以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
(1)第1の実施の形態
(1−1)光情報記録媒体の構成
図1(A)〜(C)に示すように、光情報記録媒体100は、基板102及び103の間に記録層101を形成することにより、全体として情報を記録するメディアとして機能するようになされている。
基板102及び103はガラス基板でなり、光を高い割合で透過させるようになされている。また基板102及び103は、X方向の長さdx及びY方向の長さdyがそれぞれ 約50[mm]程度、厚さt2及びt3が約0.6〜1.1[mm]でなる正方形板状又は長方形板状に構成されている。
この基板102及び103の外側表面(記録層101と接触しない面)には、波長が405〜406[nm]でなる光ビームに対して無反射となるような4層無機層(Nb2O2/SiO2/Nb2O5/SiO2)のAR(AntiReflection coating)処理を施している。
なお基板102及び103としては、ガラス板に限られず、例えばアクリル樹脂やポリカーボネイト樹脂など種々の光学材料を用いることができる。基板102及び103の厚さt2及びt3は、上記に限定されるものではなく、0.05[mm]〜1.2[mm]の範囲から適宜選択することができる。この厚さt2及びt3は、同一の厚さであっても異なっていても良い。また、基板102及び103の外側表面にAR処理を必ずしも施さなくても良い。
そして基板103の上部に例えば重合によってフォトポリマーを形成する未硬化状態の液状材料M1(詳しくは後述する)が展開された後、当該液状材料M1上に基板102が載置され、図1における記録層101に相当する部分が未硬化状態の液状材料M1でなる光情報記録媒体100(以下、これを未硬化光情報記録媒体100aと呼ぶ)が形成される。
このように未硬化光情報記録媒体100aは、硬化前のフォトポリマーである液状材料M1を透明な基板102及び103により挟んでおり、全体として薄い板状に構成されている。
液状材料M1は、その内部にモノマー又はオリゴマー、もしくはその両方(以下、これをモノマー類と呼ぶ)が均一に分散している。この液状材料M1は、光が照射されると、照射箇所においてモノマー類が重合する(すなわち光重合する)ことによりフォトポリマーとなり、これに伴い屈折率及び反射率が変化するといった性質を有している。また液状材料M1は、光の照射によりフォトポリマー同士の間に「橋架け」を行い分子量が増加する、いわゆる光架橋が生じることにより、さらに屈折率及び反射率が変化する場合もある。
実際上、液状材料M1の一部或いは大部分を構成する光重合型、光架橋型の樹脂材料(以下、こららを光硬化型樹脂と呼ぶ)は、例えばラジカル重合型のモノマー類とラジカル発生型の光重合開始剤より構成され、あるいはカチオン重合型のモノマー類とカチオン発生型の光重合開始剤より構成されている。
なおモノマー類としては、公知のモノマー類を使用することができる。例えば、ラジカル重合型のモノマー類として、主にアクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミドの誘導体やスチレンやビニルナフタレンの誘導体等、ラジカル重合反応に用いられるモノマーがある。また、ウレタン構造物にアクリルモノマーを持つ化合物についても適用することができる。また上述したモノマーとして、水素原子の代わりにハロゲン原子に置き換わった誘導体を用いるようにしても良い。
具体的に、ラジカル重合型のモノマー類としては、例えば、アクリロイルモルホリン、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールPO変性ジアクリレート、1,9ノナンジオールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートなど公知の化合物を使用することができる。なおこれらの化合物は、単官能であっても多官能であっても良い。
またカチオン重合型のモノマー類としてはカチオンを発生させるエポキシ基やビニル基などを含有していれば良く、例えば、エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルエーテル、オキセタンなど公知の化合物を使用することができる。
ラジカル発生型の光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2ジフェニルエタン−1−オン(IRGACURE(登録商標、以下、これをIrg−と呼ぶ )651、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−オンオン(Irg−2959、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドオン(Irg−819、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)など公知の化合物を使用することができる。
カチオン発生型の光重合開始剤としては、例えばジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリ−p−トリスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート、クミルトリルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、クミルトリルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素など公知の化合物を使用することができる。
因みにカチオン重合型のモノマー類及びカチオン発生型の光重合開始剤を使用することにより、液状材料M1の硬化収縮率をラジカル重合型のモノマー類及びラジカル発生型の光重合開始剤を使用した場合と比して低減することができる。また光重合型、光架橋型の樹脂材料としてアニオン型のモノマー類及びアニオン型の光重合開始剤を組み合わせて使用することも可能である。
またこの光重合型モノマー類、光架橋型モノマー類及び光重合開始剤、このうち特に光重合開始剤は、その材料が適切に選定されることにより、光重合を生じやすい波長を所望の波長に調整することも可能である。なお液状材料M1は、意図しない光によって反応が開始するのを防止するための重合禁止剤や、重合反応を促進させる重合促進剤などの各種添加剤を適量含有しても良い。
そして未硬化光情報記録媒体100aは図2に示す初期化装置1において、液状材料M1が初期化光源2から照射される初期化光L1により初期化され、記録マークを記録する記録層101として機能するようになされている。
具体的に初期化装置1は、初期化光源2から例えば波長365[nm]の初期化光L1(例えば300[mW/cm2]、DC(Direct Current)出力)を出射させ、当該初期化光L1をテーブル3上に載置された板状の光情報記録媒体100に対して照射させるようになされている。この初期化光L1の波長及び光パワーは、液状材料M1に使用される光重合開始剤の種類や記録層101の厚みt1などに応じて最適となるように適宜選択される。
因みに初期化光源2としては、高圧水銀灯、高圧メタハラ灯、固体レーザや半導体レーザ等の高い光パワーを照射し得る光源が用いられる。
また初期化光源2は、図示しない駆動部を有しており、X方向(図中の右方向)及びY方向(図の手前方向)に自在に移動し、未硬化光情報記録媒体100aに対して適切な位置から初期化光L1を一様に照射し得、未硬化光情報記録媒体100a全体に均一に初期化光L1を照射するようになされている。
このとき液状材料M1は、当該液状材料M1内における光重合開始剤からラジカルやカチオンを発生させることによりモノマー類の光重合反応又は光架橋反応、もしくはその両方(以下、これらをまとめて光反応と呼ぶ)を開始させると共に、モノマー類の光重合架橋反応を連鎖的に進行させる。この結果モノマー類が重合してフォトポリマーとなることにより硬化し、記録層101となる。
なおこの液状材料M1では、全体的にほぼ均一に光反応が生じるため、硬化後の記録層101における屈折率は一様となる。すなわち初期化後の光情報記録媒体100では、いずれの箇所に光を照射しても戻り光の光量が一様となるため、情報が一切記録されていない状態となる。
また記録層101として、熱により重合する熱重合型又は熱により架橋する熱架橋型の樹脂材料(以下、これを熱硬化型樹脂と呼ぶ)を用いることができる。この場合硬化前の熱硬化型樹脂である液状材料M1としては、例えばその内部にモノマー類及び硬化剤が均一に分散している。この液状材料M1は、高温下又は常温下においてモノマー類が重合又は架橋(以下、これを熱硬化と呼ぶ)することによりポリマーとなり、これに伴い屈折率及び反射率が変化するといった性質を有している。
実際上、液状材料M1は、例えばポリマーを生成する熱硬化型のモノマー類と硬化剤に対し、上述した光重合開始剤が所定量添加されることにより構成される。因みに熱硬化型のモノマー類及び硬化剤としては、光重合開始剤が気化しないよう、常温硬化若しくは比較的低温で硬化する材料を使用することが好ましい。また、光重合開始剤の添加前に熱硬化樹脂を加熱して予め硬化させておくことも可能である。
なお、熱硬化型樹脂に使用されるモノマー類としては、公知のモノマー類を使用することができる。例えば、フェノール樹脂やメラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの材料として使用されるような種々のモノマー類を使用することができる。
また熱硬化型樹脂に使用される硬化剤としては、公知の硬化剤を使用することができる。例えば、アミン類、ポリアミド樹脂、イミダゾール類、ポリスルフィド樹脂、イソシアネートなど、種々の硬化剤を使用することができ、反応温度やモノマー類の特性に応じて適宜選択される。なお硬化反応を促進する硬化補助剤など種々の添加物を添加するようにしても良い。
さらに記録層101として、熱可塑性の樹脂材料を用いることができる。この場合、基板103上に展開される液状樹脂M1は、例えば所定の希釈溶剤で希釈されたポリマーに対し、上述した光重合開始剤が所定量添加されることにより構成される。
なお、熱可塑性の樹脂材料としては、公知の樹脂を用いることができる。例えば、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene Copolymer)樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ノルボルネン樹脂など、種々の樹脂を使用することができる。
また希釈溶剤は、水、アルコール類、ケトン類、芳香族系溶剤、ハロゲン系溶剤などの各種溶剤若しくはこれらの混合物を用いることができる。なお熱可塑性の樹脂の物理特性を変化させる可塑剤など種々の添加物を添加するようにしても良い。
(1−2)本発明における記録マークの記録及び再生原理
液状材料M1として光硬化型の樹脂材料を用いた場合は、光重合開始剤がスタータとなり後は連鎖的に光反応が進行するため、理論上、非常に少量の光重合開始剤のみが消費される。しかしながら液状材料M1の光反応を迅速にかつ十分に進行させるため、一般的に、実際に消費される光重合開始剤と比して過剰な量の光重合開始剤が配合される。
すなわち図3に示すように、初期化後の光情報記録媒体100における記録層101では、モノマー類が重合して生成したポリマーP内に形成された空間Aに、消費されなかった光重合開始剤(以下、これを光重合開始剤残渣と呼ぶ)Lが散在した状態にある。
また熱硬化型樹脂及び熱可塑性樹脂に対して光重合開始剤を配合した場合には、当該光重合開始剤が何らかの反応によって消費されることはなく、そのまま記録層101内に残留するため、光硬化型樹脂と同様に光重合開始剤残渣が散在した状態にすることができる。さらにベース記録層101には、希釈溶剤として使用された溶剤が残留した残留溶剤や硬化処理において残留した未反応のモノマー類が散在することも考えられる。
本発明におけるベース光情報記録媒体100では、液状材料M1において、140℃〜400℃(140℃以上、400℃以下を意味する、以下、同様の意味で「〜」を用いる)に沸騰又は分解などにより気化する気化温度を有する光重合開始剤、残留溶剤又はモノマー類などの気化材料を配合することにより、初期化後のベース記録層101に140℃〜400℃に気化温度を有する気化材料を散在させておく。
図4に示すようにベース記録層101に対物レンズOLを介して所定の記録用の光ビームL2(以下、これを記録光ビームL2cと呼ぶ)が照射されると、記録光ビームL2cの焦点Fb近傍の温度が局所的に上昇し、例えば150℃以上の高温になる。
このとき記録光ビームL2cは、焦点Fb近傍のベース記録層101に含まれる気化材料を気化させ、その体積を増大させることにより、焦点Fbに気泡を形成する。このとき気化した光重合開始剤残渣は、そのまま記録層101の内部を透過し、又は記録光ビームL2cが照射されなくなることにより冷却され、体積の小さな液体に戻る。このため記録層101では、気泡により形成された空洞のみが焦点Fb近傍に残ることになる。なお記録層101のような樹脂は、通常一定の速度で空気を透過させることから、いずれ空洞内は空気によって満たされると考えられる。
すなわちベース光情報記録媒体100では、記録光ビームL2cを照射してベース記録層101が含有する気化材料を気化させることにより、図4(A)に示すように、焦点Fbに気泡によって形成された空洞でなる記録マークRMを形成することができる。
一般的に記録層101に使用されるフォトポリマーの屈折率n101が1.5程度であり、空気の屈折率nAIRが1.0であることから、記録層101は、当該記録マークRMに対して読出光ビームL2dが照射されると、図4(B)に示すように、当該記録マークRMの界面における屈折率の差異により、読出光ビームL2dを反射して比較的光量の大きい戻り光ビームL3を生成する。
一方記録層101は、記録マークRMが記録されていない所定の目標位置に対して読出用の光ビームL2(以下、これを読出光ビームL2dと呼ぶ)が照射されると、図4(C)に示すように、目標位置近傍が一様の屈折率n101でなることにより、読出光ビームL2dを反射させることはない。
すなわち光情報記録媒体100では、記録層101の目標位置に読出光ビームL2dを照射し、光情報記録媒体100によって反射される戻り光ビームL3の光量を検出することにより、記録層101における記録マークRMの有無を検出することができ、記録層101に記録された情報を再生し得るようになされている。
(1−3)光情報記録再生装置の構成
図5において光情報記録再生装置1は、全体として光情報記録媒体100における記録層101に対して光を照射することにより、記録層101において想定される複数の記録マーク層(以下、これを仮想記録マーク層と呼ぶ)に情報を記録し、また当該情報を再生するようになされている。
光情報記録再生装置5は、CPU(Central Processing Unit)構成でなる制御部6により全体を統括制御するようになされており、図示しないROM(Read Only Memory)から基本プログラムや情報記録プログラム、情報再生プログラム等の各種プログラムを読み出し、これらを図示しないRAM(Random Access Memory)に展開することにより、情報記録処理や情報再生処理等の各種処理を実行するようになされている。
制御部6は、光ピックアップ7を制御することにより、当該光ピックアップ7から光情報記録媒体100に対して光を照射させ、また当該光情報記録媒体100から戻ってきた光を受光するようになされている。
光ピックアップ7は、制御部6の制御に基づき、レーザダイオードでなる記録再生光源10から例えば波長405〜406[nm]の光ビームL2をDC出力で出射させ、当該光ビームL2をコリメータレンズ11により発散光から平行光に変換した上でビームスプリッタ12に入射させるようになされている。
因みに記録再生光源10は、制御部6の制御に従い、光ビームL2の光量を調整し得るようになされている。
ビームスプリッタ12は、反射透過面12Sにより光ビームL2の一部を透過させ、対物レンズ13へ入射させる。対物レンズ13は、光ビームL2を集光することにより、光情報記録媒体100内の任意の箇所に合焦させるようになされている。
また対物レンズ13は、光情報記録媒体100から戻り光ビームL3が戻ってきた場合、当該戻り光ビームL3を平行光に変換し、ビームスプリッタ12へ入射させる。このときビームスプリッタ12は、戻り光ビームL3の一部を反射透過面12Sにより反射し、集光レンズ14へ入射させる。
集光レンズ14は、戻り光ビームL3を集光してピンホール板15のピンホール15Aを通過させる。このときピンホール15Aは、所望の仮想記録マーク層において反射された戻り光ビームL3のみを選択的に通過させ、レンズ16を介して当該戻り光ビームL3受光素子17に照射する。
これに応じて受光素子17は、戻り光ビームL3の光量を検出し、当該光量に応じた検出信号を生成して制御部6へ送出する。これにより制御部6は、検出信号を基に戻り光ビームL3の検出状態を認識し得るようになされている。
ところで光ピックアップ7は、図示しない駆動部が設けられており、制御部6の制御により、X方向、Y方向及びZ方向の3軸方向に自在に移動し得るようになされている。実際上、制御部6は、当該光ピックアップ7の位置を制御することにより、光ビームL2の焦点位置を所望の位置に合わせ得るようになされている。
このように光情報記録再生装置5は、光情報記録媒体100内の任意の箇所に対して光ビームL2を集光し、また当該光情報記録媒体100から戻ってくる戻り光ビームL3を検出し得るようになされている。
(1−4)実施例
(1−4−1)実施例1
以下の条件により、光情報記録媒体100としてのサンプルS1〜S8を作製した。サンプルS1〜S8では、光重合開始剤の気化温度の差異による影響を確認するために、1種類のモノマー類に対して、気化温度の異なる8種類の光重合開始剤を同一重量配合した。
モノマー類としてアクリル酸エステルモノマー(p−クミルフェノールエチレンオキシド付加アクリル酸エステル)とウレタン2官能アクリレートオリゴマーとの混合物(重量比40:60)100重量部に対し、1.0重量部の光重合開始剤を加え、暗室化において混合脱泡することにより液状材料M1を調整した。以下に、各サンプルにおいて使用した光重合開始剤を示す。
サンプルS1:DAROCUR(登録商標)1173 (2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)
サンプルS2:Irg−184 (1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)
サンプルS3:Irg−784 (ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製))
サンプルS4:Irg−907 (2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−オン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)
サンプルS5:Irg−369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)
サンプルS6:SCTP(ソニーケミカルインフォメーションデバイス株式会社製)
サンプルS7:X−32−24(ソニーケミカルインフォメーションデバイス株式会社製)
サンプルS8:UVX4(ソニーケミカルインフォメーションデバイス株式会社製)
そして液状材料M1を基板103上に展開し、基板102及び103の間に挟み込んで未硬化光情報記録媒体100aを作製した。この未硬化光情報記録媒体100aに対し、高圧水銀灯でなる第1初期化光源1により初期化光L1(波長365[nm]においてパワー密度250[mW/cm2])を10[sec]照射することにより、光情報記録媒体100としてのサンプルS1を作製した。なお、各サンプルS1〜S8における記録層101の厚さt1は0.5[mm]、基板102の厚さt2は0.7[mm]、基板103の厚さt3は0.7[mm]であった。
以下に、サンプルS1〜S8に使用した液状材料M1におけるモノマー類及び光重合開始剤の配合量の一覧を示す。
光情報記録再生装置5は、光情報記録媒体100に対して情報を記録する際、図6(A)に示すように、記録再生光源10(図5)からの記録光ビームL2cを記録層101内に集光する。この場合、光情報記録再生装置5は、光ピックアップ7(図5)のX方向、Y方向及びZ方向の位置を制御することにより、記録光ビームL2c(図6(A))を記録層101内の目標とする位置(すなわち目標位置)に合焦させる。
このとき記録層101内の目標位置では、記録光ビームL2cが集光され、温度が局所的に上昇し、記録層101における光重合開始剤残渣の温度が光重合開始剤の気化温度以上になることにより、当該光重合開始剤残渣が気化し、目標位置に空洞でなる記録マークRMを形成する。
具体的に光情報記録再生装置5は、記録層101の表面から深さ200[μm]となる位置を目標位置とし、記録再生光源10から波長405〜406[nm]、光パワー55[mW]のレーザ光でなる記録光ビームL2cを射出し、これをNA(Numerical Aperture)=0.3の対物レンズ13により集光し、目標位置に対して照射した。
光情報記録再生装置5は、光情報記録媒体100から情報を読み出す際、図6(B)に示すように、記録再生光源10(図5)からの読出光ビームL2dを記録層101内に集光する。この場合、光情報記録再生装置5は、光ピックアップ7(図5)のX方向、Y方向及びZ方向の位置を制御することにより、読出光ビームL2d(図6(B))を記録層101内の目標位置に合焦させる。
このとき光情報記録再生装置5は、記録再生光源10から記録光ビームL2cと同波長でなり光パワーが200[μW]又は1.0[mW]でなる読出光ビームL2dを出射し、対物レンズ13により記録層101内の記録マークRMが形成されているべき目標位置に集光させる。
このとき読出光ビームL2dは、記録マークRMにより反射され、戻り光ビームL3となる。光情報記録再生装置5は、対物レンズ13及びビームスプリッタ12等を介して当該戻り光ビームL3をCCD(Charge Coupled Device)でなる受光素子17により検出した。
また光情報記録再生装置5は、サンプルS1における目標位置に対し、波長が405[nm]でなる光パワー55[mW]の記録光ビームLc2を開口数NAが0.3の対物レンズ13を介して0.6[sec]照射後、同一波長、同一の開口数NAでなる対物レンズ13を介して光パワー1.0[mW]の読出光ビームL2dを照射した。
このとき受光素子17は、図7(A)に示すように、十分に検出可能な光量でなる戻り光ビームL3を検出することができた。以下、このときの光量を基準光量とし、サンプルS1〜S8に対する戻り光ビームL3の検出の有無を確認している。
一方記録光ビームLc2を照射していない目標位置に対し、同様に読出光ビームL2dを照射した場合、受光素子17は、図7(B)に示すように、戻り光ビームL3を殆ど検出することができなかった。
なお、サンプルS1に使用した光重合開始剤は、紫外線から可視光(1[nm]〜550[nm])を吸収することによって励起され、光重合のスタータとなるラジカルを発生させることから、紫外線を吸収する特性を有する。またサンプルS2〜S8に使用した各重合開始剤についても同様である。
記録光ビームL2cは、その波長が405〜406[nm]と紫外線に近い可視光である。従ってサンプルS1において使用したDARCUR1173は記録層101内において記録光ビームL2cを吸収して自ら発熱し、気化温度以上となることにより気化し、気泡でなる記録マークRMを形成していると考えられる。
フォトポリマーもその構造から多数の2重結合を有していることが多い。一般的に2重結合は、紫外線を吸収することが知られている。すなわちフォトポリマーは、記録光ビームL2cを吸収して発熱し、この熱を光重合開始剤に伝達することにより、光重合開始剤の温度を上昇させ、当該光重合開始剤を気化させているものと考えられる。
さらに光情報記録再生装置5は、サンプルS1〜S8の目標位置に対し、波長が405〜406[nm]でなる光パワー20[mW]、DC出力の記録光ビームLc2を開口数NAが0.3の対物レンズ13を介して10.0[sec]照射後、同一波長、同一の開口数NAでなる対物レンズ13を介して光パワー1.0[mW]の読出光ビームL2dを照射した。
このとき光情報記録再生装置5は、照射時間を0.05[sec]から10.0[sec]まで、0.05[sec]刻みで増大させながら複数の目標位置に記録光ビームL2cをそれぞれ照射した。
そして光情報記録再生装置5は、目標位置に読出光ビームL2dを照射し、受光素子17によって戻り光ビームL3の光量を検出した。基準光量以上の光量が受光素子17によって検出できた記録光ビームL2cの照射時間のうち、最も短い照射時間を記録時間とした。
表2に、サンプルS1〜S8の記録時間、各サンプルに使用された光重合開始剤の種類、気化温度及び配合割合の一覧を示す。なお、表中に「×」とあるのは、記録光ビームL2cを10[sec]照射した目標位置に対して読出光ビームL2dを照射した場合であっても受光素子17によって基準光量以上の戻り光ビームL3が検出されなかったことを示している。
なおサンプルS1〜S8までに使用した光重合開始剤の気化温度は、以下の測定条件によるTG/DTA(示唆熱・熱重量同時測定)の測定結果を示しており、TG曲線において最も激しく重量減少が生じた温度を気化温度としている。
雰囲気 :N2(窒素雰囲気下)
昇温速度:20[℃/min]
測定温度:40℃〜600℃
使用装置:TG/DTA300(セイコーインスツルメンツ株式会社製)
因みに例えば測定対象物が複数の気化温度を有する場合には、最も低温において激しく重量減少が生じた温度を測定対象物の気化温度としている。またUVX4は、測定範囲(40℃〜600℃)において急激な重量減少が確認できず、気化温度が存在しなかったため、気化温度を600℃超とした。
この結果から、気化温度が147℃〜394℃でなる光重合開始剤を用いたサンプルS1〜S8のいずれにおいても1[sec]未満(0.2〜0.8[sec])の記録時間において基準光量以上の戻り光ビームL3が検出され、目標位置に記録マークRMが形成されていることが確認された。
一方気化温度が532℃、600℃以上でなる光重合開始剤を用いたサンプルS7およびS8では、記録光ビームL2cを10[sec]照射した目標位置に対して読出光ビームL2dを照射した場合であっても受光素子17によって基準光量以上の戻り光ビームL3が検出されず、目標位置に記録マークRMが形成されなかったことが確認された。
すなわち気化温度が低い光重合開始剤を使用した場合には、記録光ビームL2cの照射によって焦点Fb付近に存在する光重合開始剤残渣が気化温度程度もしくはそれ以上上昇することにより、光重合開始剤残渣が気化して記録マークRMを形成することができたと考えられる。一方、気化温度が高い光重合開始剤を使用した場合には光重合開始剤残渣が気化温度程度にまで上昇して気化することができないため、記録マークRMを形成することができないと考えられる。
因みに記録再生光源22の代わりに2光子吸収などの多光子吸収を引き起こすピコ秒レーザを用い、波長780[nm]、平均出射パワー43[mW]、5[psec]のパルス出力でなる記録光ビームL2cを各サンプルS1〜S8に照射した場合であっても、記録時間は同等であった。このことから記録層101は多光子吸収を生じさせる材料を殆ど含んでいないといえる。
ここで、394℃の気化温度でなる光重合開始剤を用いたサンプルS6であっても0.8[sec]で記録マークRMが形成されていることから、記録光ビームL2cの照射時間を最大1[sec]まで許容すると仮定すると、気化温度が400℃程度以下の光重合開始剤を使用することにより記録マークRMを形成することができると考えられる。
また記録光ビームL2cによって発生する熱により光重合開始剤残渣を気化させており、実際に気化温度の比較的低い重合開始剤の方が気化温度の高い重合開始剤よりも記録時間が短い傾向にあるため、光重合開始剤の気化温度が低ければ低いほど記録マークRMを容易に形成できるとも考えられる。
しかしTG/DTA測定の結果、気化温度が147℃のDAROCUR1173であっても、気化温度よりも約60℃低い約90℃から徐々に吸熱反応が始まることが確認されている。このことはDAROCUR1173を含有するサンプルを約90℃の温度下で長時間放置した場合に、光重合開始剤残渣が徐々に揮発してしまい、記録マークRMを形成したいときに光重合開始剤残渣が残留しておらず、記録光ビームL2cを照射しても記録マークRMを形成できなくなる可能性を示唆している。
一般的に、光情報記録再生装置5のような電子機器は、80℃程度の温度下で使用されることが想定されている。従って光情報記録媒体100としての温度安定性を確保するためには、気化温度が80℃+60℃=140℃以上の光重合開始剤を用いることが好ましい。また、140℃より5℃程度高い気化温度(すなわち145℃)を有する光重合開始剤を用いることにより、温度安定性をさらに向上させることができると考えられる。
以上のことから、液状材料M1に配合される光重合開始剤の気化温度は、140℃〜400℃であることが好ましく、さらに145℃〜300℃であることが特に好ましい。
なお光重合開始剤の配合量は、光重合反応を十分に進行させると共に、重合開始剤残渣が過剰に存在することによる記録層101の弾性率低下などの弊害を防止するため、モノマー類100重量部に対して0.8重量部〜20.0重量部であることが好ましく、さらに2.5重量部〜20.0重量部であることが特に好ましい。
(1−5)動作及び効果
以上の構成において、光情報記録媒体100は、記録層101に140℃以上かつ400℃以下の気化温度を有する光重合開始剤を光重合開始剤残渣として含有するようにした。
これにより、記録層101は、情報の記録時に所定の記録光である記録光ビームL2cが集光されると、記録光ビームL2cの焦点Fb近傍に存在する光重合開始剤残渣を加熱して当該光重合開始剤残渣を気化させることにより空洞でなる記録マークRMを形成することができる。
この結果、情報の再生時に所定の読出光である読出光ビームL2dが照射されることに応じ、記録マークRMに反射されてなる戻り光としての戻り光ビームL3を受光して記録マークRMの有無を検出することにより、戻り光を基に当該情報を再生させることができる。
すなわち従来の色素の2光子吸収特性を利用する光情報記録媒体では、多層化を行うために、再生の波長に対する透過率は高いがその倍程度以上の波長に対しては透過率が低い特殊な色素材料と、大型かつ高消費電力な高出力のフェムト秒レーザ又はピコ秒レーザを用いる必要がある。これに対し、光情報記録媒体100は、レーザダイオードから発射される通常のレーザ光が集光されるだけで、簡易に気泡でなる記録マークRMを形成することができ、光情報記録再生装置5を小型化及び省電力化することが可能となる。
記録層101は、少なくともモノマー又はオリゴマーを含むモノマー類と、光重合開始剤とが混合されてなる液状材料M1を、初期化光L1の照射による光重合や光架橋などの光反応によって硬化させた光硬化型樹脂でなる。
ここで光重合開始剤は、重合反応を開始するためのラジカルやカチオンを発生させて液状材料M1における重合反応を開始させるだけの役割を担っているため、例えばモノマー類100重量部に対して0.01重量部〜0.1重量部(すなわち記録層101の全重量に対して0.01%〜0.09%)程度配合されていれば、理論的に(反応速度などを考慮せず十分な照射時間(例えば10時間)に渡って初期光ビームL1を照射できる場合)モノマー類をフォトポリマーとして硬化させることが可能である。
液状材料M1は、モノマー類に対して光重合開始剤を過剰量配合することにより、硬化後の上記記録層に上記光重合開始剤を残留させると共に、光反応の反応速度を上昇させることができる。
(2)第2の実施の形態
(2−1)光情報記録媒体の構成
図8〜図17は第2の実施の形態を示すもので、図1〜7に示す第1の実施の形態に対応する部分を同一符号で示している。第2の実施の形態では、記録層121の構成が第1の実施の形態における記録層101と異なっている。なお光情報記録再生装置5としての構成は第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
図8(A)に示すように、光情報記録媒体120は、基板102及び103の間に記録層121を挟んだ構成でなる。記録層121は、記録光ビームL2cの照射に応じて記録マークRMが形成される記録領域121aと当該記録マークRMが形成されない非記録領域121bとを有しており、記録領域121aと非記録領域121bとが厚さ方向(Z方向)に交互に積層されている。
記録領域121a及び非記録領域121bの層数としては特に制限がなく、例えば各20層程度が設けられる。この層数は、光情報記録媒体120の記憶容量や、記録領域121a又は非記録領域121bの記録光ビームL2c又は読出光ビームL2dに対する光吸収率などに応じて適宜選定される。
ところで図9に示すように記録光ビームL2cは、対物レンズ13(図5)の作用により、焦点Fbにおいて光強度が最も大きくなり、焦点Fbから離隔するにつれて徐々に光強度が小さくなる。
ここで記録光ビームL2cの波長をλ、当該記録ビームL2cを集光する対物レンズ13の開口数をNA、記録層121内の屈折率をnとすると、焦点Fbの光強度に対して記録光ビームL2cの光強度が1/e2となるときのZ方向の高さCAhを、次式によって算出することができる。
実際上、記録光ビームL2cは、高さCAhよりも外側であってもある程度の光強度を有しており、記録領域121a内に照射される際に当該記録光ビームL2cによる発熱(以下、これを記録光熱と呼ぶ)を生じさせる可能性がある。この記録光熱を生じさせる記録光ビームL2cの高さとして、高さCAhの3倍の高さを有効高さEAhとする。
例えば記録層121の屈折率nを1.52とした場合、対物レンズ13の開口数NAが0.3、記録光ビームL2cの波長λが405[nm]であることから、高さCAh=4.2[μm]、有効高さEAh=12.6[μm]と算出される。
記録領域121aは、その厚さtaが次式に示すように、有効高さEAh以下となるように形成されている。
また非記録領域121bは、記録領域121a内に形成される記録マークRMが互いに隣接しすぎることのないように例えば記録領域121aの高さtaの0.1〜10倍程度にその高さtb(図8(B))が選定されている。
記録領域121aの材料となる液状材料M1としては、上述した第1の実施の形態と同様の材料が用いられる。
また非記録領域121bの材料となる非記録材料M2としては、液状材料M1と同様の光硬化型の樹脂材料や、種々の溶剤に溶解する溶解性樹脂、熱により溶融するホットメルト型樹脂や、熱により硬化する熱硬化型樹脂など、種々のタイプの液状樹脂や固形樹脂、さらにはガラスなどの光学用無機材料が用いられる。また非記録材料M2としては、非記録領域121bとして記録光ビームL2c又は読出光ビームL2dを高透過率で透過するものが選択される。
ここで図10に示すように、第1の実施の形態における記録層101では、記録光熱の拡散方向に特に制限がないため、X、Y及びZ方向にいわば3次元的に記録光熱を拡散させる。この結果記録層101では、焦点Fb近傍から記録光熱が逃げてしまい、温度上昇が鈍ると考えられる。
図11に示すように、本実施の形態における記録層121では、非記録領域121bによって記録光熱がZ方向に拡散するのを抑制し、焦点Fb近傍の温度上昇を速めることにより、記録マークRMが形成されるまでの記録時間を短縮するようになされている。
具体的には、記録領域121aと非記録領域121bとの間の親和性を低下させる、又は非記録領域121bのガラス転移点Tgを記録領域121aのガラス転移点Tgを高くすることが挙げられる。まず記録領域121aと非記録領域121bとの間の親和性を低下させる方法について説明する。
一般的な樹脂は、極性の低い低極性樹脂、極性の高い高極性樹脂、水を吸収して膨張する、若しくは水溶性でなるような超親水性樹脂のように、極性の高さに応じて分類することができる。
低極性樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂、シクロオレフィン樹脂及びノルボルネン樹脂などの種類が挙げられる。また高極性樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリスチレン樹脂などの種類が挙げられる。超親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂などの種類が挙げられる。
記録層121は、非記録領域121bの極性を記録領域121aの極性と大きく相違させることにより、非記録領域121bと記録領域121aとの親和性を低下させることができるため、記録領域121aのうち、記録光熱によって加熱した成分を非記録領域121b内に移動させることを抑制することができる。
この結果非記録領域121bは、Z方向に記録光熱を逃がさないため、記録光熱を焦点Fb近傍に留めることができ、当該焦点Fb近傍の温度を急激に上昇させて記録時間を短縮することができる。
このとき記録層121は、記録領域121aと非記録領域121bとして互いに異なる種類の樹脂を選定することにより、その構造の差異に応じて記録領域121aと非記録領域121bとの親和性を比較的容易に低下させることができる。
なお樹脂の種類としては、主に樹脂が硬化されるときの極性基の種類に応じて分類される。また液状材料M1として2種類以上の樹脂が混合される場合には、当該液状材料M1に応じた記録領域121aは最も含有量の多い樹脂の種類に属するものとする。
次に、非記録領域121bのガラス転移点Tgを記録領域121aのガラス転移点Tgを高くする方法について説明する。
一般的な樹脂は、ガラス転移点Tgよりも30[℃]程度低い温度から分子運動を開始させることが知られている。
非記録領域121bは、記録領域121aと比してガラス転移点Tgが例えば30[℃]以上高い材料で形成されているため、記録光ビームL2cの照射によって記録領域121aがガラス転移点Tg以上の温度になった場合であっても、分子運動を開始しないため、記録領域121aからの熱の伝導を抑制することができる。
この結果非記録領域121bは、記録領域121aと極性が大きく異なる場合と同様に、記録光熱によって温度上昇した成分を非記録領域121b内に移動させることを抑制することができ、当該焦点Fb近傍の温度を急激に上昇させて記録時間を短縮することができる。
なお記録領域121aはその厚みtaが有効高さEAh以下に形成されることが好ましい。これにより記録層121は、当該記録光熱を記録領域121a内に広く拡散させることなく、非記録領域121bによって効果的に記録光熱を封じ込めることができる。
また図12(A)に示すように、記録層121は、記録領域121aの厚みtaを有効高さEAh未満にすることにより、有効光領域EAのうち、特にエネルギーの高い部分のみを記録領域121aに照射させることができる。
特に記録領域121aは、その厚さtaが次式に示すように、高さCAh以下となるように形成されることが好ましい。
この結果、記録層121は、エネルギーが高く迅速に発生した記録光熱を記録領域121a内に効果的に封じ込めることができ、焦点Fb近傍の温度を急激に上昇させ、一段と迅速に記録マークRMを形成することができる。
この場合図12(B)に示すように、記録層121は、記録領域121a内にのみ記録マークRMを形成するため、当該記録マークRMの高さRMhを抑制することができ、当該記録層121の厚み方向(Z方向)に記録密度を向上させることができる。
次に、光情報記録媒体120の作製方法の例について説明する。
まず、記録領域121aがフォトポリマーでなる場合について説明する。なお説明の便宜上、図13(A)に示すように、記録領域121aを2層の非記録領域121bによって挟んだ3層構造でなる記録層121について説明する。
図13(B)に示すように、基板103の上に例えばスピンコート法やスキージ法などにより、光硬化型樹脂でなる非記録材料M2を展開した後、当該液状材料M2の上に液状材料1及び非記録材料2を順次展開する。そして非記録材料M2の上に基板102を載置することにより基板102及び基板103の間に液状材料M1及び非記録材料M2を挟み込み、未硬化光情報記録媒体120aを作製する。
そして図13(C)に示すように、初期化光源2により未硬化光情報記録媒体120aに対して初期化光L1を照射することにより、液状材料M1及び非記録材料M2を光反応によって硬化させ、光情報記録媒体120を作製する。
また、記録領域121aが希釈溶媒によって希釈された希釈樹脂でなる場合について、便宜上図14(A)に示すように、非記録領域121bと基板103とが接着領域121cによって接着されてなる記録層121を用いて説明する。
図14(B)に示すように、基板102上に非記録材料M2を展開し、熱乾燥により希釈溶媒を蒸発させることにより非記録領域121bを形成する。さらに図14(C)に示すように、当該非記録領域121b上に液状材料M1を展開し、初期化光L1を照射して記録領域121aを形成した後、記録領域121a上に非記録材料M2を展開し、熱乾燥により非記録領域121bを形成する。
そして図15(A)に示すように、非記録領域121b上に光硬化樹脂でなる接着用材料M3を展開し、当該接着用材料M3上に基板103を載置し、初期化光L1を照射(図15(B))することにより、光情報記録媒体120を作製することができる。
なお液状材料M1として、光硬化型樹脂に対して熱硬化型樹脂を混合することも可能である。この場合、予め熱硬化型のモノマー類及び硬化剤を混合して加熱硬化した後、光硬化型樹脂と混合し、光硬化型樹脂を光反応により硬化させる。また熱硬化型樹脂と光硬化型樹脂とを混合した後、熱硬化型樹脂を常温にて硬化させ、さらに光硬化型樹脂を光反応により硬化させることも可能である。
また非記録材料M2として、所定の厚みでなるシート状の固形材料を使用することも可能である。この場合、接着領域121cを基板102側に設けることにより、基板102と非記録領域121bとを接着する。さらに基板102又は103が非記録領域121bとしての条件を満たす場合には、記録領域121aを基板102又は103と隣接して設けても良い。
この光情報記録媒体120の作製方法については、特に制限されるものではなく、種々の作製方法を用いて同様の構成でなる光情報記録媒体120を設けることができる。
(2−2)実施例
以下の条件により、液状材料M1としての調製樹脂R1〜R10を調整した。
調製樹脂R1及びR2については、ポリマーを所定濃度になるようにトルエンで希釈し、当該ポリマー98重量部に対して光重合開始剤としてのIrg−184を2重量部加え、暗室化において混合脱泡することにより調製した。
調製樹脂R3〜R5、R10については、モノマー類に対して光重合開始剤としてのIrg−184又はIrg−784を加え、暗室化において混合脱泡することにより調製した。
また調製樹脂R6については、光硬化型のモノマー類、光重合開始剤、熱硬化型のモノマー類及び硬化剤を混合脱泡した後、常温(25[℃])で10時間放置することにより、熱硬化型のモノマー類であるSR−GLG及び硬化剤であるMH−700を硬化させた。
非記録材料M2としての調製樹脂R21〜R23については、ポリマーを所定濃度になるように希釈溶剤で希釈し、これを暗室化において混合脱泡することにより調製した。なお、希釈溶剤として、調製樹脂R21及びR22では純水を用い、調製樹脂R23ではキシレン/ブタノール混合液を用いた。
以下に、調製樹脂R1〜R23の配合量及び当該調製樹脂R1〜R23に使用された各材料の詳細を示す。
D5432 :アートンD4532、ノルボルネン樹脂、JSR株式会社製
MT5 :ポリスチレン、東洋スチレン株式会社製
S2EG :メタクリレート樹脂(S,S(チオジエチレン)ビス(チオメタク リレート))、住友精化株式会社製
HX−620 :アクリル樹脂(2官能アクリルモノマー)、日本化薬株式会社製
SR−GLG :特殊エポキシ樹脂(グリセリンポリグリシジルエーテル)、坂本薬
工業株式会社製
MH−700 :リカシッドMH−700、エポキシ硬化剤(4−メチルヘキサヒ
ロ無水フタル酸)、新日本理化株式会社
OHX−121 :特殊アクリルモノマー(オキセタン)、東亞合成株式会社製
DPCA−60 :KAYARAD DPCA−60、アクリル樹脂、日本化薬株式
社製
RS2117 :エクセバールRS3117、ポリビニルアルコール樹脂類、クラレ
式会社製
AL−06R :ゴーセノールAL−06R、ポリビニルアルコール樹脂、日本合
株式会社製
HR−15ET :バイロマックスHR−15ET、ポリアミドイミド樹脂、東洋紡
株式会社製
(2−2−1)実施例2
以下の条件により、光情報記録媒体120としてのサンプルS11〜S15を作製した。図16に示すように実施例2では、10層の記録領域121aと、当該記録領域121aに交互に積層された11層の非記録領域121bと、最も基板103に近い非記録領域121bと当該基板103とを接着する接着領域121cとからなる記録層121を、基板102及び103によって挟んだ構成でなる光情報記録媒体120を作製した。
サンプルS11について、溶剤引き上げ法により、厚さt2=0.7[mm]でなるガラス板(基板102)に非記録材料M2としての調製樹脂R23を塗布した。そして調製樹脂R23を乾燥させることにより、非記録領域121bとして80[μm]の乾燥塗膜を形成した。
次に液状材料M1としての調製材料R1を塗布後乾燥することにより、記録領域121aとして、記録光ビームL2cの高さCAhの約1.5倍の厚さtaでなる6[μm]の乾燥塗膜を形成した。そして調製樹脂R23を塗布後乾燥させることにより、非記録領域121bとして10[μm]の乾燥塗膜を形成した。この記録領域121a及び非記録領域121bの形成を交互に繰り返し、合計10層の記録領域121aと、11層の非記録領域121bを形成した。
さらに調製樹脂R1の塗膜上に接着材料M3としての調製樹脂R3を10〜15[μm]の厚みで展開し、厚さt3=0.7[mm]でなるガラス板(基板103)を載置した。なお以下に作製する他のサンプルS22〜S58のいずれにおいても同様の厚みt2及びt3でなるガラス板を基板102及び103としてそれぞれ使用した。
そして高圧水銀灯でなる初期化光源2によって初期化光L1(波長365[nm]、照射エネルギー6[J/cm2])を照射することにより、光情報記録媒体120としてのサンプルS11を作製した。
またサンプルS2について、液状材料M1として調製材料R2を使用し、非記録材料M2として調製材料R22を使用した以外はサンプルS11と同様にして、光情報記録媒体120としてのサンプルS12を作製した。
さらにサンプルS13について、スピンコート法により、基板102上に非記録材料M2としての調製材料R22を展開し、非記録領域121bとしての80[μm]でなる乾燥塗膜を形成した。
同様にスピンコート法により、液状材料M1としての調製材料R3を6[μm]の厚みで展開した。さらに非記録材料M2としての調製材料R21を展開し、乾燥させて非記録領域121bとしての10[μm]の乾燥塗膜を形成した。この液状材料M1及び非記録領域121bの積層を交互に繰り返し、合計10層の液状材料M1の層と、10層の非記録領域121bを形成した。
さらに調製樹脂R1の塗膜上に非記録材料M1としての調製樹脂R3を10〜15[μm]の厚みで展開し、基板103を載置した。そしてサンプルS11と同様に、初期化光L1を照射することにより、光情報記録媒体120としてのサンプルS13を作製した。
またサンプルS14及びS15について、液状材料M1として調製樹脂R4及びR6をそれぞれ使用した以外は、サンプルS13と同様にして光情報記録媒体120としてのサンプルS14及びS15をそれぞれ作製した。
以下に、サンプルS11〜S15において記録領域121a及び非記録領域121bとして使用された調製樹脂の一覧を示している。なお表中において、ポリビニルアルコール樹脂及びポリビニルアルコール樹脂類をPVOHと表記している。
そして記録層121と基板102との界面から100[μm]の深さ(すなわち基板102側から数えて2層目の記録領域121a)を目標位置TPとして、実施例1と同様に、光情報記録再生装置5により記録光ビームL2cを照射し、記録マークRMを形成すると共に、このときの記録感度を測定した。
この記録感度は、記録マークRMが形成されるまでに要した記録光ビームL2cの照射エネルギー(以下、これを必要記録エネルギーと呼ぶ)の相対値を表すものである。具体的には、記録光ビームL2cの出射光強度と記録マークRMが形成されるまでの記録時間との乗算値として必要記録エネルギーを算出した。
なお記録マークRMが形成されたことの判断については、光学顕微鏡による各サンプルの目標位置を観察し、明視野モード及び暗視野モード双方において明確に光学反射が確認され、かつ明視野モードによる観察又は各サンプルの目標位置TPにおける切断面をSEM(Scanning Electron Microscope)観察し、空洞が形成されていることを確認することにより行った。
(2−2−2)比較例1
以下の条件により、光情報記録媒体100としてのサンプルS21〜S25を作製した。なお、当該サンプルS21〜S25における液状材料M1は、実施例2におけるサンプルS11〜S15における液状材料M1と同一材料を使用している。
図17(A)に示すように、サンプルS21について、液状材料M1としての調製樹脂R1を基板102上に展開し、乾燥させることにより250[μm]の乾燥塗膜を作製した。そして調製樹脂R1の塗膜上に接着材料M3としての調製樹脂R3を10〜15[μm]の厚みで展開し、基板103を載置した。
そして高圧水銀灯でなる初期化光源1により初期化光L1(波長365[nm]、照射エネルギー6[J/cm2])を照射することにより、非記録領域121bを有さない記録層101を有する光情報記録媒体100としてのサンプルS21を作製した。
サンプルS22について、液状材料M1として調製樹脂R2を使用した以外は、サンプルS21と同様にして光情報記録媒体100としてのサンプルS22を作製した。
サンプルS23について、基板103上に250[μm]の厚みでなるスペーサを載置し、液状材料M1としての調製樹脂R3を充填した。そして調製樹脂R3上に基板102を載置し、初期化光源1により初期化光L1(波長365[nm]、照射エネルギー6[J/cm2])を照射することにより、図17(B)に示すように、光情報記録媒体100としてのサンプルS23を作製した。
サンプルS24及びS25について、液状材料M1として調製樹脂R4及びR6をそれぞれ使用した以外は、サンプルS23と同様に光情報記録媒体100としてのサンプルS24及びS25を作製した。
以下に、サンプルS21〜S25において記録層101して使用された調製樹脂の一覧を示している。
そして実施例1と同様にして、光情報記録再生装置5により基板102から100[μm]の深さを目標位置TPとして記録マークRMを形成し、このときの記録感度を測定した。
比較例1におけるサンプルS21〜S25の記録感度を基準としたときの、実施例2におけるサンプルS11〜S15の記録感度の比率(以下、これを記録感度比と呼ぶ)を以下に示す。なお上述したようにサンプルS11〜S15とサンプルS21〜S25とでは、液状材料M1としてそれぞれ同一の調製樹脂を使用している。
表6からわかるように、記録領域121a及び非記録領域121bを有するサンプルS11〜S15では、記録感度比がいずれも1以下となっている。これは、同一の照射エネルギーで記録光ビームL2cを照射した場合に、より短時間で記録マークRMを形成したことを意味している。すなわちサンプルS11〜S15では、非記録領域を持たない記録層101を有するサンプルS21〜S25と比較して、飛躍的に記録感度を向上させることができた。
(2−2−3)比較例2
以下の条件により、光情報記録媒体120としてのサンプルS31〜S34を作製した。この比較例2では、実施例2と同様に、10層の記録領域121aと、当該記録領域121aに交互に積層された11層の非記録領域121bと、最も基板103に近い非記録領域121bと当該基板103とを接着する接着領域121cとからなる記録層121を、基板102及び103によって挟んだ構成でなる光情報記録媒体120を作製した。
サンプルS31〜S34について、液状材料M1として調製樹脂R4をそれぞれ使用し、非記録材料M2として調製材料R3、R5、R10又はR2をそれぞれ使用した以外は、実施例1におけるサンプルS13と同様に光情報記録媒体120としてのサンプルS31〜S34を作製した。
以下に、サンプルS31〜S34において記録層121して使用された調製樹脂の一覧を示している。この比較例2では、液状材料M1及び非記録材料M2として、いずれも比較的高極性の樹脂を使用している。
比較例1におけるサンプルS24の記録感度を基準としたときの、比較例2におけるサンプルS31〜S34の記録感度比を以下に示す。なおサンプルS31〜S34とサンプルS24とでは、液状材料M1としてそれぞれ同一の調製樹脂を使用している。
サンプルS31〜S34では、実施例2と同様に記録領域121a及び非記録領域121bを設けたが、僅かに記録感度の向上が確認されたのみであり、非記録領域が形成されていない記録層101を有するサンプルS13と比較して記録感度の大幅な向上はみられなかった。これは、液状材料M1及び非記録材料M2として比較的極性の近い調製樹脂を使用したためと考えられる。
このように、記録領域121a及び非記録領域121bの極性が大きく異なる場合には、非記録領域が形成されていない記録層100と比較してその記録感度を飛躍的に向上させ得ることが確認された。また、記録領域121a及び非記録領域121bの極性が比較的近い場合には、非記録領域が形成されていない記録層100と比較してその記録感度を大幅に向上させることはできなかった。
以上のことから、記録感度を向上させるためには、記録領域121a及び非記録領域121bを設けるだけでなく、当該記録領域121a及び非記録領域121bの極性を大きく相違させることが重要であるといえる。
(2−2−4)実施例3
実施例3では、非記録領域が形成されていない記録層101を有するサンプルS51〜S58を作製し、目標位置を変化させて記録光ビームL2cを照射したときの記録感度の変化について測定した。
サンプルS52について、基板103上に400[μm]の厚みでなるスペーサを載置し、液状材料M1としての調製樹脂R3を充填した。そして調製樹脂R3上に基板102を載置し、初期化光源1により初期化光L1を照射することにより、光情報記録媒体100としてのサンプルS52を作製した。初期化光L1を照射する際には、中間段階においてスペーサを除去してから当該調製樹脂R3を完全に硬化させることにより、完全硬化段階で発生する収縮による歪みを低減させた。
サンプルS53〜S55について、液状材料M1として調製樹脂R4、R5又はR10をそれぞれ使用した以外は、サンプルS52と同様に光情報記録媒体100としてのサンプルS53〜S55を作製した。
サンプルS51について、液状材料M1としての調製樹脂R2を基板102上に展開し、乾燥させることにより350[μm]の乾燥塗膜を作製した。そして調製樹脂R2の塗膜上に接着材料M3としての調製樹脂R3を50[μm]の厚みで展開し、基板103を載置した。そして高圧水銀灯でなる初期化光源1により初期化光L1を照射することにより、光情報記録媒体100としてのサンプルS51を作製した。
サンプルS56〜S58について、液状材料M1として調製樹脂R21、R22又はR23を使用した以外は、サンプルS51と同様にして光情報記録媒体100としてのサンプルS56〜S58を作製した。
そして記録層101と基板102との界面付近(界面から5[μm]以内)、当該界面から100[μm]の深さ、当該界面から200[μm]の深さをそれぞれ目標位置として、実施例2と同様に、光情報記録再生装置5により記録光ビームL2cを照射し、記録マークRMが形成されるまでに必要とされる必要記録エネルギーを表す記録感度を測定した。
以下に、サンプルS51〜S58について使用された調製樹脂、及び測定された記録感度の一覧を示している。なお記録感度は、サンプルS51における界面から200[μm]の深さにおいて測定された記録感度を「4.0」としたときの相対値として示している。
表9からわかるように、サンプルS51では、深さ200[μm]のときの記録感度と、深さ100[μm]のときの記録感度を比較すると、両者の比率が約4倍となっている。これは記録層101自体が記録光ビームL2cを吸収することにより、深さ200[μm]における記録光ビームL2cの照射エネルギーが深さ100[μm]における照射エネルギーよりも小さくなるためと推測される。
サンプルS51では、界面と深さ100[μm]との深さが約100[μm]だけ異なることから、照射エネルギーの差異のみを考慮すると、界面における記録感度(以下、これを界面記録感度と呼ぶ)は同様に深さ100[μm]における記録感度の4倍程度になると考えられる。しかしながら、界面記録感度は深さ100[μm]における記録感度の約45倍と飛躍的に向上した。
これは上述したようにガラスでなる基板102との界面において目標位置に発生する熱が封じ込められることによるものと考えられる。すなわちガラスのガラス転移点Tgが約500〜1000[℃]であり、一般的な樹脂材料のガラス転移点Tg(例えば−50〜300[℃])と比較して遥かに高いことによることに起因するものと推測される。因みにガラスは比較的その極性が高く、高極性樹脂とその極性が比較的近いといえ、極性の差異による現象ではないと考えられる。
また表9からわかるようにサンプルS52〜S58についても同様に、界面記録感度が飛躍的に向上した。すなわちガラス転移点Tgの高い物質との界面近傍においては、界面から離隔した位置と比較して記録感度が飛躍的に向上することが確認された。
このことから、光情報記録媒体120における非記録領域121bとして、ガラス転移点Tgの高い物質を用いることにより、記録感度を向上させ、記録マークRMを形成するまでの記録時間を短縮し得るといえる。
また目標位置がガラスとの界面のときに飛躍的に記録感度が向上している。ここで目標位置の一面側はガラスに隣接しているものの、ガラスの無い他方側では厚みのある記録層101と連接している。このため記録領域121aに対して少なくとも片側に非記録領域121bを設けることにより、記録感度が向上する効果を得ることができることが明らかになった。
このように化学的及び物理的に極めて安定であるガラスとの界面における界面記録感度同士を比較することにより、記録領域121aと非記録領域121bとを積層して記録層121を形成した場合の調製樹脂の記録感度を推定することができ、調製樹脂の選択に有効に利用することができる。
(2−3)動作及び効果
以上の構成において、光情報記録媒体120の記録層121は、情報の記録時に集光される記録光である記録光ビームL2cを当該記録光ビームL2cの波長に応じて吸収して焦点近傍を加熱することにより空洞でなる記録マークRMを形成し、情報の再生時に所定の読出光である読出光ビームL2dが照射されることに応じた光変調が表れる戻り光ビームL3を基に当該情報を再生させる記録領域121aを有している。
さらに記録層121は、記録領域121aに隣接して設けられ、記録光ビームL2cが照射される際に焦点Fb近傍の熱が拡散することを抑制する非記録領域121bを有している。
これにより記録層121は、記録光ビームL2cの照射エネルギーを焦点Fb近傍の温度を上昇させるのに効果的に用いて記録領域121aの記録感度を向上させることができ、記録マークRMを形成するまでの記録時間を短縮して記録速度を向上させることができる。
記録層121では、記録領域121aの両側から挟むように非記録領域121bを設けている。
これにより記録層121は、非記録領域121bによる記録感度を向上させる効果を記録領域121aの両側から奏し得るため、非記録領域121bを片側にのみ設ける場合と比較して、一段と記録速度を向上させることができる。
記録層121は、記録領域121aを複数有しており、非記録領域121bを記録領域121aと交互に積層している。
これにより記録層121は、複数の記録領域121aを設けた場合に、非記録領域121bによって記録領域121aをその両側から挟むことができ、非記録領域121bによる記録感度を向上させる効果を記録領域121aの両側から奏し得る。
記録層121では、記録領域121aに照射された記録光ビームL2cの焦点Fb近傍における熱を当該非記録領域121b内に拡散することを抑制することにより、温度上昇の速度を速めて迅速に記録マークRMを形成することができる。
記録層121では、記録領域121aとの親和性が低くなるように非記録領域121bを選定した。
これにより記録層121は、焦点Fb近傍における温度が上昇した際に記録領域121aの低分子成分が非記録領域121b内に移動するのを防止することができるため、非記録領域121bへの熱の伝達を抑制することができる。この結果記録層121は、焦点Fb近傍における熱を記録領域121a内にこもらせて当該焦点Fb近傍の温度を効果的に上昇させ、迅速に記録マークRMを形成することができる。
記録層121は、記録領域121aと異なる種類の樹脂材料を用いて非記録領域121bを形成することにより、記録領域121aと非記録領域121bとの親和性を効果的に低下させることができる。
非記録領域121bは、記録領域121aよりも高いガラス転移点Tgを有することにより、焦点Fb近傍における温度が上昇した際に記録領域121aの低分子成分が非記録領域121b内に移動するのを防止することができるため、非記録領域121bへの熱の伝達を抑制することができる。
以上の構成によれば、記録層121は、記録光ビームL2cの照射によって記録マークRMが形成される記録領域121aに隣接して、当該記録領域121aとは異なる材料を用いて形成され、上記記録光ビームL2cの照射によって記録マークRMを形成しない非記録領域121bを設けることにより、記録マークRMを形成するのに必要となる必要記録エネルギーを低減することができ、かくして記録速度を向上させる光情報記録媒体を実現できる。
(3)第3の実施の形態
第3の実施の形態では、記録光ビームL2cの照射に伴う焦点Fb近傍の温度上昇により熱硬化反応を生じさせて当該焦点Fb近傍の屈折率を変化させることにより、記録マークRMを形成する。なお初期化光源2、光情報記録再生装置5及び光情報記録媒体120としての構成は第2の実施の形態と同一であるため、説明を省略する。
光情報記録媒体120の記録層121X(図示しない)は、記録領域121aに用いられる未硬化の液状材料M1として、光硬化型のモノマー類及び光重合開始剤に加え、熱硬化型のモノマー類及び硬化剤(以下、これらを熱硬化成分と呼ぶ)を含有している。
このため記録層121Xでは、記録領域121aに対して記録光ビームL2cが照射されると、焦点Fb近傍における温度上昇に伴って、熱硬化成分が硬化反応により重合して硬化する。このとき記録層121Xでは、硬化成分の重合により焦点Fb近傍の屈折率が変化するため、この屈折率変化を記録マークRMとすることができる。
(3−1)実施例4
以下の条件により、実施例2と同様の構成でなる光情報記録媒体120としてのサンプルS41及びS42、並びに比較例1と同様の構成でなる光情報記録媒体100としてのサンプルS43及びS44を作製した。
実施例2と同様にして調製樹脂R1を調製した。また実施例2における調製樹脂R6と同様に調製樹脂R7及びR8を調製した。以下に、調製樹脂R1、R7及びR8の配合を一覧にして示している。
SX :セルマイクSX、P,P−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラ
ド、三協化成株式会社製
M−350 :アクリル樹脂(トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性
(n≒1)トリアクリレート、東亞合成株式会社製
サンプルS41及びS42について、液状材料M1として調製樹脂R7又はR8をそれぞれ使用し、非記録材料M2として調製材料R1を使用した以外は、実施例2におけるサンプルS15と同様に光情報記録媒体120としてのサンプルS41及びS42を作製した。
またサンプルS43及びS44について、液状材料M1として調製樹脂R7又はR8をそれぞれ使用した以外は、比較例1におけるサンプルS21と同様に光情報記録媒体100としてのサンプルS43及びS44を作製した。
以下に、サンプルS41〜S44において記録領域121a及び非記録領域121bとして使用された調製樹脂の一覧を示している。
ここで表3に示したように、調製樹脂R7及びR8は、熱硬化成分としてエポキシ樹脂(SR−GLG)及び硬化剤(MH−700)を含有している。このサンプルS41〜S44に対して記録光ビームL2cを照射すると、焦点Fb近傍における温度上昇により、熱硬化成分が硬化反応を生じ、この結果焦点Fb近傍における屈折率が変化することが確認されている。
実施例4では、硬化反応に伴う屈折率変化を記録マークRMとし、屈折率変化が生じるまでの記録感度を測定した。
すなわち記録層121Xと基板102との界面から100[μm]の深さ(すなわち基板102側から数えて2層目の記録領域121a)を目標位置として、実施例2と同様に、光情報記録再生装置5により記録光ビームL2cを照射し、記録マークRMが形成されるまでの記録感度を測定した。
なお記録マークRMが形成されたことの判断については、光学顕微鏡による各サンプルの目標位置を観察し、コントラストの異なる強反射領域が確認されたことにより行った。
非記録領域121bを有するサンプルS41では、単一の記録層101でなるサンプルS43と比して記録感度の向上が確認された。サンプルS42でも同様であり、単一の記録層101でなるサンプルS43と比して記録感度の向上が確認された。
このことから、屈折率変化により記録マークRMが形成されるサンプルS41及びS42であっても、非記録領域121bの存在により、記録光ビームL2cの焦点Fb近傍に発生する熱を記録領域121a内に効果的に封じ込めることができ、実施例2と同様に記録感度を向上させ得ることが確認された。
(3−2)動作及び効果
以上の構成において、光情報記録媒体120の記録層121Xは、液状材料M1として熱硬化型樹脂を含有することにより、記録光ビームL2cが照射されると、当該記録光ビームL2cの焦点Fb近傍の屈折率を変化させ、記録マークRMを形成する。
この場合であっても記録層121Xは、記録領域121a及び非記録領域121bを有することにより、第2の実施の形態と同様に記録領域121aの記録感度を向上させて記録速度を向上することができる。
(4)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、記録領域121aと非記録領域121bとが記録光ビームL2cの光軸方向に積層されるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、記録光ビームL2cの光軸に垂直な方向に積層されるようにしても良い。
また上述の実施の形態においては、記録領域121aをその両面側から挟むように非記録領域121bが形成されるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、記録領域121aの片面側にのみ、当該記録領域121aに隣接して非記録領域121bを設けるようにしても良い。
さらに上述の実施の形態においては、液状材料M1がモノマー類と光重合開始剤とから構成されるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、液状材料M1の構成材料としては、熱硬化性のモノマーやこれを硬化させるための硬化剤、バインダポリマーやオリゴマー、光重合を行うための開始剤、さらには必要に応じて増感色素などを加える等しても良く、要は硬化後の記録層101に光重合開始剤が含有されていれば良い。
なお、必要に応じて添加されるバインダ成分としては、エチレングリコール、グリセリンとその誘導体や多価のアルコール類、フタル酸エステルとその誘導体やナフタレンジカルボン酸エステルとその誘導体、リン酸エステルとその誘導体、脂肪酸ジエステルとその誘導体のような、可塑剤として用いることが可能な化合物が挙げられる。このとき用いられる光重合開始剤としては、情報の記録後に、後処理により適宜分解される化合物が望ましい。また増感色素としては、シアニン系、クマリン系、キノリン系色素などが挙げられる。
さらに上述の実施の形態においては、光重合開始剤を過剰量添加することにより記録層101内に光重合開始剤残渣を含有させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば記録層101におけるモノマー類を硬化させるための光重合開始剤とは別の種類の光重合開始剤を添加することにより、記録層101に光重合開始剤を含有するようにしても良い。
さらに上述の実施の形態においては、液状材料M1の全重量に対して0.79重量%以上、28.6重量%以下の割合で光重合開始剤が配合されているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、光重合開始剤の種類、モノマー類の種類、及び添加剤などに応じて、光重合開始剤の配合量は適宜選択される。
さらに上述の実施の形態においては、140℃以上かつ400℃以下の気化温度を有する光重合開始剤を記録層101に含有させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、140℃以上かつ400℃以下の気化温度を有するような化合物を記録層101に含有させるようにしても良い。
さらに上述の実施の形態においては、記録層が含有する光重合開始剤及びフォトポリマーが記録光ビームL2cを吸収して発熱するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば光重合開始剤又はフォトポリマーのいずれかが記録光ビームL2cを吸収して発熱するようにしても良い。また、記録層が含有するフォトポリマーや必要に応じて添加される添加剤などの光重合開始剤以外の化合物が記録光ビームL2cに応じて化学反応(例えば光又は熱に応じた化合・分解反応など)を生じて発熱することにより、焦点Fb近傍の温度を上昇させるようにしても良い。
さらに上述した実施の形態においては、記録層101が光硬化型樹脂が硬化してなるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば熱硬化型樹脂でなる記録層に対し、気化することにより気泡を形成する光重合開始剤残渣に相当する気化材料が含有されており、この記録層が第2初期化光FL2によって化学変化を生じた場合であっても、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
さらに上述した実施の形態においては、初期化処理(図2)において平行光でなる初期化光L1を光情報記録媒体100に照射するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば拡散光や収束光でなる初期化光L1を光情報記録媒体100に照射するようにしても良い。
さらに上述した実施の形態においては、光情報記録媒体100の初期化処理を行うための初期化光L1、当該光情報記録媒体100に情報を記録するための記録光ビームL2c、及び当該光情報記録媒体100から情報を再生するための読出光ビームL2dの波長を統一するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば記録光ビームL2c及び読出光ビームL2dの波長を統一する一方で初期化光L1の波長を両者と異なるようにし、或いは初期化光L1、記録光ビームL2c及び読出光ビームL2dの波長を互いに異なるようにしても良い。
この場合、初期化光L1としては、記録層101を構成する光重合フォトポリマーにおける光化学反応の感度に適した波長であり、記録光ビームL2cとしては、物質の熱伝導により温度を上昇させるような波長又は吸収されやすいような波長であり、読出光ビームL2dとしては、最も高い解像度が得られるような波長であることが望ましい。このとき、記録光ビームL2c及び読出光ビームL2dの波長等に応じて対物レンズ13(図8)のNA等についても適宜調整すれば良く、さらには情報の記録時と再生時とで記録光ビームL2c及び読出光ビームL2dにそれぞれ最適化された2つの対物レンズを切り換えて用いるようにしても良い。
また、記録層101を構成する光重合フォトポリマーに関しては、初期化光L1、記録光ビームL2c及び読出光ビームL2dのそれぞれの波長との組み合わせにおいて最も良好な特性が得られるよう、その成分等を適宜調整すれば良い。
さらに上述の実施の形態においては、記録再生光源2から出射される記録光ビームL22c並びに読出光ビームL2dの波長を波長405〜406[nm]とする以外にも、他の波長とするようにしても良く、要は記録層101内における目標位置の近傍に気泡による記録マークRMを適切に形成できれば良い。
さらに上述した実施の形態においては、光情報記録媒体100の基板102側の面から初期化光L1、記録光ビームL2c及び読出光ビームL2dをそれぞれ照射するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば初期化光L1を基板103側の面から照射するようにする等、各光又は光ビームをそれぞれいずれの面、もしくは両面から照射するようにしても良い。
さらに上述した第1の実施の形態においては、光情報記録媒体100をテーブル4に固定し、光ピックアップ7をX方向、Y方向及びZ方向に変位させることにより、記録層101内における任意の位置を目標位置として記録マークRMを形成し得るようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば光情報記録媒体100をCDやDVD等のような光情報記録媒体として構成し、当該光情報記録媒体を回転駆動すると共に光ピックアップ7をX方向及びZ方向に変位させて情報の記録及び再生を行うようにしても良い。この場合、例えば基板102と記録層101との境界面などに溝状やピットによるトラックを形成してトラッキング制御やフォーカス制御等を行えば良い。
さらに上述した実施の形態においては、光情報記録媒体100の記録層101を一辺約50[mm]、厚さt1を約0.05〜1.0[mm]の円盤状に形成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、他の任意の寸法とするようにし、或いは様々な寸法でなる正方形板状又は長方形板状、直方体状等、種々の形状としても良い。この場合、Z方向の厚さt1に関しては、記録光ビームL2c及び読出光ビームL2dの透過率等を考慮した上で定めることが望ましい。
これに応じて基板102及び103の形状については、正方形板状又は長方形板状に限らず、記録層101に合わせた種々の形状であれば良い。また当該基板102及び103の材料については、ガラスに限らず、例えばポリカーボネイト等でも良く、要は初期化光L1、記録光ビームL2c及び読出光ビームL2d並びに戻り光ビームL3をある程度高い透過率で透過させれば良い。また、戻り光ビームL3の代わりに、読出光ビームL2dの透過光を受光する受光素子を配置して記録マークRMの有無に応じた読出光ビームL2dの光変調を検出することにより、当該読出光ビームL2dの光変調を基に情報を再生するようにしても良い。さらには、記録層121単体で所望の強度が得られる場合等に、光情報記録媒体120から当該基板102及び103を省略しても良い。
さらに上述した実施の形態においては、記録層としての記録層121によって光情報記録媒体としての光情報記録媒体120を構成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる記録層によって光情報記録媒体を構成するようにしても良い。
2……初期化光源、5……情報記録再生装置、6……制御部、7……光ピックアップ、13……対物レンズ、15……受光素子、100、120……光情報記録媒体、100a、120a……未硬化光情報記録媒体、101、121……記録層、121a……記録領域、121b……非記録領域、102、103……基板、104……スペーサ、t1、t2、t3……厚さ、ta……厚さ、Cha……高さ、Eha……有効高さ、L1……初期化光ビーム、L2c……記録光ビーム、L2d……読出光ビーム、L3……戻り光ビーム、M1……液状材料。