しかしながら、従来のNRDガイド用のミリ波ミキサーでは、所望の周波数で動作させるために、誘電体線路30,31間の空隙と、誘電体線路31,36の長さと、誘電体シート32の厚みとでインピーダンス整合をとっており、それらの位置ずれや加工精度が低いと、動作周波数がずれてしまい、所望の周波数でのコンバージョンロスが劣化してしまうという問題があった。すなわち、それらの加工精度および位置決め精度の維持管理が難しく、また組立ての再現性が低いため、製造の作業性が悪くなり、信頼性の高いものとすることが困難であり、効率よい量産にも向かないという問題点があった。
さらに、従来のミリ波ミキサーでは、図5のようにSBD34が実装された配線基板35を誘電体シート32と誘電体線路36とで挟む構成になっており、このため組立作業時にSBD34に誘電体線路36が接触することがあり、それによってSBD34を破損してしまうという問題点があった。
また、インピーダンス整合を良好に行なうための構成である非特許文献2に提案された構成では、チョーク型バイアス供給線路33のインピーダンスにおいてリアクタンス成分の可変範囲が狭く、特に誘導性リアクタンスを調整することはできるが、容量性リアクタンスを調整することが困難であるという問題点があり、その結果、SBD34が誘導性リアクタンスを主に有するため、SBD34と誘電体線路30,31とのインピーダンス整合を十分に行なうことができず、ミリ波信号をSBD34で十分に検波することができないという問題点があった。なお、この問題点は、SBD44を構成要素とするもう1つのミリ波検波部についても同様である。
また、インピーダンス整合を良好に行なうための構成である特許文献1に提案された構成では、整合できる周波数範囲が狭く、広い帯域のミリ波信号を使用する用途に適用できないという問題点があり、また、わずかな周波数変動に対し整合特性が急激に変化するといった問題点があった。さらに、周波数に対応させて反射線路の長さを調整する必要があり、製作の作業性が悪いという問題点もあった。
このような従来のミリ波ミキサーでは、ミリ波検波が不十分なものとなり、ミリ波信号のミキシング特性が低下し、ミリ波レーダ等に適用した際に正確な探知が困難になるという問題点があった。
本発明は上記事情に鑑みて完成されたものであり、その目的は、様々なインピーダンスを有するミリ波検波用素子に対し、所望の動作周波数で広帯域にインピーダンス整合を行なうことができ、またそれを用いることによってミリ波レーダ等の製作の再現性および量産性を向上させることができる、NRDガイド用のミリ波ミキサーを提供することにある。
本発明のミリ波ミキサーは、ミリ波信号の波長の2分の1以下の間隔で配置した平行平板導体間に配置された2つの誘電体線路の各々の中途を電磁結合するように近接させるかまたは接合させ、前記2つの誘電体線路を伝搬してきた各々のミリ波信号を混合して中間周波信号を発生するミリ波ミキサーであって、前記2つの誘電体線路の各々は、その誘電体線路の途中に挿入されるかまたは一端に設置された、基板上に幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路の途中に前記ミリ波信号に対して検波作用のあるミリ波検波用素子を接続用導体を介して接続したミリ波検波部を備えており、前記接続用導体と前記チョーク型バイアス供給線路の前記幅の広い線路との間に、前記接続用導体および前記幅の狭い線路よりも幅が広く前記幅の広い線路よりも幅が狭い幅Wを有する線路導体が、前記幅Wの部位で直接、前記幅の広い線路に接続されていることを特徴とするものである。
本発明のミリ波ミキサーにおいて、好ましくは、前記誘電体線路の端面と前記ミリ波検波用素子との間に前記誘電体線路よりも誘電率の低い誘電体部材が設けられていることを特徴とする。
本発明のミリ波ミキサーにおいて、好ましくは、前記線路導体は、その幅が前記接続用導体の幅の5倍以下であることを特徴とする。
本発明のミリ波ミキサーにおいて、好ましくは、前記線路導体は、その長さが前記ミリ波信号の波長のn/4倍(nは自然数)であることを特徴とする。
本発明のミリ波ミキサーにおいて、好ましくは、前記線路導体は、その長さが前記ミリ波信号の波長のm/4倍(mは2以上の自然数)であり、その長さ方向の前記接続用導体から前記ミリ波信号の波長の1/4倍の部位に前記線路導体よりも幅広のスタブが形成されていることを特徴とする。
本発明のミリ波ミキサーにおいて、好ましくは、前記ミリ波検波用素子がショットキーバリアダイオードであることを特徴とする。
本発明のミリ波ミキサーによれば、ミリ波信号の波長の2分の1以下の間隔で配置した平行平板導体間に配置された2つの誘電体線路の各々の中途を電磁結合するように近接させるかまたは接合させ、2つの誘電体線路を伝搬してきた各々のミリ波信号を混合して中間周波信号を発生するミリ波ミキサーであって、2つの誘電体線路の各々は、その誘電体線路の各々の途中に挿入されるかまたは一端に設置された、基板上に幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路の途中にミリ波信号に対して検波作用のあるミリ波検波用素子を接続用導体を介して接続したミリ波検波部を備えており、接続用導体は、チョーク型バイアス供給線路の幅の広い線路に接続された、接続用導体よりも幅が広く、幅の広い線路よりも幅が狭い線路導体に接続されていることから、線路導体の幅によりミリ波検波用素子と接続用導体との合成インピーダンスが誘電体線路のインピーダンスに対して整合するように調整され、このとき線路導体はその幅の調整範囲でミリ波検波用素子が容量性リアクタンスを有する場合に加えて誘導性リアクタンスを有する場合にもその容量性または誘導性リアクタンスを打ち消すように働くので、様々なインピーダンスを有するミリ波検波用素子に対し、所望の動作周波数で広帯域にインピーダンス整合が行なえるものとなる。その結果、ミリ波検波用素子とチョーク型バイアス供給線路との接続部において、ミリ波信号の反射損失等が小さくなり、伝送特性が向上することとなる。このことは、本発明者らの実験によって確かめられたものである。
また、本発明のミリ波ミキサーによれば、誘電体線路の端面とミリ波検波用素子との間に誘電体線路よりも誘電率の低い誘電体部材が設けられているときには、基板側の条件によって線路導体により大きな容量性リアクタンスを持たせることができ、線路導体は、ミリ波検波用素子が有する、より大きな誘導性リアクタンスをも打ち消すように働くので、誘電体線路とミリ波検波用素子との間のインピーダンス整合をより良好に行なうことができる。
また、本発明のミリ波ミキサーによれば、線路導体はその幅が接続用導体の幅の5倍以下であるときには、線路導体はより大きな容量性リアクタンスを有することとなり、線路導体は、ミリ波検波用素子が有する、より大きな誘導性リアクタンスをも打ち消すように働くので、線路導体に適当な誘導性または容量性リアクタンスを持たせることができ、より大きな誘導性リアクタンスを持つミリ波検波用素子に対しても良好にインピーダンス整合を行なうことができる。また、線路導体のインピーダンスにおいて、誘導性リアクタンスが容量性リアクタンスよりも大きくなりすぎるのを抑えて、誘導性リアクタンスおよび容量性リアクタンスによってバランスよく良好にインピーダンス整合を行なうことができる。
また、本発明のミリ波ミキサーによれば、線路導体はその長さがミリ波信号の波長のn/4倍(nは自然数、すなわち1以上の整数)であるときには、ミリ波検波用素子の接続部から見た線路導体およびチョーク型バイアス供給線路のインピーダンスは容量性となり、誘電性のインピーダンスを有するミリ波検波用素子との整合をより好適に行なうことができる。また、線路導体からチョーク型バイアス供給線路に入り込もうとする高周波信号を防ぐことができ、線路導体をチョーク型バイアス供給線路の一部として機能させることができる。
また、本発明のミリ波ミキサーによれば、線路導体はその長さがミリ波信号の波長のm/4(mは2以上の自然数)であり、その長さ方向の接続用導体からミリ波信号の波長の1/4倍の部位に線路導体よりも幅広のスタブが形成されているときには、線路導体においてミリ波信号を共振させるとともにスタブでインピーダンスを変えることができるので、ミリ波検波用素子の接続部から見た線路導体およびチョーク型バイアス供給線路のインピーダンスはさらに大きな容量性を有することとなり、誘導性のインピーダンスを有するミリ波検波用素子との整合を好適に行なうことができる。また、スタブでインピーダンスを整合することによって、線路導体からチョーク型バイアス供給線路に入り込もうとする高周波信号をより確実に防いで遮断することができる。
また、本発明のミリ波ミキサーによれば、ミリ波検波用素子がショットキーバリアダイオードであるときには、例えばパルス化されたミリ波信号等の急峻な信号強度変化を伴うミリ波信号に対しても確実に応答する良好なミリ波ミキシングを行なうことができる。
本発明のミリ波ミキサーについて、その実施の形態の一例であるNRDガイドを用いたミリ波ミキサーM1を例にとって、以下に詳細に説明する。
図1は本発明のミリ波ミキサーの実施の形態の一例であるミリ波ミキサーM1について、その構成を模式的に示したものであり、(a)はミリ波ミキサーM1の平面図、(b)はミリ波ミキサーM1の構成要素であるミリ波検波部((a)のA部)の斜視図である。なお、図1において平行平板導体は省略されている。
また、図2(a)および(b)は、それぞれミリ波ミキサーM1に用いられる、ミリ波検波用素子が接続されて実装される基板についての実施の形態の例を示した平面図である。さらに、図3は本発明のミリ波ミキサーM1におけるミリ波検波部およびそれにバイアスを印加するためのバイアス回路の基本的構成の例を示したものであり、(a)は一般的なバイアス回路の回路図、(b)はミリ検波用素子の一般的な等価回路図、(c)はミリ波検波部の模式的な等価回路図である。そして、図4はミリ波ミキサーM1のコンバージョンゲイン特性の一例を示すグラフである。
本発明のミリ波ミキサーM1は、ミリ波信号の波長の2分の1以下の間隔で配置した平行平板導体間に配置された2つの誘電体線路1および誘電体線路11の各々の中途を電磁結合するように近接させるかまたは接合させ、誘電体線路1,2または誘電体線路11,12を伝搬してきた各々のミリ波信号を混合(ミキシング)して中間周波信号を発生するものである。
誘電体線路1と一体に接続された誘電体線路2および同様に誘電体線路11と一体に接続された誘電体線路12は、誘電体線路2および誘電体線路12のそれぞれの一端に設置された、基板4および基板14上に幅の広い線路5bと幅の狭い線路5aとを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路5の途中の途切れた部位にミリ波信号に対して検波作用のあるミリ波検波用素子であるSBD3を接続用導体(図示せず)を介して接続したミリ波検波部を備えている。そして、本発明のミリ波ミキサーM1においては、このミリ波検波部は、接続用導体が、チョーク型バイアス供給線路5の幅の広い線路5bに接続された、接続用導体よりも幅が広く幅の広い線路5bよりも幅が狭い直線状の線路導体6(6a,6b)に接続されている。
誘電体線路1,2および誘電体線路11,12は、四フッ化エチレン,ポリスチレン,コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)セラミックス,ガラスセラミックス等から成る。基板4および基板14は、四フッ化エチレン,ポリスチレン,ガラスセラミックス,ガラスエポキシ樹脂,エポキシ樹脂等から成り、この基板4,14の一主面に、アルミニウム(Al),金(Au),銅(Cu)等のストリップ導体から成るチョーク型バイアス供給線路5および線路導体6が形成されて、ミリ波検波部の配線基板が構成される。
チョーク型バイアス供給線路5は、一般に知られるマイクロストリップ線路等の分布定数線路で用いられるローパスフィルタと同様に、(図3(a)のChoke1またはChoke2に相当する)幅の狭い線路5aと幅の広い線路5bとで構成され、幅の狭い線路5aの幅および長さならびに幅の広い線路5bの幅および長さが、ミリ波信号の漏洩を阻止するとともに、SBD3に直流バイアス電圧を印加し、検波出力を透過するように決められる。すなわち、幅の狭い線路5aの幅は幅の広い線路5bの幅よりも狭く設定されるとともに幅の狭い線路5aの長さおよび幅の広い線路5bの長さはインピーダンスが反転するλ/4(λはミリ波信号の波長)に設定される。これにより、幅の狭い線路5aがインダクタンスとして、幅の広い線路5bがキャパシタンスとしてそれぞれ働き、全体でLCローパスフィルタとして動作し、SBD3の検波出力を阻止するとともにSBD3に直流バイアス電圧を印加するように動作する。このとき、SBD3の検波出力を阻止するための阻止周波数帯域は、幅の狭い線路5aの幅および長さならびに幅の広い線路5bの幅および長さを適宜調整することによって調整すればよい。このとき、幅の狭い線路5aの長さおよび幅の広い線路5bの長さをそれぞれλ/4とすれば、それぞれに最も大きなインダクタンスおよびキャパシタンスを与えることができ、チョーク型バイアス供給線路5の大きさを小さくできるので好ましい。
SBD3,13は、それぞれ基板4,14上のチョーク型バイアス供給線路5の途中に、線路導体6の一端に導体バンプが接続される接続パッド等の接続用導体を介して接続され、ミリ波信号7のLSMモードの電磁波の電界方向Eとほぼ同一の方向にバイアス電流が流れるように配置される。
そして、ミリ波ミキサーM1においては、図3(a)に回路図で示すようなバイアス回路で、基板4,14のそれぞれに接続されたSBD3,13にバイアス電圧が印加され、誘電体線路1,11に入射したミリ波信号7がそれぞれSBD3,13で検波されるとともにそれらの検波出力がミキシングされて、出力端子(図示せず)から中間周波信号であるミキサー出力PMIXとして取り出される。
この本発明のミリ波ミキサーM1においては、接続用導体とチョーク型バイアス供給線路5との間に、幅の広い線路5bに接続された、接続用導体よりも幅が広く幅の広い線路5bよりも幅が狭い通常は直線状の線路導体6(6a,6b)が形成され、この線路導体6に接続用導体が接続されていることから、線路導体6(6a,6b)の幅によりミリ波検波用素子(SBD3,13)と線路導体6(6a,6b)との合成インピーダンスが誘電体線路1,2,11,12のインピーダンスに対して整合するように調整され、このとき線路導体6(6a,6b)はその幅の調整範囲でミリ波検波用素子(SBD3,13)が容量性リアクタンスを有する場合に加えて誘導性リアクタンスを有する場合にもその容量性または誘導性リアクタンスを打ち消すように働くので、様々なインピーダンスを有するミリ波検波用素子に対し、所望の動作周波数で広帯域にインピーダンス整合が行なえるものとなる。その結果、ミリ波検波用素子(SBD3,13)とチョーク型バイアス供給線路5との接続部においてミリ波信号の反射損失等を小さくすることができ、ミリ波ミキシング特性を向上させることができる。
以下に、その理由を詳細に説明する。なお、以下の説明において、SBD3およびそれを用いて構成されるミリ波検波部についての説明は、SBD13およびそれを用いて構成されるミリ波検波部についても同様である。
まず、第一に、良好なミリ波ミキシング特性を得る上で重要な点は、入力されたミリ波信号7をできる限り損失を少なくしつつミキサー出力PMIXに変換することであり、それには、その程度を表す次に述べるコンバージョンゲインGcを大きくすることが重要であるのは言うまでもない。
ここで、ミキサー出力PMIX,誘電体線路1および誘電体線路11に入力させるミリ波信号7をそれぞれPLOおよびPRF、また、PLOとPRFとの位相差をδとすれば、
PMIX=(PRF・PLO・sinδ・Gc)1/2
ただし、Gcはミキサーのコンバージョンゲインを表している。
で表される。
コンバージョンゲインGcを決定づける要素としてはミリ波検波部において2つあり、1つはSBD3の遮断周波数fcであり、もう1つはSBD3と誘電体線路1とのインピーダンス整合である(SBD13を用いて構成されるミリ波検波部についても同様である。)。これらがともにSBD3(SBD13)自身の電気的特性に依存し、コンバージョンゲインGcの特性を決定づけているものである。
次に、SBD3の電気的な等価回路は図3(b)に回路図で示す通りであり、このSBD3の順方向バイアス時のインピーダンスZd1は、
Zd1=Rs+Rj+jω・Lb
で表される。
ただし、Rsは半導体基板(通常はn+ドープ層である。)の抵抗とエピタキシャル層(n層)の抵抗とバックコンタクトの抵抗とが直列に接続された合成抵抗、Rjはショットキー接合部の非線形抵抗、Lbはショットキー接合部へのコンタクト配線であるリードのインダクタンスである。
また、図3(b)に示すようにSBD3の無バイアス時のインピーダンスZd0は、
Zd0=Rj/(1+jω・Rj・Cj)+Rs+jω・Lb
で表される。
ただし、Cjはショットキー接合部の電気的な容量(キャパシタンス)である。
また、SBD3の遮断周波数fcは、
fc=1/(2π・Cj・Rs)
で表される。
これらSBD3の特性を決めるパラメータのうち、動作周波数を決める遮断周波数fcが最も重要なので、通常、それが初めに決められる。一般的に、遮断周波数fcを大きくするためにはCj,Rsともに小さくすることが要求される。このうちRsは、キャリア密度とキャリアの移動度とによって決まる値であるが、移動度は半導体材料に固有の値で決まっており、通常の設計では、キャリア密度しか変える余地がない。ところが、キャリア密度はCjにも影響を与える値であって、Rsが小さくなるようにキャリア密度を設定すると逆にCjが大きくなってしまう傾向にある。そのため、動作周波数を高くするとき、Cjを小さくするような設計が行なわれるのが一般的である。
ミリ波ミキサーM1では、SBD3をミリ波で動作させるので、特にCjを小さくすることが肝要である。そのため、ミリ波ミキサーM1に用いられるSBD3では、エピタキシャル層上の絶縁層に設けた小径のコンタクトホールを通して、非常に狭い領域のエピタキシャル層上に金属層を点接触させることによりショットキー接合が形成される。この金属層への配線は先の細いリードで行なわれるため、リードのインダクタンスLbによってZd1の誘導性リアクタンスが大きくなる傾向にある。
例えば、Lb=0.2nHを有する一般的なSBD3に順方向バイアス電圧をかけ、75GHzのミリ波信号を入射させたとき、Zd1のリアクタンス成分Im{Zd1}は約94Ωの誘導性リアクタンスとなる。Im{Zd1}は、キャパシタ等の容量性リアクタンスによって、インピーダンスが整合するように補正され得るが、SBD3自体でそれを実現することは、素子サイズの制限上十分な容量を得ることが難しいため、また量産性や信頼性の観点からも困難が伴う。
これに対して、本発明者らは、図3(c)にミリ波検波部の等価回路を模式図で示すように、誘電体線路1,2(インピーダンスZNRD)とSBD3(インピーダンスZd)との間に設けられた基板4による配線基板(インピーダンスZL)が容量性リアクタンスを持つようにすると、容易かつ確実に良好なインピーダンス整合が行なえることを見い出した。
すなわち、ミリ波信号7を中間周波信号に損失を少なくしつつ変換して十分なミキサー出力PMIXを得るためには、SBD3の遮断周波数fcをミリ波信号7の検波に適合するように設計した結果、誘導性のインピーダンスを持つ傾向にあるSBD3と良好にインピーダンス整合するように容量性リアクタンスを持つ、基板4に形成した線路導体6を介してSBD3を誘電体線路1,2に電気的に接続し、コンバージョンゲインGcを大きくすればよい。
このように基板4に形成した線路導体6に容量性リアクタンスを持たせるには、基板4上にSBD3の左右に形成した直線状の線路導体6(6a,6b)の幅を、接続用導体よりも広く、かつ幅の広い線路5bよりも狭くすればよい。線路導体6(6a,6b)の幅を狭くして面積を小さくするほど、SBD3部から見たミリ波検波部のインピーダンスをZLとすれば、ZLのリアクタンス成分Im{ZL}の容量性リアクタンスが大きくなるように作用し、より大きな誘導性リアクタンスを有するSBD3と誘電体線路1,2とのインピーダンス整合を良好にとることができる。
また、基板4側の条件によって線路導体6に容量性リアクタンスを持たせるようにするには、基板4を構成する誘電体基板の誘電率を誘電体線路1,2よりも低くしてもよい。基板4の誘電体基板の誘電率を誘電体線路1,2よりも低くするほど、Im{ZL}の容量性リアクタンスが大きくなるように作用し、誘導性リアクタンスを有するSBD3と誘電体線路1,2とのインピーダンス整合を良好にとることができる。
また、基板4の誘電体基板の誘電率を誘電体線路1,2よりも低くする代わりに、基板4と誘電体線路2との間に空隙を設ける構成としてもよく、または基板4と誘電体線路2との間にそれらよりも低い誘電率の誘電体部材を挿入する構成としてもよく、またはこれらの構成を組み合わせることもできる。これらの場合にもIm{ZL}の容量性リアクタンスを大きくすることができる。
この構成においては、基板4の誘電体基板の誘電率または基板4と誘電体線路1,2との間の間隔を制御することにより、SBD3のリアクタンス成分が広い範囲で変化しても、それに追従して適切なインピーダンスを設定することができ、良好なインピーダンス整合を行なうことができる。
また、基板4およびSBD3でインピーダンス整合ができるので、誘電体線路1,2の終端部においてインピーダンス整合を行なって、ミリ波信号7の波長λを中心に広い帯域で良好なインピーダンス整合を行なうことができる。そのうえ、誘電体線路1,2側の誘電率や幅等の調整は不要であり、誘電体線路1,2と基板4との配置も容易になる。
また、従来のミリ波ミキサーでは、線路導体6(6a,6b)の幅Wに相当する部分の幅が1.2〜1.4mm程度であり、SBD3を線路導体6(6a,6b)に相当する部分に接続する接続用導体の幅の10倍以上であったが、本発明のミリ波ミキサーM1では、線路導体6(6a,6b)の幅Wを接続用導体の幅の5倍以下としておくことがよく、より好ましくは、幅Wを接続用導体の幅と同じか、または接続用導体が接続されるSBD3の電極の幅と同じとしておくことがよい。このように、線路導体6(6a,6b)の幅Wを接続用導体の幅の5倍以下とすることにより、Im{ZL}が−50Ω(リアクタンスが負であるのは容量性であることを示している。)程度まで設定でき、誘導性または容量性リアクタンスのいずれでも設定でき、−100Ω〜+200Ω程度(Lb=0.1nHを整合する程度)までの範囲のリアクタンスを有するSBD3に対して、良好にインピーダンス整合を行なうことができる。
線路導体6(6a,6b)の幅Wが接続用導体の幅の5倍よりも大きいと、適当な容量性または誘電性リアクタンスを持たせることが困難となり、大きな誘電性または容量性リアクタンスを持つSBD3に整合させることができなる場合がある。また、線路導体6(6a,6b)の幅Wが接続用導体の幅より小さくなると、接続用導体を接続してSBD3の実装を行なうのに十分な接合面積を確保することが困難となり、SBD3を基板4に十分な強度で固定することが困難となって、ミリ波ミキサーM1の信頼性が低下する傾向にある。また、SBD3の実装自体が困難となる。
また、さらに、線路導体6(6a,6b)の長さL、およびそれらの間隔Dを制御しても、Im{ZL}を調整することができ、従来よりも調整範囲が広くなる。すなわち、線路導体6(6a,6b)は、その長さLがミリ波信号7の波長λのn/4倍(nは自然数)であることがよい。この場合、Im{ZL}は容量性となり、誘導性のIm{Zd1}の整合により好適である。より好ましくは、L=λ/4(n=1)とするのがよく、このときには、基板4の長さを最小にできるとともにミリ波信号7の損失を最小にできる。
また、図2(b)に示すように、線路導体6(6a,6b)は、その長さがミリ波信号7の波長のm/4倍(mは2以上の自然数)であり、その長さ方向の接続用導体からミリ波信号の波長の1/4倍の部位にミリ波信号を遮断するための線路導体6(6a,6b)よりも幅広のスタブ8が形成されていることが好ましい。この場合、線路導体6(6a,6b)においてミリ波信号7を共振させるとともにスタブ8でインピーダンスを変えることができ、これによってIm{ZL}はさらに大きな容量性を有することとなり、誘導性のIm{Zd1}の整合に好適なものとなる。
このようなスタブ8は、線路導体6(6a,6b)の長さ方向の接続用導体からミリ波信号の波長の1/4倍の部位に形成されていればよいが、これとともに線路導体6(6a,6b)の長さに応じて、さらに波長の2/4倍,3/4倍等のk/4倍(kはmより小さい自然数)の部位にも形成しておいても構わない。このように複数の部位にスタブ8を形成したときは、より大きな容量性または誘導性リアクタンスを持たせることができ、より大きな誘導性または容量性リアクタンスを持つミリ波検波用素子に対しても良好にインピーダンス整合を行なうことができるものとなる。
また、スタブ8を形成するに当たって、その線路導体6(6a,6b)からの高さhによって、誘導性から容量性に変わるため、ミリ波検波用素子のインピーダンスに整合するようにhを決める。例えば大きな容量性を持たせるためには、h=λ/4とすればよい。線路導体6(6a,6b)の長さ方向の幅tは、特に制限はなく、例えば幅の狭い線路5aと同じ幅とすればよい。なお、図2(b)に示すように、スタブ8を形成する場合における線路導体6(6a,6b)の長さLは、図2(a)の場合と同様に決めればよい。
本発明のミリ波ミキサーM1において、ミリ波検波用素子はSBD3,13であることがよく、SBD3,13に印加するバイアス電圧を制御することによりミリ波信号7の検波を低損失で行なうことができ、これによってミリ波ミキサーM1のコンバージョンゲイン特性が向上し、良好なミリ波ミキシングを行なうことができる。
また、ミリ波検波用素子としては、SBD3,13以外にピン(PIN)ダイオードやバラクタダイオード等であってもよい。
かくして、本発明のミリ波ミキサーM1によれば、様々なインピーダンスを有するミリ波検波用素子(SBD3,13)に対し、所望の動作周波数で広帯域にインピーダンス整合を行なうことができ、また製作の再現性および量産性を向上させることができるものとなる。
本発明のミリ波ミキサーの具体例を以下に説明する。
図1に示すミリ波ミキサーM1を以下のようにして構成した。平行平板導体として厚さ6mmの2枚のアルミニウム板を1.8mmの間隔aで配置し、それらの間に、断面形状が1.8mm(高さ)×0.8mm(幅)の矩形状であり、比誘電率が4.8のコージェライトセラミックスから成る誘電体線路1を配置した。さらに、その一端側に、断面形状が1.8mm(高さ)×0.8mm(幅)の矩形状で長さが3.6mmであり、比誘電率が4.8のガラスセラミックスから成る誘電体線路2を接続させて配置した。また、誘電体線路11,12についても同様に配置した。
そして、誘電体線路2の誘電体線路1と反対側の端面に、厚さ0.2mmの低誘電率の熱可塑性樹脂から成る有機樹脂基板(比誘電率εr=3.0)から成る基板4を用いたミリ波検波部を配置した。ミリ波検波部の一主面(誘電体線路2と反対側の面)には、幅の広い線路5bと幅の狭い線路5aとを交互に形成して成る銅から成るチョーク型バイアス供給線路5が形成されており、幅の広い線路5bの長さはλ1/4=0.7mm(ミリ波信号の周波数76.5GHzの波長約4mmに対してλ1は2.8mmであり、誘電体基板において短波長化されている。)、幅の狭い線路5aの長さはλ1/4=0.7mmであり、幅の広い線路5bの幅は1.5mm、幅の狭い線路5aの幅は0.2mmとした。また、同様に、誘電体線路12の誘電体線路11と反対側の端面に、厚さ0.2mmの低誘電率の熱可塑性樹脂から成る有機樹脂基板(比誘電率εr=3.0)から成る基板14を用いた同様のミリ波検波部を配置し、誘電体線路1の中途と誘電体線路11の中途とを電磁結合するように近接させて配置した。
線路導体6(6a,6b)は、銅から成り、チョーク型バイアス供給線路5の幅の広い線路5bに接続されており、線路導体6(6a,6b)の中央に上下方向の幅が1.5mmのスタブ8が設けられた、L=λ/4=0.7mmの線路導体6(6a,6b)として形成した。また、線路導体6(6a,6b)間の間隔Dは0.2mm、線路導体6(6a,6b)の幅Wは0.8mmとした。
そして、線路導体6(6a,6b)の各端部に設けられた直径0.1mmの接続用導体としての接続パッドに、フリップチップタイプのSBD3を金バンプで接続し実装した。SBD3の金バンプが接続される電極および接続パッドの長さは0.13mmであった。
このようにして作製したミリ波ミキサーM1について、ミリ波発振器,パワーメータ,およびスペクトラムアナライザを用いて76.1〜76.9GHzのコンバージョンゲイン特性を測定した。
図5はミリ波ミキサーM1のコンバージョンゲイン特性を測定した結果の一例を示すグラフであり、横軸は周波数(単位:GHz)を、縦軸はコンバージョンゲインGc(単位:dB)を表わしており、上記実施例によるものを黒四角および実線による特性曲線で、また従来技術によるものを黒丸および点線による特性曲線で示して比較したものである。
図5に示す結果から、従来技術によるミリ波ミキサーでは、コンバージョンゲインGcが常に−10dBを下回っており、最悪値が−18.2dBであるのに対して、本発明の実施例のミリ波ミキサーでは常にコンバージョンゲインGcが−10dB以上の良好な特性を有していることが分かる。
なお、本発明は以上の実施の形態の例および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行なうことは何等差し支えない。例えば、基板のチョーク型バイアス供給線路が形成された面の反対面にも、線路導体と同様の材質の導体パターンを誘電体線路から適当な距離だけ離隔させて設けるようにしてもよく、この場合には、その導体パターンが形成された面においても、適切にキャパシタンスの調整ができるようになり、誘電体線路を伝搬するミリ波信号に対し、その伝搬方向にインピーダンスの変化を滑らかにすることができて、さらにミリ波検波部からのミリ波信号の反射が小さく、コンバージョンゲイン特性が良好なものとなる。