JP4479641B2 - 回折素子及びこれを用いたプロジェクター - Google Patents
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図13Aは、光学MEMS素子より成る一般的な回折素子の一例の概略斜視構成図、図13Bはその概略斜視構成図である。この回折素子1は、基板2上に形成した下部電極3と、この下部電極3をブリッジ状に跨ぐように配置した横方向に延びる梁5、いわゆるビームとを有して構成される。梁5と下部電極3とは、その間の空間4によって電気的に絶縁されている。梁5は、例えばその両端が屈曲されて支持部6(6A及び6B)とされ、この支持部6A及び6Bを介して基板2に支持された両持ち梁式構造に形成される。
この回折作用により、すなわち梁の駆動位置に応じてその光の反射方向が異なることを利用して、一方向の反射光を検出してスイッチ機能を持たせた光スイッチに適用できる。また複数の梁を並列配置して、所定の方向へ反射(回折)する光の強度を連続的に変える光変調素子として用いることができ、例えば梁5を多数並べて1次元の画像表示素子として使用することができる。このような画像表示素子として、米国Silicon Light Machine社が開発した回折ライトバルブ(GLV:Grating Light Valve)が知られている(特許文献1及び2参照。)。
この回折ライトバルブをプロジェクターの光変調素子として用いる場合には、梁を一列に並べてできる1次元の画像をスキャニング、すなわち走査照射することによって2次元の画像を得る。
図14A及びBはこの様子を示す。図14A及びBは、回折素子の梁5の概略断面構造を省略して示したものであり、図14Aにおいては、電圧を印加しない非駆動状態を示し、入射光L0に対し0次回折光L0と2次回折光L2が生じている様子を示す。これに対し、図14Bに示すように、1つおきの梁5に電圧を印加すると、静電引力により下部電極3側にこれらの梁5がたわむため回折格子が構成されて、入射光L0に対し1次回折光L1のみが生じる。したがって、プロジェクターなどの光学装置内において、1次回折光が射出される方向に空間フィルタを設けることによって、より高いコントラスト及び輝度を実現できることとなる。
これは、梁自体の持つ引っ張り応力を利用して、その長手方向中央部分(反射領域)を傾ける機構となっている。すなわち、このブレーズ型の回折素子1は、基板2上に形成した下部電極3と、この下部電極3をブリッジ状に跨ぐように配置した梁5とを有して成る。梁5は、その両端に段差31が設けられ、この段差31のビーム幅方向の幅W1は、梁5の全幅W2の2分の1程度とされる。梁5と下部電極3とは、その間の空間4によって電気的に絶縁されている。梁5は、前述と同様に例えば、シリコン窒化膜等の絶縁膜7と、その上面の例えばAl膜による上部電極8との2層膜で形成され、その両端が例えばこれと一体の支持部6A及び6Bを介して基板2に支持された両持ち梁式構造に形成される。なお、段差31の深さDにより、梁5の傾き角度が調整される。
前述のGLVにおいて各ピクセルのコントラスト(白黒比)平均をとると、8000:1程度という極めて高い値となるが、黒レベルがピクセル間でばらつくことによってコントラストの最悪値は2000:1程度になってしまう。また、梁の製造工程におけるばらつきが原因となって、コントラストの最悪値はさらに下がることもある。したがって、全黒の画面をそのまま出すと、コントラスト比の悪いピクセルが白っぽいスジとなって画面上に現れてしまう。
駆動させる梁の高さが高い場合には、オフセット電圧をかけることによってこれを揃えることができるが、逆の場合はどのように駆動してもリボン高さを一様に揃えることはできなくなる。したがって、この部分において黒レベルが悪化することとなる。
このような構成とすることによって、駆動させる梁の高さがばらついても、このばらつきに対応した較正用の電圧を梁に印加することによって、非駆動時の梁の高さを均一化することができる。
この場合は、より確実に非駆動時の梁の高さを均一化することができる。
このような構成とすることによって、後述するように、低電圧駆動時における駆動電圧に対する回折光量の変化量を、従来の回折素子と同様とすることができる。
または、駆動させない梁を支える支持体を、所定の深さの凹部上に形成して構成してもよい。この場合は、凹部の深さの制御によって駆動させる梁の下部電極との距離を容易に調整して製造することができる。
このような構成とすることによって、ブレーズ型の回折素子の段差の幅を変えるのみの比較的簡易な製造工程により、下部電極との距離を調整した梁を容易に製造することができる。
このような本発明のプロジェクターによれば、その光変調素子として用いる回折素子において、上述したように下部電極との距離を大きくした梁に対し、製造過程で生じる高さのばらつきに対応する較正用の電圧を印加することによってその高さを均一化することができ、回折素子としてのオン/オフ比の悪化、黒レベルの悪化を改善して高いコントラストによる良好な表示を実現できる。
また、本発明のプロジェクターによれば、黒レベルの悪化を改善し、コントラストの良好な表示が可能となる。
〔1〕第1の実施形態例
図1A及びBは、それぞれ本発明による回折素子の第1の実施形態例の概略斜視構成図と、そのA−A´線上の概略断面構成図を示す。
図1Aに示すように、本発明の回折素子1は、梁5(5A、5B)が2以上(図示の例では3本)配列される。これらの梁5は、例えば基板2上に所定のパターンに形成された下部電極3を、ブリッジ状に跨ぐように配置した薄膜リボン状の形状として形成される。各梁5A及び5Bは、下部電極3とはその間の空間4によって電気的に絶縁されている。そしてその一部の梁5A、すなわち例えば1つおきの梁5Aに図示しないが例えば電圧印加手段が接続される。電圧印加時はこの梁5Aが対向する下部電極3側に静電引力により駆動され、回折格子を構成する。
そして特に本発明の回折素子1においては、駆動させる梁5Aの非駆動時における下部電極3との距離HAを、駆動させない梁5Bの下部電極3との距離HBよりも大として構成する。
なお、下部電極3と基板2の表面は段差のない平坦面とされる。下部電極3を金属膜などにより形成する場合は、表面を平坦化するために周囲に絶縁層を設けてもよい。
梁5A及び5Bの製造工程では、通常選択エッチング除去が可能な材料より成る犠牲層を堆積した後に、梁材料を堆積し、後から犠牲層のみを除去するというプロセスを行う。
例えば犠牲層を均一な高さに形成し、図2に示す例のように、各梁5A及び5Bの両端が全体的に同じ高さの支持部6A及び6Bにより支えられる構造とする場合は、どの梁5A、5Bの高さも理想的には同一である。
すなわち、下部電極3との距離を大とする梁5Aを所定の電圧印加手段(図示せず)に接続し、他の梁5Bは、例えば下部電極3と同様に接地する。
このとき、ある適当なオフセット電圧を梁5Aに印加することによって、矢印aで示すように、この梁5Aが静電引力により下部電極3側に適当量引き付けられ、他の梁5Bとほぼ同一の高さとすることができる。
例えばこれらの梁5A及び5Bに光を照射したときに、1次回折光が最小化するように、梁5Aに印加するオフセット電圧を設定しておくことによって、この回折素子1内の梁5A及び5Bの高さを均一化する調節を行うことができる。
このばらつきは、梁の寸法形状にもよるが、通常5nm程度の範囲である。したがって、このばらつきに対して、梁5Aと5Bとの高さの差を大きく、すなわち5nmを超える高さ(下部電極との距離)の差をもって形成することによって、常に図3A及びBで示したオフセット調節を行うことができ、高いオン/オフ比を実現することが可能となる。
次に、本発明による回折素子の第2の実施形態例について説明する。
上述の第1の実施形態例においては、梁を支持する支持部の高さを異ならせる構成としたが、この例においては、支持部を形成する下地層、例えば基板を加工することによって、梁の下部電極との距離を調整するものである。
すなわちこの場合、図4Aに示すように、基板3の上に犠牲層11を堆積した後、図4Bに示すように、犠牲層11の一部に孔部12をRIE(反応性イオンエッチング)等の異方性エッチングにより形成する。その後、この孔部12を埋め込んで全体的に梁5を構成する材料層を堆積する。図4CのB−B´線上の断面図を図4Dに示す。孔部内を埋め込んだ梁5と同様の材料が、犠牲層除去後の支持部13となる。これをポスト構造と呼ぶ。
このような構成とする場合、犠牲層11の除去後には、薄膜14を設けない梁5Bは、そのままの形状を保持しているが、薄膜14を設ける梁5Aは、応力によって、薄膜14によって底上げされた支持部6A及び6Bの高さまで、梁5Aが引き上げられる。なお、梁5A及び5Bは通常引張応力をもつ材料より形成される。駆動する梁5Aのみが、駆動しない梁5Bよりも下部電極3との距離が大とされた構造となる。
この場合、薄膜14の厚さなどを適切に制御することによって、梁5A及び5Bを製造する際のばらつきに起因する高さのばらつきを超える差をもって、駆動する梁5Aを高く、すなわち下部電極3との距離を大として形成することができる。
次に、本発明の回折素子の第3の実施形態例について、図6A〜Dを参照して説明する。
この例においては、上述の第2の実施形態例と同様に、梁5の支持部をポスト構造とした場合であり、その支持部形成位置に加工する他の例を示す。図6A〜Dにおいて、図5A〜Dと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
図6A及びBにおいては、犠牲層11除去前の状態の駆動する梁5A及び駆動しない梁5Bのそれぞれの概略断面構成図、図6C及びDにおいては、犠牲層除去後の状態の駆動する梁5A及び駆動しない梁5Bのそれぞれの概略断面構成図を示す。
この場合、駆動しない梁5Bの支持部6A及び6Bを形成する位置に、予め犠牲層11を堆積する前に、図6Bに示すように、所定の深さでエッチング等により凹部15を形成しておく。
この場合、犠牲層11の除去後には、駆動する梁5Aはそのままの形状を保持するが、凹部15を設けてその上に支持部6A及び6Bを形成した梁5Bは、応力によって、凹部15により位置を低くされた支持部6A及び6Bの高さまで引き下げられる。
凹部15の深さを適切に制御することによって、梁5A及び5Bを製造する際のばらつきに起因する高さのばらつきを超える差をもって、駆動しない梁5Bの高さを低く、すなわち下部電極3との距離を小として形成することができる。
次に、本発明の回折素子において、ブレーズ型構成とする場合の一実施形態例について説明する。本実施形態例においては、特に、ブレーズ型構造を規定する段差の形状の選択により、梁の高さを制御する例を示す。
前述したように、回折ライトバルブなどにおいて、ブレーズ型構造とする場合には、梁の両端部、すなわち反射領域の外側に、段差を設けるものである。本実施形態例においては、この段差の幅を、駆動する梁と駆動しない梁とにおいて異ならせるものである。
図7に示すように、梁の傾き(TILT)量は、梁の幅の4分の1付近と、4分の3付近とにおいて極大値をもつ逆W字型に相似した曲線を描く。この曲線から、例えば段差の幅(梁の幅に対する割合)が異なるにもかかわらず、梁の傾き量が同一となる幅が存在することが分かる。
これらのことを利用すれば、段差の幅を、駆動する梁と駆動しない梁とにおいて変えることによって、梁の傾きを変えることなく、その高さを変えることができることが分かる。
例えば、図7に示す点C及びDに示す幅をもって、梁の段差形状を選定して形成することによって、傾きは同一であるが、1つおきに梁の高さが異なる構造の回折素子を実現できることとなる。また、段差の幅の選定によって、高さをそれぞれ調整することが可能であり、高さの差を精度良く制御することができるという利点を有する。
この例においては、駆動する梁5Aに設ける段差30Aの幅WAの梁5の全体の幅Wに対する比を、例えば0.25程度とし、一方、駆動しない梁5Bに設ける段差30Bの幅WBの梁5の全体の幅Wに対する比を、例えば0.30程度とする。このような構成とすることによって、図10にその概略断面構成を示すように、梁5Aの高さすなわち下部電極3との距離を、梁5Bの高さよりも大として、かつこれらの傾きを同一として構成することができる。
このオフセット電圧として高すぎる電圧を印加すると、回折素子としての機能、すなわち電圧を変化させた場合の回折光量の変化特性が異なってしまうこととなる。特に、プロジェクターの光変調素子として利用する回折素子は、低電圧領域の回折光量の変化が緩やかであることが特長であり、黒レベルに近いレベルの階調制御を精度良くできるという利点を損なわないことが望ましい。
したがって、梁に対して高さの差を設け、これを均一化するために印加するオフセット電圧としては、この階調制御の精度の低下することのない範囲であることが望ましい。どの程度の画質が求められるかにもよるが、色階調の高精度化を考えると、できる限り高さの差分は小さく抑えることがより望ましいといえる。
図11から分かるように、差分が10nm、20nmの場合共に、差分がない従来構成と比較すると回折光量は比較的急に増加しているが、特に黒レベルに近いすなわち低電圧印加領域においてはその変化量はなだらかであり、十分な階調制御が可能であると判断できる。
したがって、本発明の回折素子においては、駆動する梁と駆動しない梁の高さの差としては、5nmを超える20nm以下とすることが望ましいといえる。
また、黒レベル近傍の階調制御を更に精度良く行う場合には、この梁の高さの差を、5nmを越える10nm以下とすることが、より望ましいことが分かる。
例えば、前述の第4の実施形態例において、段差の幅の比をそれぞれ駆動する梁5Aにおいて0.25、駆動しない梁5Bにおいて0.30とする場合は、その高さの差は10nm程度であり、低電圧印加領域において所望の回折特性が得られることがわかる。
次に、第5の実施形態例として、本発明による回折素子を光変調素子として用いたプロジェクターについて、その概略構成図である図12を参照して説明する。
このプロジェクターは、例えば、大型スクリーン用プロジェクター、特にディジタル画像のプロジェクターとして、または、コンピュータ画像投影用として用いられるものである。
レーザー光源82R,82G,82Bは、それぞれ赤色光(例えば波長642nm、光出力約3W)、緑色光(例えば波長532nm、光出力約2W)、青色光(波長457nm、光出力約1.5W)のレーザーを射出する。なお、レーザー光の波長及び光出力はこれらに限定されるものではない。
更に、各レーザー光は、光変調素子88R,88G,88Bによって回折されることにより空間変調され、これら3色の回折光が色合成フィルタ90によって合成され、続いて空間フィルタ92によって信号成分のみが取り出される。
次いで、このRGBの画像信号は、ディフューザー94によってレーザースペックルが低減され、ミラー96を経て、画像信号と同期する走査照明系98によって空間に展開され、投影光学系100によってスクリーン102上にフルカラー画像として投影される。
先ず、適切なオフセット電圧を印加することにより、製造過程で生じた梁の高さのばらつきを均一化することができる。これを光変調素子としてプロジェクターに用いる場合は、製造上のばらつきによる黒レベルの悪化を抑制し、オン/オフ比が大幅に改善されて、より高コントラストの映像を実現することが可能になる。
また、製造工程上のばらつきに対して、これを上回る高さの差を設けることによって、オフセット電圧の印加によりこの製造工程上のばらつきを吸収することができることから、現在このような光MEMS素子が抱える課題の一つである歩留りに対して、大きな改善が見込まれる。
Claims (12)
- 梁が2以上配列されて成り、一部の梁を対向する下部電極との静電引力により前記下部電極側に駆動して回折格子を構成する回折素子であって、
前記駆動させる梁の非駆動時における前記下部電極との距離が、駆動させない前記梁の前記下部電極との距離よりも大とされて配置される
ことを特徴とする回折素子。 - 前記駆動させる梁の前記下部電極との距離と、前記駆動させない梁の前記下部電極との距離との差が、製造工程上のばらつきに起因する前記梁と前記下部電極との間の距離のばらつきよりも大とされて成る
ことを特徴とする請求項1記載の回折素子。 - 前記駆動させる梁の前記下部電極との距離と、前記駆動させない梁の前記下部電極との距離との差が、5nmを超え、20nm以下とされる
ことを特徴とする請求項2記載の回折素子。 - 前記駆動させる梁を支える支持体の下部に、所定の厚さの薄膜が挿入されて、前記駆動させる梁の前記下部電極との距離が調整されて成る
ことを特徴とする請求項1記載の回折素子。 - 前記駆動させない梁を支える支持体が、所定の深さの凹部上に形成されて、前記駆動させる梁の前記下部電極との距離が調整されて成る
ことを特徴とする請求項1記載の回折素子。 - 前記梁は、その長手方向の両端部において段差が設けられて幅方向に傾きを生じさせる構造であり、
前記段差の幅が、前記駆動させる梁と、前記駆動させない梁とにおいて異なる
ことを特徴とする請求項1記載の回折素子。 - 光源と、該光源から出射された光の光軸上に配置され、前記光の強度を変調する光変調素子とを有するプロジェクターであって、
前記光変調素子は、
梁が2以上配列されて成り、一部の梁が対向する下部電極との静電引力により前記下部電極側に駆動して回折格子を構成する回折素子であって、
前記駆動させる梁の非駆動時における前記下部電極との距離が、駆動させない前記梁の前記下部電極との距離よりも大とされて配置される
ことを特徴とするプロジェクター。 - 前記光変調素子とされる回折素子の、前記駆動させる梁の前記下部電極との距離と、前記駆動させない梁の前記下部電極との距離との差が、製造工程上のばらつきに起因する前記梁と前記下部電極との間の距離のばらつきよりも大とされて成る
ことを特徴とする請求項7記載のプロジェクター。 - 前記光変調素子とされる回折素子の前記駆動させる梁の前記下部電極との距離と、前記駆動させない梁の前記下部電極との距離との差が、5nmを超え、20nm以下とされる
ことを特徴とする請求項8記載の回折素子。 - 前記光変調素子とされる回折素子の前記駆動させる梁を支える支持体の下部に、所定の厚さの薄膜が挿入されて、前記駆動させる梁の前記下部電極との距離が調整されて成る
ことを特徴とする請求項7記載のプロジェクター。 - 前記光変調素子とされる回折素子の前記駆動させない梁を支える支持体が、所定の深さの凹部上に形成されて、前記駆動させる梁の前記下部電極との距離が調整されて成る
ことを特徴とする請求項7記載のプロジェクター。 - 前記光変調素子とされる回折素子の前記梁は、その長手方向の両端部において段差が設けられて幅方向に傾きを生じさせる構造であり、
前記段差の幅が、前記駆動させる梁と、前記駆動させない梁とにおいて異なる
ことを特徴とする請求項7記載のプロジェクター。
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