JP4463070B2 - カーボンナノチューブ精製方法、精製装置、及び精製キット - Google Patents

カーボンナノチューブ精製方法、精製装置、及び精製キット Download PDF

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本発明は、立体構造の炭素材料からなるカーボンナノチューブに係る新規な炭素材料の分級法及びその分級装置に関する。
炭素材料は、温度や圧力環境の違いにより種々の立体構造を採ることが知られており、煤のように特定の結晶構造をもたない非晶質、雲母に代表される平面層状の六員環グラファイト構造や三次元立体ダイヤモンド構造などがある。これらはミリメートル以上の大きさまで連続した構造が可能である。ところが最近では、複数の炭素原子がボール状の構造を成すフラーレンや、チューブ状の構造を成すカーボンナノチューブと呼ばれる新規なナノレベル立体構造が発見された。ナノレベル立体構造は、前記の炭素材料がもつ構造と比較して顕著な特異性を有している。すなわち、ナノレベル立体構造の径が極端に小さいため、物性の量子化が予想され、従来の炭素材料にない新機能の発現が期待できる。これらがどのような温度・圧力環境で構造的に安定かについてはまだ研究段階にあるものの、工業材料としての応用を目的にそれらの製造方法については幾つかの提案がされている。
従来のフラーレン及びカーボンナノチューブの製造法を大別すると次の三通りになる。第一に、金属触媒を含浸させた二本の黒鉛棒を突き合わせて通電することにより、接触部分から炭素を気化させて、同時に気化したナノメートルサイズの炭素を金属触媒粒子上に成長させるアーク放電法がある。第二に、アーク放電させるかわりにレーザビームを照射して炭素原子を気化させ、同様の金属触媒を利用して立体構造に成長させるレーザアブレーション法がある。第三に、ガス状の炭化水素を熱分解して、触媒金属板上に再成長させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法がある。いずれの方法も、炭素を一度ガス化させた後、触媒上に再び固相成長させる方法である。固相の状態にある炭素原子を一度気相(ガス)にした後、再び固相の立体構造を得るようにしている。
カーボンナノチューブを工業材料として使用した代表例としては、電子放出装置への応用がある。その詳細は、一例として「真空」第42巻8号(1999年)722-726頁に説明されている。カーボンナノチューブはナノメートルサイズの炭素の管であり、優れた電気伝導性を有する。そのため、カーボンナノチューブに電界を加えると、管の端部などで電界集中が生じ、電子を外部に容易に引き出すことができる。引き出された電子を蛍光板に当てると発光するので、光源やディスプレイとして使用できる。従来の電子放出源と比べると、カーボンナノチューブはその断面サイズが小さいため、電界集中が効果的に生じると考えられている。このため、電子放出に必要とされる電圧が小さい。また、高真空環境を必要としないなど、電子放出装置の電子放出源として用いられる。更に、特開平6−157016号公報、特開平7−61803号公報、特開平11−43316号公報、特開2000−86217号公報、特開2000−95509号公報に上述と同様な方法が示されている。
「真空」第42巻8号(1999年)722-726頁 特開平6−157016号公報 特開平7−61803号公報 特開平11−43316号公報 特開2000−86217号公報 特開2000−95509号公報
しかしながら、従来のカーボンナノチューブの製造法によると、反応の過程で生成されたカーボンナノチューブは触媒寸法の違い、反応管中の流速や温度差などの影響で所望の寸法を得ることが難しいという問題があった。また、従来の製造方法によると、カーボンナノチューブは生成されるが、安定に生成されるとは限らず、そのためカーボンナノチューブと不純物カーボン粒子が混在してしまい、同一径のカーボンナノチューブを多量に得ることは難しかった。一般的には、分離・精製手段として液体クロマトグラフィーや電気泳動法等の分析技術が用いられる。その際、分離対象物は分離に使用する溶媒に可溶化する必要がある。しかし、カーボンナノチューブは可溶化が困難で液体クロマトグラフィーや電気泳動法等の分析技術を用いることができなかった。
本発明の目的は、カーボンナノ粒子などが混在している原料からカーボンナノチューブを径の大きさの違いによって篩い分ける方法及び装置を提供することにある。
本発明では、環状ペブチドを有する化合物(ここでは、分子ピンセットと呼ぶ)を用いて、煤と呼ばれる固体状のカーボンナノ粒子や、カーボンナノチューブや、フラーレンを含有する混合物から、目的の寸法径を有するカーボンナノチューブのみを選択的に可溶化する。カーボンナノチューブは、用いられた分子ピンセットに対応する寸法径のものが選択的に可溶化され、篩い分け(及び精製)される。最終的なカーボンナノチューブの精製過程で問題となるカーボンナノチューブと分子ピンセットの複合体からの分子ピンセット(環状ペブチドを有する化合物)の脱離は、酵素を用いることにより容易に行うことができる。カーボンナノチューブは酵素処理により単体になる際に不溶化し、精製も簡単に行うことができる。
分子ピンセットとなる環状ペブチドを有する化合物の溶液と、その環状ペブチドを有する化合物の一部を切断する酵素の組み合わせは、カーボンナノチューブ精製キットとして利用することができる。
本発明によれば、必要とされるカーボンナノチューブの寸法に適した環状ペブチドを有する化合物を用いることにより、煤と呼ばれる固体状のナノ粒子炭素からカーボンナノチューブを容易に分級することができる。又、これにより、寸法径の揃ったカーボンナノチューブを、分子ピンセットによる表面層の汚染のない精製された状態で提供できる。このように、カーボンナノチューブを安定、かつ高い回収率で製造できる顕著な効果が得られる。
図1は、本発明に係わるカーボンナノチューブの精製方法を示すフロー図である。使用するサンプルは、カーボンナノチューブを含む炭素化合物であり、アーク放電法又はCVD法で作製したもの、又は市販品である。
最初、前処理としてカーボンナノチューブを含む炭素化合物を溶液に分散する。その際、煤等の大きな不溶物は遠心分離等で取り除く。カーボンナノチューブが分散した溶液にカーボンナノチューブと複合体を形成する分子ピンセットを添加・混合して、カーボンナノチューブを可溶化する。得られた溶液中の不溶物をろ過等で分離し、カーボンナノチューブと分子ピンセットの複合体のみを含む溶液を得る。得られたカーボンナノチューブと分子ピンセットの複合体溶液に分子ピンセットを切断する酵素を加えて、カーボンナノチューブと分子ピンセットの複合体を壊して、カーボンナノチューブを不溶化させる。不溶化したカーボンナノチューブをろ過して単離後、蒸留水、メタノール洗浄して、精製したカーボンナノチューブを得る。
本発明で使用する分子ピンセットは、環状ペプチドを基本骨格(基本構造)としている。図2(a)、(b)、(c)は、環状ペプチドの一例であるグラミシジンSの基本骨格、アミノ酸配列、立体構造を示している。
図3は、分子ピンセットとしてのグラミシジンS31,32とカーボンナノチューブ33が複合体を形成した様子を示している。グラミシジンSの場合は、単層カーボンナノチューブ(直径:1〜2nm)と複合体を形成しやすい。
図4(a)、(b)は、本発明で使用する分子ピンセットの他の例を示し、グラミシジンSの構成アミノ酸の側鎖に付加部分(図中ではLで表示)を導入した誘導体の構造を示している。
図4(a)は、グラミシジンSの構成アミノ酸であるオルニチン(Orn)の側鎖のアミノ基に付加部分を導入し、同一グラミシジンSの他の構成アミノ酸のオルニチンの側鎖のアミノ基と結合した構造を有する分子ピンセットの例を示している。尚、付加部分Lは、炭素鎖(-CH2-)、アミノ酸、又は塩基を用いることができる。特に、本実施例の場合のようにオルニチンの側鎖のアミノ基を介して結合する場合には、カルボキシル基を有する炭素鎖(-CH2-)を用いて結合することができる。また、アミノ酸を使用する場合にはペプチド結合を、塩基を用いる場合にはリン酸基とアミノ基を結合させれば良い。さらに、付加部分の一部に酵素の切断部位を設けるために、アミノ酸配列X−Yを導入してある。切断部位のアミノ酸Xと切断部位を切断する酵素の組み合わせを表1に示す。
Figure 0004463070
図4(b)は、グラミシジンSの構成アミノ酸であるオルニチン(Orn)の側鎖のアミノ基に付加部分を導入し、別のグラミシジンSの構成アミノ酸のオルニチンの側鎖のアミノ基に結合している2量体を形成している分子ピンセットの例を示している。尚、付加部分Lは、炭素鎖(-CH2-)、アミノ酸、又は塩基を用いることができる。本実施例の場合のようにオルニチンの側鎖のアミノ基を介して結合する場合には、カルボキシル基を有する炭素鎖(-CH2-)を用いて結合することができる。また、アミノ酸を使用する場合にはペプチド結合を、塩基を用いる場合にはリン酸基とアミノ基を結合させれば良い。さらに、付加部分の一部に酵素の切断部位を設けるためにアミノ酸配列X−Yを導入してあり、その際の切断部位のアミノ酸Xと切断部位を切断する酵素の組み合わせは表1の通りである。
図4(a)、(b) に示した分子ピンセットと多層カーボンナノチューブが複合体を形成する様子を図5、図6に示す。図5は、分子ピンセットとして用いた単量体型のグラミシジンSの誘導体51,52が多層カーボンナノチューブ53と複合体を形成した様子を示している。また図6は、分子ピンセットとして用いた2量体型のグラミシジンSの誘導体61,62が多層カーボンナノチューブ63と複合体を形成した様子を示している。
グラミシジンS単体の場合には、単層カーボンナノチューブ(直径:1〜2nm)と複合体を形成しやすい。しかし、複層カーボンナノチューブ、特に直径10nm以上の物に対しては複合体を形成しにくい。複層カーボンナノチューブと分子ピンセットの複合体を形成するためには、カーボンナノチューブの周りを分子ピンセットが取り囲む必要がある。すなわち、カーボンナノチューブの直径と分子ピンセットの大きさが同程度であるのが望ましい。そのため、複層カーボンナノチューブに分子ピンセットと複合体を形成させるためには、分子ピンセットとしては図4(a)、(b)に示すような環状ペプチドであるグラミシジンSの構成アミノ酸の側鎖に付加部分を導入した誘導体が望ましい。特に、直径10〜20nm程度の複層カーボンナノチューブに対しては、分子ピンセットとして図4(b)に示すようなグラミシジンS誘導体の2量体型を用いるのが望ましい。
使用する分子ピンセットと選択的に可溶化させるカーボンナノチューブの直径の関係を、グラミシジンS誘導体の2量体型の例で以下に説明する。理論的及び実験的に、付加部分の長さによってグラミシジンS誘導体の2量体型と複合体を形成するカーボンナノチューブの直径が違う。図7に付加部分がアミノ酸の場合において、付加部分のアミノ酸の数と選択的に複合体を形成するカーボンナノチューブの直径の関係を示す。また、図8に付加部分が炭素鎖の場合において、付加部分の炭素鎖の数と選択的に複合体を形成するカーボンナノチューブの直径の関係を示す。
図9を参照して、分子ピンセットを用いた本発明によるカーボンナノチューブの精製方法を以下に説明する。
最初、カーボンナノチューブを含む炭素化合物が入った試料槽91に0.1M Tris‐HClバッファー(10mM CaCl2、pH8.2)1.0 mL を加え、超音波により懸濁して分散した。その際、煤等の大きな不溶物は遠心分離で取り除いた。カーボンナノチューブが分散した溶液槽92にディスペンサー93を用いて、試薬槽94からグラミシジンS誘導体溶液を100 μL(1mg/mL)加えて、37℃、1時間放置した。使用したグラミシジンS誘導体は、図4(b)に示した2量体型のグラミシジンSの誘導体で、付加部分のアミノ酸配列は、Gly-Gly-Gly-Gly-Arg-Gly-Gly-Gly-Gly-Glyである。溶液槽92と回収槽95の間は内径100μm、長さ10cmのキャピラリー96を介して接続されている。溶液槽と回収槽の間に高圧電源97により100V/cmの電圧を印加して、電気泳動法により可溶化したカーボンナノチューブ複合体のみを回収槽95に泳動し、可溶化したカーボンナノチューブ複合体と不溶物とを分離した。その後、回収槽95にディスペンサー98を用いて、酵素試薬槽99からトリプシン溶液(1mg/mL)を 50 μL 加えて、37℃、1時間反応させた。トリプシン処理により不溶化したカーボンナノチューブは、ろ過して捕集し、蒸留水、エタノール洗浄後、乾燥して得ることができた。高圧電源97は、必要に応じて極性を変えられるようになっている。また、カーボンナノチューブの精製に用いられるグラミシジンS誘導体溶液(分子ピンセット)と、その一部を切断する酵素(本実施例ではトリプシン溶液)は、カーボンナノチューブ精製キット90として組み合わせたものを用意しておくと便利である。
カーボンナノチューブの評価法としてはラマン散乱法が非常に有用である。今回精製したカーボンナノチューブから得られたラマンスペクトルは、図10に示すように「G band」、「D band」と呼ばれる2種類のピーク101,102が高周波領域で、RBM(Radial breathing mode)と呼ばれるカーボンナノチューブ特有のピーク103が低周波領域で観測される。励起光源は、Arイオンレーザ(波長514.15nm)である。図中で1590cm-1付近に観測される「G band」のピーク101は、炭素原子の六角格子内振動に起因しており、カーボンナノチューブの場合には筒状の閉じた構造に由来する肩104が観測される。また、図中で1350cm-1付近に観測される「D band」のピーク102は、カーボンナノチューブ内の欠損等に起因するため、カーボンナノチューブの結晶性の評価ができることが分かっている。すなわち、「G band」のピーク101と「D band」のピーク102の強度比が大きいほど結晶性が良いことが分かる。また、今回精製したカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を図11に示す。その結果、直径約10nmのカーボンナノチューブが精製されたことが分かる。
別の酵素を使用した実施例について以下に説明する。
上記の実施例の場合と同様に、カーボンナノチューブを含む炭素化合物に0.1M Tris‐HClバッファー(10mM CaCl2、pH8.2)1.0 mL を加え、超音波により懸濁して分散した。カーボンナノチューブが分散した溶液にマイクロディスペンサーを用いて、グラミシジンS誘導体溶液を100 μL(1mg/mL)加えて、37℃、1時間放置した。使用したグラミシジンS誘導体は、図4(b)に示した2量体型のグラミシジンSの誘導体で付加部分のアミノ酸配列は、Gly-Gly-Phe-Gly-Gly-Glyである。本実施例では、付加部分をアミノ酸としたが、-Phe-Gly-以外の部分を炭素鎖(-CH2-)、あるいは塩基を用いても問題ない。その際、鎖の数はアミノ酸に対して塩基の場合は同数、炭素鎖の場合は約2倍を目安にすれば同じ分級効果(カーボンナノチューブを直径で分ける性能)が得られる。溶液槽と回収槽の間は内径100μm、長さ10cmのキャピラリーを介して接続されている。溶液槽と回収槽の間に100V/cmの電圧を印加して、電気泳動法により可溶化したカーボンナノチューブ複合体のみを回収槽に泳動し、可溶化したカーボンナノチューブ複合体と不溶物とを分離した。その後、回収槽にα‐キモトリプシン溶液(1mg/mL)を 50 μL 加えて、37℃、1時間反応させた。α‐キモトリプシン処理により不溶化したカーボンナノチューブは、ろ過して捕集し、蒸留水、エタノール洗浄後、乾燥して得ることができた。
精製されたカーボンナノチューブの評価法は、ラマン散乱法と透過型電子顕微鏡を用いた。励起光源は、Arイオンレーザ(波長514.15nm)である。今回精製したカーボンナノチューブから得られたラマンスペクトルは、図12に示すように1590cm-1付近に肩付きのピーク121が観測され、さらに200cm-1付近にカーボンナノチューブ特有のピーク102であるRBMが観測された。また、今回精製したカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を図13に示す。その結果、直径約5nmのカーボンナノチューブが精製されたことが分かる。
別の酵素を使用した他の実施例について以下に説明する。
上記の実施例の場合と同様に、カーボンナノチューブを含む炭素化合物に50 mM リン酸バッファー(pH 7.8)1.0 mL を加え、超音波により懸濁して分散した。カーボンナノチューブが分散した溶液にマイクロディスペンサーを用いて、グラミシジンS誘導体溶液を100 μL(1mg/mL)加えて、37℃、1時間放置した。使用したグラミシジンS誘導体は、図4(b)に示した2量体型のグラミシジンSの誘導体で付加部分のアミノ酸配列は、Gly-Gly-Gly-Gly-Glu-Gly-Gly-Gly-Gly-Glyである。溶液槽と回収槽の間は内径100μm、長さ10cmのキャピラリーを介して接続されている。溶液槽と回収槽の間に100V/cmの電圧を印加して、電気泳動法により可溶化したカーボンナノチューブ複合体のみを回収槽に泳動し、可溶化したカーボンナノチューブ複合体と不溶物とを分離した。その後、回収槽にV8プロテアーゼ溶液(1mg/mL)を 50 μL 加えて、37℃、1時間反応させた。V8プロテアーゼ処理により不溶化したカーボンナノチューブは、ろ過して捕集し、蒸留水、エタノール洗浄後、乾燥して得ることができた。その際の精製されたカーボンナノチューブのラマン散乱法と透過型電子顕微鏡の評価結果は、図10及び図11に示す結果とほぼ同じであった。
直径が数nmのカーボンナノチューブの精製を目的とした他の実施例を以下に説明する。
最初、カーボンナノチューブを含む炭素化合物に0.1M Tris‐HClバッファー(10mM CaCl2、pH8.2)1.0 mL を加え、超音波により懸濁して分散した。その際、煤等の大きな不溶物は遠心分離で取り除いた。カーボンナノチューブが分散した溶液にマイクロディスペンサーを用いて、グラミシジンS誘導体溶液を100 μL(1mg/mL)加えて、37℃、1時間放置した。使用したグラミシジンS誘導体は、図4(a)に示した単量体型のグラミシジンSの誘導体で、付加部分のアミノ酸配列は、Gly-Gly-Gly-Arg-Gly-Gly-Glyである。溶液槽と回収槽の間は内径100μm、長さ10cmのキャピラリーを介して接続されている。溶液槽と回収槽の間に100V/cmの電圧を印加して、電気泳動法により可溶化したカーボンナノチューブ複合体のみを回収槽に泳動し、可溶化したカーボンナノチューブ複合体と不溶物とを分離した。その後、回収槽にトリプシン溶液(1mg/mL)を 50 μL 加えて、37℃、1時間反応させた。トリプシン処理により不溶化したカーボンナノチューブは、ろ過して捕集し、蒸留水、エタノール洗浄後、乾燥して得ることができた。
カーボンナノチューブのラマンスペクトルの低周波領域で観測されるRBMのピークは、カーボンナノチューブの直径が全対称伸縮振動モードに対応するため、波数ν(単位;cm-1)で表したピークシフト量はカーボンナノチューブの直径d(単位;nm)に反比例し、以下の関係式に従うことが分かっている。
d=248/ν
本実施例で精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを図14(a)、(b)に示す。その結果、図14(a)に示すように1590cm-1付近に肩付きのピーク141が観測された。さらに図14(b)に示すように200cm-1付近にカーボンナノチューブ特有のピークであるRBMで直径1nmの単層カーボンナノチューブ由来のピーク142、及び直径2nmの2層カーボンナノチューブ由来のピーク143が観測された。本実施例では、直径が数nmのカーボンナノチューブの精製を目的としており、これらの結果は良好に目的のカーボンナノチューブが精製できたことを示している。
直径が1nmの単層カーボンナノチューブの精製を目的とした他の実施例を以下に説明する。
最初、カーボンナノチューブを含む炭素化合物に0.1M Tris‐HClバッファー(10mM CaCl2、pH8.2)1.0 mL を加え、超音波により懸濁して分散した。その際、煤等の大きな不溶物は遠心分離で取り除いた。カーボンナノチューブが分散した溶液にマイクロディスペンサーを用いて、グラミシジンS溶液を100 μL(1mg/mL)加えて、37℃、1時間放置した。使用したグラミシジンSには、構成アミノ酸にオルニチンを有するため、酵素としてトリプシンを使用すれば分子ピンセット、すなわちグラミシジンSを分解可能である。また、オルニチンをアルギニンに置換したグラミシジンS類似体を使用しても良い。溶液槽と回収槽の間は内径100μm、長さ10cmのキャピラリーを介して接続されている。溶液槽と回収槽の間に100V/cmの電圧を印加して、電気泳動法により可溶化したカーボンナノチューブ複合体のみを回収槽に泳動し、可溶化したカーボンナノチューブ複合体と不溶物とを分離した。その後、回収槽にトリプシン溶液(1mg/mL)を 50 μL 加えて、37℃、1時間反応させた。トリプシン処理により不溶化したカーボンナノチューブは、ろ過して捕集し、蒸留水、エタノール洗浄後、乾燥して得ることができた。
本実施例で精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを図15に示す。その結果、250cm-1付近に単層カーボンナノチューブ特有のピーク151が観測され、直径1nmの単層カーボンナノチューブが精製されたことが分かる。
直径が異なる少なくとも2種類のカーボンナノチューブの精製を目的とした他の実施例を以下に説明する。
精製フローは今までに述べた方法と同じであるが、複数の分子ピンセットを同時に使用することが異なる。以下に、本実施例によるカーボンナノチューブの精製方法を説明する。
最初、前処理としてカーボンナノチューブを含む炭素化合物を溶液に分散する。その際、煤等の大きな不溶物は遠心分離等で取り除く。カーボンナノチューブが分散した溶液にカーボンナノチューブと複合体を形成する複数の分子ピンセットを添加・混合して、カーボンナノチューブを可溶化する。本実施例では、分子ピンセットとして、付加部分にGly-Arg-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体と、付加部分にGlu-Glu-Glu-Glu-Glu-Gly-Gly-Gly-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体を用いた。その結果、付加部分にGly-Arg-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体は正に荷電し、付加部分にGlu-Glu-Glu-Glu-Glu-Gly-Gly-Gly-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体は負に荷電している。
溶液槽と回収槽の間は内径100μm、長さ10cmのキャピラリーを介して接続されている。溶液槽と回収槽の間に100V/cmの電圧を印加して、電気泳動を行った。2種類の2量体型グラミシジンS誘導体で可溶化した溶液は、負極方向に電気泳動することにより、付加部分にGly-Arg-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体と複合体を形成した直径約3nmのカーボンナノチューブが分離される。この後、電気泳動の極性を切り替えて、電気泳動することにより、付加部分にGlu-Glu-Glu-Glu-Glu-Gly-Gly-Gly-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体と複合体を形成した直径約20nmのカーボンナノチューブが分離される。
その後、付加部分にGly-Arg-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体とカーボンナノチューブの複合体を回収した回収槽にトリプシン溶液(1mg/mL)を 50 μL 加えて、37℃、1時間反応させた。トリプシン処理により不溶化したカーボンナノチューブは、ろ過して捕集し、蒸留水、エタノール洗浄後、乾燥して得ることができた。付加部分にGlu-Glu-Glu-Glu-Glu-Gly-Gly-Gly-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体とカーボンナノチューブの複合体を回収した回収槽にV8プロテアーゼ溶液(1mg/mL)を 50 μL 加えて、37℃、1時間反応させた。トリプシン処理により不溶化したカーボンナノチューブは、ろ過して捕集し、蒸留水、エタノール洗浄後、乾燥して得ることができた。
本実施例で精製した得られたカーボンナノチューブを、透過型電子顕微鏡を用いて単位体積当たりの個数によって評価した。その結果、付加部分にGly-Arg-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体を用いて分離したフラクションは、図16(a)に示すように直径2〜4nmのカーボンナノチューブが大部分であった。また、付加部分にGlu-Glu-Glu-Glu-Glu-Gly-Gly-Gly-Gly-Glyのアミノ酸配列を有する2量体型グラミシジンS誘導体を用いて分離したフラクションは、図16(b)に示すように直径18〜20nmのカーボンナノチューブが大部分であった。本実施例では、電荷を有するアミノ酸を置換あるいは付加して、分子ピンセットの電荷を変化させたが、図17(a)、(b)、(c)に示すように環状ペプチドであるグラミシジンSの基本骨格を有し、付加部分に電荷171,172,173を持たせても良い。尚、図17(a)、(b)、(c)は、各々、環状ペプチドであるグラミシジンS174、単量体型グラミシジンS誘導体175、2量体型グラミシジンS誘導体176を示している。
以下に、本発明によるカーボンナノチューブ精製装置の構成例を説明する。
図18は、カーボンナノチューブ精製装置の構成例を示す図である。本装置は、カーボンナノチューブを含む試料を収める試料槽181、分子ピンセットを含む試薬を納める試薬槽182を備えたディスペンサー183、分子ピンセットを切断する酵素を含む試薬を納める試薬槽184を備えたディスペンサー185、分子ピンセットで可溶化したカーボンナノチューブ複合体を電気泳動で泳動するキャピラリー186、電気泳動で可溶化したカーボンナノチューブ複合体を回収する回収槽187を備えて構成される。
最初、カーボンナノチューブを含む試料を収める試料槽181に分子ピンセットを含む試薬を納める試薬槽182を備えたディスペンサー183で試薬を注入する。その後、試料槽181と回収槽187の間にキャピラリー186を介して電気を印加して、電気泳動を行う。電気泳動の結果、回収されたカーボンナノチューブ複合体を含む回収槽187に酵素試薬をディスペンサー185により注入して、分子ピンセットを分解して、カーボンナノチューブを不溶化する。
その際、図19に示すように第2の回収槽191と第2のキャピラリー192を追加することにより、最初の電気泳動が終わった後に、極性を反転させて、試料槽193と第2の回収槽194の間に第2のキャピラリー192を介して電気泳動を行い、極性の違うカーボンナノチューブ複合体を得ることができる。すなわち、図20(a)に示すように、最初の電気泳動では例えば正に荷電したカーボンナノチューブ複合体201を選択的に分離・回収し、その後、電気泳動の極性を反転させることにより、図20(b)に示すように、負に荷電したカーボンナノチューブ複合体202を選択的に分離・回収することができる。
本発明に係わるカーボンナノチューブの精製方法を示すフロー図。 グラミシジンSの構造を示す図であり、(a)は基本骨格を示す図、(b)はアミノ酸配列を示す図、(c)は立体構造を示す図。 環状ペプチドであるグラミシジンSとカーボンナノチューブが複合体を形成した様子を示す図。 本発明で使用する分子ピンセットの例を示す図であり、(a)は単量体型のグラミシジンSの誘導体の構造を示す図、(b)は2量体型のグラミシジンSの誘導体の構造を示す図。 分子ピンセットとして用いた単量体型のグラミシジンSの誘導体が多層カーボンナノチューブと複合体を形成した様子を示す図。 分子ピンセットとして用いた2量体型のグラミシジンSの誘導体が多層カーボンナノチューブと複合体を形成した様子を示す図。 付加部分のアミノ酸の数と、選択的に複合体を形成するカーボンナノチューブの直径の関係を示す図。 付加部分の炭素鎖の数と、選択的に複合体を形成するカーボンナノチューブの直径の関係を示す図。 分子ピンセットを用いたカーボンナノチューブの精製方法の手順を示す図。 分子ピンセットを用いて精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す図。 分子ピンセットを用いて精製したカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を示す図。 分子ピンセットを用いて精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す図。 分子ピンセットを用いて精製したカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を示す図。 分子ピンセットを用いて精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す図であり、(a)は1590cm-1付近の肩付きのピークを示す図、(b)はカーボンナノチューブ特有のピークである200cm-1付近のRBMのピークを示す図。 分子ピンセットを用いて精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す図。 複数の分子ピンセットを用いて精製したカーボンナノチューブの分離精製結果を示す図であり、(a)は分子ピンセットを用いて分離したフラクションを示す図、(b)は別の分子ピンセットを用いて分離したフラクションを示す図。 分子ピンセットの構造を示す図であり、(a)は電荷を付加したグラミシジンSを示す図、(b)は電荷を付加した単量体型グラミシジンS誘導体を示す図、(c)は 電荷を付加した2量体型グラミシジンS誘導体を示す図。 本発明による精製装置の構成例を示す図。 本発明による精製装置の構成例を示す図。 電気泳動の極性を反転して分離・精製する様子を示す図。
符号の説明
31,32,174…グラミシジンS、33…カーボンナノチューブ、51,52,175…単量体型のグラミシジンSの誘導体、53、63…多層カーボンナノチューブ、61,62,176…2量体型のグラミシジンSの誘導体、91、181、193…試料槽、92…溶液槽、93,98,183,185…ディスペンサー、94,182,184…試薬槽、95,187,191…回収槽、96,186,192…キャピラリー、97…高圧電源、99…酵素試薬槽。

Claims (5)

  1. カーボンナノチューブを含む溶液とペブチドを有する化合物の溶液とを混合する工程と、
    混合溶液から不溶物を分離し、可溶化したカーボンナノチューブと前記化合物の複合体を含む溶液を得る工程と、
    前記工程で得られたカーボンナノチューブと前記化合物の複合体を含む溶液に前記化合物の一部を特異的に切断する酵素を加える工程と、
    前記酵素により切断された前記化合物の断片と前記複合体由来のカーボンナノチューブとを含む溶液からカーボンナノチューブを分離する工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ精製方法。
  2. カーボンナノチューブ精製のためのキットであって、
    カーボンナノチューブを選択的に可溶化するための、ペブチドを有する化合物を含む溶液と、
    前記化合物の一部を特異的に切断する酵素を含む溶液と
    を有することを特徴とするカーボンナノチューブ精製キット。
  3. 請求項2記載のカーボンナノチューブ精製キットにおいて、前記ペブチドを有する化合物は、環状ペプチド又は環状ペプチドの構成アミノ酸の側鎖に付加部分を有する誘導体であることを特徴とするカーボンナノチューブ精製キット。
  4. 請求項2記載のカーボンナノチューブ精製キットにおいて、
    前記酵素と前記切断部位の組み合わせが、
    (1)酵素:キモトリプシン、切断部位:芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン)、
    (2)酵素:トリプシン、切断部位:塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン、オルニチン)、又は
    (3)酵素:V8プロテアーゼ、切断部位:酸性アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸)
    であることを特徴とするカーボンナノチューブ精製キット。
  5. カーボンナノチューブを含む試料を収める第1の試料槽と、
    カーボンナノチューブを選択的に可溶化するための、ペプチドを有する化合物からなる第1の試薬を収める第1の試薬槽と、
    前記第1の試薬の一部を切断する酵素からなる第2の試薬を収める第2の試薬槽と、
    前記第1の試料槽に前記第1の試薬槽から前記第1の試薬を注入する第1の試薬注入手段と、
    前記第1の試薬の注入によって可溶化したカーボンナノチューブ複合体を不溶物から分離し第2の試料槽に移す手段と、
    前記第2の試料槽に前記第2の試薬槽から前記第2の試薬を注入する第2の試薬注入手段と、
    前記第2の試薬が前記第1の試薬の一部を切断することによって不溶化したカーボンナノチューブを回収する手段とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ精製装置。
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