JP4497253B2 - 金属部品の粘着防止方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の金属部品を同時に接着剤液に浸漬して各金属部品の表面に接着剤液を塗布するように作業される金属部品の粘着防止方法に関するものである。本発明の金属部品は例えば、オイルシールやガスケット等の密封装置において、ゴム製シール部を支持する支持部品ないし取付部品等として用いられる。
【0002】
【従来の技術】
オイルシールやガスケット等のように金属上にゴムを成形する製品では、金属とゴムとを接着するために、金属部品である金属環の表面に接着剤をコーティングしている。コーティングの方法としては、接着剤の膜性状や作業効率の関係から、浸漬法(接着剤液層に金属環を浸し、その後、乾燥し、焼き付ける)が多用されているが、図4(A)に示すように、複数の金属環aを同時に接着剤液bに浸漬すると、同図(B)に示すように、金属環a同士が接着剤液bを介して凝集してしまう。したがって、この状態で、乾燥・焼結を行なうと、同図(C)に示すように、金属環a同士が接着剤b’を介して強固に固着してしまい、所謂「2枚環(金属環aが2枚くっついた状態で成形されてしまうこと)」などと呼ばれる粘着不良が発生する。この粘着不良は特に、金属環aが薄くて平らな形状で小型のものである場合に多く発生する。
【0003】
粘着不良発生のメカニズムは、
(1)接着剤液b中で金属環a同士が凝集し(図4(A)参照)、
(2)接着剤液bから金属環aを引き上げたときに、互いに重なった金属環a同士の間の接着剤液bの表面張力により金属環a同士が固着し(図4(B)参照)、
(3)その後の乾燥・焼結工程で固化した接着剤b’を介して金属環a同士が固着する(図4(C)参照)
と云うことである。
【0004】
この粘着不良に対し、従来の粘着防止策として、粘着の発生しにくい接着剤の開発が行なわれてきたが、製品機能上全てについての対策は未だ実施されていない。
【0005】
そこで、接着剤液bから金属環aを引き上げてから、互いに重なった金属環aに衝撃を与えて金属環aを分離すると云う「ばらし工程」を付加しており、このため、余分な工数が必要となっている。また、この「ばらし工程」でも、与えることのできる衝撃の大きさに限度があるため(与える衝撃の大きさは金属環aを変形させるほど大きくてはならない)、薄くて平らな形状で小型の金属環aでは十分な効果が得られないのが実態である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の点に鑑み、上記したように複数の金属部品を同時に接着剤液に浸漬して各金属部品に接着剤液を塗布するように作業される金属部品に粘着不良(所謂「2枚環」現象)が発生するのを防止することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による金属部品の粘着防止方法は、複数の金属部品を同時に接着剤液に浸漬して各金属部品に前記接着剤液を塗布する際に前記金属部品同士が粘着しないようにする方法であって、前記金属部品を加工する型に予め表面粗さを設け、前記金属部品を加工するときに前記型から前記金属部品へ表面粗さを転写し、転写してから前記金属部品を前記接着剤液に浸漬することを特徴とする。金属部品の接触面へ転写する表面粗さの大きさは、10μm以上60μm未満とするのが好適である(請求項2)。
【0009】
上記構成を備えた本発明の金属部品その粘着防止方法によると、金属部品の接触面に表面粗さを形成することにより、接着処理後の接着剤の接着面積が減少し、接着剤の接着力が低下するために、金属部品同士が固着する粘着不良が発生するのを防止することが可能となる。
【0010】
また、金属部品を加工する型の対応する部分に予め表面粗さを設けて、この表面粗さを型から金属部品の接触面へ転写するようにしたために、金属部品の特定の一部分に表面粗さを形成するのを容易化することが可能となり、併せて、表面粗さの加工精度の向上、型のメンテナンス性の向上、加工費の削減および工数の削減等を実現することが可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、当該実施例に係る金属部品である金属環1の概略的な半裁断面を示しており、この金属環1の表面の一部である接触面1aに表面粗さ5が形成されている。図示した金属環1は、筒状部2の軸方向一端に外向きフランジ状の鍔部3を設けるとともに、筒状部2の軸方向他端に内向きフランジ状の鍔部4を設けたものであって、この後者の内向きフランジ状の鍔部4の端面が相手金属環(図示せず)に接触して粘着する虞のある接触面1aとされるため、この接触面1aに表面粗さ5が設けられている。
【0013】
金属環1は、図2に示すように、その原材料である圧延鋼1’を打ち抜きおよび圧延加工することにより成形されており、その製作装置11は例えば、以下のように構成されている。
【0014】
すなわち先ず、原材料である圧延鋼1’を打ち抜きおよび圧延加工するためのプレス部12が設けられており、このプレス部12に、その形状および寸法を圧延鋼1’に転写付与する上下一対の型(上型および下型よりなり、プレス型とも称する)13,14が設けられており、この型13,14のうち下型14における金属環1の接触面1aに対応する箇所(粗さ付加部または粗さ転写部とも称する)14aに予め、転写用の表面粗さ15が設けられている。
【0015】
この装置11を作動させて金属環1を製作するに際しては、図2に示したように、一対の型13,14の間に挟んで固定した圧延鋼1’を上型可動部13aにより打ち抜き、圧延して金属環1を成形するもので、このようにして金属環1を成形すると、プレス加圧によって、型14の粗さ付加部14aに予め設けた転写用の表面粗さ15が金属環1の接触面1aに転写され、これにより金属環1の接触面1aに表面粗さ5が形成される。
【0016】
このようにして金属環1の接触面1aに形成される表面粗さ5の大きさ(水準)RZと粘着防止効果との相関はおおよそ、以下のとおりであることが実験的に確認されている。
【0017】
ア)RZ=〜10μm(10μm未満)の場合
従来の一般的な前処理と同レベルの表面粗さであり、特有の効果を得ることができない。
イ)RZ=10〜20μm(10μm以上20μm未満)の場合
若干の改善効果が見られるが、十分ではない。
ウ)RZ=20〜60μm(20μm以上60μm未満)の場合
十分な効果が得られる。
エ)RZ=60μm〜(60μm以上)の場合
十分な効果が得られるが、金属環1の強度低下が問題となる。
【0018】
また、その金属環1に形成する表面粗さ5は、金属環1を直接加工することにより表面粗さ1cを設けるのではなく、プレス加工する際のプレス型13,14の金属環1表面に形成する表面粗さ5に対応する部位14aに或る表面粗さ15を設けることにより金属環1に表面粗さを転写するが、十分な効果が得られる金属環1の表面粗さ5を得るために必要な下型14の粗さ付加部14aの表面粗さ15の水準は加工条件や型・圧延鋼材質等により異なり一概には言えないが、今回の実施例では、一般的な冷間圧延鋼板においてプレス面圧が約60kgf/mm2で、型粗さの転写率が50〜60%であるので、下型14の粗さ付加部14aに形成する表面粗さ15の水準は40〜120μm(40μm以上120μm以下)である。尚、表面粗さの転写率はプレス面圧や材料硬度等と相関がある。
【0019】
また、下型14における粗さ付加部14aの加工方法は、放電加工、砥石研磨またはショットブラスト等多くの加工方法が可能であるが、今回の実施例のような型14の特定の一部分が特に入り組んだような箇所等であれば、放電加工が有用である。また、一般的に、NC放電加工機で加工する場合には、放電時間、電極とワークとの距離、電圧、電極揺動等により粗さを制御するが、ワークの材質と目的の粗さとが決まれば前述の条件はおのずと定められる。
【0020】
上記したように、金属環1に表面粗さ5を付加することによる粘着防止の原理は、乾燥・焼結後の金属環1間の接着剤接着面積を減少させて、接着面積に比例する接着力を低下させることによって粘着を防止するものである(図3参照)。
【0021】
したがって、複数の金属環1を同時に接着剤液6に浸漬して各金属環1の表面に接着剤液6を塗布する場合に、上記原理に基づいて、金属環1同士が接着剤6’を介して固着する粘着不良が発生するのを防止することが可能となり、上記従来技術における「ばらし工程」を省略することが可能となり、また、この「ばらし工程」行なう場合でも、与える衝撃の大きさを軽減することが可能となる。
【0022】
また、金属環1を加工する型14の対応する部分14aに予め表面粗さ15を設けて、この表面粗さ15を型14から金属環1の接触面1aへ転写するようにしたために、金属環1の特定の一部分1aに表面粗さ5を形成するのを容易化することが可能となり、併せて、表面粗さ5の加工精度の向上、型14のメンテナンス性の向上、加工費の削減および工数の削減等を実現することが可能となる。
【0023】
尚、このように型14から金属環1へ表面粗さを転写するようにすると、
(1)型14の形状や加工時における加圧力の大きさ次第によっては、加工時における接触面圧の不足により、型14から金属環1へ表面粗さが十分に転写されない品目がある、
(2)金属環1の材料(金属材料)の逃げ代の問題として、型14の粗さ付加部14aと金属環1との接触面積が大きな品目では、転写される表面粗さにばらつきが発生することがある。例えば、上記実施例における金属環1では、その接触面1aに径方向のばらつきが発生し、径方向の端部で転写率が高く、径方向の中央部で転写率が低くなったりする、
等が懸念されるが、この懸念を解消するには、予め表面粗さ15を設ける型14の粗さ付加部14aに、併せて、前記表面粗さ15よりも深さの大きな溝等の凹部(図示せず)を設けるのが好適であり、このように型14の粗さ付加部14aに表面粗さ15を設けるとともに溝等の凹部を設けると、接触面積が縮小するために加工時における接触面圧を増大させることが可能となるとともに、金属環1の材料の逃げ代を確保することが可能となり、これにより型14から金属環1への粗さ転写効率を向上させることができる。
【0024】
【発明の効果】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0025】
すなわち、上記構成を備えた本発明によれば、各請求項に共通して先ず、金属部品の接触面に表面粗さを形成することにより、接着処理後の接着剤の接着面積を減少させ、接着剤の接着力を低下させることができるために、これにより金属部品同士が接着剤を介して固着する粘着不良が発生するのを防止することができる。
【0026】
また、金属部品を加工する型の対応する部分に予め表面粗さを設けて、この表面粗さを型から金属部品の接触面へ転写するようにしたために、金属部品の特定の一部分に表面粗さを形成するのを容易化することができ、併せて、表面粗さの加工精度の向上、型のメンテナンス性の向上、加工費の削減および工数の削減等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る金属部品の概略的な半裁断面図
【図2】同金属部品を製作する製作装置の説明図
【図3】(A)(B)および(C)の順に本発明による粘着防止原理を示す説明図
【図4】(A)(B)および(C)の順に従来における粘着発生原理を示す説明図
【符号の説明】
1 金属環(金属部品)
1a 接触面
2 筒状部
3,4 鍔部
5,15 表面粗さ
6 接着剤液
6’ 接着剤
11 製作装置
12 プレス部
13 上型(型)
13a 上型可動部
14 下型(型)
14a 粗さ付加部
Claims (2)
- 複数の金属部品(1)を同時に接着剤液(6)に浸漬して各金属部品(1)に前記接着剤液(6)を塗布する際に前記金属部品(1)同士が粘着しないようにする方法であって、
前記金属部品(1)を加工する型(14)に予め表面粗さ(15)を設け、前記金属部品(1)を加工するときに前記型(14)から前記金属部品(1)へ表面粗さ(5)を転写し、転写してから前記金属部品(1)を前記接着剤液(6)に浸漬することを特徴とする金属部品の粘着防止方法。 - 請求項2の金属部品の粘着防止方法において、
金属部品(1)同士の粘着を防止すべく前記金属部品(1)の接触面(1a)に形成する表面粗さ(5)を、10μm以上60μm未満の大きさに形成することを特徴とする金属部品の粘着防止方法。
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