本発明は、色素と、この色素を分散させる溶媒とを有する記録液を液滴の状態で被記録媒体に着弾させることで文字や画像等を記録する印刷方法に関する。
インク等の記録液が液滴の状態で着弾されることで記録が行われる被記録媒体としては、例えば記録紙、加工紙、プラスチックフィルム、織布等といったものがある。このような被記録媒体は、例えばインク吐出ヘッドよりインクを液滴の状態で吐出させることが可能なインクジェット方式のプリンタ装置等によってインクが着弾されることにより、文字や画像等が記録、すなわち印刷される。このインクジェット方式を用いたプリンタ装置による印刷は、低ランニングコスト、装置の小型化、印刷画像のカラー化が容易という利点がある。
具体的に、被記録媒体には、インクジェット方式を用いたプリンタ装置のインク吐出ヘッドに設けられた微小なインク吐出口、いわゆるノズルより、例えばイエロー、マゼンダ、シアン、ブラック等のように複数の色のインクが液滴の状態で吐出され、様々な色のインク液滴が着弾されることで画像や文字が印刷される。
そして、被記録媒体に印刷を行うインクジェット方式のプリンタ装置としては、インク吐出ヘッドが被記録媒体の搬送方向と略直交する方向に移動しながらインクを被記録媒体に着弾させるシリアル型のプリンタ装置がある。また、被記録媒体の印刷領域の幅と略同じ範囲をインクの吐出範囲とするインク吐出ヘッド、すなわち被記録媒体の幅方向に並設させたノズルを備えるインク吐出ヘッドより被記録媒体の幅方向に一度にインクを吐出、着弾させるラインヘッド型のプリンタ装置がある。
特に、ラインヘッド型のプリンタ装置は、インク吐出ヘッドが固定、若しくは印刷ムラを避けるための僅かな微動できる程度に固定されており、連続的に搬送される被記録媒体にインク吐出ヘッドが被記録媒体の幅方向に一度にインクを吐出、着弾させることで印刷する。このため、このラインヘッド型のプリンタ装置は、シリアル型と異なりインク吐出ヘッドを移動させないものであることから、シリアル型のプリンタ装置に比べて高速印刷、すなわちインク液滴の吐出間隔を短くして印刷を行うことができる。具体的には、1msec程度の間に、被記録媒体の略同じ場所に100μsec程度の間隔でインク液滴が着弾し、被記録媒体に文字や画像を印刷する。
このとき、被記録媒体の主面には、微小孔にされたノズルから1液滴当たり数pl程度のインク液滴が着弾することから、着弾したインク液滴が乾燥する前に、換言すると着弾したインクが被記録媒体に完全に浸透する前に、次のインク液滴が重畳して着弾することになる。
被記録媒体におけるインク液滴の浸透は、一般に数1に示すLucas−Washburnの式で説明される。
l=(dtγcosθ/4η)1/2 ・・・(数1)
(但し、lはインクの浸透距離、dはインクを引き込む毛細管径、γはインクの表面張力、ηはインクの粘度、θは被記録媒体にインクが着弾したときの接触角、tはインクが浸透する時間を示している。)
この式において、インクの物性が一定で着弾面の表面粗度の変化が無視できるならば、被記録媒体の主面上におけるインク液滴の濡れ性が支配的となり、着弾したインク液滴により形成されるインクドット(画素)の滲み若しくは拡散の程度によりインクドットのサイズが左右される。
上述した高速印刷が可能なラインヘッド型のプリンタ装置では、例えば高解像力を謳う市販の高品位印画紙に対して高速印刷を行う、具体的には最大発数8液滴程度で1ドット形成する印刷を行った場合、インクドットのサイズは1液滴によって形成されるインクドットサイズの2.5倍程度の大きさになる。そして、この場合、インク液滴の体積や、着弾発数、画素密度(記録解像度)等にも依存するが、所定の範囲を塗り潰すようなベタ印刷を最大発数で行うと、反射濃度が0.8以下程度の淡色部等ではインクドット間に隙間が生じ、粒状性のある画質、いわゆるざらつきのある画質になってしまう。
また、被記録媒体に対するインク吐出ヘッドの位置精度や、ノズルから吐出されたインク液滴の吐出方向のズレ、又はゴミ等によるノズルの目詰まり等により、被記録媒体の搬送方向にスジ状の未塗布部、いわゆる白スジが生じて画質が劣化することがある。
さらに、印刷時間が短いと、被記録媒体に着弾したインクの浸透が、次のインク液滴が着弾するまでに間に合わずに、着弾点よりインクが溢れて滲みが生じ、画像品位を損なう虞もある。
以上のことから、従来では、例えば高品位印画紙等といった市販されている被記録媒体に対し、ラインヘッド型のプリンタ装置等で高速印刷を行った場合、インクの素早い吸収による乾燥の迅速化と画像の高品位化とを両立、換言すると印画時間の短縮と写真画質の実現とを両立させることは困難となっている。
このような不具合を解決するには、例えば画像のざらつき感を抑えるために、インク液滴を重畳させたときに形成されるインクドットの大きさと、1つのインク液滴により形成されるインクドットの大きさとを略同じにでき、且つ素早いインクの浸透を実現するような被記録媒体が必要である。
また、写真画質を実現させるためには主面が光沢性のある被記録媒体が有効であるが、一般的に光沢性のある被記録媒体はインクの色素を定着させる層を高密度にして光沢を持たせるため、インクの浸透性が悪くなる。このため、被記録媒体においては、写真画質を実現させるための層及びインクの浸透性が高められた層を積層形成させた複数層構造、具体的にはインク液滴が着弾される最上層は表面に光沢があり写真画質を可能にし、下層は着弾したインクを速やかに浸透させるような構造にさせることが効果的である。
しかしながら、インクドットの大きさを制御しつつ、このような構造を実現することは困難であるのが現状である。
例えば特許文献1〜特許文献3等には、上述した不具合を改善させるために着弾したインク液滴を滲ませてインクドットを大きくさせることが提案されている。
具体的には、インクに対する親和性の異なる層を組み合わせたものであり、下層の親和性を上層より小さく、すなわち下層のインク浸透性が小さくされた多層構造の被記録媒体が提案されている。
しかしながら、これらの文献掲載の発明では、下層に対するインクの浸透を遅くすることで、インクが上層内へ拡散して行くことを促進させる仕組みであり、インクの着弾位置を基点にしてインクが拡散することから、インクドットの拡大しか望めず、インク液滴を重畳したときにインクドットが必要以上に大きくならないように制御することは困難である。
特許第1750466号公報
特許第2055663号公報
特開平08−112965号公報
本発明は、被記録媒体に着弾した記録液の拡散を制御することが可能であり、且つ記録液の浸透性に優れ、高品位な画像を記録することが可能な印刷方法を提供するものである。
本発明者らは、色素受容層を構成する無機高分子粒子の表面に水溶性化合物を吸着させて改質させ、記録液に対する初期の濡れ性を高め(記録液に対する動的接触角が小さく設定され)、且つさらに着弾された記録液に対しては濡れ性を極端に低下させる色素受容層を設けることによって、上述した不具合が解決されることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明に係る印刷方法は、基材と、色素及びこの色素を分散させる溶媒を有する記録液の色素を受容保持する無機高分子粒子とこの無機高分子粒子を基材の主面上に充填且つ固着させるバインダとを含有し、上層及び下層とからなる色素受容層とを備え、色素受容層の下層は、水に少なくとも無機高分子粒子とバインダを分散させた塗液を基材上に塗布し、乾燥して形成され、色素受容層の上層は、水とイソプロピルアルコールの混合溶媒に少なくとも無機高分子粒子とバインダを分散させた塗液を下層上に塗布し、乾燥して形成され、色素受容層の下層における無機高分子粒子同士が接触してできる隙間が、色素受容層の上層における無機高分子粒子同士が接触してできる隙間より狭く、上層及び下層の色素受容層に含有される無機高分子粒子の表面には、溶媒に対して親和性を有し、該無機高分子粒子の表面電荷とは対極のイオン基を備え、無機高分子粒子に色素が吸着されると、無機高分子粒子からイオン解離する水溶性化合物が吸着されている被記録媒体に対して、記録液をライン型プリンタ装置からPNM制御により吐出して、印画濃度を制御する。
本発明によれば、色素受容層を構成する無機高分子粒子の表面に、溶媒に対して親和性を有し、且つ色素が無機高分子粒子に吸着されると、無機高分子粒子からイオン解離し、記録液に対する無機高分子粒子の親和性を低下させる水溶性化合物が吸着されることで、色素受容層では初回に着弾した記録液の拡散を促進し、一方、色素受容層の記録液が拡散した領域では記録液に対する親和性が低下されていることから、この領域に着弾した記録液が拡散することを抑える。また、本発明によれば、上層と下層からなる色素受容層のうち、下層における無機高分子粒子同士が接触してできる隙間が、上層における無機高分子粒子同士が接触してできる隙間より狭くすることによって、下層において、上層より大きな毛細管力を働かせることができ、色素受容層に着弾し、上層を通過して下層にまで達した記録液を下層内に速やかに取り込み、上層表面の記録液を層内に速やかに浸透させることができ、記録液を速やかに乾燥させ、滲みを抑制することができる。
本発明によれば、色素受容層に初回に着弾した記録液は拡散が促進され、一方、色素受容層の記録液が拡散した領域では記録液に対する親和性が低下され、この領域に着弾した記録液は拡散が抑制されることから、液滴を重畳させたときに形成される画素の大きさと、1つの液滴により形成される画素の大きさとを略同じにすることができる。すなわち、重畳させる液滴の数に関係なく、画素を略一定な大きさに制御することができ、ざらつき感や白スジが抑えられた高品位な画質を得ることができる。
また、本発明によれば、上層と下層とからなる色素受容層のうち、記録液が着弾される上層に隣接する下層において、無機高分子粒子同士が接触してできる隙間を狭くすることで、下層に上層よりも大きな毛細管力が働き、吸液量を制御したり、上層より接触角を小さくしたりすることで、下層の記録液に対する濡れ性が高められ、記録液を重畳して着弾させたとき、すなわち高速印刷したときに着弾点より記録液が溢れて滲みが生じ、画質が劣化することを防止できる。
これらのことから、本発明によれば、印画時間の短縮と、高品位な画質の印刷とを両立させることができる。
本発明が適用された印刷方法に用いられる被記録媒体について図面を参照にして説明する。図1に示す被記録媒体1は、例えばインクジェット方式のラインヘッド型プリンタ装置(以下、プリンタ装置)11によって色素を溶媒に分散させた記録液、いわゆるインクが液滴状態で吐出され、このインク液滴が着弾されることで文字や画像等が記録されるものである。すなわち、プリンタ装置11等によって文字や画像等が印刷される、例えば印画紙、記録紙、写真印画紙、OHP(Over-Head Projector)フィルム等である。
先ず、被記録媒体1に印刷を行うプリンタ装置11について説明する。このプリンタ装置11は、所定の方向に走行する被記録媒体1に対してインク等を吐出して画像や文字等を印刷するものである。そして、このプリンタ装置11は、被記録媒体1の印刷幅に合わせて、被記録媒体1の幅方向、すなわち図1中矢印W方向にインク吐出口(ノズル)が略直線状に並設され、各ノズルより約5000分の1秒〜10000分の1秒程度の間隔でインクを吐出する、いわゆる高速吐出が可能なライン型のプリンタ装置である。
プリンタ装置11は、被記録媒体1に対して画像や文字等を記録するインクを吐出するインクジェットプリンタヘッドカートリッジ(以下、ヘッドカートリッジと記す。)12と、このヘッドカートリッジ12を装着するプリンタ本体13とを備える。
また、このプリンタ装置11は、ヘッドカートリッジ12がプリンタ本体13に対して着脱可能であり、更に、ヘッドカートリッジ12に対してインクの供給源となり、インクを収容する液体カートリッジであるインクカートリッジ14が着脱可能となっている。このプリンタ装置11では、カラー画像の印刷が可能なことから、搭載される色の種類の分だけインクカートリッジ14を備えている。ここでは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと4色のインクを備え、4つのインクカートリッジ14がヘッドカートリッジ12に装着されている場合について説明する。そして、これらのインクカートリッジ14は、内部に収納されているインクが無くなったら消耗品として新しいものと交換可能になっている。
このようなプリンタ装置11は、被記録媒体1を積層して収納するトレイ15をプリンタ本体13の前面底面側に設けられたトレイ装着部16に装着することにより、トレイ15に収納されている被記録媒体1をプリンタ本体13内に給紙できる。トレイ15は、プリンタ本体13の前面のトレイ装着部16に装着されると、プリンタ本体13の内部に備わる図示しない給排紙機構により被記録媒体1がトレイ15からプリンタ本体13の背面側に給紙される。プリンタ本体13の背面側に送られた被記録媒体1は、プリンタ本体13の内部に備わる図示しない反転ローラ等により走行方向が反転され、往路の上側をプリンタ本体13の背面側から前面側に送られる。プリンタ本体13の背面側から前面側に送られる被記録媒体1は、プリンタ本体13の前面に設けられた排紙口17より排紙されるまでに、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置等より入力された文字データや画像データ等といった印刷データに応じてヘッドカートリッジ12に備わるインクインク吐出ヘッド18から吐出され、印刷データに応じた文字や画像が印刷される。
インクと吐出するインク吐出ヘッド18は、図2に示すように、ヘッドカートリッジ12の底面に沿って配設されており、インクカートリッジ14から供給されるインクを吐出するインク吐出口である後述するノズルが各色毎、記録紙Pの幅方向、すなわち図2中矢印W方向に略ライン状に並設されている。インク吐出ヘッド18は、インクカートリッジ14からインクが供給されるインク供給口19と、このインク供給口19から供給されたインクを各ノズルへと導くインク流路20とを有している。インク供給口19は、インク流路20の上面中央部に設けられている。インク流路20は、ノズルにインクが供給されるように記録紙の幅に相当する長さに亘って略直線状を成すように設けられている。また、インク吐出ヘッド18には、後述するノズルを所定数で一組とするヘッドチップ21が、色毎に配置されている。
このヘッドチップ21は、図3に示すように、ベースとなる回路基板22と、複数のノズル23aが形成されたノズルシート23と、回路基板22とノズルシート23との間をノズル23a毎に区画するフィルム24と、インク流路20を通して供給されたインクを加圧するインク液室25と、インク液室25に供給されたインクを加熱する発熱抵抗体26とを有し、ノズル23aよりインク液滴を吐出する吐出手段である。
回路基板22は、シリコン等からなる半導体ウェハ上に、ロジックIC(Integrated Circuit)やドライバートランジスタ等からなる制御回路を構成すると共に、インク液室25の下面部を形成している。
ノズルシート23は、インク液滴を吐出させるためのノズル23aが形成された厚みが10μm〜15μm程度のシート状部材であり、フィルム24の回路基板22と反対側の面上に積層されている。ノズル23aは、ノズルシート23に円形状に開口された直径が10μm〜20μm程度の微小孔であり、発熱抵抗体26と対向するように配置され、微小孔より10pl以下程度にされた微小体積のインク液滴を吐出する。なお、ノズルシート23はインク液室25の一部を構成する。
フィルム24は、例えば露光硬化型のドライフィルムレジストからなり、上述したインク流路20と連通される部分を除いて各ノズル23aの周囲を囲むように形成されている。また、このフィルム24は、回路基板22とノズルシート23との間に介在されることによって、インク液室25の側面部を形成している。
インク液室25は、上述した回路基板22、ノズルシート23及びフィルム24により囲まれることで、ノズル23a毎にインク流路20から供給されたインクを加圧する加圧空間を形成している。
発熱抵抗体26は、インク液室25に臨む回路基板22上に配置されると共に、この回路基板22の制御回路と電気的に接続されている。そして、この発熱抵抗体26は、回路基板22に設けられた制御回路等により制御されながら、インク液室25内のインクを加熱する。
そして、このヘッドチップ21では、回路基板22の制御回路が発熱抵抗体26を制御し、選択された発熱抵抗体26に対して、例えば1〜3マイクロ秒程度の間だけパルス電流を供給する。これにより、発熱抵抗体26が急速に加熱される。すると、発熱抵抗体26と接するインク液室25内のインクに気泡が発生する。そして、このインク液室25内において、気泡が膨張しながらインクを加圧し、押し退けられたインクの液滴がノズル23aから吐出される。また、インクの液滴が吐出された後は、インク液室25にインク流路20を通してインクが供給されることにより、再び吐出前の状態へと戻る。
なお、上述したヘッドチップ21は、回路基板22の一主面上にフィルム24を全面に亘って形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてフィルム24をインク液室25に対応した形状に成形した後に、この上にノズルシート52を積層することで形成される。また、上述したヘッドチップ21は、発熱抵抗体26によってインクを加熱しながら吐出させる電気熱変換方式を採用しているが、このような方式に限定されず、例えば圧電素子等の電気機械変換素子によってインクを電気機械的に吐出させる電気機械変換方式を採用したものであってもよい。
以上で説明したプリンタ装置によって文字や画像等が印刷される被記録媒体1は、図4に示すように、印刷基材2と、この基材2上に形成された色素受容層3とを有している。なお、この被記録媒体1においては、色素受容層3の主面にインク液滴が着弾され、基材2側は裏面となる。また、以下では、被記録媒体1に対し、色素となる水溶性染料を主成分が水や多価アルコール等からなる溶媒に分散させた水溶性インクを用い、文字や画像を構成する最小単位である画素(インクドット)に連続的に着弾させるインク液滴の数を制御してインクドットのサイズを変調させることで印画濃度をディジタル的に制御させた画像を得ることが可能なPNM(Pulse Number Modulation)制御により、文字や画像を印刷させる場合について説明する。
基材2は、例えばフィルム状の織布、不織布、プラスチック、金属、及びこれらをのうちの何れか複数種からなる混合体等であり、被記録媒体1の基体となる。具体的に、基材2としては、例えば紙、合成紙、プラスチックフィルム、金属板、金属箔、アルミニウム等の金属等を蒸着したプラスチックフィルム等が挙げられ、これらの中から用途に応じて任意に選択して用いる。なお、OHPフィルム等の用途には、光透過性であることが必要である。
色素受容層3は、インク液滴が着弾されたときに、インクに含有されている色素を受容保持するフィラー4を有し、このフィラー4が基材2の主面2a上にバインダによって略均一に分散されるようにして充填且つ固着された構成になっている。
フィラー4には、例えば水中(純水中)に存在したときに、その表面に電荷が生じる無機高分子粒子等を用いる。この無機高分子粒子としては、例えば粒子状のハイドロタルサイト類化合物、ハイドロタルサイト化合物の焼成体等が挙げられ、これらの何れか一種又は両方を混合して用いる。具体的に、ハイドロタルサイト類化合物としては化学式(1)や、化学式(2)に示される化合物等が挙げられる。
フィラー4は、図5(A)に示すように、例えばハイドロタルサイト類化合物等からなる場合、AlO6等からなる八面体シート4aが複数積層された構造になっており、金属イオンの同型置換により各層自体がカチオン性を帯びて水中で正に帯電する。この場合、フィラー4は、図5(B)に示すように、八面体シート4aの層間に、例えば硝酸イオンといった無機アニオン等や、カルボキシレートイオンようなアニオン性の有機分子等を好適に取り込むことができ、アニオン交換性層間化合物として作用する。このように、層間に無機アニオンやアニオン性有機分子等を取り込むような作用はインターカレーションと呼ばれ、インクジェット型のプリンタ装置等で印刷するときのインクに用いられる酸性染料や直接染料等のアニオン性を示す染料の吸着に有益であり、層間に染料を吸着した複合体は層間化合物となる。
すなわち、フィラー4としてハイドロタルサイト類化合物を用いた場合、図5(C)に示すように、インクが色素受容層3に着弾されると、インクに含有される染料が八面体シート4aの層間に取り込まれ、色素受容層3中に保持され顔料となる。なお、図5においては、染料をSで示している。
フィラー4としてハイドロタルサイト類化合物の焼成体を用いた場合も、この焼成体が層状構造をとり、水中で正の電荷を帯びることから、ハイドロタルサイト類化合物を同じように作用する。
また、フィラー4としては、上述したハイドロタルサイト類化合物等の他に、例えば層状ケイ酸塩化合物、非層状ケイ酸塩化合物、アルミナ水和物等が挙げられ、これらのうち何れか一種又は複数種を混合して用いることも可能である。なお、以上では、フィラー4が水中で正に帯電する場合を例に挙げたが、例えば水中で負に帯電する無機高分子化合物等を用いることも可能である。この場合、フィラー4に受容される染料には、水中でカチオン性を示す例えば塩基性染料、カチオン染料等を用い、フィラー4に適切に受容されるようにする。
色素受容層3中にフィラー4を分散させるバインダには、例えは水系ポリウレタンエマルジョン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ヒドロキシプロピルメチルセルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチルセルロース樹脂、ゼラチン等が挙げられ、これらのうち何れか一種又は複数種を混合して用いる。
なお、色素受容層3には、例えば従来の被記録媒体の色素受容層で用いられる各種添加剤、具体的には架橋剤、可塑剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤等を添加することも可能である。
以上で説明した色素受容層3は、2μm〜40μm程度の厚み、好ましくは4μm〜15μm程度の厚みにされている。
このような色素受容層3においては、フィラー4の表面に、水中で示すフィラー4の表面電荷とは対極のイオン性基を有する水溶性化合物が吸着されている。この水溶性化合物は、インクの溶媒に対して親和性を有し、且つインクが色素受容層3に着弾して染料が吸着するとフィラー4の表面からイオン解離する。これにより、色素受容層3では、インクに対する親和性が低下するものである。
この水溶性化合物には、例えば分子量が500以下の有機酸、この有機酸の塩、この有機酸を構造単位中に有する分子量が20000以下の高分子等を用いることができる。具体的には、例えば無水マレイン酸、無水マレイン酸塩、無水マレイン酸を構成単位中に有する分子量が20000以下の高分子等が挙げられ、これらのうち何れか一種又は複数種を混合して用いる。
水溶性化合物として分子量が500より大きい有機酸や有機酸塩、若しくは分子量が20000より大きい高分子等を用いた場合、これらの分子量の大きな水溶性化合物が疎水性を示し、疎水的な有機化合物がフィラー4に吸着すると、吸着する有機物の量にもよるがフィラー4の表面が水に濡れ難い状態になり、色素受容層3にインクが浸透されることを妨げる虞がある。したがって、フィラー4の表面には、水溶性化合物として例えば分子量が500以下の有機酸、この有機酸の塩、この有機酸を構造単位中に有する分子量が20000以下の高分子を吸着させることが好ましい。
なお、この水溶性化合物は、吸着されるフィラー4の表面電荷とは対極のイオン性基を有し、インク中で染料と同じ極性にイオン解離するが、水中で同じ極性に解離する染料がフィラー4にインターカレーションされることを妨げてはならない。
色素受容層3においては、フィラー4の表面が親水性であることから水に濡れ易く、水を主たる媒体とするインクを速やかに吸収させることの原動力となっている。そして、このフィラー4の表面に、水溶性の高い(親水性の大きな)マレイン酸及び/又はアクリル酸等を構造単位とする水溶性化合物を吸着させることで、フィラー4の表面の水に対する濡れ性をさらに高めることができ、インクの拡散を伴う浸透作用を促進させることができる。この一方で、色素受容層3においては、着弾したインクにさらにインク液滴を重畳してフィラー4に対する色素の吸着が増大すると、再びフィラー4表面の濡れ性が低下してインクが層内で拡散していくことを抑制させる。
すなわち、色素受容層3では、PNM制御によりインク液滴を重畳させて着弾させたときに、1発目に着弾させたインク液滴が色素受容層3に拡散することを促進させ、さらに2発目以降、1発目に着弾したインクに重畳させて着弾させたインク液滴の数に関係なく、インクドットの大きさを1発目のインク液滴によるものと略同じにすることができる。
また、色素受容層3においては、上述した水溶性化合物の他に、例えば水中で示すフィラー4の表面電荷とは対極に帯電する固体粒子、及び/又は半極性有機ホウ素化合物等を、フィラー4の表面に吸着する、すなわちフィラーを複合粒子化することで水溶性化合物により得られる作用効果をさらに高めることができる。
具体的に、半極性有機ホウ素化合物としては、例えば化学式(3)に示すジグリセリンボラート、このジグリセリンボラートの誘導体等を挙げることができ、これらを一種若しくは複数種混合して用いる。
なお、フィラー4の表面に吸着する固体粒子としては、無機物に限定されることはなく、例えば水中で安定して分散する有機物からなる微粒子でもよく、具体的にはバインダ用途に用いられる樹脂類のエマルジョン等も使用可能である。
また、色素受容層3は、その主面に表面張力が35dyne/cm〜40dyne/cm、且つ粘度が2cps〜3cpsにされたインクを25℃雰囲気下で着弾させてから10msec後に測定して得られる接触角が50度以下になるようにされている。なお、プリンタ装置1に用いられるインクは、一般的に、表面張力、粘度が上述した数値の範囲にされている。
上述した条件にされたインクを色素受容層3に25℃雰囲気下で着弾させてから10msec後に測定した接触角が50度より大きくなった場合、色素受容層3のインクに対する濡れ性が低く、着弾したインクを層内に取り込んで拡散することが困難になる。
したがって、色素受容層3においては、インクを着弾させてから10msec後の接触角を50度以下にさせることで、インクの濡れ性を高めることができ、着弾したインクが層中に容易に取り込んで拡散していくことを促進させることができる。なお、ここでの接触角とは、空気中にある固体の主面上に液体があり、固体、液体、気体3相の接触点から液体に引いた折線と固体の主面とのなす角のうち、液体側の角のことであり、液体(ここではインク。)の固体(ここでは色素受容層3。)に対する接触角のことである。接触角は、その角度が小さいほど固体に対する液体の濡れ性が高くなる。
以上のような構成の被記録媒体1は、以下のようにして作製することができる。
先ず、上述した粉末状のフィラー4と、バインダと、粉末状の水溶性化合物とを溶媒中に分散させ、色素受容層形成用塗液を調製する。このとき、必要に応じて半極性有機ホウ素化合物等も添加する。なお、色素受容層形成用塗液の配合割合は、染料の定着性、成膜性等を考慮すると、好ましくはフィラーが10〜80重量%、バインダが50重量%以下、水溶性化合物が10重量%以下及び溶剤が20〜60重量%となるようにする。色素受容層形成用塗液を調製する際の溶媒としては、分散性確保のために高い誘電率の溶媒を使用することが好ましい。具体的には、例えばイソプロパノール、エタノール等の低級アルコール等が挙げられ、これらの何れかを一種又は複数種を混合して使用することができる。そして、色素受容層形成用塗液を基材2上に公知のコーティング法等により塗工し、乾燥して所定の厚みの色素受容層3を基材2の主面2a上に形成する。このようにして図1に示す被記録媒体1を作製する。
このようにして作製される被記録媒体1では、上述したように、例えばインクジェット型のプリンタ装置をPNM制御し、インク液滴を色素受容層3に重畳させて着弾させたときに、1発目に着弾させたインク液滴が色素受容層3に拡散することを促進させ、1発目のインク液滴に重畳させて着弾したインク液滴の数に関係なくインクドットの大きさを、1発目のインク液滴によるものと略同じにすることができる。
したがって、この被記録媒体1では、インク液滴が色素受容層3に着弾した際に、重畳させたインク液滴の数に関係なく、インクドットを略一定な大きさに制御することが可能なことから、インクドットが小さすぎたときにドット間に隙間が生じて起こる印画のざらつき感や、白スジ等を抑えることができ、高品位な画質で印刷させることが可能となる。
ここで、本発明を適用した印刷方法に用いられる被記録媒体1にインク液滴を重畳させて着弾させたときのインクドット径の変化と、従来の被記録媒体にインク液滴を重畳させて着弾したときのインクドット径の変化とを図6(A)及び図6(B)に示す。なお、図6においては、同図(A)に本発明を適用した被記録媒体1を示し、同図(B)に従来の被記録媒体を示している。また、各被記録媒体には、それぞれ4発づつインク液滴を重畳させた。
図6に示すドット径の変化の具合を見てわかるように、本発明を適用した印刷方法に用いられる被記録媒体1では、初回のインク液滴が着弾したときに形成されるインクドットの大きさと、2発目、3発目、4発目のインク液滴が着弾したときに形成されるインクドットの大きさとが略同じ大きさになっていることがわかる。
一方、従来の被記録媒体では、1発目、2発目、3発目、4発目のインク液滴が着弾されるに従って、形成されるインクドットの大きさが徐々に大きくなっていることがわかる。
このことからも、被記録媒体1では、インク液滴を重畳させた回数に関係なく、インクドットを略一定な大きさに制御することが可能であることがわかる。
また、以上では、色素受容層3が単層構造の被記録媒体1について説明したが、このような構造に限定されることはなく、図7に示す被記録媒体31のように、基材2の主面上に、色素受容層32が複数積層されている構造であっても上述した作用効果を得ることができる。被記録媒体31においては、色素受容層32以外の部位、具体的には基材2は、上述した被記録媒体1と同様な構成及び同様な機能であることから、その説明を省略すると共に、図7においては同じ符号を付すものとする。また、以下では、色素受容層32が、インク液滴が着弾する上層33と、この上層33に隣接する下層34とによって二層構造に構成された場合について説明する。
色素受容層32おいては、上述した色素受容層3と同様、各層13,14ともフィラーとバインダとによって構成され、フィラーが基材2の主面2a上にバインダにより略均一に分散されるようにして充填且つ固着されている。そして、色素受容層32においては、少なくとも上下二層13,14の何れか一方のフィラーの表面に、水中で示すフィラー4の表面電荷とは対極のイオン性基を有する水溶性化合物が吸着されている。
これにより、この被記録媒体31でも、インク液滴を色素受容層32に重畳させて着弾させたときに、重畳させたインク液滴の数に関係なくインクドットの大きさを略同じにすることができる。したがって、この被記録媒体31でも、上述した被記録媒体1と同様に、印画のざらつき感や、白スジ等が抑制され、高品位な画質で印刷させることが可能となる。
このような色素受容層32が積層構造にされた被記録媒体31は、上述した被記録媒体1を作製する際の色素受容層3の形成方法を複数回繰り返すことで容易に作製させることが可能である。
ところで、この被記録媒体31において、色素受容層32の下層34には、その主面34aの面積の20%以上を占める割合で亀裂を形成させる。このように、色素受容層32の下層34に亀裂を形成させることで、色素受容層32に着弾し、上層33を通過して下層34にまで達したインクが速やかに亀裂内に浸透され、上層33表面のインクを層内に速やかに取り込むことが可能となる。
すなわち、色素受容層32では、着弾したインクを速やかに乾かすことができ、PNM制御によりインク液滴を重畳させて着弾させたときにインクドットが滲むことを抑制できる。
また、この被記録媒体31においては、色素受容層32の下層34内のフィラー粒子同士が接触してできる隙間を、上層33内のフィラー粒子同士が接触してできる隙間より狭くさせる。このように、上層33より下層34のフィラー粒子同士が接触してできる隙間を狭くすることで、下層34のフィラー粒子同士の間に上層より大きな毛細管力を働かせることができ、色素受容層32に着弾し、上層33を通過して下層34にまで達したインクを下層34内に速やかに取り込み、上層33表面のインクを層内に速やかに浸透させることができる。すなわち、この場合も、色素受容層32に着弾したインクを速やかに乾かすことができ、インクドットが滲むことを抑制できる。
さらに、この被記録媒体31では、上層33の主面33a、すなわち色素受容層32の主面に25℃雰囲気下でインクを着弾させてから10msec後に測定して得られる接触角が50度以下になるようにさせ、且つ下層34においては、その主面34aに25℃雰囲気下でインクを着弾させてから10msec後に測定して得られる接触角が上層33の接触角より5度以上大きい値になるようにさせる。
このように、この色素受容層32では、上層33にインクを着弾させたときの接触角を所定の数値以下にさせることで、着弾したインクが上層33中に拡散することを促進できる。一方、下層34では、その接触角を上層33の接触角よりも大きい値にすることで上層33に比べて濡れ性が悪くなり、色素受容層32に着弾し、上層33を通過して到達したインクの拡散を抑えることから、色素受容層32にインク液滴が重畳されたときのインクドット径を制御するといった作用効果をさらに高めることができる。
このように、被記録媒体31においては、下層34に亀裂を形成したり、下層34に上層より大きな毛細管力が働くようにしたり、インクの各層13,14に対する接触角を制御したりすることで、上層33表面のインクを色素受容層32内に速やかに浸透させることができ、且つ色素受容層32にインク液滴が重畳されたときのインクドット径を制御する作用効果をさらに高めることができる。なお、被記録媒体31においては、上述したさらなる作用効果が得られる手法は、1つでもその作用効果は大きいが、複数併用することで、その作用効果は甚大である。
さらにまた、被記録媒体31では、色素受容層32において、その主面における光入射角60度での光沢度を40以上にさせ、且つインクを1秒間接触させたときに下層34はインクを20ml/m2以上吸液するようにさせる。このように、被記録媒体31では、色素受容層32の上層33における主面33aの光沢度を所定の数値以上にすることで、写真画質を得ることができる。
そして、色素受容層32の主面に光沢性を持たせるには、例えば上層33のフィラーを高密度化させる等して実現可能である。この場合、上層33のインクの浸透性が悪くなるが、下層34の1秒当たりの吸液量を所定の数値以上にさせることで、上層33を通過して下層34にまで達したインクを下層34内に速やかに取り込むことができ、上層33表面のインクを層内に速やかに浸透させることができる。なお、下層34の1秒当たりの吸液量を所定の数値以上にさせるには、上述した下層34に亀裂を形成したり、下層34に毛細管力が働くようにしたり、インクの各層13,14に対する接触角を制御したりすること等で行える。
上述したように、被記録媒体31においては、写真画質を得るためには、画像の鑑賞者に最も近い上層表面が画像の品位を左右させる光沢性と透明性とを兼ね備える必要がある。ここで、フィラーとしてハイドロタルサイトの焼成体の表面にボロン樹脂を吸着させた複合粒子を用い、色素受容層形成用塗液を調製するときの分散時間を変化させることによってフィラーの平均粒子径を変化させることで色素受容層の主面における光入射角60度での光沢度を変化させたときのインク吸液量を測定した特性図を図8に示す。なお、インク吸液量は、Bristow法を用いて色素受容層とインクとの接触時間1secにおけるインクの染み込み量を測定した。光沢度は、JIS −Z8741−1983の規格に則って日本電色工業社製の光沢計(型式:VG2000)を用いて測定した。また、色素受容層形成用塗液を調製するときの分散時間が長くなるほどフィラーの平均粒子径が小さくなり、色素受容層の主面における光沢度は大きくなる。
図8に示す測定結果より、入射角60度における光沢度40が大きくなるほどインク吸液量が小さくなっていることがわかる。具体的に、写真画質を実現させる光沢度40以上では、インク吸液量が20ml/m2より小さくなっており、インクを色素受容層内に速やかに浸透させることが困難であることがわかる。
このことから、被記録媒体31においては、色素受容層32の主面における光入射角60度での光沢度を40以上にさせ、且つ速やかにインクを色素受容層32内に吸液させるために、例えば下層34に亀裂を形成したり、下層34に毛細管力が働くようにさせたりすることで、上層33の主面34aに光沢性を持たせつつ、下層34のインク吸液量を20ml/m2以上、さらに好ましくはインク吸液量を30ml/m2以上にさせることができ、滲みや白スジのない高品位な写真画像を得ることができる。
ところで、上述した被記録媒体31に対して印刷するときに用いる好適なインクとしては、少なくとも水と、色素受容層3,32中のフィラー4にインターカレーション反応により受容保持される水溶性染料とを有するものである。
水溶性染料としては、従来公知の水溶性カチオン染料(水溶性塩基性染料)、水溶性アニオン染料(水溶性直接染料又は水溶性酸性染料)等を挙げることができ、これらのうち何れか一種又は複数種を混合して用いる。具体的に、水溶性カチオン染料としては、例えばアミン塩または第4級アンモニウム基を有するアゾ染料、トリフェニルメタン染料、アゾン染料、オキサジン染料、チアジン染料等が挙げられる。水溶性アニオン染料としては、例えば、発色団としてモノアゾ基、ジスアゾ基、アントラキノン骨格、トリフェニルメタン骨格等を有し、更に分子中に1〜3個のスルホン酸基又はカルボキシル基等の陰イオン性の水溶性基を有するもの等が挙げられる。そして、フィラー4の表面の電荷が正に帯電するときは水溶性アニオン染料を用い、フィラー4の表面の電荷が負に帯電するときは水溶性カチオン染料を用いることにより、フィラー4に水溶性染料を適切にインターカレーションすることができる。
また、被記録媒体31においては、従来のインクジェット用被記録媒体と同様に使用することができる。すなわち、被記録媒体31とインクとを使用して画像形成する場合、例えばバブル駆動型のインク吐出ヘッドやピエゾ素子駆動型のインク吐出ヘッド等を備えたインクジェット方式のプリンタ装置からインクを画像信号に応じて選択的に吐出し、被記録媒体31の色素受容層3,32に着弾させればよい。
以下、本発明を適用した印刷方法に用いられる参考例となる被記録媒体を実際に作製したサンプル1〜サンプル16について説明する。
〈サンプル1〉
サンプル1では、フィラーを作製した。フィラーを作製する際は、先ず、ボロンインターナショナル社製のポリ(ジ(グリセリン)ボラート・マレアート)10重量部を、エタノールと水とを等容量比で混合した混合溶媒100重量部に溶解した溶液に、ハイドロタルサイトの焼成体4gを加えて85℃に熱しながら2時間攪拌し、養生することで冷却した後に、沈殿物を濾過した。そして、濾別した固体を、所定量のエタノールと水とを等容量比で混合した混合溶媒に分散、洗浄することで未反応により残留したポリ(ジ(グリセリン)ボラート・マレアート)を除去し、再び、濾過して固体を濾別した後に、固体中の混合溶媒を減圧下で乾燥することで除去し、乾燥した固体を所定の方法により粉砕した。このようにして、粉末状のフィラーを作製した。
次に、以上のようにして得られたフィラー5重量部を、水50重量部に分散し、さらにバインダとしてクラレ社製のポリビニルアルコール10wt%水溶液(商品名:PVA−205)を7重量部加えてボールミル混合を10時間行い、平均粒子径が0.1μm程度にされたフィラーを含有する色素受容層形成用塗液を調製した。
次に、この色素受容層形成用塗液を、白色ポリエステルフィルムからなり、且つ厚みが125μmにされた東レ社製の基材(商品名:ルミラーE−20)の主面上にワイヤーバーにて乾燥後の色素受容層の厚みが20μm程度になるように塗布し、100℃雰囲気中で送風乾燥を2分間行って水を除去し、基材の主面上に色素受容層を形成した。このようにして色素受容層にフィラーとしてハイドロタルサイトの焼成体を含有する被記録媒体を作製した。
〈サンプル2〉
サンプル2では、上述したサンプル1と同様の方法で調製した色素受容層形成用塗液に、グレース社製の平均粒子径が0.03μmのコロイダルシリカが分散されたコロイダルシリカ分散液(商品名:ルドックスTMA)を、塗液中に分散されているフィラーとコロイダルシリカとが3対1程度の比率になるように加えた後に、ボールミル混合を2時間行い、粒子表面にコロイダルシリカが吸着し、且つ平均粒子径が1.2μm程度にされたフィラーを含有する色素受容層形成用塗液を調製した。そして、この色素受容層形成用塗料を用いたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、粒子表面にコロイダルシリカが吸着したフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
〈サンプル3〉
サンプル3では、上述したサンプル2と同様の方法で調整したコロイダルシリカが吸着したフィラーを含有する色素受容層形成用塗液に、水溶性化合物として粉末状の無水マレイン酸を0.6重量部加えて、攪拌し、粒子表面にコロイダルシリカ及び無水マレイン酸(マレイン酸アニオン)が吸着したフィラーを含有する色素受容層形成用塗液を調製した。そして、この色素受容層形成用塗料を用いたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、粒子表面にコロイダルシリカ及び無水マレイン酸が吸着したフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
次に、これらのサンプルについて、ヒューレットパッカード社製のインク吐出ヘッド(型名:950C)をPNM制御し、このインク吐出ヘッドよりインク液滴と100μsecの間隔で吐出し、1滴当たりの液量が3plのインク液滴を8滴重畳させるように着弾させ、重畳させた液滴数毎のインクドット径を測定した。そして、サンプル1〜サンプル3について、インク液滴を重畳させた液滴数とインクドット径との関係をまとめた特性図を図9に示す。
図9に示す測定結果より、表面に水溶性化合物としてマレイン酸アニオンが吸着したフィラーを含有する色素受容層を備えるサンプル3では、水溶性化合物を吸着してないフィラーを含有する色素受容層を備えるサンプル1及びサンプル2に比べ、1発目のインク液滴が着弾したときに形成されるインクドット径が大きく、この1発目のインク液滴によるドット径と8発目のインク液滴によるドット径との差が小さくなっていることがわかる。すなわち、サンプル3では、インク液滴を色素受容層に重畳させて着弾させたときに、重畳させた液滴数に関係なくインクドット径を略一定にできることがわかる。
サンプル1及びサンプル2では、1発目のインク液滴が着弾したときに形成されるインクドット径がサンプル3のドット径より小さく、このインク液滴の重畳数に従ってドット径が大きくなり、1発目のインク液滴によるドット径と8発目のインク液滴によるドット径との差が大きくなっていることがわかる。
そして、サンプル3のように、重畳させた液滴数に関係なくインクドット径を略一定にできる被記録媒体では、インクドットが小さすぎたときにドット間に隙間が生じて起こる印画のざらつき感や、白スジ等を抑えることができ、高品位な画質で印刷させることが可能となる。
次に、フィラーに分子量の異なる水溶性化合物を吸着させたフィラーを含有する色素受容層を備える被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル4〉
サンプル4では、フィラーとして住友化学工業社製のアルミナ(商品名:AKP−G015)10重量部を、水100重量部に分散し、さらにバインダとしてクラレ社製のポリビニルアルコール10wt%水溶液(商品名:PVA−205)7重量部とを加え、さらにアニオン性の水溶性化合物として平均分子量が7000程度の日本純薬工業社製のポリアクリル酸ソーダ(商品名:ジュリマーAC103)を固形分が1重量部添加されるように所定量加えてボールミル混合を20時間行い、平均粒子径が0.1μm程度にされたフィラーを含有する色素受容層形成用塗液を調製した。そして、この色素受容層形成用塗料を用いたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、粒子表面に平均分子量が7000程度の水溶性化合物が吸着したフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
〈サンプル5〉
サンプル5では、サンプル4で用いた平均分子量が7000程度の水溶性化合物の代わりに平均分子量が約100万の日本純薬社製のアクリル酸ソーダ(商品名:ジュリマーAC10SHN)を用いたこと以外は、サンプル4と同様にして色素受容層形成用塗液を調製した。そして、この色素受容層形成用塗料を用いたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、粒子表面に平均分子量が約100万の水溶性化合物が吸着したフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
〈サンプル6〉
サンプル6では、サンプル4で用いた平均分子量が7000程度の水溶性化合物の代わりに平均分子量が約100万の日本純薬社製のフタル酸ソーダを用いたこと以外は、サンプル4と同様にして色素受容層形成用塗液を調製した。そして、この色素受容層形成用塗料を用いたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、粒子表面に平均分子量が約100万の水溶性化合物が吸着したフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
次に、サンプル4〜サンプル6について、上述したサンプル3と同じようにPNM制御によりインク液滴を重畳させたところ、サンプル4では、上述したサンプル3と略同じ挙動を示し、インクドットの大きさを制御することができた。
これに対し、サンプル5及びサンプル6では、1発目のインク液滴の着弾により形成されたドット径が150μm程度になり、過大なドットを形成した。この場合、画像を印刷すると解像度不足になり、不鮮明な画像が印刷される虞がある。また、サンプル5及びサンプル6では、インク液滴を重畳させて着弾させると、2発目以降のインクの浸透性が悪く、いわゆる乾燥不良に陥った。これは、フィラー表面に例えばアクリル酸ソーダやフタル酸ソーダ等の疎水的な構造を有する有機物が吸着すると、吸着する有機物の量にもよるがフィラーの表面が水に濡れ難い状態になり、インクの浸透が阻害されやすくなるからであると考えられる。したがって、サンプル5及びサンプル6では、インク液滴が重畳されると、インクを色素受容層内へ浸透させることが期待できなくなり、着弾したインクが着弾点より溢れて乾燥不良に陥ってしまう。
以上のことから、被記録媒体を作製する際に、フィラーの表面に平均分子量が7000程度の水溶性化合物を吸着させることは、インク液滴を重畳させて着弾させたときに形成されるインクドットの大きさを制御させることが可能な優れた被記録媒体を得る上で大変重要であることがわかる。
次に、表面に固体粒子を吸着させて複合粒子化させたフィラーを含有する色素受容層を備える被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル7〉
サンプル7では、フィラーとして平均粒子径が0.3μmのグレース社製のカチオン性シリカ20wt%分散液(商品名:703C)50重量部に、アニオン性の水溶性化合物として平均分子量が3000程度の日本純薬工業社製のポリアクリル酸ソーダ(商品名:ジュリマーAC107)を固形分が0.5重量部添加されるように加えて攪拌し、さらに平均粒子径が0.06μmに微粒子化したクニミネ鉱業社製の合成サポナイト(層状ケイ酸塩)の2.5wt%溶液を40重量部加え、さらにこの分散液にポリ(ジ(グリセリン)ボラート・マレアート)0.1重量部と、バインダとしてクラレ社製のポリビニルアルコール10wt%水溶液(商品名:PVA−205)30重量部とを加えることで、表面に合成サポナイトが吸着され、且つ平均粒子径が1.2μm程度にされたフィラーを含有する色素受容層形成用塗液を調製した。
そして、この色素受容層形成用塗料を用い、色素受容層の厚みを30μm程度にしたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、複合粒子化されたフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
〈サンプル8〉
サンプル8では、合成サポナイトを加えなかったこと以外は、サンプル7と同様にして平均粒子径が0.3μm程度にされたフィラーを含有する色素受容層形成用塗液を調製した。そして、この色素受容層形成用塗料を用いたこと以外は、上述したサンプル7と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、複合粒子化されてないフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
次に、上述したサンプル7及びサンプル8について、上述したサンプル3と同じようにPNM制御によりインク液滴を重畳させたところ、サンプル7及びサンプル8では、上述したサンプル3と略同じ挙動を示し、インクドットの大きさを制御することができた。
さらに、サンプル7及びサンプル8について、Bristow法を用いてインクとの接触時間1secにおける染み込み量を測定した。その結果、サンプル7の1sec当たりの吸液量は30ml/m2、サンプル8の1sec当たりの吸液量は18ml/m2であった。
このことから、フィラーを所定の固体粒子で複合粒子化させることは、色素受容層の吸液量を大幅に向上させることが可能であることがわかる。
次に、樹脂類のエマルジョンを用いてフィラー表面に固体粒子を吸着させて複合粒子化させ、この複合粒子化したフィラーを含有する色素受容層を備える被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル9〉
サンプル9では、ポリ(ジ(グリセリン)ボラート・マレアート)1重量部を、水100重量部に溶解し、フィラーとしてのアエルジル社製の気相法シリカ(商品名:A−300)10重量部を添加して2時間攪拌し、フィラーの平均粒子径が0.2μmにされた分散液を得た。この分散液に、水溶性化合物として第1工業製薬社製のカチオン性アクリル樹脂(商品名:シャロールC)を固形分が0.25重量部添加されるように加え、さらに平均粒径が0.03μmの大成化工社製のカチオン性エマルジョン(商品名:アクリットUW−319X)を7重量部加えて3時間攪拌し、平均粒子径が0.8μm程度にされたフィラーを含有する色素受容層形成用塗液を調製した。そして、この色素受容層形成用塗料を用いたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして基材の主面上に色素受容層を形成し、樹脂類のエマルジョンによって複合粒子化されたフィラーを色素受容層に含有する被記録媒体を作製した。
以上のようにして得られたサンプル9について、上述したサンプル3と同じようにPNM制御によりインク液滴を重畳させたところ、サンプル9では、1発目のインク液滴により形成されるインクドット径が60μm程度と小さいものの上述したサンプル3と略同じ挙動を示し、インクドットの大きさを制御することができた。
このことから、フィラーを樹脂類のエマルジョンによって複合粒子化させも、上述したサンプル7及びサンプル8と同様、インクドットの大きさを制御することが可能であることがわかる。
次に、積層構造にされた色素受容層を備える被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル10〉
サンプル10では、フィラーとして平均粒子径が0.25μmのハイドロタルサイトの焼成体を含む20wt%分散液40重量部に、ポリ(ジ(グリセリン)ボラート・マレアート)2重量部と、バインダとしてのクラレ社製のポリビニルアルコール10wt%水溶液(商品名:PVA−205)8重量部とを添加し、さらに平均粒子径が0.03μmにされたコロイダルシリカを溶媒に分散させたグレース社製のコロイダルシリカ34wt%分散液(商品名:ルドックスTMA)11重量部と、水溶性化合物として日本純薬工業社製の10wt%ポリアクリル酸ソーダ水溶液(商品名:ジュリマーAC103)4.3重量部とを加えて超音波分散を1時間行い、平均粒子径が0.4μmのフィラーを含有する第1の色素受容層形成用塗液を調製した。
次に、サンプル1と同様の方法で調整した色素受容層形成用塗液100重量部に、グレース社製のコロイダルシリカ34wt%分散液(商品名:ルドックスTMA)20重量部と、水溶性化合物として日本純薬工業社製の10wt%ポリアクリル酸ソーダ水溶液(商品名:ジュリマーAC103)4.3重量部と、さらに純水50重量部と、イソプロピルアルコール20重量部とを加えて超音波分散を1時間行い、平均粒子径が0.7μmのフィラーを含有する第2の色素受容層形成用塗液を調製した。
次に、第1の色素受容層形成用塗液を、乾燥時の膜厚が20μmになるように厚みが110μmの透明ポリエステルフィルムからなる基材の主面全面に亘ってワイヤーバーで塗布し、塗布後、100℃雰囲気中で送風乾燥を2分間行って半透明状態の色素受容下層(以下、下層と記す。)を形成した。そして、この下層の主面全面に亘ってワイヤーバーを用いて第2の色素受容層形成用塗液を乾燥時の膜厚が5μmとなるように塗布し、塗布後、100℃雰囲気中で送風乾燥を2分間行って透明な色素受容上層(以下、上層と記す。)を形成した。このようにして、積層構造にされた色素受容層を備える被記録媒体を作製した。
次に、このようにして得られたサンプル10について、上述したサンプル3と同じようにPNM制御によりインク液滴を重畳させたところ、サンプル10では、上述したサンプル3と略同じ挙動を示し、インクドットの大きさを制御することができた。
このことから、積層構造にされた色素受容層を備える被記録媒体を作製する際に、上層及び下層に含有されるフィラー表面に水溶性化合物を吸着させることは、上述したサンプル3と同様にインクドットの大きさを制御する上で大変重要であることがわかる。また、色素受容層を積層構造にしても、上層及び下層に含有されるフィラー表面に水溶性化合物を吸着させることでインクドットの大きさを問題なく制御することが可能であることがわかる。
次に、積層構造にされた色素受容層における下層側に亀裂を形成させた被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル11〉
サンプル11では、上述したサンプル10で調製した第1の色素受容層形成用塗料に含有されるバインダ量を3分の2の量にしたこと以外は、上述したサンプル10と同様にして第1の色素受容層形成用塗料を調製した。次に、この塗料を用いて上述したサンプル10と同様にして基材の主面に下層を形成した。このとき、下層には、その主面の20%以上を占める亀裂が主面全体に亘って略均一に形成された。また、亀裂の幅は50μm〜100μm程度であった。
次に、この下層の主面全面に亘って上述したサンプル10と同様にして調製した第2の色素受容層形成用塗液を乾燥時の膜厚が12μmとなるように塗布し、塗布後、100℃雰囲気中で送風乾燥を2分間行って透明な上層を形成した。このようにして、下層に亀裂が設けられた色素受容層を備える被記録媒体を作製した。
次に、このようにして得られたサンプル11について、上述したサンプル3と同じようにPNM制御によりインク液滴を重畳させたところ、サンプル11では、上述したサンプル3と略同じ挙動を示し、インクドットの大きさを制御することができた。
また、色素受容層において、透明な上層から透けて見える下層では、色素受容層に着弾し、上層を通過して到達したインクが亀裂に沿って速やかに亀裂内に浸透されていることが目視により確認された。このことから、下層に亀裂が設けられた色素受容層を備える被記録媒体では、下層に達したインクを亀裂に沿って速やかに層内に取り込むことが可能なことから、上層表面、すなわち色素受容層表面のインクが層内に速やかに吸収される。したがって、サンプル11では、色素受容層に着弾したインクを速やかに乾かすことができ、インクドットが滲むことを抑えることが可能となる。
なお、サンプル11では、下層に設けられた亀裂の作用効果を確認するために上層を透明な状態にしたが、実用段階では上層を白濁させる等して下層を見えなくすることで亀裂に沿ってインクが拡散される状態は遮蔽されることから、滲みのない優れた画質で印刷することが可能になる。
次に、下層に含有されたフィラーにだけ水溶性化合物を吸着させた積層構造の色素受容層を備える被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル12〉
サンプル12では、上述したサンプル3と同様にして被記録媒体を作製し、この被記録媒体の色素受容層側の主面全面に亘って上述したサンプル2と同様にして調製した色素受容層形成用塗液を乾燥時の膜厚が5μmとなるように塗布し、塗布後、100℃雰囲気中で送風乾燥を2分間行って上層を形成した。このようにして、下層に、上述したサンプル3の水溶性化合物が吸着したフィラーを含有する積層構造の色素受容層を備える被記録媒体を作製した。
〈サンプル13〉
サンプル13では、上述したサンプル2と同様にして被記録媒体を作製し、この被記録媒体の色素受容層側の主面全面に亘って上述したサンプル3と同様にして調製した色素受容層形成用塗液を乾燥時の膜厚が5μmとなるように塗布し、塗布後、100℃雰囲気中で送風乾燥を2分間行って上層を形成した。このようにして、上層に、上述したサンプル3の水溶性化合物が吸着したフィラーを含有する積層構造の色素受容層を備える被記録媒体を作製した。
次に、このようにして得られたサンプル12及びサンプル13について、上述したサンプル3と同じようにPNM制御によりインク液滴を重畳させたところ、サンプル12及びサンプル13では、上述したサンプル3のインクドットに比べてやや大きいもののサンプル3と略同じ挙動を示し、インクドットの大きさを制御することができた。
このことから、積層構造の色素受容層を備える被記録媒体を作製する際に、上層及び下層の少なくとも何れか一方に水溶性化合物を吸着させたフィラーを含有させることでインクドットの大きさを問題なく制御することが可能であることがわかる。
次に、積層構造の色素受容層を備え、且つ光透過性を有するOHP用途の被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル14〉
サンプル14では、明成化学工業社製の色素受容層形成用塗液(商品名:TJ−10)を、乾燥時の膜厚が10μmになるように厚みが110μmの透明ポリエステルフィルムからなる基材の主面全面に亘ってワイヤーバーで塗布し、塗布後、100℃雰囲気中で送風乾燥を2分間行って透明な下層を形成した。そして、この下層の主面全面に亘ってワイヤーバーを用いて上述したサンプル4と同様にして調製した色素受容層形成用塗液を乾燥時の膜厚が10μmとなるように塗布し、塗布後、亀裂が生じないように室温で自然乾燥させて透明な上層を形成した。このようにして、積層構造にされた色素受容層を備え、且つ光透過性を有するOHP用途の被記録媒体を作製した。
次に、このようにして得られたサンプル14について、上述したサンプル4と同じようにPNM制御によりインク液滴を重畳させたところ、サンプル14では、上述したサンプル4のインクドットに比べて小さいもののサンプル4と略同じ挙動を示し、インクドットの大きさを制御することができた。
このことから、光透過性を有するOHP用途の被記録媒体を作製する際に、色素受容層に水溶性化合物を吸着させたフィラーを含有させることは、インクドットの大きさを制御させることが可能な優れた被記録媒体を得る上で大変重要であることがわかる。
次に、上層と下層との空隙径を異ならせた積層構造の色素受容層を備える被記録媒体を実際に作製したサンプルについて説明する。
〈サンプル15〉
サンプル15では、フィラーを分散させる分散溶媒としてイソプロピルアルコールと純水とを4対6に比率で混合した混合溶媒を用いたこと以外は、上述したサンプル1と同様にして色素受容層形成用塗液を調製した。
そして、この色素受容層形成用塗液を、乾燥時の膜厚が20μmになるようにキャノン社製の印画紙(商品名:PR101、以下印画紙PR101と記す。)からなる基材の主面全面に亘ってワイヤーバーで塗布し、乾燥して色素受容層を形成し、被記録媒体を作製した。なお、塗液を調製する際に分散溶媒として用いたイソプロピルアルコールは、フィラーの凝集を誘発させる作用があり、色素受容層中に形成される空隙径(マクロ孔)、すなわちフィラー同士が接触して形成される隙間を大きくさせるように作用する。
〈サンプル16〉
サンプル16では、上述したサンプル1と同様にして色素受容層形成用塗液を調製し、この塗液を用いたこと以外は、上述したサンプル15と同様にして被記録媒体を作製した。
ここで、サンプル15の色素受容層、サンプル16の色素受容層及び基材として使用した印画紙PR101について、水銀ポロシメトリの手法を用いて層中に形成される空隙径の大きさを測定した。なお、空隙径の測定には、ユアサアイオニクス社製の細孔分布測定装置を用いた。その結果、サンプル15の色素受容層では、20μm〜200μmであり、サンプル16の色素受容層では、0.015μmであり、印画紙PR101の受容層では、3μmであった。この結果より、サンプル15の色素受容層の空隙径は、基材となる印画紙PR101に比べて大きくなっていることがわかる。一方、サンプル16の色素受容層の空隙径は、基材となる印画紙PR101の受容層に比べて小さくなっていることがわかる。
そして、サンプル15及びサンプル16について、上述したサンプル1と同様にしてインク液滴を8液滴重畳させ、形成されたインクドットを指で触ってインクが転写するかどうかを確認した。その結果、サンプル15では、インクドットの滲みや指にインクが転写することが無く、インクが速やかに色素受容層に吸収されて速乾性を有していることが確認された。一方、サンプル16では、インクドットの滲みや指へインクの転写があり、サンプル15に比べてインクの吸液性が劣ることがわかった。
これは、サンプル15の色素受容層の空隙径が基材となる印画紙PR101の空隙径よりも大きくなっており、印画紙PR101で毛細管力が生じることから、色素受容層に着弾し、色素受容層を通過して印画紙PR101にまで達したインクが印画紙PR101内に速やかに取り込まれ、色素受容層表面のインクを層内に速やかに浸透させるからである。一方、サンプル16では、色素受容層の空隙径が基材となる印画紙PR101の空隙径よりも小さく、印画紙PR101に毛細管力が生じることがないことから、色素受容層表面のインクを層内に速やかに浸透させることが困難となり、滲みやインクの転写が生じてしまう。
なお、本発明では、上述したように、色素受容層32の下層34内のフィラー粒子同士が接触してできる隙間を、上層33内のフィラー粒子同士が接触してできる隙間より狭くするには、空隙径が大きいサンプル15を上層33とし、空隙径が狭いサンプル16を下層34とすることにより、上層33より下層34のフィラー粒子同士が接触してできる隙間を狭くすることができ、下層34のフィラー粒子同士の間に上層33より大きな毛細管力が働き、色素受容層32に着弾し、上層33を通過して下層34にまで達したインクを下層34内に速やかに取り込み、上層33表面のインクを層内に速やかに浸透させることができる。
なお、サンプル15及びサンプル16においては、色素受容層におけるインクの吸液性の差を明確にするために色素受容層に含有されるフィラーの表面に水溶性化合物を吸着させていないサンプルとしたが、上述したサンプル3等と同様の水溶性化合物が吸着したフィラーを用いることで、色素受容層の吸液性を向上させる効果の他に、インクドットの大きさを制御する作用効果も得られ、ざらつき感や滲み等のない優れた画質の画像を印刷できる。
本発明が適用された被記録媒体に印刷を行うインクジェット方式のラインヘッド型プリンタ装置を示す分解斜視図である。
同プリンタ装置に備わるインク吐出ヘッドを模式的に示す断面図である。
同インク吐出ヘッドに備わるヘッドチップを模式的に示す断面図である。
同比記録媒体を模式的に示す断面図である。
同被記録媒体に含有されるフィラーに染料がインターカレーションされる状態を示しており、同図(A)はフィラーを模式的に示す斜視図であり、同図(B)はフィラーに染料が受容される状態を模式的に示す斜視図であり、同図(C)はフィラーに染料が取り込まれ顔料になった状態を模式的に示す斜視図である。
被記録媒体にインク液滴を重畳させたときのインクドット径の変化を模式的に示しており、同図(A)は本発明が適用された被記録媒体を示す平面図であり、同図(B)は従来の被記録媒体を示す平面図である。
同被記録媒体の他の例を示す断面図である。
入射角60度における光沢度と色素受容層におけるインクの吸液量との関係を示す特性図である。
色素受容層にインク液滴を重畳させた数とインクドット径との関係を示す特性図である。
1,31 被記録媒体、2 基材、3,32 色素受容層、4 フィラー、11 ラインヘッド型プリンタ装置、18 インク吐出ヘッド、21 ヘッドチップ、33 上層、34 下層