本発明は、心疾患を診断するために、生体の心臓から発生する心音を検出して心音図を測定する心音計に関するものである。
心疾患を検査するために、聴診法により医師が直接聴診することにより行われている。この聴診法による診断では、聴診する医師の個人差により、心音の音量、音色などが相違するため、客観性及び定量性に欠け、また、心音を記録しておくこともできない。
そこで、聴診法に代わる手段、または聴診法を補充する手段として、体表面に装着される心音センサを備え、その心音センサから検出される心音を増幅・記録する心音計を用いて心音図を測定することが行なわれる。心音計によって測定された心音図は個人差のない客観的な情報として得られ、また、記録に残すことができ、心疾患を持つ患者を測定した心音図は、正常な心音に加えて、心疾患に起因して発生する心雑音が含まれるため、心疾患を診断することができる。
しかしながら、上記従来の心音計は、心音センサから検出される心音を単に増幅・記録するのみであるので、測定された心音図には、正常な心音、および心疾患に起因して発生する心雑音に加えて、外雑音すなわち心臓からの音以外の雑音、たとえば呼吸に伴う呼吸性雑音や、足音、ドアの開閉等の生体外からの雑音が含まれている。そのため、心音図から心疾患の診断を正確に行なうことが困難な場合も生じていた。
本発明は以上のような事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、心疾患の診断を正確に行なうことができる心音計を提供することにある。
本発明者は、以上の事情を背景として種々研究を重ねるうち、前記外雑音は、正常な心音および心雑音と異なり一拍毎に発生するものではなく、前記呼吸性雑音のように4〜5拍程度の複数拍周期で発生し、または生体外からの雑音のように偶発的に発生するものであるので、心音波形を加算することにより、前記外雑音の影響を少なくできることを見いだした。
すなわち、上記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、心臓から発生する心音を検出してその心音を表す心音信号を出力する心音センサを備え、その心音信号が表す心音波形を測定する心音計であって、(a)前記心音信号から、周期毎に発生する所定区間の心音波形を抽出波形として抽出する波形抽出手段と、(b)その波形抽出手段により抽出された抽出波形が相互に一致するようにその抽出波形の位相を合わせる位相合わせ手段と、(c)その位相合わせ手段により位相が合わせられた抽出波形を加算する加算手段と、(d)その加算手段において算出された抽出波形に基づいて、代表的抽出波形を決定する代表的抽出波形決定手段と、(e)前記波形抽出手段により抽出された抽出波形と前記代表的抽出波形との差から外雑音波形を算出する外雑音算出手段とを含むことにある。
このようにすれば、波形抽出手段において、心音信号から、周期毎に発生する所定区間の心音波形が抽出波形として抽出され、位相合わせ手段においてその抽出波形の位相が相互に一致するように合わせられ、加算手段においてその位相が合わせられた抽出波形が加算されることにより、一拍毎に発生する正常な心音および心雑音は重ね合わされ、前記外雑音は平均化される。そして、代表的抽出波形決定手段では加算手段において加算して得られた波形に基づいて代表的抽出波形が決定されるので、その代表的抽出波形を用いて心疾患の診断を正確に行なうことができる。また、外雑音算出手段において、前記外雑音の大きさを示す外雑音波形が算出されるので、その外雑音波形を、診断、または外雑音の原因の解明などの外雑音の解析に用いることができる。
発明の他の態様
ここで、好適には、前記心音計は、前記代表的抽出波形決定手段において決定された代表的抽出波形を表示器に表示する代表的抽出波形表示手段をさらに含むものである。このようにすれば、代表的抽出波形表示手段により、代表的抽出波形が表示器に表示されるので、その表示された代表的抽出波形から心疾患を診断することができる。
また、好適には、前記心音計は、時間軸と振幅軸とから成る二次元座標系において、前記波形抽出手段により抽出された抽出波形と、前記代表的抽出波形決定手段において決定された代表的抽出波形とを同時に比較可能に表示する比較表示手段をさらに含むものである。このようにすれば、比較表示手段において、時間軸と振幅軸とから成る二次元座標系に、前記波形抽出手段により抽出された抽出波形と代表的抽出波形とが同時に比較可能に表示されるので、抽出波形と代表的抽出波形との差から前記外雑音を認識することができる。
また、好適には、前記心音計は、前記外雑音算出手段において算出された外雑音波形を表示器に表示する外雑音表示手段を含むものである。このようにすれば、外雑音表示手段により、前記外雑音算出手段において算出される外雑音波形が表示器に表示されるので、前記外雑音の大きさが容易に認識できる利点がある。
また、好適には、前記心音計は、前記波形抽出手段において抽出された抽出波形の最大振幅と最小振幅との振幅比を算出する振幅比算出手段と、その振幅比算出手段において算出された振幅比の平均値を算出する平均値算出手段と、その振幅比算出手段において算出された振幅比の標準偏差を算出する標準偏差算出手段と、前記振幅比算出手段において算出された振幅比の前記平均値算出手段において算出された平均値からの偏差が、前記標準偏差算出手段において算出された標準偏差の予め実験的に定められた所定倍の範囲内にある前記抽出波形のうち、前記振幅比が最大となる抽出波形を基準抽出波形として決定する基準抽出波形決定手段とを含み、前記位相合わせ手段は、その基準抽出波形決定手段において決定された基準抽出波形に基づいて前記抽出波形が相互に一致するように前記抽出波形の位相を合わせるものである。このようにすれば、振幅比算出手段において波形抽出手段で抽出された抽出波形の振幅比がそれぞれ算出され、平均値算出手段でその振幅比の平均値が算出され、標準偏差算出手段でその振幅比の標準偏差が算出され、基準抽出波形決定手段では、前記振幅比が前記平均値からの偏差が前記標準偏差の予め実験的に定められた所定倍の範囲内にある前記抽出波形のうち、前記振幅比が最大となる抽出波形が基準抽出波形として決定される。すなわち、スパイクノイズ等の前記振幅比が異常に大きい抽出波形は除外された抽出波形の中から、最も前記外雑音が少ない抽出波形が基準抽出波形として決定される。そして、位相合わせ手段では、その基準抽出波形に基づいて前記抽出波形が相互に一致するように前記抽出波形の位相が合わせられるので、精度よく前記抽出波形の位相を相互に一致させることができる。従って、前記加算手段においてその抽出波形が加算され、代表的抽出波形決定手段においてその加算して得られた波形に基づいて決定される代表的抽出波形は、一拍毎に発生する心音および心雑音が前記外雑音に対して一層強調される利点がある。
また、好適には、前記心音計は、前記加算手段において加算された抽出波形に基づいて基準抽出波形を更新する基準抽出波形更新手段を含み、前記位相合わせ手段は、その基準抽出波形更新手段において更新された基準抽出波形の位相と、前記波形抽出手段において抽出された抽出波形のうち、前記加算手段において加算されていない抽出波形の位相とを相互に一致させ、前記加算手段は、その位相合わせ手段において相互に位相が一致させられた基準抽出波形と抽出波形とを加算するものである。このようにすれば、位相合わせ手段により、基準抽出波形更新手段において更新された基準抽出波形の位相と加算手段において加算される前の抽出波形の位相とが相互に一致させられ、加算手段ではその位相合わせ手段において相互に位相が一致させられた基準抽出波形と抽出波形とが加算され、基準抽出波形更新手段では、その加算手段で加算された抽出波形に基づいて基準抽出波形が更新される。従って、抽出波形毎に、その抽出波形の位相と逐次更新される基準抽出波形の位相とが相互に一致させられることから、一つの基準抽出波形に基づいて抽出波形の位相が一致させられる場合に比較して位相の一致精度が向上するので、心音および心雑音が、外雑音に対してより一層強調された代表的抽出波形が得られる利点がある。
また、好適には、前記心音計は、前記代表的抽出波形を時間および周波数について解析する時間周波数解析手段を含むものである。このようにすれば、時間周波数解析手段により、前記代表的抽出波形が時間および周波数について解析されることから、その代表的抽出波形に含まれる正常な心音と心雑音が分離でき、且つ心雑音の発生した時間が解析できるので、心雑音の存在を容易に知ることができ、さらに心雑音の発生部位を特定することができるなど、代表的抽出波形に基づく診断が容易に行える利点がある。
また、好適には、前記心音計は、前記外雑音波形を周波数解析する外雑音解析手段を含むものである。このようにすれば、外雑音解析手段により、前記外雑音波形が周波数解析されて、外雑音波形に含まれる前記呼吸性雑音や生体外からの雑音等の複数の信号成分が分離される。従って、周波数解析された外雑音波形の解析スペクトルを用いて、呼吸器系の疾患を診断することができ、また、生体外からの雑音の原因を解明することが容易になるので、その雑音の原因を除去することが容易になる。
また、好適には、前記心音計は、前記外雑音波形を周波数解析する外雑音解析手段を含むものである。このようにすれば、外雑音解析手段により、前記外雑音波形が周波数解析されて、外雑音波形に含まれる前記呼吸性雑音や生体外からの雑音等の複数の信号成分が分離される。従って、周波数解析された外雑音波形の解析スペクトルを用いて、呼吸器系の疾患を診断することができ、また、生体外からの雑音の原因を解明することが容易になるので、その雑音の原因を除去することが容易になる。
発明の好適な実施の形態
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明が適用された心音計10の構成を説明するブロック図である。
図1において、マイクロホン12は、心音センサとして機能するものであり、被測定者14の胸部上に図示しない粘着テープ等により固着される。そして、マイクロホン12の図示しない内部に備えられている圧電素子において、被測定者14の心臓から発生する心音等が電気信号すなわち心音信号SHに変換される。心音信号増幅器16には、心音の高音成分をよく記録するためにエネルギーの大きい低音成分を弱める図示しない4種類のフィルタが備えられ、マイクロホン12から出力される心音信号SHが増幅され、且つ、ろ波された後に、A/D変換器18を介して電子制御装置20へ供給される。
1組の電極22は、心筋の活動電位を示す心電信号SEを出力するために、生体の所定部位に装着される。本実施例においては、II誘導による心電図を測定するために、被測定者14の右手と左足とにそれぞれ装着されている。電極22から出力された心電信号SEは、心電信号増幅器24により増幅された後、A/D変換器26を介し前記電子制御装置20へ供給される。また、電子制御装置20には、押しボタン28から起動信号SSが供給され、クロック信号源29から所定周波数のパルス信号SPが供給されるようになっている。
上記電子制御装置20は、CPU30,ROM32,RAM34,および図示しないI/Oポート等を備えた所謂マイクロコンピュータにて構成されており、CPU30は、ROM32に予め記憶されたプログラムに従ってRAM34の記憶機能を利用しつつ信号処理を実行することにより、表示器36の表示画面に、心音信号SHが表す心音波形すなわち心音図、心電信号SEが表す心電誘導波形すなわち心電図を表示させ、かつ、その心音波形を解析して、その結果を表示させる。
図2は、上記心音計10における電子制御装置20の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図2において、波形記憶手段40は、心音信号SHおよび心電信号SEを、クロック信号源29からのパルス信号SPに基づいて計数される測定開始からの経過時間tと共にRAM34の図示しない所定の記憶領域に記憶する。
波形抽出手段42は、波形記憶手段40において記憶された所定期間或いは所定拍数(たとえば30秒間或いは30拍分)の心音信号SHから周期毎に発生する所定区間の心音波形を抽出する、すなわち抽出波形WEを抽出する。図3は、前記波形記憶手段40によりRAM34に記憶される心音信号SHおよび心電信号SEが表す心音図および心電図の一例であり、図3(a)は心電図を、図3(b)は正常な心音図を、図3(c)は大動脈弁狭搾がある場合の心音図を、図3(d)は左房室弁閉鎖不全がある場合の心音図をそれぞれ特徴的に示している。図3(b)に示すように、正常な心音図には、I 音乃至IV音が存在する。そこで、波形抽出手段42では、たとえば、波形記憶手段40において記憶された心音信号SHから、II音の立ち上がりを判定し、そのII音の立ち上がり点から予め定められた区間の心音波形を抽出波形WEとして抽出する。また或いは、参考誘導として心音図と同時に測定されている心電図を用いて、心電図の周期的に検出される所定部位(たとえばR波)が検出されてから所定時間経過後からの所定区間の心音信号SHが表す心音波形を抽出波形WEとして抽出する。
振幅比算出手段44は、図4の抽出波形WEの一例に示されるように、波形抽出手段42で抽出された抽出波形WEのそれぞれについて最大振幅DSと最小振幅Dnを決定し、その最大振幅DSと最小振幅Dnとの振幅比(DS/Dn)を算出する。
平均値算出手段46は、振幅比算出手段44において算出された振幅比(DS/Dn)の平均値DAVを算出し、標準偏差算出手段48は、振幅比算出手段44において算出された振幅比(DS/Dn)の標準偏差sを算出する。
基準抽出波形決定手段54は、振幅比算出手段44において算出された振幅比(DS/Dn)の、平均値算出手段46において算出された平均値DAVからの偏差が、標準偏差算出手段48において算出された標準偏差sの予め実験的に定められた所定倍の範囲内にある抽出波形WEのうち、その振幅比(DS/Dn)が最大となる抽出波形WEを基準抽出波形WSTとして決定する。すなわち、振幅比(DS/Dn)の、平均値DAVからの偏差が標準偏差sの予め実験的に定められた所定倍(たとえば2倍)の範囲にない抽出波形WEを除外することにより、スパイクノイズ等の振幅比(DS/Dn)が異常に大きい抽出波形WEを除外し、そのスパイクノイズ等の異常な抽出波形WEを除外した抽出波形WEのうちで最も振幅比(DS/Dn)が大きい抽出波形WEを基準抽出波形WSTとして決定する。従って、このようにして決定された基準抽出波形WSTは、波形抽出手段42において抽出された正常な抽出波形WEのうち、最も前記外雑音が少ない抽出波形WEである。
順列決定手段56は、波形抽出手段42で抽出された抽出波形WEが、次に説明する位相合わせ手段58および加算手段60において処理される順を、振幅比算出手段44において算出された振幅比(DS/Dn)、平均値算出手段46において算出された平均値DAV、および標準偏差算出手段48において算出された標準偏差sに基づいて決定する。すなわち、振幅比(DS/Dn)が、前記基準抽出波形決定手段54で用いられた範囲(すなわち平均値DAVからの偏差が、標準偏差sの予め実験的に定められた所定倍の範囲)を第1範囲とし、その第1範囲外の範囲を第2範囲とし、位相合わせ手段58および加算手段60において抽出波形WEが処理される順を、第1範囲において、基準抽出波形WESTを除いて振幅比(DS/Dn)の大きい方から小さい方、続いて第2範囲において振幅比(DS/Dn)の大きい方から振幅比(DS/Dn)の最小値へと決定する。従って、位相合わせ手段58および加算手段60では、比較的、基準抽出波形WESTに類似した抽出波形WEから順に処理されることとなるため、位相合わせのミスを防ぐことができ、外雑音の影響を好適に除去できる。
位相合わせ手段58は、波形抽出手段42において抽出された抽出波形WEが相互に一致するように、抽出波形WEの位相を合わせる。すなわち、抽出波形WEのパターンマッチングを行なう。たとえば、波形抽出手段42において抽出された抽出波形WEと、基準抽出波形決定手段54において決定され、或いは後述の基準抽出波形更新手段61において更新された基準抽出波形WESTとが相互に一致するように、その抽出波形WEの位相を基準抽出波形WESTに合わせる。あるいは、波形抽出手段42において抽出された2つ以上の任意の抽出波形WEが相互に一致するように、それらの抽出波形WEの少なくとも一つの位相を修正する。波形抽出手段42において抽出された抽出波形WEの位相を基準抽出波形WESTの位相に合わせるには、たとえば、基準抽出波形WSTとその抽出波形WEとの相関係数が最大となるようにその抽出波形WEの位相を修正する、すなわち、その抽出波形WEの時間軸をずらす。また或いは、基準抽出波形WSTとその抽出波形WEとの平均2乗誤差が最小となるようにその抽出波形WEの位相を修正する。
加算手段60は、位相合わせ手段58により位相が合わせられた抽出波形WEを加算する。すなわち、位相合わせ手段58において基準抽出波形WSTに一致するように位相が合わせられた抽出波形WEが基準抽出波形WSTに逐次加算される。あるいは、位相合わせ手段58において相互に一致するように位相が合わせられた2つ以上の抽出波形WEが一時に加算される。たとえば、n拍分の抽出波形が加算されるとすると、一拍毎に発生する信号成分はn倍になるのに対し、ランダムに発生する成分は√n(nの平方根)倍にしかならないので、加算手段60により抽出波形WEが加算されると、一拍毎に発生する心音および心雑音の信号強度が相対的に強められる。
基準抽出波形更新手段61は、加算手段60において加算された抽出波形WEに基づいて基準抽出波形WSTを更新して、新たな基準抽出波形WSTを決定する。すなわち、加算手段60において加算された加算後の波形の振幅強度を、加算手段60において加算された抽出波形WEの数に相当する数で割ることにより得られる波形を新たな基準抽出波形WSTとして決定する。
代表的抽出波形決定手段62は、加算手段60において加算された後の抽出波形WEに基づいて、代表的抽出波形WRを決定する。たとえば、加算手段60における加算によって得られた抽出波形WEを直接、代表的抽出波形WRとして決定する。または、加算手段60による加算後の抽出波形WEの振幅を、加算された抽出波形の数で割ったものを代表的抽出波形WRとして決定する。
代表的抽出波形表示手段64は、代表的抽出波形決定手段62において決定された代表的抽出波形WRを表示器36に表示し、比較表示手段66は、時間軸と振幅軸とから成る二次元座標系において、波形抽出手段42で抽出された抽出波形WEと、代表的抽出波形決定手段62において決定された代表的抽出波形WRとを同時に比較可能に表示する。
時間周波数解析手段68は、代表的抽出波形決定手段62において決定された代表的抽出波形WRを時間および周波数について解析する。たとえば、代表的抽出波形WRを複数の時間帯に分割し、その分割した時間帯毎に代表的抽出波形WRを周波数解析する。或いは、代表的抽出波形WRをウェーブレット変換する。
上記ウェーブレット変換とは、図5にその一例が示されるウェーブレット関数ψ(t)を、時間軸方向に平行移動させる移動変数bと、ウェーブレット関数が表す波形の時間軸方向の大きさを伸縮させる伸縮変数aとの関数として、そのウェーブレット関数ψ((t−b)/a)と代表的抽出波形WRを表す関数f(t)との積を時間tについて積分して得られる上記aおよびbの関数として定義される。すなわち、下記数式1のように定義される。なお、上記ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)において、伸縮変数aに対応してψ(t)の幅がa倍になることから、1/aが周波数に対応し、移動変数bに対応してψ(t)が時間軸方向に平行移動することから、bは時間に対応する。
図6、図7は、上記数式1のウェーブレット変換式の意味を説明するための図であり、図6(A)は、パラメータa、bを適当に選ぶことにより、ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)がある関数g(t)の一部分に略一致している状態を示し、図7(A)は、ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)がある関数h(t)の一部分を近似していない状態を示している。そして、図6(B)および図7(B)は、図6(A)および図7(A)の場合におけるウェーブレット関数ψ((t−b)/a)と関数g(t)またはh(t)との積をそれぞれ示す図である。図6(B)に示されるように、ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)が関数g(t)の一部分に略一致している場合は、ψ((t−b)/a)とg(t)との積は符号の変化がないので、積分値は大きくなる。しかし、図7(B)に示されるように、ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)が関数h(t)の一部分を近似していない場合は、ψ((t−b)/a)とh(t)との積はtの変化とともに激しく符号が変化するので、積分値は小さくなる。従って、上記数式1は、パラメータa、bを変更することにより、ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)が、代表的抽出波形WRを表す関数f(t)の一部分に似ている場合に大きい値を示し、代表的抽出波形WRを表す関数f(t)の一部分に似ていない場合は小さい値を示す。
解析結果表示手段70は、時間周波数解析手段68において時間周波数解析された周波数解析スペクトルを、表示器36上に表示する。
図8は、上記電子制御装置20の制御作動の要部を説明するフローチャートである。本ルーチンは、押しボタン28が押圧操作され、起動信号SSが供給された場合に実行される。
まず、図示しない初期化ステップにおいて、クロック信号源29から供給されているパルス信号SPを計数するタイマtやレジスタをクリアする初期処理が実行された後、波形記憶手段40に対応するステップSA1(以下、ステップを省略する。)では、心音信号SHおよび心電信号SEがRAM34の記憶領域に逐次記憶される。
続くSA2では、上記タイマの計数内容tが30秒を経過したか否かが判断される。30秒を経過するまではこのSA2の判断が否定されて、上記SA1以下が繰り返されることにより、心音信号SHおよび心電信号SEが継続して記憶される。
上記SA2の判断が肯定された場合は、続く波形抽出手段42に対応するSA3において、SA1で記憶された心音信号SHからその周期毎に発生する所定区間の心音波形が抽出波形WEとして抽出される。このSA3では30秒間の心音信号SHが記憶されている、すなわち、30乃至40拍分の心音波形が記憶されているので、30乃至40拍分の抽出波形WEn(n=1〜30乃至40)が抽出される。また、上記所定区間としては、たとえば、参考誘導として測定されている心電図においてR波が発生した時から0.2秒後を区間の開始とし、それから0.4秒間の心音信号SHが表す心音波形が抽出される。上記心電図のR波の発生から0.2秒後からの0.4秒間は、診断に有用なII音を十分に含む期間として設定されたものであるが、抽出される区間はこの区間に限定されず、一拍分の範囲内で任意に設定される。
続く振幅比算出手段44に対応するSA4では、SA3で抽出された抽出波形WEnのそれぞれについて、最大振幅DSと最小振幅Dnとの振幅比(DS/Dn)nが算出される。そして、続く平均値算出手段46に対応するSA5では、上記SA4で算出された振幅比(DS/Dn)nの平均値DAVが算出され、続く標準偏差算出手段48に対応するSA6では、上記SA4で算出された振幅比(DS/Dn)nの標準偏差sが算出される。
続く基準抽出波形決定手段54に対応するSA7では、SA5において算出された平均値DAVからの偏差がSA6で算出された標準偏差sの2倍の範囲内にある振幅比(DS/Dn)nを持つ抽出波形WEnのうち、振幅比(DS/Dn)nが最大となる抽出波形WEnが最初の基準抽出波形WST1に決定される。すなわち、数式2を満たす抽出波形WEnの中で振幅比(DS/Dn)nが最大値を示す抽出波形WEnが最初の基準抽出波形WST1に決定される。なお、一般的に数式2の範囲には全抽出波形WEnの95%が含まれる。
[数2]
DAV−2s≦(DS/Dn)n≦DAV+2s
続く順列決定手段56に対応するSA8では、次のSA9において位相合わせに用いられる抽出波形WEnの順序が決定される。すなわち、次のSA9において位相合わせに用いられる抽出波形WEnの順序が、上記数式2を満たす範囲の抽出波形WEn(すなわち第1範囲の抽出波形WEn)のうち、振幅比(DS/Dn)nの大きい方から小さい方、そして、上記数式1を満たさない範囲の抽出波形WEn(すなわち第2範囲の抽出波形WEn)において振幅比(DS/Dn)nの大きい方から振幅比(DS/Dn)nの最小値へと決定される。
続いて前記SA3において抽出された抽出波形WEnの数nよりも1回少ない回数(すなわちn−1回)だけ、SA9乃至SA12が繰り返される。まず、位相合わせ手段58に対応するSA9では、SA7で決定され、或いは後述するSA11で更新されたn番目の基準抽出波形WSTnとSA8で順序が決定された抽出波形WEnの一つとについて、相関係数が最大となるように、または、その2つの波形について振幅強度の差の2乗が最小となるように、その抽出波形WEnの位相が修正され、続く加算手段60に対応するSA10では、そのn番目の基準抽出波形WSTnの振幅強度にその基準抽出波形WSTnの算出に供された抽出波形WEの数nを乗じて得られる波形に、上記SA9で位相が合わせられた抽出波形WEnが加算される。
続く基準抽出波形更新手段61に対応するSA11では、SA10で加算されて得られた波形を、そのSA10で加算された抽出波形WEnの数に相当する数(n+1)で割ることにより得られる波形を新たな基準抽出波形WSTとして決定する。すなわち、基準抽出波形WSTを更新する。そして、続くSA12では、前記SA3において抽出された抽出波形WEnが全拍加算されたか否かが判断される。このSA12の判断が否定されるうちは、前記SA9以降が繰り返し実行される。
上記SA9乃至SA12の繰り返しにおいて、たとえば1回目に実行される内容は、まずSA9において、SA7で決定された最初の基準抽出波形WST1に、SA8で決定された1番目に加算される抽出波形WEnの位相が合わせられ、続くSA10では、その2つの抽出波形が加算される。そして、続くSA11では、上記SA10において加算されて得られた波形の振幅強度を2で割って得られた波形が新たな基準抽出波形WST2として決定される。そして、2回目のSA9乃至SA11では、まずSA9において前回のSA11で決定された基準抽出波形WST2に、SA8で決定された2番目に加算される抽出波形WEnの位相が合わせられ、続くSA10では、その基準抽出波形WST2の振幅強度を2倍して得られた波形に上記SA9において基準抽出波形WST2に位相が合わせられた抽出波形WEnが加算される。そして、続くSA11では、上記SA10において加算されて得られた波形の振幅強度を3で割って得られた波形が新たな基準抽出波形WST3として決定される。
このようにして、SA9乃至SA11がn−1回繰り返され、SA3で抽出された抽出波形WEnが全拍加算されると、上記SA12の判断が肯定され、最後にSA11において決定された基準抽出波形WSTnが代表的抽出波形WRとして決定される。従って、上記SA12が代表的抽出波形決定手段62に対応する。
続く代表的抽出波形表示手段64に対応するSA13では、SA12で決定された代表的抽出波形WRが表示器36に表示されて、心疾患の診断に用いられる。図9は、その一例を示す図であり、前述の図4に比較して外雑音が好適に除去されているので、心疾患の診断を正確に行なうことができる。さらに、続く比較表示手段66に対応するSA14では、図10に示されるように、表示器36の時間軸72と振幅軸74とから成る二次元座標に、SA3で抽出された抽出波形WEnが実線で表示され、SA12で決定された代表的抽出波形WRが破線で表示されることにより、抽出波形WEnと代表的抽出波形WRとが同時に表示される。なお、図10には、SA14において表示される一例として、SA3で抽出された抽出波形WEnの一つが代表的抽出波形WRと同時に表示されているが、SA14では、表示器36の時間軸72と振幅軸74とから成る二次元座標に、SA3で抽出された全ての抽出波形WEn が代表的抽出波形WRと同時に表示され、抽出波形WEnと代表的抽出波形WRとの差から前記外雑音の大きさ、およびその外雑音の変動を認識することができるようになっている。
続く時間周波数解析手段68に対応するSA15では、SA12において決定された代表的抽出波形WRが時間周波数解析される。すなわち、前記数式1に従って、代表的抽出波形WRを表す関数f(t)がウェーブレット変換されて、移動変数(すなわち時間)bと、伸縮変数の逆数(すなわち周波数)aとの関数W(b,1/a)に変換される。
続く解析結果表示手段70に対応するSA16では、図11に示されるように、表示器36の時間軸b(すなわち移動変数軸)と、周波数軸(1/a)(すなわち伸縮変数の逆数を表す軸)との二次元平面上に、上記SA15においてウェーブレット変換されることによって得られた関数W(b,1/a)の大きさが等高線図として表示される。図11では、時間軸bの始めは高周波数成分の信号が検出され、時間の経過とともに、高周波成分は弱まり、代わって、低周波数成分の信号が検出されていることが分かる。この信号の発生する周波数域あるいは信号の発生する時間、またはグラフの全体的な表示パターンを予め求められた正常心音の標準パターンと比較することにより、心雑音の存在、心雑音の発生部位の特定等の疾患の診断ができる。
上述のように、本実施例によれば、波形抽出手段42(SA3)において、心音信号SHから、一拍毎に発生するII音を含む所定区間の心音波形が抽出波形WEnとして抽出され、位相合わせ手段58(SA9)においてその抽出波形WEnの位相が相互に一致するように合わせられ、加算手段60(SA9)においてその位相が合わせられた抽出波形WEnが加算されることにより、一拍毎に発生する正常な心音および心雑音は重ね合わされ、前記外雑音は平均化される。そして、代表的抽出波形決定手段62(SA12)では加算手段60(SA9)において加算して得られた波形に基づいて代表的抽出波形WRが決定されるので、その代表的抽出波形WRを用いて心疾患の診断を正確に行なうことができる。
また、本実施例によれば、代表的抽出波形表示手段64(SA13)により、代表的抽出波形WRが表示器36に表示されるので、その表示された代表的抽出波形WRから心疾患を診断することができる。
また、本実施例によれば、比較表示手段66(SA14)において、時間軸72と振幅軸74とから成る二次元座標系に、波形抽出手段42(SA3)により抽出された抽出波形WEnと代表的抽出波形決定手段62(SA12)において決定された代表的抽出波形WRとが同時に比較可能に表示されるので、その抽出波形WEnと代表的抽出波形WRとの差から前記外雑音を認識することができる。
また、本実施例によれば、振幅比算出手段44(SA4)において波形抽出手段42(SA3)で抽出された抽出波形WEnの振幅比(DS/Dn)nがそれぞれ算出され、平均値算出手段46(SA5)でその振幅比の平均値DAVが算出され、標準偏差算出手段48(SA6)でその振幅比の標準偏差sが算出され、基準抽出波形決定手段54(SA7)では、振幅比(DS/Dn)nが平均値DAVからの偏差が標準偏差sの2倍の範囲内にある抽出波形WEnのうち、振幅比(DS/Dn)nが最大となる抽出波形WEnが基準抽出波形WST1として決定される。すなわち、スパイクノイズ等の振幅比(DS/Dn)nが異常に大きい抽出波形WEnは除外された抽出波形WEnの中から、最も前記外雑音が少ない抽出波形WEnが基準抽出波形WST1として決定される。そして、位相合わせ手段58(SA9)では、その基準抽出波形WST1に基づいて抽出波形WEnが相互に一致するように抽出波形WEnの位相が合わせられるので、精度よく抽出波形WEnの位相を相互に一致させることができる。従って、加算手段60(SA10)においてその抽出波形WEnが加算され、代表的抽出波形決定手段62(SA12)においてその加算して得られた波形に基づいて決定される代表的抽出波形WRは、一拍毎に発生する心音および心雑音が前記外雑音に対して一層強調される利点がある。
また、本実施例によれば、位相合わせ手段58(SA9)により、基準抽出波形更新手段61(SA11)において更新された基準抽出波形WSTnの位相と加算手段60(SA10)において加算される前の抽出波形WEnの位相とが相互に一致させられ、加算手段60(SA10)ではその位相合わせ手段58(SA9)において相互に位相が一致させられた基準抽出波形WSTnと抽出波形WEnとが加算され、基準抽出波形更新手段61(SA11)では、その加算手段60(SA10)で加算された抽出波形WEnに基づいて基準抽出波形WSTnが更新される。従って、抽出波形WEn毎に、その抽出波形WEnの位相と逐次更新される基準抽出波形WSTnの位相とが相互に一致させられることから、次述する実施例において行われている一つの基準抽出波形WSTに基づいて抽出波形WEnの位相が一致させられる場合に比較して位相の一致精度が向上するので、心音および心雑音が、外雑音に対してより一層強調された代表的抽出波形WRが得られる利点がある。
また、本実施例によれば、時間周波数解析手段68(SA15)により、代表的抽出波形WRがウェーブレット変換されて時間bおよび周波数(1/a)の関数とされることから、図11に示すように、代表的抽出波形WRに含まれる正常な心音と心雑音が分離でき、且つ心雑音の発生した時期が解析できるので、心雑音の存在を容易に知ることができ、さらに心雑音の発生部位を特定することができるなど、代表的抽出波形WRに基づく診断が容易に行える利点がある。
次に本発明の他の実施例について図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において前述の実施例と共通する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
図12は、本発明の他の実施例が適用された心音計の電子制御装置20の制御作動の要部を説明する機能ブロック線図である。なお、本実施例の心音計では、装置の機構および回路構成は前述の図1の実施例と共通し、電子制御装置20による制御作動が以下の点において相違する。
すなわち、本実施例の電子制御装置20では、前述の実施例と同様にして最初の基準抽出波形WST1を決定し、その基準抽出波形WST1と一致するように他の全ての抽出波形WEnの位相を合わせ、全ての抽出波形WEnの位相を合わせた後に、全ての抽出波形WEnを一時に加算して、代表的抽出波形WRを決定する。(従って、順列決定手段56および基準抽出波形更新手段61は設けられていない。)そして、代表的抽出波形WRと抽出波形WEnを比較可能に表示して、外雑音を認識できるようにする比較表示手段66に代えて、代表的抽出波形WRと抽出波形WEnとから外雑音を算出し、その算出された外雑音を表示および解析する。以下、その相違点を中心に説明する。
外雑音算出手段82は、波形記憶手段40によりRAM34に記憶されている心音信号SHが表す心音波形のうち、波形抽出手段42において抽出された抽出波形WEと、代表的抽出波形決定手段62で決定される代表的抽出波形WRとの差を外雑音波形WNとして算出する。
外雑音表示手段84は、外雑音算出手段82において算出された外雑音波形WNを表示器36に表示し、外雑音解析手段86は、外雑音算出手段82において算出された外雑音波形WNを周波数解析し、その結果を表示器36に表示する。
図13は、本実施例の電子制御装置20の制御作動の要部を説明するフローチャートである。図において、SB1乃至SB7では前述の実施例のSA1乃至SA7と同様の処理が行なわれることにより、30秒間の心音信号SHおよび心電信号SEが記憶され、一拍毎に発生するII音を含む所定区間の抽出波形WEn(n=1〜30乃至40)が抽出され、その抽出波形WEnのうち、平均値DAVからの偏差が標準偏差sの2倍の範囲内において、最も振幅比(DS/Dn)nが大きくなる抽出波形WEnが基準抽出波形WST1に決定される。
続く位相合わせ手段58に対応するSB8では、SB3において抽出された抽出波形WEnの全ての波形について、SB7で決定された基準抽出波形WST1と一致するようにその位相が修正され、続く加算手段60に対応するSB9では、その位相が修正された抽出波形WEnが全て加算される。SB9において抽出波形WEnが全て加算されると、一拍毎に発生する正常な心音および心雑音は重ね合わされ、前記外雑音は平均化されるので、相対的に正常な心音および心雑音が強調される。
続く代表的抽出波形決定手段62に対応するSB10では、SB9で算出された加算後の抽出波形WEnの振幅強度が加算された拍数nで割られることにより、一拍分の振幅強度とされ、すなわち振幅が平均され、その一拍分の振幅強度とされた抽出波形WEnが代表的抽出波形WRに決定される。
続く代表的抽出波形表示手段64に対応するSB11では、たとえば図9に示されるように、表示器36にSB10で決定された代表的抽出波形WRが表示され、続く外雑音算出手段82に対応するSB12では、SB3で抽出された抽出波形WEnとSB10で決定された代表的抽出波形WRとの差から一拍毎の外雑音波形WNnが算出され、続く外雑音表示手段84に対応するSB13において、SB12で算出された外雑音波形WNnが表示される。図14は、SB13で表示される外雑音波形WNnの一例を示す図であり、図4に示された抽出波形WEから図6に示された代表的抽出波形WRが差し引かれることにより算出された外雑音波形WNnが示されている。なお、図14には、一つの外雑音波形WNnのみが示されているが、SB13では、SB12において算出された外雑音波形WNnの全てが表示器36に表示され、それらの外雑音波形WNnから、前記外雑音の大きさ、およびその外雑音の変動を認識することができる。
続く外雑音解析手段86に対応するSB14では、SB12で算出された外雑音波形WNnがフーリエ解析され、そのフーリエ解析スペクトルが表示器36に表示される。外雑音波形WNnには、心拍周期の4乃至5倍の周期の前記呼吸性雑音や、足音、ドアの開閉音等の生体外から偶発的に発生する複数の雑音が含まれるため、フーリエ解析によりそれらの雑音が周波数的に分離されて表示器36に表示される。
続く時間周波数解析手段68に対応するSB15では、SB12において決定された代表的抽出波形WRが時間周波数解析される。すなわち、代表的抽出波形WRが予め設定された複数の時間帯に分割され、その分割された時間帯毎に周波数解析される。たとえば、代表的抽出波形WRの時間帯が4等分され、それぞれ第1区間T1、第2区間T2、第3区間T3、および第4区間T4とし、その4つの時間帯毎に周波数解析される。
上記SB15において、代表的抽出波形WRが周波数解析されると、心音(本実施例ではII音)と心雑音は異なる周波数成分を有することから、心音と心雑音が分離される。また、代表的抽出波形WRが上記複数の時間帯毎に周波数解析されることから、時間帯によっては、心雑音が含まれる時間帯と含まれない時間帯がある。たとえば、前述の図6の代表的抽出波形WRが、図15に示されるように、II音と心雑音との合成音を表す波形である場合、第3区間T3および第4区間T4の代表的抽出波形WRを周波数解析したスペクトルにのみ存在する信号があることから、心雑音が存在することを知ることができ、さらに心雑音の発生時期から心雑音の種類が分別され、疾患部位を特定することができる。
続く解析結果表示手段70に対応するSB16では、図16に示されるように、上記SB15において時間周波数解析された結果として得られた周波数解析スペクトルが表示器36の周波数軸76、振幅軸78、および時間帯軸80から成る三次元座標系に表示され、第3区間T3および第4区間T4にのみ存在する信号があることから、心雑音およびその発生時期を認識することができる。
上述のように、本実施例によれば、波形抽出手段42(SB3)において、心音信号SHから、一拍毎に発生するII音を含む所定区間の心音波形が抽出波形WEnとして抽出され、位相合わせ手段58(SB8)において抽出波形WEnの位相が基準抽出波形決定手段54(SB7)で決定された基準抽出波形WST1の位相と一致するように合わせられ、加算手段60(SB9)においてその位相が合わせられた抽出波形WEnがn拍分全て加算されることにより、一拍毎に発生する正常な心音および心雑音は重ね合わされ、前記外雑音は平均化される。そして、代表的抽出波形決定手段62(SB10)では加算手段60(SB9)において算出された波形を加算された拍数nで割ることにより代表的抽出波形WRが決定されるので、その代表的抽出波形WRを用いて心疾患の診断を正確に行なうことができる。
また、本実施例によれば、外雑音表示手段84(SB13)により、外雑音算出手段82(SB12)において算出される、前記外雑音の大きさを示す外雑音波形WNnが表示器36に表示されるので、前記外雑音の大きさが容易に認識でき、且つその外雑音波形WNnを診断に用いることができる。
また、本実施例によれば、外雑音解析手段86(SB14)により、外雑音波形WNnがフーリエ解析されて、外雑音波形WNnに含まれる呼吸性雑音や生体外からの雑音等の複数の信号成分が分離される。従って、フーリエ解析された外雑音波形WNnの解析スペクトルを用いて、呼吸器系の疾患を診断することができ、また、生体外からの雑音の原因を解明することが容易になるので、その雑音の原因を除去することが容易になる。
また、本実施例によれば、時間周波数解析手段68(SB15)により、代表的抽出波形WRが4つの時間帯に分割されて、その4つの時間帯毎に周波数解析されることから、代表的抽出波形WRに含まれる正常な心音と心雑音が分離され、且つ心雑音がどの時間帯に発生したかが解析されるので、心雑音の存在を容易に知ることができ、さらに心雑音の発生部位を特定することができるなど、代表的抽出波形WRに基づく診断が容易に行える利点がある。
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
たとえば、前述の実施例では、基準抽出波形決定手段54(SA7、SB7)において、振幅比(DS/Dn)が平均値DAVからの偏差が標準偏差sの2倍の範囲内にある抽出波形WEnのうち、振幅比(DS/Dn)が最大となる抽出波形WEnが基準抽出波形WSTとして決定されていたが、振幅比(DS/Dn)が算出されず、波形抽出手段42(SA3、SB3)において抽出された抽出波形WEnの任意の一つが基準抽出波形WSTに決定されてもよいし、また、基準抽出波形WSTを決定せずに抽出波形WEnが相互に一致するようにその位相を修正するものであってもよい。そのように任意の抽出波形WEnが基準抽出波形WSTに決定された場合または基準抽出波形WSTが決定されない場合でも、位相合わせ手段58(SA9、SB8)においてその基準抽出波形WSTを基準としてその他の抽出波形WEnの位相が修正され、または相互に位相が一致するように抽出波形WEnの位相が修正されると、加算により正常な心音および心雑音は重ね合わされ、前記外雑音は平均化されることに対する一応の効果は得られるのである。
また、前述の第1の実施例では、比較表示手段66に対応するSA14において、抽出波形WEnが破線で表示され、代表的抽出波形WRが実線で表示されることにより、両者が比較可能とされていたが、異なる色を用いて表示する等の他の表示方法により比較可能とされてもよい。
また、前述の実施例の心音計には、心音図の測定とともに、参考誘導として心電図が測定できるようするため、電極22、心電信号増幅器24およびA/D変換器26が備えられていたが、心電図は必ずしも測定される必要はない。なお、参考誘導として心電図が測定されない場合は、波形抽出手段42では、心音信号SHの一拍毎に発生する1か所または2か所の所定部位を直接検出し、その所定部位から予め設定された区間またはその2か所の所定部位間の波形を抽出する。
また、前述の第1の実施例では、解析結果表示手段70(SA16)において、ウェーブレット変換によって得られた関数W(b,1/a)の大きさは、表示器36の時間軸bと周波数軸1/aとの二次元平面上に等高線図として表示されていたが、時間軸bと周波数軸1/aと変換値を表す軸とにより形成される三次元座標に、三次元グラフとして表示されてもよい。
その他、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々変更が加えられ得るものである。
本発明の一実施例である心音計の構成を示すブロック図である。
図1の実施例の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
心音信号および心電信号が表す心音図および心電図の一例を示す図である。
波形抽出手段により抽出される抽出波形の一例を示す図である。
ウェーブレット関数ψ(t)を説明する図である。
ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)がある関数g(t)の一部分に略一致している状態、およびそのときの2つの関数の積を示す図である。
ウェーブレット関数ψ((t−b)/a)がある関数h(t)の一部分を近似していない状態、およびそのときの2つの関数の積を示す図である。
図1の実施例の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
代表的抽出波形表示手段により表示される代表的抽出波形の一例を示す図である。
比較表示手段により抽出波形と代表的抽出波形とが表示器に表示される一例を示す図である。
図1の実施例の解析結果表示手段において表示器に表示される等高線図である。
本発明の他の実施例の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
図10の実施例の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
外雑音表示手段において表示器に表示される外雑音波形の一例を示す図である。
時間周波数解析手段により心雑音の発生時間帯を特定できることを説明する図である。
解析結果表示手段において表示される周波数解析スペクトルの一例を示す図である。
符号の説明
10:心音計、12:マイクロホン(心音センサ)、42:波形抽出手段、44:振幅比算出手段、46:平均値算出手段、48:標準偏差算出手段、54:基準抽出波形決定手段、58:位相合わせ手段、60:加算手段、61:基準抽出波形更新手段、62:代表的抽出波形決定手段、64:代表的抽出波形表示手段、66:比較表示手段、68:時間周波数解析手段、82:外雑音算出手段、84:外雑音表示手段、86:外雑音解析手段。