以下、図面を参照して、本発明に係る誘導型変位検出装置(以下、「誘導型変位検出装置」を「エンコーダ」と記載する場合もある。)について説明する。なお、図において、既に説明した図中の符号で示すものと同一のものについては、同一符号を付すことにより説明を省略する。
[第1実施形態]
第1実施形態に係る誘導型変位検出装置は、ロータリ型エンコーダである。このエンコーダの受信巻線を円弧状にすることにより、送信巻線の送信折返し部から受信巻線を離している。これにより、送信折返し部と受信巻線とのクロストークを防止している。
図1は、第1実施形態に係るエンコーダの構成要素であるステータ1の平面図であり、図2はロータ3の平面図である。ステータ(一方の巻線保持部材の一例)1とロータ(他方の巻線保持部材の一例)3とが互いに対向するように配置されている。ロータ3は円周方向Aに回転自在に支持されている。ステータ1やロータ3はプリント回路基板等により構成される。
まず、図1のステータ1から説明する。ステータ1は、中央に貫通穴5が形成された樹脂等からなる絶縁基板7を備える。絶縁基板7の上に、円弧状の三つの受信巻線9,11,13が貫通穴5を囲むように配置されている。これらの巻線は同じ構造を有しており、巻線9を例として受信巻線の構造を説明する。
図3は受信巻線9の平面図である。受信巻線9は、上層導体15と、これに立体交差する下層導体17とのセットUが複数あり、これらのセットUが円弧状に配置されている。上層導体15と下層導体17との間に図示しない絶縁層が配置されている。この絶縁層に設けられたスルーホール又はビアホールに埋め込まれた埋込導体19を介して、上層導体15の端部と下層導体17の端部とが接続されている。したがって、受信巻線9は、略ひし形の複数の受信ループ21を貫通穴5(図1)に沿って配置した構成を有する。言い換えれば、受信巻線9は、波状(この例ではジグザグ状であるが、sin状でもよい)に延びて受信折返し部22で折り返し再び波状に延びることにより構成される複数の受信ループ21を含む。図4は一つの受信ループ21の平面図である。
なお、上層導体15と下層導体17が絶縁基板7(図1)の一方の面に形成されている場合で説明している。しかしながら、絶縁基板7の一方の面に上層導体15を配置し、他方の面に下層導体17を配置し、絶縁基板7に設けられたスルーホールに埋め込まれた埋込導体19により、上層導体15の端部と下層導体17の端部を接続した構成でもよい。
図1の説明に戻る。受信巻線9、11、13は、λ/6だけ位相をずらして配置されている。λとは、図3に示すように、二つ分の受信ループ21の円周方向A(図2)に沿う寸法のことである。
絶縁基板7の上に、送信巻線23が受信巻線9,11,13を囲むように配置されている。詳しくは、送信巻線23は、端子T1となる一端から受信巻線9,11,13に追着き追越すようにリング状(円状)延びて送信折返し部25に至るリング部27(第1のリング部の一例)と、送信折返し部25と、送信折返し部25から受信巻線9,11,13に追着き追越すようにリング部27と異なる半径でリング状(円状)延びたリング部29(第2のリング部の一例)と、リング部29から端子T2となる他端に至る引出部31と、で構成される。
リング部27の内側にリング部29が位置しており、リング部27とリング部29との間に受信巻線9,11,13が位置する。引出部31は、リング部27、リング部29及び送信折返し部25と異なる層に位置している。これを図5で説明する。図5は、送信巻線23の平面図である。リング部27、リング部29及び送信折返し部25は、上層導体15(図3)と同じ層に位置し、引出部31は下層導体17(図3)と同じ層に位置する。
次に、図2でロータ3の構成を説明する。ロータ3は中央に貫通穴33が形成されている樹脂等からなる円盤状の絶縁基板35を有する。絶縁基板35の上に貫通穴33を囲むように複数の磁束結合巻線37が配置されている。図示しない回転軸が図1のステータ1の貫通穴5に通されており、この回転軸がロータ3の貫通穴33の箇所に固定されている。これにより、ロータ3が円周方向Aに回転自在に支持される。この状態において、磁束結合巻線37は、図1の送信巻線23及び受信巻線9,11,13と対向している。図6は磁束結合巻線37の平面図である。磁束結合巻線37は、受信巻線(受信ループ21)及び送信巻線23に磁束結合可能にロータ3(図2)に配置されている。したがって、磁束結合巻線37は、送信巻線23及び受信巻線9,11,13に磁束結合可能に配置されると共に送信巻線23及び受信巻線9,11,13に対して相対移動可能ということができる。
図2に示すように、磁束結合巻線37どうしの間には磁束結合巻線37一個分のスペースが設けられる(受信ループ21一個分のスペースと言うこともできる)。このスペースを設けた理由について図7を用いて説明する。図7は、上記スペースが設けられていない場合における隣り合う磁束結合巻線37と受信ループ21の平面図である。
ある時刻における磁束結合巻線37に流れる電流の向きを矢印i1で示している。この時、磁束結合巻線37−1と磁束結合する受信ループ21−1、磁束結合巻線37−2と磁束結合する受信ループ21−2に流れる電流の向きは、矢印i2のようになる。したがって、受信ループ21−1を流れる電流と受信ループ21−2を流れる電流とは打ち消しあうので、受信巻線に受信信号を流すことができない。
そこで、第1実施形態では、隣り合う磁束結合巻線37の間に上記スペースを設けている。つまり、図7の隣り合う磁束結合巻線37のうち一方しか設けていない。これにより、隣り合う受信ループ21のうち片方しか磁束結合巻線37と磁束結合できないようにして、電流の打ち消しあいを防止している。しかし、図2に示すように絶縁基板35に配置できる磁束結合巻線37の数が少なくなるので、受信巻線で受信する信号の強度を大きくできない。なお、磁束結合巻線37、送信巻線23及び受信巻線9,11,13は、アルミニウム、銅、金などの電気抵抗が低い材料で構成される。
受信巻線9の端子T3,T4、受信巻線11の端子T5,T6、受信巻線13の端子T7,T8及び送信巻線23の端子T1,T2は、図示しない配線を介して、変位を測定するための演算や制御などをするIC回路39と接続されている。IC回路39はステータ1に配置されていてもよいし、これとは別の部品に取り付けられていてもよい。
なお、第1実施形態は、互いに位相をずらして配置された三つの受信巻線9,11,13、すなわち3相の受信巻線の場合である。しかしながら、本発明は、受信巻線が一つの場合(1相の受信巻線)、互いに位相をずらして配置された二つの受信巻線の場合(2相の受信巻線)、互いに位相をずらして配置された四つ以上の受信巻線の場合(4相以上の受信巻線)でもよい。
次に、第1実施形態に係るエンコーダの動作について、マイクロメータを例にして図1、図2及び図8を参照して簡単に説明する。図8は、上記変位検出装置を搭載したマイクロメータ51の正面図である。フレーム53にステータ1が固定され、シンブル55にロータ3が固定されている。
例えば、製造現場で使用中に工作機械のクーラントやオイルがスピンドル65周辺から内部に侵入した場合、従来の静電容量式ロータリエンコーダを使用したデジタル式のマイクロメータでは誤動作を起していたが、本発明による誘導型変位検出装置を使用したデジタル式のマイクロメータであれば検出原理が電磁誘導であるため、誤動作することなく変位を検出することができる。従って、従来よりも耐環境性に優れたデジタル式のマイクロメータを提供することが可能である。
第1実施形態の主な効果として次の二つがある。まず、一つ目の効果を説明する。図1に示すように、送信巻線23のうち、リング部27及びリング部29の形状はリング状であり、送信折返し部25及び引出部31の形状はリングの半径方向に延びた直線状である。このように、送信巻線23は送信折返し部25や引出部31の箇所で延びる方向が急激に変化し、不規則な形状となっている。このため、送信巻線23により形成される磁場は、送信折返し部25や引出部31付近で分布や強度が変化し、歪みが生じる。したがって、受信巻線9,11,13が送信折返し部25や引出部31と磁束結合(つまりクロストーク)すると、受信巻線9,11,13が上記歪んだ磁場の影響を受けるため、変位検出の精度が低下する。
第1実施形態によれば、受信巻線9,11,13を円弧状にすると共にこれらの巻線を追越した箇所に送信折返し部25や引出部31が位置するようにしているので、これらの巻線を送信折返し部25や引出部31から所定距離(例えば受信ループ21の略1.5個分)だけ離すことができる。したがって、受信巻線9,11,13が送信折返し部25や引出部31と磁束結合するのを防止、又は磁束結合したとしても弱くできる。よって、第1実施形態によれば、高精度な誘導型変位検出装置を実現することができる。
第1実施形態の二つ目の効果を、この実施形態の変形例と比較して説明する。図9は、この変形例に係るステータ71の平面図である。図1のステータ1と相違するのは、送信巻線23のリング部27及びリング部29の内側に受信巻線9,11,13が配置されている点である。この変形例も本発明の一つの実施形態である。
図1や図9の受信巻線9,11,13の形状は円弧状なので、リング状の受信巻線と比べて受信巻線の面積が小さくなる。これは受信信号の強度が落ちることを意味する。図1に示す第1実施形態では、リング部27(第1のリング部の一例)とリング部29(第2のリング部の一例)との間に受信巻線9,11,13が位置している。このため、図9に示す変形例よりも、受信巻線9,11,13が配置される領域の半径が大きくなる。したがって、第1実施形態によれば変形例よりも受信巻線9,11,13の面積を大きくできるため、受信信号の強度を大きくすることができる。この結果、S/N比が向上し、誘導型変位検出装置の高精度化を図ることができる。
本発明者の実験によれば、図1に示す第1実施形態のステータ1は図9のステータ71に比べて、受信信号の強度が5〜8倍程度増加することが分かった。これから以下のことが言える。(1)ステータ1とロータ3のギャップを変形例よりも数倍(例えば500〜600μm)広くできるため、その分だけギャップ変動に対して強くなり、変位検出の精度が向上する。(2)受信巻線9,11,13の形状の設計の自由度が高くなるため、ミスアライメント特性を向上させる形状の設計が可能となる。(3)誘導型変位検出装置の組み立て工程数を少なくしたり、誘導型変位検出装置の部品精度を下げたり、できるため誘導型変位検出装置のコストを下げることができる。
[第2実施形態]
第2実施形態は、送信折返し部や引出部からの磁場をシールドするシールド層を設けることにより、1信号周期で発生するクロストークが原因となる測定誤差を低減している。まず、このクロストークから説明する。
図10は、図1の送信巻線23や受信巻線9と、図2の磁束結合巻線37との位置関係を示す平面図である。送信巻線23の送信折返し部25や引出部31で発生した歪んだ磁場が、矢印Bで示すように、磁束結合巻線37を介して受信巻線9に伝わるクロストークが発生している。受信巻線9と送信折返し部25(引出部31)との間に磁束結合巻線37が位置する関係は、磁束結合巻線37がλ移動するたびに発生する。この移動に要する時間を1信号周期とするとクロストークが1信号周期で発生することになる。
第2実施形態によれば、上記クロストークの影響を受けにくくすることができる。第2実施形態の構造について、第1実施形態の構造と異なる点を中心に、図11〜図13を用いて説明する。図11は、第2実施形態に係るエンコーダに備えられるステータ73の送信折返し部25や引出部31が設けられている箇所の断面の模式図である。図12は、図11に表れている導電部(送信折返し部25、引出部31、シールド層75等)の斜視図である。図13は、第2実施形態に係るエンコーダの送信巻線77の平面図である。
図11に示すステータ73は、コア層となる絶縁基板7を含む。リング部27、リング部29及び受信巻線(図示せず)は、絶縁基板7の表面79(一方の面の一例)側に配置されている。詳しくは、絶縁基板7に設けられたスルーホール81に埋込導体19が埋め込まれている。表面79には埋込導体19と接続するパッド電極83が形成されている。パッド電極83を覆うように、絶縁基板7の表面79上に絶縁層85が形成されている。絶縁層85の上には第1のリング部(図示せず)やリング部29が形成されている。リング部29の端部87,89は、それぞれ、絶縁層85に形成されたビアホールを介してパッド電極83−1,83−2と接続されている。リング部29を覆うように保護層91が形成されている。
絶縁基板7の裏面93(他方の面の一例)側に、送信折返し部25や引出部31が配置されている。詳しくは、裏面93の上に埋込導体19と接続されたパッド電極95が形成されている。パッド電極95を囲むように、パッド電極95と電気的に分離されたシールド層75が設けられている。シールド層75は、送信折返し部25や引出部31とも電気的に分離されている。パッド電極95やシールド層75を覆うように絶縁層97が形成されている。
絶縁層97の上に、送信折返し部25や引出部31が形成されている。送信折返し部25及び引出部31は、絶縁基板7の裏面93側の同じ層に、リング部27,29の半径方向に互いに略平行に配置されている。送信折返し部25及び引出部31は、シールド層75で覆われている。送信折返し部25、引出部31は、それぞれ、絶縁層97に設けられたビアホールを介してパッド電極95−1,95−2と接続されている。送信折返し部25や引出部31を覆うように保護層99が形成されている。
送信折返し部25、引出部31、シールド層75、埋込導体19、パッド電極83,95は、アルミニウム、銅、金などの電気抵抗が低い材料で構成される。また、絶縁層85,97や保護層91,99の材料は、例えばシリコン酸化膜である。なお、絶縁基板7の替りにプリント基板を用いる場合、これらの材料はプリント基板を構成する樹脂である。
第2実施形態の効果を説明する。図13に示すように、ある時刻において、送信巻線77に矢印iの向きの電流が流れているとする。送信折返し部25と引出部31とでは逆方向の電流が流れる。図12に示すように、この時刻における送信折返し部25を流れる電流により磁場H1が発生し、引出部31を流れる電流により磁場H2が発生する。送信折返し部25と引出部31との間の領域では、送信折返し部25による磁場H1と引出部31による磁場H2は、共に上方向(受信巻線が配置されている方向)である。
送信折返し部25及び引出部31が配置されている層と絶縁基板7の裏面93との間に、シールド層75が配置されているので、磁場H1と磁場H2を足し合わせた磁場は減衰され、上記1信号周期で発生するクロストークを小さく(又はなくす)できる。したがって、1信号周期で発生するクロストークが原因となる測定誤差を低減(又はなくす)できるため、誘導型変位検出装置の高精度化を図ることができる。本発明者のシミュレーションによれば、第1実施形態に比べて、1信号周期で発生するクロストークが原因となる測定誤差を約半分に低減できた。
ここで、シールド層75、送信折返し部25及び引出部31の形成方法について図11、図14及び図15を用いて簡単に説明する。図14及び図15は図11と同じ断面を示している。図14に示すように、裏面93上に例えばスパッタリングにより導電膜を堆積し、この導電膜をリソグラフィとエッチングによりパターニングして、シールド層75及びパッド電極95を形成する。
図15に示すように、シールド層75及びパッド電極95を覆うように、例えばCVDにより絶縁層97を形成し、リソグラフィとエッチングを用いて、パッド電極95を露出するビアホール101を形成する。そして、図11に示すように、スパッタリング等により導電膜を絶縁層97上に堆積し、この導電膜をリソグラフィとエッチングを用いてパターニングし、送信折返し部25や引出部31を形成する。これ以外にもプリント基板の製法にて形成することも可能である。
[第3実施形態]
第3実施形態では、送信折返し部と引出部を、基板の裏面側の異なる層に重なるように配置することにより、第2実施形態と同様の効果を達成している。つまり、1信号周期で発生するクロストークが原因となる測定誤差を低減している(又はなくしている)。
第3実施形態については、第1及び第2実施形態と異なる点を中心に図16及び図17を用いて説明する。図16は、第3実施形態に係るエンコーダに備えられるステータ103の送信折返し部25や引出部31が設けられている箇所の断面の模式図であり、図11と対応する。図17は、図16に表れている導電部(送信折返し部25、引出部31等)の斜視図であり、図12と対応する。
保護層99側から見て、下層部に送信折返し部25が形成され、上層部に送信折返し部25と重なるように引出部31が形成されている。送信折返し部25と引出部31との間には、絶縁層97が形成されている。
送信折返し部25と引出部31は重なるように配置されているため、送信折返し部25に流れる電流で発生する磁場H1と、引出部31に流れる電流で発生する磁場H2とは、上下方向で打ち消し合う。よって、第3実施形態によれば、シールド層を設けなくても、第2実施形態と同様の効果(1信号周期で発生するクロストークを小さく又はなくすことができる。)を得ることができる。本発明者のシミュレーションによれば、第1実施形態に比べて、1信号周期で発生するクロストークが原因となる測定誤差を約五分の一に低減できた。
なお、送信折返し部25や引出部31の左右方向では、磁場H1の方向と磁場H2の方向が同じなので、強い磁場となる。したがって、送信折返し部25と同じ層、引出部31と同じ層にそれぞれシールド層を配置すれば、この左右方向の磁場をシールドすることができる。
[第4実施形態]
図18は、第4実施形態に係るエンコーダのステータ133の平面図である。図1に示す第1実施形態との主な相違点を説明する。受信巻線9,11,13は円周状を有する。送信巻線23の送信折返し部25及び引出部31と、受信巻線9,11,13の受信折返し部22とは、受信ループ21(図4)1個分以上離れている。送信折返し部25及び引出部31は、受信巻線9,11,13と重なる位置にある。送信折返し部25及び引出部31は、図11及び図12に示す構造と同様であり、絶縁基板7の裏面93に配置されている。
ここで、第4実施形態に係る受信折返し部22について、受信巻線9を例にして説明する。図19は、受信巻線9の受信折返し部22付近の平面図である。受信折返し部22は、受信巻線9の先端側135及び末端側137の両方の二箇所に形成されている。詳しくは、先端側135では、上層導体15が受信折返し部22で折り返されており、末端側137では、下層導体17が受信折返し部22で折り返されている。
第4実施形態について、シミュレーションを実施した。図20はこのシミュレーションで用いた送信巻線139と受信巻線141のモデル1〜3を示す図である。モデル1〜3のいずれも、送信折返し部25と受信折返し部22とは、受信ループ(図4)1個分だけ離されている。
モデル1の送信折返し部25及び引出部31は、受信巻線141と重なっておらず、かつ送信折返し部25と引出部31は並行に配置されている(図11及び図12参照)。引出部31は、(送信折返し部25と引出部31の距離)+(受信ループ1個分)だけ、受信折返し部22から離れている。これに対して、モデル2の送信折返し部25及び引出部31は、受信巻線141と重なっており、かつ送信折返し部25と引出部31の配置はモデル1と同様である。また、モデル3の送信折返し部25及び引出部31は、モデル2と同様に受信巻線141と重なっており、かつ送信折返し部25と引出部31は重なるように配置されている(図16及び図17参照)。
図21は、シミュレーションの結果を示すグラフである。縦軸は、受信巻線を流れる信号に対する受信巻線で発生するノイズの比であり、信号の強度を100%とした場合、ノイズが何%になるかを示している。モデル1〜3のいずれも信号強度比が小さく、このことから、送信折返し部25(引出部31)と受信折返し部22とを、受信ループ1個分よりさらに離すと、信号強度比をさらに小さくできることが推測される。したがって、送信折返し部25及び引出部31を受信折返し部22から受信ループ1個分以上離すと誘導型変位検出装置の精度を高めることがでる。
また、図21から分かるように、信号強度比はモデル3が一番小さく、モデル2がその次に小さく、モデル1がその次に小さい。したがって、信号強度比の観点からは、モデル3,2,1の順で好ましい。
さて、端子T1〜T8もノイズの原因となるので、先程のシミュレーションを参考にすると、受信巻線のノイズ考慮箇所と送信巻線のノイズ考慮箇所とは、受信ループ1個分以上離すことでノイズの影響を小さくできる。受信巻線のノイズ考慮箇所は二箇所であり、一つが受信折返し部22、もう一つが端子T3〜T8である。送信巻線のノイズ考慮箇所も二箇所であり、一つが送信折返し部25及び引出部31、もう一つが端子T1,T2である。
ここで、受信ループ1個分以上離して設計する場合を考える。受信巻線9,11,13は円周状なので、受信折返し部22と端子T3〜T8は、近い位置に配置できる。よって、受信巻線のノイズ考慮箇所は一箇所と見なすことができる。
送信折返し部25が端子T1,T2から比較的離れて配置されている場合(比較例1)、送信巻線のノイズ考慮箇所を二箇所と見なさなければならない。したがって、この二箇所(送信折返し部25と端子T1,T2)の両方を考慮して、受信巻線のノイズ考慮箇所を配置しなければならない。よって、設計の自由度が小さくなる。特に、受信巻線が図1のように円弧状の場合(比較例2)、受信折返し部22が端子T3〜T8から比較的離れて配置されるので、受信巻線のノイズ考慮箇所を二箇所と見なさなければならない。したがって、設計の自由度はさらに小さくなる。
比較例1に対して、図18に示す第4実施形態の送信巻線23は、端子T1(一端)からリング状に延びて送信折返し部25に至るリング部27及び送信折返し部25からリング部27より小さい半径でリング状に延びて端子T2(他端)に至るリング部29を含む。このため、送信折返し部25の位置と端子T1,T2の位置を近くにすることができる。このため、送信巻線23のノイズ考慮箇所を一箇所と見なすことができるので、設計の自由度を向上させることができる。第4実施形態の変形例として、受信巻線9,11,13が図1に示すような円弧状の場合(比較例2)でも、送信巻線23のノイズ考慮箇所を一箇所と見なすことができることにより、設計の自由度を向上させることができるが、図18に示す第4の実施形態のように、受信巻線9,11,13のノイズ考慮箇所も一箇所と見なすことができることにより、比較例2に比べると、更に設計の自由度を向上させることができる。以上のように、第4実施形態によれば、設計の自由度が向上するので、高精度な誘導型変位検出装置を実現することができる。
また、第4実施形態の受信折返し部22は、図19に示すように磁束結合巻線37により規定される領域(信号検出領域)と重なることが可能な位置にある。受信折返し部22が上記信号検出領域外にあると新たなノイズ源になるが、第4実施形態によれば、このノイズ源の発生を防止できる。
[第5実施形態]
第5実施形態は、上下方向に互いに間隔が設けられた上層導体と下層導体とで送信巻線を構成することにより、送信巻線の信号強度を大きくしている。第5実施形態は、送信巻線の構成以外、第1実施形態と同じなので、送信巻線について主に説明する。
図22は、第5実施形態に係るエンコーダの送信巻線105の斜視図である。送信巻線105は図1に示すステータ1に配置されている。送信巻線105は、端子T1である一端からリング状に延びて送信折返し部25に至るリング部27及び送信折返し部25からリング部27と異なる半径でリング状に延びて端子T2である他端に至るリング部29を含む。
第1実施形態の図3に示す受信巻線9と同様に、送信巻線105は、上下方向に互いに間隔が設けられた上層導体15と下層導体17を備える。つまり、端子T1から延びてリング部27の始まりとなる箇所で、埋込導体19により上層導体15と下層導体17に枝分かれし、リング部29の終わりとなる箇所で埋込導体19により上層導体15と下層導体17とが合流している。以上から分かるように、リング部27、送信折返し部25及びリング部29は、上層導体15と下層導体17とで構成され、引出部31は下層導体17のみで構成されている。上層導体15の真下に下層導体17が位置している。
第5実施形態の受信巻線は、図1の第1実施形態の受信巻線9,11,13と同様である。但し、第5実施形態の受信巻線は円弧状でなく、リング状でもよい。また、第5実施形態の磁束結合巻線は、図2の第1実施形態と同様に、ロータに配置されている。第5実施形態の効果については、後の[シミュレーション]欄で説明する。
[第6実施形態]
第6実施形態に係るエンコーダは、リニア型エンコーダであり、送信巻線の構成を第5実施形態と同様に上層導体と下層導体の二層構造にしている。第6実施形態に係る誘導型変位検出装置を搭載したものとして、例えばノギスがある。第6実施形態について、図23〜図25を用いて説明する。図23は、第6実施形態に係るエンコーダのセンサヘッド107の平面図であり、図24はスケール109の平面図であり、図25は送信巻線111の斜視図である。
第6実施形態に係るエンコーダは、スケール109(他方の巻線保持部材の一例)とこれに対向して配置されたセンサヘッド107(一方の巻線保持部材の一例)とから構成される。スケール109は、その長手方向の一部が表れている。センサヘッド107は、スケール109に対して所定ギャップをもって測定軸xに沿って移動可能に配置される。なお、センサヘッドが固定でスケールが移動する構成でもよい。すなわち、センサヘッドとスケールとは、互いにリニア方向に相対移動可能に配置されていればよい。
図23に示すセンサヘッド107は、ガラスやシリコン等の絶縁基板113を有している。絶縁基板113のスケール109と対向する面側には、矩形状の送信巻線111が配置されている。詳しくは、送信巻線111は、一端からリニア状(直線状)に延びて送信折返し部25に至るリニア部115(第1のリニア部の一例)と、送信折返し部25と、ここから折り返してリニア状に延びて他端に至るリニア部117(第2のリニア部の一例)と、で構成される。送信巻線111は、図25に示すように、端子T1から延びてリニア部115の始まりとなる箇所で、埋込導体19により上層導体15と下層導体17に枝分かれし、リニア部117の終わりとなる箇所で埋込導体19により上層導体15と下層導体17とが合流している。
絶縁基板113のスケール109と対向する面側であって、送信巻線111の隣に受信巻線119,121,123が配置されている。これらの受信巻線は、図1に示す受信巻線9,11,13をリニア状にしたものである。
スケール109は、ガラスやシリコン等の絶縁基板125を備え(絶縁基板125の替りにプリント基板でもよい。)、この基板125のセンサヘッド107に対向する面側には、スケール109の長手方向に沿って磁束結合巻線127がリニア状に配置されている。磁束結合巻線127は、送信巻線111に磁束結合可能な受信導体129及び受信巻線119,121,123に磁束結合可能な送信導体131を含む閉じた線状導体で構成される。第6実施形態の効果については、次の[シミュレーション]欄で説明する。
[シミュレーション]
第5及び第6実施形態によれば、送信巻線に流れる送信信号の強度を増加できると共にミスアライメントの影響を受けにくくすることができる。この効果についてシミュレーションを基にして説明する。図26はこのシミュレーションで用いた送信巻線のモデルを示す図である。(A)はモデル1〜4の平面図であり、(B)はモデル5の斜視図であり、(C)はモデル6の平面図である。
モデル1〜6の形状はいずれも矩形である。(A)に示すように、モデル1〜4は上層導体15のみで構成され、モデル1の線幅wは100μmであり、モデル2のそれは200μmであり、モデル3のそれは300μmであり、モデル4のそれは400μmである。(B)に示すように、モデル5は、線幅wが100μmで上層導体15と下層導体17で構成されている。これは、並列に設けられた二層の導電層で送信巻線が構成されており、第5及び第6実施形態の送信巻線である。モデル6は(C)に示すように、線幅wが100μmであり、リニア部115の始まりで二本の上層導体15に分かれ、リニア部117の終わりでこの二本の上層導体15が合流する。これは、送信巻線を同一平面で並列化している。
まず、モデル1〜6について、送信電流(つまり送信信号)の大きさに関するシミュレーションをした。モデル1〜6に振幅、波長及び周波数が同じ送信用励振信号を与えた場合に、モデル1〜6に流れる送信電流の値を図27のグラフに示す。モデル1に流れる送信電流の値を100%にしている。モデル1〜4を見れば分かるように、線幅と送信電流値は相関関係にあり、線幅を大きくすれば、送信電流値が大きくなる。
モデル5(第5及び第6実施形態)やモデル6は、送信巻線を並列構成しているので、送信巻線の断面積をモデル1のそれよりも大きくできる。よって、モデル5,6はモデル1よりも、送信巻線の抵抗が小さくなるため、送信電流を大きくできる。
次に、モデル1〜6について、ミスアライメントに関するシミュレーションをした。ミスアライメントとは、誘導型変位検出装置を組み立てる際に生じるステータとロータ(センサヘッドとスケール)との位置合わせのずれである。このずれが大きいと、高精度の測定に支障が生じる。
図28は、このシミュレーションを説明するための磁束結合巻線127と送信巻線111の平面図である。送信巻線111に流した電流により、磁束結合巻線127の送信導体131に生じる誘起電圧を計算した。誘起電圧率と送信巻線111のラテラル方向のずれとの関係を示すのが図29である。ミスアライメントとして、送信巻線111のラテラル方向のずれを例にした。横軸がラテラル方向のずれを示し、縦軸が誘起電圧率を示している。誘起電圧率は各モデルについて、送信巻線111のラテラル方向のずれが0の場合を100%としている。
各モデルについて言えることは、ラテラル方向のずれが大きくなるに従って誘起電圧率が小さくなっている。また、モデル1〜4を、例えばラテラル方向のずれが300μmで比較すると、線幅が小さくなるにつれて誘起電圧率が大きくなっている。これは、線幅が小さくなると、ラテラル方向のミスアライメントの影響を受けにくいことを示している。
送信巻線の線幅が大きくなるにつれて、誘起電圧率が低くなる(ミスアライメントの影響を受けやすくなる)のは、以下の理由からである。図28を参照して、リニア部115とリニア部117の間の空間が大きいと、ミスアライメントにより送信巻線111が多少ラテラル方向にずれても、送信巻線111と受信導体129との磁束結合に影響しないため、誘起電圧率が低下しにくい。送信巻線111の線幅が大きくなると、リニア部115とリニア部117の間の空間が小さくなるので、ミスアライメントの影響を受けやすくなるのである。
別の言い方をすれば、総パターン(つまり受信巻線+送信巻線)面積に対する送信巻線の面積が占める割合が大きくなると、ミスアライメントの影響を受けやすくなる。モデル2,3,4で、総パターンの面積を変更せずに、ミスアライメント特性をモデル1と同様にするには、受信巻線のサイズを小さくしなければならず、受信信号の強度が小さくなってしまう。
モデル6は線幅が100μmであり、モデル1と同じであるが、モデル6は同一平面に並列に延びているので、リニア部115とリニア部117の間の空間はモデル1よりも小さくなる。このため、モデル6はモデル1よりも誘起電圧率が小さい。
同じ並列でもモデル5(第5及び第6実施形態)は、上下層での並列化なので、リニア部115とリニア部117の間の空間は、モデル1と同じである。このため、モデル5はモデル1と同じ誘起電圧率になっており、他のモデルと比べて、ミスアライメントの影響を受けにくい。そして、上述の通りモデル5はモデル1よりも送信電流を大きくすることができる。
以上の説明から分かるように、モデル5(第5及び第6実施形態)によれば、送信信号の強度を大きくしつつ、ミスアライメントの影響を受けにくくすることができる。したがって、第5及び第6実施形態によれば、高精度の誘導型変位検出装置を実現することができる。
1・・・ステータ、3・・・ロータ、5・・・貫通穴、7・・・絶縁基板、9,11,13・・・受信巻線、15・・・上層導体、17・・・下層導体、19・・・埋込導体、21・・・受信ループ、22・・・受信折返し部、23・・・送信巻線、25・・・送信折返し部、27・・・リング部(第1のリング部の一例)、29・・・リング部(第2のリング部の一例)、31・・・引出部、33・・・貫通穴、35・・・絶縁基板、37・・・磁束結合巻線、39・・・IC回路、51・・・マイクロメータ、53・・・フレーム、55・・・シンブル、59・・・送信用励振信号発生回路、61・・・受信信号処理回路、63・・・演算制御回路、65・・・スピンドル、71,73・・・ステータ、75・・・シールド層、77・・・送信巻線、79・・・表面、81・・・スルーホール、83・・・パッド電極、85・・・絶縁層、87,89・・・端部、91・・・保護層、93・・・裏面、95・・・パッド電極、97・・・絶縁層、99・・・保護層、101・・・ビアホール、103・・・ステータ、105・・・送信巻線、107・・・センサヘッド、109・・・スケール、111・・・送信巻線、113・・・絶縁基板、115・・・リニア部(第1のリニア部)、117・・・リニア部(第2のリニア部)、119,121,123・・・受信巻線、125・・・絶縁基板、127・・・磁束結合巻線、129・・・受信導体、131・・・送信導体、133・・・ステータ、135・・・先端側、137・・・末端側、139・・・送信巻線、141・・・受信巻線、T1〜T8・・・端子、U・・・上層導体と下層導体のセット、A・・・円周方向、i,i1,i2・・・電流の向き、x・・・測定軸