JP4397115B2 - 熱可塑性樹脂組成物及びその成形体 - Google Patents

熱可塑性樹脂組成物及びその成形体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的強度、耐熱性に優れ、かつ、導電性や帯電防止性といった電気的性質に優れた熱可塑性樹脂組成物、及び成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本来、電気絶縁性である熱可塑性樹脂に導電性物質を配合し、導電性や帯電防止性等の特性を持たせることは古くから行われており、そのために各種の導電性物質が用いられている。一般に用いられる例としては、イオン性又は非イオン性の有機界面活性剤、ポリエチレングリコール単位又はイオン性官能基を持った高分子帯電防止剤等の有機系導電性物質や、カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属粉末、金属酸化物等の無機系導電性物質が挙げられる。
しかしながら、これらの導電性物質を配合した場合、導電性の尺度である表面抵抗値は下げることができるものの、有機系導電性物質は耐熱性に悪影響を及ぼし、無機系導電性物質は衝撃強度や表面外観に悪影響を及ぼす等、熱可塑性樹脂が本来持っている特性を犠牲にしていた。
【0003】
一方、ニーズ面からは、導電性樹脂に対する要求は年々厳しくなってきており、例えば、OA機器や電子機器では、小型軽量化や高集積化、高精度化が進み、それに伴い、電気電子部品への塵やほこりの付着を極力低減させたいという要求が増えてきている。例えば、コンピューター関連では、半導体ウエハー、ICチップ、ハードディスクの内部部品等はその最たる例であり、塵やほこりの付着を防止するために、これら部品の運搬、包装用材に帯電防止性を付与することが行われている。
これら用材には、通常、ポリカーボネートやポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルとポリスチレンのブレンド物)が寸法精度や耐熱性の点から使われており、導電性を付与した導電グレードが提供されている。しかしながら、上述したように有機系導電性物質を用いた場合には耐熱性が犠牲になり、無機系導電性物質を用いた場合には無機物質の脱落による塵の発生といった問題があった。
【0004】
また、自動車部品、特に外装、外板部品では、導電性を付与した樹脂成形品に電気を流し、それと反対の電荷を付加した塗料を吹き付ける「静電塗装」が行われている。これは、成形品表面と塗料に反対の電荷を持たせることによって、互いに引き合う性質を利用し、塗料の付着率を向上させるものである。
これら自動車部品には、剛性と衝撃強度、耐熱性、耐薬品性から、通常、ポリカーボネートとポリエステルのブレンド物、ポリフェニレンエーテルとポリアミドのブレンド物が多く使われている。しかしながら、これら樹脂材料に導電性を付与するために、有機系導電性物質を用いた場合には耐熱性が犠牲になり、無機系導電性物質を用いた場合には外観の悪化や衝撃強度の低下といった問題があった。
【0005】
これらの問題を改良する手法として、近年、中空炭素フィブリルを用いる技術が、特許第2862578号公報、特許第2862578号公報、特許第2641712号公報、特開平9−111135公報等に示されている。中空炭素フィブリルは、その特異な形状から少量の添加で導電性を付与することができ、従来の無機系導電性物質で問題となっていた、外観や衝撃強度の低下を最小限に抑えることができると期待されているものである。
ところが、この中空炭素フィブリルは、熱可塑性樹脂との分散性に劣り、ただ混合しただけでは期待する導電性が得られず、また分散不良からくる外観不良を招く。これを解決するために、特許2862578号公報には、用いる中空炭素フィブリルが互いに絡み合った凝集体であり、その径が0.10〜0.25mmのものが良好な分散を与えるとの記載がある。
しかしながら、この場合も添加量に対する導電性は必ずしも満足すべきレベルでは無く、また樹脂中の中空炭素フィブリルの分散状態については何の記載も無い。中空炭素フィブリルを熱可塑性樹脂に配合した場合、樹脂中の中空炭素フィブリルの分散状態が成形品の電気特性に大きく影響し、良好な分散状態を達成しないと、期待した電気特性が得られにくい。従来は、良好な電気特性を得るために、中空炭素フィブリルの添加量を増やし、結果として成形体の表面外観の悪化や衝撃強度の低下を招いてしまい、中空炭素フィブリルの持つ特性を活かしきれていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、熱可塑性樹脂本来の機械的強度や耐熱性を損なうことなく、導電性や帯電防止性といった電気的性質に優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂に中空炭素フィブリルを配合する際に、中空炭素フィブリルを特定の分散状態にコントロールすることにより、少量の添加で良好な電気特性(導電性、帯電防止性)が得られ、熱可塑性樹脂が本来持っている機械的強度、耐熱性を保つことができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂中に分散された中空炭素フィブリルを含み、中空炭素フィブリルの含有量が0.1〜20重量%である熱可塑性樹脂組成物において、該炭素フィブリルが、単独フィブリルと凝集フィブリルとからなり、また、該炭素フィブリルの分散状態が、透視型電子顕微鏡写真測定に基づく指標で表して、単独/凝集比が8/92〜40/60の範囲内、かつ、単独フィブリル平均長さが20〜200nmの範囲内にあることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)熱可塑性樹脂
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、溶融、成形できるものならなんでもよく、特に限定されるものではない。
具体的には、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、芳香族ビニル化合物重合体、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0010】
ポリカーボネート
ポリカーボネートは、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族−脂肪族ポリカーボネートを用いることができるが、芳香族ポリカーボネートが好ましい。芳香族ポリカーボネートは、芳香族ヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。製造方法は、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等から任意に選択できる。さらに、溶融法で製造された、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネートを使用することもできる。
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。さらに、難燃性をさらに高める目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物及び/又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマー又はオリゴマーを使用することもできる。
分岐した芳香族ポリカーボネートを得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等で示されるポリヒドロキシ化合物、又は3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等を前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、使用量は、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
分子量を調節するには、一価芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、m−及p−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
芳香族ポリカーボネートとしては、好ましくは、2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。さらに、難燃性を高める目的でシロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合することもできる。芳香族ポリカーボネートとしては、2種以上の樹脂を混合して用いてもよい。
芳香族ポリカーボネートの分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、13,000〜30,000である。より好ましくは15,000〜27,000であり、最も好ましくは17,000〜24,000である。粘度平均分子量が13,000未満だと機械的強度が不足し、30,000を超えると成形性が不良であり好ましくない。
【0011】
ポリフェニレンエーテル
ポリフェニレンエーテルとは、下記一般式(1)
【0012】
【化1】
Figure 0004397115
【0013】
(式中、Q1 は、各々、ハロゲン原子、第一級若しくは第二級アルキル基、アリール基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又はハロ炭化水素オキシ基を表し、Q2 は、各々、水素原子、ハロゲン原子、第一級若しくは第二級アルキル基、アリール基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基又はハロ炭化水素オキシ基を表し、mは10以上の数を表す)で示される構造を有する単独重合体又は共重合体である。Q1 及びQ2 の第一級アルキル基の好適な例は、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−アミル、イソアミル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、2,3−ジメチルブチル、2−、3−若しくは4−メチルペンチル又はヘプチルである。第二級アルキル基の好適な例は、イソプロピル、sec−ブチル又は1−エチルプロピルである。多くの場合、Q1 は、アルキル基又はフェニル基、特に炭素数1〜4のアルキル基であり、Q2 は、水素原子である。
好適なポリフェニレンエーテルの単独重合体としては、例えば、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエ−テル単位からなるものである。好適な共重合体としては、上記単位と2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエ−テル単位との組合せからなるランダム共重合体である。多くの好適な、単独重合体又はランダム共重合体が、特許及び文献に記載されている。例えば、分子量、溶融粘度及び/又は耐衝撃強度等の特性を改良する分子構成部分を含むポリフェニレンエーテルもまた好適である。
ここで使用するポリフェニレンエーテルは、クロロホルム中で測定した、30℃の固有粘度が0.2〜0.8dl/gであるものが好ましい。より好ましくは固有粘度が0.2〜0.7dl/gのものであり、とりわけ好ましくは0.25〜0.6dl/gのものである。固有粘度が0.2dl/g未満では組成物の耐衝撃性が不足し、0.8dl/gを超えると成形性が不満足である。
【0014】
ポリアミド
ポリアミドとは、主鎖に−CONH−結合を有する熱可塑性重合体である。その代表的なものとしては、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−4,6、ナイロン−12、ナイロン−6,10がある。その他、公知の芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸等のモノマー成分を含む結晶性又は非晶性のポリアミドでもよい。ここでいう非晶性ポリアミドとは、示査走査熱量計(DSC)により測定した結晶化度が実質的に存在しないものをいう。 好ましいポリアミドは、ナイロン−6、ナイロン−6,6、半芳香族ナイロンでありこれらと非晶性ポリアミドを併用することも好ましい。
また、ポリアミドは、25℃、98%濃硫酸中で測定した相対粘度が2.0〜6.0であることが好ましい。2.0未満だと機械的強度が不足し、6.0を超えると成型性に劣るため、好ましくない。
【0015】
ポリエステル
ポリエステルとしては、例えば、ジカルボン酸又はその低級アルキルエステル、酸ハライド、酸無水物等の誘導体と、グリコール又は二価フェノールとを縮合させて得られる熱可塑性ポリエステルが挙げられる。
このポリエステルの製造に適するジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、テレフタル酸、イソフタル酸、p,p’−ジカルボキシジフェニルスルホン、p−カルボキシフェノキシ酢酸、p−カルボキシフェノキシプロピオン酸、p−カルボキシフェノキシ酪酸、p−カルボキシフェノキシ吉草酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、2,7−ナフタリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類又はこれらのカルボン酸の混合物が挙げられる。
またポリエステルの製造に適するグリコールの具体例としては、炭素数2〜12の直鎖アルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブテングリコール、1,6−ヘキセングリコール、1,12−ドデカメチレングリコール等の脂肪族グリコール類の他、p−キシリレングリコール等の芳香族グリコール類、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール類が例示され、二価フェノールとしては、ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン又はこれらの化合物のアルキル置換誘導体が挙げられる。
ポリエステルの他の例としては、ラクトンの開環重合により得られるポリエステルも挙げられる。例えば、ポリピバロラクトン、ポリ(ε−カプロラクトン)等である。
また、ポリエステルの更に他の例としては、溶融状態で液晶を形成するポリマー(Thermotropic Liquid Crystal Polymer;TLCP)としてのポリエステルがある。これらの区分に入るポリエステルとしては、イーストマンコダック社のX7G、ダートコ社のXyday(ザイダー)、住友化学社のエコノール、セラニーズ社のベクトラ等が代表的な商品である。
以上、挙げた種々のポリエステルの中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリナフタレンテレフタレート(PEN)、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(PCT)又は液晶性ポリエステル等が、本発明に好適なポリエステルである。
【0016】
芳香族ビニル化合物重合体
芳香族ビニル化合物重合体とは、下記一般式(2)
【0017】
【化2】
Figure 0004397115
【0018】
(式中、Rは、水素原子、低級アルキル基又はハロゲン原子を表し、Zは、水素原子、低級アルキル基、塩素原子又はビニル基を表し、nは、1−5の整数を表す。)
で示される構造を有する単量体化合物から誘導された重合体である。
芳香族ビニル化合物重合体の具体例は、ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体等である。
【0019】
ポリオレフィン
ポリオレフィンとは、α−オレフィンの単独重合体、α−オレフィン同士の共重合体又はα−オレフィン(複数種でもよい)を主成分とし、他の不飽和単量体(複数種でもよい)を副成分とする共重合体等である。ここで共重合体とは、ブロック、ランダム、グラフト又はこれらの複合物等のいかなる共重合のタイプでもよい。また、これらのオレフィン重合体の塩素化、スルフォン化、カルボニル化等の変性されたものを含む。
上記α−オレフィンとは、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等であり、入手の簡便さからC2−C8のものが好ましい。また、上記不飽和単量体とは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸(以下、両者をあわせて、「(メタ)アクリル酸」と略記する。)、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸等の不飽和有機酸又はそのエステル、無水物等の誘導体や、不飽和脂肪族環状オレフィン等が挙げられる。また、ポリオレフィンの具体例としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、プロピレン−エチレンブロック又はランダム共重合体、エチレンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0020】
ポリアセタール
ポリアセタールとしては、ホルムアルデヒド又はトリオキサンの重合によって製造される高分子量の重合体であり、オキシメチレン基を繰り返し単位とする単独重合体が挙げられる。耐熱性及び化学的抵抗性を増加させるために、末端基をエステル基又はエーテル基に変換することが一般に行われている。
ポリアセタールは、ブロック共重合体であってもよい。この種の共重合体は、上記オキシメチレン基を繰り返し単位とする単独重合体ブロックと、他種の重合体ブロックとから構成される。他種の重合体ブロックの具体例には、ポリアルキレングリコール、ポリチオール、ビニルアセテート−アクリル酸共重合体、水添ブタジエン−アクリロニトリル共重合体が挙げられる。
ポリアセタールは、またランダム共重合体であってもよい。この種の共重合体では、ホルムアルデヒド及びトリオキサンは、他のアルデヒド、環状エーテル、ビニル化合物、ケテン、環状カーボネート、エポキサイド、イソシアネート、エーテル等と共重合される。共重合される化合物の具体例には、エチレンオキサイド、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキセペン、エピクロロヒドリン、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド及びスチレンオキサイドが挙げられる。この種の共重合体では、カチオン重合後、重合触媒の失活化、末端安定化等が一般に行われる。また、オキシメチレン基を主たる繰り返し単位とし、炭素数2以上のオキシアルキレン基を含有する共重合体が汎用される。
【0021】
ポリフェニレンスルフィド
ポリフェニレンスルフィドとは、下記構造式(3)
【0022】
【化3】
Figure 0004397115
【0023】
で示される繰り返し単位を主構成要素として含有する結晶性樹脂である。ポリフェニレンスルフィドの重合法としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンとを反応させる方法が適当であるが、p−ジクロロベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウム又は水硫化ナトリウムと水酸化ナトリウム又は硫化水素と水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等によることもできる。ポリフェニレンスルフィドには、上記の繰り返し単位を主構成要素とする限り種々の重合体が包含される。すなわち、上記の繰り返し単位のみからなる単独重合体、これを主構成成分(80モル%以上)とし、他の繰り返し単位の一種又は二種以上を20モル%以下の割合で含有する共重合体を使用することができる。
【0024】
また、上記各種の熱可塑性樹脂は、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル及び芳香族ビニル化合物重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが好ましい。
【0025】
(2)中空炭素フィブリル
本発明で用いられる中空炭素フィブリルは、規則的に配列した炭素原子の本質的に連続的な多数層からなる外側領域と、内部中空領域とを有し、各層と中空領域とが該フィブリルの円柱軸の周囲に実質的に同心に配置されている本質的に円柱状のフィブリルである。更に、上記外側領域の規則的に配列した炭素原子が黒鉛状であり、上記中空領域の直径が2〜20nmであることが好ましい。
本発明で用いられる中空炭素フィブリルの外径は、好ましくは3.5〜70nmであり、より好ましくは4〜60nmであり、アスペクト比(長さ/外径の比をいう)は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である。フィブリル外径が3.5nm未満の物は、樹脂中への分散性に劣り、70nmを超えると得られる熱可塑性樹脂成形体の導電性が不満足である。また、アスペクト比が5未満では、得られる熱可塑性樹脂成形体の導電性が不満足である。
かかる中空炭素フィブリルは、特表昭62−500943号公報や米国特許第4,663,230号明細書に詳しく記載されている。その製法については、上記特許公報や米国特許明細書に記載されているように、遷移金属含有粒子(例えばアルミナを支持体とする鉄、コバルト、ニッケル含有粒子)を、CO、炭化水素等の炭素含有ガスと850〜1200℃の高温で接触させ、熱分解により生じた炭素を遷移金属を起点として繊維状に成長させる方法が挙げられる。
本発明で用いられる中空炭素フィブリルは、ハイペリオン・カタリシス社より「グラファイト・フィブリル」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
【0026】
(3)任意成分
また、本発明において熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、顔料、染料、滑剤、難燃剤、離型剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、ワラストナイト、タルク、マイカ等の無機強化剤を添加配合することができる。また、熱可塑性樹脂組成物には、さらに耐衝撃改良剤として通常用いられるエラストマーを添加することもできる。
【0027】
(4)組成比
以上に述べた各成分の組成比(いずれも、上記成分(1)〜(3)を含む熱可塑性樹脂組成物の総重量に対する重量%で表す。)を纏めると、以下の通りである。
熱可塑性樹脂: 熱可塑性樹脂組成物中、80〜99.9重量%であり、好ましくは90〜99.6重量%、とりわけ好ましくは95〜99.3重量%。80重量%未満では、機械的強度、成形性が不満足であり、99.9重量%を超えると、導電性が不十分である。
中空炭素フィブリルの含有量: 熱可塑性樹脂組成物中、0.1〜20重量%、好ましくは0.4〜10重量%、とりわけ好ましくは0.7〜5重量%。0.1重量%未満では、導電性が不満足であり、20重量%を超えると、機械的強度、成形性が不満足である。
【0028】
(5)組成物の製造
本発明において熱可塑性樹脂組成物を得るための方法としては、各種混練機、例えば、一軸及び多軸混練機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等で、上記成分を混練した後、冷却固化する方法や、適当な溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素及びその誘導体に上記成分を添加し、溶解する成分同志又は、溶解する成分と不溶解成分を懸濁状態で混ぜる溶液混合法等が用いられる。工業的コストからは溶融混練法が好ましいが、これに限定されるものではない。
中でも、熱可塑性樹脂と中空炭素フィブリルを、中空炭素フィブリルの含量が10〜30重量%になるように一度溶融混練を行いマスターバッチを得、このマスターバッチを残りの熱可塑性樹脂と再度、溶融混練を行う方法が良好な分散を得るために好ましい。
【0029】
(6)中空炭素フィブリルの分散状態
本発明の熱可塑性樹脂組成物又は熱可塑性樹脂成形体における、中空炭素フィブリルは、単独フィブリルと凝集フィブリルとからなり、中空炭素フィブリルの分散状態は、単独フィブリルと凝集フィブリルとの割合及び単独フィブリルの長さが、下記の指標で表して、下記の所定範囲内にあることが必要である。
単独/凝集比=8/92〜40/60
単独フィブリル平均長さ=20〜200nm
上記「単独/凝集比」が所定範囲外だと導電性が不足し、また上記「単独フィブリル平均長さ」が20nm未満だと導電性が不足し、200nmを超えると成形体外観が不満足である。好ましくは、単独/凝集比が9/91〜35/65、かつ、単独フィブリル平均長さが25〜180nmであり、とりわけ好ましくは、単独/凝集比が10/90〜30/70、かつ、単独フィブリル平均長さが30〜160nmである。
かかる中空炭素フィブリルの分散状態は、電子顕微鏡を用いれば容易に確認することができ、また、本明細書において、上記の「単独/凝集比」及び「単独フィブリル平均長さ」は、透過型電子顕微鏡で撮影した5万倍の写真から測定される。詳細には、熱可塑性樹脂成形体から、ウルトラミクロトームを用いて、厚さ60〜200nm、好ましくは100±20nmの超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡の試料台の上に載置し、切片の厚み方向に透過光をあて、5万倍で、厚み方向と直交する切片表面の写真(図1)を撮影する。写真(図1)を模式図(図2)に従って説明すれば、図中、aは単独フィブリル(太線で表示)、bは凝集フィブリル(細線で表示)を示す(なお、この模式図は、単独フィブリルと凝集フィブリルの位置関係を、概念的に明らかにするために作成されたものであって、実際の大きさとは無関係である)。写真は、切片表面の場所を変えて、複数枚撮影する。次に、撮影された写真上の全てのフィブリルについて長さを、単独フィブリルと凝集フィブリルに分けて測定し、個数は単独フィブリルについてのみ数える。もちろん、写真から測定される長さは、超薄切片内のフィブリルの所定平面への投影長さであって、フィブリル自体の絶対長さを示すものではないが、本明細書においては、この投影長さから次式によって算出される「単独/凝集比」及び「単独フィブリル平均長さ」を指標として使用する。
Figure 0004397115
ここで、「単独フィブリル」と「凝集フィブリル」との区別は次のようにして行う。すなわち、典型的には、フィブリルの画像が一端から他端まで連続したひも状をなし、他のフィブリルと交叉していないものが、「単独フィブリル」である。また、ループを作っていても、他のフィブリルと交叉していなければ、「単独フィブリル」とする。それ以外のフィブリルは、すべて「凝集フィブリル」とする。なお、この測定法においては、点の画像しか示さないものは、いずれのフィブリルの長さにも算入せず、また個数にも数えない。
また、長さの測定は、適当な画像解析ソフトを使用して行うことも可能であるが、原理的には、個々のフィブリルの画像の中心線に沿って一端から他端までの距離を、マップメジャー等を用いて測定することによって行われる。
かかる中空炭素フィブリルの分散状態を得るには、溶融混練過程の条件設定が重要である。すなわち、溶融混練時に剪断応力が高すぎると、中空炭素フィブリルが破損してしまい、単独フィブリル長が短くなり、逆に剪断応力が低すぎると、中空炭素フィブリルの分散が不十分で凝集フィブリルが多くなってしまい、ともに十分な導電性が得られない。
溶融混練の最適条件は、押出機の形式によっても異なり、一概に規定することはできないが、好ましい形式である、二軸押出機では、シリンダー温度の設定値は、結晶性樹脂の場合には、融点+20℃〜融点+100℃の間で、非晶性樹脂の場合には、ガラス転移温度+100℃〜ガラス転移温度+180℃の間であることが好ましく、スクリュー回転数は100〜300rpmの間であることが好ましい。勿論、前所定範囲内の中空炭素フィブリルの分散状態が達成されれば、どんな条件で溶融混練を行ってもよい。
【0030】
(7)成形体
本発明の熱可塑性樹脂成形体を得る方法は、特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂組成物について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形等の成形方法が適用できる。
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、特定の用途に限定されるものではないが、本発明の効果を最も引き出せる用途として、電気電子部品の搬送、包装用材、及び、静電塗装される自動車部品がとりわけ好ましい。ここでいう電気電子部品の搬送、包装用材としては、ICチップのトレー、IC部品ボックス、ウエハーのトレー、回路基盤収納ボックス、ハードディスク、CD、DVD、MO等の光や磁気記録媒体の基盤、ハウジング、ヘッド等の部品のトレーや収納ボックス等が挙げられる。また、静電塗装される自動車部品としては、塗装工程に静電塗装を含む、バンパー、フェンダー、ドアパネル、ホイールキャップ、ドアハンドル等の自動車部品が挙げられる。本発明成形体の表面抵抗値は102〜1012Ωが好ましく、104〜1010Ωがより好ましい。1012Ωを超えると導電性が不足であり、102Ω未満では抵抗値が低すぎ、電気電子部品の搬送、包装用材の場合、ショートの可能性があり好ましくない。
これらの用途に用いられる熱可塑性樹脂としては、電気電子部品の運搬、包装用材には、耐熱性、寸法精度の観点から、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましく、自動車部品には、剛性、耐熱性、衝撃強度の観点からポリカーボネートとポリエステルのブレンド物、ポリフェニレンエーテルとポリアミドのブレンド物が好ましい。ここでいうポリフェニレンエーテル系樹脂とは、ポリフェニレンエーテルと芳香族ビニル化合物重合体のブレンド物であり、ポリフェニレンエーテルが40重量%以上含まれているものが好ましい。ポリカーボネートとポリエステルのブレンド物では、ポリカーボネートとポリエステルの比率が、重量比で9:1〜5:5の範囲が好ましく、8:2〜6:4の範囲がより好ましく、ポリフェニレンエーテルとポリアミドのブレンド物では、ポリフェニレンエーテルとポリアミドの比率が、重量比で1:9〜5:5の範囲が好ましく、2:8〜4:6の範囲がより好ましい。また、ポリフェニレンエーテルとポリアミドのブレンド物の場合は、相溶性を向上させるために、相溶化剤を用いることが好ましく、好ましい相溶化剤としては、無水マレイン酸に代表される、同一分子内に不飽和基と極性基を併せ持つ化合物が挙げられる。
【0031】
【実施例】
以下に本発明を実施例によって、詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、以下の実施例においては、各成分として次に示すものを用いた。
(A)熱可塑性樹脂
(A−1)ポリカーボネート: ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、粘度平均分子量21,000(以下、PCと略す
A−5)ポリエステル: ポリブチレンテレフタレート、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名ノバドゥール5010(以下、PBTと略す
B)中空炭素フィブリル:
(B−1)ハイペリオン・カタリシス社製で、グラファイト・フィブリルBNを15重量%、ポリカーボネートを85重量%含有するマスターバッチ(商品名:PC/15BN)。グラファイト・フィブリルBNは、外径10nm、長さ5,000nmの中空炭素フィブリル
(B−2)ハイペリオン・カタリシス社製で、グラファイト・フィブリルBNを20重量%、ポリアミド6を80重量%含有するマスターバッチ(商品名:PA/20BN)。グラファイト・フィブリルBNは、外径10nm、長さ5,000nmの中空炭素フィブリル
(B−3)ハイペリオン・カタリシス社製で、グラファイト・フィブリルBNを20重量%、ポリスチレンを80重量%含有するマスターバッチ(商品名:PS/20BN)。グラファイト・フィブリルBNは、外径10nm、長さ5,000nmの中空炭素フィブリル
(C)比較の導電性物質
(C−1)炭素繊維: 体積固有抵抗が10μΩmのもの、東邦レーヨン社製品、商品名:ベスファイトC6−SR(以下、CFと略す)
(C−2)カーボンブラック: ライオン(株)製品、商品名:ケッチェンEC(以下、CBと略す)
(D)その他の添加
D−2)エラストマー: アクリル(コア)/ブタジエン(シェル)からなるコアシェルタイプのエラストマー、クレハ社製、商品名パラロイドEXL2603(以下、EXLと略す
【0032】
実施例1〜3
表−1に示す割合で配合した樹脂組成物をタンブラーミキサーにて均一に混合したのち、二軸押出機(30mmφ)を用いて、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数150rpmでペレット化した。次に、このペレットを、射出成形機(住友ネスタール社製品、型締め力75T)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形して成形体を作製し、後記のような方法で評価を行った。
その結果は表−1に示した通りであった。表面抵抗は低いオーダーを示し、帯電防止性能の尺度である帯電相対値と半減期はともに小さな値となった。また、機械的強度、耐熱性も良好であった。さらに、成形体中の中空炭素フィブリルの分散状態は良好で、電気電子部品の搬送、包装用材として使用可能である。
【0033】
比較例1
実施例3において、シリンダー温度240℃、スクリュー回転数400rpmに変えた以外は、実施例3と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−1に示した通りであった。衝撃強度は低く、表面抵抗は高い値を示した。また、帯電相対値が高く、帯電防止性能に劣る結果となった。成形体中の中空炭素フィブリルの分散状態も、不良であった。
【0034】
比較例2
実施例3において、二軸押出機に代えて単軸押出機(40mmφ)を用い、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数50rpmに変えた以外は、実施例3と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−1に示した通りであった。衝撃強度は低く、表面抵抗は高い値を示した。また、帯電相対値が高く、帯電防止性能に劣る結果となった。成形体中の中空炭素フィブリルの分散状態も、不良であった。
【0035】
比較例3
表−1に示す通り、中空炭素フィブリルの配合量を変えた以外は、比較例1と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−1に示した通りであった。表面抵抗は低く良好な値を示したが、衝撃強度は低く、また成形体中の中空炭素フィブリルの分散状態は、不良であった。
【0036】
比較例4
表−1に示す通り、中空炭素フィブリルのかわりに炭素繊維を用いて配合量も変え、炭素繊維を押出機の下流側に設けられた別のフィード口からフィードした以外は、実施例1と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−1に示した通りであった。表面抵抗は低すぎ、半減期は非常に長くなり、帯電防止性能に劣る結果となった。また、衝撃強度は大きく低下し、成形体の表面外観はフィラーの浮きが激しく不良であった。
【0037】
比較例5
表−1に示す通り、中空炭素フィブリルのかわりにカーボンブラックを用いて配合量も変えた以外は、実施例1と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−1に示した通りであった。表面抵抗は高い値を示し、帯電相対値が高く、帯電防止性能に劣る結果となった。また、衝撃強度は大きく低下し、成形体の表面外観は若干フィラーの浮きがみられ不良であった。
【0042】
実施例8〜10
表−3に示す割合で配合した樹脂組成物をタンブラーミキサーにて均一に混合した後、2軸押出機(30mmフィー)を用いて、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数150rpmでペレット化した。次に、このペレットを、射出成形機(住友ネスタール社製品、型締め力75T)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形して成形体を作製し、後記のような方法で評価を行った。
その結果は表−3に示した通りであった。表面抵抗は低い値を示し、機械的強度、耐熱性、耐衝撃性も良好であった。また、成形体中の中空炭素フィブリルの分散状態は良好で、静電塗装される自動車部品として使用可能である。
【0043】
比較例9
実施例10において、シリンダー温度240℃、スクリュー回転数400rpmに変えた以外は、実施例10と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−3に示した通りであった。衝撃強度は低く、表面抵抗は高い値を示した。また、成形体中の中空炭素フィブリルの分散状態は、不良であった。
【0044】
比較例10
表−3に示す通り、PC及び中空炭素フィブリルの配合量を変えた以外は、実施例10と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−3に示した通りであった。表面抵抗は低い値を示したが、衝撃強度は低くなった。また、成形体中の中空炭素フィブリルの分散状態は、不良であった。
【0045】
比較例11
表−3に示す通り、PC及び中空炭素フィブリルの配合量を変えた以外は、実施例8と同様にして、成形体の作製及び評価を行った。
その結果は表−3に示した通りであった。衝撃強度は高いが、表面抵抗は高くなった。
【0048】
[評価方法]
(1)曲げ弾性率
ASTM D790による曲げ試験法に従い、三点曲げ試験を行った。
(2)荷重たわみ温度
ASTM D648に従い、1.82MPaの条件で、荷重たわみ試験を行った。
(3)アイゾット衝撃強度
ASTM D256に従い、3.2mm厚みの試験片で、ノッチ付きアイゾット試験を行った。
(4)表面抵抗
50mm×90mm×3.2mmtの角板成形体を用い、三菱化学(株)製品のロレスタ又はハイレスタにて測定を行った。(104Ω以上の値のものについてはハイレスタを用い、それ以下になるものについてはロレスタを用いた。)
(5)帯電防止性能
50mm×90mm×3.2mmtの角板成形体を用い、帯電相対値及び帯電半減期について測定を行った。帯電相対値及び帯電半減期は、スタティックオネストメーターを使用し、印荷電圧10kV、印荷時間1分間の条件で行った。
(6)中空炭素フィブリルの分散状態
50mm×90mm×3.2mmtの角板成形体中心部からウルトラミクロトームを用いて、厚み中央部より厚み100nmの超薄切片を切り出し、この切片を、透過型電子顕微鏡で5万倍で撮影し写真を得た。この写真中の全ての中空炭素フィブリルの長さを、単独フィブリルと凝集フィブリルに分けて、マップメジャーを用いて計測し、それぞれの長さの和を算出する。同時に、写真中の単独フィブリルの本数を数えた。これらから単独/凝集比及び単独フィブリル平均長さを算出した。
【0049】
【表1】
Figure 0004397115
【0051】
【表3】
Figure 0004397115
【0053】
実施例13
実施例1で得られた組成物を用いて、ハードディスク基盤の搬送・収納容器を射出成形によって作製した。得られた容器の表面抵抗は3×107 Ωと良好であり、また、この容器をベンコットにて10往復摩擦させた後、カスガKSD−0102を用いて測定した帯電圧は0Vであり、良好な帯電防止性能を示した。
【0056】
実施例16
実施例8で得られた組成物を用いて、自動車のフェンダーを射出成形によって作製した。得られたフェンダーの表面抵抗は6×108 Ωと良好であり、また、このフェンダーを静電塗装した結果、良好な塗料付着を示した。
【0057】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、機械的強度、耐熱性、衝撃強度に優れ、かつ導電性、帯電防止性が改良されていることから、その工業的有用性は大きく、OA機器用部品を始めとする電気電子部品の搬送、包装用材や、静電塗装用の自動車部品等、多くの分野に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の成形体切片表面の透過型電子顕微鏡写真。
【図2】 実施例1の成形体切片表面の透過型電子顕微鏡写真の模式図。

Claims (7)

  1. 熱可塑性樹脂中に分散された中空炭素フィブリルを含み、中空炭素フィブリルの含有量が1.2〜1.8重量%である熱可塑性樹脂組成物において、該熱可塑性樹脂がポリカーボネート又はポリカーボネートとポリエステルのブレンド物であり、該炭素フィブリルが、単独フィブリルと凝集フィブリルとからなり、また、該炭素フィブリルの分散状態が、透視型電子顕微鏡写真測定に基づく指標で表して、単独/凝集比が8/92〜40/60の範囲内、かつ、単独フィブリル平均長さが20〜200nmの範囲内にあり、アイゾット衝撃強度が430J/m以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  2. 中空炭素フィブリルが、外径3.5〜70nmの中空炭素フィブリルであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  3. 熱可塑性樹脂中に分散された中空炭素フィブリルを含み、中空炭素フィブリルの含有量が1.2〜1.8重量%である熱可塑性樹脂成形体において、該熱可塑性樹脂がポリカーボネート又はポリカーボネートとポリエステルのブレンド物であり、該炭素フィブリルが、単独フィブリルと凝集フィブリルとからなり、また、該炭素フィブリルの分散状態が、透視型電子顕微鏡写真測定に基づく指標で表して、単独/凝集比が8/92〜40/60の範囲内、かつ、単独フィブリル平均長さが20〜200nmの範囲内にあり、アイゾット衝撃強度が430J/m以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。
  4. 中空炭素フィブリルが、外径3.5〜70nmの中空炭素フィブリルであることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
  5. 成形体の表面抵抗値が、10〜1012Ωであることを特徴とする請求項又はに記載の熱可塑性樹脂成形体。
  6. 成形体が、電気電子部品の搬送、包装用材であることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
  7. 成形体が、静電塗装される自動車部品であることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
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