JP4429422B2 - 抱合胆汁酸脱抱合酵素タンパク質 - Google Patents

抱合胆汁酸脱抱合酵素タンパク質 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) が産生する新規な抱合胆汁酸脱抱合酵素(Bile salt hydrolase;BSH)活性を有するBSHタンパク質に関する。
また、本発明は、BSHタンパク質産生能を有するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) の菌体抽出液からBSHタンパク質を分離、精製する上記BSHタンパク質の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ヒト腸内細菌が産生するBSHタンパク質には、ヒトの血清脂質代謝、特にコレステロール代謝に対する作用が示唆されている。すなわち、ヒト腸管内に存在する抱合胆汁酸をBSHタンパク質の触媒作用によって脱抱合胆汁酸に変換することでヒト血清コレステロール濃度が低下するという、いわゆるBSH説がそれである (例えば、Smetらの報告 (Microbial Ecology in Health and Disease, vol.7, pp.315-329, 1994))。
【0003】
BSH説の作用機序は、次の2通りの機構から形成されている。第一に、十二指腸から分泌される胆汁酸は抱合胆汁酸であり、脂質の吸収に大きく関与する複合ミセルの形成能力が脱抱合胆汁酸よりも抱合胆汁酸の方が高いので、腸内の抱合胆汁酸を脱抱合胆汁酸に変換すればするほど、経口的に摂取したコレステロールを含む脂質類の腸管からの吸収量が減少し、これによって血清コレステロール濃度が低下する要因となる (例えば、Sanders の報告 (Advance in Food and Nutri. Res., vol.37, pp.67-130, 1993))。
【0004】
第二に、腸管内に分泌された抱合胆汁酸は、抱合胆汁酸に特異的な受容体を介しての能動輸送により主に小腸下部から再吸収されて肝臓に運ばれるが、特異的な受容体を介しての脱抱合胆汁酸に対する能動輸送系は腸管内には存在しておらず、腸管からの脱抱合胆汁酸の再吸収は、もっぱら受動輸送のみに依っている。したがって、脱抱合胆汁酸の方が抱合胆汁酸に比べて腸管からの再吸収の割合が低く、また、腸管から再吸収されない胆汁酸は糞便中に排泄されるので、糞便中に排泄される胆汁酸の総量が増加する。体外に排泄される胆汁酸量が増加すると胆汁酸の体内での生合成量、つまり肝臓におけるコレステロールから胆汁酸への異化作用が亢進し、同時に肝臓ではLDLレセプターを介しての血液中からのLDLの取り込みが亢進し、これが血清コレステロールを低下させる要因となる (例えば、Huisらの報告 (TIBTECH, vol.12, pp.6-8, 1994)) 。
【0005】
上述のBSH説の検証に関する報告の中で、ある報告ではBSHが働いて血清コレステロール濃度が低下すること (例えば、Smetらの報告 (British J. Nutrition, vol.79, pp.185-194, 1998))を結論としている一方で、また、ある報告はBSHは機能せず、したがって、BSHは血清コレステロール濃度に影響を与えないこと (例えば、Pearceの報告 (Int. Dairy Sci., vol.6, pp.661-672))を結論としている。
【0006】
ところで、BSHの血清コレステロール濃度に対する影響に関するこれまでの研究報告は、全てマウス、ラット、あるいはブタといった実験動物を対象としたものである (例えば、Smetの報告 (British J. Nutri., vol.79, pp.185-194, 1998)) 。コレステロール代謝及び胆汁酸代謝の様式は、同じ哺乳動物とはいえ動物種によって大きく異なっていることが知られているので、ヒトにおけるBSHの効果を確認するためにはヒトを用いた実験が必須であるが、現在までのところ、ヒトでの実験は試みられていない。
【0007】
したがって、現在のところ、BSH説、すなわち、ヒト腸管内でBSHタンパク質によって抱合胆汁酸を脱抱合胆汁酸に変換することが血清コレステロール濃度の低下につながる可能性に関しては、一定の結論を得ていないものの、その可能性が十分に期待されているという状況にある。
【0008】
なお、これまでに、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属菌、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium) 属菌、エンテロコッカス (Enterococcus) 属菌、クロストリジウム(Clostridium) 属菌、バクテロイデス(Bacteroides) 属菌等にBSHタンパク質の存在が知られており、精製、遺伝子構造、酵素の性状等に関する報告がなされており、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium) 属菌に関しては、Grill らがビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) BB536 に由来するBSHタンパク質の精製とその性状について報告している (Appl. Environ. Microbiol., vol.61, pp.2577-2582, 1995)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) が産生する新規な抱合胆汁酸脱抱合酵素(BSH)タンパク質及びその製造法を提供することを課題とする。
【0010】
本発明のBSHタンパク質は、後述するように前記BSH説の検証に好都合な酵素学的性質を有し、この用途に使用されるばかりではなく、その酵素的特徴から化学試薬としても有用である。また、ヒトの血清コレステロール濃度を調節する機能を有する飲食品や医薬等の素材としても有用である。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ヒト腸管に存在する抱合胆汁酸を脱抱合することのできるBSHタンパク質を探索している過程で、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) が、他の乳酸菌に比べてBSHタンパク質を多量に産生し、かつヒトに存在する6種類の抱合胆汁酸を幅広く脱抱合する能力を有することを見出し、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) が産生するBSHタンパク質の精製を行なった。そして、得られたBSHタンパク質が、 Grillらが報告しているビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) BB536 が産生するBSHタンパク質の性状とは異なる性状を有する新規なBSHタンパク質であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のBSHタンパク質を産生するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) の菌株としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) 、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) 等を例示することができる。
【0013】
本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) が産生する、次の性質を有する新規なBSHタンパク質であり、また、配列表配列番号1に示したアミノ酸配列で規定されるものである。
(1) 分子量:変性状態での分子量 (サブユニットの分子量) が37,000±2,000 及び非変性状態での分子量 (生理条件下での分子量) が130,000 ±10,000である。
なお、変性状態での分子量はSDS-PAGE法で、また、非変性状態での分子量はゲル濾過法で測定される。
(2) 基質特異性:グリシン抱合型胆汁酸に対する脱抱合活性がタウリン抱合型胆汁酸に対する脱抱合活性よりも約2倍高い。
(3) 活性剤:ジチオスレイトール(DTT)、メルカプトエタノール、塩化ナトリウム。
(4) 阻害剤:SH酵素の阻害剤、塩化銅、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム。
(5) 至適pH及びpH安定性:至適pHは6であり、酵素活性はpH 4.5〜 7.6の範囲で安定である。
(6) 至適温度及び温度安定性:至適温度は40℃であり、酵素活性は4〜37℃の範囲で安定である。
また、本発明は、BSHタンパク質産生能を有するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) の菌体抽出液を陰イオン交換クロマトグラフィー、及び陽イオン交換クロマトグラフィーで順次処理してBSHタンパク質を分離、精製する上記BSHタンパク質の製造法である。
【0014】
なお、本発明の例えばビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium lo ngum) SBT-2928(FERM P-10657)が産生するBSHタンパク質の性状は、 Grillらが報告しているビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) BB536 が産生するBSHタンパク質の性状とは異なっている。
すなわち、本発明のBSHタンパク質と公知のBSHタンパク質(ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum BB536 株由来の酵素 (以下、BB536 酵素という)(Appl.Environ.Microbiol.,vol.61,pp.2577-2582,1995) との性質の相違は次のとおりである。
【0015】
(1) 基質特異性:
本発明のBSHタンパク質は、グリシン型抱合胆汁酸に対する脱抱合活性がタウリン型抱合胆汁酸に対する脱抱合活性よりも約2倍高い。
これに対し、BB536 酵素は、グリシン型抱合胆汁酸に対する脱抱合活性がタウリン型抱合胆汁酸に対する脱抱合活性と同等である。
(2) 分子量:
本発明のBSHタンパク質は非変性状態での分子量は約 130,000、変性状態での分子量は約37,000である。
これに対し、BB536 酵素は、非変性状態での分子量は約 250,000、変性状態での分子量は約40,000である。
(3) 変性剤の存在下での安定性:
本発明のBSHタンパク質は、前記変性状態及び非変性状態での分子量の相違からみて4量体であると考えられ、非変性状態では4量体で安定的に存在している。これに対し、BB536 酵素は、前記の変性状態及び非変性状態での分子量の相違からみて6量体であると考えられる。しかも、この6量体の非変性状態において酵素は不安定であり、酵素は単量体として存在する。
(4) 酵素阻害剤及び酵素活性剤に対する感受性:
本発明のBSHタンパク質の酵素阻害剤としては塩化カルシウム、酵素活性剤としては塩化ナトリウム、システィン、アスコルビン酸等が挙げられる。これに対し、BB536 酵素は塩化カルシウムでは活性が阻害されず、また、酵素活性剤は不明である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明のBSHタンパク質は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) が産生し、前記のような性質を有し、また、配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する。
このBSHタンパク質は、上述したBSH説の検証に好都合な性質を有している。つまり、他の細菌が産生するBSHタンパク質に比べ比活性が遙かに高く、ヒト腸内に存在する6種類の抱合胆汁酸を全て脱抱合する能力を有しているからである。また、グリシン抱合型胆汁酸に対する特異性は、ヒト胆汁中の抱合胆汁酸を効率良く脱抱合する用途に適している。なぜなら、ヒト胆汁中の抱合胆汁酸の構成比はグリシン抱合型胆汁酸:タウリン抱合型胆汁酸=2:1であるが、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) が産生するBSHタンパク質は、グリシン抱合型胆汁酸をタウリン抱合型胆汁酸よりも約2倍高い割合で脱抱合するからである。さらに、本発明のBSHタンパク質のアミノ酸配列及びDNA配列から通常の遺伝子操作によって、BSH活性のみを欠損させた変異体を作出できるので、BSH説を検証する際に必須となる陰性対照株を容易に作出することもできる。
【0017】
なお、本発明のBSHタンパク質を産生するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) は、ヒトの腸内菌叢の主要な構成菌種であり、ヒトの腸内に定着して生息しているので、ヒトに与える影響の潜在的な能力が高いことが考えられ、また、従来よりヨーグルト等の発酵乳製品に幅広く使用されている乳酸菌であるので、安全性という点からも何ら問題はない。
【0018】
本発明では、BSHタンパク質産生能を有するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) を嫌気条件下で培養した後、菌体抽出液からBSHタンパク質を分離、精製する。
【0019】
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) 菌体を培養するに際しては、嫌気性細菌用の培地であればどのような培地をも使用することができ、例えば、市販のTPY培地、M−17培地、MRS培地、Briggs Liver液体培地等を使用して菌体を培養すれば良い。なお、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) 菌体の培養は、嫌気条件下で行うことが好ましいので、市販の酸素吸着材で培養器内を嫌気条件にしたり、あるいは培養器内の酸素を強制的に窒素ガスや炭酸ガスに置換して、嫌気的な環境とすれば良い。また、培養は30〜37℃の温度範囲で10〜30時間培養すれば良い。
【0020】
培養後の菌体を、中性領域に緩衝能を有する緩衝液を用いて洗浄し、培地成分を菌体成分から十分に除去する。洗浄後の菌体については再び緩衝液に懸濁して、適当な濃度の菌体懸濁液を調製する。菌体懸濁液については次に超音波処理等を行って、菌体抽出液(粗酵素画分)を調製する。菌体抽出液の調製方法には、超音波処理装置を用いる方法の他に、フレンチプレスを用いる方法、凍結融解による方法、リゾチーム(Lysozyme)等の酵素処理による方法等が挙げられるが、超音波処理が好ましい。
【0021】
以上のようにして調製した粗酵素画分を、第一に陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分画する。陰イオン交換クロマトグラフィー用カラムとしては、Pharmacia 社製のMonoQ カラム、また、DEAE-Sepharoseカラム等を使用することができる。本クロマトグラフィーはpH 7付近で実施することが好ましく、この時、BSH活性画分は陰イオン交換クロマトグラフィー用カラムに吸着される。一旦カラムに吸着されたBSH活性画分は、その後、0.25〜0.35 M食塩を含む緩衝液によって当該カラムから溶出させることができる。
【0022】
陰イオン交換クロマトグラフィーによって分画されたBSH活性画分を、次に陽イオン交換クロマトグラフィーで分画することによって、BSHタンパク質を完全に精製することができる。陽イオン交換クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Pharmacia 社製のMonoS カラム、また、CM-Sepharoseカラム等を使用することができる。本クロマトグラフィーはpH4.5 〜6の間で実施することが好ましい。緩衝液のpHが6を超えると本クロマトグラフィーによる精製効果を期待することができず、また、緩衝液のpHを 4.5未満にすると酵素が失活し酵素活性の消失を招くことになる。
【0023】
上記の条件下における陽イオン交換クロマトグラフィーでは、BSH活性画分はカラムに保持されずに素通りして溶出される。それに対して、夾雑タンパク質の殆ど全てがカラムに保持され、したがって、BSHタンパク質を、ほぼ純粋なタンパク質として分離、精製することができる。
【0024】
以上、説明したように、本発明においては、2種類のイオン交換クロマトグラフィーによる分画操作を組み合わせることによって、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) 、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) 等が産生するBSHタンパク質を容易に分離、精製することができる。
【0025】
また、本発明では、上述の方法で精製されるタンパク質がBSH活性を示すことを確認するために、次の2種類の試験を実施した。
一つは、部分精製酵素画分をBSH活性染色法に供する方法であり、もう一つはN末端アミノ酸配列分析による方法である。その結果、実施例で示すように、本発明で得られるタンパク質がBSH活性を有するBSHタンパク質であることが明らかとなった。
【0026】
さらに、本発明によって明らかにしたビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) 、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) 等が産生するBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列を配列相同性分析に供した結果、本発明で明らかにしたビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) 、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) 等が産生するBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列は、他の細菌が産生するBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列に対して29〜58%の相同性を示すものの、この配列は、これまでにいずれの学術論文、特許明細書等の文献、あるいは、EMBL、GenBank 、また、Swiss-PlotといったDNA、タンパク質の配列情報データベースにも登録されていない新規な配列であった。
【0027】
以下に、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928(FERM P-10657)及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) が産生するBSHタンパク質に関する実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。また、その他のBSHタンパク質産生能を有するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) 菌株についても、以下の実施例に従って処理することにより、BSHタンパク質を同様に分離、精製することができる。
【0028】
酵素活性の測定
本発明では、以下の2通りの方法を用いてBSH活性を測定した。
第1の方法では、酵素試料と抱合胆汁酸とを反応させた後、抱合胆汁酸から遊離したアミノ酸を、遊離アミノ基に対する修飾試薬であるトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いて比色定量することでBSH活性を測定した。反応液は、0.18mlの0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)、0.01mlの基質溶液(200mM抱合胆汁酸混合溶液) 、及び0.01mlの酵素試料から構成されている。緩衝液と基質溶液とを混合した後、酵素試料を添加することで反応を開始させ、37℃で10分間反応させた後、反応液の0.05mlをサンプリングし、ここに0.05mlの15%(w/v) トリクロロ酢酸(TCA)溶液を加えて反応を停止させた。反応液の残りの0.15mlは、さらに37℃で反応を継続させ、30分間反応させた後、反応液の0.05mlをサンプリングし、ここに0.05mlの15%TCA溶液を加えて反応を停止させた。このようにして得られた2つの試料中の遊離アミノ酸量をTNBS法(Barret,D. and Edwards,B.F., Methods Enzymol., vol.45, pp.354-373, 1976)で測定し、反応開始後10〜30分の20分間に抱合胆汁酸から遊離したアミノ酸量を計算した。
【0029】
遊離アミノ酸量の測定は、以下の手順で行った。0.60mlの試料溶液に対し、0.30mlの4%(w/v) 炭酸水素ナトリウム溶液、及び0.40mlの 0.1%(w/v) TNBS溶液を加えて反応を開始し、暗所中、50℃で20分間インキュべートした。反応後、0.25mlの2%(w/v) SDS溶液、及び0.25mlの1N塩酸溶液を加えて反応を停止させた。反応停止後1時間以内に、反応液の340 nmにおける吸光度を測定した。なお、標準物質として、10〜40n moles のグリシンを使用した。
【0030】
上記の反応条件において、1分間に1μmoleのアミノ酸を遊離するのに必要な酵素活性量を1単位(1 unit)と定義した。また、200mM 抱合胆汁酸混合溶液はタウロコール酸ナトリウム(12.9mg/ml) 、タウロデオキシコール酸ナトリウム(8.4mg/ml)、タンロケノデオキシコール酸ナトリウム(12.5mg/ml) 、グリココール酸ナトリウム(22.4mg/ml)、グリコデオキシコール酸ナトリウム (15.1mg/ml)、及びグリコケノデオキシコール酸ナトリウム(21.7mg/ml) から構成されている。
TNBS法では、DTTの存在下で酵素反応を行った試料中のアミノ酸量を測定することができなかった(DTTがTNBSと反応し、バックグラウンドが上昇するため)。
【0031】
そこで第2の方法では、ニンヒドリンによる比色定量法(Lee,Y.P. and Takahashi,T., Anal. Biochem., vol.14, pp.71-77, 1966) を用いることによって、DTTを含む試料中のアミノ酸量を定量した。
0.1 mlの試料に1.9 mlのニンヒドリン試薬を加えた試験管を十分撹拌した後、沸騰水(100℃) 中で14分間反応させた。反応後、試験管を水道水中で3分間保持して反応液を冷却した後、1時間以内に反応液の570 nmにおける吸光度を測定した。標準試料には、10〜40n moles のグリシンを使用した。なお、試料がTCA及びDTTを含む場合は、標準試料にも同量のTCA及びDTTを加えた。
【0032】
上記の反応条件において、1分間に1μmoleのアミノ酸を遊離するのに必要な酵素活性量を1単位(1 unit)と定義した。また、ニンヒドリン試薬(1.9ml) は、0.5 mlの1%(w/v) ニンヒドリン溶液を含む0.5Mクエン酸緩衝液(pH 5.5)、 1.2mlのグリセロール、及び 0.2mlの0.5Mクエン酸緩衝液(pH 5.5)から構成されている。
【0033】
【実施例1】
BSHタンパク質の精製
市販のM-17 培地を用いてビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT2928(FERM P-10657) の菌体を37℃で1夜、嫌気培養した。M-17 培地には、さらにアスコルビン酸(5g/リットル) とシステイン(0.3g/リットル) を添加した。また、嫌気培養は、市販の酵素吸着剤(AnaeroGen, OXOID社製) を用いて行った。1夜培養後の培養液の濁度(600nm における吸光度) は2から3の範囲であった。
菌体を培養後、培養液を遠心分離して菌体を回収した。回収した菌体を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)で洗浄した後、再び遠心分離して菌体を回収した。この洗浄操作を2回行った後、菌体を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)に再懸濁し、菌体懸濁液のA600 値を15に調整した。
【0034】
次に、菌体懸濁液を氷上で超音波処理し、菌体抽出液を調製した。菌体破砕条件は、装置(Model VC375;Sonics and Materials Inc.)の出力が5、Duty cycleが50%、処理時間は3分とした。破砕後の菌体懸濁液を25,000×g で10分間遠心分離し、上清を菌体抽出液とした。この菌体抽出液は、使用前まで−20℃で保存した。
【0035】
BSHタンパク質を精製する最初のステップとして、Mono Qカラム(0.5×5cm; Pharmacia社製)を用いて陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。緩衝液には、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)を使用した。また、カラムに吸着したタンパク質の溶出には、上記の緩衝液に1.0M塩化ナトリウムを加えた緩衝液を使用した。流速は1.0ml/分とした。
菌体抽出液をカラムに添加した後、10mlの緩衝液でカラムを洗浄した。次に、溶出用の緩衝液を用いて塩化ナトリウムの濃度勾配を形成し、カラムに吸着したタンパク質を溶出した。BSH活性画分は、約0.3M塩化ナトリウムを含む緩衝液によってMono Qカラムから溶出された。
【0036】
陰イオン交換クロマトグラフィーで得られたBSH活性画分を、次にMono Sカラム(0.5×5cm; Pharmacia社製) を用いた陽イオン交換クロマトグラフィーに供した。緩衝液には、0.05M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を使用した。また、カラムに吸着したタンパク質の溶出には、上記の緩衝液に1.0M塩化ナトリウムを加えた緩衝液を用いた。流速は1.0ml/分とした。
【0037】
Mono Qクロマトグラフィーで得られたBSH活性画分を9倍量の緩衝液(0.05M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)) で希釈した後、0.05M 酢酸溶液を用いて溶液のpHを 5.0に調整してカラムに添加する試料とした。試料をカラムに添加した後、10mlの緩衝液でカラムを洗浄した。次に、溶出用の緩衝液を用いて塩化ナトリウムの濃度勾配を作成し、カラムに吸着したタンパク質を溶出した。この条件において、BSH活性画分はMono Sカラムに吸着されずに素通りした。
【0038】
以上のように、洗浄菌体を超音波処理して得た菌体抽出液を2種類のイオン交換クロマトグラフィーを用いて分画することにより、比較的容易にBSHタンパク質を分離、精製することができた。それぞれ600 mlの培養液から精製を開始し、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928(FERM P-10657)の菌体の場合は 1.0mg及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) の菌体の場合は 1.7mgの精製酵素を得た。活性回収率はそれぞれ17%及び24%であり、最終精製酵素標品の比活性はそれぞれ21U/mg及び63U/mgであった。
【0039】
【試験例1】
実施例1で精製したタンパク質がBSHタンパク質であることの確認: SDS-PAGE 活性染色法
対象試料に含まれるタンパク質をSDS-PAGE法で分離した後、Coleman and Hudsonの方法 (Appl. Environ. Microbiol., vol.61, pp.2514-2520, 1995)により、ゲル上でBSHタンパク質のみを活性染色した。この方法は、SDS-PAGEにより変性した酵素タンパク質をTriton X-100処理により再構成し、その後、ゲルを抱合胆汁酸溶液を含む酸性緩衝液中でインキュべートすることにより、BSHタンパク質バンド上に白色沈澱(脱抱合胆汁酸の沈澱)を形成させる方法である。
【0040】
12.5%アクリルアミドゲルを用いて試料中のタンパク質をSDS-PAGE法で分離した後、ゲルを再構成緩衝液中で室温、一夜インキュべートした。その後、ゲルを基質溶液に移し、室温で1時間から数時間インキュべートした。再構成緩衝液の組成は0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)、1%(v/v) Triton X-100、及び10mM DTTであり、また、基質溶液の組成は0.5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)、10mM DTT、1mM EDTA、及び10mMグリコデオキシコール酸ナトリウムである。 Mono Qクロマトグラフィー後の部分精製画分をSDS-PAGEした後、活性染色法に供した結果、精製されたタンパク質とSDS-PAGE上の移動度が同一のタンパク質バンド上に白色沈澱が形成された。この結果から、本発明で精製したタンパク質がBSH活性を有することが確認された。
【0041】
【試験例2】
実施例1で精製したタンパク質がBSHタンパク質であることの確認:N末端アミノ酸配列分析
精製したBSHタンパク質をSDS-PAGEで処理した後、Matsudairaの方法 (J. Biol. Chem., vol.262, pp.10035-10038, 1987)に従ってゲル内のBSHタンパク質をPVDF膜に転写し、N末端アミノ酸配列分析用の試料とした。転写の際にはTowbin緩衝液を使用し、150Vの定圧条件下で1時間30分通電した。
【0042】
転写操作後のPVDF膜をCBB 染色し、目的のBSHタンパク質バンドを切り出した。この試料を直接、Applied Biosystem 社のProtein Sequencer Model 476Aで分析した。その結果、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT-2928(FERM P-10657) の菌体、及び Bifidobacterium longum SBT-2933R(FERM P-8743) の菌体が産生するBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列を、以下のように決定した。両菌体に由来するBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列は同一のものであった。
Xaa-Thr-Gly-Val-Arg-Phe-Xaa-Asp-Asp-Glu-Gly-Asn-Thr-Tyr-Phe-Gly-Arg-Asn-Leu-Asp-Trp-Ser-Phe-Ser-Tyr-Gly-Glu-Thr-Ile-Leu-Val-Thr-Pro-Arg-Gly-Tyr-His-(Xaa は未同定のアミノ酸)(配列表配列番号2)。
【0043】
今回決定したN末端アミノ酸配列をもとに、GenBank 及びEMBLのDNAデータベース、及びSwiss-Plotのタンパク質データベースに対してホモロジー検索を実施した。その結果、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT-2928(FERM P-10657) の菌体、及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT-2933R(FERM P-8743) の菌体由来のBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列は、DNAデーターベースに登録されている Lactobacillus johnsonii のBSH遺伝子から推定されるN末端アミノ酸配列(NCBI Accession No. AF054971)に対して62%の相同性を示した。また、DNAデーターベースに登録されている Lactobacillus acidophilus のBSH遺伝子から推定されるN末端アミノ酸配列(NCBI Accession No. AF091248)に対しても60%の相同性を示した。さらに、これまでに報告されている Lactobacillus plantarum のBSH遺伝子から推定されるN末端アミノ酸配列(NCBI Accession No. S51638,(Christiaens, H., Leer, R. J., Pouwels, P. H. and Verstraete, W. Appl. Environ. Microbiol. 58, 3792-3798, 1992)) に対しては56%の相同性を示し、また、 Clostridium perfringens のBSH遺伝子から推定されるN末端アミノ酸配列(NCBI Accession No. U20191)に対しては34%の相同性を示した。
【0044】
以上のN末端アミノ酸配列分析、及びホモロジー検索の結果から、本発明のBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列が、これまでに報告されている他のBSHタンパク質のN末端アミノ酸配列に相同性を示すことが明らかとなった。よって、本発明のタンパク質がBSHタンパク質であることが確認できた。
【0045】
【試験例3】
BSHタンパク質の分子量の測定
10%アクリルアミドゲルを用いた通常のSDS-PAGE処理により、変性状態でのBSHタンパク質の分子量を測定した。これによると、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) の菌体が産生するBSHタンパク質の分子量は、共に37 kDa±2 kDa と測定された。
【0046】
次に、通常のゲル濾過法を用いてビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) の菌体が産生するBSHタンパク質の非変性状態での分子量を測定した。ゲル濾過の条件は、カラムにはSupelco 社製のSigma Chrom GFC-1300カラムを使用して、移動相は0.15M 塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)とし、流速は0.5ml/分とした。分子量測定の標準物質には、Sigma 社製の分子量測定キット(MW-1000) を使用した。その結果、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) の菌体が産生するBSHタンパク質の非変性状態での分子量は、共に130 kDa ±10 kDaと測定された。
【0047】
【試験例4】
BSHタンパク質の基質特異性
基質飽和の条件下(基質の最終濃度は10mM)にて、ヒトの主要6種類の抱合胆汁酸及びタウロウルソデオキシコール酸とタウロヒオデオキシコール酸に対するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) の菌体が産生するBSHタンパク質の基質特異性を検討した。なお、BSH活性の測定は、 10mM DTT存在下で、先に説明したニンヒドリンによる比色測定法により行った。結果を表1に示す。
【0048】
表1は、グリコケノデオキシコール酸に対する活性値を 100とした場合の相対活性値で示した。
【表1】
Figure 0004429422
【0049】
両者共、極めて類似した基質特異性を示し、グリシン抱合型胆汁酸に対する活性値がタウリン抱合型胆汁酸に対する活性値よりも約2倍高かった。また、両者とも、ケノデオキシコール酸に対する活性値がコール酸及びデオキシコール酸に対する活性値よりも高かった。
さらに、これらのBSHタンパク質はヒト腸内からは検出されないタウロウルソデオキシコール酸及びタウロヒオデオキシコール酸に対しても脱抱合活性を示すことが明らかとなった。
【0050】
【試験例5】
BSHタンパク質の Km
ヒト腸内にみられる6種類の抱合胆汁酸に対して、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体が産生するBSHタンパク質のKm値を測定した。また、ヒト腸内にみられる3種類の抱合胆汁酸に対して、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2933R (FERM P-8743) の菌体が産生するBSHタンパク質のKm値を測定した。Km値は、異なる基質濃度条件下における反応初期速度を基に測定する際に通常用いられる方法によって測定した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
Figure 0004429422
【0052】
Km値からも、グリシン抱合型胆汁酸に対する親和性が、タウリン抱合型胆汁酸に対する親和性よりも高いことが明らかになった。また、ケノデオキシコール酸に対する親和性がコール酸及びデオキシコール酸に対する親和性よりも高いことが明らかになった。
【0053】
【試験例6】
酵素阻害剤の影響
BSH活性に対する酵素阻害剤の影響及びビフィドバクテリウム・ロンガム(B ifidobacterium longum) SBT-2928(FERM P-10657)の菌体が産生するBSHタンパク質に対する種々の酵素阻害剤の影響を検討した。酵素活性の測定は、一定濃度の酵素阻害剤を反応混合液に加えた以外は、先に説明した方法で実施した。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
Figure 0004429422
【0055】
本発明のBSHタンパク質は、SH酵素の阻害剤であるヨード酢酸、過ヨウ素酸、N−エチルマレイミド、塩化水銀、p-chloromercuribenzoic acid(pCMBA) によって、酵素活性が60〜 100%の範囲で阻害された。なお、塩化水銀による酵素活性の阻害は、 10mM DTTの添加によって酵素活性が完全に回復した。金属イオン類では、塩化銅、塩化カルシウムが酵素活性を阻害した。また、硫酸マグネシウムが酵素活性を阻害したものの、塩化マグネシウムは酵素活性を阻害しなかったことから、硫酸マグネシウムの阻害活性はマグネシウムイオンに由来するものではなく、硫酸イオンに由来するものであることが考えられた。
金属イオン依存性酵素の阻害剤であるEDTA及びセリンプロテアーゼ阻害剤のPMSFは、本酵素活性に対して弱い阻害活性を示した。
【0056】
【試験例7】
BSH活性に対するSH試薬の影響
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体が産生するBSHタンパク質に対するSH試薬の影響を検討した。本試験例では、SH試薬としてDTTを使用した。酵素活性に対するDTTの影響は、酵素抽出時、及び酵素活性測定時の2点に関して検討を実施した。
10mMDTT存在下、あるいは非存在下でBSH活性画分を超音波処理(実施例1で説明した方法による)によって抽出した後、10mMDTTの存在下、あるいは非存在下で、先に説明した方法により酵素活性を測定した。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
Figure 0004429422
【0058】
DTT非存在下で酵素を抽出した場合、酵素活性測定時にDTTを添加することによって酵素活性値が約8倍上昇した。一方、DTT存在下で酵素を抽出した場合は、酵素活性測定時のDTT添加の有無に関わらず、一定(DTT非存在下で酵素を抽出し、DTT存在下で酵素活性を測定した場合に得られる活性値の約 2.7倍)の酵素活性値を得た。これらの結果から、DTTには超音波処理に起因する酵素の酸化を抑制する作用、及び超音波処理時に酸化変性したBSHタンパク質を還元することで酵素活性を再活性化する作用のあることが明らかになった。
なお、DTT以外のSH試薬としては、メルカプトエタノールが同様な効果を示した。
【0059】
【試験例8】
BSH活性に対する塩化ナトリウムの影響
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体が産生するBSHタンパク質に対する塩化ナトリウムの影響を検討した。BSH活性測定用の反応液に、最終濃度が50mM、100mM 、500mM となるように塩化ナトリウムを添加した後、BSH活性を先に説明した方法で測定した。その結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
Figure 0004429422
【0061】
いずれの濃度においても、塩化ナトリウムはBSH活性を約 1.5倍活性化した。
【0062】
【試験例9】
BSH活性に対する pH 及び温度の影響
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体が産生するBSHタンパク質のBSH活性に対するpH及び温度の影響を調べた。酵素活性は、先に説明した方法で測定した。その結果、図1及び2に示すように、本発明のBSHタンパク質のBSH活性の至適pHは6付近に存在し、BSH活性はpH 4.5〜 7.6の範囲で安定であった。また、図3及び4に示すように、本発明のBSHタンパク質のBSH活性の至適温度は40℃付近に存在し、BSH活性は4〜37℃の範囲で安定であった。
なお、温度安定性はpH6の条件で酵素溶液を30分間保存した後に残存する酵素活性量を測定することで評価し、また、pH安定性は、各pH条件に酵素溶液を30分間保存した後に残存する酵素活性量を測定することで評価した。
【0063】
【試験例10】
BSHタンパク質をコードする遺伝子の取得と遺伝子配列分析
定法に従ってビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERM P-10657) の菌体の染色体DNAを調製した後、制限酵素(Sau3A) を用いてDNAを断片化し、平均DNA長が 3kbであるようなDNAバンクを調製した。その後、定法に従ってDNA断片を大腸菌に組み込み、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT-2928 (FERMP-10657) の菌体の染色体DNA断片が組み込まれた大腸菌を多数取得した。
【0064】
次に、抱合胆汁酸を含有させた寒天培地によるスクリーニング法(Appl.Environ, Microbiol.,vol.58, pp.3792-3798,1992)で、BSHタンパク質をコードしているDNA断片が組み込まれた大腸菌を選択した。当該DNA断片が組み込まれた大腸菌は、この寒天培地上で生育し、コロニーの周辺に脱抱合胆汁酸の結晶からなるハローを形成するので、このハローの形成を指標としてBSH遺伝子断片が組み込まれた大腸菌を選択した。
選択された大腸菌に組み込まれたDNA断片を、さらに、定法に従って大腸菌から単離、増幅した後、遺伝子配列分析を実施した。その結果、配列表配列番号1に示した遺伝子配列、及び遺伝子配列から推測されるアミノ酸配列を得た。
【0065】
【発明の効果】
本発明により新規な抱合胆汁酸脱抱合酵素(BSH)タンパク質が提供される。本発明のタンパク質はBSH説の検証に好都合な酵素学的性質を有し、化学試薬として、あるいはヒト血清コレステロール濃度を調節する機能を有する飲食品や医薬等の素材として用いられる。
従来、ヒト胆汁中のグリシン抱合型胆汁酸に対するタウリン抱合型胆汁酸の比は2:1であることが知られている。従って、本発明のBSHタンパク質は、その脱抱合性からみて、他の抱合胆汁酸脱抱合酵素(BSH)、特にBB536 酵素よりもヒト胆汁を効率的に脱抱合することができ、ヒトに投与する場合その投与量を最小限にすることができる。
【0066】
また、本発明のBSHタンパク質は、多量体において安定性が高い。酵素精製の過程において、BB536 酵素は多量体が不安定であるので単量体に変換されてしまうのに対し、本発明のBSHタンパク質は生理条件下で存在すると考えられる4量体の構造を維持し、精製の前後で酵素の性質に大きな差異はみられない。このような酵素精製時及び酵素保存時における酵素タンパク質の安定性が高いことは、酵素の製造上、及び実験上の取り扱いを容易とするものであり、性質の安定した酵素標品を製造し、種々の生命科学の実験に使用することができる。
【0067】
さらに、本発明のBSHタンパク質は、その酵素活性が塩化カルシウムで阻害されるので、食品添加物として認められている物質を用いて酵素活性を抑制できる。これに対し、BB536 酵素は、このような物質で酵素活性を阻害することができない。
本発明のBSHタンパク質のこのような塩化カルシウムに対する感受性は、この酵素タンパク質を食品等に利用する場合、その用途、及び使用方法を拡大する上で有用である。
【0068】
【配列表】
Figure 0004429422
Figure 0004429422
Figure 0004429422
Figure 0004429422

【図面の簡単な説明】
【図1】試験例9のBSHタンパク質のBSH活性の至適pHを示す。
【図2】試験例9のBSHタンパク質のBSH活性のpH安定性を示す。
【図3】試験例9のBSHタンパク質のBSH活性の至適温度示す。
【図4】試験例9のBSHタンパク質のBSH活性の温度安定性を示す。

Claims (3)

  1. 配列表配列番号1に示したアミノ酸配列で規定される、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacteriumlongum)が産生する、抱合胆汁酸脱抱合酵素(Bilesalthydrolase;BSH)活性を有するBSHタンパク質。
  2. BSHタンパク質産生能を有するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacteriumlongum)の菌体抽出液を陰イオン交換クロマトグラフィー、及び陽イオン交換クロマトグラフィーで順次処理して請求項1に記載のBSHタンパク質を分離、精製することを特徴とするBSHタンパク質の製造法。
  3. BSHタンパク質産生能を有するビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacteriumlongum)が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacteriumlongum)SBT−2933R(FERMP−8743)またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacteriumlongum)SBT−2928(FERMP−10657)である請求項2に記載のBSHタンパク質の製造法。
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