本発明は、2次元的な屈折率分布に応じた多重散乱によりホログラフィックに波動を伝達させるホログラフィック波動伝達媒体の製造方法に関する。
光通信などの技術分野においては、光の分岐・干渉を容易に実現するための光回路を構成するために、光導波路構造を利用した集積光部品が開発されてきた。このような波動としての性質を利用した集積光部品は、光導波路長などを調整したり光干渉計等の作製を容易化したりすることを可能とし、さらに、半導体分野における回路加工技術を適用することで、光部品の集積化も可能となる。
しかしながら、このような光導波路回路においては、光導波路中を伝搬する光を屈折率の空間的分布を利用して空間的な光閉じ込めを実現する「光閉じ込め構造」により光回路の各構成要素を構成するために、光配線などを用いた縦列的な回路設計が必要となる。このため、光導波路回路の光路長は、光回路内で干渉現象などを生じさせるために求められる光路長よりも長くならざるを得ず、その結果、光回路そのものが極めて大型になってしまうという問題があった。
たとえば、典型的なアレイ導波路格子を例にとると、入力ポートから入力された複数の波長(λj)の光はスラブ導波路を有するスターカプラにより分波・合波を繰り返し、分波された光が出力ポートから出力されるが、波長の千分の1程度の分解能で光を分波するために要する光路長は、導波路を伝搬する光の波長の数万倍となる。また、光回路の導波路パターンニングをはじめとして、偏光状態に依存する回路特性を補正するための波長板などを設けるための加工も施す必要がある。(例えば、非特許文献1参照)。
また、光回路の小型化のためには光を導波路中に強く閉じ込める必要があるために、屈折率の空間的分布により光閉じ込め状態を制御するためには極めて大きな屈折率差を光導波路中にもたせることが必要とされ、例えば従来のステップインデクッス型の光導波路では、比屈折率差が0.1%よりも大きな値となるような屈折率の空間的分布を有するように光導波路が設計されていた。このような大きな屈折率差を利用して光閉じ込めを行うこととすると、回路構成の自由度が制限されてしまうという問題が生じる。特に、光導波路中での屈折率差を、局所的な紫外線照射、熱光学効果や電気光学効果などにより実現しようとする場合には、得られる屈折率の変化量は高々0.1%程度である場合が多く、光の伝搬方向を変化させる場合には光導波路の光路にそって徐々に向きを変化させざるを得ず、光回路長は必然的に極めて長いものとなってしまい、その結果として光回路の小型化が困難になってしまう。
さらに、グレーティング様の回路を光導波路回路に付与した回路は光の伝搬方向に対して概ね平行な向きの周期構造もしくは誘電体屈折率の周期変化により光回路を構成し、かつ、実際の設計においては概ねフーリエ変換で評価可能な強い周期性を有する構造もしくは周期性を僅かに歪ませたチャープ構造により光回路の特性を得ているために、波面に対して概ね均一な構造となって伝搬方向に垂直な方向(波面に沿った方向)での光制御が困難となる。例えば、非特許文献2に開示されている光回路では、光回路中で反射することなく透過する光は回路中に広がってしまい信号光として利用することができない。また、分岐回路のように伝搬方向に垂直な方向へ大きくスポット位置を変化させる回路では、光が形成する「場」(フィールド)を伝搬方向と垂直方向に大きく広げる必要があり回路が大きくならざるを得ない。さらに、実際の回路の設計においても、ファイバグレーティングのような従来の1次元のグレーティング回路の設計方法とほぼ等価な設計方法しか実現できないために、周期性の強い構造(すなわち、伝搬方向の波数に依存した光回路)に限定され、回路規模が大きくなり、波長に敏感になり易く、入出力の位置が波長の順に連続的に分布してしまうなど、設計の自由度が低い回路に限定されるという問題があった。
Y. Hibino, "Passive optical devices for photonic networks", IEIC Trans. Commun., Vol.E83-B No.10, (2000).
T. W. Mossberg, "Planar holographic optical processing", Optics Letters, Vol.26, No. 7, pp 414-416 (2001).
H. Rao, et. al, "A bidirectional beam propagation method for multiple dielectric interfaces", IEEE PTL Vol.11, No.7, pp 830-832 (1999).
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、従来の光導波路回路や平面ホログラフィック回路を用いた光回路よりも小型で、光の入出力を可能な限り自由に設定でき、さらに、緩やかな屈折率分布(小さな高低差)でも充分に高効率の光信号制御を可能とする光回路を実現するための光(波動)伝達媒体を提供し、これにより、高効率で小型の導波回路を実現することにある。
本発明はこのような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基板上に形成されたクラッド層と、該クラッド層に埋設されたコア層とからなる光の導波領域が設けられ、前記光の伝搬方向に垂直な断面において、前記光のフィールドの断面が与えられるべき回路上の場所をポートとし、任意の1個のポートから入射された入力光が、他のポートから出力光として出射されるように、前記コア層に空間的な屈折率分布が形成されたホログラフィック波動伝達媒体であって、前記空間的な屈折率分布は、前記入力光が、前記任意の1個のポートから前記光の伝搬方向に沿って伝搬すると、前記入力光の入力フィールドが、前記出力光の出力フィールドに変換されて、前記他のポートから出力される1つ以上の入出力フィールドの組の各々を伝搬するように、メッシュにより画定されるピクセルの各々のコアが有する屈折率によって決定され、各々の前記ピクセルのコアの屈折率は、前記光の伝搬方向の座標z、前記光の導波領域において前記光の伝搬方向に垂直な方向の座標xとしたときの断面Xの場所(z,x)において、前記入力フィールドの順伝搬のフィールドの位相と、前記出力フィールドの位相共役に逆伝搬させたフィールドの位相との間の位相差が所定の誤差以下となるように、各々の前記ピクセルの屈折率を変数として繰り返し計算を行うことにより決定され、前記入力光のフィールドが、前記任意の1個のポートから前記他のポートまでの伝搬方向に沿って、前記断面Xの屈折率分布により位相の変化を多段に受けることにより、前記波動伝達媒体内で生じる伝搬波同士の多重散乱による干渉現象により光のフィールドの形状を変化させながら伝搬して、前記他のポートから前記出力光の出力フィールドとして出射されるホログラフィック波動伝達媒体の製造方法において、屈折率分布の初期値{n0}を決定する第1のステップと、(q−1)番目の計算によって得られた屈折率分布{nq-1}をもとに、前記入出力フィールドの組のj番目の入力フィールドψj(x)および出力フィールドφj(x)について、前記順伝搬フィールドψj(z,x,{nq-1})と前記逆伝搬のフィールドφj(z,x,{nq-1})としたとき、各場所(z,x)における屈折率nq(z,x)を、
nq(z,x)=nq-1(z,x)−αΣjIm[φj(z,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq-1})]
として計算し、ここで、記号「*」は複素共役であり、記号「・」は内積演算であり、Im[]は[]内のフィールド内積演算結果の虚数成分であり、αは計算の収束を考慮した定数であり、Σjはjについて和を示す第2のステップと、前記第2のステップで得られた屈折率分布{nq}をもとに、各場所(z,x)における前記順伝搬フィールドψj(z,x,{nq})と前記逆伝搬のフィールドφj(z,x,{nq})との差の絶対値が前記所定の誤差以下か否かを決定する第3のステップとを備え、各々の前記入出力フィールドについて、前記絶対値が前記所定の誤差以下でない場合には、qを1増分し、前記第2のステップに戻り、前記絶対値が前記所定の誤差以下となるまで、前記第2のステップと前記第3のステップとを繰り返し行うことを特徴とする。
本発明により、従来の光導波路回路や平面ホログラフィック回路を用いた光回路よりも小型で、光の入出力を可能な限り自由に設定でき、さらに、緩やかな屈折率分布(小さな屈折率高低差)でも充分に高効率な光信号制御を可能とする導波回路を実現するための光(波動)伝達媒体を提供し、これにより、高効率で小型の光回路を実現することが可能となる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図面において同様の機能を有する箇所には同一の符号を付し、説明の重複は省略する。また、入力光と入力ポート、および、出力光と出力ポート、に同じ符号を用いる場合があり得る。
(基本概念:本発明のホログラフィック波動伝達媒体の基本概念)
以下に、本発明のホログラフィック波動伝達媒体に関する基本的概念について説明するが、この説明に際しては簡略化のために、ホログラフィック波動伝達媒体中を伝搬する「波動」は「光」であり、ホログラフィック波動伝達媒体は光回路として用いられているものと仮定する。しかしながら、本発明が基礎とする理論は、一般の波動方程式に基づいて、媒質の特性を指定するものであり、一般の波動においても原理的に成り立ち得るものである。よって、本発明は、広義の「電磁波」をホログラフィックに波動伝達させ得る媒体一般に応用可能であるのみならず、多体効果を無視できる電子波または巨視的にコヒーレンスを有する電子波にも適用可能である。よって、以下ではレーザ光のようなコヒーレンスを有する波動信号を光信号として記すが、波動信号には光信号の他に電磁波や電子波による信号をも含み得る。
また、本発明のホログラフィック波動伝達媒体は、単に狭義の光回路としてのみならず、分波器や合波器などのほか、ホログラフィックフィルタやホログラフィックレンズなどのホログラフィック光学素子の構成要素としても広範な利用が可能である。従って、本明細書中で用いられる「光回路」という文言は、本発明のホログラフィック波動伝達媒体の特性の理解の容易化のために用いられるものであり、ホログラフィック波動伝達媒体そのもの(若しくは一般的な導波回路)をも意味し得るものと解釈できる。
また、以下の説明では「屈折率」によって波動伝達媒質の性質を規定しているが、「屈折率」とはその文言の定義の通り一般的な平面状の波動の伝搬において波動を屈折させる割合(平面波の方向を偏向させる割合)を意味するものであり、波動信号に対する媒体の性質を規定するものである。例えば、光信号の場合は主に誘電率であり、電子波信号の場合は主に電界もしくは磁界によって物理的に規定される。
さらに、本発明の波動伝達媒体が「ホログラフィック」波動伝達媒体であるとされている意味は、波動伝達媒体による回路全体での大域的なレベルでのホログラフィックな制御が、局所的なホログラフィック制御とその集合(制御された多重散乱)により実現されているという点にある。より具体的には、本発明のホログラフィック波動伝達媒体とは、コヒーレンスな光のパターンを入力して所望の光のパターンとして出力させるために、この媒体中を伝搬する順伝搬光と逆伝搬光の位相差が媒体中の何れの場所においても小さくなるように屈折率を配置し、局所的なレベルでのホログラフィックな制御を多重に繰り返すことにより、大域的なホログラフィック制御を実現するものである。
図1(a)〜(c)は、本発明のホログラフィック波動伝達媒体の基礎となる基本概念と基本構造とを説明するための図である。まず、図1を参照して用語の説明をする。図1(a)中の1は光回路基板であり、1−1は本発明のホログラフィック波動伝達媒体により構成される光回路の設計領域である。光回路の一方の端面は入力光3−1が入射する入射面2−1であり、この入力光3−1はホログラフィック波動伝達媒体で構成された空間的な屈折率分布を有する光回路中を多重散乱しながら伝搬し、他方の端面である出射面2−2から出力光3−2として出力される。なお、本実施例では、ホログラフィック波動伝達媒体は誘電体からなるものと仮定し、空間的な屈折率分布はこの媒体を構成している誘電体の局所的な屈折率を後述する理論に基づいて設定することにより実現されるものとする。
入力光3−1が形成している「場」(入力フィールド)は、光回路を構成するホログラフィック波動伝達媒体の屈折率の空間的分布に応じて変調され、出力光3−2の形成する「場」(出力フィールド)に変換される。換言すれば、本発明のホログラフィック波動伝達媒体は、その空間的な屈折率分布に応じて入力フィールドと出力フィールドとを相関づけるための(電磁)フィールド変換手段である。なお、これらの入力フィールドおよび出力フィールドに対して、光回路中での伝搬方向(図中z軸方向)に垂直な断面(図中x軸に沿う断面)における光のフィールドをその場所(x,z)における(順)伝搬像(伝搬フィールドあるいは伝搬光)と呼ぶ(図1(b)参照)。図1(a)中の座標zは光の伝搬方向の座標(z=0が入射面、z=zeが出射面)であり、座標xは光の伝搬方向に対する横方向の座標である。
ここで、「フィールド」とは、一般に電磁場(電磁界)あるいは電磁場のベクトルポテンシャル場と呼ばれるものを意味している。本実施例の場合の電磁場の制御は、光回路中に設けられた空間的な屈折率分布、すなわち誘電率の分布を考えることに相当する。誘電率はテンソルとして与えられるが、通常は偏光状態間の遷移はそれほど大きくないので、電磁場の1成分のみを対象としてスカラー波近似しても良い近似となる。そこで、本明細書では電磁場を複素スカラー波として扱う。なお、光の「状態」には、エネルギ状態(波長)と偏光状態とがあるため、「フィールド」を光の状態を表現するものとして用いる場合には、光の波長と偏光状態をも包含し得ることとなる。
また、通常、伝搬光の増幅や減衰を生じさせない光回路では、屈折率の空間的分布を決めると、焦点以外の入力光3−1の像(入力フィールド)は、出力光3−2の像(出力フィールド)に対して一意的に定まる。このような、出射面2−2側から入射面2−1側へと向かう光のフィールドを、逆伝搬像(逆伝搬フィールドあるいは逆伝搬光)と呼ぶ(図1(c)参照)。このような逆伝搬像は光回路中の場所ごとに定義することができる。すなわち、光回路中での任意の場所における光のフィールドを考えたとき、その場所を仮想的な「入力光」の出射点として考えれば、上記と同様に出力光3−2の像に対して、その場所での逆伝搬像を考えることができる。このように、光回路中の各場所ごとに逆伝搬像が定義できる。ここで特に、単一の光回路において、出射フィールドが入射フィールドの伝搬フィールドとなっている場合には、光回路の任意の点での伝搬フィールドと逆伝搬フィールドとは一致する。なお、フィールドは一般には対象とする空間全体の上の関数であるが、「入射フィールド」あるいは「出射フィールド」という場合は、入射面あるいは出射面におけるフィールドの断面を意味している。また、「フィールド分布」という場合でも、ある特定の断面に関して議論を行う場合にはその断面についてのフィールドの断面を意味している。
屈折率分布の決定方法を説明するためには記号を用いるほうが見通しがよいので、各量を表すために以下のような記号を用いることとする。なお、本発明で対象とされる光(フィールド)は単一状態の光には限定されないので、複数の状態の光が重畳された光をも対象とされ得るべく、個々の状態の光にインデックスjを充てて一般的に表記する。
ψj(x):j番目の入射フィールド(複素ベクトル値関数であり、入射面において設定する強度分布および位相の分布、ならびに、波長および偏波により規定される)。
φj(x):j番目の出射フィールド(複素ベクトル値関数であり、出射面において設定する強度分布および位相分布、ならびに、波長および偏波により規定される)。
なお、ψj(x)およびφj(x)は、回路中で強度増幅や波長変換や偏波変換が行われない限り、光強度の総和は同じ(あるいは無視できる程度の損失)であり、それらの波長も偏波も同じである。したがって、
{ψj(x)、φj(x)}:入出力ペア(入出力のフィールドの組み)
は、入射面および出射面における、強度分布および位相分布ならびに波長および偏波により規定される。
{nq}:屈折率分布(光回路設計領域全体の値の組)。
与えられた入射フィールドおよび出射フィールドに対して屈折率分布をひとつ与えたときに光のフィールドが決まるので、q番目の繰り返し演算で与えられる屈折率分布全体に対するフィールドを考える必要がある。そこで、(x,z)を不定変数として屈折率分布全体をnq(x,z)と表しても良いが、場所(x,z)における屈折率の値nq(x,z)と区別するために、屈折率分布全体に対しては{nq}と表す。
ncore:光導波路におけるコア部分のような、周囲の屈折率に対して高い屈折率の値を示す記号。
nclad:光導波路におけるクラッド部分のような、ncoreに対して低い屈折率の値を示す記号。
ψj(z,x,{nq}):j番目の入射フィールドψj(x)を屈折率分布{nq}中をzまで伝搬させたときの、場所(z,x)におけるフィールドの値。
φj(z,x,{nq}):j番目の出射フィールドφj(x)を屈折率分布{nq}中をzまで逆伝搬させたときの、場所(z,x)におけるフィールドの値。
本実施例の屈折率分布の決定方法は、すべてのjについてψj(ze,x,{nq})=φj(x)あるいはそれに近い状態となるように{nq}を求める方法を与えるものである。
「入力ポート」および「出力ポート」とは、入射端面および出射端面におけるフィールドの集中した「領域」で、たとえば、その部分に光ファイバを接続することにより、光強度をファイバに伝搬できるような領域である。ここで、フィールドの強度分布および位相分布はj番目のものとk番目のものとで異なるように設計可能であるので、入射端面および出射端面に複数のポートを設けることが可能である。さらに、入射フィールドと出射フィールドの組を考えた場合、その間の伝搬により発生する位相が、光の周波数によって異なるので、周波数が異なる光(すなわち波長の異なる光)については、位相を含めたフィールド形状が同じであるか直交しているかの如何にかかわらず、異なるポートとして設定することが可能である。符号としては、入射ポート側にはアルファベットの大文字A、B、C、・・・を充て、出射ポート側にはアルファベットの小文字a、b、c、・・・を充てるものとする。
その他、α、γ、gやwは数値計算上の適当な係数であり、それらの程度については適宜文章中に示すこととするが、たとえば、通常の数値流体力学等で用いられる「スキームの安定性の議論」にしたがって、実際の数値計算では僅かに調整されるべきものである。
伝搬方向はz、伝搬方向に対して垂直な方向はxで表し、入射面2−1でのzの値を0、出射面2−2でのzの値をzeとする。後述するように、対象とする区別可能な光の状態に順次番号をつける。このとき、j番目の入射フィールドと、それに対応し出射させたい所望の出射フィールドをそれぞれψj(x)およびφj(x)とする。ここで、電磁界は実数ベクトル値の場で、かつ波長と偏光状態をパラメータとしてもつものとするが、その成分の値を一般な数学的取扱いが容易な複素数で表示して電磁波の解を表記する。また、以下の計算においては、フィールド全体の強度は1に規格化されているものとする。なお、j番目の入射フィールドや出射フィールドとは、フィールドの強度分布と位相分布あるいは波長や偏光により互いに区別される属性を有する光の組の要素に対して適当に順番をつけたものである。
図1(b)および図1(c)に示すように、j番目の入射フィールドψj(x)および出力フィールドφj(x)に対し、伝搬フィールドと逆伝搬フィールドをそれぞれ場所の複素ベクトル値関数として、ψj(z,x,{n})およびφj(z,x,{n})と表記する。これらの関数の値は屈折率分布{n}により変化するため、屈折率分布{n}がパラメータとなる。記号の定義により、ψj(x)=ψj(0,x,{n})、および、φj(x)=φj(ze,x,{n})となる。これらの関数の値は、入射フィールドψj(x)と出射フィールドφj(x)および屈折率分布{n}が与えられれば、ビーム伝搬法などの公知の手法により容易に計算することができる。これらの各フィールドの様子をより具体的な例を用いて説明すると以下のようになる。
図2は、従来のアレイ導波路格子回路の構成例を説明するための図で、光回路設計領域1−1には、2つのスターカプラ(光合分波器)4−1および4−2間に設けられたアレイ導波路5と、このアレイ導波路5の中央部に設けられた波長板6とが形成されている。この図に示したような波長多重通信における1×N波長分波器(Nは波長の数)を考えると、たとえば、1つの入力ポート3−1に対して、ほぼ同様なフィールド強度と位相分布をもつ入射フィールドで、波長λ1,λ2,λ3,・・・,λNの異なるN個の信号に番号をつけ、そのj番目の波長の光を所望の個別の出力ポート3−2から出力させる。このとき、光を分波するためには、導波路の出射面の断面におけるj番目の波長の光の強度および位相の分布は、独立な出射フィールドパターンとなっていることが求められ、これをj番目の出射フィールドと呼ぶ。分波された光を光ファイバへ出力させる場合を想定すれば、出力されるべきフィールドパターンは、独立した各々の出射フィールドが空間的に異なる場所となるフィールドの組となる。なお、与えられた入射フィールドの組を所望の出射フィールドで出力する光回路を構成するためには、入射フィールドあるいは出射フィールドのパターンは、その強度および位相の分布がj番目とk番目とで同一であってもよい。
以下に、空間的な屈折率分布を決定するための一般的なアルゴリズムを説明する。
図3は本発明のホログラフィック波動伝達媒体の空間的な屈折率分布を決定するための計算手順を説明するためのフローチャートである。この計算は繰り返し実行されるものであるので、繰り返し回数をqで表し、(q−1)番目まで計算が実行されているときのq番目の計算の様子が図示されている。
(q−1)番目の計算によって得られた屈折率分布{nq-1}をもとに、各j番目の入射フィールドψj(x)および出射フィールドφj(x)について伝搬フィールドと逆伝搬フィールドとを数値計算により求め、その結果を各々、ψj(z,x,{nq-1})およびφj(z,x,{nq-1})と表記する(ステップS220)。
これらの結果をもとに、各場所(z,x)における屈折率nq(z,x)を、次式により求める(ステップS240)。
nq(z,x)=nq-1(z,x)−αΣjIm[φj(z,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq-1})]・・・(1)
ここで、右辺第2項中の記号「・」は内積演算を意味し、Im[]は[]内のフィールド内積演算結果の虚数成分を意味する。なお、記号「*」は複素共役である。係数αはnq(z,x)の数分の1以下の値をさらにフィールドの組の数で割った値であり、正の小さな値である。Σjはインデックスjについて和をとるという意味である。
ステップS202とS204を繰り返し、伝搬フィールドの出射面における値ψj(ze,x,{n})と出射フィールドφj(x)との差の絶対値が所望の誤差djよりも小さくなると(ステップS203:YES)計算が終了する。
上式(1)のように屈折率nq(z,x)を求める根拠は下記のとおりであり、屈折率分布を最急降下法により求めることに対応している。
まず、屈折率分布{nq-1}により入射光が伝搬したフィールドψj(ze,x,{nq-1})と、最終的に得たい出力φj(x)との差が最小となるためには、残差R=Σj |φj(x)−ψj(ze,x,{nq-1})|2が最小となればよい。なお、φj(x)などはxの関数であることを表しており、特定のxの座標を意味するわけではない。また、各ペアごとに重みをつけてもよいが簡単のため全て同じ重みで和をとることとする。
ここでは、光のフィールドの重ね合わせが可能な範囲で考えており、フィールドの重なり積分により内積が定義される。この光フィールドの重ね合わせは有限のエネルギをもち、かつ、取り扱われるフィールドは空間的に有限な範囲に限定される。したがって、ここでいうフィールドはヒルベルト空間を形成し、光の伝搬は以下の性質を有するユニタリ変換として定義される。
具体的には、z0からzまでのユニタリ変換演算子Uとして、
ψj(z,x,{nq-1})=U(z,z0,{nq-1})ψj(z0,x,{nq-1})・・・(2)
が成り立ち、ここで、反射が無視できる程度であるとすると、伝搬過程の加法性から、
U(z,z0,{nq-1})=U(z,z1,{nq-1})U(z1,z0,{nq-1})・・・(3)
となる。
さらに、重なり積分により定義される内積に対してユニタリ性を有するから、
U(z,z0,{nq-1})*U(z,z0,{nq-1})=U(z,z0,{nq-1})-1U(z,z0,{nq-1})
=|U(z,z0,{nq-1})|2=1・・・(4)
となる。ここで、U(z,z0,{nq-1})*はU(z,z0,{nq-1})の自己随伴演算子である。また、U(z,z0,{nq-1})−1はU(z,z0,{nq-1})の逆演算子、つまり、逆方向の伝搬を与える演算子である。
z’とzの差(|z’−z|)が十分小さい範囲において、U(z',z,{nq-1})はビーム伝搬法などにおける丁度1ステップ分の変換をもたらす行列であると考えればよく、適当に伝搬方向を分割してこの演算を繰り返したものがU(z,z0,{nq-1})などであると考えればよい。
これらの結果を用いて残差Rを書き換えると、
R=Σj|φj(x)−U(ze,z',{nq-1})U(z',0,{nq-1})ψj(x)|2
=Σj|U(ze,z',{nq-1})|2|U(ze,z',{nq-1})-1φj(x)−U(z',0,{nq-1})ψj(x)|2
=Σj|U(ze,z',{nq-1})−1φj(x)−U(z',z,{nq-1})U(z,0,{nq-1})ψj(x)|2
=Σj|φj(z',x,{nq-1})−U(z',z,{nq-1})ψj(z,x,{nq-1})|2・・・(5)
となる。
|z’−z|→0の極限においては、特定のx座標の場所xにおけるU(z',z,{nq-1})の変化(δxU(z',z,{nq-1}))は、同じく特定のx座標の場所xにおけるnq-1(z,x)の変化(δxnq-1(z,x))と、
δxU(z',z,{nq-1})=−iκδxnq-1(z,x)・・・(6)
の関係を有する。なお、κは概ね真空中の伝搬定数程度の値で正数の適当な係数であるが、計算上他の係数と組み合わせるためここでは詳しく議論しない。
以上の結果より、特定のx座標の場所xにおける残差Rの変化(δxR))として、
δxR=Σj{−iκδnq-1(z,x)φj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})+c.c.}
=2κδnq-1(z,x)ImΣjφj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})・・・(7)
が得られる。
ここで、
δnq-1(z,x)=−αImΣjφj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1}) (α>0)・・・(8)
とすればδxR<0となり、この方向に変化させていけば極小値に向かうことになる。これが上式(1)の方向に屈折率分布を変化させる理由である。
以上の計算では、屈折率分布の初期値{n0}は適当に設定すればよいが、この初期値{n0}が予想される屈折率分布に近ければ、それだけ計算の収束は早くなる(ステップS200)。また、各jについてφj(z,x,{nq-1})およびψj(z,x,{nq-1})を計算するにあたっては、パラレルに計算が可能な計算機の場合は、jごと(すなわち、φj(z,x,{nq-1})およびψj(z,x,{nq-1})ごと)に計算すればよいので、クラスタシステム等を利用して計算の効率化を図ることができる(ステップS220)。また、比較的少ないメモリで計算機が構成されている場合は、式(1)のインデックスjについての和の部分で、各qで適当なjを選び、その分のφj(z,x,{nq-1})およびψj(z,x,{nq-1})のみを計算して、以降の計算を繰り返すことも可能である(ステップS220)。
以上の演算において、φj(z,x,{nq-1})の値とψj(z,x,{nq-1})の値とが近い場合には、式(1)中のIm[φj(z,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq-1})]は位相差に対応する値となり、この値を減少させることで所望の出力を得ることが可能である。
図4は上述した計算手順の理解を容易にするために、ホログラフィック波動伝達媒体中でのフィールドの様子の一例を示した図である。本発明のホログラフィック波動伝達媒体からなる光回路設計領域1−1の任意の位置(x,z)において、伝搬する光の波面に対して概ね平行でかつ概ね無視できる幅(Δz)を持った微小領域を仮定し、この微小領域の断面をXとする。なお、ここで「概ね無視できる幅」とは、屈折率分布をもたない媒体中を光がその距離Δzだけ伝搬したときに、伝搬光の位相がもとの波面と概ね同一であるような距離を意味している。断面Xよりも入射面2−1側にある光回路をA回路、出射面2−2側にある光回路をB回路とすると、断面XはA回路とB回路の界面となる。
いま、所望の各入出力の組を考えて、各組にj=1からNと番号を付け、j番目の組の入射フィールドψj(x)と出射フィールドφj(x)を仮定する。A回路に入射フィールドψj(x)を入力して伝搬させた場合の、界面Xにおける、導波光、回折光および散乱光の各々のフィールドの和はフィールドψj(zX,x,{nq})である。また、A回路中を伝搬する光の位相共役光として、出射フィールドφj(x)をA回路とは逆方向にB回路中を伝搬させた導波光、回折光および散乱光の各々のフィールドの和はフィールドφj(zX+Δz,x,{nq})である。これらのフィールドψj(zX,x,{nq})およびφj(zX+Δz,x,{nq})の位相差を、各組毎に平均(または重み付け平均)した値Pを求め、この位相差Pを、所望の屈折率の範囲において可能な限り打ち消すように界面X上での屈折率分布を決定する。このような屈折率分布は界面X毎に定まるから、界面Xの位置をz軸上で0(入射面)からze(出射面)まで変化させて演算を実行することとすれば、ホログラフィック波動伝達媒体全体の屈折率分布が定まることとなる。
本発明における屈折率の空間的分布の決定は、ホログラフィック波動伝達媒体に2次元的な仮想的メッシュを定め、このメッシュによって画定される微小領域(カラム)の屈折率を各カラムごとに決定するものとも言い換えることが可能である。このような局所的な屈折率は、原理的には、その場所ごとに任意の(所望の)値とすることが可能であるが、基も単純な系は、低屈折率(nL)を有するカラムと高屈折率(nH)を有するカラムのみからなる系であり、これら2種のカラムの空間的分布により全体的な屈折率分布が決定される。この場合、媒体中の低屈折率カラムが存在する場所を高屈折率カラムの空隙として観念したり、逆に、高屈折率カラムが存在する場所を低屈折率カラムの空隙として観念したりすることが可能である。すなわち、本発明のホログラフィック波動伝達媒体とは、均一な屈折率を有する媒体中の所望の場所(カラム)をこれとは異なる屈折率のカラムで置換したものと表現することも可能である。
上述した屈折率分布決定のための演算内容を要約すると次のようになる。すなわち、波動をホログラフィックに伝達させ得る媒体(光の場合には誘電体)に入力ポートと出力ポートとを設け、入力ポートから入射した伝搬光のフィールド分布1(順伝搬光)と、入力ポートから入射した光信号が出力ポートから出力される際に期待される出力フィールドを出力ポート側から逆伝搬させた位相共役光のフィールド分布2(逆伝搬光)と、を数値計算により求める。そして、これらのフィールド分布1および2をもとに、伝搬光と逆伝搬光の各点(x,z)における位相差をなくすように、媒体中での空間的な屈折率分布を求める。なお、このような屈折率分布を得るための方法として最急降下法を採用すれば、各点の屈折率を変数として最急降下法により得られる方向に屈折率を変化させることにより、屈折率を式(1)のように変化させることで上記2つのフィールド間の差を減少させることが可能となる。そして、このようなホログラフィック波動伝達媒体を、入力ポートから入射した光を所望の出力ポートに出射させる光部品に応用すれば、媒体内で生じる伝搬波同士の多重散乱による干渉現象により、実効的な光路長が長くなり、緩やかな屈折率変化(分布)でも充分に高い光信号制御性を有する光回路を構成することが可能となる。
いわゆるステップインデクス型の光回路の場合には、屈折率の取り得る値が限られているため、上述した式(1)に基づいて光回路が設計可能か否かは自明ではない。しかし、屈折率の取り得る値が限られている場合であっても、局所的な屈折率の調整を繰り返すことにより、光の位相を大域的に調整することが可能である。したがって、光回路を構成する誘電体の屈折率の上限値とこの上限値に至る有限個の屈折率値とを有するステップ状の屈折率分布を仮定し、これらの屈折率を制限値として光回路の屈折率分布を計算することで光回路を設計することは可能である。本実施例ではこのような考えに基づいて光回路を設計する。
本実施例においてはこれを、ステップインデクス型平面光導波路と同様の構造の光導波路であって、かつ、その導波路のコアが光回路設計領域においてドット状にパターン化されている構造を有する光導波路に適応し、1.31μmと1.55μmの波長分割フィルタを設計した。
本実施例では、石英の光導波路が想定されている。また、屈折率の空間的分布を計算するにあたっては、コア(高屈折率部分)の屈折率とクラッド(低屈折率部分)の屈折率の2種類のみを考えることとし、これらの2種類の屈折率を光回路設計領域内で分布させて得られる屈折率分布を計算することとした。
また、図3を用いて説明した屈折率分布算出のアルゴリズムでは、パラメータである屈折率値は自由な値を取り得るものとしているが、ここでは、次式(9)で与えられるvqなる値を計算し、このvq値から次式(10)および(11)により屈折率を求めることとした。
vq(z,x)=vq-1(z,x)−αΣjIm[φj(z,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq-1})]・・・(9)
vq(z,x) > (ncore+nclad)/2のときはnq(z,x)=ncore・・・(10)
vq(z,x) < (ncore+nclad)/2のときはnq(z,x)=ncladd・・・(11)
ここで、ncoreはコアに相当する屈折率、ncladはクラッドに相当する屈折率である。したがって、光回路設計領域内での屈折率分布は、これらの2種類の屈折率を空間的に分布させて得られることになる。なお、一般には、ncore > ncladの関係が成立する。このような計算によっても、以下に示すように、十分に所望の光出力を得ることが可能な光導波路を設計することができる。さらに、簡単化のために、上記2種類の屈折率のうち、コアのパターンに相当する屈折率(ncore)を有効屈折率とし、進行方向1次元、横方向1次元として計算した。
図5(a)および図5(b)は、本実施例における光回路設計の設定を説明するための図である。まず、入力ポート3−1から入力させた偏波多重された光を出力ポート3−2から出力させることとして屈折率分布を調整することにより、図5(a)のように、波長1.31μmの入射フィールドψ1(x)と出射フィールドφ1(x)(すなわち、上記の記号でj=1)の組と、図5(b)のように、波長1.55μmの入射フィールドψ2(x)と出射フィールドφ2(x)(すなわち、上記の記号でj=2)の組を設定した。フィールドは入射面2−1と出射面2−2の全域について定義されるものであるが、この図では理解の容易化のために、フィールド強度が集中している部分のみを図示している。このような入射/出射フィールドの組{ψj(x),φj(x)}を、以降、入出力ペアと呼ぶ。
図6(a)および図6(b)は、本実施例による屈折率分布(図6(a))と透過スペクトル(図6(b))を説明するための図である。上記のアルゴリズムにしたがって屈折率を計算する約200回の繰り返しにより、図6(a)に示した屈折率分布を有する光回路が得られる。ここで、図中の光回路設計領域(1−1)内の黒色部分(1−11)はコアに相当する高屈折率部(誘電体多重散乱部)であり、黒色部以外の部分はクラッドに相当する低屈折率部である。クラッドの屈折率としては石英ガラスの屈折率を想定しており、コアの屈折率は、石英ガラスに対する比屈折率が1.5%だけ高い値を有するものとしている。また、光回路のサイズは縦300μm、横140μmである。
屈折率分布を求める際の計算に用いられたメッシュは140×300(=42000)である。従って、屈折率分布のパラメータ数は42000となるから、これらのパラメータを最適化する必要がある。最急降下法を単純に適用して、これらの各々のパラメータについて1つずつ数値微分を求めることでパラメータを最適化する場合には、1ステップ分の計算を実行するのに42000の光の伝搬を計算する必要がある。これに対して、本実施例では2回の光の伝搬を計算するだけで足りるため、実用上妨げとならない短時間の計算で光回路の設計が可能となる。
このようにして設計された光回路の透過スペクトルは図6(b)のようになり、波長1.31μmの光が出力ポートaから出力される一方、波長1.55μmの光が出力ポートbから出力される特性を示す。すなわち、波長による分波器が形成されていることがわかる。なお、図5(a)および図5(b)に図示した光の入力方向と出力方向とを逆転させ、上記2つの波長の光の各々を出力ポートaおよびbから入力しこれらの光を合波して入射面2−1から出力させることも可能であるから、合波器としても動作させることができる。つまり、本実施例で説明した光回路は、光の波長による合分波器としての作用を奏することが分かる。
ところで、光回路としての機能を担保するためには、光回路内を伝搬する光がその光回路内で十分に閉じ込められることが必要である。図6(a)に示した屈折率分布では、高屈折率部であるコアは光回路設計領域内でドット状に分布しており、基板の厚み方向での光の閉じ込めが不十分になることが懸念される。
そこで、高屈折率部を2つの高屈折率部(第1の高屈折率部と第2の高屈折率部)で構成することとし、この高屈折率部が低屈折率部で上下から挟まれている構造の光回路を想定し、その屈折率分布を求めた。
図7(a)は、平面光波回路状の屈折率分布を有し、かつ、基板垂直方向での光閉じ込め可能な光回路の断面概念図であり、この光回路の高屈折率部1−11は、2つの高屈折率部(第1の高屈折率部1−11aと第2の高屈折率部1−11b)で構成され、第2の高屈折率部1−11bは第1の高屈折率部1−11aよりも高い屈折率を有している。そして、高屈折率部1−11が上下の低屈折率部1−12で挟まれて光回路が構成されている。なお、この光回路において所謂「コア」として作用するのは第2の高屈折率部1−11bであり、第1の高屈折率部1−11aは、このコア中を伝搬する光を基板の厚み方向(垂直方向)に閉じ込めるためのものである。なお、この図において、低屈折率部1−12と第1の高屈折率部1−11aの比屈折率差、および、第1の高屈折率部1−11aと第2の高屈折率部1−11bの比屈折率差は、各々1.5%として計算を行っている。図7(a)の右側には光回路の垂直方向での有効屈折率プロファイルが、下側には高屈折率部1−11における水平方向での有効屈折率プロファイルが示されている。
このような構造の光回路によれば、コアである第2の高屈折率部1−11bの周りに設けられた第2の高屈折率部1−11aによって、基板厚み方向での光閉じ込めが容易に実現できる。
このような光回路に光入出力部を設けるに際しては、第1の高屈折率部1−11aで光をガイドする場合(図7(a))と第2の高屈折率部1−11bで光をガイドする場合(図7(c))とが考えられる。また、第1の高屈折率部1−11aおよび第2の高屈折率部1−11bの各々の形状を最適化したりこれらを組み合わせたりすることにより、フィールド径の調整を行って光ファイバとの光結合の最適化が可能となる。
なお、出力フィールドは複素数値で計算されるから、出力フィールドの位相を求めることも可能である。従って、例えば、上述の光回路と無反射コートを施した半導体光アンプとを組み合わせて外部共振器レーザを作製する場合などのように、光の位相の調整も必要とされる場合にも、上述の光フィールドの計算手順は適用可能である。
これまで説明してきた光フィールドの計算にはビーム伝搬法を用いたが、演算に用いるコンピュータのメモリ容量が十分な場合には時間領域差分法を用いて計算してもよい。一般に、ビーム伝搬法は直線的な方向への光出力を計算するため、出力ポートの位置が限定される。例えば、本実施例の場合には、入射面の対向面を出射面とした。これに対して、時間領域差分法を用いて計算すれば、出力ポートの位置は自由に選択可能となるから、急激な屈曲を有する光路を備えた構成の光回路などを容易に設計することができる。このことは、以下の実施例においても同様である。また、このような回路を方向性結合器の組み合わせによって実現しようとすると、方向性結合器部分だけでも数百μmの光回路部分を要することとなるのに対して、上述の方法によれば数分の1程度の大きさの光回路構成とすることができて小型化を図ることが可能となる。
本実施例は、実施例1で説明した光回路と同じ光回路を、以下のような屈折率分布の計算方法に基づいて設計したものである。この概要を再度図1を参照して簡単に説明すると、先ず、適当な屈折率分布{n}を与えてこれに対応する入力光のフィールド分布1:ψj(z,x,{n})を求め、出力ポートから出力される出力光として期待されるフィールドの逆伝搬光(フィールド分布2:φj(z,x,{n}))を入射面2−1に向けて仮想的に伝搬させながら逐次求める。図4を例に説明すると、ある場所z=zXでのフィールド分布1の断面ψj(zX,x,{n})の位相とフィールド分布2の断面φj(zX+Δz, x,{n})の位相が互いに整合するように屈折率分布を変更し、変更後の屈折率分布を用いて、(zX+Δz)からzXまでのフィールド分布2の断面φj(z, x,{n}) (z= zX+Δz〜zX)を求め直す。(zX-Δz)を改めてzXとして同じ操作を逐次的に繰り返す。フィールド分布2の断面が入射面2−1に達した時点で、今度は逆に、入力光のフィールド分布1の断面を伝搬方向に仮想的に伝播させ、上記と同様に、フィールド分布1の断面とフィールド分布2の断面とを位相整合させながら屈折率分布を逐次決定し、フィールド分布1の断面が出射面2−2に達するまで計算を実行する。
この手順を1つのルーチンとして、再度このルーチンを繰返し、フィールド分布2およびフィールド分布1を相互に逆伝搬または順伝搬させながら屈折率分布を逐次改め直し、入射フィールドψjが出射面2−2まで伝搬した結果出力される出射フィールドφj(x)と、所望の出射フィールドとが、所望の誤差以下となるまで上記の計算を繰り返す。
後述するように、このような手順を採用することにより、光回路の設計に要する時間が短縮され、大規模光回路の設計も現実的な時間と手間の下で可能となる。
まず、アルゴリズムについて説明する。
図8は、本実施例の光回路設計のフローを簡単に示したフローチャートである。式(1)で用いた記号と同じ記号を用いて、
nq(z+dz,x)=-γΣjarg[φj(z+dz,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq})]・・・(1’)
n q (z-dz,x)=-γΣjarg[φj(z,x,{n q })*・ψj(z-dz,x,{n q−1 })]・・・(1'')
とする。ここで、係数γは、(2k0dz)-1程度の値を入出力ペアの数で割ったものであり、k0は真空中の波数で、考えている入力信号の平均の波数程度である。ここで、波数「程度」としている理由は、比有効屈折率程度の変化があるという意味である。
式(1')および式(1”)は、式(1)のImΣjφj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})が、極小点において丁度位相差がなくなるべきであることを意味しており、これをもとにarg[φj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})]が減少するように屈折率を配置することを意味している。特に、位相差が小さい場合は、振幅を除いてImΣjφj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})と、arg[φj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})]と、は等価になるので、arg[φj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})]をImΣjφj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})としてもよく、これは場所ごとのフィールドの強度で重み付けして屈折率を変更することに対応する。以下では簡単のためarg[φj(z',x,{nq-1})*ψj(z,x,{nq-1})]を用いることとする。
式(1')の意味は、φj(z,x,{nq-1})が全域で与えられているとして、求めたnq(z,x)をもとにψj(z,x,{nq})を求め(ステップS670)、このψj(z,x,{nq})をもとに、さらに、座標zから微小距離dzだけ進んだ点(z+dz)においてnq(z+dz,x)を決める(ステップS680)ということである(ステップS655)。ここで、記号「・」は内積演算を表し、arg[]はその偏角で、記号「*」は複素共役を意味する。
また、式(1'')の意味は、ψj(z,x,{n q−1 })が全域で与えられているとして、求めたn q (z,x)をもとにφj(z,x,{n q })を求め(ステップS620)、座標zからdzだけ戻った点(z-dz)においてn q (z-dz,x)を求める(ステップS630)ということである(ステップS605)。
式(1')の算出(ステップS655)と式(1'')の算出(ステップS605)を交互に繰り返す(ステップS697)ことにより屈折率分布の計算を計算終了(ステップS695:YES)まで実行する。
本実施例の計算においては、微小距離dzでフィールド分布1の断面とフィールド分布2の断面とを位相整合をさせることとしており、実際の計算では周期の短い振動が発生してしまい結果として大きな計算誤差を生じることとなる。そこで、係数γに適当な稀有数gをかけて、両者の積(g・γ)が(2k0dz)-1の数分の1以下の値となるようにする。また、フィールドの位置についても、完全なz+dzではなく、その途中の値としたり、あるいは、nq(z+dz,x)が位置zと位置z+2dzの屈折率の中心値となる位置(z+wdz)(0≦w≦2)としたりする。このような工夫により、
nq(z+dz,x)=(1-g)nq-1(z+dz,x)
-gγΣjarg[φj(z+wdz,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq})]・・・(1''')
nq+1(z-dz,x)=(1-g)nq(z-dz,x)
-gγΣjarg[φj(z,x,{nq+1})*・ψj(z-wdz,x,{nq})]・・・(1'''')
として上式(1')および(1'')を修正する。そして、稀有数gを0<g≦1の範囲のパラメータとして、その加重平均により、短周期の振動を抑制する処方を採用する。本実施例では、w=1とし、g=0.25とした。また、屈折率分布は実施例1と同様のステップインデックス型を想定し、同様の離散化の処方をとった。なお、本実施例の光回路としては実施例1と同じものを設定した。
ここで、図9(a)に示すように、このアルゴリズムにおいて、計算を実行するためには、以前のフィールドのデータが必要である。ここで、以前の伝搬させたフィールドのデータを保存しようとすると大量の記憶領域を必要とする。例えば1000μm×1000μmの領域を0.1μmピッチの均等メッシュで計算する場合、単純な一組のフィールドペアだけでも倍精度実数値で複素数値として2×8×108の=1.6Gbyte必要となり計算が困難となる。そこで、図9(b)にあるように、一度伝搬させたフィールドを逆方向に伝搬させることで、丁度途中まで伝搬させたのと同じになることを利用して、波面の部分だけのメモリで済むようにした。
具体的には図9(c)にあるように逆方向に伝搬させたφj(z=0,x,{nq-1})を初期値として順方向に伝搬させたf(z,x, {nq-1};φj q-1)をφj(z,x,{nq-1})として用い、ψj(z=ze,x,{nq-1})を初期値として逆伝搬させたg(z,x,{nq-1};ψj q-1)をψj(z,x,{nq-1})として用いることによって波面2つ分だけのメモリで計算することができる。この計算は図8のアルゴリズムにあるようにフィールドを計算領域の両端まで計算することになるので今度はそれを初期値として反対方向に伝搬させればよい。この方法は計算量が2倍になるため計算が遅くなるが状況に応じてメモリに一度保存する方法と使い分ければよい。
図10(a)および図10(b)は、実施例1と実施例2での計算の収束の様子を示した図で、図10(a)および図10(b)は、各々、実施例1および実施例2における、計算の繰返し回数に対する所望の出力ポートへの透過率(dB)と他の出力ポートへの漏話(dB)を表示している。これらの計算の繰り返し回数は、図3および図8に示したループの繰り返し数に相当しており、概ね同等の計算量になっている。
図10(a)および図10(b)の両方のグラフの比較からわかるように、実施例1で採用した計算方法では収束までに200回程度の繰返しを要しているのに対し、実施例2で採用した計算方法では数回の繰返しで収束している。すなわち、実施例2で採用した計算方法は、実施例1で採用した計算方法に比較して数十倍速く収束する。このため、実施例2で採用した計算方法を比較的大規模な光回路の設計に適用することが可能である。
図11(a)および図11(b)は、本実施例の光回路の屈折率分布(図11(a))と透過スペクトル(図11(b))を説明するための図である。この光回路の透過スペクトルも、図6(b)同様に、波長1.31μmの光が出力ポートaから出力される一方、波長1.55μmの光が出力ポートbから出力される特性を示しており、波長による分波器(および合波器)が形成されていることがわかる。
図11(a)に示した本実施例の光回路の屈折率分布は、図6(a)に示した実施例1の光回路の屈折率分布と比較して、高屈折率部1−11が比較的一様に分布している。このため、有効屈折率は一様化傾向が強くなり、光回路設計領域1−1での基板の厚み方向の有効屈折率の一様性が増大し、この方向での光閉じ込めムラが減少する。すなわち、基板厚み方向への光の散逸を抑制することが可能となり、図7(a)で示したような2つの高屈折率部分を用いて屈折率分布を設定しなくても、単一の高屈折率部1−11のみで光閉じ込めが可能な光回路を実現することが可能となる。
特に、屈折率分布を計算する際の初期の屈折率分布として、メッシュにより画定される各カラムの屈折率が空間的にランダムに分布するように設定することにより、計算により求められる最終的な屈折率分布がよりいっそうランダム分布となり、単一の高屈折率部のみを備えた構造により光回路を実現するのに適した屈折率分布を実現できる。
本実施例では、1.53μm、1.54μm、1.55μmおよび1.56μmの4つの波長を分波および/または合波する波長多重合分波回路の設計方法について説明する。
図12(a)および図12(b)は、本実施例の4波長分波器の光回路設計のための条件設定を説明するための図で、図12(a)は入力光の偏光状態がTEモードのみの設定の場合、図12(b)は入力光の偏光状態のTEモードにTMモードを加えた設定の場合について説明している。
先ず、TEモードのみの設定の場合は、図12(a)に示すように、入力ポート3−1から波長多重された光を入力し、複数個設けられた出力ポート3−2の各々のポートからそれぞれに異なる波長の光を出射させる。すなわち、入射面2−1には1つの入力ポート3−1を設け、出射面2−2にはa、b、cおよびdの4つのポートを設定する。入力ポート3−1からは1.53μm、1.54μm、1.55μmおよび1.56μmの4つの波長が合波された光を入射し、出力ポート3−2のポートa、ポートb、ポートcおよびポートdから、それぞれ、1.53μm、1.54μm、1.55μmおよび1.56μmの波長の光を出力させる。したがって、屈折率分布を計算する際のフィールドの組み合わせは、4つの出力ポート(a、b、cおよびd)各々の1.53μm、1.54μm、1.55μmおよび1.56μmの波長の光のフィールドと、多重合波された入力光のフィールドと、の組み合わせ(計4組)となる。
図13(a)および図13(b)は、本実施例で計算した光回路の透過損失スペクトラム(透過率(dB))を説明するための図で、図13(a)は入力光の偏光状態がTEモードのみの設定の場合(図12(a)の条件に対応)であり、図13(b)は入力光の偏光状態のTEモードにTMモードを加えた設定の場合(図12(b)の条件に対応)である。
入力光のフィールドを、基板1に対する偏光状態をTEモードとして条件設定すると、出力ポート3−2から出力される出力光のスペクトルは図13(a)のようになる。この図では、TEモードの光を太線で表し、TEモードと直交する偏波状態であるTMモードの光を細線で表している。偏波状態ごとにスペクトルを計算しているのは、光回路中を伝搬する光が感じる実効的な屈折率が、TEモードとTMモードとでは僅かに異なるためである。そこで、本実施例では、入力ポート3−1から入力する4つの波長の光の各々を、TEモードの光とTMモードの光の偏波多重光とし、同一の波長を有するTEモードの光とTMモードの光を同一の出力ポート(a、b、cまたはd)から出力させることとし、波長別の4組のフィールドの各々を偏波状態ごとに2組に分類して計8組の入出力ペアを設定して屈折率分布を調整することで波長多重の分波回路設計を行った(図12(b))。
このような方法によれば、図13(b)に示すように、偏光状態の相違に起因する透過損失の違いを低減できる。尚、あえて図示することはしないが、図12(b)に示した設計条件の変形として、入力ポートからは偏波多重された光を入力し、各偏波ごとに異なる出力ポートを指定して出力させるように屈折率分布を調整するようにしてもよい。
上述したように、波長と偏光状態とをパラメータとして入射/出射フィールドの組を設定することとすれば、偏光無依存の光回路や偏光依存の光回路が自由に設計できる。また、基板のもつ複屈折をパラメータとして計算に取り込むことで、偏波依存性を取り除くことも可能となる。
従来の石英系の光導波路を用いたアレイ導波路格子で同等の機能を有する光回路を構成する場合には、アレイ導波路の本数を十分多数に設けるためにはスターカプラの部分だけでも数mmの長さを必要とすることに加え、アレイ導波路も湾曲させる必要がある。このため、光回路の大きさが数mm角以上(典型的には1cm角以上)のものとならざるを得ない。さらに、偏波依存性をなくするために光回路内に波長板を挿入して設ける場合もあり得る。これに対して、本実施例の光回路設計によれば、従来の光回路の100分の1以下の大きさで、同等の機能の光回路を構成することが可能となる。
本実施例は光波長帯域透過回路を構成した例である。
図14(a)および図14(b)は、本実施例の光回路設計のための条件設定を説明するための図で、図14(a)は単純なバンド透過フィルタを設定した場合、図14(b)はバンド整形用のダミーポートを設けた場合の図である。なお、これらの光回路の全長は1500μmである。
また、図15(a)および図15(b)は、各々、図14(a)および図14(b)に示した条件設定の下で調整された光回路の出力ポートから出力される出力光の透過損失のスペクトラムである。
図14(a)に示した条件設定においては、入力ポート3−1から、1.530μm、1.535μm、1.540μm、1.550μm、1.555μmおよび1.560μmの6つの波長の光を波長多重光として入力し、10μm離間して設けられた出力ポート3−2の2つのポート(aおよびb)において、1.530〜1.540μm帯域の光をポートaに、1.550〜1.560μm帯域の光をポートbから出力させるように、各波長の光の位相を調整して所望の分散特性を実現している。
計算方法には実施例2で説明した方法を採用し、実施例3と同様の分解能と回路規模を仮定している。この場合、図13(a)および図13(b)で示したように、1波長についてのフィールドの組を設定した場合の3dB減衰波長帯域幅は片側約5nmであることから、波長の間隔を5nmとし、上記6つの波長の各フィールドの組を得ようとする透過帯域に一様に分布させた。上記の計算方法で求めた透過損失スペクトルは、図15(a)に示すように概ね矩形状となるが、短波長領域の透過を十分に抑制するには至っていない。そこで、図14(b)に示すように、出力側にもう1つのポート(ポートc)をポートaと10μm離間して設けることとし、このポートcをバンド整形用のダミーポートとして用い、このダミーポートから1.510μm、1.515μmおよび1.520μmの3組の光信号を出力させることとして計算を実行した。
このようなダミーポートを設けると、図15(b)に示す透過スペクトルが得られ、短波長領域においても光の透過を十分に阻止することが可能となり、ポートaおよびポートb(ならびにポートc)から出力される各スペクトルが矩形状となる透過フィルタを得ることが可能となる。
本実施例は、実施例4と同様に、光波長帯域透過回路の構成例である。なお、波長や領域の大きさ(光回路全長600μm)のパラメータを、実施例4とは変えている。また、上記実施例1〜4では入力フィールドと出力フィールドを場所(光回路設計領域内での位置)の実数値ベクトル関数としたのに対して、本実施例においては複素数値ベクトル関数として計算を実行している。具体的には、光回路の出力ポートを複数(ポートa、ポートbおよびダミーポートc)設け、これらの出力ポートから平面波的な(すなわち位相分布のない)フィールドを出力させる場合において、互いに隣接する出力ポートから出力される光(出力フィールド)が異なる位相を有するように条件設定されている。すなわち、ポートaとポートbのフィールドは一様な複素数値をもち、かつ、位相差をもつように設定されている。
図16(a)および図16(b)は、本実施例の光回路の設定条件とその光回路の透過損失のスペクトラムを説明するための図である。図16(a)に示すように、入力ポート3−1から、1.510〜1.560μmの波長範囲にあって互いに10nmの波長差を有する光(波長10nm間隔)を入力し、出力ポートaから1.530μm、1.535μmおよび1.540μmの光を、出力ポートbから1.550μm、1.565μmおよび1.560μmの光を、そして、ダミーポートcからは1.510μm、1.515μmおよび1.520μmの光を、それぞれ出力させる。なお、ポートaとポートbとは7μm離間され、ポートaとダミーポートcとは10μm離間されて設けられている。
ここで、入力ポート3−1から入力される光との位相差を、ポートaでは0、ポートbではπとした。また、ポートaとポートbとの間隔を7μmと極端に近づけた。これにより、ポートaに出力されるべき光がポートbに漏話したり、ポートbに出力されるべき光がポートaに漏話することを抑制することができる。これは、入力ポート3−1から入力される光との位相差をポートaとポートbとで同じとした場合には、ポートaおよびポートbにおいて漏話光と非漏話光とが共にほぼ同じ位相となるために、漏話光が信号光と同じように集光され、その結果、漏話光が大きくなるのに対して、入力ポート3−1から入力される光との位相差をポートaとポートbとで異なるように設定する上述した本実施例の場合には漏話光同士が干渉して、各ポートへの漏話光の集光が抑制されるためである。
図16(b)中の実線は、ポートaとポートbから出力されるフィールドの位相に位相差πを設けた場合のスペクトルであり、破線は、ポートaとポートbから出力されるフィールドの位相に位相差πを設けない(位相差0)場合のスペクトルである。この図に示すように、何れの場合もポートaおよびポートbから出力される光のスペクトルが矩形状となる透過フィルタを得ることが可能となるが、上述のようにポートaとポートbから出力されるフィールドの位相に位相差πを設けた場合には、位相差を設けない場合に比べて漏話が抑制され、より急峻な矩形フィルタが得られている。
本実施例の結果は、各チャンネルに対して位相パラメータを設定するだけで、出力光の位相を制御することが可能であることを示している。なお、このような位相関係は出力ポート間だけではなく入力ポートとの間にも設定され得るものであるから、これらのポート相互間での位相制御により、外部の他の導波路回路などと本光回路とを組み合わせてMach-Zehnder(MZ)干渉回路などを構成することが可能である。
図17(a)〜(d)は、本実施例の光回路の入出力ペアの設定(図17(a))、1.55μmの出射フィールド分布の設定(図17(b))、ならびに、ポートaおよびポートbから入力光を入力させた場合の各々の出力光の透過損失スペクトラム(図17(c)および(d))を説明するための図である。
この実施例の光回路は、図17(a)に示すように、入力ポート3−1として2つのポート(ポートAおよびポートB)を設け、ポートAから1.29μm、1.30μm、1.31μmおよび1.32μmの4つの波長の波長多重光を入力して出力ポート3−2として設けられた4つのポート(a、b、cおよびd)から上記4つの波長の光を分波して出力させるとともに、ポートBから入力した1.55μmの光をこれら4つの出力ポート(a、b、cおよびd)に分配して出力する光回路である。
このような光回路は、例えば次のような用途に用いることができる。配信距離が異なる場所に設置された4つの端末に1つの基地端末から光ファイバを接続し、データ通信用として1.29μm、1.30μm、1.31μmおよび1.32μmの波長の光を充てて、かつ、1.55μmの光を分配して一斉に配信するような場合を想定すると、4つの端末に接続されている光ファイバに1.55μmの波長の光を均等分配するよりも、各光ファイバの損失に応じて1.55μmの光を分配することにより、配信距離が異なる端末に対しても同等の光信号強度で送信することが可能となる。
本実施例においては、このような状況を設定して、図17(b)に示すように、1.55μmの光を、ポートaとポートcには1/6ずつ、ポートbとポートdには1/3ずつ、の強度比となるように分配することとしている。すなわち、強度が互いに相違する4つのポート(a、b、cおよびd)のフィールド分布の重ね合わせにより出射面2−2における出射フィールドの強度分布を求めることとして、実施例2で説明した手順で計算を実行した。なお、1.29μm、1.30μm、1.31μmおよび1.32μmの波長の光については、実施例3と同様に、各波長毎に4つのフィールドの組を設定している。
図17(c)に示したスペクトラムによれば、入力ポートAから入力された波長多重光は、各々の波長に応じて分波され、これらの光の各々が4つの出力ポート(a、b、cおよびd)から出力されていることが分かる。
また、図17(d)に示したスペクトラムによれば、入力ポートBから入力された波長1.55μmの光は、ポートaおよびポートcには概ね1/6(=8dB)、ポートbおよびポートdには概ね1/3(=5dB)の割合で分配されているのが分かる。
このように、本実施例の回路設計方法を用いることにより、容易に光分配回路を設計することが可能である。なお、当然のことではあるが、この光回路に逆向きに光を入射させることとすれば光合波も可能であるから、光合波回路の設計も可能である。
また、本実施例の光回路は、光回路設計領域に1つの屈折率分布を与えることで、波長分波器と光分配器という2つの機能を有する回路を実現している。このように、本発明によれば、異なる機能(を有する領域)を同一の光回路設計領域上に設けることが可能であるから、極めて容易に集積化することができる。
本実施例では、伝搬光の反射をも考慮した光回路の設計方法について説明する。光回路中の光には、多重散乱しながら進行する伝搬波だけではなく反射波も存在し得るから、この反射波の存在も考慮してフィールド設定することにより、特性のより優れた光回路を実現することが可能である。
反射現象をも考慮した場合のフィールドの伝搬は、「伝搬行列」によって記述可能であり、この伝搬行列は、入射(波)成分と反射(波)成分に対する行列の形で与えられ、その行列の形としては、例えば、非特許文献3などに記載がある。なお、この伝搬行列は、既に(基本概念)で説明した「ユニタリ変換」に相当する。
図18は、反射成分をも考慮する際の伝搬行列の取扱いの概要を説明するための図で、光回路中の微小部分のみに着目して図示した図である。
非特許文献3によれば、位置(x,z)における屈折率n(x,z)についての偏微分方程式である次式(12)
を形式的に解き、演算子
を定義して、j番目のz位置の演算子として
を用いて表記すると、
で与えられる
が伝搬行列である。
式(15)で用いた記号uinおよびuoutの各々は、図18に示した光回路の微小部分の入力面2−1(in)および出力面2−2(out)におけるフィールドを意味しており、zjまたはzj−1は、この光回路の微小部分が、光回路設計領域の全体に仮想的に設けたメッシュにより画定されたj番目または(j−1)番目の層のz位置を意味している。すなわち、図18中の入力面2−1および出力面2−2は、この微小領域の入力面および出力面なのであって、光回路全体の入力面および出力面を意味するものではないことに注意されたい。なお、添字の+または−は、それらのフィールドの入射成分(+)または反射成分(−)であることを意味している。
ここで、
の関係がある。
本発明においては、反射成分を予め与えることとし、次式(20)
の左辺を(j+1)番目の層までの逆伝搬光φ(zj+1)、右辺を(j−1)番目の層までの伝搬光ψ(zj−1)と考えて、
で与えられる「屈折率」(屈折率に相当する演算子)を調整することで、所望の機能を有する光回路を得る。
例えば、各層間の界面での反射が弱い場合には、
が良い近似で成り立つから、
と近似できる。
そして、
は、反射が全く無い状態での光の伝搬を与える演算子であるから、これまでの実施例で説明してきた2つの方法と同様の設計方法により光回路設計を行うことができる。
すなわち、入力面から入力される入射波と、入力面側へ向かう反射波と、を設定し、さらに、出力面から出力される出力波を設定する。そして、光回路設計領域の各点において、伝搬方向(すなわち入力面2−1から出力面2−2に向かう方向)に進むフィールドと、反射方向(すなわち出力面2−2から入力面2−1に向かう方向)に進むフィールドと、を仮定して、実施例1と同様の手順により計算を実行すればよい。なお、因果律によれば、出力面側に向かう反射波は発生しないはずなのでゼロであるが、光回路の途中では出力面側へ向かう反射波成分も存在し得る。
一般に、光回路中での空間的な屈折率変化が小さな場合には、光回路内で生じる反射波成分は極僅かである。したがって、屈折率変化が光回路中の光に与える主な影響は、伝搬方向へ進行する光に対しては伝搬方向へ伝搬する際の位相変化であり、反射方向へ進行する光に対しては反射方向に伝搬する際の位相変化となる。このため、伝搬方向に進行する入射波成分と伝搬方向に進行する反射波成分とを合わせて1つの順伝搬波とし、反射方向に進行する入射波成分と反射方向に進行する反射波成分とを合わせて1つの逆伝搬波とする。そして、これら2つの波の各々に対応するフィールドを仮定して、実施例1もしくは実施例2で説明した方法によって局所的な屈折率を変化させて屈折率分布を計算すればよい。
図19(a)および図19(b)は、本実施例の光回路(波長フィルタ)の設定条件とその光回路の透過損失のスペクトラムを説明するための図である。図19(a)に示すように、入力ポート3−1から1.31μm、1.49μmおよび1.55μmの波長の光を波長多重光として入力し、出力ポート3−2として設けた3つのポート(ポートa、ポートbおよびポートc)の各々から上記3つの波長の光ごとに出力して波長フィルタとして機能させる。本実施例では、ポートaから1.31μm、ポートbから1.49μm、そして、ポートcからは1.55μmの波長の光を、それぞれ出力させる。各ポート間隔は10μmであり、光回路長は1mm(1000μm)である。
この光回路は、シリコン基板上に設けられた石英からなる平面光回路であって、光回路設計領域1−1における石英の局所的な屈折率が高屈折率部または低屈折率部となるように調整を行うことで光回路の屈折率分布が設定されている。なお、高屈折率部と低屈折率部の比屈折率差は1.5%である。
図19(b)に示すように、この光回路からは、低い損失と急峻な透過特性を有する3つの波長の光が各出力ポートから出力されており、波長フィルタ特性に優れた光回路が得られている。このように、光回路中での反射波をも考慮して回路設計することにより、フィルタ特性に優れた光回路を作製することが可能となる。
本実施例では、本発明のホログラフィック波動伝達媒体を用いて16分岐光回路を構成した例について説明する。
図20(a)〜(c)は、この16分岐光回路における、屈折率分布(図20(a))、光伝搬の様子(図20(b))、および、16個の各出力ポートから出力される光の光透過損失dB(図20(c))を示している。
この光回路は、シリコン基板上に、高屈折率部と低屈折率部の比屈折率差Δが0.75%の石英を堆積させた光回路設計領域をエッチングによりパターン形成したもので、光回路の大きさは420μm×1800μmである。図20(b)に示したように、光回路の入射面中央部(図中の下側中央)から入力された光は、光回路設計領域中を多重散乱しながら伝搬して、光回路の出射面(図中の上側)に設けられた16のポートから出力される構成となっている。
図20(a)に示した屈折率分布は実施例2で説明した方法により求めた結果であり、この図において、黒色部は高屈折率部、白色部は低屈折率部に相当しており、ピクセルサイズ(メッシュにより画定されたカラムに相当)は3×3μm2である。
この光回路に光伝搬させたときのフィールドの様子を数値計算して求めた結果を示す図20(b)中の濃淡は光強度分布を意味しており、1本の入力光は光回路の出射面において16本の光に分岐され、各々の光が16個のポートから出力される。これらの16個のポートに番号付け(左から1、2、・・・、16)し、各ポートから出力される光の透過損失を測定した結果を図20(c)に示している。16個のポートの損失は原理損失12dBを基準として概ね2dB以内に分布しており、均等かつ低損失の光分配が実現されていることがわかる。
このように、本発明の光回路設計方法によれば、1800μmという極めて短い導波路長で容易に光分割することが可能となる。従来の光回路で同等の機能を実現させる場合に必要とされる導波路長が1cm程度であることを勘案すると、本発明により導波路長の大幅な短縮化が可能であり、小型光回路を容易に実現できることが理解される。
本実施例では、本発明のホログラフィック波動伝達媒体を用いて光導波路に所望の曲率をもたせた「曲げ回路」を構成した例について説明する。
誘電体で構成される光導波路においては、導波路からの光の放射を回避するために、光導波路の急激な曲げを避ける必要がある。したがって、曲げ回路の導波路は一定の曲率半径以上の小さな曲率を有するように設計される。例えば、比屈折率差Δ=1.5%を有する石英系光導波路コアとクラッドとで構成される従来の曲げ回路では、5mm程度の曲率半径となるように回路設計することで湾曲した光回路を実現していた。
これに対して、本実施例の光回路では、光導波路から一旦外部に漏れ出た光を多重散乱により反射させて元の光導波路に戻すことが可能となるため、大きな曲率(小さな曲率半径)で光導波路を設計することが可能となり、その結果、光回路を小型化することが可能となる。
図21(a)および図21(b)は、本実施例の曲げ回路の屈折率分布(図21(a))と光伝搬の様子(図21(b))を説明するための図である。
この光回路は、シリコン基板上に、高屈折率部と低屈折率部の比屈折率差Δが1.5%の石英を堆積させた光回路設計領域をエッチングによりパターン形成したもので、光回路の大きさは100μm×90μmである。図21(b)に示したように、光回路の入射面中央部(図中の下側中央)からこの入射面に対して−5度の角度で入力された光は、光回路設計領域中を多重散乱しながら伝搬して、光回路の出射面(図中の上側)に対して+5度の角度で出力される。
図21(a)に示した屈折率分布は実施例2で説明した方法により求めた結果であり、この図において、黒色部は高屈折率部、白色部は低屈折率部に相当しており、ピクセルサイズ(メッシュにより画定されたカラムに相当)は0.7×0.7μm2である。
この光回路に光伝搬させたときのフィールドの様子を数値計算して求めた結果を示す図21(b)中の濃淡は光回路設計領域における光強度分布を意味しており、導波路の外側へと漏れ出した光は多重散乱によって導波路へと反射されて戻り、放射による導波路からの光の漏れ出しが回避されている。また、この図に示されている出力側と入力側のフィールド形状はほぼ同様の形状となっており、導波路の外側へと漏れ出した光に起因するフィールド形状の乱れが多重散乱により整形されていることが分かる。
本実施例の曲げ回路では、90μmの導波路長で光の入出力角度差10度の曲げが実現されている。この曲げを曲率半径に換算すると約0.5mmに相当しており、極めて小さな曲率半径(大きな曲率)の導波路が実現されていることになる。また、この曲げ回路における光の挿入損失は0.1dB以下であるから、この曲げ回路を複数個繰り返して設けて90度程度の曲げを実現したとしても、その損失は僅かに1dB以下となることが期待され、極めて小型の曲げ回路を実現することが可能である。
本実施例では、本発明のホログラフィック波動伝達媒体を用いて多モード干渉回路(MMI)を構成した例について説明する。
光回路においては、光のフィールドが伝搬方向に大きな波数(すなわち運動量)をもつと、横方向(伝搬方向と垂直方向)の波数(すなわち横方向の運動量)が小さくなり、その結果、屈折率差が比較的小さい界面においても光が横方向に反射されることとなる。この現象を利用してある程度の幅広の光導波路を構成すると、伝搬光のフィールドはこの光導波路中で反射を繰り返しながら大きく蛇行して進行し、実効的な光路長を長くすることが可能となる。このような光伝搬現象は、複数のモードの光が存在し得る光回路中において、これら各モードの光が互いに干渉し合いながら伝搬していることに対応し、このような光回路は、多モード干渉回路(MMI)と呼ばれる。
しかし、従来の多モード干渉回路中では、ある次数以上の高次モードは存在できず、外部に放射されてしまう。すなわち、光回路の幅を広く設定するほど光回路中を伝搬する光の大きな蛇行が期待され実効的な光路長を長くすることが可能となるが、その一方で、放射により光回路外部へと光が漏れ出てしまうという問題があった。
本実施例では、このような問題を解決するために、多モード干渉回路の内部に本発明の光回路を設けることとした。
図22(a)および図22(b)は、本実施例における光回路設計領域における屈折率分布(図22(a))と、この光回路中を伝搬する光の波長毎のフィールドの伝搬の様子を説明するための図(図22(b))である。
この光回路は、シリコン基板上に、高屈折率部と低屈折率部の比屈折率差Δが0.75%の石英を堆積させた光回路設計領域をエッチングによりパターン形成したもので、光回路の大きさは幅60μm×長さ3000μmである。図22(a)中の下部が入射面に対応し、この入射面に設けられた1つのポートから1.31μm、1.49μmおよび1.55μmの3つの波長の光が波長多重された光が入力され、これら3つの波長の光の各々はその波長に応じて異なる蛇行態様で光回路中を進行し、図中の上部で表される出射面に設けられた3つのポートから各波長の光毎に出力される。すなわち、この光回路は波長選択フィルタとして機能する。
図22(a)に示した屈折率分布は実施例2で説明した方法により求めた結果であり、この図において、黒色部は高屈折率部、白色部は低屈折率部に相当しており、ピクセルサイズ(メッシュにより画定されたカラムに相当)は3×3μm2である。この図の左右の各々に示されている縦方向に延在する帯状の低屈折率領域は、従来の多モード干渉回路でも設けられている領域であり、これらの帯状領域の間の高屈折率領域中に分散して設けられた低屈折率部により本発明で設定される屈折率分布が与えられている。
この光回路に光伝搬させたときのフィールドの様子を各波長毎に数値計算して求めた結果を示す図22(b)中の濃淡は光回路設計領域における光強度分布を意味しており、何れの波長の光も光回路中を蛇行しながら進行している様子、および、光回路内でも多重散乱により多モード干渉回路部分の外部へと漏れ出る光は殆どないことが理解できる。
図22(b)に示されている光の蛇行の様子からわかるように、この回路中では、斜めに広がって進行する光が回路側面で折り返され、この折り返しを繰り返しながら各出力ポートへと集光される。従って、この光回路では、小さな面積の光回路設計領域内で大きな光路長差をもたせることが可能であり、かつ、個々のピクセル(個々のカラムの屈折率)が伝搬フィールドに及ぼす影響を高めて光を効率的に制御することが可能となっている。また、本実施例の多モード干渉回路の各出力ポートとも、伝搬損失は約0.8dB、漏話量は−20dB以下であり、波長選択フィルタとして良好な特性が得られている。
以上のように、本実施例の多モード干渉回路では、伝搬光の漏れを抑制することのみならず、回路の小型化および光の制御性を高めることが可能となる。
本実施例の光回路は、1.3μmと1.55μmの2つの波長の光の波長多重光を各々の波長の光に分波する平面光波回路である。このような分波回路を実施例1で説明した方法により設計しようとすると、図23(a)の右図のように、光回路設計領域内に分布させる低屈折率部が多く必要となって基板厚さ方向での光閉じ込めが困難となり、図7に示したような特別な光閉じ込め構造としなければならないことは既に説明した。
これに対して実施例2では、特別な光閉じ込め構造を不要とするために屈折率分布の初期値をランダムにとり、図11(a)に示したような屈折率分布とすることで実効的な光閉じ込めを実現した。
本実施例においては、さらに、屈折率分布の決定に際してなるべく高屈折率部が多くなるように高屈折率部と低屈折率部を分布させ、低屈折率を有するカラムが連続して配列される領域がなるべく少なくなるように屈折率分布を決定することとした(図23(a)の左図)。このことは、低屈折率を有するカラムを高屈折率を有するカラムの存在しない領域、すなわち高屈折率カラムの空隙として観念した場合には、この高屈折率カラムの空隙がなるべく連続して分布することがないように可能な限り多くの高屈折率カラムを分布させることで屈折率分布を決定するもの、と言い換えることもできる。
このための具体的な方法は以下のとおりである。まず、アルゴリズムを、屈折率分布中での光導波路のコアに相当する部分が多くなるように実施例2で説明したアルゴリズムを以下のように改良する。
すなわち、
noffset>0 ・・・(19)
なる量を定義して、
vq(z,x)>(ncore+nclad)/2-noffsetのときはnq(z,x)=ncore ・・・(20)
vq(z,x)<(ncore+nclad)/2-noffsetのときはnq(z,x)=ncladd ・・・(21)
とする。ここで、ncoreはコアに相当する屈折率で高屈折率部の屈折率に相当し、ncladはクラッドに相当する屈折率で低屈折率部の屈折率に相当する。したがって、光回路設計領域内での屈折率分布は、これらの2種類の屈折率を空間的に分布させて得られることになる。このようなnoffsetの導入により、コア部分が多い光回路を設計することが可能である。なお、noffsetなる量は、以下のようにして求められる。
図23(b)は、単位長さ当りの導波路中に空隙が出現する確率(横軸)と、高屈折率部の空隙が連続する(すなわち低屈折率部が連続する)カラムの数Ng毎の頻度(縦軸)との関係を説明するための図で、モンテカルロ法での計算結果である。Ng値の違いは空孔の繋がり具合を反映するものであるため、導波路中での単位長当りの頻度はNg値によって異なる。なお、横軸で示した空隙の出現確率がゼロとは単位長の導波路に全く空隙がない場合であり、出現確率が1とは単位長の導波路の全てが空隙の場合であり、出現確率が0.5とは単位長の導波路の半分が空隙の場合に相当する。また、例えばNg=1の場合の曲線において単位距離当りの頻度が0.1というのは、10のカラムからなる列を想定したときに、確率的に1つのNg=1の空隙カラムが存在するという意味である。
この計算では、横方向に連続した空隙がフィールドに及ぼす影響は事実上無視できる程度のものであるために考慮しないこととして、光回路の縦方向領域のみを対象とする。このような取扱いが妥当なのは、光が伝搬する回路中において、激しく電磁界が変化するのは伝搬方向であることによる。
空隙の単位長はコアの屈折率分布のメッシュ間隔とされ、例えばメッシュ間隔を1μmと設定した場合の空隙の単位長は1μmとなる。従って、このような空隙で互いに離隔された高屈折率カラム間の間隙は、Ng=0、1、2、・・・の各々について0μm、1μm、2μm、・・・となる。
光通信等に利用される光の波長範囲では、屈折率が約1.5の媒体中での波長は約1μmとなるから、光回路中に数μmの間隙があるとすると光が放射的になって損失が生じてしまう。光回路の一般的な加工精度は1μm程度であるから、1μm程度の間隔でメッシュを設定して光回路の屈折率分布を決定する場合を想定すると、Ng=3以下に抑えることが望ましい。
そこで、図23(b)を基に、Ng=4以上の間隙が殆ど生じず、かつ、屈折率変化が生じるコアとクラッドとの界面が適当に多くなる条件を探すと、Ng=1の空隙の出現確率を0.2±0.05程度とすることが望ましいこととなる。このことは、実施例1の設計条件で決定される屈折率分布において、コア部とクラッド部が同等の分布確率で略ランダムに分布するものとし、かつ、そのバラツキ(2σ)が屈折率差程度であるものとし、さらに、正規分布するものであると仮定して、コアの配置パラメータを屈折率差の約30%程度とすればよいことを意味している。すなわち、noffset=(ncore-nclad)/3程度とすれば、屈折率変化する界面が適当に多く含まれ、かつ、コアの間隙幅が少ない光回路を構成することが可能となる。
このようなアルゴリズムに基づいて屈折率分布を決定し光回路を実際に試作して特性を調べたところ、図23(b)のような屈折率分布とした場合の光損失が約6dBであったのに対し、図23(a)のような本実施例の屈折率分布とした場合の光損失は約2.5dBであり、大幅な損失低減が確認された。
なお、本実施例においては、予めnoffsetを定数として与えることとしたが、定数である必要は必ずしもない。図23(b)の横軸が単位距離あたりの空隙の出現確率とされていることからもわかるように、計算の途中で空隙の出現確率を集計し、その結果をもとにnoffsetを逐次変更することとすれば、より確実な修正が可能となる。すなわち、vq(z,x)の頻度を求めて、たとえば50%に設定したい場合はnoffsetをvq(z,x)の平均値に設定するなどすればよい。
図24(a)は本実施例の電極構造の断面図、図24(b)はこの素子を用いた光回路の構成例である。図24(a)は、複数の組の屈折率分布を電気光効果により基板上に必要に応じて生じさせることを特徴とする光波形整形器の例として、シリコン基板上に、光学的に透明な絶縁膜(ここでは石英ガラス)を介して電極をマトリクス状に設けて再構成可能な光回路を構成する例を図示している。絶縁膜は0.3μm程度、ドープ領域は3μm程度の厚みである。この例ではさらにその下にガラス層がある所謂Silicon-On-Insulator(SOI)構造の基板を用いている。電極に電圧を掛けることにより電子濃度の変化から10−3程度の比屈折率差を与えることが可能である。これはMOS構造であるので、通常の半導体プロセスにより容易に微細かつ大規模なものをつくることが可能である。一般に10−3の比屈折率差では光導波路構造をつくったとしても非常に閉じ込めが弱いため現実的な回路を構成することは困難であるが、UV光により石英ガラスに書き込むファイバグレーティングのような弱い屈折率変調でも大きな光の反射が可能なのと同様に、広い領域計算領域を用いて本実施形態により光回路を設計すれば実用的な光回路を構成することができる。
上記実施例1〜11で説明したように屈折率分布のパターンを設計し、その屈折率分布に合わせて電圧の分布を生じさせることにより光回路を構成できる。特に、複数の屈折率分布をあらかじめ半導体メモリ等に入れておき、必要に応じて電圧の分布を変化させることで光回路を再構成できる。また、回路はMOSのプロセスを適用できるので、フラッシュメモリと同様の構成を用いれば書き込み式の光回路を構成できる。すなわち、ソース、ドレイン、フローティングゲートとコントロールゲートを回路の一部に設け、ソース、ドレイン部分の屈折率制御は放棄して、フローティングゲート直下の屈折率変化により光回路を構成する。ここで、ソース、ドレイン部分へは回路再構成の際にのみ通電すればよいので、屈折率分布としては電圧をOFFにした状態で回路を構成すればよい。
本実施形態により、5mm角程度のチップサイズに100万電極程度をマトリックス状に配置し波形整形器ができた。これは基板に対してフィールド径として数百ミクロンに拡大し、かつ、位相分布を制御するもので、突き当て結合により結合したスラブ導波路を介して対向する同様の素子に対して光合分波が可能である。ここで、これらの光部品(ファイバ、本実施形態の素子、スラブ導波路)は光学的に透明な接着剤で接合されている。
図24(b)は図24(a)の素子を用いた光回路の例で、ここではフィールドを拡大するとともに横方向に一様な位相勾配を与えることで左端下から右上に光信号を伝搬させている。位相を適当に調整することにより複数のチャンネルへの分配も可能である。
本発明のホログラフィック波動伝達媒体の基礎となる基本概念と基本構造とを説明するための図である。
従来のアレイ導波路格子回路の構成例を説明するための図である。
本発明のホログラフィック波動伝達媒体の空間的な屈折率分布を決定するための計算手順を説明するためのフローチャートである。
計算手順の理解を容易にするために、ホログラフィック波動伝達媒体中でのフィールドの様子の一例を示した図である。
実施例1における光回路設計の設定を説明するための図である。
実施例1による屈折率分布(a)と透過スペクトル(b)を説明するための図である。
平面光波回路状の屈折率分布を有し、かつ、基板垂直方向での光閉じ込め可能な実施例1の光回路を説明するための図である。
実施例2の光回路設計のフローを簡単に示したフローチャートである。
図8に示したアルゴリズムを実行するための、フィールドのデータを説明するための図である。
実施例1と実施例2での計算の収束の様子を示した図である。
実施例2の光回路の屈折率分布(a)と透過スペクトル(b)を説明するための図である。
実施例3の4波長分波器の光回路設計のための条件設定を説明するための図である。
実施例3で計算した光回路の透過損失スペクトラム(透過率(dB))を説明するための図で、(a)は入力光の偏光状態がTEモードのみの設定の場合(図12(a)の条件に対応)であり、(b)は入力光の偏光状態のTEモードにTMモードを加えた設定の場合(図12(b)の条件に対応)である。
実施例4の光回路設計のための条件設定を説明するための図で、(a)は単純なバンド透過フィルタを設定した場合、(b)はバンド整形用のダミーポートを設けた場合の図である。
図14(a)および図14(b)に示した条件設定の下で調整された光回路の出力ポートから出力される出力光の透過損失のスペクトラムである。
実施例5の光回路の設定条件とその光回路の透過損失のスペクトラムを説明するための図である。
実施例6の光回路の入出力ペアの設定(a)、1.55μmの出射フィールド分布の設定(b)、ならびに、ポートaおよびポートbから入力光を入力させた場合の各々の出力光の透過損失スペクトラム((c)および(d))を説明するための図である。
実施例7において反射成分をも考慮する際の伝搬行列の取扱いの概要を説明するための図で、光回路中の微小部分のみに着目して図示した図である。
実施例8の16分岐光回路における、屈折率分布(a)、光伝搬の様子(b)、および、16個の各出力ポートから出力される光の光透過損失dB(c)を示す図である。
実施例8の16分岐光回路における、屈折率分布(a)、光伝搬の様子(b)、および、16個の各出力ポートから出力される光の光透過損失dB(c)を示す図である。
実施例9の曲げ回路の屈折率分布(a)と光伝搬の様子(b)を説明するための図である。
実施例10における光回路設計領域における屈折率分布(a)と、この光回路中を伝搬する光の波長毎のフィールドの伝搬の様子を説明するための図(b)である。
実施例11における光回路設計領域内の屈折率分布(a)と単位長さ当りの導波路中に空隙が出現する確率(横軸)と、高屈折率部の空隙が連続する(すなわち低屈折率部が連続する)カラムの数Ng毎の頻度(縦軸)との関係を説明するための図(b)である。
(a)は実施例12の電極構造の断面図、(b)はこの素子を用いた光回路の構成例を説明するための図である。
符号の説明
1−1 光回路の設計領域
1−11 高屈折率部(誘電体多重散乱部)
1−11a 第1の高屈折率部
1−11b 第2の高屈折率部
1−12 低屈折率部
2−1 入射面
2−2 出射面
3−1 入力光
3−2 出力光
4−1、4−2 スターカプラ(光合分波器)
5 アレイ導波路
6 波長板