JP4402573B2 - α−1,3−グルカナーゼ - Google Patents

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本発明は、新規のα−1,3−グルカナーゼ、及びそれをコードする遺伝子に関する。
歯科領域の疾患であるウ蝕を効果的に予防できる口腔衛生関連の商品を開発することはきわめて重要なことである。ウ蝕の原因は、歯垢中のストレプトコッカス ミュータンス等が乳酸を生成することであるとされる。ストレプトコッカス ミュータンスが食餌中のショ糖からグルコシルトランスフェラーゼにより、高分子のグルカンを合成し、それが歯垢形成の開始に関与すると言われている。合成されるグルカンには水溶性のα-1,6結合を主体とするデキストランと不溶性のα-1,3結合を主体とするムタンがあるが、歯垢形成の開始には粘着性で不溶性のムタンの関与が大きいとされている(非特許文献1、2)。従ってα-1,3グルカンであるムタンを分解すれば歯垢形成を阻止できると共にウ蝕の誘発を抑えられることが充分考えられる。
ムタンを分解できるα-1,3−グルカナーゼの開発は、非常に重要であり、従来から多数の報告がなされている(特許文献1、2、非特許文献3、4)。しかし、安定性や分解力にまだ不足の部分もあり、実際に配合されたことはない。また、α-1,3−グルカナーゼは、真菌類の細胞壁に存在するニゲランをも分解できることから抗真菌剤としての応用や、ニゲラン分解物のエリシター活性を利用することが容易になることが予想される(非特許文献5)。
特開昭63−301788号報 特表2000−505649号報 浜田茂幸著、「虫歯はどうしてできるか」、岩波新書、1982年 Yamashitaら、"Infect. Immun.", 1993, 61, p.3811-3817 Imaiら、"Agric. Biol. Chem.", 1977, 41, p.1889-1895 Fuglsangら、"J. Biol. Chem.", 2000, 275, p.2009−2018 金ら、「生物工学会誌」, 1996, 74, p.23-27
本発明の目的は、口腔衛生用酵素として有用なα−1,3−グルカナーゼを見出し、当該α−1,3−グルカナーゼを、単一且つ大量に生産する手段を提供することにある。
本発明者らは、ムタンを分解できる酵素の生産菌を土壌中より見出し、新規なα−1,3−グルカナーゼを見出した。さらに当該酵素をコードする遺伝子配列を見出した。
すなわち、本発明は、以下の(a)から(d)いずれかに記載のタンパク質及びこれをコードする遺伝子を提供するものである。
(a)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質
また、本発明は、以下の(a)から(c)いずれかに記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子を提供するものである。
(a)配列番号3又は4で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号3又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジエントな条件下でハイブリダイズし、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号3又は4で示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
また、本発明は、上記遺伝子を含有する組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体を提供するものである。
さらにまた、本発明は、上記の形質転換体を培養し、ムタナーゼを採取するムタナーゼの生産方法を提供するものである。
さらにまた、本発明は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P-19722として寄託された微生物(バチルス エスピー KSM−M126)を提供するものである。
本発明で提供する微生物を用いれば、新規なα-1,3−グルカナーゼを生産することができる。本発明のα-1,3−グルカナーゼ遺伝子を用いれば、当該酵素を単一且つ大量に生産することができる。本発明の新規なムタナーゼは、歯垢形成を阻止するため、ウ蝕予防のために用いられる口腔衛生製品や、ガム、キャンディーなどの食品に有用である。また、真菌類の細胞壁中のニゲランも分解できることから抗真菌用酵素としても有用である。
本発明の(a)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、α−1,3−グルカンに作用し、そのグルコシド結合の分解活性を有する新規なα-1,3−グルカナーゼである。本発明のタンパク質には、斯かる(a)配列番号1又は2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質の他、当該タンパク質と等価のタンパク質が包含される。
ここで、等価のタンパク質としては、(b)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
ここで、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、1乃至10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましい。また、上記の付加には、両末端への1〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。
本発明の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(以下C1と称する)について、同一性を検索した結果、バチルス エスピー RM1株の生産するムタナーゼ(特開平10−201483号報)と82.0%と比較的高い同一性を示した。一方、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(以下C2と称する)について同一性を検索した結果、バチルス エスピー RM1株の生産するムタナーゼと46.4%、ストレプトマイセス コエリコラーA3(2)株の生産するputative secreted glycosyl hydrolase(GenBank AL939130.1 遺伝子 SCO7015)と56.8%、ストレプロマイセス リビダンスの生産するchitinase homolog(PIR T30261)と56.6%と低い同一性を示すにすぎなかった。また、α-1,3−グルカナーゼ(C1)とα-1,3−グルカナーゼ(C2)との同一性は44%の同一性を示すにすぎなかった。以上のように両配列のα-1,3−グルカナーゼは他の公知のタンパク質との同一性も極めて低いことから、本発明のα−1,3−グルカナーゼは新規な酵素であることが示唆された。
すなわち、本発明で提供するα−1,3−グルカナーゼと等価なタンパク質には、配列番号1に示すアミノ酸配列において相当する配列を適切にアライメントした時、(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つα-1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質、および(d)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つα-1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質が包含される。
上記のアミノ酸配列の同一性とは、あるアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較することにより計算されるものをいう。ここで用いるアルゴリズムとしては、特に限定されないが、公知のアルゴリズムが好ましく、Lipman−Pearson法(Science, 227,1435,1985参照)がより好ましい。また、上記の計算は、例えば、GENENTYX−WIN(ソフトウェア開発)のサーチホモロジーやマキシマムマッチングプログラムを用いて行うことができる。
ここで、α−1,3−グルカナーゼ活性を有するとは、α−1,3−グルカンに作用し、そのグルコシド結合を分解する活性を意味するが、その活性の程度は、その機能を発揮する限り配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同程度のもののみならず、これより高いもの、或いは低いものであってもよい。
また、上記α−1,3−グルカナーゼと等価なタンパク質は、α−1,3−グルカナーゼ活性を有していれば、さらに付加的な性質を有していてもよい。斯かる性質としては、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質に比べて安定性に優れているという性質、低温及び/又は高温においてのみ異なる機能を有する性質、最適pHが異なるという性質などが挙げられる。
また、本発明のα-1,3−グルカナーゼは、融合タンパク質のような、より大きいタンパク質の一部であってもよい。ここで、融合タンパク質において付加される配列としては、例えば、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組換え生産の際の安定性を確保する付加的配列などが挙げられる。
本発明で提供するα-1,3−グルカナーゼは、例えば、本発明で提供するα-1,3−グルカナーゼを有する生物から取得することができる。本発明で提供するα-1,3−グルカナーゼを有する生物としては、例えばバチルス エスピー KSM−M126株が挙げられる。
当該菌の菌学的性質並びに生理学的性質を以下に示す。
〔KSM−M126株の性質〕
A.形態学的性質
(a)細胞の形、大きさ:桿菌(0.6〜0.7X1.3〜3.5μm)
(b)細胞の多形性:無し
(c)運動性:有り
(d)胞子:有り、準端、膨潤無し(0.3〜0.7X0.3〜0.8μm)
(e)グラム染色:陽性
B.生理学的性質
(a)硝酸塩の還元:陰性
(b)カタラーゼ:陽性
(c)VPテスト:陽性
(d)インドールの生成:陰性
(e)澱粉の加水分解:陽性
(f)ジヒドロキシアセトンの生成:陽性
(g)オキシダーゼ:陽性
(h)グルコースからの酸産生:陽性
(i)アラビノースからの酸産生:陽性
(j)キシロースからの酸産生:陽性
(k)マンニットからの酸産生:陰性
(l)グルコースからのガス産生:陰性
(m)レシチナーゼ:陰性
(n)クエン酸の利用:陽性
(o)プロピオン酸の利用:陽性
(p)チロシンの分解:陰性
(q)フェニルアラニンの脱アミノ反応:陰性
(r)カゼインの分解:陽性
(s)ゼラチンの分解:陽性
(t)嫌気性下での生育:生育する
(u)食塩耐性:2%以下
(v)生育温度:10℃〜35℃
(w)YM寒天培地:生育しない
(x)ニュートリエント寒天培地:生育する
上記のKSM−M126株の菌学的性質並びに生理学的性質についてBergey's Mannual of Systematic Bacteriology (Williams & Wilkins社、1984年)の記載に準じ検討した結果、バチルス属細菌に属することは明白であったが、種については既知のバチルス属細菌とは完全に一致するものではなかった。そこで新規な微生物として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにバチルス エスピー KSM−M126(FERM P-19722)として寄託した。
上記の微生物を用いて本発明のα−1,3−グルカナーゼを取得するには、培地に微生物を接種し、常法に従って培養すればよい。ここで、培地としては、0.005%〜10%(w/v)のムタンを添加した培地が好ましい。斯くして得られた培養物中から目的のα−1,3−グルカナーゼを採取することができる。この培養上清液は、そのまま使用することができるが、必要に応じて、精製するのが好ましい。培養液からのα-1,3−グルカナーゼの精製は、常法に従って行うことができる。すなわち、培養液を遠心分離し、菌体を除去した後、上清から硫安添加により酵素を沈殿させたり、あるいは限外ろ過膜などを用いて濃縮することができる。さらに噴霧乾燥、凍結乾燥、結晶化などにより様々な形態として調製することができる。
斯くして得られる本発明のα-1,3−グルカナーゼの分子量は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による定量で約120kDaであると測定される。
本発明の遺伝子は、配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであり、好適には、(a)配列番号3又は4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる遺伝子、及びこれと等価な遺伝子が挙げられる。ここで、等価な遺伝子には、(b)配列番号3又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジエントな条件下でハイブリダイズし、且つα-1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び(c)配列番号3又は4で示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つα-1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。
ここで、ストリンジエントな条件とは、例えばMolecular cloning −a laboratory manual, 2nd edition (Sambrookら、1989)に記載の条件等が挙げられる。すなわち、6XSSC(1XSSCの組成:0.15 M塩化ナトリウム、0.015 Mクエン酸ナトリウム、pH 7.0)、0.5% SDS、5Xデンハート及び100 mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件等が挙げられる。
また、上記の塩基配列の同一性とは、あるアルゴリズムを用いて塩基配列を比較することにより計算されるものをいう。ここで用いるアルゴリズムとしては、特に限定されないが、公知のアルゴリズムが好ましく、Lipman−Pearson法(Science, 227,1435,1985参照)がより好ましい。また、上記の計算は、例えば、GENENTYX−WIN(ソフトウェア開発)のサーチホモロジーやマキシマムマッチングプログラムを用いて行うことができる。
また、上記(a)で示される遺伝子と等価な遺伝子には、(a)で示される遺伝子に比べて、mRNAの発現量が多い及び/又は安定性が高い、翻訳されるタンパク質の安定性が優れているなどの性質を有していてもよい。
本発明のα-1,3−グルカナーゼ遺伝子は、例えばバチルス エスピー KSM−M126株等からクローン化することができ、クローニング方法としては、既知の手段、例えばショットガン法、PCR法を用いて行う方法が挙げられる。
また、本発明で提供する遺伝子は、例えば、計画的なもしくはランダムな変異導入法などの方法により、配列番号3又は4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる遺伝子を改変することにより作製することもできる。
ここで、計画的に変異を導入する際の変異の計画は、例えば、遺伝子配列上の特徴的な配列を参酌することにより行うことができる。ここで特徴的な配列の参酌は、例えば、そのタンパク質の立体構造予測、既知のタンパク質との相同性を考慮することにより行うことができる。ランダムに変異を導入する方法としては、例えば、PCR法、変異原処理による方法が挙げられる。計画的に変異を導入する方法としては、部位特異的突然変異誘発法が挙げられ、より具体的には、例えばSite-Directed Mutagenesis System Mutan-Super Express Kmキット(タカラバイオ)等を用いて行うことができる。また、リコンビナントPCR(polymerase chain reaction)法(PCR protocols, Academic press, New York, 1990)を用いることもできる。
また、本発明の遺伝子は、本発明の遺伝子の一部又は全部を含む又はからなるポリヌクレオチドにハイブリダイズする配列を適当な原理を用いて取得することにより取得することもできる。この適当な原理には、例えば、上記の本発明の遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドをプライマーとして用いて行うPCR法、上記の本発明の遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドをプローブとして用いる方法が含まれる。
なお、配列番号3又は4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる遺伝子の有さない性質を有する遺伝子の取得を試みる場合、遺伝子の性質を利用した選択を併せて行うのが好ましい。このような選択は、公知の方法により容易に行うことができる。
本発明で提供する遺伝子を用いれば、本発明で提供するタンパク質を大量に生産することができ有用である。
本発明の遺伝子を用いてα-1,3−グルカナーゼを生産するには、目的とする宿主内で遺伝子を発現するのに適した任意のベクターに、上記α-1,3−グルカナーゼ遺伝子を組込み、該組換えベクターを用いて宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養し、当該培養液からα-1,3−グルカナーゼを採取すればよい。培養は微生物の資化可能な炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従って行えばよい。
本発明α-1,3−グルカナーゼ遺伝子を含む組換えベクターを作製するには、宿主菌体内で複製維持が可能であり、該酵素を安定に発現させることができ、該遺伝子を安定に保持できるベクターにα-1,3−グルカナーゼ遺伝子を組込めばよい。かかるベクターとしては大腸菌を宿主とする場合、pUC18、pBR322、pHY300PLK等が挙げられ、枯草菌を宿主にする場合、pUB110、pHSP64(Sumitomoら、Biosci. Biotechnol. Biocem., 59, 2172-2175, 1995)あるいはpHY300PLK等が挙げられる。
かくして得られた組換えベクターを用いて宿主菌を形質転換するにはプロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法等を用いて行うことができる。宿主菌としては特に制限されず、あらゆるものを用いることができ、例えば、動物、動物由来の細胞、植物、植物由来の細胞、微生物などを用いることができるが、微生物が好ましく、微生物としては、Bacillus属(枯草菌)等のグラム陽性菌、Escherichia coli(大腸菌)等のグラム陰性菌、Streptomyces属(放線菌)、Saccharomyces属(酵母)、Aspergillus属(カビ)等の真菌などが好ましく、枯草菌がより好ましく、枯草菌ISW1214株がより好ましい。動物由来の細胞、植物由来の細胞としては、培養細胞として確立しているものが好ましい。また、宿主株としては、アルカリプロテアーゼが欠損している株が好ましい。
得られた形質転換体は、資化しうる炭素源、窒素源、金属塩、ビタミン等を含む培地を用いて適当な条件下で培養すればよい。かくして得られた培養液から、一般的な方法によって酵素の採取、精製を行い、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化により必要な酵素形態を得ることができる。
かくして得られた培養物中からのα-1,3−グルカナーゼの採取及び精製は、一般の方法に準じて行うことができる。すなわち、培養物から遠心分離または濾過することで菌体を除き、得られた培養上清液から常法手段により目的酵素を濃縮することができる。このようにして得られた酵素液または乾燥粉末はそのまま用いることもできるが更に公知の方法により結晶化や造粒化することができる。
以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明する。
実施例1 α-1,3−グルカナーゼ生産菌のスクリーニング
日本各地の土壌サンプル0.5gを生理食塩水(5mL)に懸濁し、80℃で20分間処理を行った。その後、以下の表1に示す組成からなる液体培地(4mL)に0.1mLの熱処理上清液を添加し、30℃で7日間振盪培養を行った。菌が生育した培養液は、新たな同組成の培地へ0.1mL接種し、さらに7日間振盪培養を行った。この操作をさらに1回繰り返した後、菌液をトリプティケースソイ寒天培地へ塗抹し、30℃で3日間、静置培養を行った。生育した菌を選抜し、純化した後に液体培地へ接種し、30℃で3日間、振盪培養を行い、上清液中のα-1,3−グルカナーゼ活性を測定した。α-1,3−グルカナーゼ生産量の高い菌株の中からバチルス エスピー KSM−M126株を選抜した。
Figure 0004402573
実施例2 α-1,3−グルカナーゼの生産並びに精製
バチルス エスピー KSM−M126株を0.1%(w/v) リン酸1カリウム、0.2%リン酸2カリウム、0.5%酵母エキス(ディフコ)、0.75%魚肉エキス(和光)、0.3%バクトソイトン(ディフコ)、0.01%硫酸マグネシウム7水塩、0.001%硫酸マンガン、0.1%ムタンからなる75mLの液体培地に接種し、30℃、3日間振盪培養を行った。
培養液(0.05U/L)を遠心分離(8,000xg、10分間、4℃)し、得られた上清液1Lに対し、硫安を70%飽和になるように徐々に加え遠心分離(8,000xg、15分間、4℃)し、沈殿を集め、10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に対し1昼夜透析を行った。透析内液を予め50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)にて平衡化しておいたSuperQ Toyopearlカラム(東ソー)へ添着させた。α−1,3−グルカナーゼ活性は非吸着画分に得られ、次いで予め0.8M硫安を含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化しておいたButyl Toyopearlカラム(東ソー)へ添着させた後、0.8M〜0M硫安の直線濃度勾配法により吸着タンパク質を溶出させた。α−1,3−グルカナーゼ活性画分を集め、限外ろ過にて濃縮脱塩を行った。次に10mM MOPS緩衝液(pH6)にて平衡化しておいたMacro-Prep DEAE support カラム(バイオラッド)へ添着した。α−1,3−グルカナーゼ活性は非吸着画分に溶出され、これを集めて濃縮を行った。濃縮液のSDS電気泳動を行ったところ、分子量120kDa付近にタンパク質バンドが確認され、このバンドのアミノ末端配列を解析した。その結果、Gly−Gly−Ala−Asn−Leu−Thr−Leu−Gly−Lys−Thr−Val−Thr−Ala−Ser−Gly−Gln−Ser−Gln−Thr−Tyr−Serの21アミノ酸配列が決定された。
実施例3 α-1,3−グルカナーゼ(C1)遺伝子のクローニング
実施例2で得られた21アミノ酸配列を基にプライマー1(配列番号5)、プライマー2(配列番号6)をデザインした。
バチルス エスピー KSM−M126株を1.0%(w/v) バクトトリプトン(ディフコ)、0.5%酵母エキス(ディフコ)、1.0%NaCl、から成る10mLの液体培地に接種し、30℃、1日間振盪培養で得られた培養液から、Genとるくん(酵母用)(タカラバイオ)を用いて染色体を抽出した。LA PCR in vitro Cloning キット(タカラバイオ)に従い、得られた染色体5μgをEcoRI制限酵素処理した後、カセット(キット添付)と結合させ、プライマー1とプライマーC1(キット添付)を用いたPCRを行った。得られた増幅断片を鋳型とし、さらにプライマー2とプライマーC2(キット添付)を用いたPCRを行い、約0.5kbのPCR増幅断片を取得した。増幅したDNA断片のシーケンスをプライマー2とプライマーC2を用いて行い、α−1,3−グルカナーゼ遺伝子の部分配列を解析した。得られた塩基配列を基にプライマーを構築し、LA PCR in vitro Cloning キットによりα−1,3−グルカナーゼをコードする遺伝子を含む5536bpの塩基配列を決定した。
バチルス エスピー KSM−M126株の染色体DNAを鋳型とし、決定した塩基配列を基にデザインしたプライマー3(配列番号7)及びプライマー4(配列番号8)を用いてPCRを行った。PCRはLA Taq(タカラバイオ)を用い、94℃で1分間鋳型DNAを変性させた後、94℃で1分間、56℃で30秒間、72℃で3分間を1サイクルとして30サイクル行い、更に72℃で2分間保温した。増幅した4.0kbのDNA断片を制限酵素SpeI及びSalI処理し、同様にXbaI及びSalI処理したプラスミドpHY300PLK(タカラバイオ)と結合反応を行い、反応液を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ)を形質転換した。形質転換体から抽出したα−1,3−グルカナーゼ遺伝子を含むプラスミドを用いて、アルカリプロテアーゼを欠損させた枯草菌ISW1214株(ヤクルト本社)を形質転換した。
実施例4 α-1,3−グルカナーゼ(C2)遺伝子のクローニング
バチルス エスピー KSM−M35株(FERM P−19720)の生産するムタナーゼ、バチルス エスピー KSM−M86株(FERM P−19721)の生産するムタナーゼ、及びバチルス エスピー RM1株の生産するムタナーゼ(特開平10−201483号報)との同一性領域を基にプライマー5(配列番号9)、プライマー6(配列番号10)をデザインした。
バチルス エスピー KSM−M126株の染色体を鋳型に、デザインしたプライマー5及びプライマー6を用いてPCRを行い、約1.3kbの増幅断片を取得した。PCRはLA Taqを用い、94℃で1分間鋳型DNAを変性させた後、94℃で1分間、56℃で30秒間、72℃で3分間を1サイクルとして30サイクル行い、更に72℃で2分間保温した。増幅したDNA断片のシーケンスをプライマー5及びプライマー6を用いて行い、α−1,3−グルカナーゼ遺伝子の部分配列を解析した。得られた塩基配列を基にプライマーを構築し、LA PCR in vitro Cloning キットによりα−1,3−グルカナーゼをコードする遺伝子を含む5452bpの塩基配列を決定した。
バチルス エスピー KSM−M126株染色体DNAを鋳型とし、決定した塩基配列を基にデザインしたプライマー7(配列番号11)及び8(配列番号12)を用いて、PCRを行った。PCRは、94℃で1分間鋳型DNAを変性させた後、94℃で1分間、56℃で30秒間、72℃で4分間を1サイクルとして30サイクル行い、更に72℃で2分間保温した。増幅した4.5kbのDNA断片を制限酵素BamHI 及びSalI処理し、同様にBglII及びSalI処理したプラスミドpHY300PLKと結合反応を行い、反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換体から抽出したα−1,3−グルカナーゼ遺伝子を含むプラスミドを用いて、アルカリプロテアーゼを欠損させた枯草菌ISW1214株を形質転換した。
実施例5 組換えα-1,3−グルカナーゼの生産
実施例3,4で得られた形質転換株を8%(w/v)ポリペプトンS、1%魚肉エキス、0.5%酵母エキス、0.2%リン酸カリウム、0.04%硫酸マグネシウムからなる培地(50mL)に接種し30℃、3日間振盪培養を行った。そのときのα−1,3−グルカナーゼC1及びC2の生産量は、それぞれ0.02U/mL、0.016U/mLであった。
参考例 α-1,3−グルカナーゼ活性測定法
50mM MOPS緩衝液(pH6.5)、0.5mM 塩化マンガン、0.2%ムタンからなる反応液に適当に希釈した酵素液を添加し、40℃、1時間恒温した(全量1mL)。1mLのDNS試薬[0.5%(w/v)ジニトロサリチル酸、0.4N 水酸化ナトリウム、30%酒石酸ナトリウム・カリウム]を添加した後、100℃で5分間恒温し、生成された還元糖を定量した。本実施例におけるα−1,3−グルカナーゼ1単位(ユニット)は、特に記載のない限り、上記反応条件下で1分間に1μmoLのグルコースに相当する還元糖を生成する量とした。

Claims (8)

  1. 以下の(a)から()いずれかに記載のタンパク質。
    (a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質
    (c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質
  2. 請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子。
  3. 以下の(a)から(c)いずれかに記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子。
    (a)配列番号4で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
    (b)配列番号4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジエントな条件下でハイブリダイズし、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
    (c)配列番号4で示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つα−1,3−グルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
  4. 請求項3記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  5. 請求項4記載の組換えベクターを含む形質転換体。
  6. 宿主が微生物である請求項5記載の形質転換体。
  7. 請求項5又は6記載の形質転換体を培養し、α−1,3−グルカナーゼを採取するα−1,3−グルカナーゼの生産方法。
  8. 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P-19722として寄託された微生物(バチルス エスピー KSM−M126)。
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