本発明は、人工膜及び人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法に関する。
ヒト又は動物の皮膚から吸収される薬剤である経皮吸収剤は、内服薬と比較して、消化器系への副作用が少なく、長時間にわたる一定量の有効成分の持続的な投与が可能である点で優れているため、現在、様々な有効成分を有する経皮吸収剤が、盛んに研究及び開発されてきている。経皮吸収剤は、皮膚の細胞を通じて、皮膚の下に存在する毛細血管に侵入し、これらの毛細血管を経由して体内に吸収される。このように、経皮吸収剤が体内に吸収されるためには、経皮吸収剤が、皮膚を透過することが必要であり、皮膚を通じた目的の経皮吸収剤の透過率を適正に測定することが、経皮吸収剤の研究及び開発において重要である。
また、化粧品、医薬部外品等においては、例えば、それらの製剤安定化の目的で配合される防腐剤や、皮膚の日焼け防止目的で配合される紫外線吸収剤等は人体の安全性の観点から、極力経皮吸収されない物質を用いることが好ましく、これら等の経皮吸収されないことが好ましい物質の皮膚透過率を適性に測定することも化粧品、医薬部外品等の開発においては重要である。
従来は、皮膚に対する目的の経皮吸収剤の透過率をできるだけ正確に測定するために、皮膚を通じた経皮吸収剤の透過率を、ヘアレスマウスなどの動物の皮膚を用いて測定してきた。しかしながら、ヘアレスマウスなどの動物の皮膚を、経皮吸収剤の透過率の測定に用いることは、動物愛護の観点から好ましくない。
このため、近年、動物の皮膚を用いるような動物実験を行わずに、経皮吸収剤の透過率を適正に測定する方法の研究及び開発が進められている。すなわち、ヘアレスマウスのような動物の皮膚に代わる人工膜の開発が大いに期待されている。
一般に、ヒト又は動物の皮膚は、角層及び表皮を有する。ここで、角層は、親水性物質の透過をほぼ遮断し、親油性物質の透過をある程度許容する(多少遮断する)親油性膜である。また、表皮は、親水性物質の透過をほぼ許容し、親油性物質の透過をある程度遮断する(多少許容する)親水性膜である。すなわち、ヒト又は動物の皮膚は、親油性膜及び親水性膜の両方を有する。よって、ヒト又は動物の皮膚に代わる人工膜は、親油性及び親水性の両方の性質を有することが必要とされる。
このような動物の皮膚に代わる人工膜として、動物の皮膚に類似する透過性を有する一枚の膜の発見及び開発が検討されてきた。
動物の皮膚に類似する透過性を有する一枚の人工膜の発見については、例えば、Wu等による、ポリスルホン、アクリル重合体、ガラス繊維、シリコーン重合体、混合セルロースエステル(孔径0.45μm、0.8μm、8μm)、ポリエチレンで被覆されたポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(コート無し)のような様々な膜に対するニトログリセリンの透過性に関する研究結果が報告されている(例えば、J.Pharm.Sci.,81,1153−1156(1992)(非特許文献1)参照。)。
また、Minghetti等による、Mipplipore社から入手可能な酢酸セルロースフィルターのMillipore HAWP(商品名)、Akzo Nobel Faser社から入手可能な不活性多孔質セルロース材料のCuprophan 150M 3.0(商品名)、Dow Corning社から入手可能な医療級のシリコーンゴムのSilastic 500−1(商品名)、Gelman Sciences社より入手可能な親水性ポリスルホン膜のSupor(商品名)、及びGelman Sciences社より入手可能なポリプロピレンの支持体を有するポリテトラフルオロエチレン膜であるTF−PTFE(商品名)のような膜に対するニトログリセリンの透過性に関する研究結果も報告されている(例えば、J.Pharm.Pharmacol.,51,673−678(1999)(非特許文献2)参照。)。
一方、動物の皮膚に類似する透過性を有する一枚の人工膜の開発に関しては、2−ヒドロキシエチル=メタクリレートのような親水性のモノマー及びポリジメチルシロキサン=メタクリレートのような親油性のモノマーからなる共重合体の人工膜が、報告されている(例えば、Chem.Pharm.Bull.,45,537−541(1997)(非特許文献3)参照。)。このような親水性のモノマー及び親油性のモノマーからなる共重合体を適切に合成することにより、ヒト又は動物の皮膚に類似する透過性を有する一枚の人工膜を得ることが可能であることが報告されている(例えば、Chem.Pharm.Bull.,45,537−541(1997)(非特許文献3)参照)。
しかしながら、J.Pharm.Sci.,81,1153−1156(1992)(非特許文献1)及びJ.Pharm.Pharmacol.,51,673−678(1999)(非特許文献2)に開示されるような技術については、人工膜を通じた単一の物質のニトログリセリン(若干親水性)の透過率を測定しているのみであり、様々な親水性物質又は親油性物質の透過率の測定は、行われておらず、開示された人工膜が、ヒト又は動物の皮膚に代わる人工膜として使用の可能性は、不明である。また、J.Pharm.Sci.,81,1153−1156(1992)(非特許文献1)及びJ.Pharm.Pharmacol.,51,673−678(1999)(非特許文献2)に開示される人工膜を商業的に入手することは容易であるが、上記の人工膜は、親油性又は親水性のいずれか一方の性質を有するのみであり、ヒト又は動物の皮膚に類似する親油性及び親水性を有する人工膜を提供することは困難である
また、Chem.Pharm.Bull.,45,537−541(1997)(非特許文献3)に開示されるような技術については、親水性のモノマー及び親油性のモノマーからなる共重合体である人工膜は、現在商業的に入手することが困難であり、親水性のモノマー及び親油性のモノマーを共重合させることを必要とするため、このような親水性のモノマー及び親油性のモノマーからなる共重合体の人工膜を安定して供給することは困難である。
J.Pharm.Sci.,81,1153−1156(1992) J.Pharm.Pharmacol.,51,673−678(1999) Chem.Pharm.Bull.,45,537−541(1997)
本発明の第一の目的は、新規な人工膜を提供することである。
本発明の第二の目的は、新規な人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法を提供することである。
本発明の第一の態様は、1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が1%以下であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が3%以上である親油性膜、及び1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が60%以上であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が15%以下である親水性膜を含む人工膜であって、前記親油性膜は、ケラチンの粉末で処理されたものである、人工膜である。
本発明の第二の態様は、人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法であって、前記人工膜は、本発明の第一の態様である人工膜である、方法である。
本発明の第一の態様によれば、新規な人工膜を提供することが可能になる。
本発明の第二の態様によれば、新規な人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法を提供することが可能になる。
次に、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載において、「本発明の実施形態」を単に「本発明」又は「発明」と略記することにする。
本発明は、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法を提供することを目的とする。
第1の発明は、人工膜において、1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が1%以下であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が3%以上である親油性膜、及び1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が60%以上であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が15%以下である親水性膜を含むことを特徴とする。
第1の発明によれば、1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が1%以下であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が3%以上である親油性膜、及び1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が60%以上であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が15%以下である親水性膜を含むので、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を提供することができる。
第2の発明は、第1の発明の人工膜において、前記親油性膜は、シリコーン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される材料を含む膜であり、前記親水性膜は、親水性ナイロン、不織布の支持体を備えた親水性アクリル共重合体、セルロースアセテート及びニトロセルロースを含む混合セルロース、並びに親水性セルロース混合エステルからなる群より選択される材料を含む膜であることを特徴とする。
第2の発明によれば、前記親油性膜は、シリコーン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される材料を含む膜であり、前記親水性膜は、親水性ナイロン、不織布の支持体を備えた親水性アクリル共重合体、セルロースアセテート及びニトロセルロースを含む混合セルロース、並びに親水性セルロース混合エステルからなる群より選択される材料を含む膜であるので、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜をより簡便に提供することができる。
第3の発明は、第1の発明の人工膜において、前記親油性膜は、シリコーン又はポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレンを含む膜であり、前記親水性膜は、親水性ナイロン又はセルロースアセテート及びニトロセルロースを含む混合セルロースを含む膜であることを特徴とする。
第3の発明によれば、前記親油性膜は、シリコーン又はポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレンを含む膜であり、前記親水性膜は、親水性ナイロン又はセルロースアセテート及びニトロセルロースを含む混合セルロースを含む膜であるので、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜をより確実に提供することができる。
第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれか一つの人工膜において、前記親油性膜は、ケラチンの粉末で処理されたことを特徴とする。
第4の発明によれば、前記親油性膜は、ケラチンの粉末で処理されたので、様々な物質を人工膜により均一に適用することができる。
第5の発明は、人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法において、前記人工膜は、第1乃至第4の発明のいずれか一つの人工膜であることを特徴とする。
第5の発明によれば、前記人工膜は、第1乃至第4の発明のいずれか一つの人工膜であるので、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法を提供することができる。
本発明によれば、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を提供することができる。
また、本発明によれば、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法を提供することができる。
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
まず、本発明による人工膜の構成及び作用を図1と共に説明する。
図1は、本発明による親油性膜及び親水性膜を含む人工膜を説明する図であり、図1(a)は、本発明による人工膜に含まれる親油性膜の作用を説明する図であり、図1(b)は、本発明による人工膜に含まれる親水性膜の作用を説明する図であり、図1(c)は、本発明による人工膜の構成及び作用を説明する図である。
図1(a)に示すように、本発明による人工膜に含まれる親油性膜30は、親油性膜30を通じた親水性物質10の透過をほぼ遮断し、親油性膜30を通じた親油性物質20の透過をある程度許容する(多少遮断する)。
また、図1(b)に示すように、本発明による人工膜に含まれる親水性膜40は、親水性膜40を通じた親水性物質10の透過をほぼ許容し、親水性膜40を通じた親油性物質20の透過をある程度遮断する(多少許容する)。
さらに、図1(c)に示すように、本発明による人工膜は、上記の親油性膜30及び上記の親水性膜40を含む。また、薬剤を皮膚の表面に投与する場合には、様々な薬剤が、皮膚の親油性の角層に適用されるため、本発明の人工膜に適用される様々な親水性物質10及び親油性物質20は、通常、本発明の人工膜に含まれる親油性膜30の表面に適用される。しかしながら、様々な親水性物質10及び親油性物質20を本発明の人工膜に含まれる親水性膜40の表面に適用してもよい。上記の人工膜の親油性膜30に適用された親水性物質10の人工膜を通じた透過は、親油性膜30によってほぼ遮断される。また、上記の人工膜の親油性膜30に適用された親油性物質20の人工膜を通じた透過は、親油性膜30によって、ある程度許容されるが、親油性膜30の下側に存在する親水性膜40によってある程度遮断される。すなわち、親油性物質20の透過率は、親油性膜30を通じた透過率と親水性膜40を通じた透過率の積になり、結果として、親油性物質20の人工膜を通じた透過は、ほぼ遮断される。従って、人工膜に適用された親水性物質10及び親油性物質20の両方の人工膜を通じた透過は、ほぼ遮断される。逆に、本発明による人工膜に適用された様々な親水性物質10及び親油性物質20の人工膜を通じた透過に関しては、上記の親油性膜30及び上記の親水性膜40の両方によって遮断されなかった様々な物質の一部分が、人工膜を透過することができる。このような親水性物質10及び親油性物質20の透過をほぼ遮断する、本発明による人工膜の性質は、ヘアレスマウスのような動物の皮膚の性質と類似する。
このように、本発明の人工膜によれば、様々な物質に関してヘアレスマウスのような動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を提供することができる。なお、本発明による人工膜に含まれる親油性膜30は、皮膚の親油性を有する角層に対応し、親水性膜40は、皮膚の親水性を有する表皮に対応する。
ここで、本発明による人工膜に含まれる親油性膜30は、実際には、1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が、1%以下であると共に、1w/v%オクチルメトキシシンナメート(MCX)オリーブオイル溶液を24時間適用したときのMCXの透過率が、3%以上である膜である。1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの親油性膜30を通じた透過率が、1%を超えると、親油性膜30が、親水性物質10の親油性膜30を通じた透過を有効に遮断することができず、親油性膜30としての作用が十分ではない。また、1w/v%MCXオリーブオイル溶液を24時間適用したときのMCXの親油性膜30を通じた透過率が、3%未満であると、親油性物質20の親油性膜30を通じた透過を有効に許容することができず、親油性膜30としての作用が十分ではない。上記の親油性膜30としては、表1
に示すような膜が挙げられる。すなわち、親油性膜30は、シリコーン(例えば、アシット社から入手可能な100μm又は200μmの膜、及びDow Corning社から入手可能な膜)、ポリプロピレン(例えば、MILLIPORE社から入手可能なポリプロピレンプレフィルター(商品名))、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、MILLIPORE社から入手可能なマイテックス(商品名))、及びポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレン(例えば、MILLIPORE社から入手可能なフロリナート(商品名))から選択される材料を含む膜である。また、親油性膜30は、より好ましくは、シリコーン(特に、アシット社から入手可能な100μm又は200μmの膜)又はポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレン(特に、MILLIPORE社から入手可能なフロリナート)からなる膜である。ここで、表1に示す親油性膜30は、全て商業的に入手可能である。なお、表1における孔径(μm)は、親油性膜30に含まれる多数の孔の平均直径であり、厚さ(μm)は、該当する親油性膜30の製品の厚さである。
また、本発明による人工膜に含まれる親水性膜40は、実際には、1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が、60%以上であると共に、1w/v%オクチルメトキシシンナメート(MCX)オリーブオイル溶液を24時間適用したときのMCXの透過率が、15%以下である膜である。1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの親水性膜40を通じた透過率が、60%未満であると、親水性膜40が、親水性物質10の親水性膜40を通じた透過を有効に許容することができず、親水性膜40としての作用が十分ではない。また、1w/v%MCXオリーブオイル溶液を24時間適用したときのMCXの親水性膜40を通じた透過率が、15%を超えると、親油性物質20の親水性膜40を通じた透過を有効に遮断することができず、親水性膜40としての作用が十分ではない。上記の親水性膜40としては、表2
に示すような膜が挙げられる。すなわち、親水性膜40は、親水性ナイロン(例えば、MILLIPORE社から入手可能なナイロンメンブランフィルター(商品名))、不織布の支持体を備えた親水性アクリル共重合体(例えば、Gelman Laboratory社から入手可能なバーサポア(商品名))、セルロースアセテート及びニトロセルロースを含むセルロース混合エステル(例えば、MILLIPORE社から入手可能なMF−ミリポア(商品名))、並びに親水性セルロース混合エステル(例えば、Gelman LAboratory社から入手可能なGN−6メトリセル(商品名))から選択される材料を含む膜である。また、親水性膜40は、より好ましくは、親水性ナイロン(特に、MILLIPORE社から入手可能なナイロンメンブランフィルター)又はセルロースアセテート及びニトロセルロースからなるセルロース混合エステル(特に、MILLIPORE社から入手可能なMF−ミリポア)からなる膜である。ここで、表2に示す親水性膜40は、全て商業的に入手可能である。なお、表2における孔径(μm)は、親水性膜40に含まれる多数の孔の平均直径であり、厚さ(μm)は、該当する親水性膜40の製品の厚さである。
よって、本発明による人工膜に含まれる親油性膜30を表1に示される膜から選択し、親水性膜40を表2に示される膜から選択すれば、親油性膜30及び親水性膜40の両方が商業的に入手可能であるため、本発明による人工膜を、より簡便に提供することができる。
加えて、本発明による人工膜に含まれる親油性膜30の厚さ及び親水性膜40の厚さは、好ましくは、100μm以上200μm以下である。親油性膜30の厚さが、100μm未満である場合には、親水性物質10の透過を遮断する性質が不十分になる。同様に、親水性膜40の厚さが、100μm未満である場合には、親油性物質20の透過を遮断する性質が不十分になる。また、親油性膜30の厚さが、200μmを超える場合には、親水性物質10だけでなく親油性物質20の透過も遮断してしまう。同様に、親水性膜40の厚さが、200μmを超える場合には、親水性物質20の透過も遮断されてくる。よって、親油性膜30の厚さ又は親水性膜40の厚さが、100μm未満であるか、200μmを超える場合には、本発明による人工膜を通じた様々な物質の透過が、ヘアレスマウスのような動物の皮膚を通じた透過と大きく異なる場合がある。
次に、本発明による人工膜の製造方法を説明する。
まず、本発明による人工膜に含まれる親油性膜30及び/又は親水性膜40を、必要に応じて洗浄し、乾燥させる。
次に、好ましくは、親油性膜30(又は親水性膜40)の片面を、ケラチンの粉末で表面処理する。ケラチンの粉末は、例えば、ナカライテスク社より入手可能である。このように、親油性膜30(又は親水性膜40)の片面を、ケラチンの粉末で表面処理することによって、親油性膜30(又は親水性膜40)のその片面の撥水性を低下させる。これにより、親油性膜30(又は親水性膜40)のケラチンの粉末で表面処理した面に様々な親水性物質10及び親油性物質20を適用したとき、様々な親水性物質10及び親油性物質20を、人工膜のケラチンの粉末で表面処理した面に均一に適用することができる。すなわち、人工膜の様々な物質が適用される面に、へアレスマウスのような動物の皮膚の表面に類似した低い撥水性を付与することができる。
次に、親油性膜30(又は親水性膜40)の片面を、ケラチンの粉末で表面処理した場合には、親油性膜30(又は親水性膜40)のケラチンで表面処理された面と反対側の面に、親水性膜40(又は親油性膜30)を、通常使用される糊で貼り合わせる。一方、親油性膜30(又は親水性膜40)の片面が、へアレスマウスのような動物の皮膚に類似した性質を有し、親油性膜30(又は親水性膜40)の片面を、ケラチンの粉末で表面処理する必要がない場合には、親油性膜30(又は親水性膜40)の片面に、親水性膜40(又は親油性膜30)を、通常使用される糊で貼り合わせればよい。
このように、本発明による人工膜を、共重合体等を合成することなく製造することができるので、上記の本発明による人工膜の製造方法によれば、本発明による人工膜を安定して供給することができる。
次に、本発明による人工膜を通じた様々な物質の透過率を測定する方法を説明する。本発明による人工膜を通じた様々な物質の透過率は、例えば、以下の手順で測定することができる。なお、本発明による人工膜を通じた透過を測定することができる物質(目的物質)は、様々な物質であるが、例えば、表3
に挙げられるような物質の溶液を本発明による人工膜に適用することができる。なお、表3におけるLog PにおけるPは、表3に示す各物質のオクタノールへの溶解度と表3に示す各物質の水への溶解度との比(親油性溶媒と親水性溶媒との間の分配比)である。なお、表3に示す物質が、オクタノールと水との間で等分配されるとき、P=1(Log P=0)である。また、表3に示す物質が、オクタノールよりも水に多く分配されるときには、その物質は、親水性物質10であり、P<1(Log P<0)である。一方、表3に示す物質が、水よりもオクタノールに多く分配されるときには、その物質は、親油性物質20であり、P>1(Log P>0)である。本発明による人工膜に適用することができる物質の分配比は、表3に示すように、広範囲にわたっており、親水性物質及び親油性物質の両方を適用することができる。また、目的物質の分子量は、おおむね750以下であり、表3に示す各物質の分子量は、全て750以下である。また、本発明による人工膜には目的物質の溶液を適用することになるが、その溶液の溶媒及び濃度は、表3に示すように、目的物質の種類に応じて適宜選択することができる。
まず、当業者に知られたフランツセルの下側の容器に、人工膜を通じた透過率を測定する物質(目的物質)を溶解させることができる溶媒(レセプター液)を入れる。次に、フランツセルの上下の容器間に、本発明による親油性膜30及び親水性膜40を含む人工膜をはさみ込む。このとき、親油性膜30(又は親水性膜40)の表面処理された面が、フランツセルの上側の容器側に向くようにする。次に、目的物質を適当な溶媒に溶解させて、目的物質の試料溶液を所定の濃度で調製する。次に、得られた目的物質の試料溶液を、フランツセルの上側の容器に入れて、本発明による人工膜の親油性膜30(又は親水性膜40)の表面処理された面に適用する。目的物質は、フランツセルの上下の容器に挟まれた本発明による人工膜を通じて、フランツセルの上側の容器に入れられた試料溶液の溶媒からフランツセルの下側の容器に入れられた上記の溶媒へ移動する。すなわち、目的物質は、フランツセルの下側の容器に入れられた上記の溶媒へ溶解する。このようにして得られた目的物質を含む溶液の一部分を、フランツセルの下側の容器から取り出し、その溶液の一部分を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)などの測定装置を使用して、その溶液における目的物質の濃度を測定する。また、上記の目的物質の試料溶液をフランツセルの上側に容器に入れた(本発明による人工膜の表面に適用した)時刻から上記の目的物質を含む溶液の一部分を取り出した時刻までの経過時間を測定しておく。上記の目的物質の試料溶液における目的物質の濃度、上記の目的物質を含む溶液における目的物質の濃度、上記溶液の一部分を採取した時点での上記の目的物質を含む溶液の容量、及び上記の経過時間から、上記の経過時間における上記の人工膜を通じた目的物質の透過率を求めることができる。なお、目的物質として表3に示すような各物質を用いた場合には、フランツセルのレセプター液、HPLCの移動相、HPLCにおいて目的物質を含む溶液に照射する紫外線(UV)の波長は、表4
に示す通りである。なお、表4におけるPBSは、リン酸緩衝液であり、PEGは、ポリエチレングリコールであり、Volpoは、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20)である。
このようにして、本発明による人工膜を通じた様々な物質の透過率を測定する方法を使用することで、ヘアレスマウスのような動物の皮膚に目的物質を適用して目的物質の皮膚を通じた透過率を測定するのと同様に、人工膜を通じた目的物質の透過率を測定することができる。すなわち、本発明による人工膜を通じた様々な物質の透過率を測定する方法によれば、ヒト又は動物の皮膚に対する目的物質の透過性を評価することができる。
(実施例)
次に、本発明による人工膜及び人工膜を通じた様々な物質の透過率を測定する方法を、図2−12を参照した実施例を用いて具体的に説明する。
まず、本発明による人工膜に使用する親油性膜及び親水性膜を用意し、それぞれ、親油性膜及び親水性膜としての性質を確認した。ここで、表1に示す各膜を、皮膚の角層に代わる親油性膜として用意した。また、表2に示す各膜を、皮膚の表皮に代わる親水性膜として用意した。上記の表1に示す各膜の親油性膜としての性質、及び上記の表2に示す各膜の親水性膜としての性質を、以下のようにして確認した。
まず、表1及び表2に示す各膜に、表3に示す1w/v%アルブチン水溶液を適用して、各膜に対する適用の開始から1時間、4時間、及び24時間後における表1及び表2に示す各膜を通じたアルブチンの透過率を測定した。なお、参考のために、へアレスマウスの皮膚に1w/v%アルブチン水溶液を適用して、同様にへアレスマウスの皮膚を通じたアルブチンの透過率を測定した。表1及び表2に示す各膜及びヘアレスマウスの皮膚を通じたアルブチンの透過率の測定結果を表5
及び図2に示す。ここで、図2は、へアレスマウス皮膚及び人工膜の各々に1w/v%アルブチン水溶液を1時間、4時間、及び24時間適用したときのアルブチンの透過率を示す図である。なお、図2の横軸は、へアレスマウス皮膚及び人工膜を通じたアルブチンの透過率(%)を示す。表5及び図2に示すように、表1に示す各膜は、アルブチンをほとんど透過させず、表1に示す各膜のアルブチンの透過率は、1%以下であった。一方、表2に示す各膜は、アルブチンをほとんど透過させ、表2に示す各膜のアルブチンの透過率は、60%以上であった。
次に、表1及び表2に示す各膜に、表3に示す1w/v%オクチルメトキシシンナメート(MCX)オリーブオイル溶液を適用して、各膜に対する適用の開始から1時間、4時間、及び24時間後における表1及び表2に示す各膜を通じたMCXの透過率を測定した。なお、参考のために、へアレスマウスの皮膚に1w/v%MCXオリーブオイル溶液を適用して、同様にへアレスマウスの皮膚を通じたMCXの透過率を測定した。表1及び表2に示す各膜及びヘアレスマウスの皮膚を通じたMCXの透過率の測定結果を表6
及び図3に示す。ここで、図3は、へアレスマウス皮膚及び人工膜の各々に1w/v%MCXオリーブオイル溶液を1時間、4時間、及び24時間適用したときのMCXの透過率を示す図である。なお、図3の横軸は、へアレスマウス皮膚及び人工膜を通じたMCXの透過率(%)を示す。表6及び図3に示すように、表1に示す各膜は、MCXをある程度透過させ、表1に示す各膜のMCXの透過率は、3%以上であった。一方、表2に示す各膜は、MCXをある程度遮断し、表2に示す各膜のMCXの透過率は、15%以下であった。
なお、表5、表6、図2、及び図3より、ヘアレスマウスの皮膚は、少量のアルブチン及びMCXを透過させることがわかる。
次に、本発明の実施例(本実施例)に用いた人工膜について説明する。本実施例では、へアレスマウスの皮膚の角層に代わる親油性膜として、表1に示すアシット社から入手可能なシリコーンを素材としたシリコンメンブラン(厚さ100μm)(以下、単純にシリコーンと呼ぶ)又はMILLIPORE社より入手可能なポリエチレンの支持体を備えたポリテトラフルオロエチレンを素材としたフロリナート(以下、単純にPTFE−PEと呼ぶ)を用いた。また、へアレスマウスの皮膚の表皮に代わる親水性膜として、表1に示すMILLIPORE社より入手可能な親水性ナイロンを素材としたナイロンメンブランフィッルター(以下、単純にナイロンと呼ぶ)又はMILLIPORE社より入手可能なセルロースアセテート及びニトロセルロースを含むセルロース混合エステルを素材としたMF−ミリポア(孔径0.22μm)(以下、簡単にCMEと呼ぶ)を用いた。
次に、上記の親油性膜としてのシリコーン又はPTFE−PE、並びに上記の親水性膜としてのナイロン又はCMEを組み合わせて、四種類の人工膜、すなわち、シリコーン+ナイロン、シリコーン+CME、PTFE−PE+ナイロン、及びPTFE−PE+CMEを以下のようにして、製造した。まず、シリコーンを60℃のエタノールに6時間放置して洗浄し、常温で一晩放置して風乾した。次に、シリコーンの片面をナカライテスクから入手可能なケラチンパウダーで表面処理し、シリコーンのケラチンパウダーで処理した面の反対側に面にナイロン又はCMEを、糊を使用して貼り合わせた。また、PTFE−PEの片面を上記のケラチンパウダーで表面処理し、シリコーンのケラチンパウダーで処理した面の反対側に面にナイロン又はCMEを、糊を使用して貼り合わせた。
このようにして得られた上記の四種類の人工膜(シリコーン+ナイロン、シリコーン+CME、PTFE−PE+ナイロン、及びPTFE−PE+CME)に、表3に示す各物質の試料溶液を適用し、各物質の試料溶液の適用を開始してから1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、及び24時間後における表3に示す各物質の上記四種類の人工膜を通じた透過量を測定した。
上記四種類の人工膜及びヘアレスマウス皮膚を通じた表3に示す各物質の透過量を、以下のようにして測定した。フランツセル(セル容量7mL)の下側の容器に、表3に示す各物質に対応する表4に示すレセプター液を入れた。次に、ケラチンパウダーで表面処理した面がフランツセルの上側の容器に面するように、フランツセルの上下の容器間に上記四種類の人工膜の一つを挟んだ(人工膜の有効面積:1.77cm2)。次に、上記物質の試料溶液の100μLを、フランツセルの上側の容器に入れて、上記人工膜のケラチンパウダーで表面処理した面に適用した。上記物質の試料溶液の適用を開始してから1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、及び24時間後に、その物質を含むレセプター溶液の一部分を採取し、紫外線で検出するHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を使用して、採取した溶液における上記物質の濃度を測定した。上記物質の試料溶液における濃度、上記採取した溶液における上記物質の濃度、及び上記の溶液を採取した時点でのレセプター液の容量から、上記人工膜を通じた上記物質の透過量を求めた。また、ヘアレスマウス皮膚についても上記四種類の人工膜に関する測定と同様の測定を行った。なお、HPLCの測定装置には、HPLC:Shimadzu Class−vpを使用し、HPLCのカラムには、Capcell Pak C18 UG120 S−5(直径4.6mm×150mm)を使用し、移動相の流速を1mL/分とした。また、移動相及び上記採取した溶液に照射する紫外線(UV)の波長は、表4に示した。以上の上記人工膜を通じた上記物質の透過量に関する測定は、各人工膜及び各物質に対して三回ずつ繰り返し、上記透過量の平均値を算出し、上記透過量の測定値とした。
上記透過量の測定結果を図4、5、6、7、及び8に示す。図4は、シリコーン+ナイロンの人工膜を通じた表3に示す各物質の時間に対する累積透過量を示す。図5は、シリコーン+CMEの人工膜を通じた表3に示す各物質の時間に対する累積透過量を示す。図6は、PTFE−PE+ナイロンの人工膜を通じた表3に示す各物質の時間に対する累積透過量を示す。図7は、PTFE−PE+CMEの人工膜を通じた表3に示す各物質の時間に対する累積透過量を示す。図8は、へアレスマウス皮膚を通じた表3に示す各物質の時間に対する累積透過量を示す。図4、5、6、7、及び8において、横軸は、表3に示す各物質の試料溶液の適用を開始してからの経過時間(時間)を示し、縦軸は、上記四種類の人工膜の各々又はヘアレスマウス皮膚の単位面積を通じた上記各物質の累積透過量(μg/cm2)を示す。
次に、上記四種類の人工膜を通じた様々な物質の透過性を、ヘアレスマウス皮膚を通じた同じ物質の透過性と比較した。図9は、上記四種類の人工膜及びへアレスマウス皮膚に関する表3に示す物質の分配比P及び透過係数Kpの関係を示す図である。ここで、膜に対する物質の透過係数Kp(cm/時)は、膜に適用した物質の膜を通じた透過速度(初期の時間に対する透過量の変化)を、膜に適用した物質の濃度で規格化した係数であり、膜に適用した物質の濃度に依存しない、膜及び物質の種類に特有な値を示す。また、透過係数Kpは、膜に適用した物質の膜を通じた透過性を示すパラメータであり、透過係数Kpが大きいと、その膜を通じたその物質の透過率が高く、透過係数Kpが小さいと、その膜を通じたその物質の透過率が低い。なお、図9の横軸は、人工膜又はヘアレスマウス皮膚に適用した表3に示す各物質の分配比Pの対数であり、縦軸は、人工膜又はヘアレスマウス皮膚を透過した表3に示す各物質の透過係数Kpの対数である。図9に示すように、上記四種類の人工膜を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質の透過係数は、へアレスマウス皮膚を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質の透過係数と同様の傾向を示す。
そこで、上記四種類の人工膜の各々を通じた、表3に示す分配比の値の異なる各物質の透過係数の群と、へアレスマウス皮膚を通じた、表3に示す分配比の値の異なる各物質の透過係数の群との間の相関を求めた。図10は、上記四種類の人工膜の各々を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Kpの群と、へアレスマウス皮膚を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Kpの群との間の相関関係を示す図である。なお、図10の横軸は、へアレスマウス皮膚を通じた各物質のLog Kpを示し、縦軸は、上記四種類の人工膜の各々を通じた各物質のLog Kpを示す。
上記の相関関係に関する相関係数は、最小自乗回帰分析により求めた。その結果、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Kpの群と上記シリコーン+ナイロンの人工膜に関するLog Kpの群との間の相関係数は、0.785であり、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Kpの群と上記シリコーン+CMEの人工膜に関するLog Kpの群との間の相関係数は、0.822であり、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Kpの群と上記PTFE−PE+ナイロンの人工膜に関するLog Kpの群との間の相関係数は、0.878であり、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Kpの群と上記PTFE−PE+CMEの人工膜に関するLog Kpの群との間の相関係数は、0.933であった。
以上の結果より、上記四種類の人工膜の各々を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Kpの群と、へアレスマウス皮膚を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Kpの群との間の相関係数は高く、上記四種類の人工膜は、ヘアレスマウス皮膚を通じた様々な物質に対する透過性と類似する透過性を有し、上記四種類の人工膜を、ヘアレスマウス皮膚に代わる膜として使用することができることが確認された。なお、上記PTFE−PE+CMEの人工膜を通じた様々な物質に対する透過性は、ヘアレスマウス皮膚を通じた様々な物質に対する透過性と最も近く、上記PTFE−PE+CMEの人工膜は、ヘアレスマウス皮膚に代わる膜としては最も適切であることも確認できた。
また、一般に経皮吸収剤は、時間経過と共に徐々に皮膚へ浸透することが好ましいため、表3に示す各物質の膜に対する適用を開始してから最長の24時間後における、膜を透過した上記各物質の累積透過量Q24時間(μg/cm2)を、上記四種類の人工膜とヘアレスマウス皮膚の間で比較した。
図11は、上記四種類の人工膜の各々を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Q24時間の群と、へアレスマウス皮膚を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Q24時間の群との間の相関関係を示す図である。なお、図11の横軸は、へアレスマウス皮膚を通じた各物質のLog Q24時間を示し、縦軸は、上記四種類の人工膜の各々を通じた各物質のLog Q24時間を示す。
上記の相関関係に関する相関係数は、最小自乗回帰分析により求めた。その結果、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Q24時間の群と上記シリコーン+ナイロンの人工膜に関するLog Q24時間の群との間の相関係数は、0.605であり、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Q24時間の群と上記シリコーン+CMEの人工膜に関するLog Q24時間の群との間の相関係数は、0.676であり、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Q24時間の群と上記PTFE−PE+ナイロンの人工膜に関するLog Q24時間の群との間の相関係数は、0.877であり、上記へアレスマウス皮膚に関するLog Q24時間の群と上記PTFE−PE+CMEの人工膜に関するLog Q24時間の群との間の相関係数は、0.927であった。
以上の結果より、上記四種類の人工膜の各々を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Q24時間の群と、へアレスマウス皮膚を通じた、表3に示すLog Pの値の異なる各物質のLog Q24時間の群との間の相関係数は高く、上記四種類の人工膜は、ヘアレスマウス皮膚を通じた様々な物質に対する透過性と類似する透過性を有し、上記四種類の人工膜を、ヘアレスマウス皮膚に代わる膜として使用することができることが確認された。なお、上記PTFE−PE+CMEの人工膜を通じた様々な物質に対する透過性は、ヘアレスマウス皮膚を通じた様々な物質に対する透過性と最も近く、上記PTFE−PE+CMEの人工膜は、ヘアレスマウス皮膚に代わる膜としては最も適切であることも確認できた。
(比較例)
表5、表6、図2、及び図3より、本発明による人工膜に含まれる親油性膜及び親水性膜において、親油性膜は、親水性膜と比較してアレスマウスの皮膚に近い透過性を有することがわかる。よって、一枚の親油性膜を通じた様々な物質の透過性を、ヘアレスマウスの皮膚を通じた様々な物質の透過性と比較した。図12は、図9と同様に、親油性膜としての上記シリコーン及び上記PTFE−PE、並びにヘアレスマウス皮膚を通じた、分配比の異なる様々な物質の透過係数を示す。なお、図12の横軸は、上記親油性膜又はヘアレスマウス皮膚に適用した表3に示す各物質の分配比Pの対数であり、縦軸は、親油性膜又はヘアレスマウス皮膚を透過した表3に示す各物質の透過係数Kpの対数である。図12に示すように、上記親油性膜を通じた表3に示すLog Pの値の異なる各物質の透過係数は、へアレスマウス皮膚を通じた表3に示すLog Pの値の異なる各物質の透過係数と異なる傾向を示す。すなわち、上記親油性膜は、Log Pの値が小さい親水性物質に対しては、ヘアレスマウス皮膚を通じた透過性と同様の透過性を有するが、Log Pの値が大きい親油性物質に対しては、ヘアレスマウス皮膚を通じた透過性と大きく異なる。
このことは、ヘアレスマウス皮膚は、親油性膜の角層及び親水性膜の表皮を有するため、親油性物質の透過もほぼ遮断するが、一枚の上記親油性膜は、親水性膜を含まないため、親油性物質の透過を十分に遮断することができないことに起因すると考えられる。よって、単一の親油性膜は、ヘアレスマウス皮膚に代わる膜として利用することはできないことが確認された。また、単一の親水性膜についても同様にヘアレスマウス皮膚に代わる膜として利用することはできないと考えられる。
以上、本発明の実施例を具体的に説明してきたが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これら本発明の実施例を、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、変更又は変形することができる。
[付記]
[付記(1)]
1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が1%以下であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が3%以上である親油性膜、及び1w/v%アルブチン水溶液を24時間適用したときのアルブチンの透過率が60%以上であると共に1w/v%オクチルメトキシシンナメートオリーブオイル溶液を24時間適用したときのオクチルメトキシシンナメートの透過率が15%以下である親水性膜を含むことを特徴とする人工膜。
[付記(2)]
前記親油性膜は、シリコーン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される材料を含む膜であり、前記親水性膜は、親水性ナイロン、不織布の支持体を備えた親水性アクリル共重合体、セルロースアセテート及びニトロセルロースを含む混合セルロース、並びに親水性セルロース混合エステルからなる群より選択される材料を含む膜であることを特徴とする付記(1)に記載の人工膜。
[付記(3)]
前記親油性膜は、シリコーン又はポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレンを含む膜であり、前記親水性膜は、親水性ナイロン又はセルロースアセテート及びニトロセルロースを含む混合セルロースを含む膜であることを特徴とする付記(1)に記載の人工膜。
[付記(4)]
前記親油性膜は、ケラチンの粉末で処理されたことを特徴とする付記(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の人工膜。
[付記(5)]
人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法において、前記人工膜は、付記(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の人工膜であることを特徴とする方法。
本発明は、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜に適用することができる。
また、本発明は、安定に供給することが可能であり、様々な物質に関して少なくとも動物の皮膚に類似する透過性を有する人工膜を通じた物質の透過率を測定する方法に適用することができる。
図1は、本発明による親油性膜及び親水性膜を含む人工膜を説明する図であり、図1(a)は、親油性膜の機能を説明する図であり、図1(b)は、親水性膜の機能を説明する図であり、図1(c)は、親油性膜及び親水性膜を含む人工膜の機能を説明する図である。
図2は、へアレスマウス皮膚及び人工膜の各々に1w/v%アルブチン水溶液を1時間、4時間、及び24時間適用したときのアルブチンの透過率を示す図である。
図3は、へアレスマウス皮膚及び人工膜の各々に1w/v%オクチルメトキシシンナメート(MCX)オリーブオイル溶液を1時間、4時間、及び24時間適用したときのMCXの透過率を示す図である。
図4は、シリコーン(厚さ100μm)及び親水性ナイロン(孔径0.22μm)を含む人工膜を通じた様々な物質の時間に対する累積透過量を示す図である。
図5は、シリコーン(厚さ100μm)及びセルロース混合エステル(孔径0.22μm)を含む人工膜を通じた様々な物質の時間に対する累積透過量を示す図である。
図6は、ポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレン及び親水性ナイロン(孔径0.22μm)を含む人工膜を通じた様々な物質の時間に対する累積透過量を示す図である。
図7は、ポリエチレン支持体を備えたポリテトラフルオロエチレン及びセルロース混合エステル(孔径0.22μm)を含む人工膜を通じた様々な物質の時間に対する累積透過量を示す図である。
図8は、へアレスマウス皮膚を通じた様々な物質の時間に対する累積透過量を示す図である。
図9は、へアレスマウス皮膚及び本発明による親油性膜及び親水性膜を含む人工膜に関する様々な物質の分配比及び透過係数の関係を示す図である。
図10は、様々な物質の透過係数に関するへアレスマウス皮膚及び本発明による親油性膜及び親水性膜を含む人工膜の相関を示す図である。
図11は、様々な物質の24時間の累積透過量に関するへアレスマウス皮膚及び本発明による親油性膜及び親水性膜を含む人工膜の相関を示す図である。
図12は、へアレスマウス皮膚及び比較例としての親油性膜に関する分配比及び透過係数の関係を示す図である。
10 親水性物質
20 親油性物質
30 親油性膜
40 親水性膜