態への切替)を行なうために電磁開閉弁23のソレノイド39に開電流を通電すべき時間である開電流通電時間ΔTopen(図7(d)を参照)とを決定する。これらの閉電流通電時間ΔTcloseおよび開電流通電時間ΔTopenは、例えば電磁開閉弁23の閉弁動作、開弁動作を確実に行なうことができるようにあらかじめ定められた所定時間に決定される。なお、本実施形態では、電磁開閉弁23の閉弁動作後の閉弁状態は、気室16,17間の差圧によって保持する。従って、閉電流通電時間ΔTcloseは、その差圧がソレノイド39への閉電流の通電停止時に、電磁開閉弁23を確実に閉弁状態に保持し得るような差圧(図7(e)の差圧値P1)に上昇しているような時間に設定することが望ましい。この場合、例えば目標膝曲げ角を基に、差圧が電磁開閉弁23を確実に閉弁状態に保持し得る差圧値P1まで上昇するタイミングを判断し、ロック期間の開始時からそのタイミングまでの時間を閉電流通電時間として決定すればよい。
次いで、現在時刻tがT1≦t<T1+ΔTcloseであるか、T2≦t<T2+ΔTopenであるか、あるいはそれ以外の時刻であるかがSTEP6−3で判断される。そして、T1≦t<T1+ΔTcloseであるときには、電磁開閉弁制御器53は、電磁開閉弁23のソレノイド39に閉電流を通電する(STEP6−4)。これにより、ロック期間の開始時刻T1からΔTcloseの時間だけソレノイド39に閉電流が通電され、電磁開閉弁23の閉弁動作が行なわれる。また、T2≦t<T2+ΔTopenであるときには、電磁開閉弁制御器53は、電磁開閉弁23のソレノイド39に開電流を通電する(STEP6−5)。これにより、ロック期間の終了時刻T2からΔTopenの時間だけソレノイド39に開電流が通電され、電磁開閉弁23の開弁動作が行なわれる。そして、現在時刻tがT1≦t<T1+ΔTcloseでなく、且つ、T2≦t<T2+ΔTopenでないときには、電磁開閉弁制御器53は、電磁開閉弁23のソレノイド39への閉電流および開電流の通電を遮断する(STEP6−6)。
以上が、STEP6の処理の詳細である。このように本実施形態では、ロック期間の開始時に電磁開閉弁23に閉電流を一時的に通電することで、電磁開閉弁23の閉弁動作が行なわれ、その閉電流の通電停止後は前記差圧によって、電磁開閉弁23が閉弁状態に保持される。そして、ロック期間の終了時に電磁開閉弁23に開電流を一時的に通電することで、電磁開閉弁23の開弁動作が行なわれる。なお、開電流の通電停止後は、前記永久磁石38の磁力によって、電磁開閉弁23が開弁状態に保持される。
図6のフローチャートの説明に戻って、制御ユニット40は、上述のようにSTEP6の処理を実行した後、アシスト装置12のばね手段13による膝回転補助力(詳しくは制御周期毎の膝回転補助力)を推定する(STEP7)。この膝回転補助力の推定値は、モータ制御器52が、膝関節電動モータ10に対する最終的なトルク指令を決定するために用いるものであり、該モータ制御器52により例えば次のように求められる。すなわち、モータ制御器52は、ロック期間の開始時における目標膝曲げ角(=θoffmin)、あるいは、ロック期間の開始時において図示しないエンコーダにより検出される膝曲げ角θを閉弁開始膝曲げ角として記憶保持する。なお、閉弁開始膝曲げ角として記憶保持する膝曲げ角は、前記複合コンプライアンス動作処理により修正された目標足平位置姿勢に対応して定まる膝曲げ角を用いるようにしてもよい。
次いで、モータ制御器52は、ばね手段13による膝回転補助力を推定する。この場合、本実施形態では、図2の実線a,bで示したようなばね手段15の膝回転補助力の特性を表すデータ(データテーブルや演算式など)があらかじめ図示しないメモリに記憶保持されている。そして、電磁開閉弁23を閉弁状態とするロック期間であるときには、前述のように記憶保持した閉弁開始膝曲げ角と、現在の膝曲げ角θの検出値(あるいは目標値)と、膝回転補助力の上記の特性データとから、ばね手段13による膝回転補助力が推定される。例えば図2を参照して、閉弁開始膝曲げ角が「θ2」で、現在の膝曲げ角がθkである場合には、膝回転補助力の推定値は「Mk」となる。尚、フリー期間での膝回転補助力は「0」である。また、膝回転補助力は、力センサ等を用いて直接的に検出するようにすることも可能である。
上述のようにしてSTEP7で膝回転補助力を推定した後、制御ユニット40は、モータ制御器52により、脚体3の各関節7,8,9の電動モータの制御サイクル毎の最終的なトルク指令としての最終トルク指令を決定する(STEP8)。この場合、膝関節電動モータ10に対する最終トルク指令は、前記STEP5で式(1)により求めた基本トルク指令(膝回転補助力が「0」であると仮定した場合に目標歩容に応じて膝関節8に発生させるべきトルク)から、前記STEP7で求めた膝回転補助力を減算することで、膝関節電動モータ10に対する実トルク指令を決定する。すなわち、膝関節電動モータ10に対する最終トルク指令(膝関節電動モータ10に実際に発生させるべきトルクの指令値)と膝回転補助力との和が基本トルク指令となるように膝関節電動モータ10に対する最終トルク指令を生成する。尚、本実施形態では膝関節8以外の関節7,9の電動モータに対する最終トルク指令は、前記基本トルク指令がそのまま用いられる。
次いで、制御ユニット40は、上述のように決定した最終トルク指令をモータドライバ回路43に出力し(STEP9)、これにより制御サイクル毎の処理を終了する。この最終トルク指令の出力に応じて、各関節7,8,9の電動モータに通電され、該電動モータの回転角、すなわち、各関節7,8,9の回転角が前記目標上体位置姿勢や目標足平位置姿勢(前記複合コンプライアンス動作処理による修正を施したもの)により定まる所要の回転角に追従するように制御される。従って、歩容パラメータにより規定される目標歩容に従って、ロボット1の移動が行われる。
かかる本実施形態のシステムでは、図8(a)に示す如く、各脚体3の支持脚期において、目標膝曲げ角が閉弁開始目標膝曲げ角θoffmin以上となる期間がロック期間として決定され、このロック期間において、電磁開閉弁23が閉弁状態とされる。なお、図8(a)は、図7(a)と同じであり、ロボット1の走行動作時の目標膝曲げ角の経時的変化を例示している。また、図8(b)は、図8(a)の目標膝曲げ角の変化(あるいはその目標膝曲げ角に追従する実際の膝曲げ角の変化)に対応して、ばね手段13が発生する膝回転補助力の経時的変化を例示している。さらに、図8(c)は、図8(a)の目標膝曲げ角の変化(あるいはその目標膝曲げ角に追従する実際の膝曲げ角の変化)に対応して、膝関節電動モータ10に発生させるトルクの経時的変化を実線で例示している。この場合、図8(c)には、前記必要膝回転力の経時的変化(これは図7(b)のものと同じである)を破線で併記している。
上記のようにロック期間で電磁開閉弁23を閉弁させたとき、ばね手段13が発生する膝回転補助力は、図8(b)に示すように、ロック期間において膝曲げ角が閉弁開始目標膝曲げ角θoffminから増加するに伴い脚体3の伸ばし方向に増加し、続いて膝曲げ角が閉弁開始目標膝曲げ角θoffminまで減少するに伴い、脚体3の伸ばし方向で減少する。なお、ロック期間の開始時および終了時と、ロック期間以外の期間では、ばね手段13が発生する膝回転補助力はほぼ0である。従って、図8(c)に示す如く、必要膝回転力が脚体3の伸ばし方向に大きなものとなる期間(ロック期間)において、膝関節電動モータ10に発生させるトルクは必要膝回転力から膝回転補助力を差し引いた、比較的小さなトルクで済む。その結果、ロボット1の走行動作時の全期間にわたって、膝関節電動モータ10の発生トルクが比較的小さなもので済み、膝関節電動モータ10の電力消費や容量を小さくすることができる。
また、前記図7(d)に示すようにロック期間の開始時と終了時とで、それぞれ閉電流通電時間ΔTclose、開電流通電時間ΔTopenだけ一時的に通電することで、電磁開閉弁23の閉弁動作、開弁動作が行なわれる。そして、ロック期間における電磁開閉弁23の閉弁動作後には、電磁開閉弁23のソレノイド39への閉電流の通電を遮断した後は、ばね手段13の気室16,17間の差圧によって、電磁開閉弁23が閉弁状態に保持される。また、電磁開閉弁23の開弁動作後には、電磁開閉弁23のソレノイド39への開電流の通電を遮断した後は、前記永久磁石38の磁力によって、電磁開閉弁23が開弁状態に保持される。従って、電磁開閉弁23の構成を小型で簡易なものとしつつ、電磁開閉弁23の電力消費を少なくできる。その結果、ロボット1の電力消費を低減することができる。
また、本実施形態では、ロボット1の走行動作時におけるロック期間の開始時と終了時における膝曲げ角が等しいため、次のような効果がある。すなわち、ロック期間の開始時と終了時における膝曲げ角が等しいため、ロック期間の開始時はもちろん、終了時においても、ばね手段13の膝回転補助力はほぼ「0」になる。このため、電磁開閉弁23を閉弁状態から開弁状態に切り替える時に、ばね手段13の膝回転補助力が不連続に変化することが回避される。この結果、電磁開閉弁23を閉弁状態から開弁状態に切り替える時に、ロボット1の挙動がぎくしゃくしたりすることがなく、該ロボット1の動作を円滑に行うことができる。また、特に、ばね手段13が弾性エネルギーを十分に放出した状態で、電磁開閉弁23を閉弁状態から開弁状態に切り替えることとなるため、ばね手段13に蓄積した弾性エネルギーが、無駄に熱エネルギーに変換されて消耗してしまうことが防止され、ロボット1のエネルギーの利用効率を高めることができる。
次に、本発明に関連する参考例としての第2実施形態を図9を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態のものと電磁開閉弁の一部の構成のみが相違するものである。従って、本実施形態の説明では、第1実施形態と同一構成部分については第1実施形態と同一の参照符号を用い詳細な説明を省略する。
図8は本実施形態における電磁開閉弁60の断面図である。この電磁開閉弁60は、第1実施形態の電磁開閉弁23と駆動部ケース36内の一部の構成のみが相違するものであり、電磁開閉弁23の永久磁石38の代わりに、弁体33の開弁位置(図8に示す位置)と閉弁位置(弁体33が弁座34に当接した状態)とでプランジャ35を係止する係止機構61を駆動部ケース36内に備えたものである。この係止機構61は、電磁開閉弁60の自己保持機能を実現する手段であり、プランジャ35の軸方向(可動方向)と直交する方向で挿入孔37内のプランジャ35の外周面に向かって進退自在(挿入孔37内に出没自在)に設けられた球体62と、この球体62を前進方向(プランジャ35に近づく方向)に付勢するバネ63(この例ではコイルバネ)とを備えている。
挿入孔37内のプランジャ35の外周面には、球体62の半部を嵌合可能な一対の半球面状の凹部35a,35bがプランジャ35の軸方向に間隔を存して形成されている。これらの凹部35a,35bのうち、凹部35aは、プランジャ35が弁体33の開弁位置に対応する位置(図9に示す位置)に在るときに、球体62の半部がバネ63の付勢力により嵌合するように設けられ、その嵌合によりプランジャ35が係止されて、弁体33が開弁位置に保持されるようになっている。また、凹部35bは、弁体33が閉弁位置に対応する位置に在るときに、球体62の半部がバネ63の付勢力により嵌合するように設けられ、その嵌合によりプランジャ35が係止されて、弁体33が開弁位置に保持されるようになっている。このように電磁開閉弁60は、係止機構61によって、弁体33を開弁位置と閉弁位置とに保持する自己保持機能を有している。なお、係止機構61のバネ63の付勢力は、弁体33の開弁位置または閉弁位置でソレノイド39に閉電流または開電流を通電したときに、該ソレノイド39が発生する電磁力により、球体62が凹部35aまたは35bから脱離しつつ、プランジャ35が軸方向に移動し得るように設定されている。
以上説明した以外の構成は、第1実施形態と同一である。
かかる本実施形態では、制御ユニット40は、第1実施形態と同じ処理(図5および図6)の処理を実行し、ロボット1の走行動作を行なうときに、各脚体3の支持脚期内にロック期間を設定する。そして、このロック期間において、電磁開閉弁60を閉弁することで、ばね手段13により膝回転補助力を発生する。
かかる本実施形態では、前記第1実施形態と同様の効果を奏する。この場合、本実施形態では、係止機構61によって、ソレノイド39への開電流または閉電流の通電を停止した後も、開弁状態または閉弁状態に保持される。このため、特に、ロック期間の開始時における閉電流通電時間ΔTcloseを前記第1実施形態のものよりも短くでき、電磁開閉弁23の電力消費をより一層抑制できる。
次に、本発明の一実施形態としての第3実施形態を図10〜図12を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態のものと電磁開閉弁の一部の構成と、制御ユニットによる電磁開閉弁の通電制御処理のみが相違するものである。従って、本実施形態の説明では、第1実施形態と同一構成部分については、第1実施形態と同一の参照符号を用い詳細な説明を省略する。
図10は本実施形態における電磁開閉弁70の断面図である。この電磁開閉弁70は、第1実施形態の電磁開閉弁23と駆動部ケース36内の一部の構成のみが相違するものであり、電磁開閉弁23の永久磁石38を備えずに、プランジャ35を弁体33の開弁位置側に付勢する付勢手段であるバネ71(この例ではコイルバネ)を備えたものである。この場合、バネ71は、駆動部ケース36の挿入孔37内で、その底部とプランジャ35の端面(弁体33と反対側の端面)との間に介装され、プランジャ35を弁体33の開弁位置側(図10の左方向)に付勢している。以上説明した以外の構成は、第1実施形態と同一である。
ここで、かかる構成の電磁開閉弁70では、ソレノイド39に閉電流を通電することで、ソレノイド39が発生する電磁力によって、バネ71の付勢力に抗してプランジャ35が弁体ケース32から離反する側に後退し、弁体33の閉弁動作が行なわれる。この場合、前記ばね手段13の気室16,17間の差圧が0もしくはそれに近い状態であるときには、弁体33を閉弁位置に保持するためには、ソレノイド39に閉電流を通電し続ける必要があるが、該差圧が弁体33の閉弁方向に増加して、ある差圧値P3を超えると、ソレノイド39への閉電流の通電を遮断しても、その差圧によって、バネ71の付勢力に抗して弁体33を閉弁位置に保持することが可能となっている。また、その差圧が上記差圧値P3以下に低下すれば、ソレノイド39への通電を遮断したまま、バネ71の付勢力によって自動的に弁体33が開弁位置に復帰するようになっている。以下、差圧値P3を開弁復帰差圧値P3という。
次に、本実施形態のシステムの作動を説明する。本実施形態では、制御ユニット40は、第1実施形態と同様に、図5のフローチャートに示す制御処理を実行する。この場合、本実施形態では、STEP6のサブルーチン処理(電磁開閉弁70の通電制御処理)のみが、第1実施形態と相違している。このサブルーチン処理は、図11のフローチャートに示すように実行される。
すなわち、電磁開閉弁制御器53は、まず、第1実施形態と同様に、歩容生成器51により現在設定されている歩容パラメータに基づいて、電磁開閉弁23を閉弁状態とすべきロック期間を設定する(STEP6−11)。すなわち、歩容生成器51により現在設定されている歩容パラメータがロボット1の走行動作に対応する歩容パラメータである場合には、第1実施形態と同様に、図12(a)に示す如くロック期間の開始時における目標膝曲げ角である閉弁開始目標膝曲げ角θoffminを決定し、支持脚期において、目標膝曲げ角がθoffmin以上となる期間(図12の時刻T1から時刻T2までの期間)をロック期間として設定する。この場合、θoffminは、支持脚期における目標膝曲げ角の最小値に近い値であって、支持脚期の開始後、必要膝回転力が曲げ方向の値(正の値)から伸ばし方向の値(負の値)に変化する直後における膝曲げ角の値の近傍の値になり、且つ、ロック期間の終了時に目標膝曲げ角がθoffminまで減少した時における差圧が前記開弁復帰差圧値P3以下になるように決定される。
なお、図12(a)は図7(a)と同じであり、ロボット1の走行動作時の目標膝曲げ角の経時的変化を例示している。また、図12(b)は、図7(b)と同じで、図12(a)の目標膝曲げ角の変化に対応する必要膝回転補助力の経時的変化を例示している。また、図12(c)は、電磁開閉弁70の要求動作モードのタイミングチャート、図12(d)は、開閉電磁弁70の通電状態のタイミングチャート、図12(e)は、ばね手段13の両気室16,17間の差圧の経時的変化を例示している。
次いで、電磁開閉弁制御器53は、ロック期間の開始時に電磁開閉弁23の閉弁動作(開弁状態から閉弁状態への切替)を行なうために電磁開閉弁23のソレノイド39に閉電流を通電すべき時間である閉電流通電時間ΔTclose(図12(d)を参照)を決定する。
この場合、例えば目標膝曲げ角を基に、ばね手段13の気室16,17間の差圧が前記開弁復帰差圧値P3を確実に超えるタイミングを判断し、ロック期間の開始時からそのタイミングまでの時間を閉電流通電時間ΔTcloseとして決定する。
次いで、現在時刻tがT1≦t<T1+ΔTcloseであるか否かがSTEP6−3で判断される。そして、T1≦t<T1+ΔTcloseであるときには、電磁開閉弁制御器53は、電磁開閉弁70のソレノイド39に閉電流を通電する(STEP6−14)。これにより、ロック期間の開始時刻T1からΔTcloseの時間だけソレノイド39に閉電流が通電され、電磁開閉弁23の閉弁動作が行なわれる。そして、現在時刻tがT1≦t<T1+ΔTcloseでないときには、電磁開閉弁制御器53は、電磁開閉弁70のソレノイド39への閉電流の通電を遮断する(STEP6−15)。本実施形態では、電磁開閉弁70を開弁させるための通電は行なわれない。
以上が、本実施形態でのSTEP6の処理の詳細である。このように本実施形態では、ロック期間の開始時に電磁開閉弁70に閉電流を閉電流通電時間ΔTcloseだけ一時的に通電することで、電磁開閉弁70の閉弁動作が行なわれ、その閉電流の通電停止後は前記差圧によって、電磁開閉弁70が前記バネ71の付勢力に抗して閉弁状態に保持される。そして、ロック期間の終了時刻T2近傍で、前記差圧が開弁復帰差圧値P3以下に低下することで、電磁開閉弁70が前記バネ71の付勢力により自動的に開弁し、開弁状態に保持される。
かかる本実施形態においても第1実施形態と同様の効果を奏することはもちろんである。加えて、本実施形態では、ロック期間の開始時にだけ一時的に電磁開閉弁70のソレノイド39に閉電流を通電すればよいので、電磁開閉弁70の電力消費をより一層低減することができる。
次に、以上説明した第1〜第3実施形態の変形態様をいくつか説明する。前記第1および第2実施形態では、電磁開閉弁23,60への閉電流または開電流の通電開始タイミングを時刻tに基づいて判断するようにしたが、瞬時目標歩容の膝曲げ角あるいは膝曲げ角の検出値に基づいて判断するようにしてもよい。あるいは、ロック期間の開始タイミングと終了タイミングとで膝関節8に発生させるべきトルクの値(前記必要膝回転力の値)を決定し、ロック期間の開始タイミングと終了タイミングとを前記基本トルクあるいは膝関節8に作用する実トルクの検出値に基づいて判断するようにしてもよい。また、電磁開閉弁23,60への閉電流の通電終了タイミングの判断にあっても、その通電終了タイミングにおける膝曲げ角の値を決定しておき、瞬時目標歩容の膝曲げ角あるいは膝曲げ角の検出値に基づいて閉電流の通電終了タイミングを判断するようにしてもよい。あるいは、閉電流の通電終了タイミングにおける前記差圧の値を決定し(例えば図7(e)のP1を決定する)、目標膝曲げ角などから推定される差圧の推定値、もしくは、適宜の圧力センサにより差圧の検出値に基づいて閉電流の通電終了タイミングを判断するようにしてもよい。
また、前記第3実施形態では、ロック期間を設定したが、電磁開閉弁70への閉電流の通電開始タイミングおよび通電終了タイミングのみを決定するようにしてもよい。そして、第1及び第2実施形態に係る変形態様と同様に、閉電流の通電開始タイミング(ロック期間の開始タイミング)を、瞬時目標歩容の膝曲げ角や膝曲げ角の検出値に基づいて判断したり、前記基本トルクもしくは、膝関節8に作用する実トルクの検出値に基づいて判断するようにしてもよい。また、電磁開閉弁70への閉電流の通電終了タイミングの判断にあっても、第1及び第2実施形態に係る変形態様と同様に、瞬時目標歩容の膝曲げ角あるいは膝曲げ角の検出値に基づいて判断したり、前記差圧の推定値もしくは検出値に基づいて判断するようにしてもよい。
いずれの場合であっても、電磁開閉弁23,60,70を閉弁状態とすべきロック期間は、支持脚期のうち、必要膝回転力が脚体3の伸ばし方向に凸となる期間、あるいは、膝曲げ角がその増加方向に凸となり、また、その期間の開始時と終了時とで膝曲げ角が同一もしくはほぼ同一になる期間に設定することが望ましい。また、電磁開閉弁23,60,70への閉電流の通電時間は、該電磁開閉弁の閉弁動作が確実に行い得る範囲で、できるだけ短い時間にすることが望ましい。換言すれば、前記差圧が該電磁開閉弁を閉弁状態に保持し得る状態では、閉電流の通電を遮断することが望ましい。
また、前記第1〜第3実施形態では、電磁開閉弁23,60,70の閉弁状態で、ばね手段13の気室16,17の両者が密封されるようにしたが、一方の気室16または17を大気に開放しておくと共に、他方の気室17または16をその外側の大気に連通させる連通管(気体流通路)に電磁開閉弁を介装しておき、電磁開閉弁の閉弁状態で、他方の気室17または16のみが密封されるようにしてもよい。さらには、前記特開2003−103480号公報の図22に見られるように、上記他方の気室17または16を、その外側の適宜の箇所(ロボット1の大腿部4など)に備えたアキュムレータ(該アキュムレータには加圧された気体が充填される)に連通させる連通管(気体流通路)に電磁開閉弁を介装するようにしてもよい。このようにした場合には、電磁開閉弁の閉弁状態でばね手段が発生する膝回転補助力を高めることができる。なお、このようにアキュムレータを備えた場合には、電磁開閉弁の開弁状態(ロック期間以外の期間)で、膝屈伸運動に伴うばね手段の気室の体積変化に応じて0でない膝回転補助力が発生することとなるが、その膝回転補助力の最大値は、電磁開閉弁を閉弁状態とするロック期間でばね手段が発生する膝回転補助力よりも十分に小さなものとなる。
また、前記第1〜第3実施形態では、シリンダ14およびピストン15によって気室16,17を形成するようにしたが、膝屈伸運動に応じて体積が変化するものであれば、適宜の袋部材によって気室を形成するようにしてもよい。
また、前記第3実施形態は、本発明を2足移動ロボットに適用した例を示したが、本発明は、2本以上の脚体を有するロボットについても適用できることはもちろんである。
1…脚式移動ロボット(2足移動ロボット)、2…上体、3…脚体、4…大腿部(リンク部材)、5…下腿部(リンク部材)、6…足平部(リンク部材)、7…股関節、8…膝関節(特定関節)、9…足首関節、10…電動モータ(関節アクチュエータ)、12…アシスト装置、16,17…気室、22…気体流通路、23,60,70…電磁開閉弁、33…弁体、39…ソレノイド、71…バネ(付勢手段)。