JP4352177B2 - トリアゾール鉄錯体からなる機能性有機ゲル - Google Patents
トリアゾール鉄錯体からなる機能性有機ゲル Download PDFInfo
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279, 44:非特許文献1)、相分離による試料の不均一化、高温によるスピンクロスオーバーの性質の劣化などの問題が残っている。結晶化溶媒を含む結晶から成るスピンクロスオーバー錯体も案出されているが、結晶では、加熱により含まれた結晶化溶媒が蒸発するため、スピン転移が非可逆的になる。また、結晶化前の溶媒中では、それらの錯体は分解しやすく、スピンクロスオーバーの性質が容易に失われてしまう等の問題があった。従って、スピンクロスオーバー錯体の応用開発には、いかに安定でかつスピン転移可能なソフトマテリアルを創成することができるかが重要なポイントとなっている。
Ed 2003, 42, 332:非特許文献2)。有機ゲルにはゲルという特殊環境下ならではの新しい機能発現の可能性が秘められているので、機能性有機ゲルの開拓はソフトマテリアルとしての新たな応用に繋がると考えられるが、スピンクロスオーバー現象を発現する有機ゲルは見当たらない。
O. Kahnら、Science, 1998, 279, 44 A. AjayaghoshらAgnew Chem Int Ed 2003, 42, 332
かくして、本発明に従えば、下記の一般式(A)で表されるトリアゾール鉄錯体と、炭素数5〜16のアルカンとから形成されることを特徴とする有機ゲルが提供される。
なお、実施例において採用した試薬、測定装置および条件等は次のとおりである。
1.試薬等
・反応はすべて乾燥アルゴン下で行った。
・溶剤類は無水のものはそのまま使用した。
・メタノール、THF、アスコルビン酸は(株)東京化成工業から供給されるものをそのまま使用した。
2.測定装置と条件等
・IRスペクトル:日本分光社製FTIR−660 Plus型赤外分光光度計を使用した。
・紫外・可視吸収スペクトル:光路長1センチの四面透明石英セルを用い、日本分光社製Ubest V−560型分光光度計を使用して測定した。
・磁性測定:Quantum Design社製MPMS−5S型SQUID磁力計を使用した。
・粘弾性測定:TA社製ARES粘弾性計を使用した。
図1に示す反応式に従って式(B)のトリアゾールリガンド(配位子)を合成した。式(B)において、R2=R4=−OC12H25、R3=Hのトリアゾールリガンド(以下、C12Trzと略記する)について具体的な合成法および同定データを以下に示すが、他のリガンドについても同様に合成した。
<C12Trzの合成> 還流管とマグネット攪拌子を有する300mLの二口フラスコに、蒸留したTHF100mLを入れ、1,3−ジドデシロキシルベンゾイックアシッド3.0g、トリエチルアミン2.0mL、ジフェニル(2,3−ジヒドロキシ−2−チオキシ−3−ベンゾキサゾール)ホスホネート6.2g、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール1.0gを入れ、攪拌しながら加熱し、30分還流した後、反応溶液を室温まで冷却した。濾過で過剰な未反応物を除き、得られたろ液を蒸発させて除去し、固体を得た。30mLのクロロホルムに溶かし、シリカゲルカラムで分離した。溶媒はクロロホルムから3%のメタノールを含有するクロロホルムの混合溶媒に少しずつ変え、第2のフラクションを集めた。蒸発により溶媒を除去し、95%の収率で白色固体C12Trzを得た。
<同定データ>
(1)プロトン核磁気共鳴分析1H NMR(500MHz,CDCl3):δ(ppm) 0.86(6H,t,J=7.0Hz,CH3)、1.24(32H,m,(CH2)8)、1.40(4H,m,J=7.0Hz,OCH2CH2CH2)、1.76(4H,m,J=7.0Hz, OCH2CH2)、3.92(4H,t,J=7.0Hz, OCH2)、6.66(1H, t,J=2.0Hz,ArH)、7.17(2H, d,J=2.0Hz,ArH)、8.20(2H,s,トリアゾール−H)。
(2)カーボン13核磁気共鳴分析13C
NMR (125MHz, CDCl3):δ(ppm) 14.2、22.6、26.1, 29.2、29.4、29.5、29.7、29.7、32.0、68.5、106.0、106.7、131.8、143.4、160.5および166.0。
(3)赤外分光分析FT IR (KBr):ν(cm−1) 3115(NH)、2920(CH2,νanti)、2850(CH2,νanti)、および1670(C=O)。
(4)飛行時間質量分析MALDI-TOF-MS:C33H56N4O3
[M+H+]:m/z=557.8(計算値);557.6(実測値)。
実施例1に従って合成したトリアゾールリガンドとアルキルスルホン酸鉄を反応させることによりトリアゾール鉄錯体を合成した。トリアゾールリガンドとしてC12Trzを用い、アルキルスルホン酸鉄としてn−ドデシルスルホン酸鉄を用いた鉄錯体(以下、C12Trz鉄錯体と略記する)について具体的な合成法および同定データを以下に示すが、他の錯体についても同様に合成した。
<C12Trz鉄錯体の合成> 還流管とマグネット攪拌子を有する100mLの二口フラスコにC12Trz(3g)を入れ、アルゴンで置換した後、メタノール/THF(体積比で5/1)混合溶媒(50mL)を加えて溶かした。この溶液に少量のアスコルビン酸(0.01g)を共存させたドデシル硫酸鉄(0.2g)のメタノール/THF(体積比で5/1)混合溶液(20mL)を滴下し、5分間加熱還流した。室温まで冷却した後、反応溶液を蒸発除去し、99%の収率で紫色の固体としてC12Trz鉄錯体を得た。
<同定データ>
FT−IR(KBr; cm−1):ν(OH)3446、ν(NH) 3100、νasym(CH2)
2923、νsym(CH2) 2853、ν(C=O)1696、ν(C=C)1604、ν(N=C−N)1561、ν(CONH)1519、ν(CH2)1465、ν(C−O)1167、ν(O=S=O)1206、ν(O=S=O)1046、νasym (O=S=O)776、ν(CH2)721、ν(trz)622、νsym(O=S=O)554。
1Lのフラスコに、実施例2で合成したC12Trz鉄錯体(10g)と10〜1000mLのドデカンを入れ、室温下で3時間〜1日間静置し、濃度が0.6〜40重量%の均一な紫のゲルを得た。
<ゲル−ゾル転移>
得られたゲルをセルに移し、昇温した。いずれの場合も、63℃付近でゲルが溶けてゾルになると同時に、色が紫からオフ−ホワイトに変わった。降温すると、ゾルが速やかに再びゲルになり、同時に、色が紫に戻った。
図2にゾルゲル転移温度の濃度(鉄錯体の重量%)依存性を示す。すべてのゲルは、濃度に依らず実質的に同じ温度でゾル−ゲル転移を起こした。
また、図3に、1例として鉄錯体濃度40重量%のゲルについて測定した紫外・可視スペクトルの変化(A:加熱、B:冷却)を示す。温度変化によるゾル−ゲル転移に伴なう色の変化が可逆的に起こることがスペクトル測定によっても確認された。他の濃度のゲルについても、色の変化の程度(吸光度)は異なるが、同様のスペクトル変化が観察された。
図4は、1例として鉄錯体濃度20重量%のゲルについて行なった粘弾性測定の結果を示す。低温では弾性を示してゲルの状態を保っているが、63℃付近でG’(貯蔵弾性率)とG’’(損失弾性率)が交差し、その後、逆転しており、この温度において弾性域から粘性域への転移が生じて、ゲルが融解してゾルになることが粘弾性特性からも確認された。
<磁性変化測定>
1例として鉄錯体濃度20重量%のゲルについて測定した磁性の温度依存性を図5に示す。既述の目視観察、紫外・可視吸収スペクトル測定および粘弾性測定でゲルからゾルへの転移の認められる63℃付近で磁化率の急激の変化が起こっており、この温度において低スピン状態から高スピン状態へのスピン転移が生じていることが理解される。
式(A)の鉄錯体におけるアルキルスルホン酸イオン(R1−SO3 −)のR1、ならびに式(B)のトリアゾールリガンドのR2、R3およびR4の異なる種々のトリアゾール鉄錯体とドデカンとから有機ゲルを作成し、ゾル−ゲル転移を観察した。ゲル化溶媒ドデカンに対するトリアゾール鉄錯体の濃度は20重量%とした。ゲルの作成法およびその物性測定法は実施例1〜実施例3に準じた。
その結果を表1にまとめて示す。表1のR1において、C8、C12およびC16とは、それぞれ、R1が炭素数8、12および16のアルキル基であることを示す。また、表1のR2、R3およびR4においてC8、C12およびC16とは、それぞれ、炭素数8、12および16のアルコキシル基であることを示す。なお、Hは水素原子であることを示す。いずれの場合においても、低温から昇温すると、63℃付近でゲルが溶解してゾルになると同時に、色が紫からオフホワイトに変化した。降温するとゾルが速やかに再びゲルになると同時に色が紫に戻った。
実施例1〜実施例3に示したC12Trz鉄錯体とドデカンとから成る有機ゲルにおいて、ゲル化溶媒としてドデカンの代わりに、オクタン、デカン、およびヘキサデカンを用いて有機ゲルを作成しゾル−ゲル転移を観察した。ゲル化溶媒に対するトリアゾール鉄錯体の濃度は2〜40%(重量)とした。ゲルの作成法およびその物性測定法は実施例1〜実施例3に準じた。その結果、いずれの場合においても、低温から昇温すると、63℃付近でゲルが溶解してゾルになるとともに紫からオフホワイトへの色の変化が認められ、降温すると再びゲルへ戻るとともに色も紫色に変わった。
Claims (5)
- R1が炭素数8〜16のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の有機ゲル。
- R2、R3およびR4の少なくとも1つが炭素数8〜16のアルキル基またはアルコキシル基であり、R2、R3およびR4の残りが水素原子であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機ゲル。
- R2、R3およびR4の少なくとも1つが炭素数8〜16のアルコキシル基であることを特徴とする請求項3に記載の有機ゲル。
- アルカンが炭素数8〜16の直鎖状アルカンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機ゲル。
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