以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
図1〜図34は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は変速機の縦断面図、図2は図1の2部拡大図(図3の2−2線断面図)、図3は図2の3−3線断面図、図4は図2の4−4線断面図、図5は図2の5−5線断面図、図6は図2の6方向矢視図、図7は図6の7部拡大斜視図、図8は図6の8−8線断面図、図9は図6の9−9線断面図、図10は図6の10−10線断面図、図11は図6の11−11線断面図、図12は図10の12−12線断面図、図13はスライドカムおよびスライダの斜視図、図14はストラット、ヘッドボールおよびテールボールの斜視図、図15はドリブンギヤの係合状態を示す作用説明図、図16はドリブンギヤのワンウエイ状態を示す作用説明図、図17はドリブンギヤの非係合状態を示す作用説明図、図18〜図34はシフトアップおよびシフトダウン時の作用説明図である。
図1に示すように、例えばF1レーシングカーに用いられる前進7段の変速機Tは、相互に平行に配置された中空の入力軸11および中空の出力軸12を備えており、入力軸11の一端側(以下、左側という)にはエンジンEが接続され、出力軸12の他端側(以下、右側という)には駆動輪に駆動力を伝達すべくベベルギヤよりなる出力ギヤ13が設けられる。入力軸11の外周には、その右側から左側に向けて、1速ドライブギヤ14、3速ドライブギヤ15、5速ドライブギヤ16、7速ドライブギヤ17、2速ドライブギヤ18、4速ドライブギヤ19および6速ドライブギヤ20が固設される。出力軸12の外周には、その右側から左側に向けて、前記各ドライブギヤ14〜20に常時噛合する1速ドリブンギヤ21、3速ドリブンギヤ22、5速ドリブンギヤ23、7速ドリブンギヤ24、2速ドリブンギヤ25、4速ドリブンギヤ26および6速ドリブンギヤ27が、それぞれブッシュ28…を介して相対回転自在に支持される。
出力軸12の内部には、ミッションケース(不図示)に固定されたアクチュエータ軸29が同軸に配置されており、アクチュエータ軸29の外周に円筒状のシリンダ30が軸方向移動自在に支持される。更にシリンダ30の外周に円筒状のスライドカム31が一対のボールベアリング32,33を介して相対回転自在かつ軸方向摺動自在に支持されており、スライドカム31は円周方向に等間隔に配置された複数本(実施の形態では8本)のコイルスプリングよりなるアクチュエータスプリング34…により、シリンダ30に対して軸方向に相対移動可能にフローティング支持される。
アクチュエータ軸29の内部から供給される油圧でシリンダ30を出力軸12の右側から左側に移動させると、そのシリンダ30にアクチュエータスプリング34…を介してフローティング支持されたスライドカム31が出力軸12の右側から左側に移動することで、1速変速段から7速変速段が順番に確立される。尚、この変速機Tは、変速段を飛ばしてシフトアップあるいはシフトダウンを行うことはできない。
次に、図2〜図6を参照して出力軸12の内部構造を更に詳細に説明する。
図2に示すように、アクチュエータ軸29の外周に嵌合するシリンダ30の右端内周面にはストッパリング41およびカラー42が嵌合してキャップ43で固定されており、カラー42がアクチュエータ軸29の外周面に摺動する部分にはスライドガイド44およびシール部材45が配置され、キャップ43がアクチュエータ軸29の外周面に摺動する部分にはシール部材46が配置され、カラー42がシリンダ30の内周面に当接する部分にはシール部材47が配置される。
またアクチュエータ軸29の外周に嵌合するシリンダ30の左端内周面にはストッパリング48、カラー49およびキャップ50が嵌合し、このキャップ50がボルト51…でシリンダ30の左端に締結される。カラー49がアクチュエータ軸29の外周面に摺動する部分にはスライドガイド52およびシール部材53が配置され、キャップ50がアクチュエータ軸29の外周面に摺動する部分にはシール部材54が配置され、カラー49がシリンダ30の内周面に当接する部分にはシール部材55が配置される。
アクチュエータ軸29の中間部には、ピストン29aが形成されており、そのピストン29aにシリンダ30の内周面に摺動するスライドガイド56およびシール部材57が配置される。その結果、アクチュエータ軸29のピストン29aとシリンダ30の右端側のカラー42との間に第1油室58が区画され、アクチュエータ軸29のピストン29aとシリンダ30の左端側のカラー49との間に第2油室59が区画される。第1油室58はアクチュエータ軸29の内部に形成した第1油路29bを介して図示せぬオイルポンプあるいはリザーバに連通し、第2油室59はアクチュエータ軸29の内部に形成した第2油路29cを介して図示せぬオイルポンプあるいはリザーバに連通する。
従って、オイルポンプから第2油路29cを経て第2油室59に油圧を供給すると、第1油室58の作動油が第1油路29bを経てリザーバに戻されることで、固定されたアクチュエータ軸29に対してシリンダ30が右側から左側に移動してシフトアップが行われ、オイルポンプから第1油路29bを経て第1油室58に油圧を供給すると、第2油室59の作動油が第2油路29cを経てリザーバに戻されることで、固定されたアクチュエータ軸29に対してシリンダ30が左側から右側に移動してシフトダウンが行われる。
このように、スライドカム31を軸方向に往復駆動する駆動源であるシリンダ30を出力軸12の内部に完全に収納したので、その駆動源を出力軸12の外部に配置する場合に比べて変速機Tを小型化することができる。
図2および図3から明らかなように、シリンダ30の外周面に小径に形成した環状のスプリング収納溝30aに、8本のアクチュエータスプリング34が45°間隔で配置される。シリンダ30の外周には右端側が閉塞したアウタースプリングガイド60が軸方向に摺動自在に嵌合しており、そのアウタースプリングガイド60の右側の閉塞部およびスプリング収納溝30aの右側の段部にアクチュエータスプリング34の右端側が係止されるとともに、アクチュエータスプリング34の左端側を支持するインナースプリングガイド61がスプリング収納溝30aの左側の段部に係止される。アウタースプリングガイド60の軸方向両端部は前記一対のボールベアリング32,33のインナーレース間に軸方向移動不能に係止され、そのアウターレースはスライドカム31の内周面に軸方向移動不能に係止される。
従って、アウタースプリングガイド60、一対のボールベアリング32,33およびスライドカム31は一体化され、スライドカム31が軸方向に自由に移動できる状態では、シリンダ30が軸方向に移動すると、アクチュエータスプリング34…は圧縮されることなく、スライドカム31はシリンダ30と一体で軸方向に移動する。一方、スライドカム31の軸方向の移動が拘束された状態では、シリンダ30が軸方向に移動すると、アクチュエータスプリング34…が圧縮されることで、スライドカム31が停止したままシリンダ30だけが軸方向に移動することができる。よって、スライドカム31は、アクチュエータスプリング34…を介してシリンダ30に軸方向にフローティング支持されることになる。
図2〜図5および図13に示すように、概略円筒状のスライドカム31の外周面には、6本の円弧状断面のカム溝31a…が60°間隔で軸方向に凹設されており、それらのカム溝31a…に途中の2か所に径方向外側に突出する環状の第1、第2凸部31b…,31c…が突設される。6本のカム溝31a…の6個の第1凸部31b…の位置は軸方向に整列しており、他の6個の第2凸部31c…の位置も軸方向に整列している。第1、第2凸部31b…,31c…の頂部の位置は、スライドカム31の外周面の高さよりは径方向に低くなっている。
スライドカム31の外周面には軸方向に延びる6本のガイド溝31d…が60°間隔で形成されており、各ガイド溝31dに棒状のスライダ64が摺動自在に嵌合する。各スライダ64の外周面には軸方向に延びるカム溝64aが形成されており、そのカム溝64aの途中の2か所に径方向内側に凹む第1、第2凹部64b,64cが形成される。6本のカム溝31a…の6個の第1凹部64b…の位置は軸方向に整列しており、他の6個の第2凹部64c…の位置も軸方向に整列している。
スライドカム31の外周面には前記6本のガイド溝31d…に隣接して6本のスプリング収納溝31e…が形成されており、各スプリング収納溝31eに収納されたスライダスプリング65が、スライダ64の側面に突設されたスプリングシート64dに係止される。このスライダスプリング65によって、スライダ64はスライドカム31に対して軸方向左側に付勢され、スプリング収納溝31eの左側に形成されたストッパ面31fに当接する位置に保持される。
従って、スライダ64が軸方向左側に自由に移動できる状態では、スライドカム31が左側に移動すると、スライダプリング65は圧縮されることなく、スライダ64はスライドカム31と一体で左側に移動する。一方、スライダ64の左側への移動が拘束された状態で、スライドカム31が左側に移動すると、スライダスプリング65が圧縮されることで、スライダ64が停止したままスライドカム31だけが左側に移動することができる。よって、スライダ64は、スライダスプリング65を介してスライドカム31に軸方向にフローティング支持されることになる。
図7〜図12および図14から明らかなように、出力軸12の外周面には、その軸方向全長に亘って溝状に形成され、かつ出力軸12の厚さ方向中間部まで凹設された6本のストラット収納溝66…が形成される。各ストラット収納溝66が1速〜7速ドリブンギヤ21〜27に内周面に対向する位置において、ストラット収納溝66の円周方向両側の縁部にそれぞれ連通するように、出力軸12を貫通するヘッドボール収納孔67およびテールボール収納孔68が形成される。ヘッドボール収納孔67の径方向内側にはスライドカム31のカム溝31aが対向し、エンドボール収納孔68の径方向内側にはスライダ64のカム溝64aが対向している。ヘッドボール収納孔67およびスライドカム31のカム溝31aには大径のヘッドボール69が径方向に移動可能に嵌合し、テールボール収納孔67およびスライダ65のカム溝65aには小径のテールボール70が径方向に移動可能に嵌合する。
ストラット収納溝66に収納されるストラット71は、上面(径方向外面)が円弧面状に形成された本体部71aと、本体部71aの回転方向遅れ側において概ね径方向に延びる第1係合面71bと、本体部71aの回転方向進み側において概ね径方向に延びる第2係合面71cと、第1係合面71bの径方向外端に連なって概ね円周方向に延びる第3係合面71dと、第1係合面71bから回転方向進み側に延びる腕部71eと、本体部71aの両側に形成された一対のセットリング係合部71f,71fとで構成される。
1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の各々の内周面には、6個のストラット71…に対応して6個の切欠き72…が形成されており、各切欠き72の周方向両端には、ストラット71の第1係合面71bに係合可能な駆動面72aと、ストラット71の第3係合面71dを案内する傾斜面72bとが形成される。ストラット71の第1係合面71bの下面(径方向内側面)にはヘッドボール69が当接可能に対向し、ストラット71の腕部71eの下面(径方向内側面)にはテールボール70が当接可能に対向する。
図8〜図12は、スライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bにより、出力軸12のヘッドボール収納孔67内のヘッドボール69が径方向外側に押し上げられ、このヘッドボール69に第1係合面71bの下部を押し上げられたストラット71が、1速ドリブンギヤ21の下面に本体部71aの支点aを当接させて図中反時計方向に揺動し、その腕部71eが出力軸12のテールボール収納孔68の内部のテールボール70をスライダ64の第1凹部64bの底部に落とし込んだ状態を示している。
この状態では、1速ドライブギヤ14により矢印A方向に駆動される1速ドリブンギヤ21の切欠き72の駆動面72aがストラット71の第1係合面71bに係合し、かつストラット71の第2係合面71cが出力軸12のストラット収納溝66の被駆動面66aに当接することで、1速ドリブンギヤ21の駆動力が6個のストラット71…を介して出力軸12に伝達される。
出力軸12のストラット収納溝66、ヘッドボール収納孔67、テールボール収納孔68、ヘッドボール69、テールボール70、ストラット71、1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の切欠き72は本発明のクラッチ機構35を構成する。
出力軸12に対する1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の組み付けは以下のようにして行われる。1速ドリブンギヤ21を例にとって説明すると、先ず出力軸12の外周のヘッドボール収納孔67…およびテールボール収納孔68…にそれぞれヘッドボール69…およびテールボール70…を収納し、その径方向外側を押さえるようにストラット収納溝66にストラット71…を収納する。そして出力軸12の外周に、周方向の1か所をキー溝として切断した一対のセットリング73をストラット71…の軸方向両側に配置し、ストラット71…のセットリング係合部71f…を径方向外側から押さえることで、ヘッドボール69…、テールボール70…およびストラット71…を脱落しないように保持する。そして前記ブッシュ28をセットリング73の外周に嵌合させ、キー74でセットリング73およびブッシュ28を出力軸12に相対回転不能に係止する。
このように、セットリング73でストラット71、ヘッドボール69およびテールボール70を出力軸12から脱落しないように仮固定するとともに、セットリング73でストラット71を軸方向に位置決めすることができるので、組み付け性が向上する。
1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の各々は、2個のブッシュ28,28によって回転自在に支持され、それら2個のブッシュ28,28間にストラット71…、ヘッドボール69…およびテールボール70…が支持される。このようにして、出力軸12の右側から左側に向けて1速〜7速ドリブンギヤ21〜27がその配列順序に従って順番に組み付けられ、最も右側の1速ドリブンギヤ21が出力軸12のストッパ突起12aにスペーサ75を介して係止され、最も左側の6速ドリブンギヤ27が出力軸12にサークリップ76で固定されたセンサリング77を介して係止されることで、1速〜7速ドリブンギヤ21〜27が出力軸12上に支持される。
1速〜7速ドリブンギヤ21〜27を出力軸13の相対回転自在に支持するブッシュ28…は、各ギヤの軸方向中央部分を避けて軸方向両端部分を支持するので、前記軸方向中央部分にクラッチ機構35を配置するスペースを確保することができる。また1個のブッシュ28で隣接する2個のギヤの相互に対向する二つの端部を支持するので、ブッシュ28の個数を最小限に抑えることができる。
出力軸12と1速〜7速ドリブンギヤ21〜27との係合関係は、
(1) 係合状態(図15参照)
(2) ワンウエイ状態(図16参照)
(3) 非係合状態(図17参照)
の三つの状態に切り換え可能である。
先ず、前記(1) の係合状態について説明する。図15は、スライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bにより、ヘッドボール69およびストラット71の第1係合面71bが径方向外側に押し上げられ、ストラット71の腕部71eによりテールボール70がスライダ64の第1凹部64bに押し込まれた状態(つまり、図8〜図12で説明した状態)を示している。
この係合状態での加速時(図15(a)参照)には、既に説明したように、1速ドリブンギヤ21が矢印A方向に回転すると、その回転がストラット71を介して出力軸12に伝達されることで、入力軸11の回転が1速ドライブギヤ14および1速ドリブンギヤ21を介して減速された状態で出力軸12に伝達されることになる。
一方、減速時(図15(b)参照)には、出力軸12に対して1速ドリブンギヤ21は相対的に逆方向(矢印B)方向に回転することになるが、1速ドリブンギヤ21の駆動力が、その傾斜面72bからストラット71の第1係合面71b、ヘッドボール69およびヘッドボール収納孔67を介して出力軸12に伝達されることで、駆動力の伝達状態は維持される。よって、減速時には駆動輪側からエンジン側に駆動力を逆伝達し、エンジンブレーキを支障なく作動させることができる。
次に、前記(2) のワンウエイ状態について説明する。図16に示すように、ワンウエイ状態では、ヘッドボール69の下面にスライドカム31のカム溝31aに対向し、テールボール70の下面にスライダ64の第1凹部64bが対向する。
この状態で1速ドリブンギヤ21が矢印A方向に回転する加速時(図16(a)参照)には、ヘッドボール69がスライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bにより押し上げられなくても、ヘッドボール69が遠心力で径方向外側に押し上げられることで、係合状態の加速時(図15(a)参照)と同様に駆動力の伝達が維持される。
このように、係合状態での加速時(図15(a)参照)からワンウエイ状態での加速時(図16(a)参照)への移行時に、ヘッドボール69を遠心力で径方向外側に付勢することで駆動力の伝達を途切れさすことなく継続するので、スライドカム31を移動させる変速操作の操作スピードに影響されずにワンウエイ状態を確立することができる。
一方、減速時(図16(b)参照)には、出力軸12に対して1速ドリブンギヤ21は相対的に逆方向(矢印B)方向に回転するため、1速ドリブンギヤ21の切欠き72の傾斜面72bに第3係合面71dを押圧されたストラット71が実線位置から鎖線位置に時計方向に揺動することで、ストラット71の第1係合面71bと1速ドリブンギヤ21の切欠き72の駆動面72aとの係合が外れ、1速ドリブンギヤ21は出力軸12に対してスリップする。
次に、前記(3) の非係合状態について説明する。図17に示すように、非係合状態では、ヘッドボール69の下面にスライドカム31のカム溝31aに対向し、テールボール70の下面にスライダ64のカム溝64aが対向する。
この状態でスライダ64のカム溝31aに押し上げられたテールボール70がストラット71の腕部71eを押し上げ、かつヘッドボール69がスライドカム31のカム溝31a内に落ち込むことで、ストラット71が支点a回りに時計方向に揺動し、ストラット71の第1係合面71bと1速ドリブンギヤ21の切欠き72の駆動面72aとの係合が外れ、加速時および減速時に関わらず1速ドリブンギヤ21は出力軸12に対してスリップする。
以上、1速ドリブンギヤ21の係合状態、ワンウエイ状態および非係合状態について説明したが、2速ドリブンギヤ〜7速ドリブンギヤ22〜27の作用も同様である。但し、1速、3速、5速、7速ドリブンギヤ21〜24のヘッドボール69はスライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bによって押し上げられ、テールボール70はスライダ64の第1凹部64bに落ち込むのに対し、2速、4速、6速ドリブンギヤ25〜27のヘッドボール69はスライドカム31のカム溝31aの第2凸部31cによって押し上げられ、テールボール70はスライダ64の第2凹部64cに落ち込む点で異なっている。
表1は、ニュートラル変速段正規位置および7速変速段正規位置間のアクチュエータ(シリンダ30)のストロークを「0」〜「20」の21段階に分け、各段階の1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の状態を示すものである。表中の「○」は前記係合状態を示し、「×」は前記非係合状態を示し、「−」は前記ワンウエイ状態を示している。またUS@Accは加速状態でのシフトアップを示し、US@Decは減速状態でのシフトアップを示し、DS@Accは加速状態でのシフトダウンを示し、DS@Decは減速状態でのシフトダウンを示している。
表中で網掛けした7つの領域は、駆動力の伝達が途絶えるアクチュエータストロークを示している。また前記網掛け部分に挟まれた7つの領域に対応する1st〜7thの表示は、そのアクチュエータストロークにおいて駆動力を伝達しているドリブンギヤ21〜27を表している。ここで特徴的なことは、US@Acc(加速状態でのシフトアップ)時には、アクチュエータストローク「0」(ニュートラル変速段)を除く全てのストローク「1」〜「20」で、駆動力の伝達が途切れることなくシフトアップが行われることである。
以下、図18〜図34に基づいて、ニュートラル変速段から1速変速段および2速変速段を経て3速変速段までシフトアップし、そこから再び2速変速段および1速変速段を経てニュートラル変速段までシフトダウンする場合の作用を詳細に説明する。
図18は表1のアクチュエータストローク「0」に対応するもので、シリンダ30は右側の限界位置にあり、スライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bは1速ドリブンギヤ21の右側に隣接して位置し、スライドカム31のカム溝31aの第2凸部31cは2速ドリブンギヤ25の右側に離間して位置している。またスライドカム31に設けたスライダ64の第1凹部64bは1速ドリブンギヤ21の右側に隣接して位置し、スライダ64の第2凹部64cは2速ドリブンギヤ25の右側に離間して位置している。
従って、1速変速段のテールボール70はスライダ64により押し上げられ、かつヘッドボール69はスライドカム31のカム溝31aに落ち込むことで、ストラット71は時計方向に揺動し、1速ドリブンギヤ21および出力軸12の係合は解除された状態(非係合状態)にあり、2速〜7速ドリブンギヤ22〜27も同様に非係合状態となり、変速機Tを介しての駆動力の伝達は行われない。
図19は表1のアクチュエータストローク「2」に対応するもので、シリンダ30が左動してスライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bが1速変速段のヘッドボール69を押し上げ、かつスライダ64の第1凹部64bにテールボール70が落ち込むことで、ストラット71が反時計方向に揺動して係合状態となり、1速ドリブンギヤ21の回転がストラット71を介して出力軸12に伝達され、1速変速段が確立する。このとき、2速〜7速ドリブンギヤ22〜27は依然として非係合状態にある。
図20は表1のアクチュエータストローク「3」に対応するもので、シリンダ30が左動してスライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bが1速変速段のヘッドボール69を通り越し、そのヘッドボール69の下方にはスライドカム31のカム溝31aが対向する。しかしながら、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に押し上げられたままとなり、1速ドリブンギヤ21の回転が依然としてストラット71を介して出力軸12に伝達される。つまり、1速変速段は前記ワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。このとき、2速〜7速ドリブンギヤ22〜27は依然として非係合状態にある。
図21も表1のアクチュエータストローク「3」に対応するものであり、シリンダ30は図20の状態に比べて更に左動しているが、アクチュエータスプリング34…が圧縮されることでスライドカム31は図20の位置に留まっている。この状態でも、1速変速段は前記ワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。アクチュエータスプリング34…が圧縮されてスライドカム31は図20の位置に留まる理由は、2速変速段のテールボール70がスライダ64のカム溝64aに乗り上げていてストラット71が反時計方向に揺動できないため、ヘッドボール69はストラット71に阻止されて径方向外側に移動することができず、そのヘッドボール69に第2凸部31cを係止されたスライドカム31の左動が阻止されるからである。
図22も表1のアクチュエータストローク「3」に対応するもので、1速変速段は前記ワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。2速ドリブンギヤ25が出力軸12に対して相対回転し、その切欠き72がストラット71の径方向外側に達すると、ストラット71の第1係合面71bを前記切欠き72の内部に押し上げながらヘッドボール69は径方向外側に移動可能となり、同時にスライドカム31も圧縮されたアクチュエータスプリング34…の弾発力で左動可能となる。但し、この状態では、2速変速段のストラット71の第1係合面71bが未だ2速ドリブンギヤ25の切欠き72の駆動面72aに係合していないため、2速変速段は未確立である。
このように、シリンダ30が左動してもスライドカム31はアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら停止しており、2速ドリブンギヤ25が回転してその切欠き72にストラット71が係合可能な状態になると、アクチュエータスプリング34…の弾発力でスライドカム31が左動して第2凸部31cでヘッドボール69を押し上げ、ストラット71を切欠き72の内部へと揺動させるので、シリンダ30の移動速度に関わりなく、自動的に適切なタイミングでストラット71を揺動させることができる。
このとき、1速変速段のストラット71は1速ドリブンギヤ21の切欠き72の駆動面72aと係合して駆動力を伝達しているため、ストラット71は時計方向に揺動することができず、テールボール70はストラット71に拘束されて径方向外側に移動することができない。その結果、スライドカム31が左動しても、テールボール70にカム溝64aを拘束されたスライダ64はスライドカム31と共に左動することができず、スライダ64はスライダスプリング65…を圧縮しながらスライドカム31から取り残される。
図23は表1のアクチュエータストローク「4」および「5」に対応するもので、2速ドリブンギヤ25の切欠き72の駆動面72aがストラット71の第1係合面71bに係合することで2速変速段が確立し、出力軸12の回転数は2速変速段により増速する。その結果、1速ドリブンギヤ21は出力軸12に対して相対的に逆回転し、そのストラット71の第1係合面71bと1速ドリブンギヤ21の切欠き72の駆動面72aとの係合が解除される。その結果、ストラット71が自由に揺動できるようになり、それまでスライダスプリング65を圧縮しながら拘束されていたスライダ64が該スライダスプリング65の弾発力で左動する。これにより、1速変速段のテールボール70がスライダ64のカム溝64aに乗り上げて押し上げられ、ストラット71が時計方向に揺動してヘッドボール69をスライドカム31のカム溝31aに落とし込むため、1速ドリブンギヤ21は出力軸12に対して相対回転可能になって1速変速段が解除される。
図22の状態から図23の状態に移行する間、シリンダ30はa位置に留まり、スライドカム31はb位置に留まって移動しないが、スライダ64は圧縮されたスライダスプリング65の弾発力でc位置からc′位置へと左動して1速変速段を解除する。このように、シリンダ30を移動させることなく、スライダ64を移動させて変速操作を進めることで、シリンダ30のトータルの必要ストローク量を減少させて変速機Tの軸方向寸法を小型化することができる。
図24は表1のアクチュエータストローク「6」に対応するもので、シリンダ30が左動してスライドカム31のカム溝31aの第2凸部31cが2速変速段のヘッドボール69を通り越し、そのヘッドボール69の下方にはスライドカム31のカム溝31aが対向する。しかしながら、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に押し上げられたままとなり、2速ドリブンギヤ25の回転が依然としてストラット71を介して出力軸12に伝達される。つまり、2速変速段は前記ワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。このとき、2速ドリブンギヤ25以外は非係合状態にある。
図25も表1のアクチュエータストローク「6」に対応するものであり、シリンダ30は図25の状態に比べて更に左動しているが、アクチュエータスプリング34…が圧縮されることでスライドカム31は図25の位置に留まっている。この状態でも、2速変速段は前記ワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。アクチュエータスプリング34…が圧縮されてスライドカム31は図25の位置に留まる理由は、3速変速段のテールボール70がスライダ64のカム溝64aに乗り上げていてストラット71が反時計方向に揺動できないため、ヘッドボール69はストラット71に阻止されて径方向外側に移動することができず、そのヘッドボール69に第1凸部31bを係止されたスライドカム31の左動が阻止されるからである。
図26も表1のアクチュエータストローク「6」に対応するもので、2速変速段は前記ワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。3速ドリブンギヤ22が出力軸12に対して相対回転し、その切欠き72がストラット71の径方向外側に達すると、ストラット71の第1係合面71bを前記切欠き72の内部に押し上げながらヘッドボール69は径方向外側に移動可能となり、同時にスライドカム31も圧縮されたアクチュエータスプリング34…の弾発力で左動可能となる。但し、この状態では、3速変速段のストラット71の第1係合面71bが未だ3速ドリブンギヤ22の切欠き72の駆動面72aに係合していないため、3速変速段は未確立である。
このように、シリンダ30が左動してもスライドカム31はアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら停止しており、3速ドリブンギヤ22が回転してその切欠き72にストラット71が係合可能な状態になると、アクチュエータスプリング34…の弾発力でスライドカム31が左動して第1凸部31bでヘッドボール69を押し上げ、ストラット71を切欠き72の内部へと揺動させるので、シリンダ30の移動速度に関わりなく、自動的に適切なタイミングでストラット71を揺動させることができる。
このとき、2速変速段のストラット71は2速ドリブンギヤ25の切欠き72の駆動面72aと係合して駆動力を伝達しているため、ストラット71は時計方向に揺動することができず、テールボール70はストラット71に拘束されて径方向外側に移動することができない。その結果、スライドカム31が左動しても、テールボール70にカム溝64aを拘束されたスライダ64はスライドカム31と共に左動することができず、スライダ64はスライダスプリング65…を圧縮しながらスライドカム31から取り残される。
図27は表1のアクチュエータストローク「7」および「8」に対応するもので、3速ドリブンギヤ22の切欠き72の駆動面72aがストラット71の第1係合面71bに係合することで3速変速段が確立し、出力軸12の回転数は3速変速段により増速する。その結果、2速ドリブンギヤ25は出力軸12に対して相対的に逆回転し、そのストラット71の第1係合面71bと3速ドリブンギヤ22の切欠き72の駆動面72aとの係合が解除される。その結果、ストラット71が自由に揺動できるようになり、それまでスライダスプリング65を圧縮しながら拘束されていたスライダ64が該スライダスプリング65の弾発力で左動する。これにより、2速変速段のテールボール70がスライダ64のカム溝64aに乗り上げて押し上げられ、ストラット71が時計方向に揺動してヘッドボール69をスライドカム31のカム溝31aに落とし込むため、2速ドリブンギヤ25は出力軸12に対して相対回転可能になって2速変速段が解除される。
図26の状態から図27の状態に移行する間、シリンダ30はa位置に留まり、スライドカム31はb位置に留まって移動しないが、スライダ64は圧縮されたスライダスプリング65の弾発力でc位置からc′位置へと左動して2速変速段を解除する。このように、シリンダ30を移動させることなく、スライダ64を移動させて変速操作を進めることで、シリンダ30のトータルの必要ストローク量を減少させて変速機Tの軸方向寸法を小型化することができる。
以上、ニュートラル変速段から3速変速段までのシフトアップの過程について説明したが、3速変速段から7速変速段までのシフトアップの過程は上述したものと実質的に同じであるため、その重複する説明は省略する。以下、3速変速段からニュートラル変速段までのシフトダウンの過程について説明する。
図28は表1のアクチュエータストローク「7」および「6」に対応するもので、右動するピストン30と共にスライドカム31が右動することで、該スライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bが3速変速段のヘッドボール69の下方から右側に移動し、ヘッドボール69がカム溝31aの内部に落ち込み、かつスライダ64のカム溝64aがテールボール70を押し上げることで、ストラット71が時計方向に揺動して第1係合面71bが3速ドリブンギヤ22の切欠き72の駆動面72aから離脱し、3速変速段が解除される。このとき、2速変速段のテールボール70はスライダ64の第2凹部64cに対向し、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に付勢されるが、2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達していないため、2速変速段は未確立の状態にある。
図29は表1のアクチュエータストローク「6」に対応するもので、ピストン30が更に右動しても、2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達しないため、ストラット71に阻止されてヘッドボール69が径方向外側に移動不能であり、第1凸部31bがヘッドボール69に引っ掛かってスライドカム31が右動できなくなる。その結果、シリンダ30はスライドカム31を図29の位置に残したまま、アクチュエータスプリング34を圧縮しながら右動する。このアクチュエータストローク「6」の状態で、駆動力の伝達は一時的に途絶えることになる。
図30は表1のアクチュエータストローク「5」に対応するもので、2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達すると、ストラット71の第1係合面71bが切欠き72に嵌合して反時計方向に揺動するため、ヘッドボール69が径方向外側に移動可能になる。その結果、スライドカム31は圧縮されたアクチュエータスプリング34の弾発力でシリンダ30に追従するように右動し、スライドカム31のカム溝31aの第2凸部31cがヘッドボール69を押し上げることで2速変速段が確立する。このときの駆動力の伝達の仕方は、図15(b)で説明した減速時のものとなる。
このように、シリンダ30が右動してもスライドカム31はアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら停止しており、2速ドリブンギヤ25が回転してその切欠き72にストラット71が係合可能な状態になると、アクチュエータスプリング34…の弾発力でスライドカム31が右動して第2凸部31cでヘッドボール69を押し上げ、ストラット71を切欠き72の内部へと揺動させるので、シリンダ30の移動速度に関わりなく、自動的に適切なタイミングでストラット71を揺動させることができる。
図31は表1のアクチュエータストローク「4」および「3」に対応するもので、右動するピストン30と共にスライドカム31が右動することで、該スライドカム31のカム溝31aの第2凸部31cが2速変速段のヘッドボール69の下方から右側に移動し、ヘッドボール69がカム溝31aの内部に落ち込み、かつスライダ64のカム溝64aがテールボール70を押し上げることで、ストラット71が時計方向に揺動して第1係合面71bが2速ドリブンギヤ25の切欠き72の駆動面72aから離脱し、2速変速段が解除される。このとき、1側変速段のテールボール70はスライダ64のカム溝64aに対向し、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に付勢されるが、1速ドリブンギヤ21の切欠き72がストラット71の位置に達していないため、1速変速段は未確立の状態にある。
図32は表1のアクチュエータストローク「3」に対応するもので、ピストン30が更に右動しても、1速ドリブンギヤ21の切欠き72がストラット71の位置に達しないため、ストラット71に阻止されてヘッドボール69が径方向外側に移動不能であり、スライドカム31は第1凸部31bがヘッドボール69に引っ掛かって右動できなくなる。その結果、シリンダ30はスライドカム31を図31の位置に残したまま、アクチュエータスプリング34を圧縮しながら右動する。このアクチュエータストローク「3」の状態で、駆動力の伝達は一時的に途絶えることになる。
図33は表1のアクチュエータストローク「2」に対応するもので、1速ドリブンギヤ21の切欠き72がストラット71の位置に達すると、ストラット71の第1係合面71bが切欠き72に嵌合して反時計方向に揺動するため、ヘッドボール69が径方向外側に移動可能になる。その結果、スライドカム31は圧縮されたアクチュエータスプリング34の弾発力でシリンダ30に追従するように右動し、スライドカム31のカム溝31aの第1凸部31bがヘッドボール69を押し上げることで1速変速段が確立する。このときの駆動力の伝達の仕方は、図15(b)で説明した減速時のものとなる。
このように、シリンダ30が右動してもスライドカム31はアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら停止しており、1速ドリブンギヤ21が回転してその切欠き72にストラット71が係合可能な状態になると、アクチュエータスプリング34…の弾発力でスライドカム31が右動して第1凸部31bでヘッドボール69を押し上げ、ストラット71を切欠き72の内部へと揺動させるので、シリンダ30の移動速度に関わりなく、自動的に適切なタイミングでストラット71を揺動させることができる。
図34は表1のアクチュエータストローク「0」に対応するもので、シリンダ30が更に右動してスライドカム31の第1凸部21bが1速変速段のヘッドボール69から外れ、かつスライダ64のカム溝64aがテールボール70を押し上げることでストラット71が非係合状態になり、1速変速段が解除される。このとき2速〜7速変速段も同様に非係合状態になることでニュートラル変速段が確立する。
以上のように、1速〜7速ドリブンギヤ21〜27を相対回転自在に支持する出力軸12に、前記1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の各々に対応してストラット収納溝66、ヘッドボール収納孔67およびテールボール収納孔68を形成し、ストラット収納溝66に収納したストラット71の周方向両端部に、ヘッドボール収納孔67に収納したヘッドボール69およびテールボール収納孔68に収納したテールボール70を当接させ、軸方向に摺動するスライドカム31で前記ヘッドボール69およびテールボール70を径方向に押圧してストラット71を揺動させることで、ストラット71と前記1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の各々に形成した切欠き72との係合関係を任意に変化させることができる。
これにより、加速時および減速時の何れの場合でもドリブンギヤ側から出力軸12側に駆動力を伝達可能な係合状態と、加速時にはドリブンギヤ側から出力軸12側に駆動力を伝達可能であり、減速時にはドリブンギヤ側から出力軸12側に駆動力を伝達不能なワンウェイ状態と、加速時および減速時の何れの場合でもドリブンギヤ側から出力軸12側に駆動力を伝達不能な非係合状態とを切り換えることが可能になる。
また非係合状態では、ストラット71が出力軸12のストラット収納溝66の内部に強制的に退没させられるので、ストラット71と1速〜7速ドリブンギヤ21〜27との間にフリクションが作用することがなくなり、フリクションに伴う駆動効率の低下を最小限に抑えることができる。
また図15(a)に示す係合状態における加速時および図16(a)に示す係合状態における加速時、つまり伝達すべき駆動力が大きいときに、その駆動力はストラット71の第1係合面71bと1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の凹部72の駆動面72aとの面接触部と、ストラット71の第2係合面71cと出力軸12のストラット収納溝66の非駆動部66aとの面接触部とを介して伝達され、ヘッドボール69を介して伝達されないので、球面の点接触によるストラット71の局部的な摩耗や変形を防止して耐久性を向上させることができる。しかも、ヘッドボール69は大荷重を伝達する必要がないために小型化が可能であり、その結果として変速機Tの軸方向寸法の小型化に寄与することができる。
尚、図15(b)に示す係合状態での減速時には駆動力がヘッドボール69を介して出力軸12のヘッドボール収納孔67に伝達され、この場合には球面の点接触になるが、一般的に減速時には伝達される駆動力が小さいため、実用上支障はない。
また加速時にシフトアップする場合、低速側の変速段が係合状態を脱してから高速側の変速段が係合状態に至るのまでの間、前記低速側の変速段はワンウエイ状態に維持される。図16(a)に示すように、加速時のワンウエイ状態には駆動力の伝達が行われるため、低速側の変速段が係合状態を脱してから高速側の変速段が係合状態に至るのまで、途切れることなく駆動力の伝達が継続されることになり、車両の加速性能を最大限に高めることができる。
また奇数段の変速段である1速、3速、5速、7速ドリブンギヤ21〜24を一纏めにして、出力軸12の右側から左側に所定間隔で配置するとともに、偶数段の変速段である2速、4速、6速ドリブンギヤ25〜27を一纏めにして、出力軸12の右側から左側に所定間隔で配置し、スライドカム31の第1凸部31b…およびスライダ64…の第1凹部64b…で1速、3速、5速、7速ドリブンギヤ21〜24のストラット71…を操作し、スライドカム31の第2凸部31c…およびスライダ64…の第2凹部64c…で2速、4速、6速ドリブンギヤ25〜27のストラット71…を操作するので、1速変速段確立位置から7速変速段確立位置までのスライドカム31の必要ストローク、あるいは7速変速段確立位置から1速変速段確立位置までのスライドカム31の必要ストロークを減少させることができる。
即ち、出力軸12上に配置された1速〜7速ドリブンギヤ21〜27の隣接する二つの間の距離を小さくするほど、スライドカム31の必要ストロークを小さくすることができるが、実際にはストラット71の軸方向寸法等に規制されて前記距離を無闇に小さくすることはできない。
しかしながら、本実施の形態によれば、第1凸部31b…および第1凹部64b…が1速ドリブンギヤ21および2速ドリブンギヤ25の中間位置にあるときに、第2凸部31c…および第2凹部64c…が2速変速段を確立させ、第2凸部31c…および第2凹部64c…が2速ドリブンギヤ25および4速ドリブンギヤ26の中間位置にあるときに、第1凸部31b…および第1凹部64b…が3速変速段を確立させ、第1凸部31b…および第1凹部64b…が3速ドリブンギヤ22および5速ドリブンギヤ23の中間位置にあるときに、第2凸部31c…および第2凹部64c…が4速変速段を確立させ、第2凸部31c…および第2凹部64c…が4速ドリブンギヤ26および6速ドリブンギヤ27の中間位置にあるときに、第1凸部31b…および第1凹部64c…が5速変速段を確立させ、第1凸部31b…および第1凹部64b…が5速ドリブンギヤ23および7速ドリブンギヤ24の中間位置にあるときに、第2凸部31c…および第2凹部64c…が6速変速段を確立させ、第2凸部31c…および第2凹部64c…が6速ドリブンギヤ27を左側に通過したときに、第1凸部31b…および第1凹部64c…が7速変速段を確立させるので、単一の凸部…および単一の凹部…で1速変速段〜7速変速段の変速を行う場合に比べて、スライドカム31の必要ストロークを約半分に減らして変速機Tの軸方向寸法の小型化に寄与することができる。
以上説明した変速機Tの変速操作は、変速クラッチによる駆動力の遮断を必要とせず、駆動力を伝達しながら行うことができるので、加速時における加速性能を最大限に確保することができる。
図35〜図41は本発明の第2の実施の形態を示すもので、図35は前記図2に対応する図(図36の35−35線断面図)、図36は図35の36−36線断面図、図37は図35の37−37線断面図、図38は図35の38−38線断面図、図39は図35の39部拡大図、図40はスライドカムの斜視図、図41はアクチュエータスプリングの周辺の分解斜視図である。尚、第2の実施の形態において、第1の実施の形態の部材に対応する部材には、第1の実施の形態と同じ符号を付して重複する説明を省略する。
上述した第1の実施の形態は、単一の部材で構成されたスライドカム31を備えているが、図40に示すように、第2の実施の形態のスライドカム31は2分割されて軸方向に相対移動可能にフローティング支持された右側の第1スライドカム31Rおよび左側の第2スライドカム31Lを備えている。また第1の実施の形態では、別部材で構成した6本のスライダ64…を軸方向相対移動可能にフローティング支持しているが、図40に示すように、第2の実施の形態のスライドカム31はスライダ64…を備えておらず、スライドカム31の表面に直接カム溝64a…、第1凹部64b…および第2凹部64c…が形成されている。
第1スライドカム31Rおよび第2スライドカム31Lは軸方向に相対移動し得るように櫛歯状に噛み合っており、その噛合線はヘッドボール69を案内するカム溝31aの幅方向中央部と、テールボール70を案内するカム溝64aの幅方向中央部とに設定されている。
このように、カム溝31a…,64a…の部分で第1スライドカム31Rおよび第2スライドカム31Lを軸方向摺動可能に噛合させたので、スライドカム31の軸方向寸法が増加するのを防止することができる。尚、前記噛合部分ではヘッドボール69を案内するカム溝31aおよびテールボール70を案内するカム溝64aの幅が他の部分の半分に減少しているが、ヘッドボール69およびテールボール70は出力軸12のヘッドボール収納孔67およびテールボール収納孔68に拘束されているため、前記カム溝31a,64aの幅狭部分から脱落する虞はない。
次に、シリンダ30に対して第1、第2スライドカム31R,31Lを各々独立してフローティング支持する構造を、図35、図36、図39および図41を参照して説明する。
シリンダ30の軸方向中間部に小径に形成されたスプリング収納溝30aに、直径線上で2分割された一対のスプリングリテーナ81,81が円筒を成すように嵌合し、その軸方向中間部の外周に嵌合するリテーナセットクリップ82で固定される。一対のスプリングリテーナ81,81の左右の外周面には、断面半円状の円弧溝81a…が45°間隔で各々8本ずつ形成される。
シリンダ30のスプリング収納溝30aの軸方向外側には、2個のボールベアリング32,33のインナーレースが摺動自在に嵌合する。右側のボールベアリング32のインナーレースと、スプリングリテーナ81,81の中央部との間に、直径線上で2分割された一対のスプリングガイドハウジング83R,83Rが円筒を成すように嵌合し、その左右両端部がそれぞれリング84およびサークリップ85で固定されるとともに、前記ボールベアリング82のアウターレースが一対のサークリップ86,87で第1スライドカム31Rに固定される。同様に、左側のボールベアリング33のインナーレースと、スプリングリテーナ81,81の中央部との間に、直径線上で2分割された一対のスプリングガイドハウジング83L,83Lが円筒を成すように嵌合し、その左右両端部がそれぞれリング84およびサークリップ85で固定されるとともに、前記ボールベアリング82のアウターレースが一対のサークリップ86,87で第2スライドカム31Lに固定される。
その結果、シリンダ30とスプリングリテーナ81,81とが一体化され、右側のスプリングガイドハウジング83R,83Rと右側のボールベアリング82と右側の第1スライドカム31Rとが一体化され、左側のスプリングガイドハウジング83L,83Lと左側のボールベアリング83と左側の第2スライドカム31Lとが一体化される。
スプリングリテーナ81,81と右側のスプリングガイドハウジング83R,83Rとの間に、伸縮自在に嵌合する一対のスプリングガイド88,89にアクチュエータスプリング34を縮設したものが収納される。同様に、スプリングリテーナ81,81と左側のスプリングガイドハウジング83L,83Lとの間に、伸縮自在に嵌合する一対のスプリングガイド88,89間にアクチュエータスプリング34を縮設したものが収納される。
従って、シリンダ30が左動すると、その荷重はスプリングリテーナ81,81→右側のアクチュエータスプリング34…→右側のスプリングガイドハウジング83R,83R→右側のボールベアリング82→サークリップ86,87の経路で右側の第1スライドカム31Rに伝達され、これと同時にスプリングリテーナ81,81→左側のアクチュエータスプリング34…→左側のボールベアリング83→サークリップ86,87の経路で左側の第2スライドカム31Lに伝達される。
またシリンダ30が右動すると、その荷重はスプリングリテーナ81,81→左側のアクチュエータスプリング34…→左側のスプリングガイドハウジング83L,83L→左側のボールベアリング83→サークリップ86,87の経路で左側の第2スライドカム31Lに伝達され、これと同時にスプリングリテーナ81,81→右側のアクチュエータスプリング34…→右側のボールベアリング82→サークリップ86,87の経路で右側の第1スライドカム31Rに伝達される。
シリンダ30が左右方向に移動したとき、右側の第1スライドカム31Rが移動不能に拘束されていれば、右側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しなががらシリンダ30だけが移動し、左側の第2スライドカム31Lが移動不能に拘束されていれば、左側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しなががらシリンダ30だけが移動する。
よって、第1の実施の形態の図21に対応する状態、つまり1速変速段から2速変速段にシフトアップする過程で、左側の第2スライドカム31Lの第2凸部31cが2速変速段のヘッドボール69によって左動を阻止された状態では、左側の第2スライドカム31Lが一時的に左動を停止し、シリンダ30だけが左側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら左動する。そして2速ドリブンギヤ25の回転に伴い、ストラット71が切欠き72内に揺動してヘッドボール69が径方向外側に移動可能になると、拘束を解かれた左側の第2スライドカム31Lが左側のアクチュエータスプリング34…の弾発力でシリンダ30に追従するように左動する。
第1の実施の形態の図25に対応する状態、つまり2速変速段から3速変速段にシフトアップする過程で、右側の第1スライドカム31Rの第1凸部31bが3速変速段のヘッドボール69によって左動を阻止された状態では、右側の第1スライドカム31Rが一時的に左動を停止し、シリンダ30だけが右側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら左動する。そして3速ドリブンギヤ22の回転に伴い、ストラット71が切欠き72内に揺動してヘッドボール69が径方向外側に移動可能になると、拘束を解かれた右側の第1スライドカム31Rが右側のアクチュエータスプリング34…の弾発力でシリンダ30に追従するように左動する。
また第1の実施の形態の図29に対応する状態、つまり3速変速段から2速変速段にシフトダウンする過程で、左側の第2スライドカム31Lの第2凸部31cが2速変速段のヘッドボール69によって右動を阻止された状態では、左側の第2スライドカム31Lが一時的に右動を停止し、シリンダ30だけが左側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら右動する。そして2速ドリブンギヤ25の回転に伴い、ストラット71が切欠き72内に揺動してヘッドボール69が径方向外側に移動可能になると、拘束を解かれた左側の第2スライドカム31Lが左側のアクチュエータスプリング34…の弾発力でシリンダ30に追従するように右動する。
また第1の実施の形態の図32の状態、つまり2速変速段から1速変速段にシフトダウンする過程で、右側の第1スライドカム31Rの第1凸部31bが1速変速段のヘッドボール69によって右動を阻止された状態では、右側の第1スライドカム31Rが一時的に右動を停止し、シリンダ30だけが右側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しながら右動する。そして1速ドリブンギヤ21の回転に伴い、ストラット71が切欠き72内に揺動してヘッドボール69が径方向外側に移動可能になると、拘束を解かれた右側の第1スライドカム31Rが右側のアクチュエータスプリング34…の弾発力でシリンダ30に追従するように右動する。
以上のように、第2の実施の形態によっても、上述した第1の実施の形態と同様に、後段の変速段のドリブンギヤの切欠き72がストラット71に係合可能な位置に達するまでの間、シリンダ30に対して第1、第2スライドカム31R,31Lが遅れて移動することで、後段の変速段が確立するまでのタイムラグを自動的に吸収し、シリンダ30の移動速度に関わらずにスムーズなシフトチェンジを可能にすることができる。そして、第2の実施の形態によれば、スライダ64…およびスライダスプリング65…を廃止できるので、部品点数を削減してコストダウンに寄与することができる。
更に、第2の実施の形態の2分割された第1、第2スライドカム31R,31Lとアクチュエータスプリング34……とは、第1の実施の形態のスライダ64…およびスライダスプリング65…の機能を発揮する。即ち、第1の実施の形態の図22の状態、つまり1速変速段から2速変速段にシフトアップする過程で、1速変速段がワンウエイ状態でストラット71が切欠き72に噛み合って駆動力を伝達しているとき、ストラット71は時計方向に揺動することができず、テールボール70はストラット71に拘束されて径方向外側に移動することができない。
このような場合、第2の実施の形態では、シリンダ30が左動しようとしても、右側の第1スライドカム31Rは第1凹部64bがテールボール70に阻止されて左動することができず、第1スライドカム31Rは右側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しながらシリンダ30から取り残される。そして2速変速段が確立して1速変速段のストラット71がストラット収納溝66内に退没すると、テールボール70による拘束を解かれた右側の第1スライドカム31Rは、圧縮されたアクチュエータスプリング34…の弾発力でシリンダ30に追従するように左動する。
また第1の実施の形態の図26の状態、つまり2速変速段から3速変速段にシフトアップする過程で、2速変速段がワンウエイ状態でストラット71が切欠き72に噛み合って駆動力を伝達しているとき、ストラット71は時計方向に揺動することができず、テールボール70はストラット71に拘束されて径方向外側に移動することができない。
このような場合、第2の実施の形態では、シリンダ30が左動しようとしても、左側の第2スライドカム31Lは第2凹部64cがテールボール70に阻止されて左動することができず、第2スライドカム31Lは左側のアクチュエータスプリング34…を圧縮しながらシリンダ30から取り残される。そして3速変速段が確立して2速変速段のストラット71がストラット収納溝66内に退没すると、テールボール70による拘束を解かれた左側の第2スライドカム31Lは、圧縮されたアクチュエータスプリング34…の弾発力でシリンダ30に追従するように左動する。
以上のように、圧縮されたアクチュエータスプリング34で第1、第2スライドカム31R,32Lが左動するとき、シリンダ30は左動せずに停止しているため、アクチュエータスプリング34による第1、第2スライドカム31R,31Lのストローク分だけシリンダ30の必要ストロークを減少させ、変速機の軸方向寸法を短縮することができる。
つまり、第2の実施の形態では、次段の変速段が第1スライドカム31Rにより確立する場合に第2スライドカム31Lが第1の実施の形態のスライダ64…の機能を発揮し、次段の変速段が第2スライドカム31Lにより確立する場合に第1スライドカム31Rが第1の実施の形態のスライダ64…の機能を発揮することになる。
第2の実施の形態のその他の作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
図42〜図61は本発明の参考例を示すもので、図42は前記図2に対応する図(図43の42−42線断面図)、図43は図42の43−43線断面図、図44は図42の44−44線断面図、図45はスライドカムの斜視図、図46は図45の46部拡大図、図47は図46の47方向矢視図、図48は図47の48−48線断面図、図49は図48の49部の分解斜視図、図50はロータリバレルのカム溝を示す図、図51〜図61はシフトアップ時およびシフトダウン時の作用説明図である。尚、参考例において、第1、第2の実施の形態の部材に対応する部材には、第1、第2の実施の形態と同じ符号を付して重複する説明を省略する。
先ず、図42〜図50に基づいて変速機Tの構造を説明する。
第1の実施の形態および第2の実施の形態では、油圧で軸方向に移動するシリンダ30で単一のスライドカム31(第1の実施の形態)、あるいは2分割されたスライドカム31L,31R(第2の実施の形態)を軸方向に移動させてシフトチェンジを行っていたが、参考例では電動モータ等のアクチュエータで回転するロータリバレル91で4分割されたスライドカム31A〜31Dを独立して軸方向に移動させてシフトチェンジを行うものである。つまり、参考例のスライドカム31は、スライドカム31A〜31Dに4分割されている。
また第1、第2の実施の形態では、1速、3速、5速および7速ドリブンギヤ21,22,23,24を一纏めに配置し、2速、4速および6速ドリブンギヤ25,26,27を一纏めに配置しているが、参考例では変速段が連続しない二つのドリブンギヤをセットにして配置している。具体的には、右側から左側に向けて順番に、セットを成す1速ドリブンギヤ21および3速ドリブンギヤ22と、セットを成す2速ドリブンギヤ25および5速ドリブンギヤ23と、セットを成す4速ドリブンギヤ26および6速ドリブンギヤ27と、単独の7速ドリブンギヤ24とを配置する。これらのギヤの配列は実施の形態に限定されるものでなく、セットを成す二つのドリブンギヤの変速段が連続していなければ、その配列は任意である。
中空の出力軸12の中心に配置された前記ロータリバレル91は、その外部に配置された電動モータの様なアクチュエータ92により、0°から315°の範囲で往復回転可能であり、その外周面には軸方向に離間した4本のガイド溝91a〜91d(図50参照)が円周方向に形成される。ロータリバレル91の外周に円筒状のベアリングホルダ93が同軸に配置されており、ベアリングホルダ93の右端内周面にニードルベアリング94を介してロータリバレル91の右端が相対回転自在に支持されるとともに、ベアリングホルダ93の左端内周面にボールベアリング95を介してロータリバレル91の左端が相対回転自在に支持される。ベアリングホルダ93の左端に結合された支持チューブ96は変速機Tのケーシング(図示せず)に固定される。よってベアリングホルダ93はケーシングに対して回転不能かつ軸方向移動不能に固定される。
4個のスライドカム31A〜31Dの構造は実質的に同一であるため、その代表として右から2番目のスライドカム31Bの構造を説明する。スライドカム31Bの構造は、第2の実施の形態のスライドカム31L,31Rと類似の構造を持ち、隣接するスライドカムと櫛歯状に噛み合って軸方向に相対移動できるようになっている。またスライドカム31Bの外表面には、ヘッドボール69…用の6本のカム溝31aとテールボール70…用の6本のカム溝64a…とが円周方向に交互に形成されており、ヘッドボール69用の各カム溝31aには1個の凸部31gが突設されるとともに、テールボール70用の各カム溝64aには1個の凹部64eが凹設される。
隣接する二つのスライドカム31A,31Cと櫛歯状に噛み合うスライドカム31Bの噛合部は、ヘッドボール69…用の6本のカム溝31a…の幅方向中間位置と、テールボール70…用の6本のカム溝64a…の幅方向中間位置とに形成されている。またスライドカム31Bのヘッドボール69…用のカム溝31a…と、テールボール70…用のカム溝64a…との間に、6個の矩形状の開口31h…(図4参照)が形成される。
ベアリングホルダ93の外周面にボールベアリング97を介してスライドカム31Bが相対回転自在に支持される。ボールベアリング97は、ボール97a…を挟むインナーレース97bおよびアウターレース97cを備えており、インナーレース97bはボール07aから左側に長く延びており、アウターレース97cはボール97aから右側に長く延びている。インナーレース97bはベアリングホルダ93の外周面に沿って軸方向にスライド可能であり、アウターレース97cはスライドカム31Bの内周面に沿って軸方向にスライド可能である。
インナーレース97bに形成したピン孔97dにピン98が圧入されており、このピン98はベアリングホルダ93に軸方向に形成したスリット93a(図48参照)に沿って案内されるとともに、その径方向内端がロータリバレル91のガイド溝91bに係合する。またアウターレース97cには、前記スライドカム31Bの開口31h…と重なり合う矩形状の開口97e…が形成される。スライドカム31Bの開口31hとアウターレース97cの開口97eとに、アクチュエータスプリング34を圧縮状態で挟んだ一対のスプリングガイド88,89が装着される。
従って、スライドカム31Bはボールベアリング97に対してフローティング支持されることになり、スライドカム31Bの軸方向の移動を拘束した状態でボールベアリング97が軸方向に移動すると、アクチュエータスプリング34…が圧縮されて両者の相対移動を吸収することができる。この関係は、第2の実施の形態における左右のスライドカム31L,31Rの関係と同じである。
右から2番めのスライドカム31Bは、右動することで右側に位置する2速変ドリブンギヤ25のヘッドボール69…およびテールボール70…を操作するとともに、左動することで左側に位置する5速ドリブンギヤ23のヘッドボール69…およびテールボール70…を操作することができる。右から1番目および3番めのスライドカム31A,31Cの作用は、上述した2番めのスライドカム31Bの作用と同じであるが、最も左側のスライドカム31Dは右動のみを行い、右側に位置する7速変ドリブンギヤ24のヘッドボール69…およびテールボール70…を操作する。
参考例のクラッチ機構35の構造は、上述した第1、第2の実施の形態のものと同じである。尚、第1、第2の実施の形態では1速〜7速ドリブンギヤ21〜27がブッシュ28…で支持されていたが、参考例ではボールベアリング28′…で支持されている。
従って、アクチュエータ92でロータリバレル91を回転させると、その外周面に円周方向に形成された4本のガイド溝91a〜91dに係合するピン98…が、ケーシングに固定されたベアリングホルダ93のスリット93a…に軸方向に案内されることで、ベアリングホルダ93の外周面に嵌合するインナーレース97b…を押し引きされたボールベアリング97…が軸方向に移動し、そのボールベアリング97…のアウターレース97c…にアクチュエータスプリング34…を介して連結されたスライドカム31A〜31Dが独立して軸方向に移動することができる。
このとき、ベアリングホルダ93はケーシングに固定されているため、各ボールベアリング97のインナーレース97bは回転せず、ロータリバレル91はベアリングホルダ93に対して0°〜315°の範囲で相対回転し、ボールベアリング97のアウターレース97c、スライドカム31A〜31Dおよび出力軸12はエンジンの駆動力でベアリングホルダ93に対して高速で相対回転する。
以下、図51〜図61に基づいて、ニュートラル変速段から1速変速段および2速変速段を経て3速変速段までシフトアップし、そこから再び2速変速段および1速変速段を経てニュートラル変速段までシフトダウンする場合の作用を詳細に説明する。
図51はニュートラル変速段が確立した状態を示すもので、第1〜第4スライドカム31A〜31Dは全て左右方向中立位置にあり、全てのヘッドボール69…はカム溝31a…の底部に落ち込み、全てのテールボール70…はカム溝64a…の上に乗り上げており、各ストラット71は時計方向に揺動してドリブンギヤとの係合を解除されている。従って、この状態でではドリブンギヤが出力軸12に対してスリップすることで、入力軸11の回転が出力軸12に伝達されることはない。
図52は1速変速段が確立した状態を示すもので、ロータリバレル91の回転角が45°の状態になることで、ロータリバレル91のガイド溝91aにより第1スライドカム31Aが右動し、そのカム溝31aの凸部31gが1速変速段のヘッドボール69を押し上げ、かつ第1スライドカム31Aの凹部64eにテールボール70が落ち込むことで、ストラット71が反時計方向に揺動して係合状態となり、1速ドリブンギヤ21の回転がストラット71を介して出力軸12に伝達され、1速変速段が確立する。このとき、2速〜7速ドリブンギヤ22〜27は依然として非係合状態にある。
図53は1速変速段から2速変速段にシフトアップする過程を示すもので、ロータリバレル91の回転角は70°の状態にある。このとき、ロータリバレル91のガイド溝91aによって第1スライドカム31Aが中立位置に戻ろうとしてカム溝31aの凸部31gが1速変速段のヘッドボール69の下方から退避し、そのヘッドボール69の下方にはカム溝31aが対向する。しかしながら、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に押し上げられたままとなり、1速ドリブンギヤ21の回転が依然としてストラット71を介して出力軸12に伝達される。つまり、1速変速段はワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。
このように、1速変速段がワンウエイ状態になって駆動力の伝達を行っているとき、ストラット71は反時計方向に揺動した位置に拘束されるため、テールボール70は径方向外側に移動することができず、テールボール70がカム溝64aの凹部64eに引っ掛かることで、第1スライドカム31Aは左動することができず、アクチュエータスプリング34を圧縮した状態で中立位置に戻ることができない。
またこのとき、第2スライドカム31Bがロータリバレル91のガイド溝91bによって右動し、第2スライドカム31Bのカム溝64aの凹部64eにテールボール70が落ち込むことで2速変速段はワンウェイ状態となり、やがて2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達したときに2速変速段による動力伝達が開始される。尚、2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達するまでの間、第2スライドカム31Bはアクチュエータスプリング34を圧縮しながら右動を拘束されており、2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達した瞬間にアクチュエータスプリング34の弾発力で第2スライドカム31Bが右動することで、アクチュエータ92の駆動タイミングを考慮することなく2速変速段を確立することができる。
このようにして2速変速段が確立すると、1速変速段のストラット71の拘束が解除されてテールボール70の径方向外側への移動が可能になるため、前記圧縮されたアクチュエータスプリング34の弾発力で第1スライドカム31Aが左動して中立位置に戻り、1速変速段が解除される。このように、圧縮されたアクチュエータスプリング34の弾発力で第1スライドカム31Aを遅れて移動させることで、アクチュエータ92による第1スライドカム31Aの移動量を減らして変速機Tの軸方向寸法の小型化を図ることができる。
図54はロータリバレル91の回転角が90°の状態となり、右動した第2スライドカム31Bのカム溝31aの凸部31gがヘッドボール69を押し上げてストラット71が反時計方向に揺動し、2速変速段が確立した状態を示している。
図55は2速変速段から3速変速段にシフトアップする過程を示すもので、ロータリバレル91の回転角は115°の状態にある。このとき、ロータリバレル91のガイド溝91bによって第2スライドカム31Bが中立位置に戻ろうとしてカム溝31aの凸部31gが2速変速段のヘッドボール69の下方から退避し、そのヘッドボール69の下方にはカム溝31aが対向する。しかしながら、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に押し上げられたままとなり、2速ドリブンギヤ25の回転が依然としてストラット71を介して出力軸12に伝達される。つまり、2速変速段はワンウエイ状態となり、駆動力の伝達は途切れることなく継続する。
このように、2速変速段がワンウエイ状態になって駆動力の伝達を行っているとき、ストラット71は反時計方向に揺動した位置に拘束されるため、テールボール70は径方向外側に移動することができず、テールボール70がカム溝64aの凹部64eに引っ掛かることで、第2スライドカム31Bは左動することができず、アクチュエータスプリング34を圧縮した状態で中立位置に戻ることができない。
またこのとき、第1スライドカム31Aがロータリバレル91のガイド溝91aによって左動し、第1スライドカム31Aのカム溝64aの凹部64eにテールボール70が落ち込むことで3速変速段はワンウェイ状態となり、3速ドリブンギヤ22の切欠き72がストラット71の位置に達したときに3速変速段による動力伝達が開始される。尚、3速ドリブンギヤ22の切欠き72がストラット71の位置に達するまでの間、第1スライドカム31Aはアクチュエータスプリング34を圧縮しながら左動を拘束されており、3速ドリブンギヤ22の切欠き72がストラット71の位置に達した瞬間にアクチュエータスプリング34の弾発力で第1スライドカム31Aが左動することで、アクチュエータ92の駆動タイミングを考慮することなく3速変速段を確立することができる。
このようにして3速変速段が確立すると、2速変速段のストラット71の拘束が解除されてテールボール70の径方向外側への移動が可能になるため、前記圧縮されたアクチュエータスプリング34の弾発力で第2スライドカム31Bが左動して中立位置に戻り、2速変速段が解除される。このように、圧縮されたアクチュエータスプリング34の弾発力で第2スライドカム31Bを遅れて移動させることで、アクチュエータ92による第2スライドカム31Bの移動量を減らして変速機Tの軸方向寸法の小型化を図ることができる。
図56はロータリバレル91の回転角が135°の状態となり、左動した第1スライドカム31Aのカム溝31aの凸部31gがヘッドボール69を押し上げてストラット71が反時計方向に揺動し、3速変速段が確立した状態を示している。
以上、ニュートラル変速段から3速変速段までのシフトアップの過程について説明したが、3速変速段から7速変速段までのシフトアップの過程は上述したものと実質的に同じであるため、その重複する説明は省略する。以下、3速変速段からニュートラル変速段までのシフトダウンの過程について説明する。
図57は3速変速段から2速変速段にシフトダウンする過程を示すもので、ロータリバレル91の回転角は106.5°の状態にある。ロータリバレル91の第1ガイド溝91aにより第1スライドカム31Aが中立位置に戻り、第1スライドカム31Aのカム溝31aの凸部31gが3速変速段のヘッドボール69の下方から右側に移動し、ヘッドボール69がカム溝31aの内部に落ち込み、かつカム溝64aがテールボール70を押し上げることで、ストラット71が時計方向に揺動して第1係合面71bが3速ドリブンギヤ22の切欠き72の駆動面72aから離脱し、3速変速段が解除される。
このとき、2速変速段のテールボール70はカム溝64aの凹部64eに対向し、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に付勢されるが、2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達していないため、2速変速段は未確立の状態にある。そして2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達すると、ストラット71が時計方向に揺動して2速変速段が確立する。従って、駆動力の伝達は一時的に途絶えることになる。
図58はロータリバレル91の回転角が90°の状態に対応し、右動した第2スライドカム31Bのカム溝31aの凸部31gがヘッドボール69を押し上げてストラット71が反時計方向に揺動し、2速変速段が確立した状態を示している。2速ドリブンギヤ25の切欠き72がストラット71の位置に達して2速変速段が確立するまでの間、第2スライドカム31Bは右動を阻止されるが、アクチュエータスプリング34が圧縮されることでタイミングのずれを吸収し、アクチュエータ92の駆動タイミングを考慮することなく2速変速段を確立することができる。
図59は2速変速段から1速変速段にシフトダウンする過程を示すもので、ロータリバレル91の回転角は61.5°の状態にある。ロータリバレル91の第2ガイド溝91bにより第2スライドカム31Bが中立位置に戻り、第2スライドカム31Bのカム溝31aの凸部31gが2速変速段のヘッドボール69の下方から左側に移動し、ヘッドボール69がカム溝31aの内部に落ち込み、かつカム溝64aがテールボール70を押し上げることで、ストラット71が時計方向に揺動して第1係合面71bが2速ドリブンギヤ25の切欠き72の駆動面72aから離脱し、2速変速段が解除される。
このとき、1速変速段のテールボール70はカム溝64aの凹部64eに対向し、ヘッドボール69は遠心力で径方向外側に付勢されるが、1速ドリブンギヤ21の切欠き72がストラット71の位置に達していないため、1速変速段は未確立の状態にある。そして1速ドリブンギヤ21の切欠き72がストラット71の位置に達すると、ストラット71が時計方向に揺動して1速変速段が確立する。従って、駆動力の伝達は一時的に途絶えることになる。
図60はロータリバレル91の回転角が45°の状態に対応し、右動した第1スライドカム31Aのカム溝31aの凸部31gがヘッドボール69を押し上げてストラット71が反時計方向に揺動し、1速変速段が確立した状態を示している。1速ドリブンギヤ21の切欠き72がストラット71の位置に達して1速変速段が確立するまでの間、第1スライドカム31Aは右動を阻止されるが、アクチュエータスプリング34が圧縮されることでタイミングのずれを吸収し、アクチュエータ92の駆動タイミングを考慮することなく1速変速段を確立することができる。
図61はニュートラル変速段が確立した状態を示すもので、ロータリバレル91の回転角が0°の状態に対応し、ロータリバレル91の第1ガイド溝91aにより第1スライドカム31Aが中立位置に戻り、第1スライドカム31Aのカム溝31aの凸部31gが1速変速段のヘッドボール69の下方から左側に移動し、ヘッドボール69がカム溝31aの内部に落ち込み、かつカム溝64aがテールボール70を押し上げることで、ストラット71が時計方向に揺動して第1係合面71bが1速ドリブンギヤ21の切欠き72の駆動面72aから離脱し、1速変速段が解除される。
この参考例によれば、基本的に前記第2の実施の形態の作用効果を達成することができ、それに加えて、変速段が連続しないドリブンギヤをセットにして配置すれば良いので、奇数段のドリブンギヤおよび偶数段のドリブンギヤをそれぞれ纏めて順番に配置する第1、第2に実施の形態に比べて、ドリブンギヤのレイアウトの自由度が大幅に増加する。
しかも、変速段が連続しないドリブンギヤをセットにして配置しているので、前段の変速段の解除操作を行う間に後段の変速段の確立操作を同時並行して行うことができ、これにより速やかな変速が可能になる。仮に変速段が連続するドリブンギヤをセットにして配置した場合には、前段の変速段の解除操作が完了してから後段の変速段の確立操作を開始することになり、変速に時間が掛かるだけでなく、その間に駆動力の伝達が途切れる問題が発生する。
更に、各スライドカム31A〜31Cは、左右に各1ストローク分だけ移動すれば良く(7速変速段用のスライドカム31Dは右側に1ストローク分だけ)、しかも各スライドカム31A〜31Dは相互に櫛歯状に噛み合って摺動可能であるため、第1、第2の実施の形態に比べて変速機Tの軸方向寸法を更に短縮することができる。
またアクチュエータとしてのシリンダ30を出力軸12の内部に配置する必要がないので、出力軸12の直径を小型化することができるだけでなく、アクチュエータ92を出力軸12の外部に配置することで、その選択の自由度を高めることができる。
またベアリングホルダ93の外周に第1〜第4スライドカム31A〜31Dを支持する各ベアリング97のインナーレース97bおよびアウターレース97cを軸方向に大型化したので、インナーレース97bに形成したピン孔97dをピン98でロータリバレル91に連結することができ、かつアウターレース97cに形成した開口97eにアクチュエータスプリング34を支持することができる。これにより、部品点数を大幅に減少させるとともに、出力軸12の直径の小型化に寄与することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、実施の形態では変速機Tの入力軸11および出力軸12のうち、出力軸12に設けたドリブンギヤ21〜27をクラッチ機構35…で係脱して変速を行っているが、入力軸11に設けたドライブギヤ14〜20をクラッチ機構35…で係脱して変速を行っても良い。
また変速段の段数は7段に限定されず、任意の複数段数の変速段を採用することができる。