JP4395942B2 - 光記録方法及び試料観察方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は光記録方法及び試料観察方法に関し、更に詳しくは、近接場光を利用して偏光情報を含む光情報を記録する光記録方法、及び該光記録方法を応用して試料物体を観察する試料観察方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、記録媒体に光学的に記録を行う方法として、例えばレーザー光源からの記録光を集光して記録媒体に照射し、記録媒体の光反射率等を変化させて記録する、と言う方法等が知られている。
【0003】
しかしながら、レーザー光に限らず、気体等を伝搬して来る伝搬光を利用する光学系は、本質的に光の回折限界以下の領域では利用できないために、その限界以下のスケールの記録密度を実現できないし、又、その限界以下のサイズの物体に関する光記録を行うこともできない。
【0004】
そこで近年、いわゆる近接場光が注目されている。近接場光は周知のように、物質表面の可視光の波長よりも小さい領域に局在するので、これを利用した高密度情報記録や高分解能光学顕微鏡が提案されている。
【0005】
近接場光を利用して情報記録を行う従来技術の代表的な例として、Appl. Phy. Lett.,61, 142-144(1992)に掲載された文献が挙げられる。この文献では光磁気記録媒体(MO)を記録媒体とし、直径50nm程度のスケールでの記録が可能になると見込まれる。又、特開平10−269614号公報、特開平11−39738号公報、特開平11−142417号公報等にも、MOを利用した情報記録技術が開示されている。
【0006】
これらの従来技術におけるMOを利用した近接場光の記録方法は、具体的には、先端が鋭利な光ファイバーを用いて局在化した近接場光を発生させ、垂直磁化膜を局部的に加熱して磁化反転を起こさせることにより記録する。そして、記録情報の再生においては、前記した光ファイバーに直接偏光の光を入射し、記録媒体裏面からの透過光の偏光面回転(ファラデー効果による)あるいは記録媒体からの反射光の偏光面回転(カー効果による)により検出し、記録情報を再生するものである。
【0007】
又、J. Appl. Phys.,79, 8082,(1996)に記載の従来技術においては、相変化型記録材料を用いた場合に、近接場光により相変化型記録材料を局部的に加熱して相変化させることにより記録を行い、反射光強度の違いを検出することにより情報を再生している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近接場光を利用した情報記録において、記録可能であることが既に知られている光強度情報に加え、若し偏光情報を記録可能であるなら、近接場領域における有力な情報記録形態が一つ追加されることになり、更にこれを微小物体の観察に応用したとき、光強度情報によっては記録し難い物体の照射偏光に対する近接場等の情報の記録が新たに可能になる。更に、偏光照射を行った場合の物質の屈折率異方性の情報で記録することも可能になる。
【0009】
更に、若しこのような偏光情報を光強度情報とは識別できる形態で記録可能であるなら、上記の効果に加え、光強度情報と偏光情報との同時記録による記録情報量の増大あるいはS/N比(シグナル/ノイズ比)の向上を期待できる。
【0010】
しかしながら、近接場光を利用して情報記録を行う上記種々の従来技術において、情報再生の際に近接場光の偏光情報を利用する場合はあるものの、情報記録の際にはいずれも近接場光を熱に変換しているため、照射光の偏光情報を記録することはできないし、照射光の偏光情報と光強度情報とを互いに識別できる形態で記録することも勿論できなかった。
【0011】
ところで本願発明者は、近接場光を利用した情報記録の研究の過程において、物体に生じている近接場光には偏光に関する情報が何らかの形態で保存されており、近接場光を異方的光反応を起こし得る感光材料に作用させることにより、この偏光情報を検出可能な形態で記録できること、及び、その偏光情報の記録形態が、光強度情報の記録形態とは識別できる形態であること、を見出した。
【0012】
そこで本発明は、上記の知見に基づき、近接場光を利用した情報記録において、偏光情報を検出可能に記録すること、及び、偏光情報と光強度情報とを互いに識別検出可能に記録することを、解決すべき課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、保存及び検出が可能な異方的光反応を起こし得る感光材料を用いて構成された記録領域面に、近接場光を生じている既知の任意の物体を位置させ、該物体の近接場光に含まれる偏光情報を検出可能な形態の光反応量として前記感光材料に記録する、光記録方法である。
【0014】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る近接場光に含まれる偏光情報と光強度情報とを、互いに識別検出可能な形態の光反応量として一緒に又は別個に記録する、光記録方法である。
【0015】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明の偏光情報に係る光反応量の形態が感光材料における検出可能な形状の変化S1であり、前記第2発明の光強度情報に係る光反応量の形態が感光材料における前記S1とは識別検出可能な形状の変化S2である、光記録方法である。
【0016】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、保存及び検出が可能な異方的光反応を起こし得る感光材料を用いて構成された記録領域面に、観察試料である物体を位置させ、該物体に偏光成分を含む光を照射して近接場光を生じさせ、該物体の近接場光に含まれる偏光情報と光強度情報とを、互いに識別検出可能な形態の光反応量として前記感光材料に記録した後、この記録を記録形態に対応して選択される記録検出手段を用いて検出することにより、試料を観察する、試料観察方法である。
【0017】
【発明の作用・効果】
(第1発明の作用・効果)
第1発明においては、光の回折限界以下の近接場領域での情報記録を行うので、光の回折限界以下のスケールの記録密度を実現でき、及び/又は、光の回折限界以下のサイズの物体に関する光記録を行うこともできる。尚、光の回折限界は、光の波長の1/2であり、波長400〜800nmの可視光の回折限界は、200〜400nm程度のスケールを言う。
【0018】
又、近接場光を利用する光情報記録において、近接場光に含まれる偏光情報を検出可能な形態の光反応量として感光材料に記録する、と言う極めて有益な情報記録様式を新規に提供することができる。
【0019】
なお、近接場光を生じている任意の物体は既知の物体であるので、その物体自体の情報(例えば、物体の形状等)が近接場光を介して記録されたとしても、該記録自体の内容は予め分かっており、記録検出の際に本来の記録情報とは容易に識別することができる。
【0020】
(第2発明の作用・効果)
第2発明によって、近接場光に含まれる偏光情報と光強度情報とを互いに識別検出可能に記録できるので、第1発明の効果に加え、光強度情報と偏光情報との同時記録による記録情報量の増大、あるいはS/N比(シグナル/ノイズ比)の向上を期待できる。
【0021】
(第3発明の作用・効果)
第3発明のように、偏光情報と光強度情報とに係る光反応量の形態が、互いに識別検出可能な感光材料の形状変化S1,S2である場合、記録情報の検出の際にナノスケールでの形状認識が可能な原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)等に代表される走査型プローブ顕微鏡(SPM)、走査型電子顕微鏡(SEM)などの分解能力の高い検出手段を選択することができる。また、これらの記録領域面の形状は、光学的に識別することも可能である。例えば、記録領域に近接場光を照射すると、その近接場光の散乱光が記録領域の形状の影響をうけて、散乱光の放射方向が異方的になる。その異方性より、記録領域の形状を読み取ることができる。
【0022】
一方、光反応量の形態が感光材料の2種類の形状変化であることを利用して、リソグラフィーの分野への応用による2種類の形状変化を組合わせた複雑な超微細加工が可能となる。
【0023】
(第4発明の作用・効果)
第4発明によって、光の回折限界以下のサイズの試料物体に関する観察を、光の回折限界以下のスケールの情報密度で、しかも近接場光に含まれる偏光情報と光強度情報とを互いに識別検出することによる高密度で優れたS/N比の情報のもとに観察することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に、第1発明〜第4発明の実施の形態について説明する。以下において単に「本発明」と言うときは、第1発明〜第4発明を一括して指している。
【0025】
〔光記録と感光材料〕
第1発明〜第3発明において、「光記録」とは、例えば、先端が鋭利な光ファイバーの一端にレーザー光を導入した場合にファイバーの先端に生じる近接場光のような、近接場光を発生している物体の近接場光の偏光、強度特性を直接記録する場合だけではなく、近接場光顕微鏡におけるように情報物体そのものが解析対称であって該解析データとしての情報を記録する場合(即ち、第4発明における記録プロセス部分)も含まれ、更には半導体リソグラフィーにおけるように物体を微細加工の加工情報及び加工手段として用い、感光材料に光加工を施す場合も含まれる。
【0026】
本発明で用いる感光材料は、保存及び検出が可能な異方的光反応を起こし得るものであれば、限定なく使用することができる。異方的光反応の内容としては、アブレーションやフォトクロミズムに代表されるような光化学反応あるいは偏光方向に対して構成材料の分子が一定の方向に配列するような物理的変化に基づく形状変化や光学的異方性の発現が挙げられる。又、光学的異方性の内容としては、光屈折率の異方性(複屈折を含む),光吸収率の異方性,反射率の異方性等が挙げられる。
【0027】
但し、第3発明においては、偏光成分を含む光の照射に対し、材料の形状変化を伴う異方的光反応を起こし得る感光材料を用いる必要がある。ここに「材料の形状変化」とは、特定部分における識別可能な形態での感光材料の凹形状及び/又は凸形状の生成その他の特定の形状生成を言う。このような感光材料の形状変化は、例えばアブレーション,フォトクロミズム,材料構成分子の光誘起配向等により、光反応後に感光材料の体積,密度,自由体積等が変化して生成されるものである。
【0028】
〔光反応性成分〕
感光材料として、以上のような異方的光反応を起こし得る成分(以下、「光反応性成分」と言う。)を含む有機又は無機のマトリクス材料を好ましく使用することができる。
【0029】
光反応性成分の種類は限定されないが、例えば材料の形状変化を伴う異方的光反応を起こし得る成分として、光異性化成分や光重合性成分を好ましく例示することができ、情報の記録,読出し感度の点から光異性化成分が特に好ましい。そして光異性化成分としては、例えばトランス−シス光異性化を生じる成分、特に代表的にはアゾベンゼンやその誘導体の化学構造を持つ成分を好ましく例示することができる。
【0030】
トランス−シス光異性化を生じる成分、例えばアゾベンゼン構造を持つ成分は、特定方向の偏光を吸収して光異性化を繰返すことにより、偏光方向に対して一定の方向に配向する特性がある。そして、該成分を含む感光材料に対して偏光情報を持つ近接場光が生じている物体を接触又は近接位置させると、近接場光の偏光情報の特性に応じてアゾベンゼン構造が配向し、感光材料内でアゾベンゼン構造の配向度及び配向方向の異なる部分を生じて、感光材料の形状変化を誘起するのである。
【0031】
なお、光の照射に対して不可逆的な化学反応等の異方的光反応を生じる光反応性成分と、可逆的な異方的光反応を生じる光反応性成分とがある。前者は消去不可能な(読取り専用の、あるいはライトワンス型の)記録方法として利用できる。又、後者は所定の光の照射により記録を消去したり再記録したりできるので、繰返し読み書きできる記録方法として利用することができる。
【0032】
〔マトリクス〕
マトリクス中において、光反応性成分は単に分散していても良く、マトリクスの構成分子と化学結合等によって結合していても良いが、光反応性成分の分布密度をほぼ完全に制御できる点や、感光材料の耐熱性又は経時的安定性等の点から、マトリクスの構成分子に対して化学的に結合していることが特に好ましい。
【0033】
上記マトリクス材料としては、通常の高分子材料等の有機材料の他に、ガラス等の無機材料を用いることも可能である。しかし、マトリクスに対する光反応性成分の均一分散性あるいは結合性を考慮したとき、有機材料、とりわけ高分子材料が好ましい。
【0034】
上記高分子材料の種類は限定されないが、高分子の繰返し単位の中にウレタン基,ウレア基,又はアミド基を含んだものが、更には高分子の主鎖中にフェニレン基のような環構造を備えたものが、耐熱性の点で特に好ましい。高分子材料は必要な形状に成形可能である限りにおいて分子量や重合度を問わず、重合形態も直鎖状,分岐状,はしご状,星形等の任意の形態で良く、又、ホモポリマーでも共重合体であっても良い。記録の安定性のためには、高分子材料のガラス転移温度が、例えば100°C以上と言った高いものの方が好ましいが、ガラス転移温度が室温程度やそれ以下のものでも使用可能である。
【0035】
以上の点から、光反応性成分を含む高分子材料として特に好ましいものの2,3の具体例として、実施例で述べるものの他、次の「化1」〜「化5」に示すものが挙げられる。これらの例において、−Xはニトロ基,シアノ基,トリフルオロメチル基,アルデヒド基又はカルボキシル基を、−Y−は−N=N−,−CH=N−又は−CH=CH−を、−R−はフェニレン基,オリゴメチレン基,ポリメチレン基又はシクロヘキサン基を、それぞれ示す。
【0036】
【化1】
Figure 0004395942
【0037】
【化2】
Figure 0004395942
【0038】
【化3】
Figure 0004395942
【0039】
【化4】
Figure 0004395942
【0040】
【化5】
Figure 0004395942
〔記録領域面〕
記録領域面は必要な任意の面積に設定されるが、その面形状としては、情報記録時及び記録情報の検出/観察時の便宜からは、感光材料が膜状に形成された平坦面が特に好ましい。しかし物体を接触状態又は近接状態で位置させ得る限りにおいてその面形状は限定されない。光加工として行う光記録においては、加工対称物の任意形状の加工面が記録領域面を構成する。
【0041】
光記録時において、記録領域面は通常は大気環境下に置かれるが、必要により加圧もしくは減圧下に置かれたり、物体が微生物体である場合には記録領域面を水滴で覆ったり、場合により光記録方法のシステムの要部又は全体を水等の液体中に設定することもできる。
【0042】
〔偏光成分を含む光〕
物体に近接場光を生じさせるための照射光は、偏光成分を含む光である。ここに「偏光成分を含む光」とは、電界ベクトルの振動方向に規則性がある光のことをいい、直線偏光、円偏光、楕円偏光の成分を含む光である。さらに、円偏光と楕円偏光の場合には、電界ベクトルの先端の動きが光線を覗きこむ方向から見て、左回りの場合と右回りの場合があり、それぞれ左旋円偏光(左旋楕円偏光)、右旋円偏光(右旋楕円偏光)がある。
【0043】
照射光の波長や光源は限定されないが、波長に関しては、照射光によって物体に生じた近接場光が感光材料に吸収されて所定の光反応を起こすので、通常は紫外域から近赤外域の吸収効率の高い波長が好ましく、光源に関しては、記録形態として形状変化を起こさせる際の再現性や、後の解析の容易性等の点で、レーザー光がより好ましい。
【0044】
照射光の照射時間にも限定がないが、例えば生活微生物体のような動作物体の高速の動きを記録する場合等には、短時間露光を繰返してその動作を連続的に追従記録することができ、その場合には尖頭出力の高いパルス光を使用することも好ましい。
【0045】
〔物体〕
光記録に用いられる物体は、記録光を記録情報を含んだ近接場光に変換するための介在物としての物体である場合と、解析対象としての物体である場合と、光加工の道具としての物体である場合とが含まれる。
【0046】
記録光を記録情報を含んだ近接場光に変換するための介在物としての物体は、例えば光ファイバーの先端部分等のような各種の記録用ヘッド部分であっても良いし、空間的に独立した球体その他の微小な物体でも良いが、記録読み出しの際の該物体情報の混入を回避するため、少なくともその形状その他の光情報記録として記録され得る要素と、その記録形態とが既知である必要がある。
【0047】
物体自体の種類又は内容は限定されない。物体を記録領域面に位置させるに当たり、例えば記録領域面上に載置する場合のように、物体を記録領域面に接触状態で位置させる場合と、接触しない状態で近接位置させる場合とがある。近接位置させる場合には、少なくとも物体に生じた近接場光が記録領域面の感光材料に光反応を起こさせる程度に近接させる必要がある。
【0048】
〔試料観察方法〕
第4発明の試料観察方法において、感光材料,記録領域面,照射光等の構成は上記と同様であり、物体は解析対象としての物体であって、該物体に関する情報が光記録される。
【0049】
光記録を検出する手段は、第4発明の記録検出手段も含め、光反応量の記録形態に対応して選択されるものである。かかる手段としては、光反応量の記録形態が感光材料の形状変化である場合には、前記のようにAFM,STM,SEM等を用いることができるし、光反応量の記録形態が形状変化以外のものである場合には、近接場光学顕微鏡(SNOM)、磁気力顕微鏡(MFM)、表面電位顕微鏡(SMM)、摩擦力顕微鏡(FFM)等を用いることができる。
【0050】
【発明の有益な実施態様】
本発明は、以下の実施態様において、併記する作用・効果を伴って、好ましく実施することができる。
【0051】
1)異方的光反応を起こし得る感光材料の記録領域面に近接場光を生じている物体を位置させ、該近接場光に含まれる偏光情報を、検出可能な光反応量として感光材料に記録する光記録方法。これにより、近接場光の偏光情報を記録・検出すると言う新規な情報記録様式を提供できる。
【0052】
2)上記近接場光に含まれる偏光情報と光強度情報とを、互いに識別検出可能な形態の光反応量として一緒に又は別個に記録する光記録方法。これにより、両者の情報の同時記録による記録情報量を増大し、又はS/N比を向上できる。
【0053】
3)上記偏光情報と光強度情報に係る光反応量の形態が感光材料における互いに識別検出可能な形状の変化S1とS2である光記録方法。これにより、ナノスケールでの形状認識が可能なAFM,STM,SEM等の分解能力の高い検出手段による記録の検出ができ、複雑な光加工も可能になる。
【0054】
4)上記物体が観察すべき試料である場合において、上記光反応量の記録を記録形態に対応して選択される記録検出手段を用いて検出することにより、試料を観察する試料観察方法。これにより、光の回折限界以下のサイズの試料物体を極めて有利に観察できる。
【0055】
5)上記感光材料が、上記の異方的光反応を起こし得る光反応性成分を含む有機又は無機のマトリクス材料である。これにより、感光材料の実用的な実施態様が提供される。
【0056】
6)上記光反応性成分が可逆的な異方的光反応を起こす光異性化成分、特にトランス−シス光異性化を生じる成分、とりわけアゾベンゼンやその誘導体の化学構造を持つ成分である。これらの場合、情報の記録,読出し感度の点から特に好ましく、又、繰返し読み書きできる記録方法として利用できる。
【0057】
7)上記光反応性成分が不可逆的な化学反応を起こす成分である。この場合、消去不可能な(読取り専用の、あるいはライトワンス型の)記録方法として利用できる。
【0058】
8)上記マトリクス中において、光反応性成分はマトリクスの構成分子に対して化学的に結合している。これにより、光反応性成分の分布密度を十分に制御し、感光材料の耐熱性や経時的安定性を向上できる。
【0059】
9)上記マトリクス材料が高分子材料である。これにより、マトリクスに対する光反応性成分の均一分散性あるいは結合性を確保し易い。
【0060】
10)上記高分子材料が、その高分子の繰返し単位の中にウレタン基,ウレア基,又はアミド基を含み、更には高分子の主鎖中に環構造を備え、あるいは高分子材料のガラス転移温度が100°C以上である。これらの場合、マトリクスの耐熱性を向上できる。
【0061】
11)光反応性成分を含む高分子材料が、実施例で述べるもの、又は前記した「化1」〜「化4」に示すものである。これらの材料は、本発明の感光材料の特に優れた実施態様である。
12)上記の記録領域面が、感光材料が膜状に形成された平坦面として形成されている。かかる記録領域面は、情報記録時及び記録情報の検出/観察時の便宜に良く適う。
【0062】
13)上記偏光成分を含む光の光源がレーザー光である。この場合、記録形態として形状変化を起こさせる際の再現性や、検出の容易性等の点で優れる。
【0063】
14)上記偏光成分を含む光を、尖頭出力の高いパルス光を使用して短時間露光の繰返しで物体に照射する。これにより、例えば生活微生物体のような動作する物体の高速の動きを追従記録することができる。
【0064】
15)上記照射光に含まれる偏光成分が、直接偏光および円偏光である。直接偏光の偏光方向を変えて照射すること、さらに円偏光を照射した場合との比較により、観察物体の光学的異方性、複屈折性、散乱光の異方性などをより明瞭にすることができる。
【0065】
【実施例】
実施例1
記録領域面の準備
下記の「化6」に示す光反応性成分を含む、下記の「化7」に示すポリウレタン系高分子化合物を用いて、厚さ約1μmの薄膜を作製し、その膜面を記録領域面とする膜状の記録媒体を準備した。
【0066】
【化6】
Figure 0004395942
【0067】
【化7】
Figure 0004395942
なお、「化6」に示す光反応性成分の融点は169°Cであった。又、「化7」に示す高分子化合物のガラス転移温度は141°C、N−メチル−2−ピロリドン中の30°Cでのその固有粘度は0.69dL/g、吸収極大波長は475nmであった。
【0068】
又、上記の薄膜は、ピリジンに「化7」の高分子化合物を6.5重量%溶解させた溶液を調製し、これを0.2μmのフィルターで濾過した後、1000rpmの回転数でスライドガラス上にスピンコートして、80°Cで20時間真空乾燥させることにより作製したものである。
【0069】
物体の近接場における光強度情報及び偏光情報の観察
孔径5mmの孔の開いた円盤を超音波洗浄で清浄にした後、上記の記録媒体上に載せ、孔径5mmの孔の開いた部分を記録領域面とした。次に、この孔の中に、光の回折限界に近い直径500nmのポリスチレン微小球を多数分散させた水を数滴たらし、水の自然乾燥を待って、出力40mWの空冷式アルゴンレーザーを用い、波長488nm,ビーム径約3mmの直線偏光のレーザー光をそのまま、記録領域面に5分間照射した。
【0070】
次いで、前記ポリスチレン微小球の除去のために光照射後の記録媒体を水で洗浄して、その記録領域面を原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメンツ社製の商品名「ナノスコープE」)を用いて観察した。その観察結果を、同一対象の異なるアングルからの観察像である図1及び図2に示す。なお、図1には、観察像の色の濃淡(濃色部が凹部、淡色部が凸部)と凹凸の程度との関係を示す色見本を添え、かつ図1及び図2に直線偏光の偏光方向を矢印で表記した。
【0071】
図1及び図2から分かるように、ポリスチレン微小球が六方最密構造に配列した状態に対応した約100nmの深さの凹部を観察することができる。この凹部の深さは、詳細を省略する他の変更実施例により、ポリスチレン微小球に光照射して生じた微小球の近接場の光強度を反映することが分かっている。
【0072】
又、それぞれの凹部における直線偏光の偏光方向沿いの左右側には、偏光方向に対して直角方向に高さ約20nmの凸部が形成されている。これを図3(偏光方向に沿う要部断面図であるが、寸法的に正確な図ではない)によって分かり易く説明すると、薄膜1には上記の凹部2が形成され、各凹部2における直線偏光の偏光方向沿いの左右側には凸部3が形成されている。
【0073】
なお、図1及び図2はポリスチレン微小球が六方最密構造に配列した状態に対応したものであるため、必ずしも図のみから「凹部における直線偏光の偏光方向沿いの左右側に凸部が形成される」とは解釈できないが、ポリスチレン微小球を疎らに配置させた他の変更実施例により、この事実は別途確認している。
【0074】
以上の点から、本実施例を第1発明の実施例として見た時、凹部の観察により近接場光に含まれる光強度情報(換言すればポリスチレン微小球の近接場における光強度に関する情報)を、又、凸部の観察により近接場光に含まれる直線偏光の情報(換言すればポリスチレン微小球の近接場における電場ベクトルの異方性に関する情報)を、それぞれ検出することができる。本実施例を第4発明の実施例として見た時、上記情報と共に、凹部の丸い形状及びその孔径が試料物体の形状及び大きさの情報として記録されたことになる。
【0075】
実施例2
実施例1における直線偏光のレーザー光を1/4波長板を用いて円偏光にした点以外は実施例1と同様にして、記録媒体の記録領域面を観察した。その観察結果を、同一対象の異なるアングルからの観察像である図4及び図5に示す。なお、図4には図1と同様の色見本を添えた。図4及び図5においては、図1及び図2の場合と同様な凹部と、この凹部の周辺を取り囲むリング状の凸部とが観察された。即ち、本実施例を第1発明の実施例として見た時、リング状の凸部には、近接場光に含まれる円偏光の情報、換言すればポリスチレン微小球の近接場における電場ベクトルの異方性(円偏光を照射した場合、電場ベクトルは等方的になると予想される。)に関する情報が記録されている。本実施例を第4発明の実施例として見た時、第1実施例の場合と同様なことの他、リング状の凸部が試料物体の形状及び大きさの情報を記録していることになる。
【0076】
実施例3
実施例1で用いた直径500nmのポリスチレン微小球に代え、光の回折限界を大きく下回る直径100nmのポリスチレン微小球を用いた点以外は実施例1と同様にして、記録媒体の記録領域面を観察した。その観察結果を図6に示す。なお、図6には図1と同様な色見本を添え、かつ直線偏光の偏光方向を矢印で表記した。極めて微小な領域の像に対する撮像技術上の制約から、図6上では必ずしも明瞭ではないものの、図1の場合と同様な凹部の左右側の凸部形成が観察された。第1発明又は第4発明の実施例としての評価は、実施例1,2の場合と同様である。
【0077】
実施例4
実施例3における直線偏光のレーザー光を1/4波長板を用いて円偏光にした点以外は実施例3と同様にして、記録媒体の記録領域面を観察した。その観察結果を図7に示す。なお、図7にも図1と同様な色見本を添えた。極めて微小な領域の像に対する撮像技術上の制約から、図7上では必ずしも明瞭ではないものの、図1の場合と同様な凹部の周辺を取り囲むリング状の凸部が観察された。第1発明又は第4発明の実施例としての評価は、実施例1,2の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のAFM観察像を示す図である。
【図2】実施例1の異なるアングルからのAFM観察像を示す図である。
【図3】実施例1のAFM観察像の要部断面図である。
【図4】実施例2のAFM観察像を示す図である。
【図5】実施例2の異なるアングルからのAFM観察像を示す図である。
【図6】実施例3のAFM観察像を示す図である。
【図7】実施例4のAFM観察像を示す図である。
【符号の説明】
1 薄膜
2 凹部
3 凸部

Claims (6)

  1. 保存及び検出が可能な異方的光反応を起こし得る感光材料を用いて構成された記録領域面に、偏光成分を含む光の照射により近接場光を生じている既知の任意の物体を位置させ、該物体の近接場光に含まれる偏光情報と光強度情報とを、互いに識別検出可能な形態の光反応量として記録する光記録方法において、
    前記偏光情報に係る光反応量の形態が感光材料における検出可能な形状の変化S1であり、前記光強度情報に係る光反応量の形態が感光材料における前記S1とは識別検出可能な形状の変化S2であることを特徴とする光記録方法。
  2. 前記偏光成分を含む光が円偏光の成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の光記録方法。
  3. 前記偏光成分を含む光が直線偏光の成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の光記録方法。
  4. 保存及び検出が可能な異方的光反応を起こし得る感光材料を用いて構成された記録領域面に、観察試料である物体を位置させ、該物体に偏光成分を含む光を照射して近接場光を生じさせ、該物体の近接場光に含まれる偏光情報と光強度情報とを、互いに識別検出可能な形態の光反応量として前記感光材料に記録した後、この記録を記録形態に対応して選択される記録検出手段を用いて検出することにより試料を観察する試料観察方法において、
    前記偏光情報に係る光反応量の形態が感光材料における検出可能な形状の変化S1であり、前記光強度情報に係る光反応量の形態が感光材料における前記S1とは識別検出可能な形状の変化S2であることを特徴とする試料観察方法。
  5. 前記偏光成分を含む光が円偏光の成分を含むことを特徴とする請求項4に記載の試料観察方法。
  6. 前記偏光成分を含む光が直線偏光の成分を含むことを特徴とする請求項4に記載の試料観察方法。
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