JP4386817B2 - 流体軸受装置及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、流体軸受装置及びそれを搭載するディスク記録再生装置に関し、特に流体軸受装置の製造方法に関する。
ディスク記録再生装置は例えばハードディスクドライブ(HDD)又はCD/DVDレコーダであり、磁気ディスク又は光ディスク等のディスク型記録媒体(以下、ディスクという)を回転させながら、そのディスクに対してデータの読み書きを磁気的に又は光学的に行う。
ディスク記録再生装置には、主にモバイル機器に対する用途の拡大に伴い、更なる小型化(特に薄型化)、大容量化、及びデータ転送の高速化が要求される。従って、装置全体を小型に維持したまま、ディスクの回転を更に高速化し、かつ高精度に安定化させることが望まれる。
例えば、2.5、1.8、1.0、0.85インチ(1インチ=25.4mm)等の小型HDDには、小型(特に薄型)で高速かつ高精度の回転駆動系が搭載される。そのような回転駆動系には流体軸受装置が適する。流体軸受装置は更に、静音化及び省電力化の点でも有利である。
図4は、従来の流体軸受装置の一例を示す断面図である。この流体軸受装置はHDDに搭載される。
シャフト21の下端部はベース27に固定され、上端部は上蓋33に固定される。シャフト21の上端部には円環形状のフランジ23が固定される。
スリーブ22の外面はハブ25に固定される。スリーブ22の内部にはシャフト21が挿入される。それによりスリーブ22とハブ25とはシャフト21を軸として回転できる。
フランジ23はスリーブ22の上側開口端に設けられる凹部22Dの中に収められる。
スラスト板24はスリーブ22の上側開口端を閉じ、フランジ23に近接する。スラスト板24は後述のように回転軸の安定化に寄与する。その他に、いわゆるカバー(キャップともいう)の役割を果たす。すなわち、シャフト21がスリーブ22の外へ抜けるのを防ぎ、シャフト21とスリーブ22との隙間を外部から遮蔽して埃等の侵入及び潤滑剤の漏洩を防ぐ。
フランジ23の表面にはスラスト動圧発生溝23A、23Bが設けられる。スリーブ22の内面22Cにはラジアル動圧発生溝22A、22Bが設けられる(図4に示される破線部参照)。スラスト動圧発生溝23A、23Bとラジアル動圧発生溝22A、22Bとは例えばヘリングボーン状の溝である。
潤滑剤26は、シャフト21、スリーブ22、フランジ23、及びスラスト板24の隙間に充填される。潤滑剤26は特に、ラジアル動圧発生溝22A、22Bとスラスト動圧発生溝23A、23Bとの全体を覆う。
ハブ25の外面には磁気ディスク30がスリーブ22と同軸に固定される。磁気ディスク30の内周部の間にはスペーサ31が設置され、更にクランパ32が磁気ディスク30の内周部を上から押さえる。それにより、磁気ディスク30がハブ25に固定される。
ハブ25の内面には磁石28が設置される。一方、ベース27にはステータ29が磁石28と対向して設置される。磁石28とステータ29とはいわゆるスピンドルモータを構成する。
上記の流体軸受装置は次のように動作する。
ステータ29が通電されるとき、回転磁界が発生する。ハブ25は磁石28を通してその回転磁界から回転力を受ける。それにより、スリーブ22とハブ25とが一体となって、シャフト21を軸として回転する。
その回転に伴い、潤滑剤26はラジアル動圧発生溝24A、24Bに沿って流れ、それぞれの中心部に集中する。その結果、それらの中心部では潤滑剤26の圧力が高まる。このポンピング作用による高い圧力がシャフト21とスリーブ22との間隔を安定に維持する。従って、ハブ25の回転軸が半径方向には実質上ぶれない。
同様に、潤滑剤26はスラスト動圧発生溝23A、23Bに沿って流れ、それぞれの中心部に集中する。その結果、フランジ23の上下の隙間では潤滑剤26の圧力が高まる。このポンピング作用による高い圧力が、フランジ23とスラスト板26との間隔、及びフランジ23とスリーブ24の凹部24Dとの間隔を安定に維持する。それ故、ハブ25の回転軸がシャフト21の軸方向から実質上傾かない。更に、ハブ25がシャフト21の軸方向には実質上変位しない。
こうして上記の流体軸受装置は磁気ディスク30の高速回転を高精度に安定に維持する。
上記の流体軸受装置では、スリーブ22の上側開口端にスラスト板24が嵌め込まれる。スリーブ22の上側開口端の内径はスラスト板24の外径と等しいので、スリーブ22とスラスト板24との間の嵌合部にはほとんど隙間がない(図4に破線で示される円P内参照)。その嵌合部に尚も残る微小な隙間は接着剤で塞がれる。それにより、スリーブ22とスラスト板24とが確実に一体化されると共に、その微小な隙間からの潤滑剤26の漏れが防止される。
その接着剤としては通常、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用される。熱硬化性樹脂には、温度上昇に伴い粘性が低下するという特性と、更なる温度上昇により固化するという特性とがある。それらの特性がスリーブ22とスラスト板24との接着では利用される。すなわち、スリーブ22とスラスト板24との接着時、両者の間の嵌合部へ接着剤が塗布された後、両者の全体が高温漕に入れられて加熱される。熱硬化性樹脂系接着剤は加熱開始から完全に固化するまでの間、粘性の低下により塗布範囲から拡がる。特に接着剤はわずかな隙間にも浸潤する。その結果、スリーブ22とスラスト板24との間の嵌合部は完全に隙間なく接着される。
スリーブ22とスラスト板24との間の嵌合部の接着では、接着剤の量が厳密に調節されねばならない。接着剤の量が足りないときは、接着剤が嵌合部の隙間全体を覆えずシールが不完全になるおそれがある。逆に、接着剤の量が過剰なときは、接着剤が嵌合部からスリーブ22とフランジ23との隙間まで流れ込むおそれがある。
しかし、嵌合部の隙間が著しく狭いときは接着剤の適量が微小である。従って、その適量は、組み立て誤差、部品のサイズのばらつき等により製品ごとに大きくばらつく(全体に対するばらつきの割合が高い)。それ故、接着剤の量は調節しにくい。
従来の流体軸受装置には、スリーブとスラスト板との間の嵌合部に大きな隙間が設けられるものが知られる(例えば特許文献1、2参照)。スリーブとスラスト板との接着時には接着剤がその大きな隙間を埋めねばならない。それにより、接着剤の適量は比較的大きい。しかしその反面、その適量は製品ごとのばらつきが比較的小さい(全体に対するばらつきの割合が低い)。従って、接着剤の量が容易に調節できる。
上記の大きな隙間は例えば、図5(a)に示されるように形成される(特許文献1図5参照)。スラスト板24の外周面には凹部24Aと凸部24Bとが設けられる。スラスト板24の外径は、凹部24Aではスリーブ22の開口端の内径より小さく、凸部24Bではスリーブ22の開口端の内径と等しい。従って、スラスト板24がスリーブ22の開口端に嵌め込まれるとき、スリーブ22の内面とスラスト板24の凹部24Aの表面との間に大きな隙間が生じる。接着剤34はこの隙間を完全に埋める。
ここで、スラスト板24の外周面に代え、スリーブ22の開口端の内面に同様な凹凸が設けられても良い(特許文献1図3参照)。
スリーブとスラスト板との間の嵌合部では大きな隙間が上記の他に、例えば図5(b)に示されるように形成されても良い(特許文献2参照)。スリーブ22の開口端の内面にはテーパ部22Eが設けられる。テーパ部22Eでは内径が開口端から内部に向かって減少し、最内部でスラスト板24の外径と一致する。従って、スラスト板24がスリーブ22の開口端に嵌め込まれるとき、テーパ部22Eの表面とスラスト板24の外周面との間に大きな隙間が生じる。接着剤34はこの隙間を完全に埋める。
特開2002-013527号公報 特開2003-139132号公報
従来の流体軸受装置ではスリーブとスラスト板との接着時、両者の嵌合部に接着剤が塗布される。特に図5に示されるような大きな隙間が嵌合部に設けられるとき、塗布される接着剤は比較的多量である。更に、熱硬化性樹脂系接着剤が使用されるとき、その接着剤は加熱時に嵌合部の隙間全体に浸潤する。
そのとき、接着剤の量が過剰であれば、余った接着剤がスリーブとシャフトとの隙間まで流れ込む。その流れ込んだ接着剤が潤滑剤に混入すれば、潤滑剤の潤滑作用が低下するおそれがある。更に、多量の接着剤がスリーブとシャフトとの隙間に流れ込み、その隙間の各部で固化すれば、固化した接着剤が隙間のサイズを狂わせるおそれがある。
それらのリスクを低減しなければ、ディスクの回転制御の信頼性を更に向上させることが困難であった。
従来の流体軸受装置では例えば図4に示されるのように、スリーブにスラスト板とハブとが接着される。それらの接着では、例えば、接着剤の量、塗布範囲、加熱温度、及び加熱時間が厳格に管理されねばならない。従って、従来の製造方法では、スリーブとスラスト板との接着、及びスリーブとハブとの接着を別工程で行わねばならなかった。更に、工程が異なれば異なる治具が必要であった。こうして、従来の製造方法では、接着工程に要する時間が長く、かつ必要な治具が多かった。それらは、組み立て精度の更なる向上及び製造コストの更なる低減を困難にした。
特に小型HDDに搭載される流体軸受装置では全体のサイズが小さい。その結果、接着されるべき部品それぞれのサイズが小さい。従って、接着剤の適量が少なく、その塗布範囲が狭い。更に、部品のサイズのばらつきが比較的大きいので、接着剤の適量が製品ごとに大きくばらつく。それ故、接着工程に要求される精度が更に高い。そのような高精度の接着工程を一つの製品について何度も繰り返すのは容易ではないので、組み立て精度の更なる向上、及び製造時間の更なる短縮が困難であった。
本発明は、スリーブとスラスト板(又はカバー)との接着時、接着剤によるスリーブとシャフトとの隙間の浸潤を効果的に防止し、更にスリーブと他の部品との接着工程数を低減し、それにより信頼性を更に向上させる流体軸受装置、の提供を目的とする。
本発明の一つの観点による流体軸受装置は、
シャフト;
内部にシャフトが挿入されるスリーブ;
スリーブの開口端の少なくとも一方に嵌め合わされてその開口端を塞ぐカバー;
シャフトとスリーブとの隙間、及びシャフトとカバーとの隙間、に充填される潤滑剤;
スリーブとカバーとの間の嵌合部に塗布された接着剤を含み、両者を接着する接着層;並びに、
スリーブとカバーとの間の嵌合部に塗布された撥油剤を含む層であり、接着層よりシャフトとカバーとの隙間に近く、接着剤によるシャフトとスリーブとの隙間の浸潤を防ぐ撥油層;
を有する。ここで、上記の流体軸受装置と同様、シャフトとスリーブとのいずれか一方がベースに固定され、他方がハブに固定される。それにより、ハブはシャフト又はスリーブの周りを回転できる。
上記の接着剤は好ましくは熱硬化性樹脂系接着剤である。
上記の撥油剤は上記の接着剤より表面張力が低い。
この流体軸受装置は好ましくは、ディスク記録再生装置に搭載される。ここで、そのディスク記録再生装置は本発明による上記の流体軸受装置の他に、
ハブの周囲に設置され、磁石とコイルとを含み、ハブに対しシャフトを軸とする回転力を作用させるためのモータ;
ハブと同軸に設置されるディスク;及び、
ディスクが回転力により回転するとき、ディスクに対し信号を記録し、ディスクから信号を再生するヘッド;
を具備する。
本発明の一つの観点による上記の流体軸受装置は好ましくは、以下のステップを有する方法で製造される。その製造方法は、
スリーブの内部にシャフトを挿入し、スリーブとカバーとを嵌め合わせ、シャフト又はスリーブのいずれかをベースに固定するステップ;
スリーブの一端側に熱硬化性樹脂系接着剤を塗布するステップ;並びに、
シャフト、スリーブ、カバー、及び、ベース又はハブ、の全体を所定温度で所定時間加熱し、スリーブとカバーとの間の嵌合部、及びスリーブとベース又はハブとの隙間、の全体に熱硬化性樹脂系接着剤を一度に充填し、更に固化させるステップ;
を有し、
スリーブとカバーとを嵌め合わせる前に、
スリーブとカバーとの間の嵌合部に含まれるスリーブの表面又はカバーの表面の少なくともいずれかに撥油剤を塗布して乾燥させ、それにより撥油層を形成するステップ;
を有する。更に、熱硬化性樹脂系接着剤を充填するステップでは、撥油層が熱硬化性樹脂系接着剤によるシャフトとスリーブとの隙間の浸潤を防ぐ。

上記の熱硬化性樹脂は好ましくはエポキシ樹脂である。
熱硬化性樹脂系接着剤が温度上昇に伴う粘性の低下により、塗布範囲からスリーブとカバーとの間の嵌合部全体へ拡がる。そのとき、撥油剤は熱硬化性樹脂系接着剤より表面張力が高いので、熱硬化性樹脂系接着剤は撥油層で弾かれる。こうして、撥油層は熱硬化性樹脂系接着剤による浸潤の範囲を制限し、特にその接着剤によるシャフトとスリーブとの隙間の浸潤を効果的に防ぐ。それにより、スリーブとカバーとの間の嵌合部、及びスリーブとベース又はハブとの隙間の全体への接着剤の充填が一回の工程で、しかも高精度に実現される。
本発明による上記の流体軸受装置及びその製造方法は以上の通り、スリーブと他の部品との接着が一回の工程で行われる。特に、接着剤によるスリーブとシャフトとの隙間の浸潤が効果的に防止される。
本発明による流体軸受装置が例えば小型HDD等のディスク記録再生装置に搭載されるとき、特にその組み立て精度が更に向上する。従って、ディスク記録再生装置の性能及び信頼性が更に向上し、更なる長寿命化が実現できる。
以下、本発明の最良の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態によるディスク記録再生装置である小型HDDを示す断面図である。このHDDは、ベース7A、上蓋7B、流体軸受装置、磁石8、ステータ9、磁気ディスク10、リング11、支柱15、及び回動アーム16を有する。その流体軸受装置は、シャフト1、スリーブ2、フランジ3、スラスト板(キャップとも言う)4A、カバー4B、及びハブ5を有する。
ベース7Aと上蓋7Bとは互いに嵌め合わされ、箱形の筐体を構成する。そのとき、ベース7Aと上蓋7Bとは筐体内を密封し、外部からのゴミ等、異物の侵入を防ぐ。
シャフト1の下端部は例えば下側ビス12Aでベース7Aに固定され、上端部は例えば上側ビス12Bで上蓋7Bに固定される。
シャフト1の下端部にはフランジ3が固定される。フランジ3は好ましくは金属製の円環であり、その内側にシャフト1の下端部が挿入される。
スリーブ2とハブ5とは共に肉厚の円筒である。スリーブ2はハブ5の内部に挿入され、スリーブ2の外周面がハブ5に接着される。
シャフト1はスリーブ2の下側開口端からその内部に挿入される。そのとき、スリーブ2はシャフト1の周りに回転可能である。従って、ハブ5がスリーブ2と共に、シャフト1を軸として回転する。逆に、シャフト1がハブ5に固定され、スリーブ2がベース7Aに固定されても良い。その場合、ハブ5はスリーブ2の周りを、シャフト1を軸として回転する。
スリーブ2の両開口端の内面にはそれぞれ、下側凹部2Aと上側凹部2Bとが設けられる。シャフト1がスリーブ2の内部に挿入されるとき、フランジ3がスリーブ2の下側凹部2Aの中に収められる。
スラスト板4Aはスリーブ2とハブ5との下側開口端に接着され、その開口端を閉じる。そのとき、スラスト板4Aの上面はフランジ3の下面と近接する。
カバー4Bはスリーブ2とハブ5との上側開口端に接着され、その開口端を閉じる。
シャフト1、スリーブ2、フランジ3、スラスト板4A、及びカバー4Bの隙間には潤滑剤6が充填される。潤滑剤6は好ましくはオイルである。
シャフト1の側面とスリーブ2の内面2Cとのいずれか、又はその両方には、ラジアル動圧発生溝が設けられても良い(図示せず)。
フランジ3の上面とそれに対向するスリーブ1の下側凹部2Aの表面とのいずれか一方若しくは両方、又は、フランジ3の下面とそれに対向するスラスト板4の上面のいずれか一方若しくは両方には、スラスト動圧発生溝が設けられても良い(図示せず)。
ラジアル動圧発生溝及びスラスト動圧発生溝は好ましくは、ヘリングボーン状の溝である。その他にスパイラル状であっても良い。
潤滑剤6はラジアル動圧発生溝及びスラスト動圧発生溝を完全に覆う。
ハブ5の外周面には磁気ディスク10が、シャフト1と同軸に固定される。ここで、磁気ディスク10は複数枚、取り付けられても良い。
リング11はハブ5の外周面に、例えば焼止めにより固定される。リング11はその他の方法でハブ5の外周面に固定されても良い。そのとき、磁気ディスク10の内周部が、リング11とハブ5の外周面上の凸部5Aとの間に挟まれる。それにより、磁気ディスク10がハブ5に固定される。
磁石8がハブ5の外周面に固定される。一方、ステータ9はハブ5の周囲で、磁石8と対向してベース7Aに固定される。磁石8とステータ9とは、いわゆるスピンドルモータを構成する。
支柱15の下端部はベース7Aに固定される。回動アーム16は先端部にヘッド17を有し、後端部で支柱15と回動可能に接続される。回動アーム16は磁気ディスク10の片面に一つずつ設けられる。
本発明の実施形態による上記のHDDが磁気ディスク10に対してデータの記録/再生を行うとき、上記の流体軸受装置が次のように動作する。
ステータ9が通電されるとき、回転磁界が発生する。ハブ5は磁石8を通してその回転磁界から回転力を受ける。それにより、スリーブ2、ハブ5、及び磁気ディスク10が一体となって、シャフト1を軸として回転する(図1参照)。
スリーブ2の回転に伴い、シャフト1とスリーブ2との隙間、フランジ3とスリーブ2の下側凹部2Aとの隙間、及びフランジ3とスラスト板4Aとの隙間では、潤滑剤6がスリーブ2の回転方向に沿って流れる。
シャフト1の側面では潤滑剤6がラジアル動圧発生溝に沿って流れ、その中心部に集中する。その結果、中心部に近いほど潤滑剤6の圧力が高まる。このポンピング作用による高い圧力が特にシャフト1の半径方向でシャフト1とスリーブ2との間隔を安定に維持する(図1参照)。従って、磁気ディスク10の回転軸が半径方向には実質上ぶれない。
フランジ3の上下では潤滑剤6がスラスト動圧発生溝に沿って流れ、その中心部に集中する。その結果、その中心部に近いほど潤滑剤6の圧力が高まる。このポンピング作用による高い圧力が特にシャフト1の軸方向で、フランジ3の上面とスリーブ1との間隔、及びフランジ3の下面とスラスト板4Aとの間隔を安定に維持する(図1参照)。従って、磁気ディスク10の回転軸がシャフト1の軸方向から実質上傾かない。更に、スリーブ2が軸方向では実質上変位しない。
こうして上記の流体軸受装置は磁気ディスク10の高速回転を高精度に安定に維持する。
磁気ディスク10の高速回転時、回動アーム16は支柱15を軸に回動し、ヘッド17を磁気ディスク10上の目的地へ移動させる(図1参照)。ここで、ヘッド17は磁気ディスク10の高速回転により磁気ディスク10の表面から微小な高さに浮上する。ヘッド17は磁気ディスク10上の目的地で、磁気ディスク10にデータを書き込み、又は磁気ディスク10からデータを読み出す。そのとき、上記の流体軸受装置が磁気ディスク10の高速回転を高精度に安定に維持するので、ヘッド17によるデータの読み書きは信頼性が高い。
スリーブ2、スラスト板4A、カバー4B、及びハブ5は互いに接着される。その接着には、好ましくはエポキシ樹脂系接着剤が用いられる。その他に、他の熱硬化性樹脂系の接着剤が用いられても良い。
スリーブ2の外周面とハブ5の内周面との隙間、スリーブ2とスラスト板4Aとの隙間、及びスリーブ2とカバー4Bとの隙間には、接着剤による接着層13が形成される(図1参照)。本発明の実施形態では特にその接着層13が、ハブ5の内周面、スリーブ2とスラスト板4Aとの隙間、及びスリーブ2とカバー4Bとの隙間の全体を切れ目なく覆う。
スリーブ2の両端面では、下側凹部2Aと上側凹部2Bとのそれぞれの境界と接着層13との間に撥油層14A、14Bが形成される。撥油層14A、14Bには撥油剤が含まれる。その撥油剤は上記の接着剤より表面張力が低く、好ましくはフッ素樹脂とトリスアミン(トリエタノールアミン)との混合物である。その撥油剤は特に潤滑剤6よりも表面張力が低い。
接着層13と撥油層14A、14Bとは、スリーブ2の外周面とハブ5の内周面との隙間、スリーブ2とスラスト板4Aとの隙間、及びスリーブ2とカバー4Bとの隙間を完全に塞ぐ。撥油層14A、14Bは更に潤滑剤6を弾く。それにより、それらの隙間を通した潤滑剤6の漏洩が効果的に防止される。
接着層13と撥油層14A、14Bとは以下の工程により形成される。図2、3にはその工程が、図1に破線で示される円Q内の構成について示される。
最初の工程では、スリーブ2の両端面に撥油剤が塗布される(図2(a)に示される矢印参照)。ここで、撥油剤は下側凹部2Aと上側凹部2Bとのそれぞれの境界付近に塗布される。撥油剤の塗布後、スリーブ2は乾燥される。それにより、撥油層14A、14Bが形成される。
次の工程では、シャフト1、スリーブ2、フランジ3、スラスト板4A、カバー4B、及びハブ5が嵌め合わされる(図2(b)参照)。
更に次の工程では、所定量の接着剤Gが例えば、ハブ5の上端面とカバー4Bの上面との境界に塗布される(図3(a)参照)。
最後の工程では、シャフト1、スリーブ2、フランジ3、スラスト板4A、カバー4B、及びハブ5の全体が高温漕に入れられ、所定温度で所定時間加熱される。接着剤Gはそのとき、温度上昇に伴う粘性の低下により、ハブ5とカバー4Bとの隙間から下方に浸潤し始める(図3(b)に示される矢印GA〜GD参照)。
接着剤GBがスリーブ2の上端面とカバー4Bの下面との隙間に浸潤する。その接着剤GBは上側撥油層14Bで弾かれ、そこに留まる。こうして、接着剤GBがスリーブ2の上端面とカバー4Bの下面との隙間を埋める。それと共に、接着剤GBによるスリーブ2の上側凹部2B近傍の隙間の浸潤が上側撥油層4Bにより効果的に防止される。
ハブ5の外周面に沿って下降する接着剤GCはスラスト板4Aの上面に達する。
接着剤GDは更にハブ5の外周面とスラスト板4Aの外周面との隙間に浸潤し、その隙間を完全に埋める。
一方、接着剤GAはスラスト板4Aの上面に沿って拡がり、スリーブ2の下端部表面とスラスト板4Aの上面との隙間に浸潤する。その接着剤GAは下側撥油層14Aで弾かれ、そこに留まる。こうして、接着剤GAがスリーブ2の下端部表面とスラスト板4Aの上面との隙間を埋める。それと共に、接着剤GAによるスリーブ2の下側凹部2Aとフランジ3との隙間の浸潤が下側撥油層4Aにより効果的に防止される。
ここで、スリーブ2の外周面とハブ5の内周面との隙間、スリーブ2の下端部表面とスラスト板4Aの上面との隙間、及びスリーブ2の上端面とカバー4Bの下面との隙間全体に接着剤Gが充填されるように、接着剤Gの量、及び高温漕による加熱温度と加熱時間とが調節される。特に小型HDDではそれらの調節が容易である。
更に、接着剤Gによる浸潤が継続する期間では、撥油層14A、14Bが接着剤GA、GBを堰き止める。従って、接着剤Gの量、加熱温度、及び加熱時間のそれぞれの設定誤差、各部品のサイズのばらつき、並びに組み立て誤差等、様々な誤差要因に関わらず、接着剤GA、GBがスリーブ2の下側凹部2A、上側凹部2Bそれぞれには確実に浸潤しない。
こうして、スリーブ2に対するスラスト板4A、カバー4B、及びハブ5の接着が一回の接着工程で達成できる。更に、その接着工程では様々な誤差要因に関わらず、接着剤によるシャフト1とスリーブ2との隙間の浸潤、特にスリーブ2の下側凹部2Aとフランジ3との隙間の浸潤が確実に防止される。
それ故、本発明の実施形態による流体軸受装置は信頼性が高い。従って、その流体軸受装置を搭載するHDDでは、高性能化及び長寿命化が容易である。
本発明による流体軸受装置は上記の通り、スリーブと他の部品との接着を一度の工程で実現し、それにより信頼性を更に向上させる。このように、本発明は明らかに産業上利用可能である。
本発明の実施形態によるHDDの断面図である。 図1に示される円Q内の構成について、本発明の実施形態による接着工程の前半を示す断面図である。(a)は撥油層14A、14Bの形成段階を示し、(b)は、シャフト1、スリーブ2、フランジ3、スラスト板4A、カバー4B、及びハブ5の嵌合段階を示す。 図1に示される円Q内の構成について、本発明の実施形態による接着工程の後半を示す断面図である。(a)は接着剤Gの塗布段階を示し、(b)は加熱による接着剤Gの固化段階を示す。 HDDに搭載される従来の流体軸受装置を示す、そのHDDの部分断面図である。 従来の流体軸受装置のうち、スリーブ22とスラスト板24との間の嵌合部に大きな隙間を持つものについて、図4に示される円P内の拡大断面図である。(a)ではスラスト板24の外周面に凹部24Aと凸部24Bとが設けられる。(b)ではスリーブ22の開口端の内面にテーパ部22Eが設けられる。
符号の説明
1 シャフト
2 スリーブ
2A 下側凹部
2B 上側凹部
3 フランジ
4A スラスト板
4B カバー
5 ハブ
14A、14B 撥油層
G 接着剤

Claims (4)

  1. シャフト;
    内部に前記シャフトが挿入されるスリーブ;
    前記スリーブの開口端の少なくとも一方に嵌め合わされてその開口端を塞ぐカバー;
    前記シャフトと前記スリーブとの隙間、及び前記シャフトと前記カバーとの隙間、に充填される潤滑剤;
    前記スリーブと前記カバーとの間の嵌合部に塗布された接着剤を含み、両者を接着する接着層;並びに、
    前記スリーブと前記カバーとの間の嵌合部に塗布された撥油剤を含む層であり、前記接着層より前記シャフトと前記カバーとの隙間に近く、前記接着剤による前記シャフトと前記スリーブとの隙間の浸潤を防ぐ撥油層;
    を有する流体軸受装置。
  2. 前記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である、請求項1に記載の流体軸受装置。
  3. 請求項1に記載の流体軸受装置;
    前記ハブの周囲に設置され、磁石とコイルとを含み、前記ハブに対し前記シャフトを軸とする回転力を作用させるためのモータ;
    前記ハブと同軸に設置されるディスク;及び、
    前記ディスクが前記回転力により回転するとき、前記ディスクに対し信号を記録し、前記ディスクから信号を再生するヘッド;
    を具備する、ディスク記録再生装置。
  4. シャフト;
    内部に前記シャフトが挿入されるスリーブ;
    前記シャフト又は前記スリーブのいずれかを固定するベース;
    円筒形状であり、内部に前記シャフトと前記スリーブとが同軸に挿入され、前記シャフト又は前記スリーブのいずれかに固定されるハブ;
    前記スリーブの開口端の一方に嵌め合わされてその開口端を塞ぐカバー;
    前記シャフトと前記スリーブとの隙間、及び前記シャフトと前記カバーとの隙間、に充填される潤滑剤;
    を有する流体軸受装置、を製造する方法であり、
    前記スリーブの内部に前記シャフトを挿入し、前記スリーブと前記カバーとを嵌め合わせ、前記シャフト又は前記スリーブのいずれかを前記ベースに固定するステップ;
    前記スリーブの一端側に熱硬化性樹脂系接着剤を塗布するステップ;並びに、
    前記シャフト、前記スリーブ、前記カバー、及び、前記ベース又は前記ハブ、の全体を所定温度で所定時間加熱し、前記スリーブと前記カバーとの間の嵌合部、及び前記スリーブと前記ベース又は前記ハブとの隙間、の全体に前記熱硬化性樹脂系接着剤を一度に充填し、更に固化させるステップ;を有し、
    前記スリーブと前記カバーとを嵌め合わせる前に、
    前記スリーブと前記カバーとの間の嵌合部に含まれる前記スリーブの表面又は前記カバーの表面の少なくともいずれかに撥油剤を塗布して乾燥させ、それにより撥油層を形成するステップ;
    を有する前記製造方法であり、
    前記熱硬化性樹脂系接着剤を充填するステップでは、前記撥油層が前記熱硬化性樹脂系接着剤による前記シャフトと前記スリーブとの隙間の浸潤を防ぐ、流体軸受装置の製造方法。
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