以下、本発明を詳細に説明する。
まず本発明の多層成形体について説明する。本発明の多層成形体は、具体的には、以下の多層構造が好ましく用いられる。なお、以下、ポリアリ−レンサルファイド−ポリエステル系樹脂共重合体(A)を含有する樹脂組成物(a)は(a)、ポリアリ−レンサルファイド−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)を含有する樹脂組成物(b)は(b)、ポリアリ−レンサルファイド系樹脂(C)を含有する樹脂組成物(c)は(c)、ポリエステル系樹脂(D)を含有する樹脂組成物(d)は(d)及びポリカーボネート系樹脂(e)を含有する樹脂組成物(e)は(e)と記す。
第一の例として、(a)及び/又は(b)からなるの層をバリア層とし、そのバリア層の片面に熱融着してなる(d)または(e)からなる層の2層からなる多層成形体。
第二の例としては(a)または(b)を接着層とし、(a)または(b)層の片面に(c)をバリア層として熱融着させ、(a)または(b)の接着層を挟んで、(c)の樹脂層が積層されていない面に(d)あるいは(e)からなる樹脂層を熱融着させた3層構造を有する多層成形体。
第三の例としては、(a)と(b)の内、少なくとも1種と(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み合計少なくとも3種からなる樹脂組成物を使用した樹脂層をバリア層とし、このバリア層のどちらか一方の片面に(d)又は(e)からなる樹脂層を熱融着させた多層成形体。
第四の例としては、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)から選ばれる少なくとも3種からなる樹脂組成物を使用した樹脂層を接着層とし、この接着層の片面に(c)からなるバリア層、接着層を挟んで、(c)の樹脂層が積層されていない面に(d)あるいは(e)からなる樹脂層を熱融着させた3層構造を有する多層成形体である。
従って、本発明の多層成形体は、(a)および(b)を単独でバリア層あるいは接着層に、(a)及び/又は(b)を含む樹脂組成物をバリア層または接着層として用いることが好ましい。
本発明で用いられる(a)、(b)、(c)、(d)、(e)について説明する。前記(a)中のPAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)は、分子内にイソシアネート基を有するイソシアネ−ト変性PASと分子内に水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂を、好ましくは極性有機溶媒中で、反応させて得られるPAS−ポリエステル系樹脂共重合体を意味する。また、前記(b)中のPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)は、分子内にイソシアネート基を有するイソシアネ−ト変性PASと分子内に水酸基を有するポリカーボネート系樹脂とを極性有機溶媒中で反応させて得られるPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体を意味する。また、前記共重合体とは、グラフト及び/又はブロック共重合体を意味する。
前記、PAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)或いはPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)の製造方法としては、本発明は特にこれを規定するものではなく、種々の製造方法が用いられる。
前記イソシアネ−ト変性PAS系樹脂としては、例えば、特開平5−170919号公報、特開平5−170908号公報に記載されているように、分子内にアミノ基を有するPASとジイソシアネート化合物とを極性有機溶媒中で反応させることによって得られる。具体的には、p―ジクロルアニリン等のハロゲン化アミノベンゼンとジクロルベンゼン等のハロゲン化物スルフィド化剤とを用いて分子内に一個以上のアミノ基を有するPAS系樹脂を合成する。前記ハロゲン化物とアミノ基を置換基として有するハロゲン化アミノベンゼンとの割合は格別限定されるものではないが、耐熱性を低下させないことを考慮して、ハロゲン化アミノベンゼンが0.2〜25モル%含まれることが望ましく、パラ体のジハロゲン化物が85モル%以上含まれることが好ましい。
次いで、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等のイソシアネ−ト化合物をN−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒中で、一般に0℃〜300℃、好ましくは15℃〜280℃および30分〜50時間の範囲で反応させることで得られる。アミノ基を有するPASとイソシアネート化合物との使用割合は、得られるイソシアネート基を有するPAS中のイソシアネート単位が0.1〜25モル%となるように両者の量を設定すればよく、その量の範囲はアミノ基を有するPAS100重量部に対してイソシアネート化合物が通常0.5重量部以上、望ましくは1〜70重量部である。
また、PAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)は、例えば、前記イソシアネ−ト変性PAS系樹脂と分子内に水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂とを極性有機溶媒中反応させて得られる。この際、極性有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。反応温度および反応時間は一般に150℃〜300℃、好ましくは180℃〜280℃および0.5〜10時間の範囲で選ぶことができる。
前記イソシアネ−ト変性PAS系樹脂と水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂との使用割合は任意に設定できるが、通常、イソシアネ−ト変性PAS系樹脂と水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂との重量比〔(イソシアネ−ト変性PAS系樹脂)/(水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂)〕が1/95〜95/1であることが好ましくは、25/75〜75/25が更に好ましく、40/60〜60/40が特に好ましい。
また、PAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)は、例えば、前記イソシアネ−ト変性PAS系樹脂と分子内に水酸基を有するポリカーボネート系樹脂とを極性有機溶媒中で反応させて得られる。反応条件は、前記PAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)の場合と同様であり、前記イソシアネ−ト変性PAS系樹脂と分子内に水酸基を有するポリカーボネート系樹脂との使用割合は、任意に設定できるが、通常、イソシアネ−ト変性PAS系樹脂と分子内に水酸基を有するポリカーボネート系樹脂との重量比〔(イソシアネ−ト変性PAS系樹脂)/(分子内に水酸基を有するポリカーボネート系樹脂)〕が1/95〜95/1であることが好ましくは、25/75〜75/25が更に好ましく、40/60〜60/40が特に好ましい。
なお、前記ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂は、それぞれ2種以上を混合して使用しても差し支えない。
また前記の方法以外に、例えば、分子内にアミノ基を有するPAS系樹脂と水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂とジイソシアネート化合物とを反応させて前記PAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)を得てもよい。
前記分子内にアミノ基を有するPAS系樹脂とジイソシアネート化合物の使用割合は分子内にアミノ基を有するPAS系樹脂100重量部に対してジイソシアネート化合物が0.5重量部以上、好ましくは1〜70重量部である。また、分子内にアミノ基を有するPAS系樹脂と水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂の反応割合は、前述の方法と同じである。
また、同様に分子内にアミノ基を有するPAS系樹脂と分子内に水酸基を有するポリカーボネート系樹脂とジイソシアネート化合物とを反応させて前記PAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)を得てもよい。その際の、各成分の反応割合は、前述の方法と同一である。
これらの方法において用いられる極性有機溶媒としては前記製造方法において例示したものと同様なものを用いることができる。また、反応温度および反応時間も、室温〜300℃好ましくは180℃〜280℃および0.5〜50時間の範囲で選ぶことができる。また、前記PAS系樹脂とポリエステル系樹脂或いは前記PAS系樹脂とポリカーボネート系樹脂の反応率は、相溶性が良好となることから、それぞれ、前記PAS系樹脂に対して、ポリエステル系樹脂或いはポリカーボネート系樹脂が、0.5重量%以上が好ましく、1〜70重量%が、特に好ましい。また、ポリエステル系樹脂或いはポリカーボネート系樹脂が未反応で残留していてもよい。
前記の何れかの製造方法において得られた樹脂は、反応終了後、生成物を濾別し、アセトンなどで洗浄し、次いで加熱乾燥することによってグ、PAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)、或いはPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)を得ることができる。
PAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)、或いはPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)の共重合の形態としては、グラフトの形でもブロック鎖でもよい。
前記PAS−ポリエステル系樹脂共重合体(A)およびPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)における分子内にアミノ基を有するPAS系樹脂は、その骨格は次の式〔1〕で表わされるアリーレンサルファイド結合からなるか、または該アリーレンサルファイド結合式〔1〕を主成分とし、下記結合式〔2〕で示されるメタ結合、次の結合式〔3〕で示されるケトン結合、結合式〔4〕で示されるスルホン結合、次の結合式〔5〕で示されるエ−テル結合、結合式〔6〕で示されるビフェニル結合、次の結合式〔7〕で示されるナフタレン結合、結合式〔8〕で示される置換フェニルスルフィド結合(但し、結合式〔8〕中、R2はアルキル、ニトロ、フェニル、アルコキシ、カルボキシル基を示す。)、次の結合式〔9〕で示される3官能結合で例示されるような共重合成分から導かれる結合を副成分として含有していてもよい。但し、当該共重合成分は、30モル%未満であることが好ましく、DSCで測定した該PAS系樹脂の融点は200℃以上、好ましくは240℃以上である。
(式中、R
1は炭素原子1〜3個のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、nは0〜3の整数を示す)
本発明で使用するPAS系樹脂は、一般にその製造法により、実質上線状で分岐構造や架橋構造を有さないものと分岐構造や加熱処理により得られる架橋構造を有するものとに大別されるが、本発明に於いてはその何れのタイプのものにも有効であり、特に限定されないが、加熱処理により得られる架橋構造を持たない実質上線状及び/又は分岐構造のPAS系樹脂が耐衝撃性、成形性を保持する上で好ましい。
本発明に使用するPAS系樹脂の分子量は特に制限はないが、例えば、315.6(℃)、5000gで測定したメルトフロ−レ−ト(以下、MFRと記す)で評価した場合、1〜10000(g/10分)のものが好ましく、2〜5000(g/10分)の範囲のものが特に好ましい。またDSCにより測定された融点が200℃以上、好ましくは240℃以上であるPAS系樹脂が耐熱性を保持する上で好ましい。
前記分子内に水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂は、エステル結合を繰り替えし単位として有するオリゴマ−及び/又はポリマ−であり、一般に言われている非晶性または結晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、未硬化の熱硬化性ポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも一種が使用される。好ましくは熱可塑性ポリエステル系樹脂である。
水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステルとしては、例えば、下記の酸成分と下記のアルコール成分を重縮合したものが挙げられる。前記酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルカルボン酸、ジフェニルエーテルカルボン酸、α,β−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などのジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体或いはこれらの酸無水物が挙げられる。
また、アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、キシリレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のジオール類;、脂肪酸ポリエステルオリゴマーなどのグリコールとの重縮合物の両末端が水酸基であるものが挙げられる。
また、グリコール酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフェニル酢酸、ナフチルグリコール酸などのようなヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンのようなラクトン化合物等を重縮合したり、前記酸成分と前記のアルコール成分を重縮合する際に併用したりしてもよい。
上記ポリエステル系樹脂、好ましくは、熱可塑性ポリエステル系樹脂は、コモノマー成分として、熱可塑性を保持し得る範囲内でトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような多官能性エステル形成性成分を含んでいてもよい。また、ジブロモテレフタル酸、テトラブロモテレフタル酸、テトラブロモフタル酸、ジクロロテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、1,4−ジメチロールテトラブロモベンゼン、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような芳香族核に塩素や臭素のようなハロゲンを置換基として有し、かつエステル形成性基を有するハロゲン化合物を共重合した熱可塑性ポリエステル系樹脂も含まれる。
前記ポリエステルの特に好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレ−ト、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリ(エチレン・ブチレンテレフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレン・テトラメチレン・テレフタレート)、2,2−ビス(β−ヒドロキシエトキシテトラブロモフェニル)プロパンとの共重合ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト、液晶ポリエステルなどが挙げられる。これらは通常単独で使用されるが、2種以上使用しても差し支えない。これらの中で特に好ましいポリエステル系樹脂樹脂としてはポリブチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレ−トである。
ポリエステル系樹脂の製造方法としては公知の方法が用いられ、特にこれを規定するものではない。前記ポリブチレンテレフタレ−ト系樹脂(以下「PBT系樹脂」と記す)、前記ポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂(以下「PET系樹脂」と記す)としてはベンジルアルコ−ル中で1/50Nの水酸化カリウム・ベンジルアルコ−ル溶液で滴定した酸価が4.0mgKOH/g以下、好ましくは3.0mgKOH/g以下であることが耐熱性、耐加水分解性を低下させない上で好ましい。
また、好ましいPBT系樹脂およびPET系樹脂の分子量は特に制限されないが、極限粘度で表した場合、耐熱性を低下させない上で、PBT系樹脂の場合、30℃のフェノ−ル/テトラクロルエタン=6/4の混合溶媒中で測定した極限粘度〔η〕が0.70dl/g〜1.30dl/g、好ましくは0.80dl/g〜1.20dl/gである。
前記のPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)の製造に使用される好ましいポリカーボネート系樹脂としてはイソシアネ−ト変性PASと反応させる分子内に水酸基を有するポリカーボネート系樹脂である。さらにイソシアネ−ト基と反応しうる有機官能基を持った単量体またはポリマ−で変性した変性ポリカーボネート系樹脂であっても差し支えない。
このようなポリカーボネート系樹脂としては、一般には2,2−ビス(4−オキシフェニル)アルカン系、ビス(4−オキシフェニル)エ−テル系、ビス(4−オキシフェニル)スルホン、スルフィドまたはスルホキサイド系などの芳香族ジヒドロキシ化合物からなる重合体、もしくは共重合体である。ポリカーボネート系樹脂は任意の方法によって製造される。例えば、4,4´−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(通称ビスフェノ−ルA)のポリカーボネートの製造には、ジオキシ化合物として4,4´−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンを用いて、苛性アルカリ水溶液および溶剤存在下にホスゲンを吹き込んで製造するホスゲン法、または4,4´―ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンと炭酸ジエステルとを触媒存在下でエステル交換させて製造する方法を利用することができる。
代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノ−ルAと呼ばれる)が好ましい。
エステル交換法にもちいられる炭酸ジエステルとしてはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的な好ましいジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
本発明においては、ポリカーボネートの水酸基は、1H―NMRを用いて求めることができ、全末端基に対して、イソシアネ−トとの反応性が良好であることから1モル%以上、組成物の耐湿熱性が良好であることから30モル%以下が好ましい。
また、ポリカーボネート系樹脂の分子量は特に制限されないが、MFRで評価した場合、300℃/1200gのメルトフロ−レ−トで測定した値が1〜40g/10分、好ましくは1〜30g/10分が耐熱性の上で好ましい。
本発明で用いるポリアリ−レンサルファイド系樹脂(C)(以下、PAS系樹脂(C)と記す。)とは、ポリアリ−レンサルファイド−ポリエステル系樹脂共重合体(A)やポリアリ−レンサルファイド−ポリカーボネート系樹脂共重合体(B)を製造する際に用いられるPAS系共重合体と同様のものが用いられる。一般的には、前記―般式〔1〕で示される繰り返し単位を70モル%以上含有する重合体で、その代表的重合体は構造式〔Ph−S〕(但し、Phはフェニル基)で示される繰り返し単位を70モル%以上含有するポリマーである。この繰り返し単位が70モル%以上であれば、結晶化ポリマーとしての特性である優れた強度、靱性、耐薬品性などを備えたPAS系樹脂を得ることが可能となる。
前記本発明で使用するPAS系樹脂(C)は、一般にその製造法により、実質上線状で分岐構造や架橋構造を有さないものと分岐構造や加熱処理により得られる架橋構造を有するものとに大別されるが、本発明に於いてはその何れのタイプのものにも有効であり、特に限定されないが、加熱処理により得られる架橋構造を持たない実質上線状及び/又は分岐構造のPAS系樹脂が耐衝撃性、成形性を保持する上で好ましい。
また、PAS系樹脂(C)は、30モル%未満の他の共重合構成単位を含んでいてもよい。そのような共重合構成単位の具体例としては、例えば、前述した構造式〔2〕〜構造式〔9〕のような構成単位などが挙げられるが、本発明ではこれらに限定されるものではない。
前記PAS系樹脂(C)の分子量は特に制限はないが、315.6(℃)、5000gで測定したMFRで評価した場合、好ましくは1〜10000(g/10分)、より好ましくは2〜5000(g/10分)の範囲である。またDSCにより測定された融点が200℃以上、好ましくは240℃以上であるPAS系樹脂が耐熱性を保持する上で好ましい。
本発明で用いられる成分であるポリエステル系樹脂(D)およびポリカーボネート系樹脂(E)としては実質的に前述した本発明の(A)および(B)のPAS系共重合体の製造時に用いられるポリエステル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂と同様なものが用いられる。
好ましいポリエステル系樹脂としては、熱可塑性で、かつ結晶性であるポリブチレンテレフタレ−ト系樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂である。好ましいポリブチレンテレフタレ−ト系樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂としてはベンジルアルコ−ル中で1/50Nの水酸化カリウム・ベンジルアルコ−ル溶液で滴定した酸価が3.0mgKOH/g以下、好ましくは2.5mgKOH/g以下であることが組成物の耐加水分解性を保持する上で好ましい。
また、好ましいポリブチレンテレフタレ−ト系樹脂およびポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂の分子量は特に制限されないが、30℃のフェノ−ル/テトラクロルエタン=6/4の混合溶媒中で測定した極限粘度〔η〕が0.7dl/g〜1.3dl/g、さらに0.8dl/g〜1.2dl/gであるポリエステル系樹脂が機械的特性を保持する上で好ましい。
また好ましいポリカーボネート系樹脂としては300℃/1200gで測定されたメルトフロ−レ−トが40(g/10分)以下、さらには30(g/10分)以下が機械的特性を保持する上で好ましい。
またポリエステル系樹脂(D)およびポリカーボネート系樹脂(E)は単独で使用しても、併用しても差し支えない。
本発明で、用いる(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、多層成形体の柔軟性あるいは耐衝撃性を保つ上で、23℃における曲げ弾性率は、耐衝撃性、柔軟性が良好であることから、2000MPa以下の樹脂組成物に変性した樹脂組成物からなる樹脂層であることが好ましい。なお、曲げ弾性率はASTM D790やISO 178等の規格に従って測定される値である。また、特に、本発明の多層成形体をチューブやホースに用いる場合には、屈曲性が不十分で曲げ加工が制限されるため好ましくない場合があり得る。特に多層成形体の耐衝撃性や屈曲性に優れる点から、好ましい曲げ弾性率は1000〜1800MPaである。
前記は(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、前記樹脂(A)〜(E)をそれぞれそのまま用いてもよいが、前述した耐衝撃性、柔軟性を付与するために成分(A)〜(E)の樹脂に有機官能基含有オレフィン系樹脂、有機官能基を含有してもよいアクリルゴム、有機官能基含有スチレン系エラストマ−および有機官能基を含有してもよいニトリル系エラストマ−等の熱可塑性弾性体を加えても差し支えない。該熱可塑性弾性体としては、各々の樹脂層を構成する樹脂に上記熱可塑性弾性体と押出機等により溶融混錬りし、混合分散出来る事が好ましく、その為200℃以下で溶融可能な熱可塑性の弾性体であり、室温でゴム弾性を有するガラス転移温度が−20℃以下、好ましくは−30℃以下の熱可塑性弾性体であることが好ましい。
また、特に各々の樹脂層を構成する樹脂との混合が容易であり、得られる多層成形体の耐熱性と耐衝撃性の向上が顕著である点で、分子内に有機官能基を持つオレフィン系樹脂、必要に応じて有機官能基を有するアクリルゴム、同じく有機官能基を有するスチレン系弾性体および有機官能基を有するニトリル系弾性体用いることが好ましい。
有機官能基含有オレフィン系樹脂としては、α−オレフィン類の共重合体、α−オレフィン類とα、β―不飽和カルボン酸のエステル類との共重合体、α−オレフィン類とカルボン酸の不飽和エステルとの共重合体等が挙げられ、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。有機官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、オキサゾリン基及びビニル基などの官能基を有するものが好ましく、特に化学的に結合したカルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基の何れか1種以上の官能基を有するオレフィン系樹脂弾性体であることが好ましい。有機官能基の量は0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上が相溶性を保つ上で好ましい。
本発明で用いられる有機官能基を含有してもよいアクリルゴムとして好ましいものは、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルを主成分とするモノマー単位より得られる共重合体であり、かつα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が75〜99.8重量%からなるゴム状弾性体である。
前記有機官能基を含有してもよいアクリルゴム他の単量体として架橋用単量体、グラフト結合用単量体からなる単量体類を前記不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と共重合したものでも差し支えない。他の単量体として架橋用単量体、グラフト結合用単量体からなる単量体類としては、具体的には炭素数1〜12個の不飽和カルボン酸であり、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸イソブチル等(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類が挙げられ、これらの内、特にアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル等が好ましい。また、これらα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルは単独で用いてもよく2種以上を併用しても差し支えない。
前記アクリル系ゴムに共重合してもよいその他の単量体としては、更に、有機官能基として無水マレイン酸、エポキシ基を有する上記不飽和カルボン酸アルキルエステルやα,β−不飽和酸のグリシジルエステル等が使用できる。また、他の単量体として架橋用単量体、グラフト結合用単量体からなる単量体系を不飽和カルボン酸アルキルエステルと共重合したものが挙げられる。前記架橋用単量体としては複数の二重結合を有し、しかもその全てが実質的に同一速度で重合する、ブチレンジアクリレ−ト、ジメタクリレ−ト、ジビニルベンゼン、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−トおよびトリメタクリレ−ト、並びに同様の化合物のようなポリエチレン性不飽和単量体である。これらのなかで、ブチレンジアクリレ−トが最も好ましい。また、グラフト結合用単量体とは複数の二重結合を有するが、その少なくとも一個は他の二重結合とは実質的に異なる重合速度で重合するポリエチレン性不飽和単量体である。これらの例としては、アリルメタアクリレート、エチレングリコ−ルジメタアクリレ−ト、プロピレングリコ−ルジメタアクリレ−ト、1,3−ブチレングリコ−ルジメタアクリレ−ト、1,4−ブチレングリコ−ルジメタアクリレ−ト、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。好ましいグラフト結合用単量体としてはアリルメタクリレ−ト、ジアリルフマレ−トである。グラフト結合用単量体の使用量は、通常、アルキル(メタ)アクリレ−ト成分中、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。
前記有機官能基含有スチレン系エラストマ−とは、スチレン系弾性体が例えばスチレン、α―メチルスチレン等から選ばれる少なくとも1種のスチレン系化合物からなるポリスチレンブロックと少なくとも1種の共役ジエン類、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、1,3−ペンタジエン等からなるジエン系ブロックとのブロック共重合体が挙げられる。
有機官能基含有スチレン系エラストマ−の具体的な例としては、スチレンーブタジエンブロック共重合体類、スチレンーイソプレンブロック共重合体類、スチレンーイソプレンーブタジエンブロック共重合体類、スチレンーイソプレンーn―ブチルアクリレートブロック共重合体類、スチレンーブタジエンーn―ブチルアクリレートブロック共重合体類、スチレンーブタジエンーメチルアクリレートブロック共重合体類、スチレンーブタジエンー2―ヒドロキシプロピルメタアクリレートブロック共重合体類が挙げられる。特に好ましい共重合体類としてはスチレンーブタジエンブロック共重合体、スチレンーイソプレンブロック共重合体類である。
有機官能基含有スチレン系エラストマ−が分子内に含有する有機官能基として本発明で好ましいのは、ビニル基、水酸基、カルボキシル基、ジカルボン酸の酸無水物基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、イソシアヌレート基、マレイミド基であり、さらに好ましくはカルボキシル基、ジカルボン酸の酸無水物基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基である。さらに好ましくはカルボキシル基、ジカルボン酸の酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基である。これらスチレン系弾性体は分子内に含まれる二重結合の30%以上が前述したニトリル系弾性体同様に水素添加されたスチレン系弾性体であっても差し支えない。
前記熱可塑性弾性体の配合量としては、特に制限されるものではないが、本発明で用いられる(A)〜(E)の樹脂50〜95重量%に対して、熱可塑性弾性体がそれぞれ5〜50重量%であることが好ましく、特に10〜40重量%であることが好ましい。
本発明で用いられる有機官能基を含有してもよいニトリル系エラストマ−としては、ニトリル系エラストマ−が少なくとも1種の不飽和ニトリル、例えばアクリロニトリルまたはメタアクリロニトリルと、少なくとも1種の共役ジエン類の共重合体とこれらの水素添加物が挙げられる。共役ジエン類としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、1,3−ペンタジエン等からなる共重合体が挙げられる。
前記共重合体の例としては、アクリロニトリルーブタジエン共重合体類、アクリロニトリルーイソプレン共重合体類、アクリロニトリルーイソプレンーブタジエン共重合体類、アクリロニトリルーイソプレンーn―ブチルアクリレート共重合体類、アクリロニトリルーブタジエンーn―ブチルアクリレート共重合体類、アクリロニトリルーブタジエンーメチルアクリレート共重合体類、アクリロニトリルーブタジエンー2―ヒドロキシプロピルメタアクリレート共重合体類が挙げられる。特に好ましい共重合体類としてはアクリロニトリルーブタジエン共重合体類である。
ニトリル系エラストマ−が分子内に含有する有機官能基としては、ビニル基、水酸基、カルボキシル基、ジカルボン酸の酸無水物基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、イソシアヌレート基が好ましい。さらに好ましくはカルボキシル基、ジカルボン酸の酸無水物基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基である。カルボキシル基、ジカルボン酸の酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基が特に好ましい。
また、有機官能基をニトリル系エラストマ−の分子内に導入する方法としては公知の方法が取られるが、好ましくは該官能基を有する有機化合物をランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合する方法により共重合化するのが好ましい。たとえば、特開昭58−142901号、特開昭58−162602号、特開昭59−213744号、特開昭60−32839号、特開昭60−32840号、特開昭60−130603号等にみられるように、水素添加前のニトリル系エラストマーにカルボキシル基含有有機化合物をグラフト重合または付加する方法が挙げられるが、特にこれに限定するものではない。
また、前記ニトリル系エラストマ−を水素添加したものを用いてもよい。なお、ここで「水素添加」の意味は、実質上>C=C<の二重結合のみが水素添加されることあって、即ち−C≡Nの三重結合を維持しながら共役ジエン化合物の二重結合を水素添加することを意味している。水素添加する方法としては特開昭59−117501号、特開昭58−17103号、特開昭62−42937号、特開昭62−125858号、特開平1−45404号、特開平3−252405号等に記載されている鉄、コバルト、ニッケル、白金、パラジウム等の触媒により処理する公知の方法が取られるが、本発明はこれを限定するものではない。また、本発明で用いられる水素添加率としてはJIS K−0070記載のヨウ素価率により表現する。
また、本発明で用いる有機官能基を含有してもよいニトリル系エラストマ−としては、前記水素添加されたニトリル系エラストマーの分子内に含まれる二重結合の30%以上が水素添加されたニトリル系弾性体が耐熱性上好ましい。
本発明では多層成形体のバリア層としては成分(a)、成分(b)、成分(c)が単独で使用されるが、併用しても差し支えない。この場合バリア層としてはPAS系樹脂成分が10重量%以上、好ましくは30重量%以上含有することがバリア性を保つ上で好ましい。
また接着層としては成分(a)、成分(b)をそれぞれ単独で使用するか、あるいは成分(a)、成分(c)、成分(d)の併用または成分(b)、成分(c)、成分(e)の併用系を接着層として使用しても差し支えない。併用して用いる場合、好適な組成比は合計を100重量%とした場合、成分(a)または成分(b)が1〜30重量%、成分(d)または成分(e)が1〜98重量%である。
更に好ましくは、成分(a)または成分(b)が3〜15重量%、成分(d)または成分(e)1〜96重量%である。
ここで、成分(a)または(b)が1重量%以上であると、接着層の物性が良好であり、また接着層の耐熱性が良好なことから30重量%以下が好ましい。
本発明の多層成形体は種々の射出成形、押出し成形、ブロ−成形、回転成形など各種の方法で成形できる。具体的には高分子学会編、プラスチック加工技術ハンドブック(1995年 日刊工業新聞社発行)等に記載されている公知の成形法を使用できるが、特にこれを限定するものでは無い。
フィルム、シ−ト等の多層成形では、共押出用のマルチマニホ−ルドダイを使用した2層以上の多層フィルムおよびシ−ト、インフレ−ションフィルムでは多層インフレ−ションフィルム用の多層サ−キュラ−ダイを使用した多層成形法挙げられる。また同様に共押出用のダイを使用したパイプ、チュ−ブ、ホ−ス等の成形も可能である。
ブロ−成形では2層以上の共押出用ヘッドを用い、共押出によりパリソンを形成させる多層押出ブロ−成形、共射出によりパリソンを形成する多層インジェクションブロ−成形などが挙げられる。
また、回転成形では、本発明の(A)〜(E)までの樹脂をそれぞれ粉末状にし、各樹脂毎に1つの金型で成形を行い、2層以上の多層成形体を成形することが出来る。
更に射出成形では(A)〜(E)の各樹脂をそれぞれ個別に成形した後、重ね合わせて振動溶着法、超音波溶着法あるいは熱板融着法等により熱融着させる方法が取られる。あるいはそれぞれの樹脂をバリア層、接着層等の目的にあわせて多色成形あるいはダイスライド成形し、その後、前述した振動溶着法や超音波溶着法により熱融着させることも可能である。
本発明の多層成形体は各種の成形体として好適に用いることができ、バリア性の必要な各種中空容器、多層フィルム、包装材料、パイプ、チュ−ブ等に使用させる。具体的なバリア性多層中空容器は、薬液および/またはガス貯蔵用などの中空容器として好ましく用いることができる。薬液やガスとしては、例えば、フロン−11、フロン−12、フロン−21、フロン−22、フロン−113、フロン−114、フロン−115、フロン−134a、フロン−32、フロン−123、フロン−124、フロン−125、フロン−143a、フロン−141b、フロン−142b、フロン−225、フロン−C318、R−502、1,1,1−トリクロロエタン、塩化メチル、塩化メチレン、塩化エチル、メチルクロロホルム、プロパン、イソブタン、n−ブタン、ジメチルエーテル、ひまし油ベースのブレーキ液、グリコールエーテル系ブレーキ液、ホウ酸エステル系ブレーキ液、極寒地用ブレーキ液、シリコーン油系ブレーキ液、鉱油系ブレーキ液、パワーステアリングオイル、ウインドウオッシャ液、ガソリン、メタノール、エタノール、イソプタノール、ブタノール、窒素、酸素、水素、二酸化炭素、メタン、プロパン、天然ガス、アルゴン、ヘリウム、キセノン、医薬剤等の気体および/または液体が挙げられる。これら薬液および/またはガスの耐透過性が優れていることから、例えば、シャンプー、リンス、液体石鹸、洗剤等の各種薬剤用ボトル、薬液保存用タンク、ガス保存用タンク、冷却液タンク、オイル移液用タンク、消毒液用タンク、輸血ポンプ用タンク、燃料タンク、キャニスター、ウォッシャー液タンク、オイルリザーバータンクなどの自動車部品、医療器具用途部品、および一般生活器具部品としてのタンク、ボトル状成形品やまたはそれらタンクなど各種用途が挙げられる。また柔軟性と燃料バリヤー性に優れることから、燃料チューブや燃料ホースに好ましく適用される。
また、本発明組成物に非ハロゲン系難燃剤を併用することにより、非ハロゲン難燃性樹脂組成物を作成することが出来る。非ハロゲン系難燃剤としては公知のものが使用できる。具体的には、赤リン、樹脂あるいは金属酸化物等で被覆された赤リン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、含水ホウ酸亜鉛等の無機系難燃剤。メラミン、メラミンシアヌレ−ト、メラム、メレム、メロム、リン酸エステル、縮合系リン酸エステル、リン含有フェノ−ル系樹脂、ポリ燐酸メラミン、ポリ燐酸メラム、ポリ燐酸メレム、硫酸メラミン、グアニジン系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、燐酸アンモニウム等の分子内にリン原子及び/又は窒素原子を含む有機または無機系難燃剤、シリコ−ン系難燃剤等が挙げられる。
本発明の方法で得られた組成物は、諸物性を付与する目的から、必要に応じてガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、繊維状チタン酸カリウム、アスベストおよび炭化ケイ素や窒化ケイ素等を初めとする各種のウイスカー等の繊維状無機充填剤、グラファイト、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、窒化ホウ素、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、バィロフィライト、ベントナイト、ヘクトライト、スメクタイト、セリサイト、ゼオライト、雲母、合成雲母、ネフェリンシナイト、フェライト、アタパルジャイト、ウォラストナイト、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、二硫化モリブデン、黒鉛、石こう、ガラス粉、ガラスビーズ、石英、石英ガラス、鉄、亜鉛、銅、アルミニウム、ニッケル等の無機充填剤を一種または二種以上配合することができる。
以下に実施例及び比較例により本発明の効果を示す。
物性測定法
(曲げ試験) 射出成形機にて、長さ127mm×幅12.7mm×厚み3.07mmの曲げ試験用テストピ−スを成形し、ASTM D−790に従い、曲げ弾性率を測定する。
(剥離強度)東洋精機製 直径20mmの押出機を持つ3層多層フィルムダイを用いて、各層の厚みが100〜200μm、幅100mmの2層あるいは3層の多層フィルムを成形し、JISk−6854に基づき、180°の剥離試験を23℃および120℃で行った。
(燃料透過係数) 前述した多層フィルムを評価試料とした。ジーティーアールテック株式会社製の差圧式ガス透過試験機(GTR−30VAD)を用いて、40℃におけるFuel C/エタノール=90/10(重量比)の透過係数を測定した。透過した燃料の検出は、差圧式ガス透過試験機に連結したガスクロマトグラフを用いた。
(引張試験) 射出成形にて、ASTM D638に準拠し、厚み1.6mmの4号ダンベルを成形し、引張速度10(mm/min.)の速度で引張試験を行った。
(アイゾット衝撃試験)ASTMD256に準拠し、厚み3mmの成形ノッチ試験片を射出成形にて成形し、ハンマ−荷重30kgf−cmでアイゾット衝撃試験を行った。
参考例1(側鎖にアミノ基を有するポリフェニレンサルファイド(PPS)の合成)
容量100リットルの撹拌機付のオートクレーブ中に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)25lとNa2S(含水量40重量%)12.7kgとNaOH31gを仕込み、窒素雰囲気中で撹拌しながら約2時間かけて205℃にまで徐々に昇温させて脱水した。その後、反応系を150℃にまで冷却し、反応系にパラジクロルベンゼン14kg、P−ジクロルアニリン800gと1,2,4−トリクロルベンゼン50gをNMP8kg中に溶解した溶液を加え、更に1時間かけて250℃にまで昇温し、2時間反応を行った。反応終了後、オートクレーブを室温にまで冷却し、内容物を濾別し、反応生成物である濾過ケーキを50℃で脱イオン水で3回洗浄し、副生した食塩やその他の未反応物を除き120℃で乾燥してアミノ基を有するPPS樹脂を得た。
参考例2(側鎖にイソシアネート基を有するPPSの合成)
4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1210gにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)50lを加え、溶解したのち、アミノ基を有するPPS7500gを加え、室温で24時間撹拌を行いながら反応を行った。室温にまで冷却したのち、反応スラリーを濾過して得たケーキをアセトンで十分洗浄し、150℃で1晩減圧乾燥して、反応生成物を得た。得られた変性PPSのイソシアネート基量はジ−n−ブチルアミンを用い、電位差滴定により求めた。すなわち、秤量した試料1gにNMP50mlとジ−n−ブチルアミン0.5mlを加え、室温で30分間撹拌したのち、イオン交換水10mlを加えた。未反応で残っているジ−n−ブチルアミンを0.5N塩酸を用いて電位差滴定して、滴定値より変性PPSのイソシアネート基量を求めたところ、変性PPS100gあたり1.2モルであった。
参考例3 共重合体の合成
参考例2の反応で得た側鎖にイソシアネート基を有する変性PPS2.5kgと極限粘度〔η〕=0.90(dl/g)、酸価 1.5(mgKOH/g)のポリブチレンテレフタレート2.5kgをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)25l中に表1に示す所定量を加え、表1に示した所定の条件で加熱撹拌して反応を行った。得られた反応スラリーを濾過したのち、得られたケーキをアセトンで洗浄し150℃で1晩減圧乾燥した。なお、反応率(%)=〔(反応したPBTの重量/幹のPPSの重量)×100〕は次の方法により、赤外吸収スペクトルから求めた。あらかじめ未変性のPPSとPBTを種々の割合で混合したブレンド物から作成した検量線を用いてPBTのC=O伸縮振動に基づく1720cm−1とベンゼン環のC=C伸縮振動に基づく1580cm−1の吸光度の比から求めた共重合化率を表1に示す。
参考例4
参考例3において、PBTをポリカーボネートに代えた以外は同様の方法で共重合体の合成を行った。MFR=10g/10分、水酸基濃度=4.90モル%のポリカーボネートを使用した。反応率の測定はポリカーボネートの場合、ポリカーボネートのC=O伸縮振動に基づく1780cm−1とベンゼン環のC=C伸縮振動に基づく1580cm−1の吸光度の比から反応率を求め参考例3と同様に行った。共重合化率を表1に示す。
参考例5
4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート400gにNMP100Lを加え溶解したのち、アミノ基を有するPPS2.5kgと参考例3で使用したPBT樹脂2.5kgを加え、所定温度で3時間加熱撹拌して反応を行った。得られた反応スラリーを濾過したのち、得られたケーキをアセトンで洗浄し、150℃で1晩減圧乾燥した。反応率の測定は参考例3と同様に行った。共重合化率を表1に示す。
参考例6〜10(曲げ弾性率が2000MPa以下の変性樹脂組成物の作成)
参考例3および4、成分(D)として〔η〕=1.10(dl/g)、酸価1.5(kohmg/g)のPBT樹脂(PBT―1)、成分(E)としてMFR=10(g/10分)のポリカーボネート樹脂(PC−1)、ゴム状弾性体として、
M―01:エポキシ基含有ポリオレフィン系樹脂(ボンドファ−スト7L、住友化学製)
M−02:アクリルゴム(EXL2311、呉羽化学製)
を使用し、表2に示す配合にて混合した。ついで2軸押出機TEM−35B(東芝機械製)にて、表―1に示す温度で溶融混錬りし、ペレット化した。得られたペレット射出成形機にて、表2に示す温度で曲げ試験用テストピ−スを成形し、曲げ試験を行い、曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
参考例11
(バリア層、接着層組成物の作成)
下記 表3に示す組成表にてバリア層および接着層に使用する組成物を作成した。表3に示す組成表にて配合し、2軸押出機(東芝機械製 TEM35B)にてシリンダ−温度290(℃)で溶融混錬りし、得られたストランドを冷却後、ペレット状にカッティングし、ペレット化した。
実施例1〜4及び比較例1〜2
(A)および(B)成分をバリア層として参考例3のPAS−ポリエステル系樹脂共重合体およびそのエポキシ基含有ポリオレフィン系樹脂変性体(参考例6)、参考例4のPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体およびそのアクリルゴム変性体(参考例7)を、他層を成分(D)として参考例9で使用したPBT−1および参考例9、成分(E)として参考例10で使用したPC−1および参考例10をチルロ−ル温度60℃、その他は表―4に示す条件にて、2層の多層フィルムを成形した。該フィルムについて前述した方法により、180°の剥離試験およびガソリン透過性を測定した。
比較例1、2
成分(A)、(B)の代わりにMFR=20(g/10分)の実質的に直鎖状のPPS樹脂(PPS−1)、PBT−1、PC−1を用いる以外は、実施例と同様に2層の多層フィルムを成形し、180°の剥離試験およびガソリン透過性を測定した。
本発明の組成物はバリア層が無いものと比較してガソリン透過性が少なく、かつ、層間の密着性に優れ、バリヤ性フィルムに有用である。比較例1および2はガソリン透過性はすぐれているものの、層間の密着性が悪く、実用上使用できない。
実施例5〜8および比較例3〜6
以下に示す構成にて3層の多層フィルムを成形した。
(1) 接着層として参考例3および参考例9のPAS−ポリエステル系樹脂共重合体、同じく接着層として参考例4および参考例10のPAS−ポリカーボネート系樹脂共重合体。
(2) バリア層としてPPS−01および参考例8のPPS系樹脂。
(3) 接着層を挟んだバリア層以外の層をPBT−1およびPC−1。
以上の構成にて表5に示す成形条件にて各層の厚みが100μm、幅100mmの多層フィルムを成形した。このフィルムを用い、実施例1と同様に、剥離強度、ガソリン透過性を測定した。剥離強度はバリア層と接着層の剥離強度を剥離強度A、接着層と他層の剥離強度を剥離強度Bとした。
比較例として、接着層に無水マレイン酸変性ポリプロピレン(オレバック PPMLS アトフィナ・ジャパン製)を使用した以外は実施例5〜と同様に3層の多層フィルムを成形し、剥離強度、ガソリン透過性を測定した。結果を表5に示す。
本発明の多層フィルムはバリア性に優れ、かつ加熱時の層間密着性に優れており、耐熱性にも優れている。比較例に示されるオレフィン系の接着性フィルムを使用したものは、常温での接着性は良好であるが熱劣化性に劣る。
実施例9〜13および比較例7〜8
参考例11〜13の樹脂組成物、PPS−01、PBT−1およびPC−1を表6に示す構成にて実施例1に使用した多層フィルム用押出機を用い、表6に示す条件にて2層あるいは3層の多層フィルムを作成した。 得られたフィルムの剥離強度AあるいはBを実施例1と同様に測定した。結果を表6に示す。
比較例として成分(A)および(B)を使用しない組成物を参考例11と同様にペレット化し、表6に示す構成にて、実施例9〜13と同様に多層フィルムを作成し、剥離強度を測定した。
本発明の多層フィルムは耐熱性に優れ、耐熱性良好である。
実施例14および比較例10
実施例1で作成した多層フィルムを粉砕し、φ40mmの1軸押出機にて、シリンダ−温度290(℃)で溶融混錬りし、ペレット化した。得られたペレットを130(℃)で3時間乾燥した後、シリンダ−温度290(℃)、金型温度120(℃)に設定した射出成形機にて、引張試験用ダンベルおよびアイゾット衝撃試験用試験片を成形し、それぞれ引張試験及びアイゾット衝撃試験を行った。結果を表7に示す。
比較例として、比較例1で使用したフィルムを用いた以外は実施例14と同様に物性を評価した。結果を合わせて表7に示す。
本発明の多層フィルムは使用後に通常の射出成形用の材料としても使用でき、リサイクル使用に有利な多層フィルムである。
実施例で明らかなように、本発明の多層フィルムは耐熱性に優れた、層間の密着性良好な多層フィルムを提供するものであり、かつリサイクル使用にも有利な多層フィルムである。本発明の多層フィルムは、フィルム、チュ−ブ、ホ−ス、パイプ等の押出成形品、ブロ−成形、射出成形によるタンク等の中空容器に好適に使用される。従って、耐薬品性の必要な薬剤、化学薬品等の包装材や容器、自動車のガソリン、オイル、ク−ラント等に接触する容器、タンク、チュ−ブ、ホ−ス等の成形品に有用である。さらにリサイクル性にも優れ、低環境負荷材料として有用である。