JP4381000B2 - 動物細胞培養素材 - Google Patents
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Description
以下で、DMFはジメチルホルムアミドの略号である。
【0002】
【発明の属する技術分野】
本発明は、硫酸糖誘導体を利用した動物細胞培養素材、および、動物細胞培養法に関するものである。
【0003】
【従来の技術】
我々はこれまでに、簡単な構造を持つ低分子である、各種の糖脂質アナログを合成し(特許文献1、2参照)、その脂質類似構造の疎水性を利用して、細胞培養素材に固定化することにより、単糖誘導体でも肝臓細胞の培養等に有効に利用できることを示してきた(特許文献3、非特許文献1、2参照)。しかし、硫酸基を持つ化合物の合成は行っていなかった。
【0004】
硫酸基を持つ糖鎖には、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸等の様々な生理作用を有するものが知られている。例えば、造血が行われている器官である骨髄中には種々の細胞外マトリックス成分と共にヘパリンなどの硫酸糖が多量に含まれている。これら硫酸糖は、生体内で極微量で種々の生理活性を示す多くのサイトカインや増殖因子と親和性が高く、これらの因子の局在化を生じ、造血作用などの種々の生理作用を促進していると言われている。
【0005】
こうした硫酸糖の機能を利用して、動物細胞培養を効率的に行おうとする試みが種々行われている。例えば、ヒト造血細胞の培養液にサイトカインを添加する際にヘパリンを共存させるとサイトカインの造血細胞増殖促進作用が大幅に増強されることが知られており、これはサイトカインとヘパリンとの間に親和性があるためとされている(非特許文献3参照)。そこで、遊離のヘパリンを用いるのではなく、動物細胞が接着する基質表面にヘパリンを固定化することにより、動物細胞近傍にサイトカインを局在化させ、より効果的に細胞培養を促進しようとする試みもなされてきた。具体的には、細胞培養用ディッシュ表面にヘパリンを固定するために、まず、正電荷を有するキトサンを固定化し、固定化されたキトサンにヘパリンやコンドロイチン硫酸をイオン結合により固定化する。引き続き、このディッシュにサイトカインとして幹細胞因子(SCF、5 ng/ml)、インターロイキン3(10 ng/ml)を加えた上で、ヒト臍帯血CD34表面抗原陽性細胞を培養すると、ヘパリン等を用いず、サイトカインだけを用いて培養する場合に比べ、CD34表面抗原陽性細胞を20〜30倍多く増殖できた(非特許文献4参照)。また、細胞の接着基質であるポリエステル表面に酸素プラズマ放電で水酸基を導入し、これに続く数段の反応でヘパリンを共有結合により固定化する方法も開発された(非特許文献5参照)。
【0006】
しかし、ヘパリンやコンドロイチン硫酸等は天然由来で、複雑な構造を持つ多糖の混合物であり、工業的にはこれをより簡単な化合物で置き換えることが望ましい。また、これまでの方法によって細胞培養素材に硫酸糖を固定化するためには、複数の工程を必要としていた。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−122889号公報
【特許文献2】
特開2002−30091号公報
【特許文献3】
特開2002−27977号公報
【非特許文献1】
ジャーナル・オブ・アーティフィシャル・オーガンズ(J. Artif. Organs)、2001年、4巻、p.315−319
【非特許文献2】
ジャーナル・オブ・バイオサイエンス・アンド・バイオエンジニアリング(J. Biosience Bioengineering)、2002年、93巻、p.437−439
【非特許文献3】
ブラッド(Blood)、2000年、95巻、p.147−155
【非特許文献4】
ステムセルズ(Stem Cells)、1999年、17巻、p.295−305
【非特許文献5】
バイオマテリアルズ(Biomaterials)、2000年、21巻、p.121−130
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ヘパリンの様な天然由来の複雑な多糖の混合物を用いずに、簡単に合成できる単糖誘導体を用いて、従来よりも簡便な工程で動物細胞培養素材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を鋭意検討した結果、本発明者らは、ガラクトース硫酸誘導体をヘパリン等の代りに用いれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
具体的には、式(1)で示される新規なガラクトース−6−硫酸誘導体をコーティングしたポリエステル不織布を用いて種々のサイトカインを含んだ造血細胞培養上清を用いた造血細胞の培養を行うと、何もコーティングしていない不織布を用いた場合に比較して、通常の種々のサイトカインを含んだ造血細胞培養上清を用いた造血細胞の培養に適用して、造血細胞の増殖活性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化2】
(ただし、式中で、RはHまたはO(CH2)nCH3を、mは2から6の整数を、nは11から17の整数を表す。)
【0010】
即ち、本発明は、式(1)で示される化合物、および、ガラクトース−6−硫酸構造を素材表面に固定化した動物細胞培養素材、および、式(1)で示される化合物を、予め培養素材表面にコーティングした後に細胞培養を行うことを特徴とする動物細胞培養法を提供する。
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
式(1)の化合物の合成は、我々がこれまでに報告した方法(特開2001−122889号公報、特開2002−27977号公報)に従って合成した硫酸基を持たないガラクトース誘導体に、三酸化硫黄・トリメチルアミン錯体や三酸化硫黄・ピリジン錯体等の適当な硫酸化剤を反応させることによって調製することができる。6位水酸基の反応性が一番高いため、ガラクトース部分の水酸基の保護を必要とせず、1工程でガラクトース−6−硫酸誘導体が得られる。
上記の製造方法で得られたガラクトース−6−硫酸誘導体はエタノールに可溶であり、そのエタノール溶液を任意の形状を持った疎水表面を有する培養素材に塗布し、アルコールを除去することで容易に固定化することができる。この様にガラクトース−6−硫酸誘導体を、ポリエステル、ポリスチレン等の様々な疎水性表面を有する培養素材に固定化して、動物細胞培養用の培養素材とする。
【0012】
動物細胞の培養は、以下の様に行う。
まず、培養素材に式(1)で示される化合物を上記の方法で固定化する。引き続き、通常の培地を用いて目的とする動物細胞の培養を通常使用される条件で行うことができる。必要に応じて、サイトカイン等の微量成分を予め培地に添加する、あるいは、培地中に細胞自身により生産されるサイトカイン等の微量成分を用いる、あるいは、サイトカイン等の微量成分を含む別途調製した培養上清を用いる等の手段を用いて、ガラクトース−6−硫酸誘導体を固定化した培養素材にサイトカイン等の微量成分を予め接触させた後、目的とする動物細胞の培養を通常使用される条件で行うこともできる。
【0013】
本発明で用いる動物細胞は、昆虫および動物由来の細胞であり、動物の種類としては鳥類、爬虫類、両生類、魚類、哺乳類などを挙げることができる。哺乳類動物としては、たとえばヒト、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ネズミなどを例としてあげることができる。また、動物から採取してから一般的に50回程度までの限られた回数のみ分裂、増殖できる初代細胞および動物から採取された後一般に50回以上の多数回分裂、増殖できる細胞株の両方とも用いることができる。初代細胞の例として、ラット初代肝細胞、マウス初代骨髄細胞、ブタ初代肝細胞、ヒト初代造血細胞などを挙げることができる。造血細胞の例として、マウス骨髄造血細胞、マウス末梢血細胞、ヒト骨髄細胞、ヒト骨髄単核細胞、ヒト末梢血有核細胞、ヒト臍帯血細胞、ヒト臍帯血単核造血細胞などを挙げることができる。細胞株の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO細胞)、ヒト子宮癌細胞株HeLa細胞、アフリカミドリザル腎細胞株Vero細胞、ヒト肝ガン細胞株Huh 7細胞などを挙げることができる。また、以上にあげた細胞に対して、プラスミドの導入、ウイルス感染などの手段により遺伝子操作を施して得られた細胞も本発明で用いることができる。CHO細胞とは、チャイニーズハムスターの卵巣組織から分離された全ての細胞株およびそれらに遺伝子操作を施して得られた細胞株であり、たとえばCHO-K1株(ATCC CCL61)、CHO 1-15500株(ATCC CRL-9606)、CHO DG44株などを例としてあげることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
【実施例1】
(N−(O−β−(6−O−スルホガラクトピラノシル)−6−オキシヘキシル)−3,5−ビス(ドデシロキシ)ベンズアミドの合成)
N−(O−β−ガラクトピラノシル−6−オキシヘキシル)−3,5−ビス(ドデシロキシ)ベンズアミド( 51.7 mg, 0.0687 mmol )をDMF 2ml に溶解し、三酸化硫黄・トリメチルアミン錯体( 336 mg, 2.41 mmol )を加え、アルゴン雰囲気下、2時間撹拌した。反応液をそのままゲルろ過(LH−20、クロロホルム−メタノール,1:1)し、目的物を含む画分を濃縮した。さらに、シリカゲルカラムクロマトフィー(クロロホルム−メタノール,2:1)により精製し、目的物( 14.2 mg, 0.0171 mmol )を得た。MALDI−TOF/MS(マトリックス、ジヒドロキシ安息香酸):m/z 831.53 (C43H77NO12Sとして計算:831.52,[M−H]-)
【0016】
【実施例2】
(硫酸糖脂質アナログが臍帯血前駆細胞増殖に及ぼす影響)
N−(O−β−(6−O−スルホガラクトピラノシル)−6−オキシヘキシル)−3,5−ビス(ドデシロキシ)ベンズアミド3.5 mgを200 mlのエタノールに溶かし−20℃で保存した。使用時に、この保存溶液1.8 mlにエタノール8.2 mlを加えて希釈した後に、24穴プレートと同じ断面積で厚さ100μmに裁断したポリエステル不織布(旭化成製Y-15050)を1枚入れた24穴プレートに1 mlずつ加え揮発させた。また、濃度による影響を検討するため、この溶液をエタノールでさらに10倍希釈して同様にポリエステル不織布にコーティングした。
【0017】
動物細胞として、ヒト臍帯血からフィコール密度勾配遠心分離により得られた単核造血細胞を用いた。
予め、ヒト臍帯血単核造血細胞1×105 cellsとヒト骨髄初代ストローマ細胞5×105 cellsとを、無血清無サイトカイン培地X-VIVO10(BioWhittaker,Walkersville,USA)を用いて、24ウェルプレート中で37℃,5%CO2雰囲気下で1週間共培養した後、その培養上清を得た。
【0018】
上記のN−(O−β−(6−O−スルホガラクトピラノシル)−6−オキシヘキシル)−3,5−ビス(ドデシロキシ)ベンズアミドをコーティングした不織布、同じく10倍希釈した溶液でコーティングした不織布、または、コーティングしていない不織布、いずれかの不織布を入れた24穴プレートに、上記の培養上清を用いて、ヒト臍帯血単核造血細胞1×105 cellsを播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で1週間培養した。
その後、培養後の不織布および培養液の両方から回収した造血細胞を集め、コロニーフォーミングユニットアッセイを行い、培養後の造血前駆細胞の濃度を計数した。
【0019】
表1に示すように、培養後の造血前駆細胞濃度は、無処理の不織布に比べ、N−(O−β−(6−O−スルホガラクトピラノシル)−6−オキシヘキシル)−3,5−ビス(ドデシロキシ)ベンズアミドを10倍希釈してコーティングしたものでもほぼ同等、N−(O−β−(6−O−スルホガラクトピラノシル)−6−オキシヘキシル)−3,5−ビス(ドデシロキシ)ベンズアミドを1倍濃度でコーティングしたもので約1.6倍であり、明らかな増殖活性を示した。
【表1】
【0020】
【発明の効果】
本発明は、ヘパリンの様な天然由来の複雑な多糖の混合物を用いずに、簡単に合成できる単糖誘導体を用いて、従来よりも簡便な工程で動物細胞培養素材を提供する。
Claims (6)
- ガラクトース−6−硫酸構造を素材表面に固定化した動物細胞培養素材。
- 請求項1に記載された式(1)で示される化合物を素材表面に固定化した動物細胞培養素材。
- 請求項1に記載された式(1)で示される化合物を、予め培養素材表面にコーティングした後に、細胞培養を行うことを特徴とする動物細胞培養法。
- 該動物細胞がヒト造血細胞であることを特徴とする請求項2または請求項3の動物細胞培養素材。
- 該動物細胞がヒト造血細胞であることを特徴とする請求項4の動物細胞培養法。
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