近年、マンションなどの集合住宅では、集合住宅の共同玄関に設置されるロビーインターホンと、管理人室や防災監視室などに設置される監視盤と、各住戸内に設置される親機と、同じく各住戸内に設置される副親機と、各住戸の戸外(玄関先)に設置されるドアホン子器とを備え、各住戸の親機又は副親機(これらを総称して「宅内通話端末」と呼ぶ)とロビーインターホンやドアホン子器あるいは監視盤(これらを総称して「宅外通話端末」と呼ぶ)との間の通話、並びに親機と副親機との間の通話(内線通話)を可能とした集合住宅用拡声通話システムが利用されている。
このような集合住宅用拡声通話システムに用いられる親機や副親機として、本出願人は図14に示すような拡声通話装置を既に提案している(特許文献1参照)。以下、この従来の拡声通話装置について説明する。
上記従来の拡声通話装置は、マイクロホン100、スピーカ101、2線−4線変換回路103、マイクロホンアンプG1、回線(2線の伝送路)への送話信号を増幅する回線出力アンプG2、回線からの受話信号を増幅する回線入力アンプG3、スピーカアンプG4、送話音量調整用増幅器G5、受話音量調整用増幅器G6、並びに第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bと音声スイッチ120からなり、ハウリングやエコーの抑制を含む拡声通話のための処理を行う通話処理手段とで構成される。
第1のエコーキャンセラ110Aは適応フィルタ111Aと減算器112Aからなる従来周知の構成を有し、スピーカ101−マイクロホン100間の音響結合により形成される帰還経路(音響エコー経路)HACのインパルス応答を適応フィルタ111Aにより適応的に同定し、参照信号(スピーカアンプG4への入力信号)から推定したエコー成分(音響エコー)を減算器112AによりマイクロホンアンプG1の出力信号から減算することでエコー成分を抑圧するものである。また、第2のエコーキャンセラ110Bも適応フィルタ111Bと減算器112Bからなる従来周知の構成を有し、2線−4線変換回路103と伝送路との間のインピーダンスの不整合による反射および相手側の拡声通話端末(例えば、ドアホン子器)におけるスピーカ−マイクロホン間の音響結合とにより形成される帰還経路(回線エコー経路)HLINのインパルス応答を適応フィルタ111Bにより適応的に同定し、参照信号(回線出力アンプG2への入力信号、すなわち送話信号)から推定したエコー成分(回線エコー)を減算器112Bにより受話信号から減算することでエコー成分を抑圧するものである。
また、第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bに挟まれた送話信号及び受話信号の信号経路上に設けられる送話音量調整用増幅器G5及び受話音量調整用増幅器G6の間に音声スイッチ120が設けてある。この音声スイッチ120は、送話側の信号経路に損失を挿入する送話側損失挿入手段121と、受話側の信号経路に損失を挿入する受話側損失挿入手段122と、送話側及び受話側の各損失挿入手段121,122から挿入する損失量を制御する挿入損失量制御手段123とを具備する。挿入損失量制御手段123は、受話側損失挿入手段122の出力点Routから音響エコー経路HACを介して送話側損失挿入手段121の入力点Tinへ帰還する経路(以下、「音響側帰還経路」という)の音響側帰還利得αを推定するとともに、送話側損失挿入手段121の出力点Toutから回線エコー経路HLINを介して受話側損失挿入手段122の入力点Rinへ帰還する経路(以下、「回線側帰還経路」という)の回線側帰還利得βを推定し、音響側及び回線側の各帰還利得α,βの推定値α’,β’に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和(送話側損失挿入手段121の挿入損失量と受話側損失挿入手段122の挿入損失量の和)を算出する総損失量算出部124と、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部124の算出値に応じて送話側損失挿入手段121及び受話側損失挿入手段122の各挿入損失量の配分を決定する挿入損失量分配処理部125とからなる。なお、第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bと音声スイッチ120からなる通話処理手段は、例えばDSP(Digital Signal Processor)のハードウェアに専用のソフトウェアを搭載することで実現される。
総損失量算出部124では、整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて送話側損失挿入手段121の入力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、同じく整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて受話側損失挿入手段122の出力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、音響側帰還経路HACにて想定される最大遅延時間において受話側損失挿入手段122の出力信号の時間平均パワーの推定値の最小値を求め、この最小値で送話側損失挿入手段121の入力信号の時間平均パワーの推定値を除算した値を音響側帰還利得αの推定値α’とするとともに、整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて受話側損失挿入手段122の入力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、同じく整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて送話側損失挿入手段121の出力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、回線側帰還経路HLINにて想定される最大遅延時間において送話側損失挿入手段121の出力信号の時間平均パワーの推定値の最小値を求め、この最小値で受話側損失挿入手段122の入力信号の時間平均パワーの推定値を除算した値を回線側帰還利得βの推定値β’とする。そして、総損失量算出部124は音響側帰還利得α及び回線側帰還利得βの各推定値α’,β’から所望の利得余裕MGを得るために必要な総損失量Ltを算出し、その値Ltを挿入損失量分配処理部125に出力する。
挿入損失量分配処理部125では、送話側損失挿入手段121の入出力信号及び受話側損失挿入手段122の入出力信号を監視し、これらの信号のパワーレベルの大小関係並びに音声信号の有無などの情報から通話状態(受話状態、送話状態等)を判定するとともに、判定された通話状態に応じた割合で総損失量Ltを送話側損失挿入手段121と受話側損失挿入手段122に分配するように各損失挿入手段121,122の挿入損失量を調整する。
ところで、この従来例における総損失量算出部124は、上述のように各帰還利得α,βの推定値α’,β’に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出して適応更新する更新モード、並びに総損失量を所定の初期値に固定する固定モードの2つの動作モードを有し、相手側通話端末との通話開始から第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bが充分に収束するまでの期間には固定モードで動作するとともに第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bが充分に収束した後の期間には更新モードで動作する。すなわち、総損失量算出部124では音響側帰還利得α及び回線側帰還利得βの推定値α’,β’がともに通話開始から所定時間(数百ミリ秒)以上継続して所定の閾値ε(例えば、通話開始時における各推定値α’,β’に対して10dB〜15dB小さい値)を下回った時点で第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bが充分に収束したものとみなし、上記時点以前には総損失量を初期値に固定する固定モードで動作し、上記時点以降には各推定値α’,β’に基づいて総損失量を適応更新する更新モードに動作モードを切り換える。なお、固定モードにおける総損失量の初期値は更新モードにおいて随時更新される総損失量よりも充分に大きな値に設定される。
而して、通話開始直後の第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bが充分に収束していない状態においては、固定モードで動作する総損失量算出部124によって充分に大きな値に設定される初期値の総損失量が閉ループに挿入されるため、不快なエコー(音響エコー並びに回線エコー)やハウリングの発生を抑制して安定した半二重通話を実現することができる。また、通話開始から時間が経過して第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bが充分に収束した状態においては、総損失量算出部124の動作モードが固定モードから更新モードに切り換わって閉ループに挿入する総損失量が初期値よりも充分に低い値に減少するため、双方向の同時通話が実現できるものである。
次に、更新モードにおける総損失量算出部124の具体的な動作を図15のフローチャートを参照して説明する。
総損失量算出部124は、固定モードから更新モードに移行した時点から所定のサンプリング周期で音響側帰還利得α並びに回線側帰還利得βの推定処理を実行してその推定値α’(n),β’(n)を算出し(ステップ1)、これら2つの推定値α’(n),β’(n)の積と利得余裕MGとから、閉ループの利得余裕をMG[dB]に保つために必要とされる総損失量所望値Lr(n)を下式により算出する(ステップ2)。
Lr(n)=20log|α’(n)・β’(n)|+MG[dB]
なお、α’(n),β’(n),Lr(n)はそれぞれ更新モード移行時点からn回目のサンプリングによって算出された帰還利得の推定値並びに総損失量所望値を示す。さらに、総損失量算出部124は上式から算出したn回目の総損失量所望値Lr(n)と、前回(n−1回目)の総損失量Lt(n−1)、すなわち前回の処理で決定されて実際に挿入された総損失量に対して今回算出した総損失量所望値Lr(n)が大きい場合、前回の総損失量Lt(n−1)に微少な増加量Δi[dB]を加算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)+Δiとし(ステップ3、ステップ4)、前回の総損失量Lt(n−1)に対して今回算出した総損失量所望値Lr(n)が小さい場合、前回の総損失量Lt(n−1)から微少な減少量Δd[dB]を減算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)−Δdとする(ステップ5、ステップ6)。
このように総損失量算出部124による総損失量の増減をΔi又はΔdの微少な値に抑えることにより、相手側通話端末との通話開始直後のように第1及び第2のエコーキャンセラ110A,110Bが収束に向かって活発に係数を更新しているために音響側帰還利得α及び回線側帰還利得βの変化が激しい状態においても、聴感上の違和感をなくすことができる。
特開2002−359580号公報(段落0027−段落0036、第1図及び第2図)
以下、本発明を住宅情報盤システムに適用した実施形態により詳細に説明する。
(実施形態1)
本実施形態の住宅情報盤システムは、図2に示すように集合住宅の共同玄関に設置されるロビーインターホン60と、集合住宅の管理室等に設置される警報監視盤80と、各住戸内に設置される住宅情報盤親機(以下、「親機」と略す)1A並びに住宅情報盤副親機(以下、「副親機」と略す)1Bと、各住戸の戸外に設置されるドアホン子器50とを備える。また、管理人室等には警報監視盤80とともに非常電源90及び放送設備91が設置され、それぞれ非常電源線L2及び音声出力線L3を介して各住戸の親機1Aに接続される。そして、警報監視盤80と各住戸の親機1Aが、通話音声や警報音等の音声信号とロビーインターホン60が具備するテレビカメラ68で撮像した映像信号を多重伝送する通信線La、呼出や警報等の制御信号を多重伝送する制御線Lbによって接続される。ここで、通信線La及び制御線Lbを合わせて情報幹線L1と呼ぶことにする。なお、本実施形態では映像信号を音声信号と多重伝送する構成を例示するが、映像信号を独立した映像伝送線で伝送する構成としても良い。
図4は本実施形態におけるロビーインターホン60並びに警報監視盤80の構成を示すブロック図である。ロビーインターホン60は、CPUを主構成要素とする信号処理部61と、テンキーや呼出釦等を具備する操作部62と、表示ランプや液晶ディスプレイを具備する表示部63と、制御線Lbを介して警報監視盤80との間で制御信号を送受信する伝送送受信部64と、マイクロホン65並びにスピーカ66と、マイクロホン65並びにスピーカ66を用いて親機1Aや警報監視盤80との間で拡声通話を行うための通話制御部67と、CCDのような撮像素子を有するテレビカメラ68と、テレビカメラ68の出力を信号処理して映像信号を出力する映像信号処理部69と、通話制御部67から出力される音声信号と映像信号処理部69から出力される映像信号を多重化して通信線Laに送出するとともに通信線Laにより送られてくる音声信号を通話制御部67に出力する入出力処理部70とを備えている。
一方、警報監視盤80は、CPUを主構成要素とする信号処理部81と、テンキーや呼出釦等を具備する操作部82と、表示ランプや液晶ディスプレイを具備する表示部83と、制御線Lbを介して各親機1A、副親機1B、ロビーインターホン60との間で制御信号を送受信する伝送送受信部84と、送受話器(ハンドセット)85と、送受話器85を用いて親機1A、副親機1B、ロビーインターホン60との間で同時通話を行うための通話制御部87とを備えている。
図3は本実施形態における親機1A並びにドアホン子器50の構成を示すブロック図であり、通話線Lcにより親機1Aとドアホン子器50とが接続されている。ドアホン子器50は、マイクロホン51並びにスピーカ52と、2線−4線変換部53と、CCDのような撮像素子を有するテレビカメラ54と、テレビカメラ54の出力を信号処理して映像信号を出力する映像信号処理部55と、2線−4線変換部53から出力される音声信号と映像信号処理部55から出力される映像信号を多重化して通話線Lcに送出するとともに通話線Lcにより送られてくる音声信号を2線−4線変換部53に出力する入出力処理部56と、呼出釦57a(図2参照)が操作されたときに通話線Lcの電圧レベルを変化させることで呼出信号を送出する呼出信号送出部57とを備えている。
親機1Aは、CPUを主構成要素とする主制御部2と、応答釦3a等を具備する操作部3と、EEPROM等の不揮発性メモリからなる記憶部4と、制御線Lbを介して警報監視盤80との間で制御信号を送受信する伝送送受信部5と、火災感知器S1、ガス/CO複合センサS2、防犯外部セットスイッチSW、防犯スイッチSW1、コールスイッチSW2、非常スイッチSW3等の各種安全装置が接続され、火災感知器S1の発報信号やガス/CO複合センサS2からのガス漏れ信号あるいはコールスイッチSW2の操作信号等を監視する信号監視部6と、通話線Lcの電圧レベル変化を監視してドアホン子器50からの呼出信号を検出する呼出検出部7と、商用交流電源AC又は非常電源90から電源供給を受けて親機1A並びに副親機1Bの動作電源を作成する電源部8と、電源部8への電源供給元を商用交流電源ACと非常電源90に切り換える電源切換部9とを備える。
また親機1Aは、マイクロホン10及びスピーカ11と、CRTや液晶ディスプレイなどからなるモニタ部13と、ドアホン子器50又はロビーインターホン60からの映像信号を信号処理してモニタ部13に映像を表示させるとともに主制御部2から与えられる表示制御信号に応じて所定のシンボルを表示(スーパーインポーズ)させる映像表示部14と、ドアホン子器50又はロビーインターホン60から多重化されて伝送される音声信号と映像信号を分離する信号分離部16と、2線−4線変換部15と、ドアホン子器50、警報監視盤80並びに副親機1Bとの間で拡声同時通話を実現するための処理を行うとともにロビーインターホン60との間で拡声同時通話を実現するための処理を行う通話処理部17と、呼出音やバックトーンあるいは警報メッセージや警報音等を生成する音声生成部18と、マイクロホン10の出力信号(送話信号)を増幅するマイクロホンアンプ19と、マイクロホンアンプ19で増幅されたアナログの送話信号をデジタル信号に変換する第1A/D変換部20と、通話処理部17から出力されるデジタルの送話信号をアナログ信号に変換する第1D/A変換部21と、第1D/A変換部21で変換されたアナログの送話信号を増幅する送話信号増幅器22と、信号分離部16で分離された音声信号(受話信号)を増幅する受話信号増幅器23と、受話信号増幅器23で増幅されたアナログの受話信号をデジタル信号に変換する第2A/D変換部24と、通話処理部17から出力されるデジタルの受話信号をアナログ信号に変換する第2D/A変換部25と、第2D/A変換部25で変換されたアナログの受話信号を増幅する第1スピーカアンプ26と、音声生成部18で生成された呼出音等のデジタルの音声信号をアナログ信号に変換する第3D/A変換部27と、第3D/A変換部27で変換されたアナログの音声信号を増幅する第2スピーカアンプ28と、第1スピーカアンプ26で増幅された受話信号と第2スピーカアンプ28で増幅された呼出音等の音声信号を多重化する第1アナログ信号多重部29と、スピーカ11の入力端子Ts1を第1アナログ信号多重部29の出力端子Ts2と音声出力線L3が接続された接続端子Ts3とに切り換える一斉放送切換部30と、音声生成部18で生成された呼出音等のデジタルの音声信号をアナログ信号に変換する第4D/A変換部31と、第4D/A変換部31で変換されたアナログの音声信号を増幅する音声信号増幅器32と、送話信号増幅器22で増幅された送話信号と音声信号増幅器32で増幅された呼出音等の音声信号を多重化して2線−4線変換部15に出力する第2アナログ信号多重部33と、信号分離部16の入出力端子Ta1をドアホン子器50からの通話線Lcが接続された端子Ta2と通信線Laが接続された端子Ta3に切り換える通話切換部34とを備える。なお、本実施形態では通話処理部17並びに音声生成部18をデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)200で構成し、DSP200のハードウェアを専用のソフトウェアで制御することによって後述する通話処理部17及び音声生成部18の機能を実現している。また、映像表示部14の出力端には映像信号を出力するためのコネクタCNが接続されており、上記コネクタCNに接続することでテレビ受像機やパーソナルコンピュータのモニタ装置の画面にモニタ部13と同じ映像を映し出すことができる。
一方、副親機1Bは、図5に示すように親機1Aとほぼ同一の構成要素を備えているので、同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
親機1A(副親機1Bも共通)の通話処理部17は、図6に示すように従来例の拡声通話装置と共通の構成を有するものであって、マイクロホン10とスピーカ11の音響結合によって生じる音響エコーを抑圧する音響エコーキャンセラ35と、ドアホン子器50、ロビーインターホン60又は警報監視盤80における音響結合又は通信線Laを介した信号の回り込みによって生じる回線エコーを抑圧する回線エコーキャンセラ36と、音響エコーキャンセラ35及び回線エコーキャンセラ36の間に設けられ、音響エコー経路並びに回線エコー経路により形成される閉ループ(エコーパス)の一巡利得を低減してハウリングを抑制する音声スイッチ37と、音響エコーキャンセラ35及び回線エコーキャンセラ36に挟まれた送話信号並びに受話信号の信号経路上に各々設けられる送話側増幅器38及び受話側増幅器39とを有する。
音響エコーキャンセラ35は、従来例における第1のエコーキャンセラと同様に適応フィルタ35aと減算器35bからなり、スピーカ11−マイクロホン10間の音響結合により形成される帰還経路(音響エコー経路)のインパルス応答を適応フィルタ35aにより適応的に同定し、参照信号(音声スイッチ37から出力される受話信号)から推定したエコー成分(音響エコー)を減算器35bにより第1A/D変換部20の出力信号(送話信号)から減算することでエコー成分を相殺して抑圧するものである。また、回線エコーキャンセラ36も従来例における第2のエコーキャンセラと共通の構成を有しており、適応フィルタ36aと減算器36bからなり、2線−4線変換部15と通信線La又は通話線Lcとの間のインピーダンスの不整合による反射およびドアホン子器50等におけるスピーカ−マイクロホン間の音響結合とにより形成される帰還経路(回線エコー経路)のインパルス応答を適応フィルタ36aにより適応的に同定し、参照信号(第1D/A変換部21へ出力される送話信号)から推定したエコー成分(回線エコー)を減算器36bにより受話信号から減算することでエコー成分を相殺して抑圧するものである。
音声スイッチ37は、送話側の信号経路に損失を挿入する送話側損失挿入手段としての送話信号減衰器37aと、受話側の信号経路に損失を挿入する受話側損失挿入手段としての受話信号減衰器37bと、送話側及び受話側の各減衰器37a,37bから送話側及び受話側の信号経路へそれぞれ挿入する損失量(各減衰器37a,37bの利得)を制御する挿入損失量制御部37cとを具備する。さらに挿入損失量制御部37cは、受話信号減衰器37bの出力点から音響エコー経路を介して送話信号減衰器37aの入力点へ帰還する経路(以下、「音響側帰還経路」という)の音響側帰還利得を推定するとともに、送話信号減衰器37aの出力点から回線エコー経路を介して受話信号減衰器37bの入力点へ帰還する経路(以下、「回線側帰還経路」という)の回線側帰還利得を推定し、音響側及び回線側の各帰還利得の推定値α’,β’に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和(送話信号減衰器37aの挿入損失量と受話信号減衰器37bの挿入損失量の和)を算出する総損失量算出部37dと、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部37dの算出値に応じて送話信号減衰器37a及び受話信号減衰器37bの各挿入損失量の配分、すなわち利得を決定する挿入損失量分配処理部37eとを具備する。
総損失量算出部37dでは、整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて送話信号減衰器37aの入力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、同じく整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて受話信号減衰器37bの出力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、音響側帰還経路にて想定される最大遅延時間において受話信号減衰器37bの出力信号の時間平均パワーの推定値の最小値を求め、この最小値で送話信号減衰器37aの入力信号の時間平均パワーの推定値を除算した値を音響側帰還利得の推定値α’とするとともに、整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて受話信号減衰器37bの入力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、同じく整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて送話信号減衰器37aの出力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、回線側帰還経路にて想定される最大遅延時間において送話信号減衰器37aの出力信号の時間平均パワーの推定値の最小値を求め、この最小値で受話信号減衰器37bの入力信号の時間平均パワーの推定値を除算した値を回線側帰還利得の推定値β’とする。そして、総損失量算出部37dは音響側帰還利得及び回線側帰還利得の各推定値α’,β’から所望の利得余裕を得るために必要な総損失量を算出し、その値を挿入損失量分配処理部37eに出力する。
挿入損失量分配処理部37eでは、送話信号減衰器37aの入出力信号及び受話信号減衰器37bの入出力信号を監視し、これらの信号のパワーレベルの大小関係並びに音声信号の有無などの情報から通話状態(受話状態、送話状態等)を判定するとともに、判定された通話状態に応じた割合で総損失量を送話信号減衰器37aと受話信号減衰器37bに分配するように各減衰器37a,39の挿入損失量(利得)を調整する。
また通話処理部17は、送話信号が単一周波数のトーン信号か否かを検出する送話信号シングルトーン検出器140、受話信号が単一周波数のトーン信号か否かを検出する受話信号シングルトーン検出器141、これら2つのシングルトーン検出器140,141の検出結果に基づいてハウリングの有無を検出するハウリング検出部142を具備する。
2つのシングルトーン検出器140,141は、例えば送話信号あるいは受話信号の高速フーリエ変換を利用したり、複数の帯域分割フィルタを用いて送話信号あるいは受話信号のパワーを比較することでトーン信号か否かを検出するものであるが、何れの検出方式についても従来周知の技術を用いて実現可能であるから詳しい説明は省略する。
ハウリング検出部142では、シングルトーン検出器140,141がともに単一周波数のトーン信号を検出する状態が所定時間(例えば、200〜300ms程度)だけ継続した場合にハウリングが生じているものとして音響エコーキャンセラ35及び回線エコーキャンセラ36にハウリング検出信号を出力し、これ以外の場合にはハウリング検出信号を出力しない。
次に、図7のフローチャートを参照して本実施形態の動作説明を行う。通話が開始されると、音声スイッチ37と2つのエコーキャンセラ35,36において初期化処理が行われ(ステップ1)、音声スイッチ37では、初期化処理によって総損失量算出部37dの動作モードが固定モードとなる(ステップ2)。総損失量算出部37dではハウリング検出部142の出力状態を監視しており(ステップ3)、固定モードで動作中にハウリング検出部142からハウリング検出信号が出力されると上記初期化処理に戻り、音声スイッチ37と2つのエコーキャンセラ35,36において初期化処理が行われ(ステップ1)、総損失量算出部37dも全ての変数を初期化した後に再度固定モードで動作する(ステップ2)。
一方、ハウリング検出部142からハウリング検出信号が出力されない場合、総損失量算出部37dにおいては、2つのエコーキャンセラ35,36が収束条件(例えば、帰還利得α,βの推定値α’,β’が所定時間継続して所定の閾値εを下回ることなど)を満足したか否かを判定する(ステップ4)。そして、少なくとも何れか一方のエコーキャンセラ35又は36が収束条件を満足していなければ、更新モードに移行せずに固定モードの動作を継続し(ステップ2)、2つのエコーキャンセラ35,36が何れも収束条件を満足すれば更新モードに移行する(ステップ5)。
そして、更新モードで動作中にハウリング検出部142からハウリング検出信号が出力されると上記初期化処理に戻り、音声スイッチ37と2つのエコーキャンセラ35,36において初期化処理が行われ(ステップ1)、総損失量算出部37dも全ての変数を初期化した後に再度固定モードで動作する(ステップ2)。
このように音声スイッチ37においては、固定モード又は更新モードの何れの動作モードにおいても、通話中にハウリングが検出された際には速やかに2つのエコーキャンセラ35,36の適応フィルタ35a,36aの係数を初期化するとともに、総損失量を初期値に戻して2つのエコーキャンセラ35,36が収束するまでは総損失量算出部37dが固定モードで動作するため、通話系に形成される閉ループの一巡利得を抑制してハウリングに対する充分なマージンを得ることができ、通話中に万が一ハウリングが生じたとしても、直ちに(数百ms以内)ハウリングを抑制し、安定した通話を再開することができる。
更新モードにおける総損失量算出部37dの動作は基本的に従来例と共通であるが(図15のフローチャート参照)、本実施形態においては通話を開始する際に相手側の通話端末の種類、すなわち宅内通話端末(副親機1B又は親機1A)並びにハンドセット型の宅外通話端末(警報監視盤80)と、拡声型の宅外通話端末(ドアホン子器50及びロビーインターホン60)とで総損失量の初期値を異なる値、具体的には副親機1B(又は親機1A)及び警報監視盤80に対する初期値をドアホン子器50及びロビーインターホン60に対する初期値よりも小さい値(例えば、デシベル換算で2分の1以下)に設定している。
ここで、親機1A(又は副親機1B)と拡声型の宅外通話端末(ドアホン子器50又はロビーインターホン60)との通話時における初期値に対して、宅内通話端末同士(親機1Aと副親機1B又は副親機1B同士)の内線通話若しくは親機1A(又は副親機1B)とハンドセット型の宅外通話端末(警報監視盤80)との通話時における初期値を小さく設定してもエコーやハウリングが十分に防止できる理由を簡単に説明する。
図8は親機1Aと拡声型の宅外通話端末(ドアホン子器50又はロビーインターホン60)との間に通話路が形成されている状態を示した概略構成図である。宅外通話端末はDSPからなる通話処理部を具備しないため、親機1Aにおける送話信号利得(マイクロホン10から2線−4線変換部15に入力される前までの利得)T1Aは、宅外通話端末における送話信号利得(親機1Aの送話信号が入力されてからスピーカ52に達するまでの利得)T2よりも非常に大きく(T2≪T1A)、同じく親機1Aにおける受話信号利得(2線−4線変換部15に出力されてからスピーカ11に達するまでの利得)R1Aは、宅外通話端末における受話信号利得(マイクロホン51より出力された送話信号が親機1Aの2線−4線変換部15に入力される前までの利得)R2よりも非常に大きい(R2≪R1A)。また、親機1Aの2線−4線変換部15におけるインピーダンス不整合による反射の帰還利得β1は、宅外通話端末のマイクロホンとスピーカの音響結合による帰還利得β2よりも小さい(β1<β2)。
したがって、2線−4線変換部15でのインピーダンス不整合による反射による閉ループLP1の一巡利得GLP1(=α×T1A×β1×R1A)は、宅外通話端末の音響結合による閉ループLP2の一巡利得GLP2(=α×T1A×β2×R1A)よりも小さくなる(GLP1<GLP2)。
一方、図9は親機1Aと宅内通話端末(副親機1B)との間に通話路が形成されている状態を示した概略構成図である。副親機1Bは親機1Aと同様に音声スイッチ37やエコーキャンセラ35,36を具備した通話処理部17(DSP200)を備えているため、親機1Aにおける送話信号利得T1A’は、副親機1Bにおける受話信号利得R2’と略同一であり、同じく親機1Aにおける受話信号利得R1A’は、副親機1Bにおける送話信号利得T2’と略同一である。また、親機1Aの2線−4線変換部15におけるインピーダンス不整合による反射の帰還利得β1’は、副親機1Bのマイクロホン10とスピーカ11の音響結合による帰還利得β2’よりも大きい(β2’<β1’)。
したがって、2線−4線変換部15でのインピーダンス不整合による反射による閉ループLP1’の一巡利得GLP1’(=α’×T1A’×β1’×R1A’)は、副親機1Bの音響結合による閉ループLP2’の一巡利得GLP2’(=α’×T1A’×β2’×R1A’)よりも大きくなる(GLP2’<GLP1’)。ここで、親機1Aの音響結合による帰還利得α,α’は相手の通話端末に関係なく一定であり(α=α’)、親機1Aにおける送話信号利得T1A,T1A’並びに受話信号利得R1A,R1A’は通話相手が副親機1Bの場合の方が小さくなる(T1A’<T1A、R1A’<R1A)。
よって、通話相手が副親機1Bの場合における閉ループLP1’の一巡利得GLP1’は、通話相手が拡声型の宅外通話端末の場合における閉ループLP2の一巡利得GLP2よりも小さい値(経験的にデシベル換算でおよそ2分の1)となるから、親機1A(又は副親機1B)と拡声型の宅外通話端末(ドアホン子器50又はロビーインターホン60)との通話時における初期値に対して、宅内通話端末同士(親機1Aと副親機1B又は副親機1B同士)の内線通話時における初期値を小さく設定してもエコーやハウリングが十分に防止できることになる。なお、相手の通話端末がハンドセット型の宅外通話端末(警報監視盤80)である場合には送受話器85の音響結合による帰還利得β2’は親機1Aの帰還利得β1’よりも小さくなるから、上述の副親機1Bの場合と同様にハンドセット型の宅外通話端末(警報監視盤80)との通話時における初期値を小さく設定してもエコーやハウリングが十分に防止できることになる。
そこで本実施形態では、図1に示すように通話相手の種類、すなわちドアホン子器50、ロビーインターホン60、警報監視盤80並びに宅内通話端末(副親機1B又は親機1A)毎に最適な初期値Lt(0)1〜Lt(0)4を格納するためにフラッシュメモリのように書換可能な不揮発性メモリ150を親機1A(副親機1Bについても共通)に備えている。
一方、通話処理部17を実現するDSP200には、通信用インタフェースを介して主制御部2からコマンドを受信するとともに該コマンドを解釈して必要な処理を行うコマンド処理部201と、相手の通話端末に適した総損失量の初期値Lt(0)1〜Lt(0)4を不揮発性メモリ150から読み込んで通話処理部17を実現するソフトウェアモジュールに対して設定するパラメータ設定部202とが設けてある。但し、コマンド処理部201並びにパラメータ設定部202もDSP200のハードウェアをソフトウェアで制御することによって実現される
通話を開始する際には、まず主制御部2からDSP200に対して通話開始要求コマンドを通信用インタフェースを介して送信し、この通話開始要求コマンドを受け取ったコマンド処理部201がその内容を解釈し、通話処理部17において用いるパラメータ(総損失量の初期値Lt(0)1〜Lt(0)4)の格納場所を示すアドレスデータをパラメータ設定部202に与える。パラメータ設定部202では受け取ったアドレスデータに基づいて相手の通話端末に対応する初期値Lt(0)1,…のデータを不揮発性メモリ150から読み込み、通話処理部17の総損失量算出部37dを実現するソフトウェアモジュールに対して初期設定する。これら初期設定が完了した後、パラメータ設定部202はパラメータの初期化が完了したことを示すフラグをセットし、このフラグのセットを受けてコマンド処理部201が応答コマンドを主制御部2に対して送信し、フラグを受け取った主制御部2が通話処理部17を起動して通話を開始させるのである。
本実施形態は上述のように構成されるものであって、内線通話を行う他の宅内通話端末(副親機1B又は親機1A)やハンドセット型の宅外通話端末(警報監視盤80)に対する初期値Lt(0)3,Lt(0)4と、拡声型の宅外通話端末(ドアホン子器50及びロビーインターホン60)に対する初期値Lt(0)1,Lt(0)2をそれぞれ不快なエコーやハウリングの防止に必要十分な値に個別に設定することができ、これにより不快なエコーやハウリングを防止しつつ通話開始直後の切断感が軽減できるとともに通話開始から双方向の同時通話が可能な状態に至るまでの時間が短縮できる。
ところで、内線通話は音声スイッチ37を具備した宅内通話端末(親機1A及び副親機1B)間で行われるから、音声スイッチ37を具備しない拡声型の宅外通話端末(ドアホン子器50及びロビーインターホン60)との通話時に比較して総損失量Lt(n)の更新速度が速くなって通話者に違和感を与えてしまう可能性がある。
そこで本実施形態では、宅内通話端末(親機1A及び副親機1B)における音声スイッチ37の総損失量算出部37dが更新モードで動作する場合に、相手側通話端末が宅内通話端末である場合の増加量Δi1並びに減少量Δd1を相手側通話端末が宅外通話端末である場合の増加量Δi2並びに減少量Δd2よりも小さくすることで通話者に違和感を与えずに双方向の同時通話が行えるようにしている。
以下、本発明の要旨である更新モードにおける総損失量算出部37dの具体的な動作を図10のフローチャートを参照して説明する。但し、図14に示した従来例の動作と共通の点については説明を省略する。
固定モードから更新モードに移行した時点から所定のサンプリング周期で音響側帰還利得α並びに回線側帰還利得βの推定処理を実行してその推定値α’(n),β’(n)を算出し(ステップ1)、これら2つの推定値α’(n),β’(n)の積と利得余裕MGとから、閉ループの利得余裕をMG[dB]に保つために必要とされる総損失量所望値Lr(n)を算出し(ステップ2)、さらに総損失量算出部37dは算出したn回目の総損失量所望値Lr(n)と、前回(n−1回目)の総損失量Lt(n−1)を比較する(ステップ3)。今回算出した総損失量所望値Lr(n)の方が大きい場合、内線通話か否か(つまり、相手が宅内通話端末か否か)を判断し(ステップ4)、内線通話であれば前回の総損失量Lt(n−1)に宅内通話端末用の増加量Δi1[dB]を加算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)+Δi1とし(ステップ5)、内線通話でなければ宅外通話端末用の増加量Δi2[dB]を加算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)+Δi2とする(ステップ6)。ここで、宅内通話端末用の増加量Δi1は例えば宅外通話端末用の増加量Δi2の約2分の1に設定される。
そして、前回の総損失量Lt(n−1)と今回算出した総損失量所望値Lr(n)を比較し(ステップ7)、今回の総損失量所望値Lr(n)の方が小さければ内線通話か否かを判断し(ステップ8)、内線通話であれば、前回の総損失量Lt(n−1)から宅内通話端末用の減少量Δd1[dB]を減算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)−Δdとし(ステップ9)、内線通話でなければ、前回の総損失量Lt(n−1)から宅外通話端末用の減少量Δd2[dB]を減算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)−Δd2とする(ステップ10)。ここで、宅内通話端末用の減少量Δd1は例えば宅外通話端末用の減少量Δd2の約2分の1に設定される。なお、ステップ3において今回算出した総損失量所望値Lr(n)が前回の総損失量Lt(n−1)以下であればステップ7にとんで前回の総損失量Lt(n−1)と今回算出した総損失量所望値Lr(n)を比較する。また、ステップ7において今回算出した総損失量所望値Lr(n)が前回の総損失量Lt(n−1)以上であれば処理を終了する。
而して本実施形態では、宅内通話端末(親機1A及び副親機1B)の総損失量算出部37dが更新モードにおいて上述のような処理を行うことにより、内線通話時と宅外通話端末との通話時において総損失量算出部37dによる総損失量Lt(n)の更新速度をほぼ等しくすることができ、通話者に違和感を与えずに双方向の同時通話が行える。
(実施形態2)
ところで総損失量算出部37dの演算誤差などにより音声スイッチ37の総損失量が必要以上に小さい値に設定されてしまうとハウリングが生じる虞がある。そこで本実施形態では、総損失量算出部37dで算出する総損失量に対して下限値LtULを設けるとともに、その下限値LtULを相手の通話端末毎に個別に設定できるようにしている。
図11は本実施形態における宅内通話端末(親機1A及び副親機1B)の一部省略した構成を示している。但し、実施形態1と共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態においては、通話相手の種類、すなわちドアホン子器50、ロビーインターホン60、警報監視盤80並びに宅内通話端末(副親機1B又は親機1A)毎に最適な初期値Lt(0)1〜Lt(0)4並びに下限値LtUL1〜LtUL4を不揮発性メモリ150に格納しており、通話開始時に主制御部2から与えられるコマンドに応じてパラメータ設定部202が不揮発性メモリ150から初期値Lt(0)1,…と下限値LtUL1,…を読み込んで通話処理部17の総損失量算出部37dを実現するソフトウェアモジュールに対して初期設定する。
総損失量算出部37dでは、図15のフローチャートに示した更新モードの処理では、ステップ6において前回の総損失量Lt(n−1)が所定の減少量Δdに下限値LtUL1,…を加えた値よりも大きければ前回の総損失量Lt(n−1)から減少量Δdを減算した値を今回の総損失量Lt(n)とし、総損失量Lt(n−1)が減少量Δdに下限値LtUL1,…を加えた値以下であれば下限値LtUL1,…を今回の総損失量Lt(n)とする。
このように本実施形態では、総損失量算出部37dで算出する総損失量Lt(n)に相手の通話端末に応じた下限値LtUL1,…を設定しているから、総損失量算出部37dの演算誤差などにより音声スイッチ37の総損失量が必要以上に小さい値に設定されることがなくなってハウリングが防止できる。
(実施形態3)
図12は本実施形態における宅内通話端末(親機1A並びに2台の副親機1B1,1B2)の要部の概略構成を示すブロック図である。但し、実施形態1における親機1A及び副親機1Bと共通の構成要素には同一の符号を付して説明あるいは説明及び図示を省略する。本実施形態は、親機1Aと副親機1B1,1B2又は副親機1B1,1B2間に形成される通話路の見かけ上のインピーダンスと、宅内通話端末(本実施形態の場合は親機1A及び副親機1B1,1B2)と少なくとも何れか一つの宅外通話端末(ロビーインターホン60又は警報監視盤80)の間に形成される通話路の見かけ上のインピーダンスとを略等しくするインピーダンス調整手段を副親機1B1,1B2に具備した点に特徴がある。
すなわち、マンション等の集合住宅においては、通常、情報幹線L1(通信線La及び制御線Lb)の配線長が数百メートルから数キロメートルに達し、宅内通話端末(親機1Aと副親機1B1,1B2あるいは副親機1B1と副親機1B2)の間の通話線Ldの配線長(数十メートル)に比較して遙かに長くなってしまうため、親機1Aから副親機1B1,1B2をみたときのインピーダンスと親機1Aから警報監視盤80(並びにロビーインターホン60)をみたときのインピーダンスの差が大きくなり、警報監視盤80(又はロビーインターホン60)との通話時の音量が低下してしまう虞があるが、本実施形態はこのような音量低下を防止できるものである。
親機1Aは、内線通話、ドアホン通話(ドアホン子器50との通話)及び警報監視盤80(並びにロビーインターホン60)との通話において通話路と通話回路(通話処理部17等)のインピーダンスを整合させるためのマッチング回路160を備えている。また、マッチング回路160と通話切換部34の間には通話路を形成するための第1のスイッチ161及び第2のスイッチ162が直列に挿入されており、2つのスイッチ161,162の接続点Tcに副親機1B1,1B2との通話路を形成する通話線Le1,Le2が接続されている。なお、これら2つのスイッチ161,162は主制御部2によって開閉される。また通話線Le1,Le2は不平衡のペア線からなるが、平行なペア線であっても構わない。
一方、副親機1B1,1B2は、親機1Aと同様のマッチング回路160と、通話線Le1,Le2とマッチング回路160の間の信号経路を開閉する第3のスイッチ1631(副親機1B2では第4のスイッチ1632)と、マッチング回路160と第3のスイッチ1631(及び第4のスイッチ1632)の間に挿入されて上記信号経路を2通りに切り換える第1の切換スイッチ1641(副親機1B2では第2の切換スイッチ1642)と、インピーダンス調整手段たるコンデンサ165とを備えている。コンデンサ165は内線通話の通話路Le1,Le2に通信線Laと等価なインピーダンスを挿入するものであって、通信線Laの総配線長に相当する容量成分と等価な容量値に設定される。
副親機1B1においては、第1の切換スイッチ1641の共通接点Tz1が第3のスイッチ1631と接続され、2つの切換接点Tx1,Ty1がそれぞれマッチング回路160に並列に接続されており、片方の切換接点Ty1とグランドの間にコンデンサ165が接続されている。また副親機1B2においても、第2の切換スイッチ1642の共通接点Tz2が第4のスイッチ1632と接続され、2つの切換接点Tx2,Ty2がそれぞれマッチング回路160に並列に接続されており、片方の切換接点Ty2とグランドの間にコンデンサ165が接続されている。なお、第3及び第4のスイッチ1631,1632、第1及び第2の切換スイッチ1641,1642はそれぞれ副親機1B1,1B2の主制御部2によって開閉及び切り換えられる。
ここで、親機1A及び副親機1B1,1B2の各主制御部2で第1〜第4のスイッチ161,…、第1及び第2の切換スイッチ1641,…のそれぞれの状態と宅内通話端末間又は宅内通話端末と宅外通話端末の間で形成される通話路との関係を図13に示す。例えば、親機1Aとロビーインターホン60(又は警報監視盤80)との間で通話する場合、親機1Aでは第1及び第2のスイッチ161,162をオンするとともに通話切換部34を切換接点Ta2に切り換え、副親機1B1,1B2では第3及び第4のスイッチ1631,1632をオフすることで通信線Laを介した通話路が形成される。このときは親機1Aのマッチング回路160によってインピーダンス整合が行われる。
また親機1Aと副親機1B1の間で内線通話を行う場合、親機1Aでは第1のスイッチ161をオンするとともに第2のスイッチ162をオフし、副親機1B1では第3のスイッチ1631をオンするとともに第1の切換スイッチ1641を切換接点Ty1に切り換え、副親機1B2では第4のスイッチ1632をオフすることにより通話線Le1を介して内線通話の通話路が形成される。このとき通話路にはインピーダンス調整手段たるコンデンサ165が並列に接続されるため、副親機1B1から親機1Aをみたときのインピーダンスと副親機1B1からロビーインターホン60(又は警報監視盤80)をみたときのインピーダンスがほぼ等しくなり、同じく親機1Aから副親機1B1をみたときのインピーダンスと親機1Aからロビーインターホン60(又は警報監視盤80)をみたときのインピーダンスがほぼ等しくなるため、親機1A及び副親機1B1のマッチング回路160のマッチング定数を変えること無くインピーダンスの整合が行える。
あるいは副親機1B1,1B2の間で内線通話を行う場合、親機1Aでは第1及び第2のスイッチ161,162をオフし、副親機1B1では第3のスイッチ1631をオンするとともに第1の切換スイッチ1641を切換接点Ty1に切り換え、副親機1B2では第4のスイッチ1632をオンするとともに第2の切換スイッチ1642を切換接点Ty2に切り換えることにより通話線Le1,Le2を介して内線通話の通話路が形成される。このときには一方の通話線Le1にのみインピーダンス調整手段たるコンデンサ165が並列に接続されるため、一方の副親機1B1(又は1B2)から他方の副親機1B2(又は1B1)をみたときのインピーダンスと副親機1B1からロビーインターホン60(又は警報監視盤80)をみたときのインピーダンスがほぼ等しくなり、副親機1B1,1B2のマッチング回路160のマッチング定数を変えること無くインピーダンスの整合が行える。
このように本実施形態では、副親機1B1,1B2にインピーダンス調整手段たるコンデンサ165を具備したので、相手の通話端末の種類に応じてインピーダンス整合のためのマッチング定数を変える必要が無く、マッチング回路160の回路構成が簡素化できる。