本発明は、音響再生のためのスピーカーに用いるエッジ、及びこれを用いたスピーカー振動板、並びに、スピーカーに関する。
スピーカーは、特に動電型スピーカーにおいては、内周側でボイスコイルに連結するスピーカー振動板を所定位置に中心保持し、かつ、良好に振動可能にするために、スピーカー振動板の外周端にエッジが設けられる。コーン型振動板で一般に用いられるフリーエッジは、その内周側がコーン型振動板の外周端側に接合され、その外周側がフレームに接合されて固定され、それらの間に可とう性材料で形成されてスピーカー振動板を弾性的に支持する可動部を備える。スピーカー用エッジの形状および材料などについては、様々な検討がなされている。
従来のスピーカー用エッジの可動部の形状は、ロールエッジ、または、コルゲーションエッジが代表的であり、他にもスピーカーが再生する音声の周波数によって様々な検討がされている。すなわち、スピーカー振動板の変位振幅が大きい低音域での動作において、エッジの可動部の形状を工夫して、スピーカーの再生低域限界周波数f0に影響する可動部の柔軟性を確保し、異音を生じる等の不良が生じにくくし、直線性と対称性を改善して非直線歪を低減しようとするものがある。また、一方で、スピーカー振動板の変位振幅が小さい中高音域での動作において、コーン型振動板での振動が伝搬してエッジで反射し、周波数特性上にピークディップが生じる場合があり、エッジの可動部の形状を、コーン型振動板の形状に沿った直線部分を形成し、このピークディップを低減しようとするものがある。
また、従来には、スピーカー用エッジの形状として、ロール形状とコルゲーション形状とを組み合わせたものがある。例えば、エッジの頂部付近より振動板側に内周部にかけてひだを設けたものがある(特許文献1)。また、例えば、凸状のエッジの円弧上に断面形状非対称のコルゲーションを設けたものがある(特許文献2)。また、例えば、エッジ部材の湾曲部に円周方向の細溝を形成したものがある(特許文献3)。
実開昭60−95792号公報 (第3図)
特開昭63−90997号公報 (第1図、第2図)
特開平3−104499号公報 (第1図、第3図)
しかしながら、従来技術のスピーカー用エッジおよびこれを用いたスピーカーでは、低音域での大きい変位振幅への対応と、中高音域での周波数特性上のピークディップへの対応とを、両立させるには不十分な点がある。特に、口径の小さなスピーカーでは、従来のスピーカー用エッジは、スピーカーが分割振動する高域限界周波数にも影響を与える場合があり、その形状を工夫しなければならない。
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、スピーカーに用いるエッジ、及び、これを用いたスピーカー振動板並びにスピーカーに関し、再生周波数範囲が広く、従来のロールエッジから置き換えても最低共振周波数f0が変化しにくく、振幅の大きい入力信号がボイスコイルに印加された場合であっても、異音を生じる等の不良が生じにくく、好ましい音声再生が可能なスピーカー用エッジを提供することにある。
本発明のスピーカー用エッジは、コーン型振動板の外周端部と接合する内周接合部と、フレームと接合する外周接合部と、内周接合部と外周接合部との間に形成される可動部とを備える略環状のスピーカー用エッジであって、可動部が、断面形状において内周接合部の断面形状を規定する内周形状線の延長線上に内周接合部から外周側へ延設されて形成される第1可動部と、断面形状において内周形状線の延長線上から外れて第1可動部から外周側へ延設されて形成され、かつ、断面形状が曲折する波形で外周接合部へ連結する第2可動部と、を有する。
好ましくは、本発明のスピーカー用エッジは、可動部の断面形状において、第2可動部が、第1可動部とほぼ直交するように延設され、第1可動部と第2可動部との連結部により略環状に規定される可動部稜線が、最も前面側に突出するように形成される。
さらに好ましくは、本発明のスピーカー用エッジは、可動部の断面形状において、第1可動部が有する幅W1が、第2可動部が有する幅W2より大きく、かつ、可動部の第1可動部が有する環状面積S1が、第2可動部が有する環状面積S2よりも広い。
また、本発明のスピーカー振動板は、本発明のスピーカー用エッジと、スピーカー用エッジの内周接合部をその外周端部に接合したコーン型振動板と、を備える。
また、本発明のスピーカーは、本発明のスピーカー振動板を備える。
以下、本発明の作用について説明する。
本発明のスピーカー用エッジは、コーン型振動板の外周端部と接合する内周接合部と、フレームと接合する外周接合部と、内周接合部と外周接合部との間に形成される可動部とを備える略環状のスピーカー用エッジである。内周接合部は、コーン型振動板の外周端部と接合されて、コーン型振動板の振動によって加わる力が伝達される。外周固定部は、実質的にフレームに接合されて固定されている。したがって、内周接合部と外周接合部との間に形成される略環状の可動部が、スピーカー振動板を弾性的に支持する。このスピーカー用エッジを接合したスピーカー振動板を用いるスピーカーでは、スピーカー用エッジによってボイスコイルボビンを含む振動系が所定位置に中心保持され、ボイスコイルで生じた駆動力が加わって可動部が変形することにより、振動系は振動可能となる。
ここで、スピーカー用エッジの可動部は、断面形状が内周接合部の延長線上に沿う第1可動部と、断面形状が曲折する波形の第2可動部と、から構成されている。具体的には、可動部は、断面形状において内周接合部の断面形状を規定する内周形状線の延長線上に該内周接合部から外周側へ延設されて形成される第1可動部と、断面形状において第1可動部の延長線上から外れて第1可動部から外周側へ延設されて形成され、かつ、断面形状が曲折する波形で外周接合部へ連結する第2可動部と、を有する。
断面形状において、第1可動部は、コーン型振動板の外周端部と接合する内周接合部の断面形状を規定する内周形状線の延長線上に、内周接合部から外周側へ延設されて形成される。コーン型振動板の外周端部が、断面形状において直線状のストレートコーン形状であれば、内周接合部の断面形状は直線状の内周形状線であり、その結果、第1可動部は直線状の断面を有する。また、断面形状において円弧状のカーブコーン形状であれば、内周接合部の断面形状は円弧状の内周形状線であり、その結果、第1可動部は円弧状の断面を有する。したがって、コーン型振動板を伝搬する振動が、内周接合部と第1可動部との境界では反射しにくくなるので、スピーカー用エッジを接合したスピーカー振動板を用いるスピーカーでは、中高音域での音圧周波数特性上にエッジでの反射を原因とするピークディップが生じにくくなる。
また、断面形状において、第2可動部は、断面形状が曲折する波形であり、コルゲーションを形成する。第2可動部は、第1可動部の延長線上から外れて第1可動部から外周側へ延設されるように、形成され、好ましくは、第2可動部は、可動部の断面形状において、第1可動部とほぼ直交するように延設される。第1可動部と第2可動部との連結部により略環状に規定される可動部稜線が、内周接合部および外周接合部よりも前面側に突出し、そのスピーカーエッジの最も前面側に突出するように形成される。したがって、第2可動部は、第1可動部の外周側を弾性的に支持し、コルゲーションの柔軟性により前後方向に変形するので低音域での大きい変位振幅にも対応することができ、従来のロールエッジから置き換えても最低共振周波数f0が変化しにくい。また、振幅の大きい入力信号がボイスコイルに印加された場合であっても、異音を生じる等の不良が生じにくい。
また、スピーカー用エッジの可動部は、断面形状における第1可動部が有する幅W1が、第2可動部が有する幅W2より大きく、かつ、可動部の第1可動部が有する環状面積S1が、第2可動部が有する環状面積S2よりも広い。第1可動部の幅W1が大きくなると、第1可動部はコーン型振動板と同様に音波を放射する振動板として作用する。布の基材にフェノール樹脂を含浸した軽量なエッジ材料で形成したスピーカー用エッジを成形する場合には、その第1可動部は、高域限界周波数特性を改善することができる。特に、口径の小さなスピーカーでは、コーン型振動板の面積に対して、相対的にスピーカー用エッジの面積が広くなるので、第1可動部の環状面積S1の影響が大きくなる。スピーカーの口径に因るものの、第1可動部の幅W1が第2可動部の幅W2より大きければ、第1可動部の環状面積S1を第2可動部が有する環状面積S2よりも広くすることが可能になるので、スピーカーの高域特性を改善することができる。
なお、スピーカー用エッジの第2可動部の形状は、断面形状が曲折する波形であればよく、複数の小さな半径のロールが連続する波形であってもよく、階段状の波形であってもよい。第1可動部と第2可動部との連結部により略環状に規定される可動部稜線が、そのスピーカーエッジの最も前面側に突出するように、第1可動部の延長線上から外れて第1可動部から外周側へ延設されて形成されていればよい。その結果、本発明のスピーカー用エッジを用いたスピーカーは、再生周波数範囲が広く、従来のロールエッジから置き換えても最低共振周波数f0が変化しにくく、振幅の大きい入力信号がボイスコイルに印加された場合であっても、異音を生じる等の不良が生じにくく、好ましい音声再生が可能になる。
本発明のスピーカー用エッジを用いたスピーカーは、再生周波数範囲が広く、振幅の大きい入力信号がボイスコイルに印加された場合であっても、従来のロールエッジから置き換えても最低共振周波数f0が変化しにくく、異音を生じる等の不良が生じにくく、好ましい音声再生が可能なスピーカーを実現できる。
本発明のスピーカー用エッジは、再生周波数範囲が広く、従来のロールエッジから置き換えても最低共振周波数f0が変化しにくく、振幅の大きい入力信号がボイスコイルに印加された場合であっても、異音を生じる等の不良が生じにくく、好ましい音声再生が可能なスピーカー用エッジを提供するという目的を、コーン型振動板の外周端部と接合する内周接合部と、フレームと接合する外周接合部と、内周接合部と外周接合部との間に形成される可動部とを備える略環状のスピーカー用エッジであって、可動部が、断面形状において内周接合部の断面形状を規定する内周形状線の延長線上に内周接合部から外周側へ延設されて形成される第1可動部と、断面形状において内周形状線の延長線上から外れて第1可動部から外周側へ延設されて形成され、かつ、断面形状が曲折する波形で外周接合部へ連結する第2可動部と、を有するようにすることにより、実現した。
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー用エッジおよびこれを用いたスピーカー振動板ならびにスピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー用エッジ10を用いたスピーカー1について説明する断面図である。本実施例のスピーカー1は、口径3cmの小型の動電型スピーカーであり、円形コーン型振動板8を備え、後述するエッジ10は、この円形コーン型振動板8の外周端に接合されている。
スピーカー1は、他に、ポール、マグネットおよびプレートから構成されて磁気空隙3を備える磁気回路2と、磁気回路2に取り付けられてコーン型振動板8を振動可能に支持するフレーム4と、磁気空隙3に配置されるボイスコイル5と、ボイスコイル5が巻回されるボビン6と、外周端をフレーム4に接合し内周端をボビン6に接合するダンパー7と、ボビン6の上端側に内周端を接合するコーン型振動板8と、コーン型振動板8に接合するダストキャップ9と、を備える。なお、ボイスコイル5へ音声信号電流を供給する錦糸線ならびにターミナルは、図1では省略している。
スピーカー1では、強い直流磁界が発生する磁気空隙2中にボイスコイル5が配置され、このボイスコイル5に音声信号電流が供給されると、コーン型振動板8の前後方向(図1の上下矢印方向)に駆動力が発生し、ボイスコイル5、ボビン6、ダンパー7、コーン型振動板8、ダストキャップ9、そして、エッジ10から構成されるスピーカー振動系が前後方向に振動する。つまり、スピーカー振動系は、ダンパー7およびエッジ10によって振動可能に支持されており、その結果、その前後に存在する空気に圧力変化を生じ、音声信号電流を音波(音声)に変換する。
円形コーン型振動板8は、抄紙工程を経て形成された紙振動板であり、ボビン6並びにダストキャップ9とは、接着剤により接合される。円形コーン型振動板8は、内周側から外周側に向かうにつれて前側に広がる凹面を形成するストレートコーン振動板であり、その断面形状はほぼ直線状で、円形コーン型振動板8の外径は約φ19mm、内径は約φ13mmである。なお、円形コーン型振動板8の前面側であってダストキャップ9が接合される面の方を前側と、円形コーン型振動板8の背面側であってボビン6が配置される接合される面の方を後側とする。
本実施例のスピーカー1は、口径3cmの円形コーン型振動板8を備える小型の動電型スピーカーであるので、そのボイスコイル径は、円形コーン型振動板8の外径に比して、相対的に大きい。また、図示するように円形コーン型振動板8は、ダストキャップ9に中心側を覆われて、前面側からはほとんど露出していない。このような小型の動電型スピーカーでは、スピーカー振動系の全有効面積に占める円形コーン型振動板8の割合が低い反面で、ダストキャップ9とエッジ10の占める割合が高くなり、特に、エッジ10の材質ならびに形状は、再生する音圧周波数特性に大きな影響を与える。
エッジ10は、フェノール樹脂を含浸した布の基材(厚さ約0.15mm、目付が1インチあたり縦75本×横75本)を熱プレス成型してフェノール樹脂を熱硬化し、切断型で切断して、略環状の形状に成形したスピーカー用エッジである。エッジ10は、コーン型振動板8の外周端部と接合する内周接合部11と、フレーム4と接合する外周接合部12と、内周接合部11と外周接合部12との間に形成される可動部13とを備える。
エッジ10の内周接合部11は、コーン型振動板8の外周端部と接合する短いコーン形状の部分であり、内周側から外周側に向かうにつれて前側に広がる凹面を形成し、コーン型振動板8の後側から外周端に接着されている。内周接合部11は、その断面形状を規定する内周形状線が直線であり、その結果、内周接合部11は、円形コーン型振動板8のストレートコーン形状に沿う形状である。また、エッジ10の外周接合部12は、フレーム4と接合する平坦な部分であり、全周に渡って矢紙17がその前面側に接着されている。矢紙17は、厚みが0.6mmのリング状の厚紙であり、その強度でもって弾性を有する材質で形成されるエッジ10の形状を維持する。
エッジ10の可動部13は、断面形状が直線状の第1可動部14と、断面形状が曲折する波形の第2可動部15と、から構成されている。すなわち、可動部13は、断面形状において内周接合部11の延長線上に内周接合部11から外周側へ延設されて形成される第1可動部14と、断面形状において第1可動部14の延長線上から外れて第1可動部14から外周側へ延設されて形成され、かつ、断面形状が曲折する波形で外周接合部12へ連結する第2可動部15と、を有する。
ここで、第2可動部15は、可動部13の断面形状において、短いコーン形状の第1可動部14とほぼ直交するように延設され、いわば、コルゲーションが施された逆コーン形状の面を形成する。したがって、第1可動部14と第2可動部15との連結部により略環状に規定される可動部稜線16が、そのエッジ10の最も前面側に突出するように形成される。つまり、この可動部稜線16は、内周接合部11および外周接合部12よりも前面側に突出している。
エッジ10の可動部13を構成する第1可動部14は、断面形状において、内周接合部11の延長線上に内周接合部11から外周側へ延設されて形成されている。つまり、第1可動部14は、円形コーン型振動板8と接合する内周接合部11を延長した短いコーン形状の部分であり、内周接合部11との境目は、コーン型振動板8の外周端である。本実施例においては、エッジ10の第1可動部14は、断面形状における幅W1は約3.8mmであり、第1可動部14が有する環状面積S1は、約236mm2である。
また、エッジ10の可動部13を構成する第2可動部15は、断面形状において、第1可動部14の延長線上から外れて第1可動部14から外周側へ延設されるように、形成される。つまり、第2可動部15は、円形コーン型振動板8の前面側に延設してくる第1可動部14が、円形コーン型振動板8の後面側に約90度屈曲して、第1可動部14とほぼ直交するように延設される逆コーン状の部分である。本実施例においては、エッジ10の第2可動部15は、断面形状における幅W2は約1.7mmであり、第2可動部15が有する環状面積S2は、約135mm2である。そして、第2可動部15は、断面形状が曲折する波形(ロールの半径r約0.3mm)、つまり、コルゲーションを有するように成形されており、前後方向に柔軟に変形しやすく形成されている。なお、第2可動部15における波形を形成するロールは、その半径rが約0.1mm以上であればよい。
図2は、エッジ10の可動部13の断面形状と環状面積との関係について説明する図であり、図2(a)は平面図であり、図2(b)は断面図であり、円周方向のエッジ10の一部を表している。第1可動部14の内径をR1、第1可動部14と第2可動部15との連結部である可動部稜線16の半径をR2、第2可動部15の外径をR3とすると、断面形状における幅W1は(R2−R1)に等しく、断面形状における幅W2は(R3−R2)に等しい。円形コーン型振動板8の場合には、第1可動部14が有する環状面積S1はπ・(R22−R12)であり、第2可動部15が有する環状面積S2はπ・(R32−R22)である。
エッジ10の第1可動部14の幅W1が大きくなると、第1可動部14は円形コーン型振動板8と同様に音波を放射する振動板として作用するので、第1可動部14が有する環状面積S1を大きくすると、高域限界周波数特性を改善することができる。エッジ10の可動部13の断面形状を設計する場合には、コーン型振動板8やフレーム4の寸法が既定されていて、可動部13の内径R1および可動部13の外径R3は変更できない場合が多い。そこで、断面形状における幅W1およびW2を決める寸法R2を設計することで、エッジ10の可動部13の断面形状を設計する。第1可動部14の環状面積S1を第2可動部15が有する環状面積S2よりも広くするためには、少なくとも内周側に位置する第1可動部14の幅W1が、外周側に位置する第2可動部15の幅W2より大きくなければならない。さらに、寸法R1およびR3が既定の場合は、寸法R2>√((R12+R32)/2)を満たすように断面形状における幅W1およびW2を決めることで、環状面積S1>環状面積S2を満たすことができる。
図3は、本実施例の口径3cmの円形コーン型振動板8とエッジ10とを備えるスピーカー1の音圧周波数特性(1W入力時/1m軸上)を表すグラフである。横軸は音声信号の周波数(Frequency:Hz)であり、縦軸は音圧レベル(SPL:dB)である。最低共振周波数f0は約437Hzであり、また、高域限界周波数fHは約18kHzである。最低共振周波数f0から高域限界周波数fHまで広い再生周波数範囲を確保しており、顕著なピークディップのない比較的に平坦な特性が得られている。また、1W入力時には、エッジ10からは異音等は生じない。
図4は、比較例として、従来のスピーカー用エッジ20を用いたスピーカー100について説明する断面図である。この比較例のスピーカー100は、実施例1のスピーカー1と同じ口径3cmの円形コーン型振動板8を備える小型の動電型スピーカーであり、後述するエッジ20が実施例1のエッジ10と異なる他は、実施例1のスピーカー1と共通する。したがって、共通するところの説明は省略する。
従来のスピーカー用エッジ20は、実施例1のエッジ10と同じフェノール樹脂を含浸した布の基材を熱プレス成型してフェノール樹脂を熱硬化し、略環状の形状に成形したスピーカー用エッジである。エッジ20は、コーン型振動板8の外周端部と接合する内周接合部21と、フレーム4と接合する外周接合部22と、内周接合部21と外周接合部22との間に形成される可動部23とを備える。内周接合部21は、コーン型振動板8の外周端部と接合する短いコーン形状の部分であり、コーン型振動板8の後側から外周端に接着されている。また、外周接合部22は、フレーム4と接合する平坦な部分であり、全周に渡って矢紙17がその前面側に接着されている。エッジ20の可動部23は、断面形状が半径2mmのロール形状である。したがって、ロールエッジ20は、スピーカー振動系を振動可能に支持し、可動部23が柔軟に変形して、前後方向に振動させる。
図5は、比較例の口径3cmの円形コーン型振動板8とエッジ20とを備えるスピーカー100の音圧周波数特性(1W入力時/1m軸上)を表すグラフである。最低共振周波数f0は、本実施例のスピーカー1の場合と同じ約437Hzであり、また、高域限界周波数fHは、本実施例のスピーカー1の場合よりも低い約10kHzである。比較例のスピーカー100は、このように顕著なピークディップのない比較的に平坦な特性が得られているものの、高域限界周波数fHが低くなって、本実施例のスピーカー1よりも再生周波数範囲が狭い。なお、1W入力時には、エッジ20からも異音等は生じない。
また、本実施例のエッジ10を備えるスピーカー1と、比較例のエッジ20を備えるスピーカー100とに、印加する音声信号電力を増加していくと、比較例のエッジ20を備えるスピーカー100では、約3.0W入力時にエッジ20から異音が生じ始めるのに対して、本実施例のエッジ10を備えるスピーカー1では、約8.0W入力時にエッジ20から異音が生じ始め、従来よりも大きな入力信号電力によっても、歪みにくくなっていることが分かる。
なお、図6は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー用エッジ30を用いたスピーカー101について説明する断面図である。本実施例のスピーカー1aは、実施例1のスピーカー1と同じ口径3cmの円形コーン型振動板8を備える小型の動電型スピーカーであり、後述するエッジ30が実施例1のエッジ10と異なる他は、実施例1のスピーカー1と共通する。したがって、共通するところの説明は省略する。
本実施例のスピーカー用エッジ30は、実施例1のエッジ10と同じフェノール樹脂を含浸した布の基材を熱プレス成型してフェノール樹脂を熱硬化し、切断型で切断して、略環状の形状に成形したスピーカー用エッジである。エッジ30は、可動部33の断面形状が実施例1のエッジ10とは異なる。具体的には、第2可動部35の断面形状が異なることを除いては、実施例1のエッジ10と共通する。エッジ30の第2可動部35は、深いロールを持たない階段状のコルゲーションであって、前後方向に柔軟に変形しやすく形成されている。第2可動部35が、断面形状において幅1.7mm、高さ1.7mmの階段状(3段以上が好ましい)であるので、エッジ30は、前後方向に嵌合する凹型ならびに凸型の組からなる成形型で成形しやすいものである。
また、図7は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー用エッジ40を用いたスピーカー102について説明する断面図である。本実施例のスピーカー102は、実施例1のスピーカー1と同じ口径3cmであるが、断面形状が円弧状のカーブコーンである円形コーン型振動板48を備える小型の動電型スピーカーである。この円形コーン型振動板48および後述するエッジ40が実施例1のエッジ10と異なる他は、実施例1のスピーカー1と共通する。したがって、共通するところの説明は省略する。
円形コーン型振動板48は、抄紙工程を経て形成された紙振動板であり、ボビン6並びにダストキャップ9とは、接着剤により接合される。円形コーン型振動板48は、内周側から外周側に向かうにつれて前側に広がる凹面を形成するカーブコーン振動板であり、その断面形状は半径R=150mmの円弧状で、円形コーン型振動板48の外径は約φ18mm、内径は約φ13mmである。なお、円形コーン型振動板48は、樹脂で成形されたカーブコーン振動板であってもよい。
本実施例のスピーカー用エッジ40は、実施例1のエッジ10と同じフェノール樹脂を含浸した布の基材を熱プレス成型してフェノール樹脂を熱硬化し、切断型で切断して、略環状の形状に成形したスピーカー用エッジである。エッジ40は、内周接合部41および可動部43の断面形状が実施例1のエッジ10とは異なる。具体的には、内周接合部41は、その内周形状線が円形コーン型振動板48の断面形状とほぼ同じ半径Rの円弧である。したがって、可動部43を構成する第1可動部44も半径Rの円弧状である。また、第2可動部45の断面形状は、小さなロールで面取りされた階段状のコルゲーションであり、実施例1のエッジ10と同様に前後方向に柔軟に変形しやすく形成されている。
もちろん、本発明のスピーカー用エッジは、上記の実施例に限られず、他の断面形状を備えるものであってもよい。口径の大きな大型のスピーカーであっても、スピーカー用エッジの可動部が、断面形状において内周接合部の断面形状を規定する内周形状線の延長線上に内周接合部から外周側へ延設されて形成される第1可動部と、断面形状が曲折する波形の第2可動部と、から構成されていればよい。
また、本発明のスピーカー用エッジは、上記実施例の布の基材にフェノール樹脂を含浸した軽量なエッジ材料で形成した場合に限定されない。スピーカー用エッジを形成する材料は、例えば、織布もしくは不織布の基材に熱硬化性の樹脂を含浸したもの、または、熱可塑性のゴムを含浸したものを、熱プレス成型してもよい。また、エラストマーのシートをプレス成型したものであってもよい。
また、本発明のスピーカー振動板並びにスピーカーは、上記実施例に限定されない。磁気回路は、本実施例の説明で図示された外磁型磁気回路に限定されるものではなく、内磁型磁気回路でもよく、反発型磁気回路でもよい。また、コーン型振動板は、円形に限られず、楕円形やトラック形のコーン型振動板でもよい。
本発明のスピーカー用エッジは、家庭用のステレオ再生、もしくはマルチチャンネルサラウンド再生に用いられるスピーカーに限られず、携帯用電子機器や、車載用のオーディオ機器に使用されるスピーカーにも適用が可能である。
本発明の好ましい実施形態によるスピーカー用エッジを用いたスピーカーについて説明する断面図である。(実施例1)
本発明の好ましい実施形態によるエッジの可動部の断面形状と環状面積との関係について説明する図である。(実施例1)
本発明の好ましい実施形態によるスピーカーの音圧周波数特性を表すグラフである。(実施例1)
比較例のスピーカー用エッジを用いたスピーカーについて説明する断面図である。(比較例)
比較例のスピーカー用エッジを用いたスピーカーの音圧周波数特性を表すグラフである。(比較例)
本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー用エッジを用いたスピーカーについて説明する断面図である。(実施例2)
本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー用エッジを用いたスピーカーについて説明する断面図である。(実施例3)
符号の説明
1 スピーカー
2 磁気回路
3 磁気空隙
4 フレーム
5 ボイスコイル
6 ボビン
7 ダンパー
8 コーン型振動板
9 ダストキャップ
10 スピーカー用エッジ
11 内周接合部
12 外周接合部
13 可動部
14 第1可動部
15 第2可動部
16 可動部稜線
17 矢紙
20、30、40 スピーカー用エッジ
48 コーン型振動板
100、101、102 スピーカー