JP4366496B2 - 病原体感染初期に誘導されるイネペルオキシダーゼ遺伝子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特異的な発現を促進する、植物のペルオキシダーゼ遺伝子のプロモーター活性を含む核酸分子(本明細書中以降、POXプロモーター)に関する。より詳細には、本発明は、このPOXプロモーターを利用したトランスジェニック植物の作出方法、この方法の利用によって得られた植物細胞、組織、植物体および種子に関する。
【0002】
【従来の技術】
ペルオキシダーゼ(EC.1.11.1.7)(本明細書中で「POX」ともいう)は、一般に種々の基質の過酸化水素による酸化反応を触媒する酵素であって、微生物から動植物までに広く存在する。ペルオキシダーゼは、種々のアイソザイムおよびアイソフォームの形態からなるスーパーファミリーを構成し、現在では、その反応特異性および構造により、クラスI、クラスIIおよびクラスIIIに分類されている(Welinder、非特許文献1)。クラスIは、原核生物ペルオキシダーゼとも呼ばれ、酵母ミトコンドリアシトクロームcPOX、葉緑体アスコルビン酸POX、細胞質ゾルアスコルビン酸POXおよび遺伝子二重細菌POXなどが含まれる。クラスIIは、分泌型真菌ペルオキシダーゼとも呼ばれ、代表的にはP.chrysosporiumマンガン依存性POX(PCM)、およびリグニナーゼなどが含まれる。クラスIIIは、古典的分泌型植物ペルオキシダーゼとも呼ばれ、代表的には西洋ワサビPOXなどが含まれる。クラスIII植物POXは、植物において普遍的に見い出されており、さらに複数のアイソフォームが同一植物から見い出されている(非特許文献1)。
【0003】
クラスIII植物ペルオキシダーゼ(POX)は、植物における種々の生理的過程(例えば、木化(Whettenら、(非特許文献2))、コルク化(Espelieら、(非特許文献3))、細胞壁タンパク質の架橋(Fryら(非特許文献4))、オーキシン分解および植物ホルモンであるインドール酢酸(IAA)の酸化(Hinmanら(非特許文献5))、病原体からの防御(Chittoorら(非特許文献6))、塩耐性(Amayaら(非特許文献7))、老化(Abelesら(非特許文献8))、植物の発生、分化および生長(Hortonら(非特許文献9))など)に寄与することが示唆されており、植物の生長および病傷害ストレス応答などにおいて重要な役割を担っていると考えられている。ペルオキシダーゼが単一の植物中に複数存在すること、および基質特異性が広いことなどから、個々のペルオキシダーゼの特異的な生理的機能を特定することは未だ困難である。
【0004】
植物のPOX遺伝子については、例えば、アルファルファ、トマトおよびコムギから、それぞれ7以上のPOX遺伝子が単離され、そして同定されている(Chittorら(1999)、非特許文献6)。Chittoorらは、イネから相同性の高い3つのcDNAおよびゲノムDNAフラグメントを単離し、そしてこの3つのPOXがイネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzaepv.oryzae)による感染の際に異なる誘導を受けることを示した(Chitoorら(1997)、非特許文献10)。Itoらは、イネの地上部組織にタンパク質レベルで25のPOXが存在することを示し、そのうち4種を精製して、N末端アミノ酸配列とそれぞれに対する抗体の反応性とから、これらが2組のアイソフォームであることを推定した(Itoら、非特許文献11)。Itoらは、2つの構造的に関連するPOXをコードするcDNA(prxRPAおよびprxRPN)を単離したが、この2つの遺伝子は、同一ではないが類似する発現パターンを示した。(Itoら、非特許文献12)。タバコにおいて、12のPOXアイソザイムが、等電点電気泳動後の活性染色によって検出され、そして、これらのアイソザイムが器官特異性および傷害またはTMV感染に対する応答性が異なることが示された。これらのタバコPOXについての観察から、個々のPOX遺伝子の発現が異なって調節されることが示唆された(Langriminiら、非特許文献13)。
【0005】
このように、発現特異性について従来研究されたPOXアイソザイムの数は限定されており、数十あると予測されるPOXの発現動向について概括的な解析はなされておらず、また従来の知見からではそのような解析は困難であった。
【0006】
ペルオキシダーゼ(POX)は、過酸化水素に代表される活性酸素種の除去において役割を有することが知られている。一般に、植物などの細胞中の活性酸素種(スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素など)の濃度が上昇した状態は、酸化ストレス(oxidative stress)と呼ばれる。これは、過酸化状態、紫外線および放射線、チトクロームの電子伝達系の異常、ペルオキシゾーム異常増加、高温・低温・化学物質等の非生物的作因、オゾンおよび二酸化硫黄のような大気汚染物質等が引き起こす酸化状態と、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、POX、ビタミンE、CおよびA等の作用による、細胞内の抗酸化剤防御機構とのバランスが崩れたときに起きる。
【0007】
真核生物では、酸化ストレスに曝されるとSODなどの活性が高まることが以前から知られている。あらかじめSODなどを誘導しておくことにより、細胞が酸化ストレスに対して若干の抵抗性を示す例も観察されている。
【0008】
植物においても、酸化ストレスの発生について、次のことが知られている。(1)光合成を妨げる様々な条件(光照射下の低温、除草剤処理など)によって、光合成反応経路等に起因する活性酸素種が、異常に発生し得る。(2)暗所でも、植物が低温に曝されると過酸化水素等の活性酸素種の濃度が上昇し得る。(3)除草剤(パラコート(商品名)(1,1−ジメチル−4,4−ジピリジニウムジクロリド)等)および紫外線も、その作用機構に活性酸素種が関わっている。そして、(4)乾燥ストレスや重金属なども、酸化ストレスを引き起こすと考えられている。
【0009】
近年、酸化ストレスを含む環境ストレスが植物を含む生物の生体に与える影響が注目されている。近代の工業化による地球環境の悪化が深刻な社会問題になっており、植物においても環境ストレス耐性を向上させるための研究が行われている。POXのような抗酸化酵素は、種々の環境ストレスによって生体中に過多に発生する活性酸素を除去するのに有効な、環境ストレス耐性(生体防御)因子であると考えられている。しかし、POXについては、アイソザイムの多様性および広範な基質特異性などの点から、環境ストレス耐性における役割は充分に解明されていない。従って、現段階では環境ストレス耐性植物を作製するための材料とすることは困難である。
【0010】
クラスIII POXについては、病原菌の感染のような生物的刺激に対しての役割も示唆されている。大橋ら(非特許文献14)においては、タバコPOXについて、タバコモザイクウイルス(TMV)感染による局部病斑形成とPOXとの関連が研究され、TMVによる壊死病斑形成の過程でPOXがポリフェノールの酸化という形で機能していることが示唆された。従って、POXは、病原体の感染に対して植物に防御機能を付与することにおいても重要な役割を果たし得ることが示唆される。
【0011】
従って、ストレス耐性植物を含む有用植物の、遺伝子工学的手法による作出という観点から、POX遺伝子の発現特性についての詳細な知見の蓄積が所望されている。
【0012】
最近、イネを含む多くの植物において、大規模な発現配列タグ(EST)配列決定プログラムが進行中である。イネ(Yamamotoら、(非特許文献15))およびシロイヌナズナ(Oestergaardら(非特許文献16))からも、それぞれ42および41の異なるPOX遺伝子の存在が確認された。しかし、これらのEST配列は、遺伝子の部分配列情報を提供するのみである。これらの遺伝子の機能については簡単に分析したものが報告されているが、詳細に機能分析をした報告はまだない。
【0013】
【特許文献1】
再公表WO02/042745号
【非特許文献1】
Welinder K.G.ら(1992)、Curr.Opin.Struct.Biol.,2:388
【非特許文献2】
Whetten R.ら(1995)、Plant Cell 7,1001−1013)
【非特許文献3】
Espelie K.E.ら(1986)、Plant Physiol.81,487−492
【非特許文献4】
Fry S.C.(1986)、Ann.Rev.Plant.Physiol.37、165−186)
【非特許文献5】
Hinman R.L.ら(1965)、Biochemistry 4、144−158
【非特許文献6】
Chittoor J.M.ら(1999)、Pathogenesis−Related Proteins in Plants (DattaおよびMuthukrishnan編) 171−193、CRC Press、Boca Raton
【非特許文献7】
Amaya I.ら(1999)、FEBS Lett.457、80−84
【非特許文献8】
Abeles F.B.ら(1988)、Plant Physiol.87.609−615
【非特許文献9】
Horton R.F.ら(1993)、J.Plant Physiol.141:690
【非特許文献10】
Chitoor J.M.ら(1997)、Mol.Plant−Microbe Interact.7:861−867
【非特許文献11】
Ito H.ら(1991)、Agric.Biol.Chem.55:2445−2454
【非特許文献12】
Ito H.ら(1994)、Plant Cell Rep.13:361−366
【非特許文献13】
Langrimini L.M.ら(1987)、Plant Physiol.84:438−442
【非特許文献14】
大橋(Oohashi Y.)(1975)、名古屋大学大学院農学研究科農芸化学専攻、博士論文
【非特許文献15】
Yamamoto K.ら(1997)、Plant Mol.Biol.35:135−144
【非特許文献16】
Oestergaard L.ら(1998)、FEBS Lett.433:98−102
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、発現特性が解明された、ペルオキシダーゼ遺伝子のプロモーター活性を有する核酸分子(本明細書において、便宜上POXプロモーターともいう)を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、特定の発現特異性を有するペルオキシダーゼ遺伝子のプロモーター活性を有する核酸分子に関する。発現特異性の例としては、部位特異性、ストレス誘導性などが挙げられる。本発明は、所望の性質を有するトランスジェニック植物、特に病原体抵抗性植物に改変するために有用である。
【0016】
本発明は、5つのイネペルオキシダーゼ遺伝子のプロモーター核酸分子についての発現特性データの解析に基づく。本発明者らによって、個々のイネペルオキシダーゼ遺伝子が、種々のパラメータ(例えば、組織、ストレスなど)に対して独自の発現パターンを示すことが明らかになった。さらに、これらのプロモーター核酸分子は、傷害、病原体への感染などのストレス刺激初期に、発現が誘導されることが明らかになった。
【0017】
従って、本発明は、以下を提供する。
【0018】
(1) プロモーター活性を含む核酸分子であって、上記核酸分子は、
(a)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、または配列番号9に示されるヌクレオチド配列;
(b)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、または配列番号9、において、1もしくは複数個のヌクレオチドの置換、欠失および/または付加を含むヌクレオチド配列であって、プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)配列番号13または15に示す配列を少なくとも含む、ヌクレオチド配列;
(d)(a)〜(c)のいずれかに示すヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)に示すヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の相同性を有するヌクレオチド配列であって、かつプロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有し、
上記ヌクレオチド配列に作動可能に外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列が連結されると、上記外来遺伝子の特異的な発現を促進する活性を有する、
核酸分子。
【0019】
(2) 上記特異的な発現は、根特異的発現およびストレス誘導性発現からなる群より選択される少なくとも1つの発現を含む、項目1に記載の核酸分子。
【0020】
(3) 上記特異的な発現は、病原体誘導性発現、傷害誘導性発現、およびプロベナゾール誘導性発現からなる群より選択される少なくとも1つの発現を含む、項目1に記載の核酸分子。
【0021】
(4) 上記特異的な発現は、いもち病菌誘導性発現を含む、項目1に記載の核酸分子。
【0022】
(5) 項目1に記載の核酸分子および作動可能に連結された、外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む、発現カセット。
【0023】
(6) 上記外来遺伝子は、抗菌タンパク質をコードする遺伝子、レポーター遺伝子、病原抵抗性を付与する遺伝子および組織修復に関与する遺伝子からなる群より選択される遺伝子を含む、項目5に記載の発現カセット。
【0024】
(7) 調節エレメントをさらに含む、項目5に記載の発現カセット。
【0025】
(8) 上記調節エレメントは、プロモーター、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子および、エンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、項目7に記載の発現カセット。
【0026】
(9) 項目5に記載の発現カセットを含む、発現ベクター。
【0027】
(10) 項目1に記載の核酸分子および外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む、植物細胞。
【0028】
(11) 項目10に記載の細胞を含む、植物体。
【0029】
(12) 上記植物体は単子葉植物である、項目11に記載の植物体。
【0030】
(13) 上記植物体はイネ科植物である、項目11に記載の植物体。
【0031】
(14) 上記植物体はイネである、項目13に記載の植物体。
【0032】
(15) 項目9に記載の発現ベクターを用いて形質転換された、植物細胞。
【0033】
(16) 項目15に記載の細胞を含む、植物組織。
【0034】
(17) 項目15に記載の植物細胞から得られた、トランスジェニック植物体。
【0035】
(18) 上記トランスジェニック植物体が単子葉植物である、項目17に記載のトランスジェニック植物体。
【0036】
(19) 上記トランスジェニック植物体がイネ科植物である、項目17に記載のトランスジェニック植物体。
【0037】
(20) 上記トランスジェニック植物体はイネである、項目17に記載のトランスジェニック植物体。
【0038】
(21) トランスジェニック植物の作出方法であって、上記方法は以下の工程:
(A)項目1に記載のプロモーターに作動可能に連結された外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列を植物細胞に導入する工程;および
(B)得られた植物細胞を再分化して、トランスジェニック植物を作出する工程、
を包含する、方法。
【0039】
(22) 外来遺伝子の根特異的発現および/またはストレス誘導性発現のための、項目1に記載の核酸分子の使用。
【0040】
(23) 上記ストレス誘導性発現は、病原体誘導性発現、傷害誘導性発現、およびプロベナゾール誘導性発現からなる群より選択される少なくとも1つの発現を含む、項目22に記載の使用。
【0041】
(24) 項目1に記載されるプロモーター活性を有する核酸分子、および植物細胞において上記核酸分子に作動可能に連結されるべき外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む、根特異的発現および/またはストレス誘導性発現のための組成物。
【0042】
(25) 上記ストレス誘導性発現は、病原体誘導性発現、傷害誘導性発現およびプロベナゾール誘導性発現からなる群より選択される少なくとも1つの発現を含む、項目24に記載の組成物。
【0043】
(26) 植物体のストレス刺激の有無を検査するための方法であって、上記方法は、以下の工程:
(a)上記植物体から組織を得る工程;
(b)上記組織からRNAを抽出し、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、または配列番号9に示されるヌクレオチド配列に特異的なプローブを用いて、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、または配列番号9に示されるヌクレオチド配列が発現されているか否かを検出する工程、
を包含し、
ここで、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、または配列番号9に示されるヌクレオチド配列の特異的発現は、上記植物体が病原体に感染したことを示す、
方法。
【0044】
(27) 1以上の容器に、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、および配列番号9に示されるヌクレオチド配列に特異的なプローブを含む、植物体における病原体感染を検出するためのキット。
【0045】
本発明のこれらおよび他の利点は、必要に応じて添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読みおよび理解することによって、当業者に明らかとなる。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0047】
(定義)
本明細書において使用される主要な用語の一部を以下に定義する。
【0048】
本明細書において、「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。好ましい植物としては、例えば、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガムなどのイネ科に属する単子葉植物が挙げられる。好ましい植物のほかの例としては、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、サツマイモ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ニンジン、キュウリ、柑橘類、白菜、レタス、モモ、ジャガイモおよびリンゴが挙げられる。好ましい植物は作物に限られず、花、樹木、芝生、雑草なども含まれる。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物組織の例としては、維管束組織(篩部組織、木部組織などを含む)、頂端分裂組織、葉肉組織、厚角組織、柔組織などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0049】
本明細書において、「刺激(の)初期」とは、創傷、病原体感染、農薬散布などの刺激を植物に与えた場合に、この刺激を与えた直後から数時間、12時間以内、24時間以内、または48時間以内をいう。
【0050】
本明細書において、本発明に従って得られる植物、またはその植物器官もしくは植物組織が抵抗性を示す「病原体」とは、植物に感染可能なあらゆる病原性生物、例えば、真菌類(糸状菌を含む)、細菌、ウイルスなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0051】
病原体としての真菌類としては、イネいもち病菌、イネ紋枯病菌、イネ苗腐病菌、イネ苗立枯病菌、イネばか苗病菌、イネ黄化萎縮病菌、イネごま葉枯病菌、ムギ類さび病類菌、ムギ類うどんこ病菌、ジャガイモ疫病菌、タバコ疫病菌、タバコ灰色かび病菌、タバコ舞病菌、シバ類さび病類菌、立枯病類菌、雪腐病類菌、野菜類の疫病菌、べと病菌、うどんこ病菌、灰色かび病菌、炭そ病菌、苗立枯病菌、根こぶ病菌、カーネーション萎ちょう病菌、キク白さび病菌、ウリ類べと病菌、オオムギ黒穂病菌、ナシ赤星病菌などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
病原体としての病原性細菌としては、イネ白葉枯病細菌、イネ苗立枯細菌病細菌、イネもみ枯細菌病細菌、イネゴマ葉枯病細菌、タバコ空洞病細菌、タバコ野火病細菌、各種野菜類の軟腐病細菌、斑点細菌病細菌、青枯病細菌、インゲンマメかさ枯病細菌、核果類かいよう病細菌、クワ縮葉細菌病細菌、アブラナ科植物黒腐病細菌、カンキツかいよう病細菌、トマトかいよう病細菌、ジャガイモ輪腐病細菌、ジャガイモそうか病細菌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
病原性ウイルスとしては、イネ萎縮病ウイルス、イネ縞葉枯病ウイルス、ムギ斑葉モザイクウイルス病ウイルス、タバコモザイク病ウイルス、タバコ輪点ウイルス病ウイルス、タバコ条斑ウイルス病ウイルス、カリフラワーモザイクウイルス病ウイルス、ジャガイモモザイク病ウイルス、ジャガイモ葉巻病ウイルス、ジャガイモXウイルス病ウイルス、ジャガイモYウイルス病ウイルス、キュウリモザイク病ウイルス、キュウリ緑斑モザイク病ウイルス、トマト黄化えそ病ウイルス、ダイズ矮化病ウイルス、エンドウ茎えそ病ウイルス、ビート萎縮病ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書において、DNAの「断片」とは、参照DNAの全長よりも短く、少なくともプローブまたはプライマーとしての使用に充分な長さを有するポリヌクレオチドをいう。あるDNAの断片を、それが由来した元のDNAに対する選択的プローブまたは選択的プライマーとして使用するためには、特異的にハイブリダイズし得る断片である必要がある。本明細書においてあるDNAが「特異的にハイブリダイズ」するとは、ペルオキシダーゼ(POX)について使用される場合、少なくとも22種の本発明のPOX DNAを互いに区別して検出または増幅し得ることをいう。選択的プローブには、代表的には、少なくとも10ヌクレオチド長であり、好ましくは少なくとも15ヌクレオチド長であり、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは少なくとも30、40または50ヌクレオチド長であり得、50を超えるヌクレオチド長も使用され得る。選択的プローブは、選択的プライマーを用いたPCR増幅産物として入手され得る。1対のプライマーの少なくとも一方に、選択的プライマーをPCRに使用する場合、選択的プライマーは、代表的には少なくとも9ヌクレオチド長、好ましくは少なくとも10ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも15ヌクレオチド長、さらに好ましくは少なくとも17、18、19、20、21、22、23、24、25、30または50ヌクレオチド長あるいはそれ以上であり得る。
【0055】
本明細書において、各POXについて断片が特異的であるためには、POX保存領域を除いた領域から選択される必要がある。本明細書において、「POX保存領域」とは、本発明におけるPOX間でDNA配列またはアミノ酸配列が保存されている領域をいい、「POX非保存領域」とは、それ以外の領域をいう。「保存されている」とは、ある核酸配列領域において、その配列がコードするポリペプチドの機能を保持するに必要とされる程度にその核酸配列が同一または類似であることをいう。POX保存領域は、代表的には、以下の化1に示す配列アラインメントにおいてボックスで示される部分である。これらの部分は、特に、2つの不変ヒスチジン(hで表される)残基および8つのシステイン残基(c1〜c8で表される)を含む領域として特徴付けられる。
【0056】
【化1】
本明細書において、DNAの「ホモログ」とは、参照DNAのヌクレオチド配列と相同性を有するヌクレオチド配列を有するDNAをいう。ホモログは、代表的には、参照DNAと、ストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドをいう。ペルオキシダーゼ(POX)についていう場合、POX遺伝子の「ホモログ」とは、POX DNA配列と相同性を有するDNA配列を有するDNAであって、その発現特性(例えば、部位特異性、時期特異性、ストレス応答性など)が同一または類似するDNAをいう。
【0057】
本明細書において、あるPOX遺伝子のホモログは、一般的に、参照されるPOXポリペプチドのPOX非保存領域において相同性を有するが、他のPOXポリペプチドのPOX非保存領域とは相同性を有さない。遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、またはストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0058】
塩基配列の同一性の比較は、例えば、配列分析用ツールであるFASTA(Pearson ら(1988)、PNAS 85:2444−2448)を用いてデフォルトパラメーターで算出し得る。
【0059】
POX遺伝子について、発現特性が「同一または類似」であるとは、発現の部位特異性、時期特異性およびストレス応答性のうち少なくとも1つの特性、好ましくは任意の2つの特性の組合せ、より好ましくは全ての特性が同一または類似であることをいう。本明細書において部位特異性について言及する場合、POX遺伝子の根と地上部との発現量の比率を評価して、根部で優勢か、地上部で優勢か、または両部でほぼ均一かの3つに分類したとき、同じカテゴリーに属することを「同一または類似」であるという。時期特異性について言及する場合、POX遺伝子の5日目の芽生えと16日目の芽生えとでの発現量の比率を評価して、5日目(幼若期)に優勢か、16日目(成熟期)に優勢か、または両時期でほぼ均一の3つに分類したとき、同じカテゴリーに属することを、「同一または類似」であるという。ストレス応答性について言及する場合、植物が、化学物質(例えば、パラコート、エテフォン、ジャスモン酸メチル(MeJA)など)および物理的刺激(例えば、紫外線(UV)、切断、摩擦など)のいずれかによるストレスを受けたときの、POX遺伝子の発現量の変化を評価して、特定のストレスへの応答を発現量の増大、発現量の減少、または発現量の無変化の3つに分類したとき、おなじカテゴリーに属することを、「同一または類似」であるという。上記の各発現特性に関して、POX遺伝子の発現量は、下記の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析によって確認され得る。
【0060】
本明細書において、ハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」とは、標的配列に対して相同性を有するヌクレオチド鎖の相補鎖が標的配列に優先的にハイブリダイズし、そして相同性を有さないヌクレオチド鎖の相補鎖が実質的にハイブリダイズしない条件を意味する。ある核酸配列の「相補鎖」とは、核酸の塩基間の水素結合に基づいて対合する核酸配列(例えば、Aに対するT、Gに対するC)をいう。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、そして種々の状況で異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。一般に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列についての熱融解温度(Tm)より約5℃低く選択される。Tmは、規定されたイオン強度、pH、および核酸濃度下で、標的配列に相補的なヌクレオチドの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である。「ストリンジェントな条件」は配列依存的であり、そして種々の環境パラメーターによって異なる。核酸のハイブリダイゼーションの一般的な指針は、Tijssen(Tijssen (1993)、Laboratory Technniques In Biochemistry And Molecular Biology−Hybridization With Nucleic Acid Probes Part I、第2章 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assay」、Elsevier,New York)に見出される。
【0061】
代表的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が約1.0M Na+未満であり、代表的には、pH7.0〜8.3で約0.01〜1.0MのNa+濃度(または他の塩)であり、そして温度は、短いヌクレオチド(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃、そして長いヌクレオチド(例えば、50ヌクレオチドより長い)については少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によって達成され得る。本明細書におけるストリンジェントな条件として、50%のホルムアミド、1MのNaCl、1%のSDS(37℃)の緩衝溶液中でのハイブリダイゼーション、および0.1×SSCで60℃での洗浄が挙げられる。
【0062】
用語「プロモーター」は、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。従って、「プロモーター活性を有する」核酸配列とは、上記のようなプロモーターとしての働きを有する核酸配列をいう。
【0063】
本明細書において、植物におけるペルオキシダーゼ(POX)の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、植物の部位(例えば、根、茎、幹、葉、花、種子、胚芽、胚、果実など)におけるPOX遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、植物の生長段階(例えば、発芽後の芽生えの日数)に応じたPOX遺伝子の発現の特異性をいう。「ストレス応答性」とは、植物に与えられた少なくとも一種のストレスに対して、POX遺伝子の発現が変化することをいう。
【0064】
ここで、「ストレス」または「刺激」とは、植物に対して、物理的、化学的、生物学的に加えられ得る、植物の正常な生長を妨げる因子のことをいい、本明細書において交換可能に使用されうる。ストレスには、例えば、物理的ストレス(光、熱、冷却、凍結、紫外線、X線、切断、摩擦など)、化学的ストレス(酸素ストレス、化学物質、生理活性物質など)、生物学的なストレス(ウイルス、病原体(例えば、イモチ病菌)感染など)などが挙げられる。本明細書において使用される場合、「環境ストレス」とは、地球環境の変化に起因する植物に対するストレスをいい、例えば、オゾン層破壊による紫外線量の増加、大気汚染による活性酸素種、化学物質などが、その主な原因として挙げられる。
【0065】
「酸素ストレス」または「酸化ストレス」とは、酸素および酸素誘導体によってもたらされるストレスをいい、代表的には、活性酸素種(スーパーオキシド、過酸化水素、ハイドロキシルラジカル、一重項酸素など)、オゾン、SOxおよびNOxなどの大気汚染物質などによって引き起こされる。酸化ストレスは、過酸化状態、紫外線や放射線、チトクロームの電子伝達系の異常、ペルオキシゾーム異常増加、高温・低温・化学物質等の非生物的作因、オゾンや二酸化硫黄のような大気汚染物質等が引き起こす「酸化状態」と、細胞内の「抗酸化剤防御機構(スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、ペルオキシダーゼ(POX)、ビタミンE、CおよびA等)」とのバランスが崩れたときに起きる。
【0066】
本明細書において、「根発現型」とは、POX遺伝子またはそのプロモーターの発現について、植物の根において優先的に発現される性質、および植物の根および地上部において同程度に発現される性質のいずれかをいう。特に言及する場合、植物の根および地上部において同程度の発現を示すことを、「根および地上部発現型」と称する。「地上部発現型」とは、植物体の地上部の少なくとも一部において根におけるよりも優先的に発現される性質をいう。これらの性質は、それぞれの部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することにより決定することができる。
【0067】
本明細書において、POX遺伝子またはそのプロモーターの発現が「構成的」であるとは、植物の組織において、その植物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、5日目の芽生えおよび16日目の芽生えの同一または対応する部位のいずれにおいても発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的ペルオキシダーゼは、通常の生育環境にある植物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。POX遺伝子またはそのプロモーターの発現が「ストレス応答性」であるとは、少なくとも1つのストレスが植物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス減少性」という。「ストレス減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、植物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することにより決定することができる。
【0068】
「作動可能に連結される」とは、そのように記載された成分が、それらの有用な機能を奏するように構成されるエレメントの配置をいう。従って、核酸配列に作動可能に連結した所定のプロモーターは、適切な酵素が存在する場合にその配列の発現をもたらし得る。プロモーターは、核酸配列の発現を方向付けるように機能する限り、その配列と連続している必要はない。従って、例えば、転写されたが、未だ翻訳されていない配列の介入が、プロモーター配列と核酸配列との間に存在し得、そしてなおこの核酸配列およびプロモーター配列は、コード配列に「作動可能に連結され」ていると考えられ得る。
【0069】
(種々のイネペルオキシダーゼ)
本発明者らによって、多数のイネペルオキシダーゼ遺伝子がそれぞれ互いに異なる種々の発現特異性を有することが示された。本明細書において、イネペルオキシダーゼは、その発現特異性に応じて、代表的に、A1、A2、B1、B2およびCの少なくとも5クラスに分類され得る。AおよびBの分類は、刺激に対する応答性(誘導性)に基づく。ストレスに対する誘導性を有さないPOXをクラスAに分類し、ストレスに対する誘導性を有するPOXをクラスBに分類する。クラスCには、発現が検出限界以下のものを分類する。
【0070】
A1およびB1には、地中部分に優先的に発現されるか地中部分と地上部分とに同程度に発現される「根発現型」または「根および地上部発現型」のPOXを分類し、他方で、A2およびB2には、主に地上部分に発現されるものを分類する。(分類のまとめを表1に示す。)
本発明者らによる22のPOX遺伝子の発現解析により、A1およびB1に属する酵素が17個、A2およびB2に属するものが4個、Cに属するものが1個と分類された(以下の表1A、表1Bおよび図1もまた参照のこと)。本発明のPOX遺伝子は、以下に詳細に説明するように、ストレスに対して種々の異なる独自の応答性を示すこと、および、地上部におけるよりもむしろ根において主に発現されることが明らかになった。
【0071】
【表1A】
【0072】
【表1B】
グレー部分のPOX遺伝子は、本研究におけるイネイモチ病菌の感染に応答性である。
a DDBJ/EMBL/GenBank登録番号
b Itoら(1994)、ならびにYamamotoおよびSasaki(1994)により記載されたcDNAライブラリー
c R1744(この実験にさらに使用した)を除く、種々の処置に対する21のPOX遺伝子プロモーターの応答、16日齢のイネをの葉身を使用した(Hiragaら、2000)。
略語は、以下のとおりである。EおよびJ:それぞれ、エテフォンおよびジャスモン酸メチルでの処理。N:応答なし。W:創傷。
【0073】
以下に、本発明の範囲内に属する、5つのイネPOX遺伝子、S14493、R2576、R2329、R2184について解説する。
【0074】
S14493は、EST配列に基づいてイネから得られた配列で、本明細書の分類に従えば、以前はA2に属すると考えられていたが、本出願によりB2に属することが明らかになった。この遺伝子は配列番号1で示される遺伝子配列を有する。S14493は地上部で優先的に発現される。遺伝子産物が地上部で優先的に発現されることは、地上部の生長の促進または維持(例えば、茎の伸長など)に優先的に寄与する機能を示唆する。S14493はまた、幼若期と成熟期とで同程度に発現され得る。幼若期および成熟期の芽生えにおいて同程度に発現されることは、植物の生育、伸長、および代謝の全般に関与することを示唆する。この遺伝子に特異的な配列を有するプライマーの例として、S14493FP1(配列番号32)が挙げられる。S14493遺伝子に由来するプロモーターもS14493の発現特異性を反映していると考えられる。S14493遺伝子およびそのホモログならびにそれらに由来するプロモーターを利用することは、植物の特性を改変するのに有用であり得る。
【0075】
R2576は、EST配列に基づいてイネから得られた配列で、本明細書の分類に従えば、B1に属する。遺伝子産物が種々のストレスに対して誘導されることは、R2576は、ストレスに対する植物の防御機構に関与していることを示唆する。具体的には、R2576は、酸素ストレス(例えば、UVおよびパラコート)、傷害情報伝達物質(例えば、MeJA)刺激、エチレン放出因子(例えば、エテフォン)刺激、摩擦ストレス、および病原体接種によって誘導され得る。これらのことは、この遺伝子は、病原体からの防御および活性酸素種の除去について役割を果たしていることを示唆する。R2576はまた、成熟期の芽生えにおいて顕著に発現され得る。成熟期において顕著に発現されることは、植物の成熟期の代謝に必要なこと、例えば、植物ホルモンであるIAA量の調節などに関与することを示唆する。この遺伝子は配列番号3で示される遺伝子配列を有する。推定アミノ酸配列の分析から、このタンパク質産物は細胞外分泌性であることが示唆される。この遺伝子に特異的な配列を有するプライマーの例として、R2576F1(配列番号27)が挙げられる。R2576遺伝子に由来するプロモーターもR2576の発現特異性を反映していると考えられる。R2576遺伝子およびそのホモログならびにそれらに由来するプロモーターを利用することは、植物の特性を改変するのに有用であり得る。
【0076】
R2184もまた、EST配列に基づいてイネから得られた配列で、本明細書の分類に従えば、B1に属する。遺伝子産物が種々のストレスに対して誘導されることは、R2184は、ストレスに対する植物の防御機構に関与していることを示唆する。具体的には、R2184は、酸素ストレス(例えば、UV)および傷害情報伝達物質(例えば、MeJA)刺激、エチレン放出因子(例えば、エテフォン)刺激によって誘導され得る。また、砕片への切断によるストレスによって誘導され得る。従って、このPOXは、特に植物に激しい傷害が起きた場合の防御に関与していると考えられる。これらのことは、この遺伝子は、病原体からの防御および活性酸素種の除去について役割を果たしていることを示唆する。R2184はまた、幼若期の芽生えにおいて顕著に発現され得る。幼若期において顕著に発現されることは、植物の生育および伸長に必要なこと、例えば、細胞壁の合成などに関与することを示唆する。この遺伝子は配列番号7で示される遺伝子配列を有する。推定アミノ酸配列の分析から、このタンパク質産物は、液胞局在性であることが示唆される。この遺伝子に特異的な配列を有するプライマーの例として、R2184FP1(配列番号25)が挙げられる。R2184遺伝子に由来するプロモーターもR2184の発現特異性を反映していると考えられる。R2184遺伝子およびそのホモログならびにそれらに由来するプロモーターを利用することは、植物の特性を改変するのに有用であり得る。
【0077】
R2693もまた、EST配列に基づいてイネから得られた配列で、本明細書の分類に従えば、B1に属する。遺伝子産物が種々のストレスに対して誘導されることは、R2693は、ストレスに対する植物の防御機構に関与していることを示唆する。具体的には、R2693は、酸素ストレス(例えば、UV)および傷害情報伝達物質(例えば、MeJA)刺激、エチレン放出因子(例えば、エテフォン)刺激によって誘導され得る。また、砕片への切断によるストレスによって誘導され得る。従って、このPOXは、特に植物に激しい傷害が起きた場合の防御に関与していると考えられる。これらのことは、この遺伝子は、病原体からの防御および活性酸素種の除去について役割を果たしていることを示唆する。R2693はまた、幼若期の芽生えにおいて顕著に発現され得る。幼若期において顕著に発現されることは、植物の生育および伸長に必要なこと、例えば、細胞壁の合成などに関与することを示唆する。この遺伝子は配列番号9で示される遺伝子配列を有する。推定アミノ酸配列の分析から、このタンパク質産物は細胞外分泌性であることが示唆される。R2693遺伝子に由来するプロモーターもR2693の発現特異性を反映していると考えられる。R2693遺伝子およびそのホモログならびにそれらに由来するプロモーターを利用することは、植物の特性を改変するのに有用であり得る。
【0078】
R2329もまた、EST配列に基づいてイネから得られた配列で、本明細書の分類に従えば、B2に属する。遺伝子産物が種々のストレスに対して誘導されることは、R2329は、ストレスに対する植物の防御機構に関与していることを示唆する。具体的には、R2329は、酸素ストレス(例えば、UVおよびパラコート)、傷害情報伝達物質(例えば、MeJA)刺激、エチレン放出因子(例えば、エテフォン)刺激、摩擦ストレス、および切断ストレスによって誘導され得る。このPOXは、広範なストレスに対して誘導性であることは、種々のストレスに対して初期防御の役割を果たしていることを示唆する。R2329はまた、成熟期の芽生えにおいて顕著に発現され得る。成熟期において顕著に発現されることは、植物の成熟期の代謝に必要なこと、例えば、植物ホルモンであるIAA量の調節などに関与することを示唆する。この遺伝子は配列番号5で示される遺伝子配列を有する。推定アミノ酸配列の分析から、このタンパク質産物は細胞外分泌性であることが示唆される。R2329遺伝子に由来するプロモーターもR2329の発現特異性を反映していると考えられる。R2329遺伝子およびそのホモログならびにそれらに由来するプロモーターを利用することは、植物の特性を改変するのに有用であり得る。
【0079】
(各遺伝子およびそのホモログの取得方法ならびに発現特異性の確認方法)
本発明のペルオキシダーゼ(POX)遺伝子およびこれとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするPOX遺伝子のホモログは、公知のPOX遺伝子によりコードされるアミノ酸配列の非保存領域に対応する縮重プライマー対を用いて、単離され得る。このプライマー対を用いて、任意の対象植物のcDNAまたはゲノムDNAをテンプレートとして用いてPCRを行い、その後、得られた増幅DNA断片をプローブとして用いて、同じ対象植物のcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーをスクリーニングし得る。次いで、陽性クローンを選択し、配列決定を行い本発明のPOX遺伝子またはそのホモログの特徴付けを行い得る。
【0080】
このようにして得られた本発明のPOX遺伝子またはそのホモログが所望の発現特異性を有することは、例えば、当該遺伝子またはその断片を選択的プローブとして用いて、元の植物における発現特性を分析することで確認し得る。本明細書に開示の方法に従って当該遺伝子を任意の植物に導入して形質転換植物を作出することで確認してもよい。所望の発現特性に基づいて適切な植物材料からRNAサンプルを調製し、このRNAサンプルを用いてノーザンブロット分析を行い、発現量を確認し、比較することができる。
【0081】
(プロモーターの特定)
上記の各遺伝子のプロモーターは、周知のように、コード領域の上流配列から取得することができる。プロモーターは、代表的には、翻訳開始点の上流約2kbの範囲に存在する配列として定義されるが、これに限定されない。
【0082】
プロモーター領域の特定は、当該分野で周知の方法に基づいて実施され得る。簡単に述べると、プロモーター領域の候補配列およびレポーター遺伝子(例えば、GUS遺伝子)を作動可能に連結した発現カセットを構築する。構築した発現カセットを用いて適切な植物細胞を形質転換し、形質転換細胞を植物に再生する。形質転換植物におけるレポーター遺伝子の発現を、適切な検出系(例えば、色素染色)を利用して検出する。検出結果に基づいて、プロモーター領域およびその発現特性を確認し得る。
【0083】
(発現特異的POX遺伝子を利用する植物の改変方法)
上記のように、本発明のPOX遺伝子(構造遺伝子)およびプロモーターは、それぞれ、植物の特性を所望の様式で改変するための材料として有用であり得る。改変すべき特性は、植物のストレスに対する抵抗性、および植物の生育または代謝に関連する特性(例えば、生育の速度または期間)を含むがこれらに限定されない。
【0084】
本発明のPOX遺伝子は、適切なプロモーターに作動可能に連結された発現カセットとして、植物細胞に導入され得る。また、本発明のプロモーターは、当該分野において周知の方法を用いて、適切な異種遺伝子に作動可能に連結された発現カセットとして、植物細胞に導入され得る。本明細書において、「発現カセット」とは、本発明におけるPOX遺伝子のプロモーター活性を有する核酸分子、これに作動可能に(すなわち、当該DNAの発現を制御し得るように)連結された植物遺伝子プロモーターとを含む核酸配列、ならびに、本発明のプロモーターと、これに作動可能に(すなわち、インフレームに)連結された異種遺伝子とを含む核酸配列をいう。天然のペルオキシダーゼ遺伝子の発現カセット自体を、必要に応じて他の調節エレメントと組み合わせて使用することもまた、本発明の範囲に含まれる。好ましい発現カセットは、特定の制限酵素で切断され、容易に回収され得る発現カセットである。
【0085】
本発明のプロモーターに連結され得る「外来遺伝子」とは、そのプロモーターが由来するPOX遺伝子以外の本発明のPOX遺伝子、もしくはPOX遺伝子以外の植物における内因性遺伝子、または植物に対して外来の遺伝子(例えば、動物、昆虫、細菌および真菌に由来する遺伝子)であって、その遺伝子産物の発現が発現カセットが導入される植物において所望される任意の遺伝子をいう。所望される外来遺伝子としては、抗菌タンパク質をコードする遺伝子、レポーター遺伝子、病原抵抗性を付与する遺伝子および組織修復に関与する遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。抗菌タンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、ディフェンシンをコードする遺伝子、α−チオニンをコードする遺伝子、リゾチームをコードする遺伝子、センチニクバエ由来のザルコトキシン1A、エンバク由来の葉特異的チオニンなどが挙げられるが、これらに限定されない。病原抵抗性を付与する遺伝子としては、例えば、ファイトアレキシン合成系に関与する遺伝子、キチナーゼをコードする遺伝子、グルカナーゼをコードする遺伝子、感染特異的タンパク質をコードする遺伝子、サリチル酸合成に関与する遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明のPOX cDNAに連結され得る「植物遺伝子プロモーター」は、植物で発現する任意のプロモーターを意味する。例えば、タバコPR1aプロモーターなどのある種のストレスにより発現が誘導されるプロモーター、CaMV35Sプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーター(Pnos)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0087】
上記の発現カセットは、好ましくは、植物発現ベクターの形態が利用される。「植物発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主植物の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子および、エンハンサーを含み得る。植物発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。本発明に用いる植物発現ベクターはさらにT−DNA領域を有し得る。T−DNA領域は、特にアグロバクテリウムを用いて植物を形質転換する場合に遺伝子の導入の効率を高める。
【0088】
「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターとしては、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。
【0089】
「薬剤耐性遺伝子」とは、その遺伝子産物が宿主において発現される場合に、宿主に薬剤耐性を付与する遺伝子をいう。薬剤耐性遺伝子は、形質転換植物の選抜を容易にするものであることが望ましく、カナマイシン耐性を付与するためのネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、およびハイグロマイシン耐性を付与するためのハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子などが好適に用いられ得る。
【0090】
「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。エンハンサーとしては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好適である。エンハンサーは複数個用いられ得る。
【0091】
植物発現ベクターの構築に用いるベクターとしては、pBI系のベクター、pUC系のベクターあるいはpTRA系のベクターが好適に用いられ得る。pBI系およびpTRA系のベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的の遺伝子を導入し得る。pBI系のバイナリーベクターまたは中間ベクター系が好適に用いられ得る。例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3などが挙げられる。これらのベクターは、植物に導入され得る領域(T−領域)の遺伝子と、マーカー遺伝子として植物プロモーターの支配下で発現されるNPT2遺伝子(カナマイシン耐性を付与する)とを含む。pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入し得る。例えば、pUC18、pUC19、pUC9などが挙げられる。植物発現ベクターは、当業者に周知の遺伝子組換え技術を用いて作製され得る。
【0092】
植物細胞への植物発現ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法および直接細胞に導入する方法、が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Nagel ら(1990)、Microbiol.Lett.,67,325)が用いられ得る。この方法は、まず、例えば植物発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをGelvinら(Gelvinら編(1994)、Plant Molecular Biology Manual (Kluwer Academic Press Publishers))に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法(Shimamotoら(1989)、Nature、338:274−276;およびRhodesら(1989)、Science、240:204−207を参照のこと)、ならびにパーティクルガン法(Christouら(1991)、Bio/Technology 9:957−962を参照のこと)が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
【0093】
植物発現ベクターを導入された細胞は、まずカナマイシン耐性などの薬剤耐性で選択される。次いで、当該分野で周知の方法により、植物組織、植物器官および/または植物体に再生され得る。さらに、植物体から種子が取得され得る。導入した遺伝子の発現は、ノーザン法またはPCR法により、検出し得る。必要に応じて、遺伝子産物たるタンパク質の発現を、例えば、このタンパク質に対する抗体を使用して、ウェスタンブロット法により確認し得る。また、本発明のPOXプロモーターの発現の特性および強度を調べるために、POXプロモーターに外来遺伝子としてレポーター遺伝子(例えば、β−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子)を連結させて発現を検出する方法がある。β−グルクロニダーゼは、D−グルクロン酸のβ型配糖体に作用して、そのグルクロニド結合を加水分解する酵素であり、高等植物には存在しない場合が多い。イネおよびタバコにはGUSは存在しないことが分かっているため、本明細書ではGUSをレポーター遺伝子として使用し、GUS活性を、1mgのタンパク質あたり1分間に遊離した4−MU(4−メチル−ウンベリフェロン)の量として表す。本明細書において使用されるGUS活性の測定方法は、概して、次のとおりである。植物組織約10mgを、エッペンドルフチューブに入れ、約5mgの炭化ケイ素および200μlの溶解緩衝液(50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、10mM EDTA−2Na(pH7.0)、0.1% Triton X−100、および0.1% サルコシルを含有する)を添加して、−80℃で急速に凍結する。30℃の水浴中で急速に融解した後、必要に応じて溶解緩衝液(4℃)で希釈する。これを、12,000rpmで10分間遠心分離する。上清5μlを新しいチューブに移す。サンプルチューブに、酵素溶液(1〜10μl)および溶解緩衝液(4℃)を入れて総量を120μlとする。この混合物に、80μlの基質溶液(5mM 4−MUG(溶解緩衝液中):MeOH=1:1)を添加し、ボルテックスミキサーで攪拌する。この混合物を37℃で30分間インキュベートする(コントロールを0分とする)。その後、1mlの反応停止溶液(0.2MNa2CO3水溶液)を添加して、反応を停止させる。反応が停止した後、蛍光分光光度計(モデルFP−777(JASCO)またはモデルRF−540(島津製作所))を使用し、励起:365nm、発光:それぞれ、448nmまたは450nmにより蛍光を定量的に測定する。
【0094】
本発明のPOX遺伝子およびプロモーターは、単子葉植物だけでなく双子葉植物の改変にも利用し得る。これは、両植物間でゲノム構造が類似していることにより説明される(Mooreら、Current Biology(1995)、Vol.5、737−739、および長村(Nagamura)ら(1997)、農業生物資源研究所ニュースNo.57、1−2)。特に好ましい対象植物としては、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガム、カンキツ類、白菜、レタス、タバコ、モモ、ジャガイモ、トマト、およびリンゴなどが挙げられる。POX遺伝子を植物に導入できることは、シロイヌナズナ(吉田(Yoshida K.)ら(1998)、植物の化学調節、Vol.33、No.2、121〜125)、ヤマナラシ(河岡(Kawaoka A.)ら(1998)、植物の化学調節、Vol.33、No.2、125〜127)、サツマイモ(郭(Kwak S−S.)ら(1998)、植物の化学調節、Vol.33、No.2、127〜130)、およびイネ(平賀(Hiraga S.)ら(1998)、植物の化学調節、Vol.33、No.2、131〜136)などで実証されている。
【0095】
再生した形質転換が、所望の改変された特性を有することは、当該特性の種類に応じて適切なアッセイを行うことにより確認し得る。例えば、ストレス耐性として病原性細菌に対する耐性の付与が意図される場合、再生した植物体にモデル菌、例えばタバコ野火病菌(Pseudomonas syringae pv.tabaci)を接種し、コントロールの植物体と比較して接種による変化の有無を観察することで、特性の変化を評価し得る。
【0096】
植物発現ベクターが導入された植物組織または植物細胞から完全な植物を再分化させるには、このような形質転換植物組織または形質転換植物細胞を、再分化培地などにおいて培養すればよい。発根した幼植物体は、土壌に移植して栽培することにより植物体とすることができる。再分化の方法は、使用される植物組織または植物細胞の種類により異なり、適切な再分化方法の選択は、当業者によって容易になされ得る。様々な文献において、各種の植物(例えば、イネ(Fujimura,1995,Plant Tissue Culture Lett.2,74)、トウモロコシ(Shillito,1989,Bio/Technol.7,581、Gorden−Kamm,1990,Plant Cell 2,603)、ジャガイモ(Visser,1989,Theor.Appl.Genet.78,594)、タバコ(Nagata,1971,Planta 99,12)など)の再分化の方法が記載されている。
【0097】
本発明の方法によって作出された遺伝子組換え植物が、病原体に対する抵抗性を有しているか否かは、例えば、Methods for Isolation,Cultivation,Inoculation of Plant Pathogens,Japan Plant Protection Associationに記載されている試験方法により容易に確認し得る。例えば、イネいもち病の場合は、特定のイネ品種にその品種に親和性のイネいもち病菌のレースを接種した場合の病斑形成や病斑面積率の程度を、原品種と組換え体とを比較することによって検定することが可能であるが、これに限定されることはない。例えば、イネいもち病の抵抗性検定については、今回の実験で使用した噴霧接種法の他に、イネの葉に接種用パンチで穴を開け、その上にいもち病菌胞子のペーストをのせて感染させるパンチ接種法、針の先にいもち病菌胞子ペーストを付けて葉を突き刺す針接種法が挙げられる。これらの接種法では、病斑は葉の傷口から広がるように発病するので、病斑の伸展長を測定することによって、抵抗性強度の検定を行い得る(例えば、K.Ohataら、Methods for Isolation,Cultivation,Inoculation of Plant Pathogens、第37−41頁、Japan Plant Protection Association(1995)を参照のこと)。
【0098】
あるいは、形質転換植物のストレス抵抗性は、UV処理に対する抵抗性、スーパーオキシド発生型除草剤(例えば、パラコート)処理に対する抵抗性、および/または塩ストレスに対する抵抗性などとして評価され得る。
【0099】
本発明に従って、植物細胞、植物組織、植物器官または植物体に導入されたPOXプロモーターおよびこれに作動可能に連結された外来遺伝子は、植物体から植物体へ種子を媒介として後代へと遺伝され得る。このため、本発明の植物体の花粉あるいは子房から形成される種子においても導入したPOXプロモーターおよび外来遺伝子が存在し、遺伝形質が子孫へと受け継がれ得る。従って、本発明のPOXプロモーターおよび外来遺伝子が導入された植物は、例えば、種子による増殖によって、病原体感染などのストレスに対する抵抗性が失われることなく、増殖が可能である。また、植物組織細胞を用いた大量培養法や従来から行われている挿木、接木、株分けなどによっても、遺伝形質が失われることなく、増殖が可能である。このような増殖によって得られた後代または子孫もまた、本発明によって包含される。
【0100】
(遺伝子発現アッセイ)
本発明はまた、本発明のペルオキシダーゼ遺伝子またはそのセット、あるいはプロモーター由来の配列を含むオリゴヌクレオチドを用いて、植物の特性を解析するための方法を提供する。このような方法としては、ノーザンブロット分析などが挙げられる。そのような方法の概説としては、例えば、Sambrook Jら (1987) Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY 、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NYなどが挙げられる。
【0101】
(ディファレンシャルディスプレイ技術)
本発明はまた、ディファレンシャルディスプレイ(differentialdisplay)技術を用いた遺伝子解析に用いられ得る。
【0102】
ディファレンシャルディスプレイ技術とは、発現変動する遺伝子を検出または同定するための方法である。この方法では、2つ以上のサンプルからcDNAをそれぞれ作製し、任意のプライマーセットを用いてPCRにより増幅し、その後、生成された複数のPCR産物をゲル電気泳動により分離し、パターン化した後、各バンドの相対的なシグナル強度変化をもとに、発現変動遺伝子がクローニングされる。
【0103】
以上、本発明のPOXプロモーターおよびそれらの利用方法について、詳説してきた。以下に、本発明の例示である、実施例を記載する。
【0104】
【実施例】
以下に記載する実施例は、本発明の例示であり、いかなる様式においても本発明を限定するものではない。従って、当業者は、実施例に記載された事項に基づき、特許請求の範囲内において、本発明に任意の改変を施し得る。
【0105】
なお、以下の実施例において使用した試薬類は、特記した場合を除いて、和光純薬、寶酒造から入手した。
【0106】
(材料および方法)
(イネの生育)
実験系統として、イモチ病感受性のイネ(Oryza sativa cv.Nipponbare)(本実施例において以下、親和性(compatible)または−Pi−iと称する)、イモチ病抵抗性のイネ(Oryza sativa cv.Nipponbare)(本実施例において、非親和性(incompatible)、IL−7または+Pi−iと称する。(国立農業研究センター(Nat.Agr.Res.Cent.of Japan)より入手可能)を使用した。イネ植物を温室(20℃〜32℃)において栽培し、必要に応じて、3および4葉期、5葉期、6葉期、8葉期、または9葉期まで生育させてから、以下の実験に使用した。別段記載されない限り、イモチ病感受性のイネを使用した。
【0107】
(イモチ病菌胞子噴霧液の調製)
イモチ病菌(M.grisea レース003)を0.05% Tween−20溶液中に濃度3×105胞子/mlに懸濁することにより、イモチ病菌胞子噴霧液(以下、便宜上「噴霧液」という)を調製し、以下の実験に使用した。
【0108】
(実施例1) POX遺伝子の分類
(イモチ病菌によるPOX遺伝子の誘導)
上記の表1Bに示される各々のPOX遺伝子を、まず、イモチ病菌感染に対する誘導性に従って分類した。続いて、次いで、プロベナゾール(PBZ;イモチ病予防農薬(明治製菓からオリゼメート粒剤として入手可能))、ジャスモン酸(JA)および創傷、の各処理後の誘導性により、分類した。簡潔には、以下のとおりである。
【0109】
親和性イネ(8葉期)に、上記の噴霧液を、24個体あたり100ml噴霧することによりイモチ病菌を接種した。親和性イネを、温室にて25℃で6時間、12時間および1日インキュベートした後に、それぞれ最上部の葉身を採取し、ATA法(Nagyら(1988)、Plant Molecular Biology Manual(Glevinら編)、B4:1−29頁、Kluwer Academic Publiishers、Dordrecht、Netherlands)を用いて単離した総RNAを用いて、RNAゲルブロット分析(Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY)により行った。
【0110】
表1Bに示した22のイネPOX遺伝子の3’非翻訳領域をカバーするcDNAフラグメントを、PCR法により増幅し、この増幅フラグメントを各POX遺伝子に特異的なプローブとして、RNAゲルブロット分析に使用した。各クローンに特異的なプローブを作製する際に使用した主な配列(配列番号19〜35)を表2に示す。
【0111】
【表2】
上記RNAを電気泳動後、転写したメンブレン(HyBond N、アマシャム)に、特異的プローブをハイブリダイズさせた後、0.1%SDSを含有する2×SSCを用いて、5分間(1回)および10分間(2回)、室温で洗浄し、その後、0.1%SDSを含有する1×SSCを用いて、65℃で15分間で3回洗浄した。次いで、オートラジオグラフィー用フィルム(XA OMT、コダック)を用いて、−80℃でオートラジオグラフィーに一晩以上かけた。取り出したフィルムを、BAS2000 Bioimaging分析機(富士写真フィルム)またはPhosphorImager SI(モリキュラーダイナミクス)を、製造業者の指示に従って用いて分析した。ロードしたRNA量の確認は、メチレンブルー染色したリボソームRNA(rRNA)のレベルをモニターすることによって行った。各POXの発現量を、このrRNAのレベルを標準として用いて比較した。
【0112】
(PBZ、JAおよび創傷によるPOX遺伝子の誘導)
上記でイモチ病菌感染により誘導されたPOX遺伝子を、PBZ、JA、および創傷での処理に対する誘導性に従って分類した。プロベナゾールを、100mg/mlに希釈し、接種液として使用した。8葉期のイネに、PBZ接種、JA接種、および直径0.5mmの針で1cm2あたり9つの孔を開けることによって、創傷を施したこと以外は、上記の方法と同様にRNAゲルブロット分析を行った。
【0113】
イモチ病菌感染接種、PBZ接種、JA接種、および創傷処理に対する誘導性により、使用した22のPOX遺伝子は、図1に示されるように分類されることが分かった。特に、R2576、S14493は、いずれの処理によっても誘導され、R2693はPBZおよびJAを接種することにより誘導されることが分かった。R2329は、創傷処理により誘導され、JA接種によりわずかに誘導されることが分かった。
【0114】
特に、上記の4つのPOX遺伝子(S14493、R2576、R2184、およびR2693)は、過敏感反応および傷害に関与する重要なシグナル伝達物質であるジャスモン酸接種により誘導される(図8もまた参照のこと)ことから、植物組織に病変部が現れる前に、植物体が病原体に感染したか否かを検出するために特に有用であると考えられる。
【0115】
(実施例2) イモチ病菌に対する親和性イネのPOX遺伝子の発現パターンと非親和性イネのPOX遺伝子の発現パターンとの比較
実施例1に記載した条件を用いて、親和性イネおよび非親和性イネともに8葉期まで生育させて実験に使用した。これら8葉期のイネを用いて、病原体ストレスとしてのイモチ病菌接種に対するイネペルオキシダーゼの誘導性について分析した。イモチ病菌の接種を、実施例1に記載されるように行った。
【0116】
接種して2日後、3日後、4日後、5日後および8日後の葉身の病変部を図2Aに示す。それぞれのイネの病変部の大きさの差異を、図2Bのグラフに示す。これらの結果から、親和性イネでは、感染3日目に小さな壊死病変の形成が確認され、4〜5日目以降は病変が急激に拡大し、イモチ病菌の胞子形成が確認される一方で、耐病性イネでは、親和性イネと同様に小さな壊死病斑の形成が確認されたが、感染2日目以降、その病変部の大きさにほぼ変化がないことが観察された。
【0117】
(実施例3) 親和性イネにおけるPOX遺伝子の器官特異的発現
実施例1において分類した5つのPOX遺伝子の特徴をより明らかにするために、3葉期、5葉期、6葉期および9葉期の親和性イネを使用して、これらPOX遺伝子の器官特異的発現を(それぞれの段階の根、子葉鞘、最上部の葉身、および円錐花序について)、RNAブロット分析により調べた。結果を図3に示す。この結果は、POX遺伝子の構成的な発現が、主に、根および子葉鞘において観察され、5葉期〜9葉期の葉身においては、POX遺伝子がほとんど発現していない一方で、3葉期の葉身においてはR2576、R2184およびR2693が非常に強く発現していることを示す。このことは、これらPOX遺伝子が、成体イネの葉身においては発現しないが、幼若期のイネで構成的に発現することを示している。
【0118】
(実施例4) イモチ病菌接種後の植物についてのRNA発現パターンの解析次に、POX遺伝子とイモチ病との関係について調べた。実施例1に記載した条件を用いて、親和性イネおよび非親和性イネともに8葉期まで生育させて実験に使用した。これら8葉期のイネを用いて、病原体ストレスとしてのイモチ病菌接種に対するイネペルオキシダーゼの発現パターンについて分析した。イモチ病菌の接種を、実施例1に記載されるように行った。偽接種(コントロール)として、0.05% Tween−20水溶液を接種した。接種直後、6時間後、12時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、および5日後に、イネの最上部の葉身を採取した。これら採取時間を、実施例1で親和性イネで病変が認められた3日目を境にして、接種後0〜2日目までの第1相と、3日目以降の第2相に分けた。実施例1と同様に、総RNAを抽出し、RNAゲルブロット分析に供した。イモチ病菌を接種した親和性イネと非親和性イネにおけるそれぞれのPOX遺伝子のゲルブロット分析における比較結果を図4に示す。半定量的発現パターンの比較結果もまた、図5に示す。R2576、R2329、R2184、R2693の4つのPOX遺伝子は、偽接種したイネにおいて、1日目および2日目に一過性に発現された(図4左パネル)。イモチ病菌を接種した親和性イネにおいては、S14493、R2576、R2329、R2184およびR2693のいずれも5日目に強く発現された。S14493、R2576およびR2329は、接種後6時間で発現された。この時点で、偽接種したイネにおいては、これらのPOX遺伝子は、発現していなかった。R2184およびS2693については、接種1日後に発現された。イモチ病菌を接種した非親和性イネにおいては、S14493、R2576、R2329、R2184およびR2693のいずれも接種後1日目までに発現され、特にR2576は、接種後3時間目という短時間で発現された(図6もまた参照のこと)。R2329は、親和性イネにおいては接種後6時間目から4日後までは低レベルで発現され、接種後5日目には高レベルで発現している。一方、非親和性イネにおいて、R2329は接種後6時間目に発現され、5日目まで高レベルでの発現が維持されていた。従って、親和性イネおよび非親和性イネいずれにおいても、これら5つのPOX遺伝子は、第1相において主に発現されることが分かった。
【0119】
(実施例5) プロベナゾール処理後の植物についてのPOX遺伝子の発現パターンの解析
実験植物として、8葉期の親和性イネを使用した。100mg/mlのPBZを噴霧した後の5つのPOX遺伝子の応答を、8葉期の日本晴の最上部の葉身において測定した。上記のように、総RNAをRNAゲルブロット分析に供して、本発明の5つのPOX遺伝子について調べた。結果を図7に示す。S14493、R2576、R2184、R2693は、接種して6時間後に高レベル発現され、R2329は、6時間後に低レベルで発現され、接種して5日後においても低レベルのままであった。
【0120】
(実施例6) POX遺伝子の発現に対する防御シグナル化合物の効果
実験植物として、8葉期の親和性イネを使用した。1mM ジャスモン酸、3mM サリチル酸、および1mM アミノシクロプロパン−1−カルボキシレート(ACC)溶液を、それぞれ8葉期のイネの最上部の葉身に噴霧して0日後、6時間後、および1日後に、それぞれの最上部の葉身から総RNAを抽出し、上記のように、RNAゲルブロット分析に供した。結果を、図8に示す。ゲルブロット分析において、R2576、R2184、およびR2693がジャスモン酸を噴霧して1日後に高レベルで発現された。ACCまたはサリチル酸を噴霧して1日後には、上記4つのPOX遺伝子が発現されたが、ジャスモン酸と比較すると、それらの発現はあまり高くなかった。
【0121】
(実施例7) 創傷に対するイネPOX遺伝子の応答
実験植物として、8葉期の親和性イネを使用した。イネの最上部の葉身に、直径0.5mmの針で1cm2あたり9つの孔を開けることによって、傷をつけた。示された時間の後に、最上部の葉身から総RNAを抽出し、上記のように、RNAゲルブロット分析に供し、5つのPOX遺伝子の発現パターンを調べた。結果を図9に示す。RNAゲルブロット分析により、S14493、R2576、およびR2329は、創傷を与えてわずか6時間という短い期間で発現され、その発現は、6時間から4日間にわたって続いた。
【0122】
図7、8および9から理解されるように、上記5つのPOX遺伝子は、イモチ病菌による感染により誘導されたが、SAおよびACCによっては誘導されず、JA誘導性POX遺伝子であるR2576およびR2184は、創傷によっても誘導された。しかし、JA誘導性POX遺伝子であるR2329は、ジャスモン酸処理には、ほとんど応答しなかった。このように、これらPOX遺伝子は、個々に、プロベナゾール(PBZ)、ジャスモン酸(JA)、アミノシクロプロパン−1−カルボキシレート(ACC)、およびサリチル酸(SA)による誘導に対して、定性的にも定量的にも独自の発現パターンを示す。
【0123】
(実施例8) POXプロモーター::GUSを含むベクターの構築
植物形質転換用ベクターを作製するために、pBI101を改変して、pBI121Hmを構築した。概略は以下のとおりである。pBI101(Jeffersonら、1997)、pGI221(35S:イントロン−GUS;Ohtaら、1990)およびpLAN101MHYGを用いて、5つのPOXプロモーターそれぞれについて、POXプロモーター::GUSを含むバイナリベクターを構築した。
【0124】
具体的には、基本骨格をなすpBI101ベクターは、Jefferson et al.EMBO J.,6 3901−3907に記載されるものであり、CLONTECHから販売されるものを利用した。35S:イントロン−GUSを含むpIG221は、Ohta S et al.,Plant CellPhysiol.31,805−813に記載されるものである。Hygr(ハイグロマイシン耐性遺伝子)を含むpLAN101MHYGは、Dr.Ko Shimamotoから入手したが、ハイグロマイシン耐性遺伝子を持つプラスミドであれば、どのようなものであっても利用することができ、Invitrogen、Clontechなどから市販されている。
【0125】
まず、pBI101ベクターを、BamHIとPstIとで消化した。pIG221に含まれる35S:イントロン−GUSをSst1とPst1とで消化することによって切り出した。次にHygrは、pLAN101MHYGをBamH1とSst1とで消化することによって切り出した。これらの消化は、制限酵素を入手した寶酒造が提供するUniversal buffer中のそれぞれの酵素の組み合わせで適切なものを利用することによって行った。
【0126】
このようにして得られたpIG121Hmをバイナリーベクターの基本骨格として用い、35Sプロモーターの代わりに本発明のプロモーター配列を用いることによって、そのプロモーター活性を測定した。プロモーター活性はGUSによって観察することができる。各々のプラスミドの概略図を図10BおよびCに示し、以下にその作製法を概説する。
【0127】
上述のように作製したpIG121HmをHindIIIまたはPstIと、XbaIまたはBamH1との組み合わせを用いて消化して35Sプロモーターを取り除き、これに各々のPOX由来プロモーター配列を挿入して図10BおよびCに示される構造を作製した。
【0128】
R2693由来プロモーターが入ったpIG2693GUSは、BamHIとPstIとを用いた消化によって断片を調製し、この断片を消化されたpIG121Hmに標準的なライゲーションを行うことによって連結した。
【0129】
R2184由来プロモーターが入ったpIG2184GUSは、BamHIとXbaIとを用いて消化断片を生成し、この断片を消化された上述のpIG121Hmに標準的なライゲーションを行うことによって連結した。
【0130】
R2184の0.6kbの断片が入ったpIG2184AGUSは、R2184からHindIIIとBamHIとを用いて消化断片を生成し、この断片を上述の消化pIG121Hmに標準的なライゲーションを行うことによって連結した。
【0131】
R2329が入ったpR2329GUSは、HindIIIとXbaIとを用いて消化して断片を生成し、この断片を上述の消化pIG121Hmに標準的なライゲーションを行うことによって連結した。
【0132】
これらのベクターを用いて各々のプロモーターの活性を測定し、特性を特徴付けた。
【0133】
(R2184プロモーターおよびR2329プロモーターの最小単位の決定)POX遺伝子R2184の削りこみを行うために、制限酵素として、XbaI、BamHIおよびHindIIIを使用した。緩衝液としては、Universal Buffer Set(寶酒造)の中の適切なものを使用した。適切な緩衝液中、XbaIおよびBamHIを使用して消化し、R2184を消化し、1993bp(R1aと称する)のプロモーターフラグメントを得た。また、これをさらにHindIIIを使用して制限消化し、それぞれ、548bp(R1cと称する)および172bp(R1eと称する)のプロモーターフラグメントを得た。R1aの挿入については、pIG121Hmを、BamHIおよびXbaIで適切な緩衝液中で消化し、プラスミドを直鎖状にした。この直鎖状にしたプラスミドと得られたフラグメントR1aを連結し、形質転換用ベクターpIGR1aを得た。同様に、R1cおよびR1eの挿入については、pIG121Hmを、BamHIおよびHindIIIで制限消化して直鎖状にし、これと得られたR1cまたはR1eを連結して、形質転換用プラスミドpIGR1cおよびpIGR1eを構築した。
【0134】
POX遺伝子R2329については、制限酵素として、HindIIIおよびXbaIを使用した。これらの酵素を使用してR2329を消化し、制限消化した断片をゲル電気泳動に供すると、3つのバンド(1807bp、748bp、および156bp)が得られた。ゲルからそれぞれのバンドを切り出し、このバンドからDNAを抽出して、プロモーターフラグメントを得た(それぞれ、R3a、R3c、およびR3e)。これら3つの得られたフラグメントを、XbaIおよびHindIIIを用いて消化したpIG121Hmに適切な緩衝液中で連結して、バイナリベクターpIGR3a、pIGR3c、およびpIGR3eを構築した。
【0135】
POX遺伝子R2576の削りこみを行うために、制限酵素としてXbaIおよびBamHIを使用した。これらの酵素を使用して適切な緩衝液中でR2576を消化し、2192bpのR2576プロモーターフラグメント(R5aと称する)を得た。得られたフラグメントを、BamHIおよびXbaIを使用して制限消化したpIG121Hmに連結して、バイナリベクターpIGR5を構築した。
【0136】
POX遺伝子R2693の削りこみを行うために、制限酵素としてXbaIおよびBamHIを用いて消化し、1317bpのR2693プロモーターフラグメント(R6と称する)を得た。得られたフラグメントを、XbaIおよびBamHIを用いて消化したpIG121Hmに連結して、バイナリベクターpIGR6を得た。概略図を図10および11に示す。
【0137】
(実施例9)POXプロモーター::GUSバイナリベクターを用いたイネの形質転換
実施例8において生成した種々のPOXプロモーターを含むベクターを用いて、親和性イネのカルスを形質転換し、再分化させて、トランスジェニックイネを生産した。
【0138】
その具体的な手順は以下のとおりである。
【0139】
1.前培養
親和性イネの種子を、適切な濃度のオーキシン(2,4−D)を含むN6D培地(30g/L スクロース、0.3g/L カザミノ酸、2.8g/L プロリン、2mg/L 2,4−D、4g/L ゲルライト、pH8.8)に播種し、27〜32℃にて5日間インキュベートした。この間に種子は発芽した。
【0140】
2.植物発現ベクター
アグロバクテリウムを形質転換するための植物発現用ベクターとして、図10に示されるpIGR1a、pIGR1c、pIGR1e、pIGR3a、pIGR3c、pIGR3e、pIGR5、pIGR6ならびに図10BおよびCに示されるpIG2329GUS、pIG2184GUS、pIG2184GUS、pIG2693GUSを使用した。これらベクターを使用して、Hoodらの方法(Hoodら、J.Bacteriol.,168:1291−1301(1986))に従って、アグロバクテリウムEHA101を形質転換した。EHA101は、ヘルパープラスミドのvir領域が強病原性アグロバクテリウムA281由来の菌である。
【0141】
1.3 アグロバクテリウム感染
形質転換されたアグロバクテリウムの懸濁液に、前培養した上記種子を浸漬した後、2N6−AS培地(30g/L スクロース、10g/L グルコース、0.3/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−D、10mg/L アセトシリンゴン、4g/L ゲルライト、pH5.2を含有する)に移植した。遮光して3日間、28℃にてインキュベートした。
【0142】
1.4 除菌および選抜
インキュベートした後、500mg/L カルベニシリンを含有するN6D培地を使用して、種子からアグロバクテリウムを洗い流した。次いで、形質転換された種子の選抜を以下の条件下で行った。
【0143】
第1回目の選抜:カルベニシリン(500mg/L)およびハイグロマイシン(25mg/L)を補充した、2mg/Lの2,4−Dを含むN6D培地上に種子を置き、7日間、27〜32℃でインキュベートした。
【0144】
第2回目の選抜:カルベニシリン(500mg/L)およびハイグロマイシン(25mg/L)を補充した、2〜4mg/Lの2,4−Dを含むN6D培地上に種子を置き、さらに7日間、27〜32℃でインキュベートした。
【0145】
1.5 再分化
選抜された形質転換種子を、以下の条件で再分化させた。
【0146】
第1回目の再分化:再分化培地(カルベニシリン(500mg/L)およびハイグロマイシン(25mg/L)を補充したMS培地(30g/L スクロース、30g/L ソルビトール、2g/L カザミノ酸、2mg/L カイネチン、0.002mg/L NAA、4g/L ゲルライト、pH5.8))上に選抜された種子を置き、2週間、7〜32℃でインキュベートした。
【0147】
第2回目の再分化:第1回目の再分化において使用したのと同じ再分化培地を使用して、さらに2週間、7〜32℃でインキュベートした。
【0148】
1.6 鉢上げ
再分化した形質転換体を、発根培地(ハイグロマイシン(24mg/L)を補充したホルモンフリーのMS培地)上に移して、根の発育を確認した後に、鉢上げした。
【0149】
このようにして得た形質転換体は、このベクター中にコードされるハイグロマイシン遺伝子によりハイグロマイシンに対する抵抗性が付与されていた。
【0150】
(生育段階におけるPOX::GUS−T1植物のGUS活性の誘導)
上記のように得られた全長のPOXプロモーターを含む成体段階の形質転換体T1(形質転換当代の8葉期の植物)の最上部の葉身を切り取り、50μM MeJAおよびコントロールとして水のいずれかに浸漬し、23℃にて48時間インキュベートした後、GUS染色に供した。これらの形質転換体において誘導されたGUS活性を、図12に示す。この図において、切り取って直後の葉身を0時間として示した。この図におけるデータ点は、6〜9個体の独立した植物のGUS活性を示す。平均を横棒として示した。R2184プロモーターは、切断およびJAの両方の処理によってGUS活性が誘導され、R2693プロモーターは、JAの処理によってのみGUS活性が誘導された。これらの結果は、いずれもR2184 POX遺伝子およびR2693POX遺伝子の発現特異性と一致する。R2329プロモーターについては、創傷処理によりGUS活性が誘導された。これは、R2329 POX遺伝子の発現特異性と一致する。S14493およびR2576についても同様であった。
【0151】
(形質転換体T1の各組織におけるGUS発現の測定)
同様に、全長のPOXプロモーター(R2184プロモーターおよびR2693プロモーター)の各々を含む形質転換体(3.5葉期および8葉期)を実験植物として使用し、その葉身、葉鞘および根におけるGUS発現を、常法に従って測定した。コントロールとして、35S::GUSを含む発現ベクターを用いて形質転換した植物を使用した。結果を図13および14に示す。これらの結果は、それぞれのPOXプロモーターが、それぞれのPOX遺伝子の発現特異性を反映していることを意味する。
【0152】
(形質転換体T2の種々の処理によるGUS活性の誘導)
同様に、全長のPOXプロモーター(R2184プロモーターおよびR2693プロモーター)の各々を含む形質転換体2代目のイネ植物(以下T2と称する)を、8葉期まで生育させ、実験植物として供した。この形質転換体T2の最上部の葉身を、50μM MeJA、1μM パラコート(除草剤(パラコート(商品名)(1,1−ジメチル−4,4−ジピリジニウムジクロリド)等))、もしくは100μg/ml プロベナゾール(PBZ)の噴霧または炭化ケイ素粉末(キシダ化学製)を用いた摩擦によって処理し、25℃にて48時間インキュベーションした後、最上部の葉身を採取し、GUS活性を測定した。摩擦処理およびパラコート処理のコントロールとして滅菌水処理(コントロール1)したT2植物、MeJA処理のコントロールとして0.2%エタノール処理(コントロール2)、およびプロベナゾール処理のコントロールとして、0.1%アセトン処理(コントロール3)したT2植物をそれぞれ使用し、同様に最上部の葉身を採取して、GUS活性を測定した。結果を図15に示す。独立した3系統におけるGUS活性のプロットを示す。平均を、それぞれ横棒として示す。
【0153】
(削り込みプロモーターを有する形質転換植物におけるGUS活性の誘導)
上記のように作製したR2184プロモーター::GUS(すなわち、R1a::GUS、R1c::GUS、およびR1e::GUS)またはR2329(すなわち、R3a::GUS、R3c::GUS、およびR3e::GUS)を有する形質転換体T1を、R2184については50μM MeJAにより処理し、R2329については炭化ケイ素による摩擦により処理した。各T1植物を23℃にて48時間インキュベートし、最上部の葉身を採取して、GUS活性を測定した。さらに、0.05% Tween20溶液を偽接種したT1植物、およびイモチ病菌レース003を接種したT1植物についても、同様にGUS活性を測定した。結果を、図16に示す。図におけるデータ点は、それぞれ6〜10の独立したT1個体におけるGUS活性のプロットである。
【0154】
(考察)
これらの結果により、5つのPOXプロモーターは、それぞれのPOX遺伝子の発現特異性と一致して、種々の誘導に応答してGUS活性を発現させることが分かった。R2184およびR2329については、プロモーターの削りこみを行ったが、R1c::GUS、R1e::GUS、R3c::GUS、およびR3e::GUSのいずれも、MeJA処理および摩擦処理により誘導されなかった。従って、R2184プロモーターおよびR2329プロモーターの最小単位は、R2184の上流の境界が、−1993bp〜−548bpの間に、R2329プロモーターの上流の境界が、−1807bp〜−748bpの間に存在するようである。
【0155】
(実施例10) POXプロモーター::GUS形質転換体の組織化学的分析(R2184::GUS T1およびR2184::GUSを有するT2植物の組織化学分析)
実施例9において作出した、R2184::GUSを有する形質転換体T1またはT2を、成体段階および8葉期まで生育させて、実験植物として使用した。これらの植物にMeJA処理を施し、GUS反応を37℃で、0.5時間後、8時間後、および24時間後に葉鞘、葯、節部分および根を切片にし、GUS染色を行った。結果を図17に示す。(A)〜(D)は、MeJA処理して48時間インキュベートした後の葉身を示す。(A)および(D)は、R1a−5T1植物(本明細書において、例えば、「R1a−5T1植物」のような表記は、R1a−T1植物の個体番号を入れた呼称である)であり、(B)および(C)は、R1a−4T1植物である。(E)および(F)は、R1a−5T2植物の葯を示す。(G)は、R1a−5T2植物の節部分の横断切片である。(H)は、R1a−5T2植物の根の横断切片である。(A)〜(H)により示されるように、R2184POX遺伝子の発現特異性と一致して、GUSは、葉身および葉鞘、維管束、および根において高レベルで発現していた。この結果は、RNAゲルブロット分析の結果とも一致する。
【0156】
(R2329::GUS T1植物およびR2329::GUS T2植物の組織化学分析)
成体段階のR2329(−1807bp)::GUS T1植物および8葉期のR2329(−1807bp)::GUSを含むT2植物を用いてGUS染色を行った。結果を図18Aおよび18Bに示す。(A)および(B)は、創傷後、37℃で16時間インキュベートした後の葉身の横断切片である。(C)および(D)は、R3a−10T1植物の節間部分の横断切片である。(E)および(F)は、R3a−4T1植物の稈の切片である。(G)は、R3a−2T1植物の葯であり、(H)は、葯の切片である。(I)は、R3a−2T2植物の節間部分の横断切片である。(J)および(K)は、R3a−3T2植物の葉鞘の横断切片である。(L)は、R3a−2T2植物の成熟葉身の横断切片である。(M)は、R3a−2T2植物の幼若葉身の横断切片である。(N)は、R3a−3T2植物の根の横断切片である。(A)〜(N)により示されるように、R2329遺伝子の発現特異性と一致して、GUSは、葉身および葉鞘、維管束、および根において高レベルで発現していた。この結果は、RNAゲルブロット分析の結果とも一致する。
【0157】
(R2693::GUSを含むT1植物の組織化学分析)
R2693::GUS T1植物を成体段階または8葉期まで成育させて、実験植物として使用した。結果を、図19に示す。(A)および(B)は、R2693::GUSを含むT1植物の葉鞘の横断切片である。この結果は、RNAゲルブロット分析の結果とも一致する。
【0158】
従って、外来遺伝子が作動可能に連結されたPOXプロモーターを含む形質転換植物体においても、ネイティブのイネ植物と同様な発現特異性が認められた。このことは、実際に、外来遺伝子として病原体抵抗性を付与する遺伝子、抗菌タンパク質をコードする遺伝子、組織修復に関与する遺伝子をPOXプロモーターに作動可能に連結させたベクターをイネ植物体に導入することにより、病原抵抗性が付与されたイネ植物体を作出できることを示している。
【0159】
(実施例11) POXプロモーター::GUSを有するタバコ形質転換体の組織化学的分析
実験植物として、双子葉植物であるタバコを使用した。R2184プロモーター::GUSを有するベクター(pIGR1a)、R2329プロモーター::GUSを有するベクター(pIGR3a)、R2576プロモーター::GUSを有するベクター(pIGR5)およびR2693プロモーター::GUSを有するベクター(pIGR6)を、タバコを形質転換するために使用した。
【0160】
タバコ形質転換体を、実施例9と同様に作製した。隔離温室または陽光定温器内で9葉期まで育成した。この形質転換タバコの最上部の葉身に、直径0.5mmの針で1cm2あたり9つの孔を開けることによって、ストレスを与えた。傷をつけて3日後、最上部の葉身を採取し、その切断面におけるGUSの活性を観察した。結果を図20に示す。また、矢印は、切断面を示す。R2184、R2576、およびR2693は、切断面で特異的に強く発現しているが、R2329は、傷口周辺において全体的に発現していることが観察された。このことは、イネ以外の形質転換植物においても、この植物体にストレスを与えた場合、本発明のPOXプロモーターが誘導されることを示す。従って、実際に、外来遺伝子として病原体抵抗性を付与する遺伝子、抗菌タンパク質をコードする遺伝子、組織修復に関与する遺伝子をPOXプロモーターに作動可能に連結させたベクターを植物体に導入することにより、病原抵抗性が付与された任意の植物体を作出できることを示している。
【0161】
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0162】
【発明の効果】
本発明により、従来困難であった、種々のペルオキシダーゼの発現特異性を解明し、およびそれらの発現特異性を利用して植物に改変を施すための手段を提供することが可能になった。本発明はさらに、本発明のペルオキシダーゼ遺伝子の特異的発現を利用し、POXプロモーターに作動可能に連結した外来遺伝子を発現させることにより、病原体に対する抵抗性が植物体に付与される。また、本発明により、病原体感染の早期発見が可能になる。
【0163】
(配列表の説明)
配列番号1:クローン番号S14493の核酸配列(イネ)。
配列番号2:配列番号1の核酸にコードされるタンパク質配列(イネ)。
配列番号3:クローン番号R2576の核酸配列(イネ)。
配列番号4:配列番号3の核酸にコードされるタンパク質配列(イネ)。
配列番号5:クローン番号R2329の核酸配列(イネ)。
配列番号6:配列番号5の核酸にコードされるタンパク質配列(イネ)。
配列番号7:クローン番号R2184の核酸配列(イネ)。
配列番号8:配列番号7の核酸にコードされるタンパク質配列(イネ)。
配列番号9:クローン番号R2693の核酸配列(イネ)。
配列番号10:配列番号9の核酸にコードされるタンパク質配列(イネ)。
配列番号11:プロモーターR1の核酸配列(イネ)。
配列番号12:プロモーターR1aの核酸配列(イネ)。
配列番号13:プロモーターR1cの核酸配列(イネ)。
配列番号14:プロモーターR1eの核酸配列(イネ)。
配列番号15:プロモーターR3の核酸配列(イネ)。
配列番号16:プロモーターR3aの核酸配列(イネ)。
配列番号17:プロモーターR3cの核酸配列(イネ)。
配列番号18:プロモーターR3eの核酸配列(イネ)。
配列番号19:プローブC52903FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号20:プローブC62847FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号21:プローブprxRPAFP1の核酸配列(イネ)。
配列番号22:プローブprxRPARP1の核酸配列(イネ)。
配列番号23:プローブR0317F1の核酸配列(イネ)。
配列番号24:プローブR1420FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号25:プローブR2184FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号26:プローブR2391FP2の核酸配列(イネ)。
配列番号27:プローブR2576F1の核酸配列(イネ)。
配列番号28:プローブS10927FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号29:プローブS11222FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号30:プローブS13316FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号31:プローブS14082FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号32:プローブS14493FP1の核酸配列(イネ)。
配列番号33:プローブS4325F1の核酸配列(イネ)。
配列番号34:プローブprxRPNFP1の核酸配列(イネ)。
配列番号35:プローブprxRPNRP1の核酸配列(イネ)。
【0164】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、22のイネペルオキシダーゼを、創傷、プロベナゾールおよびジャスモン酸の処理により誘導された発現特異性に基づく分類を示す。
【図2】図2は、親和性品種である日本晴(左パネル)と非親和性品種であるIL−7(右パネル)に、それぞれ8葉期のときに、イモチ病菌レース003の0.05%Tween−20溶液に懸濁した胞子(3×105胞子/ml、24個体あたり100ml)を噴霧した。噴霧の2日後、3日後、4日後、5日後、および8日後に、病変部を撮影し、病変部の大きさを測定した。病変部の写真を2Aに、そして病変部の大きさを棒グラフにしたものを2Bに示す。
【図3】図3は、10のPOX遺伝子の器官特異的発現を示すゲル写真である。イモチ病菌感染に応答した10のPOX遺伝子の特異的発現を、親和性イネである日本晴の種々の組織(根、葉鞘、最上部の葉身(それぞれ、3葉期および4葉期、5葉期、6葉期、および9葉期)、および健常な野生型日本晴の円錐花序)を用いて調査した。これらの組織から総RNAを抽出し、RNAゲルブロット分析に供した。
【図4】M.grisea感染に対するイネPOX遺伝子の応答を示すゲル写真である。親和性品種の日本晴(左パネル)と非親和性品種であるIL−7(右パネル)に、それぞれ8葉期のときに、イモチ病菌レース003の0.05%Tween−20溶液に懸濁した胞子を噴霧し、示された時間の後、POX遺伝子の発現を測定した。コントロールとして、8葉期の日本晴に0.05%Tween−20溶液を同量接種したものを使用した。示された時間の後に最上部の葉身から総RNAを抽出し、各遺伝子の3’UTR特異的プローブを使用して、1レーンあたり20μgをRNAゲルブロット分析に供した。
【図5】図5は、図4の結果を半定量的に示したグラフである。横軸は、接種後日数を示し、縦軸は任意の単位である。発現パターンにより、POX遺伝子は、6つのタイプに分けられた。
【図6】図6は、イモチ病菌を接種した後のR2576転写物の蓄積を示したゲル写真である。8葉期の日本晴に3×105胞子/mlのM.griseaレース3を接種し、示された時間の後、最上部の葉身から総RNAを抽出し、上記のように、RNAゲルブロット分析に供した。接種して1時間後で、既にR2576が発現していることが示される。
【図7】図7は、イネのプロベナゾール(PBZ)により誘導されたPOX遺伝子の発現を示すゲル写真である。100mg/mlのPBZを噴霧した後の10のPOX遺伝子の応答を、8葉期の日本晴の最上部の葉身において測定した。上記のように、総RNAをRNAゲルブロット分析に供した。
【図8】図8は、POX遺伝子の発現に対する防御シグナル化合物の効果を示すゲル写真である。1mM ジャスモン酸、3mM サリチル酸、および1mM ACC溶液を、それぞれ8葉期の日本晴の最上部の葉身に噴霧して0日後、1/4日後、および1日後に、それぞれの葉身から総RNAを抽出し、上記のように、総RNAをRNAゲルブロット分析に供した。
【図9】図9は、創傷に対するイネPOX遺伝子の応答を示すゲル写真である。8葉期の日本晴の最上部の葉身に、直径0.5mmの針で1cm2あたり9つの孔を開けることによって、傷をつけた。示された時間の後に、総RNAを抽出し、上記のように、RNAゲルブロット分析に供した。
【図10A】図10Aは、5つのPOX遺伝子(R2184、R2329、R2576、R2693およびC52903)についての各rPOXプロモーター::GUS融合遺伝子を有するバイナリベクターの構造を模式的に示す。
【図10B】図10Bは、pIGnGUS、pIG2693GUSおよびpIG2184GUSの構造を模式的に示す。
【図10C】図10Cは、pIG2184AGUS、pIG2329GUSおよびpIG121Hmの構造の模式図を示す。
【図11】図11は、GUS遺伝子とrPOXプロモーターとの融合物を示すDNA配列およびアミノ酸配列を示す。
【図12】図12は、成体段階のrPOX::GUS−T1植物におけるGUS活性(6〜9の独立したトランスジェニック植物のGUS活性)の誘導を示す。平均値を、バーで示す。
【図13】図13は、異なる発生段階でのT2トランスジェニックイネにおけるrPOX::GUS遺伝子の器官特異的発現を示す。独立した9〜15株のそれぞれのプロットとしてGUS活性を示した。35S::GUS植物をポジティブコントロールとして用いた。平均をバーで示す。
【図14】図14は、異なる発生段階でのT2トランスジェニックイネにおけるrPOX::GUS遺伝子の器官特異的発現を示す。独立した9〜15株のそれぞれのプロットとしてGUS活性を示した。35S::GUS植物をポジティブコントロールとして用いた。平均をバーで示す。
【図15】図15は、8葉期のrPOX−T2植物における種々の処置によるGUS活性(独立した3株のプロット)の誘導を示す。平均値をバーで示す。
【図16】図16は、R2148::GUS融合遺伝子を有するトランスジェニックイネとR2329::GUS融合遺伝子を有するトランスジェニックイネのGUS活性を示すグラフである。平均値をバーとして示した。
【図17】図17は、R2184::GUS T1およびR2184::GUSを有するT2植物の組織化学分析を示す。略語は、以下のとおりである。vs:維管束、ep:表皮、ls:葉鞘、yb:幼若葉身、x:木部、ph:篩部、mx:後生木部、ed:内皮、ex:下皮、f:フィラメント、p:花粉。
【図18A】図18Aは、R2329::GUS T1植物およびR2329::GUSを有するT2植物の組織化学分析を示す。略語は、以下のとおりである。vs:維管束、rp:根原基、ep:表皮、ls:葉鞘、yb:幼若葉鞘、x:木部、ph:篩部、mx:後生木部、ed:内皮、ex:下皮、f:フィラメント、p:花粉。
【図18B】図18Aは、R2329::GUS T1植物およびR2329::GUSを有するT2植物の組織化学分析を示す。略語は、以下のとおりである。vs:維管束、rp:根原基、ep:表皮、ls:葉鞘、yb:幼若葉鞘、x:木部、ph:篩部、mx:後生木部、ed:内皮、ex:下皮、f:フィラメント、p:花粉。
【図19】図19は、R2693::GUSを有するT1植物の組織化学分析を示す。略語は、以下のとおりである。x:木部、ph:篩部。
【図20】図20は、R2184::GUS、R2329::GUS、R2576::GUS、およびR2693::GUSを有するタバコ形質転換体の葉身を切断処理して3日後に誘導されたGUS発現を示す写真である。矢印は切断面を示す。
Claims (5)
- トランスジェニック植物の作出方法であって、該方法は以下の工程:
(1)配列番号16に記載のプロモーターに作動可能に連結された外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列を植物細胞に導入する工程;および
(2)得られた植物細胞を再分化して、トランスジェニック植物を作出する工程、
を包含する、方法。 - 配列番号16に記載のプロモーターの、外来遺伝子の根特異的発現および/またはストレス誘導性発現のための使用。
- 前記ストレス誘導性発現は、病原体誘導性発現、傷害誘導性発現、およびプロベナゾール誘導性発現からなる群より選択される少なくとも1つの発現を含む、請求項2に記載の使用。
- 配列番号16に記載されるプロモーター、および植物細胞において該プロモーターに作動可能に連結されるべき外来遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む、根特異的発現および/またはストレス誘導性発現のための組成物。
- 前記ストレス誘導性発現は、病原体誘導性発現、傷害誘導性発現およびプロベナゾール誘導性発現からなる群より選択される少なくとも1つの発現を含む、請求項4に記載の組成物。
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