JP4341164B2 - 薬品注入率制御方法及びその装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薬品注入制御方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
我が国における一般的な浄水設備としては、凝集沈殿+砂ろ過+塩素消毒を主要なプロセスとして用いているところが多い。
【0003】
原水水質によっては河川からの導水管内に粉末活性炭処理を設置したり、異臭味物質や有機物処理を目的としてさらにオゾン+活性炭処理を付帯している所もある。また、これらの設備に合せて、主に凝集剤、塩素、アルカリ剤等を薬品として注入している。
【0004】
図6に基づいて浄水設備の問題とその対策について述べる。図6は、急速ろ過器の浄水場にオゾン・活性炭による高度浄水処理設備を付加した事例の一例である。
【0005】
浄水設備に流入する原水は、湖沼31、河川33及び原水調整池35から供給される。着水井37に導入された原水は、急速混和池39において添加された凝集剤と均一に混ざり合い、フロック形成池41においては沈降性のフロックを得るために緩やかに攪拌される。フロック形成池41において原水中の汚濁物質が凝集し形成したフロックは、沈殿池43において固液分離される。固液分離処理水は、急速ろ過池51に供給されるが、さらに異臭味物質や溶存性有機物の処理を施す場合は、高度浄水処理設備45に移送される。高度浄水処理設備45に導入された固液分離処理水中の異臭成分や溶存性有機物成分は、オゾン接触池47において、オゾン発生装置44から供給されたオゾンによって酸化処理される。オゾン処理された固液分離処理水は、活性炭吸着池49において処理された後、急速ろ過池51に供給される。ろ過処理水は、浄水池53、配水池55を介して上水として利用されて一部は放流される。
【0006】
近年の原水水質の悪化、除去対象物質の多様化に伴い、先に挙げた薬品注入プロセスも複雑化している。原水水質悪化の具体例の一つとして、湖沼31における富栄養化現象であり、これは湖沼31周辺の住宅地や耕地等から流入した生活排水や肥料由来の窒素、リン等を含んだ地下水等から起因している。そして、この湖沼31の水が河川33に流れ込んだ場合、河川汚濁の原因となっている。
【0007】
これにより、上水設備内においてはアンモニア性窒素、鉄、マンガン等の塩素要求量物質の存在、フロック形成池や沈殿池においては、前塩素処理によるトリハロメタンなどの消毒副生成物質の増加、凝集・沈殿障害等によって固液分離処理水の濁度が悪化する結果となる。また、高度浄水処理設備においてはオゾン接触池におけるオゾン副生成物質の残留や活性炭吸着池における生物漏洩、急速ろ過池においてはろ過機能低下によるクリプトスポリジウムの漏洩等の二次的障害を引き起こす結果となっている。さらに、設備の老朽化、例えば埋設配管の老朽等が、処理水質の悪化の原因となる場合もある。
【0008】
これらの問題に対して、浄水設備の原水供給源となる河川33においては、上流側と下流側の浄水設備付近に、水質監視装置32,34を設置して、常時、流入原水の水質監視を行なっている。
【0009】
そして、浄水設備においては、従来の凝集沈殿+砂ろ過+塩素処理による汚濁物質除去・殺菌のみならず、アンモニア対策として急速混和池39の手前に低濃度UV計36と三態窒素計38を設置して、常時水質を監視しながら水質の変動に併せて、塩素処理等が施されている。また、トリハロメタン生成を低減化するための中間塩素処理、さらに後処理として水道管保護のためのアルカリ処理等などが実施されている。高度浄水処理設備においては、流入側と排出側に低濃度UV計42,48を配置し、またオゾン接触池47には溶存オゾン計を設置して、設備の機能評価を行い、オゾン接触量や活性炭の洗浄や交換についての検討を行なっている。急速ろ過池51においては、近年になって問題になっているクリプトスポリジウム対策として砂ろ過プロセス流出水の濁度監視が重要となり、凝集剤注入の調整も再び脚光を浴びている。そこで、濁色度計40や高感度濁度計50,52を設置して、ろ過池の性能判断やろ材交換、さらには着水井37や急速混和池39における凝集剤注入の調整の検討などを行なっている。
【0010】
埋設管老朽問題については、設備内の配水管網57の適所に配水水質モニタ54を配置して、配水の水質を監視しながら設備内の汚染源や老朽手段分の探索を行なって、必要とあらば修繕を施している。
【0011】
以上述べたように、良好な水質が得られている浄水設備においては、熟練した操作員の豊富な経験を頼りに薬品注入による水質制御などの運転管理が実施されているのが現状である。また、各地で水質が違うので、各々の浄水場で水質制御方法が構築されているのが現状である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
今日の浄水設備における運転調整、例えば薬品注入率の調整は、手動操作で行なわれているのがほとんどである。薬品注入率の調整は、設計計算から算出された基本注入率に基づいて、操作員が現場においてジャーテストによる凝集剤やアルカリ剤等の薬品注入率の決定を行うのが一般的な手段である。
【0013】
しかし、ジャーテストによる薬品注入率の最終的な判断基準は、操作員の豊富な実務経験とそれに培われた勘によるものがほとんどである。このように薬品注入率の決定判断は主観的な傾向があるので、判断ミスも少なくはなく、被処理水の特性に対する最適な薬品注入率は決定するのが難しいのが現状である。
【0014】
また、被処理水質の変動、季節の変化に伴い、同じ水質でも薬品注入率が異なる状況が多々ある。そのため、状況分析能力と適確な対応能力を備えた熟練操作員なしには薬品注入率の決定や設備の性能維持を図ることは困難となり、常に操作員を常駐させておく状況となっている。そして、改造などで設備の動特性が変化した場合には、前記と同様に、薬品注入率が変化してしまうことがある。
【0015】
さらに、近年、水質に対する要求が多くなっており、濁度除去だけでなく発ガン性物質の生成量低減も求められている。しかしながら、これらの項目を同時に安定化させることは非常に難しい。また、薬品を多量に使用してしまうことも懸念される。
【0016】
本発明は、上記の事情に鑑み創作されたもので、変動しやすい原水の特性に対して優れた学習能力と自己性能診断能力とを備えた水質制御方法を新たに提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための、請求項1記載の本発明に係る薬品注入率制御方法は、原水の水質と複数種類の薬品の薬品注入率とをニューラルネットワークに供給して、処理水の水質を予測した後、この予測値を目標値と比較し、この比較結果に基づき、該複数種類の薬品の薬品注入率を調整する薬品注入率制御方法であって、
前記複数種類の薬品のうち1の薬品の薬品注入率を予め決められた量増加させる毎に、前記複数種類の薬品の注入率を、前記ニューラルネットワークに供給することで、前記複数種類の薬品のうち前記1つの薬品を除いた他の薬品の薬品注入率を固定した条件で、前記予測値が前記目標値以下となる前記1つの薬品の最小の薬品注入率を算出し、前記他の薬品の注入率を変化させる毎に、前記最小の薬品注入率を算出し、該算出された最小の薬品注入率の比較に基づき、前記複数種類の薬品の薬品注入率を決定すること、を特徴としている。
【0018】
また、請求項2記載の本発明に係る薬品注入率制御方法は、請求項1に記載の薬品注入率制御方法において、前記複数種類の薬品が凝集剤とアルカリ剤である場合、該アルカリ剤を予め定められた量ずつ増加させる毎に、前記予測値が前記目標値以下となる該凝集剤の最小の薬品注入率を算出し、該算出された最小の薬品注入率の比較に基づき、前記アルカリ剤と前記凝集剤の薬品注入率を決定すること、を特徴としている。
【0019】
さらに、請求項3記載の本発明に係る薬品注入率制御方法は、請求項1に記載の薬品注入率制御方法において、前記複数種類の薬品が凝集剤と塩素剤である場合、該塩素剤を予め定められた量ずつ増加させる毎に、前記予測値が前記目標値以下となる該凝集剤の最小の薬品注入率を算出し、該算出された最小の薬品注入率の比較に基づき、前記塩素剤と前記凝集剤の薬品注入率を決定すること、を特徴としている。
【0020】
また、請求項4に記載されたように、前記処理水の水質指標が、濁度であって、この予測値と実績値との偏差が、一定時間、一定値範囲以外である場合、前記ニューラルネットワークに再学習させるとよい。
【0021】
さらに、請求項5に記載されたように、前記処理水の水質指標が、濁度及びUV-VISであって、これらの予測値と実績値との偏差が一定値範囲以外である場合、前記ニューラルネットワークに再学習させてもよい。そして、請求項6に記載されたように、前記複数種類の薬品の薬品注入率の少なくとも1つの薬品注入率が、予め決められた値より大きい場合、前記処理水の水質指標を濁度とし、再度、前記ニューラルネットワークに再学習させてもよい。
また、請求項7に記載の本発明に係る薬品注入率制御方法は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の薬品注入率制御方法において、前記最小の薬品注入率を算出した場合、前記複数の薬品の薬品注入率の総量の比較に基づいて、前記複数の薬品注入率を決定する、ことを特徴としている。
【0022】
以上の解決手段において、原水の水質指標としては、水温、pH、濁度、アルカリ度、導電率、導電率偏差(現在値−6時間前)、凝集剤(例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC))注入率、前アルカリ注入率、前塩素注入率及びUV-VISの10項目が、また処理水の水質指標としては、濁度及びUV-VISの2項目が採用されている。
【0023】
ここで、前アルカリとは、凝集沈殿処理工程の前工程において、原水のアルカリ度及びpHを調整するために添加されるアルカリ剤のことをいい、例えば苛性ソーダがある。また、前塩素とは、原水に藻類が混入している時に、凝集沈殿処理工程の前工程において、凝集性改善の目的で添加される塩素剤のことをいう。さらに、処理水は凝集沈殿処理工程で固液分離された上澄水のことをいう。
【0024】
ニューラルネットワークの構成は、例えば、入力層と、中間層と、出力層とから成り、各層のニューロン数としては、入力層においては10、中間層においては10または15、出力層においては2とし、各ニューロンの伝達関数にシグモイド関数を採用している。また、学習手段としては、バックプロパゲーション法またはこの変法が用いられる。
【0025】
尚、薬品注入率の補正は、加算法を用いている。
【0026】
薬品注入率の調整は、薬品注入率の初期値を過去のデータに基づき、低めに設定し、この設定値に一定値ずつ加算していき、加算毎に予測した処理水質を目標水質と比較することで、最小の薬品注入率を決定する。ここで、複数種類の薬品が注入される場合、総薬品注入率も考慮される。尚、加算される値は、任意に設定できる。
【0027】
そして、前述の解決手段を実施するための、請求項8記載の本発明に係る薬品注入率制御装置は、複数種類の薬品のうち1つの薬品の薬品注入率を予め決められた量増加させる薬品注入率補正手段と、原水の水質と前記複数種類の薬品の薬品注入率をニューラルネットワークに供給して処理水の水質を予測する水質予測手段と、前記複数の薬品のうち1つの薬品の薬品注入率を予め決められた量増加させる毎に、前記水質の予測値と目標値とを比較し、該予測値が目標値以下である場合の前記1つの薬品の薬品注入率を、前記複数種類の薬品のうち1つの薬品を除いた他の薬品の薬品注入率を固定した条件での該原水に対し最小の薬品注入率として採用し、前記他の薬品の薬品注入率を増加させる毎に、前記最小の薬品注入率を採用し、前記最小の薬品注入率を比較することにより、前記複数種類の薬品の薬品注入率を決定する比較手段と、を備えたことを特徴としている。
【0028】
すなわち、前記比較手段は、該予測値が目標値以下である場合、該薬品注入率を、該原水に対し適正な薬品注入率として判断し、予測値が目標値以上である場合、該薬品注入率を適正でないと判断する。そして、前記薬品注入率補正手段は、前記比較手段において該予測値が目標値以上であると判断された場合、該薬品注入率の補正を実行する。尚、補正された薬品注入率は、再度、前記水質予測手段のニューラルネットワークによる演算に供される。
【0031】
また、請求項9記載の本発明に係る薬品注入率制御装置は、請求項8記載の薬品注入率制御装置において、水質予測手段は、
前記比較手段が、前記処理水の水質指標が濁度及びUV-VISであって、これらの予測値と実績値との偏差が一定値範囲以外である、と判断した場合、ニューラルネットワークの再学習を実行すること、を特徴としている。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
発明者らは、凝集剤等の薬品を用いた水質制御システムにおいて、ニューラルネットによる水質予測を利用した新たな薬品注入制御システムを創出した。
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る薬品注入制御システムの構成図である。
【0034】
当該制御システムは、水質予測手段11と、比較手段12と、薬品注入率補正手段13と、ベータベース14とから構成され、これらは図示省略された制御手段によって実行制御される。
【0035】
水質予測手段11は、供給されたデータからニューラルネットワークによって一定時間後の処理水の水質を予測する機能を有している。ニューラルネットワークは、脳の情報処理方式を工学的に模擬しようとするものであり、これまでの信号処理方式とは原理的に異なり、一般的に入出力関係が非線形性であっても表現が可能であり、さらに学習による適応性を備えた特徴を持っている。したがって、ニューラルネットワークを、浄水プラントの運転制御に対し、優れた学習性と自己性能診断能力を備えた熟練操作員に模して、適応させることができる。ここでは、水質データと、薬品注入率が、当該ネットワークの入力因子として供給される。水質予測手段11については、後に詳細に説明する。
【0036】
比較手段12は、図示省略された入力手段あるいはデータベース14から供給された目標値(目標水質)と、水質予測手段11から供給された予測値(予測水質)との、比較を行う。そして、予測値が目標値以下である場合、前記の水質予測手段11に供給された薬品注入率は適性であると判断する。一方、目標値と予測値との比較により、予測値が目標値以上である場合、該薬品注入率は適正でないと判断する。
【0037】
薬品注入率補正手段13は、比較手段12において現行の薬品注入率(例えば薬品注入率の初期値)が適性でないと判断されると、該薬品注入率を演算によって補正する。具体的には、加算法によって薬品注入率初期値を補正する。補正された薬品注入率は、再度、水質予測手段11における水質予測に供される。
【0038】
データベース14は、外手段から供給された水質データや薬品注入率、また比較手段12から供給された薬品注入率を、引き出し可能に保存し、メモリ等の記憶手段に格納されている。
【0039】
次に、水質予測手段11について説明する。
【0040】
水質予測手段11は、本実施形態において、ニューラルネットワークへの入出力因子の一例として、入力因子に原水の水質と薬品注入率を、出力因子に処理水の濁度とUV-VISを選択している。ネットワークの学習アルゴリズムとしては、バックプロパゲーション法を採用している。尚、バックプロパゲーション法は演算時間を多く必要とするので、当該学習手段にモーメンタム法若しくはLevenberg-Marquardt最適化手法を備えることにより、学習の高速化を図っている。
【0041】
当該ネットワークの主な学習条件を以下に示す。
1)入力データ、教師データ(出力)
入力:原水水温、原水pH、原水濁度、原水アルカリ度、原水導電率、原水導電率偏差(現在値−6時間前)、PAC注入率、前苛性注入率、前塩素注入率及び原水UV-VIS(合計10項目)
出力:2時間後の処理水濁度、2時間後の処理水UV-VIS(合計2項目)
ここで、UV-VIS値はE254(波長254nmでの吸光度、以下UVと記す)からE546(波長546nmでの吸光度、以下VISと記す)を差し引いたものであり、トリハロメタン生成能と相関がある。また、処理水は、浄水プラントの凝集沈澱池で固液分離された上澄水を意味する。さらに、前苛性は、前述のように、アルカリ度不足やpHが低い水源に対し使用する薬品で、苛性ソーダのことをいう。尚、ネットワークのニューロンの出力は0〜1の範囲であるので、出力データをこの範囲で規格化した。
2)ネットワークアーキテクチャー
階層:入力層(10)、中間層(10)、出力層(2)
ここで、カッコ内の数字はニューロン数を示す。ニューロンの伝達関数としては、全て下記のシグモイド関数logsigを採用した。logsigの特性を図2に示す。
【0042】
logsig(X)=1/(1+exp(−X))
図3は、6日間(1998年10月18から同年10月24日)に渡る処理水の水質予測結果を示したもので、(a)は処理水濁度の実測値と予測値の経時的変化を、(b)は処理水UV-VISの実績値と予測値の経時的変化を示している。
【0043】
結果のごとく、処理水の濁度及びUV-VISの予測値は、実績値とほぼ一致した経時的変化を辿っている。また、当該ニューラルネットワークの中間層におけるニューロン数を15としても、図3とほぼ同様な結果が得られた。
【0044】
このように、現在値の水質データや薬品注入率の値を水質予測手段11のニューラルネットワークに供給することで、ほぼ正確に2時間後の処理水濁度を予測することができる。
【0045】
従来の浄水プラントの維持管理においては、凝集剤注入率を手動により設定を変えた後に、濁度観察などよりその除去特性判断を行なって設定の検討を行なっている。そのため、設定を誤ると良好な水質を得るのに、多くの時間が費やされる。
【0046】
そこで、本実施形態に係るニューラルネットワークの導入によって、過去及び現在のデータから迅速かつ正確に一定時間後の処理水濁度を予測することが可能となり、過誤の運転管理による水質悪化を事前に回避させることができる。
【0047】
特に、ニューラルネットワークを用いて処理水の濁度及びUV-VISを同時に正確予測することができ、これを浄水場水質制御システムに組み込むことで最適な薬品注入率の決定に役立つ。また、ニューラルネットワークは自己学習可能であるので、これを自動運転制御システム内に導入することが可能となる。
(第2実施形態)薬品注入率の変更方法(その1)
さらに、薬品注入率補正手段13は、処理水の水質の予測値が目標値以下となる薬品注入率が最小となるように、該薬品注入率を演算によって補正することも可能である。
【0048】
ここでの薬品注入率の調整は、薬品注入率の初期値を過去のデータに基づき、低めに設定し、この設定値に一定値ずつ加算していき、加算毎に水質予測手段11で予測した処理水質を目標水質と比較することで、最小の薬品注入率を決定する。加算される値は、任意に設定できる。尚、複数種類の薬品が注入される場合、総薬品注入率も考慮される。本実施形態においては、凝集剤としてPACが、前アルカリ剤としては苛性ソーダ(以下、前苛性)が採用され、メインとなる薬品を凝集剤としている。
【0049】
図4に、本発明による凝集剤と前苛性の注入率の同時決定方法を示す。
【0050】
薬品注入率の初期値は、過去のデータに基づき設定され、例えば、凝集剤注入率は10mg/l程度と、前苛性注入率は0mg/lなどと設定される。先ず、これら薬品注入率の初期値に対し凝集剤注入率が例えば1mg/lずつ加算され、加算毎に水質予測手段11で処理水の水質が予測される。このとき、処理水の濁度とUV-VISの予測値が目標値以下になった場合の凝集剤注入率と前苛性注入率が、暫定的な、凝集剤注入率PAC-SV0と、前苛性注入率OH-SV0が定められる。
【0051】
次に、前苛性注入率の初期値に例えば1mg/lが加算された後、先の要領で凝集剤注入率を得て、このときの凝集剤注入率と前苛性注入率である、PAC-SV1とOH-SV1が定められる。以下、同様の演算を実行し、PAC-SVnとPAC-SVn+1が同じ値になれば、PAC-SVnとOH-SVnを最終的な薬品注入率として採用する。
【0052】
このように、本実施形態においては、処理水の水質予測に基づいた、最適な、凝集剤と前苛性の注入率の決定が可能となる。これにより、当該薬品の過剰注入が回避される。
(第3実施形態)薬品注入率の変更方法(その2)
また、図5は、本発明による凝集剤と前塩素の注入率の同時決定方法を説明している。ここでは、メインとなる薬品を凝集剤(ここでは、PAC)としている。尚、前塩素とは、原水に藻類が混入している時に、凝集沈殿処理工程の前工程において、凝集性改善の目的で添加される塩素剤のことをいう。
【0053】
薬品注入率の初期値は、第2実施形態と同様に、過去のデータに基づき設定され、例えば、凝集剤注入率は10mg/l程度と、前塩素注入率は0mg/lなどと設定される。先ず、これら薬品注入率の初期値に対し凝集剤注入率が例えば1mg/lずつ加算され、加算毎に水質予測手段11で処理水の水質が予測される。このとき、処理水の濁度とUV-VISの予測値が目標値以下になった場合の凝集剤注入率と前塩素注入率が、暫定的な、凝集剤注入率PAC-SV0と、前塩素注入率Cl-SV0が定められる。
【0054】
次に、前塩素注入率の初期値に例えば1mg/lが加算された後、先の要領で凝集剤注入率を得て、このときの凝集剤注入率と前塩素注入率である、PAC-SV1とCl-SV1が定められる。以下、同様の演算を実行し、PAC-SVnとPAC-SVn+1が同じ値になれば、PAC-SVnとCl-SVnを最終的な薬品注入率として採用する。
【0055】
このように、本実施形態においても、処理水の水質予測に基づいた、最適な凝集剤と前塩素の注入率の決定が可能となる。これにより、当該薬品の過剰注入が回避される。
(第4実施形態)凝集剤注入率が大きすぎるときの対応
第2、3実施形態においては、処理水の濁度とUV-VISとが共に目標値に達するように薬品注入率が決定される。濁度は必ず安定した除去が求められるが、UV-VISは必ずしも除去する必要がない場合がある。このような場合、薬品注入率のうち、特に凝集剤注入率が大きくなりすぎることが懸念される。
【0056】
そこで、凝集剤注入率が大きすぎると判断された場合、目標値を処理水濁度のみとし、第2,3実施形態と同様の演算を行う。このようにして、過剰な凝集剤の注入が回避される。
(第5実施形態)予測値と実績値が合わないときの対応(その1)
また、第1実施形態に係るシステムで予測した処理水の濁度やUV-VISが実運転時の値とずれることが予想される。そこで、本発明に係る薬注制御システムは、予測と実績が合わないときの対処機能をも備えている。
【0057】
実負荷運転では、濁度除去が優先されることから、当該制御システムは、濁度が正確に予測されているか否かを優先的に判断する。具体的には、図1において、比較手段12は、データベース14に蓄えられた沈殿水濁度の実績値と予測値とを比較する。そして、一定期間、この両者の偏差が一定値以内、例えば0.2度以内、であれば、現行のニューラルネットワークは適正と判断され、水質予測手段11において、このネットワークモデルが継続して使用される。逆に、一定期間、前記偏差が0.2度以上であれば、現行のニューラルネットワークは適正でないと判断する。このとき、水質予測手段11は、データベース14内の水質や薬品注入率データに基づき、現行のネットワークに再学習を実行させて、該ネットワークを更新する。
【0058】
このように、当該制御システムによれば、処理水濁度の実績値と予測値の偏差が許容範囲内にあるニューラルネットワークを維持させているので、常に正確な処理水の濁度の予測が可能となる。
(第6実施形態)予測値と実績値が合わないときの対応(その2)
また、先の実施形態においては、濁質除去が優先されるが、原水のUV成分が高いところでは、濁度だけでなくUV成分も安定した除去が求められる場合もある。そこで、本発明に係る薬注制御システムは、処理水の濁度とUV-VISの両者をネットワーク更新の判断指標とすることもできる。
【0059】
当該制御システムは、処理水の濁度とUV-VISの、実績値と予測値との偏差が許容範囲内のときのみのニューラルネットワークモデルを採用している。具体的には、比較手段12は、データベース14に蓄えられた処理水濁度の実績値と予測値を比較する。このとき、濁度の偏差が一定値以内、例えば0.2度以内、であっても、UV-VISの偏差が一定値、例えば0.05abs(50mmセル換算)、であれば、現行のニューラルネットワークは適正でないと判断する。ここで、水質予測手段11は、データベース14内の水質や薬品注入率データに基づき、現行のネットワークに再学習を実行させて、該ネットワークを更新する。
【0060】
このように、当該制御システムによれば、処理水の濁度とUV-VISの、実績値と予測値の偏差が許容範囲内にあるニューラルネットワークを維持させているので、常に正確な処理水の濁度とUV-VISの予測が可能となる。
【0061】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明は、以下の効果を奏する。
【0062】
本発明によれば、過去のデータに基づきシミュレーションでプラントモデルの構築が可能となり、水質予測、特に処理水の濁度やUV-VIS、が正確に予測するできるので、薬品注入率の決定に使用できる。また、水質や予測結果を蓄積することで、ニューラルネットワークの再学習が可能となる。さらに、ニューラルネットワークは自己学習可能であるので、常に最適な処理水の水質、特に濁度やUV-VISの予測が可能となるばかりでなく、変動しやすい原水の特性に対応した、自動運転制御システムの構築が可能となる。そして、この最適な処理水の水質予測に基づき、最適な薬品注入率の決定、特に、凝集剤注入率、前苛性注入率及び前塩素注入率の決定が可能となり、薬品の消費量を最小限に抑えることができる。特に、濁度やUVを指標とすることで、過剰な薬品の注入を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る薬品注入制御システムの構成図。
【図2】logsig(シグモイド関数)の特性図。
【図3】処理水の水質予測結果を示したもので、(a)は処理水濁度の実測値と予測値の経時的変化を、(b)は処理水UV-VISの実測値と予測値の経時的変化を示した特性図。
【図4】本発明による凝集剤注入率と前苛性注入率の同時決定の説明図。
【図5】本発明による凝集剤注入率と前塩素注入率の同時決定の説明図。
【図6】浄水設備の現状課題とその対策。
【符号の説明】
11…水質予測手段
12…比較手段
13…薬品注入率補正手段
14…データベース

Claims (9)

  1. 原水の水質と複数種類の薬品の薬品注入率とをニューラルネットワークに供給して、処理水の水質を予測した後、この予測値を目標値と比較し、この比較結果に基づき、該複数種類の薬品の薬品注入率を調整する薬品注入率制御方法であって、
    前記複数種類の薬品のうち1の薬品の薬品注入率を予め決められた量増加させる毎に、前記複数種類の薬品の注入率を、前記ニューラルネットワークに供給することで、前記複数種類の薬品のうち前記1つの薬品を除いた他の薬品の薬品注入率を固定した条件で、前記予測値が前記目標値以下となる前記1つの薬品の最小の薬品注入率を算出し、
    前記他の薬品の注入率を変化させる毎に、前記最小の薬品注入率を算出し、
    該算出された最小の薬品注入率の比較に基づき、前記複数種類の薬品の薬品注入率を決定すること、
    を特徴とする薬品注入率制御方法。
  2. 前記複数種類の薬品が凝集剤とアルカリ剤である場合、
    該アルカリ剤を予め定められた量ずつ増加させる毎に、前記予測値が前記目標値以下となる該凝集剤の最小の薬品注入率を算出し、
    該算出された最小の薬品注入率の比較に基づき、前記アルカリ剤と前記凝集剤の薬品注入率を決定すること
    を特徴とする請求項1に記載の薬品注入率制御方法。
  3. 前記複数種類の薬品が凝集剤と塩素剤である場合、
    該塩素剤を予め定められた量ずつ増加させる毎に、前記予測値が前記目標値以下となる該凝集剤の最小の薬品注入率を算出し、
    該算出された最小の薬品注入率の比較に基づき、前記塩素剤と前記凝集剤の薬品注入率を決定すること
    を特徴とする請求項1に記載の薬品注入率制御方法。
  4. 前記処理水の水質指標が、濁度であって、この予測値と実績値との偏差が、一定時間、一定値範囲以外である場合、前記ニューラルネットワークに再学習させること
    を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の薬品注入率制御方法。
  5. 前記処理水の水質指標が、濁度及びUV-VISであって、これらの予測値と実績値との偏差が一定値範囲以外である場合、前記ニューラルネットワークに再学習させること
    を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の薬品注入率制御方法。
  6. 前記複数種類の薬品の薬品注入率の少なくとも1つの薬品注入率が、予め決められた値より大きい場合、前記処理水の水質指標を濁度とし、再度、前記ニューラルネットワークに再学習させること
    を特徴とする請求項5に記載の薬品注入率制御方法。
  7. 前記最小の薬品注入率を算出した場合、前記複数の薬品の薬品注入率の総量の比較に基づいて、前記複数の薬品注入率を決定する
    ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の薬品注入率制御方法。
  8. 複数種類の薬品のうち1つの薬品の薬品注入率を予め決められた量増加させる薬品注入率補正手段と、
    原水の水質と前記複数種類の薬品の薬品注入率をニューラルネットワークに供給して処理水の水質を予測する水質予測手段と、
    前記複数の薬品のうち1つの薬品の薬品注入率を予め決められた量増加させる毎に、前記水質の予測値と目標値とを比較し、該予測値が目標値以下である場合の前記1つの薬品の薬品注入率を、前記複数種類の薬品のうち1つの薬品を除いた他の薬品の薬品注入率を固定した条件での該原水に対し最小の薬品注入率として採用し、前記他の薬品の薬品注入率を増加させる毎に、前記最小の薬品注入率を採用し、前記最小の薬品注入率を比較することにより、前記複数種類の薬品の薬品注入率を決定する比較手段と、
    を備えた
    ことを特徴とする薬品注入率制御装置。
  9. 水質予測手段は
    前記比較手段が、前記処理水の水質指標が濁度及びUV-VISであって、これらの予測値と実績値との偏差が一定値範囲以外である、と判断した場合、
    ニューラルネットワークの再学習を実行すること
    を特徴とする請求項8記載の薬品注入率制御装置。
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