JP4355810B2 - 新規エンドグリコセラミダーゼ - Google Patents

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Description

本発明は、新規なエンドグリコセラミダーゼに関する。本発明は、新規なエンドグリコセラミダーゼの遺伝子も提供する。本発明のエンドグリコセラミダーゼは、スフィンゴ糖脂質に作用し、糖−セラミド間のβ-ガラクトシド結合を切断することができる。本発明は、糖脂質や糖鎖に関連した分野で有用である。
スフィンゴ糖脂質は、親水性を示す糖鎖と疎水性を示すセラミドで構成される両親媒性の化合物である。スフィンゴ糖脂質は細胞膜の主要な構成成分として細胞間認識、分化や発生への関与、ホルモンや細菌及び細菌毒素の受容体として働く(非特許文献1)ほか、コレステロールや他のスフィンゴ脂質、そしてSrc family kinaseやG-proteinとともにマイクロドメインを形成し、細胞間、細胞内の情報伝達を制御していると考えられている(非特許文献2)。
エンドグリコセラミダーゼ(以下EGCaseということもある。)はスフィンゴ糖脂質の糖−セラミド間のグリコシド結合を特異的に加水分解する酵素である。放線菌Rhodococcussp. strain G-74-2の培養上清より初めて見出され(非特許文献3、特許文献1)。また、放線菌Rhodococcus sp. strain G-74-2の変異株であるM-750の培養上清に含まれる2種類のEGCaseが精製され、諸性質が検討された(非特許文献4)。その他、ヒル(非特許文献5)、ミミズ(非特許文献6)、シジミ(非特許文献7)、クラゲ(非特許文献8)、ヒドラ(非特許文献9)などの生物にもEGCaseの活性が見出された。EGCaseは糖鎖やセラミドの構造を破壊することなく、それぞれを遊離することができるため、糖脂質の構造、機能解析のツールとして非常に有益な酵素である。
近年になり、Rhodococcus sp. strain G-74-2の変異体であるRhodococcus sp. M-777のゲノムDNAよりEGCase遺伝子がクローニングされた(非特許文献10)。その推定アミノ酸配列にはアスパラギン、グルタミン酸、プロリンからなるNEP配列と呼ばれる、family A cellulose (endo-1,4-β-glucanase)の活性部位と考えられているアミノ酸が保存されていた。点変異導入により、NEP配列中のグルタミン酸をアスパラギン酸又はグルタミンに変えた変異体を作成した結果、活性は大幅に減少した(非特許文献11)。このことから、NEP配列中のグルタミン酸がEGCaseの酵素活性には特に重要であることが示された。
クラゲ、ヒドラのEGCaseもまた、クローニングされている(前掲非特許文献8及び8)。これらのEGCaseは最適pHが3.0と酸性域にあり、ポリシアロガングリオシドによく作用するという特徴を持っていた。また、これらのEGCaseにもNEP配列が存在することが確認された。ヒドラを用いたinsitu hybridization により、EGCaseは消化細胞に多く発現しており、食作用により取り込んだ糖脂質の異化経路において重要な役割を担っていることが明らかとなった(前掲非特許文献9)。クラゲのEGCaseは加水分解反応だけでなく、糖転移反応及び糖縮合反応も触媒することが判明した(非特許文献12)。
上述したEGCaseはすべて、糖鎖・セラミド間がβ-グルコシド結合、つまり糖鎖の還元末端がグルコースから始まる糖脂質に特異的に作用する。
特開昭62-122587(特公平7-89914) Hakomori, S. (1981) Annu. Rev. Biochem. 50, 733-764 Hakomori, S., Hanada, K., Iwabuchi, K., Yamamura, S., and Prinetti,A. (1998) Glycobiology 8, xi-xviii Ito, M., and Yamagata, T. (1986) J. Biol. Chem. 261, 14278-14282 Ito, M., and Yamagata, T. (1989) J. Biol. Chem. 264, 9510-9519 Zhou, B., Li,S.-C., Laine, R. A.,Huang, R. T. C., and Li, Y. -T. (1989) J. Biol. Chem. 205, 729-735 Li, Y. -T., Ishikawa, Y., and Li,S.-C. (1987) Biochem. Bipphys.Res. Commun. 149, 162-172 Basu, S. S., Dastgheib-Hosseini, S., Hoover, G., Li, Z., and Basu, S. (1994) Anal. Biochem. 222, 270-274 Horibata, Y., Okino N., Ichinose, S., Omori, A., amd Ito M. (2000) J.Biol. Chem. 275, 31297-31304 Horibata, Y., Sakaguchi, K., Okino, N., Iida, H., Inagaki, M., Fujisawa, T., Hama, Y., and Ito, M. (2004) J. Biol. Chem.279, 33379-33389 Izu, H., Izumi, Y., Kurome, Y., Sano, M., Kondo, A., Kato, I., and Ito, M. (1997) J. Biol. Chem. 272, 19846-19850 Sakaguchi, K., Okino, N., Izu, H., and Ito, M. (1999) Biochem.Bipphys. Res. Commun. 260, 89-93 Horibata, Y., Higashi, H., and Ito, M. (2001) J. Biochem. 130, 263-268
本発明者らは、糖鎖及びスフィンゴ脂質の生物機能の解明について研究してきた。そして、放線菌Rhodococcus equi M-750の培養上清中に新規なエンドグリコセラミダーゼを見いだし、その遺伝子のクローニング、大腸菌における発現、そしてその諸性質を検討し、本発明を完成した。
I. EGCase遺伝子:
本発明は、新規なEGCaseをコードする遺伝子及びそのホモログ、すなわち下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)を含有するポリヌクレオチドを提供する:
(a)配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は少なくともORF部分を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(b)(a)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつエンドグリコセラミダーゼ(EGCase)活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)(a)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)(a)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質コードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくともシグナル配列部分を除いた部分を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f)(e)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(g)(e)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
本発明でいう「ストリンジェントな条件」とは、特別な場合を除き、6M尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件又はこれと同等のハイブリダイゼーション条件を指し、さらに必要に応じ、本発明には、よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4% SDS、0.1×SSC又はこれと同等のハイブリダイゼーション条件を適用してもよい。それぞれの条件において、温度は約40℃以上とすることができ、よりストリンジェンシーの高い条件が必要であれば、例えば約50℃、さらに約65℃としてもよい。
また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列」というときの置換等されるヌクレオチドの個数は、その塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、同一又は性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列を有するタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、同一又は性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。このような塩基配列又はアミノ酸配列に係るポリヌクレオチドを調製するための手段は、当業者にはよく知られている。
本発明には、配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は少なくともORF部分(配列表の配列番号:15では、52〜1515番目の1464塩基長である部分)を含む一部と高い同一性を有する塩基配列からなり、かつEGCaseを有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。塩基配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。また、本発明には、配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくともシグナル配列を除いた部分を含む一部と高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつEGCase活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。アミノ酸配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。配列番号:16に記載のアミノ酸配列の公知のEGCaseのアミノ酸配列との同一性は、図2に示されている。
ポリヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性(相同性ということもある)に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、DNASIS ソフトウェア、BLAST、CLUSTAL W及びJALVIEW等を用いる。本明細書の実施例参照。)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
本発明のポリヌクレオチドは、天然物からハイブリダイゼーション技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術等を利用して得ることができる。具体的には、Rhodococcus属(好ましくは、Rhodococcus equi、より好ましくは、Rhodococcus equi M-750菌株)に属する菌から、ゲノムDNA(gDNA)を調製し、あるいは同菌体から全RNAを調製して逆転写によりcDNAを合成する。gDNA又はcDNAから、本発明のEGCaseの適切な部分塩基配列をプローブ又はプライマーとして設計・利用して、全長の本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。
本発明のポリヌクレオチドには、DNA及びRNAが含まれ、DNAには、ゲノムDNA、cDNA及び化学合成DNAが含まれる。DNAは、一本鎖DNA及び二本鎖DNAでありうる。
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは、Rhodococcus属に属する菌(好ましくは、Rhodococcus equi、より好ましくは、Rhodococcus equi M-750菌株)由来である。
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクター、その組換えベクターにより形質転換された、形質転換体も提供する。本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主(菌、動物細胞、植物細胞。例えば大腸菌)を形質転換する工程を含む、形質転換方法も提供する。
本発明のポリヌクレオチドが挿入されるベクターは、宿主内で挿入物を発現させることが可能なものであれば特に制限はなく、ベクターは、通常、プロモーター配列、ターミネーター配列、外的な刺激により誘導的に挿入物を発現させるための配列、目的遺伝子を挿入するための制限酵素により認識される配列、及び形質転換体を選択するためのマーカーをコードする配列を有する。組換えベクターの作成、組換えベクターによる形質転換方法は、当業者に周知の方法を適用することができる。
II. 新規酵素タンパク質:
本発明はまた本発明のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質又はそのホモログ、すなわち下記の(e')、(f')又は(g')のタンパク質を提供する:
(e')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくともシグナル配列部分を除いた部分を含む一部からなるタンパク質;
(f')(e')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質;
(g')(e')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質。
このようなタンパク質はまた、以下の性質を有する、加水分解酵素でもある:
(ア)スフィンゴ糖脂質に作用し、糖又は糖鎖−セラミド間の結合を加水分解的に切断して、糖又は糖鎖とセラミドとを生成することができ;
(イ)β-ガラクトシルセラミド結合を有するスフィンゴ糖脂質を加水分解することができるが、β-グルコシド結合を有するスフィンゴ糖脂質は分解せず;
(ウ)37℃で作用することができ;
(エ)至適pHは5.5〜6.0であり;かつ
(オ)分子量は約54 kDaである(測定は、SDS-PAGEによる。なお、本明細書で分子量をいうときは、特別な場合を除き、SDS-PAGEで測定した場合の値をいう)。
このようなタンパク質又は加水分解酵素はまた、Rhodococcus属(好ましくは、Rhodococcus equi、より好ましくは、Rhodococcus equi M-750菌株)に属する菌が生産する、分子量約54 kDaのエンドグリコセラミダーゼでもある。なお 放線菌Rhodococcus equi M-750は、Rhodococcus sp. G-74-2の変異株として単離されたものであるが、受領番号:FERM AP-20926として、特許生物寄託センターに寄託されている。
[EGCaseの酵素学的性質]
本発明のエンドグリコセラミダーゼ(EGCase)の酵素学的性質を以下に説明する。
(1) 作用
本発明のEGCaseは、スフィンゴ糖脂質に作用し、糖−セラミド間の結合を、加水分解的に切断することができる。
(2) 基質特異性
β-ガラクトシルセラミド結合を有するスフィンゴ糖脂質には作用し、加水分解することができる。本明細書の実施例に示した条件では、β-グルコシルセラミド結合を有するスフィンゴ糖脂質は作用しなかった。また、本明細書の実施例に示した条件では、β-ガラクトシド結合を有するスフィンゴ糖脂質であっても、ガングリオ系のGM4及びスルファチドには作用しなかった。
一方、ガラクトースとセラミドが結合したセレブロシドには作用することができる。したがって、セレブロシドに対しては、エキソ型の活性を有するということができる。
サイコシンにも作用することができる。
基質中のセラミド部分に対する特異性は低いようであり、脂肪酸残基が2-hydroxy 24:0、スフィンゴイド残基がphytospingosineで構成されるセラミド部分を含む、ケカビ由来のCDS、CTS、CTeS、並びにC16:0脂肪酸残基及びd18:1スフィンゴシン残基で構成されるセラミド部分を含む、サザエ由来のTGCの双方に作用することができる。
基質中のセラミドに直接結合する糖に対する特異性は高く、本明細書の実施例に示した条件では、TGCには作用するが、直接結合する糖がグルコースである点でのみTGCとは異なるGL-4には、作用しなかった。
(3) 至適条件
本発明者らは、本発明のEGCaseの至適温度の検討を10〜80℃の範囲で行った。その結果、40℃付近において、もっとも強い活性が見られた(データ示さず)。本発明のEGCaseは、37℃付近でよく作用することができる。最適pHは5.5〜6.0付近にある。
0.1 %のTriton X-100及びLubrol PXにより活性が大幅に上昇しうる。また、従来のEGCaseを活性化する、Rhodococcus sp.由来のアクチベータータンパクは、本発明のEGCaseも活性化することができる。
金属イオンに関しては、本明細書の実施例に示した条件では、Hg2+添加により活性は全消失し、Fe3+では約50%、Zn2+、Cu2+では90%ほど活性の低下が見られた。その他の金属イオン及びEDTAはrEGCase活性に大きな影響を及ぼさなかった。
Hanes-Wools plotsにより求めたKmは0.43 mM、Vmaxは87.8 pmol/min、Kcatは800 min-1、Kcat/Kmは1860.5 min-1・mM-1であった。
(4) 糖転移反応
本発明のEGCaseは、1−アルカノールへの糖転移反応も触媒しうる。特に、本明細書の実施例に示した条件では、TGCからメタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノールへの糖の転移を高効率で触媒した。
本発明のEGCaseはまた、糖転移反応において、蛍光標識されたセラミドもアクセプターとすることができる。
[EGCase製法]
本発明のEGCaseは、Rhodococcus属(好ましくは、Rhodococcus equi、より好ましくは、Rhodococcus equi M-750菌株)に属する菌の培養上清から、以下の手順で精製することができる。
(1)培養上清を80%硫酸アンモニウムで沈殿させ、その沈殿を緩衝液(例えば、20 mM 酢酸ナトリウム、pH6.0に0.1%のルブロールPXを加えたもの)で懸濁する。
(2)懸濁液を疎水性カラムにかけて、緩衝液(例えば、上記の20 mM 酢酸ナトリウム、pH6.0。以下同じ。)に溶出有効濃度の界面活性剤(例えば、1%のルブロールPX)を加えたもので溶出させ、TGC分解活性のある画分を回収する。
(3)活性画分を、弱陰イオン交換カラムにかけ、緩衝液に溶出有効濃度の塩(例えば、1M NaCl)を加えたもので溶出させ、TGC分解活性のある画分を回収する。
(4)活性画分に2価金属イオン(例えば、Cu2+イオン)をキレートし、キレート化疎水性カラムにかけ、緩衝液に溶出有効濃度の塩(例えば、2MのNH4Cl)を加えたもので溶出させ、活性画分を回収する。
(5)活性画分を脱塩する。例えば、疎水性カラムにかけ、緩衝液に溶出有効濃度の界面活性剤(例えば、0.5%ルブロールPX)を加えたもので溶出させ、活性画分を回収することによる。
(6)活性画分を弱陰イオン交換カラムにかけ、グラジエント溶媒を用いて、TGCを分解するEGCaseと、GM1aを分解する従来のEGCaseを分ける。この工程により、TGCを分解するEGCaseと、GM1aを分解する従来のEGCaseを分けることができる。例えば、上述の緩衝液と、1M NaClを含んだその緩衝液でグラジエント(0−20%/20 分)をかけ、次いで20%の混合液を40分流すことによる。
(7)所望により、さらに活性画分を緩衝液で平衡化した強陰イオン交換カラムにかけ、グラジエント溶媒(例えば、上述した緩衝液の混合液を用い、0−20%/20分、20−60%/250分)を用いて、活性画分を回収する。これを精製品とする。
本発明のEGCaseは、本発明の遺伝子を用いた形質転換体により、産生させることもできる。上述したRhodococcus属の菌を用いる方法では、EGCaseの分泌量が極めて低いことから、この形質転換体を用いる方法は有益である。特定の宿主を用いる場合に適した形質転換の方法は、当業者にはよく知られている。
III. EGCaseの利用
本発明は、糖鎖・セラミド間がβ-ガラクトシド結合により構成される糖脂質(ガラ系糖脂質)に作用するEGCaseを提供するが、これにより、以前から得られているガングリオ系、グロボ系、ラクト系の糖脂質に作用する酵素との組み合わせで、すべての糖脂質から糖鎖を切り離すことができる。また、本発明のEGCaseは、ガラ系列の糖脂質の構造解析及び機能解析、並びにガラ系列の糖脂質の特異的な検出方法に応用することができる。また、ガラ系列糖脂質は病原性のカビに存在し、病原性との関連が疑われているが、ガラ系列の糖脂質は、病原性カビの分類にも使える可能性がある。したがって、本発明は、本発明のタンパク質、加水分解酵素、又はEGCaseを用いることを特徴とする、ガラ系列糖脂質の解析方法及び検出方法を提供する。
本発明のEGCaseは加水分解のみならず、糖転移活性をも触媒する。1−アルカノールへの糖転移反応においては、従来のEGCaseよりもはるかに高い活性を示した。また、蛍光標識セラミドへの糖転移も確認された。蛍光標識糖脂質は、糖脂質の機能を解析する上で非常に有益なツールとなり得る。また、糖脂質に作用する酵素の高感度なアッセイ系の構築にも貢献するしうる。したがって、本発明はまた、本発明のタンパク質、加水分解酵素、又はEGCaseを用いることを特徴とする、糖脂質の処理方法、糖鎖の処理方法及び糖脂質の製造方法を提供する。処理には、合成、分解、転移が含まれる。
本発明のEGCaseは、ケカビ由来の糖脂質とサザエ由来の糖脂質との双方に強い活性を示した。ケカビ由来の糖脂質のセラミドは脂肪酸が2-hydroxy 24:0、スフィンゴイドがphytospingosineで構成される(Aoki, K., Uchiyama, R., Yamauchi, S., Katayama, T., Itonori, S., Sugita, M., Hada, N., Yamada-Hada, Junko., Takeda, T., Kumagai, H., and Yamamoto, K. (2004) J.Biol. Chem. 279, 32028-32034)。一方、サザエ由来の糖脂質のセラミドは脂肪酸がC16:0で、d18:1スフィンゴシンで構成される(Matsubara, T., and Hayashi, A. (1981) J. Biochem. 89, 645-650)。このようにセラミドの構造が全く異なるにも関わらず、両者ともに強い加水分解活性を示したことから、セラミドの種類に関する基質特異性は広いようである。それに対し、糖鎖の還元末端に関する認識機構は非常に厳密である。特に、表2におけるTGCとGL-4に対する加水分解反応の有無は特筆すべきである。これらの糖脂質の違いはただ1点、構成糖の還元末端がガラクトースであるか、又はグルコースであるか、のみである。その他の糖鎖間の結合様式はすべて同様、β 1-6である(Kubo, H., Jiang, G. J., Morita, M., Matsubara, T., and Hoshi, M. (1992) J. Biochem. 111, 726-731)。さらには、本発明のEGCaseは、β-ガラクトシド結合を持つ糖脂質でありながら、GM4とスルファチドには全く作用しなかった。酸性糖脂質には作用しない可能性がある。
そして、これまで示したように基質特異性が全く異なるにも関わらず、従来報告のあるEGCaseにおいて、活性部位を構成するとされているアミノ酸は、本発明のEGCaseにもすべて保存されていた。どのようなアミノ酸、どのような立体構造の差異を感知しているのかを、本発明のEGCaseの結晶化及びNMRによる立体構造解析等により、解明することは酵素研究の分野において非常に重要である。
本発明のEGCaseはまた、従来のEGCaseを活性化する、Rhodococcus sp.由来のアクチベータータンパク(Ito, M., Ikegami, Y., and Yamagata, T. (1991) J. Biol. Chem.266, 7916-7926)は、本発明のEGCaseにも作用した(データ示さず)。アクチベータータンパクを使用すれば、EGCaseの活性に必要な界面活性剤が不要になる。つまり、生きているケカビやエキノコックスへの本発明のEGCaseの影響を検証することができると考えられる。
他方、本発明のEGCaseは、ケカビ由来の糖脂質に強い活性を示したが、これまでの報告で、ケカビ、寄生虫エキノコックス(Persat, F., Bouhours, J. F., Mojon, M., and Petavy, A. F. (1992) J. Biol. Chem.267, 8764-8796)などの生物が、β-ガラクトシド結合から構成され、2糖以上の糖鎖を持つ糖脂質を生体構成成分としていることが判明している。ケカビは免疫力の低下した人々に対し、場合によっては死に至る重篤な病であるムコール症を引き起こす。エキノコックスはエキノコックス症と称される、肝機能障害を引き起こし、進行すると死を招く危険性のある病の原因となる。本明細書の実施例で示したとおり、本発明のEGCaseはケカビの糖脂質に作用する。一方、人間の生体内には、β-ガラクトシド結合を持ち、2糖以上の糖鎖から成る糖脂質は少ない。それ故に、本発明のEGCaseはケカビやエキノコックスの糖脂質のみに作用し、これらを死滅させ、生体への影響は少ないといった理想的な治療薬になることが期待できる。
本発明のEGCaseは、診断、医薬品、化粧品、食品、飼料、農薬、環境、洗剤、有機化学品、繊維等の分野での活用が期待される。
IV.略語
本明細書では、以下の略語を用いている。
bp : base pair
Cer : ceramide
CDS : ceramide disaccharide
CTS : ceramide trisaccharide
CTeS : ceramide tetrasaccharide
EGCase : endoglycoceramidase
Gal : galactose
GalCer : galactosylceramide
Glc : glucose
GlcCer : glucosylceramide
GSL(s) : glycosphingolipid(s)
LacCer : lactosylceramide
NBD : 4-nitrobenzo-2oxa-1,3-diazole
NeuAC: N-acetylneuraminic acid
ORF : open reading frame
PAGE : polyacrylamide gel electrophoresis
PCR : polymerase chain reaction
TBS : tris buffered seline
TGC : neogalatriaosylceramide (trigalactosylceramide)
TLC : thin-layer chromatography
本発明により、糖鎖・セラミド間がβ-ガラクトシド結合により構成される糖脂質に作用するという基質特異性をもつEGCase及びその遺伝子が提供される。これまで、このような基質特異性を有する酵素を単離・精製したという報告はなかった。本発明により、初めてこのタイプの酵素が存在することの確証が得られた。本発明により提供されるEGCase及びその遺伝子は、糖脂質研究のさらなる発展に寄与する有益なツールとしての活用が期待される。
〔材料と方法〕
材料
LA Taq、TAKARA LA PCR in vitro Cloning Kitはタカラバイオ株式会社より、プラスミドpET22bはNovagenより、制限酵素とLigation-Convenience KitはNippon Geneより、シリカゲル60TLCプレートはMerckより購入した。
TGCは従来報告されている方法にて、サザエより調製した(前掲Matsubaraら(1981))。GT1b(製品名 ガングリオシドGT1b、ウシ脳由来)、GD1a(製品名 ガングリオシドGD1a、ウシ脳由来)、GM1a(製品名 ガングリオシドGM1a、ウシ脳由来)、Gb4Cer(製品名 グロボテトラオシルセラミド、ブタ赤血球由来)、Gb3Cer(製品名 グロボトリアオシルセラミド、ブタ赤血球由来)、LacCer(製品名 ラクトシルセラミド、ウシ由来)、GalCer(製品名 ガラクトシルセラミド、ウシ脊髄由来)、GlcCer(製品名 グルコシルセラミド、ヒト脾臓(ゴーシェ病)由来)は和光純薬工業株式会社より購入した。
GM4はマダイから調製し(Chisada, S., Horibata, Y., Hama, Y., Inagaki, M., Furuya, N., Okino, N., and Ito, M. (2005) Biochem. Biophys. Res. Commun.333, 367-73)、GL-4は、前掲Kuboら(1992)の方法で調製したものを慶応義塾大学理工学部生命情報学科星教授より恵与いただいた。CDS、CTS、CTeSは、前掲Aokiら(2004)の方で調製したものを京都大学大学院生命科学研究科の山本教授より提供いただいた。Triton X-100、Lubrol PXはナカライテスク株式会社より購入した。C12-NBD-Cer (NBD-C12:0/d18:1)は、SCDaseによる縮合反応 (Tani, M., Kita, K., Komori, H., Nakagawa, T., and Ito, M. (1998) Anal. Biochem. 263, 183-188)を用いて調製した。なお、糖脂質の構造は表2に示している通りであり、GM4のセラミド部分は、脂肪酸残基は2−ハイドロキシ24:1、2−ハイドロキシ22:0、2−ハイドロキシ23:0などが混合し、スフィンゴイド残基はd18:1で構成されている。
菌株
放線菌Rhodococcus equi M-750は、Rhodococcus sp. G-74-2の変異株として単離した(Ito, M. and Yamagata, T. J. Biol. Chem.264, 9510-9519)。本菌は 、従来の方法(前掲非特許文献4)にて培養し、ゲノムDNAを抽出した(Saito, H., and Kimura, H. (1963) Biochem.Biophys. Acta. 72, 619-629)。大腸菌DH5α、BL21(λDE3)はタカラバイオ株式会社より購入した。
精製
精製は、以下の手順で行った。
(1)培養上清(1.8L)を80%硫酸アンモニウムで沈殿させ、これを8000rpm、30min、4℃で遠心し、その沈殿を170 mLのバッファーA(20 mM 酢酸ナトリウム、pH6.0に0.1%のルブロールPXを加えたもの)で懸濁させた。
(2)これをバッファーAで平衡化した疎水性カラムOctyl-Sepharose CL-4B (200 ml, Amersham Bioscience, Uppsala, Sweden) にかけて、バッファーAに1%のルブロールPXを加えたもので溶出させ、TGC分解活性のある画分(270ml、100mg)を回収した。
(3)活性画分を、バッファーAで平衡化した弱陰イオン交換カラムDEAE-Sepharose FF (70 ml, Amersham Bioscience)にかけ、バッファーAに1M NaClを加えたもので溶出させ、TGC分解活性のある画分(75ml、31mg)を回収した。
(4)活性画分をCu2+イオンをキレートし、バッファーAに2MのNaClを加えたもので平衡化したChelating-Sepharose FF column(30 ml, Amersham Bioscience)にかけ、バッファーAに2MのNH4Clを加えたもので溶出させ、活性画分(175ml、12mg)を回収した。
(5)活性画分を脱塩するために疎水性カラムのOctyl-Sepharose FF (70 ml, Amersham Bioscience)にかけ、バッファーAに0.5%ルブロールPXを加えたもので溶出させ、活性画分(110ml)を回収した。
(6)活性画分をバッファーAで平衡化した、弱陰イオン交換カラムであるDEAE-5PW (7 ml, Tosoh Co., Tokyo, Japan)にかけ、バッファーAに1M NaCl を含んだもの(バッファーB)でグラジエント(0−20%/ 20 分)をかけ、次いで20%のバッファーBを40分流した。この過程により、TGCを分解するEGCaseと、GM1aを分解する従来のEGCaseを分けることができた。活性画分(110ml、5.6mg)を回収した。
(7)活性画分をバッファーAで平衡化した強陰イオン交換カラムPOROS HQ (10 ml, PE-Biosystems, USA)にかけ、バッファーBでグラジエント(0−20% 20分、20−60% 250分)をかけ、活性画分(80ml、0.016mg)を回収した。これを精製品とした。
部分アミノ酸配列の決定
精製したサンプルをクリーブランド法 (Cleveland, D. W. (1977) J. Biol. Chem. 252, 1102-1106)により、V8及びlysylendopeptidase AP-1 (Wako)で消化し、PVDF膜にブロッティングしCoomassie Brilliant Blueを用いて染色した。染色されたスポットを切り取りプロテインシーケンサー(Procise 49X-cLC;PE-Biosystems)にかけアミノ酸配列を決定した。
PCR法による部分遺伝子配列の獲得
新規EGCase遺伝子獲得のため、精製酵素の部分アミノ酸配列より縮重プライマーを設計した。C-1479-S1(5’-GGNGCNAAYGTNAAYGG-3’配列番号:1)をセンスプライマーに、C-1485-A1(5’-TARAANGCYTGRAANGC-3’配列番号:2)をアンチセンスプライマーに、Rhodococcus equi M-750のゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行った。PCRはGeneAmp PCR system 9700 (PE Biosystems)にて35サイクル(98 oC 10秒、アニーリング温度50oC 1分、伸張温度 72oC 30秒)をLA Taqを用いて行った。増幅産物をpGEM T-eazy ベクター (Promega)にサブクローニングし、塩基配列を決定した。
DNAシーケンスとDNAの取り扱い方法
塩基配列はBigDye Terminater Cycle Seaquencing Ready Reaction Kit (PE Biosystems)とDNAシーケンサー(model 377A;Applied Biosystems)を用いたジデオキシ法にて決定した。アガロースゲルからのDNA抽出、菌体からのプラスミド抽出などは従来の方法(Sambrook, H., Fritsch, E. F., and Maniatis, T. (1989) A Laboratory Manual, 2nd. edn., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)を参考にした。
遺伝子全長の獲得
ゲノムDNAをBamH1で完全に消化し、これに対応するTAKARA LA PCR in vitroCloning Kitに付属のカセットとライゲーションさせた。これを鋳型とし、カセットに相補的なプライマーと遺伝子の部分塩基配列と相補的な、5’末端決定プライマーEGCBamA1(5’-GTTGGACGCGTAGTCGTTG-3’配列番号:3)、及び3’末端決定プライマーEGCBamS1(5’-TCAGATCGGACGCTTCTACC-3’配列番号:4)を用いてGeneAmp PCR system 9700にて25サイクル(94 oC 30秒、アニーリング温度56oC 30秒、伸張温度 72oC 1分)PCRを行い、増幅産物をpGEM T-eazy ベクターにサブクローニングし、塩基配列を決定した。
塩基・アミノ酸配列の解析
塩基及びアミノ酸配列の解析はDNASIS ソフトウェア(Hitachi Software Engineering)にて行った。同一性のあるアミノ酸配列の検索はBLAST(Altschul, S. F., Gish, W., Miller, W., Myers, E. W., and Lipman, D. J. (1990) J. Mol.Biol. 215, 403-410)にて行った。アミノ酸配列のアラインメントはCLUSTAL W(Thompson, J. D., Higgins, D. G., and Gibson, T. J. (1994) Nucleic Acids Res. 22, 4673-4680)及びJALVIEW(Clamp, M., Cuff, J., Searle, S. M., and Barton, G. J. (2004) Bioinformatics. 20, 426-427)にて行った。
発現コンストラクトの作成
rEGC3-S2(5’-GGAAGCTTTCTCCGGTGCCGTCGGAC-3’ 配列番号:5)をセンスプライマーに、rEGC3-HisA(5’-GGCGGCCGCGAGTGTGGTGACCGAGTAC-3’ 配列番号:6)をアンチセンスプライマーにしてPCRを行った。rEGC3-S2は下線で示すようにHindIIIサイトを、rEGC3-HisAは下線で示すNotIサイトを含む。PCRはGeneAmp PCR system 9700にて25サイクル(98 oC 1 分、アニーリング温度56oC 30秒、伸張温度 72oC 2分)をLA Taqを用いて行った。増幅産物をHindIII、NotI処理し、同様の制限酵素で処理したpET22bにライゲーションし、発現コンストラクトpETrEGCとした。
リコンビナント酵素の発現と精製
pETrEGCを用いて形質転換させた大腸菌BL21(λDE3)を100μg/mlのアンピシリンを含むLuria-Bertani(LB(+))培地5 mlにて37oC、12時間振とう培養した。200 mlのLB(+)培地に移し、O. D. 600が約0.5になるまで振とう培養し、IPTG (isopropyl β-D-thiogalactoside) を終濃度0.1 mMになるように添加して発現を誘導した後、さらに5時間振とう培養した。培養液を8000 gで10分遠心し、菌体ペレットを100 mlの30 mM Tris-HCl pH 8 20%スクロースに完全に懸濁させ、60 μlの0.5 M EDTA, pH 8 (最終濃度1 mM) を加え、室温で10分間、穏やかに撹拌させた。4℃、10,000 × gで10分間遠心して集菌、上清を除去し、氷冷した100 ml の5 mM MgSO4にペレットを完全に懸濁し、この細胞懸濁液を氷中で緩やかに10分間撹拌させた。4℃、10,000 × gで10分間遠心して、浸透圧ショックを行った細胞を沈殿させ、上清を回収し、これをペリプラズム画分とした。ペリプラズム画分をNi2+でキレートしたHiTrap Chelating HPカラムにかけ、0.5 M NaCl、0.2 % Triton X-100、25 mMイミダゾールを含む20 mM リン酸バッファー pH7.4 で洗浄した。リコンビナント酵素は0.5M NaCl、0.2%Triton X-100、100 mMイミダゾールを含む20 mM リン酸バッファー pH7.4にて溶出させた。これを50 mM 酢酸ナトリウムバッファー pH 5.5に透析した。タンパク量はBSAをスタンダードとしてBCA法にて測定した。
酵素アッセイ
酵素アッセイの反応系は、10 nmolの糖脂質、0.2%のTriton X-100、適量の酵素を含んだ50 mM 酢酸ナトリウムバッファー、pH 5.5 20 μlで構築した。以後の反応は37oCで行った。
反応は沸騰したウォーターバスにて5分置いて停止した。反応液はスピードバックで乾燥させ、10 μlのメタノールに溶かしてTLCプレートに供し、クロロホルム/メタノール/0.02%CaCl2=2/3/1にて展開した。糖脂質とオリゴ糖はオルシノール硫酸によって発色させ、Shimadzu CS-9300クロマトスキャナーにて、540 nmにセットしたreflectanceモードで発色強度を測定した。加水分解率は以下の式にて算出した。
1 ユニット(U)は1 μmol のTGCを1分間に加水分解する酵素量とした。
リコンビナント酵素の諸性質検討
最適pHを求めるために、TGCを基質として、50 mM 酢酸ナトリウムバッファー (pHレンジ 3-6)、50 mM リン酸バッファー ( pHレンジ 6〜8)を用い、上記の方法で反応系を構築した。金属イオンの影響を調べるため、様々な金属イオン(Fe3+、Fe2+、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Na+、Cu2+、Co2+、Mn2+、Hg2+)及びEDTAをそれぞれ5 mM添加した。基質特異性を調べるために、GT1b、GD1a、GM1a、Gb4Cer、Gb3Cer、LacCer、GalCer、GlcCer、GM4、GL-4、CDS、CTS、CTeSを基質として、それぞれ10 nmol使用した。
SDS-PAGEとWestern blotting
SDS-PAGEはLaemmliの方法に準じて行った。タンパクは12.5%のSDS-PAGEにて分離し、Coomassie Brilliant Blueを用いて染色した。Low-moleculer-mass SDS-PAGE calibration kit (Amersham Pharmacia Biotech)をスタンダードとして用いた。Western blottingのために、タンパクを12.5%のSDS-PAGEにて分離し、semi-dry blotter (Bio-Rad)を用いてニトロセルロース膜に転写した。膜を3%スキムミルク入りのTBSにて1時間ブロッキングを行い、0.02%のTween 20入りのTBSにて3回洗浄後、抗His 抗体 (Invitrogen)と2時間、室温で反応させた。これを0.02%のTween 20入りのTBSにて3回洗浄後、horseradish peroxidase-conjugated anti-mouse IgG抗体と1時間半、室温で反応させた。これを0.02%のTween 20入りのTBSにて3回洗浄後、peroxidase-stain kit (ナカライテスク株式会社)により発色させた。
糖転移反応によるアルキルグリコシドの合成
反応系は、10 nmolの糖脂質、0.2%のTriton X-100、0.5 mUの酵素、20%の1-アルカノールを含んだ50 mM 酢酸ナトリウムバッファー、pH 5.5を20 μlスケールで構築した。これを37oCで1時間反応させ、スピードバックにより乾燥、メタノールに溶解させTLCプレートにアプライし、クロロホルム/メタノール/0.02%CaCl2=5/4/1にて展開させた。糖脂質とオリゴ糖、そしてアルキルグルコシドはオルシノール硫酸によって発色させ、Shimadzu CS-9300クロマトスキャナーにて、540 nmにセットしたreflectanceモードで発色強度を測定した。
蛍光標識された糖脂質の合成
反応系は、10 nmolの糖脂質、0.2%のTriton X-100、0.5 mUの酵素、1 nmolのC12-NBD-Cerを含んだ50 mM 酢酸ナトリウムバッファー、pH 5.5を20 μlスケールで構築した。また、この反応系にacetoneを添加した系を構築した。これらを37oCで1時間反応させ、スピードバックにより乾燥、メタノールに溶解させTLCプレートにアプライし、クロロホルム/メタノール/0.02%CaCl2=5/4/1にて展開させた。UV照射により蛍光標識を検出した。また、糖脂質、遊離オリゴ糖はオルシノール硫酸で検出した。
〔結果〕
アミノ酸シーケンス
様々なカラムクロマトグラフィーにより、SDS-PAGE上でシングルバンドと確認された精製サンプルを用いてアミノ酸シーケンスを行った。その結果、表1で示す部分アミノ酸配列(配列番号:7〜14)を獲得した。
遺伝子のクローニング
ペプチド断片C-1479、C-1485から得られたアミノ酸配列から設計した縮重プライマーC-1479-S1とC-1485-A1によるPCRを行い431 bpの特異的な増幅産物を得た。この増幅産物の配列中にはペプチド断片C-1479、C-1482、C-1485が確認された。遺伝子の全長を獲得するために、この遺伝子部分配列より新たにプライマーEGCBamA1、EGCBamS1を設計し、TAKARA LA PCR in vitro Cloning Kitを用いたPCRにより遺伝子全長を獲得した (図1)。
新規EGCaseの推定アミノ酸配列
新規EGCaseの塩基配列(配列番号:15)及び推定アミノ酸配列(配列番号:16)を図1Aに示す。新規EGCaseの遺伝子は1464 bpのORFからなり、488アミノ酸をコードする。推定アミノ酸配列から、分子量は52299、pIは4.28と算定された。疎水性プロット(Kyte, J., and Doolittle, R. F. (1982) J. Mol. Biol. 157, 105-132)により、N末端にシグナル配列と思われる疎水性の高い22アミノ酸残基が確認された(図1B)。シグナル配列を除くと、分子量は50186と算定された。
新規EGCaseはアミノ酸レベルでRhodococcus EGCaseと26%、クラゲEGCaseと28%、ヒドラEGCaseと28%の同一性を示した (図2、配列番号:17〜19)。興味深いことに、基質特異性が異なるにも関わらず、これまでに報告のあるEGCaseの活性部位を構成するアミノ酸は新規EGCaseにも保存されていた。その中でも特に重要なのがNEPと称される(前掲非特許文献11)、配列中の234番グルタミン酸、341番グルタミン酸であり、それぞれ酸塩基触媒基、求核基として働く。そのほか、95番アルギニン、137番ヒスチジン、304番ヒスチジン、306番チロシン等、EGCaseの活性部位を構成すると考えられているアミノ酸は、新規EGCaseにも保存されていた。
発現と精製
発現コンストラクトpETrEGCを用いて、大腸菌BL21(λDE3)を形質転換させ、そのペリプラズム画分を調製し、これをHiTrap Chelating HPカラムにかけた。精製したリコンビナント新規EGCase (rEGCase)をSDS-PAGEに供したところ、分子量54 kDaと推定されるシングルプロテインバンドを検出した (図3A)。His-Tagを用いたWestern blottingによりこのプロテインバンドは、発現コンストラクトに由来するものであることを確認した (図3B)。rEGCaseは基質にβ-ガラクトシド結合をもつTGCをオリゴ糖とセラミドに加水分解したが、β-グルコシド結合をもつGM1には作用しなかった (図4)。一方で、Rhodococcus sp.由来の従来のEGCaseはTGCに対しては作用せず、GM1に対して強い加水分解活性を示した。このことから、本研究でクローニングに成功した酵素は、従来報告のあるEGCaseとは全く異なるものであることが示された。rEGCaseの比活性は6 U/mgであり、収量は1 Lカルチャーあたり4 mgであった。
諸性質検討
TGCを基質としてrEGCaseの諸性質検討を行った。最適pHは5.5〜6.0であった(図5A)。界面活性剤の影響をみたところ、0.1 %のTriton X-100及びLubrol PXにより活性が大幅に上昇することを確認した (図5B)。金属イオンの影響は、Hg2+添加により活性は全消失し、Fe3+では約50%、Zn2+、Cu2+では90%ほど活性の低下が見られた (図5C)。その他の金属イオン及びEDTAはrEGCase活性に大きな影響を及ぼさなかった。そしてHanes-Wools plotsにより求めたKmは0.43 mM、Vmaxは87.8 pmol/min、Kcatは800 min-1、Kcat/Kmは1860.5 min-1・mM-1であった。
基質特異性
rEGCaseをケカビ由来のβ-ガラクトシド結合をもつ糖脂質CDS、CTS、CTeSに作用させたところ、TGC同様に加水分解反応を示した(図6、表2)。また、活性は弱いものの、GalCer及びサイコシンにも作用することが判明した(図6、表2)。一方で、β-グルコシド結合を有する糖脂質には長時間反応させたにも関わらず全く活性を示さなかった(表2)。
1-アルカノールへの糖転移反応
rEGCaseとTGCを1-アルカノール存在下で反応させると、TLCプレート上にTGC由来オリゴ糖ともTGCともRf値の異なる新たなバンドが検出された(図7)。これはTGC由来オリゴ糖が1-アルカノールに転移されて生じたものと考えられる。rEGCaseは加水分解のみならず、糖転移反応も触媒することが判明した。特にメタノール、1-ヘキサノール、1-オクタノールには反応率45〜47 %という高効率で転移が起こった(表3)。それに対し、1-プロパノールは糖転移反応はもとより、加水分解反応への阻害すらも認められた。
蛍光標識セラミドへの糖転移反応.
蛍光標識された糖脂質は、糖脂質の機能解析や糖脂質に作用する酵素の高感度アッセイ系の構築に大いに役立つ。rEGCaseの糖転移反応は蛍光標識セラミドもアクセプターとするのか試した。その結果、rEGCaseとTGC、C12-NBD-Cerそしてアセトンを15%添加した反応系において、糖転移反応の結果生じたと考えられるC12-NBD-TGCのバンドが確認された(図8)。
本発明のEGCase遺伝子の塩基及び推定アミノ酸配列(A)と疎水性プロット.(A) 新規EGCaseの推定アミノ酸配列は塩基配列の下部に1文字で示している。アミノ酸配列は開始バリンを1として、順に番号を付けた。終始コドンはアスタリスクで示した。シグナル配列は太文字で表した。下線部で示したのは、アミノ酸シーケンスにより得られた部分アミノ酸配列である。(B) Kyte and Doolittle の方法により行った推定アミノ酸配列の疎水性プロット。 本発明のEGCaseとこれまでにクローニングされたEGCaseの推定アミノ酸配列のアラインメント. 本発明のEGCaseと、Rhodococcus、クラゲ、ヒドラの公知のEGCaseの推定アミノ酸配列をCLUSTAL WとJALVIEWを用いてアラインメントを行った。同一性を示したアミノ酸はアスタリスクで、化学的性質の似ているアミノ酸はドットで示した。配列中のギャップは横線で示した。従来のEGCaseにおいて、それぞれ酸塩基触媒、求核基として働くと目され、加水分解活性に重要とされている234番グルタミン酸、341番グルタミン酸(共に黒い矢印で示す)は新規EGCaseにも保存されていた。そしてEGCaseの活性部位を構成する5つのアミノ酸(白い矢印で示す)も確認された。 リコンビナントEGCase (rEGCase)のSDS-PAGEとWestern blotting.(A) SDS-PAGE後、Coomassie Brilliant Blue で染色した結果。(B) 抗His-Tag抗体を用いてWestern blottingを行った結果。lane 1 : 細胞質画分、lane 2 : ペリプラズム画分、lane 3 : 精製リコンビナント酵素 rEGCaseの活性確認.(A) rEGCaseの活性をTLCで解析した結果。lane 1 : GM1, lane 2 : EGCase I + GM1, lane 3 : rEGCase + GM1, lane 4 : TGC, lane 5 : EGCase I + TGC, lane 6 : rEGCase + TGC(B) rEGCaseのTGC(●)及びGM1a(□)に対するタイムコース。 rEGCaseの諸性質検討.(A) TGCを基質として最適pHを決定した。◇, 酢酸ナトリウムバッファー, pH 3.0−6.0; 黒四角, リン酸バッファー, pH 6.0−8.0(B) 界面活性剤の影響を調べた結果。TGCを基質とした。◆, Triton X-100; □, Lubrol PX; △, TDC .(C) 金属イオン及びEDTAの影響。 ケカビ由来の糖脂質への作用. 10 nmolのケカビ由来の糖脂質、0.2%のTriton X-100、0.5 mU リコンビナントEGCaseを含んだ50 mM 酢酸ナトリウムバッファー pH5.5を20 mlで反応させ、反応産物をTLCで確認した。矢印は遊離オリゴ糖を示す。lane 1 : Gal-Cer, lane 2 : GalCer + rEGCase, lane 3 : CDS, lane 4 : CDS + rEGCase, 5 : CTS, 6 : CTS + rEGCase, lane 7 : CTeS, lane 8 : CTeS + rEGCase 本発明のEGCaseにより、TGCオリゴ糖がさまざまな1−アルカノールに転移する. 反応系は、10 nmolの糖脂質、0.2%のTriton X-100、0.5 mUの酵素、20%の1-アルカノールを含んだ50 mM 酢酸ナトリウムバッファー, pH5.5を20 mlで構築した。これを37oCで1時間反応させ、 TLCで展開後、オルシノール硫酸で発色させた。lane 1 : TGC, lane 2 : TGC + rEGCase, lane 3 : TGC + rEGCase + MeOH, lane 4 : TGC+ rEGCase + EtOH, lane 5 : TGC + rEGCase + 1-propanol, lane 6 : TGC + rEGCase + 1-butanol, lane 7 : TGC + rEGCase + isoamyl alcohol, lane 8 : TGC + rEGCase + 1-hexanol, lane 9 : TGC + rEGCase + 1-octanol. 本発明のEGCaseは糖転移反応において蛍光標識セラミドもアクセプターとする. 10 nmolの糖脂質、0.2%のTriton X-100、0.5 mUの酵素、1 nmolのC12-NBD-Cerを含んだ50 mM 酢酸ナトリウムバッファー, pH5.5を20 mlで構築した。lane 4 ではこれにアセトンをこれを37oCで1時間反応させ、 TLCで展開後、(A)は紫外線照射により反応産物を検出し、(B)ではオルシノール硫酸により検出した。lane 1 : TGC, lane 2 : TGC + rEGCase, lane 3 : TGC + rEGCase + C12-NBD-Cer, lane 4: TGC + rEGCase + C12-NBD-Cer + 15 % acetone, lane 5 : C12-NBD-Cer, lane 6 : TGC + C12-NBD-Cer

Claims (10)

  1. 下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)を含有するポリヌクレオチド:
    (a)配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は少なくともORF部分を含む一部からなるポリヌクレオチド;
    (b)(a)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
    (c)(a)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1〜9個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
    (e)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又はシグナル配列部分を除いた部分を少なくとも含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
    (f)(e)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
  2. Rhodococcus属に属する菌由来である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
  3. 下記の(e')、(f')又は(g')のタンパク質:
    (e')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又はシグナル配列部分を除いた部分を少なくとも含む一部からなるタンパク質;
    (f')(e')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつエンドグリコセラミダーゼ活性を有するタンパク質。
  4. Rhodococcus equi M-750(FERM AP-20926)の培養上清より得られる、以下の性質を有する、加水分解酵素:
    (ア)スフィンゴ糖脂質に作用し、糖又は糖鎖−セラミド間の結合を加水分解的に切断して、糖又は糖鎖とセラミドとを生成することができ;
    (イ)β-ガラクトシルセラミド結合を有するスフィンゴ糖脂質を加水分解することができるが、β-グルコシルセラミド結合を有するスフィンゴ糖脂質は分解せず;
    (ウ)37℃で作用することができ;
    (エ)至適pHは5.5〜6.0であり;かつ
    (オ)分子量は約54 kDaである。
  5. 請求項3に記載のタンパク質、又は請求項4に記載の加水分解酵素を用いることを特徴とする、ガラ系糖脂質の解析又は検出方法。
  6. 請求項3に記載のタンパク質、又は請求項4に記載の加水分解酵素を用いることを特徴とする、糖脂質又は糖鎖の処理方法。
  7. 請求項3に記載のタンパク質、又は請求項4に記載の加水分解酵素を用いることを特徴とする、糖脂質の製造方法。
  8. 請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
  9. 請求項8に記載のベクターにより形質転換された、形質転換菌。
  10. 請求項9に記載の形質転換菌を用いることを特徴とする、請求項3に記載のタンパク質、又は請求項4に記載の加水分解酵素を製造する方法。
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