従来、DNAの塩基配列解析は、試料を分離するためのゲルを2枚の透明ガラス板で挟み、そのガラス板の両端に電圧を印加して電気泳動を行わせる平板ゲル方式が用いられていた。ゲルの面内での温度を均一に保つ技術が、特開平7−301619号公報、特開平8−297111号公報及び特開平9−288091号公報に記載されている。
特開平7−301619号公報に記載されている平板ゲル方式の電気泳動装置は、2枚の透明ガラス板に温度コントロールプレートと、その背面に密着して取り付けられたペルチェ素子と、ペルチェ素子の放熱側面に取り付けられた放熱フィンと、この放熱フィンの熱を放熱する放熱ファンとを備えている。特開平8−297111号公報に記載されている技術は、ガラスプレートと熱伝導性の良い部材とを密着して設置し、その周囲を断熱材で覆うことにより、放熱を防止し、ガラスプレートの温度を均一化するものである。
特開平9−288091号公報に記載の技術は、ゲルと、ゲルを保持するための透光性の平板と、平板の両側面に配置された1組の温度調節要素及び該温度調節要素を制御する温度制御要素と、ゲルと平板とに接した上側及び下側のバッファ液(緩衝液)槽と、緩衝液槽内に充填された緩衝液に浸漬した電極とを備えるものである。緩衝液の温度は、任意にかつ厳密にゲル温度を制御するものである。最近では、キャピラリー型電気泳動装置が普及しつつある。キャピラリー型電気泳動装置に用いられる温度制御技術に関しては、特開平9−251000号公報、特開平10−206384号公報及び特開平11−277125号公報に記載されている。
キャピラリー電気泳動装置は、キャピラリー管内において電気泳動を行う装置である。キャピラリー管は、内径が数10μm程度、外径が100μm程度、長さが数百mmの細管である。キャピラリー管の孔内にゲル(分離媒体)を充填し、このゲル中に測定対象である検査試料を導入する。キャピラリー管の両端間に数10kV程度の高電圧を印加して検査試料を電気泳動させる。例えば、この検査試料に対して励起光を照射した際に励起される蛍光を光検出器で検出することにより、検査試料の分析を行う。例えば、サンガー反応を用い、プライマー又はターミネータを蛍光物質で標識したDNA断片試料を電気泳動させ、電気泳動の途中で試料からの蛍光を検出して、DNAの塩基配列を決定する。この装置は、DNA塩基配列解析装置(DNAシーケンサ)と呼ばれる。
電気泳動による計測の再現性を向上させるとともに、検査試料の分離能力を高めるためには、印加電圧やゲルの組成等の電気泳動条件を一定に保つ必要がある。但し、検査対象となる試料の違いや分離方法の違いなどにより、最適な分離条件が得られる泳動温度が異なる。キャピラリー収容部内のゲル温度を、外気温や位置によらずに一様かつ一定に保つためには、例えば恒温槽などを用いれば良い。
温度制御を必要とするもう一つの理由として、スループットの向上を計りたいという要求がある。近年の技術進展によって解析すべき遺伝子の量が増大したことから、分離時間の高速化が求められており、キャピラリーへの印加電圧が高くなってきている。その一方、高電圧を印加するとジュール熱が増大し、ゲル温度を上昇させるため温度制御がさらに難しくなる。
特開平9−251000号公報に記載されている技術は、キャピラリーと略同一の屈折率を有する所定の材料であって、キャピラリーの側面を包囲する透明部材と、透明部材に接して設けられキャピラリー内の試料の温度をほぼ一定に維持する温度調整手段(ペルチェ冷却素子、放熱フィン)が備えられている。
特開平10−206384号公報に記載されている技術は、空気恒温槽を用いた技術である。キャピラリーを収容する収容部を一定温度に保つための温度調整機構として、発泡ポリウレタンなどの断熱材で囲まれたチャンバーと、ペルチェ素子とが設けられている。ペルチェ素子により電子加熱及び電子冷却が行なわれる。チャンバー内には、強制対流を作るためのファンが設けられている。チャンバー内には温度センサーとして白金抵抗体や熱電対が設けられており、温度センサーにより検出された出力信号を、ペルチェ素子にフィードバックしてPID制御することにより、泳動チャンバー内を一定温度に保つ。特開平11−277125号公報に記載されている技術は、上記と同様の空気恒温槽であり、空気を循環させるためのファンは、回転軸方向に空気を吸い込む吸い込み口と、径方向に空気を吹き出す吹き出し口とを有している。ファンの厚さ方向と空気恒温槽の厚さ方向とが一致するようにファンを設けたことを特徴としている。
さらに、特開2001−99813号公報には、恒温槽内で空気を循環し、空気循環路の壁を良熱伝導部材で形成した技術が、特開平4−231862号公報には、恒温槽内で一様な空気の流れを形成し、循環路には熱交換器を配置したキャピラリー電気泳動装置が開示されている。以上、平板ゲル方式と、シングルキャピラリー方式の電気泳動装置の温度制御機構と、空気恒温槽を用いた場合の温度制御機構とについて説明した。
特開平7−301619号公報に記載の技術では、ガラスプレート全面をペルチェ素子が覆っていない。従って、温度制御可能な範囲は、局所的なものにとどまる。特開平8−297111号公報に記載の技術では、電気泳動によるジュール熱の放熱量を調整するのみであり、加熱用の熱源を設置して温度制御する点に関して問題ある。
近年、複数本のキャピラリーを用いて同時に電気泳動させることにより、処理能力を高める技術が求められている。特開平9−288091号公報や特開平9−251000号公報に記載されている技術では、キャピラリーの本数を増加させるには限界があり、一度に分析できる試料数に制約がある。すなわち、複数の試料を同時に分析するマルチキャピラリー電気泳動装置に対して、キャピラリーを面状の熱源のプレートで挟み込む技術を適用するには問題がある。
ところで、市販のマイクロタイタープレートは、96の穴部(以下、「ウェル」と称する。)を有している。マイクロタイタープレートのウェルに、分析するための試料をセットした場合、8行×12列の計96のウェルが行列状に配置されている。行列状に配置されたウェルのうち、8行のウェル内の試料の分析、または12列のウェル内の試料の分析を同時に実施するのが一般的である。このようにすると、試料を導入し、電気泳動を行うための多数本のキャピラリーの束(以下、「キャピラリーアレイ又はマルチキャピラリーアレイ」と称する。)を、同一平面内に配置することができる。従って、上記の従来技術で説明した面状の熱源のプレートで挟み込む技術を適用することによって温度制御を行うことができる。
しかし、同時に12以上の試料を分析する必要がある場合、又は、96個のウェルを有するマイクロタイタープレートにセットされた試料を、全てキャピラリーアレイに導入し電気泳動を行わせる必要がある場合には、マイクロタイタープレート上の1行12列では足りない。従って、数行数列のウェルの試料を同時にキャピラリーアレイに導入して分析する。このような場合には、試料の導入部を同一平面内に配置することは不可能である。従来のような面状の熱源プレートで挟み込む方式を採用することはできす、恒温槽などの立体的な空間内にキャピラリーアレイを配置して温度制御を行う必要がある。
電気泳動時にゲル自身からジュール熱が発生する。キャピラリーの本数が増えれば増えるほど、ジュール熱の影響は無視できなくなる。発熱体が存在すると、その周囲の空気の流れの方向や流速の違いなどにより熱伝達率が変化する。従って、通常の空気循環方式の恒温槽では、キャピラリー温度が位置により変化してしまうという問題がある。
特開平10−206384号公報に記載されている技術では、恒温槽内に配置されているファンは、恒温槽のほぼ中央に配置されている。従って、ファンによる強制対流により均一な温度分布を作るため、恒温槽内に一様な風速分布を与えることはできない。特開平11−277125号公報に記載されている技術では、マイクロタイタープレートを用いている。一度に使用するキャピラリーの本数を増やした場合には、恒温槽を厚くする必要がある。従って、かかる平面的な空気循環方式では、良熱伝導性板からの輻射熱が十分ではなく、位置的な温度のばらつきが生じるという問題がある。
発明者は、空気流の温度、風速、及びキャピラリー温度の関係について検討していた。図1に、本実施の形態のマルチキャピラリーアレイに関する空気流の温度Tr(℃)、風速、及びキャピラリー温度の関係を示す。横軸は空気循環流の速度[m/s]を表し、縦軸はキャピラリーの温度[℃]を表す。空気循環流の温度が50,55,60,65,70[℃]の各場合について、空気流の風速とキャピラリー温度の関係が図示されている。
分析の分解能を確保するためには、キャピラリー温度の位置的ばらつきは、3[℃]以下にする必要があると考えられる。しかし、キャピラリーに触れる空気流に渦流等の淀みが生じていれば、かなりの範囲(例えば、0[m/s]〜5[m/s])で風速がばらつくため、図1から判るように風速の違いによりキャピラリー温度は一様ではなくなる。
そこで、発明者は、キャピラリー温度の一様性を担保するため、キャピラリー全体に可能な限り風速の大きな空気流を送る必要があると考えた。大きな風速の空気流であれば、キャピラリーに触れる空気流の速度差によるキャピラリー温度の差異が小さくなるためである。
例えば、空気流の温度が60[℃]の場合で、仮に空気流の速度誤差が2[m/s]生じるとする。風速4[m/s]の空気流の発生を意図したときに、実際の空気流の風速範囲は3[m/s]〜5[m/s]となり、キャピラリーの温度差は、0.3[℃]である。しかし、例えば風速1[m/s]程度の低速な空気流を意図した場合、実際の空気流の風速範囲はほぼ無風〜2[℃]となるとすれば、その温度差は3[℃]以上に拡大する。このように、大きな速度の空気流をキャピラリーに当てた方が、キャピラリーの温度差が小さくなる。特に2[m/s]以上の空気流は好適である。キャピラリー全体に風速の大きな空気流を送るためには、例えば、キャピラリーが収容されている部分と同じ投影面積をもつファンを用いて風を当てればよい。但し、それでは装置が大きくなる。
また、分析の分解能を確保するためにはキャピラリーに一様な風速分布の空気流を送るべきである。そのため、キャピラリーとファンとを結ぶ空気循環路を設計する場合に、キャピラリー全体に風速のほぼ等しい一様な空気流を導くためにファンからキャピラリーまでを曲線を含む空気流路で構成するときは、その曲率は風向に対して7[°]以下の角度で緩やかに曲がるものにしなければならないと考えられる。空気流れの剥離を起こさないようにするためである。しかし、この場合は空気流路だけでもかなり大きなものになってしまう。
また、恒温槽内に流れている空気の温度を制御するためには、キャピラリー内部の温度をモニターして恒温槽内に流れている空気の温度を制御することも考えられる。しかし、それは不可能ではないが、内径φ50[μm]内の管の温度を正確に測るために高価な温度計を用いなければならないし、ユーザがキャピラリーアレイを電気泳動装置にセットするたびにそのような温度計をセットしなければならないため、取り扱いの難しい装置になってしまう。
そこで、発明者は、複数本のキャピラリーを有するマルチキャピラリーアレイに対して整流板を通して空気流を送ると、キャピラリーに対して所定以上の風速と風向の差が少ない空気流が当たるため、複数本のキャピラリー間における延在方向及び管径方向に関する温度ばらつきを低減できると考えた。別の観点から言い換えると、整流板を用いることで、キャピラリー収容部にはできる限り渦流を生じさせないで、キャピラリーの温度を制御している空気温度とほぼ同等になるような風速を確保できると考えた。特に、同一平面に配置することが困難であり、所定の厚みを有するマルチキャピラリーアレイを、所定の厚みを有する仮想平板内に整列配置し、この仮想平板を形成する厚さ方向と直交する表面と略平行に配置された整流板を用いると良い。
以下、上記の考察に基づき、本発明の第1の実施の形態による電気泳動装置について、図2から図6まで及び図8、9を参照して説明する。図2(a)は、DNAシーケンサ用キャピラリー型電気泳動装置の構造を示す図であり、図2(b)は試料を検査するための検出部の概略構造を示す図である。図3(a)から図3(c)までは、図2(a)に示すDNAシーケンサ用キャピラリー電気泳動装置における空気恒温槽の構造を示す図であり、図3(a)は図2(a)のIIa−IIa’線に沿う断面図である。図3(b)は空気恒温槽の正面図、図3(c)は図3(a)の変形例を示す図である。図4(a)は、空気恒温槽で用いられるファンと、空気の循環経路を説明する斜視図であり、図4(b)は、ファンの変形例を示す斜視図であり、図4(c)は図4(b)に示すファンの側面図である。図5(a)は整流板の構造を示す図であり、図5(b)は整流板の変形例を示す図である。図6(a)及び(b)は、空気恒温槽内の空気の流れの概要を示す図である。図8は、キャピラリー収容部内において、複数本のキャピラリーとそれらを支持するセパレータとを示す図であり、図9は、複数本のキャピラリーを導入部において支持するローダヘッダとローダヘッダガイドの構造を示す図である。
まず、DNAシーケンサ用キャピラリー電気泳動装置の全体の構成を説明する。図2及び図3に示すように、DNAシーケンサ用マルチキャピラリー電気泳動装置1は、マルチキャピラリーアレイ2と、恒温槽3と、検出部4と、ゲルブロック9と、電気泳動グランド10と、電源部40と、制御部50とを有する。さらに、マルチキャピラリー型電気泳動装置1は、バッファタンク6と、XYZ方向に移動自在なオートサンプラ7と、キャピラリーアレイを固定するアレイホルダ8と、電磁弁11と、ゲル充填用シリンジ12と、サンプルをストックするスタッカ13とを有している。
マルチキャピラリーアレイ2は、複数本のキャピラリー2aで構成されている。キャピラリー2aの延在方向の主要部が空気恒温槽3に格納されている。空気恒温槽3は、一部領域を除く外周壁部の大部分が断熱材26により覆われている。該一部領域には、空気恒温槽3内の空気を加熱する加熱素子22が設けられている。加熱素子22の代わりに、冷却ができる冷却素子、加熱および冷却の両方を選択的に行うことができる加熱冷却素子のいずれかを設けても良い。加熱素子22の外側には、加熱素子22を冷却するための冷却ファン21a・22aが設けられている。尚、電気泳動による測定を行う場合は、空気恒温槽3に設けられている蓋であって、空気恒温槽3の正面側に、例えばヒンジ機構により取り付けられている蓋を閉じる。
マルチキャピラリーアレイ2の先端(試料導入部)近傍に、試料をセットするためのサンプルトレイ5が配置されている。サンプルトレイ5の近傍には、マルチキャピラリーアレイ2に高電圧を印加した際における放電を防止するとともに、電気泳動を円滑に行うためのバッファ液が収容されたバッファタンク6aが設けられている。サンプルトレイ5としては、例えば市販のマイクロタイタープレートが用いられる。市販のマイクロタイタープレートは、8行×12列の計96個のウェル5aが行列状に配置されている。ウェル5aは、実際には、円筒状の円筒部と、サンプルトレイ5の上面側から底部に向い、その断面形状がテーパ状になっているテーパ部とを有している。
テーパ部を設けることにより、試料を注入(導入)する際の作業が簡単になる。サンプルトレイ5及びバッファタンク6aは、オートサンプラ7上に載せられる。オートサンプラ7は、XY平面上のX軸方向及びそれと直交するY軸方向に移動できるとともに、XY平面に垂直なZ軸方向にも移動可能に形成されている。
オートサンプラ7は、箱体の形状を有する電気泳動装置1の底面に取り付けられ、前後左右方向および上下方向に位置決めされる。制御部50が、オートサンプラ7を移動させるための移動モータ(図示せず)を制御することにより、所望の位置に移動できるように構成されている。
マルチキャピラリーアレイ2は、キャピラリー2a(8×12=96本)が、例えばマトリックス状に配置されて形成されている。マルチキャピラリーアレイ2を構成するキャピラリー2aの中には、電気泳動により試料を分離する際の分離媒体(ゲル)が充填されている。各キャピラリー2aのサンプルトレイ5側の端部(試料導入部側)は、アレイホルダ8により固定されている。各キャピラリー2aの他方の端部は、ゲルブロック9と接続されて固定されている。
ゲルブロック9には、マルチキャピラリーアレイ2との接続部から電気泳動グランド10までの間、分離媒体であるゲル(ポリマー)が充填されている。電源部40が電気泳動グランド10の接地側と接続されている。電気泳動グランド10は、電気的に絶縁された状態で、例えば電気泳動装置1と接続されて接地がとられている。
キャピラリー2aのそれぞれ周囲近傍に金属製、例えばSUS製の電極(図示せず)が設けられており、アレイホルダ8により保持されている。キャピラリー2aが上下前後又は左右に移動する際には、それと同時に電極も移動する。電極は、電源部40の高圧側が接続されている。以上の構造により、キャピラリー2aの両端間(キャピラリー2aに充填されたゲルからなる通電路)に電圧を印加する電圧印加手段を形成することができる。マルチキャピラリーアレイ2の終端近くに、電気泳動により分離された試料に依存する情報を取得する検出部4が設けられている。図2(b)に示すように、検出部4は、キャピラリー2aを支持する例えばガラス製のキャピラリー支持部63と、レーザー装置64と、受光素子65aを含む受光部65とを有している。
受光素子65aは例えばCCD固体撮像素子であり、受光部65はCCD固体撮像素子を含むCCDカメラである。検出部4は、図1(a)に示すような箱状の収容部62内に収容されている。キャピラリー2aは、例えば黒色樹脂(ポリイミド)2dなどにより遮光されている。但し、検出部4の近傍においては、黒色樹脂2dは形成されておらず、透明窓部2eを形成している。レーザー装置64は、透明窓部2eを介して、例えばキャピラリー2a中の試料に向けてレーザー光Lを照射する。レーザー装置は、レーザー光の強度の照射位置によるばらつきを低減するために上下に2つ設けても良い。レーザー光Lにより励起された励起光(蛍光)Kは、CCDカメラ65に備えられているCCD固体撮像素子65aにより検出される。検出した光信号に基づいて、制御部50がDNAの種類の識別をする。
尚、マルチキャピラリー電気泳動装置1は、電気泳動を1回行う度に分離媒体(ゲル)を交換するためのゲル充填用シリンジ12と、ゲル交換時の逆流を防止するための電磁弁11とを有している。制御部50は、電気泳動装置1の各部、例えば、オートサンプラ7と、電磁弁11と、ゲル充填用シリンジ12と、電源部40とを含む各部の制御を行う。
図3に示すように、本発明の一実施の形態によるマルチキャピラリー電気泳動装置1に備えられる空気恒温槽3は、マルチキャピラリーアレイ2を収容するキャピラリー収容部28とチャンバー部(29、30)との2槽構造を有している。尚、チャンバー部は、ファン21と熱源22とを収容している第1チャンバー部29と、キャピラリー収容部28を挟み第1チャンバー部29と連なる空気の循環経路を形成する第2チャンバー部30とを有している。尚、第2チャンバー部30は、恒温槽3の蓋を閉めた際に形成される。キャピラリー収容部28は、第1壁部(第1板状部材31aの一部と、第2板状部材31bと整流板24と断熱部材26の一部とを含む)により画定される第1空間内に形成される。
チャンバー部(29、30)は、断熱部材26と、チャンバー部(29、30)とキャピラリー収容部28との間に設けられた整流板24とにより画定される第2空間内に形成される。チャンバー部(29、30)内に、マルチキャピラリーアレイ2の温度を一定に保つための温度制御機構(22,23)と温度調節された空気を送風する送風機構21とが設けられている。送風機構は、例えば、送風ファン21を含む。温度制御機構は、例えば、熱源22と、良熱伝導板23とを含む。
空気恒温槽3の寸法は、例えば、幅Wが約300mm、高さHが約360mm、奥行きTが約245mmである。使用するマルチキャピラリーアレイ2の長さによってマルチキャピラリーアレイを収容するキャピラリー収容部28(第1空間)の大きさと、目的とする空気循環流の状態(風速等)とを、ファン21と、整流板24とにより調整する必要がある。その理由を以下に説明する。同一面内に配置できない試料導入部の例として、96個のウェル5aを備えたマイクロタイタープレートにおいて、最大の8×12=96個のウェル5aから同時に試料を導入し、分析を行う場合を例にして説明する。
各ウェル5aは、例えば約9mmのピッチで配列されており、試料導入部に必要な寸法は、63×99mmである。63mmという寸法は、ウェル5aが8個であり、その間隔が7区間であるので、9×7=63mmになる。マルチキャピラリーアレイ2を脱着可能とするためには、96本のキャピラリー2aを有するマルチキャピラリーアレイ2を所定の厚さを持つロードヘッダ27で固定する。マルチキャピラリーアレイ2を固定した後のロードヘッダ27の大きさが、幅72×厚さ118mmになったものとし、このロードヘッダ27にマルチキャピラリーアレイ2を取ける。
ここで、キャピラリー2aの配列ピッチは、マイクロタイタープレートの配列ピッチと等しいとする。96個のウェル5aのマイクロタイタープレートにおけるウェル5aの配列ピッチは、9mmである。従って、キャピラリー収納部28の厚みは、ロードヘッダの大きさと同様に、72mmもしくは118mm以上の大きさが必要になる。
また、検出部4を配置する際に、キャピラリー2aに大きなテンションをかけずに、お互いのキャピラリー2aが接触しない配置とするために、118mm程度の空間を恒温槽の厚み方向に取ることのが好ましい。さらに、整流板24からの空気循環流が均一な風速分布になるためには、整流板24をそれと対面する壁面(断熱材26)から、所定の距離だけ離す必要がある。
電気泳動に用いる分離媒体(ゲル)の種類の違い、用途の違いなどによっても、使用するキャピラリー2aの長さを変える必要がある。図1に示すように、マルチキャピラリーアレイ2を曲線的に配置する場合、使用するキャピラリーのうち最長のキャピラリー長に基づいて、キャピラリー収納部28の幅と高さとを決めることになる。
次に、チャンバー部(29,30)の構造について説明する。チャンバー部(29,30)の、特に幅と高さはキャピラリー収納部28の幅と高さとに基づいて決める。図3(a)に示すように、チャンバー部の背面部29(図における左側の部分)に熱源22を配置する。前述のように、熱源22としては加熱素子又は加熱冷却素子を用いる。さらに、熱伝導性板23を、恒温槽3(第1チャンバー部29)の背面のほぼ全域を覆うようにして、熱源22に接触させて配置する。熱伝導性板23は、一定の熱容量を持つ。従って、温度制御を行うことにより熱源22の温度が上下しても、その温度変動を吸収してキャピラリー収納部28の空気の温度変動を少なくする機能を有する。さらに、熱源22からの熱を第1チャンバー部29内に効率良く伝え、背面の全ての場所においてほぼ均一な温度分布を与えることができる。
実際には、空気恒温槽3の外周からの熱のリークや、外周を覆う断熱部材26の熱伝導率による影響で、熱伝導性板23の面内で温度勾配が生じることもある。そこで、熱源22としては、第1チャンバー部29の背面の全域を覆い、熱伝導性板23に対して全ての場所で均一な温度分布を与えるような面状の加熱素子を用いるのが好ましい。
但し、ペルチェ素子は比較的高価である。また、1つで熱伝導性板23全面を覆う大きさのペルチェ素子は入手しにくい。そこで、図2(a)のように2つのペルチェ素子で背面を局所的に覆っても差し支えない。或いは、第1チャンバー部29の背面の断熱性を十分保ち、熱伝導性板23にほぼ均一な温度分布を与えることができるのであれば、図2(c)に示すように、熱伝導性板23をファン21の流出口近辺に配置し、1素子のみで覆うことも可能である。但し、熱伝導性板23と第1チャンバー部29内の空気との熱交換率を高めるため、熱伝導性板23にフィンを付けるなど空気との接触面積を増やすことが望ましい。
チャンバー部(29,30)内に、温度を制御するための空気循環流を形成するためファン21を設ける。さらに、第1チャンバー部29とキャピラリー収納部28との間に、ファン21からキャピラリー収納部28内に均一な風向及び風速分布を有する空気を送るための整流板24を設ける。
図4(a)及び(b)に示すように、ファン21として例えば2種類のファンを用いることができる。図4(a)に示す軸流ファン21は、ファン回転軸方向から空気を吸い込み、ファン回転軸方向に空気を吹き出すファンである。軸流ファン21は、回転軸21aを中心として回転するはね部21bと、はね部21bを収容する収容部21eとを有している。軸流ファン21は、回転軸21aと平行な方向に空気の流れを形成する。軸流ファン21を用いる場合は、キャピラリー収納部28の幅と熱伝導性板23の幅とをほぼ同じにする。この場合、熱伝導性板23に不均一な温度分布を作らないように、軸流ファン21の幅もキャピラリー収納部28の幅分にする必要がなる。
尚、図4(a)に示す軸流ファン21を1個だけ用いる場合には、高さ方向にもキャピラリー収納部28の幅分と同様のスペースが必要になる。そこで、図3(b)に示すように複数個のファンを並べ、熱伝導性板23の幅方向に一様に風を流す方法を用いるのが良い。
図4(b)及び図4(c)に示すクロスフローファン21’は、ファン回転軸21a’と垂直な方向から空気を吸い込み、吸い込み方向と垂直な方向であってファン回転軸と垂直な方向に空気を吹き出すファンである。クロスフローファン21’を空気の流入口又は空気の流出口のいずれの位置に配置しても、熱伝導性板23の幅方向に一様に風を流すことが可能である。キャピラリー収納部28に均一な空気の流れを作るためには、チャンバー部(29、30)内の圧力分布を一様にすることが重要であり、ファンの最大静圧は高ければ高い方が良い。
市販の図4(a)に示す軸流ファンでは、最大静圧100Pa以上、最大風量1.0m3/分以上のものがある。図4(b)のクロスフローファンでは、最大静圧90Pa以上、最大風量5.0m3/分以上のものがある。そこで、図4(a)の軸流ファンを5個並列に設けると、送風能力としてはクロスフローファンと同等になる。ファン21の仕様は、整流板24の構造とキャピラリー収容部28内の風速をどのように設定するかによって決める必要がある。
図5(a)及び(b)に、整流板24の構造を示す。第1整流板24は、チャンバー部(29,30)における第1整流板24に対して平行な流れを垂直に変更することができる。またh、キャピラリー収容部28に渦流を作ることなく、一様な風向きの流れを作る。この働きで、恒温槽自体を小型化することができる。電気泳動部28内に均一な風の流れを作るように、整流板24の穴形状、ピッチ、板厚などを設計する。図5(a)は、円形の形状を有する多数の孔(黒丸で示す)を板に設けて形成した整流板の例を示す。図5(b)は、角型の多数の孔(黒四角で示す)を板に設けることにより形成した例である。整流板24付近で均一な空気の流れを作ることにより、キャピラリー収容部28の幅を小さくすることが可能である。そのためには、穴のピッチを小さくすれば良い。しかしながら、穴のピッチを小さくしすぎると、整流板24の開口率が大きくなり、チャンバー内に一様な圧力分布を与えにくくなる。チャンバー内に均一な圧力分布を作るために必要な開口率は5%から50%までの間が好ましい。
均一な風速分布が得られる整流板24からの距離を20mm以上と仮定して、整流板の構造を決定する。キャピラリー収納部28に循環させる風速整流板24によるファン21の圧力損失を見積ることができ、ファン21の仕様を決めることができる。一般に市販されているファンでは、50−300[Pa]くらいの最大静圧があるが、整流板の開口率は使用するファンの種類によって適宜変更する。例えば、最大静圧が150[Pa]のファンを用いるとき、整流板1の開口率を5−10%とする。最大静圧が70[Pa]のファンを用いるとき、整流板1の開口率は30−40%とする。整流板の開口率が変わることで、流路抵抗及び圧力損失が変わり、その際のファンの駆動圧力と風量が決まる。その風量をキャピラリー収容部の風向と垂直な平面の面積で割ることで風速が求まる。
さらに、整流板の開口率次第で風向きの変換角度を決めることができる。例えば、ある程度の風速を確保するために静圧の高いファンを使い、整流板1の開口率を5−10%とすると、ほぼ90[°]で風向きは変わる。開口率30−40%では、静圧70[Pa]位のファンを使うと、60〜70[°]で風向きが変わり、キャピラリー収容部には渦流がほとんど生じない空気循環流が形成できる。
キャピラリー収容部28とチャンバー部(29,30)とは、直接又は間接的に接して熱交換が可能であれば、それぞれの形状や位置関係は問わない。空気恒温槽蓋部分30は、流れの抵抗にならない様に、流路幅はキャピラリー収容部28と同様に取り、流路の隙間は、キャピラリー収容部28の高さの20%程度の長さを取ると良い。キャピラリー収容部28と空気恒温槽蓋部分25との間には、スリットSを有する板部材が設けられている。キャピラリー収容部(第1空間)28とチャンバー部(29,30:第2空間)とが空気の循環路を形成する。
図3(a)に示すように、第1チャンバー部29を画定する恒温槽3の底板3aには、貫通孔3bが設けられている。底板3aの下方に、貫通孔3bと連通するドレインタンクDTが形成されている。ドレインタンクDT内には、チャンバー部(29,30)内において結露して生じた水滴を溜めることができる。ペルチェ素子22により第1チャンバー29を冷却する場合には、恒温槽3内において温度が最も低くなるのは良熱伝導板29であり、ここに結露が生じやすいのでドレインタンクを設けると効果的である。
図3(b)に示すように底板3aに、貫通孔3bに向けて下がるような傾斜部(ドレインガイド)を形成すると、結露により生じた水WTを効率良くドレインタンクDTに流すことができる。尚、ドレインタンクDT内に溜まった水WTは、ドレインタンクDTを恒温槽3から取り外すことにより捨てることができる。
図6(a)及び(b)は、恒温槽3内の空気の流れを示す図である。正面のサイズが60mm×60mmであり、最大静圧が100Pa以上、最大風量が1.0m3/分以上の軸流ファンを5個設置する。サイズが210×160mm、板厚が3mmであり、1mm×1mm角、穴のピッチが3.7mmの多数の穴を有する整流板24を用いた場合の空気の循環の様子を示す。空気は、矢印の方向に循環する。
図6(a)に示すように、ファン21により形成される空気流は、熱伝導性板23が配置されている第1チャンバー部29内の比較的長く幅の狭い通路において、熱源22bからの熱を受け取り、所定の温度の熱風W1を形成する。この熱風W1が整流板24を通ると、風向及び風速がほぼ一定な循環流W2になる。キャピラリー収容部28内に収容されたキャピラリー2aが、循環流W2により加熱され、キャピラリー2aの延在方向に温度差を少なくできるとともに、複数本のキャピラリー2a間において管径方向の温度差も少なくできる。
キャピラリー収容部28からスリットを抜けて第2チャンバー部30に抜ける空気流W3は、ファン21に向かう空気流W4となる。このようにして、ファン21からの空気流はキャピラリー収容部28とチャンバー部(29,30)を通って循環する。
図6(b)に示すように、キャピラリー収容部28内には、複数本のキャピラリー2aが、ほぼキャピラリー収容部28の内周に沿うように配置されている。より詳細には、複数本のキャピラリー2aは、後に説明するセパレータ60により支持されている。ほぼ均一な風向及び風速を有し紙面の奥から紙面に向かう空気の流れW2(図6(a))が、この複数本のキャピラリー2aに対して当たる。例えば、キャピラリー収容部28には、約2m/秒の風速を有する一様な空気の循環流を形成することができ電気泳動時のキャピラリー2aの温度をほぼ均一にすることが可能である。尚、図6(a)において、白矢印は風向を示す。図6(b)において、○内に黒点の印は、紙面奥から紙面への流れを示しており、○内に×の印は、紙面前方から紙面に向かう流れを示す。
キャピラリー収容部28内に単に複数本のキャピラリー2aを配置しただけでは、キャピラリー2a同士が接触したり、まとまってしまったりしがちである。特に、同一平面内には収容できないマルチキャピラリーアレイを収容する場合には、ゲル温度の調整に必要な空気の流れを受けられない部分が生じる。
そこで、キャピラリー間隔を保持するために、例えば、図7に示すセパレータ60を用いる。セパレータ60は、キャピラリー2aを貫通させる貫通孔を多数有している。貫通孔内にキャピラリー2aを挿入して支持することによりキャピラリー2a同士をある間隔に保ち、空気の流れに起因するキャピラリー2aの振動を押さえる働きを有する。セパレータ60としては、多数の孔を有し、耐熱性を備えた薄板又はシート状の部材のそれぞれの孔にキャピラリー2aを通すことでマルチキャピラリーアレイ2を形成する。セパレータ60により、所定の厚みを有する仮想平板内に複数のキャピラリーを整列配置させることが可能である。尚、貫通孔は千鳥状に配置するのが好ましい。千鳥配置にすることにより、複数本のキャピラリーに対して管径方向にほぼ一様な向きの風を送ることができる。
セパレータ60を利用してマルチキャピラリーアレイ2を形成しキャピラリー収納部28に設置する場合、セパレータ60が空気の流れの妨げにならないよう、セパレータ60をキャピラリー収納部28の壁面に対してほぼ垂直な方向に取り付ける。セパレータ60は、整流板24と略垂直な向きに取り付けている。これにより、セパレータ60と平行に風がながれる。すなわち、セパレータ60の薄肉部に風が当たるようになり、風の流れを妨げない。例えば、キャピラリー収容部28とチャンバー部(29,30)内に、約2m/秒の風速を有し、一様な風向を有する風の循環流を形成することができ、恒温槽内の温度も均一に保つことが可能となる。
図9(a)、(b)に示すように、キャピラリー収容部28の一部を画定する恒温槽3の底板(ロードヘッダホルダ)3aには、複数本のキャピラリー2aの先端部2bを貫通させる貫通孔を有し、貫通孔によりキャピラリー2aを支持するとともに、貫通孔から突出するキャピラリー2aの一端が試料導入部2bを形成するロードヘッダ27が嵌められている。恒温槽3の底板3aには、開口部が形成されている。この開口部内に、ロードヘッダ27が、凹凸嵌合している。ロードヘッダ27の両側面には、凹溝27aが形成されている。一方、開口部のうちロードヘッダ27の両側面と対向する面には、凹溝27aと凹凸嵌合する凸部3bが形成されている。凹溝27aと凸部3bとが凹凸嵌合し、あたかもレールのようにスライドさせてロードヘッダ27を恒温槽3から容易に取り外すことができる。
従って、メンテナンスがしやすくなるとともに、キャピラリー収容部28内の密閉製が良くなる。さらに、外気との間での空気の出入りが少なくなるため、恒温槽3内の温度及び空気の流れに対する外気の影響を低減できる。加えて、ロードヘッダ27を装着した場合の装着位置の再現性が良好になるため、キャピラリーの位置も再現性良く決めることができ、試料を導入する際のメンテナンスも良好になる。
本発明の第1の実施の形態によるマルチキャピラリー装置を用いると、キャピラリーアレイに送られる空気流の風向及び風速を略均一的にできる。仮に、風速が均一でなくとも、キャピラリー収容部においては、渦流の発生を防止することができる。従って、キャピラリー間の延在方向及び管径方向の温度差を小さくすることができ、検査におけるばらつきを抑制することができる。
次に、本発明の第1の実施の形態の変形例による電気泳動装置における空気恒温槽の変形例を図7(a)及び図7(b)を参照して説明する。図7(a)は、空気恒温槽内の空気の循環機構としてクロスフローファン21’を用いた場合の側断面図であり、図7(b)は、キャピラリー収納部28を形成する第1空間の形状を直方体状の形状から底面の位置が異なる2つの直方体状の空間を段違いに組み合わせた形状の空間にすることにより、マルチキャピラリーアレイ2をキャピラリー収納部28に設置しやすくした場合の正面図である。
クロスフローファン21’を用いた場合は、空気の循環流を均一に発生させる作用に関しては軸流ファン21(図6(a))を用いた場合と同様であるとともに、1個のファンでキャピラリー収納部28に必要な空気循環流を作ることができるという利点がある。
図7(b)に示すキャピラリー収容部(第1空間)28内にキャピラリー2aを配置する場合にも、あるキャピラリー間隔を保持するために、図7に示すセパレータ60を用いる。尚、上記マルチキャピラリー電気泳動装置において、空気恒温槽3内の温度均一化のための空気循環流の制御等は、例えば制御装置により、少なくとも一以上の温度センサーにより所定部位の温度を検出し、加熱および加熱・冷却素子の電流制御等を行ない容易に実施される。
次に、本発明の一実施の形態及びその変形例によるキャピラリー型電気泳動装置の動作について説明する。まず、サンプルトレイ5の8×12=96個の各ウェル5aにピペッテイングにより試料を注入する。空気恒温槽の蓋を閉じる。この際、空気恒温槽3は、一部領域を除く外面が断熱部材26で覆われており、断熱材が除かれた一部領域には、加熱・冷却が可能な加熱冷却素子22が設けられ、さらに、その内面は良熱伝導部材23で覆われているので、加熱冷却素子22からの熱が恒温槽内に速やかに伝わる。さらに、電源をONしてファン21を起動する。ファン21及び整流板24によりキャピラリー収納部28には、風速・風向が一様な空気の流れが形成される。外周面の断熱部材26と加熱冷却素子22と良熱伝導部材23とが協動して空気恒温槽3内の温度を均一化する。さらに、電気泳動装置1のマルチキャピラリーアレイ2の全体が一定かつ均一な温度に保たれる。
かかる状態に保った後、制御装置50によりオートサンプラ7が制御されサンプルトレイ5を前後方向に移動する。サンプルトレイ5の各ウェル5aがマルチキャピラリーアレイ2のキャピラリー2aの真下にくると停止する。次に、オートサンプラ7を上昇させ、キャピラリー2aがウェル5aの試料中に挿入される位置で停止させる。
次に、キャピラリー2aの先端部をウェル5a内の試料の中に挿入する。この際、キャピラリー2aの周囲近傍に設けた電極も試料中に挿入する。これらが挿入された状態において、制御装置50により電源部40を操作することにより、電気泳動グランド10−ゲルブロック9−キャピラリー2a内のゲル−検査試料−電極により形成される閉回路に電源部40から高電圧を印加する。ウェル5a中の検査試料はキャピラリー2aに導入される。ここで、前記制御部50で負の高電圧を遮断する。
再度、オートサンプラ7を移動し、キャピラリー2aの下端がバッファタンク6に挿入される位置で停止させる。次に、オートサンプラ7を上下方向に移動し、キャピラリー2aの先端部がバッファタンク6中のバッファ液に挿入されるようにする。電極もバッファ液に挿入する。この状態において、再度、電気泳動グランド10−ゲルブロック9−キャピラリー2a中のゲル−試料−バッファ液−電極の閉回路に電源部40から負の高電圧を印加する。高電圧を印加することにより、キャピラリー2a内に導入された試料が電気泳動を開始し、ゲル(分離媒体)内において分離される。
電気泳動を用いた測定ごとに、マルチキャピラリーアレイ2の内部のゲル(ポリマー)を、新しいゲル(ポリマー)と置換する。電磁弁11を閉じ、ゲル充填用シリンジ12を駆動することによって、シリンジ12内のゲルポリマーをマルチキャピラリーアレイ2に充填することでゲルの交換が可能である。
前述のように、検出部4(図2(b))に、試料励起用のレーザー光Lを照射する。キャピラリー2aの内部を電気泳動するDNAに結合した蛍光試薬から発する蛍光をCCD固体撮像素子65aにより検出し、制御部50でDNAの解析を行うことができる。
以上述べたように、本発明の各実施の形態による電気泳動装置を用いると、恒温槽内の空気温度の位置依存性を小さくすることができ、温度の変動も小さく抑えることができる。電気泳動時のキャピラリーアレイ全体が一定の温度に、かつ均一化される。従って、電気泳動分析において、安定した分離性能を与えることができる。
次に、本発明の第2の実施の形態によるマルチキャピラリー電気泳動装置及びその変形例について、図10(a)及び図10(b)を参照して説明する。図10(a)は、本発明の第2の実施の形態によるマルチキャピラリー電気泳動装置のうち、チャンバー部(29、30)とキャピラリー収容部28の構造を示す図である。その他の構成要素に関しては、本発明の第1の実施の形態によるマルチキャピラリー電気泳動装置と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
図中の矢印は風向きを示す。第1整流板24は、チャンバー部(29,30)における第1整流板24に対して平行な流れを垂直に変更することができる。また、キャピラリー収容部28に渦流を作ることなく、一様な風向きの流れを作ることができる。この働きで、恒温槽自体を小型化することができる。
図10(a)に示すように、第1チャンバー部29とキャピラリー収容部28との間に、第1整流板24を配置する。尚、第1チャンバー部29とキャピラリー収容部28との間とは、境界面のみを言うわけではなく、第1チャンバー部29とキャピラリー収容部28とを繋ぐ空気流路に第1整流板24を配置しても良い。別の観点で言えば、第1整流板はキャピラリー収容部28に空気流が流入する箇所に配置しても良い。加えて、キャピラリー収容部28と第2チャンバー部30との間であって、第1整流板24と対向する位置に第2の整流板31aを配置する。尚、キャピラリー収容部28と第2チャンバー部30との間とは境界面のみを言うわけではなく、キャピラリー収容部28と第2チャンバー部30とを繋ぐ空気流路に第1整流板24を配置しても良い。別の観点で言えば、第2整流板はキャピラリー収容部28から空気流が流出する箇所に配置しても良い。図10(a)に示す矢印は、ファンより生成された風向きを示す。この際、第1整流板24と第2の整流板31aとは、その上部と下部とで開口率を変化させると良い。風上側に配置された第1整流板24においては、その下部24−1の開口率を小さくする。例えば5から40%の間、特に20から40%の間であることが好ましい。第1整流板24においては、その上部24−2の開口率を下部よりも大きくする。例えば40から50%の間であることが好ましい。
一方、風下側に配置された第2整流板31aにおいては、その上部31a−1の開口率を大きくする。例えば60から100%(100%は、整流板が存在しないことを意味する)の間であることが好ましい。第2整流板31aにおいては、下部31a−1の開口率を上部31a−2よりも小さくする。例えば5から40%の間であることが好ましい。
上記構成によれば、キャピラリー収容部28内において、風上側から風下側に向けて下降傾向にある風向きを、整流板の法線方向に保つことが容易になり、送風機構に近いキャピラリー収容部における渦流を作ることがない。図10(b)に示すように、本発明の第2の実施の形態の変形例によるマルチキャピラリー電気泳動装置は、キャピラリー収容部28の風下側にのみ第3整流板31aを有している。第3整流板は、第2チャンバー部30とキャピラリー収容部28との間に配置される。
上記の整流板31aは、好ましくは送風機構に近接した部分と離れた部分とで開口率が異なるように形成するのが好ましい。離れた部分31a−1の開口率は、例えば5から50%であり、近接した部分31a−2よりも小さくする。近接した部分の開口率31a−2は、例えば50から100%の間であることが好ましい。
かかる構造においても、整流板31aを抜けた空気が再び循環する場合に、空気流(循環流)にほぼ一様な風速分布を持たせることができる。以上、実施の形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。その他、種々の変更、改良、組み合わせが可能なことは当業者に自明であろう。
1…マルチキャピラリー電気泳動装置、2…マルチキャピラリーアレイ、2a…キャピラリー、3…空気恒温槽、3a…底板、3b…ロードヘッダガイド、4…検出部、5…サンプルトレイ、5a…ウェル、6…バッファタンク、7…オートサンプラ、8…アレイホルダ、9…ゲルブロック、10…電気泳動グランド、12…ゲル充填用シリンジ、13…スタッカ、21…ファン、22…熱源、23…良熱伝導性板、24,31a…整流板、25…空気恒温槽蓋、26…断熱材、27…ロードヘッダ、28…キャピラリー収納部(第1空間)、29、30…チャンバー部(第2空間)、40…電源部、50…制御部、60…セパレータ、DT…ドレインタンク。