JP4459375B2 - ニトリル化合物の精製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、不純物として青酸を含むニトリル化合物の精製方法に関する。とりわけ、本法はニトリルのアミドへの変換酵素であるニトリルヒドラターゼの基質となるニトリル化合物の精製に好適である。
【0002】
【従来の技術】
ニトリル化合物は溶剤、有機合成、繊維、ポリマー原料等として工業的に有用な物質であるが、特に、ニトリルヒドラターゼ酵素の作用によりアミド化合物を製造する原料として用いる場合には、反応触媒としてのニトリルヒドラターゼ酵素の活性に、ニトリル化合物中の青酸が大きな影響を与えることが知られている。この為、原料ニトリル化合物中からの青酸除去が重要となる。
ニトリル化合物中から青酸を除去する方法はこれまで種々検討されており、例えば、ニトリル化合物中の青酸を金属錯体とする方法、イオン交換樹脂を用いる方法、及びアルカリ水溶液を用いて青酸を除去する方法等が挙げられる。
【0003】
金属錯体とする方法は、ニトリル化合物中にバナジュウム、クロム、マンガン、鉛、銅、銀、亜鉛、コバルト、ニッケル等、青酸と反応して金属シアン化物錯体を形成する金属を硝酸塩、塩化物、硫酸塩、カルボン酸塩等の金属塩として添加することにより、青酸を金属シアノ錯体とする方法である(特開平7−228563号)。また、金属塩の代わりに金属アルコキシドを用いる方法も提案されている(USP5,519,162号)。しかし、これらの方法においては、ニトリルヒドラターゼ酵素活性への金属イオンや金属シアノ錯体の影響を避け、十分な効果を期待するためには、活性炭や活性アルミナ等の吸着剤の使用や蒸留操作によって金属イオンや金属シアノ錯体を除く必要があり、高品質なアミド化合物の製造原料を得るための精製方法としての工業的利用には、操作性、経済性を考えれば決して有利な方法ではなかった。
【0004】
また、陰イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂を用いる方法(USP2,579,580号)では、ニトリル化合物の変性や副生成物の生成を伴い易い上に、長時間使用しているとニトリル化合物やその変性物がイオン交換樹脂の表面や内部で重合するなど、この方法も工業的な精製方法として満足し得るものではなかった。
一方、アルカリ水溶液を用いて青酸を除去する方法は、水溶液側に青酸を抽出させたり、ニトリル化合物が不飽和ニトリルである場合には、該ニトリル化合物に青酸を付加させる方法である。この方法は、吸着剤やイオン交換樹脂の使用、蒸留操作が不要であるなど、上記方法に比べ有利であるが、やはり、ニトリル化合物の変性・重合防止面で解決すべき問題が残されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の有するこの様な問題点に鑑み、アルカリ処理によるニトリル化合物の重合や副成物の生成の殆ど無い、とりわけニトリルヒドラターゼ酵素の基質として適したニトリル化合物の効率的な精製方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
アルカリ水溶液による青酸の除去は、通常、アルカリ水溶液とニトリル化合物を混合し、しかる後にその混合系をニトリル化合物相と水相に分離して水相を除去することにより行われるが、この操作について詳細に検討・解析した結果、混合時のニトリル化合物に対する水のモル比、及び分離水相中のアルカリ濃度を特定することが、操作全体を短時間で行うことを可能とし、結果として、ニトリル化合物の重合や副成物の生成を抑制し得ることを見い出し、本発明に到った。
【0007】
すなわち、本発明は、不純物として青酸を含むニトリル化合物とアルカリ水溶液とを混合し、次いで、該混合系をニトリル化合物相と水相に分離して水相を除去する該ニトリル化合物の精製方法において、混合時の水に対するニトリル化合物のモル比を0.01〜0.5とし、且つ分離水相中のアルカリ濃度を1質量%以下とすることを特徴とするニトリル化合物の精製方法、である。
この方法は、ニトリル化合物がニトリルヒドラターゼ酵素の作用により対応するアミド化合物を製造する際の基質である場合に好適である。
【0008】
混合時の水に対するニトリル化合物のモル比を0.01〜0.5とすることは混合時のニトリル化合物の分散性を向上させ、青酸の抽出速度を増加させることに有効であり、分離水相中のアルカリ濃度を1質量%以下とすることは相分離の際の界面形成を容易にすることに有効であるが、このような効果は全く予想し得なかったものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。
ニトリル化合物、例えば、アクリロニトリルはプロピレンのアンモ酸化法により工業的に生産されており、青酸は他の副生物と共に反応後の蒸留精製による除去操作が行われているが、この操作で除去出来ない青酸が市販の製品中に通常0.5〜5ppm含まれている。その中には、製品中に残留したシアンヒドリンがその後、分解して生じたものも含まれていると考えられ、この様な極微量の青酸であっても酵素失活に大きな影響を与える場合がある。
【0010】
本発明の基質であるニトリル化合物としては、上記アクリルニトリルをはじめ、特に限定されない。例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、サクシノニトリル、アジポニトリルの様な脂肪族飽和ニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルのような脂肪族不飽和ニトリル、ベンゾニトリル、フタロジニトリルの様な芳香族ニトリル、及びニコチノニトリルのような複素環式ニトリルが挙げられ、代表的なものはアセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、n−ブチロニトリル、イソクチロニトリル等のC2〜C4のニトリル化合物であり、特にアクリロニトリルが好適である。
【0011】
これらニトリル化合物中の青酸の除去操作は、先ず、アルカリ水溶液とニトリル化合物を混合し、次いで、その混合系をニトリル化合物相と水相に分離して水相側に青酸を抽出することにより行う。アルカリ水溶液とニトリル化合物の混合に当たっては、ニトリル化合物の重合や副成物の生成を防止する為、短時間で青酸の抽出を行うことが重要である。通常、アルカリ水溶液とニトリル化合物の相溶性が比較的小さいことから、混合器を使用して分散相の表面積を大きくする。
かかる目的で使用する混合機としては攪拌翼を備えた混合槽やラインミキサー、或いはスタティックミキサー、ホモジナイザーなどを使用する事が出来る。混合時の水に対するニトリル化合物のモル比は、0.01〜0.5、望ましくは、0.05〜0.5である。モル比が0.5を上回るとニトリル化合物の分散性が悪くなり抽出速度も著しく低下するはかりでなく、二層分離時の界面形成も難しくなる。抽出後分離される水相中のアルカリ濃度は1質量%以下、望ましくは0.05〜0.5質量%となるように添加するアルカリの量を調整する。水相中のアルカリ濃度が1質量%を越えると水相中に溶解しているニトリル化合物の重合が促進され二層分離時の界面の汚れや配管の詰まりの原因となる。
【0012】
青酸の除去操作は回分、連続いずれでもおこなうことができる。
上記操作により、ニトリル化合物の重合や副成物の生成を伴うことなく、ニトリル化合物中の青酸の濃度を所定の値以下にすることができる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0014】
実施例1
図1において、内容積15(cc)の混合器▲5▼に青酸5ppmを含むアクリロニトリル▲1▼を1800(g/h)、循環▲4▼を3800(g/h)供給し、内容積100(cc)の分離槽▲6▼に8質量% NaOH水溶液▲2▼を1(g/h)、補給水▲8▼78(g/h)加えながら、分離槽▲6▼内の二層分離界面の位置が一定になるように廃液▲7▼の量を調整し4時間連続運転を実施した。混合機▲5▼に供給される液中の水に対するアクリロニトリルのモル比は、0.16であった。3時間目に分離槽▲6▼からオーバーフローしてくる処理済みアクリロニトリル▲3▼をサンプリングしその中の青酸濃度を測定したところ0.4ppmであった。また、分離槽▲6▼の水相中のアルカリ濃度は0.4質量%であった。
【0015】
比較例1
実施例1において、循環▲4▼の流量を1000(g/h)とした以外は実施例1と同じ条件で処理したところ、混合機▲5▼に供給される液中の水に対するアクリロニトリルのモル比は、0.6であった。3時間後の分離槽▲6▼からオーバーフローしてくる処理済みアクリロニトリル▲3▼をサンプリングしその中の青酸濃度の測定値は2.3ppmであった。また、分離槽▲6▼の水相中のアルカリ濃度は0.4質量%であった。
【0016】
比較例2
実施例1において、アルカリ水溶液▲2▼の濃度を30質量%とした以外は実施例1と同じ条件で処理したところ、分離槽▲6▼の水相中のアルカリ濃度は1.4質量%であった。3時間後に分離槽▲6▼からオーバーフローしてくる処理済みアクリロニトリル▲3▼をサンプリングしたが、その中の青酸濃度の測定値は1.2ppmであった。また、分離槽▲6▼内の水相側は黄褐色に着色し、処理終了後、水相を別の容器に移したところ、ポリマー状の不溶解物が確認された為、IR分析を実施したところポリアクリロニトリルであることが判明した。
【0017】
【発明の効果】
本発明は、アルカリ水溶液処理において、混合時のニトリル化合物の分散性の改良、相分離の際の分離性の改良等、従来に比べより効率化された操作により、ニトリル化合物の重合や副生物の殆ど無い、ニトリル化合物の精製方法を提供し得る。
【0018】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の精製法を示す工程図である。
Claims (2)
- 不純物として青酸を含むニトリル化合物とNaOH水溶液とを混合し、次いで、該混合系をニトリル化合物相と水相に分離して水相を除去する該ニトリル化合物の精製方法において、混合時の水に対するニトリル化合物のモル比を0.01〜0.5とし、且つ分離水相中のアルカリ濃度を1質量%以下とすることを特徴とするニトリル化合物の精製方法。
- ニトリル化合物がニトリルヒドラターゼの作用により対応するアミド化合物を製造する際の基質である請求項1記載のニトリル化合物の精製方法。
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