JP4342731B2 - プロテアーゼ感受性ii - Google Patents

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Description

【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、トロポエラスチン、特に、ヒトトロポエラスチンのアミノ酸配列を操作して、そのプロテアーゼ感受性を改変すること、改変されたプロテアーゼ感受性をもつトロポエラスチン派生体、トロポエラスチンのプロテアーゼ感受性配列に一致する、またはそれを含むアミノ酸配列を含むペプチド模倣分子、および、トロポエラスチン派生体およびペプチド模倣分子の使用に関する。
【0002】
本発明は、また、本発明に係る派生体およびペプチド模倣分子のアミノ酸配列をコードする核酸分子および遺伝子構築物にも関する。
【0003】
従来の技術
不溶性で架橋結合したエラスチン分子は、多くのプロテアーゼによるタンパク質分解に対して、高度な抵抗性をもつ。しかし、エラスチンの可溶性の前駆体であるトロポエラスチンは、それよりもはるかにタンパク質分解を受けやすい。組織からトロポエラスチンを精製しようという試みも、大抵は、分解産物を集める結果となる。この分解は、従来からあるセリンプロテアーゼ阻害剤を用いることによって減少させることができる(Franzblauら、1989; Rucker、1982, RichおよびFoster、1984; SandbergおよびWolt、1982)。平滑筋細胞の細胞培養において、メタロプロテイナーゼによって特異的な分解が起こることも注目されている(Hayashiら、1995)。高度に精製されたトロポエラスチンでも、長期間保存していると、不連続なバンドに分解することがある。この観察結果により、哺乳動物のトロポエラスチンが、場合によっては、それを次第に分解して行く内在的なプロテアーゼとともに精製されるという仮説が導かれている(Mechamら、1976; Mechamら、1977; MechamおよびFoster、1977)。実験によって、哺乳類の血清には、トロポエラスチンを分解することができるプロテアーゼが含まれていることが明らかになった(Romeroら、1986)。従って、新しく合成された、保護されていないトロポエラスチンが、血管壁などの血液に曝露されると、速やかに分解されるであろう。血清も、平滑筋細胞においてエラスターゼ活性を誘導し、エラスチンの分解をもたらすことが明らかになっている(Kobayashiら、1994)。エラスチンペプチドには走化性があることが分かっており、それがin vivoにおけるトロポエラスチンタンパク質分解の役割を担っていると考えられる(GrossoおよびScott、1993; Bisacciaら、1994)。しかし、タンパク質分解は、傷害部位における不十分で不完全なエラスチン繊維修復をもたらすこともありえる。セリンプロテアーゼ阻害剤が、血清によって起こるトロポエラスチン分解を減少させることが明らかになっている(Romeroら、1986)。これらの実験によって、カリクレインが血清プロテアーゼの候補物質であることが示唆された。別の実験(McGowanら、1996)によって、プラスミンが関与する主要なプロテアーゼであることが提唱された。トロンビンは、異種のブタトロポエラスチンをin vitroで分解するために用いられてきた(Torres ら、1976)。しかし、これらの研究はいずれも、トロポエラスチン分子がどこでプロテアーゼによって切断されるかを示していなかった。
【0004】
発明の説明
一定の種類の組換え型ヒトトロポエラスチンをその融合パートナーから精製している(Martinら、1995)ときに、本発明者は、トロポエラスチンが、限定的にではあるが再現性をもって、トロンビンによって切断されることを観察した。SDS-ポリアクリルアミドゲル上で見られた分解パターンは、精製および保存期間中、他の研究者によって観察されたものに類似していた(Mechamら、1977)。本発明者は、これはトロポエラスチンの一定の部位が、他の部位よりもプロテアーゼ作用に対して感受性が高いか、溶液中のトロポエラスチンの高次構造により、プロテアーゼにとってより利用しやすくなっていることが原因である可能性があることを認めた。プロテアーゼ切断産物の大きさを、トロポエラスチンのアミノ酸配列および供試されたプロテアーゼに共通切断部位と比較したところ、トロポエラスチンのアミノ酸配列における多くの部位で、特定のプロテアーゼについての共通配列に相同的な部位のうち、プロテアーゼによって簡単に分解されるものはほとんどなかった。分解が起こった部位をマッピングすることによって感受性領域が同定されたため、いずれかのトロポエラスチン中のプロテアーゼ切断部位の正確なマップが初めて提供された。
【0005】
これらの感受性領域が決定されたことから、これら感受性領域におけるトロポエラスチンのアミノ酸配列を改変できるようになり、それによって特定の条件下でのトロポエラスチンのプロテアーゼ感受性と比較すると、プロテアーゼ感受性が低下または消失した低下型トロポエラスチン派生体が提供される。
【0006】
本明細書および請求の範囲において、「低下型トロポエラスチン派生体」とは、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列が改変されている分子で、機能的な高次構造をもつように折りたたまれている分子を意味する。「機能的な高次構造」は、以下のように定義される。感受性領域中のアミノ酸配列を改変することによって、プロテアーゼ感受性が低下または消失する。低下型トロポエラスチン派生体は、全長トロポエラスチン分子、トロポエラスチン遺伝子またはペプチドの特定のエクソンによってコードされているトロポエラスチン単一ドメイン、またはトロポエラスチン遺伝子の隣り合う2つのエクソンの全てまたは一部によってコードされているペプチドに相当する。
【0007】
低下型トロポエラスチン派生体は、例えば、感受性領域中のアミノ酸配列に残基置換を生じさせる、ヌクレオチド配列の単一の点突然変異、または、感受性領域中のアミノ酸配列にアミノ酸挿入または欠失を生じさせる、ヌクレオチド配列の突然変異事象などを起こすことによって作出することができる。低下型トロポエラスチン派生体は、プロテアーゼ分解に感受性のトロポエラスチン分子領域におけるトロポエラスチン配列の変異およびトロポエラスチンの他の領域におけるさらに別の変異によっても作出することもできる。このさらなる変異は、低下型トロポエラスチン派生体のプロテアーゼ感受性を変化させるものであっても、変化させるものでなくてもよい。これらの変異を有する低下型トロポエラスチン派生体は、合成によって作出することができる。
【0008】
あるいは、低下型トロポエラスチン派生体は、感受性領域を化学的に修飾する、派生体のアミノ酸側鎖の化学修飾によっても作出することができる。
【0009】
別の選択肢として、低下型トロポエラスチン派生体は、プロテアーゼ分解によっても作出することができる。したがって本発明によれば、プロテアーゼ分解された結果、感受性領域中に存在するアミノ酸配列を失ったトロポエラスチンのプロテアーゼ分解産物は低下型トロポエラスチン派生体である。
【0010】
また、低下型トロポエラスチン派生体は、プロテアーゼ分解に対して感受性の、トロポエラスチン分子中の領域において、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列を改変することによっても作出することができる。
【0011】
本明細書および請求の範囲において、「トロポエラスチン変異体」とは、例えばエラスチン様特性、または高分子結合特性など、対応するトロポエラスチン分子の特性を一つ以上保持している分子を意味する。エラスチン様特性には、分子が膨張した後で反跳するという現象、架橋およびコアセルベーションされうるという能力などが含まれる。高分子結合特性には、例えば、グリコシルアミノグリカンなど他の高分子と相互作用する能力が含まれる。トロポエラスチン変異体は、トロポエラスチンのスプライス型アミノ酸配列の全てまたは一部に対して相同である。これを説明するに、特定の変異体のアミノ酸配列と、トロポエラスチンスプライス型の全てまたは一部のアミノ酸配列との間の「相同性」は、同一というには及ばないが、ある配列が別の配列から派生したことを示す類似性を意味する。特にアミノ酸配列と、関連するトロポエラスチン配列とのアラインメントによって、いずれかの20個のアミノ酸の連続に対して、または、20個のアミノ酸の長さよりも短い分子の繰り返し要素に対して約65%一致することが明らかであれば、そのアミノ酸配列は、トロポエラスチン配列の全てまたは一部に相同である。このような配列比較は、リップマンおよびピアソン(LipmanおよびPearson)(1985)のアルゴリズムなど、既知のアルゴリズムによって行なうことができる。タンパク質分解に対する感受性領域において、トロポエラスチン変異体が、トロポエラスチンと比較して異なったアミノ酸配列を含んでよく、その差はトロポエラスチンと比較した場合に、トロポエラスチン変異体のプロテアーゼ感受性を変更しない。トロポエラスチン変異体の感受性領域における、このようなアミノ酸配列の違いの例は、保守的アミノ酸置換である。
【0012】
したがって、低下型トロポエラスチン派生体は、例えば、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に残基置換を生じさせる、ヌクレオチド配列の単一の点突然変異など、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列を変異させることによって作出してもよい。低下型トロポエラスチン派生体は、またトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列にアミノ酸挿入または欠失を生じさせるヌクレオチド配列中の変異など、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列を変異させることによって作出してもよい。低下型トロポエラスチン派生体は、プロテアーゼ分解に感受性のトロポエラスチン分子領域において、トロポエラスチン変異体配列を変異させることによって、また、低下型トロポエラスチン変異体の他の領域において、さらに別の変異を生じさせることによっても作出することができる。このさらなる変異は、低下型トロポエラスチン派生体のプロテアーゼ感受性を変化させるものであっても、変化させるものでなくてもよい。トロポエラスチン変異体を変異させることによって作出される低下型トロポエラスチン派生体は、合成によって作出してもよい。
【0013】
あるいは、低下型トロポエラスチン派生体は、感受性領域を化学的に修飾する、派生体におけるアミノ酸側鎖の化学修飾によって作出してもよい。
【0014】
または、低下型トロポエラスチン派生体は、トロポエラスチン変異体のプロテアーゼ分解によって作出してもよい。したがって、本発明によれば、プロテアーゼ分解された結果、感受性領域中に存在するアミノ酸配列を失った、トロポエラスチン変異体のプロテアーゼ分解産物は、低下型トロポエラスチン派生体である。
【0015】
実際に、トロポエラスチン遺伝子は、例えば、Indikら (1990); Oliverら (1987); Heimら (1991); Rajuら (1987) 、およびYehら (1987)が記載しているような、mRNAの交互的なスプライシングによって区別される複数の転写産物として発現することが知られている。本発明に係る方法は、トロポエラスチンの異なったスプライス型にも応用することができる。当業者は、トロポエラスチンのさまざまなスプライス型に本発明に係る方法を応用するにあたって、問題となっている特定のスプライス型のアミノ酸配列に、同定された切断部位が存在するか否かを考慮しなければならないことを容易に想定しえよう。
【0016】
ヒトトロポエラスチンについては、Indikら (1990)、およびTassabehjiら (1997)によって説明されている。Bressanら (1987)は、ニワトリのトロポエラスチンのアミノ酸配列について述べており、Rajuら (1987)は、ウシトロポエラスチンのアミノ酸配列について述べており、また、Pierceら (1992)は、ラットトロポエラスチンのアミノ酸配列について述べている。アミノ酸配列の変異および異なったスプライス型が存在することを再び考慮すれば、当業者は、本発明に係る方法が、別の生物種由来のトロポエラスチンにも応用できることを容易に想定しえよう。
【0017】
第一の態様において、本発明は、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体のアミノ酸配列のタンパク質分解に対する感受性を低下または消失させる方法を提供しており、本方法にはタンパク質分解に対するトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体の感受性を低下または消失させるために、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体のアミノ酸配列において少なくとも一つの部分配列を変異させることを含む。
【0018】
本明細書および請求の範囲において、「部分配列」とは、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体が機能的な高次構造に折りたたまれているとき、プロテアーゼによって切断(換言すれば、分解)されうる配列を意味する。「機能的な高次構造」とは、トロポエラスチンのエラスチン様特性と高分子結合特性とを付与する高次構造である。部分配列は、タンパク質分解に感受性のトロポエラスチン領域中のアミノ酸配列に相当する。
【0019】
一般的には、変異は、感受性を低下または消失させるために、少なくとも1つまたは2つの残基を変更することを含む。より好ましくは、少なくとも1つの部分配列が変異していることであり、より好ましくは、トロポエラスチンはヒトトロポエラスチンである。
【0020】
セリンプロテアーゼによって分解することができる一つ以上の部分配列を除去するための変異は、トロポエラスチンにとって血清中の主要なタンパク質分解活性はセリンプロテアーゼ活性であるため、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体が血清に曝露されたときに特に有益であると想定される。
【0021】
本発明の第一の態様における実施態様の一つにおいて、部分配列は、セリンプロテアーゼによって分解することができ、RAAAG配列を含むアミノ酸配列、または、配列番号17から44で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列を有する。部分配列が、配列番号17から44で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列であるとき、または、RAAAGという配列を含むアミノ酸配列を有するときは、部分配列は、部分配列中のアルギニンをアラニンで置換することによって変異させることが好ましい。好ましくは、部分配列は、トロンビンによって分解することができ、配列番号8または9で示されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、部分配列は、プラスミンによって分解することができ、配列番号11または12で示されるアミノ酸配列を有する。より好ましくは、カリクレインによって分解することができる。さらに好ましくは、部分配列は、カリクレインによって分解することができ、配列番号9または10のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する。
【0022】
本発明者は、SHBLとSHELδ26Aをメタロプロテイナーゼで切断すると、明らかに好ましい切断部位をもつ再現性のあるパターンが現れることに気づき、本明細書において説明されている方法と同様の方法を用いて証明した。メタロプロテイナーゼの例には、ゼラチナーゼAおよびB、72kDと92kDのプロテアーゼ、およびマトリックスメタロエラスターゼなどがある。少なくともいくつかの明らかな実例において、切断が表1に記載したようなセリンプロテアーゼに見られる認識配列と異なることが、SDS−PAGEによって十分に示されている。92kDaメタロプロテイナーゼを用いて、好ましくは、より濃厚なバンドの明白な証拠と共に、特徴的なバンドパターンが得られた。例えば、本明細書で述べる方法をセリンプロテアーゼに用いて、SHELに由来する約10kDaのバンドのN末端側の配列を決定し、LAAAKAAKYGAAという配列を明らかにした。SHELにおけるこの配列の位置を図2に示した。それによると、好ましい認識部位は、この断片について同定された配列のN末端側上流にあるAとLの間に存在する。トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体配列を変異させて、メタロプロテイナーゼによって分解される一つ以上の部分配列を取り除くことは、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体が、例えば、傷害部位、組織損傷および再建部位など、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体がメタロプロテイナーゼに曝露する可能性のある部位に曝露するときに特に有益である。
【0023】
本発明の第一の態様における別の実施態様において、部分配列は、メタロプロテイナーゼによって分解することができ、ALAAAという配列を含むアミノ酸配列か、または配列番号45から70で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、部分配列はゼラチナーゼAまたはBによって分解することができる。好ましくは、部分配列が、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する。部分配列が、配列番号45から70で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列であるとき、または、ALAAAという配列を含むアミノ酸配列であるときは、この部分配列は、部分配列中のいずれかの位置にあるアラニンを別のアミノ酸残基に置換することによって変異させることが好ましい。より好ましくは、ロイシンに対してN末端側にあるアラニンを別のアミノ酸残基で置換することによって変異させる。
【0024】
本発明の第二の態様は、対応するトロポエラスチン、または対応するトロポエラスチン変異体に比べ、感受性の低下または消失を示す低下型トロポエラスチン派生体を提供するものであり、この低下型トロポエラスチン派生体はタンパク質分解に対する低下型トロポエラスチン派生体の感受性を低下または消失させるために、対応するトロポエラスチン、または対応するトロポエラスチン変異体アミノ酸配列の部分配列を変異させることを特徴とする。
【0025】
一般的には、部分配列の少なくとも1つまたは2つの残基が変異している。より好ましくは、少なくとも1つの部分配列が変異している。更に好ましくは、トロポエラスチンはヒトトロポエラスチンである。
【0026】
本発明の第二の態様における一つの実施態様において、変異部分配列は、セリンプロテアーゼによる分解に対する感受性を低下または消失させている。好ましくは、この変異部分配列は、配列中のアルギニンがアラニンで置換されていることを条件として、RAAAG配列を含むか、または配列番号17から44で示される配列グループから選択される配列である。好ましくは、配列中の少なくとも一つのアミノ酸残基が変異していることを条件として、変異部分配列は、トロンビンによる分解に対する感受性を低下または消失させており、かつ、変異部分配列が配列番号8または9で示される配列を有する。好ましくは、部分配列は配列中の少なくとも一つのアミノ酸残基が変異していることを条件として、変異プラスミンによる分解に対する感受性を低下または消失させており、かつ、配列番号11または12で示される配列を有する。より好ましくは、変異部分配列は、カリクレインによる分解に対する感受性を低下または消失させている。さらにより好ましくは、配列中の少なくとも一つのアミノ酸残基が変異していることを条件に、変異部分配列は、カリクレインによる分解に対する感受性を低下または消失させており、かつ配列番号9または10で示される配列を有する。
【0027】
本発明の第二の態様における別の実施態様において、変異部分配列はメタロプロテイナーゼによる分解に対する感受性を低下または消失させている。好ましくは、配列中のいずれかの位置にあるアラニンが、アラニン以外のアミノ酸残基で置換されていることを条件として、変異部分配列は、ALAAAという配列を含むか、または配列番号45から70で示される配列グループから選択される配列である。より好ましくは、変異部分配列は、ゼラチナーゼAまたはBによる分解に対する感受性を低下または消失させている。より好ましくは、配列中の少なくとも一つのアミノ酸残基が変異しているという条件で、変異部分配列は、ゼラチナーゼBによる分解に対する感受性を低下または消失させており、また配列番号13で示される配列を有する。より好ましくは、ロイシンに対してN末端側にあるアラニンが、別のアミノ酸残基によって置換されることにより変異している。
【0028】
第二の態様における低下型トロポエラスチン派生体で、それらの使用環境に適合した変異を持つものは、血清または傷害滲出物が存在する部位などの、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体に対するプロテアーゼによる攻撃の危険性がある部位において、in vivoで有益に使用することができる。例えば、架橋されたトロポエラスチン、または架橋されたトロポエラスチン変異体を血管壁で治療的に使用すれば、血清によって誘発される分解を抑制できるため有益であろう。さらに、一つ以上の感受性領域を改変して、内因性宿主プロテアーゼによる攻撃を最小限にできれば、ある種の改変によって、低下型トロポエラスチン派生体の精製におけるプロテアーゼ阻害剤使用の必要性が低下するはずであり、それによって、より大量の全長物質が得られるはずである。
【0029】
本発明の第三の態様は、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体を血清、またはカリクレイン、トロンビン、トリプシンおよびエラスターゼなど類縁のセリンプロテアーゼよりなるグループから選択されるプロテアーゼによる分解から保護する方法を提供するものであり、本方法にはタンパク質分解に対するトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体の感受性を低下または消失させるために、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体アミノ酸配列中の少なくとも一つの部分配列を変異させることを含む。好ましくは、トロポエラスチンはヒトトロポエラスチンである。好ましくは、プロテアーゼはカリクレインである。
【0030】
本発明の第四の態様は、タンパク質分解攻撃による分解からトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体を保護する方法を提供するものであり、本方法にはトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体アミノ酸配列中の少なくとも一つの部分配列を変異させて、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体のタンパク質分解に対する感受性を低下または消失させることを含む。一つの実施態様において、部分配列はメタロプロテアーゼによって分解される。
【0031】
上述したように、ニワトリトロポエラスチン、ウシトロポエラスチン、およびラットトロポエラスチンなど、ヒト以外のトロポエラスチンのアミノ酸配列は決定されている(Bressanら、1987, Rajuら、1987, Pierceら、1992)。これらのヒト以外のトロポエラスチンのアミノ酸配列をトロポエラスチンと比較すると、本発明でも同定されたように、タンパク質分解感受性をもつトロポエラスチンの特定領域は、これらのヒト以外のトロポエラスチンでは保存されていることが分かる。したがって、ヒト以外のトロポエラスチンにおけるこれら特定領域が、タンパク質分解に対して感受性である可能性が高い。
【0032】
表1に記載された部分配列を、ヒト以外のトロポエラスチンまたはエラスチンの配列とともに、「nr」データベースによって、NCBIのBlastサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)で「tblastn」を用いて解析したところ、以下の結果を示した:
(i) ヒトトロポエラスチン:
554 VPTGAGVKPKAPGVGGAF 607
ウシトロポエラスチン,エクソン14
373 VPTGAGVKPKAPGGGGAF 426
マウストロポエラスチンmRNA 完全長コーディング配列
694 VPTGTGVKAKAPGGGGAF 747
ウシエラスチンa mRNA 完全長コーディング配列
545 VPTGAGVKPKAQVGAGAF 598
ウシエラスチンb mRNA 完全長コーディング配列
545 VPTGAGVKPKAQVGAGAF 598
ウシエラスチンc mRNA 完全長コーディング配列
545 VPTGAGVKPKAQVGAGAF 598
ラットトロポエラスチン mRNA 3'端
646 VPTGTGVKAKVPGGGG 693
ニワトリトロポエラスチン mRNA 完全長コーディング配列
572 VPTGTGIKAKGPGAG 616
(ii) ヒトトロポエラスチン:
1664 KVAAKAQLRAAAGLGAG 1714
ラットトロポエラスチン mRNA 3'端
1837 KAAAKAQYRAAAGLGAG 1887
マウストロポエラスチン mRNA 完全長コーディング配列
1795 KAAAKAQYRAAAGLGAG 1845
ウシエラスチンa mRNA 完全長コーディング配列
1649 KAAAKAQFRAAAGLPAG 1699
ウシエラスチンb mRNA 完全長コーディング配列
1607 KAAAKAQFRAAAGLPAG 1657
ウシエラスチンc mRNA 完全長コーディング配列
1547 KAAAKAQFRAAAGLPAG 1597
表1で同定された部分配列が、ヒト以外のトロポエラスチンまたはエラスチンの配列と高い相同性をもつことが示されているが、このことは、配列の違いを考慮することによって、本発明に係る方法を、異なるトロポエラスチン分子種に応用できるという主張を裏付けている。
【0033】
また、本解析は、カリクレインおよびトロンビンによって切断されるトロポエラスチン中の部位について、コンセンサス配列:AKAAAKAQN0R/AAAGLN1AGN2Pを示すものである。ここで、N0は、芳香族残基または疎水残基であり、N1はPまたはGであり、Nは疎水残基である。例えば、タンパク質分解に対する感受性が低下または消失している、本発明に係る派生体を提供するためにこのコンセンサス配列の定義内にあるアミノ酸配列を、本発明に係る方法によって変異させてもよい。
【0034】
本明細書でより詳細に説明され、配列番号4に記載されているヒトトロポエラスチンスプライス型において、血清中での切断は、515番目と516番目の残基、564番目と565番目の残基、441番目と442番目の残基、503番目と504番目の残基の間に起きる。したがって、このスプライス型については、セリンプロテアーゼ感受性に影響するような配列改変は、好ましくは515番目、516番目、564番目、565番目、441番目、442番目、503番目、504番目、564番目および565番目の残基の少なくとも一つを変更することを含む。
【0035】
プロテアーゼによる攻撃に対する感受性を低下させるような改変は、認識部位の除去または変更を含むと考えられる。このような変更の例は、リシンまたはアルギニンを正に荷電していないアミノ酸残基によって置換することである。このような方法の例は、キットという形態で市販されている突然変異誘発法など、一般的な方法を用いて、表1のR/AAAGLGという配列中のアルギニンを置換するためにロイシンを使用することである。
【0036】
本発明に係る低下型トロポエラスチン派生体は、以下のものを含む:
・SHELδ26a(図3に表示、配列番号5)
・SHELδmod(図4に表示、配列番号6)
・配列番号71から74で示される配列
【0037】
本発明者は、タンパク質分解に対して感受性のトロポエラスチンの領域を決定しているため、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に対応する配列を、トロポエラスチンのアミノ酸配列中に挿入することによって、トロポエラスチンを改変することができ、それによって、特定の条件下でトロポエラスチンのプロテアーゼ感受性と比較した場合にプロテアーゼ感受性を上昇させる上昇型トロポエラスチン派生体を提供しうる。
【0038】
本明細書および請求の範囲において、「上昇型トロポエラスチン派生体」とはトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に一致する配列を、トロポエラスチンのアミノ酸配列に挿入することにより作出される分子を意味し、この分子は機能的な高次構造に折りたたまれている分子である。感受性領域中のアミノ酸配列に一致するアミノ酸配列を挿入すると、プロテアーゼ感受性の上昇をもたらす。上昇型トロポエラスチン派生体は、全長トロポエラスチン分子、トロポエラスチン遺伝子の特定のエクソンによってコードされているトロポエラスチンの単一ドメイン、またはトロポエラスチン遺伝子の隣り合う2つのエクソンの全てまたは一部によってコードされているペプチドに一致してもよい。
【0039】
トロポエラスチンへのアミノ酸配列の挿入は、例えば、トロポエラスチンの感受性領域と一致するアミノ酸配列をもつペプチドをトロポエラスチンの中にスプライシングすることによって生じうる。したがって、上昇型トロポエラスチン派生体は、トロポエラスチンのアミノ酸配列において、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列と一致するペプチドの挿入をもたらすヌクレオチド配列中の変異などの突然変異事象によって作出してもよい。
【0040】
あるいは、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列と同一である、トロポエラスチン中の該領域におけるアミノ酸配列を作出するために、残基を挿入、置換、または欠失することによって、トロポエラスチンの該領域中のアミノ酸配列を改変してトロポエラスチンへのアミノ酸配列の挿入を生じさせてもよい。したがって、トロポエラスチンの領域中に残基の挿入、置換、または欠失をもたらすヌクレオチド配列の突然変異を含む変異事象により、上昇型トロポエラスチン派生体を作出してもよく、ここで変異事象によって、トロポエラスチンの感受性領域と一致するアミノ酸配列を該領域で生じさせる。
【0041】
上記のいずれかによって挿入アミノ酸配列をもつ上昇型トロポエラスチン派生体は、残基の挿入、置換、または欠失によって、または、さらにアミノ酸配列を挿入することによって、さらに変異させることができる。このさらなる変異は、上昇型トロポエラスチン派生体のプロテアーゼ感受性を変化させるものであっても、変化させるものではなくてもよい。これらの変異を含む上昇型トロポエラスチン派生体は、合成によって作出してもよい。
【0042】
上昇型トロポエラスチン派生体は、プロテアーゼ分解に対して感受性のトロポエラスチン領域において、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列を改変することによって作出することができる。
【0043】
したがって、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列において、ペプチド挿入をもたらすようなヌクレオチド配列中の変異を含む、トロポエラスチン変異アミノ酸配列の変異によって上昇型トロポエラスチン派生体は作出してもよく、ここでペプチドはトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に一致する。
【0044】
あるいは、上昇型トロポエラスチン派生体は、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列の領域において残基の挿入、置換、または欠失をもたらすヌクレオチド配列の変異など、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列の変異によって作出してもよい。ここでその変異事象が、該領域でトロポエラスチンの感受性領域と一致するアミノ酸配列を作出するものである。
【0045】
上記のいずれかによって挿入アミノ酸配列をもつ上昇型トロポエラスチン派生体は、トロポエラスチン変異体のアミノ酸配列における残基の挿入、置換または欠失によって、または、さらにアミノ酸配列を挿入することによって、さらに変異させてもよい。このさらなる変異は、上昇型トロポエラスチン派生体のプロテアーゼ感受性を変化させるものであっても、変化させるものではなくてもよい。これらの変異を有する上昇型トロポエラスチン派生体は、合成によって、または組換え方法によって作出してもよい。
【0046】
上記のように、トロポエラスチンのアミノ酸配列は、ヒトおよびヒト以外の動物においてさまざまなmRNAスプライス型に翻訳されることが知られている。さらに、ヒトとヒト以外のトロポエラスチンのアミノ酸配列を比較すると、トロポエラスチンのアミノ酸配列間には相同性があることが示される。したがって、ヒトおよびヒト以外のトロポエラスチンのこれらさまざまなアイソフォームと、それらをコードするmRNAのスプライス型を改変して、本発明に係る上昇型トロポエラスチン派生体を提供することができる。
【0047】
第五の態様は本発明のトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異アミノ酸配列のタンパク質分解に対する感受性を上昇させる方法を提供するものであり、本方法にはタンパク質分解に対するトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体の感受性を上昇させるために、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体のアミノ酸配列に、一つの部分配列を挿入することを含む。上述したように、本明細書および請求の範囲において、「部分配列」とはトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体が機能的な高次構造に折りたたまれているとき、プロテアーゼによって切断されうる配列を意味する。部分配列は、タンパク質分解に感受性のトロポエラスチン領域中のアミノ酸配列に相当する。一般的には、少なくとも一つの部分配列が、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体アミノ酸配列の中に挿入されている。好ましくは、このトロポエラスチンは、ヒトトロポエラスチンである。
【0048】
本発明の第五の態様における実施態様の一つにおいて、挿入される部分配列は、セリンプロテアーゼによって分解することができ、RAAAG配列を含むアミノ酸配列、または配列番号17から44で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、部分配列はトロンビンによって分解することができ、配列番号8または9で示されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、部分配列は、プラスミンによって分解することができ、配列番号11または12で示されるアミノ酸配列を有する。より好ましくは、部分配列はカリクレインによって分解することができる。さらにより好ましくは、部分配列は、カリクレインによって分解することができ、配列番号9または10で示されるアミノ酸配列を有する。
【0049】
本発明の第五の態様における別の実施態様において、部分配列はメタロプロテイナーゼによって分解することができ、ALAAA配列を含むアミノ酸配列、または配列番号45から70で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、部分配列は、ゼラチナーゼAまたはBによって分解することができる。好ましくは、部分配列は、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する。
【0050】
本発明の第六の態様は、対応するトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体に比べ、タンパク質分解に対し感受性の上昇を示す上昇型トロポエラスチン派生体を提供するものであり、ここで上昇型トロポエラスチン派生体はタンパク質分解に対する上昇型トロポエラスチン派生体の感受性を上昇させるために、上昇型トロポエラスチン派生体のアミノ酸配列の中に部分配列が挿入されていることを特徴とする。一般的には、少なくとも一つの部分配列がトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体アミノ酸配列の中に挿入されている。好ましくは、このトロポエラスチンはヒトトロポエラスチンである。
【0051】
本発明の第六の態様における一つの実施態様において、挿入される部分配列はセリンプロテアーゼによって分解することができる。好ましくは、挿入部分配列は、RAAAG配列を含むか、または配列番号17から44で示される配列グループから選択される配列である。好ましくは、挿入部分配列は、トロンビンによって分解することができ、かつ配列番号8または9で示される配列を有する。好ましくは、挿入部分配列は、プラスミンによって分解することができ、配列番号11または12で示される配列を有する。より好ましくは、挿入部分配列は、カリクレインによって分解することができる。さらにより好ましくは、挿入部分配列はカリクレインによって分解することができ、配列番号9または10で示される配列を有する。
【0052】
本発明の第六の態様における別の実施態様において、挿入される部分配列はメタロプロテイナーゼによって分解することができる。好ましくは、挿入部分配列はALAAA配列を含むか、または配列番号45から70で記載される配列グループから選択される配列である。より好ましくは、挿入部分配列はゼラチナーゼAまたはBによって分解することができる。より好ましくは、挿入部分配列は、ゼラチナーゼBによって分解することができ、かつ配列番号13で示される配列を有する。
【0053】
第六の態様の上昇型トロポエラスチン派生体は、派生体に対するプロテアーゼの攻撃を強化したい部位において、in vivoで有益に用いることができる。操作に適した分子には、ヒトトロポエラスチン分子が含まれる。この場合、トロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体を速やかに分解することが望まれる状況下で、改変されたトロポエラスチンが役立つ。このような状況には、組織修復を促進するために、所望の特性をもつペプチドを接触および/または放出することが含まれる。
【0054】
本発明者は、タンパク質分解に対して感受性のトロポエラスチン中の領域を決定しているため、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に対応する配列を、ポリペプチドのアミノ酸配列中に挿入することによって、タンパク質分解に対する該ポリペプチドの感受性を改変することができ、それによって、特定の条件下で、前記挿入配列を含まない同様のポリペプチド(対応するポリペプチド)と比較してプロテアーゼ感受性が上昇した上昇型トロポエラスチン派生体を提供することができる。
【0055】
本明細書および請求の範囲において、「ポリペプチド派生体」とは、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列と一致する配列をポリペプチド配列に挿入して作出されるポリペプチドを意味する。トロポエラスチンの感受性領域のアミノ酸配列と一致するアミノ酸配列をポリペプチド配列に挿入すると、ポリペプチド派生体のプロテアーゼ感受性を上昇させる結果になる。
【0056】
ポリペプチド配列へのアミノ酸配列の挿入は、例えば、トロポエラスチンの感受性領域に一致するアミノ酸配列をもつポリペプチドをポリペプチドの中にスプライスすることによって生じうる。したがって、ポリペプチド派生体は、ポリペプチドのアミノ酸配列に、ペプチドの挿入をもたらすヌクレオチド配列中の変異を含む変異事象によって生じうる。この挿入ペプチドはトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に一致する。
【0057】
あるいは、残基を挿入、置換、または欠失することによって、ポリペプチドの該領域中のアミノ酸配列を改変して、ポリペプチド配列へのアミノ酸配列の挿入を生じさせることができ、これによってトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列と同一である、ポリペプチド中の該領域においてアミノ酸配列を作出することができる。したがって、ポリペプチドの領域中に残基の挿入、置換、または欠失をもたらすヌクレオチド配列変異を含む変異事象により、ポリペプチド派生体を作出することができる。ここで変異事象はトロポエラスチンの感受性領域と一致するアミノ酸配列を該領域に生じさせる。
【0058】
これらの変異を含むポリペプチド派生体は、合成または組換え型DNA方法によって作出してもよい。
【0059】
したがって、本発明の第七の態様は、タンパク質分解に対するポリペプチドアミノ酸配列の感受性を上昇させる方法を提供するものであり、本方法にはトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に一致するアミノ酸配列をポリペプチドのアミノ酸配列の中に挿入して、タンパク質分解に対するポリペプチドの感受性を上昇させることを含む。一般的には、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に一致する、少なくとも一つのアミノ酸配列をポリペプチドのアミノ酸配列中に挿入する。
【0060】
一つの実施態様において、挿入配列はトロンビン、カリクレイン、トリプシンおよびエラスターゼなど類縁のセリンプロテアーゼよりなるグループから選択されるプロテアーゼによって分解できる。別の実施態様においては、挿入配列はメタロプロテイナーゼによって分解される。
【0061】
第八の態様において、本発明は対応するポリペプチドに比べて、タンパク質分解に対する感受性の上昇を示すポリペプチド派生体を提供しており、このポリペプチド派生体はトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列と一致するアミノ酸配列を該ポリペプチドのアミノ酸配列中に挿入して、タンパク質分解に対する該ポリペプチドの感受性を上昇させることを特徴とする。一般的には、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列と一致する、少なくとも一つの配列が、ポリペプチドのアミノ酸配列中に挿入されている。
【0062】
一つの実施態様において、挿入される配列は、セリンプロテアーゼによって分解することができる。好ましくは、このセリンプロテアーゼはカリクレインである。別の実施態様においては、この挿入配列は、メタロプロテイナーゼによって分解することができる。
【0063】
本発明者は、タンパク質分解に対して感受性である、トロポエラスチン中の領域を決定しているため、それらの領域は本発明の第二および第六の態様に係る低下型または上昇型のトロポエラスチン派生体から、ペプチドドメインを特異的に放出させるため、または本発明の第八の態様に係るポリペプチド派生体からペプチドを特異的に放出させるために用いられる。一般的には、トロポエラスチンの感受性領域に対応するアミノ酸配列を、派生体とペプチドドメインの間に挿入することによって、感受性領域で特異的なプロテアーゼによって分解され、該派生体からペプチドドメインを放出することができるキメラ派生体が提供される。
【0064】
本明細書と請求の範囲において、「キメラ派生体」とは、低下型トロポエラスチン派生体、上昇型トロポエラスチン派生体、およびポリペプチド派生体からなるグループより選択される派生体を、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列によって、ペプチドドメインと結合させることによって作出される分子を意味する。キメラ派生体が特定のプロテアーゼで分解されると、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列が、該派生体からペプチドドメインを放出させる。
【0065】
キメラ派生体は、例えば、派生体、感受性領域、およびペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列を単一のオープンリーディングフレームに構築するなどの組換え型DNA技術によって作出してもよい。あるいは、合成または組換え型DNA法によってキメラ派生体を作出してもよい。
【0066】
第九の態様において、本発明は、キメラ派生体の作出方法を提供するものであり、本方法には低下型トロポエラスチン派生体、上昇型トロポエラスチン派生体、およびポリペプチド派生体からなるグループより選択される派生体を、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列によって、ペプチドドメインと結合させることを含む。
【0067】
一つの実施態様において、トロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列は、セリンプロテアーゼによって分解してもよい。好ましくは、セリンプロテアーゼはカリクレインである。別の実施態様において、配列はメタロプロテイナーゼによって分解してもよい。
【0068】
第十の態様において、本発明は低下型トロポエラスチン派生体、上昇型トロポエラスチン派生体、およびポリペプチド派生体からなるグループより選択される派生体を含むキメラ派生体を提供するものであり、このキメラ派生体はトロポエラスチンの感受性領域中のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列によって、ペプチドドメインと結合する。
【0069】
一つの実施態様において、トロポエラスチン配列の感受性領域中のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列は、セリンプロテアーゼによって分解されてもよい。好ましくは、セリンプロテアーゼはカリクレインである。別の実施態様において、配列はメタロプロテイナーゼによって分解されてもよい。
【0070】
本発明に係るキメラ派生体は、ペプチドドメインが、例えば走化性、細胞増殖または細胞活性化など、特定の生物学的機能をもっている場合には有用である。これらの生物学的機能は、派生体ドメインからペプチドドメインを放出させるために、部分配列で特定のプロテアーゼによってキメラ派生体を分解することによって影響を受ける。
【0071】
本発明による変異は、従来からの部位特異的突然変異誘発法または無作為突然変異誘発法によって作出することができる。オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発法が、さらに別の選択肢である。この方法は、
1.所望のヌクレオチド置換(変異)を含む配列で、オリゴヌクレオチドを合成すること、
2.オリゴヌクレオチドを、トロポエラスチンをコードする構造的配列を含む鋳型にハイブリダイズさせること、および、
3.プライマーとしてオリゴヌクレオチドを伸長させるためDNAポリメラーゼを使用することを含む。
【0072】
制限酵素部位で区切られているオリゴヌクレオチドブロックからトロポエラスチンをコードする合成ポリヌクレオチドを調製する場合に特に適したもう一つの方法は、制限酵素断片全体が置換されるカセット式突然変異誘発法である。
【0073】
本発明者は、タンパク質分解に感受性をもつ、トロポエラスチンにおける領域を同定しているため、この感受性領域の中のアミノ酸配列を用いて、ペプチド模倣分子としても知られるプロテアーゼ阻害分子を調製することが可能である。本明細書および請求の範囲において、「ペプチド模倣分子」とは、タンパク質分解に対して感受性をもつ、トロポエラスチンにおける領域を模倣し、そのため、プロテアーゼの触媒ドメインについて、感受性領域と競合する分子を意味する。一般的には、ペプチド模倣分子は、ペプチドまたはペプチド様分子である。
【0074】
本発明に係るペプチド模倣分子は、構造的にペプチドに類似していてよい。これらの分子には、タンパク質分解部位であるか、それを含むトロポエラスチンのアミノ酸配列、またはトロポエラスチン変異体のアミノ酸配列を含んでよい。本発明に係るペプチド模倣分子は、1つ以上の化学基において修飾されたアミノ酸残基を含んでよく、非ペプチド結合によって結合させてもよい。これらの分子は、関連するプロテアーゼの作用を阻止することが望ましい場合に使用することができる。
【0075】
第十一の態様において、本発明はKAPGVGGAF、RAAAGLG、RSLSPELREGD、KAAQFGLVPGV、KSAAKVAAKAQLRAA、RSLSPELREおよびLAAAKAAKYGAAからなるグループより選択されるペプチドの全てまたは一部を含むペプチドまたはペプチド模倣分子を提供する。
【0076】
本発明の本態様に係るペプチドは、それぞれ上流側配列と結合しているKAPGVGGAF、RAAAGLG、RSLSPELREGD、KAAQFGLVPGV、KSAAKVAAKAQLRAA、RSLSPELREおよびLAAAKAAKYGAAからなるグループより選択される配列の全てまたは一部からなる短いペプチドでよく、一般的には、15残基のオーダーのペプチドを作り出すのに用いる。ただし、場合によっては、これよりも短いペプチドを使用することもできるし、しばしば、これよりも長い配列を使用することもできよう。ペプチドは、これらの配列を一つ以上含む、より大きな分子である。さらに、これらのペプチドの構造的な類縁化合物も、本発明に係るペプチド模倣分子の範囲に含まれており、また、例えば改変したアミノ酸残基を含む分子も含まれる。
【0077】
好ましい分子は、天然の切断部位が一般的にはペプチドまたはペプチド模倣分子のほぼ中央に位置している分子である。ペプチドの例としては、トロポエラスチン配列内のコンテクストにある配列RAAAGLGAに基づいたH-Ala-Ala-Lys-Ala-Gln-Leu-Arg-Ala-Ala-Ala-Gly-Leu-Gly-Ala-OHである。この分子のペプチド模倣型は、H-Ala-Ala-Lys-Ala-Gln-Leu-Arg-R-Ala-Ala-Ala-Gly-Leu-Gly-Ala-OH(ここで、Rは還元型ペプチド結合)である。また、好ましくは、次のレトロインベルソ(retro-inverso)シュードペプチドである:H-D-Ala-Gly-D-Leu-Gly-D-Ala-D-Ala-D-Ala-(還元型)-D-Arg-D-Leu-D-Gln-D-Ala-D-Lys-D-Ala-D-Ala-OHおよびH-D-Ala-Gly-D-Leu-Gly-D-Ala-D-Ala-D-Ala-D-Arg-D-Leu-D-Gln-D-Ala-D-Lys-D-Ala-D-Ala-OH。好ましくは、これらのペプチドはN末端またはC末端によって基質と結合している。
【0078】
また、好ましいものとして、次のペプチドがある:H-Val-Pro-Gly-Ala-Leu-Ala-Ala-Ala-OH;H-Val-Pro-Gly-Ala-(還元型)-Leu-Ala-Ala-Ala-OHおよびレトロインベルソシュードペプチド:H-D-Ala-D-Ala-D-Ala-D-Leu-(還元型)-D-Ala-Gly-D-Pro-D-Val-OHおよびH-D-Ala-D-Ala-D-Ala-D-Leu-D-Ala-Gly-D-Pro-D-Val-OH。好ましくは、これらのペプチドは、N末端またはC末端によって基質と結合している。
【0079】
分子のさらなるカテゴリーには、相互作用するプロテアーゼを共有結合修飾して、さらにプロテアーゼの活性を阻害するために結合した一つ以上の反応基を含んでいる。本発明は、反応基を結合させるために、内因性または外因性のリジルオキシダーゼを使用することを想定している。生化学的試薬として利用できる化学反応基で、化学的架橋剤の構築によく利用される反応基がたくさんあることも知られている。本発明は、反応基を結合させるために、内因性または外因性のリシルオキシダーゼを使用することを想定している。これらの一部が、ピアス社製品カタログ(Pierce Product Catalog:1997年)の133〜154頁(第7章)に記載されている。この反応基は、反応部位に近接するよう、分子の末端か内部に置かれる。
【0080】
本発明に係るペプチドおよびペプチド模倣分子は、エラスチンに対するエラスチン分解プロテアーゼの攻撃に関連した損傷(喫煙者の肺損傷の主要原因)から肺組織を保護するために、吸入剤の形で提供することのできる薬剤としてトロポエラスチンを精製する場合や、これらのペプチドを認識するプロテアーゼ活性部位を競合的に阻害することが望まれる場合など、多くの異なった状況において有用である。
【0081】
本発明に係るペプチドおよびペプチド模倣分子は、癌の局所的増殖および転移を阻害または抑制する上でも有用である。特に、発明者らは本発明に係るペプチドおよびペプチド模倣分子は、新生物細胞によって分泌されるプロテアーゼに対して、内因性トロポエラスチンと競合させるときに有用であろうことを認めている。これらのプロテアーゼの分泌は、一般的には、癌の局所的増殖または転移と関連している。したがって、本発明に係るペプチドおよびペプチド模倣分子の、プロテアーゼに対して内因性トロポエラスチンと競合できる能力により、癌の局所的増殖または転移を阻害または低下させうる。このような適用では、本発明に係るペプチドおよびペプチド模倣分子は、基質に結合していてもよい。
【0082】
第十二の態様において、本発明はトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体の精製を促進させる方法を提供しており、本方法には本発明の第十一の態様に係るペプチドまたはペプチド模倣分子を少なくとも一つを精製されるトロポエラスチンまたはトロポエラスチン変異体の粗調製物中に含んでいる。
【0083】
第十三の態様において、本発明は低下型トロポエラスチン派生体、上昇型トロポエラスチン派生体、ポリペプチド派生体およびキメラ派生体からなるグループより選択される派生体、または本発明に係るペプチドまたはペプチド模倣分子を、薬学的に許容できる担体または希釈剤とともに含む製剤組成物を提供する。派生体または本発明に係るペプチドまたはペプチド模倣分子の処方製剤は、通常の製薬技術にしたがって調製される。本発明による好ましい処方製剤には、吸入型の処方製剤、局所的に使用するために設計された乳化剤へ取り込ませるもの、ステント用および注射用処方製剤など表面に付着させるものなどがある。さらに、本発明者は、塞栓形成をもたらすようなプロテアーゼ活性を制限することが望まれる状況下での使用に本発明に係る組成物を採用できることを認めている。
【0084】
第十四の態様において、本発明は低下型トロポエラスチン派生体、上昇型トロポエラスチン派生体、ポリペプチド派生体およびキメラ派生体からなるグループより選択される派生体、または本発明に係るペプチドまたはペプチド模倣分子をコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0085】
ヌクレオチドは、ベクターDNAを含む組換え型DNA分子として提供されてもよい。ポリヌクレオチドは、ハイブリッド改変ポリヌクレオチド分子を形成するために合成法およびcDNA技術を組み合わせて用いて調製することができる。これらの分子も、本発明の範囲内に含まれる。
【0086】
本発明において有用なベクターは、プラスミド、ファージおよびファージミドなどである。本発明に係る合成ポリヌクレオチドは、組込み型発現系、また溶菌的もしくはそれと同等の発現系に用いることができる。
【0087】
一般的に適当なベクターには、使用するつもりの発現宿主と適合性のある種由来の複製起点および調節配列が含まれるであろう。一般的には、これらのベクターは、該ポリヌクレオチドの上流に位置するプロモーターを、原核生物で発現させようとするときにはリボソーム結合部位とともに含み、また抗生物質耐性を付与したり、栄養要求性要件を補うような表現型選択遺伝子を含んでいる。作出用ベクターとしては、分配を通じて高度の安定性を保つベクターを選択してもよい。組み込みベクターを用いるときは、ベクターが複製起点を有することは必要ではない。溶菌的または他の同等の発現系では、ベクターを宿主の中で維持するのに必要なこれらの機能を持つ必要はない。
【0088】
大腸菌(E. coli)用の一般的なベクターとしては、pBR322、pBluescript II SK+、pGEX-2T、pTrc99A、pETシリーズのベクター、特にpET3aおよびpET3d(Studierら、1990)、およびこれらのベクターから派生したベクターなどがある。
【0089】
第十五の態様において、本発明は本発明の第十四の態様におけるヌクレオチド配列を含む細胞を提供する。
【0090】
好ましい発現系は、大腸菌発現系である。しかし、大腸菌で使用するために設計されたポリヌクレオチドからタンパク質を発現させることのできる他の宿主を使用すること、および別の微生物発現系など他の発現系で使用するのに適した合成ポリヌクレオチドを使用することも、本発明の範囲内に含まれる。これらの他の発現系には、酵母、バクテリア発現系、昆虫細胞発現系、および他の真核生物細胞系や生物そのものを用いる発現系などがある。
【0091】
大腸菌宿主の例としては、大腸菌B菌株の派生株(Studierら、1990)、NM522 (GoughとMurray、1983)、およびXL1-Blue(Bullockら、1987)などがある。
【0092】
第十六の態様において、本発明は、本発明の第十五の態様における細胞からの、本発明の第十四の態様におけるヌクレオチド配列によってコードされた発現産物を提供する。
【0093】
本発明に係る発現産物は、ベクターによってコードされているタンパク質の全てまたは一部を、発現産物のペプチド結合に含む融合発現産物でもよい。これらは、例えばN末端メチオニン、または産物の伸縮性を永久には損わない、その他の付加的残基を含んでいてもよい。
【0094】
一般的には、所望の発現産物のN末端側に融合させる。適当なタンパク質の例としては、グルタチオンS−トランスフェラーゼである(SmithとJohnson、 1988)。融合タンパク質の配列は、精製を簡単にするため、または細胞質タンパク質として発現させるために発現産物が分泌されるようなもの、または、細胞表面タンパク質として発現されるようなものを選択してもよい。
【0095】
発現させた融合産物は、次に、遊離した改変トロポエラスチンを提供するために、融合タンパク質の配列を取り除くよう処理してもよい。処理は、一般的にプロテアーゼ処理によって行われるか、分泌による除去では宿主に内在する分泌装置によって行われる。この例は、出芽酵母(S. cerevisae)および分裂酵母酵母(S. pombe)などの酵母であるが、これらに限られるわけではない。
【0096】
非融合系は、予め存在しているメチオニンコドンを導入または使用することを含む。この例は、大腸菌でpET3aおよびpET3dを使用することである。
【0097】
本発明の第十七の態様によれば、第十六の態様に係る発現産物を製造する過程を提供するものであり、本過程において、第十五の態様に係る細胞を提供すること、この細胞を、第十六の態様に係る産物を発現させるのに適した条件下で培養すること、および発現産物を回収することを含む方法が提供される。
【0098】
第十八の態様において、本発明は低下型トロポエラスチン派生体、上昇型トロポエラスチン派生体、ポリペプチド派生体およびキメラ派生体からなるグループより選択される一つ以上の派生体から形成されるインプラントを提供する。派生体がタンパク質分解に対する感受性を低下させている場合は、このインプラントは、かなり長期間にわたってin situで保持を意図されるものであるが、派生体がタンパク質分解に対する感受性を上昇させている場合は、このインプラントは短期間in situで保持することを意図したものである。実際、インプラントを内因性結合組織によって置き換えたい場合などには、インプラントは、速やかに分解されることが望ましい。
【0099】
本発明に係るトロポエラスチン派生体(すなわち、低下型トロポエラスチン派生体および上昇型トロポエラスチン派生体)は、架橋させてエラスチンまたはエラスチン様物質を形成させることができる。あるいは、別の生物学的分子または合成分子とともに架橋して、複合物質を作ることもできる。トロポエラスチン派生体の架橋は、ルテニウムテトロキシド媒介の酸化、およびキノン媒介の酸化などの方法を用いて、リシル側鎖を化学的に酸化することにより、または、ジチオビス(サクシンイミジルプロピオン酸)、ジメチルアジピミデート、またはジメチルピメリミデートおよびUV活性化架橋ドメインを含む薬剤など、異種性の部位に存在する物質などの二官能性化学的架橋剤を用いて行なうことができる。この他には、リシンおよびグルタミン酸側鎖の架橋がある。
【0100】
トロポエラスチン派生体(すなわち、低下型トロポエラスチン派生体および上昇型トロポエラスチン派生体)は、リシルオキシダーゼ媒介の酸化などの方法によって酵素的に架橋してもよく、あるいはガンマ線照射を用いて架橋してもよい。インプラントを所望の形するための鋳型中でトロポエラスチン派生体を架橋することによって、インプラントを必要な形に形成する。インプラントをシート状にして使用する必要があるときには、この派生体を平面上で架橋させる。関連する方法が、例えば、米国特許第4 474 851号および第5 250 516号に記載されている。エラストマー材料は、一つ以上の派生体から独占的に調製してもよい。あるいは、他の材料とともに一つ以上の派生体から調製された複合物でもよい。
【0101】
図面の簡単な説明
図1は、血清、カリクレインおよびトロンビンについてN末端配列の決定により同定されたプロテアーゼ部位の相対位置を示す模式図を示している。主要部位を実線で示し、副次的な部位を破線で示す。ほとんどのプラスミン断片が、同一のN末端配列を含んでいたため、切断部位を一義的に同定することはできなかった。同じようにして同定したトリプシン断片も、すべて同じN末端配列を含んでいた。したがって、プラスミンとトリプシンで切断される部位の可能性が高い領域は示されていない。
【0102】
図2は、SHELのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示している。プロテアーゼ認識部位の位置を下線で示す。SHELのアミノ酸を配列番号4で示す。
【0103】
図3は、SHELのアミノ酸配列と比較したSHELδ26Aのアミノ酸配列(下側の配列)を示している。SHELδ26Aのアミノ酸配列を配列番号5で示す。
【0104】
図4は、SHELδmodのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示している。SHELδmodのアミノ酸配列を配列番号6で示す。
【0105】
図5は、血清とともに1、2、3または18時間インキュベートした後のSHELを10%SDS-PAGEで解析した結果を示している(レーン1から4)。レーン5と6:それぞれ、SHELとSHELδ26Aを血清によって分解してできたペプチド断片を、ブタノール可溶化処理によって精製したもの。産生された断片のおおよそのサイズはkDaで示す。分子量マーカーをkDaで示した。
【0106】
図6は、血清によるSHEL分解に対するプロテアーゼ阻害剤の効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示している。レーン1、3、5、7、9:血清とともにインキュベートしたSHEL;レーン2:血清および0.5 mMペファブロックSC(Pefabloc SC)とともにインキュベートしたSHEL;レーン4:血清および5 mM PMSFとともにインキュベートしたSHEL;レーン6:血清およびEDTAとともにインキュベートしたSHEL;レーン8:血清および50 mMペファブロックPK(Pefabloc PK)とともにインキュベートしたSHEL;レーン10:血清および1ユニットのヒルジン(Hirudin)とともにインキュベートしたSHEL。
【0107】
図7は、SHELおよびSHELδ26Aに対するトロンビンの効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示している。SHELに加えるトロンビンの量を以下のように上昇させた:レーン1(0.01ユニット);レーン2(0.05ユニット);レーン3(0.10ユニット);レーン4(0.15ユニット);レーン5(0.20ユニット);レーン6(0.25ユニット)。レーン7および8:SHELおよびSHELδ26Aそれぞれの分解に対するトロンビンの効果。断片のサイズは、kDaで推定した。分子量マーカーをkDaで示した。
【0108】
図8は、SHELおよびSHELδ26Aに対するカリクレインの効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示している。SHELに加えるカリクレインの濃度を以下のように上昇させた:レーン1:3.0×10-4;レーン2:6.0×10-4;レーン3:1.5×10-3;レーン4:3.0×10-3。レーン5および6:SHELおよびSHELδ26Aそれぞれの分解に対するカリクレイン(6.0×10-4ユニット)の効果。断片のサイズと分子量マーカーをkDaで示した。
【0109】
図9は、SHELおよびSHELδ26Aに対するウシトリプシンの効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示している。SHELに加えるウシトリプシンの濃度を以下のように上昇させた:レーン1:5×10-4;レーン2:1×10-3;レーン3:2×10-3;レーン4:4×10-3。レーン5および6:SHELおよびSHELδ26Aそれぞれの分解に対するウシトリプシン(2×10-3ユニット)の効果。断片のサイズと分子量マーカーをkDaで示した。
【0110】
図10は、SHELおよびSHELδ26Aに対するプラスミンの効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示している。SHELに加えるプラスミンの濃度を以下のように上昇させた:レーン1:3.7×10-7;レーン2:7.4×10-7;レーン3:3.7×10-6;レーン4:7.4×10-6、レーン5:3.7×10-5;レーン6:7.4×10-5。レーン7および8:SHELおよびSHELδ26Aそれぞれに対するプラスミン(7.4×10-5ユニット)の効果。断片のサイズと分子量マーカーをkDaで示した。
【0111】
図11は、SHELおよびSHELδ26Aに対するヒト白血球エラスターゼ(HLE)の効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示している。SHELに加えるHLEの濃度を以下のように上昇させた:レーン1:1.6×10-4;レーン2:3.2×10-4;レーン3:8.0×10-4;レーン4:1.6×10-3、レーン5:3.2×10-3。レーン6および7:SHELおよびSHELδ26Aそれぞれに対するHLE(1.6×10-3ユニット)の効果。断片のサイズと分子量マーカーをkDaで示した。
【0112】
図12は、A:血清、1/2希釈、20分間;B:トリプシン、20分間;C:プラスミン、1.5×10-5ユニット、20分間;D:カリクレイン、15×10-4ユニット、40分間;E:トロンビン0.1ユニット、20分間;F:HLE、70分間によるSHEL分解に対するS-GALおよびSPS-ペプチドの効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示している。トロンビンとカリクレインは、100:1の比率で使用した。デンシトメトリーによりゲルを走査して、全長のSHELバンドの相対量をヒストグラムで示した。
【0113】
図13は、プロテアーゼによるSHEL分解に対するコアセルベーションの効果をSDS-PAGEで解析した結果を示している。37℃でSHELのコアセルベーションをもたらす濃度のNaClの存在下(+)または非存在下(-)で、A:カリクレイン、B:トロンビン、C:HLE、D:トリプシン、E:プラスミン、F:血清とともにSHELをインキュベートした。あるいは、16℃でSHELのコアセルベーションをもたらす濃度のNaClの存在下(+)または非存在下(-)で、G:カリクレイン、H:トロンビン、I:HLE、J:トリプシン、K:プラスミン、L:血清とともにSHELをインキュベートした。
【0114】
図14は、GST-SHELを含む可溶性細胞溶解質のトロンビンによる切断効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示している。可溶性細胞溶解質に加えるトロンビンの量をを以下のように上昇させた:レーン1:0.001ユニット;レーン2:0.005ユニット;レーン3:0.010ユニット;レーン4:0.50ユニット;レーン5:0.100ユニット;レーン6:0.500ユニット;レーン7:1.000ユニット。
【0115】
図15は、pSHELFδ26Aを構築するための概要を示している。pSHELFおよび異常型pSHELFδmodの両方をSpeIおよびBssHIIで消化した。BssHIIは、どちらのプラスミドも2回を切断し、SpeIは1回を切断した結果、3つの断片が生じた。5424塩基対と946塩基対の断片をpSHELFから、またpSHELFδmodからの短い338塩基対の断片をアガロースゲルから精製した。5424塩基対の断片をCIP処理して再環化するのを抑制した後、3つの断片をDNAライゲースを用いて16℃で一晩ライゲーションした。最終産物であるpSHELFδ26Aは、SHEL遺伝子エクソンからの26Aの所望した欠失を含んでおり、その他の変異は生じていなかった。
【0116】
図16は、血清(レーン1)、ペファブロックSC添加の血清(レーン2)またはカリクレイン(レーン3)で分解したSHELのザイモグラム解析の結果を示している。
【0117】
図17は、Ca2+(レーン1)、Zn2+(レーン2)、Ca2+とZn2+(レーン3)、およびCa2+、Zn2+ およびEDTA(レーン4)存在下での血清によるゼラチン分解のザイモグラム解析の結果を示している。
【0118】
図18は、AMPAで活性化したゼラチナーゼA(レーン1)、非活性化ゼラチナーゼA(レーン2)、および血清(レーン3)によるゼラチン分解のザイモグラム解析の結果を示している。
【0119】
図19は、溶液中における、SHELのプロテアーゼ分解の結果を示している。レーン1:標準;レーン2:SHEL;レーン3:SHEL+血清;レーン4:SHEL+72kDaゼラチナーゼ;レーン5:SHEL+92kDaゼラチナーゼ;レーン6および7:血清+APMA(1時間インキュベーション)、レーン8および9:血清+APMA(一晩インキュベーション)。
【0120】
図20は、尿素存在下または非存在下でのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)中における、SHELのヒト血清カリクレイン分解の結果を示している。レーン1:標準;レーン2:SHEL(インキュベーションなし);レーン3:緩衝液中でインキュベートしたSHEL(カリクレインなし);レーン4:SHEL+カリクレイン;レーン5:緩衝液中SHEL+尿素(カリクレインなし);レーン6:0.3 M尿素中SHEL+カリクレイン;レーン7:1 M尿素中SHEL+カリクレイン。
【0121】
発明の実施の形態
用いた組換え法および合成法は、Sambrookら(1989)など、標準的なテキストに記載されている。
【0122】
本発明に係るトロポエラスチン派生体および発現産物の精製も、分子を精製することになる環境に左右される各例において、実際の工程順序により標準的な技術を用いて行なわれる。PCT/AU93/00655で開示された精製法の概要が、実施例によって説明されている。
【0123】
本発明にしたがった処方製剤は、標準的な技術によって処方される。
【0124】
単回投与形態を製造するための、担体または希釈剤を組み合わせてよいトロポエラスチン派生体またはペプチド模倣分子の量は、その処方製剤が使用される状態、および個々の投与方法によってさまざまである。
【0125】
それぞれの宿主への具体的な投与量は、年齢、性別、体重、および全身の健康状態、ならびに使用されるトロポエラスチンの特定の特徴、また投与法などの要因によって影響されうることを理解されたい。
【0126】
例えば、滅菌注射液または油脂性懸濁液などの注射用製剤は、適当な拡散剤または湿潤剤、および懸濁剤を用いる公知の技術により処方することができる。滅菌注射用製剤は、毒性のない非経口投与に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸濁液でもよい。使用してよい賦形剤または溶媒は、水、リンゲル液、等イオン点塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌した不揮発油が、溶媒または懸濁媒体として従来から使用されている。この目的には、合成モノグリセリドまたはジグリセリドなど、どのような無刺激性の不揮発油を用いてもよい。なお、オレイン酸および有機溶媒などの脂肪酸は、注射可能な物質の調製に用いられる。
【0127】
投与経路、投与用量、および投与回数はすべて、当業における通常の技術を用いて最適化することができる要素である。
【0128】
さらに、派生体および発現産物は、例えば抗皺用のハンドローションなど、局所用製剤としてこのような処方製剤を調製するための通常の技術を用いて調製してもよい。
【0129】
それらは、また、通常の技術を用いて、例えば、患者の肺に投与するためのエアロゾル形態、あるいは外科用インプラント、食物または工業製品の形に調製してもよい。
【0130】
【実施例】
材料および方法
試薬
ヒルジン、PMSF、ヒトトロンビン、ヒト血漿カリクレイン、ヒトプラスミンおよびヒト白血球エラスターゼ(HLE)はシグマ社(Sigma)から購入した。ウシトリプシン、ペファブロックSCはベーリンガーマンハイム社(Boehringer-Mannheim)から、またペファブロックPKはスイスにあるペンタファーム社(Pentapharm)から購入した。ゼラチナーゼA(72kDaゼラチナーゼ)とゼラチナーゼB(92kDaゼラチナーゼ)は、ベーリンガーマンハイムロシュダイアグノスティック社(Boehringer Mannheim Roche Diagnostics)から購入した。
【0131】
SHELは、国際公開公報第94/14958号に記載されている方法によって得た。
【0132】
SHELδ26Aは、エクソン26Aに対応する合成コーディング配列を取り除くことによってSHELから派生させることができる。SHELの配列とSHELδ26Aの配列との比較を図3に示す。そのタンパク質産物は、トロポエラスチンの天然ヒトスプライス型と外見上一致している。
【0133】
トランスフォーマー突然変異誘発キット(Transformer Mutagenesis Kit)(米国にあるクローンテック社(Clontech))をpSHELF(国際公開公報第94/14958号記載)とともに、添付のプロトコールにしたがって用いて、エクソン26Aに対応するDNAを取り除いた。使用した突然変異プライマーの配列(オーストラリアにあるベックマン社(Beckman)製)は、5' CGG GTT TCG GTG CTG TTC CGG GCG CGC TGG 3'で、エクソン26Aの両側15塩基対のところに隣接し正確な欠失を生じた。特有の制限酵素部位を別の制限酵素部位に変異させる別の選択用プライマーがプロトコールでは通常使用されているが、エクソン26Aの欠失は、特有の制限酵素部位であるPmlIの欠失ももたらすため、本実験では使用しなかった。したがって、製造業者の指示に従い、この酵素を用いて変異反応物を切断して、突然変異を起こさなかった親プラスミドをすべて直鎖化し、その結果、変異プラスミドを濃縮した。この反応混合液は、製造業者が添付したプロトコールに従い、ジーンパルサー(Gene Pulser)装置(BioRad USA)を用いて実施した電気泳動によって、ミスマッチ修復欠損大腸菌株BMH17-18 mutSコンピテントセルを形質転換するのに用いた。電気泳動を受容することのできる細胞は、クローンテック社から供給された標準プロトコールに従って作製した。コンピテントセルは、小分けして-80℃で保存した。電気泳動を行なった後、細胞を1 mlのLBの中で、37℃、280 rpmで1時間増殖させた。完全に形質転換した細胞培養物を5 mlのLB+アンピシリン中で一晩培養した。変異プラスミドと親プラスミドを含む混合プラスミドDNAを、キアゲンスピンプラスミド単離用キット(Qiagen Spin Plasmid isolation kit)を用いて培養から分離し、プラスミドDNAをPmlIで切断し、親プラスミドを直鎖化した。ここで変異プラスミドが濃縮されたプラスミドDNAを用いて、上記のごとく電気泳動により大腸菌HMS174を形質転換し、75μg/mlアンピシリンを含むLBプレート上で形質転換体を選択した。
【0134】
コロニーを一晩培養し、10 mlのスクリューキャップ付き試験管に入れた3 mlのLB+アンピシリン培地に単一コロニーを植菌し、37℃で振とうしながら一晩培養して、プラスミドの微量調製を行なった。Sambrookら(1989)によるアルカリ分解プロトコールに従って、プラスミドを抽出した。HMS174についてはフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで抽出を2回行なった。PmlIを用いて構築物をスクリーニングし、切断に反応しなかったものをさらにKpnI/PstIの二重切断によってスクリーニングした。6F (5' GGG TGT TGG CGT TGC ACC AG 3')、および 7R (5' TGC ACC TAC AAC ACC GCC CG 3')プライマーを用いて、(本明細書に記載したように)手動で候補クローンの配列を決定し、欠失領域の両側にある配列の統一性を確認した。
【0135】
Sequi-Net(米国コロラド州立大学、生化学部門)またはSUPAMAC(シドニー大学およびプリンスアルフレッド病院、高分子解析センター)を用いて、自動配列決定を行なった。DNAは、塩化セシウム勾配またはキアゲンTip 20(キアゲン社(Qiagen)、ドイツ)のいずれかによって精製した後に適用し、手動配列決定に用いたのと同じプライマーを用いて配列決定を行なった。プライマー:
1R (5' TGC CTT TGC CGG TTT GTA CG 3')
3F (5' TCC AGG TGG CTA CGG TCT GC 3')
3R (5' GAG TAC CTA CGC CTG CGA TAC 3')
5R (5'GGA GTA CCA ACG CCG TAC TT 3')
6F (5'GGG TGT TGG CGT TGC ACC AG 3')
7R (5'TGC ACC TAC AAC ACC GCC CG 3')
pETフォワード (5'GCA CTC ACT ATA GGG AGA CC 3')
pETリバース (5'GCC AAC TCA GCT TCC TTT CG3')
を用いて配列決定し、残りの配列を確認した。多くの望ましくない変異が発見されたため、さらにDNAに操作を加える必要が生じた。この変異DNAをpSHELFδmodと名づけた。
【0136】
配列決定によって、欠失部分を取り囲むすぐ近くの領域は正しいことが確認された。pSHELFδmodの正しい領域を囲むPstIとBssHII制限酵素部位を用いて、所望の分節を取り出して、pSHELFの対応部位に再挿入した。6.5μgのpSHELFと7.5μgのpSHELFδmodをBssHIIで切断しPstIで沈殿化し切断した。適当な3つの断片(図15)をゲル精製して、1ユニットのDNAリガーゼ(ベーリンガーマンハイム社製、ドイツ)を用いて、16℃で一晩ライゲーションを行なった。DNAを大腸菌XL1-Blueに形質転換し、75μg/mlアンピシリンを含むプレート上で形質転換体を選択した。
【0137】
微量調製によって、プラスミドを単離し、BglI消化を用いてスクリーニングした。制限酵素消化によって候補クローンをさらに解析し、その後、プライマー1R、3F、5R、6F、7RおよびT7フォワード(5' TAA TAC GAC TCA CTA TAG GG 3')を用いて自動配列決定を行なって、全配列を確認した。正確な配列をpSHELFδ26Aと名づけた。
【0138】
SHELFδ26Aは、SHELよりも強いプロテアーゼ耐性を示す。
【0139】
SHELの血清によるタンパク質分解
新鮮な静脈血を2000gで遠心分離して赤血球細胞を取り除き、次に凝血させてから血清を取り出して、ヒト血清を得た。小分けして(20μl)-20℃で保存し、必要時に解凍した。50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)中15μgのトロポエラスチンを0.5μlの血清とともに37℃で1時間から18時間、20μlの反応液中でインキュベートした。阻害剤の前添加のある場合とない場合で同様の実験を行なった。阻害剤は以下の濃度で加えた;0.5または1ユニットのヒルジン、0.5または5mMのペファブロックSC、1または5mMのPMSF、25mM EDTA、50または250μMのペファブロックPK。PMSF以外の阻害剤はすべて水に溶解し、PMSFはイソプロパノールに溶解させた。反応を8%SDS-PAGEで解析した。血清で分解したペプチドで、配列決定に用いるものは、1.5容量のn-プロパノールを加えて精製した後、2.5容量のn-ブタノールを加えてから一晩撹拌した。回転蒸発によって有機溶媒を取り除いてから、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)中にペプチドを再懸濁した。
【0140】
タンパク質分解アッセイ
以後の実験にとって最適な量を決定するために、ある程度の範囲の酵素濃度を初めに用いた。トロンビン(0.01〜1ユニット)、ヒト血漿カリクレイン (3×10-4から3×10-3ユニット)、ヒトプラスミン (7×10-5から4×10-7ユニット)、ウシトリプシン (5×10-4から4×10-3ユニット)、およびヒト白血球エラスターゼ (1.6×10-4 から3.2×10-3ユニット)を、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)中10μgのSHELまたはSHELδ26Aに全容量20μlとなるように加えた。反応はすべて、37℃で1時間行なった。ゼラチナーゼAおよびBは、0.8 mMのAPMAを用いて、37℃で30分間(ゼラチナーゼA)、または37℃で45分間(ゼラチナーゼB)活性化した。ゼラチナーゼA(4×10-3〜4×10-2)およびゼラチナーゼB(2×10-5〜1×10-4)を15 mgのSHELまたはSHELFδ26Aに全容量が50 mLとなるように加えた。ゼラチナーゼBの反応は、0.75 mMのAPMA存在下で行なった。分解プロフィールを8%、10%または12%SDS-PAGEによって解析した。
【0141】
ザイモグラム解析
(1mg/ml)ブタゼラチンまたはSHELを基質に用いて、8%または10%ザイモグラムゲルを泳動した。電気泳動後、100mLの2.5% Triton-X 100で20分間ずつ2回、次に100mLの50mM トリス-HCl(pH7.8)、30mM NaClで5分間ずつ2回洗浄してから、50mM トリス-HCl(pH7.8)、30mM NaCl、5 mM CaCl2の中で、37℃で一晩インキュベートした。25%イソプロパノール、10%酢酸でゲルを固定してから200mLの水で3回洗浄し、ゲルコード(Gelcode)(ピアス社)で染色した。
【0142】
N末端配列決定
新鮮なアクリルアミド保存液、および通常の半量のAPSとTEMEDを用いてゲルを注入した。ゲルを16〜24時間放置した。シンプルなタンパク質プロフィールをみるには、上部バッファー槽には10μl/Lのチオグリコール酸を含む150mM トリスHCl(pH8.8)緩衝液を用いて、20 mAで4時間室温にてゲルの前泳動を行った。サンプルを投入し、新鮮な緩衝液で4℃にて約3時間泳動した。より複雑なプロフィールを見るには、トリス-グリシン緩衝液(25mM トリスHCl, 192mM グリシン、0.1%(w/v)SDS, pH 約8.3)中で室温にて前泳動を行って、新鮮な緩衝液を加えてゲルを室温まで平衡させてから、サンプルを加えて、上部バッファー槽に加えた10μl/Lのチオグリコール酸で20 mAにて泳動した。前染色スタンダード(カレードスコープ;バイオラッド社、米国)を用いて、移動の程度をモニタリングした。
【0143】
ゲルは、製品説明書にしたがって処理したポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(プロブロット;アプライドバイオシステムズ社、米国)に、10mM CAPS(pH 11.0)、10%メタノールおよび10 μl/Lチオグリコール酸緩衝液を用いて4℃で撹拌しながら、70mAで一晩ブロットした。ヘッファートランスブロット(Hoefer Transblot)装置を用いてブロッティングを行ない、製品説明書にしたがって使用した。この膜は、50%メタノール中0.1%クーマシーブルー-Rによって染色し、50%メタノール、10%酢酸中で脱染した。膜は、水で一晩洗浄してから風乾した。清潔なメスでバンドを切り出した。上記のようにして、サンプルをPVDF上にブロットした。清潔なメスでバンドを切り出し、アプライドバイオシステムズ社のハードウエアとプロトコールを用いてシドニー大学およびプリンスアルフレッド病院高分子解析センター(SUPAMAC)で配列決定を行なった。あるいは、配列決定を行なうため、サンプルをキャンベラにあるオーストラリア国立大学、生体分子資源学部に送った。
【0144】
ペプチド調製と使用
S-GAL、すなわちN-VVGSPSAQDEASPLS-Cは、EBP(HinekとRabinovitch、1994)のエラスチン結合ドメインを代表するペプチドである。これは、カイロンミモトープ社(Chiron Mimotopes、オーストラリア)によって合成され、次のようにして、RP-HPLCで精製した。50mMの酢酸アンモニウムで濃縮したペプチドを、0〜100%アセトニトリル、 0.1%トリフルオロ酢酸 (TFA)勾配に沿って、9ml/分で7分間泳動したR2逆相カラム(4.6 × 100mm)を用いて、まず、潅流クロマトグラフィー(POROS;パーセプティブバイオシステムズ社、米国)によってRP-HPLC で処理した。あるいは、テコゲル10 C18(Techogel10 C18)カラム(2.2 × 25cm)を流速8ml/分で用いた。まず、30%アセトニトリル/0.1% TFAで10分間洗浄した後、0〜100%アセトニトリル、 0.1%トリフルオロ酢酸 (TFA)勾配を55分間用いた。カラムの容量が大きいため、泳動の間に10分間カラムを平衡させた。最大で30から50mgのペプチドを一度に泳動させた。どちらの方法でも、サンプル検出は、214 nmと280nmで同時に行なった。どちらの方法も、ファルマシア社(Pharmacia、スウェーデン)製のポンプと検出器を用いて行なった。回収したサンプルから凍結乾燥によって溶液を取り除き、精製したペプチドを計量して収量を測定した。
【0145】
ミリQ(Milli-Q)水中の過剰モルのS-GAL(10から200倍)を、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)中15μgのSHELに加えて全量を40μlにしてから、HinekとRabinovitch(1994)が提唱する方法に従い、37℃で1時間プレインキュベートし、次に選択しプロテアーゼ(カリクレイン、6〜15×10-4U;トロンビン、0.1〜0.2U;トリプシン、2×10-3U;プラスミン、1.5〜3.7×10-5U;ヒト白血球エラスターゼ、1.6 ×10-3U;血清、1μl)を、10から80分間、上記で決定し最適量にしたがって加えた。血清は、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)で、1/2から1/50まで、さまざまに希釈したものを用い、いずれの実験にも、SHELとSHELδ26Aの両方を用いた。
【0146】
セリンプロテアーゼの選択により切断される、SHELの領域を表すペプチド、すなわちN-AAKAQLRAAAGLGA-C(セリンプロテアーゼ部位ペプチド、SPS-ペプチド)は、カイロンミモトープ社(オーストラリア)が合成し、それが存在することで競合物質としてSHELを分解から保護することができるかを調べた。実験は、同一の手順(上記参照)を用いて、S-GALと並行して行なった。SHELとSHELδ26Aの両方を用いた。各反応は10%SDS-PAGEで分解した。デンシトメトリーによってゲルを走査し、全長SHELの容量を次のように算出した。モレキュラーダイナミクス社(Molecular Dynamics)製のパーソナルデンシトメーターを用いて染色ゲルのデンシトメトリーの走査を行なった。ImageQuantソフトウエア(バージョン3.2、モレキュラーダイナミクス社、米国)を用いて、画像を解析して定量した。
【0147】
コアセルベーション過程でのタンパク質分解
50 mMリン酸ナトリウム(pH 7.8)および150mM NaCl中10mg/mlのSHELを、37℃で曇るまでコアセルベーションし、その後ヒト血漿カリクレイン(6×10-4U)、トロンビン(1U)、プラスミン(1.5×10-5U)、トリプシン(2×10-3U)、HLE(1.6×10-3U)および血清(0.75μl)を1時間加えた。対照反応は、16℃で3時間行なった。SDS-PAGEによって、タンパク質分解の程度をモニタリングした。
【0148】
結果
A.血清によるSHELの分解
ヒトトロポエラスチンはヒト血清によって分解され、更なる分解に耐性をもつ別々のバンドに分かれた。SDS-PAGEでは、1時間インキュベートしたときと同じ分解プロフィールが、一晩インキュベートしたときにも見られた(図5)。図5は、ブタノールを用いて血清から精製した後のペプチド断片を明確に示している。主要なバンドのサイズは、約50、45、35、28、27、25、22および18 kDaであり、外見的には、Romeroら(1986)が、ブタトロポエラスチンを用いて得たバンドと同じである。これによって生じたペプチドパターンは、多くの別の実験でも再現性があった。SHELδ26Aでも同様の結果が得られた(図5)が、22 kDaと18kDaのバンドは見られず、15kDaのバンドが換わりにみられた。
【0149】
B.血清による分解に対するプロテアーゼ阻害剤の効果
図6は、さまざまなプロテアーゼ阻害剤の存在下または非存在下で、血清とインキュベートした後の全長SHEL量を示している。ペファブロックSCもPMSFもトロポエラスチンを切断から保護するため、広範なスペクトラムのセリンプロテアーゼ阻害剤が分解を阻害することが認められた(図6)。それに対して、メタロプロテイナーゼの阻害剤であるEDTAは、分解を促進するようにみえた。これは、メタロプロテイナーゼであるゼラチナーゼAとゼラチナーゼBがトロポエラスチンを分解することを考えれば、予想外の結果である(図19)。セリンプロテアーゼのトロンビンおよびカリクレインに特異的なプロテアーゼ阻害剤も調べた。トロンビンの非常に特異的な阻害剤であるヒルジンは、分解を有意に阻害するようには見えなかったが、カリクレインに特異的なペファブロックPKはタンパク質分解を阻害した(図6)。
【0150】
C.特異的プロテアーゼによるSHELの分解
ヒトトロンビン
トロンビンは、GST-SHELを広範かつ再現性のある方法に切断することができる。グルタチオンアガロースに結合しているGST-SHELの切断を、ビーズを1xトロンビン切断用緩衝液(50mM トリス-HCl(pH8.0)、150mM NaCl、2.5mM CaCl)で洗浄および再懸濁し、0.1%から1%(w/v)のトロンビン:融合タンパク質からのヒトトロンビン(シグマ社製)を25℃で1時間加えた(SmithとJohnston、1988)。基質として使用される可溶性細菌溶解質を、10x保存液から加えた1xトロンビン切断用緩衝液とともに、同じようにインキュベートした。SDS-PAGEでは、GST(26kDa)がビーズ上に存在することは明らかであったが、SHELは、多くの実験でも上清中に存在することを確認できなかった。トロンビンがSHELを分解しているか否かを判定するために、トロンビンの濃度を上げながら、細胞溶解質全体について切断を行なった。0.01Uのトロンビンが、切断のための最低濃度であるが、0.05U以上はより効果的であった(図14)。GSTは、明らかに存在していた。しかし、0.01Uのトロンビンでは、SHELを示しうるほぼ64kDaのところにバンドを認めることができた。ただし、このバンドはGSTのバンドほど強くはなかった。トロンビンの濃度を上げるとこのバンドは消失し、より短い断片が45、34および22kDaのところに見られ、SHELが実際にトロンビンによって切断されていることが示された。
【0151】
トロンビンの量を増加させながら、純粋なSHELに加えたところ、SDS-PAGEでは、かすかな主要でないバンドの他、45、34、22および13 kDaのところに4つの主要な断片が同定された(図7)。主要産物のサイズは、GST-SHEL溶解質をトロンビンで分解したときに見られるものと非常によく似ていた。過剰量のトロンビン(1U/10μg SHEL)を加えても短いバンドは、更なる分解に対しては耐性があるが、45kDaの断片は消失した。分解のパターンは、血清によって作出されたペプチドと同じようには見えなかった。反応にヒルジンを加えると、血清で見られた結果とは異なり分解が阻害された(図示せず)。SHELδ26Aで見られた分解パターンは、26Aを含まない断片と一致する約15 kDa の大きさに減少する22kDaの断片について僅かに異なっていた(図7)。
【0152】
ヒト血漿カリクレイン
トロンビンと同様に、ヒト血漿カリクレインの量を増加させながらSHELに加えると、特異的かつ再現性のある分解が起きた。これら3つの主要断片をSDS-PAGEで測ると、かすかな主要でないバンドの他、45、22および18 kDaと推測される3つの主要な断片が同定された。45kDaと18kDaでの主要バンドは、更なる分解に対しては耐性があるが、22kDaの断片は最終的に消失した。ここでも、分解のパターンは血清で見られたパターンと同じではなかった。ペファブロックPKはカリクレインによる分解を阻害し得た(図示せず)。SHELδ26Aの分解パターンは、22kDaと18kDa断片が失われ、15 kDaの断片に置き換わっていたという点(図8)で、血清で見られたパターンとやや異なっていた。
【0153】
ウシトリプシン
トリプシンによるSHEL分解は非常に広範で、長時間処理すると完全な分解が起きる。しかし、酵素の希釈量(4×10-3U)では、約50、45、40、38、34、31、22および18 kDaのところに主要なバンドを同定することができ、全体的なパターンは、血清産物と同様であった(図9)。実際、酵素濃度が低いとトリプシンの分解プロフィールは血清の分解パターンと実質的に同一に見えた。しかしSHELに対するトリプシンの作用が強烈であるため、トリプシン分解を再現することは容易でなかった。SHELδ26Aを用いても、カリクレインおよび血清について34kDa未満の短い断片のサイズがすべて約4kDaずつ減少していたこと、および22kDaと18kDa断片は15 kDaの単一の断片に置き換わっていたことを除けば同様の結果が得られた(図9)。
【0154】
ヒトプラスミン
プラスミンを低濃度で用いても、血清およびトリプシンの両方で非常に類似したプロフィールが得られた(図10)が、高濃度では、広範な分解が起きた。低濃度のプラスミンを用いて単離できた主要なバンドは、55、45、40、34、28、22および18kDaであり、血清による分解産物と似ていたが同一ではなかった。SHELδ26Aを用いても、34kDa未満の短い断片が約4kDaずつ減少していたこと、および22kDaと18kDa断片は17kDaと15 kDaの断片に置き換わっていたことを除けば同様の結果が得られた(図10)。
【0155】
ヒト白血球エラスターゼ(HLE)
HLEは、長期間放置されると、広範な分解を生じさせる。1.6×10-2Uを用いると、32 kDaと18kDaでの2つの顕著な断片とともに多くの断片が見られた(図11)。しかし断片を単離することは非常に困難で、すぐに過剰分解が起きた。SHELδ26Aも同様のプロフィールを生じたが、それぞれの断片が4kDaずつ短かった(図11)。
【0156】
D.血清およびプロテアーゼのザイモグラム解析
血清によるSHELの分解に関与するプロテアーゼの実体を確かめるために、SHELを基質として用いたザイモグラムを使用して血清および特異的プロテアーゼによるSHELの分解を解析した(図16)。
【0157】
血清によって分解されたSHELのザイモグラムは64kDaのところにはっきりと透明なゾーンを示し、それよりもずっとかすかな、もう一つの透明ゾーンを示した(図16)。血清中では別の血清プロテアーゼと一致する透明ゾーンは検出されなかった。この結果は、これらのプロテアーゼが血清中に豊富に存在すること、およびザイモグラム中にプロテアーゼの分子がアンフォールドする程度による可能性が高い。
【0158】
もう一つの透明ゾーンは、セリンプロテアーゼ阻害剤であるPMSFを解析に用いると見られなくなった。このことは、この第二の透明ゾーンがカリクレインによるSHELの分解に対応していることを示している。SHELに対するカリクレインの活性をさらに確認するため、SHELを含むザイモグラムゲルで血清を電気泳動し、血清を含むゲル断片を切り出して約3 mmのストリップにし、各ゲルストリップを30mgのSHELとともに溶液中でインキュベートした。そして、上清をSDS-PAGEで解析した。カリクレイン領域に対応するザイモグラム由来のゲルストリップから、カリクレインと一致するパターンが見られた(図示せず)。これによって、血清中でのカリクレイン活性が確認された。
【0159】
血清によって分解されたSHELのザイモグラム解析で同定された64kDaゾーンは、解析したどのセリンプロテアーゼにも対応しなかった。2次元ザイモグラム(1次元等電点電気泳動ゲル)は、64kDaゾーンに対応する酵素の等電点がpI 5〜5.5であることを示唆していた(データは示さず)。pIと分子量を組み合わせたスイスプロット(SwissProt)データベース検索によって、64kDaゾーンに対応する酵素はゼラチナーゼAまたはBであるらしいことが示された。ゼラチナーゼAまたは血清で分解したゼラチンのザイモグラム解析は、64kDaに対応する分解ゾーンを示した(図18)。これによって、さらに血清によって分解されたSHELのザイモグラム解析で見られた64kDaゾーンがゼラチナーゼAと一致することが確かめられる。ゼラチナーゼBに対応する透明ゾーンが、このザイモグラム解析において異なった位置に見られた。血清で分解したゼラチンのザイモグラム解析では、64kDaゾーンはEDTA存在下、または、CaCl2非存在下、あるいはZnCl2のみが存在するところでは見られなかった(図17)。分解液にCaCl2またはZnCl2を加えると、64kDaゾーンが見られた(図17)。これらの結果は、さらに、血清によって分解されたSHELのザイモグラム解析における64kDaゾーンに対応する酵素はゼラチナーゼAであるとの主張を裏付けている。活性化されていないゼラチナーゼAおよびBとAPMAで活性化したゼラチナーゼAおよびBとをゼラチンのザイモグラフィーによって解析した。非活性化ゼラチナーゼAによって分解されたゼラチンのザイモグラムでは、64kDaゾーンが見られた(図18)。このことは、SHELのザイモグラムを血清で分解したときに64kDaのところで見られるタンパク質分解活性が、ゼラチナーゼAの非活性型に媒介されることを示した。APMAで活性化したゼラチナーゼAにより分解されたゼラチンのザイモグラムでは、約60kDaに相当するゾーンが見られた(図18)。
【0160】
E.プロテアーゼ感受性部位のマッピング
図5から11において、矢印で示されたトロンビン、カリクレイン、プラスミン、トリプシンおよび血清によって産生されるペプチドのN末端の配列を決定して、SHELの領域における位置を決めた。ペプチドは、SHELのN末端、またはリシンまたはアルギニンのC末端側に隣接する切断部位に対応していた。表1に示し、ペプチド配列を切断部位の位置を図1で図式的に示した。
【0161】
表1に示されている断片のkDaで示された実際のサイズを、アミノ酸配列によって決定して、括弧内に示した。これが、SDS-PAGEで決定した外見上のサイズと異なる場合もある。面白いことに、515番目と516番目の残基(アルギニンとアラニン)の間にある1部位は、トロンビンとカリクレインに共通していた。さらにこの同じ部位はヒト血清によっても切断された。この部位は配列決定によって、26Aの内部に位置することが特定された。したがって、SHEL δ26Aでは、カリクレインによって作出される第二の断片が存在しないことは、このアイソフォームにこの部位が欠けていることと一致している。この他に血清によって作出されるバンドで比較的主要でないものは特有であり、ペプチドの混合物からできているように見えたため、命名は仮のものである。これらのペプチドは、SHELでもSHELδ26Aでも同じサイズであり(図7)、それによりそれらが主にN末端側にあったことまた他のペプチド断片はずっと低いレベルで存在していることを示している。SHELδ26Aにおけるこれら他の部位での有意なタンパク質分解によって、ペプチドのサイズが4kDa減少する結果になるが、これは明らかではなかった。トリプシンとプラスミンで見られる激しい分解により、短い方の断片は配列決定するに十分な量を単離することができなかった。しかし、断片のサイズにより、トリプシンおよびプラスミンの22および18kDaの断片がおそらくカリクレインと血清に対するのと同じ配列であろうことが示される。配列決定されたプラスミンによって作出されるバンドはいずれも、同定された同じ配列で、他のプロテアーゼまたは血清では見られない配列の混合物であった。N末端側の配列も同様である。プラスミンとトリプシンによって作出されるペプチドのすべてが、一義的に同定できたわけではないので、これらの酵素については、切断の可能性のある領域は図1に示していない。
【0162】
F.S-GalおよびSPS-ペプチドの分解に対する効果
SHELにおいて、トロンビン、カリクレイン、血清およびおそらくトリプシンとプラスミンに共通すると固定された主要セリンプロテアーゼ部位(R/AAAGLG)を、14アミノ酸のペプチドとして隣接するいくつかのアミノ酸残基(SPS-peptide)で作出した。これをSHELおよびSHELδ26Aのタンパク質分解液に加えて、このペプチドがプロテアーゼによって認識および切断される部位に代わる部位として働くことによって、分解を阻害することができるか否かを測定した。さらに、EBPのエラスチン結合ドメインと一致する15アミノ酸のペプチドであるS-GALを作製して、ブタすい臓エラスターゼの阻害(HinekおよびRabinovitch、1994)。は、トロポエラスチンを分解することができる他のプロテアーゼに広げることができるかどうかを測定した。SHELに対して100:1でモル過剰なSPS-ペプチドを用い、トリプシン、プラスミン、カリクレインおよび血清を用いて対照と比較したところ、SDS-PAGEによって見えるところから判断し、デンシトメトリーを走査して確認したところによると、全長SHELの量が多くなることが明らかになった(図12)。この効果はインキュベーションする時間を短くする(20分間)と非常に明白になり、SHELでもSHELδ26Aでも見られた(図示せず)。また、トロンビンおよびHLEを用いると、SPS-ペプチドはより多くの全長SHELを生じさせたが、その程度は小さかった(図12)。トロンビンと長時間インキュベーションするといくらかの阻害を示すように見えた(図12)。しかし、HLEによる分解はインキュベーション時間を長くし、SPSペプチドによる阻害がもはや見られなくなっても、S-GALによって一貫して阻害されるが、共には抑制されなかった(図12)。
【0163】
G.SHELの分解に対するコアセルベーションの効果
SHELは、37℃でコアセルベーションされた状態にあるとき、トロンビンとカリクレイン両者による分解から有意に保護された(図13)が、プラスミンによる分解には影響がなかった。HLF、トリプシンおよび血清の阻害もややあった(図13)。37℃でコアセルベーションしないような低濃度のSHEL(図示せず)を用いた対照反応、およびコアセルベーションを生じさせないような低い温度で行なう反応ではNaClの有無にかかわらず分解に違いを生じなかったため、この分解阻害は、反応混合液中に高濃度のNaClが存在することのよるものではなかった。
【0164】
考察
SHELの血清による分解の阻害実験
ヒト血清は、トロポエラスチンを分解して、特異的かつ再現性のある方法で少なくとも5つまたは6つの主要なペプチド断片にすることができた。血清について、SDS-PAGEにおけるバンド形成パターンは、外見上、Romeroら(1986)のパターンと似ていた。さまざまな阻害剤実験によって、広範なスペクトラムのセリンプロテアーゼ阻害剤であるペファブロックSCとPMSFによって阻害することができるセリンプロテアーゼとなるプロテアーゼを確認した。
【0165】
EDTAが血清による分解を阻害できないことで、メタロプロテイナーゼ活性がSHEL分解の主要な誘因ではないことが示唆されていた。実際、EDTAは血清による分解をおそらく血清プロテアーゼ阻害剤の作用を調節することによって促進するように見えた。しかし、ゼラチナーゼAおよびゼラチナーゼBによって分解されたSHELのSDS-PAGE解析およびザイモグラム解析によって明らかになったところによれば、SHELは、これらの酵素によって分解されるため、メタロプロテイナーゼが、トロポエラスチンを分解することは明らかである。
【0166】
トロポエラスチンが傷害滲出物に曝露されたとき、メタロプロテイナーゼがタンパク質分解活性の主な原因となると予想されている。実際、多くの実験によって傷害滲出物中にはMMP-2(ゼラチナーゼA)およびMMP-9(ゼラチナーゼB)(Tarltonら、1997)などのメタロプロテイナーゼが存在することが示されている。したがって、本発明は、本発明に係る方法、派生体およびペプチド模倣分子を使用することによって、傷害滲出物中でメタロプロテイナーゼによるトロポエラスチンの分解を改変することを想定している。
【0167】
血清による分解が、トロンビン特異的阻害剤であるヒルジンによって実質的に阻害されなかったため、トロンビンは、大部分の血清による分解の原因となるとは考えられなかったが、トロポエラスチンおよびトロンビンを用いた抑制は阻害された。カリクレイン特異的なペファブロックPKは、分解を阻害した。Romeroら(1986)は、トロポエラスチンをカリクレインとインキュベーションすると、血清とインキュベーションしたときにやや類似したプロフィールが得られることを発見した。したがって、ペファブロックPKを用いた本阻害剤実験は、カリクレインおよび/プロテアーゼとまたは関与する類似した挙動についての実験と矛盾しない。しかし、阻害剤であるペファブロックPKは、カリクレインに完全には特異的ではない。製造業者によって提供されたデータによると、血漿カリクレインについて阻害定数は0.7μmol/Lであり、カリクレインの次に阻害される可能性が最も高い酵素はトリプシンは、その阻害定数は1.3μmol/Lとなり、そプラスミンの10μmol/Lがそれに続く。したがって、ペファブロックPKは、過剰量存在すれば、これらの酵素も分解するかもしれない。しかし、完全な阻害が見られる最低濃度(50μM)が、血漿サンプル中のカリクレインを阻害するために、製造業者によって推奨された量であった。
【0168】
血清によるタンパク質分解の同定
多くの酵素が、血清によるトロポエラスチン分解の原因であると提唱されてきた。カリクレイン(Romeroら、1986)およびプラスミン(McGowanら、1996)が、タンパク質分解の原因である可能性があると提唱されてきた一方で、トロポエラスチンを組織から分離したときに見られる分解産物の原因となるのはトリプシン様プロテアーゼであると考えられていた(MechamとFoster 1977)。血清からのSHEL分解産物を目視によって、それぞれのプロテアーゼによる分解産物と比較すると、カリクレインおよびトロンビンによって産生されるペプチドとは、限られた範囲でしか類似性のないことが明らかになったが、トリプシンとプラスミンによる分解の方は、低濃度で使用したときに限り、血清によって分解されるペプチドにより類似しているように見えた。濃度を高くしたり、インキュベートする時間を長くしたりすると、血清とともに長時間インキュベートしてもパターンは大して変化しなかったのとは対照的に、SHELとSHELδ26Aを完全に分解した。
【0169】
トロンビンの量を増加させると、SHELを簡単に分解したが、血清によって産生されたペプチドでは5〜6種類の断片が見られたのとは異なり、3種類のみの主要な断片が見られた。トロンビン特異的阻害剤であるヒルジンは血清による分解を実質的には阻害しなかったという阻害剤実験から得られた観察結果と合わせると、トロンビンはSHELの血清によるタンパク質分解に関与する主要な酵素とは考えられない。このことは、トロンビンによって認識される2つの部位のうち一つは血清にも同じように認識されるが、もう一つは認識されないということを示したペプチド産物の配列決定によって証明された。これは、トロンビンの濃度が低いことによる結果であるかもしれないが、2つの部位が同程度に認識されるとは考えにくい(図7)。
【0170】
同じように、カリクレインによる分解の後に見られるSHELのプロフィールは血清によって生じるプロフィールと限られた範囲でのみ、すなわち、45kDaの断片と約20kDaの2つの断片が現れるという点で類似性が示されたにすぎない。ペプチド配列決定によって、カリクレインによって認識される2つの部位が血清によって認識されることが示された。しかし、その他の血清によって産生される断片は、そのうちのいくつかの断片は非常に低量存在したが、カリクレインによる分解の主要産物とは思えなかった(図8)。カリクレインとともに長時間(一晩)インキュベーションしても、他の断片の強度が増加することはなく、血清によって分解されてできる産物との類似性が高くなることもなかった(図示せず)が、このことは、カリクレインが、その他の血清によって産出される断片の原因である可能性は少ないことを示唆している。配列決定データ、カリクレイン特異的プロテアーゼ阻害剤、SDS-PAGEによって見える分解産物の様子はすべて、血清による分解にカリクレインが関与していることと矛盾しない。しかし、カリクレインによる分解の主要産物とは思えない、その他の血清ペプチド断片の存在は、カリクレインだけが、血清による分解で見られるパターンの原因ではないことを示唆している。
【0171】
トロンビンおよびカリクレインとは対照的に、プラスミンおよびトリプシンによる処理は、広範な分解をもたらし、長時間のインキュベーションにより、SHELを完全に分解できた。プラスミンについて見られた分解プロフィールは、68 kDaと45kDaのバンドのみが見られたという、McGowanら(1996)によって観察されたプロフィールとは全く異なっていたが、このことは、McGowanらの場合にはそれほど分解が進んでいなかったことを示唆している。これらの分解プロフィールはいずれも、トロンビンとカリクレインよりも、血清による産物の方によく似ていた。目視によって検視したところ、トリプシンとプラスミンは、血清による分解にも相互でもほぼ等しく見えたが、これは低濃度のときに限られた。
【0172】
プラスミンおよびトリプシンのペプチド配列を決定するのはやや困難であった。プラスミンによって産生されるペプチドで配列決定したものは、配列決定したペプチド断片のすべてで同じであった、78/79および81/82(K/AAKおよびK/AGA)の位置で重なり合う、少なくとも2つの配列の混合物からなることが分かった。さらにSHELのN末端の配列も存在していることも、これらのペプチドを一義的に同定することを非常に難しくした。それぞれの断片に全て同じペプチドが存在するのは、この配列が全ゲル中を他のペプチドと共に移動することから生じた各ペプチドの汚染によるアーティファクトかもしれない(J. McGovern、オーストリア国立大学、ジョンカーティン医学研究大学院、生体分子資源学部(Biomolecular Resource Facility、John Curtin School of Medical Research、Australian National University)、私信)。これは、プラスミンによる激しい分解のため、各断片について得られたペプチド量が低いことも影響していたのかもしれない。
【0173】
同様に、低量であることと、解析度が低いこととが、短い方のトリプシンペプチドの配列を得にくくした。しかし、長い方の断片については、はっきりとした配列データが得られ、それらは血清からの同一ペプチドの場合と同じように、すべてN末端配列に対応していた。これをペファブロックPKが、制御された反応液中でトリプシンを阻害することもできたとの観察所見(図示せず)と合わせてみると、ペプチド断片の外見上類似していることは、トリプシン様酵素が、血清によるタンパク質分解に関与することと矛盾はしないが、より情報として役立つ短い方の断片に関する配列データがないため、このことを明確に確認することはできない。同じように、外見上の類似は、プラスミンが関与することとも矛盾しないが、このことを配列決定によって確認することはできなかった。血清によるタンパク質分解は、プラスミンまたはトリプシン単独の場合よりもより限定的であるため、このことは血清中では、おそらくトリプシン様活性の存在がずっと少なかったり、より容易に破壊されたりすること、またはその両方を示唆している。
【0174】
HLEによる分解プロフィールも広範であるが、血清、トリプシン、およびプラスミンとは異なっていた。HLEは、セリンエラスターゼであり、主にバリン残基を切断する(Keil、1992)。もっとも長い断片を含むほとんどの断片がSHELδ26Aではより小さかったため、エラスターゼによる分解のSHELとSHELδ26Aの間での差がより顕著であった。このことは、分解がN末端側から優先的に起きており、その他の酵素や血清の場合とは同じでないと思われる。したがって、血清によるタンパク質分解へのHLE関与の可能性はない。
【0175】
ゼラチナーゼAおよびゼラチナーゼB(それぞれ、予めAPMAで処理した)によってSHELを分解したところ、優先的に切断される断片のSDS-PAGEパターンが明らかになった。これらのプロテアーゼのそれぞれに関するSDS-PAGE上でのバンド形成パターンは類似していて、ゼラチナーゼAとゼラチナーゼBが一つの部位または一致する部位で切断する可能性が高いことを示している。したがって、これらのメタロプロテイナーゼに関する配列特異性も似ていた。これらのパターンは、AMPAで処理した血清、未処理血清およびセリンプロテアーゼとは異なっていた。MMPによる分解によって、複数のバンドが出現した。インキュベーション時間を延長すると、トロポエラスチンは顕著な断片化を示した。
【0176】
まとめると、N末端の配列決定によって、血清の分解プロフィールとの比較によって分解プロフィールと、阻害剤の効果とを目視によって調査したところ、少なくとも一つの別の酵素がおそらく低量存在しているということ、および同じような切断パターンを作り出すことのできるカリクレインおよび/またはプロテアーゼが関与していることと一致している。プラスミンまたは別のトリプシン様酵素、またはそれらの酵素の組み合わせがSHELの血清による分解に関与している可能性がもっとも高い。
【0177】
プロテアーゼ感受性部位のマッピング
別の研究者によって観察された精製トロポエラスチンの分解パターンは、本発明者らのタンパク質分解実験によって作出されたペプチドのサイズとが類似している。トリプシン様プロテアーゼによりMechamとFoster (1977)によって観察されたサイズでは、トロポエラスチンの57、45、36、24.5および13〜14kDaというサイズに関連しており、血清および各セリンプロテアーゼによってSHELおよびSHELδ26Aについて作出されるペプチドの数およびサイズと非常によく類似している。このことは切断が、同一または一致した場所で起きていることを示唆している。同様のプロフィールが、ヒト線維芽細胞の培養液由来のトロポエラスチン(DavidsonとSephel、1987)で見られた。配列決定によって、515番目と516番目の残基の間にある部位が、トロンビン、カリクレインおよび血清と共通しており、またSDS-PAGEパターンからすると、おそらくプラスミンおよびトリプシンとも共通していることが確認された。配列決定したペプチドのすべてにより、多くのセリンプロテアーゼについて予想されている通り、リシンとアルギニンの後で切断が起きることが確認された(Keil、1992)。トロポエラスチンは、多数のリシンとアルギニンを含んでいるが、これら残基のほんの少数が実際に認識されて切断された。これら同一の部位が異なったセリンプロテアーゼによって認識されうるという事実は、それらの接近容易性および/または周囲のアミノ酸が原因なのかもしれない。
【0178】
カリクレインとトロンビンに関して好ましい認識部位は、隣接するアミノ酸残基によって強く影響される(Chang、1985; Keil、1992)が、先見的にヒトトロポエラスチンのどこで優先的な切断が起きるのかを予測することは、まだ可能ではないだろう。例えば、カリクレインは、かさ高い残基が前にあるアルギニン残基のところで優先的に切断する(Keil、1992)。N末端配列決定によって同定された部位は、515番目のところではLeu-Argに、564番目のところではArg-Argになっていて、いずれもこの範疇に含まれる。しかし、例えばロイシンが前にあるアルギニンは571番目にもあるが、認識されないようである。カリクレインがSHELおよびSHELδ26Aを高度に特異的かつ限定的にタンパク質を分解することから、さらなる研究のため、トロポエラスチンの単離C末端部位を作出するためにカリクレイン処理を用いることが可能になった(S. JensenおよびA.S. Weiss、未発表)。しかし同定されたトロンビン認識部位はトロンビンにとって優先的な部位に適合しない。トロンビンは、リシンよりアルギニンをはるかに優先して(Keil、1992)、P2またはP1'がグリシンであるときは、P2-Lys/Arg-P1'を、P4およびP3が疎水基で、P1'およびP2'が非酸性残基であるときはP4-P3-Pro-Arg/Lys-P1'-P2"を優先的に認識する(Chang、1985)。SHELとSHELδ26Aは、いずれもこの部位に正確に一致する部位を含んでいないが、152番目のところの部位(Lys-Pro-Lys-Ala-Pro)が、後者の認識部位P3-Pro-Lys-P1'-P2'に類似している。したがって、どの部位が認識され、切断されるかは、トロポエラスチンの二次構造に影響されよう。トリプシンはよりアルギニンを優先しつつもアルギニンとリシンのところで主に切断するが、プラスミンは、リシンを優先的に切断する(Keil、1992)。トロポエラスチンではアルギニンよりもリシンの数の方が多いので、これらのプロテアーゼは、この例で明らかなように、より広範に切断するであろうと予測できる。
【0179】
分解からの保護
実験によって、EBPは主にトロポエラスチンのVGVAPG配列に結合することによって、トロポエラスチンを分解から保護することができることが示されている(Mechamら、1989)。EBPのエラスチン結合部位を代表するペプチドS-GALが、以前から相互作用のモデルに用いられてきた(HinekとRabinovitch、1994)。S-GALおよびEBPがカリクレイン、HLE、およびプラスミンのようなプロテアーゼのN末端配列といくらかの相同性をもつことが注目されているためトロポエラスチン中の同じ配列にも結合して、プロテアーゼの競合阻害剤として作用するという提唱がなされている(HinekとRabinovitch、1994;Hinekら、1993 )。HinekとRabinovitch(1994)は、ブタすい臓エラスターゼによるエラスチン分解をS-GALが有意に阻害できることを示し、HLEやその他のセリンプロテアーゼも同様にトロポエラスチン分解を阻害されうるという推定がなされた。本研究では、S-GALを使用しても血清、トリプシン、プラスミンまたはカリクレインによるSHELまたはSHELδ26Aの有意な、または一貫したタンパク質分解阻害は示されなかった。ただし、トロンビンではやや阻害が見られた。HLEでは有意かつ再現可能な阻害が見られたが、大過剰量のS-GALを用いても分解を完全に阻害することはできなかった。使用したS-GALはHPLC精製して欠失産物をすべて取り除いたものであるから、この処理によってペプチドが損傷を受けたか、不可逆的に変性してしまった可能性もある。しかし、HPLC精製しなかったS-GALも、同様の結果を示した(図示せず)。製造業者から提供された質量分析データによれば、正しい産物が合成されていた。したがって、S-GALはSHELまたはSHELδ26Aにあまり効果的に結合しなかったか、プロテアーゼによって簡単に置換されてしまった。あるいは、プロテアーゼはトロポエラスチンの一つ以上の部位に結合しうることができるため、S-GALによる影響を受けなかったのかもしれない。
【0180】
まとめると、S-GALは、HLEおよびトロンビンによるトロポエラスチン分解の一部阻害を示したが、ブタすい臓エラスターゼを用いたHinekとRabinovitch (1994)によって観察されたような徹底した阻害は起こらなかった。その他のプロテアーゼと血清のより広範阻害は一貫して見られなかった。N末端配列決定によって、トロンビン、カリクレイン、血清、および、おそらくトリプシンとプラスミンによって共通に認識された一つの部位がSHELにおいて明らかになった。この部位およびそれに隣接するアミノ酸を合成して、このSPS-ペプチドを、SHELおよびSHELδ26Aのタンパク質分解する物に添加した。このペプチドがトロポエラスチンに結合するとは予想されず、単にプロテアーゼによって認識されることで競合物質として作用して、SHELおよびSHELδ26Aの分解を遅延させると考えられた。SPS-ペプチドが存在することによって、SHELおよびSHELδ26Aの分解から保護されたという再現性のある証拠があった。全長タンパク質の量は、SPS-ペプチドが存在するときの方が、S-GAL存在下または対照用分解におけるよりも多く、この結果はどちらのアイソフォームについても同様であった。この結果は酵素濃度が低いか、インキュベーション時間が短いときに最も顕著であり、トリプシン、プラスミン、カリクレインおよび血清でもっとも明白であった。ただし、低レベルであったがその他のプロテアーゼからの保護も見られた。このことは、プロテアーゼおよび血清のそれぞれが、このペプチドをある程度認識することができるため、これがトロポエラスチンのタンパク質分解阻害剤となる可能性があることを示している。
【0181】
SPS-ペプチドがプロテアーゼによって切断されるとの直接的な証拠はない。しかし、別のペプチド(S―GAL)が同じような量存在していても、同一の効果を発揮しなかった。したがって、SPS-ペプチドのこの効果は、おそらくペプチドが反応液中に非特異的に存在していたことによると単純にはいえないであろう。したがって、SPS-ペプチドはプロテアーゼ(またはトロポエラスチン)と直接的に相互作用して効果を発揮する可能性が高い。SPS-ペプチドは、ヒト血清などのプロテアーゼ存在下でもより長い時間トロポエラスチンの完全長を保持させることができる。
【0182】
まとめると、S-GALによるSHELおよびSHELδ26Aの分解阻害は、HLEで有意に見られただけで、それ以上の徹底的な保護は見られなかった。しかし、SPS-ペプチド存在下ではそれぞれのプロテアーゼと血清について再現性のある阻害が見られ、トリプシン、カリクレインおよび血清で最も顕著であった。このペプチドは、プロテアーゼとの相互作用を行なうもう一つの部位を提供し、全長トロポエラスチンをより長期間存続させる結果をもたらす。
【0183】
コアセルベーションされたトロポエラスチンのタンパク質分解
SHELおよびSHELδ26Aを37℃でコアセルベーションすると、カリクレインおよびトロンビンによるタンパク質分解から有意に保護され、程度は低いがHLE、トリプシンおよび血清によるタンパク質分解からも保護される。プラスミンによる攻撃からの保護は見られなかった。コアセルベーションを起こさないような条件下(16℃)で行なった同じ反応液も、NaClの有無にかかわらず同程度に分解されたため、150mM NaClが存在することが阻害の原因とは思えなかった。37℃で起きる高次構造の単純な変化がタンパク質分解に対する感受性を変化させるのかもしれないが、コアセルベーションしたSHELとコアセルベーションしていないSHELは37℃で、異なる速度で分解されたため、この可能性は考えにくい。したがって、タンパク質分解の阻害は、おそらくコアセルベート中での立体的制約が原因であろう。調べた酵素の中で、カリクレインの活性が最も有意にコアセルベーションによって阻害された。N末端側の配列決定結果から、カリクレインは主にSHEL中の2つの部位のみを認識するだけで、その部位は近接していて、SHELδ26Aには一つしか存在しないことがわかった。トロポエラスチンをコアセルベーションすると、これらの部位がカリクレインにとっては接触しにくくなると考えられる。トロンビンについてはカリクレインほど阻害が完全ではない。トロンビンもSHEL中の2つの部位を主に認識するが、これらは互いにもっと離れている。コアセルベーションの過程で、これらの部位がマスクされるのかもしれないが、どちらかの部位が少しでもタンパク質分解を受けやすくなっていれば、その部位が結果的に容易に接触を許すことになろう。他のプロテアーゼ(HLE、トリプシン、プラスミン)および血清は、SHEL中のもっと多くの部位を認識し切断するため、コアセルベーションによってすべての部位を効果的にマスクするということは考えにくく、いくつかの部位は認識とタンパク質分解を起こすために利用できる状態のままとなる。したがって、これらのプロテアーゼは、コアセルベーションによって有意には阻害されない。これらの結果は、細胞外基質においてトロポエラスチンをコアセルベーションすれば、ヒト血清によって生じるタンパク質分解などの分解からある程度の保護を提供することによって、すでに提案された役割に、もう一つの役割を追加する役に立つことを示唆している。これらの結果を生成中の弾性線維にまで広げれば、ここでは新しくコアセルベーションされたトロポエラスチンは、細胞外プロテアーゼから広範に保護され、その後架橋によってこの保護を本質的に永久的なものとすることができる。
【0184】
血清によるトロポエラスチン分解の考えられる結果
これらの結果およびその他の結果から、血清にはトロポエラスチンを分解することのできる成分が含まれていることが明らかである。本明細書において、ヒト血液中に存在する多くのセリンプロテアーゼが、特異的かつ再現性のある方法な様でトロポエラスチンを分解できることが示された。したがって、トロポエラスチンは、細胞によって細胞外基質に分泌されると、リシルオキシダーゼによって不溶化され、架橋される前に、広範な分解を受ける。このことは、正常な血液凝固過程でこれらのプロテアーゼを多数含みうる損傷血管において特に重要である。この時分泌されたトロポエラスチンは例えばEBPやコアセルベーションによって保護されていない場合、断片化される。これらの結果は、コアセルベーションが、実際にコアセルベーションされたSHELの分解阻害で見られるような、分解からの何らかの保護を提供しうることを示唆している(図13)。しかし、保護は、決して完全ではない。トロポエラスチンは、負のフィードバック自己調節を受けているかもしれず、細胞外基質に蓄積するとエラスチンmRNAの産生を阻害するかもしれないと以前から示唆されている(FosterとCurtiss、1990)。プロテアーゼで損傷した培養細胞中でトロポエラスチン産生を活性化させながら、エラスターゼなどのプロテアーゼによって産生されるエラスチンペプチドを、損傷を受けていない線維芽細胞培養液に加えると、負のフィードバック阻害を生じることが分かっている(Fosterら、1990)。セリンプロテアーゼ媒介のトロポエラスチンのタンパク質分解が、トロポエラスチン産生の重要な調節因子であるかもしれないこと、およびプラスミンがこの過程に関与しているかもしれないことが示唆されている(McGowan ら、1996)。本発明者らの結果は、提案された特異的酵素が少し異なるが、この提案と一致する。
【0185】
血清中で同定された切断のほとんどが、トロポエラスチン分子のC末端側の半分で起きること、および大きい方の断片のほとんどが、N末端由来であることを考えると興味深い(図1、表1)。したがって、血清中におけるトロポエラスチンに対するプロテアーゼの作用は、大きなN末端にセグメントを残しながら、C末端部位を分解するときに役に立つ。微小線維タンパク質との結合に関与することが分かっている、高度に保存されたC末端がないため、これら短くなった分子は、新しく合成されたり増殖している弾性線維に取り込まれることはないかもしれない(Brown-Ausburger ら、1996; 1994)。これは、エラスチン遺伝子の欠損がトロポエラスチンのC末端を失わせ、それによって重度の動脈疾患を惹起する弁下部大動脈狭窄症の場合と似ている(Ewart ら、1994)。同様に、ヒツジ胎児動脈症では、C末端を欠損しトロポエラスチンが弾性線維に取り込まれなくなる(HinekとRabinovitch、1993)。したがって、ヒトトロポエラスチンに対する血清の作用は、不溶化されず、細胞外基質の中で存続できるようなトロポエラスチン分子をもたらす。架橋した線維は、不適切に配置されると異常になり、弾性と強度を失う結果となることがある。可溶性ペプチドを保持することは、負のフィードバック阻害によって、更なるトロポエラスチンの産生を阻害するのに役立つのかもしれない(FosterとCurtiss、1990)。同時に、いくつかの研究(Bisaccia ら、1994; GrossoとScott、1993)によって示されたように、ペプチドには走化性があり、組織修復細胞を傷害部位に送り込む上で役に立ち、傷の修復を促進するのかもしれない。走化性ペプチドは、例えばSHELおよび SHELδ26Aとはその効果が異なるのかもしれない。
【0186】
結論
ヒト血清は、SHELおよび SHELδ26Aを多数の別々の断片に分解できることが示された。この活性がセリンプロテアーゼに由来することが確認され、また血清に対して感受性のある領域が、N末端の配列決定によって、正確にマッピングされた。その他多くのセリンプロテアーゼが、SHELおよび SHELδ26Aを分解できることが示された。分解パターン、選択的な阻害剤の使用およびN末端の配列決定から、血清による分解の原因となるプロテアーゼは、トリプシン様プロテアーゼと一致するが、カリクレインまたはカリクレイン様の挙動も原因因子である可能性がある。S-GALを用いると、トロンビンとHLE以外でタンパク質分解を有意または一貫して阻害することはできなかったが、SPS-ペプチドによって再現性のある阻害が提供された。しかし、コアセルベーション処理が血清などによるタンパク質分解に対するもっとも有意な保護を提供することが分かり、限られた数の部位を切断するプロテアーゼでもっとも顕著であることが示された。
【0187】
明らかに好ましい切断部位で再現性のあるパターンを生じさせる、メタロプロテイナーゼによるSHELおよび SHELδ26Aの切断が明らかになった。
【0188】
産業上の利用可能性
本発明に係る派生体および発現産物は、医療、製薬、獣医学および化粧品の分野で、組織の増量剤、および特に平滑筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞および血小板における、細胞の化学走性、増殖、および増殖阻害のための薬剤としてとりわけ有用である。
【表1】
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【参考文献】
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【図面の簡単な説明】
【図1】 血清、カリクレインおよびトロンビンについてN末端配列の決定により同定されたプロテアーゼ部位の相対位置を示す模式図を示す。
【図2a】 SHELのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図2b】 SHELのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図2c】 SHELのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図2d】 SHELのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図2e】 SHELのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図3】 SHELのアミノ酸配列と比較したSHELδ26Aのアミノ酸配列(下側の配列)を示す。
【図4a】 SHEδLmodのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図4b】 SHELδmodのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図4c】 SHELδmodのヌクレオチド配列とアミノ酸配列とを示す。
【図5】 血清とともに1、2、3または18時間インキュベートした後のSHELを10%SDS-PAGEで解析した結果を示す(レーン1から4)。
【図6】 血清によるSHEL分解に対するプロテアーゼ阻害剤の効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図7】 SHELおよびSHELδ26Aに対するトロンビンの効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図8】 SHELおよびSHELδ26Aに対するカリクレインの効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図9】 SHELおよびSHELδ26Aに対するウシトリプシンの効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図10】 SHELおよびSHELδ26Aに対するプラスミンの効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図11】 SHELおよびSHELδ26Aに対するヒト白血球エラスターゼ(HLE)の効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図12】 A:血清、1/2希釈、20分間;B:トリプシン、20分間;C:プラスミン、1.5×10-5ユニット、20分間;D:カリクレイン、15×10-4ユニット、40分間;E:トロンビン0.1ユニット、20分間;F:HLE、70分間によるSHEL分解に対するS-GALおよびSPS-ペプチドの効果を10%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図13】 プロテアーゼによるSHEL分解に対するコアセルベーションの効果をSDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図14】 GST-SHELを含む可溶性細胞溶解質のトロンビンによる切断効果を8%SDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図15】 pSHELFδ26Aを構築するための概要を示す。
【図16】 血清(レーン1)、ペファブロックSC添加の血清(レーン2)またはカリクレイン(レーン3)で分解したSHELのザイモグラム解析の結果を示す。
【図17】 Ca2+(レーン1)、Zn2+(レーン2)、Ca2+とZn2+(レーン3)、およびCa2+、Zn2+ およびEDTA(レーン4)存在下での血清によるゼラチン分解のザイモグラム解析の結果を示す。
【図18】 AMPAで活性化したゼラチナーゼA(レーン1)、非活性化ゼラチナーゼA(レーン2)、および血清(レーン3)によるゼラチン分解のザイモグラム解析の結果を示す。
【図19】 溶液中における、SHELのプロテアーゼ分解の結果を示す。
【図20】 尿素存在下または非存在下でのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)中における、SHELのヒト血清カリクレイン分解の結果を示す。
【配列表】
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Claims (12)

  1. セリンプロテアーゼによるタンパク質分解に対するトロポエラスチンの感受性を低下または消失させる方法であり、トロポエラスチンの部分配列に変異を生じさせることにより、タンパク質分解に対するトロポエラスチンの感受性を低下または消失させることを含み、ここで、部分配列が、RAAAG配列を含むアミノ酸配列を持つか、または配列番号8〜12および17〜44で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列を持つ、方法。
  2. 1つの部分配列を変異させる、請求項1に記載の方法。
  3. 部分配列中の1つのアミノ酸残基を変異させる、請求項1または2に記載の方法。
  4. 部分配列が、RAAAG配列を含むアミノ酸配列をもつ、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. セリンプロテアーゼによるタンパク質分解に対するトロポエラスチンの感受性を低下または消失させる方法であり、トロポエラスチンの部分配列に変異を生じさせることにより、タンパク質分解に対するトロポエラスチンの感受性を低下または消失させることを含み、ここで、部分配列がRAAAGであり、RAAAG配列中のアルギニンをアラニンに置換することによって部分配列に変異を生じさせる、方法。
  6. セリンプロテアーゼによるタンパク質分解に対するトロポエラスチンの感受性を低下または消失させる方法であり、トロポエラスチンの部分配列に変異を生じさせることにより、タンパク質分解に対するトロポエラスチンの感受性を低下または消失させることを含み、ここで、部分配列が配列番号17〜44で示される配列グループから選択されるアミノ酸配列を持ち、配列番号1744で示される配列グループから選択される配列中のアルギニンをアラニンに置換することによって部分配列を変異させる、方法。
  7. 部分配列がトロンビンによって分解されることができ、かつ配列番号8または9で示されるアミノ酸配列を持つ、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  8. 部分配列がプラスミンによって分解されることができ、かつ配列番号11または12で示されるアミノ酸配列を持つ、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  9. 部分配列がカリクレインによって分解されることができる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  10. 部分配列が、配列番号9で示されるアミノ酸配列を持つ、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  11. 部分配列が、配列番号10で示されるアミノ酸配列を持つ、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  12. トロポエラスチンがヒトのトロポエラスチンである、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
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